主文 1 甲事件原告らの甲事件主位的請求,乙事件原告らの乙事件主位的請求及び丙事件原告らの丙事件請求をいずれも棄却する。 2 甲事件原告らの甲事件予備的請求及び乙事件原告らの乙事件予備的請求に係る訴えをいずれも却下する。 3 訴訟費用は甲事件原告ら及び乙事件原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 甲事件及び乙事件(1) 主位的請求全事件被告(以下「被告」という。)が「大東市立保育所条例の一部を改正する条例」(平成14年大東市条例第23号。以下「本件改正条例」という。)の制定によってした大東市立上三箇保育所(以下「本件保育所」という。)の廃止処分(以下「本件廃止処分」という。)を取り消す。 (2) 予備的請求ア本件改正条例が無効であることを確認する。 イ被告は,甲事件原告ら及び乙事件原告ら(以下「原告ら」という。)に対し,本件改正条例に基づく一切の準備行為及び本件保育所における保育の実施の解除処分をしてはならず,平成15年4月1日以降も原告らの監護する別紙児童目録記載の各児童(以下「本件各児童」という。)につき本件保育所において保育の実施をしなければならない。 2 丙事件被告は,丙事件原告らに対し,それぞれ50万円及びこれに対する平成15年9月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,大東市に居住し,その監護する本件各児童を本件保育所に入所させ本件保育所において保育を受けてきた原告らが,被告が本件改正条例により本件保育所を廃止したため原告らの権利を侵害したとして,① 甲乙事件各主位的請求として,本件改正条例の制定による本件廃止処分の取消しを 保育所において保育を受けてきた原告らが,被告が本件改正条例により本件保育所を廃止したため原告らの権利を侵害したとして,① 甲乙事件各主位的請求として,本件改正条例の制定による本件廃止処分の取消しを,② 甲乙事件各予備的請求として,本件改正条例の無効確認(予備的請求(1))並びに無名抗告訴訟としての本件改正条例に基づく準備行為及び本件保育所における保育の実施の解除の禁止(予防的不作為訴訟)と本件保育所における保育の実施(義務付け訴訟)(予備的請求(2))を求めるとともに,③ 甲事件原告らの一部である丙事件原告らが,本件廃止処分等が公法上の契約義務違反及び国家賠償法上の違法行為に該当するとして,被告に対し,それぞれ慰謝料等50万円及び遅延損害金の支払を求めている事案である。 1 児童福祉法(以下「法」という。)の定め(1) 平成9年改正法35条3項は,市町村は,厚生労働省令(旧厚生省令)の定めるところにより,あらかじめ,同省令で定める事項を都道府県知事に届け出て,児童福祉施設を設置することができる旨規定しているところ,平成9年法律第74号による改正(以下「平成9年改正」という。)前の法24条は,市町村は,政令で定める基準に従い条例で定める保護者の労働又は疾病等の事由により,その監護すべき乳児,幼児又は法39条2項に規定する児童の保育に欠けるところがあると認めるときは,それらの児童を保育所に入所させて保育する措置を採らなければならない旨規定していた。 平成9年改正は,近年の少子化の進行,夫婦共働き家庭の一般化,家庭や地域の子育て機能の低下,児童虐待の増加など児童や家庭を取り巻く環境が大きく変化している中,保育需要の多様化や児童をめぐる問題の複雑・多様化に適切に対応し,子育てしやすい環境の整備を図ると ,家庭や地域の子育て機能の低下,児童虐待の増加など児童や家庭を取り巻く環境が大きく変化している中,保育需要の多様化や児童をめぐる問題の複雑・多様化に適切に対応し,子育てしやすい環境の整備を図るとともに次代を担う児童の健全な成長と自立を支援するため,児童家庭福祉制度を再構築する趣旨で行われた。そして,この平成9年改正の中で,児童保育施策等の見直しとして,保育所について,市町村の措置による入所の仕組みを保育所に関する情報の提供に基づき保護者が保育所を選択する仕組みに改めることとされた。 平成9年改正後の法24条1項は,市町村は,保護者の労働又は疾病その他の政令で定める基準に従い条例で定める事由により,その監護すべき乳児,幼児又は法39条2項に規定する児童の保育に欠けるところがある場合において,保護者から申込みがあったときは,それらの児童を保育所において保育しなければならない旨規定し,法24条2項は,同条1項に規定する児童について保育所における保育を行うこと(以下「保育の実施」という。)を希望する保護者は,厚生省令(現厚生労働省令)の定めるところにより,入所を希望する保育所その他同省令の定める事項を記載した申込書を市町村に提出しなければならない旨規定し,同条3項は,市町村は,一の保育所について,当該保育所への入所を希望する旨を記載した前項の申込書に係る児童のすべてが入所する場合には当該保育所における適切な保育の実施が困難となることその他のやむを得ない事由がある場合においては,当該保育所に入所する児童を公正な方法で選考することができる旨規定する。さらに,同条5項は,市町村は,同条1項に規定する児童の保護者の保育所の選択及び保育所の適正な運営の確保に資するため,同省令の定めるところにより,その区域内における保育所の設置者,設備 旨規定する。さらに,同条5項は,市町村は,同条1項に規定する児童の保護者の保育所の選択及び保育所の適正な運営の確保に資するため,同省令の定めるところにより,その区域内における保育所の設置者,設備及び運営の状況その他の同省令の定める事項に関し情報の提供を行わなければならない旨規定している。 (2) 保育の実施の解除また,保育の実施を解除する場合においては,市町村長は,あらかじめ,当該保育の実施に係る児童の保護者に対し,当該保育の実施の解除の理由について説明するとともに,その意見を聴かなければならない旨規定されているところ(法33条の4),平成9年改正前においても,措置の解除について,同様の規定がされていた。 2 前提事実(争いのない事実及び証拠(書証番号は特記しない限り枝番を含む。)により容易に認められる事実)(1) 被告は,法35条3項の規定に基づき,大東市立保育所条例(昭和37年大東市条例第3号)を制定し,昭和45年6月から,大東市α13番13号に本件保育所を設置して,本件保育所において保育に欠ける児童の保育を実施していた。 (2) 原告らは,大東市に居住し,その監護する本件各児童について,大東市長から委任を受けた大東市福祉事務所長から本件保育所への入所承諾等の決定を受け,別紙「児童目録」入所年月日欄記載の各日に,本件各児童を本件保育所に入所させていた。 (3) 被告においては,公立保育所の民営化を選挙公約とした現大東市長が選挙で当選し,平成13年3月,大東市行財政改革大綱(平成13年度~平成15年度)が策定され,簡素で効率的な行財政システムの再構築を目指すこととされた(乙3)。保育所の運営についても,平成13年5月,大東市保育所運営のあり方検討会が設置されて検討され(甲16の2), 15年度)が策定され,簡素で効率的な行財政システムの再構築を目指すこととされた(乙3)。保育所の運営についても,平成13年5月,大東市保育所運営のあり方検討会が設置されて検討され(甲16の2),同年11月,平成15年度実施を目標として本件保育所を第1順位とする保育所の民営化方針が打ち出された(甲16の3,乙4)。 (4) その後,平成14年2月まで,計5回保護者説明会が行われ,児童福祉審議会での意見のとりまとめが行われたが,従来,保育所保護者会,保育関係者から選出されていた同審議会委員は解任され,委員として同審議会に参加することはなかった(甲16の5)。同年4月1日,保育所の運営主体を選考するための大東市立保育所民営化に伴う保育所運営者選考委員会が設置され,保育所運営の条件等が策定され,移管先として社会福祉法人寝屋川福祉会(以下「寝屋川福祉会」という。)が適当である旨の報告がされた(甲16の8)。原告らは,同年5月28日,1万8000人余の署名を集め,保育所民営化の是非を問うための住民投票条例制定の直接請求をしたが,大東市議会は,同年6月19日,これを否決した。 (5) 大東市長は,同年9月,大東市議会に本件改正条例案を提出し,本件改正条例は,同月26日に同議会で可決され,同月30日に公布された。本件改正条例は,大東市立保育所条例別表の中から大東市立上三箇保育所の項を削るいう内容であり,平成15年4月1日から施行され,同日午前零時をもって本件保育所を廃止するものである。 (6) 被告は,平成14年10月1日,寝屋川福祉会との間で,障害児保育及び地域活動事業を含めて保育内容を継続する内容の保育所運営の条件等を確認した覚書を作成し(乙6),10年間の指定期間中保育所の運営用途に供することとしてこれに違反した場合は買 との間で,障害児保育及び地域活動事業を含めて保育内容を継続する内容の保育所運営の条件等を確認した覚書を作成し(乙6),10年間の指定期間中保育所の運営用途に供することとしてこれに違反した場合は買戻す買戻特約付きで本件保育所の土地建物及び付属設備等を寝屋川福祉会に移転する売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した(乙7)。さらに,同年12月6日,被告と寝屋川福祉会との間で,保育所の運営について遵守事項を定めた確認書が作成された(乙8)。被告は,平成15年2月18日,大阪府知事に対し,本件保育所の廃止を届け出て(乙14),寝屋川福祉会は,同日,大阪府知事に対し,本件保育所所在地で上三箇保育園(以下「新保育園」という。)の設置認可を申請した(乙15)。同年4月1日,本件保育所が廃止されるとともに,寝屋川福祉会は,本件保育所所在地に認可を受けて新保育園を設置して運営しており,被告は,新保育園に委託して児童らの保育を実施している。 (7) 被告は,平成14年12月16日,新保育園での保育を希望する児童については新保育園に入所して保育を実施し,希望しない児童については他の保育所へ入所できるようにする予定で,本件保育所の0歳児から4歳児の保護者らに,平成15年4月1日以降において新保育園への入所を希望するか他の保育所への転所を希望するか選択するように保育所変更申請書の提出を求めた(乙10)。原告らは,本訴を提起するとともに本件廃止処分の執行停止等を求めていたところ(平成14年(行ク)第51号),照会者99人中3人を除き,無条件又は上記執行停止の裁判に敗訴することを停止条件として新保育園への入園を希望した(乙11,12)。上記執行停止申立事件については,同年3月26日,申立てを却下する決定がされ,原告らの即時抗告も棄却された。その 止の裁判に敗訴することを停止条件として新保育園への入園を希望した(乙11,12)。上記執行停止申立事件については,同年3月26日,申立てを却下する決定がされ,原告らの即時抗告も棄却された。その結果,本件保育所は同年4月1日に廃止され,本件各児童は同日以降新保育園で保育を受けている。 3 争点本件の争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおりである。 (1) 本案前の争点ア本件廃止処分の取消請求(甲乙事件各主位的請求)訴訟の適法性(被告)条例制定行為は,一般的な法規範を定める立法行為であって処分性がなく,本件保育所の廃止処分を観念する余地はない。したがって,本件改正条例の制定を前提として本件廃止処分の取消しを求める甲乙事件各主位的請求に係る訴えは,抗告訴訟の対象となる行政処分を欠いた不適法なものである。 原告らは,平成9年改正により,原告らが特定の保育所で保育を受ける権利を有するとして本件廃止処分の取消しを求めているが,平成9年改正は,保護者の希望を配慮することを規定したが,保護者に希望する特定の保育所での保育の実施を受ける権利を認めたものではない。平成9年改正により,保育所の利用は従前の措置方式から保護者と行政との契約方式に変わったが,この法律関係は,市町村の行政目的実現のために締結される公法上の附合契約によって規律され,保護者は,契約に関し内容や給付方法について修正や変更ができず,市町村が定めた内容について諾否の選択が残されているにすぎないと解される。したがって,保護者には,選択した特定の保育所で保育を受ける権利は存在しない。 また,保育の実施の解除とは,保育所において保育している児童に対して今後保育所における保育を行わない 。したがって,保護者には,選択した特定の保育所で保育を受ける権利は存在しない。 また,保育の実施の解除とは,保育所において保育している児童に対して今後保育所における保育を行わないとする場合を意味し,保育所の廃止は保育の実施の解除に当たらない(保育所の設置主体の変更の際には保育の実施解除手続をする必要はない。)。 (原告ら)一般に,条例は,その内容が抽象的・一般的で,住民に対し,直接権利を制限し,義務を課すものではなく,条例に基づく行政処分が行われて現実の効果が生じるのであるが,条例そのものによって直ちに個人の権利義務に具体的影響を及ぼす場合には,処分性を認めることができる。 平成9年改正は,入所申込み手続きを規定し,保護者の入所選択権を制度上保障したものである。保護者の入所選択権は,入所後においては保護者の意に反して転園させられないという権利を保障するものであり,入所申込者の保育を受ける権利は,就学前まで選択した特定の保育所で保育を受ける権利となった。原告らは,大東市福祉事務所長から本件各児童について就学前まで本件保育所に入所させる旨の承諾の通知を受けており,就学前まで本件保育所で保育の実施を求める権利がある。本件改正条例は,行政庁の具体的処分を待たずに原告らの保育を受ける権利(入所選択権,意に反して転園させられない権利)を違法に侵害するものである。1人を意に添わない保育所に移し替えれば違法であるのに,在園児全員を移し替えれば違法でなくなるというのは合理的理由がなく,脱法行為の発想である。 また,本件改正条例による本件保育所の廃止により原告らは本件保育所において保育の実施を受けられなくなるのであるから,本件改正条例による本件保育所の廃止は保育の実 行為の発想である。 また,本件改正条例による本件保育所の廃止により原告らは本件保育所において保育の実施を受けられなくなるのであるから,本件改正条例による本件保育所の廃止は保育の実施の解除に該当する。 イ本件改正条例の無効確認請求(甲乙事件各予備的請求(1))訴訟の適法性(被告)ア記載のように,本件改正条例の制定をもって抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものということはできないから,本件改正条例の無効確認請求(甲乙事件各予備的請求(1))訴訟は不適法な訴えである。