昭和63(う)1007 業務上過失傷害,道路交通法違反被告

裁判年月日・裁判所
平成15年1月15日 大阪高等裁判所
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判決文本文4,577 文字)

主文 一審判決を破棄する。 被告人を懲役1年6か月に処する。 この裁判が確定した日から4年間,その刑の執行を猶予する。 理由 第1 検察官の控訴理由被告人は,本件公訴事実について有罪であるから,被告人を無罪とした一審判決には,判決に影響を及ぼすべき事実誤認がある。 第2 被告人に対する公判期日の通知の適法性について本件は,控訴審における審理の途中で被告人が所在不明になったため,その最後の審理の行われた第4回公判期日及び判決宣告期日の被告人に対する通知は,裁判所に判明している被告人の最後の住居(以下「最後の住居」という。)にあてて書留郵便に付する送達によりなされている。同各通知は現実には被告人に到達していない可能性があるので,控訴理由に対する判断に先立ち,その有効性について判断する。 記録によれば,被告人は一審第1回公判期日において,上記の最後の住居を自己の住居として陳述し,一審においては,被告人に対するすべての書類の送達が最後の住居にあてて行われたこと,控訴審においても,弁護人選任に関する通知書,検察官の控訴趣意書謄本,公判期日の召喚状等の送達が前後4回にわたり最後の住居にあてて行われ,うち1回は同所において被告人に交付送達され,うち2回は同所において補充送達され,うち1回は郵便局の窓口まで出向いた被告人に対して交付送達されたこと,被告人はいずれについても何ら異議を述べず,裁判所に他の場所を住居等として届け出ることもなかったこと,被告人は,その後,最後の住居からいずこかへ転居したが,新住居等を裁判所に届け出ず,裁判所の職権調査によっても判明せず,以後,所在不明の状態にあることが認められる。以上の経緯によれば,被告人は,最後の住居において,又は最後の住居にあてて送達された書類を 新住居等を裁判所に届け出ず,裁判所の職権調査によっても判明せず,以後,所在不明の状態にあることが認められる。以上の経緯によれば,被告人は,最後の住居において,又は最後の住居にあてて送達された書類を異議なく受領したことにより,同所で送達を受ける意思を事実上表示し,同所に書類が送達されればその内容を認識でき,あるいは認識できなくても手続を進めることを了解する旨を表明したものと解される。そして,その後,被告人からこれと異なる意思の表示がないのであるから,同所に送付された書類が現実には被告人に届かなくても,それは被告人の責めに帰すべき事由によるものであって,被告人がこれにより不利益を受けるのはやむを得ないものというべきである。したがって,被告人に送達すべき書類は,刑事訴訟規則63条1項の趣旨に照らし,最後の住居にあてて書留郵便に付してその送達をすることができると解するのが相当であって,前記の各通知の送達は有効である(最高裁判所決定平成12年6月27日刑集54巻5号445頁参照)。 第3 控訴理由に対する判断 1 証拠によれば,被告人とA(当時39歳)は,昭和62年7月23日午後7時45分ころ,滋賀県草津市a町b番地のc先道路上において,普通貨物自動車(以下「本件車両」という。)に同乗し,被告人とAのいずれかが業務として同車を運転して時速約40キロメートルで進行中,おりから対向して進行してきたB(当時23歳)運転の普通乗用自動車の右前部と本件車両の右前部とが衝突したこと,この事故により,Bが加療約1週間を要する頸椎捻挫,右肘裂創等の傷害を,Aが不治の両上下肢完全麻痺の後遺症を伴う頸髄損傷の傷害を負ったこと,被告人は,当時,酒気を帯び,呼気1リットルにつき0.63ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態であったことが明らかに認められる。そして 両上下肢完全麻痺の後遺症を伴う頸髄損傷の傷害を負ったこと,被告人は,当時,酒気を帯び,呼気1リットルにつき0.63ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態であったことが明らかに認められる。そして,被告人は,捜査段階において,本件当時自ら本件車両を運転していたが,酒の酔いの影響により前方注視が困難な状態になったのに,運転を中止せずに進行していたところ,意識もうろうの状態になって上記のとおり衝突したと供述していたが,一審公判においてこれを否認し,本件車両を運転していたのはAであると供述し,一審判決は,被告人の捜査段階における自白は信用できないとして被告人を無罪とした。すなわち,本件の主たる争点は,本件当時本件車両を運転していたのは被告人であるか,Aであるか,という点である。 2 一審及び控訴審において取り調べた証拠によれば,本件当時本件車両を運転していたのは被告人であると認めることができる。 すなわち,被告人は,本件事故の直後から捜査段階を通じ,一貫して,本件当時自分が本件車両を運転しAは助手席に座っていたと供述しており,その自白には不合理な点や前後矛盾したところは見当たらない。ことに,証人Bの一審供述によれば,Bは,本件事故の直後,自車を降りて本件車両に近付き,そばに立っていた被告人に「だれが運転してたんや。」と尋ねたところ,被告人は「わしや。」と答えたこと,当時被告人は頭をつるつるにしたスキンヘッドにしていたことが認められる。この段階において被告人が虚偽の自白をしなければならない事情は見当たらないのであって,その信用性は高い。また,被告人のその後の自白は,全く身柄を拘束されない状態において一貫しているのであって,その信用性もきわめて高いというべきである。