主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告らは別紙請求額一覧表の原告欄記載の原告らに対し,各自,同一覧表の請求額欄記載の各金銭及びこれに対する平成12年6月9日から各支払済みまで年5分の割合による金銭を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告らが被告らを相手方として,包括宗教法人日蓮正宗(以下「日蓮正宗」という。)の総本山である被告宗教法人大石寺(以下「被告大石寺」という。)の本堂(正本堂)の建設が計画された際,その信徒である原告らは,被告らの勧奨に応じ,正本堂が永遠に被告大石寺の本堂として使用されると信じて,正本堂建設のために組織された宗教法人創価学会(以下「創価学会」という。)の一機関である正本堂建設委員会(以下「建設委員会」という。)に対し,その建設資金を寄付したものであるが,被告らは,建設委員会が上記寄付金等により建設し,被告大石寺に贈与した正本堂を,築後わずか26年で取り壊してしまったと主張して,被告大石寺及び日蓮正宗の法主・管長であり,被告大石寺の住職・代表役員でもある被告Aに対し,下記訴訟物に基づき,その損害賠償として,別紙請求額一覧表の請求額欄記載の損害金及びこれに対する債務不履行ないし不法行為の日の後で,訴状送達の日の翌日である平成12年6月9日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。 1 訴訟物(1) 被告大石寺と建設委員会(創価学会)との間における負担付贈与契約の締結を前提とするものア被告大石寺に対する請求について(ア) 上記契約上の債務不履行(履行不能)に基づく損害賠償請求権 )との間における負担付贈与契約の締結を前提とするものア被告大石寺に対する請求について(ア) 上記契約上の債務不履行(履行不能)に基づく損害賠償請求権(イ) 上記契約上の債権を被告Aが侵害した不法行為についての宗教法人法11条1項に基づく損害賠償請求権(ウ) 上記契約上の債務に反して正本堂を取り壊した不法行為に基づく損害賠償請求権イ被告Aに対する請求について上記契約上の債権を侵害した不法行為に基づく損害賠償請求権(2) 正本堂を取り壊さないとの信義則上の義務の存在を前提とするものア被告大石寺に対する請求について(ア) 上記義務に違反した債務不履行に基づく損害賠償請求権(イ) 上記義務に違反した不法行為に基づく損害賠償請求権イ被告Aに対する請求について(ア) 上記義務に違反した債務不履行に基づく損害賠償請求権(イ) 上記義務に違反した不法行為に基づく損害賠償請求権 2 基礎事実(当事者間に争いがない事実及び各末尾記載の証拠等により比較的容易に認めることのできる事実)(1) 日蓮正宗は,日蓮大聖人を末法の本仏と仰ぎ,日蓮大聖人が書き顕した本尊(本門戒壇の大御本尊,以下「戒壇の御本尊」という。)を信仰の主体とし,法華経及び宗祖遺文(宗祖である日蓮大聖人が書き遺した文書)を所依の経典とする包括宗教法人である。 被告大石寺は,戒壇の御本尊を安置し,全国に700余の末寺を有する日蓮正宗の総本山であり,被告Aは,日蓮正宗の法主・管長であり,被告大石寺の代表役員である。 創価学会は,教育改革を主たる目的とする創価教育学 尊を安置し,全国に700余の末寺を有する日蓮正宗の総本山であり,被告Aは,日蓮正宗の法主・管長であり,被告大石寺の代表役員である。 創価学会は,教育改革を主たる目的とする創価教育学会がその前身であったが,やがて「広宣流布」(日蓮大聖人の仏法を広く世界に弘め伝えるための宗教運動)それ自体を主たる活動とする日蓮正宗の信徒団体となり,昭和27年には独立した宗教法人となった(甲127,乙26,弁論の全趣旨)。 (2) 創価学会の会長であるBは,昭和39年5月3日,その本部総会の席上で,正本堂を寄進するための建設資金として30億円の寄付を募るとの計画を発表した。 昭和40年1月21日には,被告Aを含む日蓮正宗の僧侶や創価学会の幹部等を委員とする建設委員会が創価学会の一機関として設置された。 (3) 同年4月ないし5月ころには,日蓮正宗の信徒らに対し,建設委員会名義の「正本堂建立御供養趣意書」(甲16の1・2,以下「本件趣意書」という。)が貯金箱等とともに配布され,正本堂の建設資金を寄付することが積極的に勧奨された。