主文 被告人A社を罰金1億6000万円に,被告人aを懲役1年6月にそれぞれ処する。 被告人aに対し,この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 理由 (犯罪事実)被告人A社(以下「被告会社」という。),B社,C社,D社,E社,F社,G社及びH社(以下,被告会社とこれら7社を合わせて「被告会社等8社」という。)はいずれも冷暖房等に関する設備工事の請負業等を営む事業者であり,被告人aは平成24年4月まで被告会社東京本店長補佐,bはB社東京本社営業副統括,cはC社営業本部営業推進部副主幹,dはD社環境システム事業部営業統括部営業推進部員(平成24年4月から同部営業推進室長),eはE社営業本部営業開発部長,fはF社東京本店営業統括部営業グループ長,gはG社東京本店営業第三部営業課長(平成24年4月から同部長)及びhはH社営業本部副本部長の職にあり,それぞれの所属する被告会社等8社の従業者として独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下「鉄道・運輸機構」という。)が発注する北陸新幹線融雪基地機械設備工事及び消雪基地機械設備工事の受注等に関する業務に従事していたものであるが,被告人a及び前記7名は,前記同様の事業を営むその他の事業者3社(以下,これら3社と被告会社等8社とを合わせて「被告会社等11社」という。)にそれぞれ所属して前記同様の業務に従事していた者らと共に,それぞれその所属する被告会社等11社の他の従業者らと共謀の上,それぞれその所属する被告会社等11社の業務に関し,平成23年9月中旬頃から平成24年11月頃までの間,東京都中央区[以下省略]の飲食店等において,面談等の方法により,平成23 年10月以降に鉄道・運輸機構が条件付一般競争入札の方法により順次発 9月中旬頃から平成24年11月頃までの間,東京都中央区[以下省略]の飲食店等において,面談等の方法により,平成23 年10月以降に鉄道・運輸機構が条件付一般競争入札の方法により順次発注する北陸新幹線融雪基地機械設備工事及び消雪基地機械設備工事(以下,これらの工事を合わせて「本件融雪基地機械設備工事等」という。)について,受注予定事業者を決定するとともに当該受注予定事業者が受注できるような価格で入札を行うことなどを合意した上,同合意に従って,同工事についてそれぞれ受注予定事業者を決定するなどし,もって被告会社等11社が共同して,同工事の受注に関し,相互にその事業活動を拘束し,遂行することにより,公共の利益に反して,同工事の受注に係る取引分野における競争を実質的に制限した。 (法令の適用) 1 被告会社について罰条独占禁止法95条1項1号,89条1項1号,3条 2 被告人について罰条刑法60条,独占禁止法95条1項1号,89条1項1号,3条刑種の選択懲役刑を選択刑の執行猶予刑法25条1項(量刑の理由) 1 本件は,被告人aを含む被告会社等11社の従業者らが,鉄道・運輸機構が条件付一般競争入札の方法により発注する一連の本件融雪基地機械設備工事等について,予め受注予定業者を決め当該受注予定業者が受注できるよう協力する旨の入札談合を行って,一連の工事の受注に係る取引分野における競争を実質的に制限したという独占禁止法違反の事案である。 北陸新幹線では,それまでの新幹線における雪害対策である消雪設備(軌道上のスプリンクラーから温水を軌道上に散水して降雪を融解するための 設備)に加え,新たに軌道脇に設置し加温した不凍液を循環させ 線では,それまでの新幹線における雪害対策である消雪設備(軌道上のスプリンクラーから温水を軌道上に散水して降雪を融解するための 設備)に加え,新たに軌道脇に設置し加温した不凍液を循環させる融雪パネル上に軌道上の雪をラッセル車等で除雪し融雪するための設備も設置されることとなり,本件融雪基地機械設備工事等が行われることになった。 2 本件入札談合の規模及び影響は大きい。本件融雪基地機械設備工事等は,国家的なプロジェクトである北陸新幹線建設工事の建設主体である鉄道・運輸機構が,同工事の一環として発注した公共性の高い事業であり,談合による落札額が合計174億7000万円に上る大規模公共工事である上,前記のとおり,新幹線に初めて融雪パネルを用いた新技術を採用するものであり,冷暖房や空調,給排水設備工事等の関連する設備工事を手掛ける被告会社等の管工事業界の事業者が,強い関心を示すものであった。 このような事業について,管工事業界の年間工事高の上位を占める大手事業者の多くが参加して入札談合が行われたこと自体,公正かつ自由な競争を阻害する程度ははなはだしく,その社会経済に対する影響は大きい。 管工事業界では,長年にわたり各事業者の担当従業者による談合が行われていたところ,平成18年に防衛施設庁の談合事件が発覚し,関与した事業者及び従業者が,刑事処分や捜査を受けたため,各事業者の担当従業者が集まっての談合等を控えていたが,個別の事業者間の折衝を通じて,前施工業者の優先等の様々な慣行に基づき,入札の受注業者を予め調整することが続けられていた。