昭和43(行コ)44 判定及び休職処分取消請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
昭和45年4月27日 東京高等裁判所
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【DRY-RUN】主   文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。        事   実  控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、 二審とも被控訴人の負担とする。」

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主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項と同旨の判決を求めた。 当事者双方の事実上の陳述及び証拠の関係は、左記のほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。 一、被控訴人の主張の追加、訂正。 (一) 原判決二丁裏二行目に「囎唹出張所」とあるのを「囎唹支所輝北出張所」とあらため、同三丁表八行目「審理の結果、」の次に「昭和四一年四月二三日」を加える。 (二) 同七丁表四行目「従事していた。」の次に、左のとおり付加したうえ、同五行目につゞける。 「農産物検査官の担当する農産物の検査のうち、品位(等級)の格付決定の規格は、農産物検査法六条一項に基づき定められ農産物規格規程(これは公表されている)に抽象的に定められているが、これを実際に適用するにあたつては、毎年まず中央で、全販連、全国農業会議所等の生産者団体の代表、全糧連、米商連等の実需者団体の代表者、農業技術会議、農業試験場等の奨励機関の代表者による委員会が設置され、その意見に基いて各等級別の標準品(これを基本標準と呼ぶ)が、選定される。この標準品が各ブロツクに送付され、各ブロツクに於て、各県毎に右中央標準品に準じ、これと最も近似した標準品が同様生産者団体、実需者団体等より選ばれた委員の意見に基づいて選定される(これを実用標準と呼ぶ。)。此の標準品は各検査官のもとに送付され此の標準品に照合して、被検査物件の品位(等級)が決定されるのである。そうして、此の標準品は現実の検査の場に於て公開され、検査自体も公開してなされる。従つて、検査をうける農民も検査に立会つて標準品と被検査物件と照合し、検査の 物件の品位(等級)が決定されるのである。そうして、此の標準品は現実の検査の場に於て公開され、検査自体も公開してなされる。従つて、検査をうける農民も検査に立会つて標準品と被検査物件と照合し、検査の結果を検討することができる。農業に従事し、米麦の生産を行なつている農家であれば、自からこの照合の能力を有する。なお、この標準品の選定は検査官の業務ではなく、これに関与するのは食糧事務所の幹部である。検査官は、あくまで標準品を付与されてこれと被検査品とを対比するのみである。このように、検査は公開して純技術的になされるが、更にその技術的合理性を担保するために、検査官の実施した検査品について食糧事務所、食糧庁が毎年一回以上既検査品実態調査を実施して検査の適正度をチエツクし、全検査官に公表している。その結果、大むね九〇%以上の適正率となつていることも此の検査の技術性を示している。また、農産物検査法一九条では検査官の検査に不服がある場合に再検査を請求することができる旨の規定があるが、未だかつて再検査を請求した実例がない。このことは、検査の技術的合理性について農民が立会つて十分納得していることを示すものである。被控訴人の担当する職務内容は以上のように専門技術的なものであるが、一方、」(三) 同八丁表五行目「従つて」から七行目末尾までを次のとおりあらためる。 「現に農林省所轄の食糧事務所、農事試験場、統計調査事務所の職員で全農林労組の組合員たるものが、公職選挙法違反として起訴され、略式命令により、或いは正式裁判により罰金の有罪判決を受けた場合に受ける懲戒処分はいずれも戒告である。すなわち公職選挙法違反の罪で罰金となつた場合の懲戒処分は、戒告である旨の基準が、農林省に於いて懲戒処分の基準として確立しているもので、例外はない。本件に於いても、求刑が罰金であるか も戒告である。すなわち公職選挙法違反の罪で罰金となつた場合の懲戒処分は、戒告である旨の基準が、農林省に於いて懲戒処分の基準として確立しているもので、例外はない。