平成16(ワ)8900 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成18年12月25日 東京地方裁判所 棄却
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判決文本文42,086 文字)

平成18年12月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成16年(ワ)第8900号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成18年9月25日判決主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求 被告らは,原告Aに対し,連帯して金7208万1101円及びこれに対する平成16年5月12日(被告Bについては同月13日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告らは,原告Cに対し,連帯して金6713万1101円及びこれに対する平成16年5月12日(被告Bについては同月13日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告東京都の開設する病院に通院して診療を受けていた患者が死亡したことにつき,その妻子である原告らが,患者は細菌感染症(気管支肺炎及び腎膿瘍)に罹患しており,この感染症の増悪により直接的に,あるいは敗血症,敗血症性ショックを起こしてうっ血性心不全ないし肺動脈血栓塞栓症を発症し,死亡したものであるところ,担当医師において,早期に,細菌感染症の発症を疑い,適切な鑑別診断を実施するなどして同疾患を発見し,これに対する治療を開始すべきであったにもかかわらず,これを怠ったなどと主張して,被告東京都及び担当医師であるその余の被告らに対し,債務不履行(被告東京 都につき)又は不法行為(被告東京都については使用者責任)に基づく損害賠償請求として,患者の逸失利益,慰謝料及び原告ら固有の損害並びにこれらに対する訴状送達日の翌日からの民法所定の割合による遅延損害金の連帯支払を求めている事案である。 なお,以下では,診療契約上の義務(債務)ないし診療上の注意義務(不法行為法上の過失の前提となる注意義務)を併せて「義務」という。 民法所定の割合による遅延損害金の連帯支払を求めている事案である。 なお,以下では,診療契約上の義務(債務)ないし診療上の注意義務(不法行為法上の過失の前提となる注意義務)を併せて「義務」という。 前提事実(証拠原因により認定した事実については,括弧書きで当該証拠原因を掲記する。その余の事実は当事者間に争いがない)。 (1)当事者ア原告AはD(昭和39年○月○○日生,平成15年3月2日死亡)の。 妻,原告C(平成5年○○月○○日生)は同AとDとの間の子である。 。 イ被告東京都は東京都a市内において都立E病院との名称の病院以,「」(下「被告病院」という)を開設している。 。 被告Bは,平成15年2月及び3月当時,被告病院の内科に同科医長として勤務していた医師である。 被告Fは,平成15年2月及び3月当時,被告病院の泌尿器科に勤務していた医師である。 (2)Dの被告病院受診に至る経緯(乙A1,12,丙A1,原告A,被告B),(,,,Dは平成15年1月20日以下日付については特に断らない限り平成15年の日付である,同月5日ころから微熱,動悸,寒気,咳等の。)症状が持続しているとして,自宅近くのG内科クリニック(以下「G内科」。),,,というを受診し鎮咳薬や抗生物質等の投与を受けるなどしてその後経過観察を受けていたが,目立った改善が見られなかった。かえって,2月になると,暖かい食べ物を摂ると吐き気がする,飲食物に塩気が感じられるといった自覚症状や,膿が混ざったような色の尿が出る,右下腹部に突起物 を感じるなどの異常を訴えるようになった。そのため,地域の基幹病院である被告病院を受診して精査,治療を受けることにした。 (3)Dの被告病院における診療経過の概要(乙A1ないし4,5の1 突起物 を感じるなどの異常を訴えるようになった。そのため,地域の基幹病院である被告病院を受診して精査,治療を受けることにした。 (3)Dの被告病院における診療経過の概要(乙A1ないし4,5の1ないし7,8,11ないし13,丙A1,2,被告B,同F)アDは,2月22日,被告病院内科を受診し,その際,被告東京都との間で診療契約を締結した。 イDは,同日,被告Bの診察を受けるとともに,血液検査,尿検査,胸・腹部レントゲン検査を受けた。被告Bは,血液検査の結果のうち血沈及びCRPの値が異常値を示していたものの,白血球数は正常値であると判断されたこと,尿検査の結果にも特段の異常はなかったこと,胸部レントゲン検査にも異常を認めなかったことに加え,Dから,G内科で処方された抗生物質を飲んでも症状が軽快しなかったこと,抗生物質を飲むのを中止したが発熱は横ばいあるいはやや改善しているとの説明を受けたことなどから,Dに対し,同月26日に腹部超音波検査の,3月13日に腹部CT検査の予約をした上で,同月28日の再受診を指示し,投薬は行わないで経過観察とした。 ウDは,2月26日,被告病院において腹部超音波検査を受けたが,その際,左腎に腫瘤性病変の存在が指摘された(他の腹部臓器には目立った異常は認められなかった。 。)エ(ア)Dは,同月28日,被告病院内科を受診して被告Bの診察を受けたが,その際,同被告から,上記の超音波検査の結果を踏まえ,左腎の病変部位について泌尿器科で精査してもらうよう指示された。 (イ)そのため,Dは,同日,被告病院の泌尿器科を受診して,被告Fの診察を受け,再度,腹部超音波検査と尿検査を受けた。その際,被告Fは,同月26日の超音波検査の結果では左腎に腫瘍性病変が認められるが,腹部CT検査の結果を見ないことには腎がんか否 受診して,被告Fの診察を受け,再度,腹部超音波検査と尿検査を受けた。その際,被告Fは,同月26日の超音波検査の結果では左腎に腫瘍性病変が認められるが,腹部CT検査の結果を見ないことには腎がんか否かを鑑別診断す ることは困難であると判断し,Dに対し,3月13日に予約済みであった腹部CT検査の結果を見て再診することにしたい旨を説明し,上記CT検査の翌日である同月14日の再受診を指示し,投薬は行わないで経過観察とした。 (4)Dの死亡に至る経緯等(甲A1,乙A9,12)(),,,,3月2日日曜日Dは午前9時20分ころ起床し朝食を摂った後原告Cが勉強しているのを自宅居間のソファーに座って見ていたが,午前10時ころ容態が急変し,原告Cの知らせで外出先から原告Aが帰宅した際には,両手を萎縮させた状態で虚脱していた。 Dは,原告Aの通報を受けて駆け付けた救急隊により,東京都b市内の公立H病院(以下「H病院」という)に救急搬送されたが,既に心肺停止の。 状態にあり,蘇生処置がとられたものの回復せず,同日午前11時29分に死亡が確認された(死亡時38歳。 )(5)Dに対する血液検査・尿検査の結果ア2月22日,同月28日(いずれも被告病院)及び3月2日(H病院)に実施されたDの血液検査あるいは尿検査の結果は,別紙「血液検査・尿検査結果一覧表」記載のとおりである(乙A1,6。 )イ上記の血液検査項目のうち,BUN(血中尿素窒素,CRE(血中ク)レアチニン)は,腎機能障害,腎不全を来している場合に通常は中・高度に上昇するとされており,また,CRP値,血沈値は,炎症マーカーともいわれ,その異常は炎症反応の存在を示すものとされているが,気管支肺炎を含む局所性の細菌感染症に特異的なものではなく,悪性腫瘍,心筋梗,(,塞膠 り,また,CRP値,血沈値は,炎症マーカーともいわれ,その異常は炎症反応の存在を示すものとされているが,気管支肺炎を含む局所性の細菌感染症に特異的なものではなく,悪性腫瘍,心筋梗,(,塞膠原病等を原疾患としても上昇することがあるとされている丙A1弁論の全趣旨。 )(6)Dの剖検経過等アH病院は,3月2日,Dの死亡を確認し,医師法21条に基づき所轄の b警察署にDの死亡の事実を届け出た。同警察署から警察医の嘱託を受けていたI整形外科のJ医師は,同日,Dの遺体を検案したが,死体検案のみでは死因が判明しなかったことから,死因検索を目的としてK大学医学部法医学教室に行政解剖を依頼した甲A1調査嘱託に対する回答公。(,(立H病院分及びI整形外科分))イ同月3日,東京都c市所在のK大学医学部法医学教室において,同大学のL医師により,遺族の承諾を得た上でDの遺体に対する行政解剖が実施された。その剖検所見の概要は下記のとおりであり,その結果はL医師か。(,,,,,らJ医師に報告された甲A34の1ないし5B22乙A7 10,証人L,調査嘱託に対する回答(K大学医学部法医学教室分))記(ア)死因直接死因は「急性うっ血性心不全,その原因は「腎膿瘍,その原」」因は「気管支肺炎」で,後二者の発症から死亡までの期間は約2か月,直接死因の発症から死亡までは短時間である。 (イ)解剖学的並びに組織学的診断死因:気管支肺炎に基づく腎膿瘍による急性うっ血性心不全①気管支肺炎(a)気管から末梢気管支にかけて,内腔に黄褐色調の痰が充満(b)左右肺は表面・割面が混濁し,圧することで割面より黄褐色調の痰が流出する。 (c)組織学的所見:気管支内腔及び肺胞腔内に,球系細菌塊と好中球の出現②腎膿瘍 て,内腔に黄褐色調の痰が充満(b)左右肺は表面・割面が混濁し,圧することで割面より黄褐色調の痰が流出する。 (c)組織学的所見:気管支内腔及び肺胞腔内に,球系細菌塊と好中球の出現②腎膿瘍(a)腎臓重量:左357グラム,右183グラムで,左腎臓は著明に重い。 (b)左腎臓の外側被膜下に大量の灰白色膿が貯留,一部被膜を穿破する。 (c)左腎臓の割面上,皮質から腎盂にかけて灰白色膿大量が貯留し,腎実質細胞は泥状に破壊(d)組織学的所見:左腎臓皮質を中心に大量の好中球浸潤③急性うっ血性心不全左心室:50cc,右心室:320cc,剔出時130cc以上の暗赤色流動性血液を容れる。 ④その他(a)脂肪肝:肝臓重量2111gで脂肪沈着軽~中等度。脾臓重量304g。肝脾腫あり。 (b)肺動脈血栓塞栓症:左肺門部に4.0×2.0×1.5(㎝)の赤色血栓閉塞。肺梗塞なし。膝窩静脈内に血栓なし。 (ウ)肺①重さ:624グラム(左肺,607グラム(右肺))②割面所見(上葉・下葉ともに)血量+,水腫-,含気量+,炭症+,気管支に膿2+③組織染色標本の顕微鏡的検索の結果血栓-,気管支内腔,肺胞内腔に球菌3+,好中球2+,貪食,気管支肺炎(エ)左腎①表面:黄褐色,組織面粗,膿瘍2+,腫脹2+②割面所見:皮質:黄褐色,血量+,混濁2+髄質:灰褐色,血量+,混濁-境界:不明腎盂:灰白色,溢血- ③組織染色標本の顕微鏡的検索の結果皮質側好中球3+→膿瘍ウL医師は,原告Aの求めに応じて,5月16日,Dの死因について解説した私信を発出した。同私信の概要は,下記のとおりである(甲A2,。 乙A12)記Dの死因は,気管支肺炎に基づく腎膿瘍による急性うっ血性心不全である。Dは,比較的長期にわたり,細菌性 ついて解説した私信を発出した。同私信の概要は,下記のとおりである(甲A2,。 乙A12)記Dの死因は,気管支肺炎に基づく腎膿瘍による急性うっ血性心不全である。Dは,比較的長期にわたり,細菌性の気管支肺炎を患っており,その経過の中で細菌が血行性に肺から腎臓に移行し,左側の腎臓の腎盂腎炎を繰り返していたものと考えられる。その結果,左側の腎臓が大量の膿で破壊され,腎臓の機能不全が進行することに加え,気管支肺炎が増悪したことから,心臓に負担がかかり,うっ血性の心不全を惹起させたものと診断する。 エJ医師は,L医師の剖検所見の送付を受けた後,Dの死亡証明書を作成したが,同証明書上,Dの直接死因は「急性心不全及び肺血栓,その原」因として「腎膿瘍,その原因として「急性気管支肺炎」とされ,各疾患」の発症から死亡までの期間について「急性心不全及び肺血栓」につき推,定短時間「腎膿瘍」につき推定1か月半「急性気管支肺炎」につき推,,定2か月と記載されている(甲A1,調査嘱託に対する回答(公立H病院分及びI整形外科分。 ))(7)本件に関連する医学的知見ア不明熱(甲B1,乙B7の6)発熱の原因のつかめないものを不明熱(FeverUnknownOrigin 「FU。 