平成23(ワ)11694

裁判年月日・裁判所
平成25年6月13日 大阪地方裁判所
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平成25年6月13日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成23年(ワ)第11694号特許権譲渡代金請求事件口頭弁論終結日平成25年3月28日判決原告 P 1同訴訟代理人弁護士廣谷行敏被告日本スピンドル製造株式会社同訴訟代理人弁護士岡田春夫同瓜生嘉子同内田誠 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,金3500万円及びこれに対する平成23年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 前提となる事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。 (1) 当事者被告は,産業機械やそのシステムの開発・製造等を行う株式会社である。 原告は,被告の従業員として生産技術業務に従事していたが,平成12年6月,被告在籍のまま被告の子会社である栄運輸の社長に就任し,同年10月に被告を退職して,栄運輸の社長に専従した。 (2) 原告方式の発明平成14,15年頃,丸一鋼管株式会社(以下「丸一鋼管」という。)から被告に対し,パイプを加工してテーパーポールを製造する設備(以下「本件加工機」という。)の引合いがあり,その中で,パイプ素材を自動的に把持し,20トンの張力に対応できる本件加工機用の自動チャック装 ら被告に対し,パイプを加工してテーパーポールを製造する設備(以下「本件加工機」という。)の引合いがあり,その中で,パイプ素材を自動的に把持し,20トンの張力に対応できる本件加工機用の自動チャック装置を開発する必要が生じた(以下「本件チャック開発」という。)。 被告は,上記のような自動チャック装置を開発したことがなかったため,被告の産機事業部長であったP2(以下「P2部長」という。)は,平成15年夏頃,当時栄運輸の社長であり,被告在籍中にパイプ加工機の製造に関与したことのある原告に,本件チャック開発を依頼した(その依頼の内容,趣旨については争いがある。)。 原告は,その後,パイプに張力がかかるとより大きな把持力を生じさせる自動チャック装置の構造を発明し(以下,これを「原告方式」といい,原告方式による自動チャック装置を「本件チャック装置」という。),平成15年9月20日付けでその基本となる構想を記載した図面を,定規等を用いて作成し,さらに,パイプサイズの変更に短時間で対応し得る装置の構想を手書きにより加筆し,同月26日,P2部長らに交付した(乙7。以下「乙7構想図」という。)。また,原告は,同年10月2日頃にも,原告方式に関する図面(乙8)を作成し,これを被告に交付した。 (3) 原告方式に係る特許出願及び本件譲渡被告は,原告方式を特許性のある発明と考え,平成15年12月3日,特許出願人を被告,発明者を原告として特許出願し(特願2003-404580。甲2),同月8日頃,原告に対し,原告方式に係る特許を受ける権利(以下「本件特許を受ける権利」という。)を被告に譲渡する旨の同月1日付け譲渡証書を作成させた(甲4。以下「本件譲渡証書」といい,本件譲渡証書に係る譲渡を「本件譲渡」という。本件譲渡の趣旨については争いが 「本件特許を受ける権利」という。)を被告に譲渡する旨の同月1日付け譲渡証書を作成させた(甲4。以下「本件譲渡証書」といい,本件譲渡証書に係る譲渡を「本件譲渡」という。本件譲渡の趣旨については争いがある。)。 (4) 第1号機の受注及び原告の詳細設計被告は,平成16年2月25日,丸一鋼管から本件加工機一式を2億8000万円で受注し,検討の結果,原告方式による本件チャック装置を採用することとし,同年7月頃,原告に対し,本件チャック装置の詳細設計を依頼した。 原告は,同月初旬頃から,被告事務所内の設計スペースに赴き,同年8月頃までに本件チャック装置の詳細設計を行い,被告に図面を交付した。 被告は,本件チャック装置を用いて本件加工機を製造し(以下「第1号機」という。),平成16年9月以降,順次,丸一鋼管に納品を開始し,検収を経て,平成17年4月,2億8000万円の支払を受けた。 (5) 特許登録及び原告への支払被告は,平成16年10月27日,発明の名称を「テーパー鋼管製造装置用のパイプ材把持装置」とする発明(以下「本件発明」という。)について,特許出願人を被告,発明者を原告とし,平成15年12月3日付け前記出願を優先権主張の基準日とする特許出願をしたところ(特願2004-311755),平成17年7月14日に出願公開され,平成19年4月27日に設定登録された(甲1,2)。 原告は,平成16年10月末をもって栄運輸を退職し,同年11月1日付けで被告と技術顧問委嘱契約を締結し,平成21年3月まで月額の報酬を受け,平成17年12月から平成20年12月まで年2回の賞与を受けた。 被告は,平成16年6月20日付けで,本件チャック装置の設計を代金130万円(税抜き),納期同年8月31日で原告に発注 酬を受け,平成17年12月から平成20年12月まで年2回の賞与を受けた。 被告は,平成16年6月20日付けで,本件チャック装置の設計を代金130万円(税抜き),納期同年8月31日で原告に発注する旨の注文書を作成し(甲6),平成17年4月28日,原告に136万5000円(税込み)を支払った。 (6) 第2号機の発注被告は,第1号機を納品した後頃,丸一鋼管より,さらに本件チャック装置を用いた本件加工機の発注を受け,平成20年9月頃までにこれを納品し,3億7500万円の支払を受けた(以下「第2号機」という。)。 2 事案の概要本件は,原告が,本件譲渡の際,原告方式によって得る利益に応じた相当の対価を被告が支払う旨の合意があり,当該対価は3500万円を下らない旨主張して,同合意に基づき,被告に対し,金3500万円及びこれに対する平成23年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 3 争点本件譲渡の際,原告方式によって得る利益に応じた相当の対価を支払う合意が成立したか。またその対価の額。 第3 争点に係る当事者の主張【原告の主張】 1 原告の基本主張(1) 原告と被告の間では,平成15年10月頃までに,本件譲渡について,原告方式が実用化されなかった場合には対価は発生しないが,実用化及び製品化された場合には,これによって被告が得た利益に応じ,原告は被告の従業員でないことから,職務発明の基準に照らして高額となる相当額の報酬を支払う旨の合意(以下,原告が主張するこのような合意を「本件合意」という。)が成立した。 (2) 原告方式の発明は特許登録され,第1号機及び第2号機として実用化され,製品化された。