本件に於いても、求刑が罰金であるから、有罪になつたとしても罰金の事案であることは、客観的に認め得るのである。従つて、有罪の場合の懲戒処分も戒告以上を出ないであろうことは、あらかじめ想定し得る事案である。 有罪であつても戒告処分に付すべき事案に付いて、被告人が無罪を主張するために公判手続が開かれ、数年にわたる公判期間中、被告人は休職処分にされ、有罪になつた場合の処分に比して、格段の苛酷な取扱いを受けなければならない合理的理由はどこにも見出すことができないのであつて、憲法により保障された裁判を受ける権利が、かかる処分により実質上完全に侵害されると言つても過言ではない。 懲戒処分との比較の観点からみても、本件処分は明らかに法及び条理のわくをはみ出した違法のものであると言わなければならない。」(四) 同八丁裏四行目から六行目までの(4)項を(5)項とし、その前に(4)として次の一項を加える。 「(4) 被控訴人に対する前記公訴事実において、被控訴人から前記起訴状記載の文書の配布を受けたとされている郵便局職員訴外Aは右文書を頒布したかどにより起訴され、大隅簡易裁判所において罰金刑に処せられたが、同人は右起訴により休職にされていない。農産物検査官と郵便局職員は業務の内容を異にするが、いずれも非政治的、技術的職務であることにおいて差異はない。この両者が、相関連して同種の事犯に及んだ本件のような場合において、その一方が起訴休職処分を受けないのに、他方のみをこれに付することは合理的理由のない差別をするものである。国家公務員法七四条一項は、すべて職員の分限、懲戒及び保障については、公正でなけれ において、その一方が起訴休職処分を受けないのに、他方のみをこれに付することは合理的理由のない差別をするものである。国家公務員法七四条一項は、すべて職員の分限、懲戒及び保障については、公正でなければならない旨を規定しているが、右の「公正」とは、各省の公務員に平等な、客観的な公正さを意味するものであつて、公務全体の基準に照らして公正でなければならないというものと解すべきである。従つて、本件起訴休職処分は、右のように合理的理由を欠く点において、裁量権の条理のわくを超えているばかりでなく右法条にも違反するものである。」(五) 控訴人の主張(二)(2)(ア)のうち、農産物検査業務がその主張の四種にわたることは認めるが、右検査業務にその主張の助言指導が含まれることは否認する。 二、控訴人の主張の追加、訂正。 (一) 原判決九丁表一〇行目「そして」から、一一行目「違法とはならない。」までを次のとおりあらためる。 「国公法七九条二号が、職員が刑事事件に関し起訴された場合に、その意に反してこれを休職することができる旨定める理由は、基本的には、公務の信用を維持しようとするところにある。すなわち、憲法前文に謳われているように、国政は、国民の厳粛な信託によるものであるから、公務の遂行は、この国民の信託にこたえるものでなければならない。公務員は、かかる国政の一部を遂行すべく、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務する職責を負うものであり、公務員がこの義務を遂行するためには、職務上職務外の別なく、高度の倫理的観念に基づく公正な行為と生活態度を必要とするのである。この公務員の倫理基準は、一般社会の倫理観念と異質のものでないとしても、前記職務の性質上、最も高度のものが要求されて然るべきであり、公務員たる以上、いやしくも国民の公務に対する信頼ないし官職全体に対 の公務員の倫理基準は、一般社会の倫理観念と異質のものでないとしても、前記職務の性質上、最も高度のものが要求されて然るべきであり、公務員たる以上、いやしくも国民の公務に対する信頼ないし官職全体に対する信用を失なわせるようなことをしてはならないのである(憲法一五条二項、国公法九六条、九九条)。ところで、公務員が刑事事件に関して起訴された場合、当該公務員はある程度客観性のある犯罪を犯した●疑をかけられているので、わが国の国民感情からすれば、公務員が刑事事件に関し起訴されたこと自体で国民の公務に対する信頼感或いは官職全体に対する信用性を失なわせる蓋然性がきわめて高いのである。かかる実情にかんがみ国公法七九条二号は職員が刑事事件に関して起訴された場合には、当該職員をその職務から排除するため、犯罪の成否はもちろん、犯罪の内容、程度、身体拘束の有無等を問うことなく、単に起訴されたこと自体で当該職員を休職処分に付しうるものとしたのである。