平成12(ワ)3016 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成15年5月28日 東京地方裁判所
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判決文本文51,878 文字)

平成15年5月28日判決言渡平成12年(ワ)第3016号損害賠償請求事件判決 主文 1 被告は,原告Aに対し,金400万円及びこれに対する平成12年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告B,同C,同D及び同Eに対し,それぞれ金100万円及びこれに対する平成12年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,これを10分し,その1を被告の負担とし,その余を原告らの負担とする。 5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告Aに対し,金5242万9185円及びこれに対する平成12年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告B,同C,同D及び同Eに対し,それぞれ金1310万7296円及びこれに対する平成12年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告らが,被告に対し,原告A(以下「原告A」という。)の夫であり,同B(以下「原告B」という。),同C,同D及び同Eの父親である亡Fが,平成10年10月26日未明,被告の設置運営する被告病院に入院した際(以下「本件入院」という。),被告病院において,必要な検査及び治療を怠り,不適切な治療を行うなどしたため,翌27日に死亡するに至ったことを理由として,診療契約の債務不履行に基づき損害賠償を請求している事案である。 1 争いのない事実等(1)ア亡F(昭和15年3月4日生,平成10年10月27日死亡)は,被告大学を卒業し,産婦人科の医院を開業していた医師であり,原告Aは,平成10年9月1日,亡Fと婚姻した者であり,原告B,同C,同D及び同Eは,い 和15年3月4日生,平成10年10月27日死亡)は,被告大学を卒業し,産婦人科の医院を開業していた医師であり,原告Aは,平成10年9月1日,亡Fと婚姻した者であり,原告B,同C,同D及び同Eは,いずれも亡Fの子である(争いのない事実,甲B1)。 イ被告は,肩書き住所地において被告病院を設置運営する学校法人であり,H,I(以下「I」という。),J(以下「J」という。)及びK(以下「K」という。)は,それぞれ平成10年10月当時,被告病院において医師として勤務していたものであって,Kは,当時医師として2年目の研修医であり,L(以下「L」という。)は,同月当時,被告病院において看護師として勤務していたものであり(なお,当時の姓は「M」であった。),いずれも亡Fの治療に携わっていた(争いのない事実,甲A4,乙B1ないし3,証人K,同L)。 ウ亡Fは,平成10年10月26日0時34分に被告病院救命救急センターへ入院し,そのころ,被告との間において,亡Fの食道静脈瘤等について,治療を行う旨の契約を締結した(弁論の全趣旨)。 (2) 亡Fに対する診療経過は,別紙診療経過一覧表記載のとおりであり,また,その検査結果は,別紙検査結果一覧表記載のとおりであり,その要旨は,以下のとおりである(別紙診療経過一覧表のうち,診療経過,検査・処置及び投薬欄のうち,下線を付していない黒字の部分は,当事者に争いがない事実であり,下線を付した黒字の部分は当事者に争いのある事実で裁判所が証拠により認定した事実であり,青字の部分は当事者の主張はないが裁判所が証拠により認定した事実であり,赤字の部分は裁判所の認定しなかった事実である。また,別紙検査結果一覧表のうち,黒字の数値は当事者に争いのないものであり,青字の数値は裁判所が証拠により認定したものであり,赤字の数値は証 実であり,赤字の部分は裁判所の認定しなかった事実である。また,別紙検査結果一覧表のうち,黒字の数値は当事者に争いのないものであり,青字の数値は裁判所が証拠により認定したものであり,赤字の数値は証拠上認定ができないものである。いずれも必要に応じて以下で検討する。)。 ア亡Fは,肝硬変,糖尿病,食道静脈瘤等により,平成8年から平成10年にかけて,被告病院に断続的に入通院をしていた。 イ亡Fは,タール便や吐血があったことから,同年10月25日23時ころ,N病院を受診し,翌26日0時34分に被告病院救命救急センターへ入院した。同センターにおいて,食道静脈瘤が認められるが現在は止血している,再出血をすれば重篤な状態になるなどの診断を受け,同日3時ころ,被告病院第一外科へ転科し,治療を受けていた。亡Fに対する主治医が決定したのは,同日11時30分であった。亡Fの容態は,次第に悪化し,同日17時ころには呼びかけに対し返答がない状態になり,その後も好転せず,翌27日1時ころ心拍数が低下して呼吸停止状態に陥り,同日4時10分に死亡した。 2 争点(1) 検査義務及び治療義務の不履行の有無(2) 治療措置が不十分又は不適切なものであったか。 (3) 救急救命措置の遅れの有無(4) 前記(1)ないし(3)の過失と亡Fの死亡との因果関係の有無(5) 前記(1)ないし(3)の過失により亡Fの延命可能性が侵害されたか。 (6) 損害額 3 争点に関する当事者の主張争点に関する当事者の主張は,別紙争点整理表記載のとおりである。 第3 当裁判所の判断 1 診療経過等別紙診療経過一覧表において認定した事実に加えて,下記の証拠によれば,亡Fに対する診療経過等につき,以下の事実が認められる。 (1) 亡Fは,アルコール性肝硬変及び糖尿病の既往症 診療経過等別紙診療経過一覧表において認定した事実に加えて,下記の証拠によれば,亡Fに対する診療経過等につき,以下の事実が認められる。 (1) 亡Fは,アルコール性肝硬変及び糖尿病の既往症を有していたところ,平成8年1月25日,腹部膨満感,息切れ及び動悸を訴え,被告病院第一内科を受診し,食道静脈瘤が認められたため,精査・加療目的で,同病院に入院し,同年3月22日に退院した。退院時には,消化管出血,食道静脈瘤を伴ったアルコール性肝硬変,非インシュリン依存性糖尿病及び軽度三尖弁逆流と診断された(乙A1)。 (2) 前記(1)の退院後,亡Fは,被告病院第一外科へ通院し,経過観察を行うなどしていたが,平成9年3月13日,自宅で新鮮血を吐血し,被告病院救命救急センターへ入院し,食道静脈瘤が認められたが,出血は確認できず,同月15日には被告病院第一外科へ転科し,同月28日に退院した(乙A2,3)(3)ア前記(2)の退院後,亡Fは,2度ほど被告病院第一外科へ通院していたが,平成10年10月24日よりタール便が数回あり,翌25日23時ころ,枕を一面黒くするほどの褐色の嘔吐物が見られたため,N病院を受診し,上部消化管出血と診断され,翌26日0時34分,被告病院救命救急センターへ入院した。被告病院入院時の亡Fの意識状態は,正常であった(乙A4)。 イ被告病院救命救急センターでは,亡Fに対し,同日0時40分ころに一般血液検査及び血液ガス検査が,同日1時05分ころに血液ガス検査が行われた。 その後,亡Fには,食道静脈瘤が3,4条認められたが,活動性出血は認められなかったため,かかりつけの第一外科に転科することとなった。その際,救命救急担当医から,原告Aに対し,①今回は胃入口での出血源からの出血の可能性があり,現在は止血されてい たが,活動性出血は認められなかったため,かかりつけの第一外科に転科することとなった。その際,救命救急担当医から,原告Aに対し,①今回は胃入口での出血源からの出血の可能性があり,現在は止血されているが,再出血の可能性があること,②出血が起これば致命的であり,肝硬変があるため肝機能の急激な増悪の可能性があること,③第一外科へ転科することが説明された(乙A4)。 ウ亡Fは,当時,時々飲酒をしており,その量は,被告病院における亡F本人の申告によれば,1回につき,ウィスキーであればダブルで2杯,焼酎であれば300ないし400ミリリットル程度であった(乙A4)。 エ同日3時,被告病院第一外科へ転科した亡Fの状態は落ち着いており,意識は清明であった。 そのころ,第一外科担当医から,亡F及び原告Aに対し,このまま出血が止まっているようなら,前回の例から見れば最低1箇月の治療期間が必要となるが,再出血すれば,緊急処置が必要となり,予想がつかないとの説明が行われた(乙A4)。 オその後,亡Fは,時,人及び場所が分からないといういわゆる見当識障害の状態が見られ,意識レベルがⅠ-2と診断された。さらに,同日5時には,ベッドサイドに立ち,輸液ラインを自己抜去し,「しょうがねえなあー,しょうがねえなあー」と独り言を述べ,同日6時には,着用しているオムツを自分で外したり,ベッドサイドに立ったりしており,安静を促すが理解せず,少量ずつタール便を失禁している状態であった(乙A4)。 カ同日8時30分には,亡Fは,再び輸液ラインを自己抜去したが,記憶にない様子であった。この輸液ラインは,同日11時ころまで再挿入されなかった。また,同日8時30分ころ,一般血液検査が行われた(乙A4,同L)。 キ同日9時,亡Fは,看護婦の声掛け たが,記憶にない様子であった。この輸液ラインは,同日11時ころまで再挿入されなかった。また,同日8時30分ころ,一般血液検査が行われた(乙A4,同L)。 キ同日9時,亡Fは,看護婦の声掛けに対し反応があったが,オムツにタール便が多量にある状態であり,同日10時30分ころには,病室に戻った妻と会話を交わすことができず,自分の意思で体を動かすことができない状態であった(乙A4,原告A)。 ク同日11時には,Iが亡Fを回診し,また,そのころ前記カの血液検査の結果として,亡Fのアンモニア値が158であるとの報告が行われた(乙A4,証人K,同L)。 この点,原告らは,看護記録(乙A4)の記載から,上記アンモニア値が判明したのは同日9時ころであると主張するが,上記看護記録の記載は,同日9時の記載の後,いったん「M」との押印がされ,その下段にアンモニア値を書き足した上,改めて「M」との押印がされ,その次の記載は同日11時30分のものであるから,同日11時ころに判明した事項を記載したとしてもあながち不自然であるとまではいえないし,証拠(証人K,原告B)によるも,緊急で検査結果を出すように指示をした場合であっても,わずか30分前後で結果報告が行われるとは認め難いから,亡Fのアンモニア値が判明した時刻については,被告主張のとおり,同日11時ころであると認められる。 ケ同日11時30分,亡Fの主治医が,H,J及びKの3名に決定したが,H及びJは,同日午後において既に手術の予定が入っていたため,亡Fの様子を観察することができず,Kも,同日14時30分から同日17時30分ころまで手術に立ち会い,その間は,看護師が亡Fを観察した結果の報告を受けて,手術室から指示を出していた(乙A4,証人K,同L)。 コ Kの指示により,亡F 同日14時30分から同日17時30分ころまで手術に立ち会い,その間は,看護師が亡Fを観察した結果の報告を受けて,手術室から指示を出していた(乙A4,証人K,同L)。 コ Kの指示により,亡Fに対し,同日11時40分にはヒューマリンR12単位が,同日12時40分にはラシックス1アンプルが,同日13時10分にはアミノレバン500ミリリットルが,同日13時40分にはメイロン250ミリリットル及びソルダクトン200ミリリットルが,それぞれ投与された。また,同じころ,ケイキサレート及びモニラックの経口投与が指示されたが,亡Fは,服用することができる状態ではなく,結局服用することはできなかった。さらに,同日14時にはグリセリン浣腸120ミリリットルを行い,反応便が多量に見られた。そして,同日14時45分にはヒューマリンR10単位が亡Fに投与された(乙A4,証人K)。 サ一方,被告病院においては,亡Fの容態について,同日15時には呼びかけに対し返答があったと認識し,意識レベルⅡ-10と診断していたが,同日16時には意識レベルはⅢ-200と低下したと診断し,さらに同日17時には,亡Fは,呼びかけに対し返答がなく,痛み刺激に対し顔をしかめる状態であった(乙A4)。 シ被告病院の対応が,亡Fの容態に比してあまりに不十分であると感じた原告らは,同日17時ころ,被告病院産婦人科のO教授の夫人に口添えを依頼した(甲A1,5,6,原告A,原告B)。 ス同日17時35分ころには,一般血液検査が行われた(乙A4)。 セそのころ,Kは,看護師から亡Fの状態が悪化しているとの連絡を受けて,手術室を抜け出し,亡Fの診察を行った。そして,同日18時ころには,前記コで認定したように,モニラックの経口投与ができなかったので,それに代えてモニラ から亡Fの状態が悪化しているとの連絡を受けて,手術室を抜け出し,亡Fの診察を行った。そして,同日18時ころには,前記コで認定したように,モニラックの経口投与ができなかったので,それに代えてモニラック浣腸を行い,また,ヒューマリンR12単位を投与した。さらに,同日19時45分には,Jの指示でメイロン150ミリリットルの投与が行われた(乙A4,証人K)。 ソ同日19時ころには,Hが,原告A及び同Bに対し,亡Fの状態は厳しいと説明し,また,同日20時には,Jが,原告らに対し,亡Fの病状につき,消化管出血による肝機能障害により急激な肝不全となっている,心臓も心拍数150とマラソンをしている状態で心臓がもてばよいが,現在出血は止まっている様子で,明日状態が許せば胃カメラにより治療を行うことを説明した。原告Bは,Jに対し,家族を呼ぶ必要はないかと質問したところ,Jは,危篤状態ではないので家族を呼ぶ必要はなく,また,原告Bも帰宅してよいと応答したが,亡Fの病状に不安を持った原告Bは,同日20時45分ころ,自らの判断により家族を被告病院に呼び寄せた(乙A4,甲A6,原告B)。 タその後,同日20時にカルチコール2A及びアルギメート200ミリリットル,ヒューマリンR10単位の投与が,同日20時40分ころに血液ガス検査が,同日21時に強ミノCと5パーセント糖50ミリリットルの投与が,同日21時30分にアルブミン3バイアルの投与が,同日23時に輸血2単位及びアミノレバン500ミリリットルの投与がそれぞれ行われ,同日23時には,同日4時からの尿量が943ミリリットルであることが判明した(乙A4)。 チ翌27日1時ころ,亡Fは心拍数が低下し,呼吸停止状態に陥ったため,蘇生処置が行われた。その際,サクションの用意に手間取ったが,吸引物はな 43ミリリットルであることが判明した(乙A4)。 チ翌27日1時ころ,亡Fは心拍数が低下し,呼吸停止状態に陥ったため,蘇生処置が行われた。その際,サクションの用意に手間取ったが,吸引物はなかった(乙A4)。 ツ原告らは,同日0時20分ころ,被告病院に原告Aを残して,原告Aの肩書き住所地に帰宅したが,同日1時ころ,原告Aから亡Fに対し心臓マッサージをしているとの連絡を受けて,急遽被告病院に駆けつけた(甲A6,原告B)。 テ亡Fは,同日4時10分,死亡した(甲A4,乙A4)。 2 鑑定の結果鑑定人Pの鑑定事項についての鑑定の要旨は,以下のとおりである。 (1) 被告病院において,亡Fに対し行われた検査等に関しては,以下のように考えられる。 