令和3刑(わ)46 贈賄,政治資金規正法違反

裁判年月日・裁判所
令和3年10月6日 東京地方裁判所
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判決文本文4,745 文字)

令和3年10月6日東京地方裁判所刑事第10部宣告令和3年刑第46号,令和3年特第290号贈賄,政治資金規正法違反被告事件判決 主文 被告人を懲役1年8月に処する。 この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,広島県福山市a町b丁目c番d号に本店を置き,鶏卵の生産・販売等 に関する事業を行う株式会社A(平成31年3月31日以前の商号は株式会社B。)の代表取締役としてその業務全般を統括するとともに,養鶏生産物の需給安定等に関する事業を行う一般社団法人Cの特別顧問等としてCを実質的に運営してその業務全般を統括し,かつ,養鶏産業の安定的な発展のために養鶏産業の経営に関する情報の提供等の事業を行う一般社団法人Dの代表理事等としてその業務全般を統括 していたものであるが,第1 平成30年10月2日から令和元年9月11日までの間,農林水産大臣として,農畜産物の生産,家畜の衛生,農業技術の改良・発達,農林水産業の振興のための金融上の措置に関する企画・立案・助成及び株式会社日本政策金融公庫(以下「公庫」という。)の業務の監督に関することなどを所掌する農林水産省(以下「農 水省」という。)の事務を統括し,農水省職員の服務を統督する職務に従事し,かつ,公庫の主務大臣として,公庫の業務の方法について認可権等を有していたEに対し, 1 国際獣疫事務局が定める採卵鶏の飼養に関する規約修正案に対して農水省として反対意見を取りまとめるなど,C及びDの各事業等にとって有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨の下に,平成30年11月21日,東京都千代田区e 町f丁目g番h号所在のホテルFにおいて,現金200万円を供与し めるなど,C及びDの各事業等にとって有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨の下に,平成30年11月21日,東京都千代田区e 町f丁目g番h号所在のホテルFにおいて,現金200万円を供与し, 2 前記規約修正案に対する農水省としての反対意見の取りまとめなどにつき有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨の下に,平成31年3月26日,東京都千代田区ij丁目k番l号所在の農水省農林水産大臣室において,現金200万円を供与し, 3 前記2と同様の趣旨に加え,中小養鶏業者に対する公庫による資金貸付条件 を緩和するなど,C及びDの各事業等にとって有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨の下に,令和元年8月2日,前記大臣室において,現金100万円を供与し,もってそれぞれEの職務に関して賄賂を供与した。 第2 Aにおいて,同社の名義以外の名義で政治資金パーティーの対価の支払を 行うことを企て, 1 Gを代表者とする政治団体H及びIを代表者とする政治団体Jが平成31年2月18日に開催する政治資金パーティー「2019年合同新年交歓会」の対価234万円の支払として,広島県福山市m町n番o号所在の株式会社K銀行L支店に開設された株式会社B名義の当座預金口座から,広島市p区qr丁目s番t号所在 の株式会社M銀行N支店に開設されたH支部長G名義の普通預金口座に,平成31年1月31日,別表1のとおり,Oほか11名の名義で合計234万円を振込送金し, 2 前記Eを代表者とする政治団体Pが令和元年8月6日に開催する政治資金パーティー「衆議院議員E政経セミナーinTOKYOランチセミナー」の対価30 0万円の支払として,前記株式会社K銀行L支店に開設された株式会社A名義 団体Pが令和元年8月6日に開催する政治資金パーティー「衆議院議員E政経セミナーinTOKYOランチセミナー」の対価30 0万円の支払として,前記株式会社K銀行L支店に開設された株式会社A名義の当座預金口座から,東京都千代田区e町u丁目v番w号所在の株式会社Q銀行R支店に開設されたE政経セミナー事務局S名義の普通預金口座に,令和元年7月23日,別表2のとおり,Oほか14名の名義で合計300万円を振込送金し,もってそれぞれ本人の名義以外の名義で政治資金パーティーの対価の支払をした。 (量刑の理由) 1 本件は,鶏卵の生産・販売等を営むAの代表取締役として同社の業務全般を統括し,また,養鶏業者に関わる事業等を行う2つの団体を実質的に運営・統括していた被告人が,①その当時の現職の農林水産大臣に対し,両団体の各事業等にとって有利かつ便宜な取り計らいを受けたいなどといった趣旨の下に現金合計500万円を供与した贈賄3件と,②A代表取締役として,同社において,上記大臣及び 別の国会議員を代表者とする政治団体が開催する政治資金パーティー2回分の対価(234万円及び300万円)を他人名義で支払ったという政治資金規正法違反2件の事案である。 2 まず,贈賄の犯情について検討する。 被告人は,国際獣疫事務局が定める規約に関し,採卵鶏の飼養に関するアニマル ウェルフェアの向上に向けた具体的指針を示すなどした規約修正案が採択されれば,日本の風土における養鶏の実情に照らし,養鶏業者が生産設備の大幅な変更等を余儀なくされてその経営が壊滅的な打撃を受け,鶏卵の安定供給にも悪影響が生じるであろうことを懸念しており,それを防ぐためには,農水省において上記修正案に対する反対意見を取りまとめるように働きかける必要があると考えていた。