昭和49(う)174 業務上過失傷害、道路交通法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和49年11月15日 仙台高等裁判所
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【DRY-RUN】主    文      原判決を破棄する。      被告人を懲役一〇月に処する。          理    由  本件控訴の趣意は、山形地方検察庁検察官検事西岡幸彦名義の控訴趣意書記載の とおりで

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判決文本文3,534 文字)

主    文      原判決を破棄する。      被告人を懲役一〇月に処する。          理    由  本件控訴の趣意は、山形地方検察庁検察官検事西岡幸彦名義の控訴趣意書記載の とおりであるから、ここにこれを引用する。  控訴趣意第一点について  所論は要するに、原判示第二の救護等の義務違反の罪と同第三の報告義務違反の 罪は別個独立の義務であり、各義務違反に対する罰条も各別に規定されているか ら、両罪は併合罪の関係に立つものと解すべきであつて(最高裁判所昭和三八年四 月一八日大法廷判決刑集一七巻三号二二九頁参照)、この見解は近時の同裁判所の 判決(昭和四九年五月二九日大法廷判決)にいう「社会的見解」に照らしても是認 されるものである。しかるに原判決は、右各罪が観念的競合犯の関係に立つものと して、刑法五四条一項前段を適用したことは、判決に影響を及ぼすことが明らかな 法令の解釈適用を誤つたものであるから破棄されるべきである、というにある。  <要旨>よつて判断するに、刑法五四条一項前段の規定にいう「一個の行為とは、 法的評価をはなれ構成要件的観点</要旨>を捨象した自然的観察のもとで、行為者の 動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいう」と解すべきところ (最高裁判所昭和四六年(あ)第一五九〇号昭和四九年五月二九日大法廷判決参 照)、記録に徴し、被告人の所論各罪における行為の態様をみるに、被告人は自動 車を運転してAの搭乗する自転車に衝突し、同人に傷害を負わせたことを十分に感 知しながら、ただ自己の刑責を免れんがためには、負傷者救護等の措置を講ずべき 義務(道路交通法七二条一項前段所定)および警察官に対し当該交通事故の発生等 に関して報告をなすべき義務(同条項後段所定)にともに背馳するもやむなしとの 認識のもとに、運転を停止することなくその場から逃走 務(道路交通法七二条一項前段所定)および警察官に対し当該交通事故の発生等 に関して報告をなすべき義務(同条項後段所定)にともに背馳するもやむなしとの 認識のもとに、運転を停止することなくその場から逃走し、もつて所論原判示第二 および第三の各義務違反の罪を犯したものであることが明らかである。したがつて 右各罪が刑法五四条一項前段の一個の行為によつてなされたものかどうかを検討す るにあたつては、それらが救護すべき義務および報告すべき義務という法的な作為 義務をその構成要件の要素となす真正不作為犯であることの性質を考慮しながら も、右認定の本件犯行態様に対して法的に無色な自然的観察および社会的見解から 判断すべきである。  してみると本件各罪における義務違反すなわち不作為の動態は、事故現場からさ らに運転を継続し逃走したというその客観的外部的行動によつて表象されている点 を看過することはできず、しかも本件各作為義務が、その発生の時期、原因、既遂 到達の時期等の諸点において、これを異別に解すべき特段の事情の存することが本 件において認められないのであるから、本件二個の義務違反はまさに同一の機会に おいて敢行されたもの、別言すれば衝突事故によつて被害者を救護すべき義務者お よび事故に関し報告すべき義務者たる身分を同時に兼ね備えつつ事故現場から運転 を継続して逃走し、もつて同時に二個の義務違反を敢行したものであることに照ら すと、前記自然的観察および社会的見解上、右各違反の所為は一個の行為によりな されたものと評価するのを相当とせざるを得ない。所論のごとく、行為者の動態に 対する観察を尽さずに、ただ、各作為義務およびその処罰規定が別個独立であると いうことから、一律に作為義務毎に複数の行為があるものと解して併合罪の関係に 立つとすることは、具体的な行為者の動態に対する考察を重視すべきも ずに、ただ、各作為義務およびその処罰規定が別個独立であると いうことから、一律に作為義務毎に複数の行為があるものと解して併合罪の関係に 立つとすることは、具体的な行為者の動態に対する考察を重視すべきものとした前 記昭和四九年五月二九日の最高裁判所判決の趣旨にそわないものと考える。  