そのような背景のもと,本件では,被告会社とB社,C社の幹事社3社の担当従業者が,条件付き指名競争入札に応じる可能性があると思われる8社の担当従業者から受注希望を聴取し,受注順序に関する事務局案を作成した な背景のもと,本件では,被告会社とB社,C社の幹事社3社の担当従業者が,条件付き指名競争入札に応じる可能性があると思われる8社の担当従業者から受注希望を聴取し,受注順序に関する事務局案を作成した上で,被告会社等11社の担当従業者が一堂に会して,この事務局案を前提に協議し,受注本命業者の順序等について基本合意を形成し,その後,相互に連絡を取り合い,受注本命業者が落札できるような入札価格で入札を行うなどの形で,基本合意が遂行された。 その態様は,過去の談合事件に対する反省を無視した大胆で悪質なもので ある。また,この経緯からは,被告会社及び被告人aを含む管工事業界における公正で自由な競争に関する意識の低さが明らかであって,強い非難に値する。 しかも,平成24年3月に本件談合を告発する投書があり,鉄道・運輸機構によるヒヤリングが行われたにもかかわらず,談合に参加した各事業者の担当者は,談合の事実を否定したばかりでなく,本件談合を解消することをせず,多くの事業者が談合に基づく入札を続け,既に談合に基づき受注していた被告会社は,受注本命業者が落札できるような入札価格で入札し,或いは入札に参加しないことにより協力したのであり,やはり大胆かつ無反省というほかない。 3(1) 被告人aは,幹事社の担当従業者として,B社のb,C社のcと共に,主体的かつ積極的に,本件談合に不可欠な役割を果たした。すなわち,本件は,B社のbがc及び被告人aに声をかけて受注調整を試みることになり,3名は本件融雪基地機械設備工事等について談合をすることが可能かを検討するため会合を重ね,工事数及び入札に応じる可能性がある事業者を予想して,それらの事業者に対して分担して受注意欲及び受注希望工事を聴取し,予想工事数と照らし合わせた結果,談合が可能であると判断し, するため会合を重ね,工事数及び入札に応じる可能性がある事業者を予想して,それらの事業者に対して分担して受注意欲及び受注希望工事を聴取し,予想工事数と照らし合わせた結果,談合が可能であると判断し,受注順序に関する事務局案を作成した上で,入札予定事業者の担当従業者らに会合への参加を呼びかけ,一堂に集めて基本合意を締結した。 また,基本合意後も,被告人aは,平成24年4月に被告会社を退職するまでの間,自己が担当する事業者について事業者間の連絡調整を行い,本件談合の遂行のために幹事社従業者として役割を果たした。 そして,本件談合の結果,被告会社は97.1%もの高い落札率で工事を受注し不正な利益を得ているのであり,この点も軽視できない。 (2) 各弁護人は,被告人aが果たした役割は他の幹事社の担当従業者より小さい旨主張するが,業界最大手である被告会社が幹事社として本件談 合に参加すること自体の意義は大きい上,基本合意成立に至る過程で3名が分担した作業内容に多少の相違があるとしても,その立場に上下関係があるとは思われず,結局,本件談合においては,3名が共同して幹事の役割を担ったと評価するのが相当である。また,被告人aは平成24年4月に被告会社を退職した後,被告会社の担当従業者ではなくなっているが,それまでに果たした役割,とりわけ,3名が共同して基本合意締結に導いたことに鑑みれば,遂行行為の途中で担当従業者でなくなったことを考慮しても,b,cが果たした役割と大きな差異があるとはいえない。このような被告人aの果たした役割の重要性に照らせば,同被告人はもとより,被告会社も特に重い非難に値する。 (3) 被告会社の弁護人は,被告会社においては被告人aがいわゆる業担であることは社内において認識されておらず,同被告人が独断で本件談合に関与 告人はもとより,被告会社も特に重い非難に値する。 (3) 被告会社の弁護人は,被告会社においては被告人aがいわゆる業担であることは社内において認識されておらず,同被告人が独断で本件談合に関与したと主張するようであり,また,同被告人が平成24年4月に被告会社を退職した時点で,実質的に本件談合から離脱している旨主張する(法律的に離脱したとの主張ではない。)。 しかし,被告人aは,検察官に対し,平成22年に前任の業担(同業者との情報交換や受注調整の担当者)が辞職する際に,当時の被告会社東京本店副本店長から相談を受けて業担を引き継いだ旨供述し,公判廷でもこれを前提とした供述を維持し,さらに,公判廷において,基本合意の前に,被告会社エンジニアリング事業本部環境ソリューション事業部副事業部長兼営業1部長であるiに本件融雪基地機械設備工事等について受注調整の話があり1本取りに行くことを話し,基本合意後にも,i部長に被告会社が新鉄融雪基地等の機械設備工事の受注本命業者となった旨伝えたと供述しており,その信用性を疑うべき事情はない。