判決平成14年6月21日神戸地方裁判所平成14年(わ)第235号,同第345号保護責任者遺棄致死,保護責任者遺棄被告事件 主文 被告人を懲役2年に処する。 未決勾留日数中60日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成11年2月10日会社員である分離前の相被告人Aと婚姻し,同12年3月ころから,神戸市兵庫区O町a丁目b番地のc所在のPd号室において,A及びAとの間にもうけた長男W(同11年7月25日生,当時2歳6か月)及び次男V(同12年7月12日生,当時1歳7か月)と共に生活して同児らを養育していたものであるが,Aはほとんど育児にかかわろうとせず,同児らの養育はすべて自己に押しつけられた上,身近な相談相手もいなかったことなどから育児について思い悩んでいたところ,同14年1月中旬ころ,Aとの間でささいなことから言い争いになり,被告人は,Aが同児らの面倒を見ないことをなじったところ,逆にAから暴行を受けたことを契機に,いっそう家事や育児への意欲を失い,同児らに十分な食事を与えるなどの必要な保護を怠るようになり,第1 同年2月12日ころに至って,Vはやせ細り,その動きが緩慢となり,極端な栄養失調状態に陥ったのであるから,Vの母親として,Vに栄養分を補給するのはもちろん,医師による診察治療を受けさせるなどのVの生存に必要な保護を加えるべき責任があったにもかかわらず,そのころから同月16日ころまでの間,漫然とその状態を継続して放置し,もって,Vの生存に必要な保護をせず,その結果,同月16日ころ,同所において,Vを極度の栄養失調により衰弱死するに至らせた。 第2 同年2月12 16日ころまでの間,漫然とその状態を継続して放置し,もって,Vの生存に必要な保護をせず,その結果,同月16日ころ,同所において,Vを極度の栄養失調により衰弱死するに至らせた。 第2 同年2月12日ころに至って,Wはやせ細り,立ち上がることもできなくなり,極端な栄養失調状態に陥ったのであるから,Wの母親として,Wに栄養分を補給するのはもちろん,医師による診察治療を受けさせるなどのWの生存に必要な保護を加えるべき責任があったにもかかわらず,そのころから同月16日ころまでの間,漫然とその状態を継続して放置し,もって,Wの生存に必要な保護をしなかった。 (証拠の標目)省略(法令の適用)被告人の判示第1の所為は刑法219条(218条)に,判示第2の所為は同法218条にそれぞれ該当するところ,判示第1の罪について,同法10条により同法218条所定の刑と同法205条所定の刑とを比較し,重い傷害致死罪の刑により処断することとし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役2年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中60日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由) 1 本件は,被告人が,長男W(当時2歳6か月)と次男V(当時1歳7か月)の幼児二人の養育を放棄し(いわゆるネグレクト),その生存に必要な保護をせず,その結果,次男Vを衰弱死するに至らせた,という保護責任者遺棄致死及び保護責任者遺棄の事案である。 2 まず,被告人は,被害児らの母親である上,夫が育児に関心を示さない状況下においては,被害児らの面倒を見ることのできるほぼ唯一の存在であって,被告人 任者遺棄致死及び保護責任者遺棄の事案である。 2 まず,被告人は,被害児らの母親である上,夫が育児に関心を示さない状況下においては,被害児らの面倒を見ることのできるほぼ唯一の存在であって,被告人の保護なくして,被害児らは成長はもとより,生存すらできないことにかんがみれば,被告人が被害児らに対して負う保護責任は最も重いものであるといわなければならない。被告人は,育児を含め家庭をあまり顧みない夫から二人の子の育児を押しつけられたことに疎外感,無力感を覚え,自己の生活に嫌気がさし,自殺すら考える中で本件犯行に及んだものであるが,前述した被告人が負っている保護責任の重大さに照らすと,このような動機・経緯を被告人のために酌むべき事情として過大に評価することはできない。むしろ,被告人は,幾度も児童相談所等から差し伸べられた支援の手を,ことごとく拒絶し,家族を含め他人と相談することなく被害児らへの不保護を続け,次男Vについてはついには死に至らしめたのであって,その経緯は,身勝手で非情なものといわざるを得ない。そして,本件犯行の態様についてみると,被告人は,被害児らに対し,おむつを交換することも十分な食事を与えることもせず,その衰弱を目の当たりにしてすら医師による診察を受けさせることなく漫然と放置したものであって,このような本件不保護の態様は,親が負うべき保護責任を全く果たさなかったものとして極めて悪質である。被害児らは,閉め切られた自宅の一室で,汚物等にまみれ,悪臭の漂う劣悪というほかない環境に放置され,とりわけ,次男Vは,同年齢の幼児と比して極めて発育の不良なまま,文字どおり骨と皮のやせ細った無惨な姿で空腹感にさいなまれ極度の栄養失調により衰弱死したもので,将来無限の可能性を有するにもかかわらず,信頼していた母親である被告人から見放されたその絶 不良なまま,文字どおり骨と皮のやせ細った無惨な姿で空腹感にさいなまれ極度の栄養失調により衰弱死したもので,将来無限の可能性を有するにもかかわらず,信頼していた母親である被告人から見放されたその絶望感,無念さは察するに余りある。さらに,近時,こうしたいわゆるネグレクトを含む児童虐待行為が社会的に問題になっているところ,本件犯行の社会的影響も無視することはできない。 このような諸事情に照らすと,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 3 しかしながら,他方,被告人は,本件当時,いわゆる育児ノイローゼや夫との口論等で,精神的に相当程度追いつめられた心理状態であったにもかかわらず,被告人と同じく育児に対して責任を持つべき夫が育児に無関心で,育児に関して何ら実質的な協力を得ることができなかったこと,捜査段階から現在まで一貫して事実を全て認め,当公判廷においても素直に反省や被害児らへの謝罪の情を示していること,初めての身柄拘束の期間中,自己がした行為及びその結果の重大性を十分に認識した上,今後は,Wを愛情を持って育て,一生をかけて罪を償いたいと公判廷で涙ながらに述べていること,被告人の実父が,被告人及びその子らの今後の生活を支援し,被告人の更生のため協力をすると証言していること,被告人に前科・前歴は全くないことなど,被告人にとって有利な事情も認められる。 4 前記2で述べた本件の犯情にかんがみると,上記のとおりの被告人のために酌むべき情状を十分考慮しても,その責任を全うさせるためには実刑は免れないが,以上のような諸事情を量刑上考慮し,被告人に対し,主文の刑を定めた。 (求刑・懲役4年)平成14年6月21日神戸地方裁判所第4刑事部裁判長裁判官笹野明義 ,主文の刑を定めた。 (求刑・懲役4年)平成14年6月21日神戸地方裁判所第4刑事部裁判長裁判官笹野明義裁判官浦島高広裁判官谷口吉伸
▼ クリックして全文を表示