したがつて被告人の本件各義務違反の罪は、刑法五四条一項前段の観念的競合犯 の関係に立つと解すべきであるから、原判決のこの点に関する法令の解釈適用は正 当であり、論旨は理由がない。  控訴趣意第二点(量刑不当の主張)について  所論にかんがみ記録を精査し、当審における事実取調の結果を参酌するに、被告 人は原判示第一の犯行当日に自宅より原判示料理店における忘年会に出席するにあ たり、同席で飲酒することを予定しながら敢えて普通乗用自動車を運転して同席に 臨み、通常ビール大びん二本が限度であるところ、ビールをほぼ同限度量(約一・ 二四リツトル)まで飲んだ後同日午後六時頃右自動車を運転して帰途に就き、時速 約四五キロメートルで進行中、酔がまわつて前方注視が困難な状態に陥つたとこ ろ、およそかかる場合において直ちに運転を中止して事故の発生を未然に防止すべ き業務上の注意義務があることは当然であるにも拘らず、これを怠り、ただ帰宅を 急ぐ気持に駆られるまま運転を継続した過失により、同日午後六時二〇分頃、附近 に照明設備がないため路面が暗い原判示場所に差しかかつた際に、折柄被告人車前 方左側をA(当時六四年)が自転車に搭乗して同一方向に進行中であることに全く 気付かず、自車左前部を右自転車の後部に激突せしめ、その衝撃を感じながらなん らの措置も講ずることなくさらに約六・六二メートル進行したときに再度の衝撃を 感じ、ここにおいて自転車などに衝突し、その搭乗者などにかなりの傷害を負わせ たであろうことを感知しながらた を感じながらなん らの措置も講ずることなくさらに約六・六二メートル進行したときに再度の衝撃を 感じ、ここにおいて自転車などに衝突し、その搭乗者などにかなりの傷害を負わせ たであろうことを感知しながらただ刑責をおそれて狼狽し、咄嗟に右方に転把して 自車を右自転車から離した後、停止することなく運転を継続して逃走し、もつてA に対し原判示の重大なる傷害を負わせたほか、原判示第二の救護等の義務も亦、同 第三の報告義務をもともに尽さなかつたこと、同日午後一一時頃警察官によりその 呼気の検査をうけたところ、呼気一リツトルにつき一・〇〇ミリグラム以上のアル コールを身体に保有していたこと、Aは右事故当時郵便配達業務に従事中のところ であつたが、右受傷の結果、いまだに左肩甲部痛、左肩機能障害があり、通院治療 を継続中ではあるが、これらは後遺症として固定するものとみられ、従前の業務に 復帰することは望み難いことが認められる。以上認定の情況に照らせば、本件各犯 行の態様はまことに悪質にして結果も重大であり、被告人はその法軽視の態度に照 らして、強く刑責を問われて然るべきである。もとより他面、被告人は日頃真面目 な人柄で職場においても人望があり、これまで交通事故を発生せしめたことも、道 路交通法違反の前歴もなく、性格には非常に小心な一面があつて、本件における逃 走もこれに禍されて狼狽したためと窺われるほか、被害者に対しては熱心に慰籍の 態度を示し、同人およびその家族らは被告人に対し宥恕の意思を表明して軽い処分 を望んでいること、示談を成立せしめて、その約定の分割支払に多少の遅れはある ものの、まずまず履行していること、被告人に反省の情がみられること、家庭の状 況その他諸般の情状の認められるところを十分斟酌しても、本件刑責に照らせば、 被告人を懲役一年に処し、三年間その執行を猶予することとした原判 ず履行していること、被告人に反省の情がみられること、家庭の状 況その他諸般の情状の認められるところを十分斟酌しても、本件刑責に照らせば、 被告人を懲役一年に処し、三年間その執行を猶予することとした原判決の量刑は、 軽きに過ぎ不当であると認めざるを得ない。論旨は理由がある。  よつて刑事訴訟法三九七条一項、三八一条に則り原判決を破棄し、同法四〇〇条 但書を適用してさらに次のとおり判決する。  原判決が適法に認定した事実に対する法令の適用は刑種の選択を含め原判決摘示 のとおりであるからここにこれを引用し、所定刑期の範囲内で被告人を懲役一〇月 に処することとし、主文のとおり判決する。  (裁判長裁判官 山田瑞夫 裁判官 野口喜蔵 裁判官 鈴木健嗣朗)

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