O」ともいう)といい,近時の検討によれば,不明熱の原因疾患として。 は,感染症が32%,悪性腫瘍が24%,膠原病が16%,肉芽腫性疾患が5%,炎症性疾患が5%,その他が8%,診断不能が9%という報告が されている。 不明熱の原因疾患となり得る感染症としては,粟状結核を含めた結核,感染性心内膜炎が最も注意すべき疾患でありその他ウイルス性感染症E,(Bウイルス,サイトメガロウイルス,HIV)等も考慮すべきであるとされている。また,悪性腫瘍では,悪性リンパ腫が最も た結核,感染性心内膜炎が最も注意すべき疾患でありその他ウイルス性感染症E,(Bウイルス,サイトメガロウイルス,HIV)等も考慮すべきであるとされている。また,悪性腫瘍では,悪性リンパ腫が最も頻度が高いが,腎細胞がん,胃がん,乳ガンの転移などもある。結合組織疾患では成人スチル病,大動脈炎症候群,多発性動脈炎等の血管炎症候群が注意すべき疾患であり,その他に,クローン病,サルコイドーシスなどの肉芽腫性疾患,壊死性リンパ節炎,薬熱などがある。 イ敗血症・敗血症性ショック(甲B1,12,乙B3,7の7,9,弁論の全趣旨)(ア)敗血症とは,感染が惹起した全身性の過度の炎症反応であり,血管内皮障害を共通の基礎病態とする全身性炎症反応症候群(systemicinflammatoryresponsesyndrome。以下「SIRS」ともいう)に含。 められている。敗血症は,臓器機能障害,低灌流あるいは低血圧を合併して重症敗血症(低灌流と灌流異常は乳酸アシドーシス,乏尿ないし精神状態の急性変化を含むが,これだけに限定されない,敗血症性。)(,,,,,ショック血圧低下精神症状顔面蒼白四肢冷感末梢血管の虚脱著明な頻脈脈拍微弱乏尿乳酸アシドーシスといった一般的なショッ,,,ク症状(急性循環不全症状)のほか,これだけに限定されない灌流異常の存在を伴って適切な輸液に反応しない敗血症起因性低血圧。強心薬ないし昇圧薬を投与されている患者は灌流異常をみても低血圧を示さないことがある)を経て,多臓器機能障害症候群(MODS。急性疾患患。 者において無治療では恒常性を維持し得ないほどの臓器機能の変化が存在するもの)へと重篤化するところ,重症敗血症は敗血症性ショック。 の発端として予後の分岐点に位置づけられている。敗血症性シ 患患。 者において無治療では恒常性を維持し得ないほどの臓器機能の変化が存在するもの)へと重篤化するところ,重症敗血症は敗血症性ショック。 の発端として予後の分岐点に位置づけられている。敗血症性ショックに 陥れば,症例の半数から3分の2は急速に致死的経過をたどるとされている。 (イ)敗血症及びSIRS診断基準SIRSの一般的な診断基準は,下記のとおりと理解されている(以下,この基準を「SIRS診断基準」という。 。)記①高ないし低体温(>38℃ないし<36℃)②頻脈(>90/分)③頻呼吸(>20/分)や低炭酸ガス血症(PaCO2<32㎜Hg)④白血球の増多ないし減少(>12,000μlや<4,000μl)ないし核左方移動(桿状核好中球>10%)以上のうち2ないしそれ以上の項目に該当すること(ウ)細菌性ショック全身性の細菌感染症に起因するショック(当該細菌が産生するエンドトキシンによるエンドトキシンショックを含むこともある)を一般に。 細菌性ショックといい,このうち細菌感染症が敗血症である場合のショックを上記のとおり敗血症性ショックという。 細菌性ショックについては,SIRS診断基準とは別個に,下記の診断基準のほとんどがそろえば診断は容易であるとする見解もあるが,臨床上も細部では意見が分かれている。 記①発熱(≧38.5℃)②頻脈(≧90/分)③血圧低下(≦90㎜Hg)④白血球の増多(≧8000/立法ミリメートル)⑤乏尿(0.5ml/㎏/h) ⑥意識状態の変調⑦血中乳酸値の上昇(3mmol/l)ウ細菌性(気管支)肺炎(甲B2,乙B4,7の6,丙A1,2,弁論の全趣旨)細菌性肺炎とは,細菌感染によって引き起こされた肺実質の炎症性疾患であり,肺胞腔内に好中球,フィブリン,マクロファー )ウ細菌性(気管支)肺炎(甲B2,乙B4,7の6,丙A1,2,弁論の全趣旨)細菌性肺炎とは,細菌感染によって引き起こされた肺実質の炎症性疾患であり,肺胞腔内に好中球,フィブリン,マクロファージなどを含んだ炎症性滲出物を認める肺胞性肺炎であるこれに対し肺胞周囲の肺胞壁間(,(質)の病変を主体とするものが間質性肺炎とされている。 。)このうち,炎症の広がりにより1つの肺葉全体に炎症が広がった病態像を大葉性肺炎といい,経気道的に起炎菌が侵入し,細気管支領域から肺胞。 ,を含む小葉単位に病巣を作るものを気管支肺炎というインフルエンザ菌黄色ブドウ球菌その他多くの細菌感染による肺炎が気管支肺炎の病像をとるとされている。 細菌性肺炎は,悪寒,発熱,全身倦怠感,食欲不振,頭痛,発汗などの発熱に伴う症状,咳,喀痰,胸痛,呼吸困難などの呼吸器症状がみられ,重症例では意識混濁,筋肉痛,下痢,嘔吐,チアノーゼなどを来す。 検査所見としては,血液生化学所見として,CRP陽性,α2-グロブリン増加,赤沈値亢進,好中球増加と核左方移動,補体の増加が指摘される。 胸部レントゲン検査所見としては,肺胞性パターンをとり,比較的均一性に広がった浸潤影の中にairbronchogram(気管支含気像)が見られる(これに対し,間質性パターンは,間質に炎症を伴った間質性肺炎にみられ,スリガラス様陰影,線状・索状の浸潤影を呈する)が,近時の細菌。 性肺炎は,両者の混合型を呈し,大葉性肺炎よりも気管支肺炎の型をとるものが多くなっている。 臨床症状,血液生化学所見,胸部レントゲン検査所見から肺炎が疑われ る場合には,喀痰その他の材料からの起炎菌の分離,同定を実施し,抗菌薬の投与による化学療法が主体となり(ただし,臨床上,肺炎患者から起炎菌を同定できるのは50% トゲン検査所見から肺炎が疑われ る場合には,喀痰その他の材料からの起炎菌の分離,同定を実施し,抗菌薬の投与による化学療法が主体となり(ただし,臨床上,肺炎患者から起炎菌を同定できるのは50%以下であるとする報告もある,対症療法。)として安静,栄養補給,脱水の是正等が実施される。 日本呼吸器学会が作成した肺炎の重症度分類のガイドラインは別紙肺,「炎重症度判定基準」のとおりであり,概ね,軽症,中等症で脱水を伴わないものは外来治療を,中等症で脱水を伴うものと重症例では入院治療を行うものとされている。 エ腎膿瘍(甲B3,4,5,乙A13,丙A1,2)腎膿瘍とは,腎被膜を超えない腎実質内に限局して膿が貯留する感染性化膿性の炎症疾患であり,化膿性炎症が被膜,筋膜に進展すると腎周囲膿瘍と呼ばれる。早期診断及び治療の遅れから致命的となり得る重症感染症であるとされている。 原因菌は,血行性のものは黄色ブドウ球菌が主で腎皮質に膿瘍を形成する。上行性のものは大腸菌,腸球菌,黄色ブドウ球菌が主で腎髄質膿瘍を形成し,腎膿瘍の4分の3はこのタイプとされているが,腫瘍等の疾患を合併しているものが多い。 感染経路としては,口腔等の感染病巣からの血行性あるいはリンパ行性感染,尿路感染症による逆行性(上行性)感染があり,細胞性免疫機能が低下しているような状態で発症する場合があるとされている。 腎膿瘍の臨床症状としては,急性期には発熱,悪寒及び罹患側の強い腰背部痛がみられ,膀胱炎症状,体重減少あるいは倦怠感を訴えることもあり,腰部の皮膚の浮腫状変化,有痛性腫瘤,瘻孔を形成することもある。 上行性のものでは腎盂腎炎と区別することができず,血行性の膿瘍で腎盂腎杯(尿路)との交通がない部位に膿瘍ができたような場合は膿尿や細菌尿といった尿所見を呈さないこともある。 を形成することもある。 上行性のものでは腎盂腎炎と区別することができず,血行性の膿瘍で腎盂腎杯(尿路)との交通がない部位に膿瘍ができたような場合は膿尿や細菌尿といった尿所見を呈さないこともある。 検査所見としては,急性期には血液検査で白血球増加及び白血球分画の左方移動,CRP強陽性あるいは血沈亢進などの炎症所見を呈する。 臨床症状,超音波,CTで診断は容易であり,超音波検査では腎内に境界明瞭でエコーフリー若しくは低エコーの占拠性病変(SOL)として認められる。急性期には膿瘍の境界は区別し難いが,周囲の腎皮質に浮腫が見られ,次第にSOLとしてはっきりする。 腎膿瘍の鑑別診断としては,腫瘤性病変,特に腎がんとの区別が必要となる。 治療としては,起炎菌に応じて選択される抗菌薬の投与と外科的ドレナージが重要とされているが,腎膿瘍初期では抗生剤の投与と経過観察で対応でき,外科的治療は必ずしも必要でないとのエビデンスもある。 (,,,,,,オ肺動脈血栓塞栓症乙A13B1 6の2ないし87の45,丙A1,2,証人田中)肺動脈血栓塞栓症は,深部静脈に形成された血栓が遊離し,肺動脈幹部及び左右の主枝が急に血栓性栓子により閉塞し,急速に呼吸循環障害を来す疾患であり,突然死を来す場合が少なくないとされ,塞栓発症後死亡までの時間については,1時間以内に34%,24時間以内に39.2%,2,3日以内に26.8%が死亡するという報告もある。 急性肺動脈血栓塞栓症の病態の中心は,急速に出現する肺高血圧と低酸素血症である。心臓疾患のない正常右心室が発生できる肺動脈圧は平均40㎜Hgとされているところ,それ以上の負荷が加わると急速に右心不全が生じるが,肺動脈血栓塞栓症を来すと急速な右心室圧上昇とそれに続く急性右心不全,呼吸困難,チアノ 心室が発生できる肺動脈圧は平均40㎜Hgとされているところ,それ以上の負荷が加わると急速に右心不全が生じるが,肺動脈血栓塞栓症を来すと急速な右心室圧上昇とそれに続く急性右心不全,呼吸困難,チアノーゼ等を伴ううっ血性心不全,心拍出量の減少と脳ないし冠動脈血流の減少に由来する著明な左心不全等から心原性ショックに陥り心肺停止となり,肺動脈主幹部が血栓により完全閉塞を来せば瞬時に循環停止となることもある。 文献上は,急性肺塞栓症の20ないし30%に重症広汎型の肺動脈血栓塞栓症(MassivePulmonaryEmbolism(Massive PE)がみられ,うち)約半数は積極的治療にもかかわらず死亡するとされている。Massive PEは,全肺血管床の30%以上が血栓子によって急激に閉塞された場合に発生し,急性の肺高圧症,右心不全を経て,ショックを招来するとされている(全肺血管床の60%以上が閉塞すると,平均肺動脈圧,右心室の収縮期血圧も高度に上昇して生体が耐えうる右心負荷の限界となるとされている。さらに,Massive PEにおいては,肺循環・右心系に対する急激。)な圧負荷で心拍出量が低下し,二次的に左心機能障害をもたらし,肺静脈圧,肺毛細血管圧の上昇が起こり心原性肺水腫が発生するとともに,低酸素血症を引き起こして反射性頻脈を伴う心原性ショックを招来するとされており,殊に基礎心肺疾患を有する場合では,より軽度の閉塞でもショックを来し突然死に至ることがあるとされている。 血栓塞栓の要因は,一般的に血流の緩徐,血液凝固の亢進,血管壁障害,,とされているところ肺血栓塞栓症の原因となる血栓の発生母地としては右心系の血栓(静脈血栓)が重視されており,その部位については,上大静脈領域6%,心腔内31%,下大静脈領域63%(このうち ,,とされているところ肺血栓塞栓症の原因となる血栓の発生母地としては右心系の血栓(静脈血栓)が重視されており,その部位については,上大静脈領域6%,心腔内31%,下大静脈領域63%(このうち,下大静脈14%,総腸骨静脈14%,骨盤静脈叢8%,大腿静脈13%)とする報,,,告や下大静脈領域由来の血栓について大腿静脈13%膝窩静脈34%後脛骨・腓骨静脈近位部32%,ヒラメ筋静脈8%,後脛骨・腓骨静脈遠位部13%という報告もある。 診療経過に関する当事者の主張被告病院受診中のDの診療経過に係る被告らの主張の要旨は別紙「診療経過一覧表」中の「診療経過(入通院状況・主訴・所見・診断」欄及び「検査・)処置」欄記載のとおりであり,これに対する原告らの反論は同一覧表「原告の反論」欄記載のとおりである。 原告らの主張(1)Dの死亡原因についてアDは,2月22日の被告病院初診時までに,発熱の継続,動悸・寒気,咳,食欲不振・体重減少,頻脈,血沈亢進,CRP強陽性,白血球増多,好中球増多,汚尿といった所見があった。