ア血液検査は,1回不足しており,平成10年10月26日12時ころに行うべきであった。 この時刻に血液生化学の値が分かれば,高アンモニア血症に対する処置をより迅速,強力にできた可能性があるし,クレアチニン,BUN及び電解質の値により利尿剤の使用に関してさらに詳細な情報が得られた可能性もある。また,血清カリウム値に関しても,ケイキサレートの緊急使用に関するより正確な情報が得られたとも考えられる。 イ血液ガス検査は,1回不足しており,同日17時30分ころの血液検査に合わせて行うべきであった。 この時刻に血液ガス検査を行っていれば,同日13時40分ころから点滴したメイロンにより酸塩基平衡がどの程度改善されていたかが判明し,同日19時45分からのメイロンの使用が必要であったかどうか,より明らかになったと考えられる。 ウバイタルサインは,回数が不足しており,最低でも2時間間隔での測定が必要であった。 血圧は比較的安定していたが,脈拍も 用が必要であったかどうか,より明らかになったと考えられる。 ウバイタルサインは,回数が不足しており,最低でも2時間間隔での測定が必要であった。 血圧は比較的安定していたが,脈拍も多いし,意識状態も良くないので,その程度の測定は必要であった。 エ尿量は,頻回な点検とより正確な尿量計算が必要であり,1,2時間間隔での計測が必要であった。 亡Fに対して,利尿剤等も使用しており,正確な尿量計測は,脱水の程度を見極める上で重要と思える。 オ頭部CT検査は,施行が望ましかったが,病態の経過が急であったので,検査はできなくてもやむを得なかった。 カ腹部エコーは,入院時に救命救急センターで行われており,再度施行する必要まではなかった。 (2) 被告病院において,亡Fに対し行われた治療に関しては,以下のように考えられる。 ア被告病院による,高アンモニア血症に対するアミノレバン投与,グリセリン浣腸の措置については,適切な措置ではあったが,アミノレバンよりアルギメートの方がより適切であった。 イしかしながら,肝不全による高アンモニア血症,すなわち肝性脳症が亡Fの死因に関与していると考えられるので,より早期の治療が望まれた。 ウ利尿剤(ラシックス及びソルダクトン)の使用は,体液の喪失を促進させ,脱水を助長したと考えられる。その結果,血清ナトリウム値が高値になった可能性が高い。一方,腎機能は保たれていたので,メイロンの使用により血清ナトリウム値が高値になった可能性は低いと考えられる。 脱水の進行が,亡Fの死亡に直接結びついたか否かは不明である。 (3) 前記(1)の各検査を行い,それに応じた治療を行った場合でも,亡Fを救命できたか否かについては,客観的な根拠もなく,不明である。 水の進行が,亡Fの死亡に直接結びついたか否かは不明である。 (3) 前記(1)の各検査を行い,それに応じた治療を行った場合でも,亡Fを救命できたか否かについては,客観的な根拠もなく,不明である。 (4) 亡Fの呼吸停止の明らかな原因は,不明である。 考えられる原因として,1つは,肝不全による高アンモニア血症由来の肝性脳症による脳浮腫,脳ヘルニアによるという可能性がある。 もう1つは,非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡の合併の可能性もある。 亡Fの病態のデータを見ると,血糖値は228から440,血清ナトリウム値は158,血漿浸透圧は360であり,血糖値がそれほど高くないものの,インシュリン使用の影響を受けていると考えられ,非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡の条件は満たしている。 (5) 亡Fの呼吸停止の際,口腔内吸引の準備に手間取ったのは事実であると思われるが,呼吸停止になったのは,突発的に気道分泌液を詰まらせたために起こったとは考え難く,全身状態の悪化が主因であると考えられるから,的確に気道吸引がされても,一時的に延命はできたかもしれないが,生命が助かったとまでは考え難い。 3 争点(1)について(1) 原告らは,被告病院には,亡Fの本件入院中,適宜血液検査,血液ガス検査,頭部CT検査,脳波検査及び腹部エコー検査を行うとともに,亡Fの全身状態の把握や経過観察を適切に行うべきであったのにこれらを怠った過失があると主張する。 (2) そこで,まず血液検査の点について判断する。原告らは,亡Fの高アンモニア血症に対する迅速かつ強力な治療のために,血液検査を頻回に実施すべき義務があったと主張する。 ア証拠によれば以下の事実が認められる。 (ア)a 食道胃静脈瘤とは,門脈圧亢進による下部食道壁内静脈叢,左 かつ強力な治療のために,血液検査を頻回に実施すべき義務があったと主張する。 ア証拠によれば以下の事実が認められる。 (ア)a 食道胃静脈瘤とは,門脈圧亢進による下部食道壁内静脈叢,左胃静脈,脾静脈の鬱血により静脈瘤が形成されるものであって,主たる原因は肝硬変であり,食道静脈瘤からの出血は,重篤な上部消化管出血の一つであるとされている(甲B3の1)。 b 肝硬変の症状として,肝機能不全と門脈圧亢進が認められ,肝硬変が進行すると,血中アンモニアは増加するし,消化管出血によっても,血中アンモニアは増加する(甲B2の1,3の1,2,証人K)。 c 肝性脳症は,種々の重篤な肝障害が原因で生じる意識障害を主症状とする精神神経症状であり,肝性昏睡とほぼ同義で用いられることもある。肝性脳症には,指南力の低下あるいは異常行動などの軽度のものから,刺激を加えても全く反応しない深昏睡まで広く包含される。 肝性脳症の発生機序については,アンモニア説,分枝鎖アミノ酸-偽性神経伝達物質説,GABAベンゾジアゼピン説等,諸説が存するものの,分枝鎖アミノ酸-偽性神経伝達物質説に対しては,偽性神経伝達物質の肝性脳症発生機序への関与は少ないとする意見が多く,また,GABAベンゾジアゼピン説についても,なお今後の検討を要するとされている。一方で,アンモニアは,古くから肝性脳症の主な中毒因子であることが知られているが,アンモニアのみでは肝性脳症の発生機序を説明しきれないのも事実であり,そこから,アンモニアを始めとする種々の物質の濃度の異常が作用して肝性脳症が生じるといういわゆる多因子説が一般的に受け入れられている。もっとも,アンモニアが肝性脳症発生に関与する重要な因子であることは疑いがないと考えられており,高アンモニア血症が 異常が作用して肝性脳症が生じるといういわゆる多因子説が一般的に受け入れられている。もっとも,アンモニアが肝性脳症発生に関与する重要な因子であることは疑いがないと考えられており,高アンモニア血症が脳症の遷延にも関与する可能性があるとの指摘も存在するから,高アンモニア血症の治療が肝性脳症の悪化を防ぐために重要であることは明らかである(甲B7の2,16)。 d アミノレバン,アルギメート及びモニラックは,血中アンモニア濃度を低下させる効果を有する薬品であり,グリセリン浣腸も,血中アンモニア濃度を下げる効果を有する(甲4の1,9,16,証人K)。 (イ) 亡Fの血中アンモニア値は,平成10年10月26日8時30分ころには158であり,平成8年1月25日の入院時の47に比べると3倍以上の高値であった。さらに,平成10年10月26日17時35分ころにおいては503と大幅に上昇し,同日20時40分ころの時点でも490と高値を示していた(別紙検査結果一覧表)。 (ウ) また,亡Fの意識状態は,同日3時ころにおいては,時,人及び場所が分からないという状態で,被告病院において,意識レベルはⅠ-2と判定され,不穏言動があり,安静が保たれなかった。その後,同日5時ころには,ベッドサイドに立ち,輸液ラインを自己抜去し,「しょーがねえなー,しょーがねえなー」と独り言を言い,同日6時ころにはオムツを自分で外したり,ベッドサイドに立ったりしており,安静を促しても理解せず,少量ずつタール便を失禁する状態であり,同日8時30分ころには,輸液ラインを自己抜去しても記憶にないような状況であった。同日9時ころには看護師の声掛けに対して反応があり,同日15時ころにも呼びかけに対し返答があったけれども,一方,同日9時ころにはタール便を多量に失禁し,同日9 去しても記憶にないような状況であった。同日9時ころには看護師の声掛けに対して反応があり,同日15時ころにも呼びかけに対し返答があったけれども,一方,同日9時ころにはタール便を多量に失禁し,同日9時30分ころ及び10時30分ころには,亡Fは,会話ができず,体も自由には動かせない状況であり,同日昼過ぎからは意識レベルが低下し,被告病院において,同日15時には亡Fの意識レベルがⅡ-10であり,同日17時にはさらに意識レベルⅢ-200に低下したと判定され,同時刻ころには痛み刺激には顔をしかめるが,呼びかけに対しては返答がないという状況であった(別紙診療経過一覧表,甲A1,5,6,乙A4,証人L,原告A,同B)。 (エ) 被告病院において,亡Fの意識レベルを判定したのは,「3-3-9度方式」によるものであり,意識レベルⅠ-2は,刺激しなくても覚せいしており,時,人及び場所が分からない状態,意識レベルⅡ-10は,刺激すると覚せいし,普通の呼びかけで容易に開眼する状態,意識レベルⅢ-200は,刺激しても覚せいせず,痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめたりする状態をそれぞれ指すものである。また,肝性昏睡については,1981年の犬山シンポジウムで定められた重症度分類方法が一般に用いられており,それによると,昏睡度1は,睡眠と覚醒リズムの逆転があり,多幸気分でときに抑うつ状態で,だらしなく気にとめない態度を示す状態,昏睡度2は,指南力障害,物を取り違える,異常行動,ときに傾眠があり,尿,便失禁がない状態,昏睡度3は,しばしば興奮状態又はせん妄状態を伴い,反抗的態度をみせる嗜眠状態で,羽ばたき振戦があり,指南力は高度に障害している状態,昏睡度4は,痛み刺激に反応するが,完全な意識の消失状態,昏睡度5は,痛み刺激にも全く反応しない深昏睡状態 を伴い,反抗的態度をみせる嗜眠状態で,羽ばたき振戦があり,指南力は高度に障害している状態,昏睡度4は,痛み刺激に反応するが,完全な意識の消失状態,昏睡度5は,痛み刺激にも全く反応しない深昏睡状態をいうとされる(甲B7の1,乙A4,鑑定の結果)。 原告らは,亡Fの意識状態は同日午前中から悪く,呼びかけに返答等はできない状態であったと主張し,他方,被告は,亡Fの意識状態は少なくとも同日夕方ころまでは安定していたと主張するところ,証拠(証人K,鑑定の結果)によれば,意識状態というのは,同じ状態がずっと続くものとは限らず,意識障害が現れたり収まったりすることもあり,特に,肝性脳症においては,意識障害の程度は時間により不安定な面があると認められるのであるから,上記で認定したように,亡Fの意識状態について悪い状態と比較的落ち着いた状態がいわば交錯していたとしても不自然ではない。ただし,同日11時ころ,Iが回診した際,Iが「またお酒を飲みすぎましたね」と話しかけると,亡Fが「イヤー」と答えて頭を掻いたと被告が主張する点については,Iがこれに沿う陳述をするが(乙B2),Iが回診した際の亡Fの状況についてカルテには一切記録されておらず(乙A4),上記で認定したその前後の亡Fの意識状態,すなわち同日9時には看護師の声掛けに対し反応が見られたが,同時におむつにタール便を多量にしており,同日昼過ぎには意識レベルの低下が観察されているという事実に照らし,反応の良さが突出している感もあり,上記Iの陳述は,これをにわかに採用することができず,したがって,上記のやりとりの事実についても,これを認定することはできない。 (オ) 前記(イ)(ウ)の亡Fの症状に対し,前記1(3)コセに認定したとおり,被告病院は,同日11時30分から14時30分までの のやりとりの事実についても,これを認定することはできない。 (オ) 前記(イ)(ウ)の亡Fの症状に対し,前記1(3)コセに認定したとおり,被告病院は,同日11時30分から14時30分までの間に,Kが,アミノレバンの使用,モニラックの経口投与及びグリセリン浣腸を指示し,同日13時10分にはアミノレバンの輸液を実施し,同日14時にはグリセリン浣腸,同日18時ころにはモニラックの経口投与に代えてモニラック浣腸をそれぞれ実施した(乙A4,証人K)。 イ(ア) 被告病院による前記ア(オ)の措置自体は,前記ア(ア)dで認定し,鑑定人も前記2(2)アで述べているように,血中アンモニア値を下げる治療法としては,おおむね妥当なものであったと認められる。 (イ) しかしながら,同日の亡Fの意識状態は,前記ア(ウ)(エ)で認定したように,具体的な容態の面からも,意識レベルの面からも,時間を経るごとにおおむね悪化の一途をたどっていたと判断されるし,証拠(鑑定の結果)によれば,亡Fが被告病院第一外科に転科した後の同日6時ころには既に肝性昏睡の昏睡度分類においては,昏睡度3に当たる状態であり,同日17時ころには昏睡度4に達していたと認められる。 そして,前記ア及び1(3)アエオの各事実並びに別紙検査結果一覧表及び証拠(乙A4,証人K,鑑定の結果)によれば,亡Fは,被告病院入院時及び第一外科転科時において会話は可能であり,意識状態も正常であったが,被告病院において肝機能を悪化させる治療が行われていないのに,その後まもなく意識障害を来したことは,入院時に既に亡Fの肝予備能が限界に達していたこと,亡Fの同日8時30分ころの血液検査によるアンモニア値は,平成8年1月25日の検査値の約4倍に当たる158という高値を示し,高アンモニア血症 ことは,入院時に既に亡Fの肝予備能が限界に達していたこと,亡Fの同日8時30分ころの血液検査によるアンモニア値は,平成8年1月25日の検査値の約4倍に当たる158という高値を示し,高アンモニア血症の状態にあり,これが亡Fの意識障害の原因の一つとなっていたと考えられること,亡Fは,同日午前中において,肝不全による高アンモニア血症を原因とする肝性脳症を来していたと考えられることが認められる。 一方で,被告病院の亡Fに対する高アンモニア血症に対する措置としては,同日の13時を過ぎて初めてアミノレバンの投与及びグリセリン浣腸が行われ,モニラックの経口投与については,それを実行することができず,モニラックの浣腸に切り替えて実施したのは,亡Fの意識状態が相当悪化した後である同日18時ころであり,これらの措置が緊急で行われた形跡はない。 (ウ) Kは,同日8時30分の血液検査により同日11時ころ判明した血中アンモニア値を参考にして前記ア(オ)の措置を採った旨証言しているが,前記ア(イ)で認定したように,同日17時35分ころの血液検査によれば,亡Fの血中アンモニア値は前者の検査時の3倍以上の503の値を示していたのであり,Kが前記ア(オ)の措置を指示した時には,亡Fの血中アンモニア値は同日朝の時点より更に相当上昇していたことが容易に推認できる。 (エ) 以上のとおり,亡Fの意識状態の悪化や血中アンモニア値の推移からすると,鑑定人が前記2(1)アで指摘するように,被告病院としては,同日昼ごろ血液検査を実施し,亡Fの病態を適時に把握した上,高アンモニア血症の治療を,より迅速かつ強力に行うべきであったと認められ,したがって,それを怠った被告病院には,血液検査義務懈怠の過失が認められる。 