そうして、このことは、同法三八条二号が「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者」を職員の欠格事由とし、かつ、同法七六条が在職中の職員が右事由に該当するに至つたときは当然失職するものとして公務の信用保持を図つていることと軌を一にするものである。従つて、国民の公務に対する信頼ないし官職全体に対する信用を厳格に保持しようとすれば、職員が刑事事件に関し起訴された場合には、一律に休職処分に付することが望ましいのであり、かように取扱うことが起訴休職制度の趣旨目的に適う所以であるが、事案によつては休職処分に付することが必ずしも適切でない場合があり得るので、法は「休職することができる」と定めて、刑事事件に関し起訴された職員を休職処分に付するか否かを、任命権者の自由裁量に委ねたのである。し は休職処分に付することが必ずしも適切でない場合があり得るので、法は「休職することができる」と定めて、刑事事件に関し起訴された職員を休職処分に付するか否かを、任命権者の自由裁量に委ねたのである。してみれば、被控訴人がその主張の刑事事件に関し起訴され、しかも右事件につき禁錮以上の刑に処せられるおそれのある以上(このことは、被控訴人主張の起訴状記載の前条によつて明らかである。)、右の起訴休職制度の建前よりして、被控訴人を休職処分に付することは当然の事理というべく、本件休職処分は違法ではない。」(二) 同一〇丁表四行目の次に左のとおり付加する。 「(1) 裁量権の逸脱ないし濫用とは、当該裁量に、何人がみても不当であるというような著しい瑕疵がある場合をいうものと解すべきところ、控訴人が本件休職処分に及んだ経緯は右に述べたとおりであつて、その間には右のような著しい瑕疵は存しないのであるから、右処分は違法ではない。 (2) 仮りに、起訴休職処分をなす任命権者の裁量権に何らかの制約があるとしても、控訴人のした本件休職処分はその裁量権の範囲を超えるものではない。 (ア) 被控訴人は本件起訴当時農産物検査官の職にあつたものであり、その担当業務は、農産物の検査、すなわち(a)農産物検査法に基づく検査、(b)食糧事務所依頼検査規程に基づく検査、(c)会計法に基づく検査、及び、(d)その他の検査であるが、右検査業務には、出荷前における品質改良、出荷環境の整備に関する助言指導を含むものである。そうして、右検査業務のうち主たるものは右(a)であつて、その手続の評価は右農産物検査法の規定するところであるが、右検査の中心をなすものは米麦等被検査物件の品位(等級)の格付決定である。右格付決定は、農産物検査法六条一項に基づいて定められた農産物規格規定所定の検査規格によつて 検査法の規定するところであるが、右検査の中心をなすものは米麦等被検査物件の品位(等級)の格付決定である。右格付決定は、農産物検査法六条一項に基づいて定められた農産物規格規定所定の検査規格によつて行なわれるが、それは実際には特に機械、器具等を用いることなく、検査官の視覚、触覚等による判定を主とするものである。 検査業務の内容が右のようなものである以上、検査に対する関係農民の信頼は、検査官その人に対する信頼感から生れるといつても過言ではないのであり、検査官はこの信頼関係を維持すべく、厳正公平にその職務を遂行すべきことが要請されるのである。従つて、検査官が刑事事件に関し起訴され、その職務の公正な執行について疑念を持たれることがあれば、その職務の遂行は重大な支障を受ける。従つて、検査官という官職に対する国民(特に関係農民)の信頼を保持するために、右の如き検査官を休職にすることは相当であり、また適切でもあるのである。 (イ) 被控訴人は、本件においては公訴事実の内容よりして、被控訴人の職務遂行に関して生ずべき支障は大きくないと主張する。起訴休職制度の目的の一つに、職員が刑事事件に関し起訴された場合に、職務専念義務の十全な履行に支障を生ずる点のあることは否定できない。しかし、これは具体的な公務に対する国民の信頼感喪失の蓋然性がきわめて軽微な場合に、はじめて考慮されるべき附随的第二義的性格のものであるから、前述のように、公務に対する国民の信頼感を失う蓋然性の高い本件の場合には、特にこれを起訴休職処分の制約事由として考慮する必要はない。公務に対する国民の信頼感を失う蓋然性が高い場合には、たとえ、当該職員が身柄を拘束されず、職務遂行に支障を生じなくとも休職処分に付し得るのであり、また付すべきである。 (ウ) 被控訴人は、起訴休職処分が同人にもたらすこと 感を失う蓋然性が高い場合には、たとえ、当該職員が身柄を拘束されず、職務遂行に支障を生じなくとも休職処分に付し得るのであり、また付すべきである。 (ウ) 被控訴人は、起訴休職処分が同人にもたらすことあるべき諸種の不利益を挙げて、右処分をなすにあたつては、当然これを考慮すべきものと主張する。確かに、起訴休職処分は当該職員に不利益をもたらすが、右は、当該職員が勤務に就かないために生ずるものであり、起訴休職制度の目的を達成するため、当然職員の甘受すべきところである。なお、職員は休職中といえども国公法所定の手続を経て私企業からの隔離を免れる途が開かれているのであるから、休職中の職員の給与が六割に減少されることはさほど重要視するに及ばないところである。そうして、休職処分の効果は法により一定されているところであり、懲戒処分のように段階的差異はないのであるから、任命権者としては起訴休職にする必要がある以上、起訴休職制度の趣旨目的を実現するためには、処分の効果を考慮することなく、休職処分に付せざるを得ないのである。 本件においては、既に述べたとおり被控訴人を休職処分に付すべき必要があるのであるから、本件休職処分は何ら違法ではない。 (エ) 被控訴人は起訴休職処分をなすにあたつては、懲戒処分との均衡を考慮すべきものと主張するが、その必要はないものである。 すなわち、懲戒処分と起訴休職処分とはその内容および目的を異にしており、懲戒処分は公務員の義務違反に対する制裁として職員の責任を問うものであるのに対して、起訴休職処分はそのような趣旨を有せず、前述のとおり官職ないし公務全般に対する国民の信頼を保持するため一時的に職員の職務の担任を免ずるものである。 起訴休職処分は被起訴者の責任を追及するというよりも、むしろ公務の信用保持のために当該職員の公務執行の義務 し公務全般に対する国民の信頼を保持するため一時的に職員の職務の担任を免ずるものである。 起訴休職処分は被起訴者の責任を追及するというよりも、むしろ公務の信用保持のために当該職員の公務執行の義務を免除するものであるから、法は勤務に就かないのに給与の六割を支給するように定めているのである。 従つて休職処分の適否はそれ自体について規定されている規範に照らして決すべきであり、被控訴人が主張するように、将来予想される懲戒処分との比較や休職処分が継続した後における懲戒処分との均衡などからさかのぼつてその適否を論ずるのは全く筋違いである。 休職処分は当該職員に職員としての身分を保有させるが、職務に従事させず、給与も六割となるので、その限りにおいて不利益な結果をもたらすが、その不利益は懲戒処分の如くそれ自体が目的の一部となつているのではなく、勤務に就かないために派生するものであり、たまたま裁判の延引により休職期間が予想外に長期化し、あるいは無罪になるなど、結果的に休職による不利益の方が懲戒処分よりはるかに大きくなることがあつても、それは二つの制度がその性質と目的を異にしていることによるものであり、懲戒処分との比較均衡等から休職処分の適否を判断することは正当でない。 休職処分は起訴にかかる犯罪の成否に関係なく、また懲戒処分の軽重と全く関係なく行ないうるものであり、また、刑事事件の結果禁錮以上の刑に処せられた場合は、国公法七六条により当然失職するものであるから、被控訴人が刑事事件の結果重い懲戒処分が予想されない場合には休職処分に付しえないような主張をしているのは、懲戒処分や分限に関する規定の誤解に基づいているものであつて失当である。 (オ) 被控訴人は、本件休職処分は国公法七四条の公正の原則にも違反すると主張する。 しかし休職処分は任命権者が行 るのは、懲戒処分や分限に関する規定の誤解に基づいているものであつて失当である。 (オ) 被控訴人は、本件休職処分は国公法七四条の公正の原則にも違反すると主張する。 しかし休職処分は任命権者が行なうものであるから(国公法六一条参照)、右七四条の公正の原則の拘束を受ける者は個々の任命権者に止まる。従つて、任命権者を異にする場合において、その間に休職処分の取扱について差異が生じても、それを以て直ちに右原則に反するものということはできない。 従つて、被控訴人主張の事例は、任命権者と職員の職務内容を異にすることによる結果にすぎず、これを以て国公法七四条に違反するとはいえない。なお、既述のとおり起訴休職処分は任命権者の自由裁量に属するのであるから、各任命権者の裁量権行使の結果に若干の差異が生じても、裁量権の行使に逸脱や濫用のない限り、それだけで違法の問題を生ずるものでもない。」