平成12(ワ)2075 売掛代金請求

裁判年月日・裁判所
平成15年2月6日 神戸地方裁判所
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判決文本文6,438 文字)

判決平成15年2月6日神戸地方裁判所平成12年(ワ)第2075号売掛代金請求事件 主文 1 被告は原告に対し1575万円及びこれに対する平成12年11月7日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決は仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は,原告が被告に対し,売買代金及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める事案である。 1 前提事実(証拠の標目の記載のない事実は当事者間に争いがない。なお,以下,特に記載のない限り,年度は平成12年である)(1) 当事者等原告は,計測器,工業計測制御機器等の製造,販売を主たる目的とする株式会社である。被告は,金属加工機械,機械器具等の売買,輸出入等を目的とする株式会社である。 訴外Aは,工業用計測機器の製造,販売及び修理を目的とする株式会社である(乙20)。 (2) 環流取引ア Aは,原告に対し,4月19日,同社の在庫商品である本件商品を,1433万2500円(商品代金1365万円,消費税額68万2500円)で売り渡し(甲9),4月20日,代金の支払を受けた(甲10ないし13の1・2,原告代表者)。 イ原告は,被告に対し,4月19日,本件商品を1575万円(商品代金1500万円,消費税75万円),引渡期日5月10日の約定で売り渡した。支払期日については,商品検収後15日締め,翌月10日に,150日後を支払期日とした約束 9日,本件商品を1575万円(商品代金1500万円,消費税75万円),引渡期日5月10日の約定で売り渡した。支払期日については,商品検収後15日締め,翌月10日に,150日後を支払期日とした約束手形を振り出して支払うという約定であった(以下,この売買契約を「本件売買」という)。 ウ被告は,Aに対し,4月19日,本件商品を,1732万5000円(商品代金1650万円,消費税額82万5000円),173万250円ずつ10回の分割払いの約定で売り渡した(乙8,11,証人B,同C,弁論の全趣旨)。 エ以上のとおり,本件商品は,結局,Aの在庫のまま,A→原告→被告→Aと環流したものである。 Aは6月15日に破産宣告を受けた。そのため,被告は,Aから上記ウの売買代金の支払いを受けることができなくなった(証人B,同C,弁論の全趣旨)。 2 争点(1) 原告は被告に対し本件商品を引き渡したかア原告の主張原告は,被告に対し,5月10日までに本件商品を引き渡した。 よって,原告は,被告に対し,本件売買代金1575万円及びこれに対する弁済期(6月10日の150日後である11月6日)の翌日である11月7日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求める。 イ被告の認否否認する。 (2) 原告の本件売買代金請求は権利濫用ないし信義則違反かア被告の主張Aは,当座の資金繰りに窮したため,在庫の本件商品をいったん売却し,しかる後にこれを買い戻すという環流取引によって当座の資金を得ようと考え,同社のスポンサーであった原告に対し,環流取引への協 Aは,当座の資金繰りに窮したため,在庫の本件商品をいったん売却し,しかる後にこれを買い戻すという環流取引によって当座の資金を得ようと考え,同社のスポンサーであった原告に対し,環流取引への協力を依頼した。 原告は,Aが経営破綻に瀕していることを知っていたため,同社に支払った代金を確実に回収するために,被告を環流取引に引き込むことをAと共謀し,環流取引の事実及びAが経営破綻の危機に瀕していることを秘したまま,本件商品の購入を被告に持ちかけた。 被告は,原告及びAの上記勧誘に応じて,原告とAの間の売買に介入することにし,原告との間で本件売買契約を締結した。これは,商社がしばしば行う介入取引であって,これにより,売り主は代金の支払を早期かつ確実に得ることができ,また,買い主は代金支払いの猶予を得ることができる。しかしながら,被告は,まさか原告が本件商品をAから購入している(すなわち,環流取引である)とは知らなかったし,Aが経営破綻の危機に瀕しているとも知らなかった。もし被告がこれらの事実を知っていれば,本件売買契約を締結することもなかった。 ところが,原告は,本件環流取引に被告を引き込んでおきながら,5月ころ,Aとの取引を停止し,これが原因となってAは破産した。 以上のとおり,原告は,環流取引の事実及びAの経営破綻の事実を知りながら,これらの事実を被告に秘して,本件売買契約を締結させたのみならず,Aとの取引を停止することによって同社を経営破綻に追い込んだのであって,かかる事実関係に照らすと,原告の請求は権利の濫用,信義則違反である。 イ原告の認否被告の主張は否認する。 