被告は,これらの売上げとし (以下,原告が主張するこのような合意を「本件合意」という。)が成立した。 (2) 原告方式の発明は特許登録され,第1号機及び第2号機として実用化され,製品化された。被告は,これらの売上げとして2億8000万円と3億7500万円を得て,相当の利益を得ていること,原告方式がなければ,被告は第1号機及び第2号機を納品できなかったことを考慮すると,本件合意に基づき被告が支払うべき金額は,3500万円を下ることはない。 (3) よって,原告は,被告に対し,本件合意に基づき,3500万円及びこれに対する訴状送達による催告の後から支払済みまで民法所定の遅延損害金の支払を求める。 2 本件合意成立の経緯(1) 原告は,平成15年夏頃,P2部長から本件チャック開発の相談を受けた際,被告において,発明の貢献度に応じて発明者に報奨金を支払う職務発明規定を導入したこと,その内容は,原告も閲覧可能である被告の知財グループの電子ファイルを開いて確認することができること等を聞いた。 原告は,その当時,栄運輸の整理で忙しかったことなどから,本件チャック開発を引き受けることまではしなかったが,原告が発明をすれば,原告は被告の従業員ではないため,職務発明規定による場合よりも高額の報奨金をもらえるとの認識があると共に,本件チャック開発に強い関心があったことから,暇なときに方法を考えるなどしていた。 (2) その後,原告は,原告方式を思い付き,自宅で構想図を完成させた上,同年9月22日頃にその写しを被告に交付し,被告の要望を受けて,同月26日頃,8種類のパイプを短時間で段取り替えできるようにしたT溝組合せ方式による修正図(乙7構想図)を被告に交付した。 被告における本件加工機開発の責任者であったP3課長は,原被告間のやり取 月26日頃,8種類のパイプを短時間で段取り替えできるようにしたT溝組合せ方式による修正図(乙7構想図)を被告に交付した。 被告における本件加工機開発の責任者であったP3課長は,原被告間のやり取りの中で,原告方式には職務発明的な部分があるが,原告は従業員ではないため職務発明とは異なる旨の理解をしており,原告の報酬は,職務発明規定に準じた評価基準で検討するが,その価格は職務発明に比べてはるかに高額になる旨を認識しており,原告と理解を共通にしていた。 (3) 上記経緯に基づき,原告と被告の間には,平成15年10月頃までに,本件合意が成立した。 (4) 原告は,同年12月8日頃,本件譲渡証書(甲4)に押印したが,同証書は,通常の職務発明の場合に作成されるものではなく,原告方式が職務発明ではないために作成されたものである。 (5) 被告の主張に対する反論ア被告は,平成15年夏頃のやり取りで本件チャック装置の開発についての有償委任契約が成立したと主張する。しかしながら,当時のやり取りは,あくまでも被告から相談を受けたという程度であり,委任契約に関する合意は成立していない(なお,被告が,このような主張をするようになったのは,被告代理人が本件に関与するようになってからである。)。また,原告は,P2部長に,開発に要した時間を記録しておくようにいわれたこともない(原告が作業時間を記録するようになったのは,詳細設計の発注を受けた平成16年7月になってからである。甲27,28)。なお,本件チャック開発は,被告にとって極めて大きな利益を生むものであり,そのような開発を時給数千円程度で依頼することはあり得ない。P2証言によっても,このときに具体的に時給額の取り決めはなかったとのことであり,具体的な上記契約の合意があったとは 利益を生むものであり,そのような開発を時給数千円程度で依頼することはあり得ない。P2証言によっても,このときに具体的に時給額の取り決めはなかったとのことであり,具体的な上記契約の合意があったとは認められない。 イ被告は,乙7構想図は,原告が,被告から丸一鋼管による引合いの内容について情報提供を受けた上で,被告のドラフト機や備品等を使用して作成したものである旨主張するが,そのような事実はなく,乙7構想図は,原告が,被告から具体的なスペック等の情報提供を受けることなく,自宅で作成したものである。 ウ原告は,平成17年4月に被告から136万5000円の支払を受けたが,この支払は,平成16年7月から8月頃の本件チャック装置の詳細設計の対価に限られ,原告方式を発明し,本件譲渡をしたことによって,被告が本件加工機を丸一鋼管に納品することができたことに対する報酬を含むものではない。被告は,前記支払の際に原告が提出した申請メモには,本件チャック装置の開発に要した時間も含め,400時間程度が記載されていたと主張するが,当時,原告が提出した申請メモは, 甲24のとおりであり,原告方式の発明に要した時間は含まれていない。 エ被告は,原告が被告の技術顧問となった後に,原告方式の発明に関してボーナスが支払われている旨主張するが,平成17年冬季一時金(乙10)の対象は,平成17年上期(4月から9月まで)の業績貢献(冷却メカニズムの解明)に対するもので,本件加工機に関する貢献は含まれていないし,そもそも,ボーナスの支払は顧問契約によるものであって,本件譲渡の対価とは無関係である。 3 本件譲渡の対価について(1) 原被告間では,平成15年12月の本件譲渡証書作成時には,本件合意はあったものの,原告方式がど 契約によるものであって,本件譲渡の対価とは無関係である。 3 本件譲渡の対価について(1) 原被告間では,平成15年12月の本件譲渡証書作成時には,本件合意はあったものの,原告方式がどの程度用いられるかも明らかではなく,対価についての具体的なやり取りはなかった。 しかしながら,被告においては,この少し前から職務発明規定が設けられており,原告は,そのことをP2部長から聞いていた。そして,当時,日亜化学工業の事件などを踏まえて,職務発明の場合には利益の5%を報奨金とするのが一般的な認識であり,原告及び被告もそのような認識であった。そして,原告方式は職務発明ではないことから,職務発明の判断要素(利益や貢献度など)を参考にしつつも,本件譲渡の対価は,職務発明の場合よりも高くなるのは当然であって,最低でも売上げ又は利益の10%以上という認識であった。 また,被告は,新日鐵と共有でパイプの加工方法の特許を有していたところ(甲25),被告が,同方法を用いた製品を新日鐵以外に販売する場合,1台目は600万円(当時の機械の価格が1台当たり1億3000万円程度であり,その約5%である。),2台目以降は1台当たり400万円の使用料を支払うとの合意があった(甲26参照)。このことから,原告は,本件特許を受ける権利について,少なくともこれ以上の評価がなされるものと認識していた。 被告も,原告と同様に上記認識を有していたことから,原被告間では,本件特許を受ける権利について,被告の利益に応じた対価で譲渡するとの合意があり,その対価額については,挙げた利益や貢献度によるが,売上げ又は利益の10%を基準に協議するとする旨の黙示の合意があった。 (2) 被告は,第2号機の検収が終了した後の平成21年3月12日, あり,その対価額については,挙げた利益や貢献度によるが,売上げ又は利益の10%を基準に協議するとする旨の黙示の合意があった。 (2) 被告は,第2号機の検収が終了した後の平成21年3月12日,原告にメールを送付して,これにより,対価に関する具体的なやり取りが始まった(甲10)。 原告は,当初,新日鐵への支払額(1号機600万円,2号機400万円)と同額の請求をしたが(甲14),新日鐵との共有の特許に係る発明を用いた機械の価格は1台1億3000万円程度であるのに対し,第1号機の価格は2億8000万円,第2号機の価格は3億7500万円であった。これに加えて,原告方式は原告が単独で発明したものであり,また譲渡対価は単なる使用料ではないことも加味すると,第1号機に係る対価は1600万円,第2号機に係る対価は2400万円を下らない(したがって,3500万円を下回らないとする原告の請求は合理的である。)。 (3) 本件チャック開発においては,原告方式による本件チャック装置のほかに,被告が独自に被告方式による自動チャック装置を開発しているが,被告方式は,張力が大きくなればなるほどパイプの把持力が減少してしまうという構造的な欠陥があるため,20トンの張力に対応できるような把持装置にはなり得ず(甲3,18参照),仮に20トンの把持力があったとしても,被告が計画していた54トンの把持力は達成されなかった。したがって,原告方式がなければ,被告は,丸一鋼管に本件加工機を納品することができず,利益を得られないばかりか大きな損害を被ったはずである。このことは,対価額の計算においても考慮されるべきである。 (4) また,被告は,原告に対して,栄運輸の社長としての報酬のほかに,136万5000円という破格の報酬(乙1),技術顧問の顧問契約料,通常支 ,対価額の計算においても考慮されるべきである。 (4) また,被告は,原告に対して,栄運輸の社長としての報酬のほかに,136万5000円という破格の報酬(乙1),技術顧問の顧問契約料,通常支 払われることのない技術顧問に対するボーナスの支払等によって,その功労に配慮をしてきた旨主張するが,栄運輸の社長としての報酬は平成16年7月以降,大幅に減額されているし,136万5000円の報酬は,被告が丸一鋼管への納入時期に間に合わないことを原告が見かねて,原告の申入れで詳細設計をしたことの対価であり,外注の場合と比較すれば,破格とはいえない。また,技術顧問の顧問契約についても,契約期間は平成21年10月31日までであったにも関わらず,被告の業績悪化を理由に同年3月で打ち切られているし,技術顧問に対するボーナスについても,他の顧問にも支払われていたことがあったのであり,被告の主張には理由がない。 【被告の主張】 1 被告の基本主張原被告間で本件合意が成立した事実はない。P2部長は,原告に対し,本件チャック開発を依頼し,原告がこれに費やした時間に応じて報酬を支払う旨を約したのであり,法的には(準)委任契約と解すべきものである。原告がした原告方式の発明,本件譲渡,本件チャック装置の詳細設計は,いずれも前記委任契約に基づくものであり,被告がこれに対する報酬として平成17年4月に136万5000円を支払ったことによって,すべて清算済みである。 2 本件チャック装置の開発経緯(1) 被告は,平成15年4月頃,丸一鋼管の引合いを受け,張力20トンまでに対応できる自動チャック装置を自社開発することとし,開発期限が切迫していたことから,自社開発と並行して原告にも開発をしてもらうことを考えた。そして,同年夏頃,P2部長が原告に電 ,張力20トンまでに対応できる自動チャック装置を自社開発することとし,開発期限が切迫していたことから,自社開発と並行して原告にも開発をしてもらうことを考えた。そして,同年夏頃,P2部長が原告に電話をかけ,本件チャック開発をした上で,そのアイデアを具現化した概略設計図(アイデア図)を作成して,これを完成させるよう依頼し,原告はこれを承諾した。このとき,被告のP2部長は,時間制で報酬を支払うことを企図して,原告に作業時間 を記録しておくように伝えており,原被告間では時間制で報酬を支払う旨の合意があった。 以上の経緯により,被告が原告に本件チャック開発と概略設計を依頼し,原告がこれを承諾したことで,両者間に早い段階で本件チャック開発と概略設計について,時間制で報酬を支払うこととする有償委任契約が成立したといえる。 (2) 被告は,その後,原告に対し,具体的に要求されるスペックや従来のチャックの問題点等について説明すると共に,被告の工場内に原告専用のドラフト機のある設計スペースを用意し,被告の備品も自由に使えるようにした。原告は,上記専用スペースを週2,3日訪れ,概略設計図(構想図)を作成した。原告は,平成15年10月頃,P2部長に同年9月20日付と10月2日付の手書きの概略設計図を提出した(乙7,8)。 P3課長は,当該概略設計図に記載された発明について,原告との面談を経て,同年12月3日,特許出願した。P3課長は,P2部長から,当該発明は職務発明には当たらないものの,委任契約に基づいて被告の名で出願できる旨の説明を受けていたが,後に争いが生じることを避けるため,原告に本件譲渡証書(甲4)の提出を求めた。なお,このときに対価の話は一切されなかった。 (3) 被告では,丸一鋼管から第1号機の注文を受 説明を受けていたが,後に争いが生じることを避けるため,原告に本件譲渡証書(甲4)の提出を求めた。なお,このときに対価の話は一切されなかった。 (3) 被告では,丸一鋼管から第1号機の注文を受けた後(乙9),本件加工機用の自動チャック装置について,原告方式と被告が独自に開発した被告方式との比較検討を行い,最終的に,原告方式を採用することが決定され,平成16年7月頃,被告は,丸一鋼管に納品する第1号機用の本件チャック装置の一部につき,原告に詳細設計を依頼し,原告はこれを承諾して,この部分についても有償の委任契約が成立した。 なお,このときも,報酬について特に話はなく,当初の依頼の際,時間制で報酬を支払うことを原告に伝えていたことから,概略設計の延長線上にある詳細設計も,同様に時間制で報酬を支払う合意があったといえる(なお,少なくとも詳細設計につき,原告は,時間基準による対価の支払いを了解していたことについては争いがない。)。 (4) 原告は,その後,被告に本件チャック装置の設計図を提出した。 3 本件譲渡の対価について(1) 被告は,上記のとおり,本件チャック開発の当初から,原告に同開発に係る対価を支払うつもりで,原告にもその旨伝えており,原告は,本件チャック開発と概略設計に要した時間や詳細設計に要した時間を記録していた。平成16年10月末,原告は栄運輸の社長を退任したことから,被告が子会社の社長に報酬を支払うことの税務上の懸念がなくなったため,被告は,原告に作業時間を記録したメモの提出を要請し,原告は,同年11月,平成15年の本件チャック開発及び概略設計から平成16年の詳細設計に至るまでに原告が費やした時間についての申請メモを提出した。