三、証拠関係(省略) 理由 一、被控訴人が一般職の国家公務員であつて農林技官としてその主張の輝北出張所に勤務していたところ、昭和三九年二月一四日その主張の公訴事実、罪名及び罰条のもとに鹿児島地方裁判所鹿屋支部に公訴を提起されたこと、及び、被控訴人の任命権者である控訴人が同年三月一日被控訴人に対し、国公法七九条二号に則り、右起訴を理由に本件起訴休職処分をしたことは当事者間に争いがない。 二、国公法七九条二号が、職員が刑事事件に関し起訴された時は、その意に反してこれを休職(以下単に起訴休職ともいう)することができると定めるのは、次の理由によるのである。 すなわち、国家公務員は全体の奉仕者であつて一部の奉仕者ではないのであるから(憲法一五条二項参照)、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、かつ、その職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念すべ 、国家公務員は全体の奉仕者であつて一部の奉仕者ではないのであるから(憲法一五条二項参照)、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、かつ、その職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念すべきことを服務の根本基準とするものであつて(国公法九六条一項)、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事すべく(同法一〇一条一項)、また、その官職の信用を傷つけ、又は、官職全体の不名誉となるような行為をしてはならない(同法九九条)ものである。 ところで、職員が刑事事件に関し起訴された場合には、抽象的一般的には、公訴の提起は検察官からそのような●疑を受けたに止まり、有罪無罪いずれの裁判を受けるかは未だ定かでなく、いわゆる無罪の推定を受けているとはいうものの、起訴された被告人の大多数が有罪判決を受けている我国の刑事裁判の現状に鑑みれば、現実には起訴された職員は、起訴状記載の公訴事実、罪名及び罰条によつて特定され具体化された事実について相当程度客観性のある公の●疑を受けているものと言わざるを得ない。従つて、職員が右のような●疑を受けたままで引続き職務を執るときは、職場における規律ないし秩序の維持に影響するところがあるのみならず、その職務遂行に対する国民の信頼をゆるがせ、ひいて官職の信用を失墜する虞なしとしないのである。さらに、刑事被告人は原則として公判期日に出頭すべきものであるから、そのため、職員の前記職務専念義務に支障を生ずる可能性のあることも看過できないところである。 このように、職員が刑事事件に関し起訴されることは、同人の服務につき法の要請と相反する事態を生ずる可能性を包蔵するが故に、国公法七九条二号は、起訴されたことによつて前述のような影響ないし支障を生ずることあるべき職員をし 事事件に関し起訴されることは、同人の服務につき法の要請と相反する事態を生ずる可能性を包蔵するが故に、国公法七九条二号は、起訴されたことによつて前述のような影響ないし支障を生ずることあるべき職員をして、職員たる身分はなお保持せしめるものの、職務には従事せしめないこととして、以て官職の信用を保持し、かつ、職場秩序を維持せんとするのである。 三、ところで、国家公務員には、国家の政策の策定に当る高度かつ政治的な職務を担当する者から、単純機械的な労務に服するに止まる者まで種々の階層があるから、その保持する官職は、当該職員の地位と職種によつて異なるのは当然である。 一方、一概に刑事事件に関し起訴されるといつても、その内容は単なる形式犯から、破廉恥罪まで多岐にわたり、また、起訴の態様も身柄拘束のままの場合もあれば、然らずして在宅の場合もあつて、決して一様ではないのである。 これらのことを考えると、職員が刑事事件に関し起訴されたことによつて、官職の信用が傷つけられるかどうか、職場の秩序が紊れるかどうか、また同人の職務専念義務の履行に支障を生ずるかどうかは、当該職員の保持する官職、すなわち、その地位と担当する職務の内容、公訴事実の具体的内容及び起訴の態様をかれこれ勘案してはじめて決せられるものというべく、従つて、前記の法の要請に応ずるために当該職員をその意に反して休職すべきか否かは、具体的事案に即して個別に決せらるべきものと言わなければならない。