平成26年4月9日判決言渡 平成25年(行ケ)第10282号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成26年3月26日判決 原告 佐藤食品工業株式会社 訴訟代理人弁護士 宍戸充矢 嶋雅子 岩瀬ひとみ 紋谷崇俊 早川皓太郎 弁理士 花田吉秋 被告 越後製菓株式会社 訴訟代理人弁護士 高橋元弘 末吉亙 弁理士 中島淳 清武史郎 坂手英博 小田富士雄 吉井雅栄 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由 第1 原告の求めた判決特許庁が無効2012-800213号事件について平成25年9月11 訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由 第1 原告の求めた判決特許庁が無効2012-800213号事件について平成25年9月11日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要本件は,特許無効請求不成立審決の取消訴訟である。争点は,①特許法39条2項該当性,②同法29条の2該当性である。 1 特許庁における手続の経緯(1) 被告は,発明の名称を「餅」とする特許第4111382号(以下「本件特許」という。出願日:平成14年10月31日,登録日:平成20年4月18日)の特許権者である(甲13)。 原告は,平成24年12月27日,本件特許の請求項1及び2について無効審判を請求した(無効2012-800213号)。 特許庁は,平成25年9月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月20日,原告に送達された。 (2) なお,原告は,平成21年7月31日,本件特許に関して無効審判を請求した(無効2009-800168号。以下「第1の無効審判請求」という。)。 特許庁は,第1の無効審判請求について,平成22年6月8日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。 原告は,同審決に対し,同年7月16日,審決取消訴訟を提起したが,知的財産高等裁判所は,平成23年9月7日,原告の請求を棄却する旨の判決を言い渡し,同判決は確定した。 また,原告は,平成24年5月2日,本件特許に関して無効審判を請求した(無- 3 -効2012-800072号。以下「第2の無効審判請求」という。)。 特許庁は,第2の無効審判請求について,平成25年3月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした(甲3。以下「別件審決」と 2-800072号。以下「第2の無効審判請求」という。)。 特許庁は,第2の無効審判請求について,平成25年3月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした(甲3。以下「別件審決」という。)。 原告は,同審決に対し,平成25年4月12日,審決取消訴訟を提起したが,知的財産高等裁判所は,平成25年12月24日,原告の請求を棄却する旨の判決を言い渡した(乙4)。 2 本件発明の要旨本件発明の要旨は,本件特許公報(甲13。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲に記載された下記のとおりである(A~Fの分説記号は裁判所が付した。以下,請求項ごとに「本件発明1」などといい,請求項1,2を併せて「本件発明」という。)。 【請求項1】A 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅のB 載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け,C この切り込み部又は溝部は,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として,D 焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成したE ことを特徴とする餅。 【請求項2】F 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の- 4 -G 載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に, る餅。 【請求項2】F 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の- 4 -G 載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状の切り込み部又は溝部を設けたH ことを特徴とする請求項1記載の餅。 3 審判で主張された無効理由審判で主張された無効理由は,以下のとおりである。 (1) 無効理由1(特許法39条2項違反)本件発明は,その特許出願の日と同日付けにて出願された分割発明(甲1)と同一であって,特許法39条2項の規定により特許を受けることができないものである。 (2) 無効理由2(特許法29条の2違反)本件発明は,その特許出願の日前の他の特許出願であって,その特許出願後に出願公開されたものの願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された先願発明(甲2参照)と同一であるから,特許法29条の2の規定により特許を受けることができないものである。 4 審決の理由の要点審決は,以下のとおり判断し,原告主張の無効事由をいずれも認めなかった。 (1) 無効理由1(特許法39条2項違反)について審決が認定した分割発明(訂正2013-390084号の平成25年7月2日付け審決(甲103)により訂正された特許第4636616号(甲1)の請求項2に記載された発明,乙1),並びに本件発明1の構成要件Cと分割発明の構成要件hとの一応の相違点及びその対比判断は,以下のとおりである(分説記号は裁判所が付した。)。 ア分割発明「f 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅であって,この焼き網に載置する際に,最も面積の大きい対向す である(分説記号は裁判所が付した。)。 ア分割発明「f 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅であって,この焼き網に載置する際に,最も面積の大きい対向する広大面の一方を- 5 -載置底面他方を上面とする高さ寸法が幅寸法及び奥行き寸法より短い薄平板状の偏平方形体の切餅の,g 前記上下の広大面間の立直側面に,この上下の広大面間の立直側面に沿う周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け,h この切り込み部又は溝部は,この立直側面に沿う周方向で且つ前記広大面と平行な直線状であって,四辺の前記立直側面のうちの対向二側面である長辺部の立直側面の双方に夫々長さいっぱいに形成した切り込み部又は溝部であり,刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成した切り込み部又は溝部として,i 焼き上げるに際し,前記立直側面の周方向に形成した前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成したj ことを特徴とする餅。」イ本件発明1の構成要件Cと分割発明の構成要件hとの一応の相違点(相違点1)「分割発明の切り込み部又は溝部が立直側面に沿う周方向で且つ広大面と平行な直線状であるのに対して,本件発明1ではそのような特定がない点」(相違点2)「分割発明が四辺の立直側面のうちの対向二側面である長辺部の立直側面の双方に夫々長さいっぱいに形成しているのに対して,本件発明1では切り込み又は溝部が立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向 面の双方に夫々長さいっぱいに形成しているのに対して,本件発明1では切り込み又は溝部が立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成している点」(相違点3)「分割発明の切り込み部又は溝部が刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成しているのに対して,本件発明1では切り込み部又- 6 -は溝部の形成方法が特定されていない点」ウ本件発明1の構成要件Cと分割発明の構成要件hとの対比判断「相違点相互の関連性から相違点1ないし3をまとめて検討する。 分割発明の構成要件hにおいて,「切り込み部又は溝部」は,広大面と平行な「直線状であ」って,四辺の立直側面のうちの「対向二側面である長辺部の立直側面の双方に夫々長さいっぱいに」形成し,「切り込み部又は溝部が刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成」されることが特定されている。すなわち,これらの相違点1ないし3は相互に協働しあって,例えば,回転する刃部を用いて簡易かつ迅速に「切り込み部又は溝部」を形成するのに適した構成になっている。 これに対して,本件発明1の「切り込み部又は溝部」については,「立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成」することが記載されるものの,その形成方法について特定がない。本件特許の明細書の段落【0031】には,「例えば,切り込み3は先鋭なカッターや回転する刃部5などによって形成したが,凹条部を押圧形成し,切り込み3に代えて溝部としても良い。」と記載されており,本件発明1の「切り込み部又は溝部」の形成方法には,「押圧形成」することが含まれてい 転する刃部5などによって形成したが,凹条部を押圧形成し,切り込み3に代えて溝部としても良い。」と記載されており,本件発明1の「切り込み部又は溝部」の形成方法には,「押圧形成」することが含まれていると理解できる。 してみると,分割発明は,本件発明1における各種の「切り込み部又は溝部」の形成方法の中から,相違点1ないし3に記載される形成方法に限定するものである。 そして,これらの相違点1ないし3が協働して作用することによって,「刃板5に対して小片餅体1を長辺部長さ方向に相対移動するだけで小片餅体1の両側の長辺部の立直側面2Aに周方向に十分な長さを有する切り込み3を簡単に形成でき,前記作用・効果が十分に発揮されると共に,量産性に一層秀れる」(摘記1b)という,形成方法に限定のない本件発明1では得られない新たな効果を奏しているのである。したがって,構成要件Cと構成要件hが実質的に同一であるとは言えない。 - 7 -よって構成要件Cと構成要件hとが実質的に同一であるとは言えないことから,他の構成要件の対比を行うまでもなく,本件発明1と分割発明は同一とは言えない。」「本件発明2は,本件発明1を引用する発明であって,その構成要件中に構成要件Cを含むものであるから,他の構成要件の対比を行うまでもなく,本件発明2と分割発明は同一とは言えない。」(2) 無効理由2(特許法29条の2違反)について審決が認定した先願発明(特開2004-97063号公報(特願2002-261947号,甲2)に記載された発明)及び本件発明1と先願発明との対比判断は,以下のとおりである(分説記号は裁判所が付した。)。 ア先願発明「a’:焼き網に載置して焼き上げて食する輪廓形状が方形の小片餅体である切餅のb’:立直側面ではなくこの小片餅体の上 は,以下のとおりである(分説記号は裁判所が付した。)。 ア先願発明「a’:焼き網に載置して焼き上げて食する輪廓形状が方形の小片餅体である切餅のb’:立直側面ではなくこの小片餅体の上側表面部及び下側表面部に切り込み部を設け,c’:この切り込み部は,上側表面部及び下側表面部の対向二面に形成した切り込み部として,d’:焼き上げるに際して前記切り込み部から断続的に内部の蒸気が抜けることにより,ほぼ立方体の形に保持されたまま膨れるように構成したe’:ことを特徴とする切餅。」