平成14年12月13日判決言渡仙台高等裁判所平成13年(ネ)第206号地役権設定登記手続等請求控訴事件(原審福島地方裁判所会津若松支部平成12年(ワ)第109号)口頭弁論終結日平成14年9月26日 主文 1 原判決主文第1,2項を取り消す。 2 被控訴人の地役権確認請求及び地役権設定登記手続請求(ただし,後記のとおり,原判決記載の請求の趣旨を訂正する。)を,いずれも棄却する。 3 控訴人らのその余の本件控訴をいずれも棄却する。 4 原判決主文第3項を次のとおり更正する。 被控訴人は,控訴人らに対し,別紙計画平面図記載のI町町道土町スキー場線から原判決添付別紙土地目録1記載の土地への進入路造成工事費用の支払債務を有しないことを確認する。 5 訴訟費用は,1,2審を通じこれを4分し,その1を控訴人らの,その余を被控訴人の各負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人ら(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人の請求をいずれも棄却する。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 2 被控訴人(1) 本件控訴をいずれも棄却する。 (2) 控訴費用は控訴人らの負担とする。 3 原判決記載の請求の趣旨の訂正原判決記載の被控訴人の主位的,予備的請求中,債務不存在確認請求については,いずれも当判決主文4項のとおり改める。同請求中,地役権確認請求及び地役権設定登記手続請求の各請求の趣旨を次のとおり改める。 (1) 主位的請求ア被控訴人が,原判決添付別紙土地目録1記載の土地のうち同目録 おり改める。同請求中,地役権確認請求及び地役権設定登記手続請求の各請求の趣旨を次のとおり改める。 (1) 主位的請求ア被控訴人が,原判決添付別紙土地目録1記載の土地のうち同目録2記載の土地を承役地,同目録3記載の土地を要役地とする,昭和28年4月1日地役権設定契約に基づき,原判決添付別紙地役権目録記載の地役権を有することを確認する。 イ控訴人らは,被控訴人に対し,上記土地目録1記載の土地のうち同目録2記載の土地を承役地,同目録3記載の土地を要役地とする,上記(1)ア記載の内容の地役権設定登記手続をせよ。 (2) 予備的請求ア被控訴人が,上記土地目録1記載の土地のうち同目録2記載の土地を承役地,同目録3記載の土地を要役地とする,昭和35年10月(日不明)時効取得を原因として,上記地役権目録記載の地役権を有することを確認する。 イ控訴人らは,被控訴人に対し,上記土地目録1記載の土地のうち同目録2記載の土地を承役地,同目録3記載の土地を要役地とする,上記(2)ア記載の内容の地役権設定登記手続をせよ。 第2 当事者の主張 1 当事者の主張は,当審における当事者双方の主張を追加するほか,原判決当該欄記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決2頁25行目の「夫である」を「夫でFの養子である」と,同4頁22行目から同23行目にかけての「別紙物件目録2記載の土地(以下『本件2の土地』という。)」を「原判決添付別紙物件目録3記載の土地(以下『本件3の土地』という。)」とそれぞれ改め(以下,原判決中に「本件2の土地」とあるのを「本件3の土地」と改める。),同5頁14行目の「範囲の土地」の次に「すなわち,原判決添 の土地(以下『本件3の土地』という。)」とそれぞれ改め(以下,原判決中に「本件2の土地」とあるのを「本件3の土地」と改める。),同5頁14行目の「範囲の土地」の次に「すなわち,原判決添付別紙土地目録2記載の土地(以下「本件2の土地」という。)」を加え,同17行目,同20行目,同6頁23行目,同7頁14行目及び同18行目の「本件1の土地」を「本件2の土地」と,同6頁1行目の「本件土地」を「本件2の土地」とそれぞれ改め,同7頁24行目の「撤去することや」の次に「I町町道土町スキー場線から」を加える。)。 