平成23(行ケ)10055 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年11月10日 知的財産高等裁判所 4部 判決 請求棄却
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判決文本文31,836 文字)

平成23年11月10日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成23年(行ケ)第10055号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成23年10月20日判決原告カトウ工機株式会社同訴訟代理人弁理士佐藤英昭丸山亮林晴男被告司工機株式会社同訴訟代理人弁護士後藤昌弘鈴木智子同弁理士飯田昭夫江間路子 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求特許庁が無効2010-800115号事件について平成23年1月7日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の下記2の本件発明に係る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は,平成18年5月8日,発明の名称を「加工工具」とする特許出願(特願2006-129379号)をし,同年10月20日,設定の登録 案である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は,平成18年5月8日,発明の名称を「加工工具」とする特許出願(特願2006-129379号)をし,同年10月20日,設定の登録(特許第3868474号)を受けた。以下,この特許を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(甲13)を,図面を含め,「本件明細書」という。 (2) 原告は,平成22年7月9日,本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下,順次,「本件発明1」ないし「本件発明8」といい,総称して,「本件発明」という。)に係る特許について,特許無効審判を請求し(甲14),無効2010-800115号事件として係属した。 (3) 特許庁は,平成23年1月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の本件審決をし,同月17日,その謄本が原告に送達された。 2 本件発明の要旨本件発明の要旨は,特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次のとおりのものである。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所である。 【請求項1】工作機械の主軸にシャンクを着脱自在に取り付け,該主軸の回転により該シャンクおよびホルダーに装着した刃具を回転駆動すると共に,/該シャンクに対し該ホルダーおよび刃具を傾動させて加工を行う加工工具において,/該シャンクの下端部外側にベアリングを介してケースが取り付けられ,該シャンクの下端軸心部に設けた軸孔に吸収ロッドが軸方向に摺動可能に配設され,該吸収ロッドと該シャンク間には該吸収ロッドを軸方向に付勢する吸収ばねが配設され,該ケース内の下部には傾動ケースが軸線に対し傾動可能に配設され,該傾動ケース内にはホルダーがベアリングを介して回転自在に配設され,該ホルダー内には先端に工具用のチャック部を設けた摺動ホルダーが軸方向に摺動可能に配設され,該ホルダ が軸線に対し傾動可能に配設され,該傾動ケース内にはホルダーがベアリングを介して回転自在に配設され,該ホルダー内には先端に工具用のチャック部を設けた摺動ホルダーが軸方向に摺動可能に配設され,該ホルダーと該摺動ホルダー間には該摺動ホルダーを軸方向に付勢するばね部材が配設され,前記吸収ロッドの下端部と該ホルダーの上端部は相互に自在継手ロッドにより連結され,該自在継手ロッドの外周部の該ケース内に,多数の傾動支持ピンを下方に向けて且つばね部材により付勢して突出させてなる傾動支持ピン装置が配設され,/該 傾動支持ピン装置の傾動支持ピンの先端は,該傾動ケースの上部に設けた受圧板に当接し,該自在継手ロッドは,吸収ロッドの下部と連結された第1自在継手部と,ホルダーの上部と連結される第2自在継手部とを中間軸の上部と下部に設けて構成され,/第1自在継手部は,吸収ロッドに対し円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能に連結され,第2自在継手部はホルダーに対し円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能に連結され,/該第1自在継手部の先端中央に形成された嵌入穴に1個の金属球が転動可能に嵌入されると共に,該吸収ロッド側の下端部中央に設けられた受入れ凹部に該金属球が係合し,第2自在継手部の先端中央に形成された嵌入穴に1個の金属球が転動可能に嵌入されると共に,該ホルダー側の上端部中央に設けられた受入れ凹部に該金属球が係合し,/該自在継手ロッドが該吸収ロッド及び該ホルダーに対し直線状態のとき,両側の該金属球が両側の該受入れ凹部に係合した状態を保持し,該自在継手ロッドが該吸収ロッド及び該ホルダーに対し傾動したとき,少なくとも何れか一方の該金属球が受入れ凹部の略中央から外側寄りに移動し,傾動荷重を外されて該ホルダーが傾動状態から直線姿勢に戻る際,該金属球が該外側寄り 収ロッド及び該ホルダーに対し傾動したとき,少なくとも何れか一方の該金属球が受入れ凹部の略中央から外側寄りに移動し,傾動荷重を外されて該ホルダーが傾動状態から直線姿勢に戻る際,該金属球が該外側寄りから該受入れ凹部の略中央に移動することを特徴とする加工工具【請求項2】前記傾動支持ピン装置は,円環状に形成されたピンケース内に多数の傾動支持ピンがその先端を下方に突出させて円周上に配設されると共に,各傾動支持ピンがばね部材により下方に付勢されて構成され,傾動支持ピン装置が回動自在のフリー状態でケース内に配設されたことを特徴とする請求項1記載の加工工具【請求項3】前記傾動支持ピン装置の上側に,ボールベアリングがフリー状態で回転自在に配設されたことを特徴とする請求項1記載の加工工具【請求項4】前記ケース内のボールベアリングの上側に,高さ調整用の調整ナットが螺合され,該調整ナットのねじ込みによりボールベアリングの上側空間の隙間幅を調整可能としたことを特徴とする請求項1記載の加工工具【請求項5】前記自在継手ロッドの中間軸に,円盤部が形成され,前記第1自在継 手部の先端部下寄りと第2自在継手部の下端部上寄りに,半球状凸部が突設されると共に,該吸収ロッドとホルダーの継手凹部内に,該半球状凸部が嵌合する溝部が軸方向に形成されたことを特徴とする請求項1記載の加工工具【請求項6】前記傾動ケースは,前記ケース内で球面滑り軸受を介して所定の角度範囲内で傾動可能に配設されたことを特徴とする請求項1記載の加工工具【請求項7】前記ホルダーは,傾動ケース内で少なくとも2個のニードルベアリングを含む複数のベアリングを介して回転自在に配設されたことを特徴とする請求項1記載の加工工具【請求項8】前記シャンクが該工作機械の主軸に装着された際,該工作機械の固 なくとも2個のニードルベアリングを含む複数のベアリングを介して回転自在に配設されたことを特徴とする請求項1記載の加工工具【請求項8】前記シャンクが該工作機械の主軸に装着された際,該工作機械の固定部に係合して該ケースを位置決めして静止させる位置決め係合部が前記ケースの側部に設けられ,該位置決め係合部は,位置決めピンが該ケースから側方に突出した保持部に,上下方向に摺動可能にかつばね部材により上方に付勢されて保持され,該位置決めピンの外周におねじ部が形成され,該おねじ部に調整ナットが螺合して装着されると共に,該調整ナットの外周部に回り止めキーが,その先端を該シャンクの下部に取り付けたオリエンテーションリングの係合部に係合可能に,該調整ナットの回転を許容して取り付けられ,調整ナットの回転操作により位置決めピン及び回り止めキーを上下動させることを特徴とする請求項1記載の加工工具 3 本件審決の理由の要旨(1) 本件審決の理由は,要するに,本件発明は,①下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)に下記イないしカの引用例2ないし6に記載された発明(以下,順次,「引用発明2」ないし「引用発明6」という。)及び実願平2-47552号(実開平4-5333号)のマイクロフィルム(甲4)に記載された発明,実願平2-47553号(実開平4-5334号)のマイクロフィルム(甲5)に記載された発明,実願平2-47554号(実開平4-5335号)のマイクロフィルム(甲6)に記載された発明を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない,②本件発明は, 被告が冒認出願したとされる引用発明1と同一ではないから,本件特許は,発明者ではなく,特許を受ける権利も承継していない者の出願によるものということ きたものということはできない,②本件発明は, 被告が冒認出願したとされる引用発明1と同一ではないから,本件特許は,発明者ではなく,特許を受ける権利も承継していない者の出願によるものということもできない,というものである。 