ま 壊滅的な打撃を受け,鶏卵の安定供給にも悪影響が生じるであろうことを懸念しており,それを防ぐためには,農水省において上記修正案に対する反対意見を取りまとめるように働きかける必要があると考えていた。また, 被告人は,公庫による融資総額の制限等があることを理由にAが求めていた融資を公庫から断られていたことや,中小養鶏業者の経営が悪化して運転資金の確保に窮している状況を聞いていたことを背景に,公庫による融資条件の緩和や融資額の拡大が必要であると考えていた。そのような中,被告人は,農林水産行政における最高責任者であり,公庫の主務大臣でもある農林水産大臣に対し,上記の考えに基づ いた陳情等を行っていたところ,それぞれ判示の趣旨の下に,自らの主体的判断で積極的に3回にわたって多額の現金を賄賂として繰り返し供与した。 国際獣疫事務局加盟国としての意見表明をするに当たり,上記規約修正案に対して農水省としてどのように意見をとりまとめるのかは,養鶏業界の生産者及び鶏卵消費者の利害に加えて,国際情勢や他の業界等も視野に入れた鳥瞰的視点からの政 策判断が求められる重要な事項であり,また,公庫の資金貸付条件をどのように設 定するかは,民間金融機関との協調融資の在り方や農林水産業振興のための金融上の措置として限りのある公的資金をどのように使うかといった,農林水産行政全体を見渡した利害調整を含む政策判断が求められる重要な事項である。被告人は,これらの重要な政策判断に関し,現職大臣に現金供与することにより強い影響を及ぼそうとしたものであって,それ自体,公務員の職務の公正とこれに対する社会一般 の信頼を大きく害するものである上,本件各贈賄に伴い,実際に,上記規約修正案への対応に関し,養鶏業者と農水省担当者の間での打合せや,これらの者に国会議 ,公務員の職務の公正とこれに対する社会一般 の信頼を大きく害するものである上,本件各贈賄に伴い,実際に,上記規約修正案への対応に関し,養鶏業者と農水省担当者の間での打合せや,これらの者に国会議員を加えた陳情会議の開催といった前例のない便宜供与が行われるなどし,本件が広く報道されたこともあって,本件各贈賄行為は,農林水産行政や国政等に対する国民の信頼を大きく害する結果をもたらしたものであり,その社会的悪影響も大き い。 被告人は,専ら自分自身や自社の利益のみを追求していたのでなく,自己の属する養鶏業界全体の利益を守ることを目的として本件各贈賄行為を行ったというのであるが,特定の業界利益といった狭い視野に基づく考えであり,国民全体を見渡す幅広い視野から政策判断を行うべき立場にある農林水産大臣に対する現金供与とい う不正手段を用いた動機として酌むべき点があるということはできない。また,農水省の担当職員は当初より規約修正案に対して反対意見を提出することを念頭においており,被告人の行為によってその政策判断自体が歪められたとは認められないが,本件のような政策実現を目的とした贈賄行為は,正当な政策であっても実現するためには不正な手段を講じなければならないかのような風潮を招きかねず,政策 判断が現に歪められたか否かは,本件において犯情を大きく左右するものとはいえない。 3 次に政治資金規正法違反の犯情を検討する。 政治資金規正法は,政治団体等による政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため,政治資金の収支の状況を明らかにすることにより,政治 活動の公明と公正を確保することを目的として,政治団体が開催する政治資金パー ティーについては,政治資金パーティーの対価として20万円を超える金額を支払っ らかにすることにより,政治 活動の公明と公正を確保することを目的として,政治団体が開催する政治資金パー ティーについては,政治資金パーティーの対価として20万円を超える金額を支払った者の氏名等を報告することや(同法12条1項1号ト),一つの政治資金パーティーにつき150万円を超える対価を支払ってはならないこと(同法22条の8第3項)等を定めている。それにもかかわらず,被告人は,Aが特定の国会議員に関して多額のパーティー券の購入をしたと公表されてAに不利益が生じることを避け るため,Aが政治資金パーティーの対価を支払ったにもかかわらず,その支払名義を他人名義とすることにより,一人当たりの対価支払額が20万円以下であるかのように偽装した。このような犯行は,上記各規制を潜脱し,政治資金規正法の趣旨を踏みにじるものであって身勝手で悪質である。その犯行態様は,Aの経営者である被告人が同社の役員や従業員らの名義を無断で,あるいはその了解を得て使用す るなどして,多くの者を違法行為に巻き込み会社ぐるみで行うというもので,常習性も認められる。 4 以上のとおり,本件各犯情はいずれも悪く,この種事犯を抑止する一般予防の見地からみても,厳しい処罰が必要とされる。 他方で,被告人は,別件により自社の捜索を受けたことを契機として,検察庁に 対して本件各犯行の詳細を自主的に申告して明らかにすると共に,長年にわたりその発展のために貢献してきた養鶏業界の一線を退く決意をし,CやDの各要職,A代表取締役の職をいずれも辞するなどしており,これらは被告人の真摯な反省の念を行動に表したものとして評価できる。その他,被告人の年齢,これまでの生活状況等の被告人のために酌むべき事情も考慮し,主文の量刑とした。 (求刑懲役1年8月) は被告人の真摯な反省の念を行動に表したものとして評価できる。その他,被告人の年齢,これまでの生活状況等の被告人のために酌むべき事情も考慮し,主文の量刑とした。 主文 (求刑懲役1年8月) 理由 令和3年10月21日東京地方裁判所刑事第10部 裁判長裁判官向井香津子 裁判官日野周子 裁判官清水洋佑 (別表省略)

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