- 1 -主文被告人を無期懲役に処する。 理由 【犯行に至る経緯】被告人は,平成12年1月に刑務所を仮出所後,更生保護施設で知り合ったa氏と入籍の上,同年11月来阪して,同女とともに会社の寮やその後転居したアパートに居住しながら,被告人は塗装会社で,aは風俗店でそれぞれ働いていたが,家庭生活ではアル中状態で気性の激しい同女との間で喧嘩が絶えず,被告人が同女に暴力を振るうようなことがあったことから,平成13年5月には,客の男性と懇意となっていた同女は,上記アパートを出て男性方で暮らし始め,翌6月被告人と離婚するに至った。 この間,被告人は,aとアパートでの生活を始めるに当たって,いずれも同女名義で,保証金等の入居費用をサラ金から借入れし,家電製品をクレジットカードで購入したため,合計約56万円の借金を負っていたが,さらに,同女との離婚に際しては,被告人が引き続き前記アパートに居住することを希望したため,同女との間で,同女名義になっている家賃や電気代については,今後被告人が滞納することなく支払い続けていく旨約束していた。 ところが,平成13年春ころから前記塗装会社での収入が減り始め,同年7月初旬には退職を余儀なくされたことから,収入の途が途絶えることとなり,被告人は,前記a名義での借金の返済はおろか,同女と約束した家賃や光熱費などの支払いさえも滞るようになってしまった。被告人とaとは離婚後も頻繁に会ったり連絡を取り合ったりしていたが,上記のような窮乏状況の下で,同女からローンや滞納家賃の支払いを催促されることもあったことから,被告人は,同年8月ころからは,aとの間で処分しないと約束していたアパートの家電製品を売却したり,カメラや腕時計まで質入れしたりするようになり,携帯電話も料金滞納により通話停止になる- 2 -など,被告人の窮 8月ころからは,aとの間で処分しないと約束していたアパートの家電製品を売却したり,カメラや腕時計まで質入れしたりするようになり,携帯電話も料金滞納により通話停止になる- 2 -など,被告人の窮乏状態は深刻なものとなっていた。 そのような中,被告人は,諸々の債務の清算には100万円くらいの金が必要だと考えるようになり,このような大金を一度に手に入れるためには,相当の現金があると思われる商店に侵入して金を奪うしかないと考え,同年8月15日,大阪市b区のc商店街にある紳士服店「甲」に2階から侵入した上,起き出してきた高齢の男性店主に対し,角材様のものでその頭等を殴り付けたり,両手足を電気コードで縛ったり,頭にビニール袋を覆い被せたり,さらしや電気コードを首に巻き付けて圧迫したりするなどして同店主を窒息死させて殺害した上,現金とキャッシュカードを強奪するという強盗殺人事件を起こすに至った(以下,これを「甲事件」という。)。 しかし,被告人は,思ったほど現金を奪うことができず,奪ったキャッシュカードについても,これで金を引き出そうとしたが失敗してしまい,また,奪った現金も,aとともに遊園地に行くなどして早々に使い切ってしまったことから,半ば自暴自棄になって,また商店に侵入して今度は強盗を働き,現金を強奪しようと考えるようになり,その犯行の対象を,以前買い物をした際に高齢の女性のみがいて,若い男性等はいなさそうな様子であることを認識しており,かつ,薬局だからかなりの現金があるのではないかと推測していた後記乙薬局に絞った。そして,同月25日ころから毎晩のように同薬局前まで行っては,実行の踏ん切りが付かないことを繰り返していたが,本件当日の同月28日夜,被告人は,同薬局前に赴いたところ,閉店作業中の後記d被害者を見かけたことから,強盗を実行に移そう ように同薬局前まで行っては,実行の踏ん切りが付かないことを繰り返していたが,本件当日の同月28日夜,被告人は,同薬局前に赴いたところ,閉店作業中の後記d被害者を見かけたことから,強盗を実行に移そうと決意するに至った。 【有罪と認定した事実】かくして,被告人は,平成13年8月28日午後9時ころ,現金を強奪する目的で,d被害者(当時84歳)が経営する大阪市e区fg丁目h番i号の「乙薬局」に,客を装い正面出入口から侵入した上,d被害者に話しかけたり商品を見るふりをしたりしながら,外から犯行が見えないようにするため,出入口付近にある開閉- 3 -ボタンを押してシャッターを閉めるとともに,同被害者を縛ったり猿ぐつわを噛ませたりするのに用いる物を探した。 ところが,このような被告人の様子から身の危険を感じたd被害者が店の奥の居住部分に逃げ出したことから,被告人は,同被害者を追いかけて捕まえ,大声を上げる同被害者に対し,その口を手でふさぎ,キッチンタオルを口の中に突っ込むとともに,その身体をつかむなどして畳の上に倒したものの,同被害者がなおも両手を使うなどして激しく抵抗してきたことから,ここに被告人は,同被害者を殺害して現金を強奪しようと決意し,その首を両手で数分以上にわたって強く絞め続け,同被害者を窒息死させて殺害した。 その上で,被告人は,店舗内や店舗奥の居住部分,更には同店2階の居住部分をも執拗に物色し,結局,店舗内のレジスターの中から現金約7万円(同被害者所有)を強奪するとともに,商品であるビタミン剤5点(販売価格合計8240円~8440円相当。同被害者所有。)も強奪するに至った。 【事実認定に供した証拠】〈省略〉【事実認定上の争点に対する判断】 争点の概要弁護人は,「有罪と認定した事実」のうち,被告人が強盗目的で,前記乙薬局(以 同被害者所有。)も強奪するに至った。 【事実認定に供した証拠】〈省略〉【事実認定上の争点に対する判断】 争点の概要弁護人は,「有罪と認定した事実」のうち,被告人が強盗目的で,前記乙薬局(以下「本件薬局」という。)に侵入した上,被害者を死亡させた事実自体は争わないものの,①被害者を死亡させたのは,抵抗する被害者ともみ合いになった結果に過ぎず,被告人には被害者の首を絞めた記憶はないなどとして,犯行態様と殺意について争い,被告人には強盗殺人罪ではなく強盗致死罪が成立するに止まる旨主張するとともに,②検察官が強奪金品として主張する現金約7万円やビタミン剤等数点については,いずれも合理的な疑いを容れない程度の立証がなされておらず,また,③被告人は,本件薬局に侵入した時点では,現金を奪う目的しかなく,物品を奪う目的はなかった旨主張している。 - 4 -そして,被告人も,公判廷において,弁護人の上記①③の各主張に沿う供述をする一方,②の主張に関しては,現金についてもビタミン剤についても奪った記憶がないと供述している。 当裁判所は,上記各争点について,前記「有罪と認定した事実」に記載したような認定に至ったわけであるが,以下では,まず被害の客観的状況を概観した上,上記各争点にいずれも関連する被告人の捜査段階での自白調書(検察官調書〔B3〕)の任意性・基本的信用性について検討を加え,これを踏まえて上記各争点について順次検討していくこととする。 被害の客観的状況とこれから推認できる事実(1)前掲関係証拠中の客観的証拠によれば,被害の客観的状況について以下の各事実を認めることができ,これらの点については当事者間でほぼ争いがない。 ア本件犯行の翌日である平成13年8月29日午前10時ころ,日頃から本件薬局の手伝いをしていた被害者の長女j氏が いて以下の各事実を認めることができ,これらの点については当事者間でほぼ争いがない。 ア本件犯行の翌日である平成13年8月29日午前10時ころ,日頃から本件薬局の手伝いをしていた被害者の長女j氏が本件薬局に赴いたところ,下記のとおり,本件薬局建物(2階建建物であり,1階正面出入口を入ると薬局の店舗となっており,その奥にある四畳半間や台所等と2階部分が被害者の居住部分となっている。)内が金品を物色された状態になっており,その後被害者の遺体も発見された。 (ア)1階店舗部分にあるレジは,コントロールキーが「登録」に合わせられ(なお,レジは,コントロールキーを上記のとおり「登録」に合わせた状態で,商品金額を打ち込んだ上,「現/預」キーを押すと,レシートが発行され,ジャーナルにも同記載がされるとともに,下部の引き出しが自動的に開く仕組みとなっている。),液晶表示板にも「2,450」と表示されたままになっており,レジの引き出しは閉まった状態であったが,これを開けると,中に入っていた現金は,1円玉57枚,5円玉12枚の合計117円のみであった。 (イ)また,1階四畳半間のこたつの上に,現金758円のみの入ったポーチ- 5 -や,現金5円のみの入った財布等が散乱していたほか,2階8畳間においても,タンスの引き出しが引き出されて,その前に引き出し内の衣類が散乱していた。 (ウ)さらに1階の更に奥にある浴室の入口付近には,三角形に切断されたキッチンタオル(ねじった状態のもの)が発見された。このタオルには,4箇所から唾液痕が認められたほか,後日被告人のDNA型と一致することが判明した皮膚片も付着していた。 (エ)そして,上記浴室内の浴槽の蓋を開けると,その中から,身体を折り曲げ,顔面各所に血痕・血汁の付着した被害者の遺体が発見された。 (オ) NA型と一致することが判明した皮膚片も付着していた。 (エ)そして,上記浴室内の浴槽の蓋を開けると,その中から,身体を折り曲げ,顔面各所に血痕・血汁の付着した被害者の遺体が発見された。 (オ)他方,被害者が店の売上金などを一時的に保管していた黒色ポーチは,所定の1階台所食器棚下段引き戸内から発見され,そのポーチの中には,黒色財布に入った31万1142円,封筒に入った1万6500円,その他の現金1万8020円が収められていた。 イそして,上記のとおり発見された被害者の遺体に対し,丙大学法医学教室のk教授により司法解剖が行われた結果,被害者の遺体は下記のような状態にあり,その死因は以下のとおりと判断された。 (ア)被害者の遺体の頸部には,最大で親指の頭大のものを含む皮膚変色が合計8か所ある。その中には皮下出血や筋肉内出血を伴っているものがあり,顔面から頭部にかけて皮膚がうっ血していることからも,これらは指で頸部を強く圧迫して生じた扼痕と考えられる。 (イ)(ア)のうち,皮膚変色が明瞭な左右各1か所の部位にはそれぞれ皮下に出血や筋肉内出血があることから,これらが最も強く圧迫された部位であり,指による圧迫であれば,左右の拇指による扼痕と考えられる。このうち,右側の変色部の周辺には皮膚陥没や皮膚陥凹といった皮膚のへこんだ痕が見られるが,これらは,頸部右側を拇指で強く圧迫した際,同じ場所を何度かグリグリと押したことにより皮膚のへこみが生じたものと考え- 6 -られる。 (ウ)また,(イ)以外の変色部も,左手の拇指以外の指や掌,右手の指などで圧迫された可能性が示唆される。 (エ)以上の扼痕等の状況から,被害者の死因は,扼頸,すなわち,首を絞められたことによる窒息であると判断される。そして,被害者の顔が赤黒くうっ血していることに照らすと 迫された可能性が示唆される。 (エ)以上の扼痕等の状況から,被害者の死因は,扼頸,すなわち,首を絞められたことによる窒息であると判断される。そして,被害者の顔が赤黒くうっ血していることに照らすと,犯人は,数分以上にわたって頸部を強く絞め続けたため,頸部の静脈が締まって心臓に血液が戻らない状態が続き,上記顔面のうっ血が強く生じたものと考えられる。 (2)そして,以上認定した被害の客観的状況に加え,前記j氏の供述(公判証言及び検察官調書〔A6,8(抄本)〕中の供述。以下「j氏の供述」という。)を総合すれば,j氏が本件薬局での手伝いを終えた前日の平成13年8月28日午後4時半~5時ころから同日の午後9時ころに被害者が閉店するまでの間に,本件薬局内に何人かが強盗に入って同店内の店舗部分や住宅部分を種々物色し,その際,被害者を絞殺して,その死体を浴槽内に隠したものの,結局,台所の食器棚内にあった多額の現金入りのポーチは見つけきらないまま逃走したことを容易に推認することができる。 被告人の自白調書〔B3〕の任意性・信用性前述のとおり,被告人は,公判段階で,強盗目的で本件薬局に侵入し,被害者を死亡させたという限度では事実を認めているものの,その犯行の詳細については記憶がないなどとして極めて曖昧な供述を繰り返しているのに対し,捜査段階では,前記「犯行に至る経緯」「有罪と認定した事実」に沿うかなり詳細な自白をしており,当裁判所も,この自白調書〔B3。以下「本件自白調書」という。〕に基本的に依拠して,前記諸事実(但し,強奪した現金の点を除く。)の認定を行っているので,以下,同自白調書の任意性・信用性について判断を示しておく。 (1)本件自白調書の任意性ア捜査段階における被告人の取調べや供述調書の作成等に関する客観的事実- 7 -経過検察事 っているので,以下,同自白調書の任意性・信用性について判断を示しておく。 (1)本件自白調書の任意性ア捜査段階における被告人の取調べや供述調書の作成等に関する客観的事実- 7 -経過検察事務官作成の捜査報告書〔A13〕によれば,捜査段階における被告人の取調べ経過,供述調書等の作成状況,この間の弁護人の接見状況等は,別紙「取調べ経過一覧表」に記載のとおりであることが認められ,この事実関係については当事者間でも争いがない。 これに加え,任意性の判断資料として取り調べた検察官作成の録音・録画状況等報告書〔A16〕,被告人の自供書2通〔B8,9〕に,被告人の公判供述も総合すると,被告人は,平成20年11月21日に逮捕されて以降,e警察署でl刑事及びm刑事による取調べを受けて,本件と甲事件のいずれについても否認を通していたが,同月27日には,2通の自供書〔B8,9〕を作成して本件と甲事件の両方について自白を始め,その後,同月29日には大阪地方検察庁におけるn検事の取調べにより自白に至る経緯に関する検察官調書〔B2〕が作成され,さらに,同年12月8日には,甲事件の前後から本件の状況等の全般にわたる本件自白調書が,翌9日には,自白に至る経緯に関する検察官調書〔B6〕がそれぞれ作成され,同日,これらの検察官調書の内容に関し,被告人の取調べ状況の録音・録画が行われた(その状況は,上記報告書〔A16〕添付のDVDに収められている。)ことが認められる。 イ任意性に関する弁護人の主張弁護人は,以上の客観的経過を前提に,警察での取調べにおいては,①m刑事が,被告人の意に反して,被告人の両親や,被告人が以前に一緒に暮らしていたo氏に会いに九州へ行った上,o氏から預かってきた自白を促す手紙を取調べの際に示したり,② l刑事やm刑事が,取調べの際,被 が,被告人の意に反して,被告人の両親や,被告人が以前に一緒に暮らしていたo氏に会いに九州へ行った上,o氏から預かってきた自白を促す手紙を取調べの際に示したり,② l刑事やm刑事が,取調べの際,被告人の母親や親戚,実家の近所の写真,o氏や飼っていた犬の写真を見せた上,「自供後に好きな写真をやる」と言って写真と引き替えに供述を迫るなどして,被告人を精神的に揺さぶり,また,利益誘導を行った結果,刑事の誘導のま- 8 -まに各種の自白調書が作成され,また,③n検察官による検察庁での取調べにおける被告人の自白は,前もってl刑事及びm刑事から警察での取調べと違うことを言わないように念押しされた上でなされたものであって,上記の警察での違法な取調べの積み重ねの成果としての反復自白にすぎないから,本件自白調書のみならず,自白に至る経緯について被告人が供述している検察官調書〔B2,6〕についても任意性がないと主張し,被告人も当公判廷においてこれに沿う供述をしている。 ウ当裁判所の判断そこで,当裁判所は,任意性の争点に関し,前記のような書証等を取り調べたほか,被告人質問とl刑事・m刑事の各証人尋問を実施したが,その結果,被告人の供述と両刑事の各証言の間には,o氏の手紙や写真を被告人に示した時期や,検察官の取調べに先立つやりとり等を中心に食い違いが見られ,これらの点について被告人の言い分を直ちに排斥するような決定的事情は見出せないことがわかったが,仮に被告人の公判供述を基本にするとしても,以下に述べるとおり,被告人の本件自白調書の任意性に疑いは生じないと判断した。 すなわち,まず①の点について見ると,被告人の供述によれば,被告人は,m刑事が九州に行くことについて抗議したが,最終的には,どうしても行くのであれば安心させるようなことを伝えてきてほしい 判断した。 すなわち,まず①の点について見ると,被告人の供述によれば,被告人は,m刑事が九州に行くことについて抗議したが,最終的には,どうしても行くのであれば安心させるようなことを伝えてきてほしい,また,以前飼っていた犬の写真をo氏からもらってきてほしいと頼んだというのであるから,m刑事が九州へ行ったことが被告人の積極的に望むところではなかったとしても,このことが被告人の捜査段階での供述に不当な影響を与えたものとは解し難い。また,九州でm刑事が預かってきたというo氏の手紙や写真についても,被告人がその存在を知らされたのは,いずれもm刑事が帰ってきた11月29日以降のことだというのであるから,前記のとおり,被告人が同月27日に自白を始めたこととの因果関係は認められない。そうである以上,- 9 -その後,o氏の手紙を取調べの最後に渡す旨言われたり,封筒を見せられたりしたことがあったとしても,これらが,l刑事やm刑事の誘導に従った供述を被告人に強いるような出来事であったとは考え難い。 次に,②の点については,一般的にも,被疑者の取調べにおいて同人や家族の過去の写真や家の近所の写真を示すこと自体は,被疑者に過去を振り返らせながら真の反省を促すための取調べ方法として直ちに不相当であるとはいえない。加えて,仮に,l刑事やm刑事から,これらの写真を取調べの最後にあげる旨言われたことがあったとしても,被告人自身が認めているとおり,自白の対価として写真を与えるという発言があったわけではなく,被告人の気持ちとして否認したらもらえないと思ったに過ぎないものである(なお,甲事件の裁判でも否認を通してきた被告人において,これらの写真の提供を受けることが本件及び甲事件を自白する対価に見合うものであったかどうかは甚だ疑問である。)。