また,同月26日の超音波検査では,左腎に著明な腫瘤性病変が認められたところ,この病変は腎膿瘍の可能性が高いものであった。さらに,同月28日の再診時においても,発熱の継続,CRP強陽性といった炎症所見が認められていたほか,IgG,フィブリノーゲン,α2-グロブリン高値といった細菌感染症を示唆する検査結果が現れていた。そして,前提事実(6)イのとおり,Dの剖検時には,気管支肺炎及び腎膿瘍が存在していたことが明らかになっている。 このような臨床所見,検査結果等に照らすと,Dは,被告病院受診時には,既に感染症(気管支肺炎,腎膿瘍)を発症しており,更に敗血症,敗血症性ショックを来していたことが明らかである。 イ死亡に至る 。 このような臨床所見,検査結果等に照らすと,Dは,被告病院受診時には,既に感染症(気管支肺炎,腎膿瘍)を発症しており,更に敗血症,敗血症性ショックを来していたことが明らかである。 イ死亡に至る機序についてDは,被告病院受診時において感染症(気管支肺炎,腎膿瘍)に罹患していたところ,同疾患を前提として下記のいずれかの機序により死亡するに至ったものである(ウ(エ)の可能性は(ア(イ)に比べてか(),,),なり低い。 。)(ア)感染症(気管支肺炎及び腎膿瘍)を発症したことにより心臓に過度の負担がかかり,うっ血性心不全を発症して死亡した。 (イ)上記の局所性の感染症から全身性の敗血症を発症し,更に灌流異常を伴う敗血症性ショックに陥り,これに起因するうっ血性心不全により死亡した。 (ウ)直接死因が剖検時に認められた左肺門部の新鮮血栓による肺動脈血栓塞栓症であったとしても,塞栓の原因となった血栓は感染症に起因 して生じたものといえるから,感染症を発症したことにより肺動脈血栓塞栓症を発症して死亡したといえる。 (エ)直接死因が肺動脈血栓塞栓症であり,かつ,血栓の発生に感染症が直接的に寄与していなかったとしても,片方の肺に肺動脈血栓塞栓症を発症しただけで致死性の肺循環障害が生じたとは考え難いことからすれば,既に生じていた基礎心肺疾患(気管支肺炎)に左肺の肺動脈血栓塞栓症が合併したことにより心不全を来たして死亡したものといえる。 (2)被告B及び同Fの義務違反ア感染症の発見,治療の遅滞Dについては,2月22日,同月26日及び同月28日の被告病院受診時において,上記(1)アの所見があって,細菌感染症(とりわけ,気管支肺炎あるいは腎膿瘍)に罹患していることを疑い得る徴候は揃っていた(とりわけ,不明熱は感染症が原因疾患で 同月28日の被告病院受診時において,上記(1)アの所見があって,細菌感染症(とりわけ,気管支肺炎あるいは腎膿瘍)に罹患していることを疑い得る徴候は揃っていた(とりわけ,不明熱は感染症が原因疾患である可能性がもっとも高いとされているところ,Dには不明熱が継続していた)ほか,SIRS診断基。 準も満たしていたといえる。 したがって,被告B及び同F(以下,両被告を併せて「被告医師ら」という)は,Dについて,細菌感染症(敗血症を含む)ないし気管支肺。 。 炎,腎膿瘍の発症を疑い,①細菌感染症(敗血症を含む)の発見・診断。 のために呼吸数PaCO 値桿状好中球値の測定を②気管支肺炎の発見・,,, 診断のために喀痰検査,胸部CT検査を,③腎膿瘍の発見・診断のために腹部の造影CT検査,尿の塗沫検査,培養検査,腹部のドップラー検査を,(。)それぞれ直ちに施行することによってDの細菌感染症敗血症を含むないし気管支肺炎,腎膿瘍を発見し,その治療(細菌感染症ないし敗血症の診断に基づく全身管理による感染症の進行,とりわけ敗血症性ショックへの移行を阻止するための抗生物質の投与,腎膿瘍に対する外科的ドレナージ)に着手すべき義務を負っていた。 ,,,,にもかかわらず被告医師らはこれを怠りDの感染症罹患を疑わず上記の諸検査等を直ちに実施せず,また,投薬等も行わないまま上記疾患の早期診断及び治療をしなかった。 イ説明義務違反Dは,G内科での治療が奏功せず,発熱等の症状が改善しなかったことから,精査,加療を求めて高次医療機関である被告病院を受診したものであり,このことは被告医師らも了知していた。しかも,被告医師らは,Dに対する診察,検査により,継続する発熱やCRP強陽性といった炎症所見を得ていた。したがって,被告医師らは 被告病院を受診したものであり,このことは被告医師らも了知していた。しかも,被告医師らは,Dに対する診察,検査により,継続する発熱やCRP強陽性といった炎症所見を得ていた。したがって,被告医師らは,Dに対して,細菌感染症を発症している可能性があること,細菌感染症については重篤な転帰をたどることがあり,確定診断にはCT検査が重要であることについて説明する義務があった。 しかるに,被告医師らは,上記義務を怠り,Dの診察を行った際に上記の説明を一切行わなかった。 (3)Dの死亡と被告医師らの義務違反との間の因果関係ア被告医師らが,上記(2)アの義務を尽くしていれば,Dの気管支肺炎及び腎膿瘍は改善し,あるいは敗血症への進展は回避でき,うっ血性心不全,肺動脈血栓塞栓症を発症することも,死亡に至ることもなかった。 イまた,被告医師らが上記(2)イの説明義務を尽くさなかったことにより,Dは,自身の疾患の危険性について認識できず,早期に他の医療機関を受診して診察やCT検査を受けるという自己決定の機会を奪われ,他院を受診する機会を喪失し,その結果,上記(1)イの機序により死亡するに至ったものである。 ウよって,被告医師らの上記(2)の義務違反とDの死亡との間には相当因果関係がある。 (4)損害 アDの損害合計1億3426万2202円(ア)逸失利益1億0626万2202円Dは死亡時38歳であり,67歳まで就労可能であったとの前提で同人の逸失利益を算出すると,その計算は以下のとおりとなる。 基礎年収1018万9430円(実収入)×(1-生活費控除率0.3)×14.8981(就労可能年数29年に対応するライプニッツ係数)(イ)死亡慰謝料2800万円(ウ)原告らは,Dに発生した上記損害について,法定相続分に応じて被告らに対する 控除率0.3)×14.8981(就労可能年数29年に対応するライプニッツ係数)(イ)死亡慰謝料2800万円(ウ)原告らは,Dに発生した上記損害について,法定相続分に応じて被告らに対する損害賠償請求権を相続した。その額は原告らにつき各々6713万1101円となる。 イ原告Aの損害合計495万円(ア)葬儀費用295万円(イ)弁護士費用200万円 被告らの主張(1)被告病院受診時においてDが重症感染症(敗血症を含む)に罹患し。 ていた可能性がないことDは,被告病院受診時においてはもとより,死亡直前においても重症感染症(気管支肺炎,腎膿瘍,敗血症を含む)には罹患していなかった。 。 ア被告病院受診時に現れていた各種所見(ア)初診時(2月22日)Dは,被告病院に一人で来院し,意識状態も良好で,問診への回答も問題なく行っていた。また,診察によっても呼吸音,呼吸数に問題はなかったほか,体温37.5℃までの微熱であり,血液検査の結果もCRP値,血沈値は高値であったが白血球数は8400と正常値であった。 同日時点で動悸や寒気が続いていたわけではなく,咳も治まっていたほ ,,か尿中白血球・塗沫検査・尿培養においても重症感染症の徴候はなく胸部レントゲン検査によっても異常は認められなかった。また,前医において処方された抗生物質を服用しても発熱に改善がみられないということは,発熱が感染症由来のものでない可能性を示唆するものである。 このような所見を全体として見れば,Dが初診時に原告ら主張のような重症感染症(気管支肺炎及び腎膿瘍)に罹患していた可能性はないといえる(また,SIRS診断基準を満たす所見もないから,敗血症を発症していたということもできない。 。)(イ)再診時(2月28日)体温は38℃でSIRS診断基 瘍)に罹患していた可能性はないといえる(また,SIRS診断基準を満たす所見もないから,敗血症を発症していたということもできない。 。)(イ)再診時(2月28日)体温は38℃でSIRS診断基準の一項目を満たしているが,これは自己申告であって客観的な所見ではない。また,脈拍・呼吸数について,。 ,も同基準に関連する主訴や所見は全くなく重症感もなかったさらにCRP値及び白血球数も初診時とほとんど変化はなく,腎臓を含めて臓()。 器機能障害や血圧低下ショックを示す検査数値も現れていなかったこのように,2月28日の時点においても,重症感染症の罹患あるいは敗血症及び敗血症性ショックの発症を示唆する客観的所見はなかった。 イ局所の重症感染症の罹患を否定するその他の個別的事情(ア)気管支肺炎気管支肺炎は病勢の進行に伴い白血球数や炎症マーカーの数値が鋭敏に上昇するところ,Dの白血球数は死亡時でも正常値であり,CRP値も初診時,再診日及び死亡直前においてほとんど差異がなく推移している。また,CRP値は悪性腫瘍(腎がん)によっても高値を示すことがある。したがって,仮にDが死亡時に気管支肺炎を発症していたとして,()もその発症時期は死亡前6ないし12時間被告病院への再診日以後と推測され,その程度も軽症であったというべきである。 (イ)敗血症ないし敗血症性ショック 敗血症ないし敗血症性ショックにより死亡する場合,ほとんどの症例で多臓器不全を経るが,死亡直前においてもDの腎機能の数値に異常はなく,腎不全を含む多臓器不全の状態にはなかった。 (ウ)腎膿瘍2月26日の腹部超音波検査において認められた左腎の腫瘤内には,血管の存在が窺われる(膿瘍ではなく,生きている細胞が存在していることを示すものである)など,腎がんの特徴的所見が得 。 (ウ)腎膿瘍2月26日の腹部超音波検査において認められた左腎の腫瘤内には,血管の存在が窺われる(膿瘍ではなく,生きている細胞が存在していることを示すものである)など,腎がんの特徴的所見が得られていた。 。 また,同日及び2月28日の2回の腹部超音波検査において超音波探触子(プローブ)を押し当てた際も,Dから腹部,腰背部の痛みが訴えられたことはなかった。さらに,剖検所見でも,腎膿瘍を示す好中球の浸潤や組織破壊といった病理所見は存在しない。これらのことからも,Dが被告病院受診中に腎膿瘍に罹患していたとはいえない。 むしろ,上記の腹部超音波検査による所見その他の検査所見等を総合すれば,Dが左腎の腎がんを発症していたことは明らかであり,これが血液検査における炎症反応の原因疾患であったと推測される。また,剖検時に「泥状」と評価された左腎の組織変化も,腎がんが一部壊死した組織が崩れて被膜外に漏出していたものと考えるのが相当である。 ウDの死亡原因について上記のとおり,Dの死亡原因に関して,原告ら主張の感染症が関与した可能性はないといえるところ,Dの死亡に至る経緯は外形的には突然死と評価できるものであること,剖検所見においても,左肺門部に赤色の新鮮血栓があり,左肺動脈主幹部がほぼ完全閉塞の状態にあったこと,死亡時において右心内の血液貯留量が著明に多いなど急性肺動脈血栓塞栓症発症時における典型的な右心不全の状態を呈していること(この点,閉塞部位が片肺のみであり,また,膝窩静脈等に血栓がなかったとしても,一方の肺のみに閉塞が生じた場合でも致死に至る場合があるとされているし,ま た,剖検時においても血栓が生じ得るあらゆる部位が検索されているわけでもないから,上記の剖検所見を前提としても肺動脈血栓塞栓症による死亡を観念することは可能である) 合があるとされているし,ま た,剖検時においても血栓が生じ得るあらゆる部位が検索されているわけでもないから,上記の剖検所見を前提としても肺動脈血栓塞栓症による死亡を観念することは可能である)等の事情を総合すれば,Dは肺動脈血。 栓塞栓症(及びこれに続く心原性ショック)により死亡するに至ったものと考えられる。 エ原告らの主張する死亡に至る機序の不合理性(ア)原告らは,Dは感染症に直接起因してうっ血性心不全を発症し死亡したと主張するが,仮にDが気管支肺炎を発症していたとしても重症には至っていたとはいえず,右心室の血液量の異常も,肺動脈血栓塞栓,。 症の典型所見であって特に臓器機能障害に起因するものとはいえないまた,敗血症や腹膜炎等の合併症を伴わず(敗血症を発症していないといえることは上記イ(イ)のとおりである,腎不全も伴わない腎膿。)