同年9月以降に配布された建設委員会名義の「正本堂御供養について」と題する書面(甲17,以下「本件書面」という。)においても,重ねて寄付が勧奨された。 また,当時,日蓮正宗の法主・管長であり,被告大石寺の住職・代表役員でもあったC上人は,創価学会本部総会等において,正本堂の建設資金を寄付するよう勧奨する旨の発言を度々行うとともに,同年9月12日にはこれと同趣旨の訓諭を発するなどした。 (4) 日蓮正宗の信徒である原告らは建設委員会(創価学会)に対し,同年10月7日ないし12日,別紙請求額一覧表の寄付額欄記載の金額を寄付した(甲20の1の1ないし20の18)。 (5) 建 (4) 日蓮正宗の信徒である原告らは建設委員会(創価学会)に対し,同年10月7日ないし12日,別紙請求額一覧表の寄付額欄記載の金額を寄付した(甲20の1の1ないし20の18)。 (5) 建設委員会の発表によれば,正本堂建設のために,約800万人の信徒から合計約355億円が寄付された。その後,建設委員会は,この寄付金等を用いて正本堂の建設を進め,昭和47年9月30日には表示登記手続の申請をした。その後,同年10月1日には正本堂の完工式が実施され,同月7日には戒壇の御本尊が安置され,同月14日には落慶大法要が営まれた。そして,同月19日には,被告大石寺を所有者とする所有権保存登記手続の申請がされた。 建設委員会は,同年10月1日をもって,その一切の資産を被告大石寺に移管し,同年11月4日に解散した。正本堂の管理や残存工事等の事業は,被告大石寺内に設置された正本堂運営委員会が行うこととされた。 このようにして,建設委員会(創価学会)は,上記寄付金等により建設した正本堂を被告大石寺に贈与したものである(以下「本件贈与契約」という。)。 (6) その後,正本堂は,被告大石寺の本堂として利用されてきたが,被告らは,平成10年4月5日,正本堂から戒壇の御本尊を遷座した。更に,同年6月下旬ころには正本堂の解体工事が開始され,平成11年8月中旬ころには正本堂が取り壊された(以下「本件取壊し」という。)。 (7) 本件訴状は,被告らに平成12年6月8日に送達された(当裁判所に顕著)。 3 争点(1) 被告大石寺は,本件贈与契約の際,建設委員会(創価学会)との間で,原告らのために正本堂を維持・管理すべき義務を負担するとの合意をしたか。原告らは,上記合意について,受益の意思表示をしたか(請求原因)。 は,本件贈与契約の際,建設委員会(創価学会)との間で,原告らのために正本堂を維持・管理すべき義務を負担するとの合意をしたか。原告らは,上記合意について,受益の意思表示をしたか(請求原因)。 (2) 被告らは原告らに対し,正本堂を取り壊さないとの信義則上の義務を負っていたか(請求原因)。 (3) 争点(1)又は(2)が肯定された場合,これによって原告らに生じた損害額はいくらか(請求原因)。 4 争点に対する当事者の主張(1) 争点(1)について(原告ら)ア被告大石寺は,昭和47年10月1日に正本堂の完工式を実施した際,建設委員会(創価学会)との間で本件贈与契約を締結したものであるが,その際,原告らを受益者として,合理的な期間,正本堂を本堂として原告ら信徒の参詣儀式に使用し,これを維持・管理すべき義務を負担するとの黙示の合意(以下「本件合意」という。)をした。 黙示の意思表示があったことを推認させる事情は,次のとおりである。 (ア) 被告大石寺が積極的に寄付を勧奨したこと被告大石寺は,基礎事実(3)記載のとおり,当時の住職・代表役員であったC上人や同人が委員を任命して設置した建設委員会をして,信徒らに対して積極的に寄付を勧奨させたものである。また,その発言内容や文書の記載内容からすれば,被告大石寺は,寄付を勧奨するのみならず,正本堂が建設された際には本件合意の内容どおりの義務を負担する旨を自ら積極的に口頭又は文書で繰り返し明言していた。 そして,被告大石寺は,その後,本件贈与契約が締結されるまでの間,上記義務を負担する旨の意思の表明を撤回したり,同意思に相反する言動をとったりすることは一切なかった。 そして,被告大石寺は,その後,本件贈与契約が締結されるまでの間,上記義務を負担する旨の意思の表明を撤回したり,同意思に相反する言動をとったりすることは一切なかった。 (イ) 原告らが被告大石寺側の勧奨行為を信頼して寄付をしたこと原告らは,絶対的な信頼を寄せていたC上人をはじめとする被告大石寺側が,寄付を勧奨するに当たり,上記義務を負担する旨を繰り返し明言していたからこそ,寄付を決意したものである。 (ウ) 正本堂完成直前及び完成後の被告大石寺側の発言C上人や当時被告大石寺の教学部長であった被告Aらは,正本堂完成直前及び完成後においても,上記義務を負担する旨の発言を繰り返していた。 (エ) 正本堂の構造設計正本堂内に存する妙壇,法庭,円湧閣,思逸堂等の施設は,正本堂を多数の信徒の参詣儀式に使用する目的で設置されたものである。このような構造設計は,C上人の要望を基に考案され,被告大石寺の承認を得て決定されたものであり,被告大石寺側が,正本堂を信徒の参詣儀式に使用すべき負担を認識した上で,信徒らに対して積極的に寄付を勧奨していたことは明らかである。 (オ) 正本堂の耐久性正本堂の設計において十分な耐震性,耐久性,堅牢性が確保されるよう考慮されていることからすれば,正本堂は長期にわたって存続し得る建造物というべきである。被告大石寺は,このように十分な耐久性を有する正本堂を寄進されることを前提として,信徒らに対して積極的に寄付を勧奨したのであるから,正本堂を合理的期間にわたって維持・管理すべき負担が存在するものというべきである。 (カ) 正本堂を維持・管理するための基金が確保さ 信徒らに対して積極的に寄付を勧奨したのであるから,正本堂を合理的期間にわたって維持・管理すべき負担が存在するものというべきである。 (カ) 正本堂を維持・管理するための基金が確保されていたこと本来,建物の維持管理費は,当該建物の所有者自身が負担すべきものであるところ,正本堂については,その維持管理費までもが信徒らの寄付金から拠出されている。被告大石寺が正本堂とともにその維持基金についても併せて寄進を受けていることからすれば,正本堂が完成した当時,被告大石寺において正本堂を維持・管理するという負担が存在することを認識していたことは明らかである。 (キ) 本件合意の内容を記載した書面が存在しないことについて非取引行為的性格を有する贈与契約においては,無償の財貨移転をするだけの信頼・情宜関係が存在する場合が多いから,必ずしも書面等を作成して負担の内容を明確にするとは限らない。 イ原告らは,本件合意がされてから後,登山会(被告大石寺への参詣)に参加した際,正本堂において行われる宗教儀式に参加を申し込むことによって,被告大石寺に対し,本件合意について受益の意思表示をした。 ウ宗規の改正により原告らが日蓮正宗の信徒の資格を失ったとの被告らの主張は,争う。本件贈与契約は,日蓮正宗と創価学会の長い歴史の中で構築された深い信頼関係を前提として締結されたものであり,上記信徒資格の剥奪行為は,一時的な異常事態と評価すべきものであって,上記主張は,主張自体失当であるか,公序良俗に反し,無効である。 (被告ら)ア被告大石寺が建設委員会(創価学会)との間で本件合意を締結したとの原告らの上記主張は,否認する。 (ア) 本件贈与契約が 序良俗に反し,無効である。 (被告ら)ア被告大石寺が建設委員会(創価学会)との間で本件合意を締結したとの原告らの上記主張は,否認する。 (ア) 本件贈与契約が締結されたのは,正本堂について贈与証書(乙1の1,以下「本件贈与証書」という。)が作成された昭和47年9月30日である。 本件贈与証書その他創価学会と被告大石寺との間で交わされた文書中には,原告ら主張の「負担」は一切明示されていない。C上人がその訓論において,正本堂に安置すべき戒壇の御本尊の永久性を述べたことはあったが,被告らが正本堂自体を永久に維持,管理することを約束したことなどない。 また,そもそも本件のような宗教上の意義を有する純粋性を旨とする寄付について,このような「負担」の認められる余地はないというべきである。 (イ) 正本堂建設やその建設資金の寄付の勧奨を主導したのは,被告大石寺ではなく,創価学会とその当時の会長であったBである。 すなわち,Bは,創価学会の会長と建設委員会の委員長を兼ね,正本堂建設の発案から寄付の勧奨の方法等の立案計画・実行指示の一切を行ったものである。 また,正本堂を建設してこれを被告大石寺に贈与するとの計画は,はるか以前に創価学会において発案され,その内容はすべて創価学会により決定されたものであり,建設委員会はその具体的実施を担当する機関にすぎなかった。 しかも,建設委員会は,純然たる創価学会の機関であり,委員会の設置や委員の任命のすべてが創価学会のみによってされ,委員の圧倒的多数は創価学会員によって占められていた。 