したがって,l刑事らの発言が (なお,甲事件の裁判でも否認を通してきた被告人において,これらの写真の提供を受けることが本件及び甲事件を自白する対価に見合うものであったかどうかは甚だ疑問である。)。したがって,l刑事らの発言が,被告人の自由な意思に基づく供述を困難にしたとは認められない。 さらに,③の点についても,そもそも①②の点が被告人の捜査段階での供述に不当な影響を与えたとはいえないだけでなく,被告人は,当時,ほぼ連日のように,本件弁護人の1人であるp弁護人との面会を重ね(取調べ経過一覧表によれば,前記自白開始の前後でも,同月25日には46分間,翌26日には41分間,自白開始当日の27日には21分間,その翌日の28日には27分間,その翌日で,前記検察官調書〔B2〕が作成された29日には50分間,それぞれ接見している。),同弁護人からは,事実に反することや記憶にないことを認めないように注意を受けていたこと,そして,この間警察や検察庁に対し,警察での取調べの違法性を指摘するような何らかの抗議めいたことが行われたことについては何らの立証もされていないことを考慮する必要がある。それだけでなく,12月9日の検察庁での取調べに関する録音録画のDVD〔A16〕には,被告人が,本件犯行状況について具体- 10 -的に説明するとともに,自供に至るまでの胸中について,概要以下のとおり,被告人が自ら積極的に,そして自身の言葉で迫真的かつ詳細に述べている様子が合計32分にもわたって録音録画されている。 「甲事件の犯行日である8月15日が来るたびに夜が怖かった。お経を上げてもらうと肩の荷が下りた感じがしていた。自分がやったという手紙を書こうとしたが書けなかった。迷っているうちにDNA鑑定のため採血され,本当は観念したが,取調べを受けるとどうしても構えてしまい,否認した。刑事が九州に りた感じがしていた。自分がやったという手紙を書こうとしたが書けなかった。迷っているうちにDNA鑑定のため採血され,本当は観念したが,取調べを受けるとどうしても構えてしまい,否認した。刑事が九州に行ってくれて,両親の話などを聞いた。父親が信用してくれていて有り難かったが,だましていてつらかった。母親が寝込んだと聞き,もし犯人だと言ったら倒れるのではないかと心配だったが,刑事が2回目に九州に行ったときには,正直に言ってくれと言っていたと聞いた。いろいろなことを聞くうちに,このまま楽をして終わるわけにはいかないと思うようになった。しかし,11月27日に自供書を書いてからも否認してしまった。これではいけないと思い,被害者らがなぜ殺されたのかを自分の口で教えてあげなければならないと思った。すべて話して被害者らも成仏してもらえばいいと思った。きちんと覚えていることを話すつもりだが,記憶していないところも多い。乙事件だけでなく甲事件についても話さなければならないと思っている。」このような録画時の様子やこれと相通ずる内容の心境を述べる検察官調書〔B2〕の供述内容に照らせば,むしろ,被告人が自由な意思によって自白に至ったことが推認され,ことに上記録音録画の前日に作成された本件自白調書については一層その任意性が肯定されるのである。 (2)本件自白調書の信用性以上によれば,被告人の本件自白調書は,その供述に至る経過や前記DVDでの被告人の供述状況に照らして,基本的に信用できるものと判断されるが,さらに,その供述内容を子細に見ても,被告人は,同供述調書中で,記憶にあ- 11 -る部分とそうでない部分を区別し,更に自己が勘違いしている部分についても正直に述べるなどして,犯行に至る経緯,犯行状況等について相当程度具体的に供述しているのであって,それらは 憶にあ- 11 -る部分とそうでない部分を区別し,更に自己が勘違いしている部分についても正直に述べるなどして,犯行に至る経緯,犯行状況等について相当程度具体的に供述しているのであって,それらは被害現場の状況や被害者の遺体の状況等といった前記のような客観的状況(及びこれから推認される事実)とも基本的に整合性を有しており,この点からも本件自白調書は基本的に十分信用できるものである(ただし,後述するとおり,被害現場から強奪した現金の額についての供述部分は,お札はなく,硬貨で数千円程度だったと思うとしながら,その後も金額を数えていないという曖昧な内容であって,記憶違いの可能性が高く,その個別的信用性については後述のとおり留意が必要である。)。 被害者に対する攻撃の態様及び殺意の有無(争点①)についてこの点に関する被告人の公判供述は,被害者の後ろ姿やこれを追い掛けようとしたこと,姿勢が低い状態となり,被害者を後ろから抱き締めたような記憶があるという程度に留まり,結局のところ,一部の場面を除いてほとんど記憶がないというものであって,弁護人は,これに依拠して,被害者は被告人に抵抗する中でもみ合いとなり死亡したなどと主張するのであるが,前記のような被害の客観的状況に照らすと,被害者が絞殺されたことは客観的事実として明白であり,かつ,その遺体が収められていた浴室付近に,被告人のDNA型と一致すると認められる皮膚片が付着し,唾液痕も認められるキッチンタオル(ねじった状態のもの)が落ちていたという事実にも照らすと,「被害者を追いかけてつかまえたが,大声を出されたため,付近にあった台ふきか何かをその口の中につっこみ,さらに,被害者を畳の上に倒したものの,なおも被害者が両手を使ったりして激しく抵抗してきたため,手足を縛ったり,口に猿ぐつわをする余裕もな されたため,付近にあった台ふきか何かをその口の中につっこみ,さらに,被害者を畳の上に倒したものの,なおも被害者が両手を使ったりして激しく抵抗してきたため,手足を縛ったり,口に猿ぐつわをする余裕もなく,隣家に音や声が聞こえてしまうのではないかと思い,殺すしかないと思って被害者の首を両手で絞めた。」という本件自白調書中の供述は誠に自然な内容であって十分信用することができる(なお,被告人は,被害者の首を絞めていた時間は感覚として20秒くらいであると供述しているが,被告人自身が認めているように20秒- 12 -というのはあくまで感覚に過ぎないことからすれば,この点と客観的事実関係〔前述のとおり,法医学的所見では死体の状況からすると数分以上絞め続けたものと認められる。〕との齟齬をもって,本件自白調書の信用性に疑いが生じるとは解されない。)。 よって,当裁判所は,本件自白調書中の供述にその他の関係証拠を総合して,「有罪と認定した事実」記載のとおりの被害者に対する攻撃の態様や確定的殺意を認定するに至った次第である。 本件犯行による強奪金品の内容について(争点②)(1)現金約7万円の強奪について検察官主張の各間接事実に鑑み,前掲の関係各証拠を総合すれば,以下に検討するとおり,被告人が現金約7万円を強奪したことは明らかであると認められる。 ア被害者の長女であって,自らも薬剤師として,日頃午前10時ころから午後4時半~5時ころまで本件薬局の仕事を手伝い,被害者の金銭管理状況を間近で見ていたj氏の前記供述に,関係証拠を総合すると,(ア)被害者は,通常,本件薬局を午後9時ころ閉店した後,レジで1日分の総売上計算をしてそのレシートを打ち出した上,店奥の4畳半の部屋で,レジから取り出した売上金とレシートの売上金額とを比べて1日の売上を計算・確認する ,本件薬局を午後9時ころ閉店した後,レジで1日分の総売上計算をしてそのレシートを打ち出した上,店奥の4畳半の部屋で,レジから取り出した売上金とレシートの売上金額とを比べて1日の売上を計算・確認するとともに,これが終わると,翌日の釣り銭用のお金として,上記売上金の中から2万円分を分けてレジの中に戻し,残りの売上金は,その日のうちに台所の食器棚の引き戸の中に入れてある黒色ポーチの中にしまっていたこと,(イ)前記認定のとおり,本件被害が発覚した平成13年8月29日時点では,レジの液晶表示板に「2,450」と表示されたままの状態になっており,かつ,その後,警察官立ち会いの下でj氏がレジを操作しジャーナルを打ち出して総売上げ計算をしたところ,被害者は本件当日の28日中に総売上げ計算をしていなかったことが判明したことから,前記(ア)に認定したような被害- 13 -者の日頃の金銭管理の状況に照らすと,本件被害に遭った当時,被害者は未だレジの引出し内の現金を取り出して店の奥に移動するようなことはしておらず,したがって,レジの引出し内には,被害に遭うまでの28日中の売上金(但し,液晶表示板に表示されていた「2450円」がこの中に含まれていたかどうかは判然としない。)と釣銭用に入れられていた2万円とが入ったままの状態にあったと推認される。 イそして,前記ジャーナルの打ち出しによって判明した本件当日の本件薬局の総売上げ金額は5万4480円であるところ,この金額からレジ内に収められていない可能性を否定できない前記2450円を差し引いた5万2030円と,前日の売上金から釣銭用に収められていた2万円を合計すると,計算上,本件被害当時レジ内の引き出しに入っていた現金は,7万2030円となる。