【DRY-RUN】主 文 原判決を取り消す。 被控訴人の請求をすべて棄却する。 訴訟費用は第一、二審分とも被控訴人の負担とする。 事 実 控訴代理人は主文と
主文 原判決を取り消す。 被控訴人の請求をすべて棄却する。 訴訟費用は第一、二審分とも被控訴人の負担とする。 事実 控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。 被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め、請求の原因として、「控訴人は自己の夫の母たるAに対し、同人が控訴人の氏名を用いて銀行と当座預金取引をなし、小切手や手形を振り出すことを許諾していたので、Aは昭和三四年三月六日頃、金額一五万円、支払期日同年四月二五日、支払場所高知相互銀行東支店、支払地及び振出地高知市、振出日同年三月六日、振出人Bとし、受取人欄を空白にした白地式約束手形一通(以下本件手形という。)を訴外Cに交付して振り出した。同人は同年三月下旬頃被控訴人に対し本件手形の割り引きを求めたので、被控訴人はこれを割り引いて譲り受けた。被控訴代理人は本件の訴提起後の昭和三五年七月一三日に本件手形の受取人欄に被控訴人の氏名を記入して補充し、被控訴人は現に本件手形を所持している。 右振り出しの事実は控訴人がAに対し控訴人の署名を代行して手形を振り出す包括的代理権を与え、Aがその権限に基づいて本件手形を振り出したものにほかならない。 仮りにそうでないとしても、Aは控訴人の許諾に基づき控訴人の氏名を用いて本件手形を振り出したのであるから、商法第二三条の類推解釈、取引の安全を保護すべき法理並びに禁反言の法理に照らし、控訴人は本件手形の振出人たる責任を免かれない。 それ故、被控訴人は控訴人に対し本件手形金並びにこれに対する、右手形完成後請求の趣旨及び原因を手形金請求に変更した準備書面が控訴人に送達せられた日の翌日たる昭和三五年七月一五日以降商法に定められた年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。」と述べた。 控訴代理人は答弁と 趣旨及び原因を手形金請求に変更した準備書面が控訴人に送達せられた日の翌日たる昭和三五年七月一五日以降商法に定められた年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。」と述べた。 控訴代理人は答弁として、「被控訴人の主張事実のうち、Aが控訴人の夫の母であること、被控訴人主張のとおりに控訴人が氏名使用を許諾したこと、Aが右許諾に基づいて被控訴人主張の日頃本件手形を作成して訴外Cに交付したこと、被控訴人の主張どおりに本件手形の白地が補充されたことはいずれも認めるが、その他の事実は争う。 被控訴人はAが控訴人を代理して本件手形を振り出したと主張するけれども、控訴人には自己のためにAを使用して手形を振り出させる意思はなく、本件手形はAが自己のために振り出したものであるから、これを代理による振り出しと解することはできない。Aは自己の別名としてBという氏名を本件手形に署名し、自己の印章を押捺したのであるから、本件手形の振出人はAであつて控訴人ではない。 また、Aは本件手形を訴外Cに取得させたのではなく、割り引きの仲介を依頼して交付したにすぎない。そして訴外Cは訴外Dに割り引きを求めて本件手形を交付しておいたのである。被控訴人は本件手形を割り引いたことはなく、訴外Cから譲り受けたこともなく、訴外Dから本件手形の取立訴訟を委任せられているにすぎない。」と述べ、抗弁として、「仮りに、本件手形取得の経路が被控訴人の主張するとおりであるとしても、訴外Cはもとより、被控訴人も本件手形のBという署名がAの別名であつて、振出人はAであり、控訴人でないことを知つて本件手形を取得したのであるから、控訴人は本件手形の振出人たる責任を負わない。 (控訴代理人は訴外Cの悪意については明らかには主張しなかつたけれども、その弁論の全趣旨から右のように解することができる。) 形を取得したのであるから、控訴人は本件手形の振出人たる責任を負わない。 (控訴代理人は訴外Cの悪意については明らかには主張しなかつたけれども、その弁論の全趣旨から右のように解することができる。)また仮りにそうでないとしても、被控訴人は控訴人には勿論、Aまたは訴外Cに対しても本件手形を割り引いた金員を交付していないから、控訴人は本件手形金の支払義務を負わない。」