むしろ,原告の方こそ,Aと被告の間の売買に,Aから頼 事実関係に照らすと,原告の請求は権利の濫用,信義則違反である。 イ原告の認否被告の主張は否認する。 むしろ,原告の方こそ,Aと被告の間の売買に,Aから頼まれて介入することにしたのであって,まさか,被告が本件商品をAに売却する(すなわち環流取引である)ことになっているとは知らなかったものである。また,原告は,Aが経営破綻の危機に瀕しているとも知らなかった。 仮に,原告が環流取引の事実を知っていたとしても,原告には被告を積極的に害する意思まであったわけではないから,本件売買代金の請求は,権利濫用又は信義則違反には当たらない。 第3 争点に対する判断 1 証拠によれば,以下の事実が認められる。 Aは,平成5年ころから経営が思わしくなくなり,平成7年ころから実体のない空リースにより資金の埋め合わせをするようになったが,経営は好転せず,平成12年初めころから資金繰りに窮するようになり(乙12,20),4月になると,同月20日以降の支払資金が不足することが明らかになった(乙11)。 Aは,資金調達の方法として,同社の在庫商品である本件商品をどこかの商社に購入してもらい,一時的に資金を調達した上で,同社が分割払いで買い戻すことを考えつき,被告のC部長に対し,4月上旬ころ,原告のAに対する本件商品の売買に被告が介入し,被告が原告からいったん本件商品を購入した上で,Aに10回の分割払いで販売してもらえないかと依頼したところ,被告から,1575万円であれば原告から購入することはできるという回答を得た(乙11,証人B)。この際,Aは,被告に対しては,本件商品の売買が,融資目的の環流取引の一環であることは説明しなかった(乙8,11,証人B,同C)。次に,Aは,原告のD総務 できるという回答を得た(乙11,証人B)。この際,Aは,被告に対しては,本件商品の売買が,融資目的の環流取引の一環であることは説明しなかった(乙8,11,証人B,同C)。次に,Aは,原告のD総務部長(当時。現在の原告代表者代表取締役。以下「原告代表者」という)に対し,4月13,4日ころ,環流取引による在庫融資を得たいので,本件商品をAから購入し,被告に売却する取引に関与してもらえないかと依頼した(乙11,証人B)。原告代表者から,その条件として,Aが被告からの注文書を入手して原告に交付することを求められたため,Aは,4月18日,被告に対して本件商品の注文書を原告宛に発行するように依頼したところ,翌4月19日,被告から原告の東京営業所宛に注文書(甲3)の原本が届けられた(乙11,証人B)。そこで,原告は,被告に対し,同日,本件売買契約の注文請書(乙1)を送付して本件売買契約を締結し,直ちに,被告に対し,本件商品をAに納品した旨の納品書(乙3)と請求書(乙2)を送付した。被告がAに確認すると納品を受けたという返事であったため,被告は原告に対し商品受領書(甲4)を発送した。翌4月20日,Aは,原告から本件商品の代金の支払いを受け,資金ショートによる不渡りの発生を防ぐことができた(乙11)。なお,Aが,原告から,このような環流取引による融資を受けたことは本件以外にもあったが,その際は,本件のように他の商社が介在することはなかった(証人B)。 以上のとおり,原告は,本件売買がAに対する融資を目的とした環流取引の一環であること(従って,本件売買の後,Aが被告から本件商品を買い戻すこと)を知っていたこと,これに対して,被告は,本件売買がそのような取引であること(従って,原告の本件商品の仕入れ先がAであること)を知らなかったことが認めら 買の後,Aが被告から本件商品を買い戻すこと)を知っていたこと,これに対して,被告は,本件売買がそのような取引であること(従って,原告の本件商品の仕入れ先がAであること)を知らなかったことが認められる。 以上の認定に対し,原告代表者は,Aからは,本件売買後,被告は本件商品をEに売却する予定である旨聞いており,本件取引が環流取引の一環であるとは知らなかった旨供述する。しかしながら,Aの代表者であった証人Bは,上記認定事実のとおり明確に証言するのであって,同証人が,あえて原告に不利な証言をする理由や必要性は格別見当たらないから,同証人の証言には信用性が認められ,これに反する原告代表者の供述は信用することができない。また,原告は,本件商品を部品として使用した商品のカタログ(甲7)に,発売元として被告の建機開発部が,製造元としてAが記載されていることを理由に,被告は,本件商品の元々の売り主がAであって環流取引であることを知らないはずがない旨主張するけれども,証人Cの証言によれば,被告は,本件商品を部品として使用した商品一部の部品をAが原告を通じて仕入れるものと考えていたことが認められるから,上記カタログの記載から,被告が本件売買が環流取引の一環であることを知っていたと認定することはできない。 なお,被告は,本件商品の引渡の事実を否認するものの,上記認定のとおり,被告としては,原告とAの売買に介入する意図で原告と売買契約を締結し,原告からAへの商品の納品について,Aから受領済みという返答を得,原告に商品受領書を発行しているのであるから(実は元々本件商品がAの元にあったという意味で,被告の認識と実態に齟齬はあるものの,Aは被告の代理として原告から引渡を受けたもの(民法181条)と認めることができる。 