2 当審における当事者の追加主張(控訴人ら)(1) 地役権確認及び地役権設定登記手続請求についてア地役権設定契約が存在しないこと(ア) 昭和28年4月1日付け鉄塔用地売買の不存在被控訴人は,昭和28年4月1日,Eから52号鉄塔の,E及びDから53号鉄塔の各鉄塔用地を,それぞれ買い受けたと主張し,売買の証として甲8の1及び2の各売渡証(以下,合わせて「本件売渡証」という。)を提出するが,上記売買を原因とする所有権移転登記は存在せず,却って,53号鉄塔の鉄塔用地については,平成7年に当時の所有者から被控訴人に対して所有権移転登記がなされている。また,通常,鉄塔用地の売買は鉄塔建設に必要な範囲に限られるのに,本件売渡証では必要な範囲を遙かに越えた売買になっているだけでなく,1筆の土地の一部としてもその範囲を図示していない不完全かつ不合理なものである。さらに,代金支払の証拠(例えば領収書,支払伝票,帳簿など)が提出されていないし,売買契約書も作 部としてもその範囲を図示していない不完全かつ不合理なものである。さらに,代金支払の証拠(例えば領収書,支払伝票,帳簿など)が提出されていないし,売買契約書も作成されていない。 以上の点からして,本件売渡証は有効に成立した書面とは到底認め難い。 (イ) 地役権設定合意の不存在地役権が設定される場合,地役権設定契約書が作成され,その登記がなされるのが自然であり,対価として使用料が支払われて当然である。しかるに,本件では地役権設定契約を証する書面がないのみならず,その登記もなされていないし,上記各鉄塔用地近隣の送電線下の土地所有者に対して,使用料が支払われた形跡はない。 したがって,送電線の通過を当然の前提として線下地を承役地とした地役権設定の合意が存在したとは推認し難い。 さらに,上記各鉄塔用地の近隣の送電線下の土地所有者も送電線の架設当時,地役権設定の承諾をしていないと明言し(乙3,4,6,7,8,9の1・2),現在に至るも地役権設定の事実はない。被控訴人は,平成8年ないし同10年当時ですら,送電線の線下地について,地役権を設定するのではなく,架線承諾等を中心とした無名契約によって使用権を確保している。 したがって,地役権設定の合意の存在は認められない。 イ地役権の時効取得が成立しないこと地役権の時効取得のためには,被控訴人が地役権行使の外形を有していなければならない。 の合意の存在は認められない。 イ地役権の時効取得が成立しないこと地役権の時効取得のためには,被控訴人が地役権行使の外形を有していなければならない。 被控訴人は,送電線の存在及び電気工作物規程から地役権行使の外形が客観的に認識可能であると主張するが,送電線の線下地所有者が事実上送電線の架設を承諾しているにすぎない場合もあるので,送電線及び規程の存在から地役権行使の外形が認められるとはいえない(乙24,26,27の1・2)。 また.送電線架設のための地役権は,土地所有者の土地利用を著しく制限する強力な権利であるから,線下補償料,使用料などの対価が支払われるのが一般であるところ,本件2の土地については何らの対価も支払われていない。 したがって,地役権行使の外形がなく,地役権の時効取得の要件を充たさない。 ウ控訴人らは,被控訴人に対し地役権設定登記が存在しないことを主張できる正当な利益を有すること(ア) 控訴人らが本件1の土地を買い受けた当時,同所付近には道路がなく,甲18,19の写真で見る如く一面樹木が生い茂り,送電線が樹木に隠されて送電線の存在を容易に認識できる状況ではなかった。また,その購入時,現地で送電線が架設されているとの説明もなかった。 したがって,控訴人らは,購入当時,送電線の存在を認識することはできなかった。 (イ) そうした経緯事情があるから,控訴人らが,平成3年に至るまで撤去を求めなかったことが,信義則に違反 て,控訴人らは,購入当時,送電線の存在を認識することはできなかった。 (イ) そうした経緯事情があるから,控訴人らが,平成3年に至るまで撤去を求めなかったことが,信義則に違反し,地役権設定登記の存在しないことを主張する正当な利益がない理由とされるいわれはない。また,電力事業の公共性は背信的悪意者性の根拠足りえない。 (ウ) したがって,控訴人らは,本件地役権の設定登記が存在しないことを主張する正当な利益を有する第三者である。 (2) 進入路造成工事費用について(抗弁)ア被控訴人の損害賠償債務の存在(ア) 被控訴人は,控訴人らの承諾なく,無権限で,本件1の土地のうち本件2の土地の上空に送電線を架設して同土地の利用を制限してきた。これは,控訴人らの本件2の土地の所有権を侵害するものであり,不法行為が成立する。 したがって,被控訴人は,控訴人らに対し,現在に至るまでの土地使用料相当額の損害を賠償すべき義務がある。 (イ) 控訴人らは,平成5年に本件1の土地の進入路造成工事に着工したが,当時の送電線の高さが地上から低く接触の危険があったため工事を続行できなかった。新たな工事には,約1億7000万円の工事費用を要する。被控訴人は,送電線を控訴人ら所有の同土地上に無権限で架設した不法行為に基づき,控訴人らに対し,上記工事費用相当額の損害を賠償すべき義務がある。 イ被控訴人による損害賠償義務の自認(ア) 被控訴人は,控訴人らに対し,平成3年11月,本件送電線が本件1の土地の開発に支障が 賠償すべき義務がある。 イ被控訴人による損害賠償義務の自認(ア) 被控訴人は,控訴人らに対し,平成3年11月,本件送電線が本件1の土地の開発に支障があることを理解し,できるだけ早期に高鉄塔に建て替えると説明した。 また,同6年8月,送電線撤去には応じられないが嵩上工事を早期に実施すると再度説明した。 このように,被控訴人は,送電線によって本件1の土地への進入路造成工事に支障が出ていることを十分に認識していた。 (イ) 被控訴人は,送電線の嵩上工事の早期実施のほかに,進入路造成工事ができなかったことに対し,工事費用340万円を支払う旨の提案をし,低地上高の送電線のために進入路造成工事ができなかったことによる損害賠償義務が発生していることを認めていた。 ウしたがって,被控訴人は,控訴人らに対し,本件2の土地の所有権を侵害した不法行為に基づき,上記各損害賠償義務がある。 (被控訴人)(1) 地役権確認及び地役権設定登記手続請求についてア地役権設定契約の存在(ア) 昭和28年4月1日付け鉄塔用地売買の存在昭和28年当時は,一般的に本件売渡証と同様のものを売買契約書に代わる証書としていた。 売渡証には,契約当事者,売買目的物の表示,代金額及び売買の合意が記入され,売主が作成するから,売買契約書の内容を十分に備えている。本件売渡証に記載された土地の表示も,鉄塔用地の売買として何ら不自然な点はない。 被控訴人が, するから,売買契約書の内容を十分に備えている。本件売渡証に記載された土地の表示も,鉄塔用地の売買として何ら不自然な点はない。 被控訴人が,53号鉄塔用地について,平成7年に当時の土地所有者との間で売買契約を締結し,その旨の移転登記手続をしたことは認めるが,これは平成7年の送電線嵩上工事の工期が切迫していた等の事情があったためである。同様の理由から,52号鉄塔用地については,土地所有者と平成7年に賃貸借契約を締結している。 (イ) 被控訴人は,送電線架設に際しては,線下地所有者から架線についての承諾(地役権設定)を受けて建設している。地役権は,設定契約によって成立するが,契約書が作成されない場合も少なからずある。また,未登記の地役権も数多く存在する。地役権の対価は無償でも良く,原野の上空を使用し,土地の利用を何ら制限しない場合には無償であることが多い。 イ地役権の時効取得について(ア) 仮に,地役権を行使する意思が必要であるとしても,被控訴人は,本件2の土地の上空に送電線を架設し,これを維持管理してきたのであるから,上記意思は客観的に表現されている。 被控訴人は,送電線の架設に当たり,Dとの間で地役権設定契約を締結し,送電線路として継続使用してきたことは,その位置,形状,構造等の物理的状況から客観的に明白であり,控訴人らは認識または認識し得ることが可能であった。線下補償料の支払がないことと地役権を行使 その位置,形状,構造等の物理的状況から客観的に明白であり,控訴人らは認識または認識し得ることが可能であった。線下補償料の支払がないことと地役権を行使する意思がないこととは関係がない。 (イ) 送電線は,本件1の土地を北東方向から南西方向へ架設されているので,周辺の開墾状況からして,控訴人らは,同土地を購入した昭和39年当時,送電線を十分確認できたはずである(甲7)。 (2) 進入路造成工事費用についてア被控訴人は,本件3の土地を要役地とする地役権に基づき送電線を架設しているのであるから,何ら違法ではなく,送電線の架設による同土地の利用制限が不法行為に当たることはない。 イ同様に,送電線の架設が不法行為に当たらないことから,進入路造成工事を被控訴人が負担すべき理由がない。 ウ被控訴人が進入路造成工事費用として340万円を支払う旨控訴人らに提案したのは,控訴人らが,執拗に送電線の撤去要求並びに約1億7000万円という法外な工事費用の支払等を要求して頻繁に電話や面接要求を繰り返すため,被控訴人は,一切の支払義務はないと認識したものの,事業用地の地権者であったこともあり,円満解決の解決金として提示したものであって,支払義務を認めて提案したものではない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,本件請求のうち,地役権確認請求及び地役権設定登記手続請求は棄却を免れないが,進入路造成工事費用支払債務不存在確認請求は認容されるべきものと判断する。 その理由は,次のとおり 当裁判所は,本件請求のうち,地役権確認請求及び地役権設定登記手続請求は棄却を免れないが,進入路造成工事費用支払債務不存在確認請求は認容されるべきものと判断する。 その理由は,次のとおりである。 (地役権確認及び地役権設定登記手続請求の当否)(1) 請求原因(1),(2)ア,イ,ウの各事実及び同(3)の事実については,原判決8頁21行目冒頭から同24行目末尾までの説示と同じであるから,これを引用する。 (2) 本件地役権設定契約の存否についてア 53号鉄塔用地の売買について(ア) 証拠(甲6,7,8の1・2,14の1・2,18,19,証人Cの証言)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,特別高圧送電線「第1福島線」(当時の名称は「東北幹線2号線」)架設のための鉄塔用地を確保するため,昭和28年4月1日,52号鉄塔用地をEから,同53号鉄塔用地をE及びDから,それぞれ買い受けたことが認められる。 (イ) 控訴人らは,本件売渡証は被控訴人主張の売買契約の成立を証する有効な書面とは認められないなどと主張するけれども,本件売渡証の不動産の表示の「歩」とは「坪」と同義であると認められるから,鉄塔用地の広さとして合理的な範囲の売買と認めることができるし,前記認定のとおり,昭和28年6月には52号鉄塔及び53号鉄塔が建設され,以後本件売渡証記載の土地が鉄塔用地として使用されてきたが,被控訴人は,これまで鉄塔用地の所有者から抗議を受けたり上記鉄塔の撤去を求められたことはなかったことが認められる。さらに,本件売渡証の形式及び文面からすると,同書面は,売買契約書と領収証を兼ねていると認められ 者から抗議を受けたり上記鉄塔の撤去を求められたことはなかったことが認められる。さらに,本件売渡証の形式及び文面からすると,同書面は,売買契約書と領収証を兼ねていると認められるから,支払伝票等が保存されていないとの被控訴人の主張も必ずしも不自然とはいえない。 また,本件売渡証に沿った所有権移転登記がなされず,却って平成7年に本件売渡証と整合しない処理がなされている事実が存するけれども,それは,後記のとおり,本件売渡証作成当時の送電線架設事業が戦後工業化の急務の基盤事業として行われたことなどにより,被控訴人が本件売渡証のみを保存するだけで,分筆登記や所有権移転登記を怠るなど地権者との間の権利関係を明確にする手段を講じないまま長年経過し,権利主張が困難であったことから,円満に解決するためにやむを得ず行った措置であったと認められるところであり,了解できないことではない。 (ウ) 以上に加えて,本件売渡証の体裁及び証人Cの証言に照らすと,本件売渡証は,いずれも真正に成立した,被控訴人主張の売買契約を証するに足りる書面というべきである。 