また,無効確認訴訟の「損害を受けるおそれ」,「法律上の利益を有する者」,「現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができない」等の要件を充足していない。 (原告ら)本件においては,本件改正条例が少なくとも形式的には存在し,本件改正条例の施行日までにこれを前提とする準備行為がされて,原告らに対し,本件保育所での保育の実施を解除する具体的処分がされる可能性がある。本件改正条例の施行日前に原告らが取消訴訟を提起して本件改正条例の効力を争うことができないとすれば,原告らが後にされる具体的な保育の実施の解除処分を待ってその取消しを得ても,その段階では本件保育所は存在せず,原告らの保育所に入所する利益を回復しようという目的を達成することはできない。したがって,本件においては,被告に対し,本件改正条例の無効確認を求める訴えが提起できるというべきである。 ウ予防的不作為及び義務付け訴訟(甲乙事件各予備的請求(2))の適法性(被告)一般的に,行政に対し,予防的不作為や公権力の行使等給付を求めることは許されていない。原告らの上記訴えは,無名 け訴訟(甲乙事件各予備的請求(2))の適法性(被告)一般的に,行政に対し,予防的不作為や公権力の行使等給付を求めることは許されていない。原告らの上記訴えは,無名抗告訴訟の要件を充足していない。 (原告ら)現行の行政事件訴訟法は,抗告訴訟として,取消訴訟をはじめ4種類の訴訟形式を法定しているが,国民の権利救済の必要を満たすためにこれ以外の訴訟形式が要求される場合には,法定外の訴訟形式を排斥する趣旨ではない。 一般に司法権が行政権の第一次判断である行政処分の事後審査にとどまるべきであるとしても,事後的関与では権利救済の実効を期し得ない場合,たとえば回復し難い重大な権利侵害の危険が差し迫っており,他に救済の手段のないような場合にまで事後救済の原則にこだわり,国民の権利救済の要請を無視するのは妥当でない。侵害を受ける権利の性質及びその侵害の程度,不利益処分の確実性及びその内容又は性質等に照らし,処分を受けてからこれに関する訴訟の中で事後的に義務の存否を争ったのでは回復し難い重大な損害を被るおそれがある等,事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がある場合には,無名抗告訴訟の1つとして事前に違法な侵害を禁止する訴え等を認めるべきである(最高裁昭和47年11月30日判決,民集26巻9号1746頁)。 本件改正条例は,平成15年4月1日午前零時をもって本件保育所を廃止するものであり,被告は,本件保育所の廃止に向けた準備行為を進めており,原告らに対しても,本件保育所での保育の実施を解除して,他の保育所において保育を実施する処分がされることは確実である。そして,本件改正条例の施行日が到来すれば,本件各児童が入所している本件保育所が廃止 告らに対しても,本件保育所での保育の実施を解除して,他の保育所において保育を実施する処分がされることは確実である。そして,本件改正条例の施行日が到来すれば,本件各児童が入所している本件保育所が廃止されることは確実である。その場合,本件各児童には入所すべき保育所がなくなり,原告らが選択した本件保育所での保育を受ける権利が侵害されることになるばかりか,本件各児童について文字通り保育に欠ける事態となり,事後的な損害賠償等では回復し難い重大な損害を被ることは明らかである。本件改正条例の制定の取消等を求めることができないとすれば,被告の違法な侵害を事前に予防するため他に救済の手段がないことも明らかである。 したがって,本件では事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情があるといえるから,無名抗告訴訟の1つとして事前に被告の違法な侵害を禁止し,被告に一定の処分を命じる義務付け訴訟が認められるべきである。 (2) 本件廃止処分の適法性ア本件保育所廃止の適法性(被告)公立保育所の設置及び廃止は,地方自治法244条の2第1項に基づき条例で定められるものであり,具体的廃止行為は,地方公共団体の長の権限とされ,地方公共団体が行財政改革の実施等の一定の行政目的を実現するため,条例によって公立保育所を廃止する場合があることを許容している。また,保護者と市町村との間の一種の附合契約による公法上の契約関係は,事情の変更があった場合には合理的な範囲で市町村に契約条件を変更する権能も認められる。本件改正条例は,次のとおり,行財政改革の一環として制定され,また,保育内容に何ら変更はなく,合理的理由があるもので違法な点はない。 (ア) 経費削減効果 る。本件改正条例は,次のとおり,行財政改革の一環として制定され,また,保育内容に何ら変更はなく,合理的理由があるもので違法な点はない。 (ア) 経費削減効果国庫支出金支出事務事業において地方公共団体が現実に支出した額が国庫支出金交付の基準となった補助金額を上回る超過負担額について,平成10年度の被告の場合,超過負担額が問題となる6事業全体のうち保育所の運営経費が97.5パーセントを占めており,保育所民営化の必要性は明らかである。 本件保育所の民営化の前後である平成14年度と平成15年度を比較すれば,超過負担金について4816万3836円の財政削減効果が認められ,園児1人当たりでは2万6258円の削減効果がある。運営経費の観点からも,民営化効果額に入所児童数の増加と職員採用抑制効果を考慮して算定すると,本件保育所の民営化による経済効果として1億4900万円余りの削減効果が認められる。 (イ) 保育内容被告は,寝屋川福祉会との間で21項目の遵守事項を定め,保育内容についても「保育計画(指導)の手引き」や「日常生活の留意事項」を作成し,寝屋川福祉会からこれに沿った保育を実施する確約を受けている。加えて,本件売買契約において,平成15年4月1日以降も被告が寝屋川福祉会に対し指導,助言,監督することを定めており,保育の内容に全く変更がないことは明白である。例えば,延長保育については,午後8時まで実施される。保育士の配置も国の基準を充足したもので,新保育園は本件保育所と同じく1歳児4人に対して1人の保育士を配置する。 被告は,寝屋川福祉会との間で3か月の引継期間を設け,平成14年12月26日から平成15年3月11日までの間に計7回 件保育所と同じく1歳児4人に対して1人の保育士を配置する。 被告は,寝屋川福祉会との間で3か月の引継期間を設け,平成14年12月26日から平成15年3月11日までの間に計7回,本件保育所及び新保育園の保育士双方が出席して引継ぎ委員会を実施し,新保育園の園長及び保育士計4名が,同年1月に8回,同年2月に12回,同年3月は毎日,最終の2週間は各クラス担任も加わり本件保育所の保育に参加して,本件保育所での保育の実情の把握及び新保育園への引継ぎに万全を期してきた。また,本件保育所の元所長を,同年4月は週に3回,5月以降は週に2回程度新保育園に派遣し,本件保育所が行ってきた保育内容や行事の実施方法の継承について適切な指導,助言を行っている。 児童と保育士の関係が重要であることは否定しないが,児童は大人と比較して順応性,柔軟性に富んでおり,新しい保育士に替わり新たな見方で保育することが児童の潜在的可能性を引き出すことにつながるという考え方もある。