平成15(行ウ)34 障害年金再裁定処分取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成16年4月13日 東京地方裁判所 その他
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判決文本文20,141 文字)

主文 1 被告社会保険庁長官が原告に対して平成13年9月13日にした障害年金に係る昭和52年5月2日付けの裁定の取消処分及び被保険者期間143月及び同期間の平均標準報酬月額を基礎として同年金を再裁定する処分のうち、昭和50年11月から平成13年9月までの年金額についての旧裁定を取消し、新たな裁定をした部分を取り消す。 2 被告国は、原告に対し、金56万4279円及びうち53万0313円に対する平成15年10月16日から支払済みに至るまで、うち3万3966円に対する平成15年12月16日から支払済みに至るまで、それぞれ年5分の割合による金員を支払え。 3 原告と被告国との間において、原告が平成13年9月13日以前に受領した厚生年金について返還債務が存在しないことを確認する。 4 原告の被告社会保険庁長官に対するその余の請求を棄却する。 5 訴訟費用は被告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告社会保険庁長官が平成13年9月13日に原告に対してした障害年金に係る昭和52年5月2日付けの裁定を取り消し、被保険者期間143月及び同期間の平均標準報酬月額を基礎として同年金を再裁定した処分を取り消す。 2 被告国は、原告に対し、金56万4279円及びうち53万0313円に対する平成15年10月16日から支払済みに至るまで、うち3万3966円に対する平成15年12月16日から支払済みに至るまで、それぞれ年5分の割合による金員を支払え。 3 原告と被告国との間において、被告国が、原告に対して支払済みの厚生年金の返還債務が存在しないことを確認する(原告は返還債務の金額を特定して同債務の不存在の確認を請 割合による金員を支払え。 3 原告と被告国との間において、被告国が、原告に対して支払済みの厚生年金の返還債務が存在しないことを確認する(原告は返還債務の金額を特定して同債務の不存在の確認を請求しているが、これは要するところ返還債務全体の不存在の確認を求める趣旨と善解できる。)。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は、昭和52年5月2日に障害年金の支給裁定を受け、年金の支給を受けていた原告が、被告社会保険庁長官が原告の障害年金額を再調査した上、従前の支給裁定を取り消し、年金額を昭和50年11月に遡って減額させる旨の再裁定処分を行ったことにつき、従前の支給裁定を取り消し再裁定を行う行為は、行政行為の職権取消しが許される場合には当たらず、また、信義則に違反する行為である旨主張し、取消処分及び再裁定処分の取消しを求めるとともに、被告国に対し再裁定処分を前提に内払調整により支払った過払金相当額(この法的趣旨をいかに解するかについては下記第3、2(1)参照)及び遅延損害金の返還並びに国が主張する残債権の不存在確認を求めるものである。 2 昭和60年法律第34号国民年金法等の一部を改正する法律(以下「60年改正法」という。)による改正前の厚生年金保険法(以下「旧厚年法」という。)に基づく障害年金の支給要件(1) 旧厚年法に基づく障害年金は、被保険者であった間に疾病にかかり、又は負傷した者が、障害認定日において旧厚年法別表第1に定める程度の障害の状態にある場合に、その者の請求によって(旧厚年法33条)、その障害の程度に応じて支給される。 (2) 障害年金の年金額は、障害の等級に応じて計算され、2級の障害年金の支給額は、基本年金額に加給年金額を加算された額とされ(旧厚年法50条1項2号、34条)、基本年金額は、 支給される。 (2) 障害年金の年金額は、障害の等級に応じて計算され、2級の障害年金の支給額は、基本年金額に加給年金額を加算された額とされ(旧厚年法50条1項2号、34条)、基本年金額は、いわゆる定額部分と報酬比例部分で構成されているところ、その計算の基礎となる被保険者期間は240月(20年)未満のときは、定額部分及び報酬比例部分とも240月として計算され、また、報酬比例部分は、全被保険者期間の標準報酬月額を平均した平均標準報酬月額が算定の基礎とされる(旧厚年法34条1項2号)。 (3) 障害年金につき裁定を受けようとする者は、一定の事項を記載した請求書を社会保険庁長官に提出しなければならず、かつ、所定の書類を添付しなければならない。記載事項は、請求者の生年月日及び住所、年金手帳の厚生年金保険の記号番号、障害の原因である疾病又は負傷の傷病名等であり、添付書類は、年金手帳、職歴を記載した書類等である(昭和60年厚生省令第32号による改正前の厚生年金保険法施行規則(以下「旧厚年則」という。)44条)。 3 前提事実(認定根拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)(2) 本件処分に至る経緯ア原告は、昭和16年○月○日に出生し、昭和35年10月1日から昭和51年9月1日までに、別紙加入状況一覧表「事業所名」欄記載のとおり、7つの事業所において勤務し、「同被保険者期間」欄記載のとおり、厚生年金保険の被保険者資格を取得した。 原告は、その間、①事業所を三徳商事、ナショナルタクシー、西部交通、西原衛生工業所及び信興タクシーとする「記号番号XXXX-xxxxxx」、②事業所を大阪タクシーとする記号番号「YYYY-yyyyyy」、③事業所を光運油とする記号番号「ZZZZ-zzzzzz」の3通 原衛生工業所及び信興タクシーとする「記号番号XXXX-xxxxxx」、②事業所を大阪タクシーとする記号番号「YYYY-yyyyyy」、③事業所を光運油とする記号番号「ZZZZ-zzzzzz」の3通の年金手帳の支給を受けていた。 