被告は,原告から申請された時間に基づいて,原告に 原告は,同年11月,平成15年の本件チャック開発及び概略設計から平成16年の詳細設計に至るまでに原告が費やした時間についての申請メモを提出した。被告は,原告から申請された時間に基づいて,原告に支払うべき額を130万円(税抜き)と決定し,同金額を支払った(乙1。なお,時間単価3000円として逆算すると,合計時間は約400時間であり,これには本件チャック開発と概略設計に要した約100時間が含まれていると考えられる。)。(2) 本件特許を受ける権利は,上記1のとおり,委任契約に基づく開発の成果物として,原告から被告に引き渡されたものであって,委任の成果物として引き渡された概略設計図に含まれていたことになる。そもそも,被告が原告に依頼したのは,本件チャック開発と概略設計図の作成であるが,原告が当該委任契約の義務を履行する過程で原告方式の発明も同時になされたため,概略設計図の中に発明が含まれているという関係になったものである。 したがって,本件譲渡について,対価は独自には発生せず,上記のとおり,本件チャック開発に係る委任契約の報酬が支払われたことで,既に支払済みである。 (3) なお,仮に百歩譲って,原告に支払われた136万5000円に本件譲渡の対価が含まれていないと評価されるとしても,委任の対価は時間基準で計算するのが相当であり,被告が支払うべき対価は30万円程度(3000円×100時間)である。 4 原告の主張に対する反論(1) 原告は,被告の指示に応じて平成16年当時に提出した時間表(申請メモ)として,詳細設計に要した時間しか記載されていない甲24を提出する(以下「甲24メモ」という。)。しかしながら,原告が,本件訴訟で,被告に申請メモが残っていないことを確認した上で甲24メモを提出した て,詳細設計に要した時間しか記載されていない甲24を提出する(以下「甲24メモ」という。)。しかしながら,原告が,本件訴訟で,被告に申請メモが残っていないことを確認した上で甲24メモを提出したとの経緯に照らすと,甲24メモの信用性には疑問がある。 (2) 甲6の注文書は,平成16年6月20日付けで「丸一鋼管殿向けテーパーポール加工機自動チャック設計」とされ,詳細設計のみの対価と解し得る記載があるが,これは,実際に原告に報酬(130万円)を支払う際,被告が元子会社の社長である原告に報酬を支払うことを,税務上,問題視されないために,税理士のアドバイスに従ってバックデートした注文書を作成したものにすぎない。すなわち,当時,被告は,原告から栄運輸の株式を買い取っていたところ,税務調査がされた場合に,原告に対する報酬の支払いが,株式売却代金の上乗せか贈与と疑われる可能性があったことから,対価支払いの根拠となる注文書をバックデートして作成しておく必要があり,また,本来であればバックデートすべき日付は平成15年夏頃とすべきであるが,その当時,監査を受け,約1年前に財務諸表が確定しており,事業年度をまたいで作成日付を遡らせることは会計上も大きな問題があると考えられたため,詳細設計開始の前あたりの平成16年6月に遡らせたものである。 (3) 被告の知財担当者であるP4氏は,平成21年3月頃,原告に対し,実績報奨金についての連絡をしているが(甲10),これは,同人が当時の詳しい事情を知らないままに,被告が特許権者である本件発明について,職務発明に当たると誤解して行ったものにすぎない。なお,本件発明について特許権を取得したことによる独占の利益は,第1号機では全く生じておらず(第1号機の発注の際には,出願公開さえされておらず, て,職務発明に当たると誤解して行ったものにすぎない。なお,本件発明について特許権を取得したことによる独占の利益は,第1号機では全く生じておらず(第1号機の発注の際には,出願公開さえされておらず,本件発明に係る特許権がなければ丸一鋼管に納品することができなかったという関係がない。),第2号機においても実質的にないといえる。 (4) なお,被告は,原告に破格の報酬(136万5000円)を支払うと共に,技術顧問料を支払い(平成16年11月から平成17年10月までは月額27万円,同年11月から平成21年10月までは月額30万円),平成17年12月から平成20年12月にかけては,本来,技術顧問契約では支給されることのないボーナス(総支給額345万2800円)を支給した(これは,平成17年12月8日,原告の原告方式の発明による貢献を考え,P2部長がボーナス支給の伺書を提出したことによるものである。)。このように,被告は,原告の貢献に対して十分に報いてきた。 (5) また,原告は,原告方式がなければ,被告は丸一鋼管に第1号機及び第2号機を納品することができなかったと主張する。 しかしながら,被告の技術力をもってすれば,仮に原告方式がなくても,被告方式を改良することや親会社の技術支援を得ることなどによって対応可能であったと考えられ,直ちに原告が主張するような莫大な損害が発生するようなものではなかった(なお,被告方式は,原告が主張するような構造的欠陥を有するものではない。)。また,原告方式は,本件加工機の様々な技術のうちの一つにすぎず,同技術のみで競合他社と比較して優位に立っていたわけではなく,一部の性能が目標値に達していなかったことをもって,丸一鋼管が損害賠償請求をするとは考えられない。また,第2号機については,被告のサービス面で のみで競合他社と比較して優位に立っていたわけではなく,一部の性能が目標値に達していなかったことをもって,丸一鋼管が損害賠償請求をするとは考えられない。また,第2号機については,被告のサービス面での優位性が評価されたことにより受注できたものである。 そもそも,被告は原被告間の契約の趣旨により,原告方式の実施権を有しているのであって,そうである以上,本件譲渡がなければ原告方式を実施することができず,丸一鋼管に損害を与えたということにはならない。 (6) 被告が,平成15年頃,チャックメーカーに対し,1000万円で本件チャック開発を依頼した事実はない。被告の従業員が,付き合いのあるチャックメーカーに本件チャック開発を打診したときに,他のユーザーに転用できず,被告のみにしか供給できないチャックについては「1000万円をもらってもお断り」といって断られたことはあるが,被告から1000万円を提示して打診したことはない。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実上記前提となる事実並びに証拠(原告本人,証人P2ほか掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 原告と被告との関係原告は,昭和38年4月に被告に就職し,繊維機器副長,産業機械製造部長,生産技術・品質保証部長等を務めた後,平成12年6月からは,被告在籍のまま被告の子会社である栄運輸の社長に出向したが,同年10月,被告を退職し,栄運輸の社長に専従した。 