- 1 - 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 1 被告が,平成○年懲(審)第○号審査請求事件について,平成22年8月18日付けでした本件審査請求を棄却する旨の裁決を取り消す。 2 訴訟費用は,被告の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,東京弁護士会所属の弁護士である原告が,同弁護士会から戒告するとの懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という。)を受け,弁護士法(以下「法」という。)59条に基づき被告に対し審査請求をしたが,審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)を受けたため,原告には懲戒事由がなく,手続的瑕疵もあると主張して,法61条に基づき,本件裁決の取消しを求める事案である。 2 前提事実(次に掲げる証拠及び弁論の全趣旨で明らかに認められる事実)(1) 原告は,東京弁護士会所属の弁護士である。 (2) 原告は,Aから,その母の遺産分割調停申立事件(以下「本件調停事件」という。)の解決を委任されたが,同委任に至る経緯は,次のとおりであった。 ア Aの母は,平成▲年▲月▲日に死亡し,相続が開始した。その法定相続人は,長男のBと長女のAの2人である。 イ当初,Bは東京弁護士会所属のC弁護士にBの母の遺産に係る遺産分割の解決を委任し,他方,Aは弁護士に委任せず,C弁護士とAとの間で協議が進められたが,解決に至らなかった。 ウそこで,Bは,C弁護士を代理人として,東京家庭裁判所に本件調停事- 2 -件を申し立てた。 エしかし,Bは,平成16年12月ころ,C弁護士を解任した。 オすると,Aは,平成17年2月ころ,C弁護士に対し,弁護士の紹介を依頼したところ,C弁護士から,弁護士会の会派の後 を申し立てた。 エしかし,Bは,平成16年12月ころ,C弁護士を解任した。 オすると,Aは,平成17年2月ころ,C弁護士に対し,弁護士の紹介を依頼したところ,C弁護士から,弁護士会の会派の後輩である原告を紹介されたことから,原告に対し,本件調停事件の解決を委任した(甲8,10,乙17,26)。 カなお,Aと原告の間の委任契約において,Aが着手金として100万円(消費税別)を支払い,また,報酬として新たに取得した財産の20パーセント相当額(消費税別)を支払う旨合意された(甲10,乙17,26)。 (3) 原告は,平成17年2月10日の調停期日から本件調停事件に立ち会ったが,同月ころから同年夏ころにかけて,少なくとも3回,C弁護士が原告とAとの打ち合わせに立ち会った(甲8,10,乙8,17,25,26)。 (4) BとAとの間では,平成18年6月19日,本件調停事件において,BがAに代償金を含めて1億円を支払うことなどを内容とする調停が成立した(乙17)。 (5) その後,原告は,Aの代理人として,Bから,合計1億円の支払を受け,Aに対し,そのうち7900万円を支払った(甲8,10)。 (6) ところが,Aは,調停成立後,原告に対し,C弁護士から聞いていた事件の見通しと成立した調停の内容との間に隔たりがあるとして,委任契約で合意していた前記の報酬額の減額を求めるようになった(甲10,乙8,17,25)。 (7) 原告は,報酬額の減額を巡る話合いの過程で,Aに対し,平成18年10月4日に「報酬金はC弁護士と半額ずつ取得する約束となっている」と,平成19年2月9日に「報酬金の半額をすでにC弁護士が取得している」とそれぞれ説明した(以下「本件各説明」という。)が,同説明内容にあるようなC弁護士との約束や同弁護士による報酬金の半額 いる」と,平成19年2月9日に「報酬金の半額をすでにC弁護士が取得している」とそれぞれ説明した(以下「本件各説明」という。)が,同説明内容にあるようなC弁護士との約束や同弁護士による報酬金の半額の取得の事実はなく,同- 3 -説明はいずれも虚偽であった(甲8,10,乙8,17,25,26)。 (8) すると,Aは,①C弁護士がAから本件調停事件を受任して報酬を受領していたとすれば,弁護士職務基本規程27条1項(職務を行ない得ない事件)に違反するし,②受任していないとすれば,原告に同事件を紹介した対価を受領したことになり,同13条2項(依頼者紹介の対価)に違反するとして,平成19年8月21日,東京弁護士会に対し,同弁護士の懲戒請求(以下,同請求に係る懲戒事件を「別件の懲戒事件」という。)をした(甲1の2)。 (9) 東京弁護士会綱紀委員会(以下「東弁綱紀委員会」という。)は,別件の懲戒事件に関し,平成20年3月6日付け「調査ご協力依頼(ご照会)」と題する書面で,原告に対し,原告が本件調停事件を受任した経緯,C弁護士への金員の支払の有無等について書面による回答を求め,これに対し,原告が,同年4月2日付け「回答書」で,本件調停事件におけるC弁護士の関与の程度,本件調停事件に関しC弁護士に金員を支払ったことはないこと,Aに本件調停事件の成功報酬金の半分をC弁護士が受領していると受け取られる内容の発言をしたことがあることなどを回答した。次に,同委員会は,原告に対し,同年8月4日付け「調査ご協力依頼(ご照会)」と題する書面で,原告の預かり金口座の出金記録について具体的な説明の回答を書面で求め,さらに,同月27日に東京弁護士会で原告から事情を聴取した(甲8~11)。 (10) このような中,A及び原告は,同年10月2日,本件調停事件について, 金記録について具体的な説明の回答を書面で求め,さらに,同月27日に東京弁護士会で原告から事情を聴取した(甲8~11)。 (10) このような中,A及び原告は,同年10月2日,本件調停事件について,着手金及び報酬金を合計210万円(消費税込み)とする内容で合意した(甲12の1~3)。 (11) しかし,東弁綱紀委員会は,①別件の懲戒事件の調査の中で,原告が本件各説明をしたことが認められ,C弁護士の答弁や原告の釈明内容が事実であれば,原告がAに虚偽の説明をし,その説明を信じたAによってC弁護士に対する懲戒請求がなされたことになり,原告の行為は法56条1項の品位を失うべき非行に当たる疑いがある,②なお,報酬折半の事実が存すればこれ- 4 -に関しても品位を失うべき非行に当たる疑いがあるとして,同年10月21日,東京弁護士会会長に対し,綱紀委員会会規34条に基づく報告をし,東京弁護士会は,会長及び副会長の禀議を経た上で,同月23日,原告に懲戒の事由があると思料するとの判断をし,同会長において,綱紀委員会に調査命令を発した(甲5,乙1,2,31)。 (12) 東弁綱紀委員会は,同年10月23日,原告に対し,答弁書の提出を求め,同年11月18日,原告から答弁書を受領し,さらに,平成21年1月21日に原告から事情を聴取するなどした上,同年4月17日,原告がAに虚偽の内容の本件各説明をし(以下,虚偽の内容の本件各説明をしたことを「本件各虚偽説明」という。),その説明を信じたAによってC弁護士に対する懲戒請求がなされたことになるので,原告の虚偽説明は,法56条1項に違反する品位を失うべき非行といわざるを得ないとして,原告につき懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当とする旨の議決をし,同月22日,同弁護士会は原告につき懲戒委員会に事案の審査を求 56条1項に違反する品位を失うべき非行といわざるを得ないとして,原告につき懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当とする旨の議決をし,同月22日,同弁護士会は原告につき懲戒委員会に事案の審査を求める決定をし,また,同弁護士会長は法58条3項の規定により懲戒委員会に原告に対する懲戒請求事案についての審査を請求した(甲7,乙4~12)。 (13) なお,Aは,同年9月14日,東京弁護士会懲戒委員会(以下「東弁懲戒委員会」という。)に対し,原告に対する懲戒処分を望まない旨の上申書を提出した(甲20,乙15)。 (14) 東弁懲戒委員会は,平成22年1月22日,次のとおり,原告の行為が懲戒事由に該当するとして(なお,C弁護士への報酬金の支払は認められないとした。),原告を戒告するとの議決をし,同弁護士会は,同年2月2日付けで,原告を戒告するとの本件懲戒処分をした(甲1の1・2,乙18)。 ア懲戒事由①(原告とC弁護士との協力関係に関する行為)C弁護士の職務を行い得ない事件への関与について,これを拒否することをせず,むしろ,同弁護士を打合せに積極的に受け入れ,その指導協力- 5 -を得たことが,同弁護士の法25条違反の行為を利用した事件処理をした結果有利な結論が得られたのではないかという疑念を生じさせ,弁護士業務への信用を失墜させるおそれがあるという意味において法56条1項の品位を失うべき非行に当たる。 イ懲戒事由②(Aに虚偽の説明をしたことによりC弁護士への懲戒申立てを招いた行為)C弁護士に報酬を支払った事実が存在しないのに,Aに対し,平成18年10月4日に「報酬金はC弁護士と半額ずつ取得する約束となっている」旨,また,平成19年2月9日には「報酬金の半額をすでにC弁護士が取得している」旨述べ,あたかもC弁護士に報酬 Aに対し,平成18年10月4日に「報酬金はC弁護士と半額ずつ取得する約束となっている」旨,また,平成19年2月9日には「報酬金の半額をすでにC弁護士が取得している」旨述べ,あたかもC弁護士に報酬が支払われたごとく虚偽の事実を伝えたことが,依頼者の弁護士に対する信頼を著しく損ない,弁護士の依頼者に対する誠実義務にも反する行為であり,そして,この虚偽説明の事実により,C弁護士に対する懲戒申立てがされ,虚偽事実の存否についての調査がされ,同弁護士が報酬受領についての疑いを受ける事態に至ったことは,同弁護士にも多大な負担を強い,また,無用の混乱を招いたものであるから,弁護士としての品位を失うべき非行に当たる。 (15) 平成22年4月2日,原告が本件懲戒処分を不服として被告に審査請求をしたが,被告懲戒委員会は,同年8月17日,懲戒事由①を審査の対象としたことは東京弁護士会の調査命令書にも東弁綱紀委員会の議決書にも記載されていない行為を対象としたもので不適法であるが,懲戒事由②,すなわちAに虚偽の事実を述べた行為は,依頼者に対する誠実義務に違反し,依頼者と弁護士の信頼関係を著しく損なうものであるし,C弁護士に多大の負担を与えたこと等を考えると,弁護士としての品位を失うべき非行に該当するといわざるを得ず,したがって,原告を戒告に処した原処分は結論において相当であり,上記審査請求は理由がないので棄却するのが相当であるとの議決をし,被告は,同年8月18日付けで,審査請求を棄却する旨の裁決(本件- 6 -裁決)をした(甲2,4の1・2,乙21,27,28)。 (16) なお,本件に関係する東京弁護士会の会則等は,次のとおりである。 ア東京弁護士会会則(甲21)(ア) 第44条(会長)「会長は,本会を代表し,会務を統理する。」(イ) 第 )。 (16) なお,本件に関係する東京弁護士会の会則等は,次のとおりである。 ア東京弁護士会会則(甲21)(ア) 第44条(会長)「会長は,本会を代表し,会務を統理する。」(イ) 第71条(懲戒委員会の職務)「 懲戒委員会は,弁護士会員又は弁護士法人会員が法令,連合会会則又はこの会則(法第33条により会則中に規定すべき事項を定めた会規又は規則を含む。)に違反し,本会の秩序又は信用を害し,その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があったときに,本会の求めによりこれに関して必要な審査を行うことを職務とする。 2 懲戒委員会は,会長の審査の求めにより審査を開始する。」(ウ) 第74条(綱紀委員会の職務)「 綱紀委員会は,法第58条第2項の調査をすること,(中略),その他弁護士会員及び弁護士法人会員の綱紀を保持することを職務とする。 2 本会は,法第58条第1項の規定により,弁護士会員若しくは弁護士法人会員に対する懲戒の請求を受け,又は弁護士会員若しくは弁護士法人会員に懲戒の事由があると思料するときは,懲戒の手続に付し,綱紀委員会に対し,事案の調査を求める。 3 綱紀委員会は,弁護士会員又は弁護士法人会員について綱紀を保持するため必要があると認めたときは,自らこれを調査し,その内容を会長に報告することができる。」イ東弁綱紀委員会会規(甲22)第34条(委員会の報告)「 委員会は,弁護士会員,弁護士法人会員又は外国特別会員について,本会から調査を求められた事案以外に懲戒事由にあたる疑いのあるとき,その他弁護士会員,弁護士法人会員又は外国特別会員の綱紀保持のため必要- 7 -があると認めるときは,自ら調査のうえ,この内容を会長に報告することができる。」ウ東弁綱紀委員会細則(甲23)第 護士会員,弁護士法人会員又は外国特別会員の綱紀保持のため必要- 7 -があると認めるときは,自ら調査のうえ,この内容を会長に報告することができる。」ウ東弁綱紀委員会細則(甲23)第32条(本会認知事案の記載)「 本会が,弁護士会員,弁護士法人会員又は外国特別会員について,懲戒の事由があると思料して委員会に調査を求めた事案については,係属事案一覧表,議決書その他の書面において,「懲戒請求者」の記載に代えて,「本会認知事案」と記載する。」 3 当事者の主張(1) 原告の主張本件懲戒処分は,次のとおり違法である。 ア手続上の違法(ア) 対象外事実認定及び認定外事実による処分a 本件裁決が指摘するとおり,本件懲戒処分は,①原告とC弁護士との協力関係に関する行為を非行事実として認定しているが,同認定は,審査対象以外の事実を審査し,非行事実として認定している点で重大な違法が認められる。そして,本件懲戒処分は,上記行為と②Aに虚偽の説明をしたことによりC弁護士への懲戒申立を招いた行為とを非行として認定して全体としての判断をしているものであり,①の認定が不適法であれば,最終的な判断への影響を看過できず,本件懲戒処分は,全体として違法の瑕疵を帯びるといわざるを得ない。 b さらに,東弁懲戒委員会は,原告がC弁護士と報酬を折半した疑いを明示しており,この疑いが本件懲戒処分に影響を与えた可能性が強く,事実上,認定外の事実を認定しているのに等しい。 (イ) 防御権行使の侵害一般に,懲戒事案の対象弁護士は,所属する弁護士会による調査開始- 8 -の決定の通知を受けて,防御権を認識し,その行使を検討するのであり,その通知を受けて初めて,当事者としての諸権利を認められ,その諸権利を防御に生かす立場を与 属する弁護士会による調査開始- 8 -の決定の通知を受けて,防御権を認識し,その行使を検討するのであり,その通知を受けて初めて,当事者としての諸権利を認められ,その諸権利を防御に生かす立場を与えられる。 