イ本件発明1と先願発明との対比判断「本願発明1と先願発明を対比すると,前者が「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に」「切り込み部又は溝部を設け」(構成要件B)ているのに対して,後者は「立直側面ではなくこの小片餅体の上側表面部及び下側表面部に切り込み部を設け」(構成要件b’)ている点で少なくとも相違する。」- 8 -「本件特許請求の範囲には,「焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の」(構成要件A)と記載され,「載置」は,焼き網上に載置することであるから,「載置底面」は,餅の面の内,焼き網に接する面といえる。また,本件明細書には,「本発明は,例えば個包装されるなどして販売される角形の切餅に関するものである。」(段落【0001】)と記載されており,通常,切り餅を焼く際には,面積の広い面を焼き網に載せることから,「載置底面」は,この面積の広い面とするのが相当であって,「平坦上面」が「載置底面」の対向面であることも明らかである。さらに,「立直側面である側周表面」は,図1の2Aで示される,「載置底面」及び「平坦上面」以外の面であるといえるから,「載置底面又は平坦上面」 上面」が「載置底面」の対向面であることも明らかである。さらに,「立直側面である側周表面」は,図1の2Aで示される,「載置底面」及び「平坦上面」以外の面であるといえるから,「載置底面又は平坦上面」,「立直側面である側周表面」が自ずと特定される。そして,本件発明1は,「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に」「切り込み部又は溝部を設け」(構成要件B)ている。 一方,先願発明は,「厚みの40~60%を残すように前記切餅の上下面から切込みを入れたことを特徴とする切餅」(摘記2a)であって,「切込み3から断続的に内部の蒸気が抜けやすいので,図3(A)に示すように,ほぼ立方体の形に保持されたまま膨れ」(摘記2f,2i),「形状,焦げ目などの外観が非常に優れた状態に仕上げることができ,焼いた後であっても切込みから簡単に分割でき」(摘記2h)ることが記載されている。 してみると,本件発明1において「切り込み部又は溝部」を「立直側面である側周表面」に設けたのに対して,先願発明では「切り込み部」を本件発明1の「平坦上面」に相当する「上側表面部」および「載置底面」に相当する「下側表面部」に設けている。そのような構成要件Bおよび構成要件b’における構成の相違に基づいて,前者が「焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように」(構成要件D)作用するのに対して,後者は「焼き上げるに際して前記- 9 -切り込み部から断続的に内部の蒸気が抜けることにより,ほぼ立方体の形に保持されたまま膨れるように」(構成要件d’,摘記2f,2i)作用しており,両者の て,後者は「焼き上げるに際して前記- 9 -切り込み部から断続的に内部の蒸気が抜けることにより,ほぼ立方体の形に保持されたまま膨れるように」(構成要件d’,摘記2f,2i)作用しており,両者の間には作用効果において明らかな相違が生じている。」「したがって,構成要件Dおよび構成要件d’における相違を考慮しつつ,構成要件Bおよび構成要件b’における相違の有無を判断すれば,請求人が主張するように当該相違が「表現上の違いにすぎない」と判断することはできない。よって,他の構成要件を検討するまでもなく,本件発明1は,先願発明と同一とはいえない。」「本件発明2は,本件発明1を引用する発明であって,その構成要件中に構成要件BおよびDを含むものであるから,上記(2)に記載したとおり,他の構成要件を検討するまでもなく,本件発明2は,先願発明と同一とは言えない。」 第3 原告主張の審決取消事由 1 取消理由1(特許法39条2項の判断の誤り)(1) 要旨認定及び相違点3の認定の誤りア発明の要旨認定を誤った違法があること審決は,分割発明及び本件発明が「切り込み部」に係る部分と「溝部」に係る部分とに分けられ,かつ,そのいずれか一方を選択すればよいものであることを看過し,形成方法による特定の及ぶ範囲を誤って「溝部」にまで及ばせた結果,分割発明及び本件発明の要旨を誤って認定した違法がある。 (ア)分割発明について審決は,分割発明を,「分割発明の切り込み部又は溝部が刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成している」と認定している。 しかし,「分割発明の・・・溝部」は「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成している」ものではない。 まず,分割発明にいう「切り込み部 形成している」と認定している。 しかし,「分割発明の・・・溝部」は「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成している」ものではない。 まず,分割発明にいう「切り込み部」との語及び「溝部」との語につき,分割発明に係る明細書(甲1。以下「分割明細書」という。)において通常と異なる意味- 10 -に用いるために特定の意味に定義されているとの事情は存しない。 そして,通常,「切り込み」とは,「切り込むこと」との意味を有するところ,「切り込む」とは,「物の中に刃物を深く入れて切る。」(甲14),「刃物で深く切る。」(甲15)との意味を有する。これに対し,「溝」とは「一般に,細長くくぼんだところ」との意味を有するところ(甲16),「くぼむ」とは「一部分が落ちこんで低くなる。へこむ。」(甲17)との意味を有する。そうすると,「切り込み部」とは「物の中に刃物を深く入れてなる部分」をいい,「溝部」とは「細長くへこませてなる部分」をいうのが相当であるところ,このように「切り込み部」と「溝部」とは,その形成のされ方により明確に区別されるものである。 してみると,分割発明は,それぞれ別の概念である「切り込み部」との語と「溝部」との語とを「又は」との語により接続してなる事項により特定されるものであるから,「切り込み部」に係る部分と「溝部」に係る部分とに分けることができ,かつ,そのいずれか一方を選択すればよいものである。 そうすると,分割発明にいう「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成した」との事項による限定は,分割発明を特定する事項のうち,「切り込み部」に係る部分にのみ及び,「溝部」に係る部分には及ぶことがないから,溝部の形成方法が特定されていないことが明らかである。 分割明細書は,「切 よる限定は,分割発明を特定する事項のうち,「切り込み部」に係る部分にのみ及び,「溝部」に係る部分には及ぶことがないから,溝部の形成方法が特定されていないことが明らかである。 分割明細書は,「切り込み部3又や溝部(以下,単に切り込み3という)」(【0017】)と定義した後であるにもかかわらず,実施例の記載の冒頭では,あえて「切り込み部」(【0027】)という語を明記しており,これを受けて,「即ち・・・切り込み3を形成している。」(【0028】)と言い換えているから,実施例は,【0017】とは異なり,「溝部」を含まない「切り込み部」を前提とする記載であり,また,分割明細書の【符号の説明】には,「切り込み部(切り込み)」についての記載であることを明記しており,これを受けた実施例には,「切り込み3に代えて溝部としても良い」(【0034】)と記載されているから,同じく実施例における,刃板により切り込みを形成する旨の記載(【0031】,【003- 11 -2】)は,当然に「切り込み部」の形成方法について述べられたもので,分割明細書には,「溝部」を刃板により形成することは記載されていない。 (イ)本件発明1について本件発明1についても,審決が「切り込み部」と「溝部」とを区別していない点で発明の要旨認定を誤っていることは,前記(ア)と同様である。 イ一致点・相違点の認定を誤った違法があること上記のとおり,分割発明は,「切り込み部」に係る部分と「溝部」に係る部分とに分けられ,かつ,そのいずれも含むものである。 ここで,分割発明における「溝部」は,「溝部が刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成している」ものではないから,「溝部の形成方法が特定されていない」ことが明らかである。 してみると, おける「溝部」は,「溝部が刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成している」ものではないから,「溝部の形成方法が特定されていない」ことが明らかである。 してみると,分割発明と本件発明1とは,「溝部」に係る部分において,「形成方法が特定されていない点」において一致し,この限りにおいて相違点は存しない。 しかるに,審決は,分割発明のうち「溝部」に係る部分と本件発明1のうち「溝部」に係る部分との一致点を看過した結果,「相違点3」を誤って相違点として認定した違法がある。 (2) 相違点1及び2についての判断の遺脱審決は,「相違点1ないし3をまとめて検討する」にとどまり,相違点に係る構成,すなわち,「相違点1」又は「相違点2」のそれぞれについて実質的な検討をしていないが,相違点に係る構成について検討することは,本件発明1と分割発明とが同一であるか否かの判断に影響を与えるものであり,かつ,本件発明1と分割発明とが同一であることを基礎付けるものであるから,この違法は,審決を取り消すべき事由である。 (3) 審決には同一性に関する判断における違法があることア明細書上相違点が見当たらないこと(ア)分割発明と本件発明1は同一であること- 12 -本件明細書から,切り込み部等の形状が直線状(広大面と平行な直線状)でない場合や「長辺部の立直側面の双方に夫々長さいっぱいに形成」されていない場合もあり得るということを読み取ることはできない。また,分割発明は「溝部」について何らの特定もされていないから,「溝部」について特定されていない本件発明1と同一である。そして,「切り込み部」については「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成」する以外の開示も示唆もない。 ら,「溝部」について特定されていない本件発明1と同一である。そして,「切り込み部」については「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成」する以外の開示も示唆もない。 逆に,本件明細書では,【図3】のみが明示されており,本件発明1について「刃板5によって切り込み3を形成する」という分割発明の構成を当然の前提として説明がなされている。 そうすると,分割発明は,本件発明1では特定されていないが選択の余地のない構成について,それを明確にしたにすぎないものであるから,分割発明と本件発明1は同一である。 (イ)分割発明と本件発明1は実質的に同一であること仮に,本件明細書には,広大面と平行な「直線状」であること,「長さいっぱいに」形成するものであること,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成」するものであること以外の技術事項の示唆があると仮定しても,本件発明1は,上記の限定がないのに対して,分割発明は,上記の点(すなわち相違点1~3)について明確化,具体化をしたものにすぎず,両者は実質的に同一である。 a 「相違点1」は実質的な相違点でないこと仮に,本件発明1にいう「載置底面又は平坦上面」が分割発明にいう「広大面」に対応するとした場合,分割発明の構成要件g及び本件発明1の構成要件Bにいう「この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する・・・切り込み部又は溝部」は,「周方向に長さを有する」ものである限り,「広大面と平行な直線状」となるほかなく,分割発明と本件発明1とにおいて,かかる「切り込み部又は溝部」が「広大面と平行な直線状」であることが付記されているか否かは,表- 13 -現上の差異にすぎない。 よって,「相違点1」は実質的な相違点では 本件発明1とにおいて,かかる「切り込み部又は溝部」が「広大面と平行な直線状」であることが付記されているか否かは,表- 13 -現上の差異にすぎない。 