そうすると,高齢の被害者ゆえに釣銭の渡し間違い等を犯している可能性 上金から釣銭用に収められていた2万円を合計すると,計算上,本件被害当時レジ内の引き出しに入っていた現金は,7万2030円となる。そうすると,高齢の被害者ゆえに釣銭の渡し間違い等を犯している可能性や,レジ内には1円玉と5円玉合計117円が残っていたことを考慮しても,少なくともレジ内に入っていた約7万円が何人かにより奪われたものと推認するのが合理的である。 ウところで,被告人は,公判段階では,現金強奪そのものについて記憶がないと供述しており,また,本件自白調書中でも,レジの中にお札が入っていた記憶がなく,500円玉以下の硬貨のみ強奪したかのような曖昧な供述をしていたが,本件では,被告人以外の第三者がレジ内の現金を奪ったような証跡は全くなく(この点は,弁護人も特段争っていない。),前記認定のとおり,被告人は,現金強奪目的で本件薬局に押し入ったものであり,本件自白調書に見られる本件薬局内での犯行遂行状況,時間的余裕等からして,レジ内の現金を強奪するだけの余裕は十分あったものと認められることに照らすと,上記現金約7万円は被告人が強奪したものと認めるのが相当である。 エこれに対し,弁護人は,甲事件がマスコミ報道されたことによって,被害者が売上金の管理方法を変えた可能性があり,閉店間際まで当日の売上金を- 14 -レジ内に入れたままにせず,別の場所に移していた可能性があるなどと主張している。しかしながら,(ア)そもそも被害者が甲事件を知っていたかどうかは不明である(j氏もこの点は分からないと証言しており,被害者とj氏との間で本件被害前に甲事件のことが話題に上った様子は窺われない。)こと,(イ)生前,被害者の間近でその仕事ぶりを見ていたj氏も,「母は,きちっとした性格なので,その日の売上をレシートと突き合わせて計算しない前に,レジの中から が話題に上った様子は窺われない。)こと,(イ)生前,被害者の間近でその仕事ぶりを見ていたj氏も,「母は,きちっとした性格なので,その日の売上をレシートと突き合わせて計算しない前に,レジの中から現金を抜くということは,全く考えられません。」(検察官調書〔A6〕)と,一日の途中で現金を移動した可能性について,これを否定する供述をしていること,(ウ)仮に弁護人主張のとおり,被害者が開店時間中に用心のため売上金を別の場所に移動していたと仮定すれば,まだ開店時間内なのであるから,以後の接客用に釣銭用の現金くらいはレジ内に残しておく必要があるのに,現実には,一万円札のみならず,五千円札,千円札,果ては,百円玉,五十円玉,十円玉までもがレジ内からなくなっており,明らかに弁護人主張のような可能性と相容れない事態が生じていること(この点は,硬貨のみを奪い,紙幣は奪った記憶がないという被告人の捜査段階での供述にも妥当する。大金を強奪しようと考えていた被告人が,レジ内の紙幣を目の前にしてこれを奪わないという事態は想定できないから,被告人の捜査供述が正しければ,その時点で紙幣が存在しなかったことを前提とせざるを得ないが,開店中でもあるのに,被害者が,釣銭用の五千円札,千円札をも全く残さず,他に移動してしまうというような事態は考え難い。),以上の諸事情に照らすと,弁護人の主張は採用することができない。 (2)ビタミン剤の強奪について被告人は,当公判廷では,ビタミン剤強奪を否定しているものの(もっとも,公判前整理手続段階では,弁護人も,当初は,ビタミン剤強奪の全部を否定していたのではなく,その一部の強奪は認め,他の一部は西成で買ったなどと主張していたのであり,これを受けて,検察官が,無用の争点を解消するため,- 15 -起訴時の公訴事実が「ビタミン剤 部を否定していたのではなく,その一部の強奪は認め,他の一部は西成で買ったなどと主張していたのであり,これを受けて,検察官が,無用の争点を解消するため,- 15 -起訴時の公訴事実が「ビタミン剤等5点(販売価格…)」となっていたのを「ビタミン剤数点」と訴因変更した経緯がある。),本件自白調書中においては,「ビタミン剤などの薬を奪ったことは間違いない。5,6個はあったと思うが,現在ではその個数ははっきりしない。しかし,奪ったビタミン剤の中にアリナミン系の物があったことは覚えている。」などと供述している。そして,基本的に本件自白調書中の供述が信用できることは前述のとおりであるので,以下,検察官主張の各間接事実に鑑み,前掲関係証拠を総合して,被告人が奪ったとされるビタミン剤の種類・個数について検討を加える。 アまず,被告人が,本件犯行後約1か月半を経た平成13年10月11日に甲事件で逮捕された際,当時は,生活費も乏しく,レンタカーに乗ったりして居所も転々とする日々を送っていたにもかかわらず,レンタカーのリュックサック内に,下記のとおり,3個ものビタミン剤を所持していたことが認められる。 ①アリナミンEX120錠入り1個(本件薬局での販売価格〔販売価格については,以下同じ。〕3600円~3800円。以下,同種の商品を指して「ビタミン剤①」という。以下の各ビタミン剤についても同じ。)②ハイシーBメイト60錠入り1個(販売価格1300円。ビタミン剤②)③チョコラBBピュア+C30錠入り1個(販売価格700円。ビタミン剤③)そればかりか,前記認定のとおり,同年6月に離婚した後も被告人と頻繁に会ったり連絡をとったりしていたaの証言によれば,被告人は,時期は確実ではないものの,同年8月末か9月初旬ころ,aに対し,唐突に下記のビタミン剤2個 定のとおり,同年6月に離婚した後も被告人と頻繁に会ったり連絡をとったりしていたaの証言によれば,被告人は,時期は確実ではないものの,同年8月末か9月初旬ころ,aに対し,唐突に下記のビタミン剤2個をプレゼントし,普段からそのようなビタミン剤は服用せず,それまでは被告人からその種の物をもらったことがなかったaは,これに驚いた事実が認められる。 ④チョコラBBピュア+C70錠入り1個(販売価格1200円。ビタミ- 16 -ン剤④)⑤QPコーワゴールドA80錠入り1個(販売価格1440円。ビタミン剤⑤)以上の事実を総合すれば,被告人は,生活費にも窮乏し,そのため2度も強盗殺人の犯行に及ぶに至った状態であるにもかかわらず,本件犯行後間がないころに,効能の比較的類似した(さらに,うち2種〔ビタミン剤③④〕は全く同じ商品)5個ものビタミン剤を所持しており,かつ,うち2個(ビタミン剤④⑤)については,特段aが必要としておらず,これらをあげるだけの理由も前例もなかったにもかかわらず,唐突に同女に対しこれらを譲渡した事実が認められ,前述のとおり,少なくともアリナミン系のビタミン剤を奪った記憶があると本件自白調書中で供述していることをも併せ考えると,当時の状況の下でも被告人がこれら5個のビタミン剤を合法的に入手できるだけの納得できる入手経緯・入手理由を何ら示し得ていないことに鑑みても,これら5個のビタミン剤が被告人が奪ったそれではないかと一応の推認を働かせるのが自然である。 イそして,j氏の供述や関係証拠によれば,(ア)事件後,何か奪われたものはないかとの警察の指摘を受けて,商品の陳列棚を検分したところ,本来,ビタミン剤②④⑤が置かれていてしかるべき箇所から,それらのビタミン剤が全くなくなっており,いわば商品棚が歯抜け状態になっていたこと, いかとの警察の指摘を受けて,商品の陳列棚を検分したところ,本来,ビタミン剤②④⑤が置かれていてしかるべき箇所から,それらのビタミン剤が全くなくなっており,いわば商品棚が歯抜け状態になっていたこと,(イ)被害者は,日頃から特定の商品を売り切ったのにそれをそのまま放置しておくことはせず,すぐその商品を注文するのが習いであったことから,本件当日も,仮にそれらの商品を売り切っていたのであれば,当然,問屋にそれらを注文する話が出ていたと思われるのに,当日,j氏が被害者とそのような会話を交わしたことはなかったこと,(ウ)本件後打ち出されたジャーナルを見ても,その日は,j氏が午後4時半ころ帰宅した後も,被害者が本件被害に遭うまでそれらの商品が売れた形跡が見当たらないこと,以上の事実が認- 17 -められるのであって,これらの事情を総合すれば,被告人が奪ったビタミン剤の中に②④⑤の各ビタミン剤が含まれていたことは明らかであると認められる。 ウ加えて,ビタミン剤①③については,入荷時から個数が減っていることは認められ,その個数の減少が本件当日の出来事なのかどうかは客観的な証拠上は明らかではないものの,(a)これらのビタミン剤も,被告人が居所を転々としていた際に所持していた前記リュックサック内に,上記のとおり被告人が奪ったことが明らかな②のビタミン剤と一緒に,所持していたものであること,(b)ビタミン剤①に関しては,被告人も,前記のとおり「奪ったビタミン剤の中に,アリナミン系の薬があったことは覚えている。」