イ原告は、昭和47年10月ころ、勤務中の事故で負傷し、昭和52年ころに旧厚年法に基づく障害年金の裁定を請求したが、同請求書には記号番号「ZZZZ-zzzzzz」とする被保険者資格が記載されているだけであった。 社会保険庁は、昭和52年5月2日、同請求に基づき、受給権の発生を昭和50年10月、障害等級を2級、障害年金算定の基礎となる平均標準報酬月額(障害年金の受給権の発生までの被保険者期間の標準報酬月額の総額を月数で除した額)を16万4482円と認定して、障害年金を支給する旨の裁定(以下「前裁定」という。)をした(甲1)。 ウ原告は、昭和53年7月ころ、大津社会保険事務所に対し、前記記号番号「ZZZZ-xxxxxx」に係る厚生年金保険の被保険者期間について照会し、同月27日付けでその回答を得たが、同回答書には、原告が昭和38年10月1日から昭和41年8月5日までの間に4事業所に勤務し、その間の被保険者期間が66か月ある旨が記載されている(甲5)。 エ原告は、平成13年8月10日、大津社会保険事務所に赴き、担当窓口相談員に老齢年金の受給の可否等について相談を申し入れ、原告が障害年金の未算入期間の存在を前提とした相談をしたため、同相談員は、原告に対し、「国民年金、厚生年金保険の障害年金の裁定、支払処理の再調査及び訂正について」と題する書面の作成提出を求め、原告は、昭和35年10月1日から昭和42年5月9日までに三徳商事を始め6事業所に勤務しており、厚生年金の加入 金保険の障害年金の裁定、支払処理の再調査及び訂正について」と題する書面の作成提出を求め、原告は、昭和35年10月1日から昭和42年5月9日までに三徳商事を始め6事業所に勤務しており、厚生年金の加入期間の脱漏があるため、現在受給している障害年金の裁定、支払処理の再調査及び訂正をする事由が判明したので申し出る旨記載された書面に署名押印をして提出した(乙2の2、乙11別添1)。 大津社会保険事務所は、原告の同申出をうけ、同月15日付けで社会保険業務センターに対し、再調査及び訂正処理が必要である旨の報告をした。 その結果、原告の厚生年金保険の被保険者期間については昭和35年10月1日から昭和50年9月まで143か月あるものの、障害年金算定の基礎となる平均標準報酬月額が27万6910円になることが明らかになったため(被保険者期間については前裁定時と同様に、240月に満たないため、旧厚年法34条2項に基づき240月とみなして再算定された。)、被告は、平成13年9月13日、前裁定を取り消した上で、昭和50年11月にさかのぼって年金額を減額させる旨の再裁定処分(以下「本件処分」という。)を行った(甲2の1ないし3、乙2の1)。 オ本件処分の結果、原告が受給した障害年金は累計で431万1602円の過払いがあることが明らかになったため、被告は、原告に対し、再裁定前と再裁定後の各年金額の差額のうち、本件処分からさかのぼって5年分の109万0033円について、厚生年金保険法39条2項後段による内払調整の方法によって返還を受けることとし、大津社会保険事務所の担当職員は、平成13年10月2日ころ、原告に対し、その旨を記載し、今後支払う年金額を半額ずつ差し引く旨説明した書面を作成して送付し、平成13年10月15日に支 を受けることとし、大津社会保険事務所の担当職員は、平成13年10月2日ころ、原告に対し、その旨を記載し、今後支払う年金額を半額ずつ差し引く旨説明した書面を作成して送付し、平成13年10月15日に支給すべき障害年金23万9916円のうち11万9958円を上記過誤払分の返済に充当した(乙11別添2及び3)。 原告は、平成13年11月14日付けで大津社会保険事務所に対し、各期に支払われる年金額の7分の1に相当する額を返済に充てることを希望する旨の内払調整額申出書を提出したため、同年12月14日支給分から障害年金額の7分の1の3万4273円を上記過誤払分の返済に充当し(平成15年6月13日支給分から支給額が23万7766円に減額になったため、返済充当は3万3966円となった。)、平成16年2月19日現在の返済額は、合計59万8245円である(乙10、11、弁論の全趣旨)。 (3) 本件訴えに至る経緯原告は、原処分について審査請求をしたが、平成14年2月12日にこれが棄却され、これを不服として社会保険審査会に再審査請求をしたが、これも同年10月31日に棄却されている(甲10、11、乙4ないし7)。 そこで、原告は、平成15年1月27日に本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著な事実)。 4 当事者の主張(1) 本件処分の適法性についてア被告ら(ア) 厚生年金における報酬比例部分の算出方法は、標準報酬の平均によることとされているが、厚生年金は、広範な民間労働者を対象とし、その賃金体系も日給、月給、時間給、出来高給と様々であるため、最終俸給を年金額の算定基礎とすることや、被保険者が任意に選択する被保険者期間の賃金の基礎とすることも合理的でないと考えられ、公平 とし、その賃金体系も日給、月給、時間給、出来高給と様々であるため、最終俸給を年金額の算定基礎とすることや、被保険者が任意に選択する被保険者期間の賃金の基礎とすることも合理的でないと考えられ、公平の見地から、被保険者の在職中の所得水準を支給される年金額に適正に反映させるため、全加入期間の標準報酬の平均額を基準とすることにしたものであり、この制度自体が不合理であるなどとは到底いえない。また、旧厚年法34条2項が、被保険者期間が240月に満たないときは、240月と読み替えると規定しているのは、障害年金が、労働者に障害が生じ労働することができなくなったり、労働が制限されたりした場合に、その生活の安定を図るための給付であることにかんがみ、その保護の見地から、障害給付の額を老齢年金の標準的な額にほぼ等しい水準とするために、被保険者期間が240月、すなわち20年に満たない場合には、一律に240月と読み替えて乗じることにより、年金額の水準を確保しようとする趣旨と解され、これまた、その制度の趣旨に不合理な点があるとはいえない。 