よって,「相違点1」は実質的な相違点ではない。 b 「相違点2」は実質的な相違点でないこと「切り込み又は溝部」の位置について,分割発明においては,「長辺部」の立直側面の双方に夫々形成したものであるのに対し,本件発明1においては,立直側面である側周表面の対向二側面に形成したものである点は,実質的な相違点たり得ない。なぜなら,本件発明1にいう「立直側面である側周表面の対向二側面」とは,「方形の小片餅体である切餅の・・・立直側面である側周表面の対向二側面」をいうところ,上記のとおり,「載置底面又は平坦上面」は分割発明にいう「広大面」に対応するものとした場合,実質的には「立直側面である側周表面の対向二側面」とは,長辺部の立直側面の対向二側面又は短辺部の立直側面の対向二側面を意味することになり,本件発明1のうち「立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部」に係る部分と分割発明とは,その「切り込み部又は溝部」の位置を同じくすることになるからである。 「切り込み部又は溝部」の長さにおいて,分割発明において「長さいっぱいに形成している」ことを明記している点も,実質的な相違点とはいえない。なぜなら,切り込みを刃物で形成する場合,表面全体に形成するのが通常であることは,先願発明に係る図面(甲2)などからも明らかだからである。 また,特開昭50-145558号公報(甲9)等において,直方体の相対する一対の表面であって,長辺からなるものに,長手方向に長辺と等しい長さの切り込みを形成すること等が開示されていることからすれば,切り込みを刃物で形成する場合,長辺と等しい長 において,直方体の相対する一対の表面であって,長辺からなるものに,長手方向に長辺と等しい長さの切り込みを形成すること等が開示されていることからすれば,切り込みを刃物で形成する場合,長辺と等しい長さにこれを形成することは,単なる「周知技術,慣用技術」にほかならない。 とすれば,「相違点2」も実質的な相違点ではない。 本件発明1と分割発明とは,上位概念,下位概念の関係にあるのではなく,本件発明1は,相違点2に係る構成について「事実上の選択肢」を有するものであって,- 14 -特許・実用新案審査基準にいう「発明を特定するための事項が二以上の選択肢を有する場合」に該当するものであり,本件発明1と分割発明は同一である。 c 「相違点3」は実質的な相違点でないこと相違点3については,分割発明のうち「溝部」に係る部分と本件発明1のうち「溝部」に係る部分とが一致しているのであるから,相違点とはなり得ない。 本件発明1で記載されている「切り込み部・・・を設け」るとは,「切り込みを入れる動作」を行うことにほかならず,「刃板」を「小片餅体」に相対的移動することは,かかる動作それ自体であり,実質的に同一である。 この点,審決は「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動する」ことは切り込み部等を設けることを「別の表現で述べている」わけではないとするが,誤りである。 したがって,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動すること」は「切り込み」を限定したことにならない。 (ウ)小括以上のとおり,分割発明は,本件発明1では特定されていない構成について,それを明確化,具体化したにすぎないものであるから,本件発明1と分割発明とは実質的な相違点はなく,両者は同一である。 イ特段の作用効果は存 明は,本件発明1では特定されていない構成について,それを明確化,具体化したにすぎないものであるから,本件発明1と分割発明とは実質的な相違点はなく,両者は同一である。 イ特段の作用効果は存在しないこと相違点1及び2については,本件明細書に,広大面と平行な「直線状」「長さいっぱいに」形成以外の技術事項の示唆があると仮定しても,切り込み部又は溝部の形状を明確化,具体化したものにすぎず,格別の作用効果を奏するものでもないことは明らかである。そもそも何らの効果を奏する旨の記載さえもないのであり,切り込み部等の形状いかんにかかわらず,作用効果は変わらない。 相違点3については,「溝部」に関しては相違点たりえず,「切り込み部」に関してのみ,本件明細書に,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動する」場合以外の示唆があると仮定しても,作用効果において変わりがない。 - 15 -すなわち,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動する」とは,「切り込み部」を形成するための日常的かつ典型的な方法である。「切り込み部」を形成するための日常的かつ典型的な方法を明確化したからといって,格別の作用効果を奏するものでもない。 分割発明の「量産性に一層秀れる」との効果は,分割明細書の文脈を考慮して読めば,「切り込み部又は溝部」を「四面全てに連続させて形成して四角環状とする場合に比して」(【0031】)のものであるから,本件発明1のうち「この切り込み部又は溝部は,・・・前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として」との事項に係る部分に比して「量産性に一層秀れる」との効果を奏することはない。いい換えれば,分割発明の奏する効果は,本件発明のうち「この切り込み部又は溝部は,・・・前記立直側面である 又は溝部として」との事項に係る部分に比して「量産性に一層秀れる」との効果を奏することはない。いい換えれば,分割発明の奏する効果は,本件発明のうち「この切り込み部又は溝部は,・・・前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として」との事項に係る部分の奏する効果と同一のものであるから,分割発明が,本件発明では得られない新たな効果を奏するということはできない。 本件発明1と分割発明は,いずれも,側周表面に切り込みを設けた餅という全く同一の構成を有する物の発明であり,また,分割発明は,当初,本件発明1では特定されていなかった載置態様を特定するため,「最も面積の大きい対向する広大面の一方を載置底面他方を上面とする」「偏平方形体の切餅」等と,あえて限定を加えて出願された経緯が存する(甲20)が,審決がいうように,本件発明1において,「載置底面又は平坦上面」,「立直側面である側周表面」が自ずと特定されるのであれば,本件発明1と分割発明とは実質的に同一である。 ウまとめ以上より,分割発明と本件発明1の実質的な相違点は認められず,本件発明1と分割発明とは同一であるから,審決は,特許法39条2項違反を否定した点において誤りがある。 2 取消理由2(特許法29条の2の判断の誤り)- 16 -(1) 構成要件Bを相違点として言及している点において誤っていることア構成要件Bを相違点として言及すること自体背理であること審決は,本件発明1と先願発明との相違点として,「構成要件Bおよび構成要件b’における構成の相違」に言及するが,背理である。けだし,本件発明1は,「先願発明と同一」であるとする特許法29条の2違反の拒絶査定を免れるために構成要件Dが付加されたからであり(減縮補正)(その経緯は包袋から 成の相違」に言及するが,背理である。けだし,本件発明1は,「先願発明と同一」であるとする特許法29条の2違反の拒絶査定を免れるために構成要件Dが付加されたからであり(減縮補正)(その経緯は包袋から明らかである。),構成要件Bを含め,他の構成は,先願発明と同一であることが当然の前提とされていたからである。 本件発明1は「物の発明」であって,上下面の切り込みも側周側面の切り込みも焼き上げる際の位置の問題にすぎず,切餅の表面に切り込みを設けるという周知技術について,先願発明と切り込みを設ける部位を変えただけのものであり,切り込みを設ける部位を変えても,両者の奏する作用効果に相違がないから,構成要件Bと構成要件b’は同一である。実際,あられやおかきなどは様々な形状を有し,餅の側面に切り込みのあるものも存在していた(甲6~9)。かかる従来技術の一つとして先願発明が存在する。 イ構成要件Bと構成要件Dの判断の矛盾審決は,上記「構成の相違」を論じるために,別件審決と同様,本件発明1の構成要件Bの上記クレーム文言は,(「通常」でない焼き方や,他の構成要件を考慮するまでもなく)それ自体として1つの載置態様に「自ずと特定され」て明確であると判断している。 しかし,他方で,審決は,構成要件Dについては,あえて「通常でない焼き方をすることを排除」する必要性を指摘して,3つの載置態様が存在することを前提に,「構成要件Dの存在によって『平坦上面』『載置底面』『立直側面である側周表面』が一義的に決定される」などと述べて,載置態様が特定されるのは,構成要件Bではなく,構成要件Dによってであるとしており,明らかに矛盾した論理判断である。 ウ要旨認定における構成要件Bの解釈の誤り- 17 -審決が,「通常,切り餅を焼く際には,面積の広 件Bではなく,構成要件Dによってであるとしており,明らかに矛盾した論理判断である。 ウ要旨認定における構成要件Bの解釈の誤り- 17 -審決が,「通常,切り餅を焼く際には,面積の広い面を焼き網に載せること」と述べる以上,例外もあり,サイコロ状の切餅もあり得る(甲21)。また,分割発明の切餅においては,「偏平方形体の切餅」であり「最も面積の大きい対向する広大面の一方を載置底面他方を上面とする」等と,被告自ら切餅の載置態様を発明特定事項としているのに対し,本件発明1においては(「方形」とのみ記載され)そのような限定をしていない。 エ 「輪郭形状が方形の小片餅体」に関する判断遺脱審判体は,本件無効審判手続の口頭審理に先立って,平成25年6月11日付け審理事項通知書(甲24)における審判体の暫定的な見解として,切餅の形状について,「一般の家庭において『焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅』であれば,立方体のものはな」いとし,また,かかる認定を前提として「焼き網に載置する面を『載置底面』,この面と対向する面を『平坦上面』として,本件特許発明の『切り込み部又は溝部』を入れる『立直側面である側周表面』が一義的に決定される,と当審は考える。」と述べ,この見解に対する請求人(原告)の意見を問い,従前の原告の主張は「撤回されてしかるべきなのか,を述べてください。」と記載されていた。これに対して,原告は,口頭審理陳述要領書(甲25)において主張を撤回すべき理由はないと記載するとともに,「一般に流通する餅の形状としては偏平な直方体の餅が多いと思われるが,『方形の小片餅体である切餅』(構成要件A)としてはサイコロ状の餅やスティック状の餅も存在するのであって,本件発明は,請求項の記載上,そのような餅も含む 状としては偏平な直方体の餅が多いと思われるが,『方形の小片餅体である切餅』(構成要件A)としてはサイコロ状の餅やスティック状の餅も存在するのであって,本件発明は,請求項の記載上,そのような餅も含むものとしているのである。」,「本件発明の切餅が『方形』の一般的な意味に含まれる,サイコロ形状やスティック形状,又はこれに近い形状の場合には,分割発明のように『最も面積の大きい対向する広大面の一方を載置底面』とすべき必然性はなく,六面体のいずれの面も『載置底面』となり得るものである。」と主張した。 ところが,審決は,上記原告の主張に対する当否の判断をしていない。審判体が審理事項通知書において原告の意見を問うたのは,この争点が本件発明の有効無効- 18 -に決定的な影響を与えるものだからであり,出願段階で既に争点となっていたからである。審判体が審理事項通知書において原告の意見を問う以上,原告の主張の当否を判断しなければならないのは当然である。審決は上記争点に関して判断を遺脱したものである。 (2) 構成要件Dについて相違点を認めている点において誤っていることア物の構成自体は同一であること審決は,「構成要件D及び構成要件d’における相違を考慮し」て,本件発明1は「先願発明と同一とは言えない」と述べる。 しかし,「物の発明」の構成に着目する限り,両者の構成自体は同一である。けだし,先願発明は「切り込みを入れた」「切り餅」という構成を開示しているところ,「餅のどの面を載置底面にしても焼くことができるのだから,この引用例の餅の上下面は,焼くに際しての側面にもなり得る」(甲5の1)からである。 