旨供述していること,(c)ビタミン剤③については,ビタミン剤②と効能が類似しており,被告人が強奪したビタミン剤②とは別個に合法的に入手しなければならない必要性は乏しいし,また,同じ薬品であって,やはり被告人が強奪してきたことが明らかなビ いては,ビタミン剤②と効能が類似しており,被告人が強奪したビタミン剤②とは別個に合法的に入手しなければならない必要性は乏しいし,また,同じ薬品であって,やはり被告人が強奪してきたことが明らかなビタミン剤④をaに対し理由もなく譲渡しながら,他方で,これとは別個にビタミン剤③を合法的に入手するというのも不自然であること,以上の諸事情を総合すれば,ビタミン剤①③についても,被告人が本件薬局から強奪してきたものと推認することができる。 エそして,被告人が所持していたことが明らかな5種のビタミン剤については,本件薬局内で当時陳列・販売されていた同じ商品とすべて製造番号も一致しているのであるから,被告人が本件犯行時にこれらのビタミン剤をいずれも強奪していたとしても何ら矛盾はないというべきである(なお,検察官は,被告人が所持していたビタミン剤①~⑤は,本件薬局が最終入荷したそれといずれも製造番号が一致していたが,そのような確率は極めて低く,単なる偶然では説明できないことを積極的間接事実として主張するが,確かに,検察官作成の捜査報告書〔A7〕によれば,ビタミン剤①~⑤の製造番号が各ビタミン剤の年間生産数量に占める割合は1%から最も高いものでも14- 18 -%にとどまっていたことが認められるものの,同一の製造番号の薬品が地域的にどの程度偏在して販売されているのかが全く明らかでない以上,このような一般的確率の数値だけを用いて,被告人の所持していた5種のビタミン剤の全体的稀少性を論ずることは相当ではないというべきである。)。 オ以上によれば,被告人が所持していた前記5個のビタミン剤は,いずれも本件犯行において被害者から強奪したものであると,合理的な疑いを容れる余地なく認定することができる。 物品強奪の犯意の有無について(争点③)以上認定したと ていた前記5個のビタミン剤は,いずれも本件犯行において被害者から強奪したものであると,合理的な疑いを容れる余地なく認定することができる。 物品強奪の犯意の有無について(争点③)以上認定したとおり,被告人は,結果的に本件薬局内でビタミン剤をも強奪しており,また,本件薬局に侵入する当時も,積極的に物品は絶対に奪わないなどと決めてかかっていたわけではないとは思われるが,本件犯行当時,被告人は,「犯行に至る経緯」で認定したような現金枯渇状態から,甲事件にせよ本件にせよ,専ら現金を強奪することを目的に強窃盗におよぶべき商店を絞った上,その犯行に及んでいるのであって,そのことは本件自白調書中においても,「乙薬局なら,強盗に成功しやすいし,現金もかなりあると思いました。」(9頁),「シャッターを閉めることができれば,おばあさんを縛って現金を奪おうと思いました。」(10頁),「(被害者殺害後)私は,現金を探して,薬局の店の部分や,おばあさんの住居になっている部分を物色しています。もし,キャッシュカードなどを見つけていれば,それも奪っていたかもしれませんが,当時,私が探していたのは現金でした。」(20~21頁)などと繰り返し供述されているところである。 以上の理由から,当裁判所は,弁護人主張のとおり,本件薬局への侵入時には,専ら現金強奪を目的としていたものと認定した次第である。 【確定裁判】被告人は,平成15年12月1日大阪地方裁判所で住居侵入,強盗殺人,窃盗未遂,横領,有印私文書偽造・同行使・詐欺の罪により無期懲役に処せられ,その裁- 19 -判は平成17年1月14日確定したものであって,この事実は,検察官作成の捜査報告書〔B5〕によって認められる。 【法令適用の過程】(1)「有罪と認定した事実」に記載の被告人の各行為は,次の各刑罰法令にそ 成17年1月14日確定したものであって,この事実は,検察官作成の捜査報告書〔B5〕によって認められる。 【法令適用の過程】(1)「有罪と認定した事実」に記載の被告人の各行為は,次の各刑罰法令にそれぞれ該当する(〔〕内は法定刑)。 住居侵入の点…刑法130条前段〔3年以下の懲役又は10万円以下の罰金〕強盗殺人の点…平成16年法第156号附則3条により同法による改正前の刑法240条後段〔死刑又は無期懲役〕これらの罪は前記確定裁判があった罪と刑法45条後段の併合罪であるから,刑法50条によりまだ確定裁判を経ていないこれらの罪について更に処断を行う。 そして,この住居侵入と強盗殺人との間には手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条により1罪として重い強盗殺人の罪の刑で処断を行う。 その結果導き出された刑種の範囲内で,当裁判所は,後記「量刑の理由」により,その法定刑の中から無期懲役刑を選択することとした。 (2)訴訟費用(国選弁護費用,証人費用)が生じているが,刑事訴訟法181条1項但書を適用して,被告人にはこれを負担させない。 【量刑の理由】 本件事案の概要本件は,前妻との生活で作った借金を抱えながら,仕事を辞めて無収入となったため,家賃や光熱費の支払いすら滞るなど経済的に困窮していた被告人が,借金等を一気に清算するため,まとまった金を手に入れようとして,紳士服店に侵入し,店主を殺害した上で現金等を強奪する強盗殺人事件(甲事件。既に無期懲役に処する裁判が確定。)を起こしたが,そこで得た金も使い果たしてしまい,- 20 -再び日々の生活費すらままならない状態となったことから,前件の犯行のわずか13日後に,現金強奪の目的で,高齢女性である被害者が経営する薬局に客を装って侵入したが,被害者から激しく抵抗されるなどしたため, 日々の生活費すらままならない状態となったことから,前件の犯行のわずか13日後に,現金強奪の目的で,高齢女性である被害者が経営する薬局に客を装って侵入したが,被害者から激しく抵抗されるなどしたため,被害者を殺害して現金を強奪しようとにわかに決意し,被害者の首を数分間以上も両手で絞め続けて窒息死させるとともに,店内にあった現金約7万円とビタミン剤5点を強奪したという事案である。 当事者の量刑主張の要旨と求刑以上のような本件事案の下で,検察官は,本件犯行の罪質,その経緯に酌むべき事情が全く存しない自己中心的かつ利欲的な犯行動機,卑劣かつ残虐を極め,犯行前後の行動も冷酷かつ非道である犯行態様,奪われた被害者の尊い生命の重さ,被害者の無念さ,強盗殺人により二人目の被害者を殺害したという重大な被害結果,遺族らの峻烈な処罰感情,本件の社会的影響の重大性,被告人の矯正可能性のない犯罪傾向,本件犯行の社会に及ぼした影響が深甚であることなどに鑑みれば,その犯情は誠に重大であって,その罪責は極めて重大であるから,被告人を死刑に処すべきであると主張する。 これに対し,弁護人は,本件が強盗致死罪で処罰すべきものであること,本件犯行に至る経緯には酌むべき事情があること,殺害の手段方法において特段の執拗性,残虐性はなく,犯行が計画的であったともいえないこと,被害者遺族の処罰感情は過大に考慮すべきではないこと,不確実な事実に基づく報道による本件犯行の社会的影響を被告人に帰責すべきでないこと,被告人の前科には粗暴的要素はほとんどなかったし,暴力団の構成員等になったこともないから犯罪傾向が進んでいるとはいえないこと,被告人が真摯に反省・悔悟していることなどを主張し,併せて甲事件との罪刑の均衡等を考え併せると,被告人に死刑を言い渡すべきではなく,無期懲役に処するべき いから犯罪傾向が進んでいるとはいえないこと,被告人が真摯に反省・悔悟していることなどを主張し,併せて甲事件との罪刑の均衡等を考え併せると,被告人に死刑を言い渡すべきではなく,無期懲役に処するべきであると主張している。 本件量刑における甲事件の位置付け等まず,本件量刑における最大の難問は,本件のわずか13日前に犯された同種- 21 -重大犯罪でありながら,本件起訴よりもはるか前に既に無期懲役刑に処する判決が確定し,現在その刑の執行中である甲強盗殺人事件(以下「前件」という。)を,本件の量刑においてどのように位置付け,これをどのような形で,どの程度考慮できるかである。この点は,各種の量刑要素の評価にも関係してくる問題であるから,まず冒頭で,この点に関する当裁判所の考え方を明らかにしておく。 本件は,前件の裁判確定前に被告人が犯した罪であって,前件と刑法45条後段の併合罪の関係にあるが,このような場合の処理について,刑法50条は,本件を「更に処断する」と定めるのみで,その量刑の在り方については何ら規定していない。しかし,この点に関しては,従前から,併合罪関係に立つA罪とB罪のうち,A罪のみ先に裁判が行われこれが確定した場合には,主として有期懲役刑に処する場合を念頭に,B罪の量刑に当たっては,A罪とB罪とを同時に審判した場合と同じ結果になるように考慮することが望ましいとされ,具体的には,両罪に対して科されるべき統一刑を想定し,その刑から確定裁判に係るA罪の刑を控除してB罪の刑を決定するという追加刑的な思考方法で量刑を行うことが一般的とされてきた。これは,多くの場合,併合罪にはいわゆる「併合の利益」が存在し,併合罪を構成する各罪について個別に量刑してこれを合算する場合より,併合罪全体について統一刑を量定する場合の方が刑が軽くなることから, 。