ア引用例1:特開2005-349549号公報(甲1)イ引用例2:特開平11-303774号公報(甲2)ウ引用例3:特開平7-269580号公報(甲3)エ引用例4:特開2002-326183号公報(甲7)オ引用例5:特開平7-68482号公報(甲8)カ引用例6:特開2005-61084号公報(甲9)(2) なお,本件審決が認定した引用発明1並びに本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。 ア引用発明1:工作機械の主軸にシャンクを着脱自在に取り付け,該主軸の回転により該シャンク及びホルダーに装着した刃具を回転駆動するとともに,該シャンクに対し該ホルダー及び刃具を傾動させて加工を行う加工工具において,該シャンクの下端部外側にベアリングを介してケースが取り付けられ,該シャンクの下端軸心部に設けた軸孔に吸収ロッドが軸方向に摺動可能に配設され,該吸収ロッドと該シャンク間には該吸収ロッドを軸方向に付勢する吸収ばねが配設され,該ケース内の下部には傾動ケースが軸線に対し傾動可能に配設され,該傾動ケース内にはホルダーがベアリングを介して回転自在に配設され,該ホルダー内には先端に工具用のチャック部を設けた摺動ホルダーが軸方向に摺動可能に配設され,該ホルダーと該摺動ホルダー間には該摺動ホルダーを軸方向に付勢するばね部材が配設され,前記吸収ロッドの下端部と該ホルダーの上端部は相互に自在継手ロッドにより連結され,該自在継手ロッドの外周部の該ケース内に,多数の傾動支持ピンを下方に向け ルダーを軸方向に付勢するばね部材が配設され,前記吸収ロッドの下端部と該ホルダーの上端部は相互に自在継手ロッドにより連結され,該自在継手ロッドの外周部の該ケース内に,多数の傾動支持ピンを下方に向けてかつばね部材により付勢して突出させてなる傾動支持ピン装置が配設され,該傾動支持ピン装置の傾動支持ピンの先端は,該傾動ケースの上部に設けた受圧板に当接し,該自在継手ロッドは,吸収ロッドの下部と連結された第1自在継手部と,ホ ルダーの上部と連結される第2自在継手部とを中間軸の上部と下部に設けて構成され,第1自在継手部は,吸収ロッドに対し円周全方向に傾動可能でかつ軸方向に摺動可能に連結され,第2自在継手部はホルダーに対し円周全方向に傾動可能でかつ軸方向に摺動可能に連結される加工工具イ一致点:工作機械の主軸にシャンクを着脱自在に取り付け,該主軸の回転により該シャンク及びホルダーに装着した刃具を回転駆動するとともに,該シャンクに対し該ホルダー及び刃具を傾動させて加工を行う加工工具において,該シャンクの下端部外側にベアリングを介してケースが取り付けられ,該シャンクの下端軸心部に設けた軸孔に吸収ロッドが軸方向に摺動可能に配設され,該吸収ロッドと該シャンク間には該吸収ロッドを軸方向に付勢する吸収ばねが配設され,該ケース内の下部には傾動ケースが軸線に対し傾動可能に配設され,該傾動ケース内にはホルダーがベアリングを介して回転自在に配設され,該ホルダー内には先端に工具用のチャック部を設けた摺動ホルダーが軸方向に摺動可能に配設され,該ホルダーと該摺動ホルダー間には該摺動ホルダーを軸方向に付勢するばね部材が配設され,前記吸収ロッドの下端部と該ホルダーの上端部は相互に自在継手ロッドにより連結され,該自在継手ロッドの外周部の該ケース内に,多数の傾動支持ピンを下 は該摺動ホルダーを軸方向に付勢するばね部材が配設され,前記吸収ロッドの下端部と該ホルダーの上端部は相互に自在継手ロッドにより連結され,該自在継手ロッドの外周部の該ケース内に,多数の傾動支持ピンを下方に向けてかつばね部材により付勢して突出させてなる傾動支持ピン装置が配設され,該傾動支持ピン装置の傾動支持ピンの先端は,該傾動ケースの上部に設けた受圧板に当接し,該自在継手ロッドは,吸収ロッドの下部と連結された第1自在継手部と,ホルダーの上部と連結される第2自在継手部とを中間軸の上部と下部に設けて構成され,第1自在継手部は,吸収ロッドに対し円周全方向に傾動可能でかつ軸方向に摺動可能に連結され,第2自在継手部はホルダーに対し円周全方向に傾動可能でかつ軸方向に摺動可能に連結される加工工具ウ相違点:本件発明1では,①第1自在継手部の先端中央に形成された嵌入穴に1個の金属球が転動可能に嵌入されるとともに,吸収ロッド側の下端部中央に設けられた受入れ凹部に該金属球が係合し,第2自在継手部の先端中央に形成された 嵌入穴に1個の金属球が転動可能に嵌入されるとともに,ホルダー側の上端部中央に設けられた受入れ凹部に該金属球が係合し,②自在継手ロッドが吸収ロッド及びホルダーに対し直線状態のとき,両側の金属球が両側の受入れ凹部に係合した状態を保持し,③自在継手ロッドが吸収ロッド及びホルダーに対し傾動したとき,少なくともいずれか一方の金属球が受入れ凹部の略中央から外側寄りに移動し,傾動荷重を外されてホルダーが傾動状態から直線姿勢に戻る際,該金属球が外側寄りから受入れ凹部の略中央に移動するのに対し,引用発明1ではこのような特定がない点 4 取消事由(1) 本件発明1の進歩性に係る判断の誤り(取消事由1)ア引用発明1の認定の誤りイ引用発明1 れ凹部の略中央に移動するのに対し,引用発明1ではこのような特定がない点 4 取消事由(1) 本件発明1の進歩性に係る判断の誤り(取消事由1)ア引用発明1の認定の誤りイ引用発明1に対する引用発明2ないし6等の適用に係る判断の誤り(2) 冒認出願に係る判断の誤り(取消事由2)第3 当事者の主張 1 取消事由1(本件発明1の進歩性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 引用発明1の認定の誤りについてア引用例1の【0043】には,「上記実施形態では,吸収ロッドとホルダーの連結に自在継手ロッドを使用したが,自在継手ロッドに代えて…ベローズ型自在継手を使用することもできる。このベローズ型自在継手は,蛇腹形のベローズの上部と下部に設けた連結軸を介して,吸収ロッドとホルダー本体間に連結される。」と記載されているところ,「連結軸を介して,…連結される。」との記載は,本件発明1における金属球に係る構成(以下,前記第2の3(2)ウの相違点における①ないし③の各構成を,順次,「本件構成①」ないし「本件構成③」といい,総称して,「本件構成」という。)を示唆するものである。 イ引用例1の【0044】【0045】の記載によると,本件発明1のベローズ型自在継手が吸収ロッドに対して連結軸に直角な平面に平行な1平面内で傾動で きるように連結軸により連結され,ベローズ型自在継手の下部がホルダー本体の上部と連結軸に直角な平面に平行な1平面内で傾動できるように連結軸により連結されていることは容易に理解できるものであり,連結軸と連結軸の回転軸は90°ずれて直交しているが,連結軸と連結軸とを中心に傾動可能であることを示すものである。 そして,ベローズ型自在継手が吸収ロッドに対して連結部のベローズ型自在継手の軸の全周 と連結軸の回転軸は90°ずれて直交しているが,連結軸と連結軸とを中心に傾動可能であることを示すものである。 そして,ベローズ型自在継手が吸収ロッドに対して連結部のベローズ型自在継手の軸の全周方向である360°に傾動できるようにするためには,ベローズ型自在継手の上端に設けられた連結軸に換えて球体を採用すればよいことは一般的な物理現象であるから,当業者でなくても容易に想到できることであって,引用例1は,本件発明の内容を示唆していることは明白である。 また,引用発明1におけるベローズ型自在継手を用いて吸収ロッドとホルダーを連結した場合でも,ホルダーと刃具を良好に傾動させることができるのであるから,これは,軸の全周方向である360°に傾動可能とすることへの動機付けそのものというべきである。 ウ以上からすると,相違点に係る構成が引用例1に示唆されているということはできないとした本件審決の認定は誤りである。 (2) 引用発明1に対する引用発明2ないし6等の適用に係る判断の誤りア引用発明1に対する引用発明2の適用に係る判断の誤りについて(ア) 本件明細書には,本件構成による作用効果に係る記載はない。特に,金属球が受入れ凹部から外側寄りに復帰可能に移動すると,ホルダーが直線姿勢に戻る際,傾動支持ピン装置の円周方向への動きが円滑となるものではないところ,当該作用に関する説明もない。 また,本件明細書の【0026】【0063】の記載内容は,引用例1の【0018】【0042】の記載内容と同一であり,本件発明1及び引用発明1の自在継手ロッドの機能は,同一であるというほかない。 したがって,本件発明1における金属球及び金属球を含む自在継手ロッド端部の 機構には特別の機能,効果はなく,自在継手ロッドが受ける荷重を支えるベアリングの機 能は,同一であるというほかない。 したがって,本件発明1における金属球及び金属球を含む自在継手ロッド端部の 機構には特別の機能,効果はなく,自在継手ロッドが受ける荷重を支えるベアリングの機能及び位置合わせ機能(引用例3,7ないし9)を有するにすぎない。 すなわち,本件発明1の作用効果は,引用発明1と同様の機構を有するからにほかならず,本件構成により生じる効果は存しないものである。 (イ) 引用発明2の柱体構造は,旋回スクロールからのスラスト荷重を効率よく受承することにより,耐久性を向上して寿命を延ばすことを目的とするものであり,スラスト荷重を支持する1種のベアリングにすぎず,その構造及び機能は,本件発明1の自在継手部両端部の機構と全く同じものである。 すなわち,本件発明1の金属球や受入れ凹部も,引用発明1の自在継手ロッドの先端に取り付けることが可能な引用発明2の凹陥部と凹陥部に嵌入される球体のいずれも「回転力を伝達する」ものではなく,回転体のスラスト荷重を支えるだけの機能を有するものであり,単なるボールベアリングにすぎないものである。 (ウ) 引用発明2のスラスト荷重支持手段は,柱体の端面に大きな円弧によって形成された略球面形状の衝合面を設ける構成を有し,旋回スクロールからのスラスト荷重による応力を衝合面によって分散して受承し,荷重受承部材,柱体等の摩耗や損傷を防止するものである。また,第1,第2の凹陥部と柱体側凹陥部との間にそれぞれ球体を嵌合して設けているため,荷重受承部材と柱体との位置ずれを防止することができ,荷重受承部材,柱体の偏摩耗等を防止するものである。 したがって,引用発明2の上記構成は,本件構成①に相当するものである。 (エ) 引用発明2における両端の凹陥部に球体を嵌入する柱体のスラスト荷重支持機構は, 体の偏摩耗等を防止するものである。 したがって,引用発明2の上記構成は,本件構成①に相当するものである。 (エ) 引用発明2における両端の凹陥部に球体を嵌入する柱体のスラスト荷重支持機構は,機械部品の構成要素の1つであり,「両端に凹陥部を設置し,その中に球体を嵌入する」という簡単な機構であって,ベアリングのインナーレースとボールとの関係において,その形を変えたものにすぎない。当該機構は,機械要素のボルト,ナットや,ベアリングのような汎用的な部品にすぎない以上,適用機械の回転数,自在継手ロッドにかかる負荷を考慮して,用途に最適な凹陥部と球体のサイズ,材質,表面粗度を設定することができるものであるから,引用発明2の柱体を 引用発明1の自在継手ロッドに適用することは,設計値の検討程度にすぎず,引用発明1及び2は同一の技術分野に属することは明らかである。しかも,引用発明2のスラスト荷重支持機構が単なるベアリングである以上,技術分野が異なったとしても適用できないというものでもない。 被告の主張は,引用発明2について,スクロール式圧縮機構の機能に関して本件発明1と比較したものにすぎず,スラスト荷重支持機構に関して何らの主張をするものではなく,失当である。 イ引用発明1に対する引用発明3の適用に係る判断の誤りについて(ア) 引用発明3は,駆動軸と従動軸の2軸が同軸芯上で係合し駆動軸の動作を従動軸に伝達する接続機構に関する発明であるところ,駆動軸と従動軸とからなる接続機構において,位置や寸法にばらつきのある加工部材へ駆動軸からの動作が正確に伝えられるとともに,従動軸に加わる外力が設定値以内のときは,常に駆動軸と従動軸がある一定の位置(原点)に自動的に復帰する復元機構を有するものである。 (イ) 本件審決は,引用発明3の接続機構 確に伝えられるとともに,従動軸に加わる外力が設定値以内のときは,常に駆動軸と従動軸がある一定の位置(原点)に自動的に復帰する復元機構を有するものである。 (イ) 本件審決は,引用発明3の接続機構は,従動軸が駆動軸に対して平行移動するものであって,引用発明1の自在継手部のように「円周全方向に傾動可能でかつ軸方向に摺動可能」なものではないとする。 しかしながら,引用発明3の接続機構では,駆動軸に対して従動軸を平行移動させる機構及び垂直な駆動軸に対して従動軸を垂直に保持する機構がないから,「従動軸が駆動軸に対して平行移動」することは原理的にあり得ず,引用例3は,外周方向から外力が加わると従動軸が外力の作用する方向へ移動することを,単に「平行移動する」と表現したものにすぎない。 本件明細書には,金属球や受入れ凹部に関するサイズ,形状は一切記載されていないが,自在継手ロッドの特性上,引用発明3の「遊び」と同レベルのものであることは明らかで,引用発明3と本件発明1において,同様の傾動が生じることは明白である。 したがって,引用発明3の接続機構は,本件構成①に相当するものである。 なお,原告は,同機構は,その駆動軸と駆動軸との接続部の機構が本件発明1の受入れ凹部と金属球からなる機構に相当するものであると主張するのであって,当該機構をそのまま引用発明1の自在継手ロッドに置き換えることが可能であると主張するものではないから,当該機構が軸方向に摺動可能ではないことを指摘する被告の主張は原告の主張を誤解するものである。 (ウ) 引用例3には,引用発明3の接続機構は周知の汎用技術であり,駆動軸と従動軸とを接続し,従動軸の先端部に工具などを取り付けて自動化設備などに組み込まれるとの記載があるから,接続機構を駆動軸と当該駆動軸に対して傾 は,引用発明3の接続機構は周知の汎用技術であり,駆動軸と従動軸とを接続し,従動軸の先端部に工具などを取り付けて自動化設備などに組み込まれるとの記載があるから,接続機構を駆動軸と当該駆動軸に対して傾動する従動軸の接続に適用することに係る記載及び示唆が存することは明らかである。 ウ引用発明1に対する引用発明4の適用に係る判断の誤りについて(ア) 引用発明4は,製品組立てロボット等に取り付けて,結合すべきワーク相互間の位置ずれや寸法公差等を吸収する場合などに使用されるコンプライアンスユニットに関する発明であるところ,相対的に変移したアウターガイドと第1ボディとを原点位置に復帰させるための復帰機構を有するものである。 (イ) 前記アにおいて指摘したとおり,引用発明1の自在継手部において,凹部と球体とを組み合わせる構成は機械要素の1つであり,ベアリングの1変形体にすぎないものであって,引用例4も,このような凹部と球体との関係を示す機械要素が周知技術であることを示すものである。 したがって,引用発明4の第1及び第2ボディは引用発明1の自在継手部のように円周全方向に傾動可能で,かつ軸方向に摺動可能なものではなく,コンプライアンスユニットを上記各ボディが互いに傾動する場合に適用することについて記載も示唆もないとした本件審決は誤りである。 エ引用発明1に対する引用発明5の適用に係る判断の誤りについて(ア) 引用発明5のハンド設置台には,円周方向に120°の等間隔でコイルばねが配置されているから,同発明における円筒部は受け台に対して平面内でのみ移 動するものであって,引用発明1における自在継手部のように「円周全方向に傾動可能でかつ軸方向に摺動可能」なものではないとする本件審決は誤りである。 (イ) 引用例5は,復帰機構が周 のみ移 動するものであって,引用発明1における自在継手部のように「円周全方向に傾動可能でかつ軸方向に摺動可能」なものではないとする本件審決は誤りである。 (イ) 引用例5は,復帰機構が周知技術であることを示すためのものであり,当該機構を引用発明1の自在継手部に置き換えることを意図するものではないのであって,「軸方向に摺動可能なものではない」とする本件審決は誤りである。 (ウ) 本件審決は,引用例5には復帰機構を円筒部と受け台とが互いに傾動する場合に適用することについては記載も示唆もないとするが,引用発明5の円筒部は,円周方向に支持されており,傾動するものであることも明らかである。 オ引用発明1に対する引用発明6の適用に係る判断の誤りについて引用例6は,本件構成③に相当する球体と円錐状窪みにおける復元手段が周知技術であることを示すためのものであり,原告は,当該機構を引用発明1の自在継手部に換えることを主張するものではない。 したがって,①当該機構は回転力を伝達するものではない,②引用例6には,円周全方向に傾動可能でかつ軸方向に摺動可能なものに適用することについて,記載も示唆もない,③引用発明1に,技術分野が異なる引用発明6を適用することが容易であったということはできないとする本件審決は誤りである。 カ引用発明1ないし6等の適用に係る判断の誤りについて本件発明1は,引用発明1に本件構成を加えたものにすぎないが,当該構成は,自在継手ロッドの両端に装着された金属球と,吸収ロッド側の下端部中央に設けられた受入れ凹部及びホルダー側の上端部中央に設けられた受入れ凹部とが係合する機構とその動作についての構成要件であり,自在継手ロッドそのものについての構成要件ではない。 引用例2ないし6は,いずれも引用例1の「自在継手 ダー側の上端部中央に設けられた受入れ凹部とが係合する機構とその動作についての構成要件であり,自在継手ロッドそのものについての構成要件ではない。 引用例2ないし6は,いずれも引用例1の「自在継手ロッドの両端に装着された金属球と,吸収ロッド側の下端部中央に設けられた受入れ凹部及びホルダー側の上端部中央に設けられた受入れ凹部とが係合する機構」に関するものであるところ,特に,引用発明2の「柱体側凹陥部と,凹陥部に嵌合される球体」のベアリンク機 能を有する機構を引用発明1の自在継ぎ手ロッドの両端に適用すれば,当該構成に容易に想到し得ることは明らかである。 キ小括以上からすると,本件発明1は,当業者が引用発明1に引用発明2ないし6をそれぞれ組み合わせることによって,あるいは引用発明1ないし6等によって,容易に発明をすることができるものであり,進歩性を有しないものというべきであるから,本件審決は取消しを免れない。 〔被告の主張〕(1) 引用発明1の認定の誤りについてア引用例1の【0043】【0044】には,「嵌入穴及び受入れ凹部に金属球が係合する構成」に関する記載はない。 