ところが,本件は,法58条2項前段の規定によるいわゆる「会立件」で開始された事案であり,原告は,別件の懲戒事件についての調査協力依頼に応じて,回答書を提出し,参考人として出頭の上陳述したところ,その内容から「懲戒事由にあたる疑いのある行為を認めた」として,立件されたものである。すなわち,原告は,防御権を認識することなく,その行使を検討する機会もないまま,立件後の「調査」を受けていたのと変わらない状態であったのであり,防御権行使を侵害されたというべきであり,本件懲戒処分には,手続上の重大な瑕疵が存在する。 (ウ) 法58条2項前段等の違反a 法58条2項前段は,「懲戒の事由がある」か否かの判断をする機関を弁護士会としているところ,その趣旨は,懲戒権の行使が弁護士会の根本的な権能である以上,懲戒の事由があるか否か,懲戒手続の開始を求めるか否かは,弁護士会がその意思決定として定めるというところにあり,したがって,その判断は,弁護士会の意思決定機関である総会又は常議員会がすべきである。これに対し,会長は,弁護士会の事務一切を統理する権限を有するものと解されているところ,法上「弁護士会は」と規定されている条項について会長が当該事項を行う場合があるが,これは,弁護士会としての意思決定を必要としない事項を弁護士会の事務一切を統理する権限に基づいて行うものにすぎず,懲戒手続の開始を求めるか否かの判断を日常の会務とみなすことはできないし,「弁護士会の事務」とみなすこともできないから,会長には「懲戒の事由がある」か否かの判断をする機関 基づいて行うものにすぎず,懲戒手続の開始を求めるか否かの判断を日常の会務とみなすことはできないし,「弁護士会の事務」とみなすこともできないから,会長には「懲戒の事由がある」か否かの判断をする機関とはなり得ない。 ところが,本件では,東京弁護士会の会長及び副会長が「日常の会務」- 9 -として持回り禀議によりその判断を行ったのであって,法58条2項前段に違反するものである。 また,東京弁護士会の会則74条2項は,「弁護士会員若しくは弁護士法人会員に懲戒の事由があると思料する」主体を「本会は」と規定し,「会長は」と規定しておらず,他方で,東京弁護士会の会則は,「懲戒の事由がある」か否かの判断を会長の職務権限(会長の職務権限は会則の必要的記載事項《法33条2項2号》である。)として明記していないのであって,そうすると,東京弁護士会の会則は,「懲戒の事由がある」か否かの判断を弁護士会の意思決定機関である総会又は常議員会が行うこととする趣旨と解される。そして,このことは,綱紀委員会が「懲戒事由にあたる疑いのある行為」の報告の客体を会長とし(綱紀委員会会規34条),会員に「懲戒の事由があると思料する」主体を「本会」とし(綱紀委員会細則32条),両者を明確に峻別して規定していることとも合致している。そうすると,総会や常議員会の議決がないままに会長と副会長が「懲戒の事由がある」か否かを判断して原告を懲戒手続に付した上でされた本件懲戒処分は,東京弁護士会の会則74条2項後段等にも違反している。 b しかも,同会長が,平成20年10月21日付けで東弁綱紀委員会の報告(甲5)からわずか2日後の同月23日付けで調査開始(懲戒手続に付す旨)の決定を行っていること,会長及び副会長が「日常の会務」として持ち回り禀議によりその判断を行っていることか 東弁綱紀委員会の報告(甲5)からわずか2日後の同月23日付けで調査開始(懲戒手続に付す旨)の決定を行っていること,会長及び副会長が「日常の会務」として持ち回り禀議によりその判断を行っていることからすると,会長は,実質的に東弁綱紀委員会が行った判断を追認したものというべきである。したがって,本件懲戒処分の手続は,この点でも,法58条2項前段に違反している。 イ内容の違法(ア) 違法性判断の審査基準- 10 -弁護士に対する所属弁護士会及び被告による懲戒処分については,最高裁平成15年(行ヒ)第68号同18年9月14日第一小法廷判決・集民221号87頁(以下「平成18年9月14日第一小法廷判決」という。)が,「ある事実関係が「品位を失うべき非行」といった弁護士に対する懲戒事由に該当するかどうか,また,該当するとした場合に懲戒するか否か,懲戒するとしてどのような処分を選択するかについては,弁護士会の合理的な裁量にゆだねられているものと解され,弁護士会の裁量権の行使としての懲戒処分は,全く事実の基礎を欠くか,又は社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り,違法となるというべきである。」とするが,この審査基準では,ある機関に裁量権が認められていること自体で違法性が否定されることにもなりかねず,処分取消や裁決取消の行政訴訟が認められている趣旨を没却するので,これによるのは相当でなく,いわゆる広島県教組事件についての判例(最高裁平成15年(受)第2001号同18年2月7日第三小法廷判決・民集60巻2号401頁)や小田急事件についての判例(最高裁平成16年(行ヒ)第114号同18年11月2日第一小法廷判決・民集60巻9号3249頁)における審査基準によるべきである。 (イ 判決・民集60巻2号401頁)や小田急事件についての判例(最高裁平成16年(行ヒ)第114号同18年11月2日第一小法廷判決・民集60巻9号3249頁)における審査基準によるべきである。 (イ) 懲戒事由該当性についての認定判断の誤り本件懲戒処分にしろ,本件裁決にしろ,原告が本件各虚偽説明をしたこと自体が懲戒事由に該当するとしているのではなく,原告の本件各虚偽説明とAのC弁護士に対する懲戒請求との間の因果関係を問題視して,原告の行為の懲戒事由該当性を肯定している。しかし,原告の本件各虚偽説明とC弁護士に対する懲戒請求との間には,因果関係は認められないのであって,本件懲戒処分及び本件裁決は,懲戒事由該当性についての認定判断を誤り,全く基礎を欠いたものである。すなわち,本件- 11 -懲戒処分及び本件裁決は,その判断の過程で考慮すべき①別件の懲戒事件の請求前に原告がAの代理人のD弁護士に対しC弁護士の報酬金受領を否定した事実(甲10),及び,②別件の懲戒事件の請求は,原告との間で生じていた報酬金減額の問題を解決するためであり,また,C弁護士から本件調停事件の見込みとして伝えられた内容と成立した調停の内容の間にそごがあることでC弁護士に対する強い否定的感情が生じていたためである事実,以上の2点を考慮していないため,上記因果関係について誤った認定をしたものである。また,仮に上記②の事実が認められないとしても,Aの代理人であるD弁護士は,原告から上記①のとおりC弁護士の報酬金受領についての否定の返答を聞いているのであるから,C弁護士に対する懲戒請求をするに当たっては,同弁護士の報酬金受領について慎重に調査,検討すべきであった(最高裁平成17年(受)第2126号同19年4月24日第三小法廷・民集61巻3号1102頁の多数意見及び田 る懲戒請求をするに当たっては,同弁護士の報酬金受領について慎重に調査,検討すべきであった(最高裁平成17年(受)第2126号同19年4月24日第三小法廷・民集61巻3号1102頁の多数意見及び田原睦夫裁判官の補足意見参照)にもかかわらず,原告やC弁護士に確認はおろか連絡することさえせずに懲戒請求をしたのであって,このような不法行為ないしこれに準ずる行為が介在している以上,原告の本件各虚偽説明とAによるC弁護士に対する懲戒請求との間には因果関係が認められない。 (ウ) 社会通念上妥当性を欠くこと本件懲戒処分は,次の諸事情に照らすと,社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであり,裁量権を逸脱ないし濫用している。 a 報酬金減額の問題における原告の対応原告は,Aと継続的に話合いを行い,Aが,C弁護士の本件調停事件の見込みとして伝えられた内容と成立した調停の内容の間にそごがあることを報酬金減額の理由にしたため,C弁護士を交えて話合いをすることを促し,三者で話し合うことまで実現させた。また,このよ- 12 -うな話合いの間も,原告は,遺産分割事件の事後処理を行い,その都度,Aと連絡を取りつつ,報酬金減額の問題について話を出して,解決の糸口を見つけようとしていた。このような原告の努力は,看過されるべきではない。 b 本件各虚偽説明の理由原告が本件各虚偽説明に及んだのは,原告自ら積極的にした訳ではなく,AがC弁護士と原告において報酬を分けることを前提とした発言をしたことを承認する形でされたものであり,しかも,原告には,遠からず報酬金減額の問題が解決した際には,C弁護士に謝礼の趣旨で多少の金員を渡そうとの意識があり,早晩全くの虚偽というわけではないと考えたためであった。 これに対し,被告の懲戒委員会の議決 ,遠からず報酬金減額の問題が解決した際には,C弁護士に謝礼の趣旨で多少の金員を渡そうとの意識があり,早晩全くの虚偽というわけではないと考えたためであった。 これに対し,被告の懲戒委員会の議決書には,原告が本件各虚偽説明をしたのは,「今後新たに取得した額の20パーセント相当額」という高額の報酬をできるだけ確保しようとするためであると判断せざるを得ないと記載されているが,原告には,「今後新たに取得した額の20パーセント相当額」の報酬額にこだわっていなかったのであって,上記記載は臆断である。 c 本件各虚偽説明の後の原告の態度原告は,AがC弁護士に懲戒請求をする前に,Aの代理人のD弁護士に対し,本件各説明の内容が事実ではないことを明確に述べ,また,Aに謝罪し,深く反省している。 d 示談による紛争解決別件の懲戒事件及び本件の懲戒事案の端緒をなした,原告とAの間の報酬金減額の問題は,本件で会立件をされる前の平成20年10月初旬に,原告がAの主張する報酬額をそのまま受け入れて解決し,また,AのC弁護士に対する懲戒請求についても,本件懲戒処分前の平- 13 -成21年11月,原告の依頼により取り下げられた。原告のこのような全体解決のための奔走は,考慮されるべきである。 e Aの意向Aは,一貫して,原告に対する懲戒処分を望んでおらず,東弁懲戒委員会に対しても,その旨の上申書を提出している。 (2) 被告の主張前提事実記載のとおり,本件懲戒処分の手続は,一部是正を要する点があったものの,適法に行われており,原告がAに本件各虚偽説明をした行為は,依頼者に対する誠実義務に違反し,依頼者と弁護士の信頼関係を著しく損なうものであるし,C弁護士に多大の負担を与えたこと等を考えると,弁護士としての品位を失うべき 告がAに本件各虚偽説明をした行為は,依頼者に対する誠実義務に違反し,依頼者と弁護士の信頼関係を著しく損なうものであるし,C弁護士に多大の負担を与えたこと等を考えると,弁護士としての品位を失うべき非行に該当するといわざるを得ないから,本件懲戒処分は結論において相当である。 以下,原告の違法事由の主張に即して認否及び反論を行う。 ア原告の柱書の主張は,争う。 イ原告の主張ア(手続上の違法の主張)について(ア) 同(ア)(対象外事実認定及び認定外事実による処分)について同aのうち,「本件懲戒処分は,①原告とC弁護士との協力関係に関する行為と②Aに虚偽の説明をしたことによりC弁護士への懲戒申立を招いた行為とを非行として認定して全体としての判断をしているものであり,①の認定が不適法であれば,最終的な判断への影響を看過できず,本件懲戒処分は,全体として違法の瑕疵を帯びるといわざるを得ない。」との部分は争う。 被告は,原処分を重くも軽くも変更する権限を有している(法59条,64条の5第4項)から,被告が②の事実のみに立脚して原処分を維持することは適法である。そして,上記②の本件各虚偽説明が,それ自体として弁護士及び弁護士会の信用を害し,弁護士としての品位を失うべ- 14 -き非行に該当することが明らかである。上記①の事実を認定したことが違法であるとしても,本件懲戒処分の結論は正しいとしたのが本件裁決であり,そのような判断は相当である。 (イ) 同(イ)(防御権行使の侵害)について本件が法58条2項前段の規定によるいわゆる「会立件」で開始された事案であること,東京弁護士会がその綱紀委員会に対して原告に係る懲戒事案の調査を求めた端緒が別件の懲戒事件についての原告の回答書にあったことは認めるが,原告が防御権行使を侵害 「会立件」で開始された事案であること,東京弁護士会がその綱紀委員会に対して原告に係る懲戒事案の調査を求めた端緒が別件の懲戒事件についての原告の回答書にあったことは認めるが,原告が防御権行使を侵害されたとの主張は争う。 東弁綱紀委員会による問合わせ及び回答要請は,別件の懲戒事件における事実調査の一環としてされたものであって,原告に対する懲戒手続の一部をなすものではないから,本件懲戒処分の効力を左右しない。 (ウ) 同(ウ)(法58条2項前段等の違反)について原告に「懲戒の事由がある」か否かの判断を実質的には東弁綱紀委員会が行い,これを会長が追認した旨,本件懲戒処分の手続は,法58条2項前段,会則74条2項後段等に違反している旨の主張について,事実は否認し,法的主張は争う。 いわゆる会立件について,予め弁護士会の総会又は常議員会の承認決議を要するとする法令,会則又は会規は存在しないのであって,会長が「懲戒の事由がある」か否かの判断したことをもって違法とまではいえない。 また,法は,綱紀委員会を濫訴的な懲戒請求を速やかに排除し,懲戒委員会において真に吟味を必要とする事案について充実した審理を保障するための機関として位置付けているのであって,仮に綱紀委員会における調査の手続に何らかの瑕疵があって,「懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当と認める」旨の議決がされたとしても,このような瑕- 15 -疵は懲戒委員会における手続において十分な手続保障の下に事案が審査されることによって治癒されたものとみることができる。さらに,懲戒委員会が懲戒相当の議決をし,東京弁護士会が対象弁護士等を懲戒したとしても,被懲戒者は行政不服審査法による審査請求をすることができ,被告の懲戒委員会において十分な手続保障の下に原処分を争うことができ 員会が懲戒相当の議決をし,東京弁護士会が対象弁護士等を懲戒したとしても,被懲戒者は行政不服審査法による審査請求をすることができ,被告の懲戒委員会において十分な手続保障の下に原処分を争うことができるのであるから,この手続を通じて前記の瑕疵は治癒されたものとみることができる。 ウ原告の主張イ(内容の違法の主張)について(ア) 同(ア)(違法性判断の審査基準)について弁護士に対する所属弁護士会及び被告による懲戒処分について,原告主張の内容の平成18年9月14日第一小法廷判決があること,原告主張のいわゆる広島県教組事件についての判例及び小田急事件についての判例が存在することは認めるが,その余は争う。 (イ) 同(イ)(懲戒事由該当性についての認定判断の誤り)について本件懲戒処分にしろ,本件裁決にしろ,原告が本件各虚偽説明をしたこと自体が懲戒事由に該当するとしているのではなく,原告の本件各虚偽説明とAのC弁護士に対する懲戒請求との間の因果関係を問題視して,原告の行為の懲戒事由該当性を肯定しているとの主張,並びに本件懲戒処分及び本件裁決は,懲戒事由該当性についての認定判断を誤り,全く基礎を欠いたものであるとの主張は,争う。本件懲戒処分も本件裁決も,原告が本件各虚偽説明をしたことが弁護士としての品位を失う非行に該当する事実であると認定したものである。原告が本件各虚偽説明をしたこと自体は,原告も争っていないのであり,本件懲戒処分も本件裁決も,事実誤認をしておらず,「全く基礎を欠くもの」ではない。 (ウ) 同(ウ)(裁量権の逸脱ないし濫用)について柱書の主張は争う。a,b,dの事実は知らない。cのうち原告がA- 16 -に謝罪したこと,eのうちAが原告に対する懲戒処分を望んでいない旨の上申書を東弁懲戒委員会に提出したこと 用)について柱書の主張は争う。a,b,dの事実は知らない。cのうち原告がA- 16 -に謝罪したこと,eのうちAが原告に対する懲戒処分を望んでいない旨の上申書を東弁懲戒委員会に提出したことは認める。 本件裁決は,これらの情状事実をも勘案した上,原告の本件各虚偽説明は依頼者に対する誠実義務に反し,依頼者と弁護士の信頼関係を著しく損ない,また,C弁護士に多大な負担を与えたものであるとして,本件懲戒処分を維持したものであるが,このような判断は,結果の重大性,あるいは,自己に関する事実ではなく,他の弁護士に関する事実について虚偽の事実を告知している点で悪質であることからしても,社会通念上著しく妥当性を欠くということはできない。 第3 当裁判所の判断 1 手続上の違法について(1) 対象外事実認定及び認定外事実による処分との主張についてア法は,弁護士又は弁護士法人が,一定の懲戒事由があったときに,懲戒を受けると規定し(56条1項),その手続について,弁護士会が,所属の弁護士又は弁護士法人について,懲戒の事由があると思料するとき又は法58条1項の懲戒の請求があったときは,懲戒の手続に付し,綱紀委員会に事案の調査をさせなければならないと規定し(58条2項),綱紀委員会は,事案の調査に関し必要があるときは,対象弁護士等に対して陳述,説明又は資料の提出を求めることができるのであり(70条の7),上記調査により対象弁護士等につき懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当と認めるときは,その旨の議決をすることとし,この場合において,弁護士会は,当該議決に基づき,懲戒委員会に事案の審査を求めなければならないとし(58条3項),懲戒委員会は,事案の審査を求められたときは,速やかに審査の期日を定め,対象弁護士等にその旨を通知しなければ 会は,当該議決に基づき,懲戒委員会に事案の審査を求めなければならないとし(58条3項),懲戒委員会は,事案の審査を求められたときは,速やかに審査の期日を定め,対象弁護士等にその旨を通知しなければならず,審査を受ける弁護士等は審査期日に出頭し,かつ,陳述することができ,懲戒委員会は,審査に関し必要があるときは,対象弁護士等に対- 17 -して陳述,説明又は資料の提出を求めることができるのであり(以上につき67条1~3項),その審査により対象弁護士等につき懲戒をすることを相当と認めるときは,懲戒の処分の内容を明示して,その旨の議決をし,この場合において,弁護士会は,当該議決に基づき,対象弁護士等を懲戒しなければならず(58条5項),逆に,綱紀委員会が対象弁護士等につき懲戒の事由がないと認めるときは,懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする議決をし,この場合において,弁護士会は,当該議決に基づき,対象弁護士等を懲戒しない旨の決定をしなければならないと規定している(同条4項)。 法の上記各規定は,懲戒処分がされれば被処分者である弁護士に与える影響が大きいことを考慮し,綱紀委員会による事案の調査及び懲戒委員会による事案の審査の対象については,これを具体的事実により特定された懲戒事由に限定するとともに,懲戒処分に関する手続の各段階とそれぞれを主宰する各委員会等の役割及び権限とを明確に区分し,もって,対象弁護士が当該手続内において防御を尽くすことができるようにし,手続の適正を確保することを目的とするものと解するのが相当である。上記各規定の文言及び趣旨に照らせば,① 綱紀委員会がすべき事案の調査の対象は,弁護士会が存在すると思料した懲戒事由に該当する特定の具体的事実の有無のほか,当該事実に基づく懲戒の可否,程度等の判断に必要な事実 文言及び趣旨に照らせば,① 綱紀委員会がすべき事案の調査の対象は,弁護士会が存在すると思料した懲戒事由に該当する特定の具体的事実の有無のほか,当該事実に基づく懲戒の可否,程度等の判断に必要な事実に限られるのであり,また,② 懲戒委員会がすべき事案の審査の対象は,綱紀委員会が懲戒事由に該当すると認め,弁護士会から審査を求められた特定の具体的事実及びこれに基づく懲戒の可否等の判断に必要な事実に限られ,綱紀委員会が行った事案の調査の結果に基づいて審査が行われることになるというべきである。 これを本件についてみると,前記前提事実によれば,a 東京弁護士会が懲戒事由があると思料し,綱紀委員会に事案の調査を求めた特定の具体- 18 -的事実は,①原告がAに虚偽の説明をし,その説明を信じたAによってC弁護士に対する懲戒請求がされたという事実及び②報酬折半の事実であり,これらの事実の存否について東弁綱紀委員会に対して調査命令が発せられたのであり,これを受けて東弁綱紀委員会は,事案の調査を行い,上記①の事実,すなわち,原告がAに本件各虚偽説明をし,その説明を信じたAによってC弁護士に対する懲戒請求がされたという事実が存在するので,原告がした本件各虚偽説明は法56条1項に違反する品位を失うべき非行に当たるとして,原告につき東弁懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当とする旨の議決をし,これを受けて東京弁護士会は原告につき東弁懲戒委員会に事案の審査を求める決定をしたものであるところ,b東弁懲戒委員会が原告について審査し,懲戒事由に該当する事実として認定した事実は,③原告とC弁護士との協力関係に関する行為と,上記aの①の事実,すなわち,原告がAに虚偽の説明をしたことによりC弁護士への懲戒申立てを招いた行為とであり,東京弁護士会は,東弁懲戒委員会の した事実は,③原告とC弁護士との協力関係に関する行為と,上記aの①の事実,すなわち,原告がAに虚偽の説明をしたことによりC弁護士への懲戒申立てを招いた行為とであり,東京弁護士会は,東弁懲戒委員会の上記認定を前提に本件懲戒処分をしたものであることが認められる。上記aの①の事実は,東京弁護士会が懲戒事由があると思料し,東弁綱紀委員会に事案の調査を求めた特定の具体的事実にほかならず,これを受けて同委員会が事案の調査を行った結果当該事実が存在し,かつ,これが懲戒事由に該当し,懲戒すべきものと認めた事実であるのに対し,上記bの③の事実は,東京弁護士会が懲戒事由があると思料して東弁綱紀委員会に事案の調査を求めた事実である上記aの①の事実及び同②の事実とは異なる事実であり,東弁綱紀委員会が懲戒事由に該当する事実として認めた事実(上記aの①の事実)でもない。