瘍のみに起因してうっ血性心不全を発症して死に至ることは,医学経験則上あり得ないことである。 (イ)また,原告らは,感染症に起因して肺動脈血栓塞栓症を発症したと主張するが,左肺門部の肺動脈主幹部を閉塞させた新鮮血栓が感染症に起因するものと判断できる医学的根拠はない。 (ウ)さらに,原告らは,Dは気管支肺炎と肺動脈血栓塞栓症とが合併して死亡したと主張するが,医学的には肺血管床の60%以上が閉塞すると肺高圧症(右心不全)だけで死亡することがあるが,30%以上が閉塞していれば,肺高圧症とともに発症する低酸素症に起因する左心不全を合併して死亡することがあるとされている。したがって,気管支肺炎の有無にかかわらず,肺動脈血栓塞栓症のみでDが死亡したと解したとしても何ら不合理ではない。 (2)被告医師らに義務違反がないことア重症感染症の発見,治療の遅滞がないこと 被告Bは,2月22日の初診時に らず,肺動脈血栓塞栓症のみでDが死亡したと解したとしても何ら不合理ではない。 (2)被告医師らに義務違反がないことア重症感染症の発見,治療の遅滞がないこと 被告Bは,2月22日の初診時において,血液検査の結果,炎症所見を認めたものの,白血球は基準値の範囲内にあり,また,尿中に白血球や細菌の存在も認められなかったこと,Dから前医において抗生物質を投与されていたにもかかわらず発熱が続いているとの説明を受けたこと等から,不明熱の原因について感染症以外の原因で生じている可能性が通常より高いものと判断し,その原因検索を行うため,重篤な疾患としては悪性腫瘍も念頭に置きつつ,尿培養・血清検査に加え,超音波検査及び腹部CT検査を予約した(腹部CT検査は,同日時点で直近の予約可能日である3月13日に予約した。 。)しかして,2月26日の超音波検査で左腎に血流も認められる腫瘤性病変が発見されたため(なお,同日は,検査が実施されただけで,被告病院医師による診察は行われていない,被告Bは,同月28日の診察の際,。)Dに泌尿器科の受診を指示した。被告Fは,同日,Dを診察し,再度超音波検査を実施したが,はっきりとした腫瘤は認めなかったものの,前回の超音波検査で腫瘤内に血流を認めていたこと,CRP値が高く,発熱もあることから,不明熱について腎がんに起因する可能性が高いと考え,腹部CT検査が実施される予定であった3月13日の翌日に次の診察日の予約を入れ,また,当日までに具合が悪くなった場合はすぐ再受診するよう指示した。 以上の診療経過のとおり,Dの受診中に気管支肺炎及び腎膿瘍を含む重症感染症の徴候は存在せず,むしろ,Dに生じた不明熱は腎がんに起因する疑いが濃厚であったのであるから,被告医師らが左腎の検索を行おうとしていたことに不適切な点はない。 に気管支肺炎及び腎膿瘍を含む重症感染症の徴候は存在せず,むしろ,Dに生じた不明熱は腎がんに起因する疑いが濃厚であったのであるから,被告医師らが左腎の検索を行おうとしていたことに不適切な点はない。そもそも,Dの死因は肺血栓塞栓症による予測不可能な急死であると考えられるのであり,同疾患が重症感染症に起因すると解される所見もなかった。よって,被告医師らに原告ら主張の義務違反はない。 イ説明義務違反の不存在被告病院受診時において,Dには重症感染症を示唆する所見はなかった(また,上記の時点でDに疑われた腎がんについても緊急にCT検査を実施すべき状況にもなかった)から,被告医師らにおいて,その存在可能。 性を前提とする病態や治療方針についてDに説明する義務を負っていたとはいえない。 むしろ,被告Bは,腎がんの疑いを抱き,即座にDに対して被告病院泌尿器科の受診の必要を説明しているし,また,被告Fも,3月13日に予定されていたCT検査の結果によらないと腎がんかどうかの確認はできないとの点について必要な説明は尽くしている。 (3)因果関係の不存在Dは,肺動脈血栓塞栓症(これは感染症に起因するものではない)によ。 り急死した可能性が高いから,被告医師らの診療行為とDの死亡との間には相当因果関係がない。 また,上記のとおりDの死亡は感染症によるものとはいえないから,被告医師らがDに対して重症感染症に罹患している可能性について説明しなかったことと,Dが他の医療機関を受診する機会を喪失したこととの間に因果関係はない。 (4)損害についていずれも否認ないし争う。 被告らの主張に対する原告らの反論(1)気管支肺炎の程度及び罹患時期被告らは,2月28日の被告病院再診時においてもDは気管支肺炎に罹患しておらず,死亡時にDにみられた気管支肺炎の いし争う。 被告らの主張に対する原告らの反論(1)気管支肺炎の程度及び罹患時期被告らは,2月28日の被告病院再診時においてもDは気管支肺炎に罹患しておらず,死亡時にDにみられた気管支肺炎の発症時期も死亡前6時間から12時間前であり,かつ,その程度も軽症であったと主張する。 しかし,剖検時のDの肺の組織染色標本から窺われる病態は少なくとも中 等度の気管支肺炎の状態を呈しているといえるところ,2日に満たない間で(Dは,3月1日(土曜日)は1日中自宅で静養しており,同月2日も午前10時には病態が急変している)中等度の気管支肺炎に進展するといった。 ことは考え難い。むしろ,2月22日,28日の血液検査で継続してCRP値が強陽性を示していること,2か月近くにわたって発熱,咳,痰,動悸という上気道炎様症状を呈していることからすれば,被告病院初診時において既にDが気管支肺炎を発症していたことは明らかである。 (2)腎膿瘍の有無等被告らは,Dは(死亡時においても)腎膿瘍を発症していなかったと主張する。 しかし被告病院受診時にみられた発熱寒気体重減少白血球増加 ,,,,(月22日の血液検査時における白血球数8400は正常値とはいえない,。)CRP強陽性,血沈亢進,2月26日の超音波検査における左腎の占拠性病変及び尿路拡張の存在,尿検査における尿蛋白,尿潜血の存在,被告病院受診前の汚尿といった諸所見は,Dが被告病院受診時において左腎に腎膿瘍を発症していたことを強く示唆するものである。 この点,被告らは,尿培養検査が陰性であったことを指摘するが,膿瘍発生部分と尿路との間に交通がない限り尿検査所見に乏しいこともあるから,上記検査の結果だけで腎膿瘍が存在しないということはできない。むしろ,Dの剖検時には,左腎に大量の好中球 ことを指摘するが,膿瘍発生部分と尿路との間に交通がない限り尿検査所見に乏しいこともあるから,上記検査の結果だけで腎膿瘍が存在しないということはできない。むしろ,Dの剖検時には,左腎に大量の好中球浸潤があり,灰白色の膿状の組織が腎皮質を穿破して流出していたというのであるから,このことからしてもDの左腎に膿瘍が存在したことは明らかである。 さらに,被告らは,Dの左腎の占拠性病変は腎がんであると主張するが,仮に左腎に腎がんが存在していたとしても,腎膿瘍と腎がんが合併することもあり得るのであって,腎膿瘍がなかったということにはならない。 (3)敗血症,敗血症性ショック 被告らは,被告病院受診時の所見からDが敗血症に罹患していた可能性はないと主張する。 しかし,被告病院においては,SIRS診断基準において判定項目とされている所見に係る検査がされていないのであるから,同基準における所見が存在しなかったものではないし,明らかになっている臨床所見を前提にすれば,少なくともDは細菌性ショック(甲B12・24頁)の状態にあったといえる。 (4)肺動脈血栓塞栓症についてアDは,肥満でもなく,長期臥床の経過もなく,肺動脈血栓塞栓症の既往もなかった。また,Dの肺血栓塞栓は,左肺門部にのみ存在し,一般的な肺動脈血栓塞栓症に見られるように肺野全体にびまん性に血栓が存在していたものではない。加えて,Dの剖検時には,膝窩静脈,下肢静脈等の血栓の母地となりやすい血管についても検索がされたが,同部位に血栓が存在した可能性はほとんどなかった。さらに,仮にDに認められた血栓塞栓が深部静脈で発生した血栓が遊離して塞栓となったとしても,右肺には全く循環障害は生じていないのであり,左肺のみの肺塞栓により死亡に至るとは考えられない。このようにみると,Dが肺動脈血栓塞栓症 栓塞栓が深部静脈で発生した血栓が遊離して塞栓となったとしても,右肺には全く循環障害は生じていないのであり,左肺のみの肺塞栓により死亡に至るとは考えられない。このようにみると,Dが肺動脈血栓塞栓症を原因として死亡するに至った可能性は低いというべきである。 イ仮にDが肺動脈血栓塞栓症を発症して死亡したとしても,血栓を生じさせる危険因子として考え得るものは気管支肺炎及び腎膿瘍という感染症以外には考えられないから,やはりDは感染症に起因して死亡したということができる。 第3当裁判所の判断(,,,, 前記前提事実に証拠甲A1ないし34の1ないし5B2224の1,,,,,,, 乙A1ないし45の1ないし76ないし13B8丙A1証人L原告A,被告B,同F,調査嘱託に対する回答(公立H病院分,I整形外科分 及びK大学医学部法医学教室分)及び弁論の全趣旨を併せると,以下の事実)が認められ,甲B第22,第23号証,乙A第12号証,証人L及び原告A本人の各供述のうち下記認定に反する部分は採用することができず,他に同認定を覆すに足りる証拠はない(なお,認定に要した主要な証拠を認定事実ごとに掲記する。 。)(1)Dの被告病院受診の経緯等(甲B24の1,2,乙A1,12,丙A1,原告A,被告B)Dは,1月20日,同月5日に37℃の発熱があって,それ以後も動悸,寒気咳倦怠感等が続いていること同月18日深夜に39℃の高熱があっ,,,たこと等を主訴として,近医のG内科を受診したが,インフルエンザチェックは陰性であり気管支炎で喘息の状態になっていると診断され鎮咳薬フ,,(スコデ,気管支拡張剤(テオロング)及び痰切薬(ムコダイン)を投与さ)れたほか,抗生物質(クラリス)を3日分と頓服薬として鎮痛 性であり気管支炎で喘息の状態になっていると診断され鎮咳薬フ,,(スコデ,気管支拡張剤(テオロング)及び痰切薬(ムコダイン)を投与さ)れたほか,抗生物質(クラリス)を3日分と頓服薬として鎮痛解熱剤(カロナール)を投与された。なお,Dは,1月20日から同月24日までの1週間,体調不良を理由に仕事を欠勤した。 ,,,,その後発熱は1月24日ころまでには下がったものの咳が残りまた体温も朝は平熱で昼過ぎくらいから微熱(最高で37.5℃)を発するという状態が続いたため,2月4日に再度G内科を受診して胸部レントゲン検査。 ,,等を受けたしかし胸部レントゲン検査では特段の異常所見は見当たらず医師から気管支炎が継続しているとの診断を受け別の抗生物質ジスロマッ,(ク)を3日分と鎮咳薬を処方されて経過観察となった。 その後,咳に関しては頻度が下がったものの,発熱状態には改善がみられず,さらに,2月9日には尿に汚い膿のようなものが混じる,同月18日からは下腹部(臍の右斜め下辺り)で何かが突き出て膨らみ少し痛むといった症状も現れた。そのため,Dは,不安を感じ,大きな病院で詳しく診てもらおうと考え,原告Aとも相談した上で,地域の基幹病院の一つである被告病 院を受診することにし,同月14日ころ,被告病院に電話して同月22日の被告病院内科の診察を予約した。 なお,Dは,1月27日(月曜日)以降,2月25日に体調不良で欠勤したほかは,体調がすぐれないながらも原告Aに自動車で送迎してもらいながら勤務先での仕事を続けていた。 (2)2月22日(被告病院初診時)の診療経過等(乙A1ないし4,丙A1,被告B)アDは,2月22日,被告病院の内科外来を受診して,被告Bの診察を受けG内科における上記 の診療経過を説明するとともに咳は治ま 告病院初診時)の診療経過等(乙A1ないし4,丙A1,被告B)アDは,2月22日,被告病院の内科外来を受診して,被告Bの診察を受けG内科における上記 の診療経過を説明するとともに咳は治まっ,(),たが微熱は続いていること,汚い尿が1回出たこと,2月18日から下腹部の突起に気付き痛みを感じること,1か月で2㎏体重が減少したことなどを訴えた。 被告Bは,胸部聴診等を行うとともに,血液検査,尿検査及び胸・腹部レントゲン検査を実施したが,喀痰培養検査については,上記のとおり咳は治まったという説明があり,痰も出ないということであったため,実施しなかった。来院時のDの意識状態は良好で,被告Bとしては特段の重症感を感じなかった。なお,上記診察及び各種検査の結果は以下のとおりである。 (ア)胸部聴診気管支肺炎の特徴である湿性ラ音は聴取されず,心雑音も認めなかった。 (イ)腹部触診腫瘤や筋性防御(腹腔内の炎症による刺激が壁側腹膜に及ぶと,肋間神経,腰神経を介し罹患部位に相当して反射的に腹壁筋の緊張を増し,硬く触れる状態)は認めず,下腹部の突起物については強い咳をしたときに何かが出て膨らむが,押すと元に戻り,少し痛みが出るという主訴 からヘルニアが疑われた。 (ウ)バイタルサイン血圧は138/104㎜Hg 脈拍は108/分で呼吸の乱れはなかっ,,た。 (エ)結膜,咽頭部,頚部所見特段の異常所見を認めなかった。 (オ)血液検査好中球,血沈(赤血球沈降速度)及びCRP値等の炎症反応を示す検査数値が異常数値を示していたが,白血球数は基準値内にあった。 その他,同日の血液検査の結果は,別紙「血液検査・尿検査結果一覧表」の同日欄記載のとおりである。 (カ)尿検査尿検査の結果,尿蛋白,尿潜血が認められたが,尿中白血球の増 血球数は基準値内にあった。 その他,同日の血液検査の結果は,別紙「血液検査・尿検査結果一覧表」の同日欄記載のとおりである。 (カ)尿検査尿検査の結果,尿蛋白,尿潜血が認められたが,尿中白血球の増加はなかった。 ,,「」その他同日の尿検査の結果は別紙血液検査・尿検査結果一覧表の同日欄記載のとおりである。 (キ)胸・腹部レントゲン検査気管支肺炎等の存在を示す異常所見は認めなかった。 イ被告Bは,上記の診察及び検査結果を踏まえ,重症感染症に罹患していることを窺わせる所見に乏しく,発熱については不明熱として更に鑑別診断を実施する必要があると判断し,尿路感染症等の可能性を除外するために尿の塗沫検査(細菌培養検査)をオーダーするとともに,内臓器の局所性病変に基づく発熱の可能性を鑑別するため腹部超音波検査と腹部CT検査を実施することにし,前者について2月26日に,後者について3月13日に実施するとの予約を入れた(なお,3月13日が被告病院内でCT検査を実施できる最も早い日であった。 。) そして,被告Bは,上記の所見やDの説明によりG内科で処方された抗生剤は奏功していないものと考えられたことから,再度の抗生剤投与は行わないことにし,対症療法として鎮痛解熱剤の投与を予定したが,DからG内科でもらった薬が残っているので不要であるとの話があったため,結局,投薬は行わないことにし,翌週の2月28日に再受診するよう指示して経過観察とした。 なお,被告Bは,2月22日の診療において,Dに対し,細菌感染症が急激な転帰をたどることがあることや緊急CT検査を実施しない理由については,ことさら説明しなかった。 (3)腹部超音波検査の実施経緯等(乙A1,5の1ないし7,8,11,丙A1,被告B,被告F),,,(,,Dは2月2 急CT検査を実施しない理由については,ことさら説明しなかった。 (3)腹部超音波検査の実施経緯等(乙A1,5の1ないし7,8,11,丙A1,被告B,被告F),,,(,,Dは2月26日被告病院検査科において予約していた腹部肝胆膵,脾及び腎)超音波検査を受けた。なお,同日は,検査のみが実施され,被告病院医師による診察は実施されなかった。 上記の腹部超音波検査により得られた所見及び診断の結果は,以下のとおりである。 ア超音波所見(ア)肝臓辺縁やや鈍,表面ほぼ平滑,高輝度肝,肝腎コントラスト+,明らかなSOL(占拠性病変)なし。 (イ)胆のう壁肥厚なし。結石及びポリープなし。総胆管の拡張なし。 (ウ)脾臓腫大なし。SOLなし。 (エ)腎臓右腎臓:腫大なし。SOLなし。 左腎臓:中極に腎と等やや低エコーな腫瘤病変あり大きさは7.()。 7×6.9㎝,大きさは12.7㎝。カラードップラーで血流を認める。その他SOLなし。尿管拡張なし。 (オ)膵臓腫大なし。SOLなし。膵管拡張なし(尾部はやや描出不良。 )(カ)膀胱尿量不足で不十分なエコー。可視範囲内で問題なし。 イ超音波診断グラビッツ腫瘍について鑑別を要する。脂肪肝(4)2月28日(被告病院再診時)の診療経過等(乙A1,11,13,丙A1,被告B,被告F)アDは,2月28日,被告病院内科外来を受診し,被告Bの再診を受けたが,初診時と比べて病態に特段の変化はなく,血液検査の結果もCRP値は初診時とほぼ同程度であった。なお,上記(2)イの尿塗沫検査の結果は陰性(尿中に細菌が存在する所見はない)であった。 。 しかし,被告Bは,上記の腹部超音波検査の結果,左腎臓に上記(3)ア(エ)のような低エコーの腫瘤性病変の存在が指摘され,その画 尿塗沫検査の結果は陰性(尿中に細菌が存在する所見はない)であった。 。 しかし,被告Bは,上記の腹部超音波検査の結果,左腎臓に上記(3)ア(エ)のような低エコーの腫瘤性病変の存在が指摘され,その画像からも腫瘤辺縁と内部の両方に血流が認められたことから,左腎に何らかの腫瘤,特に腎がんがあることを疑い,それがこれまでの継続的な微熱の原因疾患となっている可能性があると判断し,精査のため被告病院泌尿器科にコンサルトするとともに,Dに対しても同科への受診を指示した。 イDは,同日,被告病院泌尿器科外来を受診し,同科医師である被告Fの,。 ,診察を受けるとともに尿検査及び再度の腹部超音波検査を受けたなおその際の体温は38.1℃であった。 被告Fは,泌尿器科的見地からの診断として,尿路感染症(腎盂腎炎や腎膿瘍を含む)を発症している場合には,39℃以上の高熱や腰背部痛。 を訴えることが多く,また,血液及び尿中の白血球数の増加が顕著であるのが通常であるところ,Dについては,微熱が続いているものの上記のような高熱を発しているものではなく,通勤も継続していること,超音波検査の際に用いる超音波探触子(プローブ)を押し当てても腹部,腰背部痛を訴えることはなかったことなどから,尿路感染症については否定的に考えた。 そして,被告Fは,同日に実施した腹部超音波検査からは左腎に顕著な腫瘤性病変の所見を認めなかったものの,26日の超音波検査の結果やCRP値が依然として高いこと等から,Dの不明熱の原因としては腎がんが最も疑われると判断したが,上記の鑑別診断を行うには,結局,腹部CT検査の結果を待たなければ判別できず,また,Dの様子も特段の重症感は見受けられなかったことから,Dに対し,腹部CT検査を予定どおり受けてもらい,その結果を踏まえて更に治療方針について 結局,腹部CT検査の結果を待たなければ判別できず,また,Dの様子も特段の重症感は見受けられなかったことから,Dに対し,腹部CT検査を予定どおり受けてもらい,その結果を踏まえて更に治療方針について精査,検討したい旨を説明し,同検査の予約日の翌日である3月14日に泌尿器科の受診予約を入れ,同日の再診を指示して経過観察とし,投薬は行わなかった。 なお,被告Fは,2月28日の診療に際して,Dに対し,細菌感染症が急激な転帰をたどることがあることや緊急CT検査を実施しない理由については,ことさら説明しなかった。 (5)Dの死亡に至る経緯(甲A1,乙A6,9,12,原告A)3月2日(日曜日,Dは,午前9時20分ころ起床し,茶わん半分程度)の朝食を摂って,いったんベッドで休んだ後,寝間着のまま自宅居間のソ,,ファーに座り傍らで長男の原告Cが勉強をしているのを見たりしていたが午前10時ころ容態が急変して虚脱状態となった。原告Aは,所用で近所に外出していたが,携帯電話に原告Cから「パパが変」という電話が入ったため,急いで帰宅したものの,その時点でDはソファーに仰向けに座ったまま両手を握って胸の上においた状態で虚脱していた。 原告Aは,直ちに119番通報するとともに救急隊に指示されたとおり人工呼吸をするなどの蘇生措置を行った。Dは,その後駆け付けた救急隊によりH病院に搬送されたが,この時点で既に心肺停止の状態であり,同病院において蘇生処置が実施されたが奏功せず,同日午前11時29分に死亡が確認された。 なお,死亡直前にH病院で実施されたDの血液検査の結果は,別紙「血液検査・尿検査結果一覧表」の同日欄記載のとおりである。 (6)Dの死亡後の経過(甲A1ないし3,4の1ないし5,B22,乙A,,,,,,(, B 結果は,別紙「血液検査・尿検査結果一覧表」の同日欄記載のとおりである。 (6)Dの死亡後の経過(甲A1ないし3,4の1ないし5,B22,乙A,,,,,,(, B8証人L調査嘱託に対する回答公立H病院分I整形外科分及びK大学医学部法医学教室分))アH病院は,Dの死亡後,医師法21条に基づき所轄のb警察署にDの遺体を異状死体として届け出た。同警察署から警察医の嘱託を受けていたJ医師は,3月2日午後1時30分ころからDの死体検案を開始し,死体検案書を作成したが,死因が判別できなかったことから,K大学医学部法医学教室に行政解剖を依頼した。 イK大学医学部法医学教室のL医師は,3月3日,Dの解剖を実施し,後,()。 日同医師により前提事実 イの内容の剖検所見がJ医師に示されたなお,上記の剖検に際し,Dの左腎から流出していた一見膿状の組織については,泥状であり組織細胞の固定ができなかったため組織染色標本は作成されなかった。 前記前提事実及び上記1の認定事実(以下「前提事実等」という)に基づ。 き,まず,Dの死亡原因について検討する。 原告らは,Dについて,被告病院受診時において気管支肺炎及び腎膿瘍という感染症に罹患しており,これが直接的に,あるいは敗血症,敗血症性ショッ,,クを経て急性うっ血性心不全をもたらして死亡に至ったそうでないとしても上記の感染症に起因して肺動脈血栓塞栓症を発症し,それ単体で,あるいは既 往の気管支肺炎と相俟って死亡に至ったとの死亡機序を主張するので,その当否について検討する(なお,直接の死因として心不全が考えられるという限度においては当事者間に争いがない。 。)(1)敗血症及び敗血症性ショックについてア前提事実(7)イ(イ)のとおり,臨床上,S ついて検討する(なお,直接の死因として心不全が考えられるという限度においては当事者間に争いがない。 。)(1)敗血症及び敗血症性ショックについてア前提事実(7)イ(イ)のとおり,臨床上,SIRSの鑑別診断はSIRS診断基準に依拠して行われているところ,同基準にDの臨床所見等を当てはめると,初診時の頻脈(108/分)以外には,判定項目への該当性を裏付ける客観的な所見に乏しく(なお,2月22日の血液検査では好中球72%とやや増多傾向を示しているが,このうち桿状核球と分葉核球の具体的割合については検査項目に入っていないため不明であり,それゆえSIRS診断基準中の「桿状核好中球>10%」との項目への該当性を肯定することもできない,他に,本件全証拠を検討しても,被告病院。)受診時にDについてSIRS診断基準の判定項目に該当する客観的所見が現れていたと認めるに足りる的確な証拠はない。 イこれに対し,原告らは,被告病院ではそもそも所要の所見を得るための診察,検査がされていなかっただけであって,SIRS診断基準に係る所見が客観的に存在しなかったものではなく,少なくともDは細菌性ショック(その診断基準は前提事実(7)イ(ウ)のとおりである)の状態に。 あったと主張する。 しかし,SIRS診断基準(細菌性ショックの診断基準を含む)は,。 それ自体細菌感染症に非特異的な所見を判定項目とするものであるから,その判定項目に該当する所見が現れていたとしても,その原因疾患が細菌感染症であると確定できるものではない上,本件全証拠を検討しても,Dが被告病院受診時に血圧低下,精神症状,顔面蒼白,四肢冷感,末梢血管の虚脱,著明な頻脈,脈拍微弱,乏尿といった典型的なショック症状(急性循環不全症状)を呈していたことを認めるに足りる証拠もない。また, M医 時に血圧低下,精神症状,顔面蒼白,四肢冷感,末梢血管の虚脱,著明な頻脈,脈拍微弱,乏尿といった典型的なショック症状(急性循環不全症状)を呈していたことを認めるに足りる証拠もない。また, M医師も,Dの各種組織染色標本を検索しても敗血症を発症していたことを示す所見はないとの意見を述べているところである(乙B10,証人M。このような事情に照らすと,Dが被告病院受診時及び死亡時におい)て敗血症あるいは敗血症性ショックの状態にあったと認めることはできない。 ウこの点,N病院外科部長O医師(原告ら協力医)は,2月28日の被。 告病院再診時にはDはSIRSないし敗血症を発症していたと推定されるとの意見を述べている(甲B23。 ),,,,しかしO医師はDのSIRS発症経過として気管支肺炎を発症しその起炎菌が血中に入って菌血症となり,血行性に左腎に感染して腎膿瘍を形成し,これが原因でSIRSないし敗血症を引き起こしたと説明しているところ,後記(2(3)のとおり,Dが被告病院受診中に菌血症),を発症するほどの局所性の重症感染症を発症していたとまでは解し難く,また,O医師も,上記意見書において「呼吸器の症状が先行している」,。 という指摘をしているに留まり,CRP値に異常をもたらした原因疾患が気管支肺炎であるといえることや菌血症を発症するほどの免疫系の機能不全があったといえるかといった点については必ずしも十分な説明をしているとは解されない。そして,O医師自身も,腎膿瘍の存否については本件左腎病変部位の細菌が培養されていないので断定はできないと述べているところである。 よって,O医師の上記意見は,専門家医師の意見として十分に尊重されるべきものではあるとしても,Dの死因に至る機序に関する部分については直ちに採用することはでき はできないと述べているところである。 よって,O医師の上記意見は,専門家医師の意見として十分に尊重されるべきものではあるとしても,Dの死因に至る機序に関する部分については直ちに採用することはできない。 エ以上によれば,原告らの主張するDの死亡機序のうち,敗血症ないし敗血症性ショックを発症して死亡したとの部分は採用できないというべきである。 (2)気管支肺炎についてア前提事実等によれば,Dは,1月20日及び2月4日に,発熱,咳等の感冒様症状を主訴としてG内科を受診し,抗生剤等を投与されたものの,目立った改善がみられなかったこと,Dの発熱状況は朝方は平熱で昼ころから微熱が出るという熱型であり,39℃以上の高熱が続くことはなかったこと,2月4日にG内科で撮影された胸部レントゲン検査の結果でも特段の異常は指摘されなかったことが認められる。 また,2月22日の被告病院初診時において,1月中旬ころから最高で37.5℃までの微熱が続いているが咳は治まったとの説明がされ,胸部聴診の結果,肺炎時に聴取される湿性ラ音は聴取されず,バイタルサインは血圧が138/104㎜Hg,脈拍が108/分で呼吸の乱れはなかったのであり,これらの所見は,28日の再診時においてもほぼ同様であったことが認められる。 さらに,血液検査の結果についてみると,初診時において炎症の存在を示すCRP値は強陽性を,血沈も128(60分値)と基準値を相当上回る異常値を示しており,28日の再診時においてもCRPは強陽性を,抗体検査も高値を示していたが,CRP値は,初診時から再診時にかけてほとんど有意な数値的変化はなく,H病院における死線期における検査でもほぼ同様の数値であった。また,初診時の白血球数は8400(死亡直前の検査でもほぼ同程度の数値であった,血小板数は34.5と てほとんど有意な数値的変化はなく,H病院における死線期における検査でもほぼ同様の数値であった。また,初診時の白血球数は8400(死亡直前の検査でもほぼ同程度の数値であった,血小板数は34.5と基準値範。)囲内にあった。その他,Dは未だ38歳と若く,免疫不全等の感染抵抗力の減弱を来していることを示唆する検査数値も現れていなかった。 加えて,2月22日に被告病院で実施された胸・腹部レントゲン検査では,気管支肺炎の存在を示す典型所見は認められなかった。 なお,被告病院受診前にDにおいて大きな外傷,外科手術,尿道カテーテル検査,内臓器疾患の既往等,大量の起炎菌が体内に侵入したとか,あ るいは細菌抵抗力が弱まっていることを示す具体的なエピソードはなかった。 イ剖検所見等Dの剖検時の所見に証拠(乙B10,証人L,同M)及び弁論の全趣旨を併せると,①気管から末梢気管支にかけて,内腔に黄褐色調の痰が充満していたこと,②左右肺は表面・割面が混濁し,圧することで割面より黄褐色調の痰が流出する状態であったこと,③肉眼的には,肺に水腫は認められず,うっ血は認められたが軽度ないし中等度であったこと,④肺の重さも正常肺に対して中等度の増加があったこと,⑤気管支内腔及び肺胞腔内に球系細菌塊と好中球が出現していたこと,⑥L医師が剖検後に作成したDの肺の組織染色標本(プレパラート)の顕微鏡的所見として,気管支内腔に白血球の充満,水腫が認められ,また,好中球もまばらに存在していたことがそれぞれ認められる。 ウ検討(ア)剖検時におけるDの気管支肺炎の有無以上イの事実に証拠(乙B10,証人L,同M)を併せると,その重症度の検討については措くとしても,Dは遅くとも死亡時においては気管支肺炎を発症していたと認めるのが相当である(ただし,顕微鏡的所見として認 の事実に証拠(乙B10,証人L,同M)を併せると,その重症度の検討については措くとしても,Dは遅くとも死亡時においては気管支肺炎を発症していたと認めるのが相当である(ただし,顕微鏡的所見として認められた肺の水腫が心不全に起因する循環不全に起因するものか,気管支肺炎由来の滲出液なのかについては,L医師とM医師(被告ら協力医,都立P病院検査科医師)の意見は異なっており,証人尋。 問においても,L医師は両者が相俟って生じたものであるとするが,M医師は,炎症細胞の出方からすれば心不全の結果というよりも気管支肺炎が主であるとの指摘をしている。 。)(イ)気管支肺炎の発症時期及びその進展状況そこで,死亡時のDに認められた気管支肺炎の発症時期及びその程度 につき,被告病院における診療経過等を踏まえて更に検討する。 ①臨床所見との整合性上記アのとおり,被告病院受診時において,Dには咳,痰といった気管支肺炎の典型的所見が顕著に現れていたわけではないこと,肺炎発症時には通常高値を示す白血球数も,2月22日の検査では基準値内(8400)であったし,H病院における死亡直前の検査でもやはり基準値内(8430)であったこと,炎症マーカーであるCRP値は,被告病院初診時から強陽性を示していたが,その後も抗生剤投与等の特段の感染症に対する治療を行っていないにもかかわらず数値の増悪がみられていないこと,胸部レントゲン検査(2月4日に実施されたG内科における同検査を含む)では胸部の呼吸器疾患を窺わせ。 ,,る所見は現れていなかったこと胸部聴診でも湿性ラ音は聴取されず呼吸数も若干増加傾向があったものの呼吸困難といえる状態にはなかったこと,G内科において抗生物質が投与されていたが特に奏功していないと解されること等が指摘できるところ,これらの所見は,被 取されず呼吸数も若干増加傾向があったものの呼吸困難といえる状態にはなかったこと,G内科において抗生物質が投与されていたが特に奏功していないと解されること等が指摘できるところ,これらの所見は,被告病院受診中にDが気管支肺炎を発症していたと解することとは必ずしも整合せず,あるいは矛盾するものということができる。 ②死亡時に存在した気管支肺炎の程度,。 次いでDの死亡時に認められた気管支肺炎の重症度についてみる上記イによれば,顕微鏡的検索の結果として気管支肺炎を示唆する肺組織の炎症性変化が認められるものの,肉眼所見では肺水腫は認められていない。 また,肺炎の重症度判定の基準として日本呼吸器学会が策定した別紙「肺炎重症度判定基準」は,バイタルサイン,血液検査及び胸部レントゲン検査所見等を判定項目とするものであるところ,上記①の所,,見を上記判定基準に当てはめても重症に該当しないことはもとより 直ちに中等症に該当するということもできず,また,顕微鏡的検索の,,結果判明した肺水腫についても肺炎由来である可能性がある一方でその後に生じた心停止(心不全による肺循環障害)により生じた可能性も否定できないところである(証人M。 )③前提事実等によれば,Dは2月28日(何時に受診したかは本件全証拠によっても明らかではない)に被告病院を受診した翌々日の3。 月2日午前11時29分の時点(死亡時点)では気管支肺炎を発症していたことになるが,証拠(被告B)及び弁論の全趣旨によれば,2月28日の再診時に気管支肺炎を発症していなかったとしても,その後の2日間で気管支肺炎を発症することも臨床上はあり得ることが認,。 められ本件全証拠を検討しても上記認定を覆すに足りる証拠はない④以上の検討を総合すれば,Dにおいては,被告病院受診時において 後の2日間で気管支肺炎を発症することも臨床上はあり得ることが認,。 められ本件全証拠を検討しても上記認定を覆すに足りる証拠はない④以上の検討を総合すれば,Dにおいては,被告病院受診時において既に気管支肺炎を発症していたと解する余地がないとまではいえないとしても,被告病院受診時に気管支肺炎を発症していた蓋然性を肯定するには至らない。 (ウ)なお,仮に,Dが被告病院受診時に既に気管支肺炎を発症していたとしても,以下のとおり,重症の程度に至っていたと解することは困難である。 すなわち,前提事実等のとおり,Dの血液検査数値のうちCRP値及び血沈値が高度に上昇ないし亢進している点は,Dが気管支肺炎を含む高度の炎症性疾患を発症していたことを強く疑わせ,また初診時の脈拍が108/分であることも別紙「肺炎重症度判定基準」の中等症の判定項目を満たす可能性を示唆するものといえる。 しかしながら,上記(イ)①のとおり,Dの臨床経過からは気管支肺炎の発症と矛盾し,あるいは整合しない所見が多数存在する(少なくとも被告病院受診時における所見をもって,別紙「肺炎重症度判定基準」 に示された重症肺炎の診断項目をクリアしているといえない)こと,。 CRP値,血沈値の異常は,気管支肺炎を含む局所性の細菌感染症に特異的なものではなく,悪性腫瘍,心筋梗塞,膠原病等を原疾患としても上昇するものであるところ,後記(3)のとおり,Dは被告病院受診時において左腎の腎がん(悪性腫瘍)を発症していたこと等の事情に照らせば,上記の高度炎症疾患の存在を窺わせる複数の所見があることを前提としても,被告病院受診中のDの気管支肺炎の程度が重症であったとまでは認めることができず,他に,本件全証拠を検討しても,上記時点におけるDの気管支肺炎が重症化していたと認めるに足りる証拠はない。 提としても,被告病院受診中のDの気管支肺炎の程度が重症であったとまでは認めることができず,他に,本件全証拠を検討しても,上記時点におけるDの気管支肺炎が重症化していたと認めるに足りる証拠はない。 (エ)また,原告らは,気管支肺炎の重症度について特に限定しないまま,Dは気管支肺炎に起因してうっ血性心不全あるいは肺動脈血栓塞栓症を発症して死亡したと主張するが,上記(ウ)のとおり,仮に被告病院受診時にDが気管支肺炎を発症していたとしても,重症化していたとまではいえず,また,本件全証拠を検討しても,軽症あるいは中等症の気管支肺炎がうっ血性心不全あるいは肺動脈血栓塞栓症を惹起させる危険性が高いとの医学的知見の存在を認めるに足りる証拠も見当たらない。 エ以上の検討によれば,原告らの主張するDの死亡機序のうち,被告病院受診時においてDが気管支肺炎に罹患していたとの点及び同疾患に起因して死亡するに至ったとの点についても直ちには採用することができないというべきである。 (3)腎膿瘍についてア前提事実等によれば,Dは,2月9日に汚い尿が出た旨を訴えていたことが認められる。 ,,,,他方で被告病院初診時の尿検査の結果蛋白尿潜血が認められたが その程度は軽度であり,同時に行われた尿の塗沫検査によっても細菌は検出されなかったこと,被告病院初診時及び死亡直前のH病院における血液検査で血中尿素窒素(BUN,血中クレアチニン(CRE)の数値はい)ずれも正常値であったこと,CRPは高値であったが被告病院受診時から死亡直前にかけて増悪していないこと,2月26日及び同月28日の2回の超音波検査において超音波探触子(プローブ)を押し当てた際もDから腹部,腰背部の痛みが訴えられたことはなかったことのほか,尿路感染を疑わせる感染源への接触や39 と,2月26日及び同月28日の2回の超音波検査において超音波探触子(プローブ)を押し当てた際もDから腹部,腰背部の痛みが訴えられたことはなかったことのほか,尿路感染を疑わせる感染源への接触や39℃以上の高熱もなかったことが認められ,また,2月26日の超音波検査により,左腎中極には7.7×6.9㎝の腫瘤性の占拠性病変があり,カラードップラーでは血流が認められている。 