平成21(ワ)4338 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年8月9日 福岡地方裁判所
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判決文本文49,043 文字)

平成23年8月9日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成21年(ワ)第4338号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成23年6月21日判決主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨(1) 被告らは,原告に対し,連帯して1億円及びこれに対する平成21年11月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁(1) 本案前の答弁本件訴えを却下する。 (2) 本案の答弁主文1項と同旨。 第2 事案の概要本件は,原告が,原告の取締役であった被告Y1及び被告Y2並びに弁護士である被告Y3によって,原告,原告の完全子会社であるx1株式会社(以下「x1」という。),及び,x1の完全子会社である株式会社x2(以下「x2」という。なお,原告,x1及びx2を併せて「原告グループ会社」と総称することがある。)について違法かつ不当な会社更生手続開始の申立てが行われたこと等により,原告が少なくとも13億7207万9416円の損害を被ったと主張して,被告らに対し,債務不履行(ただし,被告Y1及び被告Y2 については,会社法423条1項)又は共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,連帯して,被った損害の一部である1億円及びこれに対する平成21年11月29日(被告らに対する訴状送達日のうち最も遅い日の翌日である。)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(証拠掲記のない事実は争いがない。)(1) 当事者等ア原告は,宅地建物取引業,信託受益権販売業及び不動産投資顧問業等を目的とす による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(証拠掲記のない事実は争いがない。)(1) 当事者等ア原告は,宅地建物取引業,信託受益権販売業及び不動産投資顧問業等を目的とする株式会社であり,現在,民事再生法による再生手続中である。 原告の資本金は1億6325万円であり,原告代表者(被告Y3関係)であるAが原告の発行済株式総数1万0910株のうち8660株(79. 38%)を保有していた。(甲5の1)イ被告Y1は,平成19年11月21日から平成20年8月5日までの間,原告の取締役であった者である。 ウ被告Y2は,平成19年11月21日から平成20年8月5日までの間,原告の取締役であった者である。(被告Y1及び被告Y3の関係で甲1)エ被告Y3は,福岡県弁護士会に所属する弁護士である。 (2) 被告Y1及び被告Y2の取締役就任等ア原告は,平成19年春頃,今後の事業拡大のために,株式公開を考えるようになった。(被告Y1及び被告Y3の関係で甲51)そして,原告は,同年8月,株式公開に詳しい人物として,O監査法人に勤務していた被告Y1と元銀行員の被告Y2を雇い入れ,同年11月21日,被告Y1及び被告Y2を原告の取締役に選任した。 イ被告Y1は,原告の管理統括本部の本部長として,総務関係の事務や株式公開に向けた準備を主に担当することが予定されていた。 ウ被告Y2は,原告の大阪営業所所長として,大阪営業所に関する業務全 般や大阪の銀行との交渉等を担当していた。(被告Y1及び被告Y3の関係で甲51)(3) 取締役会の開催等ア平成20年6月29日,原告の取締役会が,原告の本社会議室(以下「本件会議室」という。)において開催された(以下「本件取締役会」という。)。 イ本件取締役会に (3) 取締役会の開催等ア平成20年6月29日,原告の取締役会が,原告の本社会議室(以下「本件会議室」という。)において開催された(以下「本件取締役会」という。)。 