イ構成要件Dは特異な構成ではないこと審決は,構成要件Dの意義について,別件審決を引用し,「構成要件Dの付加により,側面が載 ,焼くに際しての側面にもなり得る」(甲5の1)からである。 イ構成要件Dは特異な構成ではないこと審決は,構成要件Dの意義について,別件審決を引用し,「構成要件Dの付加により,側面が載置底面にならないことを明りょうにしたこと,所定位置,つまり載置底面とならない側面の切り込みによって,側面を載置底面とした場合には生じない焼き上がりを特定したと解すのが相当である。以上のとおり,構成要件Dは,これにより先願との差別化を積極的に図るための特異な構成ではなく,審査官が指摘した切餅の側面を載置底面とするという,通常でない焼き方をすることを排除しようとして付加した構成である」,「自然法則から極自然に考えられること」であると判断した。 しかし,先願発明については,載置態様は限定されておらず,「切り込みを入れた」「切り餅」という構成においては,そもそも本件発明1と先願発明には相違は存しない。とすれば,本件発明1の構成要件Dにおいて,かかる先願発明とは異なる,本件発明1特有の構成及び技術的意義がなければ,先願発明とは差別化が図れず,特許性を認められないことは明らかである。にもかかわらず,審決は,上記の- 19 -ように「構成要件Dは,これにより先願との差別化を積極的に図るための特異な構成ではなく」「自然法則から極自然に考えられる」と自認している以上,本件発明1は,先願発明と同一であり,特許法29条の2に違反する。 ウまとめ本件発明1は,構成のみならず,作用効果においても,パブリック・ドメインの技術と違いがなく,新しい技術を何ら公開するものではない以上,このような発明に特許権を与えることは,新しい発明の公表の代償として発明を保護しようとする特許制度からみて妥当ではない。 審決は,「構成要件D及び構成要件d’」の認定判断を誤 るものではない以上,このような発明に特許権を与えることは,新しい発明の公表の代償として発明を保護しようとする特許制度からみて妥当ではない。 審決は,「構成要件D及び構成要件d’」の認定判断を誤り,相違点を認めた点で誤りがある。 第4 被告の反論被告は,原告主張の取消事由2ないし5について,以下のとおり反論する(取消事由1については取消事由2ないし5について反論する中で反論する。)。 1 取消理由1(特許法39条2項の判断の誤り)に対して(1) 特許法39条2項の解釈についてア同一人に帰属する2つの発明においては,協議命令が発せられない限り,特許法39条2項に該当することはない仮に,同一発明で同一人に帰属している場合において特許法39条2項の適用があるとしても,特許法39条2項は,「協議が成立せず,又は協議をすることができないときは」いずれの発明も特許を受けることができないと定めている。ここにいう,「協議が成立せず」とは,協議の機会が与えられたにも拘らず,協議が整わなかったことを意味するのであり,本件では審査の過程で協議命令が発せられておらず,協議の機会がなかったために,「協議が成立せず」の要件を満たさない。 また,本件では,出願人が同一人物なので,「協議」の機会さえあれば,協議が整わないことはあり得ないので,協議不成立となる余地がない。 - 20 -さらに,「協議をすることができないとき」とは,相手が協議に応じない,一方が既に拒絶査定を受けて確定している,あるいは,一方が既に特許されている等の理由で協議をすることができない場合であり,協議命令がないことによって協議の機会がないまま双方特許権が付与されている場合には,「協議をすることができないとき」には該当しない。 したがって,本件が「協 で協議をすることができない場合であり,協議命令がないことによって協議の機会がないまま双方特許権が付与されている場合には,「協議をすることができないとき」には該当しない。 したがって,本件が「協議をすることができないとき」にも該当しないことは明らかである。 イ親特許である本件特許は,分割発明と同一であるという理由で特許法39条2項違反とはならない原出願の請求項に係る発明と同一又は実質同一の範囲内の発明を含む分割出願が,特許法39条2項により拒絶理由があり,又は,無効理由があるとしても,分割出願の請求項に係る発明と原出願の請求項に係る発明とが同一又は実質同一であるという理由で,原出願に特許法39条2項の規定に違反する拒絶理由があり,又は,無効理由があるということにはならない。現行法下においては,原出願に係る発明と分割出願に係る発明とが同一である場合において,分割出願について出願日の遡及を認めず,又は,認めるとしても,分割出願にのみ特許法39条2項違反の拒絶理由又は無効理由があるというべきである。 したがって,原出願に係る特許発明である本件発明については,分割出願に係る発明である分割発明と同一ないし実質同一であるとしても,特許法39条2項の適用はない。 ウ本件特許に関しては,特許法39条2項の規定に違反して登録されたものではない本件のように,A発明とB発明が同日に出願され,A発明が登録となった後,B発明が補正によってA発明と同一又は実質的に同一の発明となった場合(更にB発明も登録に至った場合),A発明の出願人は,既にB発明の出願人と協議することができないにもかかわらず,後発的に無効となり明らかに不合理である。A発明の- 21 -登録後にB発明が補正により同一となったような場合には,B発明について特許法 既にB発明の出願人と協議することができないにもかかわらず,後発的に無効となり明らかに不合理である。A発明の- 21 -登録後にB発明が補正により同一となったような場合には,B発明について特許法39条2項の規定に違反しているか否かは別論として,A発明については,そもそも登録に至るまで特許法39条2項の規定に違反する事実は認められないのであるから,同条同項違反はなかったとみるべきである。 本件において,分割発明は,平成22年5月14日付け手続補正書(甲101の3)により補正された特許請求の範囲請求項2の記載であるところ,その補正より前の平成20年4月18日に本件特許は登録に至っている。そうすると,仮に本件発明と分割発明が同一であったとしても,本件発明は,登録に至るまで特許法39条2項の拒絶理由はなかったのであるから,本件特許は,特許法123条1項2号に該当せず,特許無効審判により無効にされるべきものに該当しない。 (2) 発明の要旨認定について原告は,分割発明の「切り込み部」とは「物の中に刃物を深く入れてなる部分」であり,「溝部」とは「細長くへこませてなる部分」をいうとし,分割発明の「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成した」との事項による限定は,分割発明を特定する事項のうち,「切り込み部」に係る部分にのみ及び,「溝部」に係る部分には及ばないと主張する。 しかし,原告の「溝部」の定義を前提としても,「溝部」を刃板により形成することを排除する趣旨は読み取れない。 むしろ,分割明細書では,「切り込み部3又や溝部」を「以下,単に切り込み3という」として総称した上で(【0017】),この「切り込み3」(=切り込み3又は溝部)を刃板により形成することを記載している(【0031】,【0032】)。 部3又や溝部」を「以下,単に切り込み3という」として総称した上で(【0017】),この「切り込み3」(=切り込み3又は溝部)を刃板により形成することを記載している(【0031】,【0032】)。すなわち,溝部についても,刃板に対して小片餅体を長辺部長さ方向に相対移動することで形成することが記載されている。 また,当業者であれば,刃板によって原告の主張するような定義の「溝部」を形成する場合に,刃板の形状を適宜変更することが可能であり,その観点からも,「溝部」を刃板によって形成できないというものではない。 - 22 -したがって,原告の上記主張は理由がなく,これを前提として審決が一致点及び相違点の認定を誤ったとする原告の主張もまた理由がない。 (3) 相違点の判断の遺脱との原告の主張について原告は,審決が相違点1及び相違点2について実質的な検討をしていないと主張する。 しかし,審決は,「相違点相互の関連性から相違点1ないし3をまとめて検討する」としており,相違点1及び相違点2に関する検討をしている。したがって,原告の主張は失当である。 (4) 相違点の判断についてア本件発明と分割発明の同一性について本件発明1の構成要件Cと分割発明の構成要件hは,少なくとも審決の認定する相違点1ないし3において相違する。 そして,分割発明は,上記相違点1ないし3によって,切り込み部の形状や形成位置,更にはその形成方法を特定することで,本件発明と同様の作用効果を発揮するとともに,刃板に対して小片餅体を長辺部長さ方向に相対移動するだけで小片餅体の両側の両辺部の立直側面に周方向に十分な長さを有する切り込み部又は溝部を簡単に形成でき,量産性に一層秀れるという作用効果をもたらすものである(【0031】【0032】)。 移動するだけで小片餅体の両側の両辺部の立直側面に周方向に十分な長さを有する切り込み部又は溝部を簡単に形成でき,量産性に一層秀れるという作用効果をもたらすものである(【0031】【0032】)。 以上のように,分割発明は,本件発明1に対して切り込みの位置・形状,更には形成方法を特定して,いわゆる下位概念化を図ることで,この本件発明1とは同一発明とならないようにして,登録に至ったものである(甲101の1~3,甲102)。また,上記相違点に係る構成によって,加熱時の突発的な膨化による噴き出しの抑制等に加えて,量産性の確保という解決課題に対して,技術的な観点から寄与していることは明らかであって,本件発明1と分割発明とは同一ではない。 したがって,本件発明1を先願とし,分割発明を後願としたときには,分割発明が本件発明1と同一とされないことは明らかであり,審決に誤りはない。 - 23 -そして,本件発明2は,本件発明1を引用する発明であって,その構成要件中に構成要件Cを含むものであるから,他の構成要件の対比を行うまでもなく,本件発明2と分割発明は同一ではない。 イ相違点1について原告は,相違点1について,分割発明の構成要件g及び本件発明1の構成要件Bにいう「この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する・・・切り込み部又は溝部」は,「周方向に長さを有する」ものである限り,「広大面と平行な直線状」となるほかないと主張する。 しかし,本件発明1の特許請求の範囲の記載には,切り込み部又は溝部が立直側面に沿う周方向で,かつ,広大面と平行な直線状であることについて特定されておらず,原告の主張は理由がない。 ウ相違点2について原告は,相違点2について,切り込みを刃物で形成する場合,表面全体に形成するの つ,広大面と平行な直線状であることについて特定されておらず,原告の主張は理由がない。 ウ相違点2について原告は,相違点2について,切り込みを刃物で形成する場合,表面全体に形成するのが通常であり,周知技術,慣用技術であると主張する。 しかし,原告は,分割発明が本件発明1に含まれるということを主張するにすぎず,分割発明は,本件発明1に対して切り込みの位置・形状,更には形成方法を特定して,いわゆる下位概念化を図ったものであって,分割発明が本件発明1に含まれるとしても特許法39条2項に違反しているということにはならない。 本件明細書では,【0030】に,本件発明1は,本実施例に限られるものではないことが記載されているとともに,【0013】に,切り込み部又は溝部の長さは短くても複数配置される例も記載されており,四辺の立直側面のうちの対向二側面である長辺部の立直側面の双方に夫々長さいっぱいに形成する場合に限られない。 また,本件発明1の「焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面」に膨化による外部への噴き出しを防止するために切り込み部- 24 -又は溝部を設けることは,原告が無効審判において提出した証拠(甲2,甲6~12)に開示されておらず,相違点2が,「通常」であるとか,「周知技術,慣用技術」であるということもない。 したがって,原告の主張は理由がない。 