平成29(医ほ)13 入院決定に対する抗告申立事件

裁判年月日・裁判所
平成29年7月14日 東京高等裁判所 棄却 横浜地方裁判所 平成29(医ろ)12
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判決文本文18,341 文字)

- 1 - 主文 本件抗告を棄却する。 理由 第1 事案の概要及び抗告の趣意 1 事案の概要(対象行為及び原決定の骨子等)本件対象行為は,対象者が,平成28年9月3日,神奈川県内の書店において,被害女性(当時52歳)に対し,突然体当たりしてその場に転倒させる暴行を加え,よって,同人に全治約2か月間を要する仙椎骨折の傷害を負わせた,というものである。 横浜地方検察庁小田原支部検察官は,対象者について心神耗弱者と認め,平成29年2月3日,本件対象行為について公訴を提起しない処分をするとともに,医療観察法33条1項の申立をした。 これを受け,原審は,鑑定人作成の鑑定書(補充部分を含む。)及び横浜保護観察所長作成の生活環境調査結果報告書を含む一件記録に加え,同年3月28日の審判期日の結果等をも踏まえ,同年4月4日,医療観察法42条1項1号により,対象者に対し,医療を受けさせるために入院させる旨決定した。 2 抗告の趣意付添人佐々木信夫の抗告の趣意は,決定に影響を及ぼす法令の違反及び重大な事実の誤認の主張である。 論旨は,要するに,前者につき,①そもそも,医療観察法は,憲法及び障害者の権利に関する条約(以下,「障害者条約」という。)に違反している,②鑑定入院先の病院関係者による違法行為があり,あるいは,原審審判平成29年(医ほ)第13号入院決定に対する抗告申立事件平成29年7月14日東京高等裁判所第5刑事部決定- 2 -手続に違法があって,これらの違法が決定に影響を及ぼす,後者につき,③原決定には,対象者の疾病性,治療可能性,社会復帰阻害要因について重大な事実の誤認があるほか,④これらの認定,評価を踏まえ,対象者については,対象行為を行った際の精神障害を改善し,これに伴って同様の行為を には,対象者の疾病性,治療可能性,社会復帰阻害要因について重大な事実の誤認があるほか,④これらの認定,評価を踏まえ,対象者については,対象行為を行った際の精神障害を改善し,これに伴って同様の行為を行うことがなく,社会に復帰することを促進するためには,入院させて医療観察法による医療を受けさせる必要があるとした点にも重大な事実誤認がある,というものと解される(なお,付添人の抗告趣意書及びその補充書には,処分の著しい不当の主張も記載されている。しかし,医療観察法による処遇の要否及び内容に係る決定については,例えば,同法42条1項1号の要件に該当する事実があれば入院をさせる旨の決定をすることとされ,同項2号の要件に該当する事実があれば入院によらない医療を受けさせる旨の決定をすることとされるなど,法所定の要件が認められれば,一定の処遇とすべきことが法定されており,処遇の選択に当不当の問題を生じるものではなく,入院処遇の不当をいう主張は,実質的には,これに対応する同項1号の要件該当性に関する事実認定の誤りの主張に尽きると解されるから,上記④のとおり,事実誤認に関する主張の一環として扱うこととした。)。 第2 法令の違反の主張について 1 憲法違反及び障害者条約違反をいう所論について(1) 所論は,医療観察法は,憲法14条1項,22条1項及び31条に違反する,という。すなわち,①医療観察法は,精神障害者であるという社会的身分に基づき長期の拘禁という不利益を科すものであり,これは合理的な差別的取扱いとはいえないから,憲法14条1項に違反する,②医療観察法は,対象者の居住・移転の自由を制約するものであるところ,その制約は公共の福祉によるものとして許容される限度を逸脱しているから,憲法22条1項に違反する,③医療観察法は,人権保障のための十分なセ 法は,対象者の居住・移転の自由を制約するものであるところ,その制約は公共の福祉によるものとして許容される限度を逸脱しているから,憲法22条1項に違反する,③医療観察法は,人権保障のための十分なセーフガードなくして長期の拘禁を可能とし,人身の自由を侵害するものであり,憲法3- 3 -1条に違反する,というのである。 しかし,医療観察法の立法目的や同法の定める具体的な制度内容,手続に照らせば,同法は,憲法14条1項,22条1項及び31条のいずれに反するものでもないというべきである。以下,敷衍して説明する。 ア医療観察法は,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し,その適切な処遇を決定するための手続等を定めることにより,継続的かつ適切な医療並びにその確保のために必要な観察及び指導を行うことによって,その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り,もってその社会復帰を促進することを目的としている(同法1条1項)。すなわち,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者は,精神障害を有していることに加え,重大な他害行為を行ったという,いわば二重のハンディキャップを背負っている者であり,このような者が有する精神障害は,一般的に手厚い専門的な医療の必要性が高いと考えられ,また,仮に,そのような精神障害が改善されないまま,再びそのために重大な他害行為が行われるようなことになれば,本人の社会復帰の大きな障害となることからも,やはりこのような医療を確保する必要がある。