障害児保育に携わる保育士の異動自体できないとすれば,人事異動を前提とする地方公務員法の予定するところではなく,原告らの主張は失当である。寝屋川福祉会は,障害児を過去に受け入れ保育した経験があり,新保育園における保育のために,大東市立保育所で障害児保育の経験のある保育士4名,療育センターで障害児教育の経験がある保育士1名を雇用して配置している。加配対象児あるいは要配慮児童に対する保育については,障害児保育年間計画を作成し,引継ぎ委員会で引継ぎを行い,新保育園の保育士は,発達相談員,家庭児童相談員を交え,対象児童の発達状況,保育の配慮,保護者へのアプローチの方法等を本件保育所の保育士と共に伝授,指導してもらい,4月からの新体制での保育に臨み,小集団に関する年間計画や 達相談員,家庭児童相談員を交え,対象児童の発達状況,保育の配慮,保護者へのアプローチの方法等を本件保育所の保育士と共に伝授,指導してもらい,4月からの新体制での保育に臨み,小集団に関する年間計画や年間目標を作成し,本件保育所で実践していた障害児保育の継続に支障がないように努めている。新保育園では,職員相互間での情報交換のみならず,必要に応じて保護者を交えて発達検査や相談を行っており,保育内容の継続性を維持するため万全の対応を採っている。 (原告ら)法24条1項は,市町村に保育所での保育の実施義務を課しており,この義務に基づいて地方自治法244条1項により公の施設として設置されるのが公立保育所である。保育所は,法の下で制約を受け,法の規定に沿って設置,整備,運営,廃止が決定されるのは当然のことである。法35条6項,児童福祉法施行規則38条1項2号は,保育所の入所者がいる時点でも廃止される場合があることを前提とする廃止手続を定めているが,保護者の入所選択権を侵害しない形での保育所の廃止はあり得るのであって,市町村の広範な裁量によって自由に保育所を廃止することを認めたものではない。保護者の入所選択権は,憲法25条,26条に根拠を有し,具体的権利として確立されたものであり,その侵害に対する違憲審査基準は,単なる合理性の基準では足りず,より厳格な基準として必要最小限度のものであることが必要である。本件改正条例は,次のとおり,財政的負担の軽減について合理的関連性が認められず,原告らの入所選択権を侵害し,裁量権の範囲を著しく逸脱したものであって違法,違憲である。 (ア) 経費削減効果財政上の理由があるにせよ,被告が設置した全公立保育所を廃止することの一環として本件保育所を廃 しく逸脱したものであって違法,違憲である。 (ア) 経費削減効果財政上の理由があるにせよ,被告が設置した全公立保育所を廃止することの一環として本件保育所を廃止することは,法24条による市町村の保育の実施義務に反し,違法である。公立保育所と民間保育園の保育内容の違いを無視して財政コストのみを理由に本件保育所を廃止することは許されない。被告の平成13年度の決算は,平成12年度に比して投資的経費が1年間で13億7800万円も増加しており,税収が落ち込む中で膨大な公共事業の投資経費に予算をつぎ込む一方,公立保育所の廃止,民営化を性急に進めようとしているのであって,公共事業のつけを子供たちに押しつけようとするものである。 公立保育所の市の超過負担の大部分は,経験豊かな保育士が多い公立保育所と経験の少ない保育士が多い民間保育園との人件費の格差である。この格差は,公立保育所の廃止によって当然なくなるものではない。被告において,ここ数年内に保育士が大幅に退職する見込みはなく,民営化しても直接的な財政効果はほとんどない。逆に国や大阪府の補助金(負担金)は,公立保育所の入所児童数に伴って減少するから,公立保育所の超過負担金は逆に増える可能性がある。被告において職員採用を抑制することは従前から行われており,人件費は着実に減少してきている。保育所を民営化しなくても,非常勤保育士の採用等で対応していくことは十分可能であり,短期的にはその方が財政的効果は大きい。性急に保育所を廃止する財政的根拠はない。 また,新設の民間園は,これまで公立保育所が行ってきた特別保育事業を引き継ぐことになっているから,事業に対する被告の委託費も増えることになる。補助金の計算の基礎となる経費である保育単価 また,新設の民間園は,これまで公立保育所が行ってきた特別保育事業を引き継ぐことになっているから,事業に対する被告の委託費も増えることになる。補助金の計算の基礎となる経費である保育単価は,公立より民間の方が高くなっていることから,民間園が増えることにより被告の義務負担金も増えるはずで,被告の超過負担が増えるという結果になる。 被告の平成14年度の決算と平成15年度の予算を比較すれば,保育所運営経費は全体として2億0241円もの歳出増となっている。これに対し,歳入は大きな変動はなく,超過負担は解消されるどころか逆に増える結果となっている。仮に民営化しなかった場合でも,平成15年度の保育所運営経費は約1200万円が増えるだけであり,一方,民営化することにより本件保育所の土地建物の売却で約9000万円の損失を出している。被告の財政削減額の主張は,保育所運営経費のみを比較し他部門での経費増加を考慮せず,また,人件費の抑制等本来民営化による効果とは考えられないものまで含まれるなど,極めて不正確なものである。 (イ) 保育内容前記のとおり,本件改正条例による本件廃止処分は,原告らの本件各児童について就学まで本件保育所での保育の実施を受ける権利を違法に侵害するものである。保育は,法1条ないし3条に規定された理念や児童の権利に関する条約3条1項に照らし,当該児童が心身ともに健やかに育成されなければならないものであるところ,本件改正条例による本件保育所の廃止は,次のとおり,原告らに重大な不利益を課すものである。現実に,新保育園となって,経験年数が短い保育士が多数となり,保育士の目が届いていない結果,児童の怪我が多い状況が生じ,登園を嫌がる児童も少なくなく,児童が保育士の知らないうち 利益を課すものである。現実に,新保育園となって,経験年数が短い保育士が多数となり,保育士の目が届いていない結果,児童の怪我が多い状況が生じ,登園を嫌がる児童も少なくなく,児童が保育士の知らないうちに自宅に戻り,5歳児クラスで混乱,学級崩壊が生じ,児童の布団を戸外のロッカーに収納するなど保育水準の低下が露呈している。 a 保育の一貫性,継続性及び保育士との信頼関係児童の発達における環境の影響は決定的なものであるところ,本件保育所では,保育士との信頼関係の醸成を重視した実践がされていた。原告らの多くが民間園との比較の中で経験豊富な保育士のアドバイスを求めて本件保育所の選択をしてきた。本件保育所の廃止は,本件各児童から信頼していた保育士すべてを奪うものであり,また,十分な引継ぎもされず,児童の人的環境の構築に取り返しのつかない重大な支障を与えることになる。3か月の期間でそれまで長年にわたって築かれてきた児童や保護者との間の信頼関係を引き継ぐことなど不可能である。 b きめ細やかな保育本件保育所では,児童の年齢,発達,アレルギー等の具体的状況に対応したきめ細やかな保育が実施されていた。本件保育所の廃止により,これらのきめ細やかな対応は新保育園に引き継ぐことはできない。延長保育においても単に保育時間が延長されるだけでなく,保護者のおかれた社会的状況に対する理解や経験に基づく実施が必要であり,延長保育の実績のない保育所での延長保育は児童にとっても保護者にとっても重大な変化である。