原告らは,被告大石寺側が積極的に寄付を勧奨したと主張するが,その関 の設置や委員の任命のすべてが創価学会のみによってされ,委員の圧倒的多数は創価学会員によって占められていた。 原告らは,被告大石寺側が積極的に寄付を勧奨したと主張するが,その関与は,日蓮正宗としての立場から,宗教的な権威付けの限度で形式的に関与したにすぎず,被告大石寺として直接信徒に対して寄付を勧奨したものではない。 むしろ,Bが,その創価学会員に対する影響力を駆使して,一般の全国紙並みの宣伝力を有する機関誌を用いるとともに,信徒らの各家庭に貯金箱を配布するなどして,創価学会の組織を挙げて寄付を勧奨したものである。 イ原告らが本件合意について受益の意思表示をしたとの主張は,否認する。このような行為だけで,原告らが主張するような複雑かつあいまいな法律上の権利を受益する意思表示がされたとは考え難い。 ウ後記のとおり,原告らは,平成9年11月30日の経過をもって日蓮正宗の信徒の資格を喪失しているから,本件合意に基づく義務の履行を求めることができる立場にない。 (2) 争点(2)について(原告ら)被告らは原告らに対し,正本堂を取り壊してはならないとの信義則上の義務を負っていた。その根拠となる事実は,以下のとおりである。 ア被告大石寺が積極的に寄付を勧奨したこと被告らは,前記のとおり,被告大石寺と信徒らの関係を前提として,信徒らに対し,その建設資金を寄付するよう,極めて強い表現で勧誘した。 また,被告らは,上記寄付金の使途について,正本堂に戒壇の御本尊を永遠に安置し,被告大石寺の本堂として信徒らの参詣儀式に使用すると明言しており,このことは正本堂建立後も同様であった。 イ原告らをはじめとする信徒 の使途について,正本堂に戒壇の御本尊を永遠に安置し,被告大石寺の本堂として信徒らの参詣儀式に使用すると明言しており,このことは正本堂建立後も同様であった。 イ原告らをはじめとする信徒らが被告大石寺側の勧奨行為を信頼して寄付をしたこと被告らの強い勧奨の結果,約800万人から合計約355億円という巨額の寄付金が集まった。 原告らは,被告らから寄付を勧奨され,正本堂に戒壇の御本尊を永遠に安置して,被告大石寺の本堂として信徒らの参詣儀式に使用する旨の言明を信頼して寄付を行った。原告らは,その大半がさしたる資産を持たない一般庶民であるが,苦しい経済状況下において,生活費を切りつめたり,わずかな貯蓄を取り崩したりして,平均すると当時の世帯の実収入の2か月分にも相当する金銭を寄付したものである。 ウ本件取壊しの理由が「用途目的の消滅」ではないこと被告らは,本件取壊しの理由として,戒壇の御本尊が正本堂から遷座され,正本堂の用途目的が消滅したことを挙げているが,最初から正本堂を解体することを意図していたものであり,遷座はその口実にすぎない。 エ本件取壊しは,被告Aが独断で決定したものであること本件取壊しを実施するためには責任役員会の議決を要するところ,被告Aは,何の宗内手続もとらずに戒壇の御本尊の遷座を決定し,本件取壊しの構想を公表するなどした上で責任役員会を開催し,後戻りができない状態で本件取壊しについて決議させたものであり,被告Aが独断でした行為を責任役員会に追認させたにすぎない。 なお,被告Aは,戒壇の御本尊を遷座した上で本件取壊しを行うことを,あらかじめ秘密裏に周到に準備していたものである。 オ正 行為を責任役員会に追認させたにすぎない。 なお,被告Aは,戒壇の御本尊を遷座した上で本件取壊しを行うことを,あらかじめ秘密裏に周到に準備していたものである。 オ正本堂の老朽化という虚偽の情報を宣伝したこと被告らは,平成10年1月ころから,その機関誌において,正本堂の躯体に異常な老朽化が生じている,建築に使われたコンクリートの中には多量の塩分を含む海砂が混ぜられていたため,鉄筋が腐食している,直下型地震が起これば大惨事となる,メンテナンスをした程度では復旧できないなどという内容の報道を繰り返し行った。しかし,このような事実は存在しない。 カ本件取壊しによる損失の大きさ正本堂は,完成当時,世界最大規模の宗教建築として,社会的に大きな注目を浴び,その後も建築物として高い評価を得ていた文化財である。このため,本件取壊しの際には,正本堂の保存を要望する多くの声があがったが,被告らは,これを全く黙殺して本件取壊しを断行したものである。 (被告ら)原告らが主張するような信義則上の義務は認められない。その根拠となる事実は,次のとおりである。 