- 1 - 平成30年10月30日判決言渡平成30年(行コ)第158号外務員職務停止処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成28年(行ウ)第147号) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 本件を東京地方裁判所に差し戻す。 第2 事案の概要 1 金融商品取引法(特段の言及がない限り,平成27年法律第32号による改正前のもの。以下「金商法」という。)に基づき,内閣総理大臣から金融商品取引業者所属の外務員(以下,単に「外務員」という。)に係る登録事務の委任を受けている認可金融商品取引業協会である被控訴人は,同法64条の5第1項に基づき,平成27年10月6日付けで,所属の金融商品取引業者であるA株式会社(以下「A」という。)に対し,同社の従業員であり同社のために同法64条1項各号の行為を行う外務員として登録を受けている控訴人につき,みなし公務員である厚生年金基金の役職等に対し特別の利益提供をしていた(その一部につき贈賄罪として有罪判決を受けた)として,1年6か月間外務員の職務の停止を命ずる旨の処分(以下「本件職務停止処分」という。)をした。なお,上記贈賄罪の有罪判決とは,平成26年7月16日,東京地方裁判所において,懲役10月,執行猶予3年の有罪判決を受けたもので,同判決は確定している。 本件は,控訴人が,被控訴人に対し,本件職務停止処分の取消しを求める事案である。 - 2 - 2 原審は,本件職務停止処分に付された期間の終期である平成29年4月5日が経過したことにより,本件職務停止処分の効力はなくなり,金商法には,過去にお しを求める事案である。 - 2 - 2 原審は,本件職務停止処分に付された期間の終期である平成29年4月5日が経過したことにより,本件職務停止処分の効力はなくなり,金商法には,過去において職務停止処分を受けたことを理由として不利益な取扱いをすべき旨を定めた規定はないから,控訴人は,本件職務停止処分の効果がなくなった後においてもなお同処分の取消しによって回復すべき法律上の利益(行政事件訴訟法9条1項括弧書き)を有するものとはいえず,本件訴えは,訴えの利益を欠く不適法なものであるとして訴えを却下した。 3 これを不服とする控訴人が控訴し,原判決を取り消した上,東京地方裁判所へ差し戻すことを求めた。 4 関係法令の定め,前提事実,争点及びこれについての当事者の主張の要旨は,次の5のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1ないし3(原判決2頁21行目から9頁24行目,17頁から40頁)に記載のとおりであるからこれを引用する。 5 原判決の補正(1) 原判決33頁26行目の「「考え方」は,」の後に「その「Ⅱ」に「過去の行政処分及び自主規制処分の有無に応じ加重する。」と明言し(「加重することがある」という規定ではない。),」を加える。 (2) 原判決34頁4行目の「(イ)参照)。」の後に「行政手続法2条8号ハ,12条にいう「処分基準」とは,不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいうとされているところ,」を加える。 (3) 原判決34頁8行目の「許されない。」の後に「これは,最高裁平成27年判決が採用するところでもあり,上記のとおり,「考え方」は被控訴人の裁量権行使を拘束するものであり,確かに,具体的 (3) 原判決34頁8行目の「許されない。」の後に「これは,最高裁平成27年判決が採用するところでもあり,上記のとおり,「考え方」は被控訴人の裁量権行使を拘束するものであり,確かに,具体的な職務停止処分の期間が明示されているものではないが,それは裁量権の拘束の程度の問題にすぎない。」を加える。 - 3 - (4) 原判決34頁26行目の「しても,」の後に「上記のとおり,具体的な職務停止処分の期間が明示されているものではないとはいえ,」を加える。 (5) 原判決35頁1行目の「というべきである。」の後に「このように明示された考え方に従わずに被控訴人による処分がされることになれば,処分に透明性があるといえるのか疑問であり,また,どのような処分がされるのか全く予見できないことになる。」を加える。 (6) 原判決35頁8行目の末尾の後に改行の上,「処分の期間が経過するや,訴えの利益がないとして却下されてしまうのは,憲法32条の国民の裁判を受ける権利を侵害するものである。」を加える。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,原判決が判示したとおり,控訴人の訴えは不適法であり却下すべきものと判断する。その理由は,次の2のとおり原判決を補足するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の1(原判決10頁7行目から15頁17行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 2 原判決の補足(1) 原判決13頁1行目の末尾の後に改行の上,次のとおり加える。 