ウなお,被告は,同日11時ころに判 た上,高アンモニア血症の治療を,より迅速かつ強力に行うべきであったと認められ,したがって,それを怠った被告病院には,血液検査義務懈怠の過失が認められる。 ウなお,被告は,同日11時ころに判明した検査結果により,同日12時を待たずして高アンモニア血症の治療を指示しているから,重ねて同日昼ころ血液検査をする義務はないと主張するが,前記イ(イ)で判示したように,高アンモニア血症に対する治療が緊急で行われたとは認められないところ,前記イ(ウ)で判示したように,亡Fの血中アンモニア値は,同日昼の時点では,同日8時30分ころの検査の時点よりも相当上昇していたと考えられるから,同日昼ころ血液検査をしていれば,最新のデータに基づいて更に迅速,強力な対策が採り得たということができるし,前記1(3)クで判示し,被告自身も主張するように,血液検査の結果は直ちに判明するものではなく,2,3時間かかることもあるというのであるから,治療を指示した直後であってもなお検査をすることに意味はあると考えられる。したがって,かかる被告の主張は採用できない。 (3) 次に,血液ガス検査の点について判断する。原告らは,メイロンの投与の前には血液ガス検査をしてその必要性を吟味するべきであったと主張する。 ア証拠によれば,以下の事実が認められる。 (ア)a 血液ガス検査によって,血液pH,炭酸水素イオン濃度(以下「[ HCO3-]」とする。),血中炭酸ガス分圧(以下「PCO2」とする。)等を分析し,酸塩基平衡異常の調査を行う。血液pHは7.4が,[HCO3-]は24が,それぞれおおよその標準値であり,血液pHは,[HCO3-]とPCO2のバランスによって算出される。アシドーシスとは,血液pHを低下させる病態であり,アルカローシスとは,血液pHを上昇させる 24が,それぞれおおよその標準値であり,血液pHは,[HCO3-]とPCO2のバランスによって算出される。アシドーシスとは,血液pHを低下させる病態であり,アルカローシスとは,血液pHを上昇させる病態であって,アシデミアとは血液pHが7.4を下回っている状態を,アルカレミアとは血液pHが7.4を上回っている状態をそれぞれ指す。また,[HCO3-]の変化による血液pHの変化を代謝性といい,PCO2の変化による血液pHの変化を呼吸性という。したがって,代謝性アシドーシスとは,HCO3-(炭酸水素イオン)の代謝異常の結果,血中の[HCO3-]が減少して血液pHが低下する病態を指す。また,[HCO3-]が変化したとき,PCO2が同方向に変化をすることによって,血液pHの変化幅を緩和する現象を呼吸性の代償という(甲B5,22,乙B5,7,8)。 b メイロンは炭酸水素ナトリウムをその成分として含み,体液をアルカリ化して,アシドーシスを改善する効果を有する。一方で,ナトリウムを含んでいることから,血中のナトリウムをも同時に増加させ,投与の結果,高ナトリウム血症を呈することがある(甲B4の10,14,22,乙B8)。 (イ) 亡Fに対しては,メイロンが平成10年10月26日13時40分から16時30分まで250ミリリットル,同日19時45分から21時まで150ミリリットルそれぞれ投与された(別紙診療経過一覧表,乙A4)。 (ウ) 亡Fの血液検査ガス結果をみるに,同日1時05分ころの検査では,血液pHは7.326,[HCO3-]は10.3であり,同日11時30分ころの検査では,血液pHは7.451,[HCO3-]は12.4であり,同日20時40分ころの検査では,血液pHは7.747,[HCO3-]は19.0であった(別紙検査結 3であり,同日11時30分ころの検査では,血液pHは7.451,[HCO3-]は12.4であり,同日20時40分ころの検査では,血液pHは7.747,[HCO3-]は19.0であった(別紙検査結果一覧表,乙A4)。 イ前記ア(ウ)の検査結果を前記ア(ア)aに示したところにより判断するに,確かに同日1時05分ころにおいては,[HCO3-]は標準値を大きく下回っており,血液pHも7.4未満であるから,亡Fは,代謝性アシドーシスであると認められるが,同日11時30分ころにおいては,[HCO3-]は依然標準値を下回っているものの,血液pHは7.4を若干上回っており,同日20時40分ころに至っては,むしろ大幅なアルカレミアというべき状態であった。 ウ前記アイによれば,亡Fの状態は,確かに[HCO3-]は標準値を下回っていたものの,呼吸性の代償により,血液pH自体はさほど低くはなく,同日の未明から昼にかけてこの状態は改善し,同日11時30分ころの検査結果ではむしろ若干アルカレミアであったのだから,メイロンの投与には慎重であるべきであった。事実,被告病院において,亡Fに対し,メイロンを投与し続けた結果,同日20時40分ころの血液ガス検査の結果では,亡Fは大幅なアルカレミアの状態になっていた。 エ(ア) 被告は,血液pHについては,見かけ上それほど異常がなくても,[ HCO3-]の低さからすると,血液pHは呼吸性の代償で保たれているだけだから,それを補正するためにメイロンの投与が必要であったと主張する。 (イ) そこで検討するに,メイロンによるアシドーシスの是正については,[HCO3-]は20,血液pHは7.3を目標にし,メイロンがナトリウムイオンを多く含むことから過剰投与に注意するべきことを指摘する文献(乙B5),代謝 メイロンによるアシドーシスの是正については,[HCO3-]は20,血液pHは7.3を目標にし,メイロンがナトリウムイオンを多く含むことから過剰投与に注意するべきことを指摘する文献(乙B5),代謝性アシドーシスの補正目的でのメイロン等の投与は,血液pHが7.2以下の強度の代謝性アシドーシスのときに限り行い,血液pHが7.2以上になれば,その時点でアルカリ投与の中止を原則とするとの見解を示す文献(乙B7)及び血液pH7.15以下では緊急の対応が必要であるが,それ以外の場合で特に代謝性アシドーシスの場合には,原疾患の治療と誘因の除去が最優先されると述べる文献(甲B22)が存在するのに対し,[HCO3-]が低いというだけで直ちにメイロン投与をするべきであるとする文献は見当たらない(乙B8は,高度の代謝性アシドーシスはメイロンで補正すべき旨を述べるが,同時に高ナトリウム血症の副作用に注意すべきことも述べている)。 (ウ) 以上によれば,亡Fにおける血液pHの値であれば,そもそもメイロンの投与は不要であるとの考えも十分成り立つし,亡Fの[HCO3-]がかなり低いことは事実であったが,一方で前記のように,メイロンを投与する際は,それに伴う血清ナトリウム値の上昇にも配慮する必要があり,後記4(4)イ,エで認定するように,亡Fにおいては血清ナトリウム値も正常値より高めであったこと及び高ナトリウム血症が脱水を助長する要因であることなどの事実を考慮すれば,亡Fにおいて血液pHの値が既に改善しているのに,なお,[HCO3-]が正常値より低いというだけでメイロンの投与を続ける理由はないというべきであって,前記(ア)の被告の主張は採用できない。 オ被告病院は,同日11時30分ころに血液ガス検査を行って以降,同日20時40分ころに至るまで血液ガス ロンの投与を続ける理由はないというべきであって,前記(ア)の被告の主張は採用できない。 オ被告病院は,同日11時30分ころに血液ガス検査を行って以降,同日20時40分ころに至るまで血液ガス検査をせず,前記ア(イ)で認定したように2回にわたりメイロンを投与しているが,同日20時40分ころには前記イで認定したように大幅なアルカレミアになっていたことに照らすと,同日の2度にわたるメイロンの投与のうち,少なくとも同日19時45分からの再度の投与に関しては,不必要な投薬であったと認められる。 してみれば,鑑定人が2(1)イで指摘するように,被告病院としては,同日19時45分からメイロンの投与に踏み切る前に,血液ガス検査を実施し,亡Fにおける酸塩基平衡の状態等を確かめておくべきであったというべきである。 カしたがって,被告病院における血液ガス検査義務懈怠の過失を認めることができる。 (4) また,原告らは,亡Fの肝性脳症の診断と治療のため,頭部CT検査,脳波検査及び腹部エコー検査が必要であったと主張するので,この点について判断すると,鑑定人も前記2(1)オ,カにおいて指摘するように,腹部エコーについては,本件入院時に,既に施行されていたし,頭部CT検査についても,前記1(3)で認定したように,亡Fが,入院後約1日で死亡するという急激な病態の悪化をたどったことに鑑みれば,これを行わなかったとしてもやむを得ないと認められ,さらに,脳波検査も同様であると認められるから,被告病院にこれらの検査を行わなかった過失を認めることはできない。 (5) さらに,被告病院における亡Fの全身状態の把握や経過観察に不十分な点があったか否かについて判断する。 アまず,尿量については,平成10年10月26日4時ころ計測されて以降,同日2 (5) さらに,被告病院における亡Fの全身状態の把握や経過観察に不十分な点があったか否かについて判断する。 アまず,尿量については,平成10年10月26日4時ころ計測されて以降,同日23時に至るまで,時間単位の尿量は計測されていなかった(乙A4)。 しかしながら,本件においては,前記(3)で判示し,あるいは後記4(4)で判示するように,亡Fには,メイロン,利尿剤等の脱水を助長する可能性のある投薬が行われていたし,血清ナトリウム値や血漿浸透圧も高かったのであるから,脱水症状の有無及び程度に対する注意を十分に払うべきであったと考えられ,そのためには,鑑定人も前記2(1)エで指摘するように,水分の出納バランスは崩れていないか,あるいは尿量は不足傾向になっていないかなどの点に配慮する前提として,尿量を計測することが必要であったというべきであり,それを怠った被告病院の措置は不十分であったと認められる。 被告は,バルーンが挿入されているから尿量は看護師が観察できたと主張するが,上記のとおり,尿量を定期的に計測することが重要であったと考えられるのであるから,かかる被告の主張は採用の限りでない。 イ次に,バイタルサインについて検討するに,証拠(乙A4,証人L)によれば,本件入院時から,看護記録上重症チャートに移記されることになる同日18時までの間において,入院した同日0時34分ころに心拍数,血圧,体温及び呼吸数を,同日1時10分ころに心拍数,血圧及び呼吸数を,同日1時30分に心拍数及び血圧を,同日2時10分に心拍数,血圧及び呼吸数を,同日6時及び同日10時に心拍数,血圧及び体温を,同日14時に心拍数及び体温を,同日17時に心拍数,血圧及び体温をそれぞれ測定していることが認められるが,その他にバイタルサインを測定した 呼吸数を,同日6時及び同日10時に心拍数,血圧及び体温を,同日14時に心拍数及び体温を,同日17時に心拍数,血圧及び体温をそれぞれ測定していることが認められるが,その他にバイタルサインを測定したと認めるに足りる証拠はない。 しかしながら,前記(2)ア(ウ)(エ),イ(イ)に判示したとおり,同日未明から夕方にかけては,亡Fの意識状態が次第に悪化していた時間帯であったし,前記1(3)オカキに認定したとおり,亡Fにおいては,再三不穏な言動等も認められていたのであるから,鑑定人も前記2(1)ウで指摘するように,少なくとも2時間に1回程度は血圧や呼吸数も含めてバイタルサインを計測するべきであったといえ,被告病院のバイタルサインの計測は,不十分であったと認められる。 なお,被告は,看護師が5分おきに巡回しており,問題となる所見があれば看護記録に記載していたから,バイタルサインを2時間ごとに計測する理由はないとするが,証拠(乙A4)によれば,亡Fにつき,「5分ラウンド~24h見守り」という治療方針の記載は認められるが,実際に5分ごとに見回っていたことを示す記載はないし,証人Lも,受け持ちの患者が8人くらいいて,それぞれ別の部屋におり,その見回りをする必要もあったから,亡Fの部屋を離れていることもあったこと,5分おきに見回るという上記の治療方針についても,時間が開いてしまうこともあり,他の看護師に依頼して部屋を出ることもあったことなどを証言しており,被告病院において,亡Fを5分おきに観察していたと認めることはできないし,亡Fにおいて問題となる事項があったときに,それを漏れなく看護記録に記載していたと認めることもできない。 ウさらに,前記1(3)ケに認定したとおり,同日0時34分に被告病院に入院し,同日3時ころ第一外科に転 となる事項があったときに,それを漏れなく看護記録に記載していたと認めることもできない。 ウさらに,前記1(3)ケに認定したとおり,同日0時34分に被告病院に入院し,同日3時ころ第一外科に転科した亡Fについて,主治医が決定したのは,その約半日後である同日11時30分ころであり,その間,証人Lが証言するように,亡Fが同日8時30分ころ自分で抜去した輸液ラインにつき,医師に来てもらえなかったこともあり抜けている状態が同日11時ころまで続いていたというような事態も現実に発生しており,十分な診療体制が敷かれていたと評価することはできず,救急で入院してきた患者を受け入れた病院としては,いささか緩慢な対応であったといわなければならない。被告は,当直体制にある間は主治医は決まらないと主張し,証人Kもこれに沿う証言をするが,亡Fにおいて,現実に上記のような事態が生じ,あるいは前記1(3)オカキに認定したとおりやや異常とも思われる言動等も認められていたのだから,主治医が約半日もの間決まらなかったことは,やはり問題であったといわなければならない。 また,前記1(3)シに認定したとおり,被告病院の対応を不十分だと感じた原告らは,被告病院の知り合いの教授の夫人に口添えを頼むという行動にも出ており,さらに,前記1(3)ソに認定したとおり,原告Bは,医師としての自らの判断で家族を病院に呼び寄せているところ,被告病院側は,前記1(3)ケコセに認定したとおり,主治医が決定した後においても,同日昼から夕方にかけては,医師は別の手術に入るなどして,亡Fの病室を訪れて病状を観察することはなく,なおかつ,同日17時30分ころまでは,実際に治療の指示を出していたのは,当時2年目の研修医であるKのみであったし,Kにおいても,看護師から亡Fの状態が悪化していると れて病状を観察することはなく,なおかつ,同日17時30分ころまでは,実際に治療の指示を出していたのは,当時2年目の研修医であるKのみであったし,Kにおいても,看護師から亡Fの状態が悪化しているとの連絡を受けて,手術室を抜け出し,亡Fの診察を行った上で,治療等の指示を出したのは同日17時35分過ぎのことであった。加えて,前記1(3)ソに認定したとおり,亡Fの意識状態が相当悪化した後である同日19時ころには,Hが,原告らに対し,亡Fの状態が厳しいことを説明はしているものの,その後同日20時ころには,Jは,明日状態が許せば検査をする,今日は帰宅してもよいなどと家族に説明をしており,被告病院の担当医師において,亡Fが今日明日にも命の危険がある切迫した状態であるという認識を有していたものとは到底考えられず,被告病院医師らの認識は楽観的にすぎたものといわざるを得ない。 結局,鑑定人による指摘を待つまでもなく,被告病院における亡Fの病状に対する認識は軽きに失しており,その治療体制は不十分であったというほかはない。 