イ本件取締役会には,原告の当時の代表取締役であるA,取締役である被告Y1及び被告Y2が出席し(なお,Bが出席していたかについては,当事者間に争いがある。),また,監査役であるC1(以下「C1監査役」という。)及び社外監査役であるC2(以下「C2監査役」という。)も出席していた。(被告Y1及び被告Y3の関係で甲4)ウ被告Y1は,本件取締役会において,①Aの代表取締役解職,②被告Y1の代表取締役選定,③原告の会社更生法による更生手続開始の申立て,及び,④x1の臨時株主総会の招集の各議案を上程した(以下,上記①ないし④の各議案をそれぞれ「第1号議案」ないし「第4号議案」という。)。(上程された議案について,甲4)エ被告Y1は,第1号議案ないし第4号議案の審議を終えた後,全ての議案が可決されたことを宣言して本件取締役会を終了させ,その後,被告Y2及び被告Y3と共に,上記全ての議案が賛成多数で承認可決されたとする取締役会議事録(以下「本件取締役会議事録」という。)を作成した。 (4) 更生手続開始の申立て等ア被告らは,本件取締役会の翌日である平成20年6月30日,福岡地方裁判所に対し,本件取締役会議事録を添付した申立書を提出して原告の更生手続開始の申立てを行い,同時にx1及びx2の更生手続開始の申立ても行った。 なお,被告Y1は,x1及びx2の更生手続開始の申立てに先立ち,上 記両社の臨時株主総会を開催して上記両社の取締役を交代させる決議を行い,また,各取締役会で更生手続開始の申立てについて決議を行った。 イ福岡地方裁判所は,原告グルー 始の申立てに先立ち,上 記両社の臨時株主総会を開催して上記両社の取締役を交代させる決議を行い,また,各取締役会で更生手続開始の申立てについて決議を行った。 イ福岡地方裁判所は,原告グループ会社についての更生手続開始の申立てを受けて,申立日と同一日付けで,原告グループ会社それぞれについて保全管理命令を発した。 ウこれに対し,Aは,平成20年7月9日に原告に対して株主総会招集請求を行い,裁判所から株主総会招集許可決定を得た上で,同年8月5日,原告の臨時株主総会が開催され,被告Y1及び被告Y2は取締役から解任された。そして,原告は,同月28日,裁判所の許可を得て,原告グループ会社の更生手続開始の申立てを全て取り下げるとともに,同日,原告について再生手続開始の申立てを行った(以下,当該申立てに係る再生手続を「本件再生手続」という。)。 2 争点(1) 原告の監督委員の同意の要否(本案前の争点)(2) 本件取締役会決議の有効性(3) 原告の更生手続開始原因の存否(4) 被告Y1及び被告Y2の損害賠償責任の有無(5) 被告Y3の損害賠償責任の有無(6) 原告の損害額 3 争点に対する当事者の主張(1) 争点(1) (原告の監督委員の同意の要否)(被告らの主張)原告は,現在,再生手続中であるところ,本件訴訟提起は,損害賠償請求債権という原告の「重要な財産に関する訴えの提起」に該当することが明らかであるから,監督委員の同意がない場合,本件訴えは却下されるべきである。 (原告の主張)争う。 (2) 争点(2) (本件取締役会決議の有効性)(原告の主張)ア第1号議案について( ア) a 取締役会において,各取締役が議題の判断をなすにつき必要な説明・資料 争う。 (2) 争点(2) (本件取締役会決議の有効性)(原告の主張)ア第1号議案について( ア) a 取締役会において,各取締役が議題の判断をなすにつき必要な説明・資料提供がないままに決議がなされたような場合や不十分な審議による決議がなされた場合などにおいては,当該決議には瑕疵があるというべきである。 b この点,第1号議案は,上程されてすぐに採決されており,Aの代表取締役解職の是非についての審議は全くなされていない。被告Y1及び被告Y2は最初から議案への意見が決まっていたものと思われるが,それでも取締役会の制度趣旨に照らせば,有効な取締役会決議を行うためには,採決の前に,Bを含めた取締役全員で意見を交換し,審議を尽くす必要があったというべきである。 また,本件取締役会において初めて第1号議案を聞かされたBにとっては,議案について判断するための説明や資料も不足していた。被告Y1及び被告Y2は,第1号議案を上程すると,Bの意見を聞くこともなく採決し,Bが,「話が分からない。」,「聞こえていない。」,「状況が分からない。」