これは,多くの場合,併合罪にはいわゆる「併合の利益」が存在し,併合罪を構成する各罪について個別に量刑してこれを合算する場合より,併合罪全体について統一刑を量定する場合の方が刑が軽くなることから,刑法45条後段の併合罪のように,もともとは併合罪の関係にありながら,何らかの事情で,各罪に対する審理・裁判を手続的に別個に行わざるを得なくなり,各罪に対する刑も個別に言い渡すことを余儀なくされる場合においても,被告人の利益のために,後行のB罪の量刑において「併合の利益」を反映すべきであるという考え方に立つものと理解される。 この限度では妥当な取扱いであると解されるが,ただ他方で,およそ併合罪であれば常に「併合の利益」が認められるわけではなく,例外的にせよ,「併合の不利益」が想定される場合もあり得ることも忘れてはならない。例えば,裁判員裁判における区分審理制度について立法段階で念頭に置かれていた事例のよう- 22 -に,A罪・B罪について個別に量刑を行う場合には,それぞれ有期懲役に止まるが,両罪を併合審判して統一刑を言い渡す場合には無期懲役しかあり得ないという事案や,有期懲役刑に処する場合でも,いわゆる新潟女性監禁事件最高裁判決(最高裁平成15年7月10日判決・刑集57巻7号903頁)の事案のように,万引窃盗がそれ自体を採り上げれば微罪に見える場合にも,併合罪関係にある監禁致傷罪との関係でこれを評価すると相当にその犯情が悪くなり,結果的に併合罪としての統一刑は単純に各罪の刑を合算した場合よりも重くなるような事例が例に挙げられよう。そして,このように「併合の不利益」が想定される場合において,A罪の確定裁判が存在する場合に,B罪の量刑に際し,前述のような統一刑を想定し追加刑的に量刑を行うというような思考方法をとることは,要するに,A罪をB罪との 併合の不利益」が想定される場合において,A罪の確定裁判が存在する場合に,B罪の量刑に際し,前述のような統一刑を想定し追加刑的に量刑を行うというような思考方法をとることは,要するに,A罪をB罪との併合罪関係の下にその犯情を評価し直し,A罪の確定裁判当時その刑に反映されなかった悪い犯情の不足分をB罪独自の犯情に上乗せして,追加的に刑を加重することにほかならず,既に裁判済みのA罪を-その全体についてではないにしても-実質的に再度処罰することになるから,憲法39条が定める二重処罰の禁止に抵触する結果となるといわざるを得ない。そして,この点は,先に挙げた具体例のうち,後者の有期懲役刑の事例に妥当するだけでなく,前者の事例,すなわち,A罪・B罪について個別に量刑を行う場合にはそれぞれ有期懲役に止まるが,両罪を併合審判して統一刑を言い渡す場合には無期懲役しかあり得なかったと想定される事案においても,仮にA罪につき有期懲役刑の裁判が先行して確定している場合に,まだ裁判を経ないB罪の量刑を行うに際し,A罪をB罪との併合罪として評価し直すと統一刑としては無期懲役しかあり得ないから,追加刑的思考方法の下に,B罪につき有期懲役ではなく無期懲役を言い渡すというような量刑思考をとるならば,同様にA罪を一部にせよ実質的に再度処罰することになって,憲法39条に抵触することになるものと解される。 以上を本件について見ると,本件は,「併合の利益」が認められるような事案でないことは言うまでもなく,むしろ「併合の不利益」が具体的に想定される事- 23 -案であるだけに,無期懲役刑の確定裁判を経た甲事件を本件との併合罪関係から評価し直し,統一刑としての死刑を念頭に置いて,本件につき死刑を選択するというような思考方法を採ることは許されないというべきである(なお,検察官も,正 の確定裁判を経た甲事件を本件との併合罪関係から評価し直し,統一刑としての死刑を念頭に置いて,本件につき死刑を選択するというような思考方法を採ることは許されないというべきである(なお,検察官も,正面からこのような立論を行うものではないが,論告中の「いずれの犯行も,人命の尊さを一顧だにしない残虐極まりない犯行であり,被告人が2件の強盗殺人事件を連続して敢行しているだけでも,その犯情は悪質極まりない」などという表現ぶりなどには,その考え方の片鱗が滲み出ているものといわざるを得ない。)。 その一方,甲事件は本件量刑において全く考慮できないのであろうか。この点,弁護人は,既に無期懲役の確定裁判を経ている前件の事情を本件の量刑判断に考慮することは二重の危険の禁止を定めた憲法39条に違反する(併せて,確定裁判を経ている前件について何らかの証拠調べを行うことも憲法39条に違反する)などと主張する。 しかしながら,本件犯行に至る経緯において,わずか13日前に被告人が本件同様の強盗殺人行為に及んでいるという厳然たる事実が存在するにもかかわらず,それが確定裁判を経ていることの一事をもって,本件量刑に当たり,その事実を全く捨象して量刑せよというのはあまりに不自然・理不尽な要求であるといわざるを得ず,憲法39条もそこまで禁止しているものとは到底解されない。もとより実質的に再度処罰するような考慮の仕方をすることは論外であるが,その事実を,被告人の性格・経歴や,本件犯行の動機・目的・方法等の情状を推知するための資料として考慮するに止める限りは,前件を改めて犯罪事実として認定し処罰する趣旨で量刑を重くすることにはならないから,当然に許されるものと解されよう(この点は,いわゆる余罪と量刑の問題に関し,最高裁昭和41年7月13日大法廷判決・刑集20巻6号609頁が説示す し処罰する趣旨で量刑を重くすることにはならないから,当然に許されるものと解されよう(この点は,いわゆる余罪と量刑の問題に関し,最高裁昭和41年7月13日大法廷判決・刑集20巻6号609頁が説示するところと同様に解することができ,同最高裁判決も,上記の考慮に止める限りは,仮にその余罪が後日起訴され有罪判決を受けるようなことになったとしても,憲法39条に反することにはならない旨実質的に説示しているところである。なお,最高裁平成12年2月4日判- 24 -決・集刑278号1頁が,強盗強姦,強盗殺人の犯行〔第一の犯行〕後,強姦致傷事件を起こして懲役4年6か月の確定裁判に処せられて服役した後,さらに強盗強姦,強盗殺人,死体遺棄の犯行,続いて強盗強姦未遂,強盗未遂の各犯行〔第二の犯行〕に及んだという事案において,「被告人を懲役4年6月に処した確定裁判が介在するため,右第一の犯行と第二の犯行とを各別に処断すべき事案であるが,その量刑判断に当たっては,それらの犯行が前記のような経緯で行われたことが十分考慮されるべきである。」旨説示しているのは,その趣旨が必ずしも判然としないものがあるものの,全体を読めば上記と同様の趣旨であると理解される。)。 そして,上記のような考慮に必要な限度で甲事件について証拠調べを行うことも当然に許されると解されるのであって,本件においては,前件の確定判決の取調べは行ったものの,そこで認定されている犯罪事実の証明力には限界があることから,当裁判所は,上記本件の情状推知資料を得る限度で,甲事件について必要最小限の新たな証拠調べ(被告人質問と客観的証拠の取調べ等)を行ったものである。 以上述べたような本件量刑における甲事件の位置付け,考慮の仕方,考慮の程度に関する基本的な考え方を踏まえて,以下,各種の量刑要素を検討することと 人質問と客観的証拠の取調べ等)を行ったものである。 以上述べたような本件量刑における甲事件の位置付け,考慮の仕方,考慮の程度に関する基本的な考え方を踏まえて,以下,各種の量刑要素を検討することとする。 量刑上特に考慮した事情(1)犯行に至る経緯・動機アまず,住居侵入段階で企てていた強盗の点に関する経緯・動機は,前記「犯行に至る経緯」に記載のとおりであって,確かに,被告人には,せっかく大阪で定住をはかろうとしていたにもかかわらず,勤務先の関係で退職を余儀なくされ,それが大きな原因となって,経済的に一層の苦境に陥っていったことは,被告人にとって気の毒な事情が積み重なったともいうことができ,同情すべき余地もないわけではないが,さりとてそのような経済的苦境を一- 25 -気に解消するために,強窃盗などという手段に訴えるのは,被告人自身の過去の失敗をまたも繰り返すことにほかならず,あまりにも安直かつ身勝手であって,その利欲的な犯行動機には酌むべきものが乏しいといわざるを得ない。 また,その後犯行現場においてとっさに及んだ強盗殺人の点についても,被害者が,いわば当然の行動として,大声を上げたり,激しく抵抗したのに対して,いとも簡単に被害者の殺害を決意し実行しているのであって,強盗殺人という極めて重大な犯罪をあまりにも安易かつ短絡的に選択している点は,厳しく非難されなければならないであろう。 