エ前記1(3)イエで認定したように,亡Fは,食道静脈瘤からの出血こそ止まっている状態ではあったが,再出血があれば致命的な事態になることが十分予想されていたものであるのに,被告病院の対応は,上記に判示したとおり,バイタルサインや尿量のチェックを怠り,主治医の決定時期も遅れ,病状の把握も不的確であり,亡Fの全身状態の把握,経過観察の点においていずれも不十分であったことが認められる。 (6) 以上によれば,被告病院には,亡Fに対し,血液検査,血液ガス検査,尿量計測及びバイタルサイン測定の各検査を適宜実施する義務を懈怠した過失が認められ,また,亡Fの全身状態の把握や経過観察を十分に行うべき義務を懈怠した過失があったといわな ,血液検査,血液ガス検査,尿量計測及びバイタルサイン測定の各検査を適宜実施する義務を懈怠した過失が認められ,また,亡Fの全身状態の把握や経過観察を十分に行うべき義務を懈怠した過失があったといわなければならない。そして,これらの点は,被告病院第一外科において,亡Fに対して十分な治療体制をとらなかったことや被告病院担当医師が亡Fの病状に対し的確な認識を持っていなかったことに起因するものと認められる。 4 争点(2)について(1) 原告らは,被告病院が亡Fに対して実際に行った治療につき,高アンモニア血症の治療や輸液は不十分であり,また,ラシックス,ソルダクトン及びメイロンの投与は不適切であったと主張する。 (2) そこでまず,高アンモニア血症の治療の点について判断すると,前記3(2)イ(ア)に判示したとおり,被告病院が亡Fに対して行った治療は,血中アンモニア値を下げる治療法としてはおおむね妥当なものであったと認められる。 しかしながら,前記1(3)オカキサ及び3(2)ア(イ)(ウ)(エ)イ(イ)に判示したとおり,亡Fは,平成10年10月26日6時ころには既に肝性昏睡の昏睡度分類において昏睡度3に当たる状態であり,その後も具体的な容態の面からも,意識レベルの面からも,時間を経るごとにおおむね悪化の一途をたどっていたこと,亡Fは,同日8時30分の時点で高アンモニア血症の状態にあり,これが亡Fの意識障害の原因の一つとなっており,肝不全による高アンモニア血症を原因とする肝性脳症を来していたと考えられること,亡Fの同日昼過ぎの血中アンモニア値は更に相当上昇していたことが推認されることからすると,亡Fに対する高アンモニア血症に対する治療は,迅速かつ強力に行われる必要があったと認められるが,前記1(3)コセタに判示したとおり,被告病院におい に相当上昇していたことが推認されることからすると,亡Fに対する高アンモニア血症に対する治療は,迅速かつ強力に行われる必要があったと認められるが,前記1(3)コセタに判示したとおり,被告病院においては,同日13時10分に初めてアミノレバン500ミリリットルの投与が行われ,次に,同日14時にグリセリン浣腸が行われ,モニラックの経口投与については,それを実行することができず,モニラックの浣腸に切り替えて実施したのは同日18時ころであり,その後,同日20時にアルギメート200ミリリットル,同日23時にアミノレバン500ミリリットルの投与がそれぞれ行われたのである。 前記1(3)クのとおり,亡Fに対する同日8時30分ころの血液検査の結果が同日11時に判明し,アンモニア値が亡Fの従前の検査結果の約4倍の高値を示し,それが亡Fの意識障害の原因となっていると考えられたのであるから,被告病院においては,検査結果判明後速やかに高アンモニア血症の治療を行うべきであり,同日13時10分にアミノレバンを投与し,同日14時にグリセリン浣腸を行い,さらには,モニラックの経口投与を実行することができなかったのに,モニラック浣腸に切り替えたのは同日18時ころになってからであったのは,遅きに失したというべきである。また,前記3(2)イ(ウ)(エ)に判示したとおり,被告病院においては,亡Fに対し,同日昼ごろ血液検査を実施すべき義務があったと認められるところ,同検査を行っていれば,同日15時ころには亡Fの血中アンモニア値が同日朝の時点より更に相当上昇していたという検査結果が明らかになったものと推認されるのであり,被告病院においては,同検査結果に基づき,同日15時以降,亡Fに対し,より強力な高アンモニア血症の治療を行うべきであったと認められる。 したがって,被告病院には, かになったものと推認されるのであり,被告病院においては,同検査結果に基づき,同日15時以降,亡Fに対し,より強力な高アンモニア血症の治療を行うべきであったと認められる。 したがって,被告病院には,亡Fのアンモニア血症に対するより迅速かつ強力な治療を怠った過失が認められる。 (3) 次に,亡Fに対し,平成10年10月26日8時30分ころ抜去された輸液ラインを再挿入し,輸液を継続するべきであったかについて判断する。 前記1(3)カに認定したとおり,亡F自身により平成10年10月26日8時30分ころ抜去された輸液ラインが,同日11時ころまで再挿入されないまま放置されていた事実が認められるところ,被告はこの点につき,同日0時34分の時点で亡Fの血液pHはほぼ正常範囲内であったこと,同日0時34分から同日8時30分までの間に1500ミリリットルを超える大量輸液が行われたこと及び亡Fの状態が一応安定していたことなどから,輸液を中止したと主張する。しかしながら,たとえ輸液の必要性が小さくなったとしても,患者により抜去された輸液ラインを放置したままでよいとは到底考えられないところであり,被告病院における亡Fの病状観察及びその処置が不十分であったことがうかがわれるが,他方,本件全証拠によるも,同日8時30分ころから同日11時ころまでの間になお輸液を行うべき必要性があったこと,これを行わないことが過失であることを認めることはできないから,亡Fに対する輸液を継続しなかったこと自体を過失であるとまではいうことができない。 (4) さらに,ラシックス及びソルダクトンの投与の適否について判断する。 ア証拠によれば,以下の事実が認められる。 (ア)a ラシックスは,利尿の効果を有する薬品であるが,進行した肝硬変症のある患者に対しては,肝 ルダクトンの投与の適否について判断する。 ア証拠によれば,以下の事実が認められる。 (ア)a ラシックスは,利尿の効果を有する薬品であるが,進行した肝硬変症のある患者に対しては,肝性昏睡を誘発することがあるから投与は慎重に行うべきであり,糖尿病のある患者にも慎重投与とされ,非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡の誘因となるとされており,ソルダクトンは,カンレノ酸カリウムをその成分とするものであって,カリウム保持の効果を有する薬品であるが,利尿剤の投与を受けている患者に併用した場合には,利尿作用を増強するおそれがあるとされている。そのため,電解質等をチェックするなどして患者の観察を十分行って投与する必要がある(甲B4の8,4の13,証人K)。 b 成人においては,体重の約60パーセントは水分であり,水分は,細胞外液と細胞内液の間を自由に移動する。その水分移動を規定するのは浸透圧であり,その中でもナトリウムは,細胞外液の浸透圧物質の最たるものであって,水分移動に重大な役割を演ずる。細胞外液の浸透圧が上昇すると,水分は細胞内から細胞外へ移動し,細胞外液の浸透圧を保とうとするから,細胞内液が不足して細胞内脱水を生じる。水が欠乏し,細胞外液中のナトリウムが濃縮し,浸透圧が上昇して上記のような細胞内脱水を生ずることを水欠乏性脱水という。また,浸透圧が急激に高まると,脳細胞内脱水を生じ,機能的,器質的変化を起こすこともある。したがって,浸透圧の値は患者の治療に当たっては重要な指標であるというべきであるが,その測定方法としては,血漿浸透圧をみるのが一つの方法である。血漿浸透圧は,血清ナトリウム値と血清カリウム値の和を2倍したものに,血糖値の18分の1と尿素窒素値の2.8分の1を加えることにより算出するのが一般である。正常人の血漿浸 をみるのが一つの方法である。血漿浸透圧は,血清ナトリウム値と血清カリウム値の和を2倍したものに,血糖値の18分の1と尿素窒素値の2.8分の1を加えることにより算出するのが一般である。正常人の血漿浸透圧は,285ないし295の狭い範囲に保たれている。また,血清ナトリウム値の正常値の上限は150ないし154程度であるとされているところ,脱水が進行すると,血漿浸透圧及び血清ナトリウム値は上昇する(甲B2の5,3の3,7の1,8,13,14,乙B4,7,証人K,鑑定の結果)。 c 脱水の臨床症状としては,口渇,尿量減少,体重減少,皮膚口腔粘膜の乾燥,皮膚の弾力性の低下,頻脈,血圧低下,意識障害等があるとされる(甲B5,乙B6,7)。 d 尿量に厳密な最適量はないが,通常の生活では1日当たり1200ないし1500ミリリットルであり,軽度の脱水症では,尿量が500ないし1000ミリリットルに減少する症状,中等度の脱水症では,尿量が500ミリリットル以下という乏尿の症状,重度の脱水症では,乏尿あるいは無尿という症状がそれぞれみられるとされる。脱水症に対する適切な1日当たりのおおよその輸液量としては,軽度の脱水症の場合は維持量(通常時の輸液量であり,約2000ミリリットルである。以下同じ。)に加えて0ないし1リットル,中等度の脱水症の場合は維持量に加えて1ないし3リットル,重度の脱水症の場合は維持量に加えて2ないし4リットルであるとされる(甲B5,乙B7)。 (イ) 亡Fの血漿浸透圧及び血清ナトリウム値は,平成10年10月26日8時30分ころにおいては,それぞれ338.6,138であり,同日17時35分ころにおいては,それぞれ358.6,151と上昇し,同日20時40分ころにおいては,それぞれ361.1,158と更に上昇して 30分ころにおいては,それぞれ338.6,138であり,同日17時35分ころにおいては,それぞれ358.6,151と上昇し,同日20時40分ころにおいては,それぞれ361.1,158と更に上昇していた(別紙検査結果一覧表,乙A4)。 (ウ) 亡Fは,同日0時34分の入院時に一番つらいこととして喉がすぐ渇くことを訴えていた。亡Fの心拍数は,同日0時34分の入院時は131,同日1時10分は126,同日1時30分は127,同日2時10分は125,同日6時は78,同日10時は148,同日14時は136,同日17時は130,同日18時は160台,同日19時は160,同日20時,22時,23時,翌26日0時はいずれも150台,同日1時は160台であった(乙A4,証人L)。 (エ) 亡Fに対する輸液は,同日0時34分の本件入院時,同日1時05分,同日1時30分及び同日5時30分に,いずれも当直のS医師の指示により,ヴィーンFをそれぞれ500ミリリットル(合計2000ミリリットル)投与されたが,その後は,同日17時にソリタT3500ミリリットル輸液の指示がKから行われるまで,輸液はされていなかった(乙A4,証人K)イ前記ア(ア)b,(イ)によれば,亡Fは,同日8時30分ころの時点で,既に相当の高浸透圧状態であり,同日の夕方及び夜にかけてそれがさらに悪化したと認めることができるし,血清ナトリウム値も,朝から夜にかけて上昇し,同日20時40分ころには正常範囲を上回るところまで達したと認めることができる。 ウ一方,前記1(3)タの事実及び証拠(乙A4,鑑定の結果)によれば,亡Fの本件入院時から同日2時までの尿量は150ミリリットル,同日2時から4時までの尿量は300ミリリットルであり,同日4時から23時までの間は,1,2時 実及び証拠(乙A4,鑑定の結果)によれば,亡Fの本件入院時から同日2時までの尿量は150ミリリットル,同日2時から4時までの尿量は300ミリリットルであり,同日4時から23時までの間は,1,2時間間隔の正確な尿量計測は行われていなかったが,その間の尿量は943ミリリットルであり,同日23時から24時までの尿量は100ミリリットルであり,亡Fの24時間分の尿量は,約1493ミリリットルとなるから,前記ア(ア)dの基準に照らすと,乏尿状態であったとは認められない。 エ以上によれば,亡Fの尿量については,通常量に近い量が確保されて乏尿状態であったとはいえないが,亡Fは,約2000ミリリットルの輸液を受け,また,利尿剤の投与による影響もあったから,乏尿ではないからといって直ちに脱水ではなかったとはいえない。 そして,前記ア(ア)b,cに認定したとおり,血漿浸透圧及び血清ナトリウム値の上昇は,脱水の進行を疑わせる事情であり,また,脱水の臨床症状の一つとして口渇,頻脈,意識障害等が挙げられているところ,前記ア(イ)及びイに認定したとおり,亡Fにおいては両者の値の上昇が認められ,また,前記ア(ウ)に認定したとおり,亡Fは,入院時に口渇を訴えており,かつ,ほぼ常時頻脈であったし,前記3(2)ア(ウ)に認定したとおり,亡Fには意識障害も認められたのであり,これらの事情からすると,亡Fが脱水状態であった可能性は十分あったといわなければならない。 オこのように,亡Fは,脱水状態であった可能性も十分にあったから,利尿剤を投与するには,慎重な全身状態の把握と,投与するだけの十分な理由が必要であったし,投与する場合には,亡Fの電解質等をチェックするなどしてその観察を十分行って投与する必要があったというべきである。 ところで,前記1(3 の把握と,投与するだけの十分な理由が必要であったし,投与する場合には,亡Fの電解質等をチェックするなどしてその観察を十分行って投与する必要があったというべきである。 ところで,前記1(3)コに認定したとおり,亡Fに対し,同日12時40分にはラシックス1アンプルを,同日13時40分にソルダクトン200ミリリットルを投与しているが,被告は,ラシックス及びソルダクトン投与の必要性につき,亡Fは輸液量の割に尿量の減少傾向があり,腎機能障害が認められたから,ラシックスを投与し,それによるカリウムの異常低下を防ぐためにソルダクトンを併用したと主張し,証人Kはこれに沿う証言をしている。 しかしながら,前記ウに認定したとおり,被告病院は,同日4時から23時までの間,亡Fの尿量について1,2時間間隔の正確な尿量計測を行っていなかったから,亡Fに尿量の減少傾向があったとはいまだ認めるに足りる証拠はなく,また,別紙検査結果一覧表並びに証拠(甲B9,証人K)及び弁論の全趣旨によれば,亡Fの血清クレアチニン値は,同日0時40分ころの検査で1.5,同日8時30分ころの検査で1.56,同日17時35分ころの検査で1.52であって軽度のものであり,成人男性の血清クレアチニン値の基準が0.8ないし1.3であることからすれば,亡Fの腎機能障害は軽度のものであって重症ではなかったと認められる。一方,前記ア(ア)aで認定したように,ラシックスは,進行した肝硬変症のある患者に対しては肝性昏睡を誘発するおそれがあることから投与は慎重にすべきであるとの指摘があり,前記1(1)(2)(3)及び3(2)イ(イ)に判示したとおり,亡Fは,正に進行した肝硬変症を有する患者であり,同日午前中において,肝不全による高アンモニア血症を原因とする肝性脳症を来していた。加えて 記1(1)(2)(3)及び3(2)イ(イ)に判示したとおり,亡Fは,正に進行した肝硬変症を有する患者であり,同日午前中において,肝不全による高アンモニア血症を原因とする肝性脳症を来していた。加えて,後記7(4)で判示するように,亡Fは,糖尿病に罹患しており,非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡であった可能性も存するところ,利尿剤がその誘因となる可能性も指摘されていた。 