などと述べたにもかかわらず,「法的には,解任はこれで決まりです。」,「賛成しても,反対しても同じです。意思表示だけです。」などと述べてBの発言を遮り,Bに十分な説明・資料も審議の機会も与えぬままに採決を強行した。 cBへの説明・資料提供が全くなされず,議案の是非についての審議もしない状態で第1号議案の決議がなされている以上,第1号議案に係る取締役会決議には瑕疵があるといわざるを得ない。そして,株主 総会決議と異なり,瑕疵ある取締役会決議は原則として無効になるから,第1号議案の決議は無効である。 ( イ) なお,代表取締役の解職決議については,当該代表取締役が特別利害関係を ,株主 総会決議と異なり,瑕疵ある取締役会決議は原則として無効になるから,第1号議案の決議は無効である。 ( イ) なお,代表取締役の解職決議については,当該代表取締役が特別利害関係を有する者に当たると解した最高裁判例が存在する。しかし,代表取締役の解職決議であるとしても,取締役会の監督権限の行使というよりも業務執行を巡る二派の争いである場合が多い閉鎖型の会社においては,代表取締役の議決権を排除すべき理由はない。 したがって,閉鎖型の会社においては,代表取締役の解職決議についても,当該代表取締役は特別利害関係人に当たらないと解すべきである。 本件でも,全株式譲渡制限会社である原告の代表取締役の解職についての第1号議案との関係では,Aは特別利害関係人に当たらないというべきであり,第1号議案は過半数の賛成を得られておらず,可決されていない。 イ第2号議案について( ア) 第2号議案は,第1号議案が有効に可決されたことを前提としていることが明らかであるところ,上記のとおり第1号議案の決議が無効である以上,第2号議案も無効である。 ( イ) また,第2号議案も,第1号議案と同様,上程されてすぐに採決されており,AやBの意見を聞くことも,第2号議案を判断するための説明・資料提供もなされていない。 Bは,被告Y2に対し,取締役会の議題を資料とともに書類で送るよう電話口で述べるなどして,議論が不十分である旨を訴えたにもかかわらず,被告Y2は取り合わなかった。 したがって,第2号議案の決議には瑕疵があり,無効である。 ( ウ) 仮に第2号議案が有効に採決されているとしても,同採決においてAは挙手しておらず,Bは賛成の意を述べていないのであるから,第 2号議案が可決されていないことは明らかである。 ウ第3 ウ) 仮に第2号議案が有効に採決されているとしても,同採決においてAは挙手しておらず,Bは賛成の意を述べていないのであるから,第 2号議案が可決されていないことは明らかである。 ウ第3号議案及び第4号議案について( ア) 第3号議案及び第4号議案についても,上程後すぐに採決されており,当該議案の是非についての議論が全くなされていない。第1号議案及び第2号議案については,被告Y1や被告Y2が,本件会議室の固定電話(以下「本件固定電話」という。)の受話器を取ってBに対して議案の内容を伝え,賛否を問うていたが,第3号議案及び第4号議案については,それすらしていない。その結果,Bは,本件取締役会に出席していたにもかかわらず,第3号議案及び第4号議案の決議から不当に排除された。 このように,第3号議案及び第4号議案の決議は,Bを不当に排除して行われたという点で重大な瑕疵があり,無効であることが明らかである。 ( イ) また,第3号議案及び第4号議案については,被告Y1が,「賛成の方,挙手をお願いします。」と述べているところ,取締役4名のうち被告Y1と被告Y2しか賛成の意思を表示していない。したがって,第3号議案及び第4号議案については,過半数の賛成が得られず,否決されたことが明らかである。 ( ウ) 以上のとおり,第3号議案及び第4号議案の決議は有効に成立しておらず,仮に決議自体が有効であったとしても,当該各議案は過半数の賛成を得られておらず,可決されていない。 エ以上に対し,被告らは,Bが本件取締役会に出席していたとはいえないと主張する。 しかし,かかる主張は,被告らが,Bが本件取締役会に出席したことを前提に本件取締役会議事録を作成し,更生手続開始の申立ての添付資料として裁判所に提出していること,そして, いえないと主張する。 