また,新保育園は寝屋川福祉会が運営主体となる以上,保育内容について被告が監督できる権限は限定され,どのような保育を実施していくかは新保育園に委ねられることになる。 大な変化である。また,新保育園は寝屋川福祉会が運営主体となる以上,保育内容について被告が監督できる権限は限定され,どのような保育を実施していくかは新保育園に委ねられることになる。 c 障害児保育本件保育所では,障害児保育について,体制,基準,小集団保育,年間計画,専門機関との連携,言語指導,進路相談等においてきめ細やかで充実した保育を実施し,保護者から高い信頼を得て,その評判を前提に入所した児童も多い。寝屋川福祉会は,障害児を受け入れた経験すらないのであり,新保育園への移管はこれら保護者の信頼を奪うものである。障害児の場合,「人を求めてやまない心」が形成されにくく,そこに教育的手だてが必要とされる。まず「大好きな保育士」という存在を作ることが不可欠であり,その形成に特別の配慮が必要である。 また,子供の発達の理解と実践経験に裏付けられた保育が非常に重要である。「大好きな保育士」の存在の急な代替は不可能である。本件保育所の廃止は,保育士の総入替を意味するのであって,障害児の発達課題の獲得がますます困難となり,その遅れは取り返しのつかないこともあり得る。本件保育所の廃止は,障害児に重大な影響と損害を与えるものである。 イ説明義務違反等(ア) 保育実施解除手続違反(原告ら)前記のとおり,本件保育所の廃止により原告らは本件保育所において保育の実施を受けられなくなり,少なくとも原告らが他の保育所で保育を受ける希望を出さない限り転園させることはできず,待機児童となって保育の実施を解除されることになる。児童を心身ともに健やかに成長させるためには保育の安定性及び継続性が不可欠であることからも,保育所を廃止し民営化する場合には,保育の ることはできず,待機児童となって保育の実施を解除されることになる。児童を心身ともに健やかに成長させるためには保育の安定性及び継続性が不可欠であることからも,保育所を廃止し民営化する場合には,保育の特殊性を考慮した特別な手続が必要で,まさに法33条の4が予定する場面にほかならない。原告らは,法33条の4に定める保育の実施の解除の理由の説明を受けておらず,意見も聴取されておらず,本件廃止処分は違法である。 (被告)前記のとおり,本件保育所の廃止は保育の実施解除に当たらず,その手続をする必要はない。市町村からの一方的な保育契約の変更は可能であり,この場合,他の保育所での保育を拒絶することは,保護者の保育サービスの受領拒否である。 (イ) 行政手続法違反(原告ら)本件保育所の廃止処分は,行政手続法2条4項に規定する不利益処分に該当するもので,同法13条,15条以下に定める告知聴聞の手続を採る必要があるところ,かかる手続は採られていない。 (被告)原告らが本件保育所で保育を受ける権利は,あくまで本件保育所の存続を前提に保護者と被告との間で締結された利用契約に基づくものであり,本件保育所の廃止によって原告らの権利は何ら制限されておらず,不利益処分には該当しない。 (3) 被告の損害賠償責任ア公法上の契約義務違反(丙事件原告ら)前記のとおり,本件改正条例は,原告らの入所選択権を侵害し,享受していた保育の継続を求める権利を侵害するもので,意見聴取手続に違反し,憲法にも違反する違法なものである。仮に,就学時までの本件保育所での保育の実施が契約内容となっ 原告らの入所選択権を侵害し,享受していた保育の継続を求める権利を侵害するもので,意見聴取手続に違反し,憲法にも違反する違法なものである。仮に,就学時までの本件保育所での保育の実施が契約内容となっていないとしても,そのような保護者の期待,信頼は法的保護に値する。これは,公法上の契約である保育所利用契約の義務違反であって,被告の債務不履行により,丙事件原告らは,保育士との別れによる精神的苦痛,新保育園で生じた様々な混乱及び問題による精神的苦痛,入所選択権侵害による精神的苦痛並びに手続違反による精神的苦痛を受け,慰謝料は1人当たり50万円,合計2050万円を下回らない。これに弁護士費用として205万円を加算した合計2255万円のうち,丙事件原告らは,被告に対し,一部請求として丙事件原告らに各50万円及びこれに対する請求の追加的併合申立書(請求の拡張申立)送達日である平成15年9月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告)本件改正条例が適法なことは前記のとおりであり,丙事件原告らの損害は争う。 イ国賠請求(丙事件原告ら)被告の上記各行為は,法に違反する違法行為であり,丙事件原告らは,被告に対し,国家賠償法1条に基づき上記同額の損害賠償を求める。 (被告)本件改正条例が適法なことは前記のとおりであり,丙事件原告らの損害は争う。 第3 争点に対する判断 1 本案前の争点について(1) 本件廃止処分の取消請求(甲乙事件各主位的請求)訴訟の適法性についてア条例の制定は,通常は,一般的,抽象的な規範を定立する立法作用の性質を有するものであり,原則として,個人の具体的権利義務に直 処分の取消請求(甲乙事件各主位的請求)訴訟の適法性についてア条例の制定は,通常は,一般的,抽象的な規範を定立する立法作用の性質を有するものであり,原則として,個人の具体的権利義務に直接の法的効果を及ぼすものではないから,抗告訴訟の対象となる処分には当たらないものと解される。しかしながら,他に行政庁の具体的処分を経ることなく,当該条例自体によって,その適用を受ける特定の個人の具体的な権利義務に直接影響を及ぼすような例外的な場合には,当該条例の制定行為は行政処分に該当するとして,その取消請求が許されると解するのが相当である。 イ保育に欠ける児童に対する保育について規定する法24条は,平成9年改正前の市町村の措置による入所の仕組みから,同改正により,保育所に関する情報の提供に基づき保護者が保育所を選択し,市町村と保護者との間で,保護者が選択した保育所における保育を実施することを内容とする利用契約(公法上の契約)を締結する仕組みに変更されたものと解される。そして,保護者による保育所の選択権を認めた同改正の趣旨にかんがみれば,上記利用契約の内容とされた保護者が選択した保育所で保育を受ける権利は,利用契約の存続期間中において保護されるべきものと解されるから,保護者は,利用契約の存続期間中,当該保育所が存続しているにもかかわらず,その意に反して他の保育所への転園を強要されることなく,当該保育所において保育を受ける権利を有するものと解するのが相当である。そして,同改正後においては,上記利用契約は,原則として,当該保育に欠ける児童の就学までをその契約期間とするものと解するのが相当である。 したがって,原告らは,被告との間で締結した各利用契約に基づき,本件保育所が存続する限り,本件各児童について,就学するまでの 就学までをその契約期間とするものと解するのが相当である。 したがって,原告らは,被告との間で締結した各利用契約に基づき,本件保育所が存続する限り,本件各児童について,就学するまでの期間中,本件保育所において保育を受ける権利を有するものと解するのが相当である。 ウ一方,本件保育所は,地方自治法244条1項にいう住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設(公の施設)であって,条例に基づき,大東市内に居住する児童を保護し,その健全な育成を図るために地方公共団体たる被告が設置するものである。