カ以上によれば,被告病院の亡Fに対するラシックス及びソルダクトンの投与の必要性には疑問があり,また,ラシックス及びソルダクトンを投与するには,電解質等をチェックするなどして患者の観察を十分行って投与する必要があるところ,前記3(6)に判示したとおり,被告病院において,血液検査,血液ガス検査,尿量計測及びバイタルサイン測定の各検査を適宜実施する義務を懈怠した過失が認められ,また,亡Fの全身状態の把握や経過観察において不十分な点があったことに加え,さらに,ラシックス及びソルダクトンの使用が体液の喪失を促進させ脱水を助長した結果,血清ナトリウム値が高値になった可能性が高いと考えられるとの鑑定人の指摘(前記2(2)ウ)を併せ考えると,被告病院が,亡Fに対し,ラシックス及びソルダクトンを投与したのは,不適切であったと認められ,被告病院においてこれらの投与に過失があるといわなければならない。 (5) 進んでメイロンの投与の適否について判断すると,前記3(3)に判示したとおり,少なくとも平成10年10月26日19時45分からのメイロンの投与については,亡Fにおいて血液pHが既に改善していたから,不必要な投与であったと認められる。 そして,前記3(3)ア(ア)b,イウで認定したように,メイロンは,ナトリウムを含んでいることから血中のナトリウムを増加させる副作用があり,ま いたから,不必要な投与であったと認められる。 そして,前記3(3)ア(ア)b,イウで認定したように,メイロンは,ナトリウムを含んでいることから血中のナトリウムを増加させる副作用があり,また,亡Fに対する上記のメイロン投与によって,亡Fはアルカレミアの状態になったと推測され,人間の腸管においてはpHが高いほどアンモニアの腸管吸収率が高く,したがって,腸管内pHを低下させることにより,腸管でのアンモニア産生及びアンモニアの腸管吸収を抑制し,血中アンモニア値を低下させることができる旨の指摘をする文献(甲B4の16)が存在することからすれば,メイロンの投与によるアルカレミアによって亡Fの高アンモニア血症を悪化させる可能性もないわけではなかったから,被告病院において,メイロンを投与したのは,亡Fに対する措置としては不適切なものであったといわなければならないし,前記3(3)オに判示したとおり,同日19時45分からメイロンを投与するのであれば,その前に,血液ガス検査を実施し,亡Fにおける酸塩基平衡の状態等を確かめておくべきであったというべきであり,被告病院のメイロンの投与には過失が認められる。 (6) 以上によれば,被告病院の措置のうち,抜去された輸液を放置したこと及びその間に輸液を継続しなかったことについては過失があるとまではいえないが,高アンモニア血症に対する治療は,誤りではなかったものの,より迅速かつ強力に行わなかった点に過失が認められるし,ラシックス,ソルダクトン及びメイロンの投与も不適切であって,被告病院の過失が認められる。 5 争点(3)について(1) 原告らは,被告病院には,平成10年10月27日0時40分ころ,亡Fに対して人工呼吸を行う際,救急救命措置が遅れた過失があると主張する。 (2) 前記1(3)チに認 争点(3)について(1) 原告らは,被告病院には,平成10年10月27日0時40分ころ,亡Fに対して人工呼吸を行う際,救急救命措置が遅れた過失があると主張する。 (2) 前記1(3)チに認定したとおり,確かに,同時刻に亡Fの容態が悪化した際,サクションの用意に手間取った事実は認められるが,一方,その時の吸引においては吸引物はなかったことも認められるから,喉に物が詰まりその吸引が遅れたというわけではなく,また,気管内挿管が遅れたと認めるに足りる証拠もない。鑑定人も前記2(5)において指摘するように,亡Fの呼吸困難は,全身状態の悪化によるものと考えられ,上記のサクション用意に手間取った事実をもって過失であるとまでは認めることができない。 6 小括前記3ないし5によれば,被告病院には,血液検査,血液ガス検査,尿量計測及びバイタルサイン測定の各検査を適宜実施し,また,亡Fの全身状態の把握や経過観察を十分に行うべき義務を懈怠した過失,高アンモニア血症の治療を迅速かつ強力に行わなかった過失及び不適切なラシックス,ソルダクトン及びメイロンの投与を行った過失が認められる。 7 争点(4)について(1) そこで,被告病院の過失と亡Fの死亡との因果関係について判断するに,原告らは,被告病院の過失により,亡Fは,脳浮腫,脳ヘルニアあるいは非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡を発症,増悪させ,呼吸停止状態に陥り死亡するに至ったと主張する。 (2) まず,亡Fの死亡の原因について検討するに,前記1(3)アチテに認定したとおり,亡Fは,平成10年10月26日0時34分被告病院に入院したが,その約24時間後の同月27日1時ころ呼吸停止状態に陥り,同日4時10分に死亡するに至ったところ,鑑定人は,肝不全による高アンモニア血症由来の肝性脳症によ 0月26日0時34分被告病院に入院したが,その約24時間後の同月27日1時ころ呼吸停止状態に陥り,同日4時10分に死亡するに至ったところ,鑑定人は,肝不全による高アンモニア血症由来の肝性脳症による脳浮腫,脳ヘルニアによって呼吸停止に至ったことや非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡を合併していた可能性が考えられるとするが,亡Fに対する病理解剖が行われておらず,亡Fの状態が入院後わずか24時間で急変し,呼吸停止を起こした原因について,基本的には不明であるとしており,一方,証人Kは,亡Fの肝不全の急速な増悪によって発生したサイトカインが血管を拡張し,脳浮腫を亢進させ,これに腎不全,糖尿病,代謝性アシドーシス等が複雑に絡み合って亡Fに非常に重篤な肝性脳症が発生した結果死亡するに至ったと証言しており,結局,本件全証拠によるも,亡Fの死亡の原因を明確に特定することはできないといわなければならない。 (3)アところで,前記3(2)イに判示したとおり,亡Fは,同月26日午前中に既に高アンモニア血症を原因とする肝性脳症を来していたと考えられ,亡Fの昏睡度は同日午前中に昏睡度3に相当し,同日夕方には昏睡度4に達していたと認められるところ,肝性脳症昏睡度4の75ないし80パーセントには脳浮腫が起こるとする文献(甲24)もあり,鑑定人が前記2(4)で指摘するように,亡Fにおいて,肝不全による高アンモニア血症由来の肝性脳症による脳浮腫,脳ヘルニアが亡Fに呼吸停止状態を引き起こした可能性は認められる。 そうすると,前記3(2)イで認定したように,亡Fの血中アンモニア値は,入院中かなり上昇していたし,前記3(2)(3)(5),4(2)(4)において判示したとおり,被告病院には,適時に血液検査を行うことを怠り,その結果に基づき高アンモニア血症の治療を緊急 モニア値は,入院中かなり上昇していたし,前記3(2)(3)(5),4(2)(4)において判示したとおり,被告病院には,適時に血液検査を行うことを怠り,その結果に基づき高アンモニア血症の治療を緊急かつ強力に実施しなかったこと及び肝性昏睡を誘発する危険性のあるラシックスを投与した点に過失が認められるのであるから,被告病院の過失によって高アンモニア血症が進行し,肝性脳症が悪化して,脳浮腫あるいは脳ヘルニアが引き起こされ,亡Fが死亡するに至った可能性は認められる。 イしかしながら,前記(2)に判示したとおり,亡Fの死亡の原因をいまだ肝性脳症悪化による脳浮腫あるいは脳ヘルニアであると断定することができないし,さらに,前記1(1)(2)(3)ア,3(2)イに認定したとおり,亡Fは,元々アルコール性肝硬変,糖尿病の既往を有し,入通院を繰り返しており,今回もタール便や枕を一面黒くするほどの褐色の嘔吐物を認めるなど症状が相当悪化した状態で被告病院に入院し,さらに,被告病院入院後まもなく意識障害を来たしたことから,入院時に既に亡Fの肝予備能が限界に達していた状態にあったことなどからすると,被告病院において,前記3(2)(3)(5),4(2)(4)に判示したとおり,同日11時に明らかになった亡Fのアンモニア値に基づき,速やかに高アンモニア血症の治療を行い,かつ,同日昼ごろ再度血液検査を実施して,この検査結果に基づき,同日15時以降により強力な高アンモニア血症の治療を行い,さらには,ラシックスの投与を行わなかったとしても,鑑定人が前記2(3)で指摘するように,亡Fを救命できたか否かについては,客観的な根拠もなく,不明であるというほかないといわなければならない。 ウそうすると,被告病院の上記過失と亡Fの死亡との因果関係が高度の蓋然性をもって証明され Fを救命できたか否かについては,客観的な根拠もなく,不明であるというほかないといわなければならない。 ウそうすると,被告病院の上記過失と亡Fの死亡との因果関係が高度の蓋然性をもって証明されたといまだ認めることはできない。 (4) 次に,非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡の可能性について検討するに,証拠によれば以下の事実が認められる。 ア糖尿病性昏睡は,大別してケトアシドーシス性昏睡と非ケトン性高浸透圧性昏睡に分けられるが,まれに乳酸アシドーシスによるものがある。非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡とは,糖尿病が増悪し,高血糖が高度になり,グルコースによる浸透圧の上昇により起こる病態である。50歳以上の高齢者に発症する例が多く,利尿剤の投与が発症の誘因となる場合もある。臨床症状としては,脱水や意識障害,痙攣等の精神神経症状が見られる。インスリン分泌がわずかながら保たれ,脂肪分解が亢進しないので,ケトアシドーシス性昏睡と比べると,ケトーシス(体内にケトン体が増加する病態)が起こらないのも特徴の一つである。一方,ケトアシドーシス性昏睡は,糖尿病におけるインスリン欠乏による急性合併症の典型であるとされ,ケトン体の増加が顕著な特徴である。乳酸アシドーシスは,種々の原因によって血中に乳酸が増加する結果,著しい代謝性アシドーシスを起こして昏睡に陥る疾患であり,その診断基準としては,血中乳酸値が5ないし6以上で血液pHが7.35以下が一般的であるとされる(甲B3の3,7の1,10,11の2,13ないし15,18,乙B4)。 イ非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡の具体的な診断基準としては,ケトン体が陰性か弱陽性で,血糖値は500ないし600以上で1000前後の場合が多く,血漿浸透圧は350以上,血清ナトリウム値は150以上とされるが( 浸透圧性糖尿病性昏睡の具体的な診断基準としては,ケトン体が陰性か弱陽性で,血糖値は500ないし600以上で1000前後の場合が多く,血漿浸透圧は350以上,血清ナトリウム値は150以上とされるが(甲B3の3,7の1,8,10,11の2,13ないし15,乙B4),血糖値については285程度でも死亡例があり(甲B13,15),血漿浸透圧についても,320程度の死亡例もある(甲B13,15)。血液pHはおおむね7.3ないし7.4であるとされるが(甲B8,14,乙B4),血液pHや[HCO3-]はむしろ低値を示すものも少なくないと述べ,血液pHにつき,6.95ないし7. 54の症例が存在したことを記載している文献もある(甲B13,15)。 ウこの診断基準を亡Fの病態に当てはめると,血糖値については,平成10年10月26日の本件入院時には520,同日8時30分ころには485,同日11時30分ころには590,同日14時20分ころには542,同日17時ころには444,同日20時ころには382,同日20時40分ころには223(以上乙A4,5)であるから,おおむね500前後を推移していたし,また,前記4(4)ア(イ)に認定したとおり,血漿浸透圧については338.6ないし361.1であり,血清ナトリウム値についても夕方以降は150を超えているから,本症の基準には一応達しているということができる。ケトン体についても陰性と診断されている。さらに,血液pHについては,前記イに判示したとおり,明確な基準になり得るかは疑問の存するところではあるが,仮に7.3ないし7.4という基準を参考にするとしても,前記3(3)ア(ウ)で認定したように,同日1時05分には7.326,同日11時30分には7.451であり,投与されたメイロンの影響も考慮するならば,おおむね基 .4という基準を参考にするとしても,前記3(3)ア(ウ)で認定したように,同日1時05分には7.326,同日11時30分には7.451であり,投与されたメイロンの影響も考慮するならば,おおむね基準の範囲内であるということができる(乙A4)。 エ加えて,血糖値については,平成10年10月26日11時40分にヒューマリンR12単位,同日14時45分にヒューマリンR10単位,同日18時20分にヒューマリンR12単位,同日20時05分にヒューマリンR10単位がそれぞれ投与されているところ(乙A4),ヒューマリンRは血糖値を下げるための薬品であるから(証人K),血糖値については,鑑定人も前記2(4)で指摘するように,その値はヒューマリンRによってある程度下げられたものである可能性もあるし,消化管出血や利尿剤の投与が本症の原因となり得ることを指摘する文献が存するところ(甲B7の1),本件においては,前記1(3)アコで認定したように,亡Fにはその両者共に認められることなどをも併せ考慮すると,亡Fが非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡であった可能性は十分にある。 そして,鑑定人が前記2(4)で指摘するように,亡Fにおいて,脳浮腫,脳ヘルニアに加えて,非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡が合併して呼吸停止状態を引き起こして死亡した可能性は認められる。 オところで,被告病院のカルテ(乙A4)上,「ケトン(-)」,「糖尿病性昏睡の可能性↓か」との記載があるところ,ケトン体がないことは前記アイで認定したように,非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡をむしろ疑わせる事情であるし,Kは,亡Fについて,糖尿病性昏睡の中でも,ケトン体の存在をその特徴とする糖尿病性ケトアシドーシスのみを念頭に置いており,非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡については想定していなかっ る事情であるし,Kは,亡Fについて,糖尿病性昏睡の中でも,ケトン体の存在をその特徴とする糖尿病性ケトアシドーシスのみを念頭に置いており,非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡については想定していなかったと証言しており,被告病院は,亡Fについて,非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡の可能性を念頭において治療を行っていなかったといわなければならない。