イ本件1の土地の上空に送電線を架設することの承諾の有無(ア) 上記認定の事実及び証拠(甲2の2・3,3,6,7,8の2,11の4,13,18,19,22,証人Cの証言)によれば,被控訴人は,鉄塔用地を確保して直ちに鉄塔工事及び送電線設置工事を開始し,Eから買い受けた52号鉄塔用地と,E及びDから買い受けた53号鉄塔用地にそれぞれ鉄塔を建設し,これらの鉄塔を経由して送電線を架設して,本件1の土地をその送電線の線下地とし,昭和28年6月に, 2号鉄塔用地と,E及びDから買い受けた53号鉄塔用地にそれぞれ鉄塔を建設し,これらの鉄塔を経由して送電線を架設して,本件1の土地をその送電線の線下地とし,昭和28年6月に,「第1福島線」を運用開始し現在に至っていること,被控訴人は,53号鉄塔用地をDから買い受ける際に,当時本件1の土地の所有者でもあったDに対し,会津変電所から仙台変電所に直接連係する特別高圧送電線の架設事業と,本件1の土地はその送電線の線下地になることを説明したことが認められる(ただし,本件送電線の線下地において,法令上所有者の受ける制限につき具体的な説明をなしたことを示す的確な証拠はなく,当時,法令上の制限が一般に浸透する状況にあったかは疑問が残る。)。 (イ) 以上によれば,Dは,当時の電源事業の公共性及び本件1の土地の利用状況等を考慮し,本件1の土地が送電線の線下地となることを承諾したものと推認できる。 ウ本件地役権設定契約の成否(ア) 被控訴人は,ア,イの事情のもとで,Dが被控訴人に対して承諾した内容は,本件3の土地に所在する会津変電所を要役地とし,上記各鉄塔間の送電線下地となった本件1の土地(ただし,合理的な範囲である本件2の土地の範囲)を承役地とする本件地役権設定契約の承諾であったと主張する。 (イ) 確かに,上記イの認定事実によれば,Dは,当時としては優に数十年を超える長期間存続すると認識したであろう本件送電線の説明を受け,本件送電線の公益性を認識して,53号鉄塔用地の近隣地(甲3)である所有地が線下地となることを承諾したことなどからすると,原判 と認識したであろう本件送電線の説明を受け,本件送電線の公益性を認識して,53号鉄塔用地の近隣地(甲3)である所有地が線下地となることを承諾したことなどからすると,原判決が説示するように,本件地役権設定契約の成立を推認し得ないではない。 (ウ) しかしながら,本件地役権設定契約の成立を証する書類が存在しないこと,送電線の線下補償がなされてこなかったことは当事者間に争いがなく,証拠(甲3,乙5ないし8,9の1・2,15,16,23ないし26,27の1・2,28ないし30,証人Bの証言)及び弁論の全趣旨によれば,① 本件訴え提起まで,本件2の土地を承役地とする地役権の設定登記のために測量等の準備がされた形跡は全くないこと,② 本件1の土地近傍の本件送電線下の土地所有者は,被控訴人との間で,地役権設定契約の成立を証する書面を作成したり,線下補償料の支払を受けたことはなく,線下地を承役地とする地役権設定契約を締結しているという認識もないこと,③被控訴人は,高圧送電の送電線新設工事に際し,上空に送電線を架設すること及び送電線の設置や保守等のための線下地への一時立入並びに線下補償を別途協議することを内容とする(ただし,線下地の使用制限に関する記載はない。)「架線等承諾書」や「架線等についての承諾」と題する書面を作成し,線下地所有者から承諾を得る扱いをしている例が現在においても相当数存すること,④ 被控訴人は,大株主でもあるH県の県議会総務企画委員会による高圧送電線の線下補償の実態についての照会に対し,線下補償をしている割合についての回答をせず,計画的 存すること,④ 被控訴人は,大株主でもあるH県の県議会総務企画委員会による高圧送電線の線下補償の実態についての照会に対し,線下補償をしている割合についての回答をせず,計画的に線下補償を進めていると回答するに止まったことが認められる。そして,⑤52号及び53号鉄塔の各鉄塔用地の売買がなされた後も,鉄塔用地部分の分筆登記や所有権移転登記すらなされないままであり,⑥ その結果,平成7年になって,鉄塔用地につき新所有者との間で売買契約を締結し,賃貸借契約を締結する事態となったほどで,鉄塔用地の売買ですら,権利関係を明確にする手段を講じたり,それを証明する十分な資料の作成等をしていないのが実情であったことが認められるし,⑦ 昭和28年当時は,戦後工業化の基盤事業として電力の需要に応えるべく水力電源開発と山間部から工業地帯や都市部への送電が国家的に緊急かつ重大な案件とされた電力事情(昭和27年7月施行された電源開発促進法第1条は「この法律は,すみやかに電源の開発及び送電変電施設の整備を行うことにより,電気の供給を増加し,もってわが国産業の振興及び発展に寄与することを目的とする。」