ア前記のとおり,被告大石寺が信徒らに対して寄付の勧奨の中心を担ってきた事実はなく,むしろ,信徒らに対して直接的に大きな影響力を行使し得る立場にあったのは,B及び創価学会であった。 イ宗門(日蓮正宗及び被告大石寺)は,B及び創価学会が日蓮正宗の教義・信仰から逸脱したことを理由として,平成3年11月28日に創価学会を破門処分に付し,平成4年8月11日にはBを信徒除名処分に付した。 その後もB及び創価学会の宗門に対する攻撃がやまないため,宗門は,宗門以外の宗教団体に所属し 1月28日に創価学会を破門処分に付し,平成4年8月11日にはBを信徒除名処分に付した。 その後もB及び創価学会の宗門に対する攻撃がやまないため,宗門は,宗門以外の宗教団体に所属している信徒が,平成9年11月30日までにその所属を解消するなどしなければ,日蓮正宗の信徒の資格を喪失する旨の宗規の変更を行った。原告らは,いずれも同日までに創価学会を離脱しなかったので,同日の経過をもって日蓮正宗の信徒の資格を喪失している。 被告大石寺は,正本堂の贈与主体が日蓮正宗の教義・信仰から逸脱した創価学会ないしBであること,しかも,Bらが正本堂の意義付けについて教義上の異説を唱えたことから,正本堂に戒壇の御本尊を安置することは不適当であると判断し,宗教法人法所定の手続を履践した上,戒壇の御本尊を遷座し,不要となった正本堂を取り壊したものであり,以上の行為は信教の自由に属する正当な宗教的行為である。 ウ原告らを含む創価学会員は,遅くとも創価学会が破門処分となってから後は日蓮正宗としての活動をなんら行っておらず,平成3年ないし4年ころからは正本堂を一切訪れていない。 (3) 争点(3)について(原告ら)正本堂が取り壊されたことにより,原告らの寄付はその意味を失い,原告らには,その給付利益に相当する財産的損害が生じている。また,原告らは,上記取壊しにより多大な精神的苦痛を被っており,これに対する慰謝料も生じている。 上記財産的損害と慰謝料を合算した額は,原告らが建設委員会に寄付した金額の3倍(同一覧表の請求額欄記載の金額)を下らない。 (被告ら)原告らの上記主張は争う。 原告らは,給付利益相当の財産的損害を主張するが,その実質は,正本堂における参 同一覧表の請求額欄記載の金額)を下らない。 (被告ら)原告らの上記主張は争う。 原告らは,給付利益相当の財産的損害を主張するが,その実質は,正本堂における参詣儀式ができなくなったことに対する精神的損害の主張にほかならない。物の毀損については,原則としてその所有者であっても慰謝料を請求できないと解すべきところ,原告らは正本堂の所有者ですらないこと,正本堂自体は信仰の対象ではなく,その毀損が直ちに宗教的充足感や精神的平穏の侵害につながるものではないことからすれば,精神的損害も生じていないというべきである。 また,前記のとおり,原告らは,平成9年11月30日の経過をもって日蓮正宗の信徒の資格を喪失しているから,本件取壊しによって害される利益はなく,損害も生じていないというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 甲1ないし17,22,31ないし37,39ないし43,63ないし70,73ないし75,84ないし86,89ないし93,98ないし114,116,118ないし120,122,124,125,127ないし132,141ないし147,乙1,2,7,11,26,原告Dの本人尋問(なお,摘示した証拠の番号は,枝番を含むものである。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば(前記の基礎事実を含む。),争点に対する判断の前提となる事実として,以下の事実が認められる。 (1) C上人は,昭和40年2月16日に実施された建設委員会の第1回会合において,正本堂に戒壇の御本尊を安置するのがふさわしく,正本堂の建立は日蓮正宗の教義上極めて重大な意義を有するという趣旨の発言をした。 C上人は,その後,創価学会の本部総会等の会合において,正本堂の有する教義上の意義を重ねて強調した上で,日蓮正宗の 建立は日蓮正宗の教義上極めて重大な意義を有するという趣旨の発言をした。 C上人は,その後,創価学会の本部総会等の会合において,正本堂の有する教義上の意義を重ねて強調した上で,日蓮正宗の信徒らに対して正本堂の建設資金を寄付するよう勧奨するようになり,その際には,「今日正本堂に供養した人びとの名前は,永遠に正本堂の地下に地下室を造って,そこには水も入らず科学的によく造っていただいて,立派な永遠に残る部屋を造って,そこに永久に保存していく考えであります。」