イ剖検所見(肉眼的所見)前提事実等によれば,Dの剖検時における腎の肉眼的所見は,①腎臓重量は左腎が357グラム,右腎が183グラムで左腎臓は著明に重い,②左腎外側被膜下の皮質から腎盂にかけて灰白色の一見膿状のものが大量に貯留し,腎実質細胞が泥状に破壊され,一部は被膜を穿破して流出している(以下,同箇所を「本件左腎病変部位」という,③左腎の組織学的。)所見として,左腎臓皮質を中心に大量の好中球の浸潤がみられるというものであった。 ウ検討(ア)剖検時における腎がんの存否についてDの剖検時にL医師が作成した左腎髄質の組織染色標本(腎盂から髄質,皮質にかけての組織を染色,標本化したプレパラートにしたもの)に関する組織学的な検討からすると,膿瘍が発生している場合に通常みられる炎症細胞(好中球やリンパ球がばらばらに飛び散っているような所見)はなく,むしろ,境界が比較的明瞭で一様な細胞が隣接していること,細胞内の核の比率が大きくなっていること,その細胞と考えられ る中に小血管が存在し,血流もあったこと(生きている異型細胞が存在したこと)が認められる(証人L,同M。 )また,前記のとおり,2月26日の超音波検査(カラードップラー検査を含む)においてDの左腎中極に血流を伴う腫瘤性病変の存在が指。 摘されているところ,その超音波所見及び診断は,上記の組織学的検討の結果と 前記のとおり,2月26日の超音波検査(カラードップラー検査を含む)においてDの左腎中極に血流を伴う腫瘤性病変の存在が指。 摘されているところ,その超音波所見及び診断は,上記の組織学的検討の結果とも合致するところである。さらに,発熱及びCRP値の増加といった血液検査所見は,悪性腫瘍が存在する場合にも見られることが認められる。 このような検討からすれば,本件左腎病変部位には,Dの被告病院受診時において既に腎盂から髄質,皮質にかけての腎がんが存在していたことは明らかであり,他に同認定を覆すに足りる証拠はない(この点,L医師は,証人尋問前においては,本件左腎病変部位について腎膿瘍で,,あるとし腎がんの可能性について特段の指摘をしていなかったものの証人尋問において,左腎の腎がんの存在も肯定できるとの説明を行っていることから,Dの左腎に腎がんが存在したことはM医師及びL医師の共通の見解となっている。 。)(イ)腎がんと腎膿瘍の合併の有無について原告らは,本件左腎病変部位に腎がんが存在したとしても,剖検時の肉眼的所見等に照らせば,その周囲には膿瘍が存在していたのであるから,被告病院受診時において腎がんと合併して腎膿瘍も発症していたと主張する。そこで,この点について検討する。 ①上記アのとおり2月9日ころに汚い尿が出たとのDの訴えは,この時点での腎疾患の存在を一応疑わせるものといえる。 また,L医師は,剖検時における本件左腎病変部位の状態につき,実質細胞が泥状に破壊されて,あたかも膿のように流出していたものであり,これは膿瘍であると判断されるが,純粋に腎感染症由来の膿 瘍であるとはいい切れず,腫瘍そのものかそれに由来する病変である可能性も否定できないと供述している(甲B22,証人L。なお,L医師は,剖検所見等においては,本件左腎病 ,純粋に腎感染症由来の膿 瘍であるとはいい切れず,腫瘍そのものかそれに由来する病変である可能性も否定できないと供述している(甲B22,証人L。なお,L医師は,剖検所見等においては,本件左腎病変部位は膿瘍であるとの前提で死因の考察を行っているが,上記供述の範囲で従前の見解を実質的に変更している。 。)また,M医師も,左腎の実質細胞に腎がんの腫瘍が存在していたことはまず間違いなく,上記の「泥状」部分についても腎がんの腫瘍部位が破壊されたものと考えるその外側に炎症性変化膿瘍が広がっ,()ていたと考えることもできるが,同部位の組織細胞診を経ない限り,それが膿瘍であるか腫瘍細胞であるかの確定的な鑑別はできない(なお,前提事実等のとおり上記「泥状」部位の組織染色標本は作成されていない,ただし,膿瘍があったとしても,それは腫瘍由来のも。)ので肺等の局所性の細菌感染巣から血行性に感染を起こして発生したものではない可能性が高いとの意見を述べている(乙B6,10,証人M。 )②他方,Dの血液検査結果のうち,腎機能障害,腎不全を来している場合に通常は中・高度に上昇するはずの検査数値(BUN,CRE)は,被告病院初診時から継続して正常値を示していること,CRP値も被告病院初診時から死亡直前までその数値にほとんど変動はない(さらに,前記のとおり,CRP値は悪性腫瘍によっても上昇することがある)こと,尿検査の結果によっても有意な細菌の存在を示す。 所見は見当たらなかったこと,Dからは被告病院受診時の診療ないし腹部超音波検査に際して腹部,左腰背部の痛みが訴えられたことはなかったことが指摘でき,これらの所見は,腎の炎症性変化の存在とは必ずしも整合せず,あるいは矛盾する所見といえる。 ③上記(2)のとおり,Dには死亡時に気管支肺炎が存在し 部の痛みが訴えられたことはなかったことが指摘でき,これらの所見は,腎の炎症性変化の存在とは必ずしも整合せず,あるいは矛盾する所見といえる。 ③上記(2)のとおり,Dには死亡時に気管支肺炎が存在していたと しても,それが重症化していたとはいえないことからすれば,気管支肺炎を原発とした局所性の感染症が起炎菌の血行性転移により腎に炎症を発症させたというのも,いささか考え難い経過といえる。 ④以上の検討を総合すれば,死亡時において,本件左腎病変部位に腎膿瘍が合併していたと解する余地がないとまではいえないとしても,腎膿瘍を発症していた蓋然性を肯定することもできず,そうすると,被告病院受診時において,既に左腎に腎膿瘍を発症していた可能性を否定することもできないが,逆に,同疾患を発症していた蓋然性を肯定することもできない。 これに対し,原告らは,腎膿瘍の発症箇所が尿路と交通していない限り尿検査所見に細菌感染を示す数値が現れないこともあるから,尿検査の結果とDに腎膿瘍が存在したこととは矛盾しないと主張する。 なるほど,前提事実(7)エのとおり,原告ら主張の現象は臨床上もまま見受けられることが認められるが,前記のとおり,剖検時において本件左腎病変部位について肉眼的にも相当広範囲に組織破壊が進んでいたことが認められるのであって,被告病院初診時から上記のような大規模な腎の組織破壊が細菌感染の結果として生じていたとすれば,尿検査上はもとより,バイタルサイン,他の血液検査の結果においても相当の増悪所見が現れるのが通常と解されるところ,そのような有意な臨床所見は得られていないことからすれば,やはり原告らの上記主張は採用することができない。 エ以上の検討によれば,原告らの主張するDの死亡機序のうち,被告病院受診時においてDが腎膿瘍に罹患していたとの点及 は得られていないことからすれば,やはり原告らの上記主張は採用することができない。 エ以上の検討によれば,原告らの主張するDの死亡機序のうち,被告病院受診時においてDが腎膿瘍に罹患していたとの点及び同疾患に起因して死亡するに至ったとの点についても直ちに採用することができないというべきである。 (4)以上の検討によれば,Dが被告病院受診時に全身性の細菌感染症(敗 血症あるいは敗血症性ショック)又は局所性の感染症に罹患しており,これらに起因してうっ血性心不全あるいは肺動脈血栓塞栓症を発症して死亡したという死亡原因に係る原告らの主張は,いずれも理由がないというべきである。 (5)Dの死亡原因について上記のとおり,Dの死亡が原告ら主張の感染症に起因するとは認められないが,事案にかんがみ,本件の証拠から想定し得るDの死亡原因について検討しておくこととする。 ア本件において,Dが終局的に心不全を発症して死亡するに至ったことは当事者間に争いがない(この心不全の発生原因が争点である。 。)しかして,前提事実等によれば(ア)剖検時におけるDの心臓は,左,心室に50cc,右心室に320ccの血液貯留があり,剔出時130cc以上の暗赤色流動性血液を容れていたこと(イ)2月22日の被告病,,,院初診時における胸部聴診の際に心雑音はなかったことが認められまた証拠(甲A3,乙A9,10,B10,証人L,証人M)及び弁論の全趣旨によれば,①剖検時のDの心臓所見からは,急性の左心不全を起こすよ,,,うな疾患は存在しなかったこと②冠動脈に有意な狭窄所見はなくまた組織学的な見地からの心筋炎や心筋梗塞の所見もみられず,致死性急性心不全や不整脈が生じたことを窺わせる所見もなかったこと,③その他,Dの心臓にそれ自体として急性心不全の原因となり得る 所見はなくまた組織学的な見地からの心筋炎や心筋梗塞の所見もみられず,致死性急性心不全や不整脈が生じたことを窺わせる所見もなかったこと,③その他,Dの心臓にそれ自体として急性心不全の原因となり得る疾患の存在は認められなかったことが認められる。 以上によれば,Dは右心を中心とした心不全の状態に陥って死亡したものと解されるところ,これは心臓の原疾患(狭心症,冠動脈梗塞に起因する心筋虚血,不整脈)に由来するものではないということができる。 イ肺動脈血栓塞栓症による心不全の発症可能性について前提事実等によれば,上記アの所見のほか,Dの剖検時に左肺門部の肺 動脈主幹部分岐部に4.0×2.0×1.5㎝の赤色の新鮮血栓菌()()(塊等を含む疣贅(vegetation)を内容としない赤血球成分由来のものと考えられる)が付着しており,これが同血管をほぼ完全に閉塞していたこ。 とが認められる。また,死亡時のDの心臓は右心に著明に血液が滞留していたことが認められ,これが心臓固有の疾患により生じた可能性が低いことは前記説示のとおりである。そうすると,Dの右心の血液滞留については,右心室から始まる肺循環に一定の障害が生じて右心に相当程度の負荷が掛かった結果生じたとの可能性を指摘することができる。 さらに,前提事実等によれば,Dは,体調不良ながらも2月22日,同月26日,同月28日には被告病院を受診しており,また,このころは原告Aに自動車で送り迎えをしてもらいながら通勤も継続していたところ,死亡当日の3月2日には,午前9時20分ころに起床して朝食を少し摂った後,原告Cが勉強をしているのを自宅居間のソファーに座ってみていたところ午前10時ころに容態が急変し原告Aが外出先から直ぐさま戻っ,,た段階で既に呼吸停止の状態にあったというのであ を少し摂った後,原告Cが勉強をしているのを自宅居間のソファーに座ってみていたところ午前10時ころに容態が急変し原告Aが外出先から直ぐさま戻っ,,た段階で既に呼吸停止の状態にあったというのであって,いわゆる突然死といえる態様であったといえる。 このようなDの剖検所見,被告病院受診中の臨床所見,検査所見及びDの死亡に至った具体的経緯に前提事実(7)オの肺動脈血栓塞栓症に関する医学的知見を併せると,Dは,3月2日午前10時ころ突発的に左肺門部の肺動脈主幹部に血栓子による完全塞栓が生じ,右心から左肺への肺動脈の血流が途絶した結果右心に高度の負荷がかかったことで,右心に肺高圧症に伴う心原性ショックを発症し(前述の顕微鏡的検索により認められた肺水腫もこの心不全に基づく肺循環不全に起因している可能性も否定できない。また,これに加えて,左心からの心拍出量の減少により脳ないし冠動脈血流の減少に由来する左心不全等を合併した可能性も否定できない,突発的に心停止の状態に陥って死亡したと想定するのが,Dの診。) 療経過,関係する医学的知見と最も整合するものというべきである(M医師も同趣旨の意見である(証人M,乙B10。 )。)ウ原告らの反論について(ア)これに対し,原告らは,肺動脈血栓塞栓症の原因となる血栓の母地は深部静脈領域とされているところ,剖検時には膝窩静脈内には血栓がなかったことが確認されているから,Dには静脈血栓はなかったと主張する。 なるほど,前提事実(7)オのとおり,血栓塞栓の要因は,一般的に①血流の緩徐,②血液凝固の亢進,③血管壁障害とされ,血栓の発生部位も右心系の深部静脈が最も多いところ,証拠(証人L)によれば,L医師が,剖検時において,膝窩静脈内に血栓がなかったことを確認したほか,その他血栓の発生する可能性がある血 壁障害とされ,血栓の発生部位も右心系の深部静脈が最も多いところ,証拠(証人L)によれば,L医師が,剖検時において,膝窩静脈内に血栓がなかったことを確認したほか,その他血栓の発生する可能性がある血管についても検索したところ,血栓は存在しておらず,血栓が存在した徴候もなかったことが認められる。