と定める。)にあったところ,被控訴人も東北6県及び新潟県下に新たに大量の電力を供給する必要から,水力電源開発及び送電設備工事に最重点をおいて経営しなければならないという社会情勢下において(裁判所に顕著な事実),地役権設定まで考慮せずに送電線架設について地権者の承諾を得ることに傾注し,他方,山間部の線下地所有者も,このような電源開発及び送電設備事業の公益性を理解し,当面利用する予定がないなど まで考慮せずに送電線架設について地権者の承諾を得ることに傾注し,他方,山間部の線下地所有者も,このような電源開発及び送電設備事業の公益性を理解し,当面利用する予定がないなどの事情から,その所有地の上空に送電線が架設されることを安易に承諾したということもあり得たものと推認される。 (エ) 被控訴人は,線下地所有者との間で地役権を設定した場合でも契約書が作成されない場合も少なからずあり,未登記の地役権も数多く存在すると主張するが,控訴人の再三の要請にもかかわらず,本件送電線に関して,昭和28年当時に地役権を設定している具体的な事例を何ら挙げていない。 (オ) 以上の諸事情を総合考慮すると,被控訴人は,昭和28年当時,高圧電線である第1福島線の送電線建設事業に当たり,送電線下地の利用権として,その線下地を承役地とする地役権を設定するという明確な方針をもって臨んでいたとは認め難く,却って送電線建設の急務から,早急に鉄塔用地を確保し,送電線を架設するため,線下地所有者には上空架線の承諾を得ることを第1とし,それ以上に地役権の範囲や内容等を具体的に説明し,設定契約締結の意思を確認することなく,送電線を架設して現在に至っていることが窺われるところである。 そうすると,被控訴人が送電線の架設について当時の線下地所有者であるDの承諾を得た事実は認められるとしても,それをもって地役権設定契約の成立を認めるには幾多の疑問が残るといわざるを得ず,他に本件地役権設定契約の成立を認めるに足りる確たる証拠はないから,本件地役権設定契約の成立を認めることはできないというほ の成立を認めるには幾多の疑問が残るといわざるを得ず,他に本件地役権設定契約の成立を認めるに足りる確たる証拠はないから,本件地役権設定契約の成立を認めることはできないというほかない。 (3) 地役権の時効取得についてア被控訴人が,上記のとおり昭和28年に,当時の所有者であったDから承諾を得て,本件1の土地の上空に送電線を架設し,以後今日まで送電線を維持管理していることは,上記認定のとおりである。そして,証拠(甲7,13,14の1・2,18,19,22,証人Cの証言)によれば,第1福島線及び第2福島線のいずれもが,送電線の電圧15万4000ボルトで,送電線の中心線から片側5.75メートルの位置に最外側電線が架設されていることが認められるところ,旧電気事業法(昭和6年法律第61号)下の電気工作物規程(昭和24年通産省令第76号《85条1項第4号,92条》及び昭和29年通産省令第13号,電気事業法(昭和39年法律第170号)に基づく「電気設備に関する技術基準」を定める省令(昭和40年6月15日通産省令第61号)には,送電線から,建造物及び植物との離隔距離を5メートル以上保持しなければならず,線下地の所有者は一定の建造物の建築等禁止の不作為義務を負う旨定められ,証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によれば,本件送電線の最外側電線の5メートル外側の範囲は,本件2の土地に当たることが認められる。 