主文 被告人を罰金40万円に処する。 その罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 被告人から金50万円を追徴する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和元年7月21日施行の第25回参議院議員通常選挙に際し、広島県選出議員選挙の選挙人であり、かつ、同選挙に立候補する決意を有していたAの選挙運動者であるが、同人に当選を得しめる目的をもって、同人への投票及び投票 取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら、平成31年4月5日頃、広島市B区CD丁目E番F号被告人方において、前記Aの配偶者であるGから、現金50万円の供与を受けたものである。 (証拠の標目)省略 (争点に対する判断)第1 本件の争点判示日時場所において、被告人がGから現金50万円(以下「本件現金」という。)を受け取ったことには争いがない。本件の争点は、金銭供与の際、Gに令和元年7月21日施行の第25回参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。) において配偶者であるAの当選を得しめる目的をもって、同人への投票及び投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬とする趣旨(以下「本件買収の趣旨」という。)があったか、また、それを被告人が認識していたか、被告人がAの選挙運動者に該当するか、さらに本件公訴提起は公訴権濫用に当たるか、である。 第2 前提となる事実(関係各証拠により認められる。) 1 Aの本件選挙への立候補の経緯及び本件選挙の状況について Aは、平成27年の広島県議会議員一般選挙広島市B区選挙区において当選し、以降同県議会議員 拠により認められる。) 1 Aの本件選挙への立候補の経緯及び本件選挙の状況について Aは、平成27年の広島県議会議員一般選挙広島市B区選挙区において当選し、以降同県議会議員を務めていたが、平成31年3月13日、H党が、本件選挙において、定員2名の広島選挙区でAを公認候補とすることを決定し、同月20日、Aは本件選挙への立候補を表明した。同選挙区では、既に、当時現職でH党の公認を得ていたI、現職のJも立候補を表明してい た。 H党広島県支部連合会(以下「広島県連」という。)は、平成30年11月頃、H党本部から本件選挙で二人目の公認候補者擁立について意見を求められて以降、一貫して消極的な立場であったところ、Aの公認決定を受け、平成31年3月16日、選挙対策委員会においてIのみを支援する旨決定 し、同月24日、常任委員会においてもその方針が了承された。そのため、A陣営は、広島県連から、各種団体名簿の提供を受けられないなど、その支援なしに活動を行わなければならない状況にあった。 Gは、Aが公認を受けた同月中旬以降、Aの当選に向けた活動を積極的に行うようになり、自身の公設秘書に対し、Aの後援会の入会申込書や千社札 の配布、企業等へのあいさつ回りを指示し、広くAの活動実績等を記載したH党の機関紙を配布するなど、種々の活動を行っていた。 2 被告人の立場及びGとの関係性被告人は、平成11年の広島市議会議員選挙においてB区から立候補して初当選して以降、連続して6回当選し、本件当時、同市議会の第2会派であ ったH党保守クラブに所属していた。被告人は、同会派の幹事長や市議会の副議長を務めたこともあり、本件当時、広島県連の副幹事長を務めていた。 また、被告人は、B区の旧K町地区を地盤として数百名程度 ったH党保守クラブに所属していた。被告人は、同会派の幹事長や市議会の副議長を務めたこともあり、本件当時、広島県連の副幹事長を務めていた。 また、被告人は、B区の旧K町地区を地盤として数百名程度が所属する後援会を有しており、一部はGの後援会役員と重複していた。 被告人は、H党所属同士で、Gの選挙区内に地盤を有することから、平成 26年頃以降、Gから氷代や餅代として現金を受け取り、お互いの政治資金 パーティーに出席し合う等の交流があったほか、Gの選挙の際に出陣式に出席するなどしていた。しかし、平成30年秋頃、翌年の広島市議会議員選挙に向け、Gが、公設秘書であったLを被告人と同じB選挙区から立候補させると決めるに当たり、被告人に何の相談もしなかったことを契機に関係が悪化し(以下「L問題」という。)、Gから電話で迷惑をかけない旨話があっ ても受け入れず、後援会等による会合にも欠席し、自己の後援会ではGとの縁を切ったと公言してGとは距離を置いており、その冬には現金の授受もなかった。 3 本件金銭供与の際の状況等被告人は、平成31年4月7日投開票の市議会議員選挙にB区から立候補 した。 Gは、同月5日、被告人方を訪れ、被告人に対し、L問題について謝罪をするとともに、Lが当選した場合、被告人と同じ会派に所属させて欲しい旨依頼したところ、被告人も努力するなどと応じた。