そこで,このような者については,国の責任において手厚い専門的な医療を統一的に行い,また,退院後の継続的な医療を確保するための仕組みを整備することにより,その円滑な社会復帰を促進することが特に必要と考えられたことから,医療観察法が導入されたものである。以上のような立 一的に行い,また,退院後の継続的な医療を確保するための仕組みを整備することにより,その円滑な社会復帰を促進することが特に必要と考えられたことから,医療観察法が導入されたものである。以上のような立法目的は,もとより合理的である。 また,心神喪失者等による重大な他害行為の状況については,その数に特に大きな変動が認められるものではないものの,他の事案に比べ,殺人,放火等の罪種において心神喪失者等の占める割合が高くなっていること,治療が中断した中で行われる場合が多いこと,ときに加害者とは全く関係のない第三者が突然の被害に遭う場合もあること等の特徴がある。そして,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者については,従前,精神保健及び精- 4 -神障害者福祉に関する法律に基づく措置入院制度等により処遇が行われてきたが,措置入院制度により処遇することについては,一般の精神障害者と同様の施設,スタッフの下で処遇することとなるため専門的な治療が困難となっていることや,退院後の継続的な医療を確保するための実効性のある仕組みがないことなどの不都合もあり,これら問題点を解消し得る新たな処遇制度を設ける必要性があったといえる。 イ医療観察法の内容をみると,まず,処遇の要否及び内容を決定する審判手続については,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行い,不起訴処分をされ,または無罪等の裁判が確定した者については,検察官が地方裁判所に対してその処遇の要否及び内容を決定することを申し立て,裁判所においては,1人の裁判官と1人の医師である精神保健審判員とから成る合議体が,必要に応じて精神障害者の保健及び福祉に関する専門家の意見も聴いた上で審判を行うこと,審判においては,被申立人に弁護士である付添人を付することとした上,裁判所は,精神科医に対して被申立人の精 体が,必要に応じて精神障害者の保健及び福祉に関する専門家の意見も聴いた上で審判を行うこと,審判においては,被申立人に弁護士である付添人を付することとした上,裁判所は,精神科医に対して被申立人の精神障害に関する鑑定を求め,この鑑定の結果を基礎とし,被申立人の生活環境等をも考慮して,処遇の要否及び内容を決定することなどを定めている。 また,指定入院医療機関における医療については,厚生労働大臣が,入院をさせる旨の決定を受けた者の医療を担当させるため,一定の基準に適合する病院を指定入院医療機関として指定し,これに委託して医療を実施すること,指定入院医療機関の管理者は,入院を継続させる必要性が認められなくなった場合には,直ちに,裁判所に退院の許可の申立てをしなければならず,他方,入院を継続させる必要があると認める場合には,原則として6か月ごとに,裁判所に入院継続の必要性の確認の申立てをしなければならないこととし,あわせて,入院患者側からも退院の許可等の申立てができることなどを定めるほか,保護観察所の長が,入院患者の社会復帰の促進を図るため,退院後の生活環境の調整を行うべきことなどを定めている。 - 5 -さらに,地域社会における処遇については,退院を許可する旨の決定を受けた者等は,厚生労働大臣が指定する指定通院医療機関において入院によらない医療を受けるとともに,保護観察所に置かれる精神保健観察官による精神保健観察に付されること,保護観察所の長は,指定通院医療機関の管理者及び患者の居住地の都道府県知事等と協議して,その処遇に関する実施計画を定め,これらの関係機関の協力体制を整備し,この実施計画に関する関係機関相互間の緊密な連携の確保に努めるとともに,一定の場合には,裁判所に対し,入院等の申立てをすることなどを定めている。 ウ以上を踏 ,これらの関係機関の協力体制を整備し,この実施計画に関する関係機関相互間の緊密な連携の確保に努めるとともに,一定の場合には,裁判所に対し,入院等の申立てをすることなどを定めている。 ウ以上を踏まえて検討すると,医療観察法は,医師である精神保健審判員と裁判官から成る合議体が,十分な資料に基づいて,処遇の要否や内容を判断すべきこととしている上,入院による医療については,専門性が高い医療を,継続的かつ適切に実施することのできる指定入院医療機関において行うべきことを定めるとともに,入院期間が不当に長期間にわたることのないように,原則として6か月ごとに裁判所が入院継続の要否を確認すべきことを定め,さらには,対象者の円滑な社会復帰を促進するため,保護観察所の長が,入院処遇中から,関係機関と連携しつつ,退院後の生活環境の調整を行うべきことを定めている。このような制度は,前記の立法目的を達成するための手段として合理的なものであるといえる上,居住・移転の自由に対する一定の制約を伴うものの,その程度は,裁判所による6か月ごとの入院継続の要否の確認の手続を定めるなどして,前記目的を達成するために必要なやむを得ない限度にとどまっているということができ,同法は,憲法22条1項に反しないというべきである。 