国公法七九条が、起訴休職処分を任命権者の裁量に属すると定める所以は、ここにあるのである。 ところで、起訴休職された職員は、国公法八〇条四項及び一般職の職員の給与に関する法律二三条四項によつて、休職の期間中、俸給及び扶養手当の各百分の六〇以内を給せられるに止まることになる。一般に休職された職員は、職務を執らないの は、国公法八〇条四項及び一般職の職員の給与に関する法律二三条四項によつて、休職の期間中、俸給及び扶養手当の各百分の六〇以内を給せられるに止まることになる。一般に休職された職員は、職務を執らないのであるからその間給与を得られないのが原則ともいえるところ(国公法八〇条四項参照)、右給与法二三条はこれに広汎な例外をもうけるものであるが、そこにおいて起訴休職者に対する給与上の取扱が、右二三条一項ないし三項及び五項所定の事由による休職者の場合に比し最も不利益であることは、法の起訴休職に対する厳格な評価を示すものというべきである。従つて、起訴休職がこれを受ける者の給与上に不利益を生ずるものであることは、前段所述の判断をするに当り、当然考慮さるべきところと言わねばならない(控訴人は、休職中の職員といえども国公法所定の手続を経て私企業からの隔離を免れる途があるのであるから、右給与の減少はさして重要視するにあたらない旨主張するけれども、右は単なる法律上の可能性にすぎず、すべての休職者が右の方途によつて給与の不足分を補●し得るものでないことはみやすい道理であるから、右主張は失当である。)。 従つて任命権者が刑事事件に関し起訴された職員を休職にするかどうかは、叙上の点について考慮をしたうえで、個別的具体的な判断を経て決せらるべきものであることは、起訴休職制度そのものの要請するところというべきである。 被控訴人は、右判断にあたり、当該職員に対し、公訴事実に基づいてなされ、または、なされることあるべき懲戒処分の種類、態様と起訴休職処分の効果との均衡も考慮さるべきであると主張するが、分限上の処分である起訴休職の効果を、これと制度の趣旨、目的を異にする懲戒処分の種類、態様と比較考量することは当を得たものとは言い難いから、右主張は採るを得ない。 四、ところで、控訴 ると主張するが、分限上の処分である起訴休職の効果を、これと制度の趣旨、目的を異にする懲戒処分の種類、態様と比較考量することは当を得たものとは言い難いから、右主張は採るを得ない。 四、ところで、控訴人は、起訴休職につき法の定めるところは職員が刑事事件に関し起訴されたことだけであるから、この要件の存する限り、当該職員を休職するかどうかは、任命権者の自由裁量に属する旨を強調する。 しかし、行訴法三〇条によつても明らかなとおり、自由裁量の処分といえども、裁量権を踰越し、又は、その濫用にわたる場合には違法となるのであるから、仮りに起訴休職処分が自由裁量の処分であるとしても、その適否はそれが許された裁量の範囲内に在るか否かによつて決せられるものである。そうして、具体的な起訴休職処分が右の範囲内に在るかどうかは、前項に詳述した点について、裁判所が判断を尽してはじめて定まるのであるから、起訴休職処分の適否が問題となつている本件においては、前項に述べた以上に、その性質が自由裁量の処分であるか否かをせんさくすることは特に意味のあることではない。 五、そこで、本件起訴休職処分について判断をする。 (一) 被控訴人がその主張の輝北出張所に勤務する農林技官たる一般職の国家公務員であつて、当時農産物検査官の職に在つたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、成立に争いのない乙第四号証、当審証人B、同C、同D、同E(但し、意見にわたる部分を除く)、同Fの各証言を総合すると、被控訴人のような農産物検査官が担当する職務の法制上の根拠は多岐にわたるが、その主たるものは農産物検査法による米麦、殊に米の検査であつて、特にその品位(等級)の格付決定が検査の中心をなすものであること、右格付決定は、予め定められた基準(農林省告示である農産物規格規程)を具体的な被検査物件たる米 