そうすると,本件2の土地の範囲全部に及ぶかはともかく本件送電線の線下地において,継続的に同土地上空に本件送電線が存在することにより同土地所有権に上記の一定の制限を加えている外形的事実状態 ,本件2の土地の範囲全部に及ぶかはともかく本件送電線の線下地において,継続的に同土地上空に本件送電線が存在することにより同土地所有権に上記の一定の制限を加えている外形的事実状態が客観的に表現されているといえるから,被控訴人主張の地役権(正確な範囲はともかく)の外形的事実状態が継続的に表現されているということができないわけではない。 イところで,地役権の時効取得が成立するためには,その外形的事実状態の権原の性質上,地役権行使の意思に基づくものであることが客観的に表現されていることが必要であり,この要件は地役権の時効取得の成立を主張する者に立証責任があると解される。 しかるところ,被控訴人が本件送電線架設工事をするに際し,本件1の土地の当時の所有者であるDとの間で,同土地を承役地とする地役権設定契約を締結した事実が認められないことは上記説示のとおりであり,その契約締結のため交渉した形跡も窺うことができない。そして,被控訴人は,現在においても「架線等承諾書」等で線下地所有者から上空送電線架設の承諾を得ている例が相当数あること,被控訴人の設置する送電線下地においてどの程度地役権が設定されているのかについても明らかにしていないこと等上記認定の事情を合わせ勘案すると,本件送電線の開設が,その後の維持管理を含めても,地役権行使の意思に基づくものとは認め難いというべきである。 ウ以上の次第で,被控訴人主張の地役権の時効取得の成立も認めることはできない。 (債務《進入路造成工事費用の支払義務》不存在確認請求の当否について)(1) 控訴人らは,進入路造成工事費用の支払義務不存在確認請求に対する抗弁として,当審における当 ることはできない。 (債務《進入路造成工事費用の支払義務》不存在確認請求の当否について)(1) 控訴人らは,進入路造成工事費用の支払義務不存在確認請求に対する抗弁として,当審における当事者の追加的主張(2)アの(ア)と(イ)の被控訴人に対する債権を主張するが,その訴訟物である債務は,平成5年に控訴人らが進入路造成工事に着工したところ,被控訴人が不法に架線した本件送電線の高さが地上から低く接触の危険があったため工事を続行できず,新たに工事をする必要が生じたことによる工事費用相当額の損害賠償債務(上記(イ))であるから,上記(ア)主張の債権はこれに当たらず,主張自体失当である。 (2) そこで,上記(イ)主張の債権の存否について判断する。 ア証拠(甲2の2,17ないし21,乙12の1・2,13,18の1・2,19,21,22,証人Bの証言)及び弁論の全趣旨によれば,I町は,昭和57年に控訴人A及びFから本件1の土地の一部を道路敷として買収するなどして町道土町葉山線改良事業を行い,昭和56年から同路線の供用開始をしたこと,平成4年5月,同町は,控訴人らから,同事業により開設した別紙計画平面図記載の町道土町スキー場線と本件1の土地との落差が生じた補償として進入路造成の要望を受けて検討したが,同道路開設により損失が生じたわけではないとして補償工事はできないと回答したこと,その後の同年8月,控訴人A(控訴人らの長男Bが交渉に当たった。)と同町との間で,近傍の工事から出る残土を利用して同控訴人が工事施工業者を手配し進入路を造成することが合意されたが,残土搬出の時期が定まらず,しかも搬出期間が長期となる可能 た。)と同町との間で,近傍の工事から出る残土を利用して同控訴人が工事施工業者を手配し進入路を造成することが合意されたが,残土搬出の時期が定まらず,しかも搬出期間が長期となる可能性があったため,同控訴人の負担に配慮した同町が,工事施工業者に依頼して進入路造成のための盛土工事をしたこと,ところが本件送電線が低く,工事機械が本件送電線に接触する危険が生じたため,同年8月中旬ころ,同町は盛土工事を中止したこと,被控訴人は,同年秋ころ,Bから本件送電線の移設や嵩上げの要求に基づき,本件送電線の下に「防御ゲート」と称する鉄パイプにゴムを渡したゲートを設置したが,その状態ではやはり工事機械を搬入できず,同町は盛土工事を再開しなかったこと,そこで,Bは,平成6年7月,被控訴人に対し,被控訴人において進入路造成工事を完成するように要求し,同年8月以降,本件送電線の移設等を要求したこと,このような