また,引用発明1のベローズ型自在継手は,吸収ロッドの下部の取付部材に連結軸により連結され,ホルダー本体の上部の取付部材に連結軸により連結された構成により,ベローズ型自在継手を用いて吸収ロッドとホルダーを連結した場合でも,同様に,加工時には刃具がワークから受ける側方からの押圧力に応じて,ホルダーと刃具を良好に傾動させるものであるから,これを,軸の全周方向である360°に傾動可能とすることへの動機付けは認められない。 イ引用例1には,本件構成に関する記載はない。 ウ以上からすると,相違点に係る構成が引用例1に示唆されているということはできない ある360°に傾動可能とすることへの動機付けは認められない。 イ引用例1には,本件構成に関する記載はない。 ウ以上からすると,相違点に係る構成が引用例1に示唆されているということはできないとした本件審決の認定に誤りはない。 (2) 引用発明1に対する引用発明2ないし6等の適用に係る判断の誤りについてア引用発明1に対する引用発明2の適用に係る判断の誤りについて(ア) 引用発明2の柱体は,引用発明1の自在継手ロッドのように高速で回転することはなく,回転力を伝達するものでもない。引用発明2のスクロール式流体機械は,スクロールポンプなどに使用されるスクロール式圧縮機構であり,その旋回 スクロールは,「旋回」という名称が付されているが,クランク軸及びころ軸受を介して駆動軸に連結され,回転することはない。同様に,柱体が回転するものでもない。同発明のスラスト荷重支持手段は,みそすり揺動する旋回スクロールが平面内の位置ずれを生じないように,柱体により旋回スクロールを水平な平面上で支持するのみであり,球体は作動中において凹陥部に嵌合し,外側に移動することもない。 したがって,引用発明2のスラスト荷重支持機構は,本件構成①と同様の作用を奏するものではない。 また,同機構は,旋回スクロールの平面方向の位置ずれを防止するためのものであり,球体が凹陥部内を移動すれば位置ずれを起こしてしまうのであるから,球体の直径に対して凹陥部の半径を数倍に取り,あるいは凹陥部の中間部に平坦部を設けることにより球体を凹陥部内で移動させるという発想が生じるものではない。 (イ) 引用発明2のスラスト荷重支持手段の構造及び機能は,①回転力を伝達するものではないこと,②構造自体が全く異なること,③10000rpm程度の非常に高速で回転する刃具の暴れを抑制 はない。 (イ) 引用発明2のスラスト荷重支持手段の構造及び機能は,①回転力を伝達するものではないこと,②構造自体が全く異なること,③10000rpm程度の非常に高速で回転する刃具の暴れを抑制するものではないことにおいて,本件発明1の自在継手部の両端部の機構とは全く異なるものである。 (ウ) 引用発明2のスクロール式流体機械は,引用発明1のような高速旋回を前提としないものであって,その技術分野は全く異なるものであり,仮に引用発明2のスラスト荷重支持機構がベアリングの変形といえるものであったとしても,引用発明1に適用することが容易であるということはできない。 しかも,本件発明1の金属球及び受入れ凹部は,荷重を外されたときの刃具の暴れを防止する機能を有するから,単なるベアリングに相当するものでもない。 イ引用発明1に対する引用発明3の適用に係る判断の誤りについて(ア) 引用例3の【0022】には,圧縮コイルばねが伸縮することにより従動軸を駆動軸に対して平行移動させる機構が記載されている。また,同【0016】ないし【0018】には,上下のスラストベアリングにより駆動軸に対して従動軸 を垂直に保持する機構が記載されている。 また,引用発明3において,駆動軸と従動軸との間に存する遊びは,従動軸を駆動軸に対して平行移動させるためのものであり,傾動させるためのものではない。 このように,引用発明3の接続機構は,本件発明1のように,高速回転する自在継手ロッドが吸収ロッドに対して傾動し,かつホルダーが自在継手ロッドに対して傾動し,金属球が受入れ凹部の略中央から外側寄りに移動し,自在継手ロッド及びホルダーが傾動状態から直線姿勢に戻る際,金属球が外側寄りから受入れ凹部の略中央に移動するものではない。同接続機構は,単に,駆動軸に対し 球が受入れ凹部の略中央から外側寄りに移動し,自在継手ロッド及びホルダーが傾動状態から直線姿勢に戻る際,金属球が外側寄りから受入れ凹部の略中央に移動するものではない。同接続機構は,単に,駆動軸に対して従動軸の平行移動を許容しているにすぎず,各部材の位置ずれや寸法精度のばらつきなどによって従動軸が平行移動したとき,原点位置に戻すように鋼球を円錐凹部に嵌合させるのみである。 したがって,上記機構は,本件発明1の陥入穴と金属球に相当するものではない。 (イ) 引用発明3には,従動軸が駆動軸に対して軸方向に摺動可能であることについて,何らの記載も示唆もない。 また,自在継手ロッドが吸収ロッドに対して傾動し,かつホルダーが自在継手ロッドに対して傾動するという構成を有するものを含め,駆動軸と従動軸とを接続する全ての接続機構に適用が容易であるとする根拠もない。 ウ引用発明1に対する引用発明4の適用に係る判断の誤りについて引用発明4のコンプライアンスユニットは,産業用ロボットによる製品の自動組立作業等に使用され,部品合わせ時の芯ずれを自動で調整し,部品相互間の位置ずれや寸法公差を吸収し,製品の自動組立作業等を円滑に行うためのユニットである。 同発明のコンプライアンスユニットは,X-Y方向の位置ずれを自動調整するものであり,第1ボディが第2ボディに対して傾動することはない。引用例4には,傾動する場合に適用することについての記載も示唆もない。第1ボディは引用発明1の自在継手ロッドのように高速で回転するものでもないから,高速回転する自在継手ロッド及びホルダーを傾動状態から直線状態に安定して戻すための構成が,引用 例4に開示されているものということはできない。 エ引用発明1に対する引用発明5の適用に係る判断の誤りについて引用例5 ルダーを傾動状態から直線状態に安定して戻すための構成が,引用 例4に開示されているものということはできない。 エ引用発明1に対する引用発明5の適用に係る判断の誤りについて引用例5には,ハンド設置台を平面原点位置に復帰させるための復帰手段として,鋼球と受け台とを有する機構が記載されているが,ハンド設置台は基台の平面に平行な平面に沿って姿勢を保持したまま移動するものであり,ハンド設置台の一部に設けられた円筒部は,基台に設けられた受け台に対して傾くことなく移動して,ハンド設置台を平面内で平行移動させて原点位置に復帰させるものである。 したがって,引用発明5の円筒部は傾動するものではない。しかも,引用例5には,復帰機構を円筒部と受け台とが互いに傾動する場合に適用することについて,記載も示唆もない。 オ引用発明1に対する引用発明6の適用に係る判断の誤りについて引用例6には,一対の軌道盤と転動体であるボールとからなる免震システム用の支承具が記載されているが,支承具は,揺れの発生時に軌道盤の相対移動を許容し,揺れの終了時にはボールと軌道盤を原点へ復帰させるにすぎず,軌道盤は,回転力を伝達するものでもない。引用例6は,支承具を,円周全方向に傾動可能でかつ軸方向に摺動可能なものに適用することについて,開示するものではない。しかも,引用発明1と6とは,技術分野が全く異なるものである。 カ引用発明1ないし6等の適用に係る判断の誤りについて(ア) 引用例1ないし6等のいずれにも,円周全方向に傾動可能でかつ軸方向に摺動可能である自在継手ロッドのような軸部材において,当該軸部材の一端又は他端の先端中央に形成された嵌入穴に1個の球体が転動可能に嵌入されるとともに,軸部材の先端に対向する部材の端部中央に設けられた受入れ凹部に当該 在継手ロッドのような軸部材において,当該軸部材の一端又は他端の先端中央に形成された嵌入穴に1個の球体が転動可能に嵌入されるとともに,軸部材の先端に対向する部材の端部中央に設けられた受入れ凹部に当該球体が係合する構成を示唆する記載も,このような構成について回転力を伝達する自在継手の自在継手ロッドの両端に適用することを示唆する記載もない。 (イ) 引用発明2のスラスト荷重支持手段の機構(構造及び機能)は,本件発明1の自在継手部の両端部の機構とは同一ではないことは,前記アにおいて述べたと おりである。したがって,仮に引用発明2の上記機構を引用発明1の自在継手ロッドの両端に適用しても,本件発明1の「受入れ凹部と金属球」と同一の構造ということはできず,また,同一の作用も奏しない。 また,引用例2には,このような適用に関する示唆もない。 キ小括以上からすると,本件発明1は,当業者が引用発明1に引用発明2ないし6をそれぞれ組み合わせることによって,あるいは引用発明1ない6等によって,容易に発明をすることができるものではなく,進歩性を有するものというべきであるから,本件審決の判断は相当である。 2 取消事由2(冒認出願に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件構成についてア本件発明と引用発明1とは,①本件発明1に,技術的意味を有さない本件構成が追加されていること,②請求項8に,周知技術である位置決め係合部に関する記載があること,③本件明細書に,先行技術として引用発明1が紹介され,復元性向上を目的とした課題,本件発明1の効果が記載されていること以外は,全く同一であるということができる。 