そして、Gが、おわびなどと言って本件現金の入った封筒を差し出したのに対し、被告人は、現金で あると認識しつつ、必要ないと考えて受取りを拒んだ。すると、Gは、封筒を置いて立ち去ろうとしたため、被告人は、Gに向かって、Aのことは別だ、などと言ったが、Gは何も言わず立ち去った。 その後、被告人は、封筒の中に現金50万円が入っていることを確認 ると、Gは、封筒を置いて立ち去ろうとしたため、被告人は、Gに向かって、Aのことは別だ、などと言ったが、Gは何も言わず立ち去った。 その後、被告人は、封筒の中に現金50万円が入っていることを確認した。また、被告人は、本件現金の一部を費消した際は補填するなどしていた が、G側に面会の連絡を入れたことや現金を返す話をしたことはなかった。 被告人は、本件選挙ではIを支援したものの、Aを積極的に支援することはなかった。 4 本件公訴提起に至る経緯等Gは、令和3年6月18日、本件選挙に際し、被告人を含む地方議会議員 等多数の者に対し、買収の趣旨で現金を供与した罪等で有罪判決を受け、同 年10月21日同判決は確定した。その公判では、被告人の検察官に対する供述調書が取調べられた。 本件については、同年7月6日不起訴処分がされたが、同年12月23日検察審査会により起訴相当の議決がなされ、その後、検察官による被告人の取調べ及び供述録取を経て、公訴が提起された。 第3 当裁判所の判断 1 買収の趣旨及びそれに対する被告人の認識についてGは、特に平成31年3月中旬以降、第2の1⑶のとおり、Aの当選に向けた活動に具体的に関わっていた。当選には、現職2名のいずれかを上回る得票が必要であり、B区を地盤とするAは、本件選挙に向けて広島県内30 00か所で街頭演説を行うなど、積極的な選挙活動を展開していたが、広島県連は、第2の1⑵の方針のとおり、団体推薦依頼をするための各種団体名簿をAに提供しないなど、非協力的な対応をとっていた。 そして、Gと被告人は、目下の市議会議員選挙におけるL問題で関係が悪化していたが、被告人は、市議会議員選挙に多数回当選し、様々な役職を歴 任して一定の発言力を有する上、Aと をとっていた。 そして、Gと被告人は、目下の市議会議員選挙におけるL問題で関係が悪化していたが、被告人は、市議会議員選挙に多数回当選し、様々な役職を歴 任して一定の発言力を有する上、Aと同じB区を地盤として数百名規模の後援会を有しており、一部はGの後援会役員とも重複していた。そのため、縁を切ったとまで公言されるほど被告人との関係が悪化したまま市議会議員選挙を終えることとなれば、公示が約3か月後に迫った本件選挙における同地区での活動にも悪影響が懸念され、被告人の選挙期間中に関係改善を図る必 要性が高い状況にあったと認められる。 そのような中、Gは、自ら被告人方を訪れ、謝罪に加え、Lが当選した場合には被告人と同じ会派に所属させたい旨被告人に有益な提案をした上で本件現金を差し出し、断られると封筒を置いて強い意思で本件現金を供与しており、その金額も50万円もの多額であった。 以上によれば、Gは、奏効するか否かはともかく、被告人との関係改善を 図ることを通じ、本件選挙においてAの当選に向け有利となる何らかの行動を期待して被告人に本件現金を供与したと推認できる(Gも本件買収の趣旨を否定していない。)。 次に、被告人も、Aが広島県連からの支援が得られない中で本件選挙で現職らと争う情勢であったことや、GがAの選挙を密に支援する立場であるこ とを認識していた。また、GやAの選挙地盤との重なり方に照らすと、被告人は、L問題による関係悪化が、G自身の政治活動のみならず、Aの本件選挙における選挙活動に悪影響を与えるとGが懸念していることも認識していたと推認できる。そのような中、Gが自ら来訪し、言葉による謝罪のみならず、Lの当選を会派所属議員増という被告人にも利益があるものとする提案 を受け、さらに受け取りをい していることも認識していたと推認できる。そのような中、Gが自ら来訪し、言葉による謝罪のみならず、Lの当選を会派所属議員増という被告人にも利益があるものとする提案 を受け、さらに受け取りをいったん拒んだにもかかわらず強引に本件現金を供与されたのであるから、その際にAの選挙の話題があったか否かにかかわらず、被告人も、Gが本件買収の趣旨で本件現金を供与しようとしていることを認識したと優に推認できる。被告人が、Aに関する話題が一切なかったにもかかわらず、Gに対し、Aのことは別である旨述べ、Gがこれに応答す ることなく立ち去ったというやり取りは、被告人が本件買収の趣旨を認識していたこと、Gも本件買収の趣旨を否定せず、その点も被告人が認識したことを示すというべきであり、上記推認を裏付けている。また、以上によれば、被告人がAのための選挙運動を依頼された者として選挙運動者に該当することは明らかである。 ⑶ これに対し、被告人は、本件現金供与には、L問題についてのお詫びやお願いの意図しかなく、被告人もそのように認識していた、本件現金をGに返そうと思っていた旨供述するが、被告人が本件買収の趣旨を認識していなければ「Aのことは別だ」と発言することはできない上、本件現金を保管することなく返すことは容易であるのに、返す具体的な時期すら考えておらず、 返すためにG側に連絡をしたこともないまま保管し続けたのであるから、被 告人の上記供述は信用できない。 