主文 被告人を懲役1年6月に処する。 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,配管材料の販売等を目的とする株式会社A(以下「A」ともいう)の代表取締役として,その業務全般を統括していたもの,Bは,酸素,窒素の製造等を目的とするC株式会社(以下「C」ともいう)のD営業部部長として,D営業部中部・西日本販売課が取り扱うロケット用部品洗浄及びメンテナンス関連業務等に関する下請業者への業務発注及び代金支払の決定等を統括し,業務発注等に際しては,Cのために誠実にその職務を遂行し,Cが無用な支出により損害を被ることがないようにすべき任務を有していたものであるが 1 被告人は,Bが,被告人から現金を供与された見返りとして,その現金額に被告人の報酬分等を加えた額を代金額とする作業等をAがD営業部中部・西日本販売課から受注した旨の架空取引を作出し,CからAにその作業代金を支払わせようと考え,Bと共謀の上,自己らの利益を図る目的で,Bの前記任務に背き,被告人が,平成25年11月下旬頃,AがD営業部中部・西日本販売課から受注しておらず実施もしていない継手・シール類等の各作業を実施した旨の内容虚偽のA作成名義の請求書3通及び納品書3通を,名古屋市a区bc丁目d番地所在のCe事業所(以下「Ce事業所」という)内のD営業部中部・西日本販売課に提出して,同作業代金として合計152万2500円を請求した上,Bが,同月30日頃から翌12月1日頃までの間に,同所において,前記各請求書等に同年11月30日付け検収印を押印して,D営業部中部・西日本販売課がAに発注した前記各請求書記載の各作業が実施されており,Aによる各請求が正 翌12月1日頃までの間に,同所において,前記各請求書等に同年11月30日付け検収印を押印して,D営業部中部・西日本販売課がAに発注した前記各請求書記載の各作業が実施されており,Aによる各請求が正当な請求であるとしてその代金支払を決定し,よって,同年12月30日,情を知らないD営業部中部・西日本販売 課E(以下「E」ともいう)らを介して,C,F信託銀行株式会社(以下「F信託銀行」という)及びAとの間で締結された売掛債権信託契約に基づく一括支払信託の方法により,F信託銀行から株式会社G銀行f支店に開設されたA名義の普通預金口座に,CがAに支払うべき正規の作業代金額及び前記152万2500円の合計金額から手数料を差し引いた金額を振込入金させた上,平成26年4月30日,株式会社F銀行g営業部に開設されたC名義の当座預金口座から前記F銀行h証券営業部に開設されたF信託銀行名義の当座預金口座に正規の作業代金とともに152万2500円を振込入金させ,もってCに同額の財産上の損害を与え(平成29年12月28日付け公訴事実第1の2) 2 被告人は,前記1と同様に考え,Bと共謀の上,自己らの利益を図る目的で,Bの前記任務に背き,被告人が,平成25年12月下旬頃,AがD営業部中部・西日本販売課から受注しておらず実施もしていない継手・シール類等の各作業を実施した旨の内容虚偽のA作成名義の請求書3通及び納品書3通を,Ce事業所内のD営業部中部・西日本販売課に提出して,同作業代金として合計152万2500円を請求した上,Bが,同月28日頃から平成26年1月5日頃までの間に,同所において,前記各請求書等に平成25年12月31日付け検収印を押印して,D営業部中部・西日本販売課がAに発注した前記各請求書記載の各作業が実施されており,Aによる各請求が正当な請求で での間に,同所において,前記各請求書等に平成25年12月31日付け検収印を押印して,D営業部中部・西日本販売課がAに発注した前記各請求書記載の各作業が実施されており,Aによる各請求が正当な請求であるとしてその代金支払を決定し,よって,平成26年1月31日,情を知らないEらを介して,前記売掛債権信託契約に基づく一括支払信託の方法により,F信託銀行から前記A名義の普通預金口座に,CがAに支払うべき正規の作業代金額及び前記152万2500円の合計金額から手数料を差し引いた金額を振込入金させた上,同年6月2日,前記C名義の当座預金口座から前記F信託銀行名義の当座預金口座に正規の作業代金とともに152万2500円を振込入金させ,もってCに同額の財産上の損害を与え(平成29年12月28日付け公訴事実第2の2) 