原告は,被告在職中に,パイプ加工機のチャックに関する業務を担当するなどしており,平成15年7月から平成17年3月まで被告の産機事業部長を務めていたP2部長とは,被告での先輩後輩として,技術的な指導をするなど懇意な関係にあった(乙13)。 (2) 原告による本件チャック開 平成15年7月から平成17年3月まで被告の産機事業部長を務めていたP2部長とは,被告での先輩後輩として,技術的な指導をするなど懇意な関係にあった(乙13)。 (2) 原告による本件チャック開発,本件譲渡ア平成14,15年頃,丸一鋼管から被告に本件加工機の引合いがあった。 本件加工機は,アルミ・鋼鉄等のパイプ素材をテーパーポール(高速道路などの照明柱に使用される先端にいくに従って細くなるポール)に加工する機械である。本件チャック開発で採用されたスピニング方式のパイプ加工機は,パイプ素材を機械本体の所定の位置に固定した上で,パイプ素材の一端を張力台チャック,他端を主軸台チャックで把持し,パイプ素材を高速回転させながら主軸台が把持したパイプ他端を引っ張り,他方で張力台も把持したパイプ一端を反対方向に引っ張りながら,パイプ素材を高周波加熱炉によって加熱すると共に,絞り台ローラーの運動とパイプの移動との合成運動によって所望の形状に加工する仕組みになっている(甲3,乙13,弁論の全趣旨)。 丸一鋼管は,被告に対し,高周波加熱制御システムの確立,加工時間の短縮,加工時に生じる廃材を最小化する歩留まり構造(従来機では捨てしろが1.5mであったのを,0.2mにすること)などの仕様を求めると共に,チャック装置については,チャック動作を自動化しつつ,20トンの張力に対応できるものを求めた。被告は,その当時,アルミのパイプ素材で15トンの張力に対応できるチャック装置の開発実績があったが,20トンの張力に対応できるチャック装置については実績がなかった(乙13)。 イ被告は,丸一鋼管の要求仕様を満たす自動チャック装置を開発することとしたが,その開発は,丸一鋼管による他の要求仕様と切り離して行うことが可能であった。 については実績がなかった(乙13)。 イ被告は,丸一鋼管の要求仕様を満たす自動チャック装置を開発することとしたが,その開発は,丸一鋼管による他の要求仕様と切り離して行うことが可能であった。 被告の産機事業部のP2部長は,技術陣の経験不足などから,開発が時間的に間に合わないという事態を避けるため,平成15年夏頃,被告在職中の経験からチャック技術に詳しかった原告に電話を掛け,本件チャック開発について,よい知恵を出して欲しい旨依頼した。 ウ被告の依頼を受けた原告は,原告方式を発明して,平成15年9月26日頃,乙7構想図を被告に交付した。 原告方式は,のこ刃を有する外径コレットチャックと内径コレットチャックとが,油圧シリンダーで作動してパイプを把持する方式であり,絞りローラー等の作用でパイプに張力が加わると,のこ刃も同じ方向に移動しようとし,これによって,のこ刃の把持力が増加し,パイプはより強固に把持されることを特徴とする(甲3・4頁)。 なお,乙7構想図には,被告からの要望を受けて,丸一鋼管の要求仕様である,加工時間の短縮のために8種類のチャックをシングル段取りで取り替える方法(T溝組み合わせ方式)も記載された。また,乙7構想図には,「従来装置ではパイプ端不使用長さ1.5m→0.2mに短縮する。」として,歩留まりに関する丸一鋼管の要求仕様も記載された。 エ原告は,原告方式を説明する図面として,平成15年10月にも被告に図面(乙8)を提出した。被告のP3課長は,原告と協議の上,同年12月3日,原告方式について,特許出願人を被告,発明者を原告として特許出願し(特願2003-404580。甲2),前記出願後の同月8日頃,本件譲渡証書を原告に作成させた(甲4)。被告では,従業員が社 月3日,原告方式について,特許出願人を被告,発明者を原告として特許出願し(特願2003-404580。甲2),前記出願後の同月8日頃,本件譲渡証書を原告に作成させた(甲4)。被告では,従業員が社長に対して特許出願申請をする場合には「特許(意匠登録)出願申請書」という様式(甲33。末尾に「本申請書をもって発明創作者が工業所有権を受ける権利を会社に譲渡したものとする」と記載されている。)が用いられることがあったが,本件譲渡証書は,これとは書式が異なるものであった。 なお,原告方式について特許出願をすることを決めた際,同出願に要する図面等を作成した際,あるいは本件譲渡証書を作成した際に,原被告間で,その対価について,何らかの具体的なやり取りがなされたと認めるに足りる証拠は存しない。 (3) 被告における職務発明規定及び原告の認識ア被告では,平成15年4月1日,「NS職務発明規定」が設けられた(乙15)。同規定では,職務発明に関して,「特許,その他の登録後,存続中の工業所有権について,その実施により会社の業績に貢献するものについては,発明者に対して2年毎に,実績報奨金を支給する。」(第5条), 「実績報奨金は,その貢献度により次の等級を設ける。」「1級上限なし」「貢献度は製品販売利益を基礎とし,それに別に定める係数を掛けて算出するものとする。」(第6条)などと定められている。 イ上記職務発明規定は,被告社内のネットワークにおいて,閲覧することが可能であり,原告も,栄運輸のパソコンから閲覧することが可能であった。 原告は,平成15年夏以降,被告(P2部長)から話を聞いて職務発明規定にアクセスし,実績報奨金は貢献度に応じて支払われること,1級の場合には上限がないことについて確認したが,それ以 った。 原告は,平成15年夏以降,被告(P2部長)から話を聞いて職務発明規定にアクセスし,実績報奨金は貢献度に応じて支払われること,1級の場合には上限がないことについて確認したが,それ以上に詳細を確認することはなかった。 (4) 原告による詳細設計の実施ア本件加工機用の自動チャック装置については,被告の産機事業部でも,平成15年10月初旬頃から開発を行っており,同年12月頃,その概略設計を終えた(乙16,18。被告の産機事業部による方式を「被告方式」という。)。 被告方式は,パイプを把持するために,油圧シリンダーで作動する内径くさびを備えており,パイプの長手方向には固定され,内径くさびが強い力で引き込まれたときのくさび効果によってパイプの内径と接する内径コレット(パイプの内径に接する部分にのこ刃が設けられている。)がパイプ内径を押し広げ,外径コレットとの間で把持力をもつというものである(乙16,18)。 イ丸一鋼管は,平成16年2月25日,第1号機一式の製造を,2億8000万円で被告に正式発注した(乙9)。 これを受けて,被告では,当初,本件加工機用の自動チャック装置に被告方式を採用しようと考え,平成16年4月頃,被告方式による自動チャック装置の把持テストを実施した。