また,憲法31条の定める法定手続の保障は,直接には刑事手続に関するものであって,その他の手続について同条による保障の趣旨が及ぶと解すべき場合であっても,刑事手続とはその目的や性質において差異があるから,保障されるべき手続の範囲も刑事手続におけるそれとは異なり得る。医療観- 6 -察法に基づく審判手続については,前記のとおり,必要的に付添人を付すべきこととされているほか,対象者のプライバシー保護の観点等から審判期日は非公開で行われるものの,入院又は通 。医療観- 6 -察法に基づく審判手続については,前記のとおり,必要的に付添人を付すべきこととされているほか,対象者のプライバシー保護の観点等から審判期日は非公開で行われるものの,入院又は通院の申立てがあった場合には,原則として必ず審判期日を開き,対象者に対し,供述を強いられることがないことを説明した上で,意見を陳述する機会を設けることなどが規定されている。医療観察法は,前記の目的に沿った適切かつ十分な手続保障を定めていると評価することができ,憲法31条の趣旨に反するものとはいえない。 次いで,憲法14条1項違反をいう点を検討すると,医療観察法の定める入院制度は,①対象者が対象行為を行った際の心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害と同様の精神障害を有しており,かつ,②その精神障害を改善するために同法による医療を行うことが必要であること,すなわち治療可能性があることに加え,③同法による医療を受けさせなければ,その精神障害のために社会復帰の妨げとなる同様の行為を行う具体的・現実的な可能性があること,との3つの要件を満たした場合に適用されるものであり,精神障害者であることのみを理由として適用されるものではない。また,医療観察法による入院処遇が精神障害者以外には適用されないことをもって,精神障害者である社会的身分に基づく差別的取扱いであるとみる余地があるとしても,医療観察法には,前記アのような目的,必要性,合理性が認められ,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った精神障害者について,上記①ないし③の要件を満たした場合に限り入院処遇とすることは,合理的な理由のない差別には当たらず,憲法14条1項に違反しないというべきである。 (2) 以下,所論に鑑み,補足して説明する。 ア憲法14条1項違反をいう点について(ア) 所 することは,合理的な理由のない差別には当たらず,憲法14条1項に違反しないというべきである。 (2) 以下,所論に鑑み,補足して説明する。 ア憲法14条1項違反をいう点について(ア) 所論は,医療観察法による入院日数の平均値は約2年半もの長期間に及んでいるところ,精神障害者でなければ,不起訴,無罪の場合,その後- 7 -は自由の身になれることや,有罪になったとしても初犯の傷害事件であれば,通常,執行猶予付きの判決が言い渡されることに照らせば,明らかに精神障害者に対する差別である,という。 しかし,対象者の入院期間は,その病状や生活環境の調整状況等を踏まえた入院継続の必要性に関する個別的な判断によって定まるものである上,そもそも,医療観察法による処遇は,継続的かつ適切な医療等を行うことによって,本人の社会復帰を促進することを目的とするものであって,刑罰に代わる制裁を科すものではないから,入院処遇による入院期間の平均値を刑事手続や刑罰と比較することは,それ自体,的外れであるといわざるを得ない。 (イ) 所論は,医療観察法は,処遇の要件として,同法による医療を受けさせなければ,その精神障害のために社会復帰の妨げとなる同様の行為を行う具体的・現実的な可能性があることを定めているが,触法精神障害者の再犯可能性に関する実証的データは存在しない上,上記具体的・現実的な可能性を予測することは不可能であり,医療観察法は,精神障害者を偏見に基づく誤った思い込みや推測に基づいて長期間拘束するものであって,およそ合理的な差別とはいえない,という。 しかし,上記具体的・現実的な可能性の存否は,触法精神障害者の再犯可能性に関する統計データに基づいて抽象的に判断されるものではなく,精神科医による鑑定の結果を基礎とし,被申立人の生活環境等をも考 しかし,上記具体的・現実的な可能性の存否は,触法精神障害者の再犯可能性に関する統計データに基づいて抽象的に判断されるものではなく,精神科医による鑑定の結果を基礎とし,被申立人の生活環境等をも考慮して個別具体的に行われるべきものである。そして,医師である精神保健審判員と裁判官とから成る合議体が,鑑定書や生活環境調査報告書を含む豊富な資料に基づき,対象者の精神障害の類型,過去の病歴,現在及び対象行為を行った当時の病状,治療状況,病状及び治療状況から予測される将来の症状,対象行為の内容,過去の他害行為の有無及び内容並びに対象者の性格といった,鑑定を命じられた精神保健判定医等が考慮すべき事項と同様の事項や,対象- 8 -者の生活環境を考慮して,上記具体的・現実的な可能性の存否を的確に行うことは十分に可能であると考えられる。 さらに,医療観察法に基づく処遇は,上記具体的・現実的な可能性があると認められる場合にのみ適用されるものであって,そのような可能性がないと認定できる場合はもとより,そのような可能性があるとまでは認められないものの,同様の行為を行うのではないかという漠然とした危険性が感じられるにすぎない場合には,適用されないものと解されるから,その意味でも,精神障害者を偏見に基づく誤った思い込みや推測に基づいて長期間拘束するという所論の指摘は当たらないことは明らかである。 (ウ) 所論は,医療観察法に基づく入院期間は長期間に及んでいる上,それにもかかわらず,十分な医療的効果が実現されていないばかりか,むしろ,医療観察法対象者の自殺率は,一般的な精神医療における自殺率を大きく上回っており,精神障害者を苦しめる著しく反治療的な制度でもあるというべきであって,医療観察法による長期間の入院処遇は不合理な差別である,などという。 しか 般的な精神医療における自殺率を大きく上回っており,精神障害者を苦しめる著しく反治療的な制度でもあるというべきであって,医療観察法による長期間の入院処遇は不合理な差別である,などという。 しかし,前記のとおり,対象者の入院期間は,その病状や生活環境の調整状況等を踏まえた入院継続の必要性に関する個別的な判断によって定まるものであるし,仮に,所論の指摘する自殺率の数値が正しいとしても,医療観察法の処遇終了後の自殺者がいかなる事情,理由によって自殺したかは明らかではない。もとより,前記(1)のとおり,医療観察法には,合理的な目的とこれを達成するための手段としての合理性が認められる上,その運用をみても,上記目的に反し,十分な医療的効果が実現していないとか,反治療的であるなどとの実情を示す証拠もないというべきである。所論は,前提を欠くものであり,採用できない。 イ憲法22条1項違反をいう点について(ア) 所論は,医療観察法は,処遇の実体要件として再犯可能性を定めて- 9 -おり,その真の目的は,保安にあることは明らかであるとした上,触法精神障害者の再犯率が高いなどというデータはないばかりか,長期的な再犯予測など科学的に不可能であるのに,再犯をしないであろう触法精神障害者までをも拘禁することを余儀なくする医療観察法は,居住・移転の自由を過度に制約するものである,という。 しかし,医療観察法の目的は,前記(1)のとおり触法精神障害者の社会復帰の促進にあることは,法文上のみならずその立法経緯からも明らかであって,所論は前提を誤ったものであるといわざるを得ない。 (イ) 所論は,仮に,医療観察法の目的が触法精神障害者の社会復帰の促進にあるとしても,地域における社会資源を充実させて予算を十分に供給することによって,精神障害者の社会復帰な いわざるを得ない。 (イ) 所論は,仮に,医療観察法の目的が触法精神障害者の社会復帰の促進にあるとしても,地域における社会資源を充実させて予算を十分に供給することによって,精神障害者の社会復帰など容易に達成できるのであって,パターナリスティックな介入により触法精神障害者を長期間拘禁するのは,居住・移転の自由を過度に制約することにほかならない,という。 しかし,心神喪失者等による重大な他害行為に関する前記(1)アのような状況を踏まえると,医療観察法1条1項の定める目的は合理的である上,同法の規定する制度が上記目的を実現する手段として合理的なものであり,居住・移転の自由に対する制約の程度も,上記目的を達成するために必要なやむを得ない限度にとどまっているといえることは既に説示したとおりである。所論は独自の抽象論を述べるものといわざるを得ず,採用し得ない。 (3) その他,所論が縷々指摘するところを踏まえても,医療観察法が,憲法14条1項,22条1項及び31条に反するものとは認められない。 (4) また,所論は,医療観察法における入院・通院処遇は,精神障害者であることを要件としており,これは,障害を理由とする拘禁を禁止している障害者条約14条に明らかに反する,という。 しかし,前記のとおり,医療観察法の入院・通院処遇は,精神障害者であること自体を理由として適用されるものではなく,医療観察法には,前記- 10 -(1)アのような目的,必要性,合理性が認められ,同法の入院・通院処遇は,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った精神障害者について,疾病性,治療可能性,社会復帰阻害要因の要件が満たされる場合に限り適用されるものであり,障害者条約14条に反するものではない。 (5) 以上のとおり,憲法違反及び障害者条約違反をいう所論については 病性,治療可能性,社会復帰阻害要因の要件が満たされる場合に限り適用されるものであり,障害者条約14条に反するものではない。 (5) 以上のとおり,憲法違反及び障害者条約違反をいう所論については,いずれも採用できない。 2 鑑定入院中に違法行為があったとする所論について所論は,①対象者は,鑑定入院中,夕方から朝にかけての時間帯,理由を示されることもなく,違法に保護室に隔離されたため,強度のストレスにさらされ,精神的に不安定な状態となった,②原審付添人が,鑑定入院中に鑑定入院先の病院に架電し,対象者への取次ぎを求めたところ,同病院の看護師から,病院の内規を理由にこれを断られたが,この電話連絡が認められていれば対象者の状況が変わった可能性もある,などとした上,これら違法行為が決定に影響を与えたことは明らかである,という。 しかし,そもそも,所論は,上記①,②の事情が原決定に与えたとする影響の内容を何ら具体的に明示していない。また,これを措いて一件記録を精査しても,鑑定入院先における保護室内への隔離や電話の取次ぎの拒否により対象者の精神状態が変わったことを示す具体的な事情はうかがわれない。 所論は,いずれも失当である。 