主文 原判決中上告人ら敗訴部分を破棄し、第一審判決中右部分を取り消す。 前項の部分に関する被上告人の請求を棄却する。 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。 理由 上告代理人D、同有岡利夫の上告理由について一原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。 1 上告人ら及び被上告人は、昭和六〇年当時、いずれもD(以下「D」という。)の職員であり、被上告人はDE局F営業所(以下「F営業所」という。)の運輸管理係、上告人A1(以下「上告人A1」という。)は同営業所長、上告人A2(以下「上告人A2」という。)は同営業所首席助役であった。なお、被上告人は、G労働組合(以下「G」という。)の組合員であった。 2 当時Dは、長年にわたる赤字額の累積により経営上の危機にひんして再建を迫られる一方、職場規律の乱れが内外から指摘されてその是正が求められたため、これにこたえるべく、経営能率の向上、職場規律の健全化などを果たすことが、企業としての将来を決する重要な課題となっていた。 右のような状況を受けて、F営業所の上級機関であるH自動車部(以下「自動車部」という。)は、傘下の各営業所に対して、職場規律の確立に力を入れるよう指示し、その一つとして、職員の服装の乱れを是正すること、勤務時間中のワッペン、赤腕章等の着用を禁止すること及び職員に氏名札の着用を行わせることを指示した。 中でも職場規律の乱れが全国でも最悪と指摘されたF営業所の所長であった上告人A1は、自動車部と打ち合わせて職場規律の確立に取り組むように特に指示されたため、職員に対し、勤務時間中のワッペン、赤腕章の着用を禁止するとともに、前記氏名札と着用場所が競合するGの組合員バッジ(以下「本件バッジ」という。)- 1 -の着用 取り組むように特に指示されたため、職員に対し、勤務時間中のワッペン、赤腕章の着用を禁止するとともに、前記氏名札と着用場所が競合するGの組合員バッジ(以下「本件バッジ」という。)- 1 -の着用を禁止し、着用者に対して取外し命令を発していた。また、上告人A1は、本件バッジの取外し命令に従わない職員に対しては当該職員の担当する本来の業務から外すよう、自動車部から指示を受けていた。 なお、当時、Dが経営の合理化のために打ち出す種々の施策に対して、Gは反対の方針を採り、そのためDの労使は恒常的に対立した状況にあった。F営業所においても、Gの組合員によるワッペン、赤腕章の着用等の行為が行われ、被上告人ら組合員は、上告人らを始めとする管理職と対立していた。このような状況の下で、本件バッジの着用は、Gの組合員であることを勤務時間中に積極的に誇示する意味と作用を有し、勤務時間中にも職場内において労使間の対立を意識させ、職場規律を乱すおそれを生じさせるものであった。 3 被上告人は、前記のとおり運輸管理係の地位にあったが、管理者に準ずる地位である補助運行管理者にも指定され、昭和六〇年七月二三日、二四日、八月五日、六日、一六日、一七日、二二日、二三日、二九日及び三〇日の各日は、補助運行管理者として点呼執行業務に従事すべき日とされていた。 昭和六〇年七月二三日、被上告人が、本件バッジを着用したまま点呼執行業務を行おうとしたため、上告人A1は、被上告人に対して本件バッジの取外し命令を発したが、被上告人は右命令に従わなかった。そこで、同上告人は、被上告人を点呼執行業務から外し、F営業所構内に降り積もった火山灰を除去する作業(以下「降灰除去作業」という。)に従事すべき旨の業務命令を発した。その後の同月二四日、八月五日、六日、一六日、一七日、二二日、二三日、 行業務から外し、F営業所構内に降り積もった火山灰を除去する作業(以下「降灰除去作業」という。)に従事すべき旨の業務命令を発した。その後の同月二四日、八月五日、六日、一六日、一七日、二二日、二三日、二九日及び三〇日についても、上告人A1は、前同様の経緯により、本件バッジの取外し命令に従おうとしない被上告人を点呼執行業務から外し、前記作業に従事すべき旨の業務命令を発した(右の各業務命令を、以下「本件各業務命令」という。)。 4 降灰除去作業は、a島の噴火活動によって上空に吹き上げられ鹿児島市内に- 2 -飛来して降り積もった火山灰を除去するものであり、かなりの不快感と肉体的苦痛を伴う作業であるが、F営業所の職場環境を整備して、労務の円滑化、効率化を図るために必要なものであり、従来も、職員がその必要に応じてこれを行うことがあった。 本件各業務命令は、勤務時間中に同営業所構内(広さ約一二〇〇平方メートル)の降灰除去作業に従事すべき旨を命じたものであるが、作業方法及び服装等についての特段の指示はなく、また、所定の休憩時間(正午から午後一時まで)以外の休憩の取り方についても特段の指示はなかった。