エ相違点3について原告は,切り込みが刃板で形成されていることは明らかであると主張するが,審決も認定するとおり,分割発明は,本件発明1における各種の「切り込み部又は溝部」の形成方法の中から,相違点3に係る形成方法に限定するものであり(【0031】),相 ことは明らかであると主張するが,審決も認定するとおり,分割発明は,本件発明1における各種の「切り込み部又は溝部」の形成方法の中から,相違点3に係る形成方法に限定するものであり(【0031】),相違点1ないし3が協働して作用することによって,形成方法に限定のない本件発明1では得られない新たな効果を奏するものであって,実質的に同一であるとはいえない。 したがって,原告の主張は理由がない。 オ分割発明の作用効果について分割発明は,相違点1ないし3によって,切り込み部の形状や形成位置,更にはその形成方法を特定することで,本件発明と同様の作用効果を発揮するとともに,刃板に対して小片餅体を長辺部長さ方向に相対移動するだけで小片餅体の両側の両辺部の立直側面に周方向に十分な長さを有する切り込み部又は溝部を簡単に形成でき,量産性に一層秀れるという作用効果をもたらすものであって,分割発明は,加熱時の突発的な膨化による噴き出しの抑制等に加えて,量産性の確保という解決課題に対して,技術的な観点から寄与していることは明らかであって,本件発明と分割発明は同一ではない。 また,原告は,相違点1ないし3として指摘する点はすべて本件発明1に包含されていると主張する。しかし,かかる原告の主張は,分割発明が,本件発明1を下位概念化したものであることを述べているにすぎず,本件発明1が特許法39条2項に違反することの理由とはならない。 (5) まとめ- 25 -以上のとおり,特許法39条2項の適用に関して審決に誤りはなく,原告の主張はいずれも理由がない。 2 取消理由2(特許法29条の2の判断の誤り)に対して(1) 本件発明1と先願発明の対比審決も認定するとおり,本件発明1と先願発明を対比すると,前者が「載置底面又は平坦上面で い。 2 取消理由2(特許法29条の2の判断の誤り)に対して(1) 本件発明1と先願発明の対比審決も認定するとおり,本件発明1と先願発明を対比すると,前者が「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に」「切り込み部又は溝部を設け」(構成要件B)ているのに対して,後者は「立直側面ではなくこの小片餅体の上側表面部及び下側表面部に切り込み部を設け」(構成要件b’)ている点で少なくとも相違する。そして,そのような構成要件B及び構成要件b’における構成の相違に基づいて,前者が「焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように」(構成要件D)作用するのに対して,後者は「焼き上げるに際して前記切り込み部から断続的に内部の蒸気が抜けることにより,ほぼ立方体の形に保持されたまま膨れるように」(構成要件d’)作用しており,両者の間には作用効果において明らかな相違が生じている。 したがって,本件発明1と先願発明とが同一ではないことは明らかである。 また,本件発明2は,本件発明1を引用する発明であって,その構成要件中に構成要件B及びDを含むものであるから,上記のとおり,他の構成要件を検討するまでもなく,本件発明2は,先願発明と同一とはいえないことも明らかである。 (2) 構成要件Bについてア原告は,本件発明1は先願発明と同一であるとする特許法29条の2違反の拒絶査定を免れるために構成要件Dが付加されたとして,構成要件Bを含め他の構成は,先願発明と同一であることが当然の前提であったと主張する。また,原告は,構成要件Bにより1 する特許法29条の2違反の拒絶査定を免れるために構成要件Dが付加されたとして,構成要件Bを含め他の構成は,先願発明と同一であることが当然の前提であったと主張する。また,原告は,構成要件Bにより1つの載置態様に自ずと特定されるとする審決の判断と,構成要件Dによって「平坦上面」「載置底面」「立直側面である側周方面」が一義- 26 -的に決定されるとの判断が矛盾すると主張する。 しかし,審査及び審判における経緯(甲4,甲5の1,甲21,乙2,甲23)によれば,審査官が,先願発明に係る切餅の側面を載置底面とすれば,本件発明と先願発明とは同一である旨指摘したことに対して,被告としては,先願発明に係る切餅の側面を載置底面とすることは想定不可能であるが,念のために,更に構成要件Dを特定することにより,本件発明において,切餅の「側周表面」が「載置底面」とはならないことを,構成要件Bに重ねて特定したものと認められる。以上のとおり「載置底面」が,構成要件Dにより初めて明確に特定されたものではなく,原告が主張するように構成要件Bを含め他の構成は先願発明と同一であるとか,また,審決の構成要件BとDに関する判断が矛盾するということはなく,原告の主張は失当である。 原告は,甲6ないし甲9を根拠に,あられやおかきなどは様々な形状を有し,餅の側面に切り込みのあるものも存在していたとして,これを根拠に,構成要件Bと構成要件b’が同一であると主張する。 しかし,甲6ないし甲9は,切り込み部を設ける位置やその作用効果において本件発明とは異なっており,甲6ないし甲9を根拠に,構成要件Bが技術常識であるということはできない。 イ原告は,審決が「通常,切り餅を焼く際には,面積の広い面を焼き網に載せることから,「載置底面」は,この面積の広い面とするのが相当」 拠に,構成要件Bが技術常識であるということはできない。 イ原告は,審決が「通常,切り餅を焼く際には,面積の広い面を焼き網に載せることから,「載置底面」は,この面積の広い面とするのが相当」であると判断したことに対して,例外もあると主張し,構成要件Bに関する要旨認定が誤りであると主張する。 しかし,本件発明は,輪郭形状が方形の小片餅体である切餅に関するものであり,この切餅は,焼き網に載置して焼き上げて食するものであるところ,切餅を焼き網に載置する際には,切餅の最も面積の広い面を焼き網に載置すること,すなわち,載置底面とすることは通常のことである。また,本件明細書(【0015】)及び図1~3 においても,切餅の最も面積の広い面を載置底面とすることを前提として- 27 -いる。そうすると,本件明細書の記載及び技術常識(一般常識)も参酌すれば,本件発明における切餅の「載置底面」は,切餅の最も面積の広い面を意味するものであって,構成要件Bの要旨認定において誤りはない。 仮に,切餅の側周表面等を例外的に焼き網に載置することが技術的に可能であるとしても,このような技術常識(一般常識)に反した例外的な載置方法を前提として,本件発明と先願発明の同一性を判断することはできないことは明らかである。 したがって,原告の主張は失当である。 ウ原告は,本件発明1は,構成要件Bの解釈において載置態様が定まるのであれば,分割発明と同一であり,審決の判断は矛盾していると主張する。 しかし,本件発明1の構成要件B及び分割発明の構成要件hにおいて相違しており,本件発明1と分割発明は同一ではないのであって,審決の判断に矛盾はない。 (3) 構成要件Dについて原告は,審決が「構成要件Dは,これにより先願との差別化を積極的に図るための特異な おり,本件発明1と分割発明は同一ではないのであって,審決の判断に矛盾はない。 (3) 構成要件Dについて原告は,審決が「構成要件Dは,これにより先願との差別化を積極的に図るための特異な構成ではなく」と認定していることを根拠に,本件発明1は,先願発明と同一であると主張する。 しかし,構成要件Dは,載置底面とはならない側周表面の切り込み部等によって,側周表面を載置底面とした場合には生じない焼き上がりを特定したものであることは,審決が認定するとおりである。そして,先願発明は,平坦上面に相当する上側表面部及び載置底面に相当する下側表面部に切り込み部を設けたものであって,側周表面に設けたものではない。したがって,先願発明が,構成要件Dに記載した焼き上がり状態にならないことは明らかであって,本件発明の構成要件Dと先願発明の構成要件d’は相違することは明らかである。したがって,原告の主張は理由がない。 原告は,審決及び別件審決における「特異な構成ではなく」及び「自然法則から極自然に考えられること」という記載から,構成要件Dに格別の技術的意義がないとして,本件発明1は,先願発明と同一であると主張する。 - 28 -しかし,別件審決は,原告が第2の無効審判請求において主張していた「狭義説」(構成要件Dの「膨化」には内部に空洞が生じている状態を含まないとするもの)のことを「特異な構成」と述べ,構成要件Dは,「これにより先願との差別化を積極的に図るための特異な構成ではなく,審査官が指摘した切餅の側面を載置底面とするという,通常でない焼き方をすることを排除しようとして付加した構成である」と認定したものである(甲3)。したがって,「特異な構成ではなく」と認定したことをもって,構成要件Dに格別の技術的意義がないとする原告の主張は失当である ることを排除しようとして付加した構成である」と認定したものである(甲3)。したがって,「特異な構成ではなく」と認定したことをもって,構成要件Dに格別の技術的意義がないとする原告の主張は失当である。 また,別件審決は,餅を焼くと,餅の内部が軟化するとともに,餅の内部に含まれる水分が蒸発して水蒸気となる等により,餅の内部空間の圧力が高くなり,膨化することが技術常識であることを前提として,これと本件明細書の記載から,膨化による外部への噴き出しを抑制するメカニズムについて説明したものであって,「自然法則」のみから膨化による外部への噴き出しを抑制するメカニズムや構成要件Dの意義を認定したものではない。したがって,かかる観点からも原告の主張は失当である。 第5 当裁判所の判断 1 取消理由1(特許法39条2項の判断の誤り)について(1) 「要旨認定及び相違点3の認定の誤り」についてア分割発明は,前記第2の4(1)アのとおり,「輪郭形状が方形の小片餅体である切餅であって」,「高さ寸法が幅寸法及び奥行き寸法より短い薄平板状の偏平方形体の切餅の,前記上下の広大面間の立直側面に,この上下の広大面間の立直側面に沿う周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け」た切餅に関するものである。そして,その立直側面に設けられた「この切り込み部又は溝部は,この立直側面に沿う周方向で且つ前記広大面と平行な直線状であって,四辺の前記立直側面のうちの対向二側面である長辺部の立直側面の双方に夫々長さ- 29 -いっぱいに形成した切り込み部又は溝部であり,刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成した切り込み部又は溝部とし」たものである(甲1)。 分割発明の「切り込み部」と「溝部」が,いずれも,「立直 部又は溝部であり,刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成した切り込み部又は溝部とし」たものである(甲1)。 分割発明の「切り込み部」と「溝部」が,いずれも,「立直側面に沿う周方向に長さを有する」ものであり,また,「立直側面に沿う周方向で且つ前記広大面と平行な直線状」で,「四辺の前記立直側面のうちの対向二側面である長辺部の立直側面の双方に夫々長さいっぱいに形成した」ものであることは,その特許請求の範囲の記載から明らかである。 そして,分割明細書(乙1)の特許請求の範囲においては,「この切り込み部又は溝部は,この立直側面に沿う周方向で且つ前記広大面と平行な直線状であって,四辺の前記立直側面のうちの対向二側面である長辺部の立直側面の双方に夫々長さいっぱいに形成した切り込み部又は溝部であり,」に続けて,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成した切り込み部又は溝部とし」たことが記載されているが,これは,「切り込み部」又は「溝部」の両者について,まず,具体的にどのような構造等であるのかを特定し,続けて,どのような方法により形成されたものであるのかを特定するものと解される。このような分割明細書の特許請求の範囲の記載によれば,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成した」との発明特定事項による限定は,「切り込み部」と「溝部」のいずれにも及ぶと解するのが自然である。 