(甲12)などと発言した。また,C上人は,昭和40年9月10日付けで訓諭を発して,重ねて正本堂の建設資金を寄付するよう勧奨した。 更に,C上人その他の被告大石寺の幹部らは,日蓮正宗ないしその関連団体の機関誌等において,正本堂の建設資金を寄付するよう度々勧奨し,正本堂が完成した後も,正本堂が教義上重大な意義を有する建造物であるとの見解を度々表明した。 (2) 建設委員会の委員には,被告大石寺の幹部らが多数含まれており,大石寺の建設については,被告大石寺側の意向も反映された。 また,建設委員会は日蓮正宗の信徒らに対し,本件趣意書や本件書面を配布するなどして,正本堂の建設資金を寄付するよう積極的に勧奨した。これらの書面には,正本堂が教義上重大な意義を有する旨の記載があるほか,「末法万年の外,未来までも人類救済大御本尊様を御安置申し上げるこの正本堂建立の大事業に参加できることは,永遠の誇りであり,大福運であります。」(甲16の1・2),「もったいなくも,C上人猊下より正本堂に御供養した人々の名前は,永遠に保存しようとの仰せをいただいております。」(甲17)などと記載されていた。 (3) 原告らは,いずれも日蓮正宗の信徒であり,かつ創価学会の会員で 下より正本堂に御供養した人々の名前は,永遠に保存しようとの仰せをいただいております。」(甲17)などと記載されていた。 (3) 原告らは,いずれも日蓮正宗の信徒であり,かつ創価学会の会員であったが,上記のような勧奨をされた結果,正本堂が日蓮正宗の教義上極めて重大な意義を有するとの説明に強く賛同し,別紙請求額一覧表の寄付額欄記載の金額を正本堂の建設資金として寄付した。 (4) 正本堂については,昭和47年9月30日付けで本件贈与証書が作成され,同日,表示登記の申請がされた。本件贈与証書は,Bが創価学会を代表して被告大石寺の代表者であるC上人に宛てて作成したもので,創価学会が所有する正本堂を被告大石寺に贈与する旨が記載されていた。 また,同年10月1日には正本堂の完工式典が開催されたが,その際,BからC上人に対し,「奉御供養」と題する書面(乙2,以下「本件供養書」という。)が交付された。本件供養書は,Bが正本堂建設委員会を代表してC上人に宛てて作成したもので,正本堂のみならず,その敷地や本山全体の土地建物,全国にある寺院の土地建物等及び什器備品一式を供養のために寄進する旨が記載されていた。 (5) 正本堂内には,日蓮正宗の信徒らの参詣儀式に使用することができるように,妙壇,法庭,円湧閣,思逸堂等の施設が設けられた。また,正本堂を設計する際には,十分な耐震性,耐久性,堅牢性を確保するための配慮がされた。 また,被告大石寺においては,正本堂維持のための御供養を独立の会計科目として収入に計上するとともに,特別正本堂維持基金及び正本堂維持基本金との名称で任意基本金を積み立て,正本堂の維持費用をここから支出することとしていた。 (6) 被告大石寺と創価学会は,昭和52年ころから教義上の見解 に,特別正本堂維持基金及び正本堂維持基本金との名称で任意基本金を積み立て,正本堂の維持費用をここから支出することとしていた。 (6) 被告大石寺と創価学会は,昭和52年ころから教義上の見解の相違等を原因として対立関係に立つようになり,一度は関係が修復されたものの,平成2年には再び対立が激化した。 日蓮正宗の宗門は,平成3年11月,創価学会を破門し,その日蓮正宗信徒団体としての地位を否定し,平成4年8月にはBを信徒除名処分とした。また,平成9年9月29日,日蓮正宗宗規を一部変更し,宗門以外の宗教団体に所属している者は,当該宗教団体の所属を解消するなどしなければ,日蓮正宗の信徒資格を失うこととした。創価学会の会員の多くは,創価学会が破門された後も日蓮正宗の信徒としての資格を認められていたが,上記の宗規変更により,その多くが日蓮正宗の信徒たる資格を喪失したものとされた。 (7) 被告大石寺は,対立関係にある創価学会の一機関である建設委員会から贈与された正本堂に戒壇の御本尊を安置しておくのは不相当であるとの被告Aの考えに基づき,平成10年4月に正本堂から戒壇の御本尊を遷座し,その後,戒壇の御本尊を遷座した以上は,正本堂はその用途目的を失ったとして,正本堂を取り壊した。 