その後,原告は,自ら被告に対し,被告方式よりも原告方式の方がはるかに優れている旨の説明を行い,把持テストの装置組立図を提出した(甲31)。被告では,同年6月頃,原告方式による本件チャック装置の把持テストを実施し,比較検討を行ったところ,被告方式よりも原告方式の方がよい結果であり,総合的にも優れていると判断されたため,原告方式を採用することとした。 ウ被告は,平成16年7月1日,原告に対し,原告方式による本件チ を行ったところ,被告方式よりも原告方式の方がよい結果であり,総合的にも優れていると判断されたため,原告方式を採用することとした。 ウ被告は,平成16年7月1日,原告に対し,原告方式による本件チャック装置の詳細設計(主軸台チャックと張力台チャックそれぞれにつき3種類ずつ)を依頼し(甲6参照),原告は,被告の専用スペースにおいてこれらの作業を行い(甲24),同年8月31日頃,被告に納品した。 原告は,平成16年7,8月に被告の専用スペースで作業した時間を,当時の手帳(甲28)に記載した。 (5) 丸一鋼管への納品ア被告は,平成16年9月頃から,第1号機について試運転,現地据付,現地試運転を順次進め,丸一鋼管の検収を経て,平成17年4月,2億8000万円の支払を受けた。 イ被告は,第1号機に続いて,丸一鋼管から第2号機も受注し,平成20年頃,3億7500万円の支払を受けた。 (6) 原告の処遇等ア被告は,平成16年10月27日,本件発明について,特許出願人を被告,発明者を原告とする特許出願を行ったが,その優先権主張については,平成15年12月3日の,原告方式についての前記出願を基準日とし,その後,平成19年4月27日にその登録を受けた。 イ原告は,平成16年10月末に栄運輸を退職し,同年11月1日,被告と技術顧問委嘱契約を締結し,原告は,被告に対する技術指導を随時行うこととされた(甲34,44)。 同契約に基づき,原告は,平成21年3月末まで月額27万円ないし3 0万円の報酬を受けた。 ウ平成17年12月8日,当時被告の本社工場長であったP2部長は,被告の社長宛てに,「丸一鋼管向けVF」,「20t強力自動チャック考案設計実用化」などにおける貢献を評価 0万円の報酬を受けた。 ウ平成17年12月8日,当時被告の本社工場長であったP2部長は,被告の社長宛てに,「丸一鋼管向けVF」,「20t強力自動チャック考案設計実用化」などにおける貢献を評価して,原告に対し,冬季一時金を組合員の月数を目処に支給するよう求める伺書を提出し(乙10),原告は,前記報酬に加え,平成17年12月から平成20年12月まで,年2回,総計345万円余のボーナスの支払を受けた。 (7) 原告に対する136万6500円の支払ア平成17年4月頃,丸一鋼管への検収の目処がつき,被告のP2部長は,原告との間で,本件チャック装置の詳細設計図の作成に関する報酬について協議した。 原告は,被告に対し,上記に要した時間を記載したメモを提出し,これに基づいて,被告は,原告に対し,136万5000円を支払うこととし,被告は,平成17年4月28日,原告に対し,「テーパーポール加工機自動チャック設計費」として,136万5000円(税込み)を支払った(乙1)。 イこのとき,平成16年6月20日付けで,被告(産機事業部)が原告に対し,金額を130万円(別途消費税6万5000円)で丸一鋼管向けの自動チャック設計を注文する旨の注文書が遡って作成された。 (8) その後の経緯ア平成21年3月12日,被告の技術開発室担当者であるP4氏は,原告に対し,本件発明(前記のとおり,平成19年4月27日に特許権の設定登録がされていた。)等について,被告の職務発明規定に基づき,平成19年2月から平成21年1月までの間における特許権の実績報奨を実施する旨告知し,算定した等級及び報奨金額についての質問や意見を同年3月19日まで受け付ける旨告知した(甲10)。  これを受けて,原告は,同月16日,意見書を提出し 奨を実施する旨告知し,算定した等級及び報奨金額についての質問や意見を同年3月19日まで受け付ける旨告知した(甲10)。  これを受けて,原告は,同月16日,意見書を提出し,本件チャック装置の開発経過及び純利益1億円以上の貢献度を加味して,世間一般の評価に遜色ないような再評価を強く希望する旨述べた(甲11)。 イ被告は,平成21年3月26日,原告出席の上で,臨時実績報奨委員会を開催した。同委員会において,P5業務室長から,本件チャック開発に関して,チャック専門メーカーに8種類のチャックの設計及び製作を打診したが,1000万円でもできないと断られたことが紹介され,原告は,被告に対し,報奨金として1000万円を要求した(甲13,14,乙3)。 ウ原告は,被告に対し,平成21年8月2日頃,自らの認識する事実経過を記載した意見書を送付し(甲16),同月3日頃,本件チャック開発については,チャック専門メーカーに断られ,被告の産機事業部で設計した方法も失敗であったことなどから,本件発明がなければ被告に損害が生じており,これを未然に防いだことが貢献度であるなどと述べる意見書を送付した(甲17)。 被告は,同月19日頃,原告に対し「実績報奨金額の妥当性について」と題する書面を送付し,その中で報奨金額は5万円(4級)と決定する旨述べた(甲5)。 エ原告は,同月29日頃,被告に対し,自分は本件チャック開発をしなければならない職務上の義務はなく,本件発明は職務発明ではないと述べた上で,これまでの経緯等を述べ,これらの事情に基づいて本件発明の対価が決められるべきである旨の意見書を送付した(甲18)。 被告は,同年9月4日頃,原告に対し,本件発明は,原告が被告在職中の知識を利用して,被告の指揮管理下で完成 事情に基づいて本件発明の対価が決められるべきである旨の意見書を送付した(甲18)。 被告は,同年9月4日頃,原告に対し,本件発明は,原告が被告在職中の知識を利用して,被告の指揮管理下で完成されたものであり,適正に譲渡書も提出されていることから職務発明であると考えており,仮に職務発明でないとした場合には,本件発明は被告が単独実施可能であることから,いずれにしても原告に対価を支払う義務がないとの解釈になる旨述べる回答書を送付した(甲19)。 原告は,同月16日頃,被告に対し,本件発明は職務発明ではないと述べ,本件譲渡証書を提出したから職務発明になるというわけではなく,また,本件譲渡証書を提出したから対価を放棄するということも明記されていなかったなどと主張した上で,それまでの経緯等を述べ,本件発明がなければ,結果として,本件チャック開発はあきらめざるを得なかったなどとする意見書を送付した(甲20,46)。 オその後,原被告間では,双方に代理人がついた上で交渉がされ,民事調停が不成立になったことを経て,本件訴訟提起に至った(甲8,9,21,乙3~5)。 