また,i部長も,検察官調書(a119。ただし,被告人a不同意部分を除く。)において,被告人aから明確に談合結果を聞いたことはなかったとしながらも,同被告人が受注 調整に動き,これを成功させたことを認識しながら,同被告人と相談しつつ本件融雪基地機械設備工事等の入札への対応を行ったことを供述している。このように,被告会社において被告人aが業担として活動し,周囲もその調整結果に従っていたことは明らかである。これによれば,被告会社の弁護人が主張する防衛施設庁談合事件後の被告会社社長の談合決別宣言は実効性を持たなかったものといわざるを得ず,その後も同業者間の受注調整を容認する風土が存在したからこそ,被告人aが本件 ,被告会社の弁護人が主張する防衛施設庁談合事件後の被告会社社長の談合決別宣言は実効性を持たなかったものといわざるを得ず,その後も同業者間の受注調整を容認する風土が存在したからこそ,被告人aが本件談合に参加したものと考えられる。 また,確かに,被告人aは,その退職に際し,被告会社東京本店ファシリティ・ソリューション部長であるjに,業担としての役割を引き継ぐことになり,業界他社の者に自分の後任として紹介したものの,北陸新幹線融雪基地機械設備工事等に関する談合については詳しい話をせず,何かあったらbに相談するか自分に電話するよう話した旨供述しており,同被告人の退職後,被告会社従業者が,それまで同被告人が行っていたように事業者間の連絡調整等の幹事社従業者としての役割を果たした事実は認められない。しかし,前記のとおり,被告人aは,i部長に談合の結果を伝えており,これにより被告会社が本件談合内容に反する受注を試みることを防止することができるはずであり,現に,平成24年11月2日に開札された金沢駅東部第1消雪基地外9箇所機械設備他工事の入札にあたり,j部長が担当従業者として受注本命業者から連絡を受け,結局,同事業者が落札できるような価格で被告会社が入札していることに照らせば,同被告人が退職した後も,被告会社は本件談合による相互拘束に従っているのであって,実質的に本件談合から離脱したとは評価できない。そして,前記のとおり被告人aが幹事社の従業者として基本合意成立に果たした役割の大きさに照らせば,同被告人退職後,被告会社の従業者が幹事社としての役割を果たしていないことにより,被告会社の罪責が他の幹事社より大き く軽減されるとは考え難い。 さらに,被告会社の弁護人は,本件融雪基地機械設備工事等の予定価格が低く設定されている一方,工事 たしていないことにより,被告会社の罪責が他の幹事社より大き く軽減されるとは考え難い。 さらに,被告会社の弁護人は,本件融雪基地機械設備工事等の予定価格が低く設定されている一方,工事コストが相当高額となる状況にあったから,被告会社は本件談合によって不当に高い利益を貪ったのではないなどと主張する。しかし,独占禁止法は,公正かつ自由な競争を促進し,事業者の創意を発揮させ,事業活動を盛んにすること等をもって,国民経済の民主的で健全な発達を促進すること等を目的としている(同法1条)ところ,本件談合で受注本命業者を決定して参加業者の共存共栄を図ったことによって,事業者間の活発な創意工夫による競争を阻害し,民主的で健全な経済を損なったこと自体が強い非難に値する。また,被告会社は,単体としての工事で利益を得られるか否かのみならず,国家的なプロジェクトであるとともに,融雪パネルによる新たな技術を採用した工事を受注することが,施工実績として,将来における営業に資することなど,様々な要素を考慮して入札の方針を決定している。その中で,被告人aは,少しでも被告会社の経済的利益を不正に図るため本件談合を行い,その結果,公正で自由な競争によらない受注業者と価格の決定が行われ,被告会社も前記のとおり高い落札率により工事を受注したのであるから,被告会社はこれによる非難を免れない。なお,被告会社の弁護人は,鉄道・運輸機構の関係者が入札予定価格に関する情報を教示したこと等の発注者側の関与についても指摘するが,このような事情は被告会社の罪責を減ずるものではない。 4 他方で,本件談合が摘発された後,被告会社はコンプライアンス体制を一応再構築し,被告会社経営管理本部副本部長が再発防止を誓っていること,官公庁及び地方自治体等から指名停止措置を受けていること 4 他方で,本件談合が摘発された後,被告会社はコンプライアンス体制を一応再構築し,被告会社経営管理本部副本部長が再発防止を誓っていること,官公庁及び地方自治体等から指名停止措置を受けていること,営業停止処分も予想されること,被告人aが事実を認め反省していることといった事情も考慮して,主文のとおりの刑を定めるのが相当であると判断 した。 (求刑被告会社につき罰金2億円,被告人につき懲役1年6月)平成26年11月14日東京地方裁判所刑事第18部 裁判長裁判官稗田雅洋 裁判官吉田静香 裁判官山田明香
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