そして,前記3(3)(5),4(4)に認定したとおり,血液ガス検査,尿量計測及びバイタルサイン測定の各検査を適宜実施する義務を懈怠し,亡Fの全身状態や症状の経過を十分把握することなく,糖尿病患者に対し慎重投与とされ,血清ナトリウム値を上げ,非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡の誘因となるとされているラシックス及びソルダクトンを不適切に投与するなどした被告病院の過失が,亡Fの非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡の状態を一層悪化させて,亡Fが死亡するに至った可能性は認められる。 カなお,被告は,亡Fにアニオンギャップの増大や代謝性アシドーシスが認められたことから,むしろ乳酸アシドーシスであった可能性もあると主張する。 証拠(甲B8,18,乙B5,7)によれば,アニオンギャップは,生体に酸が負荷された場合,その酸と同量のHCO3-が消費されることにより増大するものであり,アニオンギャップの増大は何らかの代謝性アシドーシスの存在を意味するとされているところ,確かにアニオンギャップが増大している場合には,乳酸アシドーシスの可能性がある旨の指摘はされているが,一方で,それだけに限らず,腎不全等の理由による増大の可能性についても言及されている(乙B5)のであって,アニオンギャップの増大が直ちに乳酸アシドーシスであることを意味するわけではない。また,Kも同日朝の段階では乳酸アシドーシスを疑っていたわけではな 能性についても言及されている(乙B5)のであって,アニオンギャップの増大が直ちに乳酸アシドーシスであることを意味するわけではない。また,Kも同日朝の段階では乳酸アシドーシスを疑っていたわけではなく,乳酸値の測定もしていなかった(証人K)。さらに,非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡に乳酸アシドーシスが共存することがあることを指摘する文献(甲B18)も存在する。以上によれば,亡Fが乳酸アシドーシスであったと認めるに足りる証拠はないし,仮に乳酸アシドーシスであったとしても,その事実と非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡であるという事実は両立し得るのであるから,被告の上記主張は,前記の判断に影響しないというべきである。 キしかしながら,前記(2)に判示したとおり,亡Fの死亡の原因をいまだ非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡によるものであると断定することができないし,さらに,前記(3)イに認定したとおりの亡Fの肝硬変及び全身状態の悪化からすると,被告病院において,前記3(3)(5),4(4)に認定したとおり,血液ガス検査,尿量計測及びバイタルサイン測定の各検査を適宜実施し,亡Fの全身状態や症状の経過を十分把握して,ラシックス及びソルダクトンの投与を控えたとしても,鑑定人が前記2(3)で指摘するように,亡Fを救命できたか否かについては,客観的な根拠もなく,不明であるというほかないといわなければならない。 なお,メイロンの投与については,鑑定人が前記2(2)ウで指摘するように,亡Fの高ナトリウム血症は,利尿剤の使用による可能性が高く,メイロンの投与が関与した可能性は低いとも考えられるし,メイロンの投与が亡Fの脱水を招き血清ナトリウム値を上げたと認めるに足りる証拠もなく,メイロンの投与により亡Fの高アンモニア血症が悪化したことを示す具体的な証拠もないか 可能性は低いとも考えられるし,メイロンの投与が亡Fの脱水を招き血清ナトリウム値を上げたと認めるに足りる証拠もなく,メイロンの投与により亡Fの高アンモニア血症が悪化したことを示す具体的な証拠もないから,メイロンの投与についての被告病院の過失と亡Fの死亡との因果関係はそもそも認められない。 クしたがって,被告病院の上記過失と亡Fの死亡との因果関係が高度の蓋然性をもって証明されたと認めることはできない。 (5) 以上のとおり,被告病院の前記6の各過失と亡Fの死亡との間の因果関係が証明されたとはいまだ認めることはできない。 なお,原告らは,本件のようないわゆる不作為の因果関係については,被告が本来の債務を履行していれば因果関係の有無について現実の事実の問題として明らかになったはずであるのに,被告の不完全履行によって仮定的な事実の問題として議論せざるを得なくなったのであるから,仮定的因果関係の証明責任は被告に転換されるべきであるとも主張するが,本件のような不作為の因果関係につき立証責任を転換すべきであるとはいまだ解されないから,かかる原告らの主張を直ちに採用することはできない。 8 争点(5)及び(6)について(1) 医師等が過失により医療水準にかなった医療を行わなかったときには,そのことと患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されなくとも,医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合には,医師等は,患者がかかる可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき責任を負うというべきである。 被告は,原告らの主張するいわゆる期待権理論では,過失を基礎付ける事実そのものが,損害及び因果関係と同一の要件事実となる結果となり,法的理論としても を賠償すべき責任を負うというべきである。 被告は,原告らの主張するいわゆる期待権理論では,過失を基礎付ける事実そのものが,損害及び因果関係と同一の要件事実となる結果となり,法的理論としても失当であると主張するが,上記の理論は,患者が死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の証明があった場合に,医師等の責任を認めるものであって,単に過失を基礎付ける事実そのものの証明があれば足りるとするものではないから,かかる被告の主張は,その前提において既に失当である。 (2) 本件においては,前記6に判示したとおり,被告病院には,医療水準にかなった医療を行わなかった過失が認められるものの,前記7に判示したとおり,被告病院の各過失と亡Fの死亡との因果関係がいまだ証明されたとはいえないが,亡Fに対する血液検査,血液ガス検査,尿量計測及びバイタルサイン測定の各検査を怠った過失及び亡Fの全身状態の把握や経過観察を怠った過失が認められ,それらの検査及び全身状態の把握等が行われていれば,亡Fの死因の原因となった可能性が高いと考えられる高アンモニア血症の治療をより迅速かつ強力にすることができ,また,不適切な利尿剤の投与をすることもなく,亡Fの病態の悪化に対して,より適切な治療を適時に採ることができ,そうすると,亡Fには相当程度の延命の可能性があったと認められるから,被告病院の過失によって亡Fの延命の可能性が侵害されたものというべきであって,被告は,亡Fに対し,慰謝料の損害を賠償する義務を負うというべきである。 (3) そして,亡Fは,被告大学出身の医師であって,被告病院における医療に一定の期待と信頼を寄せていたと思われること,救急で入院したにもかかわらず,入院後約半日もの間,主治医も決まらない状態に置かれていたこと,亡Fの病態及び全身状態 医師であって,被告病院における医療に一定の期待と信頼を寄せていたと思われること,救急で入院したにもかかわらず,入院後約半日もの間,主治医も決まらない状態に置かれていたこと,亡Fの病態及び全身状態につき,被告病院医師らは十分に観察をして治療に当たっていたとはいえず,また,被告病院の亡Fの病状の認識は軽きに失していたこと,一方,亡Fは,入院の前々日や前日にタール便や褐色の吐瀉物が認められ,被告病院に入院した際にも,食道静脈瘤からの再出血があれば重篤な状態になり得ると診断されるなど,入院の時点で既に病態が芳しくはなかったこと,亡Fは,アルコール性肝硬変の既往症を有し,その対策としては禁酒が第一であり,医師である亡Fはそのことをよく理解していたはずであるにもかかわらず,入院直前まで,継続的に飲酒をして自ら病気を悪化させる有害な行為に及んでいたこと,入院の前夜には既にタール便が認められていたのに,即座には入院をしなかったことなどの事情を総合考慮すれば,本件における慰謝料としては700万円が相当であると認められる。 また,本件事案の複雑さ,審理期間,鑑定まで要した案件であることなどに照らせば,本件における弁護士費用としては100万円が相当である。 9 以上によれば,原告らの請求は,主文の限度で理由があるからその限度でこれらを認容し,その余は理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部裁判長裁判官前田順司裁判官浅井憲裁判官熊代雅音・争点整理表第1 検査義務及び治療義務の不履行の有無 1 被告病院は,平成10年10月26日0時30分,亡Fの救急入院時にアンモニア検査をすべきであったか。 (原告らの主張)(1) 亡Fは,①肝硬変,②食道静脈瘤の既往を有しており 不履行の有無 1 被告病院は,平成10年10月26日0時30分,亡Fの救急入院時にアンモニア検査をすべきであったか。 (原告らの主張)(1) 亡Fは,①肝硬変,②食道静脈瘤の既往を有しており,消化管出血で入院してきたのであるから,肝機能の急激な悪化による一層の尿素サイクルの障害,あるいは,消化管内の出血が大腸内に貯留し,これが分解されることを原因として,高アンモニア血症に陥る危険が極めて高かったので,被告病院は,亡Fに対し,入院時以降定期的にアンモニア検査をすべきであった。 (2) 被告病院がアンモニア検査を実施していれば,亡Fが高アンモニア血症に陥った時点で,即座にこれを診断し,アミノレバンを使用したり,アンモニア産生を抑える非吸収性物質(ネオマイシン,カナマイシン,パロモマイシン等)の投与,ラクツロースの投与,分枝鎖アミノ酸の注射の治療や血漿交換や遠心分離法あるいは膜分離法等のアンモニア除去のための治療をできた。 (被告の主張)(1) 被告病院は,亡Fには,①肝硬変及び食道静脈瘤の既往があること,②タール便及び吐血が出現したことから,亡Fの肝機能を確認した上で,亡Fに対し,消化管出血を疑い止血操作をすることを考えた。 (2) 亡Fの肝機能等を確認した結果,亡Fには,肝機能障害は認められたが軽度であり,食道・胃カメラで食道静脈瘤の活動的出血の有無を確認したところ,食道静脈瘤が3,4条認めるも,止血されていた。 (3) 高アンモニア血症については,亡Fの意識は清であり,特に危惧すべき状態ではなく,亡Fに対し,アンモニア検査をすべきであったとはいえない。 原告らは,入院後定期的にアンモニア検査をすべきであったとも主張しているが,定期的とは,どのような間隔でアンモニア検査をすべきであったかについて具体的に主張し をすべきであったとはいえない。 原告らは,入院後定期的にアンモニア検査をすべきであったとも主張しているが,定期的とは,どのような間隔でアンモニア検査をすべきであったかについて具体的に主張しておらず,主張自体失当である。 なお,被告病院は,亡Fに対し,平成10年10月26日中に3回もアンモニア検査をしており,頻回にアンモニア検査を実施していた。 (4) 原告らが主張する時刻ころに,血中アンモニア濃度についての検査を実施すれば,高アンモニア血症の所見が得られたといえる根拠はなく,高アンモニア血症の所見が得られたとはいえない。また,亡Fには消化管出血があり,それによってアンモニア値が上昇することがあり得るので,アンモニア値を測っても肝不全の程度を考えることができない。 2 被告病院は,同日3時30分ころから同日17時35分ころまでの間に,血液検査及び血液ガス検査をすべきであったか。 (原告らの主張)(1) 亡Fは,原告Aが被告病院を離れた同日3時30分ころには,会話もでき,身体も動かせるなどの状態であったのに,原告Aが被告病院に戻った同日10時30分ころには,原告Aを弁別できず,会話もできない状態になっており,亡Fに中枢性の障害が生じていることが予想された。このような亡Fの状態は,肝性脳症についての意識障害分類による昏睡度3に相当する。 (2) したがって,同日3時30分ころから同日10時30分ころまでの間に,亡Fの血中アンモニア濃度は急激に上昇し,あるいは,血糖値の急激な上昇や,アシドーシスの亢進等,その全身状態は急激に増悪していたはずであるから,被告病院は,亡Fに対し,血液検査及び血液ガス検査をすべきであった。このことは,亡Fの同日11時30分のベースエクセス(以下「BE」とする。)が-10.4というひどく悪 増悪していたはずであるから,被告病院は,亡Fに対し,血液検査及び血液ガス検査をすべきであった。このことは,亡Fの同日11時30分のベースエクセス(以下「BE」とする。)が-10.4というひどく悪い数値であり,PCO2が18と低いことからすると,呼吸性の代償で血液pHを何とか正常値に保っているという状態であることからも裏付けられる。 なお,同日8時30分に実施した血液検査の結果でもアンモニア上昇の結果が出ている。被告病院は,この結果を同日11時に見たとしているが,もっと早く結果を確認すべきであった。 (3) さらに,後述のとおり,同日11時30分の担当医の決定後に行われたラシックス,メイロン及びソルダクトンの投与あるいはバルーンの挿入等によって強制的な利尿促進を図っているのであるから,その後,同日17時35分までのどの時点であっても,血液検査及び血液ガス検査を実施していれば,亡Fにおいて高浸透圧状態や高アンモニア血症が一層悪化していた事態を把握できたはずであり,そうしていれば,被告病院は,亡Fに対し,同日17時35分の検査の結果を待つまでもなく,より早く生理的食塩水の大量投与やインスリン投与等の高浸透圧状態に対する治療や前記1(原告らの主張)(2)記載の高アンモニア血症に対する治療を開始することができたし,同日19時45分からのメイロン投与の要否についても,より明確にすることができた。 なお,血液ガス検査については,高浸透圧状態そのものの判断に当たっては必要ないが,高浸透圧の原因となる脱水が改善しているかどうかを見る上で意味がある。 (被告の主張)(1) 亡Fの容態が変化したことは知らない。亡Fは,同日9時ころには,声かけに反応しており,同日11時ころ,Iが診察して「またお酒を飲みすぎましたね」という話に「 がある。 (被告の主張)(1) 亡Fの容態が変化したことは知らない。亡Fは,同日9時ころには,声かけに反応しており,同日11時ころ,Iが診察して「またお酒を飲みすぎましたね」という話に「イヤー」と頭をかくなどしていたのであって,亡Fの意識レベルは,少なくとも同日夕方までは落ち着いていた。 (2) 被告病院は,同日8時30分ころ,亡Fの採血をして血液検査に回したが,緊急に結果を知らせるよう指示していたため,同日11時ころ,アンモニアについて検査室から電話連絡があり,同日11時30分ころ,血液検査の結果が検査室からファックスされたのであり,本件においては,できる限りの速やかな処置が取られている。 また,血液ガス検査は,同日11時30分ころ実施されているが,亡Fに代謝性アシドーシスの亢進は認めていない。そもそも,原告らの主張する肝性脳症の程度からすると,血液検査が必要であるということはできない。 