本件では、前裁定の基礎となった標準報酬が原告にとって直近の被保険者期間であったため、標準報酬が高水準で算定される結果となったのに対し、再裁定の結果、原告の全被保険者期間が算定の基礎に加えられたために、全体として標準報酬額が減額となり、年金額が減ったものであるが、原告は、本来、法律上受給し得ない年金の支給を受けていたにすぎず、これを是正した本件処分が不合理であると非難することは許されない。 (イ) 原告は、前裁定によって、受給者である原告にその受給が適法との信頼を生じさせたにもかかわらず、後日、過払分の返還を求めるのは、信義則違反である旨主張する。 しかし、信義則を適用す 告は、前裁定によって、受給者である原告にその受給が適法との信頼を生じさせたにもかかわらず、後日、過払分の返還を求めるのは、信義則違反である旨主張する。 しかし、信義則を適用すると、法律に違反する状況が生じてしまうのであり、法律による行政の原理・原則によれば、信義則の適用については慎重でなければならないとされ、この理は、厚生年金保険の再裁定の場合にも妥当するものというべきであり、そもそも、前裁定において、その基礎とされた厚生年金保険の被保険者期間を昭和45年5月から昭和50年9月までの65月であるとして裁定の請求をしたのは、原告自身であり、被告はこれを前提として前裁定をしたにすぎず、前記回答後も本件処分に至るまで再計算をすることがなかったことをもって、社会保障給付担当官庁が原告に対して、再計算をしないとの公的信頼を表示したとはおよそいえないばかりか、原告自身も、自らに職歴があり、前裁定の基礎とされなかった被保険者期間があることを知りながら、平成13年8月15日に至るまで、被保険者期間について訂正を申し立てて適正なる裁定を求めることをしなかったのであるから、被告において法令の定めに従って再裁定し、過払いの障害年金の返還を求めたとしても、何ら信義則に反するものではない。 (ウ) また、原告は、被告が、昭和53年7月27に付けの回答時に再裁定することができ、また、昭和55年1月に電子情報システムが導入された時点で再裁定が可能であったのにそれをせず、23年間再裁定せず障害年金を支払ってきたのであるから、後に、他に被保険者期間があることが判明したとしても、年金額を減額する旨の再裁定をする行政権限は執行しており、そうでなくとも、行政の信義則、公平の原則からは許されず、本件処分は行政権の濫用である旨を主張する。 険者期間があることが判明したとしても、年金額を減額する旨の再裁定をする行政権限は執行しており、そうでなくとも、行政の信義則、公平の原則からは許されず、本件処分は行政権の濫用である旨を主張する。 しかし、前裁定時の年金裁定の基礎となった厚生年金保険の被保険者期間に係る原告の厚生年金保険の記号番号が「ZZZZ-zzzzzz」であるのに対し、昭和53年7月27日付けの回答書に係る原告の厚生年金保険の記号番号が「ZZZZ-xxxxxx」であったこと、同回答書の左側6頁(その他)欄が空欄であることに照らしても、同回答書は、単に同記号番号に対する被保険者期間の照会に対する行政サービスとしての回答にすぎず、その際、原告から別に被保険者期間があることを理由として再裁定を求めたものでなかったことは、原告の主張からも明らかであるから、同回答の際に、被告が再裁定することができたとは直ちにいい難い。また、電子情報システムもそのサービスの目的は、年金相談体制の整備等を図ることが目的で、複数の基礎年金番号を有するものの自動的な統合化を目的とするものではないから、同システム導入が直ちに再裁定を可能にするものではない。その上、仮に、それらの時点で再裁定することができたからといって、本来、法律上受給し得ない障害年金を原告が取得できるとする法令上の根拠があるわけでもなく、むしろ、原告は、前記回答を得た時点で自ら再裁定の申し出をすべきであったのに、これを怠ったというべきであり、本件処分には法令上も信義則上も何らの制限はない。 (エ) 一般に、行政処分は、適法かつ妥当なものでなければならないから、いったんされた行政処分も、後にそれが違法又は不当であることが明らかになったときは、処分庁自らこれを職権で取り消し、遡及的に処分がされなかったのと 政処分は、適法かつ妥当なものでなければならないから、いったんされた行政処分も、後にそれが違法又は不当であることが明らかになったときは、処分庁自らこれを職権で取り消し、遡及的に処分がされなかったのと同一の状態に復せしめることができるのが本来であるが、取り消されるべき行政処分の性質、相手方その他利害関係人の既得の権利の保護、当該行政処分を基礎として形成された新たな法律関係の要請などの見地から、条理上取り消すことが許されず、又は制限されることがあることは否定し得ない。 これを本件についてみると、原告は、標準報酬が高水準であった直近の被保険者期間を任意に選択して(原告は、自らの就労歴からそれ以前にも被保険者期間があることを当然に認識していたはずであり、それを前提とした裁定請求ができなかったことを裏付ける事情は何ら存しない。)、前裁定の裁定請求をしていたものであり、その後、平成13年8月15日に至るまで被保険者期間について訂正を申し立てて適正な裁定を求めることもなかったのであるから、こうした対応が、厚生年金については全加入期間の標準報酬の平均額を基準として算定すべきとした厚生年金保険法の趣旨に反し、被保険者間の公平を害することはいうまでもないところである。特に、前裁定時の自体は、いわゆるオンラインシステムも十分に普及していたとはいえず、被告としても、結局は、被保険者が自らの被保険者期間を正しく申告して裁定請求をしているものと信頼するほかなかったものである。