3 審判手続の違法をいう所論について所論は,本件審判期日において,裁判官より黙秘権告知はされたものの,対象者は,知的障害のため,その意義を正しく理解できないまま,自己に不利益な陳述をしたものであって,そのような不利益な陳述を審判の基礎に置くことは偏頗であり,公平な裁判所とはいえず,黙秘権侵害となるから,この手続の違法が決定に影響を及ぼすことは明らかである,という。 しかし,本件審判期日において行われたのは医療観察法39条3項に基づ- 11 -く説明であって,黙秘権の告知ではない。すなわち,医療観察法による処遇 に影響を及ぼすことは明らかである,という。 しかし,本件審判期日において行われたのは医療観察法39条3項に基づ- 11 -く説明であって,黙秘権の告知ではない。すなわち,医療観察法による処遇は,刑罰に代わる制裁ではなく,その要否等を決定するための審判手続においても憲法の保障する黙秘権が問題となるものではないが,医療観察法による処遇は,対象者の人身の自由に対する制約を伴うという不利益な面を有するものであることから,対象者に対し,供述を強いられることはない旨説明することが適当であるとされたものである。黙秘権侵害をいう所論は,そもそも,前提を誤ったものといわざるを得ない。また,この点を措いても,本件審判期日において,原審裁判官が,原審でも付添人を務めた当審付添人の面前で,対象者に対し,供述を強いられることはない旨説明したことは所論自体からも明らかであるところ,その際に,原審付添人からも対象者からも上記説明を十分に理解できていないとの指摘や異議が述べられた形跡もなく,その他,対象者が上記説明を理解していなかったことをうかがわせる事情も認められないから,いずれにしても,所論は,失当である。 また,所論は,原審審判廷には,入廷を許された者以外の者が在廷し,かつ,そのことを対象者もしくは原審付添人に説明することもなかったが,裁判所においては精神障害者の人権に配慮すべきであった,という。 しかし,所論は,そもそも,上記事情が原決定に与えたとする影響の内容を何ら具体的に明示していない上,一件記録を精査しても,上記事情が原決定に影響を与えたとうかがわせる事情は認められず,所論は失当である。 4 小括その他所論が指摘するところを踏まえても,本件につき,決定に影響を及ぼす法令の違反があったとは認められず,法令違反をいう論旨は理由がない。 第 事情は認められず,所論は失当である。 4 小括その他所論が指摘するところを踏まえても,本件につき,決定に影響を及ぼす法令の違反があったとは認められず,法令違反をいう論旨は理由がない。 第3 重大な事実誤認の主張について 1 原決定の要旨と当裁判所の判断(1) 原決定の要旨- 12 -原決定は,対象者が,本件対象行為に及んだことなどの事実を認定した上,対象者の疾病性,治療可能性及び社会復帰阻害要因について,要旨,以下のとおり認定,説示し,これらを総合して,対象者については,対象行為を行った際の精神障害を改善し,これに伴って同様の行為を行うことなく,社会に復帰させることを促進するため,入院をさせて医療観察法による医療を受けさせる必要があると認定した。 アまず,原決定は,対象者の疾病性について,対象者は,本件対象行為当時も現在も,破瓜型統合失調症及び軽度精神遅滞に罹患しているとした上,対象者は,数年前から洗脳集団に追い掛けられたり,見張られたりするという被害的な考えを抱いていたところ,本件対象行為を行った現場に行った際,数十分間にわたり,被害女性を含めて数人の客からつきまとわれているように感じて,怒りのため反撃しようと考えて本件対象行為に及んだものであって,当時,妄想状態の強い影響下にあり,心神耗弱の状態にあった,対象者の妄想については,鑑定入院後の治療によっても改善していないなどと指摘し,以上によれば,疾病性の要件を満たしているとした。 イ次いで,原決定は,治療可能性を検討し,対象者は,鑑定入院中の薬物療法により,一定程度,精神状態に落ち着きが見られるなど,その症状に改善が認められ,今後も薬物療法を継続するとともに,心理療法,作業療法等の治療を通じて,症状の改善が期待できるから,対象者の疾病について, より,一定程度,精神状態に落ち着きが見られるなど,その症状に改善が認められ,今後も薬物療法を継続するとともに,心理療法,作業療法等の治療を通じて,症状の改善が期待できるから,対象者の疾病について,治療反応性が認められるとした。 ウその上で,原決定は,社会復帰阻害要因について,以下のとおり,説示した。 (ア) 対象者は,鑑定入院中は,管理された環境の下,抗精神薬を服用することで比較的落ち着いた精神状態にあった上,審判において,今後通院や服薬を継続していく意思があると述べており,今後も治療の必要があること自体は認めているものの,未だ病識が得られていない上,これまでの経緯と- 13 -して,適応障害等の治療のため,2か所の医療機関に通院していたが,いずれも対象者の意思により,治療が中断されていることや,鑑定結果によれば,対象者は,自我が脆弱で,外界からの刺激に対して容易に情緒の統制を失う可能性が高く,十分な治療が受けられなければ,少しでもストレスの強い状況に置かれた際,病的体験と距離を取れずに,感情的・衝動的な行動に至ることが十分に起こり得ると認められる。 以上によれば,今後,対象者が,医療観察法による強力な体制下での医療を受けないままでいると,再び服薬等の治療を怠って,その結果,病状が悪化して本件対象行為と同様の行為を行う具体的,現実的危険性が高い。 (イ) また,対象者は,以前,実母らと同居していた際に物を壊すなどの暴力があったこと等により,本件対象行為時,アパートに単身で居住していた。生活環境調査結果報告書によれば,今後においても,実母は,対象者の通院に同行するなどの援助をする意思はあるが,実母らとの同居は難しい状況にある。 そして,少なくとも現時点での対象者の状態からすれば,急に症状が増悪した際に,早期に医療介入が も,実母は,対象者の通院に同行するなどの援助をする意思はあるが,実母らとの同居は難しい状況にある。 そして,少なくとも現時点での対象者の状態からすれば,急に症状が増悪した際に,早期に医療介入ができなければ,本件対象行為と同様の行為を行う具体的,現実的可能性は高いと認められるところ,少なくとも現時点において,対象者が単身で居住しつつ,継続的かつ高い密度を保って対象者の状況を共有できる環境を確保するのは,行政機関の援助を受けたとしても困難と考えざるを得ず,対象者の社会復帰に向けては,改めて適切な帰住先を見定めた上で,十分な環境調整を行う必要がある。 (ウ) 対象者の精神障害の治療に関しては,まずは指定入院医療機関に入院させ,落ち着いた環境において,薬物療法の調整をより綿密に行うとともに,個人心理療法,集団療法,疾病教育,作業療法などの種々のアプローチを行い,多職種による濃厚な精神医療を確実に受けさせることが必要であると認められる。 - 14 -(2) 当裁判所の判断原決定の上記判断は,鑑定書や生活環境調査結果報告書等に基づいた大筋において合理的なものであって,当裁判所もこれを是認することができる。 2 所論について(1) 疾病性及び治療可能性についてア所論は,①原決定は,対象者の妄想については,鑑定入院後の治療によっても改善していないとするが,現実には改善しているから,原決定には重大な事実誤認があり,また,②仮に,治療によっても改善していないのであれば,治療可能性がないことに帰するから,鑑定入院後の治療によって改善していないとしながら,他方で治療可能性を認めた原決定には重大な論理矛盾がある,という。 しかし,①の点については,対象者は,本件審判期日においても,今は数人のグループから追い掛けられているような感覚 いないとしながら,他方で治療可能性を認めた原決定には重大な論理矛盾がある,という。 しかし,①の点については,対象者は,本件審判期日においても,今は数人のグループから追い掛けられているような感覚はない旨述べる一方で,今でも被害女性は,いつも自分を追い掛けてくるグループの一味だと思っている,体当たりをしたことについては,被害女性が自分を追い掛けてきていた以上,逃げるために必要だったと思うなどと述べてもいるのであって,統合失調症に基づく妄想状態は,鑑定入院後の治療により,軽減してはいるものの,審判期日時点においても,なお残存していたことは明らかである。所論の指摘する原決定の説示もこれと同じ趣旨をいうものと理解でき,妄想に関する事実認定に誤りはない。 また,②の点については,上記のとおり,統合失調症に基づく妄想状態は,鑑定入院後の治療により,軽減傾向にあったことがうかがわれるほか,鑑定入院中に対象者と面談をした鑑定人,原審付添人ともに,鑑定入院中の投薬治療を経て,精神的に落ち着いた状態になった旨述べているところである。鑑定書にも,対象者の統合失調症については,継続した医療を受けさせれば治療可能性は認められるとの記載があり,その信用性に疑問を差し挟む- 15 -べき事情も認められない。原決定は,以上のような事情から,治療可能性を認めたものと考えられ,その認定に誤りはない。そして,比較的短期間の鑑定入院中の治療により顕著な症状の改善が見られなかったとしても,だからといって継続的な治療によっても症状の改善が見込めないことにはならないから,鑑定書に記載された医師の見解等を踏まえ,治療可能性を認めた原決定の判断には誤りはなく,論理矛盾があるともいえない。 イまた,所論は,対象者は中度知的障害を有するところ,知的障害は治療可能性がないのに に記載された医師の見解等を踏まえ,治療可能性を認めた原決定の判断には誤りはなく,論理矛盾があるともいえない。 イまた,所論は,対象者は中度知的障害を有するところ,知的障害は治療可能性がないのに,対象者につき治療可能性を認めた原決定には重大な事実誤認がある,という。 しかし,対象者は,主として統合失調症に基づく妄想の強い影響下で本件対象行為に及んだものと認められ,原決定は,同疾病について治療可能性があると判断したものであり,所論は,前提を誤ったものである。 (2) 社会復帰阻害要因についてア所論は,原決定が,対象者が,医療観察法による強力な体制下での医療を受けないままでいると,本件対象行為と同様の行為を行う具体的,現実的可能性が高い,としたのは重大な事実誤認である,という。 