被上告人は、本件各業務命令に基づき、前記の各日、それぞれ午前八時三五分ころから午後五時ころまで、同営業所構内の降灰除去作業に従事した。 5 上告人ら管理職は、被上告人が降灰除去作業に従事中、右作業状況を監視し、また、勤務中の他の職員が被上告人に清涼飲料水を渡そうとしたところ、上告人A1がこれを制止する等のことがあった。 二原審は、右事実関係の下において、次のとおり判断した。 1 降灰除去作業は、被上告人の労働契約上の義務の範囲内に含まれるから、本件各業務命令を労働契約に根拠のない作業を命じたものとはいえない。 2 また、本件バッジの着用は、職場規 のとおり判断した。 1 降灰除去作業は、被上告人の労働契約上の義務の範囲内に含まれるから、本件各業務命令を労働契約に根拠のない作業を命じたものとはいえない。 2 また、本件バッジの着用は、職場規律を乱し、職務専念義務に違反するものであるから、上告人A1がした前記取外し命令及びこれに従わなかった被上告人を点呼執行業務から外した措置には、いずれも合理的な理由があり、これが違法なものとはいえない。 3 しかし、本件各業務命令は、被上告人には運輸管理係としての日常の業務があり、殊更降灰除去作業を命ずべき必然性はなかったのに、本件バッジの取外し命令に従わなかったことに対し、懲罰的に発せられたものである。このように、かなりの肉体的、精神的苦痛を伴う作業を懲罰的に行わせることは、業務命令権の濫用- 3 -であって違法である。したがって、本件各業務命令は、被上告人に対する不法行為に当たり、上告人らは、これにより被上告人の被った精神的損害を賠償すべき義務がある。 三しかしながら、原審の前項3の、本件各業務命令が違法であって被上告人に対する不法行為に当たるとする判断は、是認することができない。 前記の事実関係からすると、降灰除去作業は、F営業所の職場環境を整備して、労務の円滑化、効率化を図るために必要な作業であり、また、その作業内容、作業方法等からしても、社会通念上相当な程度を超える過酷な業務に当たるものともいえず、これが被上告人の労働契約上の義務の範囲内に含まれるものであることは、原判決も判示するとおりである。しかも、本件各業務命令は、被上告人が、上告人A1の取外し命令を無視して、本件バッジを着用したまま点呼執行業務に就くという違反行為を行おうとしたことから、自動車部からの指示に従って被上告人をその本来の業務から外すこととし、職場規律維持の上 人A1の取外し命令を無視して、本件バッジを着用したまま点呼執行業務に就くという違反行為を行おうとしたことから、自動車部からの指示に従って被上告人をその本来の業務から外すこととし、職場規律維持の上で支障が少ないものと考えられる屋外作業である降灰除去作業に従事させることとしたものであり、職場管理上やむを得ない措置ということができ、これが殊更に被上告人に対して不利益を課するという違法、不当な目的でされたものであるとは認められない。なお、上告人ら管理職が被上告人による作業の状況を監視し、勤務中の他の職員が被上告人に清涼飲料水を渡そうとするのを制止した等の行為も、その管理職としての職責等からして、特に違法あるいは不当視すべきものとも考えられない。そうすると、本件各業務命令を違法なものとすることは、到底困難なものといわなければならない。 四したがって、本件各業務命令が被上告人に対する不法行為に当たるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるというべきであり、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、結局同旨をいう論旨は理由があり、原判決中上告人ら敗訴部分は破棄を免れない。そして、前記のとおり、本件各業務- 4 -命令は不法行為を構成するものではないから、これが不法行為を構成することを前提とした被上告人の本訴請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がないというべきであって、第一審判決中上告人ら敗訴部分を取り消した上、その請求を棄却すべきである。 よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 最高裁判所第二小法廷裁判長裁判官木崎良平裁判官藤島 員一致の意見で、主文のとおり判決する。 最高裁判所第二小法廷裁判長裁判官木崎良平裁判官藤島昭裁判官中島敏次郎裁判官大西勝也- 5 -
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