このような事情にかんがみると、原告のように標準報酬が高水準であった直近の被保険者期間を任意に選択して裁定請求をして、その旨の年金の支給を受けていたことが明らかになった以上、本来、法律上受給し得ない年金の支給を受けていたとして、これを取り消すことこそが限られた財源の下におい 険者期間を任意に選択して裁定請求をして、その旨の年金の支給を受けていたことが明らかになった以上、本来、法律上受給し得ない年金の支給を受けていたとして、これを取り消すことこそが限られた財源の下において公的年金事業を運営する被告の責務といわざるを得ず、これを取り消さなければ、適正に被保険者期間を申告して年金の支給を受けている他の受給者との公平を害することも明らかである。 したがって、本件において被告が前裁定を取り消すことには何ら制約もないというべきであり、本件処分に違法な点はない。 イ原告(ア) 原告は、平成13年○月○日、同日○日に満60歳に達したため、当時受給している障害年金を老齢年金に切り替えるとしたら過去の公的年金加入期間からどのような計算になるかを大津社会保険事務所に相談をした。原告としては、昭和53年7月27日に同社会保険事務所から、障害年金算定の基礎とされていない加入期間が存する旨の回答を得ていたことから、これらを含めて再計算することにより、老齢厚生年金が有利に計算されることを期待してのものであった。 ところが、大津社会保険事務所では、上記4事務所も含めて調査をなし、裁定済みの障害年金の額を再計算することとし、その結果、原告の障害年金が減額し、原告に不利益な結果になるにもかかわらず、これを被告社会保険庁長官に報告した。 (イ) 原告は、昭和53年7月21日ころ、将来老齢年金受給の際の資料として職歴調査を大津社会保険事務所に申し出たところ、同事務所では調査の上、同月27日に三徳商事など4事業所を記入し、各事業所ごとに資格取得の年月日、資格期間の月数等を記載した回答書を原告に交付しているのであり、この時点において、原告の障害年金についての再裁 は調査の上、同月27日に三徳商事など4事業所を記入し、各事業所ごとに資格取得の年月日、資格期間の月数等を記載した回答書を原告に交付しているのであり、この時点において、原告の障害年金についての再裁定を行うことが可能であった。にもかかわらず、被告は、23年間もの間、原告の障害年金についての再計算をせずに放置していたのである。また、この時点で電算システムが整備されていなかったとしても、遅くとも昭和55年1月に同システムが整備されている以上、その時期には再計算が可能であったが、その時点から21年以上も放置して再計算をしなかったものである。 被告社会保険庁長官は、上記のように可能であるにもかかわらず、長期間、再計算をせずに放置していたのであるから、平成13年9月13日において原告に不利益変更をする行政権限は失効している。また、行政の信義則上、公平の原則からして、再計算して不利益に変更すべきではなかったにもかかわらず、行政権を濫用したものである。 本件は、まさに、信義則を適用しなければ正義に反するという特別事情が存する場合であり、信義則を適用すべきである。 (ウ) 本件は、行政行為の取消し又は撤回に該当する場合である。行政行為の取消しは、行政行為に瑕疵がある場合に法令違反、公益違反を是正する目的でされるものであるが、無条件でこれを取消し得るものでないことは明らかであり、原告に何ら責められるべき事情が存しないこと、本件裁定により、原告の既得の利益が著しく奪われるものであることから、その利益の侵害を正当化するほどの公益上の必要性は存しない。 国民に利益を付与する行政行為の撤回が無条件に許されないことも、取消しの場合と同様である。 (2) 国の原告に対する過払金返還 当化するほどの公益上の必要性は存しない。 国民に利益を付与する行政行為の撤回が無条件に許されないことも、取消しの場合と同様である。 (2) 国の原告に対する過払金返還請求権の存否及び原告の国に対する不当利得返還請求権の存否ア原告(ア) 被告国の過払金返還請求権の成否a 裁決においても認定されているとおり、被告が昭和53年にした回答はずさんな事務処理であったというべきで、このような行政事務の怠慢から生じた過払金は、行政の責任による負担とすべきであり、不当利得の要件である被告国の損失は発生していないものである。 b 原告は、妻と未成年の子とともに生活を維持してきたもので、平成13年8月当時、妻は無収入、長女は日本育英会の奨学金を受けながら専門学校に通学しており、次女は高校2年生であった。平成6年に分譲マンションを購入しているが、月額13万4028円の支払いを続けており、年金と妻のパート収入で生計を維持して生活した原告においては、過払分は既に生計に組み入れて生活費の一部として費消しているのであり、不当利得の要件たる現存利益は存しない。現存する利益には妻Aの寄与による部分もあり、預金等が残存するからといって、原告の利得が残存しているとは認められない。 c 本件過払いが生じた原因は、原告には存しないのであり、社会保険事務所の事務処理に帰するものであるから、原告の不利益は遡及しないと解すべきである。このような場合、被告国がその過払いを請求するのは権利の濫用あるいは信義則違反として許されない。 (イ) そうすると、そもそも被告国に過払金返還請求権が存しない以上、原告が受給すべき年金を減額されていることは、根拠がな 請求するのは権利の濫用あるいは信義則違反として許されない。 (イ) そうすると、そもそも被告国に過払金返還請求権が存しない以上、原告が受給すべき年金を減額されていることは、根拠がないものというべきであり、既に減額された部分については原告に返還されるべきであるし(この法的趣旨をいかに解するかについては下記第3、2(1)参照)、これから減額が予定された部分については、国に返還請求権がないというべきである。 