しかし,一件記録によれば,対象者は,本件対象行為当時,洗脳集団に追い掛けられたり,見張られたりしているという被害妄想を主症状とした破瓜型統合失調症に罹患していたこと,本件対象行為の二,三週間前頃から,常時,集団から洗脳され,感情をコントロールされ続けていると感じ,精神的に疲れていたところ,本件当日,現場の書店において,被害女性に二,三十分つきまとわれていると感じ,普段から嫌がらせを受けていたことへの不満が爆発し,本件対象行為に及んだこと,審判期日においても,被害女性は迫力のある様子で私を追い掛けてきた,今でもその女性は上記集団の一味だと思っている,体当たりしたことについては被害女性が追い掛けてきた以上,逃げるために必要だったと思っているなどと述べ,その時点でもなお対象行- 16 -為の当時と同様,統合失調症に基づく被害妄想が根深く残っていること,また,対象者は,本件鑑定入院を経て,初めて破瓜型統合失調症の診断を受けたところ,本件審判期日において,追 お対象行- 16 -為の当時と同様,統合失調症に基づく被害妄想が根深く残っていること,また,対象者は,本件鑑定入院を経て,初めて破瓜型統合失調症の診断を受けたところ,本件審判期日において,追い掛けられているように感じていた状態が病気によるものかは分からない,鑑定入院中,医師から,病名等を聞いた記憶はないし,薬を飲んで治さなければならない病気なのかは分からないと述べており,病識を得られていないこと,従前,適応障害等の治療のため,2か所の医療機関に通院していたが,いずれも対象者自身が,症状が改善したため通院の必要がなくなったと判断し,治療を中断していること,対象者は,本件対象行為当時,一人暮らしをしており,実母が通院に付き添うなどして対象者の社会復帰を支援する意向は示しているものの,家族らによる同居は見込まれないこと等の事情が認められる。そして,上記のような対象者の精神障害の類型,本件対象行為への影響の内容及び程度,現在の病状,対象者の病識,過去の病歴と治療歴,生活環境等を総合し,対象者が軽度精神遅滞を有し,対人機能を含め,自我の発達が幼い水準にとどまり,ストレス対処能力も低いことから,ストレスにさらされたり,感情を揺さぶられたりする状況に置かれると,自己統制ができず,衝動的な行動に及ぶ傾向があると認められることをも併せ考慮すると,対象者については,医療観察法による入院医療を受けさせなければ,その精神障害のために社会復帰の妨げになる同様の行為を行う具体的・現実的な可能性があると認められ,これと同旨の原決定の認定に誤りはない。 イこれに対し,所論は,①対象者は,十分な病識はなくとも,自分なりの「病感」(何かがおかしい,通常ではない,という感覚)を有している上,通院や服薬を拒否しているものでもない,②過去に治療中断があったからと 対し,所論は,①対象者は,十分な病識はなくとも,自分なりの「病感」(何かがおかしい,通常ではない,という感覚)を有している上,通院や服薬を拒否しているものでもない,②過去に治療中断があったからといって,今後の治療の帰趨とはほとんど無関係であるし,アドヒアランスの問題は,医療者と支援者が根気強く説明することだけが唯一の方策である,③自我が脆弱であるとかストレスに弱いなどとの認定は,主観的な事柄- 17 -に関する推測にすぎず,対象者にストレスが加われば衝動的な行為に出るというのも,一般的可能性の域を出るものではない,④原決定が依拠する鑑定書には,数種の心理テストの結果が記載されているが,それらテストの結果と上記危険性との間の定量的な基準は一切ないばかりか,原決定には,それらテスト結果から上記具体的・現実的可能性が高いと推認する論理的筋道が一切説明されておらず,上記認定は論理則に基づくものではない,⑤対象者は,本件対象行為後,逮捕されることはなく,鑑定入院開始まで5か月間にわたって身柄を拘束されず,かつ,治療を受けていなかったが,その間,他害行為等の問題行動は指摘されておらず,そのこと自体,上記具体的・現実的な可能性が高いとはいえないことを示している,などという。 しかし,①及び②の点については,病識や治療の必要性に関する十分な理解があってこそ,継続的かつ確実に医療を受けることを期待し得るし,過去に対象者が自己判断で治療を中断したことがあるとの事実は,対象者と同居して支援をする家族等がいないことと相まって,対象者自身に委ねるだけでは足りず,医療観察法による強力な体制の下に置く必要性があることを示すものといえる。 ③の点については,対象者の自我の脆弱性,ストレス対処能力の低さ,ストレスにさらされた際の自己統制能力の低さや衝動性等は ,医療観察法による強力な体制の下に置く必要性があることを示すものといえる。 ③の点については,対象者の自我の脆弱性,ストレス対処能力の低さ,ストレスにさらされた際の自己統制能力の低さや衝動性等は,各種心理検査等の結果を踏まえた鑑定書に基づいて認定されたものである。そして,対象者は,統合失調症による被害妄想として,長期間,集団から洗脳され,感情をコントロールされたり,追い掛けられたりしていると感じており,本件当日も,被害女性に二,三十分つきまとわれていると感じ,普段から嫌がらせを受けていたことへの不満が爆発し,本件対象行為に及んだというのであって,上記妄想が残存する限り,これにより上記と同様のストレスが蓄積され,ストレス対処能力の低さや自己統制能力の低さ,衝動性等から,対象者が,耐えきれず,「集団の一味」であると感じた人物への他害行為に及ぶ具- 18 -体的・現実的な可能性があると認められるから,原決定が,対象者の自我の脆弱性等を認定し,上記具体的・現実的な可能性を認める1つの根拠としたことに誤りはない。 ④の点については,原決定は,鑑定書中の心理テストの結果から,上記具体的・現実的な可能性を定量的に導いたものではなく,医師である精神保健審判員と裁判官の合議体が,鑑定の結果を基礎とし,生活環境調査結果報告書も参考にしつつ,対象者の精神障害の類型,過去の病歴,現在及び対象行為を行った当時の病状,治療状況,病状及び治療状況から予測される将来の症状,対象行為の内容,対象者の生活環境等を総合考慮して,上記具体的・現実的な可能性が認められると判断したもので,その筋道についても,決定書中に示されており,その内容に,論理則,経験則等に反し,不合理というべき点もない。 ⑤の点については,なるほど,本件対象行為後,約5か月間にわたり,対象者 断したもので,その筋道についても,決定書中に示されており,その内容に,論理則,経験則等に反し,不合理というべき点もない。 ⑤の点については,なるほど,本件対象行為後,約5か月間にわたり,対象者は,身柄拘束を受けることも,治療を受けることもなく,その間,他害行為等の問題行動があったとはうかがわれないものの,上記妄想が残存する限り,本件対象行為時と同種のストレスの原因が解消されたものではないから,上記の事情は,対象者が,ストレス対処能力の低さや自己統制能力の低さ,衝動性等から,自分を追い掛け,洗脳したりする集団の一味であると感じた人物への他害行為に及ぶ具体的・現実的な可能性を認めた原決定の判断を左右するものとまではいえない。 ウまた,所論は,①対象者の実母が協力的である上,付添人も対象者との交流を続け,地域資源も開拓する意向であって,環境面においても対象者の社会復帰を阻害するものはない,として,現時点ではその環境に不安があり,今後の十分な環境調整が必要であるとした原決定の認定は誤りであるというほか,②これを補強する事情として,原決定後ながら,対象者については,通院先が確保され,対象者の母親も元夫と協力して同病院への通院に付- 19 -き添うことを確約している上,対象者本人も同病院への週1度の通院を確約している,との事情を指摘する。 しかし,対象者の統合失調症に基づく被害妄想には根深いものがあり,鑑定入院後の治療によっても顕著に改善されていないことや対象者自身が十分な病識を得られていないことをも踏まえると,所論の指摘する事情を踏まえても,医療観察法による強力な体制なくして,対象者が,継続的かつ確実な治療を受けることを期待し得るための十分な環境調整が行われているとみることは困難であり,所論は,採用することができない。 (3) も,医療観察法による強力な体制なくして,対象者が,継続的かつ確実な治療を受けることを期待し得るための十分な環境調整が行われているとみることは困難であり,所論は,採用することができない。 (3) 入院させて対象者に医療観察法による医療を受けさせる必要があると認めた点について所論は,①対象者に対しては,病棟内の閉ざされた空間での個人療法や認知行動療法の反応性は高くなく,むしろ退院後の生活サポートや通所施設の方がはるかに効果を示すであろうから,外出の制限など,制約の多い医療観察法による医療を受けさせるよりも,通常の医療の枠内で医療を行う方が効果的である,②現に,検察官,社会復帰調整官,鑑定人はいずれも入院処遇までは必要ないとの意見を述べている,などという。 しかし,①の点については,医療観察法の目的,その制定経緯等に照らせば,同法は,同法2条2項所定の対象者で医療の必要がある者のうち,対象行為を行った際の精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰できるようにすることが必要な者を同法による医療の対象とする趣旨であって,同法33条1項の申立てがあった場合に,裁判所は,上記必要が認められる者については,同法42条1項1号の医療を受けさせるために入院をさせる旨の決定,又は同項2号の入院によらない医療を受けさせる旨の決定をしなければならず,上記必要を認めながら,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律による措置入院等,他の制度による医療で足りるとして医療観察法42条1項3号の同法による医療を行わない旨の決定をすることは許- 20 -されないものと解するのが相当である(最判平成19年7月25日・刑集61巻5号563頁参照)。所論は,失当である。 また,②の点については,検察官は,審判期日において,入院処遇が相当であるとの意見を れないものと解するのが相当である(最判平成19年7月25日・刑集61巻5号563頁参照)。所論は,失当である。 また,②の点については,検察官は,審判期日において,入院処遇が相当であるとの意見を述べ,鑑定人は,鑑定書に,通院治療では,適切かつ密に対象者の状況を共有できる環境での治療が困難になるのであれば,入院処遇が適切であると判断する旨の意見を記載したものであって,いずれも入院処遇までは必要ないとの意見を述べてはいないから,明らかに前提を誤っている。また,社会復帰調整官の意見は,1つの参考意見とされるべきものであるにすぎず,もとより,裁判所はこれに拘束されるものではない。医師である精神保健審判員と裁判官の合議体は,鑑定の結果を基礎とし,対象者の生活環境等をも考慮した上で,同法42条1項1号所定の要件に該当する事実があると認めたものであり,その認定が,論理則,経験則等に照らし,不合理なものとはいえないことは既に説示したとおりである。 3 小括以上のとおりであって,その他所論が指摘するところを踏まえても,原決定には,決定に影響を及ぼす重大な事実誤認があったとは認められず,事実誤認をいう論旨は理由がない。 第4 結論よって,医療観察法68条1項により,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官藤井敏明裁判官田㞍克已裁判官大西直樹)

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