この点,同法244条の2第1項は,地方公共団体は,法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか,公の施設の設置及びその管理に関する事項は,条例でこれを定めなければならない旨規定し,また,第2項は,地方公共団体は,条例で定める重要な公の施設のうち条例で定める特に重要なものについて,これを廃止する場合には,議会において出席議員の3分の2以上の者の同意を得なければならない旨規定している。さらに,同法149条7号は,公の施設を設置し,管理し,及び廃止することを,地方公共団体の長の担任事務の1つとしている。 上記によれば,地方公共団体ないしその長は,当該地方公共団体が現に行い,あるいはこれから行おうとする様々な施策の内容や,当該地方公共団体の置かれた財政状況,その他当該地方公共団体を取り巻く様々な要因を総合的に勘案し,公の施設を設置し,管理し,あるいは廃止することができるものと解すべきであって,公の施設の設置,管理及び廃止については,地方公共団体ないしその長の裁量的判断にゆだねられていると解するのが相当である。 したがって,公の施設である本件保育所を廃止するか否かは,被告の裁量 設の設置,管理及び廃止については,地方公共団体ないしその長の裁量的判断にゆだねられていると解するのが相当である。 したがって,公の施設である本件保育所を廃止するか否かは,被告の裁量にゆだねられた事項というべきであって,そうであれば,平成9年改正後の法において,保育に欠ける児童の保護者と市町村との間で締結された保護者の選択した保育所において保育を実施することを内容とする利用契約は,あくまでも当該保育所が存続することを前提とするものであり,市町村がその有する裁量により当該保育所を廃止することがあり得ることは,当該保育所の公の施設としての性格からくる制約として当該利用契約において前提とされているものと解するのが相当である。法35条6項及び児童福祉法施行規則38条1項2号は,保育所等の児童福祉施設が入所者がいる時点でも廃止される場合があることを前提とする廃止手続を定めているが,これも上記解釈を裏付けるものである。 エしかしながら,上記地方公共団体ないしその長の上記裁量権も全くの自由裁量ということはできず,その裁量権の行使に逸脱ないし濫用が存した場合には違法となるものと解される。原告らは,上記のとおり,本件保育所が存続する限り本件保育所において保育の実施を受ける権利を有しており,これに伴って,通常は,児童が就学に至るまでの間継続して本件保育所における保育の実施がされることを期待してしかるべき法的地位を有しているものということができるのであって,本件保育所の廃止は原告らの権利ないし法的地位に対して直接具体的な影響を与えるものと認めることができ,被告が裁量権を逸脱・濫用して本件保育所を廃止した場合には,原告らは上記権利ないし法的地位を侵害されたものとしてこれを争うことができるというべきである。そして,本件改正条例は, と認めることができ,被告が裁量権を逸脱・濫用して本件保育所を廃止した場合には,原告らは上記権利ないし法的地位を侵害されたものとしてこれを争うことができるというべきである。そして,本件改正条例は,他に行政庁の具体的処分を待つことなく施行日をもって本件保育所を廃止し,上記原告らの権利ないし法的地位に直接具体的な影響を与えるものであり,本件改正条例の制定行為自体をもって行政処分に当たるものと解するのが相当である。 したがって,本件改正条例の制定をもって行政処分(本件廃止処分)に当たるとして,その取消しを求める原告らの甲乙事件各主位的請求訴訟は,抗告訴訟として適法なものと解される。 (2) 本件改正条例の無効確認請求(甲乙事件各予備的請求(1))及び予防的不作為請求等(同予備的請求(2))訴訟の適法性について原告らは,本件改正条例の施行前に本件訴訟を提起し,本件改正条例の施行日前に取消訴訟を提起して本件改正条例の効力を争うことができない場合を念頭に,予備的請求として,本件改正条例の無効確認請求(同予備的請求(1))及び予防的不作為等請求訴訟(同予備的請求(2))をも提起している。 しかしながら,本件改正条例の制定が行政処分(本件廃止処分)に当たるとしてその取消しを求める取消訴訟を提起することができると解すべきことは(1)記載のとおりであり,本件においても,現に上記訴訟が提起されていて,これにより原告らの権利救済が図られ得る以上,これとは別に,本件改正条例の無効確認を求める訴えの利益を認めることはできない。また,原告らの同予備的請求(2)に係る予防的不作為請求及び義務付け訴訟についても,同様に,上記取消訴訟を提起できるものと解される上,原告ら自身がこれらの訴訟を上記のような意味で予備的請求と位 い。また,原告らの同予備的請求(2)に係る予防的不作為請求及び義務付け訴訟についても,同様に,上記取消訴訟を提起できるものと解される上,原告ら自身がこれらの訴訟を上記のような意味で予備的請求と位置づけている以上,取消訴訟とは別に,無名抗告訴訟としてこれらの訴訟を提起することを許容する必要はない。なお,予防的不作為請求訴訟については,平成15年4月1日に本件保育所の廃止処分の効果が発生している以上,訴えの利益が失われたというべきである。 したがって,原告らの甲乙事件各予備的請求に係る訴えは,いずれも不適法なものとして却下を免れない。 2 本件廃止処分の適法性について(1) 本件保育所廃止の適法性についてア審査基準について前記のとおり,本件廃止処分は,被告の有する裁量権の逸脱又は濫用がある場合には違法になると解される。そこで,以下,本件廃止処分の目的,その目的を達成する方法としての本件廃止処分の合理性,本件廃止処分が原告らの上記権利利益に与える影響等を踏まえて,裁量権の逸脱・濫用の有無を判断していくこととする。 原告らは,入所選択権が憲法25条,26条を具体化した権利であり,本件廃止処分が原告らの既に取得した権利を奪うものである以上,違憲審査基準としては,厳格に,原告らの権利に対する侵害が必要最小限度のものであることを要する旨主張する。 しかし,原告らに認められる権利は,前記のとおり,本件保育所が存続する限り本件保育所において保育の実施を受ける権利であって,公の施設である保育所の廃止があり得るという制約を前提としたものであり,また,そもそも,社会権は,法により具体化された権利であっても社会情勢,財政等の制約を受けるものであり,立法裁量の結果定 って,公の施設である保育所の廃止があり得るという制約を前提としたものであり,また,そもそも,社会権は,法により具体化された権利であっても社会情勢,財政等の制約を受けるものであり,立法裁量の結果定められる具体的権利の内容も多面的要素から評価されるものであって,一概に影響が必要最小限か否かの判断ができるものではなく,公の施設の廃止等に関する地方公共団体等の裁量権を原告らの主張するほど厳格に規律・制約するものとまでいうことはできない。上記原告らの主張を採用することはできない。 