また,O医師は,左肺門部の血栓につき,致死性の敗血症性の肺塞栓である可能性あるいは死線期に二次的にできた可能性もあり,血栓子が下肢静脈から飛んできたとは断定できないとの意見を述べている(甲B23。 )しかし,L医師も大腿骨,中位,上位の血管については血栓の有無を確認しなかったところ,その未検索の部位に血栓が存在していた可能性もあることが認められる(証人L,同M)し,致死性敗血症により肺塞栓が生じる可能性については,前記のとおりDが敗血症を発症していた可能性が低いこと,Dの左肺門部の血栓は,赤血球成分が主体の血栓で,(,())あり敗血症性血栓白血球や細菌壊死物を主体とするもの乙B7とは異なるものといえることからして,否定的に解される。よって,原告らの上記主張は採用することができない。 (イ)また,原告らは,仮にDが肺動脈血栓塞栓症を発症していたとし ても,肺動脈血栓塞栓が生じたのは左肺のみであり,血管床の閉塞割合としては高くないから,これだけで心原性ショックをもたらすほどの著しい右心負荷がかかったとは考えられないと主張する。 しかして,前提事実(7)オのとおり,Massive PEは,全肺血管床の30%以上が血栓子によって急激に閉塞された場合に発生し,急性の肺高圧症,右心不全を経て,ショックを招来するとされている(また,二次的に左心機能障害を来たし,これによってもショックに陥ることがあるとされている)ことからすれば,血栓子による閉 合に発生し,急性の肺高圧症,右心不全を経て,ショックを招来するとされている(また,二次的に左心機能障害を来たし,これによってもショックに陥ることがあるとされている)ことからすれば,血栓子による閉塞が左肺のみに。 生じただけでも十分にショックの原因となると解されるのであって,左肺のみに肺動脈血栓塞栓症が生じただけで死亡原因とはならないとはいい切れない(M医師の証言も同旨である。なお,L医師は,片肺の肺動脈血栓塞栓症だけで死亡に至った症例は経験がないと証言するが,肺動脈血栓塞栓症の死亡機序に係るエビデンスに基づく説明といえないことは明らかであり,上記の認定を覆すに足りない。したがって,原告。)らの上記主張もまた採用することができない。 (ウ)さらに,原告らは,Dは気管支肺炎と肺動脈血栓塞栓症とが合併して死亡したものであるから,気管支肺炎に起因する死亡であることに変わりはない旨主張する。 なるほど,前提事実(7)オのとおり,基礎心肺疾患を有する場合には,より軽度の閉塞でもショックを来し突然死に至ることがあるとされている。 しかし,前記のとおり被告病院受診時においてDが重症の気管支肺炎に罹患していたとはいえない上,軽症ないし中等症の気管支肺炎が肺動脈血栓塞栓症と合併した場合に予後にどの程度の影響を与えるかについては,これを窺わせる証拠は見当たらない。また,前記のとおり,肺動脈血栓塞栓症は,肺循環不全そのものに起因する右心系の心原性ショッ クを招来する場合のみならず,左心系の拍出量の減少による低酸素性の左心のショックを来す場合もあるというのであって,その場合には基礎心肺疾患が有意に死亡結果を招来したということもできないことになる。さらに,Dにつき気管支肺炎が存在しなければ死亡に至らなかったことを医学的見地から窺わせる証拠も存在し のであって,その場合には基礎心肺疾患が有意に死亡結果を招来したということもできないことになる。さらに,Dにつき気管支肺炎が存在しなければ死亡に至らなかったことを医学的見地から窺わせる証拠も存在しない。よって,原告らの上記主張は採用することができない。 被告医師らの義務違反の有無(1)感染症の発見,治療の遅滞について上記2のとおり,Dの死亡原因として全身性の感染症(敗血症及び敗血症性ショック)や局所性の感染症が関与したと解することは困難であり,むしろ,Dは肺動脈血栓塞栓症に起因する心不全により死亡するに至った可能性が高いといえるから,Dが感染症に起因して死亡したことを前提として被告医師らの義務違反をいう原告らの主張は,その前提を欠き,理由がないというべきである。 なお,仮にDが被告病院受診時において局所性の感染症に罹患していたとしても(上記2(1)に説示したとおり,同時期にDが敗血症や敗血症性ショックの状態になかったことは明らかである,被告医師らに原告ら主。)。 。 張の義務違反があるということはできないその理由は以下のとおりであるア初診時(2月22日時点)における義務違反の有無上記1(1(2)アの臨床経過からすると,微熱の継続,発熱,炎),症マーカー(血沈,CRP値)の異常値は,感染症を含む炎症疾患を疑わせる所見ということができる。 しかし,G内科での抗生物質の投与によっても根本的な解熱効果は得られておらず,38℃あるいは39℃台の高熱が恒常的,継続的に現れていたわけでもなかったし,白血球数が異常値を示しておらず,胸部レントゲン検査及び胸部聴診によっても肺炎症状は現れていなかったほか,背腹部 痛や高熱,顕著な尿蛋白,潜血反応等の腎臓疾患ないし尿路感染を疑わせる所見もなかったのであり,また,上記の炎症マーカーも トゲン検査及び胸部聴診によっても肺炎症状は現れていなかったほか,背腹部 痛や高熱,顕著な尿蛋白,潜血反応等の腎臓疾患ないし尿路感染を疑わせる所見もなかったのであり,また,上記の炎症マーカーも,感染症の一つの指標ではあるものの,同疾患に特異的なものではない。 これらの点にも照らせば,Dについては被告病院初診時において気管支肺炎や腎膿瘍といった局所性の感染症の発症を疑うべき所見が顕著に現れていたとはいえず(少なくとも,重症感染症の罹患を疑わせる所見に乏しかった,むしろ,抗生物質を服用しても改善が見られなかったことか。)らして発熱や炎症所見の原因疾患として細菌感染症以外の疾患に起因する可能性があったといえるから,被告Bにおいて,感染症の発症を疑っての,,更なる検査や治療をすべき義務を負っていたとまでは解されずそれゆえ更なる検査や投薬を行わないまま同月28日の再受診を指示して経過観察としたとしても,そのことをもって同被告の義務違反を肯定することはできない。 イ2月26日時点における義務違反の有無,,,同日においてはDに対し腹部超音波検査が実施されたのみであって被告医師らを含む被告病院医師による診察は実施されていないから,同日において被告医師らの義務違反を観念することはできない。 ウ再診時(2月28日時点)における被告Bの義務違反の有無(ア)前提事実等によれば,同日の診察時において,Dの臨床所見は初診時とほぼ変わりがなく,血液検査の結果は,CRP値についてはほとんど前回と変わりはなかったが,血漿蛋白分画(アルブミン,グロブリン)に異常値が現れたこと,26日の超音波検査において,左腎に腫瘤性病変の存在が指摘され,カラードップラーで病変部位に血流が認められていたことから,被告Bは,左腎の腎がんを疑い,被告病院泌尿器科に ン)に異常値が現れたこと,26日の超音波検査において,左腎に腫瘤性病変の存在が指摘され,カラードップラーで病変部位に血流が認められていたことから,被告Bは,左腎の腎がんを疑い,被告病院泌尿器科にコンサルトしたことが認められる。 (イ)以上の経過によれば,2月28日の内科外来での診察時点におい ても,感染症を発症していることを窺わせる典型的な所見が現れておらず,少なくとも重症感染症の罹患を疑わせる所見に乏しかったことは,上記アに説示したところと同様であり,かえって,腹部超音波検査により左腎に腎がんを疑わせる血流を伴う腫瘤性病変の存在を指摘することができたというのであるから,悪性腫瘍により発熱及びCRP値が上昇することもあることを考え併せれば,被告Bにおいて,感染症の発症を疑っての更なる検査や治療をすべき義務を負っていたとはいえず,それゆえ,更なる検査や治療を行わないまま,腎がんを疑って泌尿器科にコンサルトしたことをもって義務違反をいうことはできない。 エ2月28日時点における被告Fの義務違反の有無(ア)前提事実等によれば,同日の被告Fの診察時においては,既に上記ア及びウ(ア)のとおりの所見が得られており,同被告は,同日の腹部超音波検査によっては特段の異常所見は得られなかったが,26日の超音波検査において左腎に腎がんを疑わせる占拠性病変が認められたことから,不明熱の原因についても腎がん由来のものであることを疑い,また,腹部CT検査の必要性を感じたが,CT検査が3月13日に予約済みであり,また,腎がんがそれまでに急激に進展することはないとの判断から,同検査予定日の翌日である3月14日に再診予約をし,経過観察としたことが認められる。 (イ)以上の診療経過からすれば,被告Fの診療時においても,感染症を疑わせる臨床及び検査所見が顕 との判断から,同検査予定日の翌日である3月14日に再診予約をし,経過観察としたことが認められる。 (イ)以上の診療経過からすれば,被告Fの診療時においても,感染症を疑わせる臨床及び検査所見が顕著に現れていたとはいえず,重症感染症の発症を疑わせる所見に乏しく,むしろ,本件左腎病変部位に腎がんを強く疑わせる所見が現れていたということができる。なお,Dに疑われた腎がんが直ちに生命に危険を及ぼす程度のものであったと認めるに足りる証拠はない。 それゆえ,被告Fにおいて,感染症の発症を疑って更なる検査や治療 をすべき義務を負っていたとは解されず,経過観察としたことをもって直ちに同被告の義務違反を肯定することはできない。 (2)説明義務違反について原告らは,被告医師らにおいて,Dに対し,細菌感染症の可能性があること,細菌感染症については重篤な転帰をたどることがあること,確定診断にはCT検査が重要であることについて説明する義務があったにもかかわらず,これを怠ったと主張する。 そして,この点に関する原告らの主張は,その説明義務違反があったために,①Dのいわゆる自己決定権が侵害され,また,②Dが感染症に罹患して死亡したことをいうものと解される。 しかしながら,まず,上記②の主張については,前記のとおりDの死亡が感染症に起因するものであるとは認められないから,説明義務違反の有無について検討するまでもなく理由がないというべきである。 また,上記①の主張についてみても,その主張はDが被告病院受診時において細菌感染症に罹患していたことを前提とするものであると解されるところ,これまでに判示したとおり,Dが被告病院受診時において細菌感染症に罹患していたとは認めるに足りないから,その前提を欠き,理由がないというべきである(なお,仮に,事後的・客観的にみてDが れるところ,これまでに判示したとおり,Dが被告病院受診時において細菌感染症に罹患していたとは認めるに足りないから,その前提を欠き,理由がないというべきである(なお,仮に,事後的・客観的にみてDが被告病院受診時において細菌感染症に罹患していたといえるとしても,これまでに判示したとおり,当時,感染症を疑わせる顕著な所見や検査結果はなく,少なくとも重症感染症を疑わせる所見や検査結果はなかったのであるから,原告ら主張のような説明義務があったということはできない。 。)したがって,この点に関する原告らの主張も理由がない。 結論 以上の次第で,原告らの本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないというべきである(なお,付言するに,Dの死亡原因 については必ずしも明確でない点もあり,L医師が,従前からDは重症感染症に起因して死亡したものであると原告らに説明しており,本件左腎病変部位について腎膿瘍以外の病変(腎がん)である可能性を指摘していなかったことからすれば,原告らがL医師の上記説明を踏まえて本訴を提起したことも理解し得るところであるし,被告病院を受診中であったにもかかわらず一家の大黒柱である夫あるいは父親を突然に失ったことによる原告らの無念さも察するに余りあるところであるが,上記の検討のとおり,被告らに損害賠償義務を負わせることはできないというべきである。 。)よって,原告らの本訴請求をいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第14部貝阿彌誠裁判長裁判官片野正樹裁判官西田祥平裁判官 事第14部貝阿彌誠裁判長裁判官片野正樹裁判官西田祥平裁判官

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