なお,原告らは,ラシックス等の投与やバルーンの挿入は強制的な利尿促進を図るものであるから,血液検査及び血液ガス検査をすべきであるとも主張しているが,ラシックス等を投与した場合にこれらの検査をすべきであるというのは,能書きにも記載されておらず,また,そのようなことが医療水準であるということはできないし,バルーンの挿入については,そもそも強制的な利尿促進を図るものではない。 (3) 2(原告らの主張)(3)は争う。 原告らが主張する時刻ころに,血液検査及び血液ガス検査を実施すれば,高アンモニア血症や高浸透圧状態の所見が得られたといえる根拠はなく,高アンモニア血症や高浸透圧状態の所見が得られたとはいえない。そもそも,原告らの主張する「高浸透圧状態」の判断に当たり,血液ガス検査は必要ない。 また,メイロンについて たといえる根拠はなく,高アンモニア血症や高浸透圧状態の所見が得られたとはいえない。そもそも,原告らの主張する「高浸透圧状態」の判断に当たり,血液ガス検査は必要ない。 また,メイロンについては,重い代謝性アシドーシスの改善のために必要な投薬であったのであり,その際にいちいち血液ガス検査を行うべきであったともいえない。 (4) 被告病院は,同日0時40分の所見に加えて,同日11時30分ころ判明した血液検査の結果に基づき,亡Fに高アンモニア血症の所見が得られたので,静脈瘤からの止血の確認と肝性脳症の出現の可能性を考え,肝性脳症改善策であるアミノレバンの投与,グリセリン浣腸を行った。また,亡Fに対し,入院時より大量輸液を行い,インスリン(ヒューマリンR)の投与を何度となく実施しているのであって,原告らのいう「高浸透圧状態に対する治療」は現実に実施されている。 (5) 亡Fは,同日17時ころ,呼びかけに対し返答なく,痛み刺激に対し顔をしかめるという状態になった。そこで,被告病院は,緊急血液検査を実施し,その結果,高アンモニア血症が悪化し,そこで,今まで行われていた治療に加えてモニラック浣腸を行った。 (6) 被告病院は,同日4回もの血液検査を実施しているが,限られた体制の中でこれ以上の血液検査義務を課すことはできない。 3 被告病院は,同日8時30分,緊急血液検査及び緊急血液ガス検査をすべきであったか。 (原告らの主張)(1) 亡Fは,同日8時30分ころ,点滴を自己抜管したことも記憶になく,オムツを外したり,ベッドサイドに立ったりして,看護師から安静を促されても理解できず,さらに,便を失禁しているという状態にあったし,血漿浸透圧が約338.56になっていた。また,入院時及び同日1時09分の血液ガス検査の結果によれば,血液 して,看護師から安静を促されても理解できず,さらに,便を失禁しているという状態にあったし,血漿浸透圧が約338.56になっていた。また,入院時及び同日1時09分の血液ガス検査の結果によれば,血液pHがほぼ正常値である反面,BEが-14前後でPCO2も20を切る状態であった。これらの事実は,亡Fが,既にこの時点で,少なくとも呼吸性代償を伴う代謝性アシドーシスに陥っていたこと並びに高アンモニア血症及び高血糖による意識障害,意識低下状態に陥っていた可能性があることを示している。 (2) 被告病院が,同日8時30分ころ行った一般血液検査の結果は,同日午前9時ころ判明した。 (3) 仮に,(2)の一般血液検査の結果の判明が,同日11時30分ころであるとするならば,被告病院は,緊急に結果が出るように血液検査の指示をするべきであった。 また,被告病院は,亡Fが(1)のような容態であったのであるから,緊急に結果が出るように指示して,血液ガス検査も行うべきであった。 (4) 被告病院が,緊急血液検査及び緊急血液ガス検査をして結果を得ていれば,亡Fの高浸透圧状態,肝機能の悪化,高アンモニア血症の亢進,乳酸脱水酵素の上昇,高カリウム血症等を,それらが起こった早期の段階で適時に把握でき,高アンモニア血症や高浸透圧状態など発生している病態に対して,時期を失することなく適切な治療ができた。 (被告の主張)(1) 点滴針が抜かれていたことは認める。 しかし,点滴による輸液は,代謝性アシドーシスの是正等のために実施されていたものであり,①同日0時34分には,血液pHはほぼ正常範囲内にあったこと,②それから同日8時30分までの間に大量の輸液が行われていたこと,③同日8時30分ころ,Iが診察した際に,亡Fに対し,「現在止血されているので, 時34分には,血液pHはほぼ正常範囲内にあったこと,②それから同日8時30分までの間に大量の輸液が行われていたこと,③同日8時30分ころ,Iが診察した際に,亡Fに対し,「現在止血されているので,状態が許せば明日より静脈瘤治療を開始する」と説明したところ,亡Fが理解している様子であったことなどから,亡Fの状態が安定していると判断して,輸液を中止した。 (2) 非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡であれば,血糖値が600以上,血液pHは正常値を示し,痙攣,振戦等の様々な神経学的知見が認められるところ,亡Fは,血糖値が600を超えたことはなく,血液pHは代謝性アシドーシスであり,神経学的所見は認められなかった。また,非ケトン性高浸透圧性昏睡であれば,血漿浸透圧は400であることがほとんどであるところ,原告らの主張でも358.5にとどまっていたから,亡Fが非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡であったことはない。 なお,原告らは,血液pHがほぼ正常であること,BEが-14前後であること,PCO2が20を下回っていることを高アンモニア血症,非ケトン性高浸透圧性昏睡の根拠であると主張しているが,医学的に,これらの値からそのように評価することはできない。 (3) 被告病院が同日8時30分ころ行った一般血液検査の結果は,同日11時30分ころ判明したところ,(1)のとおり,亡Fの状態は安定していたのであるから,緊急に結果が判明するような血液検査をすべきであったとはいえない。 (4) 3(原告らの主張)(4)は争う。 被告病院では,亡Fに対する同日8時30分ころの時点での血液検査結果を参考にした治療を実施している。 4 被告病院は,同日8時30分ころまでには,脳CT及び脳波検査を実施すべきであったか。 (原告らの主張)(1) 3(原 8時30分ころの時点での血液検査結果を参考にした治療を実施している。 4 被告病院は,同日8時30分ころまでには,脳CT及び脳波検査を実施すべきであったか。 (原告らの主張)(1) 3(原告らの主張)(1)のとおり(2) 亡Fは,同日8時30分ころ,意識低下があったと評価されるのであるから,脳のCTスキャン及び脳波検査を実施するべきであった。さらに,その後においてもこれらの検査を少なくとも数時間おきに実施すべきであった。 (3) 被告病院が,脳のCTスキャンや脳波検査を実施していれば,肝性脳症の進行に伴う脳浮腫の増悪や,脳波異常を把握して,肝性脳症と診断でき,これに対する治療ができた。 (被告の主張)(1) 3(被告の主張)(1)のとおり(2) 同日8時30分ころの時点で,亡Fの意識レベルが低下していたことについては否認し,その余は争う。 いずれにしても,意識レベルが低下すれば,頭部CT検査ないし脳波検査をすべきとの医学的知見はない。 (3) したがって,亡Fに対し,肝性脳症と診断したとして,これに対する治療ができたとしても,亡Fを救命できたとはいえない。 5 被告病院は,同日夕方,腹部エコー検査を実施すべきであったか。 (原告らの主張)(1) 亡Fは,被告病院がようやく同日17時35分になって実施した検査の結果,アンモニアが急増していることが判明した。 (2) アンモニア急増の原因が,脱水による血栓増加傾向により,門脈周辺での血栓の発生などによって肝不全がさらに増悪したという可能性もあるから,腹部エコー検査により,門脈周辺で血栓が発生していないかどうか,その可能性の有無をチェックすべきであり,これをしていれば,亡Fに対し,肝不全に対する治療を行うことができた。 (被告の主張)(1) コー検査により,門脈周辺で血栓が発生していないかどうか,その可能性の有無をチェックすべきであり,これをしていれば,亡Fに対し,肝不全に対する治療を行うことができた。 (被告の主張)(1) 5(原告らの主張)(1)は争う。 被告病院は,同日17時35分ころに血液検査を実施しているが,それが「ようやく」であるということはできない。 (2) 5(原告らの主張)(2)は争う。 腹部エコー検査の実施によって,その後の治療方針を決めるための有効な情報を得られるとはいえない。 6 亡Fに対するその他の全身状態の把握ないし経過観察は十分であったか。 (原告らの主張)(1) 本件のような肝硬変の既往があり,消化管出血を主訴として入院してきた患者の場合,患者の全身状態,特に電解質バランスやバイタルサイン等の推移を正確に把握することは極めて重要である。これは,①出血による体液の喪失及びそれと共に起こる電解質組成物質の喪失と移動(細胞内から細胞外へ,あるいはまたその逆)によって,②出血の原因ともなり,また,その結果でもある肝機能の急激な悪化による尿素サイクル等の障害によるアンモニアの上昇等によって,③さらに,大腸内に貯留している出血した血液を原因としてアンモニアの産生が亢進することによって,脱水や電解質バランスの失調を極めて起こしやすい状態になっているからである。 (2) ところが,被告病院のカルテ等の記載によると,被告病院が,亡Fに対し,入院から同日17時35分ころまでの間に行っていた全身状態の把握あるいは経過観察は,以下に述べるように極めて不十分なものであった。 アバイタルサイン(体温,血圧,脈拍及び呼吸数等)のチェックは,入院した同日0時40分ころに心拍数,血圧,体温及び呼吸数を,同日1時10分ころに心拍数, るように極めて不十分なものであった。 アバイタルサイン(体温,血圧,脈拍及び呼吸数等)のチェックは,入院した同日0時40分ころに心拍数,血圧,体温及び呼吸数を,同日1時10分ころに心拍数,血圧及び呼吸数を,同日1時30分ころに心拍数及び血圧を,同日2時10分ころに心拍数,血圧及び呼吸数をそれぞれチェックしているだけで,その後は,同日17時に心拍数と血圧を測定するまで実に15時間も空白とされていることに示されるように,全く不十分なものであった。 イ同じように,水分の入と出(水分バランス)を正確に把握するための水分の出納については,救命救急センターから第一外科に転科した後には,同日22時まで,トータルの尿量の記録があるのみで,時間単位の尿量の記録がされていない。 ウ同じ時間帯の,被告病院看護師作成の看護記録及び温度板を見ても,温度板については,同じく転科後は,同日18時まで作成すらされておらず,その間の経過観察については看護日誌によれば同日3時(転科受け入れ),同日5時(点滴ライン自己抜管),同日6時,同日8時30分(点滴ライン自己抜管),同日9時(アンモニア高値),同日11時30分(血糖高値),同日13時30分(バルーン挿入),同日14時(グリセリン浣腸),同日14時20分(アンモニア高値),同日15時,同日17時,同日18時(状態急変)と,ほぼ2時間おきの経過観察となっているが,これらは,亡Fの容態に照らすと決して十分なものとはいえない。少なくとも1時間おきの観察とその際のバイタルサインのチェックが必要である。 (3) 前記(2)イの水分バランスの把握によっては,亡Fの脱水状態ひいては高浸透圧状態を発見することができたし,また,前記(2)アのバイタルサインのチェックや前記(2)ウの経過観察によって明らかになる ) 前記(2)イの水分バランスの把握によっては,亡Fの脱水状態ひいては高浸透圧状態を発見することができたし,また,前記(2)アのバイタルサインのチェックや前記(2)ウの経過観察によって明らかになる異常を端緒としてその異常の原因探索を進めることによって,亡Fの体内で進行していた高アンモニア血症や高浸透圧状態を発見することができていたはずである。しかるに,被告病院は,亡Fに対する全身状態の把握や経過観察が不十分であったため,亡Fに進行していた高アンモニア血症や高浸透圧状態を発見することができなかった。 (被告の主張)(1) 原告らは,経過観察及びバイタルサインの確認を1時間ごとに行うべきであったと主張する。 しかし,亡Fが脱水や電解質バランスを崩しやすい状態であったことを理由に,経過観察及びバイタルサインの確認をするべきであったということはできない。 また,本件においては,各勤務帯ごとにきちんとバイタルサインの測定をしており,原告らが指摘するほかに,同日6時にもバイタルサインの測定をしている。 そして,看護記録に記載されているだけでも頻回の観察をしており,原告らが主張する2時間おきの観察よりももっと頻回に観察しているし,問題となる所見があれば,看護師がその都度記載をしていた。 したがって,経過観察及びバイタルサインの確認が不十分であったということはできない。 (2) 原告らは,水分の出納バランスの確認が不十分であると主張する。 しかし,具体的にどのように出納バランスの確認をするべきであったか何も主張しておらず,主張自体失当である。 また,バルーンの挿入により,看護師が尿量を観察できた。 なお,同日4時から同日22時までの間に943ミリリットルの尿量が確保されている。 第2 治療措 ておらず,主張自体失当である。 また,バルーンの挿入により,看護師が尿量を観察できた。 なお,同日4時から同日22時までの間に943ミリリットルの尿量が確保されている。 第2 治療措置が不十分又は不適切なものであったか。 1 不十分な治療(原告らの主張)(1) 高アンモニア血症予防治療ア肝硬変の基礎疾病を持つ亡Fが,消化管出血によって入院してきたのであるから,アンモニアの上昇が予想され,これを防止するためには,その原因の1つである大腸内の血液を浣腸などによって除去することが必要であった。 イしかるに,被告病院が亡Fに対して浣腸を行ったのは,平成10年10月26日14時になってからである。被告病院のカルテ及び看護記録の記載によれば,浣腸は「アンモニア高値のため」に実施されたとなっているが,被告病院がいう「アンモニア高値」とは,同日8時30分の検査の結果(アンモニア158)を指すと考えられ,その結果が判明したのは,看護記録によれば同日9時である。 ウこれらの事実は,第1に被告病院が浣腸を行ったのはアンモニア高値に陥ってからであって,そうなる前に浣腸を実施して高アンモニア血症を未然に防止しようとはしていないこと,第2にアンモニア高値の事実が判明してから5時間も経ってからようやく浣腸を実施するというものであったこと,という二重の意味で被告病院の高アンモニア血症に対する治療に不十分な点があったことを示している。 (2) 輸液,補液亡Fの浸透圧は,同日0時40分の時点で338.75,亡Fが点滴を自己抜管した同日8時の時点で338.56といずれも高浸透圧状態を示している。 またBEとPCO2も極めて低値であり,こうした状況に照らせば,同日8時30分の時点で,亡Fが自己抜管した点滴をそのまま放置す 抜管した同日8時の時点で338.56といずれも高浸透圧状態を示している。 またBEとPCO2も極めて低値であり,こうした状況に照らせば,同日8時30分の時点で,亡Fが自己抜管した点滴をそのまま放置するのではなく,再挿入して十分な輸液,補液を継続する必要があったのに,被告病院はこれをしていない。 (被告の主張)(1)ア原告らは,アンモニア高値になる前に浣腸を実施して高アンモニア血症を未然に防ぐべきであったと主張する。