これに対し,弁護人は,本件の動機・経緯の関連で,被告人は,重度のアルコール依存症で,被告人に暴力を振るったりして再三トラブルを起こす身勝手な前妻への対応に精神的に疲れ果てた結果,同女との関係を断ち切るには,同女名義の借金を自分が支払うしかないと思い詰めて前件及び本件を起こしてしまったものであり,このような経緯は,被告人のために有利に考慮すべ 対応に精神的に疲れ果てた結果,同女との関係を断ち切るには,同女名義の借金を自分が支払うしかないと思い詰めて前件及び本件を起こしてしまったものであり,このような経緯は,被告人のために有利に考慮すべきである旨主張するが,前妻がこの法廷で証言し,自分にとって不名誉な点も含めて正直に述べているところによれば,前妻は,被告人に対する借金の支払いを催促してはいたものの,被告人をことさら追い詰めるような態様で支払いを迫ったとは認められないし,また,そもそも,被告人は,本件犯行前の平成13年5月には,前妻が別の男性のところで住むようになったために別居し,6月には正式に離婚していたのであって,前妻に対する複雑な心情があったことを考慮しても,離婚後に至ってなお前妻との関係を継続して同女名義の借金返済に強く縛られ,その果てに強盗に及ばなければならないだけの事情があったとは認めることはできない。 また,これに関連して,被告人は,上記のような前妻との関係から来るストレスから,本件犯行前に覚せい剤を使用してしまった旨供述しているが,この点は,被告人がこのような主張を始めたのは起訴から半年以上が経過し- 26 -た段階であって,その供述経過自体が不自然であるということに加え,離婚後も被告人と頻繁に接触し,自身も覚せい剤で服役経験のある前妻も被告人の覚せい剤使用等には気付いていないこと,被告人が覚せい剤の使用状況に関しやや合理性を欠くと思われる供述をしていることなどに照らすと,被告人の前記供述は信用できないし,また,このような事情が本件の犯情を大きく左右するとも思われない。 イそして,本件犯行の経緯として,何より重視されなければならないのは,被告人が,本件犯行のわずか13日前に紳士服店に侵入して店主を殺害した上,現金及びキャッシュカードを強奪するという強盗殺人 い。 イそして,本件犯行の経緯として,何より重視されなければならないのは,被告人が,本件犯行のわずか13日前に紳士服店に侵入して店主を殺害した上,現金及びキャッシュカードを強奪するという強盗殺人の犯行に及んでいるという点である。被告人は,既に「犯行に至る経緯」で認定したとおり,前件において,被告人を発見した高齢の男性店主に対し,角材様のもので頭等を殴り付けたり,両手足を電気コードで縛ったり,頭にビニール袋を覆い被せたり,さらしや電気コードを首に巻き付けて圧迫したりするなどして窒息死させて殺害した上,現金とキャッシュカードを強奪するなどという極めて冷酷・非道な重大犯罪に及んでいながら,短期間のうちに,またも同態様の本件犯行に及び,ここでも被害者を殺害するに至っているのである。この間,被告人は,前件で奪ったキャッシュカードを用いた窃盗未遂の犯行に及んだり,前妻と遊園地に行って遊んだりして,強奪金を費消しており,人一人の命を奪う重大な事件を引き起こしたことに対する悔悟の情はおよそ汲み取ることができない。本件は,被告人が供述しているとおり,前件を起こしてしまったことに半ば自暴自棄になって及んでしまった面は否定できないにしても,このように人の命の犠牲の下に金品を奪う行為に出ていながら,被告人が,わずかな期間でまたも同様の行為に出ていることは,甚だしく人倫に悖る所業であって,人の命を余りにも軽んじている酷薄な振る舞いであると断ぜざるを得ない。 (2)犯行態様- 27 -ア被告人は,本件薬局を高齢の女性が経営していることを知ったことに加え,もともと薬局にはかなりの現金が備えられているとの見通しの下に強盗の対象として本件薬局を選び,本件当日までに何度も機会を窺うなどした上で,本件当日その犯行を決行したものであって,そこには周到とまではいえ もと薬局にはかなりの現金が備えられているとの見通しの下に強盗の対象として本件薬局を選び,本件当日までに何度も機会を窺うなどした上で,本件当日その犯行を決行したものであって,そこには周到とまではいえないものの,十分な計画性が認められる。そして,店内では,客を装い,被害者に話しかけたり商品を見るふりをしたりしながら被害者を油断させつつ,店の出入口にある開閉ボタンを自ら押してシャッターを降ろすなど,臨機応変に行動しており,その手口には手慣れたものさえ窺われるのである。 もっとも,被害者殺害の点に関しては,被告人は,凶器を事前に準備していない上,本件薬局に侵入後,奥の部屋へと逃げようとする被害者を一度は椅子に座らせ,手足を縛るための道具を探すなどしており,直ちに被害者の殺害行為に出ているわけではないことから,計画性は認められないのであって,被害者から大声を出されたり,抵抗されるなどしたことから,周囲への犯行の発覚を怖れ,いわばとっさに殺害を決意したものと認められる。 イただその一方で,被告人は,被害者の首を数分以上にわたって両手で絞めつけて被害者を殺害しており,その犯行態様は,強固な確定的殺意に基づいた執拗かつ冷酷なものといわなければならない(この点,検察官は,その犯行態様を,「卑劣かつ残虐であり,正に鬼畜の所業」と主張しているが,主張どおり卑劣な犯行であるとは言えても,他の殺人事件などとも対比しても,本件の殺害態様を「残虐」あるいは「鬼畜の所業」と評することには疑問が残るといわざるを得ない。)。 加えて,被告人は,殺害した被害者の遺体を浴槽内に押し込み,さらにふたをして隠した上で,本件薬局内だけでなく,住居部分の1,2階に至るまで執拗に物色しており,強盗の犯意を強固に維持していたことが窺われる。 さらに,被告人は,本件薬局の看板の電気を消し 込み,さらにふたをして隠した上で,本件薬局内だけでなく,住居部分の1,2階に至るまで執拗に物色しており,強盗の犯意を強固に維持していたことが窺われる。 さらに,被告人は,本件薬局の看板の電気を消し,シャッターを閉め,本件薬局を出た後,身につけていた服や靴を川に投げ捨てて犯跡を隠滅している- 28 -など,犯行後の行動も芳しくない。 (3)犯行の結果本件犯行の結果は,もとより,極めて重大かつ深刻である。被害者は,結婚後,夫が営んでいた本件薬局を手伝っていたが,夫が病気で他界した後は,1人で本件薬局を守り続けながら,娘や息子を立派に育て上げ,それから後も娘や息子夫婦の手助けを受けつつ,84歳という高齢になっても懸命に本件薬局の経営を続けていたものである。家族思いの優しい働き者であった被害者は,家族だけでなく近所の人たちからも頼りにされる存在であったのであり,本件当時は,孫達が成長して医学部を卒業し,自らが目指していた医者になる姿を見るのを楽しみにしながら,平穏な日々を送っていたものである。しかるに,本件犯行によって,被害者は,何の落ち度もないのに,被告人に本件薬局に侵入された上,卒然,数分以上にわたって首を絞められて,苦悶のうちにその生命を絶たれたものであって,その際の無念さ,悔しさ等は察するに余りあるものがある。 上述のとおり,親族のみならずいろいろな人達から慕われていた被害者だけに,被害者のご遺族,ことに被害者の長男・長女が受けた精神的衝撃の大きさには計り知れないものがあり,被害者の長男が,本件の裁判への被害者参加を申し出て,冷静ながらも誠に厳しい処罰感情を表明していることや,被害者の長女が,本件から約7年経った時点でも,被告人に対する強い怒りや憎しみの念を述べ,本件当時と変わらぬ処罰感情を持ち続けていること,その上で,両名が も誠に厳しい処罰感情を表明していることや,被害者の長女が,本件から約7年経った時点でも,被告人に対する強い怒りや憎しみの念を述べ,本件当時と変わらぬ処罰感情を持ち続けていること,その上で,両名がともに被告人に対する死刑を求めていることは,遺族の心情として誠に当然のことと思われる。 さらに,本件犯行による財産的被害もかなりの額に及んでいるところ,これに対し,被告人は,本件の発覚以降,今回の公判に至るまでの8年以上の間,被害者遺族に対して,若干の謝罪文をしたためたほかは,何らの被害弁償・慰謝の措置を講じてこなかったものである。 - 29 -(4)その他の事情についてア生活状況,前科・前歴等被告人は,現在49歳であるが,未成年の間に自動車盗等によって3度少年院送致となり,成人後も,空き巣や自動車盗を繰り返すなどして,本件当時までに,窃盗等の懲役前科4犯及び常習累犯窃盗の懲役前科2犯を有することとなり,この間長期間にわたり服役を繰り返して,本件の直近では,平成12年3月15日に最終的に刑の執行を受け終わったものである。 被告人は,他にも平成4年に傷害の略式罰金前科1犯を有するとはいうものの,これまでの前科・前歴を見る限り,窃盗に対する根深い常習性が認められる一方,粗暴犯の犯罪傾向はほとんど窺われず,前件に及ぶまでは,故意に人を死なせた前科が1件もなく,かつ,粗暴犯の懲役前科も全くなかったことは指摘しておかねばならない。 イ被告人の反省状況被告人は,平成17年1月14日に前件での無期懲役刑が確定後,徳島刑務所に服役することとなり,そこでは,被害者感情教育を受けるとともに,受刑後は毎年1回,同刑務所の刑務担当官に対し,前件の被害者の冥福を祈るための読経を願い出て,いずれも近い時期に実施された。