イ経費削減効果について(ア) 前記のとおり,被告では,平成13年3月,大東市行財政改革大綱(平成13年度~平成15年度)が策定され,簡素で効率的な行財政システムの再構築を目指すこととされ,保育所の運営についても,平成13年5月,大東市保育所のあり方検討会が設置されて検討され,同年11月,平成15年度実施を目標として本件保育所を第1順位とする保育所の民営化方針が打ち出され,本件保育所の廃止,民営化を検討したものであるところ,証拠(乙20,21)によれば,被告の平成10年度の国庫支出金支出事務事業の超過負担額(国庫支出金支出事務事業において地方公共団体が現実に支出した額が国庫支出金交付の基準となった補助金額を上回る額)のうち,保育所の運営経費が97.5パーセントを占めていることが認められ,超過負担額削減のため公立保育所の民営化を図る被告の目的は正当なものと認められる。 さらに,証拠(乙37,38)によれば,本件保育所の民営化の前後である被告の平成14年度決算と平成15年度決算見込みを比較すると,平成14年度の本件保育所の運営経費に比較して平成15年度の新保育園への支出総額は1億3000万円余の削減となっていること,保育所 である被告の平成14年度決算と平成15年度決算見込みを比較すると,平成14年度の本件保育所の運営経費に比較して平成15年度の新保育園への支出総額は1億3000万円余の削減となっていること,保育所全体の運営経費は4000万円余の削減となっており,同運営経費の超過負担金について4800万円余の削減となっていること,平成15年度の特殊要因を除けば更に大きい経費削減効果があったことが認められ,本件保育所の廃止,民営化に経費削減効果があることを認めることができる。 (イ) 原告らは,上記被告主張の経費削減効果には,保育士の採用抑制等本件保育所廃止,民営化とは無関係な削減効果が含まれている旨主張しており,被告による削減効果の検討には上記の点についての考慮がされていないことが認められるが,原告らの主張によっても1200万円の運営経費の削減効果が認められるところで,本件保育所の廃止,民営化に経費削減効果があることを否定することはできない。また,原告らは,民営化することにより本件保育所の土地建物の売却で約9000万円の損失を出している旨主張するが,上記損失のあること及びこれが本件保育所廃止,民営化によるものであることを認めるに足りる証拠はない。さらに,原告らは,職員の配置替えによる他部門での経費増を考慮していない旨主張するが,配置替えにより異動先部門の職員の確保が不要となったことを考慮すれば,経費削減効果があることを否定することはできない。その他,上記経費削減効果があることの認定を覆すに足りる証拠はない。 ウ保育内容について(ア) 証拠(甲13,16,18ないし24,26,27,31ないし36,38ないし66,68ないし109,112ないし117,120,122ないし129,証人A,原告B本人,同C本人 (ア) 証拠(甲13,16,18ないし24,26,27,31ないし36,38ないし66,68ないし109,112ないし117,120,122ないし129,証人A,原告B本人,同C本人)によれば,① 被告は,本件保育所の民営化方針やその実施方法の決定に当たって,重大な利害関係を有する本件保育所入所児童の保護者らの意見を聴取する機会を持つことなく,新保育園の保育内容や引継ぎの実施方法等についても保護者らに方針を説明するのみで,積極的に保護者らの希望,意見等を聴取しこれを取り入れたことを認めるべき証拠はないこと,② 本件保育所の廃止,民営化により,本件保育所の保育士が全員交替したこと,③ 児童の発達における人的環境の影響は大きいものであり,児童の保育に当たっては,保育士と児童及び保護者との信頼関係が重要であるところ,3か月の引継期間で数名の保育士が保育に参加しただけでは,上記のような信頼関係を構築することは難しいこと,④ 特に障害児保育においては,保育士との人間関係が極めて重要であり,障害児保育の実践のためには子供の発達の理解と実践に裏付けられた経験が重要であり,3か月の引継ぎでは信頼関係の構築や従前と同じ水準の障害児教育の実践は困難であること,⑤ 新保育園での保育士は,本件保育所に比べて経験年数の少ない保育士が多いこと,⑥ 平成15年4月1日以降,新保育園において登園を嫌がる児童が存在したこと,⑦ 児童に怪我が多く発生し,その発生状況について保育士が認識できていない事態があったり,児童が保育士の知らないうちに自宅に戻るなど,児童の安全に重大な危険が生じかねない状況もあったこと,⑧ 5歳児クラスにおいて,保育士の話に集中せず,各自がバラバラの行動をとる混乱状態が生じたこと,⑨ 児童の布団を戸外の収納庫に収納することになり, 安全に重大な危険が生じかねない状況もあったこと,⑧ 5歳児クラスにおいて,保育士の話に集中せず,各自がバラバラの行動をとる混乱状態が生じたこと,⑨ 児童の布団を戸外の収納庫に収納することになり,保護者らがこれに大きな反発をしたことなどの事実を認めることができる。 上記によれば,被告における本件保育所の廃止,民営化手続は性急との印象を拭い去ることはできず,引継ぎの期間・内容にも必ずしも万全とはいえない点があるのであって,本件各児童を本件保育所に預け保育を受けてきた原告らにおいて,極めて一方的な本件保育所の廃止と感じ,本件各児童の保護者として不安と不満の念を抱いたことにもやむを得ない面があるといわざるを得ず,これら原告の不安と不満が新保育園での信頼関係の構築に悪影響を及ぼした面があることも否定することはできない。 (イ) しかしながら,原告らは,希望すれば本件各児童について本件保育所と同じ所在地にある新保育園で保育を受けることが可能であったところ,証拠(乙6ないし8,16,17,22ないし24,28ないし34)によれば,被告は,本件保育所の廃止,民間保育園への移管に当たり,① 本件保育所を第1順位とする保育所の民営化方針が打ち出された後,平成14年2月まで計5回保護者説明会を実施したこと,② 大東市立保育所民営化に伴う保育所運営者選考委員会を設置し,保育所運営の条件等を策定して寝屋川福祉会が移管先として適当であるとしてこれを選定したこと,③ 寝屋川福祉会との間で21項目の遵守事項を定め,保育内容についても「保育計画(指導)の手引き」や「日常生活の留意事項」を作成し,これに沿った保育を実施する確約を寝屋川福祉会から受けていたこと,④ 本件売買契約において,平成15年4月1日以降も被告が寝屋川福祉会に対し 計画(指導)の手引き」や「日常生活の留意事項」を作成し,これに沿った保育を実施する確約を寝屋川福祉会から受けていたこと,④ 本件売買契約において,平成15年4月1日以降も被告が寝屋川福祉会に対し指導,助言,監督することを定めていたこと,⑤ 新保育園における保育士の配置は国の基準を充足したもので,1歳児については本件保育所と同じく4人に対して1人の保育士を配置していること,⑥ 新保育園の保育士は,本件保育所の保育士と比較して経験年数が少ないとはいえ,一定程度の経験を有している者も多いこと,⑦ 寝屋川福祉会との間で3か月の引継期間を設け,平成14年12月26日から平成15年3月11日までの間に計7回,本件保育所及び新保育園の保育士双方が出席して引継ぎ委員会を実施し,新保育園の園長及び保育士計4名が,同年1月に8回,同年2月に12回,同年3月は毎日,最終の2週間は各クラス担任も加わり本件保育所の保育に参加したこと,⑧ 平成15年4月以降,本件保育所の元所長を,同年4月は週に3回,5月以降は週に2回程度新保育園に派遣し,保育内容や行事の実施方法の継承について指導,助言を行ってきたこと,⑨ 