しかし,その一方で,原告らは,救急センター入院時にアンモニア検査をすべきであるとし,これは,この時点でアンモニア血症になっていたことを前提とする主張である。したがって,原告らの主張は相前後矛盾する内容となっており,失当である。 イ原告らは,アンモニア検査の結果が判明したのは同日9時であると主張するが,同日8時30分の採血によるアンモニアの数値が判明したのは同日11時である(看護記録には,同日9時の欄としてアンモニアの記録がされているわけではない)。 (2) 輸液ラインを再確保していない理由は既に述べたとおりである。血漿浸透圧についても,例えば,非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡を考えなければならないようなものではなく,この浸透圧をもって,輸液ラインを再確保しないことが問題であるということはできない。 そもそも,原告らのいう同日8時の血漿浸透圧とは,どのデータを基礎とすれば,同時刻に判明するのか不明である。 なお,原告らは,BEやPCO2と輸液とが関係するかのような主張もしているが,具体的にこれらの値をどのように評価した上で輸液が必要であると述べているのか明らかでない。いずれにしても,代謝性アシドーシスは,同日20時40分ころの血液ガス検査によると解消している。 2 逆療法の実施(原告らの主張) ように評価した上で輸液が必要であると述べているのか明らかでない。いずれにしても,代謝性アシドーシスは,同日20時40分ころの血液ガス検査によると解消している。 2 逆療法の実施(原告らの主張)(1) 亡Fは,同日昼当時,脱水症状にあったため,乏尿あるいは尿閉の状態にあった。 なお,被告は,2000ミリリットルの輸液を実施しているから亡Fは脱水ではないと主張するが,前記の高浸透圧状態に照らして,補液が十分でなかったことは明らかである。また,吐血して貧血状態にある本件のような場合には,ヘマトクリット値で脱水の有無を判断するのは間違いであり,前記のように代謝性のアシドーシスが著明にあり,クレアチニンやBUNの増加が見られていることからすれば,亡Fに脱水があることは明らかである。 (2) 被告病院は,亡Fに対し,同日12時40分からラシックスを投与し,さらに,同日13時30分にはバルーンを挿入して,強制的な利尿促進を行った。また,被告病院は,亡Fに対し,同日13時40分,利尿効果のあるメイロン及びソルダクトンを投与した。なお,被告は,ラシックスの投与は,約700ミリリットルの輸液にかかわらず尿量が減少していたためであると主張するが,むしろ,この事実からは,原告らが主張するように「700ミリリットルでは輸液が足りないのではないか」という疑いも持つことができたはずである。 (3) 被告病院は,亡Fに対する利尿促進により,亡Fの体液バランスの失調(高浸透圧状態)を一層増悪させた。現に,同日17時35分に行われた検査の結果では血漿浸透圧は358.64と更に悪化している。 (4) また,同日14時に行われたグリセリン浣腸についても,これに伴う体液喪失に対して,血液電解質検査等を実施しながら,失われた水分及び電解質等の補給のため は358.64と更に悪化している。 (4) また,同日14時に行われたグリセリン浣腸についても,これに伴う体液喪失に対して,血液電解質検査等を実施しながら,失われた水分及び電解質等の補給のための輸液及び補液を行うべきであるのに,これを行っていない。 (5) さらに,被告は,代謝性アシドーシスの補正のためにメイロンの使用は当然であったとするが,代謝性アシドーシスであるからといって,直ちにメイロンを使用すべきであるということにはならない。 亡Fにおけるアニオンギャップの開大という事実に照らすと,測定されない陰イオンの存在が窺われ,したがって,[HCO3-]の低下のみを理由にメイロンを投与する必要性はないことになり,その要否は,むしろ血液pHを基に検討し,血液pHが7.1未満の場合に初めてメイロンの投与が正当化されるのである。本件では,安易なメイロンの投与が,亡Fの脱水の進行を招いたことは明らかである。 (被告の主張)(1) 亡Fは,同日昼までの12時間で,約2000ミリリットルの輸液をされているから,脱水状態ではなかった。 血液検査の赤血球数及びヘマトクリットの値からも脱水状態とはいえない。 (2) 亡Fは,約700ミリリットルの輸液をされているにもかかわらず,尿量減少の傾向にあったことから,ラシックスを投与し,尿量の状況を把握するためにバルーンを挿入したのであり,尿量を確認しながら,ラシックスを1アンプル投与したにすぎず,これにより,脱水症状になることはない。 (3) したがって,亡Fの体液バランスの失調を増悪させたとはいえない。 (4) グリセリン浣腸は,本来的に腸管内容物を排泄させるためのものであり,これによる体液の喪失はわずかである。したがって,グリセリン浣腸を行う際には,血液電解質検査等を実施 せたとはいえない。 (4) グリセリン浣腸は,本来的に腸管内容物を排泄させるためのものであり,これによる体液の喪失はわずかである。したがって,グリセリン浣腸を行う際には,血液電解質検査等を実施すべきであるとか,輸液等をすべきであるということが,医療水準に則した医療行為であるとはいえない。 (5) 亡Fは,同日1時05分ころにおいては,代謝性アシドーシスであり,同日11時30分ころにおいても,血液pHこそ正常値になっているものの,これは呼吸性の代償で補正されていたにすぎず,[HCO3-]の低さに照らせば,依然として代謝性アシドーシスの病態が続いており,その治療が必要であったためメイロンを投与した。 その後,同日20時40分ころの検査結果でも,血液pHはアルカローシスとなっているが,[HCO3-]は正常値に届いておらず,したがって,同日19時45分からのメイロン投与も必要であったということができる。 第3 救急救命措置の遅れの有無(原告らの主張) 1 原告Aは,同月27日0時40分ころ,亡Fの呼吸音が異常であることに気付き,ナースコールで看護師を呼んだが,駆けつけた看護師は「サクション用意にてまどり」,気管支の吸引ができたのは,同日1時ころであった。 また,看護師は,まず,アンビューバッグでの補助呼吸を行い,効果がないことを確認してから,挿管措置が取られた。 2 被告病院は,速やかに気管支吸引を行うべきであり,アンビューバックによる補助呼吸は,気管内挿管の準備が整うまでの間行うだけで,本件のようなケースでは,基本的には,直ちに気管内挿管を行うべきであった。 3 上記のように救急救命措置を遅れたために,亡Fは,長期間にわたって無酸素状態に置かれ死亡した。 (被告の主張) 1 原告Aが,ナースコールをしたのは,同日1 に気管内挿管を行うべきであった。 3 上記のように救急救命措置を遅れたために,亡Fは,長期間にわたって無酸素状態に置かれ死亡した。 (被告の主張) 1 原告Aが,ナースコールをしたのは,同日1時ころであり,看護師は,直ちに駆けつけて,咽頭の吸引をした。気管内挿管もしていないのに気管支の吸引をすることはできない。 2 気管内挿管によって人工呼吸管理をする準備が整うまでの間,アンビューバッグ等で用手的人工呼吸を行うのは,一般臨床の現場において常識である。 3 したがって,被告病院の過失により,亡Fが長期間にわたり無酸素状態に置かれたとはいえない。 第4 前記第1ないし第3の過失と亡Fの死亡との因果関係の有無(原告らの主張) 1 前記第2の1(原告らの主張)(1)のとおり,被告病院は,本来入院後直ちに実施すべきであった浣腸による大腸内血液の排出及び高浸透圧状態を改善するための輸液,補液を怠った。このため亡Fは,急激に高アンモニア血症及び高浸透圧状態に陥った。 2 前記第1の1(原告らの主張)(2)及び(6)のとおり,被告病院は,入院時以降の亡Fの全身状態の経過観察とバイタルサインのチェックが不十分であり,さらに,入院時以降のアンモニア検査,血液検査及び血液ガス検査を定期的に実施することを怠ったため,亡Fの容態が極度に悪化し昏睡に陥るまで,亡Fの高アンモニア血症や高浸透圧状態(非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡)を把握することができなかった。 被告病院が,早期に上記亡Fの症状を把握していれば,高アンモニア血症に対しては,非吸収性抗生物質の投与やラクツロースの投与,分枝鎖アミノ酸の投与等ができたのであるし,高浸透圧状態に対しては,生理的食塩水の大量投与を行いながら,これら疾患に随伴する血清カリウム,ナトリウムなどの電解質の補正を行 の投与やラクツロースの投与,分枝鎖アミノ酸の投与等ができたのであるし,高浸透圧状態に対しては,生理的食塩水の大量投与を行いながら,これら疾患に随伴する血清カリウム,ナトリウムなどの電解質の補正を行うことができた。 被告病院が上記措置を怠ったために,亡Fは,長時間にわたって,高アンモニア状態及び高浸透圧状態にさらされて,全身が衰弱していった。 3 肝性脳症に脳浮腫が起こり得ることは基礎的な知識であるところ,前記第1の4(原告らの主張)のとおり,亡Fには,同月26日8時30分ころ,脳浮腫の発生を疑わせる症状が生じていたのにもかかわらず,脳CT,脳波等の検査をしなかったために,亡Fの脳浮腫を発見できなかった。 そのため,被告病院は,亡Fに対し,脳浮腫に対する脳減圧のための措置を実施せず,亡Fの脳は深いダメージを受けた。 4 前記第2の2(原告らの主張)のとおり,被告病院は,亡Fに対し,逆療法を行ったため,亡Fの血清ナトリウム値は158まで上昇して高度の高張脱水状態に陥らされ,高アンモニア血症の亢進も相まって,亡Fは,同月27日0時過ぎに呼吸停止及び心停止に至った。なお,原告らが問題としているのは高ナトリウム値のみではなく,高血糖値,高BUN値等と併せて高浸透圧に陥っていることを問題としているのである。 5 前記第3(原告らの主張)のとおり,被告病院は,亡Fの呼吸停止及び心停止に対する措置に際し,気道確保及び酸素投与を大幅に遅らせてしまったため,亡Fは,長時間無酸素ないし低酸素状態に置かれた。 これと,前記1ないし3のとおり,亡Fが極めて深刻な状態に陥っていたことが相まって,亡Fは死亡した。 6 被告病院が本来適切な治療を行っていれば,因果関係は事実の問題として証明できたところ,被告病院の不完全な債務の履行(過失)により仮 極めて深刻な状態に陥っていたことが相まって,亡Fは死亡した。 6 被告病院が本来適切な治療を行っていれば,因果関係は事実の問題として証明できたところ,被告病院の不完全な債務の履行(過失)により仮定的な因果関係の問題として論じざるを得なくなったのであるから,仮定的因果関係の証明責任は,被告に存するというべきである。 (被告の主張) 1 被告病院は,再三にわたり,血液検査を実施しているが,亡Fが高浸透圧状態にあるとの検査所見は得られなかった。 2 亡Fの状態が急変するまでの間に,亡Fに高度の呼吸障害等脳浮腫が発生していることを示す臨床所見はなく,脳浮腫や脳ヘルニアがないことを前提としても,亡Fの呼吸停止は説明がつくものであった。 そもそも,肝性脳症が脳浮腫及び脳ヘルニアの原因になるとの医学的知見そのものが存在しない。 3 亡Fの同月26日17時35分ころの血液検査ではナトリウム値が151であり,ナトリウム値の正常上限を154とする文献もあるから,亡Fは,高ナトリウム血症であったとはいえないし,亡Fは,同日20時40分ころの血液検査ではナトリウム値が158であったので,同日21時ころナトリウム値の上昇を招くメイロンの投与を中止した。 4 亡Fが高アンモニア状態であることは,同日11時30分ころ判明したが,被告病院は,高アンモニア血症に対する治療として,その後同日17時35分までの間に,食道静脈瘤からの止血の確認,アミノレバンの投与,グリセリン浣腸等を実施した。それでも,亡Fのアンモニア値を下げるに至らなかったのは,亡Fの身体状態を原因とするものであった。 5 亡Fに対する気道確保及び酸素投与が大幅に遅れた事実はない。また,亡Fには,非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡は認められておらず,本件程度の高アンモニア血症をもって,直ちに とするものであった。 5 亡Fに対する気道確保及び酸素投与が大幅に遅れた事実はない。また,亡Fには,非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡は認められておらず,本件程度の高アンモニア血症をもって,直ちに死亡に結びつくとはいえない。 6 原告らのいう証明責任の転換の法理は,過失を基礎付ける事実と因果関係という別個の要件事実を混同するものであり,失当である。 第5 前記第1ないし第3の過失により亡Fの延命可能性が侵害されたか。 (原告らの主張)仮に,被告病院の前記過失と亡Fの死亡との間に,因果関係が認められないとしても,本件においては,平成10年10月26日午前中から亡Fは意識障害の状態に陥り,そうした重篤な患者の容態を現認した原告ら家族が看護師に適切な処置と治療を求めても,事実上放置され続けたこと,亡Fの恩師である教授の夫人にまで連絡を取って診察を促す口添えを依頼してもなお,放置状態が続いたことは明らかであり,そうした状況は,いわゆる期待権侵害による侵害を認定するのに十分なものである。 (被告の主張)被告病院は,治療を尽くしており,患者を放置したとの事実はない。過失自体が認められないのであって,ましてや期待権理論を基礎付けるような重大な治療行為の不手際がないことは明白である。 また,原告が述べるような期待権理論では,過失を基礎付ける事実そのものが,損害及び因果関係と同一の要件事実になる結果となり,法的理論としても失当である。 第6 損害額(原告らの主張) 1 逸失利益6315万8370円亡Fは,死亡当時「Q産婦人科医院」の名称で産婦人科医院を開業する医師であり,その収入は,死亡の前年である平成9年において752万9179円であった。 また,同医院では,原告A及び亡Fの母親であるRが就労し,平成9年 人科医院」の名称で産婦人科医院を開業する医師であり,その収入は,死亡の前年である平成9年において752万9179円であった。 また,同医院では,原告A及び亡Fの母親であるRが就労し,平成9年にはそれぞれに対し333万3600円の給与が支払われていた。亡Fの死亡により,これらの収入も途絶えており,上記の金額の少なくとも半額は亡Fの逸失利益であると考えるべきである。 そうすると,1年当たりの収入は1086万2779円であり,亡Fの死亡時の年齢が58歳であることから,ライプニッツ係数8.306(11年)を乗じ,生活費控除を30%として,上記の金額となる。 2 慰謝料3000万円亡Fは,一家の大黒柱であり,また,原告Aと再婚してわずか1箇月後に突然死亡したのであって,その無念の思いは計り知れないことなどを勘案すると,亡Fの死亡に伴う慰謝料としては,上記の金額が相当である。 3 葬祭料120万円 4 弁護士費用1050万円原告らは,原告ら代理人に対し,着手金及び報酬金として上記の金員を支払うことを約した。 5 合計1億0485万8370円(被告の主張)争う。

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