イ一方,分割明細書の発明の詳細な説明には,「切り込み部3又や溝部(以下,単に切り込み3という)」(【0017】)と記載され,「切り込み部3」と「溝部」の両方を,まとめて「切り込み3」と言い換えており,「切り込み3」は,「切り込み部3」と「溝部」の両方を意味する用語として用いられている いう)」(【0017】)と記載され,「切り込み部3」と「溝部」の両方を,まとめて「切り込み3」と言い換えており,「切り込み3」は,「切り込み部3」と「溝部」の両方を意味する用語として用いられている。 そして,分割明細書には,分割発明は,焼き途中での膨化による噴き出しを制御できるとともに,焼いた後の焼き餅の美感も損なわず,しかも,焼き上がった餅が,自動的に,従来にない非常に食べやすく,食欲をそそり,現に美味しく食すること- 30 -ができる画期的な焼き上がり形状となり,また今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができる,極めて画期的な餅を提供することを課題とすること(【0008】),このような課題は,切餅の立直側面に所定の「切り込み3」を設けたことにより解決できること(【0017】~【0022】)が記載されている。 また,分割明細書には,分割発明の具体例である第二実施例(【0031】,【0032】,【0035】,図3)について,対向二側面である長辺部の立直側面の双方に刃板によって「切り込み3」を形成すること(【0031】),刃板に対して小片餅体を長辺部長さ方向に相対移動するだけで小片餅体の両側の長辺部の立直側面に周方向に十分な長さを有する「切り込み3」を簡単に形成できること(【0032】)が記載されている。 そうすると,分割明細書には,上記の課題を解決するために,切餅の立直側面に所定の「切り込み3」を設けたことが記載され,また,その「切り込み3」,すなわち,「切り込み部3」と「溝部」は,いずれも,刃板に対して小片餅体を長辺部長さ方向に相対移動することで形成されることが記載されているといえる。 ウ以上のとおり,分割明細書の特許請求の範囲の記載によれば,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移 辺部長さ方向に相対移動することで形成されることが記載されているといえる。 ウ以上のとおり,分割明細書の特許請求の範囲の記載によれば,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成した」との発明特定事項による限定は,「切り込み部」と「溝部」のいずれにも及ぶと解するのが自然であり,また,分割明細書の発明の詳細な説明にも,「切り込み部」と「溝部」は,いずれも,刃板に対して小片餅体を長辺部長さ方向に相対移動することで形成されることが記載されている。そうすると,分割発明においては,「切り込み部」と「溝部」は,いずれも,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成した」ものと解するのが相当である。 エ原告は,「切り込み部」,「溝部」のそれぞれの意味(甲14~17)からすれば,分割発明における「切り込み部」とは「物の中に刃物を深く入れてなる部分」をいい,「溝部」とは「細長くへこませてなる部分」をいうのが相当であ- 31 -るから,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成した」との事項による限定は,分割発明を特定する事項のうち,「切り込み部」に係る部分にのみ及び,「溝部」に係る部分には及ぶことはないと主張する。 しかし,「溝部」は,「一般に,細長くくぼんだところ」(甲16)を意味するものであり,「くぼむ」は,「一部が落ちこんで低くなる。へこむ。」(甲17)との意味を有するものであるとしても,その「細長くくぼんだところ」は,切餅の一部を「へこませる」ことによってのみ形成されるものではなく,例えば,所定の厚みを有する刃板により,切餅の一部を所定の幅で削り取ることによっても形成することが可能であることは,当業者にとって明らかである。「溝部」を形成するため てのみ形成されるものではなく,例えば,所定の厚みを有する刃板により,切餅の一部を所定の幅で削り取ることによっても形成することが可能であることは,当業者にとって明らかである。「溝部」を形成するために,当該部位をへこませることのみを前提とする原告の主張は,採用できない。 そして,分割発明においては,「溝部」も,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成した」ものであることは,上記アのとおりである。 オ原告は,分割明細書では,分割発明において「切り込み部」と「溝部」とが明確に区別されており,そのために「又は」との語により接続される関係にあることを根拠付けるものであると主張する。また,原告は,①分割明細書は,「切り込み部3又や溝部(以下,単に切り込み3という)」(【0017】)と定義した後であるにもかかわらず,実施例の記載の冒頭では,あえて「切り込み部」(【0027】)という語を明記しており,これを受けて,「即ち・・・切り込み3を形成している。」(【0028】)と言い換えているから,実施例は,【0017】とは異なり,「溝部」を含まない「切り込み部」を前提とする記載であること,②分割明細書の【符号の説明】には,「切り込み部(切り込み)」についての記載であることを明記しており,これを受けた実施例には,「切り込み3に代えて溝部としても良い」(【0034】)と記載されているから,同じく実施例における,刃板により切り込みを形成する旨の記載(【0031】,【0032】)は,当然に「切り込み部」の形成方法について述べられたものであることを理由として,分割- 32 -明細書には,「溝部」を刃板により形成することは記載されていないと主張する。 確かに,分割明細書には,「例えば,切り込み3は先鋭なカッターや回転する刃板5 あることを理由として,分割- 32 -明細書には,「溝部」を刃板により形成することは記載されていないと主張する。 確かに,分割明細書には,「例えば,切り込み3は先鋭なカッターや回転する刃板5などによって形成したが,凹条部を押圧形成し,切り込み3に代えて溝部としても良い。」(【0034】)と記載されており,この記載では,「切り込み3」なる用語が,「切り込み部3」の意味で用いられているように見える。 しかし,分割明細書の実施例において,「切り込み部3」を形成することのみを意図しているのであれば,「切り込み部3」と記載すれば足りることが明らかであるのに,あえて「切り込み3」(【0028】)と言い換えており,また,【符号の説明】でも,「3 切り込み部(切り込み)」(【0036】)と並列して記載していることからすると,上記のとおり,用語の使い方にやや混乱が見られるものの,分割明細書の実施例においても,「切り込み3」なる用語は,「切り込み部3」のみを意味するものではなく,「切り込み部3」と「溝部」の両方を意味するものと解すべきである。そして,分割明細書の特許請求の範囲に,「切り込み部3」と「溝部」が,いずれも,刃板に対して小片餅体を長辺部長さ方向に相対移動することで形成されることが記載されていることは,上記アのとおりであるから,原告の主張は採用できない。 カ原告は,本件発明1についても,審決が「切り込み部」と「溝部」とを区別していない点で発明の要旨認定を誤っていることは,分割発明についてと同様であると主張するが,分割発明について原告主張の認定誤りがないことは上記のとおりであり,同様に,本件発明1についても,原告主張の認定誤りはない。 キ以上のとおりであるから,審決の分割発明の要旨認定の誤りをいう原告の主張には,理由がない 認定誤りがないことは上記のとおりであり,同様に,本件発明1についても,原告主張の認定誤りはない。 キ以上のとおりであるから,審決の分割発明の要旨認定の誤りをいう原告の主張には,理由がない。また,審決の本件発明1の要旨認定についても,同様である。審決の本件発明1及び分割発明の要旨認定に誤りがない以上,相違点3の認定にも誤りはなく,審決の相違点3の認定の誤りをいう原告の主張には,理由がない。 (2) 「相違点1及び2についての判断の遺脱」について- 33 -原告は,審決は「相違点1ないし3をまとめて検討する」にとどまり,相違点1又は相違点2のそれぞれについて実質的な検討をしていないと主張する。 しかし,審決は,本件発明1と分割発明との技術的な関係を明らかにするとともに,相違点1ないし3に係る構成についての技術的意義を示すことにより,本件発明1と分割発明とが実質的に同一とはいえないと判断したもので,相違点1ないし3についてまとめて検討しているが,相違点1及び相違点2について判断の遺脱があるとはいえない。よって,原告の主張には理由がない。 (3) 「審決には同一性に関する判断における違法があること」についてア特許法39条2項の判断分割発明は,上記(1)アのとおり,切餅の立直側面に「切り込み部又は溝部」(以下,「切り込み」という。)を設けたものであるが,その切り込みは,「立直側面に沿う周方向に長さを有する」ものであり,また,「立直側面に沿う周方向で且つ前記広大面と平行な直線状」で,「四辺の前記立直側面のうちの対向二側面である長辺部の立直側面の双方に夫々長さいっぱいに形成した」ものである。そして,このような切り込みは,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成した」ものである 向二側面である長辺部の立直側面の双方に夫々長さいっぱいに形成した」ものである。そして,このような切り込みは,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成した」ものである。 また,分割明細書には,分割発明の具体例である第二実施例(【0031】,【0032】,【0035】,図3)について,対向二側面である長辺部の立直側面の双方に,刃板によって切り込みを形成すること(【0031】),刃板に対して小片餅体を長辺部長さ方向に相対移動するだけで,小片餅体の両側の長辺部の立直側面に周方向に十分な長さを有する切り込みを簡単に形成でき,量産性に一層秀れること(【0032】)が記載されている。 これらの記載によれば,分割発明は,切り込みが,「立直側面に沿う周方向で且つ前記広大面と平行な直線状」(相違点1)で,「四辺の前記立直側面のうちの対向二側面である長辺部の立直側面の双方に夫々長さいっぱいに形成した」(相違点2)ものとされていることにより,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ- 34 -方向に相対移動する」(相違点3)だけで,上記のような切り込みを簡単に形成でき,量産性に一層秀れるという作用効果を奏するものであり,一定程度の技術的意義を有するものといえる。 一方,本件発明1は,分割発明と同様,切餅の立直側面である側周表面に切り込みを設けたものであるが,その切り込みは,「立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する」ものであるものの,単に,「周方向に一周連続させて角環状とした」もの,又は,「立直側面である側周表面の対向二側面に形成した」ものであり,分割発明のように技術的に限定された切り込みとは異なるものである。 以上によれば,審決が認定した相違点1ないし3は実質的な相違点と認められるから,本件発 周表面の対向二側面に形成した」ものであり,分割発明のように技術的に限定された切り込みとは異なるものである。 以上によれば,審決が認定した相違点1ないし3は実質的な相違点と認められるから,本件発明1と分割発明とは同一であるとはいえない。 イ原告の主張について(ア)原告は,分割発明は,本件発明1では特定されていないが選択の余地のない構成について,それを明確にしたにすぎないと主張する。 