そうすると,東弁懲戒委員会が上記bの③の事実の存否を調査し,これを懲戒事由として認めたことは,東京弁護士会及び東弁綱紀委員会が懲戒事由として取り上げた事実以外の事実を懲戒処分の対象としたことになり,権限外の行為を行ったものとして許さ- 19 -れないことといわなければならない。 しかしながら,法は,被告が,56条により弁護士会がした懲戒の処分について行政不服審査法による審査請求があったときは,被告の懲戒委員会に事案の審査を求め,その議決に基づき,裁決をしなければならないと規定しており(59条),したがって,被告は,上記審査請求に対する裁決において,所属弁護士会の上級庁に当たるから,裁決で原処分を変更することもできることになるところ(行政不服審査法40条5項),法は,56条により弁護士会がした懲戒の処分に関しては,これについての被告の裁決に対してのみ,取消しの訴えを提起することができると規 更することもできることになるところ(行政不服審査法40条5項),法は,56条により弁護士会がした懲戒の処分に関しては,これについての被告の裁決に対してのみ,取消しの訴えを提起することができると規定し(61条2項),さらに,被告が,56条1項に規定する事案について自らその弁護士等を懲戒することを適当と認めるときは,所定の手続によりこれを懲戒することができると規定し(60条),弁護士等の所属弁護士会ではなく被告自らが懲戒処分を行う権限についても規定している。以上の各規定によれば,被告の裁決は,弁護士に対する懲戒の実質的な最終処分としての性質を有するものと位置付けられているということができるのであり,被告は,法56条により弁護士会がした懲戒処分についての行政不服審査法による審査請求があった場合において,当該懲戒処分の手続に一部違法があったときであっても,その違法が当該懲戒処分の手続全体を無効とするほど重大なものでなく,それ以外の適正に行われた手続により認定された事実に基づいて懲戒することを適当と認めるときは,所要の手続を行った上で原処分を変更することができるし,その懲戒処分の内容が原処分の内容と結論において一致するときは審査請求を棄却するにとどめることもできると解するのが相当である。これを本件についてみると,被告の懲戒委員会は,本件懲戒処分が上記bの③の事実を審査の対象としたことは不適法であるが,上記aの①の事実は,依頼者に対する誠実義務に違反し,依頼者と弁護士の信頼関係を著しく損なうものであるし,C弁護- 20 -士に多大の負担を与えたこと等を考えると,弁護士としての品位を失うべき非行に該当するといわざるを得ず,したがって,原告を戒告に処した原処分は結論において相当であり,上記審査請求は理由がないので棄却するのが相当であるとの議 と等を考えると,弁護士としての品位を失うべき非行に該当するといわざるを得ず,したがって,原告を戒告に処した原処分は結論において相当であり,上記審査請求は理由がないので棄却するのが相当であるとの議決をし,これを受けて,被告は,審査請求を棄却する旨の本件裁決をしたのであるから,本件裁決に手続上の違法はないということができる。要するに,本件においては,上記aの①の事実を懲戒事由として原告を戒告するとの処分がされたのであって,そうすると,本件懲戒処分が上記bの③の事実を認定したことを理由に,手続上の違法があるとする原告の主張は,採用できないというべきである。 イ原告は,東弁懲戒委員会は,原告がC弁護士と報酬を折半した疑いを明示しており,この疑いが本件懲戒処分に影響を与えた可能性が強い旨の主張もするが,同主張が失当であることは上述したところから明らかである。 (2) 防御権行使の侵害との主張について原告は,別件の懲戒事件についての調査協力依頼に応じて,回答書を提出し,参考人として出頭の上陳述し,その内容から「懲戒事由にあたる疑いのある行為を認めた」として,立件されたのであって,防御権を認識することなく,その行使を検討する機会もないまま,立件後の「調査」を受けていたのと変わらない状態であったのであり,防御権行使を侵害された旨主張する。 確かに,前記前提事実によれば,東弁綱紀委員会は,別件の懲戒事件に関し,原告に書面による回答及び東京弁護士会での事情の聴取を求め,原告がこれに応じ,その結果,同委員会は,別件の懲戒事件の調査の中で,原告に法56条1項の品位を失うべき非行に当たる疑いを認めたとして,東京弁護士会会長に報告をし,その結果,原告の懲戒の手続が開始された事実が認められる。 しかしながら,東弁綱紀委員会の上記の原告に対する書 6条1項の品位を失うべき非行に当たる疑いを認めたとして,東京弁護士会会長に報告をし,その結果,原告の懲戒の手続が開始された事実が認められる。 しかしながら,東弁綱紀委員会の上記の原告に対する書面の提出依頼及び事情聴取は,別件の懲戒手続に関し,法70条の7の規定により認められた- 21 -権限を行使したものと解することができるから,そのこと自体を不当であるということはできない。また,上記手続は,別件の調停事件の手続の一環としてされたものであり,原告に対する懲戒手続とは異なるから,東弁綱紀委員会が当初から原告に対する懲戒事件を調査するために,別件の調停事件の調査であることを装って原告から事情聴取等をしたとか,その時の調査方法が不当に原告に圧力を加えたものであって,そのために,原告の懲戒事件の手続において原告が防御権を行使することが困難になったといった特段の事情が認められる場合であればともかく,そうでない限り,別件の懲戒事件において原告の懲戒事由になり得る事情等について書面の提出等を求めたからといって,そのことが原告に対する防御権行使の侵害になる訳ではない。そして,本件においては,上記特段の事情があるとは認められない。 したがって,この点についての原告の主張は採用できない。 (3) 法58条2項前段等の違反の主張についてア原告は,法58条2項前段が「懲戒の事由がある」か否かの判断をする機関を弁護士会としている趣旨は,懲戒権の行使が弁護士会の根本的な権能である以上,懲戒の事由があるか否か,懲戒手続の開始を求めるか否かは弁護士会がその意思決定として定めるというところにあり,したがって,その判断は弁護士会の意思決定機関である総会又は常議員会がすべきであるなどとして,総会や常議員会の決議によらずに「懲戒の事由があると思料」して懲戒 思決定として定めるというところにあり,したがって,その判断は弁護士会の意思決定機関である総会又は常議員会がすべきであるなどとして,総会や常議員会の決議によらずに「懲戒の事由があると思料」して懲戒の手続を開始した手続は,法58条2項前段や東京弁護士会の会則74条2項等に違反するから,本件懲戒処分は違法である旨主張する。 法58条2項前段等の解釈についての原告の主張は,十分な根拠に基づくものであって,検討に値いするものである。しかしながら,法58条2項のいわゆる会立件の手続は弁護士会が懲戒権を発動する最初の手続であり,これを受けて綱紀委員会が事案の調査を行い,判断に応じて所定の議- 22 -決をし,弁護士会は,当該議決に基づき,懲戒委員会に事案の審査を求め,又は対象弁護士等を懲戒しない旨の決定をすることになるのであり(同条2~4項),懲戒委員会が事案の審査を行った上でする議決の後にも,弁護士会が当該議決に基づき対象弁護士等を懲戒し,又は懲戒しない旨の決定をすることになるのであるから,上記各段階において弁護士会が会立件の手続に不備があったと判断すればこの不備を是正することが可能であるし,是正を必要とするほどの不備に当たらないと判断すればそのまま手続を進行させることになるというべきである。