2 事実認定の補足説明(1) 時間の記録について被告は,平成15年夏頃に,原告に本件チャック開発を依頼した際,原告に対し,後に精算して支払うので,費やした時間を記録しておくように依頼しており,本件チャック開発の対価を時間計算で支払う旨の合意があったと主張するが,このようなやり取りがされたことを認めるに足りる証拠はない。 (2) 原告方式の発明について原告は,平成15年夏頃以降,本件チャック開発において原告方式を発明するに当たり,丸一鋼管の要求仕様について,被告から何ら情報提供がなかったと主張するが,被告は,具体的な製品開発を前提とし ついて原告は,平成15年夏頃以降,本件チャック開発において原告方式を発明するに当たり,丸一鋼管の要求仕様について,被告から何ら情報提供がなかったと主張するが,被告は,具体的な製品開発を前提として原告に依頼をしているのであるから,そのパイプの径に関する情報(メインパイプサイズがφ190.7であること),歩留まりに関する情報(歩留まりを0.2mに短縮すること)シングル段取りに関する情報(パイプの種類が8種類あり,シングル段取りできるようにすること)については,被告から原告に知らされていたものといえる。もっとも,乙7構想図の体裁からすれば,原告が,乙7構想図を作成するに当たって,被告の設計室にあるドラフターや備品を用いていたとまでは認められない。 (3) 被告方式の欠陥について原告は,そもそも被告方式には,構造的な欠陥があり,20トンの張力に対応できるような把持装置にはなり得なかったなどと主張する。しかしながら,被告方式による自動チャック装置の把持テストの結果に関する客観的な証拠は提出されておらず(原告は,被告方式では20トンの張力によるテストはできなかったと供述するが,これを認めるに足りる証拠もない。),被告方式による自動チャック装置の把持テストの後,原告による原告方式が優れている旨の説明がなければ,被告は被告方式で進めようとしていたものと認められることも踏まえると,比較検討の結果,把持力については原告方式の方が優ったことから,原告方式が採用されるに至ったにすぎないものと認められる。 (4) 136万5000円の趣旨について被告は,原告に支払った136万5000円は,原告が,平成15年夏頃以降,本件チャック開発及び詳細設計図の作成に要した時間に基づいて詳細設計図の作成のみに限定せず定められた金額 0円の趣旨について被告は,原告に支払った136万5000円は,原告が,平成15年夏頃以降,本件チャック開発及び詳細設計図の作成に要した時間に基づいて詳細設計図の作成のみに限定せず定められた金額であり,乙7構想図の作成や本件譲渡についての対価も含むものである旨主張する。 しかしながら,上記金額は「テーパーポール加工機自動チャック設計費」として支払われていること(甲6),被告は,前記のとおり,平成21年になって,本件譲渡の対価としての意味合いを持つ実績報奨金の支給をしようとしていたことからすれば,本件譲渡の対価を含む趣旨とは認められないというべきである。 被告は,注文書(甲6)について,被告が元子会社の社長である原告に報酬を支払うことを税務上問題視されないために,税理士のアドバイスに従ってバックデートしたものを作成し,本来であればバックデートすべき日付は平成15年夏頃とすべきであるが,その当時,監査を受け,約1年前に財務諸表が確定していたことから,詳細設計開始の前あたりの平成16年6月に遡らせたものである旨主張する。 この点,確かに,原告が保有していた栄運輸の株式が,平成16年8月24日に当時の栄運輸の取締役に譲渡された上で,同年10月15日にさらに被告に譲渡されていることは認められるが(甲39,乙14),いずれにしても,上記日付のバックデートが,原被告間で,本件譲渡の対価が支払済みとされたことの積極的根拠となるものではない。 3 争点についての判断(1) 前記1及び2の認定及び判断を前提に,本件譲渡に関し,平成15年10月頃,原告方式が実用化・製品化された場合には,被告の職務発明規定が利益変動型であることから,被告従業員ではない原告に対し,被告が得る売上げ又は利益の10%を対価として支払う旨の合意 平成15年10月頃,原告方式が実用化・製品化された場合には,被告の職務発明規定が利益変動型であることから,被告従業員ではない原告に対し,被告が得る売上げ又は利益の10%を対価として支払う旨の合意があったとの原告の主張が認められるかにつき検討する。 (2)ア前記1(2)で認定したところによれば,原告による本件チャック開発は,原告に対し具体的な契約条件(報酬,納期等)を明示して開始されたものではなく,原告と被告の担当者(P2部長)との人的な関係を背景にして,P2部長が原告に依頼し,原告がこれに応じる形でされたものといえる。原告は,被告において,利益変動型(上限額なし。)の実績報奨金が支給される旨の職務発明規定が創設されたことを知り,そのことが,本件チャック開発に携わる動機の一つであったと述べていることなどに照らせば(甲45・2頁),遅くとも本件譲渡の時点で,原告は,原告方式が採用された場合には,職務発明規定を参考にしつつ,原告が従業員ではないことを考慮して,被告から利益変動型の高額の報酬が支払われる可能性がある旨の期待を有していたということは認められる。 しかしながら,原告は,平成15年9月に乙7構想図を提出しているが,この時点では,丸一鋼管からの正式な発注はなく,原告方式を丸一鋼管の製品に採用するか否か,原告方式について特許出願をするか否か,被告がどの程度利益を得られるかについては確定しておらず,本件譲渡の対価に関する何らかのやり取りがされた形跡も認められない(なお,原告は,P3課長から,原告方式について職務発明規定が適用できる旨の話を聞いた旨供述するが,仮にそのような事実があったとしても,原被告間で具体的な合意があったとまでは認められない上,当該事実は,原告の主張する合意内容とも異なるものである。 発明規定が適用できる旨の話を聞いた旨供述するが,仮にそのような事実があったとしても,原被告間で具体的な合意があったとまでは認められない上,当該事実は,原告の主張する合意内容とも異なるものである。)。その後,被告は,平成15年12月に,原告方式について特許出願をしているが,この時点でも,原告方式を丸一鋼管の製品に採用するか否かも確定していない等の前記状況に変化はなく,譲渡対価に関するやり取りがされた形跡も認められない。原被告間で,本件チャック開発に関し,初めて具体的に報酬に関するやり取りがあったと認められるのは,平成17年4月頃に136万5000円が支払われたときであるが,前述のとおり,当該金額は,詳細設計に対応するものであり,本件譲渡の対価が含まれないことは前述のとおりである。 