被告人は,虚偽の自白をした理由として,当初Aの傷害は大したものではないと思っ のその後の自白は,全く身柄を拘束されない状態において一貫しているのであって,その信用性もきわめて高いというべきである。被告人は,虚偽の自白をした理由として,当初Aの傷害は大したものではないと思っていたところ,Aは過去に運転免許の取消処分を受けているので,本件車両を無免許運転したことが判明すると欠格期間が伸びるし,自動車損害賠償責任保険の保険金も出なくなると思ったと供述しているが,証拠により認められる被告人とAとの関係は単なる職場の同僚にすぎず,特に親しい関係にあったわけではないから,上記のような理由で身代わり犯人になろうと決意したということは納得しがたいし,また,被告人の自白は,Aの傷害が重大なものであることが判明した後にも維持されているのであって,この点からも被告人の弁解は信用しがたい。さらに,前記のB証言等の関係証拠によると,本件事故当時,被告人の頭はスキンヘッドであったのに対し,Aの頭は3分刈りか5分刈り程度の短髪であったことは明白であるにもかかわらず,被告人は,一審公判において,当時,2ないし3センチメートル程度のスポーツ刈りであったと供述し,被告人の雇い主のCも一審公判においてこれに沿った証言をしている。これらは,あえて被告人とAの外見を入れ替えて述べることによって,関係者を混乱させようとしているとしか考えられない。このような被告人の供述態度からしても,その一審供述は信用できない。 加えて,控訴審において取り調べた証拠によれば,Aは,本件当日,救急車で搬送されたD病院の医師の質問に答えて「助手席に乗っていた。」と述べ,また,昭和63年8月12日,転院後のE病院の集中治療室において,検察官の取調べを受け,断片的なものではあるが,明確に本件当時被告人が本件車両を運転し,Aは助手席に乗っていたと供述したことが認められる。Aのこれ 3年8月12日,転院後のE病院の集中治療室において,検察官の取調べを受け,断片的なものではあるが,明確に本件当時被告人が本件車両を運転し,Aは助手席に乗っていたと供述したことが認められる。Aのこれらの供述は,いずれもその信用性を否定する根拠がない。 さらに,本件事故の直後に現場に急行し,Aを救出して病院に搬送した消防士Fの警察官調書によれば,救出時Aは,本件車両の運転席と助手席との間に挟まってあおむけに倒れており,その両足は助手席側にあったことが認められるが,控訴審において取り調べた鑑定書によれば,本件の衝突状況に照らすと,衝突の直後,本件車両の助手席に座っている者には右向きの力が加わるので,その者が運転席側に移動する可能性があると認められる。したがって,前記認定の救出時のAの体勢は,Aが助手席に座っていたという被告人の捜査段階における供述及びAの供述と符合しており,これらを補強するものである。 3 以上のとおり,一審判決は,証拠の取捨選択,評価を誤り,被告人を本件車両の運転者であると認めるに足りないとして無罪の言渡しをしたが,これは事実を誤認したものといわざるをえない。検察官の控訴には理由があるので,一審判決を破棄して,さらに自判することとする。 第4 適用法令刑事訴訟法397条1項,382条,400条ただし書第5 自判(犯罪事実)被告人は,次の各行為をした。 1 昭和62年7月23日午後7時44分ころ,業務として普通貨物自動車を運転し,滋賀県草津市d町e番地のf先道路上を時速約40キロメートルで進行中,さきに飲んだ酒の酔いの影響により,前方注視が困難な状態になったが,直ちに運転を中止すべき注意義務を怠り,同状態のまま運転を継続した過失により,同日午後7時45分ころ,同市a町b番地のc先道路上において意識もうろうの状態に 響により,前方注視が困難な状態になったが,直ちに運転を中止すべき注意義務を怠り,同状態のまま運転を継続した過失により,同日午後7時45分ころ,同市a町b番地のc先道路上において意識もうろうの状態になり,おりから対向して進行してきたB(当時23歳)運転の普通乗用自動車の右前部に自車右前部を衝突させた。この結果,Bが加療約1週間を要する頸椎捻挫,右肘裂創等の傷害を負い,被告人運転車両に同乗していたA(当時39歳)が不治の両上下肢完全麻痺の後遺症を伴う頸髄損傷の傷害を負った。 2 酒気を帯び,呼気1リットルにつき0.63ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態で,上記衝突の日時場所において,上記普通貨物自動車を運転した。 (適用法令)罰条 1の事実被害者ごとに,それぞれ平成3年法律第31号による改正前の刑法211条前段,同改正前の罰金等臨時措置法3条1項1号,刑法6条,10条2の事実平成13年法律第51号附則9条,同法による改正前の道路交通法119条1項7号の2,65条1項,平成14年政令24号による改正前の同法施行令44条の3科刑上一罪の処理 1について,平成7年法律第91号による改正前の刑法(以下,単に「刑法」という。)54条1項前段,10条(犯情の重いAに対する罪の刑で処断)刑種の選択いずれも懲役刑を選択併合罪処理刑法45条前段,47条本文,10条,47条ただし書(重い1の罪の刑に加重)刑の執行猶予刑法25条1項訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(一審及び控訴審)(裁判長裁判官豊田健裁判官長井秀典裁判官永渕健一) 田健 裁判官 長井秀典 裁判官 永渕健一

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