イ被告ら(ア) 原告らに現存利益が存することa 本件過払分が原告の不当利得になることは明らかであるところ、金銭の交付によって生じた不当利得の利益は、現存するものと推定され、これが存しないことについては、不当利得返還請求権の消滅を主張する者が主張、立証すべきである。 また、そもそも、利得者が不当に利得した金銭を自らの債務の弁済に充てた場合や、これを自らの生活費に充てたとしても、それによって自らの財産の減少を免れたということができる場合には、利得が現存するというべきである。 b これを本件についてみると、原告は、昭和50年11月分から前裁定によって別紙のとおりの障害年金の支給を受けてきたほか、労働者災害補償保険法による障害保障給付の支給を受け、平成13年当時の年金額は、416万1232円に達していたものである。また、原告は、平成6年には自宅マンションを購入して不動産資産を確保しており、住宅ローンの返済をしているが、その一方で自動積立による貯金を定期的にしている事情もうかがわれ、それ以外にも平成13年9月10日現在少なくとも120万円余りの普通預金残高を保有しているところである。 c 以上の事情によれば、少なくと 貯金を定期的にしている事情もうかがわれ、それ以外にも平成13年9月10日現在少なくとも120万円余りの普通預金残高を保有しているところである。 c 以上の事情によれば、少なくとも被告が返還を求めている本件過払分109万0033円の限度において原告に利得が現存していないとは到底認め難いというべきであり、次の内払調整によって返還を受けた額を控除してもなお、原告は、49万1788円の過払金返還債務を負っていることとなる。 (イ) 過払金を内払調整によって回収していることの適法性厚生年金保険法39条2項は、「年金の支給を停止すべき事由が生じたにもかかわらず、その停止すべき期間の分として年金が支払われたときは、その支払われた年金は、その後に支払うべき年金の内払とみなすことができる。年金を減額して改定すべき事由が生じたにもかかわらず、その事由が生じた月の翌月以降の分として減額しない額の年金が支払われた場合における当該年金の当該減額すべきであった部分についても、同様とする。」と定めているところ、同条は、本来支給すべき年金があるときに、既に支払った給付を返納させ、改めて別の給付を行うことが保険者、受給権者双方にとって煩雑であるため、簡便な方法によって処理することを目的するものである。 このような法の趣旨、特に、本来であれば一括して過払金を返済しなければならないという受給権者の立場を保護する効果もあるものと考えられることにかんがみると、同条2項後段にいう「年金を減額して改定すべき事由」に、本件の原告のように算定の基礎とされていなかった被保険者期間が当初から存在し、再裁定処分によって年金が減額されるべきであったという事由が除かれるという理由ないというべきであり、この点をおくとし に、本件の原告のように算定の基礎とされていなかった被保険者期間が当初から存在し、再裁定処分によって年金が減額されるべきであったという事由が除かれるという理由ないというべきであり、この点をおくとしても、本件の事実関係に照らすと、被告が本件過払分を回収することについて、原告も何ら異論も唱えず、これに同意していたものとみるべきであるから、いずれにしても内払調整によって本件過払分の回収をしている本件の取扱いには何らの違法は認められないというべきである。 第3 争点及び争点に関する当裁判所の判断 1 本件処分の適法性(1) 前裁定の職権取消しの可否ア被告社会保険庁長官は、本件処分を行う前提として、前裁定の取消しを行っているところ、原告は、行政行為の取消しには制限があり、前裁定は取消し得ないものであると主張する。 イ瑕疵ある行政行為は、行政行為の適法性や合目的性を回復するため、法治主義の要請に基づき、法律上の特別の根拠なくして、処分を行った行政庁において職権により取り消すことができると解すべきであるが、その行政行為が授益的行政行為である場合、その相手方である私人としては、その取消しにより不測の損害を蒙る可能性があるため、そのような利益や信頼を保護する見地から、行政庁において前記の原則どおり、無制限に取り消し得るものとすることはできない。 そして、授益的行政行為が取り消し得るものであるか否かについては、当該処分を取り消すべき公益上の必要性と処分の相手方の信頼保護の必要性とを比較衡量し、処分を取り消すべき公益上の必要性が関係者の信頼を覆してもやむを得ないほどのものである場合にはじめて取消しが認められるものと解すべきである。 そして、その比較衡量に当たっては、取消しが行われる時期 べき公益上の必要性が関係者の信頼を覆してもやむを得ないほどのものである場合にはじめて取消しが認められるものと解すべきである。 そして、その比較衡量に当たっては、取消しが行われる時期・取消しにより失われる利益等の具体的事情から判断される取消しにより生じる相手方の不利益、取消しによる不利益の緩和措置(取消しの遡及効の制限を含む。)や代償措置の有無、当該処分の違法や程度の内容、当該処分の違法状態が存続することにより第三者に与える影響を具体的に考慮すべきであり、また、違法状態が発生することについて相手方自身の行為が関与しているか否かも考慮の要素となるものと解される。 ウこれを本件についてみるに、前裁定が取り消され、本件処分がされたことにより、原告には、支給が開始された昭和50年11月から処分が取り消される前に支給された平成13年7月までの間に合計431万1602円(時効消滅したものを除いた5年分に限っても109万0033円)の過払いが生じることとなる。そして、前裁定の取消しは、前裁定から26年という長期が経過してからされたものである上、その取消しは、昭和50年11月まで遡ってされており、内払調整による支払の際にその調整金額について原告の意向を聞く等はされたものの、前裁定の取消しそのものによる不利益についてこれを緩和する措置は取られていない。また、前裁定の取消しや本件処分に当たり予告や猶予期間が取られることはなかった。