そもそも,原被告間では,本件譲渡に関しては本件譲渡証書が作成され,本件チャック装置の詳細設計に対する対価や技術顧問としての報酬の支払に関しても,いずれも書面が作成されており,仮に本件合意が成立したとすれば,乙7構想図を被告に交付した時点,原告方式について特許出願し,本件譲渡証書を作成した時点,詳細設計の図面を被告に交付した時点,本件発明について特許出願した時点,被告と技術顧問契約を締結した時点,あるいは,詳細設計の対価の支払を受けた時点で,本件譲渡に対する対価が未清算であり,その点を明確にする必要があるとして,被告に合意書,契約書の作成を求めることは可能であり,本件合意が実際に成立していたとすれば,被告においてもこれを拒むことはできなかったはずであるが,本件合意を内容とする書面が作成された事実は認められず,原被告間に上述のようなやり取りがあったとも認められない。 また,本件合意は,上記のとおり,本件加工機がどのようにな かったはずであるが,本件合意を内容とする書面が作成された事実は認められず,原被告間に上述のようなやり取りがあったとも認められない。 また,本件合意は,上記のとおり,本件加工機がどのようになるかが未確定な時点で,被告が将来的に,原告に対し多額の変動する債務を負担することを内容とするものであるが,このような合意の成立に関し,原告は,被告の代表権を有する者,あるいは少なくとも,契約締結について決裁権限を有する者との間で明示的に交渉した旨を述べておらず,原告がそう認識していた旨を述べ,被告の担当者であるP2部長やP3課長も同様の認識であったと主張するにすぎない。 さらに,仮に本件合意が成立しているとすれば,第1号機の検収が終了した平成17年4月の時点,あるいは遅くとも第2号機が納品された平成20年頃の時点で,被告に対し,本件合意に基づく対価を要求し得るところ,原告がこれを要求したのは,技術顧問としての報酬が支給されないこととなった平成21年3月以降のことであるし,前記認定のとおり,その交渉の過程で,原告は自身の貢献を考慮すべきことは主張したものの,平成15年10月頃に本件合意が成立した旨の主張はしていない。 以上を踏まえると,平成15年10月頃,原被告間で,本件譲渡の対価を,被告の利益に応じて支払う旨の明示的な合意が成立したと認めることはできない。 イまた,被告の職務発明規定について,原告は,従業員ではないことを考慮して,利益変動型の高額の報酬が支払われる可能性がある旨期待していたとするが,当該職務発明規定は,当該発明に関して利益があった場合であっても,権利に係る部分の製品全体中の原価割合,営業価値(客先へのアピール度),技術価値(技術の独占的優位性),コストダウン効果等の諸事情を踏まえて,報奨金 利益があった場合であっても,権利に係る部分の製品全体中の原価割合,営業価値(客先へのアピール度),技術価値(技術の独占的優位性),コストダウン効果等の諸事情を踏まえて,報奨金額を算定するものとされており(甲5,乙15),当該発明が製品化されて利益が出た場合であっても,直ちに高額の報奨金が認められるようなものでもないことから,原告が抱いていた上記期待は,被告において理解されていたとまでは認められない。 本件では,原告と被告との従前の関係,原告が本件チャック開発を依頼された経緯,本件譲渡当時,職務発明規定が創設されていたこと,平成21年以降,被告から原告に対し,本件発明に関し,職務発明の実績報奨金を支払う旨の連絡がされていること等を踏まえると,平成15年12月当時,本件譲渡の対価について,原被告では,将来的に,被告の職務発明規定に従って譲渡対価を計算することがあるという程度の共通認識があった可能性はあるが(なお,本件訴訟で,原告は,被告の職務発明規定に従って算出した対価を請求するものではなく,むしろ,従業員ではない原告について,被告の職務発明規定に従った算定をすることを否定する主張をしている。),これを超えて,原被告間で,本件譲渡の対価を丸一鋼管への売上げ又は販売利益の10%とする旨の黙示の合意が成立していたと評価すべき事情はないといわざるを得ない。 なお,平成17年4月に原告に支払われた金員については,本件チャック装置の詳細設計の対価とみるべきであり,これに原告方式の発明や本件譲渡に対する対価が含まれているとの被告の主張が採用できないことは,既に述べたとおりである。しかしながら,原告は,原告方式が第1号機の本件チャック装置として実用化された後であり,また本件発明について特許出願がされた後である平成16年11月 張が採用できないことは,既に述べたとおりである。しかしながら,原告は,原告方式が第1号機の本件チャック装置として実用化された後であり,また本件発明について特許出願がされた後である平成16年11月以降,被告の技術顧問に採用されて定期的に報酬を受けることになり,また,原告方式の実用化を理由の一つとして,ボーナスを支給されるようになったのであるから,原告が,原告方式の発明や本件譲渡の対価としての性質を有するものを何ら取得していないということにはならないし,平成17年 4月の前記金員に,原告方式の発明や本件譲渡の対価が含まれないとの事実から,これとは別に,平成15年10月頃,本件合意が成立していたであろうと推認することもできない。 (3) 原告は,原告方式がなければ,丸一鋼管からの注文を受けられなかったことを考慮すべきであると主張するが,被告では被告方式の開発も進められていたことからすれば,原告方式がなければ丸一鋼管からの発注を受けられなかったという関係自体直ちに認めることはできないし,仮にそのような事情があったからといって,原被告間で,直ちに本件合意を成立させることにはならないから,原告の主張の根拠とはならない。原告は,平成21年3月25日の臨時実績報償委員会で,チャック専門メーカーに本件チャック開発を断られた際に1000万円という数字が出ていたことを聞いて,1000万円の請求をするが,これについても同様に原告の主張の根拠となるものではなく,そもそもこのように事後的に種々の主張をすること自体が,対価に関する明確な認識が原告自身にもなかったことを裏付ける事情といえる。 なお,原告の主張は,日亜化学工業の事件などを踏まえて,職務発明の場合には利益の5%を報奨金とするのが一般的な認識であり,これに基づいて,本件譲渡の 身にもなかったことを裏付ける事情といえる。 なお,原告の主張は,日亜化学工業の事件などを踏まえて,職務発明の場合には利益の5%を報奨金とするのが一般的な認識であり,これに基づいて,本件譲渡の対価は売上げ又は利益の10%である旨の合意があったと主張するが,同事件の和解案が発明者貢献度を5%としたことをもって,本件の譲渡対価が売上げ又は利益の10%であると主張するのは明らかに論理の飛躍があるのであって,到底認められない。 4 結語以上のとおり,本件においては,原告が主張するような,本件譲渡の対価に関する合意が成立したとは認められないから,その余の点について検討するまでもなく原告の請求は失当である。 したがって,原告の請求には理由がないから,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官谷有恒 裁判官松川充康 裁判官網田圭亮

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