検査法による米麦、殊に米の検査であつて、特にその品位(等級)の格付決定が検査の中心をなすものであること、右格付決定は、予め定められた基準(農林省告示である農産物規格規程)を具体的な被検査物件たる米にあてはめることによつて行われるが、その実際は、主として検査官が視覚、触覚等によつて右米について得る感覚を、同人の過去の経験と日常の修練により得たところに照して判断することによつてなされるものであること、検査は制約された時間内に多量の物件について行われるため一件当りの所要時間は三〇秒ないし五分であるが、検査場には右基準を具体的に示し、対照の用に供するために、予め選定された全国統一の標準品が備えられ、かつ、検査は公開して行われるので、検査の結果に対する関係者の疑義に対しては、検査官から右標準品を示して対照することその他の方法により説明が加えられること、検査の結果について不服がある者は、農産物検査法一九条によつて食糧事務所長に対し再検査の申立が出来ることになつているが、これまでその例がないこと、及び、検査の結果について部内で、●後において随時実態調査が行われているが、その結果是正を要する事例は殆どないことが認められ、右認定に反する証拠はない。 右認定の事実によれば、被控訴人が農産物検査官として担当する職務は、専門技術的な判断を中心とするものであり、しかも、右判断の結果に対する関係者の信頼は、検査官の有する技術にかかるのであつて、検査官の信条のいかんによつて影響される余地は殆どないものというべきである。なお、前示証人Dの証言によれば、農産物検査官は前記検査のほか、農作物の品質改良等の助言指導を通して関係農民と接触することがあることが認められるが、右が検査官の本来の職務ではなく、事実上のものにすぎないことは右証言によつても明らかであるから、右の事実 査のほか、農作物の品質改良等の助言指導を通して関係農民と接触することがあることが認められるが、右が検査官の本来の職務ではなく、事実上のものにすぎないことは右証言によつても明らかであるから、右の事実は、右認定に特段の影響を及ぼすものではない。 (二) 被控訴人に対する起訴状記載の公訴事実、罪名及び罰条が、被控訴人主張のとおりであることは当事者間に争いがない。 右によれば、要するに被控訴人は当時輝北町労働組合連絡協議会議長であつたところ、昭和三八年一一月二一日施行の衆議院議員選挙に立候補した日本社会党所属の候補者に当選を得させる目的で、選挙運動期間中の同月一四日右協議会書記長Aに法定外選挙運動文書であるパンフレツト四〇枚を一括配布頒布し、政治的目的を以て人事院規則に定める政治的行為をした、というのであるから、被控訴人は一政党のため違法な選挙運動をして職員としての義務に違反し、かつ、その政治的中立性を侵したものとされているのである。しかし、被控訴人の右所為は、前記協議会議長として同会書記長に対し文書を配布頒布したという、右の組織内部における、その組織の一員としてのものであるのみならず、その回数も一回に止まるから、公選法違反の罪としては重大なものではなく、またそれが政治的行為として職員の政治的中立性を侵す程度もそれ程甚だしいものとはいえない。このことは、昭和四一年四月二三日検察官によつてなされた求刑が罰金一万円であつたこと(この事実は当事者間に争いがない)によつても看取することができる。 (三) ところで、被控訴人が農産物検査官として担当する職務が右(一) 認定のとおり専門技術的なものであるから、その保持する官職は非政治的なものであること、及び、弁論の全趣旨によつて明らかな被控訴人が当時管理ないし監督的地位になかつたことを考えると、被控訴人が 一) 認定のとおり専門技術的なものであるから、その保持する官職は非政治的なものであること、及び、弁論の全趣旨によつて明らかな被控訴人が当時管理ないし監督的地位になかつたことを考えると、被控訴人が前記のような罪を犯したとして起訴されたことが、同人の職務の遂行に対する関係者の信頼を傷つけ、かつ、職場の秩序を紊るものであつて、官職の信頼を保持し、職場秩序を維持するために、同人を休職にすることが必要であるとは、直ちには断じ難いといわなければならない。しかも、いずれも成立に争いのない甲第二号証の一ないし五、第三号証の一、二、第四、第五号証の各一ないし三によると、昭和四二年の衆議院議員及び昭和四三年の参議院議員の各選挙において、公選法違反の罪に問われ、罰金の確定判決を受けた農林事務官ないし農林技官に対し各任命権者がした懲戒処分は、公選法違反の態様が買収、戸別訪問、文書配布頒布等軽重の差があるにかかわらず、いずれも戒告であることが認められる。右事実によれば、被控訴人に対する前示起訴事実に基づき懲戒処分がなされたとしても、おそらく戒告以上には出なかつたものと推認されるのであるが、任命権者によつてその程度に評価されるに止まるものと認むべき前記起訴事実が、果して被控訴人を休職とするに値するかどうかは、甚だ疑問の存するところといわなければならない。 