一方、前裁定の違法は、原告に対する支給額が過大であるというものであるが、これにより直接第三者に特段の具体的不利益が生じることはない(確かに、被告の指摘のとおり他の受給者との関係で公平を害するという側面がないではないが、他の第三者の具体的支給額に影響を及ぼすものではない以上、前処分が他の第三者に直接に 不利益が生じることはない(確かに、被告の指摘のとおり他の受給者との関係で公平を害するという側面がないではないが、他の第三者の具体的支給額に影響を及ぼすものではない以上、前処分が他の第三者に直接に具体的な不利益を生じさせることはない。)。 以上の事情に基づき、前裁定の職権取消しの可否を検討するに、前裁定が昭和50年11月に遡って取り消されている点についてみれば、取消しの対象とされる障害年金は元来受給者自身及びその家族の生活を維持するために支給されているものであって、甲第15ないし第18号証及び弁論の全趣旨によると、現に原告は年金以外に収入はなく、年金に妻のパート収入を加えて一家4人の生計を支えていることが認められるのであるから、それについて減額をされた上、過去の過払分の返還をせざるを得なくなることは、原告及びその家族にとって著しい不利益を生じさせるものである。その一方で、限られた財源の中で年金の支給を行っている状況の中、特定の者に対して法に定められた金額よりも多額の支給をすることは、他の受給者との公平の観点からも許されず、前裁定を取り消さざるを得ない公益上の必要性は一定程度認められるものの、その必要性は、前裁定の取消しにより原告に生じる著しい不利益との比較した場合大きなものといえないことは明らかであり、後記のとおり、前裁定の誤りについて原告に何らかの落ち度があったとも認められない以上、前裁定を既支給分にさかのぼって取り消すことは、許されないというべきである。 一方、前裁定の取消しのうち、それ以降の支給を取り消して、本件処分により法所定の金額に是正する部分については、過去分と同様に生活のための貴重な財源を減少させるものではあるものの、その減少額が著しく多額なものでなく、また、支給前にその額を知り得ること、特に原 処分により法所定の金額に是正する部分については、過去分と同様に生活のための貴重な財源を減少させるものではあるものの、その減少額が著しく多額なものでなく、また、支給前にその額を知り得ること、特に原告については、障害年金に代えて老齢年金を選択し、これと労災年金とを併せて受給することにより、今後の支給額が改善される見込みがあること(乙11)にかんがみれば、既に費消したものを返還する過払分の場合とは違い、今後支給される額を基準として生活を行うことによって不利益を回避することが可能であるものといえ、実際に生ずる不利益は、前記の財源や他の受給者との公平という公益上の必要性を上回ることはないものというべきである。 エ以上によれば、前裁定の取消しは、取消時以降の部分に関しては適法なものといい得るが、取消時以前に遡った部分については違法なものというべきである。 オこの点について被告らは、社会保険庁長官は、前裁定の際、原告の申し出た被保険者期間に従って裁定を行ったにすぎず、原告が自らに職歴があることを知りながらことさらに、任意に被保険者期間を選択して前裁定の裁定請求をしたものであり、その取消しに至るまで再裁定の請求をすることを怠ったものである旨主張する。 しかし、前裁定の際に、原告がことさら自己の有利な給付を得るために被保険者期間を選択したことを直接的に認めるに足りる証拠はない。他方、原告が昭和53年7月に大津社会保険事務所に対して自らの厚生年金保険の被保険者期間の照会をし、その回答(甲第5号証)を得たことは当事者間に争いがない。しかし、年金の支給額は、一般的には、被保険者期間の長短に応じて支給額が増減するもの認識されているのが通常であって(被保険者期間が240月未満の者に対する障害年金額の算定に当たっては、被保険者期 。しかし、年金の支給額は、一般的には、被保険者期間の長短に応じて支給額が増減するもの認識されているのが通常であって(被保険者期間が240月未満の者に対する障害年金額の算定に当たっては、被保険者期間については、一律に240月とみなしながら、平均報酬月額については特段の補正がされないことから、被保険者期間が長いほど年金額が低くなる傾向が生じており、被保険者期間について有利な取扱いがされているため全体としては憲法違反とまではいえないものの、改善の余地が十分ある不合理な制度といわざるを得ない。)、原告が未算入の被保険者期間があることを知りながら再裁定を求めなかった点をとらえて、自らの年金支給額が減額されることを認識した上でされたものと推認することはできない。特に、前裁定による支給額の決定が一般人には容易に理解しかねる複雑な計算により算出されていることに加え、甲第17号証及び第18号証によれば、原告としては、60歳に達し老齢年金に切り替えるとどうなるのかについて年金相談に行った際、老齢年金の金額を調べるに当たり甲第5号証を自ら提出していること(原告が任意に被保険者期間を選択しているのであれば、そのように自ら不算入の被保険者期間を明らかにすることはないと考えられる。)、にかんがみれば、目に障害をかかえ、署名をすることも困難な原告があえて障害年金の過剰受給を企てたとは考えられず、むしろ、前裁定に当たっては、直近の事務所で加入した厚生年金の記号番号に相応した被保険者期間を申告するほかないとの認識の下に、そのような申告をしたものと認めるのが相当であり、前裁定がされたことにつき、原告の行為が寄与しているものとは評価する余地は全くない。また、甲第18号証によれば、原告の年金相談に応じた担当職員においても、「これだけ新しくでてきましたよ。」と原告に告げた上 がされたことにつき、原告の行為が寄与しているものとは評価する余地は全くない。また、甲第18号証によれば、原告の年金相談に応じた担当職員においても、「これだけ新しくでてきましたよ。」と原告に告げた上、乙第2号証の1の再調査及び訂正報告書にも「上記厚生年金期間の追加をお願いします。」