しかし,上記アのとおり,本件発明1における切り込みは,「立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する」ものであって,「周方向に一周連続させて角環状とした」もの,又は,「立直側面である側周表面の対向二側面に形成した」ものであるところ,本件明細書には,その切り込みの長さや位置について,「切り込み3を長さを有するものとしたり,短くても数箇所設ける」(【0014】),「少なくとも対向側面に所定長さ以上連続して切り込み3を形成」(【0019】)と記載されており,分割発明のように,対向二側面である「長辺部」の立直側面に「長さいっぱいに形成」される場合に限られるものではない。また,本件発明1において,切り込みが,「広大面と平行」でないものや,「直線状」でないものが想定されることは,本件明細書に明記されていなくても当業者にとって明らかであるから,分割発明のように,「広大面と平行な直線状」のものに限られるものではない。さらに,本件発明1において,切り込みの形成方法として,例えば,刃物を切餅の長辺部に(長さ方向と垂直に)押し付けることで形成するもの等が想定される- 35 -ことは,本件明細書に明記されていなくても当業者にとって明らかであるから,分割発明のように,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成した」もの 想定される- 35 -ことは,本件明細書に明記されていなくても当業者にとって明らかであるから,分割発明のように,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成した」ものに限られるものではない。 以上のとおり,分割発明は,本件発明1では特定されていないが選択の余地のない構成について,それを明確にしたにすぎないものとはいえず,原告の主張は採用できない。 (イ)原告は,本件発明1における「立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する」切り込みは,「周方向に長さを有する」ものである限り,「広大面と平行な直線状」となるほかなく,分割発明と本件発明1とにおいて,かかる切り込みが「広大面と平行な直線状」であることが付記されているか否かは,表現上の差異にすぎず,相違点1は,実質的な相違点ではないと主張する。 しかし,本件発明1における切り込みは,その文言どおり,「立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する」ものであれば足りるのであるから,「広大面と平行」でないものや,「直線状」でないものであっても,含まれ得るものである。「周方向に長さを有する」ものであるからといって,必ずしも,「広大面と平行な直線状」となるとはいえないことは明らかである。よって,原告の主張は採用できない。 (ウ)原告は,切り込みの位置については,実質的な相違点とはいえず,また,切り込みを刃物で形成する場合,表面全体に形成するのが通常であり(甲2),長辺と等しい長さに形成することは,単なる周知技術,慣用技術である(甲9)から,切り込みの長さについても,実質的な相違点とはいえず,相違点2は,実質的な相違点ではないと主張する。 しかし,本件明細書には,その切り込みの長さや位置について,「切り込み3を長さを有するも ら,切り込みの長さについても,実質的な相違点とはいえず,相違点2は,実質的な相違点ではないと主張する。 しかし,本件明細書には,その切り込みの長さや位置について,「切り込み3を長さを有するものとしたり,短くても数箇所設ける」(【0014】),「少なくとも対向側面に所定長さ以上連続して切り込み3を形成」(【0019】)と記載されており,分割発明のように,対向二側面である「長辺部」の立直側面に「長さ- 36 -いっぱいに形成」される場合に限られるものではない。切り込みを刃物で形成する場合に,必ずしも,「長辺部」の立直側面に「長さいっぱいに形成」するとはいえないから,原告の主張は採用できない。 (エ)原告は,本件発明1と分割発明とは,上位概念,下位概念の関係にあるのではなく,本件発明1は,相違点2に係る構成について「事実上の選択肢」を有するものであって,特許・実用新案審査基準にいう「発明を特定するための事項が二以上の選択肢を有する場合」に該当するものであり,本件発明1と分割発明は同一であると主張する。 しかし,分割発明が,本件発明1において,更に切り込みの長さ,形状,形成方法について限定したものであることは上記ア及びイ(ア)のとおりであり,本件発明1と分割発明とが,上位概念,下位概念の関係にあることは明らかである。よって,原告の主張は採用できない。 (オ)原告は,分割発明の「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成」は,「切り込み」という語を別の表現で述べているだけのものであり,「切り込み」を限定したことにならず,また,本件発明1の「切り込み部・・・を設け」るとは,切り込みを入れる動作を行うことであり,刃板を小片餅体に相対的移動することは,かかる動作それ自体であり,実質的に同一であるから したことにならず,また,本件発明1の「切り込み部・・・を設け」るとは,切り込みを入れる動作を行うことであり,刃板を小片餅体に相対的移動することは,かかる動作それ自体であり,実質的に同一であるから,相違点3は相違点とはいえないと主張する。 しかし,切り込みを形成するためには,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成」することのほかに,例えば,刃物を切餅の長辺部に(長さ方向と垂直に)押し付けることで形成するもの等が想定されるから,原告が主張するように,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成」が,「切り込み」という語を別の表現で述べただけであるとか,切り込みを入れる動作それ自体であるということはできない。よって,原告主張は採用できない。 (カ)原告は,相違点1及び2については,切り込みの形状を明確化,具体- 37 -化したものにすぎず,格別の作用効果を奏するものでもなく,また,相違点3については,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動する」ことは,切り込みを形成するための日常的かつ典型的な方法であり,このような方法を明確化したからといって,格別の作用効果を奏するものでもないと主張する。 しかし,上記アのとおり,分割発明は,切り込みが,「立直側面に沿う周方向で且つ前記広大面と平行な直線状」(相違点1)で,「四辺の前記立直側面のうちの対向二側面である長辺部の立直側面の双方に夫々長さいっぱいに形成した」(相違点2)ものとされていることにより,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動する」(相違点3)だけで,上記のような切り込みを簡単に形成でき,量産性に一層秀れるという作用効果を奏するものであり,一定程度の技術的意義を有するものといえる。 片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動する」(相違点3)だけで,上記のような切り込みを簡単に形成でき,量産性に一層秀れるという作用効果を奏するものであり,一定程度の技術的意義を有するものといえる。原告の主張は,相違点1ないし3について個別に検討し,それぞれについて切り込みを明確化,具体化しただけであるというものであり,全体的な考察を欠いているから,採用できない。 (キ)原告は,相違点1ないし3は,すべて本件発明1に包含されるものであり,本件明細書の唯一の実施例には,切り込みが「広大面と平行な直線状」であり,「長さいっぱいに形成」されており,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成」されていることが開示されているから,「刃板5に対して小片餅体1を長辺部長さ方向に相対移動するだけで小片餅体1の両側の長辺部の立直側面2Aに周方向に十分な長さを有する切り込み3を簡単に形成でき,前記作用・効果が十分に発揮されると共に,量産性に一層秀れる」(【0032】)という効果は,本件発明1についても同様であり,分割発明に独自の効果ではないと主張する。 しかし,上記アのとおり,本件発明1における切り込みは,「立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する」ものであって,「周方向に一周連続させて角環状とした」もの,又は,「立直側面である側周表面の対向二側面に形成した」ものであり,分割発明のように,「立直側面に沿う周方向で且つ前記広大面- 38 -と平行な直線状」で,「四辺の前記立直側面のうちの対向二側面である長辺部の立直側面の双方に夫々長さいっぱいに形成した」ものに限定されるわけではなく,また,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成」されたものでもない。原告が指摘する効果は,本 直側面の双方に夫々長さいっぱいに形成した」ものに限定されるわけではなく,また,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成」されたものでもない。原告が指摘する効果は,本件発明1の一実施例における効果であり,特許請求の範囲の記載により特定された本件発明1自体の効果とはいえない。よって,原告の主張は採用できない。 (ク)原告は,分割発明の「量産性に一層秀れる」との効果は,分割明細書の文脈を考慮して読めば,「切り込み部又は溝部」を「四面全てに連続させて形成して四角環状とする場合に比して」(【0031】)のものであるから,本件発明1のうち「この切り込み部又は溝部は,・・・前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として」との事項に係る部分に比して「量産性に一層秀れる」との効果を奏することはないと主張する。 しかし,本件発明1における切り込みは,分割発明のように,「広大面と平行な直線状」で,長辺部の立直側面に「長さいっぱいに形成」されたものに限定されるわけではなく,また,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成」されたものでもない。「量産性に一層秀れる」との効果は,上記のように限定された切り込みとすることにより奏されるものであるから,本件発明1のうち,切り込みが「立直側面である側周表面の対向二側面に形成」されたものについても,「量産性に一層秀れる」との効果を奏するものではないことは明らかである。よって,原告の主張は採用できない。 (ケ)原告は,本件発明1と分割発明は,いずれも,側周表面に切り込みを設けた餅という全く同一の構成を有する物の発明であり,相違点3の「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動」させるというプロセスは,物として 分割発明は,いずれも,側周表面に切り込みを設けた餅という全く同一の構成を有する物の発明であり,相違点3の「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動」させるというプロセスは,物としての餅の美感や噴き出し制御という作用効果について何ら意義を有しないと主張する。 しかし,上記アのとおり,分割発明は,切り込みが,「立直側面に沿う周方向で- 39 -且つ前記広大面と平行な直線状」(相違点1)で,「四辺の前記立直側面のうちの対向二側面である長辺部の立直側面の双方に夫々長さいっぱいに形成した」(相違点2)ものとされていることにより,「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動する」(相違点3)だけで,上記のような切り込みを簡単に形成でき,量産性に一層秀れるという作用効果を奏するものであり,一定程度の技術的意義を有するものといえる。よって,原告の主張は採用できない。 (コ)原告は,分割発明については,当初,本件発明1では特定されていなかった載置態様を特定するため,「最も面積の大きい対向する広大面の一方を載置底面他方を上面とする」「偏平方形体の切餅」等と,あえて限定を加えて出願された経緯が存する(甲20)が,審決がいうように,本件発明1において,「載置底面又は平坦上面」,「立直側面である側周表面」が自ずと特定されるのであれば,本件発明1と分割発明とは実質的に同一であると主張する。 