3 被告人は,前記1と同様に考え,Bと共謀の上,自己らの利益を図る目的で,Bの前記任務に背き,被告人が,平成26年1月下旬頃,AがD営業部中部・西日本 販売課から受注しておらず実施もしていない配管材料類の作業を実施した旨の内容虚偽のA作成名義の請求書1通及び納品書1通を,Ce事業所内のD営業部中部・西日本販売課に提出して,同作業代金として21万円を請求した上,Bが,同年2月1日頃,同所において,前記請求書等に同年1月31日付け検収印を押印して,D営業部中部・西日本販売課がAに発注した前記請求書記載の作業が実施されており,Aによる請求が正当な請求であるとしてその代金支払を決定し,よって,同年2月28日,情を知らないEらを介して,前記売掛債権信託契約に基づく一括支払信託の方法により,F信託銀行から前記A名義の普通預金口座に,CがAに支払うべき正規の作業代金額及び前記21万円の合計金額から手数料を差し引いた金額を振込入金させた上,同年6月 契約に基づく一括支払信託の方法により,F信託銀行から前記A名義の普通預金口座に,CがAに支払うべき正規の作業代金額及び前記21万円の合計金額から手数料を差し引いた金額を振込入金させた上,同年6月30日,前記C名義の当座預金口座から前記F信託銀行名義の当座預金口座に正規の作業代金とともに21万円を振込入金させ,もってCに同額の財産上の損害を与え(平成29年12月28日付け公訴事実第3の2) 4 被告人は,前記1と同様に考え,Bと共謀の上,自己らの利益を図る目的で,Bの前記任務に背き,被告人が,平成26年2月下旬頃,AがD営業部中部・西日本販売課から受注しておらず実施もしていないブラケット製作等の各作業を実施した旨の内容虚偽のA作成名義の請求書5通及び納品書5通を,Ce事業所内のD営業部中部・西日本販売課に提出して,同作業代金として合計126万円を請求した上,Bが,同年3月1日頃,同所において,前記各請求書等に同年2月28日付け検収印を押印して,D営業部中部・西日本販売課がAに発注した前記各請求書記載の各作業が実施されており,Aによる各請求が正当な請求であるとしてその代金支払を決定し,よって,同年3月31日,情を知らないEらを介して,前記売掛債権信託契約に基づく一括支払信託の方法により,F信託銀行から前記A名義の普通預金口座に,CがAに支払うべき正規の作業代金額及び前記126万円の合計金額から手数料を差し引いた金額を振込入金させた上,同年7月31日,前記C名義の当座預金口座から前記F信託銀行名義の当座預金口座に正規の作業代金とともに126万円を振込入金させ,もってCに同額の財産上の損害を与えた(平成2 9年10月18日付け公訴事実2)。 (事実認定の補足説明)第1 争点関係証拠によれば,上記罪となるべき事実記載のBと被告 を振込入金させ,もってCに同額の財産上の損害を与えた(平成2 9年10月18日付け公訴事実2)。 (事実認定の補足説明)第1 争点関係証拠によれば,上記罪となるべき事実記載のBと被告人の地位及び権限,両名の外形的行為及びその認識に加え,Bに自己の利益を図る目的があったことを容易に認めることができる。 弁護人は,被告人にはBの任務違背の認識(背任の故意),自己らの利益を図る目的及びBとの共謀がなかった旨主張し,被告人もこれに沿う供述をする。当裁判所は,これらがいずれも認められる旨判断したので,以下,その理由を説明する。 第2 当裁判所の判断 1 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 Bは,CD営業部副部長であった平成21年頃,Aの代表取締役であった被告人に対して,接待費の支援という名目で現金を供与するように依頼するとともに,その見返りとして,CがAに対して,被告人がBに供与した現金の倍額を代金額とする発注を行ったことにして,CがAにその代金を支払う旨持ち掛け,被告人もこれを了承した。 被告人は,その後,Bからの求めに応じた現金を用意できるときは,同人にその現金を供与する一方,その見返りとして,AからCに対し,上記現金の倍額を代金額とする架空請求を行い,Cからその支払を受けることを繰り返した。被告人がBの求めに応じて同人に供与していた現金は,初期の頃は月額数十万円であったが,平成23年以降,多いときには月額100万円以上になることもあった。