なお、弁護人は、Aのことは別との被告人の発言について、被告人が一方的に気をまわしてしたものに過ぎず、被告人の発言に対してGは何も言わずに帰ったのだから、本件現金に本件買収の趣旨があることは完全に否定されていると主張する。しかし、GがAの選挙と関係なく関係改善を図っている してしたものに過ぎず、被告人の発言に対してGは何も言わずに帰ったのだから、本件現金に本件買収の趣旨があることは完全に否定されていると主張する。しかし、GがAの選挙と関係なく関係改善を図っている 場面であるとすれば、Gが、Aのことは別である旨肯定することなく立ち去るとは考えられず、上記のとおり、この際のやり取りは本件買収の趣旨を裏付けるというべきであり、弁護人の主張は失当である。 ⑷ 弁護人は、政治家間での現金の授受はよくあることであり、政治家である以上、選挙のことは常に考えているから、授受の際に選挙のことが少しでも 頭にあれば即買収となれば政治家間の金銭の授受はおよそできないなどとして、買収の趣旨を認めるのは、特定の選挙について具体的な選挙支援を明示で依頼した場合に限られるべきとも主張する。しかし、選挙のことを考えているとの一事情のみで金銭授受の趣旨が決まるものではないから前提を欠く上、買収の趣旨は上記場合にのみ認められるといった経験則はなく、そのよ うに限定して解すべき合理的理由もない。弁護人の主張は採用できない。 2 公訴権濫用について弁護人は、検察庁が、組織的に、G及びAを起訴するため、いつもの風景を殊更に切り取って大型選挙買収事件をでっち上げようとして、40数名の地方議会議員や首長に対し違法な取調べを行いつつ、不起訴と引き換えに虚偽自白 調書を得るという違法な司法取引を行い、Gの公判に証人として出頭する議員らを道具として偽証させた結果、これら証拠を基に、Gには有罪判決が、地方議会議員らには検察審査会での起訴相当の議決が出され、不起訴約束を一方的に反故にして詐欺ともいうべき起訴に至ったのであるから、本件公訴提起は、検察官の職務犯罪であり、公訴権を濫用したものであるから、公訴棄却される べき 起訴相当の議決が出され、不起訴約束を一方的に反故にして詐欺ともいうべき起訴に至ったのであるから、本件公訴提起は、検察官の職務犯罪であり、公訴権を濫用したものであるから、公訴棄却される べきである等と主張する。 しかし、被告人の供述によっても、不起訴約束まではなかったと認められるし、本件現金の供与を受けたことの限度では、あなたに迷惑を掛けない旨検察官から言われたことと関わりなく事実を認めていたと認められる。そして、本件で取調べ済みの各証拠によれば、検察官が、検察審査会の議決後にも被告人から聴取を行った上、本件起訴時点において、想定される被告人の認否・弁解 を前提とし、弁護人が主張するような、検察官による司法取引と指摘される取調べによって引き出された疑いが残る可能性のある自白・自認供述部分を除いた関係証拠のみによっても、本件(本件に対応するGの供与行為を含む。)で有罪判決を得る高度の嫌疑を認めるには十分な関係証拠を収集していたと認められる。また、国政選挙において現職の衆議院議員から当時現職の市議会議員 へ50万円もの現金が供与されたという選挙買収事案である本件が、公訴提起の十分あり得る悪質性を備えていることも明らかである。検察官の取調べにより被告人が不起訴を期待した点は、それに沿わないことが検察官の職務犯罪を構成するような保護に値する利益ではない。 その他、本件公訴提起自体に検察官の職務犯罪というべき事情は何ら見いだ せず、弁護人の主張は採用できない。 (法令の適用) 1 罰条公職選挙法221条1項4号、1号 2 刑種の選択 罰金刑 3 労役場留置刑法18条(金5000円を1日に換算) 4 追徴公職選挙法224条後段(判示収受した50万円の現金は、その 4号、1号 2 刑種の選択 罰金刑 3 労役場留置刑法18条(金5000円を1日に換算) 4 追徴公職選挙法224条後段(判示収受した50万円の現金は、その一部が既に 費消され、かつ、費消していない現金を特定することが困難なため、結局全 部についてこれを没収することができない。)(量刑の理由)被告人は、国政選挙において、買収の趣旨で現金50万円もの供与を受けたもので、議会制民主政治の根幹である選挙の公正さを直接害する悪質な行為である。被告人は、本件当時、選挙により選ばれた市議会議員であり、L問題での謝罪に伴い 突然供与されたという経緯や本件選挙に対する被告人の姿勢等を考慮しても、相応に強く非難されるべきであり、主文の罰金刑は免れない。その他、前科前歴がないこと等を考慮しても、公民権停止の期間を短縮すべき情状は窺われない。 (検察官の求刑罰金50万円、主文同旨の追徴)令和5年10月31日 広島地方裁判所刑事第1 部 裁判長裁判官日野浩一郎 裁判官小川貴紀 裁判官辻󠄀 沙穂里
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