したがって,会立件の手続において以後の手続を違法無効とするような瑕疵がある場合は別として,原告が指摘する問題点は,事後の手続において上記のとおり十分解決され得るものであるから,当然に以後の手続を違法無効とするような瑕疵に当たるということはできず,本件懲戒処分を取り消すべき瑕疵には当たらないというべきである。そうすると,法58条2項前段及びこれを受けた会則に違反したことを本件裁決の取消理由とする原告の主張は,主張自体失当といわなければならない。 分を取り消すべき瑕疵には当たらないというべきである。そうすると,法58条2項前段及びこれを受けた会則に違反したことを本件裁決の取消理由とする原告の主張は,主張自体失当といわなければならない。 イ原告は,東京弁護士会の会長が,実質的に東弁綱紀委員会が行った「懲戒事由がある」との判断を追認したものというべきであるとして,本件懲戒処分の手続は,この点でも,法58条2項前段に違反している旨の主張もするが,東京弁護士会の会長が,東弁綱紀委員会が行った判断を何らの検討もしないで追認したとの事実は認められないし,また,会立件の手続の違法が懲戒権の行使自体を違法とするものでないことは前示のとおりであるから,いずれにせよ,原告の同主張も失当である。 2 内容の違法について(1) 違法性判断の審査基準について弁護士に対する所属弁護士会及び被告(以下,両者を含む意味で「弁護士会」という。)による懲戒の制度は,弁護士会の自主性や自律性を重んじ,- 23 -弁護士会の弁護士に対する指導監督作用の一環として設けられたものである。また,懲戒の可否,程度等の判断においては,懲戒事由の内容,被害の有無や程度,これに対する社会的評価,被処分者に与える影響,弁護士の使命の重要性,職務の社会性等の諸般の事情を総合的に考慮することが必要である。したがって,ある事実関係が「品位を失うべき非行」といった弁護士に対する懲戒事由に該当するかどうか,また,該当するとした場合に懲戒するか否か,懲戒するとしてどのような処分を選択するかについては,弁護士会の合理的な裁量にゆだねられているものと解され,弁護士会の裁量権の行使としての懲戒処分は,全く事実の基礎を欠くか,又は社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り,違 られているものと解され,弁護士会の裁量権の行使としての懲戒処分は,全く事実の基礎を欠くか,又は社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り,違法となるというべきである(以上につき,平成18年9月14日第一小法廷判決参照)。 これに対し,原告は,上記審査基準では弁護士会に裁量権が認められていること自体で違法性が否定されることにもなりかねず,弁護士会の懲戒処分の違法性判断の基準についても,いわゆる広島県教組事件についての判例や小田急事件についての判例における審査基準によるべきである旨主張する。 しかし,これらの判例の示す審査基準は,いずれも,行政庁等の裁量判断を前提として,裁量権の逸脱又は濫用があったと認められる場合に限り違法とするものであって,基本的には異なるものではなく,それぞれ問題になった裁量判断の性質に即して判示したものである。したがって,弁護士会の懲戒処分の違法性判断の基準は,同処分が弁護士会の自主性及び自律性を重んじ,弁護士会の弁護士に対する指導監督作用の一環として設けられたものである趣旨を踏まえ,懲戒の可否,程度等の判断においては前記のとおりの諸般の事情を総合的に考慮することが必要であるとの見地に立って前記のとおりに判示する平成18年9月14日第一小法廷判決の示す基準によるのが相当である。 - 24 -(2) 懲戒事由該当性についての認定判断の誤りについてア原告は,本件懲戒処分にしろ,本件裁決にしろ,原告が本件各虚偽説明をしたこと自体が懲戒事由に該当するとしているのではなく,原告の本件各虚偽説明とAのC弁護士に対する懲戒請求との間の因果関係を問題視して,原告の行為の懲戒事由該当性を肯定している旨主張する。 しかし,前記前提事実と東弁懲戒委員会及び被告懲戒委員 なく,原告の本件各虚偽説明とAのC弁護士に対する懲戒請求との間の因果関係を問題視して,原告の行為の懲戒事由該当性を肯定している旨主張する。 しかし,前記前提事実と東弁懲戒委員会及び被告懲戒委員会の各議決書(甲1の2・乙18,甲4の2・乙27)の記載とを総合すると,本件懲戒処分が認定し,かつ,本件裁決も懲戒事由に該当すると認めた原告の非行とは,原告がAに本件各虚偽説明をした行為を指すことが明らかである。 ただし,上記各議決書の記載内容からすると,東弁懲戒委員会及び被告が,原告の同行為が「弁護士としての品位を失うべき非行」に当たるとして戒告を相当とするとの判断に至ったのは,同行為が,依頼者に対する誠実義務に違反し,依頼者と弁護士の信頼関係を著しく損なうものであること,これによりAがC弁護士について懲戒申立てをするに至り,同弁護士に多大な負担を強いたこと等を考慮したためであると認めることができる。 イ原告は,原告の本件各虚偽説明とC弁護士に対する懲戒請求との間には,因果関係が認められないのであって,本件懲戒処分及び本件裁決は,懲戒事由該当性についての認定判断を誤り,全く基礎を欠いたものである旨主張する。 しかしながら,前記のとおり,本件懲戒処分が認定し,かつ,本件裁決も懲戒事由に該当すると認めた原告の非行とは,原告がAに本件各虚偽説明をした行為を指すのであり,AがC弁護士に対して懲戒申立てをして同弁護士に多大な負担を与えたこと等は上記行為の結果として考慮されているのであるから,原告の上記主張はその前提を誤ったものといわざるを得ない。そして,原告も,原告が本件各虚偽説明をしたことは争っておらず,そうすると,本件懲戒処分等が全く基礎を欠いたものということはできな- 25 -い。加えて,前記前提事実に記載のとおり,原告がAに平成1 して,原告も,原告が本件各虚偽説明をしたことは争っておらず,そうすると,本件懲戒処分等が全く基礎を欠いたものということはできな- 25 -い。加えて,前記前提事実に記載のとおり,原告がAに平成18年10月4日に「報酬金はC弁護士と半額ずつ取得する約束となっている」と,及び平成19年2月9日に「報酬金の半額をすでにC弁護士が取得している」という,いずれも虚偽である本件各説明をしたところ,Aは,同年8月21日,東京弁護士会に対し,①C弁護士がAから遺産分割調停事件を受任して報酬を受領していたとすれば,弁護士職務基本規程27条1項(職務を行ない得ない事件)に違反するし,②受任していないとすれば,原告に同事件を紹介した対価を受領したことになり,同13条2項(依頼者紹介の対価)に違反するとして,同弁護士の懲戒請求をしたのであって,この経緯に照らすと,原告が本件各説明(本件各虚偽説明)をしなければ,Aが上記懲戒請求をしたとは考えられないところであり,原告の本件各虚偽説明とC弁護士に対する懲戒請求との間に因果関係があることは明らかである。 