と記載するなど、被保険者期間を加えることで障害年金が減額する可能性を原告に告げないばかりか、自らもそのことを認識していなかったものと推認されるものであり、社会保険事務所の職員ですら理解し得ないことについて、障害を抱える原告やその妻が理解していたとみることには無理がある。 したがって、被告らの主張は、自らの制度の不合理性に目を覆いつつ、何らの具体的な根拠もなく原告が不正行為を行ったかのように主張するものであって、到底採用できないばかりか、国及び責任ある行政庁の主張としては、誠に遺憾なものといわざるを得ない。 (2) 信義則違反の存否原告は、昭和53年7月に原告が職歴調査を申し出た時期、また、昭和55年1月に電算システムが導入された時期には、被告社会保険庁長官において再裁定を行うことが可能であった旨主張し、にもかかわらず、長期間にわたり、再裁定をせずに支給を続けたのであり、にもかかわらず平成13年にいたって前裁定を取り消すのは信義則違反である旨主張する。 行政の違法な活動を信頼して行動した私人の保護につき民法の信義誠実の原則や権利濫用の禁止に関する一般条項を適用することについては、法律による原理にかんがみれば、慎重でなければならないと解される。 しかし、本件においては、前記争いのない事実並びに甲第17号証及び第18号証によれば、原告及びその妻が、障害年金受給者である原告が60歳に達したことから、大津社会 ならないと解される。 しかし、本件においては、前記争いのない事実並びに甲第17号証及び第18号証によれば、原告及びその妻が、障害年金受給者である原告が60歳に達したことから、大津社会保険事務所に老齢年金に切り替えた場合にどうするのかについての相談に行った際、障害年金の金額が減る可能性があることを説明することなく(担当職員においてこの点の認識すらなかった旨推認しうることは前記のとおりである。)、「国民年金、厚生年金障害年金の裁定、支払処理の再調査及び訂正について」と題する書面の提出を要求し、妻による代理署名をさせた上で提出させた上、一方的に年金証書等を回収しており、その結果、原告の年金額が減額することが判明するや何ら予告や相談への回答をすることなく、前裁定を取り消して本件処分を行ったものであり(乙第11号証によれば、原告は障害年金と労災年金を受給するより、老齢年金と労災年金を受給する方が有利であることがうかがえるところ、原告はその点の相談に行ったにもかかわらず、本件処分に先立ちそのような説明がされた形跡はない。)、これらの経緯に加え、前記(1)での原告の不利益と前裁定取消しの公益上の必要性の利益衡量にかんがみれば、前裁定を取消し本件処分を行うことは、その効力が前裁定時に遡及する限りにおいては信義則に違反するものといわざるを得ない。一方、前裁定の取消し及び本件処分のうち、原告の本件処分時以降の年金額を減額する部分については、前記(1)のとおり、その不利益を回避し得る可能性が十分に存することから、それが信義則に違反するとまではいい難い。 (3) 小括以上によれば、本件処分は、取消し得ない前裁定の取消しを前提としている点、また、信義則に違反する点において、同処分のうち、同処分がされた平成13年9月13日以 (3) 小括以上によれば、本件処分は、取消し得ない前裁定の取消しを前提としている点、また、信義則に違反する点において、同処分のうち、同処分がされた平成13年9月13日以前に遡及する部分については違法なものであるといえる。そして、本件処分は、前裁定が有効に存在することを前提とした場合には、それとは異なる金額を定めるものということになるから、その瑕疵の程度は重大かつ明白であるものといえ、無効な処分であるというべきである。 2 国の原告に対する過払金返還請求権の存否及び原告の国に対する請求権の存否(1) 前記1を前提にした場合、本件処分のうち本件処分時に遡って年金額を変更する部分は違法であり無効なものであるといえるから、被告国の過払金返還請求権は存しないものというべきであり、被告国が原告に対し、その存在を主張し支払を求めている過払金残金49万1788円については、存在しないものと認められる。他方、原告はその余の分につき本来支給されるべき障害年金の支給を受けていないのであるから、その支給を求め得る公法上の請求権を有していることとなるが、そうである以上、同請求権のほかに被告国に対して不当利得返還請求権を有することはないというべきであり、この場合、原告としては、被告国に対して公法上の当事者訴訟により未払の年金請求権を行使して、その救済を求めるべきこととなる。そして、原告は、本件訴訟における国に対する返還請求権について不当利得返還請求権である旨明示しているようにもみえるが、その一方で、内払請求の可否について言及した上、年金を全額支払うべきである旨主張しているところであり、国に対する年金請求を含むものであると善解し得るものであって、前記のとおり国の過払金返還請求権が認められないものである以上、本来受け得るべき年 、年金を全額支払うべきである旨主張しているところであり、国に対する年金請求を含むものであると善解し得るものであって、前記のとおり国の過払金返還請求権が認められないものである以上、本来受け得るべき年金額から控除された金59万8245円については、原告が国に対し年金請求権を行い得るものと認められる。 (2) また、前記(1)の点を措くとしても、国の原告に対する過払金返還請求権は、法律上特段の規定がなく、民法上の不当利得返還請求権に他ならないところ、原告に同利得による現存利益はないと認められる上、原告に受益について悪意があったと認めるに足りる証拠はなく(前記1(1)オ参照)、不当利得返還請求権は成立しないからである。 すなわち、甲第15号証ないし第18号証、第21号証、乙第12号証、第13号証の1及び2、第14号証、第15号証及び第16号証、原告には妻Aと長女B(昭和55年○月○日生)、三女C(昭和60年○月○日生)がおり(次女は出生後間もなく死亡している。)