と述べた。 被控訴代理人は右抗弁に対し、「その事実をすべて否認する。被控訴人は本件手形取得の際、Aが本件手形金を支払う意思を有することは知つていたが、控訴人も当然振出人としての責任を負うものと信じていたのである。また被控訴人は訴外Cに対して本件手形の割引金を支払つており、従つて仮りに、同人がAから割り引きの仲介を委任せられた者であり、かつ、控訴人が割引金を受領していないとしても、Aが控訴人の代理人であるかぎり、控訴人は本件手形金の支払義務を免かれない。」と述べた。 証拠として、被控訴代理人は甲第一号証を提出し、証人D(原審及び当審)、同D千勢(当審)の各証言並びに被控訴本人尋問(原審及び当審)の結果を援用し、「乙各号証の成立を認める。」と述べ、控訴代理人は乙第一ないし第五号証を提出し、証人A(原審第一、二回及び当審)、同F(原審)、同C(当審第一、二回)、同D(当審)の各証言並びに当事者双方本人各尋問(当審)の結果を援用し、「甲第一号証の成立を争う。」(控訴人の原審の訴訟代理人は同号証の成立を認め、当審の訴訟代理人はその認否につき特に陳述しなかつたけれども、当審における控訴代理人の弁論の全趣旨によれば、同代理人は甲第一号証が控訴人の氏名使用許諾の結果として作成せられたという意味において、その認否を訂正しなかつたのであつて、同号証が控訴人の振り出しの意思に基づいて作成せられ の弁論の全趣旨によれば、同代理人は甲第一号証が控訴人の氏名使用許諾の結果として作成せられたという意味において、その認否を訂正しなかつたのであつて、同号証が控訴人の振り出しの意思に基づいて作成せられたという意味においてはこれを争つたものと解すべきである。)と述べた。 理由 控訴人がAに対し控訴人の氏名を用いて手形を振り出すことを許諾していたこと、その許諾に基づいてAが昭和三四年三月六日頃本件手形を作成して訴外Cに交付したことは当事者間に争がない。 <要旨第一>被控訴人は右許諾は控訴人の署名を代行する方法で手形を振り出す包括的代理権を与えたものにほかならな</要旨第一>い旨主張するけれども、凡そ、他人に対し自己の署名を代行する方法で法律行為をなす権限を与えることは(その他人が代理人であるか機関であるかを問わず)、自己のためにする意思、すなわち自己がその行為の主体であるという意思の存在を要素とするのに対し、他人に対し、単に自己の氏名を用いて法律行為をなすことを許諾することは右の意思を欠いているから、両者は観念的にも異なるといわなければならない。のみならず、控訴人がAに対して控訴人のために手形を振り出す権限を与えたことを認めるべき証拠もなく、かえつて、成立に争いのない乙第四号証、当審における控訴人本人尋問の結果及び当審証人Aの証言を総合すれば、Aは料理店を営んでいるところ、税金などの関係で銀行との取引並びに小切手や手形の振り出しにつき他人名義を使用するのを便宜と考えて控訴人の氏名を借用していたにすぎないこと、Aは本件手形の振出人名下には控訴人の印章でなく、自己の印章を押捺したこと、従つて、控訴人がAに対し控訴人の署名を代行する方法で本件手形を振出す権限を与えたことはなかつたことを認めることができ、これに反する証拠は 出人名下には控訴人の印章でなく、自己の印章を押捺したこと、従つて、控訴人がAに対し控訴人の署名を代行する方法で本件手形を振出す権限を与えたことはなかつたことを認めることができ、これに反する証拠はないから、被控訴人の前示主張は採用することができない。 <要旨第二>しかしながら、民法第一〇九条及び商法第二三条の各規定の趣旨を類推すれば、他人に対し自己の氏名を用</要旨第二>いて法律行為をなすことを許諾した者は、その許諾に基づいてなされた法律行為の相手方が許諾者の法律行為であると過失なくして信じたときにかぎり、相手方に対しその行為の主体としての責任を免かれないものであり、その法律行為が本件のように手形の振り出しであるときは右の相手方は振り出しを受けた者、すなわち振出人から直接手形を取得した者に限定せられると解するのが相当である。 ところで、被控訴人は本件手形は訴外Cに対して振り出され、被控訴人は同年同月下旬頃同訴外人から譲り受けたと主張するのに対し、控訴人はこれを否認するとともに、仮りに被控訴人主張どおりの取得経路であつても、右取得者等はいずれも本件手形の振出人が控訴人でなく、Aであることを知つて取得したから控訴人は振出人としての責任を負わない旨抗争しているので、右取得の経路の認定はしばらく措き、被控訴人主張どおりの取得経路であつたことを仮定した上で、右抗弁の当否を考察する。 