障害児保育について,寝屋川福祉会には障害児を過去に受け入れ保育した経験があること,⑩ 寝屋川福祉会は,新保育園における保育のために,大東市立保育所で障害児保育の経験のある保育士4名,療育センターで障害児教育の経験がある保育士1名を雇用して配置していること,⑪ 加配(保育士を加配すべき)対象児又は要配慮児童に対する保育について,障害児保育年間計画を作成し,引継ぎ委員会で引継ぎを行い,新保育園の保育士が,発達相談員,家庭児童相談員を交え,対象児童の発達状況,保育の配慮,保護者へのアプローチの方法等を本件保育所の保育士と共に伝授,指導してもらっていること,⑫ 員会で引継ぎを行い,新保育園の保育士が,発達相談員,家庭児童相談員を交え,対象児童の発達状況,保育の配慮,保護者へのアプローチの方法等を本件保育所の保育士と共に伝授,指導してもらっていること,⑫ 新保育園では,小集団に関する年間計画や年間目標を作成し,障害児保育を実践していること,⑬ 当初混乱が見られた新保育園での児童の生活も,日時が経過するにつれ落ち着きが見られるようになっていることなどの事実を認めることができる。 上記によれば,被告は,本件保育所の廃止,民営化に当たり,適当と認められる移管先を選定し,必要な引継ぎ等を行っており,新保育園での保育内容についても,当初から本件保育所と全く同様の保育を行うことは難しいとしても,一応の水準を備えた保育が期待できたというべきである。前記の新保育園における児童の安全等に影響を与えかねない出来事についても,保育の基本的事項に関する問題であって,寝屋川福祉会の従前の経験に照らせば,本件保育所の廃止,民営化に伴って必然的に生ずべき問題として当然に予想できたものとはいい難く,本件廃止処分の判断時点で,本件保育所廃止,民営化に伴い必然的に生ずる事態として当然考慮すべきであったとまではいえない。新保育園で実施される保育内容は,従前本件保育所で実施されていた内容と当然異なる点が生じるものではあるが,保育士の変更やそれに伴う保育内容の変更自体は本件保育所が存続していてもあり得ることであるし,また,本件保育所の廃止,民営化に合理性が認められる以上,一定程度の保育内容の変更も原告らの受忍すべき範囲内のものというべきであり,これを超えて原告らの前記権利を実質的に侵害する程度に内容の変更があったということはできない。 エ本件保育所廃止の適法性について以上によれば, 内のものというべきであり,これを超えて原告らの前記権利を実質的に侵害する程度に内容の変更があったということはできない。 エ本件保育所廃止の適法性について以上によれば,本件廃止処分は,経費削減のため理由があるものであり,原告らは,本件各児童について新保育園での保育の実施を受けることができた以上,本件保育所の廃止,民営化には合理性があると認められ,本件廃止処分に裁量権の逸脱,濫用があるとまでは認められず,これを違法ということはできない。 (2) 説明義務違反等についてア保育実施解除手続違反について原告らは,被告による本件保育所の廃止は,法33条の4にいう保育の実施の解除に当たる旨主張する。 しかし,法24条2項は,「前項に規定する児童について保育所における保育を行うこと(以下「保育の実施」という。)」と規定しており,また,法33条の4は,「都道府県知事,市町村長(省略)は,次の各号に掲げる措置又は保育の実施等を解除する場合には,あらかじめ,当該各号に定める者に対し,当該措置又は保育の実施等の解除の理由について説明するとともに,その意見を聴かなければならない。」とし,その3号で「母子保護の実施及び保育の実施当該母子保護の実施又は保育の実施に係る児童の保護者」と規定している。上記規定によれば,法は,平成9年改正後においても,保護者が選択した特定の保育所において保育を実施することをもって「保育の実施」とするものではなく,「保育所における保育を行うこと」をもって「保育の実施」と定義付けているのであり,法33条の4にいう保育の実施の解除も,保育に欠けることの要件等を欠くことを理由として,市町村が保育所における保育を行うことを解除する場合をいうものと解するのが相 育の実施」と定義付けているのであり,法33条の4にいう保育の実施の解除も,保育に欠けることの要件等を欠くことを理由として,市町村が保育所における保育を行うことを解除する場合をいうものと解するのが相当である。前記のとおり,被告は,本件各児童について新保育園又は他の保育所において保育を実施する予定であったのであり,保育所における保育を行うことを解除する予定はなかったのであって,本件保育所の廃止,民営化は,保育の実施の解除には当たらないと解すべきである。 これに対し,原告らは,原告らが他の保育所で保育を受ける希望を出さない限り転園させることはできず,待機児童となって保育の実施を解除されることになるし,また,保育所を廃止し民営化する場合には保育の特殊性を考慮した特別な手続が必要である旨主張する。しかし,被告において新保育園又は他の保育所において保育を実施することを予定しており,原告らにおいても保育所における保育を受けることが可能であった以上,これを保育の実施の解除と解することはできない。また,保育所の民営化の際,保育の特殊性を考慮し,被告に保護者らに対する説明責任がある旨の論旨には是認できるものがあるとしても,これをもって,保育所の民営化が保育の実施の解除に当たるとか,これと同視できるとし,法が保育の実施の解除について規定するような説明聴取手続が必要であると解することまではできない。 イ行政手続法違反について本件廃止処分は,本件改正条例の制定によってされたものであるところ,これは地方公共団体の議会の議決によってされる処分であって,行政手続法3条1項1号により行政手続法の適用除外とされている。したがって,行政手続法違反である旨の原告らの主張は理由がない。 (3) 本件保育所廃止処分の適法 決によってされる処分であって,行政手続法3条1項1号により行政手続法の適用除外とされている。したがって,行政手続法違反である旨の原告らの主張は理由がない。 (3) 本件保育所廃止処分の適法性について以上によれば,本件廃止処分は適法なものであり,その取消しを求める原告らの甲乙事件各主位的請求は理由がない。 3 被告の損害賠償責任について前記のとおり,本件廃止処分は適法なものであり,また,被告の原告らに対する対応について疑問を抱かされる点はあるものの,前記2(1)ウ(イ)記載のとおり,被告が保護者説明会等を実施し一応の説明義務を果たしていること等に照らせば,違法な点があったとまでいうことはできず,被告に公法上の契約義務違反及び国家賠償法上の違法行為を認めることはできない。したがって,丙事件原告らの損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 4 結論以上によれば,原告らの甲乙事件各主位的請求並びに丙事件原告らの丙事件請求はいずれも理由がないから棄却し,原告らの甲乙事件各予備的請求に係る訴えは不適法であるから却下することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第7民事部裁判長裁判官川神裕裁判官一原友彦裁判官山田明は差し支えのため署名押印できない。 裁判長裁判官川神裕
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