、長女Bは、平成11年4月(同年4月分及び5月分は同年6月に同月分と併せて支給)から平成13年3月まで(同年3月分は同年2月に同月分と併せて支給)の間、日本育英会による奨学金の支給を受け、コンピューター関係の専門学校に通学しており、三女は、平成13年8月当時は高校2年生であり、現在は大学進学準備のために浪人中であり、予備校に通学せず自宅で勉強していること、原告の妻は、原告に対する年金支給の裁定後も、断続的ではありながら就労を続けていたが、平成13年5月に交通事故に遭い、平成13年8月当時は、休職中であり、現在は、大津社会福祉事業団に勤務していること、原告の医療費等を加えると毎月40万円以上の生活費が必要であること、原告が妻との共有で平成6年4月15日に大津市内にマ 13年8月当時は、休職中であり、現在は、大津社会福祉事業団に勤務していること、原告の医療費等を加えると毎月40万円以上の生活費が必要であること、原告が妻との共有で平成6年4月15日に大津市内にマンション(床面積63.93平方メートル)を購入(原告の持ち分4分の3)し、その際、住宅金融公庫から2800万円の融資を受け、頭金を支払わず、月々13万円を超える額のローンの支払と駐車場代・積立金、管理費(水道・下水量込)合計約1万7000円の支払をしていること、原告が労働者災害補償保険法による障害補償年金年額416万1232円(子の就学中は、労災就学等援護金が1月当たり17000円加算されている。)の受給を受けていること、平成13年8月末現在約120万円の預金残高があるものの、2月に1度偶数月の15日に振り込まれる労働災害補償保険法による障害補償年金が同年8月15日に約72万円振り込まれ、また、厚生年金保険法に基づく障害年金が振り込まれていることによるものであり、通常の預金残高は50万円程度で推移していたことが認められ、これによれば、原告が支給を受けた障害年金の額はその全てが生活に費消されているものと認めるのが相当である(マンションは、現在においても多額のローンを支払っているものであり、また預金も1か月の生活費程度のものであるから、これらを資産として重視し、現存利益の存在を認定するのは相当ではない。)。 そして、一般に、不当利得をした者がその金銭を生活費に充てた場合、その金銭がなければ他の財産から支出をしなければ他の財産から支出をしなければならないものであるから、原則として利息はその全額で現存するというのは、被告の主張のとおりであるが、恩給や年金など、その受給者が他に収入を受けられないことを前提として、当該金銭が全て生活費に充て ばならないものであるから、原則として利息はその全額で現存するというのは、被告の主張のとおりであるが、恩給や年金など、その受給者が他に収入を受けられないことを前提として、当該金銭が全て生活費に充てられることが予定されている場合において、それが生活費に充てられたからといって、前記の一般論を適用することは不相当というべきであり、生活費として費消された場合においても、現存利益は存しないとみるべきである(大審院昭和8年2月23日判決、法律新聞3531号8頁)。 そうすると、前記のとおり、原告には現存する利得が存しないものと認められ、被告国が原告に対する過払金返還請求権は成立しないものというべきであり、(1)と同様の結論を導き得ることとなる。 (3) さらに、仮に、原告が既受領の厚生年金について返還義務を負っていたとしても、これをその後に支給する厚生年金の内払調整によって回収したことは違法な措置であったというべきである。 すなわち、障害年金は、障害を負った労働者の生活の安定と福祉の向上に寄与するために支給されるものであるから、国は、特に法律の定めがない限り、その全額を受給者に支給すべきものであって、たとえ、受給者に対して何らかの請求権を有していてもこれを控除して支給することは許されず、当該受給者の意思いかんにかかわらず、障害年金を全額支給した上、請求権は別途行使すべきものである(厚生年金保険法41条は、この趣旨に基づくものである。)。そして、被告がその内払調整の根拠とする同法39条2項は、いずれも年金の支給につき事後的な事情の変更によって過払が生じた場合に関するものであって、本件のように年金の裁定に当初から瑕疵があった場合を直接想定したものではなく、上記の趣旨に照らすと、同項を安易に類推ないし拡大解釈することは 事情の変更によって過払が生じた場合に関するものであって、本件のように年金の裁定に当初から瑕疵があった場合を直接想定したものではなく、上記の趣旨に照らすと、同項を安易に類推ないし拡大解釈することは現に慎むべきであるから、同項は本件内払調整を根拠づけるものとはいい難く、他にこれを根拠づける法令の規定は見当たらない。 したがって、被告がした内払調整は違法であり、原告はその分につき本来支給されるべき障害年金の支給を受けておらず、その支給を求め得る公法上の請求権を有することとなるから、この場合もこの点について(1)と同様の結論となる。 (4) 小括そうすると、原告には、口頭弁論終結時(平成16年2月19日)において既に支払った59万8245円について、被告国に対して年金請求権及びその本来の支給日以降の遅延損害金請求権を有することになり(原告の金員請求はその内金請求として理由がある。)、既に受領した厚生年金につき被告国に対して返還すべきものは存しないと認められる。 第4 結論以上の次第で主文のとおり判決することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法64条だたし書、65条1項、61条を適用し、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第3部裁判長裁判官藤山雅行 裁判官 廣澤諭 裁判官 加藤晴子

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