原審証人A第二回の証言、当審証人C第一回の証言及び口頭弁論の全趣旨によれば、訴外CはAから本件手形の交付を受けた際、同手形の振出人が控訴人ではなくAであることを知つていたことを認めることができ、これに反する証拠はないから、控訴人はもはや何人に対しても本件手形の振出人としての責任を負わないものであり、控訴人の抗弁は理由があるといわなければならない。 なお仮りに、 たことを認めることができ、これに反する証拠はないから、控訴人はもはや何人に対しても本件手形の振出人としての責任を負わないものであり、控訴人の抗弁は理由があるといわなければならない。 なお仮りに、自己の氏名を使用して手形を振り出すことを許諾した者は振り出しを受けた者、すなわち振出人から直接当該手形を取得した者が善意無過失でないばあいでも、善意無過失の転得者に対して振出人としての責任を免かれないと解すべきであるとしても、本件においては、控訴人は被控訴人に対しても本件手形につき振出人としての責任を負わないというべきである。その理由は次のとおりである。 成立に争いのない乙第一、二号証、同じく乙第五号証、原審及び当審証人Aの各証言、原審及び当審における被控訴人本人各尋問の結果の一部を総合すれば、被控訴人は控訴人の資産等の信用状態は知らなかつたが、Aには、かつて、被控訴人経営の会社が金銭を貸し付けて弁済を受けたことがある関係から、Aを被控訴人の営む金融業の顧客として信用していたこと、Aは本件手形の振り出しに先立ち、昭和三四年二月一六日頃本件手形と同様振出人として控訴人の氏名を記載し、支払期日を同年三月一七日及び同年四月一七日とする約束手形各一通を振出したこと、被控訴人は右各手形の割り引きを求められた際Aに対し同人が振出人としての責任を負うかどうかを照会したところ、Aは控訴人の氏名を借用して自己が振出したものである旨答えたこと、被控訴人は右各手形を割り引き、その後Aから右各手形金の支払いを受けたこと、被控訴人が右各手形を割り引いたのは昭和三四年二、三月頃であること、被控訴人は右の支払期日を同年三月一七日とする手形の手形金が完済せられ、右の支払期日を同年四月一七日とする手形の手形金が完済に至らない間である、同年三、四月頃本件手形を入手したことをそれ あること、被控訴人は右の支払期日を同年三月一七日とする手形の手形金が完済せられ、右の支払期日を同年四月一七日とする手形の手形金が完済に至らない間である、同年三、四月頃本件手形を入手したことをそれぞれ認めることができ、原審及び当審における被控訴人本人各尋問の結果中右認定に反する部分は容易に信用し難く、他に右認定をくつがえすだけの証拠はない。 右認定の事実と前示の仮定した被控訴人主張の本件手形取得経路とを合せて考えると、被控訴人は前認定の手形割引に接近した時期に本件手形を割り引いたこととなり、従つて、被控訴人は前認定の各手形と同様本件手形も専らAによつて支払われることを期待して、これを割り引いたのであつて、これらの手形はいずれもAが自己のために控訴人の氏名を借用して振り出したものであることを知つていたことを容易に推認することができ、これに反する証拠はないから、控訴人の抗弁はやはり理由があるといわなければならない。 なお、また、仮りに、被控訴人がAから直接本件手形を取得したものであつたとしても、右認定のとおり、被控訴人は、本件手形取得当時、控訴人が本件手形の振出人でないことを知つていたのであるから、前段説示の民法一〇九条等の類推適用に関する法理に照らし、控訴人は被控訴人に対し本件手形の振出人としての責任を負わないことが明らかである。 従つて、右責任の存在を前提とする被控訴人の本件請求はその他の争点を判断するまでもなく、すべて失当である。これを認容した原判決は不当であるから、これを取り消し、本件請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官安芸修裁判官東民夫裁判官水沢武人) 法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官安芸修裁判官東民夫裁判官水沢武人)
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