この点について,原告は,本件懲戒処分及び本件裁決は,その判断の過程で考慮すべき①別件の懲戒事件の請求前に原告がAの代理人のD弁護士に対しC弁護士の報酬金受領を否定した事実(甲10),及び,②別件の懲戒事件の請求は,原告との間で生じていた報酬金減額の問題を解決するためであり,また,C弁護士から本件調停事件の見込みとして伝えられた内容と成立した調停の内容の間にそごがあることでC弁護士に対する強い否定的感情が生じていたためである事実,以上の2点を考慮していないため,上記因果関係について誤った認定をした旨主張する。しかし,そもそもは原告がAに対し,虚偽であるにもかかわらず「報酬金はC弁護士と半額ずつ取得する約 たためである事実,以上の2点を考慮していないため,上記因果関係について誤った認定をした旨主張する。しかし,そもそもは原告がAに対し,虚偽であるにもかかわらず「報酬金はC弁護士と半額ずつ取得する約束となっている」,「報酬金の半額をすでにC弁護士が取得している」という本件各説明をしたことが本件の根幹をなす事実なのであって,弁護士が依頼者に対してかかる説明をしたことの持つ意味は重大であり,原告がAに対してした本件各説明は,これを聞いたAがC弁護- 26 -士に対する懲戒請求に及ぶことになる決定的な要因となり得る性質を有するものと評価することができるから,仮に上記①の事実が認められ,また,AがC弁護士に対する懲戒請求にまで及んだ背景として,原告との間で生じていた報酬金減額の問題を解決しようという気持ちやC弁護士に対する強い否定的感情があったとしても,それらの事実だけで直ちに原告の本件各虚偽説明とC弁護士に対する懲戒請求との間の因果関係が否定されることにはならないのであり,Aが,上記①の経緯から本件各説明が虚偽のものであることを明確に認識したにもかかわらず,上記②の理由から敢えてC弁護士を懲戒請求したという事実が認められるなどの特段の事情が存在することを要するというべきである。そこで,上記特段の事情の有無について検討するに,上記①の経緯があったからといって,直ちにAが本件各説明が虚偽であることを認識したということにはならないし,他にAが同説明が虚偽であることを認識していたことを認めるに足りる証拠はないから,上記特段の事情の存在を認めることはできない。 なお,原告は,Aの代理人であるD弁護士が,原告から上記①のとおりC弁護士の報酬金受領についての否定の返答を聞いているのであるから,C弁護士に対する懲戒請求をするに当たっては,同弁護士の報 い。 なお,原告は,Aの代理人であるD弁護士が,原告から上記①のとおりC弁護士の報酬金受領についての否定の返答を聞いているのであるから,C弁護士に対する懲戒請求をするに当たっては,同弁護士の報酬金受領について慎重に調査,検討すべきであったにもかかわらず,原告やC弁護士に確認はおろか連絡することさえせずに懲戒請求をしたのであって,このような不法行為ないしこれに準ずる行為が介在している以上,原告の本件各虚偽説明とAによるC弁護士に対する懲戒請求との間には因果関係が認められない旨の主張もする。原告の上記主張は,原告がAに対して「報酬金はC弁護士と半額ずつ取得する約束となっている」,「報酬金の半額をすでにC弁護士が取得している」という本件各虚偽説明をしたことよりも,その後に原告がD弁護士に対してC弁護士の報酬金受領を否定したにもかかわらずD弁護士が慎重な調査確認を怠ったことの方が上記因果関係を左- 27 -右する重要な事実であるといっているに等しいように思われる。しかし,前記のとおり,原告がAに対して本件各虚偽説明をしたことこそが本件の根幹をなす事実であり,弁護士が依頼者に対してかかる説明をしたことの持つ意味は重大であって,本件各虚偽説明は,これを聞いたAがC弁護士に対する懲戒請求に及ぶことになる決定的な要因となり得る性質を有するものと評価することができるのであるから,それにもかかわらず上記因果関係を否定するには,原告がD弁護士に対してC弁護士の報酬金受領を否定したのにD弁護士が慎重な調査確認を怠ったというだけでは足りず,A及びD弁護士が本件各説明が虚偽のものであることを明確に認識したにもかかわらず,前記の理由から敢えてC弁護士を懲戒請求したという事実が認められるなどの特段の事情が存在することが必要であるというべきである。 ウ 件各説明が虚偽のものであることを明確に認識したにもかかわらず,前記の理由から敢えてC弁護士を懲戒請求したという事実が認められるなどの特段の事情が存在することが必要であるというべきである。 ウ以上のとおり,本件懲戒処分ないし本件裁決が全く事実の基礎を欠いているとの原告の主張は採用できない。 (3) 社会通念上妥当性を欠くとの原告の主張についてア前記前提事実によれば,原告は,本件調停事件を解決した後,依頼者であるAの代理人として,相手方であるBから調停で約された1億円を受領したので,そのうち原告の報酬分2100万円を留保して7900万円だけAに引き渡したが,その後,Aとの間で報酬の減額が問題になり,その話合いの過程で,報酬額の分配について虚偽の事実を述べたものである。 イ弁護士は,信義に従い,誠実かつ公正に職務を行うべき義務があり(弁護士職務基本規程5条),このことは,信頼関係を前提とする委任契約の性質上当然に生ずる義務といわなければならない。本件各虚偽説明は,上記の誠実義務に反し,依頼者の信頼を損なうものである。 ウしかも,本件各虚偽説明は,原告が,依頼者との間の報酬額の減額を巡る交渉(委任事務を処理するに当たり受け取った金銭の委任者に対する引- 28 -渡義務《民法646条1項》の範囲に関する交渉でもある。)の中で,報酬の分配について虚偽の事実を告げたものであるから,原告において報酬額ができるだけ減額されないようにする目的で行ったものと認めることができる。 この点について,原告は,原告が本件各虚偽説明に及んだのは,原告自ら積極的にした訳ではなく,AがC弁護士と原告において報酬を分けることを前提とした発言をしたことを承認する形でされたものであり,しかも,原告には,遠からず報酬金減額の問題が解決した際には,C弁護 自ら積極的にした訳ではなく,AがC弁護士と原告において報酬を分けることを前提とした発言をしたことを承認する形でされたものであり,しかも,原告には,遠からず報酬金減額の問題が解決した際には,C弁護士に謝礼の趣旨で多少の金員を渡そうとの意識があり,早晩全くの虚偽というわけではないと考えたためであった旨主張する。しかし,同主張によっても,原告が自己の利益を確保するために虚偽の説明をしたということ自体は否定されないのであって,単なる弁解の域を出ない。 エさらに,本件各虚偽説明は,C弁護士が弁護士職務基本規程に違反する行為を行ったとの疑いを生じさせる内容のものであって,C弁護士にかける負担に考えを及ぼすことなく,ひいては弁護士会の信用を損なうことに思いを至さずに自己の利益を確保しようとしたという側面もある。 オそうすると,原告の本件各虚偽説明は,原告がAに謝罪し,Aが原告に対する懲戒処分を望まない旨の上申書を提出したことなどの原告指摘の諸事情を考慮したとしてもなお,法56条1項所定の「品位を失うべき非行」に当たるとし,戒告を相当とする旨の弁護士会の判断が社会通念上著しく妥当を欠くものとはいえない。したがって,本件懲戒処分が裁量権の逸脱又は濫用に当たるということはできない。 3 以上によれば,本件懲戒処分及び本件裁決に違法はなく,原告の本件取消請求は,理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 - 29 -東京高等裁判所第4特別部 裁判長裁判官高世三郎 裁判官森 一岳 裁判官廣田泰士 裁判官 森一岳 裁判官 廣田泰士
▼ クリックして全文を表示