なお,被告人は,平成24年頃,D営業部長であったBに対して,AがCから支払を受ける金額を,被告人がBに供与した現金の2.5倍に増額するように求め,Bもこれを了承した。 Bは,平成25年7月頃,被告人に対して,飲食店に勤務していたBの知人であるHがAに在職している旨 を受ける金額を,被告人がBに供与した現金の2.5倍に増額するように求め,Bもこれを了承した。 Bは,平成25年7月頃,被告人に対して,飲食店に勤務していたBの知人であるHがAに在職している旨の虚偽の在職証明を作成するとともに,同人のア ルバイト代名目で月額8万円をBに供与するように依頼し,その見返りとして,前同様に,その2.5倍である月額20万円を代金額とするCからAへの架空発注及びその代金額の支払を持ち掛けて被告人はこれも了承した。 被告人は,平成26年2月まで,Bに対して,Hのアルバイト代名目の8万円に加え,Bからの求めに応じた金額の現金を供与する一方,その見返りとして,CからAに対して,上記現金の2.5倍の額を代金額とする架空発注を受けて,Cからその支払を受けることを繰り返した。 被告人は,上記のAのCに対する架空請求により同社から支払を受けた金銭を,Aの運転資金として用いていた。 2 争点に対する判断⑴ 背任の故意(Bの任務違背に対する被告人の認識)上記1のとおり,被告人は,平成21年から平成26年2月までにかけて,Bに接待費の支援等の名目で供与した現金の2倍又は2.5倍の金額を代金額として,Bを通じて,Cに対する架空請求を行い,Cからその代金を受領していた。 このような架空請求により,被告人がBに供与した金額の倍額以上の金銭の支払をCがAに対して行えば,Cに損害が発生することになり,これらの架空請求等に経済的合理性がないことは明らかである。しかも,被告人は,Bからの求めに応じた現金を用意できないときを除き,長期間にわたって,Bの指示に基づいて自ら架空の請求書等を作成して多額の架空請求を繰り返して支払を受けていたのであるから,Cの損害が拡大していることに気づいていたはずである。そうすると,Aの代表取締役 間にわたって,Bの指示に基づいて自ら架空の請求書等を作成して多額の架空請求を繰り返して支払を受けていたのであるから,Cの損害が拡大していることに気づいていたはずである。そうすると,Aの代表取締役として自らも会社を経営する被告人は,Cがこれらの請求が架空請求であることを認識せずにその代金を支払っている可能性があることに思い至ったはずである。 加えて,被告人は,Bの依頼に応じて,Hについて虚偽の在職証明を作成するとともに,相当期間にわたって,同人のアルバイト代名目で月額8万円をBに供与する一方,その見返りとして,月額20万円をCに対して架空請求し,その支 払も受けていた。被告人は,Cについて「年商何千億の会社」と述べているが,そのような会社が飲食店従業員の女性について,虚偽の在職証明を得る便宜を図ったり,勤務実態のないアルバイト代を支払うために,それ以上の金額を取引先に支払ったりするとは考え難い。したがって,被告人は,Hのアルバイト代名目でBに供与した現金に関する架空請求等についても,Cがこれを認識せずに支払っていることに思い至ったはずである。 そうすると,被告人は,これらの架空請求を繰り返してCから代金の支払を受けるうちに,これらの架空発注を持ち掛けるBの行為がCに無用の損害を与え,その任務に違背する行為であることを認識していたものと強く推認される。 自己らの利益を図る目的上記のとおり,被告人は,Bに現金を供与するとともに,その見返りとして,Bから指示を受けて,AからCに対して架空請求を行っており,Cがこれを架空請求であると認識せずに支払っていることに思い至っていたと認められる。 そうすると,被告人は,BがCから了承を得られないような理由で被告人から現金を得るため,すなわちBの利益を図るために,AからCに架空請求させ と認識せずに支払っていることに思い至っていたと認められる。 そうすると,被告人は,BがCから了承を得られないような理由で被告人から現金を得るため,すなわちBの利益を図るために,AからCに架空請求させている可能性があることを認識していたと認められる。 