したがって,本件特許の特許請求の範囲の記載及び本件明細書はいずれもそのほとんどが引用例1のコピーというべきであって,本件発 1の効果が記載されていること以外は,全く同一であるということができる。 したがって,本件特許の特許請求の範囲の記載及び本件明細書はいずれもそのほとんどが引用例1のコピーというべきであって,本件発明1と引用発明1とは,実質的に同一であるというほかない。 イ本件審決は,原告及び被告間の引用発明1に係る判決(甲10。知的財産高等裁判所平成22年2月24日判決。以下「甲10判決」という。)には,金属球と自在継手ロッドが直線状態及び傾動状態での金属球と凹部の係合状態に関する発明特定事項を含む発明について,被告が特許を受ける権利を承継していないことを示す記載も,特許を受ける権利が原告に属することを示す記載もないとする。 確かに,甲10判決には,上記発明特定事項を含む記載は存しないが,本件構成 は何らの技術的意味を有するものではなく,本件発明1は引用発明1そのものであるということができる以上,本件審決の判断は失当である。 (2) 本件出願に係る被告の故意又は悪意についてア甲10判決の認定のとおり,被告は,職務発明として原告が承継し,原告において秘密として管理されていた引用発明1について冒認出願した「背信的悪意者」である。 被告は,引用発明1が,原告の意に反して出願公開されるのを待って,冒認行為が発覚しないように,仮に発覚した場合でも,自らに権利が残存することを企図し,引用発明1に別の構成を付加する偽装工作を施し,さらには早期審査制度を悪用して本件特許の設定登録を受けたものである。 そうすると,被告の当該行為は,一連の背信的,確信的な悪意によるものであるといわざるを得ない。 イしたがって,本件特許についても,被告による冒認出願がされたものと評価すべきである。 (3) 小括以上からすると,本件特許は特許法123条1項6 悪意によるものであるといわざるを得ない。 イしたがって,本件特許についても,被告による冒認出願がされたものと評価すべきである。 (3) 小括以上からすると,本件特許は特許法123条1項6号により無効とされるべきものであって,本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕(1) 本件構成についてア本件発明1は,本件構成を採用したことによって,傾動荷重を外されてホルダーが傾動状態から直線姿勢に戻る際の,更なる円滑な復元性,ホルダーや刃具の暴れの更なる抑制を実現したものであって,この作用効果は,本件明細書【0064】【0065】にも記載されているものである。 本件発明は,引用発明1の加工工具を更に改良したものであるから,本件明細書と引用例1の前提部分が共通することはむしろ当然である。 イ甲10判決は,引用発明1をその審理の対象としているものであって,本件 発明とは無関係である。 (2) 本件出願に係る被告の故意又は悪意についてア引用発明1について被告が背信的悪意者であったとしても,本件発明が引用発明1とは異なる構成と作用効果を有する別の発明である以上,引用発明1に関する甲10判決の認定が本件特許に係る審理を拘束するものではない。 イ本件発明は,引用発明1における不具合を解消すべく被告が試行錯誤を繰り返した結果,発明に至ったものであって,引用例1には金属球について示唆すらされていない。 したがって,偽装工作なる主張は,原告の憶測にすぎず,本件特許についても,被告による冒認出願がされたものと評価することはできない。 (3) 小括以上からすると,本件特許は特許法123条1項6号により無効とされるべきものではないとした本件審決の判断に誤りはない。 第4 当裁判所の判断 1 取消事由1(本件発明1の進歩 (3) 小括以上からすると,本件特許は特許法123条1項6号により無効とされるべきものではないとした本件審決の判断に誤りはない。 第4 当裁判所の判断 1 取消事由1(本件発明1の進歩性に係る判断の誤り)について(1) 本件発明についてア本件明細書(甲13)の記載本件発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2のとおりであるところ,本件発明は,引用発明1の構成に,前記第2の3(2)ウの相違点に係る構成が付加されたものであり,本件明細書及び引用例1の各記載は,内容において共通する部分も多いものである。そこで,上記構成に係る部分を中心に,本件明細書(甲13)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。 (ア) 本件発明は,工作機械の主軸に着脱可能に取り付けられた刃具を回転させて,ワークの面取等を行う加工工具に関する。 従来,加工の高速化に伴い,自在継手及びホルダーが傾動状態から直線状態に戻る際の,更なる迅速で円滑な復元性が求められていた。 本件発明は,回転する刃具の傾動動作を常にスムーズに行うとともに,傾動状態から直線状態への復元性が向上し,ワークの各種加工面の加工を良好に行うことができる加工工具の実現を目的とする(【0001】【0009】【0010】)。 (イ) 本件発明の加工工具では,工作機械の主軸の回転によりシャンクと吸収ロッドが回転し,その吸収ロッドの回転が自在継手を介してホルダーに伝達され,ホルダーの先端に取り付けられた刃具が高速回転して,その刃具がワークに接触することにより,バリ取りなどの加工が行われる。高速回転するホルダーに保持された刃具は,ワークから離れた際,その回転負荷が急激に減少し,自在継手ロッド及びホルダーが傾動状態から直線状態に戻る際,傾動支持ピン装置の円周方向への動きがスムー れる。高速回転するホルダーに保持された刃具は,ワークから離れた際,その回転負荷が急激に減少し,自在継手ロッド及びホルダーが傾動状態から直線状態に戻る際,傾動支持ピン装置の円周方向への動きがスムーズとなる。また,第1自在継手部の先端中央に形成された嵌入穴に1個の金属球が転動可能に嵌入されるとともに,吸収ロッド側の下端部中央に設けられた受入れ凹部に金属球が係合し,第2自在継手部の先端中央に形成された嵌入穴に1個の金属球が転動可能に嵌入されるとともに,ホルダー側の上端部中央に設けられた受入れ凹部に金属球が係合し,自在継手ロッドが吸収ロッド及びホルダーに対して直線状態のとき,両側の金属球が両側の受入れ凹部に係合した状態を保持し,自在継手ロッドが吸収ロッド及びホルダーに対し傾動した際,少なくともいずれか一方の金属球が受入れ凹部から外側寄りに復帰可能に移動するため,ホルダーが直線姿勢に戻る際,傾動支持ピン装置の円周方向への動きは,より円滑となり,ホルダーや刃具の暴れを防止することができる(【0019】【0022】【0023】)。 (ウ) 吸収ロッドの外周部に半球状凹部が形成され,その半球状凹部に金属球が緩く嵌入され,その外側部分は,シャンクの軸心位置に穿設した軸孔内の側壁に形成された係合溝に嵌合され,この金属球の係合によって吸収ロッドはシャンクに対し軸方向にのみ摺動可能に装着されることとなる(【0028】)。 傾動ケース及びホルダーがケース内で傾動したとき,あるいは刃具の回転負荷が急激に減少し,傾動状態から直線状態に戻るときなど,傾動支持ピン装置に回動力 が作用したとき,ピンケースが第2ベアリングを介して任意の方向に回動し,傾動ケース及びホルダーの直線戻り動作がスムーズに行われる。第2ベアリングは,環状でかつ板状の2枚のボールレース 動力 が作用したとき,ピンケースが第2ベアリングを介して任意の方向に回動し,傾動ケース及びホルダーの直線戻り動作がスムーズに行われる。第2ベアリングは,環状でかつ板状の2枚のボールレースを上下に重ねて構成され,ボールレースの内側に形成された環状溝に,多数の金属球が収容される構造を有する(【0031】)。 傾動ケースは上部にフランジを有した略円筒形に形成され,ケースの下部内の軸心位置に,球面滑り軸受けを介して所定の角度で傾動可能に配設されている。ケースの内側に球面滑り軸受けが円周状に設けられ,その球面滑り軸受けの内側に,傾動ケースの外周部に設けた球面滑り軸受けが回動可能にはめ込まれている。これにより,傾動ケースは球面滑り軸受けの中心軸を中心に,所定の角度範囲で傾動可能である(【0034】)。 (エ) 本件発明の加工工具の動作は,主軸が回転するとシャンクが回転し,そのシャンクの回転により,吸収ロッド,自在継手ロッド及びホルダーが回転する。外側に配設されたケースと傾動ケースは,位置決め係合部と工作機械の位置決めブロックとの係合により静止状態を保持し,ケースと傾動ケースが静止した状態で,ホルダーとそこに把持された刃具が,例えば約10000rpmという非常に高速回転で駆動される(【0056】)。 ホルダーが傾動状態から直線状態に復帰する力は,独立した傾動支持ピン装置内のばね部材及び吸収ばねによって吸収されるため,刃具がワークから離れる際,ホルダーや刃具が暴れることなく極めてスムーズに直線状に戻ることができる。また,傾動支持ピン装置がフリー状態で配設され,かつフリー状態の第2ベアリングを介して装着されているため,傾動時に傾動支持ピン装置が円周方向にスムーズに動いて傾動ケースの反動などを吸収し,ホルダーや刃具をスムーズに直線状態に戻す 状態で配設され,かつフリー状態の第2ベアリングを介して装着されているため,傾動時に傾動支持ピン装置が円周方向にスムーズに動いて傾動ケースの反動などを吸収し,ホルダーや刃具をスムーズに直線状態に戻すことができる(【0063】)。 