しかし,本件発明1において,「載置底面又は平坦上面」,「立直側面である側周表面」が自ずと特定されるとしても,上記アのとおり,審決が認定した相違点1ないし3は実質的な相違点と認められるから,本件発明1と分割発明とは同一であるとはいえない。 (4) 以上によれば,取消事由1は理由がない。 2 取消理由2(特許法29条の2の判断の誤 点1ないし3は実質的な相違点と認められるから,本件発明1と分割発明とは同一であるとはいえない。 (4) 以上によれば,取消事由1は理由がない。 2 取消理由2(特許法29条の2の判断の誤り)について(1) 特許法29条の2の判断ア本件発明1は,輪郭形状が方形の小片餅体である切餅に関するものであり,この切餅は,焼き網に載置して焼き上げて食するものであるところ,切餅を焼き網に載置する際には,切餅の最も面積の広い面を焼き網に載置すること,すなわち,載置底面とすることは通常のことである。また,本件明細書(【0015】,図1~3)においても,切餅の最も面積の広い面を載置底面とすることを前提としていると認められる。そうすると,本件明細書の記載及び技術常識(一般常識)も参酌すれば,本件発明1における切餅の「載置底面」は,切餅の最も面積の広い面- 40 -を意味するものと解するのが相当である。 また,切餅の「平坦上面」が「載置底面」に対向する面であること,切餅の「上側表面部の立直側面である側周表面」が,上記「平坦上面」及び「載置底面」以外の面であることは,いずれも明らかである。そして,本件発明1は,上記のような「上側表面部の立直側面である側周表面」に所定の切り込みを設けたものである。 イ一方,先願発明に係る公報(甲2。以下「先願公報」という。)には,無菌包装された切餅において,切餅の厚みの40~60%を残すように切餅の上下面から切り込みを入れたものが記載されている(特許請求の範囲の請求項1)。先願公報の記載(【0013】,【0015】,図1,3)によれば,この切餅は,横約6cm,縦約4cm,厚さが1.6cmの薄板状のものであり,上記の切り込みは,この薄板状の切餅の最も面積の広い面に設けられていると認められる。す 】,【0015】,図1,3)によれば,この切餅は,横約6cm,縦約4cm,厚さが1.6cmの薄板状のものであり,上記の切り込みは,この薄板状の切餅の最も面積の広い面に設けられていると認められる。すなわち,先願公報に記載された切餅は,最も面積の広い面である上面及び下面に切り込みを設けたものといえる。 また,先願公報には,切餅をオーブントースター等を用いて焼き調理すること(【0017】,【0018】)が記載されているが,上記アのとおり,このような焼き調理の際には,切餅の最も面積の広い面を載置底面とすることは通常のことである。 同公報には,焼き調理時に,切餅は,その上面をほぼ水平に保ったまま膨れること(【0018】)も記載されており,図3に示される焼き調理時の切餅の様子も踏まえると,同公報においては,切餅をオーブントースター等を用いて焼き調理する際には,最も面積の広い面である,切り込みが設けられた下面を載置底面としていると認められる。 以上のとおり,先願公報に記載された切餅は,最も面積の広い面である上面及び下面に切り込みを設けたものであり,オーブントースター等を用いて焼き調理する際には,その切り込みが設けられた下面を載置底面とするものといえる。 ウそうすると,本件発明1と先願公報に記載された発明(先願発明)とは,少なくとも,焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である- 41 -切餅において,その表面に切り込みを設けたものである点で一致するが,その切り込みが,本件発明1では,「載置底面又は平坦上面ではなく」,「上側表面部の立直側面である側周表面」に設けられているのに対して,先願発明では,「載置底面」である下面及び「平坦上面」である上面に設けられている点で相違すると認められる。すなわち,本件発明1と先願発明と 面部の立直側面である側周表面」に設けられているのに対して,先願発明では,「載置底面」である下面及び「平坦上面」である上面に設けられている点で相違すると認められる。すなわち,本件発明1と先願発明とは,少なくとも,切り込みが設けられる位置の点で相違するものであるから,本件発明1が先願発明と同一であるということはできない。よって,審決の判断に誤りはない。 (2) 原告の主張についてア原告は,本件発明1が,先願発明と同一であるとする拒絶査定を免れるために,構成要件Dが付加されたものであることは,包袋から明らかであり,構成要件Bを含め,他の構成は,先願発明と同一であることが当然の前提とされていたから,審決が,本件発明1と先願発明との相違点として,「構成要件Bおよび構成要件b’における構成の相違」に言及すること自体が背理であると主張する。 しかし,上記(1)ウのとおり,本件発明1と先願発明とは,少なくとも,切り込みが設けられる位置の点,すなわち,構成要件Bの点で相違するものと認められる。 審査及び審判の経緯(甲4,21)によれば,審査官が,本件発明1は先願発明と同一である旨指摘したことが認められるが,審査官による指摘のために,審決において,本件発明1と先願発明とが,少なくとも,構成要件Bの点で相違すると判断することが妨げられるものではない。よって,原告の主張は採用できない。 イ原告は,本件発明1は「物の発明」であって,上下面の切り込みも側周表面の切り込みも焼き上げる際の位置の問題にすぎず,切餅の表面に切り込みを設けるという周知技術について,先願発明と切り込みを設ける部位を変えただけのものであり,切り込みを設ける部位を変えても,両者の奏する作用効果に相違がないから,構成要件Bと構成要件b’は同一であると主張する。 しか 術について,先願発明と切り込みを設ける部位を変えただけのものであり,切り込みを設ける部位を変えても,両者の奏する作用効果に相違がないから,構成要件Bと構成要件b’は同一であると主張する。 しかし,切餅の「側周表面」に切り込みを設けることが周知技術であると認めるに足りる証拠はない(原告が「餅の側面に切り込みのあるもの」として挙げる甲6- 42 -~9は,あられ等に関するものであり,切餅に関するものではない。甲10~12は,餅に関するものであるが,切餅の「側周表面」に切り込みを設けるものではない。)。切餅の「側周表面」に切り込みを設けることが周知技術とはいえない以上,本件発明1と,先願発明との切り込みを設ける部位の相違を無視して,本件発明1が先願発明と実質的に同一であるということはできないから,原告の主張は採用できない。 ウ原告は,審決が,構成要件Bの文言について,通常でない焼き方や,他の構成を考慮するまでもなく,それ自体として1つの載置態様に自ずと特定されて明確であると判断しているが,他方で,構成要件Dについては,あえて通常でない焼き方をすることを排除する必要性を指摘して,3つの載置態様が存在することを前提に,「構成要件Dの存在によって『平坦上面』『載置底面』『立直側面である側周表面』が一義的に決定される」などと述べて,載置態様が特定されるのは,構成要件Bではなく,構成要件Dによってであるとしており,矛盾した論理判断であると主張する。 しかし,原告が指摘する審決の記載は,別件審決の内容を説明するものであることが文脈から明らかであり,本件について上記のように判断したものではない。 上記(1)アのとおり,本件発明1における切餅の「載置底面」が,切餅の最も面積の広い面を意味することは,技術常識(一般常識)に照らして明らかで あり,本件について上記のように判断したものではない。 上記(1)アのとおり,本件発明1における切餅の「載置底面」が,切餅の最も面積の広い面を意味することは,技術常識(一般常識)に照らして明らかである。本件発明1における切餅の載置態様は,切餅の最も面積の広い面を載置底面とするものであり,切餅の「側周表面」は載置底面とはならない。 審査及び審判における経緯(甲4,5の1,21,23)によれば,審査官が,先願発明に係る切餅の側面を載置底面とすれば,本件発明1は先願発明と同一である旨指摘したことに対して,被告としては,先願発明に係る切餅の側面を載置底面とすることは想定不可能であるが,念のため更に構成要件Dを特定することにより,本件発明1において,切餅の「側周表面」が載置底面とはならないことを,構成要件Bに重ねて特定したものと認められる。以上のとおり,「載置底面」は,構成要- 43 -件Dにより初めて明確に特定されたものではないから,原告が主張するような矛盾はない。 エ原告は,審決が,「通常,切り餅を焼く際には,面積の広い面を焼き網に載せる」と述べる以上,例外もあるのであり,サイコロ状の切餅もあり得るから,審決の本件発明1の要旨認定における構成要件Bの解釈は誤りであると主張する。 しかし,上記(1)アのとおり,本件発明1における切餅の「載置底面」が,切餅の最も面積の広い面を意味することは,技術常識(一般常識)に照らして明らかである。切餅の側周表面等を例外的に焼き網に載置することが技術的に可能であるとしても,このような例外的な載置方法によって「載置底面」の意味が不明確となるものではなく,審決の構成要件Bの解釈が誤りであるとはいえない。また,一般に市販されている切餅が,通常,薄板状のものであることは,技術常識(一般常識)であると よって「載置底面」の意味が不明確となるものではなく,審決の構成要件Bの解釈が誤りであるとはいえない。また,一般に市販されている切餅が,通常,薄板状のものであることは,技術常識(一般常識)であるところ,実際にサイコロ状の切餅が市販されていることを認めるに足りる証拠はない。いずれにしても,原告の主張は採用できない。 オ原告は,審判体が,「輪郭形状が方形の小片餅体」に関し,原告の意見を求めておきながら,審決は,その当否について判断しておらず,本件の重要な争点に関し判断を遺脱していると主張する。 しかし,審決は,本件発明1が先願発明と同一であるか否かについて判断しており,無効理由2について判断の遺脱はない。原告に対して,個別の論点について意見を求めたとしても,そのすべてについて審決において判断を示す必要があるとはいえないから,原告の主張は採用できない。 カ原告は,「物の発明」の構成に着目する限り,本件発明1と先願発明の構成自体は同一であるところ,先願発明においては,載置態様は限定されておらず,切餅の側面を載置底面とするという焼き方を想定し得るものであり,また,構成要件Dについては,審決は,「構成要件Dは,これにより先願との差別化を積極的に図るための特異な構成ではなく」「自然法則から極自然に考えられること」と自認しているから,構成要件Dに格別の技術的意義はなく,本件発明1は先願発明と同- 44 -一であると主張する。 しかし,上記(1)イのとおり,先願公報の記載及び技術常識(一般常識)も参酌すれば,先願発明に係る切餅は,オーブントースター等を用いて焼き調理する際に,切り込みが設けられた下面を載置底面とするものであり,本件発明1とは,少なくとも,切り込みが設けられる位置の点で相違するものである。そして,当該切り込みを備 ントースター等を用いて焼き調理する際に,切り込みが設けられた下面を載置底面とするものであり,本件発明1とは,少なくとも,切り込みが設けられる位置の点で相違するものである。そして,当該切り込みを備えた切餅の焼き上がりの態様を明らかにした構成要件Dが,技術的意義を有することは明らかである。よって,原告の主張は採用できない。 キ原告は,本件発明1は,構成のみならず,作用効果においても,パブリック・ドメインの技術と違いがなく,新しい技術を何ら公開するものではない以上,このような発明に特許権を与えることは,新しい発明の公表の代償として発明を保護しようとする特許制度からみて妥当ではないと主張する。 しかし,上記(1)ウのとおり,本件発明1と先願発明とは,少なくとも,切り込みが設けられる位置の点で相違するから,本件発明1は先願発明と同一であるとはいえず,作用効果の点のみをとらえて本件発明1と先願発明が同一であるとする原告の主張は失当である。 第6 結論以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官清水節- 45 - 裁判官池下朗 裁判官中武由紀 裁判官中武由紀
▼ クリックして全文を表示