2 権利濫用,信義 から(実は元々本件商品がAの元にあったという意味で,被告の認識と実態に齟齬はあるものの,Aは被告の代理として原告から引渡を受けたもの(民法181条)と認めることができる。 2 権利濫用,信義則違反の抗弁について以上の認定事実を前提に,原告の被告に対する本件売買代金請求が権利濫用ないし信義則違反に当たるかを検討する。 確かに,前記認定のとおり,原告は,本件売買がAに対する融資を目的とした環流取引の一環であることを知っていながら,そのことを被告に告げないまま本件売買契約を締結したことが認められる。 しかしながら,環流取引であるにせよ,そうでないにせよ,被告としては,本件商品をAに売却して売買代金を回収することさえできればいいのであるから,問題は,本件売買当時におけるAの信用状態(倒産の危険性)と,被告がこれをどう評価したかである。その意味で,本件売買が環流取引の一環であることは,Aの信用を低下させる一徴表ではあるけれども,原告が被告をこれに巻き込んだということだけで本件売買代金請求が不当ということには必ずしもならないといわざるを得ない。従って,原告の請求が権利濫用ないし信義則違反となり得るためには,原告が,被告のAに対する信用評価を誤らせるような作為又は不作為の詐術に出たり,また,原告自らがAを倒産に追い込んだりといった,原告の被告に対する積極的な加害行為が認められなければならないと解すべきである。被告が,原告の権利濫用ないし信義則違反を基礎づける事実として,原告が本件環流取引に被告を巻き込んだこと以外に,①原告が,本件売買当時,Aが経営破綻の危機に瀕しており,被告のAに対する債権回収が不可能になることを知っていながらこれを告げなかったこと,②本件売買の後,原告がAに対する支援をストップした結果,A ①原告が,本件売買当時,Aが経営破綻の危機に瀕しており,被告のAに対する債権回収が不可能になることを知っていながらこれを告げなかったこと,②本件売買の後,原告がAに対する支援をストップした結果,Aが5月に破産したことを主張するのも,かかる考え方に基づくものと解される。 そこで,まず,①の事実についてみるに,確かに,証拠(証人B,原告代表者本人)によれば,3月ころ,Aが原告代表者の求めに応じて,同人にAの元帳や手形帳を見せた事実が認められ,これにより,原告がAの経営状態について相応の事実を把握したであろうことは推認できる。また,原告代表者は,Aのことを,要注意会社であると認識していた旨供述する。しかしながら,これらの事実から直ちに,原告が,本件売買当時,Aが近々倒産するであろうこと(その結果,被告のAに対する代金債権回収ができなくなること)まで認識予見していたと推認するには足りず,その他に,原告がそのような事実を認識予見していたことを認めるに足りる証拠はないから,結局,①の事実を認定することはできない。 次に,②の事実については,確かに,Aの破産宣告申立書(乙12)及び同社の破産管財人の報告書(乙20)には,同社を支援していた企業からの支援が5月に打ち切られたことが,同月22日及び25日の手形不渡りの直接の原因であるかのような記載があるものの,支援を打ち切ったという企業が原告であると認めるに足りる証拠はない。また,仮にそうであるとしても,上記各書証によれば,Aは,経営当初から,技術開発のための先行投資を重視する経営が裏目に出て必ずしも十分な収益を上げることができないまま推移し,平成7年ころからいっそう経営が悪化し,経営内容を好転させることのできないまま破産に至ったと認められるのであって,スポンサー企業の支援のストッ て必ずしも十分な収益を上げることができないまま推移し,平成7年ころからいっそう経営が悪化し,経営内容を好転させることのできないまま破産に至ったと認められるのであって,スポンサー企業の支援のストップは,破産の一つのきっかけであるとしても,これが破産の直接の原因であると単純に認定することはできない。 そうすると,結局,被告の主張する事実のうち認定できるのは,原告が,融資目的の環流取引であることを被告に告げないまま被告を本件売買契約に巻き込んだという事実のみである。そして,そもそも,Aの被告に対する介入の要請自体が,原告から本件商品を一括で支払うことができないことを理由とするものであったのだから,被告としては,Aの信用状況について調査し,場合によっては担保を徴求するなどして取引に入るべきであったと認められる。そうすると,Aが破産したことによって被告が損害を被ったのは,被告の自己責任による面もかなりあると認められるから,原告が被告を環流取引に巻き込んだことのみをもって,本件売買代金の請求が権利濫用ないし信義則違反であると認めることはできず,その他に,原告の本件売買代金請求が権利濫用ないし信義則違反であることを認めるに足りる証拠はない。 3 結論よって,本訴請求は理由があるからこれを認容する。 神戸地方裁判所第4民事部裁判官太田敬司

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