さらに,第1自在継手部の先端中央に形成された嵌入穴に金属球が転動自在に嵌入され,吸収ロッドの下端部中央の支持板に設けられた受入れ凹部に金属球が移動可能に嵌入され,第2自在継手部の先端中央に形成された嵌入穴に金属球が転動自 在に嵌入され,ホルダーの上端部中央の支持板に設けられた受入れ凹部に金属球が移動可能に嵌入される(【0064】)。 したがって,自在継手ロッドが吸収ロッド及びホルダーに対して直線状態のとき,金属球は両側の受入れ凹部の略中央に位置しているが,自在継手ロッドが吸収ロッド及びホルダーに対して傾動したとき,金属球は受入れ凹部の略中央から外側寄りに復帰可能に移動するため,ホルダーが直線姿勢に戻る際,傾動支持ピン装置の円周方向への動きはより円滑となり,ホルダーや刃具の暴れを防止することができる(【0065】)。 イ本件発明の技術内容以上の本件明細書の記載によると,本件発明は,工作機械の主軸に着脱可能に取り付けられた刃具を回転させてワークの面取等を行う加工工具において,回転する刃具の傾動動作を常にスムーズに行うとともに,傾動状態から直線状態への復元性が向上し,ワークの各種加工面の加工を良好に行うことをその技術内容とするものである。 本件発明においては,第1自在継手部の先端中央に形成された嵌入穴及び吸収ロッドの下端部中央の支持板に設けられた受入れ凹部に金属球が移動,転動自在に嵌入され,また,第2自在継手部の先端中央に形成された嵌入穴及びホルダーの上端部中央の支持板に設けられた受入れ凹部に金 吸収ロッドの下端部中央の支持板に設けられた受入れ凹部に金属球が移動,転動自在に嵌入され,また,第2自在継手部の先端中央に形成された嵌入穴及びホルダーの上端部中央の支持板に設けられた受入れ凹部に金属球が移動,転動自在に嵌入されているため,自在継手ロッドが吸収ロッド及びホルダーに対して傾動すると,金属球は受入れ凹部の略中央から外側寄りに復帰可能に移動するため,ホルダーが直線姿勢に戻る際,傾動支持ピン装置の円周方向への動きはより円滑となり,ホルダーや刃具の暴れを防止することができるものである。 (2) 引用発明1についてア引用例1の記載引用例1(甲1)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。 (ア) 引用発明1の特許請求の範囲は,以下のとおりである。 【請求項1】工作機械の主軸にシャンクを着脱自在に取り付け,該主軸の回転により該シャンクおよびホルダーに装着した刃具を回転駆動すると共に,該シャンクに対し該ホルダーおよび刃具を傾動させて加工を行う加工工具であって,該シャンクの下端部外側にベアリングを介してケースが取り付けられ,該ケースには該主軸に装着された際,該工作機械の固定部に係合して該ケースを位置決めして静止させる位置決め係合部が設けられ,該シャンクの下端軸心部に設けた軸孔に吸収ロッドが軸方向に摺動可能に配設され,該吸収ロッドと該シャンク間には該吸収ロッドを軸方向に付勢する吸収ばねが配設され,該ケース内の下部には傾動ケースが軸線に対し傾動可能に配設され,該傾動ケース内にはホルダーがベアリングを介して回転自在に配設され,該ホルダー内には先端に工具用のチャック部を設けた摺動ホルダーが軸方向に摺動可能に配設され,該ホルダーと該摺動ホルダー間には該摺動ホルダーを軸方向に付勢するばね部材が配設され,前記吸収ロッドの下端部と該ホ ダー内には先端に工具用のチャック部を設けた摺動ホルダーが軸方向に摺動可能に配設され,該ホルダーと該摺動ホルダー間には該摺動ホルダーを軸方向に付勢するばね部材が配設され,前記吸収ロッドの下端部と該ホルダーの上端部は相互に自在継手により連結され,該自在継手の外周部の該ケース内に,多数の傾動支持ピンを下方に向けて且つばね部材により付勢して突出させてなる傾動支持ピン装置が配設され,該傾動支持ピン装置の傾動支持ピンの先端が該傾動ケースの上部に設けた受圧板に当接することを特徴とする加工工具【請求項5】前記自在継手は,前記吸収ロッドの下部と連結された第1自在継手部と,前記ホルダーの上部と連結される第2自在継手部とを中間軸の上部と下部に設けて構成され,該第1自在継手部は該吸収ロッドに対し円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能に連結され,該第2自在継手部は該ホルダーに対し円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能に連結されていることを特徴とする請求項1記載の加工工具(イ) 引用発明1は,工作機械の主軸に着脱可能に取り付けられた刃具を回転させて,ワークの面取等を行う加工工具に関する発明である(【0001】)。 同発明において,自在継手ロッドは,中間軸の上部に第1自在継手部を形成するとともに,中間軸の下部に第2自在継手部を設けて形成され,ピンケースの中央空 間を貫通し,その上部の第1自在継手部を吸収ロッドの継手凹部内に嵌入し,その下部の第2自在継手部をホルダー本体の上部の継手凹部内に嵌入して取り付けられている。第1自在継手部は自在継手ロッドの上端半球部の外周に,球状先端を有したピンを90°の間隔でその球状先端を突き出して嵌着して形成され,第2自在継手部も,自在継手ロッドの下端半球部の外周に,球状先端を有したピンを90°の間隔でその球 上端半球部の外周に,球状先端を有したピンを90°の間隔でその球状先端を突き出して嵌着して形成され,第2自在継手部も,自在継手ロッドの下端半球部の外周に,球状先端を有したピンを90°の間隔でその球状先端を突き出すように嵌着して形成されている。自在継手ロッドは,第1,第2自在継手部の上端と下端に突き出して嵌着される球状先端の位置を相互に45°ずらすことにより,よりスムーズな傾動が可能となる(【0031】)。 なお,自在継手ロッドに代えて,蛇腹形のベローズの上部と下部に設けた連結軸を介して吸収ロッドとホルダー本体間に連結されるベローズ型自在継手を使用することもできる。すなわち,吸収ロッドの下部中央に設けられた継手凹部内に取付部材が固定され,その取付部材とベローズ型自在継手の上部とが連結軸により連結される。また,ホルダー本体の上部中央に設けた継手凹部内に取付部材が取り付けられ,その取付部材とベローズ型自在継手の下部とが連結軸により連結される。 このようなベローズ型自在継手を用いて吸収ロッドとホルダーを連結した場合でも,加工時には,刃具がワークから受ける側方からの押圧力に応じて,ホルダーと刃具を良好に傾動させることができる(【0043】~【0045】)。 引用発明1の加工工具は,ホルダーや自在継手の生じる軸方向の衝撃力は吸収ロッドに設けた吸収ばねにより吸収し,刃具がワークから受ける押上力などは摺動ホルダーに設けたばね部材により吸収し,さらに,刃具がワークから傾動力を受けてホルダーが傾動した際,その反力は傾斜支持ピン装置の円周上に配置した多数の傾動支持ピンが傾動ケースの上部の受圧板を押す力によって生じるようにし,各々の動きを別個のばね部材により吸収し,あるいは荷重をかける構造としているから,刃具などの傾動時あるいは直線状態への復帰時に暴れを 支持ピンが傾動ケースの上部の受圧板を押す力によって生じるようにし,各々の動きを別個のばね部材により吸収し,あるいは荷重をかける構造としているから,刃具などの傾動時あるいは直線状態への復帰時に暴れを生じさせず,高速回転する刃具のワーク加工面への押圧をムーズに安定して行って,バリ取りなどの加工を良好に行うことができる(【0058】)。 イ引用発明1の技術内容以上の引用例1の記載によると,引用発明1は,加工工具の各部の動きを別個のばね部材により吸収し,あるいは荷重をかける構造により,回転する刃具の傾動動作を常にスムーズに行って,ワークの各種加工面の加工を良好に行うことができることをその技術内容とするものである。 (3) 引用発明1の認定の誤りについてア引用例1には,自在継手ロッドに代えてベローズ型自在継手を用いることができる旨の記載がある。 そして,引用発明1においては,自在継手ロッドそのものは自在継手の機能を持たず,回転力を伝達するにすぎないから,吸収ロッドとホルダー本体間を連結する自在継手は,第1 自在継手,自在継手ロッド,第2自在継手がその順に連結された一体のもの全体を意味するものであり,それによって,吸収ロッドの回転を円滑にホルダー本体に伝達しているものと解される。 そうすると,引用例1において,自在継手ロッドに代えてベローズ型自在継手を用いることができるという記載は,第1自在継手,自在継手ロッド,第2自在継手からなる自在継手について,吸収ロッドとホルダー本体間を連結するために,それぞれが自在継手の機能を持たない連結のための2つの連結軸を両端に備えたベローズからなるベローズ型自在継手に代えることができるという意味であると解するのが自然である。 したがって,引用発明1において,ベローズ型自在継手の一体性を無 結のための2つの連結軸を両端に備えたベローズからなるベローズ型自在継手に代えることができるという意味であると解するのが自然である。 したがって,引用発明1において,ベローズ型自在継手の一体性を無視して,2つの連結軸のみを別の部品に置き換えることは想定されていないし,また,その必要もないものと解される。 