また,被告人は,Bから誘われて本件に関与しているが,それは,AとBひいてはCとの関係を維持するためであり,CからAに支払われた現金は,同社の運転資金として用いられてもいて,当時のAの代表取締役は被告人であったのであるから,被告人に自らの利益を図る目的があったことも明らかである。 これらによれば,被告人には,B及び自らの利益を図る目的があったと認められる。 ⑶ Bとの共謀上記のとおり被告人は,Bからの求めに応じて現金の供与や架空請求等を行うなどしていたのであるから,被告人は,Bとの間で,本件背任について共謀を遂げていたと認められる。 被告人の主張ア被告人は,①Bが被告人に対して,当初現金の供与を依頼した際,その現金を接待費として用いる旨説明をしたことや,②現金の供与額や架空請求等に関するBの指示がCのメールアドレスからなされていたこと等を指摘して,被告人は,Cが架空請求等を黙認していると考えており,Bの任務違背やB自身の利益を図る目的について認識していなかったと主張し,また,③Cから振り込まれた金銭には法人税等が課されており,Aは架空請求によって利益を得ていなかったので,被告人には自らの利益を図る目的はなかったと主張する。 イ ①については,Cにおいて,Bが費消する接待費をねん出するためにAからBが費消する以上の金額の架空請求を受けてその支払を行うことに経済的合理性がないことは明らかであり,Bが被告人に対して,当初架空請求を提案した際,供与された現金を接待費と 費をねん出するためにAからBが費消する以上の金額の架空請求を受けてその支払を行うことに経済的合理性がないことは明らかであり,Bが被告人に対して,当初架空請求を提案した際,供与された現金を接待費として用いる旨説明したからといって,このような架空請求等を続けていた本件当時もCが架空請求を黙認していると信じていたという被告人の供述は信用できない。 ②については,Bから被告人に対して送られたメールは,Cの従業員においてもその文面上架空請求に関するものと判別できないような内容であり,そのようなメールがCのメールアドレスから送信されていたとしても,CがBの架空請求等を黙認しているとはいえず,Bの任務違背やBの利益を図る目的について被告人が認識していたとの推認が妨げられるものではない。 ③については,平成22年3月以降,Aが債務超過で法人税の支払を行っていなかったことは被告人も認めている。また,被告人は振り込まれた金銭を全てAの運転資金として用いているのであるから,被告人の主張を採用することはできない。 3 以上の次第で,上記のとおり罪となるべき事実を認定した。 (法令の適用) 被告人の各行為は包括して刑法65条1項,60条,247条に該当するので,所定刑中懲役刑を選択し,所定刑期の範囲内で被告人を懲役1年6月に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予し,訴訟費用については,刑訴法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。 (量刑の理由)被告人は,被害会社に対して架空請求を行い,共犯者がその支払を決裁する方法で同社にその支払をさせることにより同社に合計450万円を上回る損害を与えた。 被告人は,被害会社との取引関係上,同社の重職にあった共犯者の求めを断りに て架空請求を行い,共犯者がその支払を決裁する方法で同社にその支払をさせることにより同社に合計450万円を上回る損害を与えた。 被告人は,被害会社との取引関係上,同社の重職にあった共犯者の求めを断りにくい立場にあったとはいえ,共犯者ひいては被害会社との関係を維持するなどのために,相当の期間にわたって犯行を継続しており,本件は被告人の関与なくして成立しなかった。本件には被害会社内部の管理体制が十分に機能していなかった面が影響しているものの,被告人の刑事責任は軽視できない。もっとも本件と同種事案の量刑傾向を踏まえながら,被告人に前科がないことなどの事情も併せ考えると,被告人に対しては,社会内における更生の機会を与えるのが相当であり,主文のとおり量刑した。 (求刑―懲役1年6月)平成30年10月9日名古屋地方裁判所刑事第3部 裁判長裁判官吉井隆平 裁判官細野高広 裁判官小宮思帆音
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