なお,被告人は,その際,名前がわからなかっ 害者感情教育を受けるとともに,受刑後は毎年1回,同刑務所の刑務担当官に対し,前件の被害者の冥福を祈るための読経を願い出て,いずれも近い時期に実施された。なお,被告人は,その際,名前がわからなかったため申し出てはいないものの,本件の被害者についても一緒に冥福を祈っていた旨述べている。 また,被告人は,本件の被害現場の遺留品と自身のDNA型が一致したことを知った後のこととはいえ,被害者遺族に対して自分の口から事件について覚えていることをきちんと話すべきであるとの気持ちや,自らの家族のことを考え,人間らしくなければいけないと思ったという心情から,自らが本件及び前件の犯人であることを認めるようになり,捜査段階では,犯行状況等についても相当程度具体的に供述するなど,本件や前件に向き合うようになっていた。その後の公判においては,捜査段階の供述を翻し,殺意や金品- 30 -を奪った点を否認するなど自己保身的な供述が目に付くものの,自身が被害者を死亡させた犯人であること自体は争わず,犯行態様についても記憶がない旨供述するにとどまっており,積極的に虚偽の状況を供述するには至っていない。さらに,慰謝の措置としては甚だ不十分であるものの,前記のとおり謝罪文を作成した上,本件及び前件の被害者に対して謝罪の言葉を述べている点は,一定の反省態度を表すものとして適切に評価しなければならない。 総合判断以上述べたような本件の犯情に照らすと,本件においては,酌量減軽の上有期懲役刑を言い渡すという選択肢はおよそあり得ないから,死刑と無期懲役のいずれを選択すべきかが量刑上の最終的な課題となる。 いわゆる永山事件最高裁判決(最高裁昭和58年7月8日判決・刑集37巻6号609頁)が説示するとおり,死刑が人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり, の最終的な課題となる。 いわゆる永山事件最高裁判決(最高裁昭和58年7月8日判決・刑集37巻6号609頁)が説示するとおり,死刑が人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり,誠にやむを得ない場合における窮極の刑罰であることに鑑みると,その適用は慎重に行われなければならないところ,犯行の罪質,動機,態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性,結果の重大性ことに殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき,その罪責が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には,死刑の選択も許されるものといわなければならない。 そこで,このような見地から本件について検討すると,本件は,被害者1名の生命が奪われた強盗殺人の事案であるところ,強盗・殺人いずれの点についても動機・経緯に酌むべきものがないだけでなく,わずか13日前に起こした前件の強盗殺人事件に対する反省・悔悟もないまま,本件の犯行に及んでいる点は誠に悪質である。被害者の殺害方法は,被害者の首を数分以上にわたって両手で絞めつけるというもので,強固な確定的殺意のもと行われた執拗かつ冷酷な犯行である上,高齢者が経営する商店に侵入し,被害者の抵抗を受けて直ちに殺意を生じ,- 31 -被害者を窒息死させている点で,前件の犯行態様と類似性が認められる。加えて,被告人の犯行後の行動が芳しくないこと,被害者遺族の被害感情・処罰感情が非常に強いこと,これに対する慰謝の措置はなされていないことなども併せ考えると,被告人の刑事責任は極めて重大であって,検察官や被害者参加人が死刑を求刑することも十分理解できるところである。 ただその一方で,改めて本件を振り返ってみると,(ア)殺人の いことなども併せ考えると,被告人の刑事責任は極めて重大であって,検察官や被害者参加人が死刑を求刑することも十分理解できるところである。 ただその一方で,改めて本件を振り返ってみると,(ア)殺人の点に関しては,確定的殺意に基づく犯行であるとはいえ,事前の計画性は窺われず,強盗の現場でとっさに生じた殺意に基づく犯行である(検察官も当初からその趣旨で公訴事実を構成している)こと,(イ)殺害方法も,刃物等の凶器は一切用いられておらず,検察官主張のように殊更に残虐な方法をとったとまでは言い難いものがあること,(ウ)被告人には,盗犯の常習性は顕著に窺われるものの,粗暴犯前科は,かなり以前の略式罰金前科が1犯あるのみで,前件を除けば,故意に人を死に致した前科はおろか,懲役前科すらなく,これまでは特段の粗暴犯の犯罪傾向は窺われなかったこと,(エ)甲事件と本件との関係について見ても,確かに短期間に重大犯罪を繰り返しているとはいうものの,甲事件についてきちんと刑事責任を問われ,その罪の重さを公的な形で自覚させられる機会もないまま,半ば自暴自棄のような気持ちから安易に同様の行為を繰り返してしまったという面があったことも否定できず,この点は,同種の重大犯罪について前科を有する場合と一線を画すべきものがあること,(オ)被告人は,なお不十分な点はあるとはいえ,一応自己の刑事責任と向き合い,これを反省しようという姿勢は窺われること,以上のような死刑選択への消極要因も認められるのであって,これら諸事情をも併せ考えると,検察官が主張するように,被告人の「生命軽視の資質,及び,短絡的かつ粗暴な人格態度は顕著であり,犯罪傾向は根深く」,「もはや更生は不可能であって,再度の無期懲役を科して矯正教育を施すことは無意味」であると評価することには直ちに賛同できないもの 質,及び,短絡的かつ粗暴な人格態度は顕著であり,犯罪傾向は根深く」,「もはや更生は不可能であって,再度の無期懲役を科して矯正教育を施すことは無意味」であると評価することには直ちに賛同できないものがある。 ただ,この点に関しては,これまでの死刑確定事案と均衡を失することがない- 32 -のかを慎重に見極めた上で,その最終結論を出さなければならない。そこで,前記永山事件最高裁判決以降に被害者1名を殺害した強盗殺人の事案で,死刑判決が確定している事例(10件)を検討したところ,それらは,大別して,①強盗殺人を犯して無期懲役に処せられた者が仮釈放中に再度強盗殺人に及んだ事例(5件),②強盗殺人に周到な計画性が認められ,殺害態様も残虐な事例(4件),③強盗殺人の計画性はなく,殺害態様も②ほど残虐ではないものの,殺人等により長期の懲役刑に処せられた前科があり,殺害態様がこれと類似している事例(1件)が存在した。これらの事例は,その犯情が極めて悪く,人命軽視の人格態度も著しいというほかなく,更生の余地がないと断ぜざるを得ない点で共通するものであった。 そこで,それらの事案と本件とを対比すると,本件が①の事例には該当しないことは明らかであり,また,本件の強盗の犯行は計画的であったとはいえ,殺人の犯行に計画性はなく,予め周到な計画を練った上及んだ犯行とは犯情が大きく異なること,殺害行為も,確定的殺意に基づく冷酷なものではあったものの,刃物等の凶器は用いられておらず,殊更に残虐かつ執拗な殺害方法を選択したものとまではいえないことから,②の事例にも当たらない。さらに,③の事例と対比しても,前述のとおり,本件は,そのわずか13日前に及んだ前件と犯行態様に類似性が認められるとはいえ,本件被告人には,ともかくも前件に至るまでは故意に人を死亡させた前科は い。さらに,③の事例と対比しても,前述のとおり,本件は,そのわずか13日前に及んだ前件と犯行態様に類似性が認められるとはいえ,本件被告人には,ともかくも前件に至るまでは故意に人を死亡させた前科はなく,そのため,このような故意の殺人前科による服役を通して矯正の機会を経たにもかかわらず強盗殺人を犯したものではないことは,③の事例との決定的な相違点として見逃すことはできない。もとより,①~③の事例はあくまで従前の裁判例の集積結果にすぎず,本件をもって新たな死刑選択類型とすることも考えられなくもないが,前述のとおり,本件は,未だ①~③の事例に匹敵するまでに人命軽視の人格態度が著しく,被告人に全く更生の余地がない事案であると断ずることはできないのである。 そこで,当裁判所は,以上の諸点を総合勘案した結果,本件刑事責任は極めて- 33 -重大であるが,その犯情や一般情状に照らしても,また,従前死刑が選択された事案との対比で考えても,本件について,「その罪責が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえない」として死刑を選択することには,なお躊躇を覚えざるを得ないことから,被告人を無期懲役に処することが相当であると判断するに至った次第である。 前記判決宣告日同日大阪地方裁判所第7刑事部 裁判長裁判官杉田宗久裁判官三村三緒裁判官大和隆之
▼ クリックして全文を表示