イ原告は,引用例1において,ベローズ型自在継手のベローズの上部と下部に設けた連結軸構成が本件構成を示唆するものであり,ベローズ型自在継手が吸収ロッドに対して連結軸を中心に傾動可能なものであることから,連結部のベローズ型自在継手の軸の全周方向である360°に傾動できるようにするために,ベローズ 型自在継手の上端に設けられた連結軸に換えて球体を採用すればよいことは一般的な物理現象であるなどと主張する。 しかしながら,2つの連結軸の構成は,ベローズ型自在継手と一体となって,「吸収ロッドの下端部とホルダーの上端部を相互に連結する」「自在継手」として機能するのであるから,それ以上に2つの連結軸にそれぞれ単独で自在継手機能を持たせる必要もなく,ましてやそれらを金属球等の他の構成に置き換える必然性は存しない。原告の主張は採用できない。 ウ以上からすると,相違点に係る構成が引用例1に示唆されているということはできないとした本件審決の認定に誤りはない。 (4) 引用発明1に対する引用発明2ないし6等の適用に係る判断の誤りについてア引用発明1に対する引用発明2の適用に係る判断の誤りについて(ア) 引用発明2の技術内容引用例2(甲2)の記載からすると,引用発明2のスクロール式流体機械のスラスト荷重支持手段(スラスト荷重支持機構)は,球体が旋回半径εだけずらして配置されることにより,柱体の衝合面と荷重受承部材の各受承面との接触点 の記載からすると,引用発明2のスクロール式流体機械のスラスト荷重支持手段(スラスト荷重支持機構)は,球体が旋回半径εだけずらして配置されることにより,柱体の衝合面と荷重受承部材の各受承面との接触点が線O3-O3上となる。また,同支持手段は,各荷重受承部材に対して柱体を揺動させることにより,旋回スクロールの旋回運動を可能とするとともに,圧縮室内の空気圧によるスラスト荷重を各荷重受承部材,柱体によって受承することができるものであり,球体は,各凹陥部及び柱体側凹陥部と協動して,各荷重受承部材と柱体との位置ずれを防止し,各荷重受承部材,柱体の偏摩耗等を防止するものであるから,球体が各凹陥部及び柱体側凹陥部との関係において移動することは想定されていないものということができる。また,スラスト荷重は,各荷重受承部材及び柱体によって受承されるものであると解される。 (イ) 引用発明1に対する引用発明2の適用について前記(ア)のとおり,引用発明2における球体は,各凹陥部及び柱体側凹陥部と協 動して,各荷重受承部材と柱体との位置ずれを防止し,各荷重受承部材,柱体の偏摩耗等を防止するものであって,球体が各凹陥部及び柱体側凹陥部との関係において移動することは想定されていない。 したがって,本件発明における金属球の機序,すなわち,「自在継手ロッドが吸収ロッド及びホルダーに対し直線状態のとき,両側の金属球が両側の受入れ凹部に係合した状態を保持し,自在継手ロッドが吸収ロッド及びホルダーに対し傾動したとき,少なくともいずれか一方の金属球が受入れ凹部の略中央から外側寄りに移動し,傾動荷重を外されて該ホルダーが傾動状態から直線姿勢に戻る際,金属球が外側寄りから受入れ凹部の略中央に移動する」とは,その機序及び目的のいずれもが全く異なるものである。 また, 側寄りに移動し,傾動荷重を外されて該ホルダーが傾動状態から直線姿勢に戻る際,金属球が外側寄りから受入れ凹部の略中央に移動する」とは,その機序及び目的のいずれもが全く異なるものである。 また,引用発明1の2つの連結軸の構成は,ベローズ型自在継手と一体となって,「吸収ロッドの下端部とホルダーの上端部を相互に連結する」「自在継手」として機能する以上,金属球等の他の構成に置き換える必然性が存しないことは,先に述べたとおりである。したがって,当該連結部を他の構成に置き換えようとする動機付けは存しない。しかも,引用発明2の球体は,各凹陥部及び柱体側凹陥部との関係において移動することは想定されていない以上,同発明のスラスト荷重支持手段の全体又は一部を引用発明1に適用する余地はない。 (ウ) 原告の主張について原告は,本件発明1及び引用発明1の自在継手ロッドの機能は同一であるところ,引用発明2の柱体構造は,1種のベアリングにすぎず,その構造及び機能は,本件発明1の自在継手部両端部の機構と全く同じであって,本件構成①に相当するものであるなどと主張する。 しかしながら,引用発明2の柱体形状を有するスラスト荷重支持手段において,スラスト荷重は各荷重受承部材及び柱体によって受承されるものであると解されるところ,単なるベアリング機能を有するのみであるならば,同発明における球体までも引用発明1に適用する必要性は存しない。 また,引用発明2の球体が,各凹陥部及び柱体側凹陥部との関係において移動することが想定されていない以上,同球体を引用発明1に適用したとしても,相違点に係る構成に想到し得るものでもない。 原告の主張は採用できない。 イ引用発明1に対する引用発明3の適用に係る判断の誤りについて(ア) 引用発明3の技術内容引用例3 したとしても,相違点に係る構成に想到し得るものでもない。 原告の主張は採用できない。 イ引用発明1に対する引用発明3の適用に係る判断の誤りについて(ア) 引用発明3の技術内容引用例3(甲3)の記載からすると,引用発明3の駆動軸と従動軸の2軸が同軸芯上で係合し,駆動軸の動作を従動軸に伝達する接続機構は,位置や寸法にばらつきのある加工部材へ駆動軸からの動作が正確に伝えられるとともに,従動軸に作用する外力が設定値以内の場合,常に駆動軸と従動軸がある一定の位置(原点)に自動的に復帰する接続機構を実現することを目的とするものであって,駆動軸と従動軸の2軸を係合する接続機構において,駆動軸と従動軸との対向面の一方に勾配を持つ凹部を設け,他方に凸曲面を有し,軸線方向に摺動自在の摺動子を設け,摺動子を凹部方向に押圧する弾性手段を設けるものである。そして,球形状の摺動子を採用することも可能であるとされている。 (イ) 引用発明1に対する引用発明3の適用について前記(ア)のとおり,引用発明3の接続機構は,駆動軸と従動軸の2軸のずれが球形状の摺動子の作用によって自動的に復帰する接続機構であり,その作用効果は,位置や寸法にばらつきのある加工部材へ駆動軸からの動作が正確に伝えられるとともに,従動軸に作用する外力が設定値以内の場合,常に駆動軸と従動軸がある一定の位置(原点)に自動的に復帰することにあるのであって,駆動軸と従動軸のずれは,平行移動による位置や寸法のばらつきによって生じるものである。 これに対し,引用発明1は,工作機械の主軸にシャンクを着脱自在に取り付け,当該シャンクに対してホルダー及び刃具を傾動させて加工を行う加工工具であって,ここにいう「傾動」とは,引用発明3が想定する加工部材の位置や寸法のばらつきによるずれとは明らかに異なるも 在に取り付け,当該シャンクに対してホルダー及び刃具を傾動させて加工を行う加工工具であって,ここにいう「傾動」とは,引用発明3が想定する加工部材の位置や寸法のばらつきによるずれとは明らかに異なるものであるから,引用発明1に,引用発明3を適用 する余地はない。 しかも,引用発明1には,連結部を他の構成に置き換えようとする動機付けを認めることはできないことは,先に指摘したとおりである。 (ウ) 原告の主張について原告は,引用例3は,外周方向から外力が加わると,従動軸が外力の作用する方向へ移動することを,単に「平行移動する」と表現したにすぎず,引用発明3と本件発明1において同様の傾動が生じることは明白であって,引用発明3の接続機構は,本件構成①に相当する,同接続機構は周知の汎用技術であり,同機構を駆動軸と該駆動軸に対して傾動する従動軸の接続に適用することに係る記載及び示唆が存することは明らかであるなどと主張する。 しかしながら,引用発明3における駆動軸と従動軸のずれは,平行移動による位置や寸法のばらつきによって生じるものである以上,引用発明1と同様の理由により,引用発明3において,本件発明1と同様の傾動が生じているということはできないことは明らかである。 また,引用発明1に引用発明3を適用する余地も,引用発明1の連結部を他の構成に置き換えようとする動機付けのいずれについても認めることができない以上,引用発明3の接続機構が周知技術であるか否かは前記結論を左右するものではない。 原告の主張は採用できない。 ウ引用発明1に対する引用発明4の適用に係る判断の誤りについて(ア) 引用発明4の技術内容引用例4(甲7)の記載によると,引用発明4は,製品組立てロボット等に取り付けて,結合すべきワーク相互間の位置ずれや寸法公 用発明4の適用に係る判断の誤りについて(ア) 引用発明4の技術内容引用例4(甲7)の記載によると,引用発明4は,製品組立てロボット等に取り付けて,結合すべきワーク相互間の位置ずれや寸法公差等を吸収する場合などに使用されるコンプライアンスユニットに関する発明である(【0001】)。 同発明は,X,Yの2方向に自由度を有するコンプライアンスユニットにおいて,X軸方向の自由度を付与するためのX方向連結部とY軸方向の自由度を付与するためのY方向連結部とをZ軸方向の同じ位置に配設することにより,当該コンプライ アンスユニットの小型化かつ軽量化を図るため,アウターガイドの内部の矩形の空間部内に矩形枠状のインナーガイドを嵌合するとともに,インナーガイドの内部の矩形の空間部内に第1ボディの矩形の結合部を嵌合し,インナーガイドとアウターガイドとの間にそれらをX軸方向へ相対的に変移自在となるように連結するX方向連結部を形成し,第1ボディとインナーガイドとの間にそれらをY軸方向へ相対的に変移自在となるように連結するY方向連結部を形成したことを特徴とするコンプライアンスユニットである(【0005】【0006】)。 (イ) 引用発明1に対する引用発明4の適用について引用発明1は,工作機械の主軸にシャンクを着脱自在に取り付け,当該シャンクに対し,当該ホルダー及び刃具を傾動させて加工を行う加工工具であって,同発明における「傾動」とは,引用発明4が想定するワーク相互間の位置ずれや寸法公差等によるずれとは明らかに異なるものであるから,引用発明1に,コンプライアンスユニットの小型化かつ軽量化を図る目的を有するにすぎない引用発明4を適用する余地はない。 しかも,引用発明1には,連結部を他の構成に置き換えようとする動機付けを認めることはできないこ ライアンスユニットの小型化かつ軽量化を図る目的を有するにすぎない引用発明4を適用する余地はない。 しかも,引用発明1には,連結部を他の構成に置き換えようとする動機付けを認めることはできないことは,先に指摘したとおりである。 エ引用発明1に対する引用発明5の適用に係る判断の誤りについて(ア) 引用発明5の技術内容引用例5(甲8)の記載によると,引用発明5は,ロボットアームの先端に接続されるハンドをハンド設置台に保持するためのハンド保持装置に関する発明である(【0001】)。 同発明は,宇宙空間では重力がほとんどないため,ツールフィクスチャからハンドを分離する際,ハンドをハンド設置台側で保持する必要があり,また,ハンドの保管時にハンドをハンド設置台に止め置く保持装置が必要となること,ハンドを分離すべくハンド設置台の所定位置へ位置決めしたり,新たにハンドをツールフィクスチャに装着すべく位置決めしたりする際に正確な位置決めができず,ハンドの交 換がスムーズにできないこと,ロボットを搭載した衛星の打ち上げ時の振動に備えてロボットアーム先端を固定しておく必要があることから,ハンドをハンド設置台側で保持することを主たる目的とする発明である(【0005】~【0008】)。 引用発明5は,このような目的を達成するため,ロボットアームの先端に接続されるハンドに接触する爪部を備えるとともに,ハンド設置台に固定された軸を中心に回転自在なフックと,フックの回転面に垂直な面を回転面として回転してカム面によりフックを回転させるカムとを有することを特徴とする,ハンドをハンド設置台に保持するためのハンド保持装置である(【0009】)。 引用発明5は,このような構成により,ハンドがハンド設置台に搭載されていない場合,蔓巻きバネにより,ハンド を特徴とする,ハンドをハンド設置台に保持するためのハンド保持装置である(【0009】)。 引用発明5は,このような構成により,ハンドがハンド設置台に搭載されていない場合,蔓巻きバネにより,ハンド設置台の回転位置が原点位置に復帰保持されており,また,復帰手段により,ハンド設置台が所定の平面原点位置に復帰保持されている。このように,原点位置への復帰を図ることにより,ベアリング及び平行リンク機構,いわゆるコンプライアンス機構に起因する,ハンドがハンド設置台に結合する際の位置ずれの堆積を防止できる(【0036】)。 (イ) 引用発明1に対する引用発明5の適用について引用発明1は,工作機械の主軸にシャンクを着脱自在に取り付け,当該シャンクに対し,当該ホルダー及び刃具を傾動させて加工を行う加工工具であって,宇宙空間における使用も想定されるロボットアームに係るハンド保持装置に関する引用発明5とは明らかに技術分野が異なるものであるし,引用発明1における「傾動」とは,引用発明5が想定するロボットアームのハンドがハンド設置台に結合する際の位置ずれとは明らかに異なるものであるから,引用発明1に,引用発明5を適用する余地はない。 しかも,引用発明1には,連結部を他の構成に置き換えようとする動機付けを認めることはできないことは,先に指摘したとおりである。 オ引用発明1に対する引用発明6の適用に係る判断の誤りについて(ア) 引用発明6の技術内容 引用例6(甲9)の記載によると,引用発明6は,建物など,設置物用の免震システムにおいて,設置物の重量を支えるとともに,地面や基礎から設置物への揺れの伝達を制限若しくは防止する支承具に関する発明である(【0001】)。 同発明は,転動体を用いることにより,地震による揺れの終了後,迅速に原点復 重量を支えるとともに,地面や基礎から設置物への揺れの伝達を制限若しくは防止する支承具に関する発明である(【0001】)。 同発明は,転動体を用いることにより,地震による揺れの終了後,迅速に原点復帰が可能な免震システム用の支承具を目的とするもので,各々が窪んだ軌道面を有し,組み合わさって両者間にこれら軌道面によるほぼ楕円断面の空間を画定する一対の軌道盤と,この空間に収容されて各軌道面に沿って回動する円形断面の転動体の構成を有するものである。この支承具は,各軌道盤の軌道面が軌道中心へ戻る転動体の復元力を確保する手段を備えたほぼ円弧状の断面に形成されることを特徴とし,支承具は,基礎の揺れが大きい場合,転動体がほぼ円弧状の軌道面に沿って動き,揺れに応じた大きさの復元力を生じ,転動体が軌道面の中央に近づくにつれて,あるいは基礎の揺れが小さい場合,復元力を確保する手段によってダンパなどの拘束力に負けない一定の復元力が生じるため,支承具は,様々な大きさの揺れに対し,その終了時に迅速に原点復帰することが可能となる(【0006】【0007】)。 (イ) 引用発明1に対する引用発明6の適用について引用発明1は,工作機械の主軸にシャンクを着脱自在に取り付け,当該シャンクに対し,当該ホルダー及び刃具を傾動させて加工を行う加工工具であって,免震システムに係る引用発明6とは,その機序が異なるのみならず,技術分野も明らかに異なるものであるから,引用発明1に,引用発明6を適用する余地はない。 しかも,引用発明1には,連結部を他の構成に置き換えようとする動機付けを認めることはできないことは,先に指摘したとおりである。 カ引用発明1ないし6等の適用に係る判断の誤りについて前記アないしオにおいて述べたとおり,本件発明は,引用発明1に引用発明2ないし6をそれぞ ことはできないことは,先に指摘したとおりである。 カ引用発明1ないし6等の適用に係る判断の誤りについて前記アないしオにおいて述べたとおり,本件発明は,引用発明1に引用発明2ないし6をそれぞれ組み合わせることによって,容易に発明をすることができるものということはできない。 また,引用発明1には,連結部を他の構成に置き換えようとする動機付けを認め ることはできないことは,先に指摘したとおりである。 したがって,本件発明1は,当業者が引用発明1ないし6等をどのように組み合わせたとしても,容易に発明をすることができるものということはできない。 キ小括以上からすると,本件発明1は,当業者が引用発明1に引用発明2ないし6をそれぞれ組み合わせることによって,あるいは引用発明1ないし6等によって,容易に発明をすることができるものではないから,本件審決の判断は相当である。 2 取消事由2(冒認出願に係る判断の誤り)について(1) 原告は,引用発明1には本件構成に関する記載はないが,本件構成は何らの技術的意味を有するものではなく,本件発明と引用発明1は実質的に同一であるというべきである,甲10判決の認定からすると,被告は,職務発明として原告が承継し,原告において秘密として管理されていた引用発明1について冒認出願した「背信的悪意者」であり,本件出願は,被告による一連の背信的,確信的な悪意によるものであるから,本件特許についても,被告による冒認出願がされたものと評価すべきであるなどと主張する。 (2) しかしながら,取消事由1において述べたとおり,本件発明は,引用発明1に,引用発明2ないし6をそれぞれ組み合わせることによって,あるいは引用発明1ないし6等によって,容易に発明をすることができるものではないから,本件発明は,引用発 べたとおり,本件発明は,引用発明1に,引用発明2ないし6をそれぞれ組み合わせることによって,あるいは引用発明1ないし6等によって,容易に発明をすることができるものではないから,本件発明は,引用発明1と実質的に同一であるということはできない。 したがって,原告の主張は,その前提自体が誤りである。 また,本件出願当時,公知であった引用発明1の構成に,新たな構成(本件構成)を付加したことにより進歩性が認められ,本件特許が登録に至ったものである。 原告も,本件構成についてまで,職務発明として原告が承継したものであると主張するものではなく,引用発明1が冒認出願である以上,その改良発明である本件発明に係る特許についても冒認出願であると主張するにすぎない。 そうすると,被告が引用発明1を冒認出願したことをもって,従来技術である引 用発明1に改良を加えた本件発明に係る特許出願について,なお被告による冒認出願と評価することまではできない。 原告の主張は採用できない。 (3) 以上からすると,本件特許は特許法123条1項6号により無効とされるべきものとはいえないとした本件審決の判断に誤りはない。 3 結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官滝澤孝臣 裁判官井上泰人 裁判官荒井章光 裁判官 荒井章光

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