2 争点(1)(本件合意の存否等)について(1) 原告らは,①被告大石寺が積極的に寄付を勧奨したこと,②原告らが被告大石寺側の勧奨行為を信頼して寄付をしたこと,③正本堂完成直前及び完成後,被告大石寺側が本件合意の内容に副う義務を負担する旨の発言を繰り返したこと,④正本堂の構造が多数の信徒の参詣儀式に使用することを前提として設計されたこと,⑤正本堂が長期にわたって存続し得る耐久性を有すること,⑥正本堂を維持・管理するための基金が確保されてい り返したこと,④正本堂の構造が多数の信徒の参詣儀式に使用することを前提として設計されたこと,⑤正本堂が長期にわたって存続し得る耐久性を有すること,⑥正本堂を維持・管理するための基金が確保されていたことなどの事情を指摘し,これらの事情により本件合意の存在が推認されると主張する。 (2) 確かに,前記の事実によれば,被告大石寺は,正本堂の建立が教義上重大な意義を有するとした上で,建設された正本堂には戒壇の御本尊を安置し,信徒らの参詣儀式等を行う施設として長期間にわたって使用していく旨を強調するなどして,その建設資金の寄付を勧奨したこと,原告らを含む日蓮正宗の多数の信徒らは,このような勧奨を信頼して寄付を行ったことが認められる。また,正本堂の構造設計の内容,耐久性の程度,正本堂の維持費を拠出するための基金が設けられていたことなどの事情に照らせば,少なくとも正本堂が建設された当時は,正本堂に戒壇の御本尊を安置するなどして長期間にわたって使用していくことが予定されていたものと推認することができる。 しかし,前記の事実によれば,正本堂の建立は,仏教上の供養としての宗教上の意義を有していたと認められるところ,「供養」とは,一般に「仏教において三宝(仏・法・僧)又は死者の霊に諸物を供えること」を指すものであるから,そもそも,以上のような意義を有する供養をする際に,供養された物品の用法について,これを受領した寺院等が供養をした者或いは第三者のために一定の法的な義務を負うことが合意されるなどということは,通常は考えにくいというべきである。 また,本件贈与契約については,本件贈与証書や本件供養書が交わされているにもかかわらず,これらの書面中に本件合意の存在をうかがわせる記載は全く見当たらない。この点について,原告らは,非 また,本件贈与契約については,本件贈与証書や本件供養書が交わされているにもかかわらず,これらの書面中に本件合意の存在をうかがわせる記載は全く見当たらない。この点について,原告らは,非取引行為的性格を有する贈与契約においては,無償の財貨移転をするだけの信頼・情宜関係が存在する場合が多いから,必ずしも書面等を作成して負担の内容を明確にするとは限らないと主張するが,原告らの主張する本件合意の内容は,正本堂という巨大な建築物について,被告大石寺が合理的な期間,これを本堂として原告ら信徒の参詣儀式に使用し,これを維持・管理すべき法的義務を負うという重大な効果をもたらすものであるから,被告大石寺と建設委員会(創価学会)との間にこのような合意をする意思があったのであれば,その存在と内容を明確なものとするために本件贈与証書等に当該合意についての記載をするのが自然というべきであって,このような記載が存在しないということは,被告大石寺と建設委員会(創価学会)との間には被告大石寺にこのような法的な義務を負担させる意図のなかったことの証左というべきである。 そして,本件趣意書や本件書面に本件合意の内容に副うかのような記載があること,C上人その他の被告大石寺の幹部らが本件合意の内容に副うかのような発言ないし記事の掲載をしたことは事実であるが,これらの発言等の内容や発言等がされた経緯ないし状況に照らせば,これらの発言等の主たる目的は,正本堂建設の宗教上の意義を明らかにすることによって信徒らの信仰心を鼓舞することにあったといわざるを得ず,将来の事情変更のあるなしを問わず,その発言等の内容どおりの法的な義務を永続的に負担することが意図されていたとまでは認められない。 したがって,上記認定の事情を総合しても,被告大石寺に法的な 事情変更のあるなしを問わず,その発言等の内容どおりの法的な義務を永続的に負担することが意図されていたとまでは認められない。 したがって,上記認定の事情を総合しても,被告大石寺に法的な義務を負わせる旨の合意がされたと推認するには不十分である。そして,他に本件合意の存在を推認するに足りる事情は見当たらない。 (3) 以上のとおりであるから,被告大石寺と建設委員会(創価学会)との間で本件合意がされたものとは認められない。 3 争点(2)(信義則上の義務の存否等)について(1) 原告らは,①被告大石寺が積極的に寄付を勧奨したこと,②原告らをはじめとする信徒らが被告大石寺側の勧奨行為を信頼して寄付をしたこと,③被告らは,「用途目的の消滅」を理由として本件取壊しをしたものではないこと,④本件取壊しは,被告Aが独断で決定したものであること,⑤被告らが正本堂の老朽化という虚偽の情報を宣伝したこと,⑥本件取壊しによる損失が甚大であることなどの事情を指摘し,これらの事情に照らせば,被告らが原告らに対して正本堂を取り壊してはならないとの信義則上の義務を負っていたことが明らかであると主張する。 (2) しかし,そもそも,本件贈与契約の当事者である被告大石寺と建設委員会(創価学会)との間においてさえ,前記のとおり,被告大石寺が原告らに対して正本堂を維持・管理すべき義務を負う旨の本件合意をしたとは認められないのであるから,被告大石寺が積極的に寄付を勧奨した結果,原告らが本件贈与契約を締結したものであるとの前記①及び②の事情が存在するからといって,そのことだけから,被告大石寺が贈与契約等何ら法的関係のある当事者でない原告らに対して,正本堂を取り壊してはならないとの信義則上の義務を直接負っていたなどと認める余地はなく,このこと からといって,そのことだけから,被告大石寺が贈与契約等何ら法的関係のある当事者でない原告らに対して,正本堂を取り壊してはならないとの信義則上の義務を直接負っていたなどと認める余地はなく,このことは,⑥の事情を含めて考えても同様である。 また,原告らは,上記③ないし⑤の事情が存在することを指摘するが,そもそも,これらの事情は,本件取壊しの動機や態様が不適切であると主張するにすぎず,正本堂の取壊し自体をしてはならないとの義務を認める根拠にはなり得ないから,このような事情の存在を主張しても,主張自体失当というべきである。 更に,そもそも,前記の事実によれば,本件の本質は,本件贈与契約が締結された当時,この契約に基づく寄付金の使途やこの寄付金を用いて建設された正本堂の信仰上の位置付けなどについては,原告らと被告大石寺の間には何ら意見の相違はなかったところ,正本堂が建設されてから20年以上が経過した後に,被告大石寺と原告らの所属する創価学会との間で教義上の紛争が生じ,このため正本堂の信仰上の位置付けなどについて原告らと被告大石寺との間に顕著な意見の相違が生じたというものであって,このような事情の下においては,上記のような信義則違反があったと認めることはおよそ困難である。 (3) 以上のとおりであるから,被告らが上記の信義則上の義務に違反したことが原告らに対する債務不履行ないし不法行為となる旨の原告らの主張は,いずれにしても理由がない。 第4 結論よって,その余の争点について判断するまでもなく,原告らの本訴各請求は,いずれも理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 (平成15年1月7日口頭弁論終結)山口地 求は,いずれも理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 (平成15年1月7日口頭弁論終結)山口地方裁判所第1部裁判長裁判官山下満裁判官杉山順一裁判官栄岳夫請求額一覧表原告寄付額請求額D \550,000 \1,650,000E \211,210 \633,630F \518,300 \1,554,900G \400,000 \1,200,000H \200,000 \600,000I \100,000 \300,000J \100,000 \300,000K \50,000 \150,000L \10,000 \30,000M \100,000 \300,000N \115,000 \345,000O \101,000 \303,000P \50,000 \150,000Q \22,100 \66,300R \155,225 \465,675S \71,748 \215,244T \21,000 \66,300R \155,225 \465,675S \71,748 \215,244T \21,000 \63,000U \15,000 \45,000
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