交渉の中で,被控訴人は,道路工事をすることはできないが,送電線の嵩上工事を計画の前倒しで早期に実現し,線下補償や工事費補償を支払う用意があるとして提案したが,控訴人らは,G建設株式会社作成の勾配8パーセントの擁壁を含めた進入路造成工事の見積書(見積金額約1億7000万円)を前提に,この造成工事費用の補償を求め,これに対し,被控訴人は同工事費の補償として340万円を限度と提案したことから交渉は平行線を辿り,翌平成7年3月,被控訴人は交渉を待たずに嵩上げ工事を実施し完了させたこと,そして,被控訴人は,平成8年4月,I町で造成盛土工事をしないため,被控訴人において進入路造成工事を完成させることを提案したが(乙22),控 ずに嵩上げ工事を実施し完了させたこと,そして,被控訴人は,平成8年4月,I町で造成盛土工事をしないため,被控訴人において進入路造成工事を完成させることを提案したが(乙22),控訴人らはその工事内容を不満として承諾せず,その後も進入路造成費用の補償額について交渉が続いたが合意に至らなかったこと,以上の事実が認められる。 イ以上の認定事実によれば,I町が,控訴人らの要望もあって,上記経緯で本件1の土地への進入路造成のため盛土工事を始めたところ,本件送電線が低く工事機械がこれと接触する危険があったことから同工事を中止し,以後同町による盛土工事の便宜を受けられなくなったことにより,控訴人らが損害を被ったことを認めることができる。 しかしながら,前記説示のとおり,被控訴人が,控訴人らに対し,地役権を主張することができず,本件送電線を本件1の土地上空を通過させる利用権限を何ら有していないとしても,上記アの認定事実に照らすと,上記盛土工事中止等による損害は,被控訴人が本件送電線を設置し,維持管理していること自体から予測できた損害とは到底認め難いというべきである。 もっとも,控訴人らがI町から上記盛土工事の便宜を受けることを説明し,その障害となる本件送電線の移設等を求めた時点以後,移設や嵩上工事が容易であるのに敢えてこれを引き延ばしたため,控訴人らが上記便宜を受けられなかったというような特別な事情があるならば,その不作為が違法となり,その場合に予測可能な同工事の中止による損害について,不法行為に基づく損害請求を認める余地がないではない。しかしながら,上記アの認定事実によれば,被控訴人もそれなり が違法となり,その場合に予測可能な同工事の中止による損害について,不法行為に基づく損害請求を認める余地がないではない。しかしながら,上記アの認定事実によれば,被控訴人もそれなりの対応をしたといえるから,上記不作為が違法となるような事情があるとまでは認めることができない。 ウなお,上記アの認定事実によれば,被控訴人は,控訴人ら側と本件進入路工事費用の補償交渉において,340万円の補償をすると提案したことが認められる。しかし,これは,本件送電線が存在するために,控訴人らがI町から上記盛土工事を受けられなくなった事実を踏まえて,控訴人らの抗議に対する解決策を提示したものであり,これをもって控訴人らの主張を根拠付けるものとみるのは相当でない。 エ以上検討の結果によれば,被控訴人が本件1の土地につき,地役権以外の利用権限を有するか否かについて判断するまでもなく,被控訴人は,控訴人らに対し,進入路造成工事費用の支払義務はないというべきであるから,被控訴人の同費用支払債務不存在確認請求は理由がある。 2 よって,上記判断と結論を異にする原判決主文第1,2項を取り消して,被控訴人の控訴人らに対する地役権確認及び地役権設定登記手続請求をいずれも棄却することとし,債務不存在確認請求についての原判決の判断は相当であるから(ただし,債務の特定において明白な誤謬があるから職権で更正する。),当該部分の本件控訴をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 仙台高等裁判所第1民事部裁判長裁判官佐 々 木寅男裁判官阿部則 おり判決する。 仙台高等裁判所第1民事部裁判長裁判官佐々木寅男 裁判官阿部則之 裁判官高橋光雄
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