「 この点,確かに,「考え方」では,上記の「審査の指針」において,「過去の行政処分及び自主規制処分の有無に応じ加重する。」としているが,その加重の方法や程度は具体的ではなく,さらに,「その他,情状(中略)等に応じ加重又は軽減する。」 記の「審査の指針」において,「過去の行政処分及び自主規制処分の有無に応じ加重する。」としているが,その加重の方法や程度は具体的ではなく,さらに,「その他,情状(中略)等に応じ加重又は軽減する。」とも記載されていることからすると,「過去の行政処分の有無」は,金商法64条の5第1項に基づく裁量権行使に当たり当然に考慮されるべき諸事情を注意的に掲げることと大差がないといわなければならない。「考え方」では,以上に加え,登録取消しを原則とし,登録取消しとならない場合であっても,重い職務停止処分となる場合の行為を特に掲げ,その中には,上記「再違反行為」が挙げられているが,これについても,登録取消しとならない場合がどういう場合か具体的ではなく,さらに,- 4 - 重い職務停止処分がどの程度重い処分なのかについても具体的とはいえず,これについても,考慮されるべき諸事情を注意的に掲げることと質的な差があるとまではいえない。このような「指針」を示すことは,それがない場合に比して,一定程度処分の透明性や予見可能性を高めることはできるものの,それが裁量権行使を拘束するような「処分基準」といえるだけの具体的かつ明確な基準となっているものではない。これを裁量権行使の拘束の程度の問題と解することはできず,そもそも裁量権行使を拘束するだけの具体性や明確性を有さないというべきである。ただし,欠格事項該当者に対する処分については,一定の条件の下,「登録取消しとする」と規定しており,その限度では具体的かつ明確に定めているということができるが,上記のとおり,それ以外の規定内容からすると,「考え方」の全体の趣旨が,裁量権行使を拘束するものとは認められないというほかなく,この欠格事項該当者の場合のみ裁量権行使を拘束する基準であると解することはできない。現に,後記のと 内容からすると,「考え方」の全体の趣旨が,裁量権行使を拘束するものとは認められないというほかなく,この欠格事項該当者の場合のみ裁量権行使を拘束する基準であると解することはできない。現に,後記のとおり,被控訴人において,欠格事項該当者であって条件を満たす場合でも,情状により登録取消しではなく,職務停止処分とすることができると解して実際の運用がされていて,その趣旨は,裁量権行使を拘束するものではなく,他の規定と同様に基本的考え方や指針を示したものと解されている。 以上のとおり,もともと金商法64条の5第1項に基づく監督上の処分については,過去の行政処分により後の行政処分等が加重される旨の法令の規定がなく,「考え方」は,行政手続法12条1項の規定する処分基準として金商法64条の5第1項に基づく裁量権行使を拘束するものであるともいえず,過去に受けた行政処分は,当該裁量権行使において事実上考慮される諸事情の一つでしかない。そのため,本件職務停止処分の効果が停止期間の経過によりなくなった後において,同処分の取消しをしてもそれによって回復されるものも事実上の利益でしかなく,行政事件訴訟法9条1項括弧書きが定める「法律上の利益」に該当するということはできない。」- 5 - (2) 原判決13頁11行目の末尾に「なお,透明性及び予見可能性が高まるといっても,上記のとおり,裁量権行使を拘束する場合ほどに透明性や予見可能性が高まるとはいえないものの,基本的な考え方や指針を示すことは,透明性や予見可能性を高める一助となることは否定できないのであり,透明性や予見可能性の確保のために常に裁量権行使を拘束するような処分基準を定めなければならないとすることはできない(行政手続法12条1項も,「努めなければならない。」としているにとどまる。)。」を加える。 や予見可能性の確保のために常に裁量権行使を拘束するような処分基準を定めなければならないとすることはできない(行政手続法12条1項も,「努めなければならない。」としているにとどまる。)。」を加える。 (3) 原判決15頁16行目の末尾に「なお,以上のとおり,本件職務停止処分の効果が停止期間の経過によりなくなった後において,同処分の取消しをしてもそれによって回復されるものは事実上の利益でしかなく,行政事件訴訟法9条1項括弧書きが定める「法律上の利益」に該当するということはできない場合に,その取消しの訴えが訴訟要件を満たないとして却下されるとしても,憲法32条の国民の裁判を受ける権利を侵害するものであるということができないことはいうまでもない。」を加える。 3 以上によれば,原判決は相当であって,控訴人の本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第19民事部 裁判長裁判官都築政則 裁判官石原寿記 - 6 - 裁判官山本 拓
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