さらに、成立に争いのない乙第二号証(起訴状)によれば、被控訴人は在宅のまま起訴されたのであり、しかも起訴状記載の前示罰条所定の法定刑よりして、同人が全公判期日に出頭すべき義務を負うものでないことは明らかであるから、同人に対する起訴は、特段の事情のない限り、その職務専念義務の履行に直ちに支障を生ずるものとはいえないし、本件においては右特段の事情の存在を認めるに足る証拠はないのであるから、この点においては、被控 人に対する起訴は、特段の事情のない限り、その職務専念義務の履行に直ちに支障を生ずるものとはいえないし、本件においては右特段の事情の存在を認めるに足る証拠はないのであるから、この点においては、被控訴人を休職にする必要性は乏しいというべきである。 (四) 被控訴人の任命権者である控訴人が前記の如く起訴された被控訴人に対し休職処分をするにあたつては、叙上の点を考慮し、その必要性を肯定したうえでこれをなすべきものであるところ、本件においては右考慮をなしたことについては特段の主張立証がない。かえつて成立に争いのない乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は被控訴人主張の農林事務次官通達に則つて本件起訴休職処分に及んだものであることが明らかである。 ところで、右通達の内容が被控訴人主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、右によれば、農林省においては、職員が刑事事件に関し起訴された場合は、略式手続による場合を除いて、すべて休職とするというのであるが、本件においては、農林省において、起訴休職を右のように一律に取扱わなければならない特段の事由をうかがうに足る証拠は何ら存しないのみならず、右のような一律的取扱(前顕甲第二号証の一ないし五、第三号証の一、二、第四、第五号証の各一ないし三によれば、現にこのような取扱がなされていることがうかがわれる。)が起訴休職制度の趣旨目的に副わないことは、既に述べたところから明らかである。元来通達は、行政官庁が所管の諸機関及び職員に対して、行政の取扱の基準を示し、法令の解釈を統一する等の目的で発するものにすぎないから、控訴人において前記通達に従つた一事によつて本件起訴休職処分が適法となるものでないことはいうまでもないのみならず、右通達の示す国公法の解釈及び起訴休職取扱の基準が相当といえないことは右に述べたとおり 訴人において前記通達に従つた一事によつて本件起訴休職処分が適法となるものでないことはいうまでもないのみならず、右通達の示す国公法の解釈及び起訴休職取扱の基準が相当といえないことは右に述べたとおりであるから、控訴人が右通達のみに則つて右処分に出でたことは、右処分にあたり、本来任命権者としてなすべき叙上の考慮をなさなかつたものと断ぜざるを得ない。 (五) 従つて、被控訴人に対する前記起訴を理由として、同人を休職にする必要があるかどうかは、叙上のとおり被控訴人の地位、担当職務の内容、起訴事実の内容及び起訴の態様等の諸点について個別的具体的に判断のうえ決せらるべきであるにも拘らず、控訴人においては、これらを一切顧慮することなく、本件起訴休職処分に及んだのであつて畢竟右処分は任命権者たる控訴人に与えられた裁量の範囲を越えるものというべく違法たるを免れない。 六、被控訴人が昭和四一年六月一八日前記裁判所において無罪判決の言渡を受け、右判決が当時確定したことは当事者間に争いがないから、国公法八〇条二項、三項により本件起訴休職処分はその頃当然に終了したものである。しかし、右処分が前述のとおり違法である以上、被控訴人は当然右休職期間中の前述の給与上の不利益の回復を求め得べく、そのためにはまづもつて右処分を取消すことが必要であるから、被控訴人は本件起訴休職処分の終了にかかわらず、なおこれが取消を求める利益を有するものである。 七、してみれば、本件起訴休職処分の取消を求める被控訴人の請求は理由があるから、これを認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。 よつて、本件控訴を棄却すべく、なお控訴費用は敗訴の控訴人の負担として、主文のとおり判決する。 (裁判官岡部行男川上泉大石忠生) よつて、本件控訴を棄却すべく、なお控訴費用は敗訴の控訴人の負担として、主文のとおり判決する。 (裁判官岡部行男川上泉大石忠生)

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