しかし,かかる主張は,被告らが,Bが本件取締役会に出席したことを前提に本件取締役会議事録を作成し,更生手続開始の申立ての添付資料として裁判所に提出していること,そして,その後も,保全管理命令に対す る即時抗告審においてBが本件取締役会に出席したとの見解を繰り返し示していることと明白に矛盾するものである。 保全管理命令に対する即時抗告審と本件訴訟とは,更生手続開始の申立ての適法性が主たる争点になっている点で,実質的には同一の紛争と評価すべきところ,同一の紛争内において,従前の主張と矛盾する主張を行うことは,信義則に反するものとして禁じられている(民事訴訟法2条)。 したがって,本件訴訟において,被告Y1及び被告Y3が,Bが本件取締役会に出席していなかったと主張することは許されない。 オなお,仮にBが本件取締役会に出席していたとはいえない場合であっても,本件取締役会における各議案の決議は,いずれも無効である。 本件取締役会は,当初は平成20年6月30日に開催される予定であったところ,同月28日になって取締役会の開催日が同月29日に変更された。Bは,変更の連絡を受けた際,原告本社に出向く必要があるか尋ねたところ,電話会議方式による出席で問題ない旨告げられた。これを受けて,Bは,本件取締役会に出席するべく,本件取締役会が開催された時間帯に大阪営業所の一室で待機していたのである。 このように,Bは,本件取締役会の招集を受けた際に電話会議方式で出席できると伝えられたことを受けて大阪営業所で待機していたのであって,本件取締役会に出席する意思を有していたことは明らかである。Bが本件取締役会に欠席したとされるのであれば,それは招集の際にBが確認した内容に反して,原告本社においてBを電話会議方式で出席させ って,本件取締役会に出席する意思を有していたことは明らかである。Bが本件取締役会に欠席したとされるのであれば,それは招集の際にBが確認した内容に反して,原告本社においてBを電話会議方式で出席させるだけの手段が講じられなかったことに起因するものである。この場合,Bは,本件取締役会に出席する機会を実質的に奪われているのであって,本件取締役会に手続上の瑕疵が存在したといわざるを得ない。 このように,招集手続に瑕疵があるために,取締役の取締役会に出席する機会が奪われている場合には,当該取締役会における決議は原則として 無効となる。したがって,本件において,仮にBが本件取締役会を欠席していたと判断されるのであれば,本件取締役会における各議案の決議はいずれも無効となる。 (被告らの主張)ア被告Y1は,緊急動議に関し,資金繰り等の説明を行い,C1監査役及び被告Y2の意見も聞いた上で採決を行っている。 また,Aは,十分な発言の機会があったにもかかわらず,「今日の議題と違う。」などという前提問題に関する発言をしたのみであった。 イさらに,取締役会に出席していると認められるためには,各取締役間相互の情報伝達の双方向性及び即時性が確保されていることが必要であると解すべきである。一方,そのような方法が確保されていない状況下では,取締役会開催地に不在の取締役は法的には出席と認められないというべきである。 本件についてみても,Bは,適式な取締役会の招集連絡を受けておきながら,その任意の意思であえて原告本社には参集しなかった。それでも,被告Y1は,更に慎重を期するためにBの携帯電話に電話し,同人の意向を確認しようとした。これにより,本件取締役会当時,現に出席していたAだけでなく,被告Y1及び被告Y2においても,Bが電話会議方式により 1は,更に慎重を期するためにBの携帯電話に電話し,同人の意向を確認しようとした。これにより,本件取締役会当時,現に出席していたAだけでなく,被告Y1及び被告Y2においても,Bが電話会議方式により出席していると理解していたようであるが,実際行われた通信は,本件会議室に置かれた本件固定電話とBの携帯電話の回線がつなげられていただけであり,その固定電話はいわゆるスピーカーフォン(スピーカー及び集音マイクを有しており受話器を取り上げなくても通話することができる電話機を意味する。以下同じ。)になっていたわけでもない。 そうすると,本件取締役会の際,本件会議室の音声とBの音声との間では,双方向性,即時性が確保されていなかったといわざるを得ない。したがって,Bについては,電話会議方式により取締役会に出席したとするこ とはできず,法的には本件取締役会を欠席したと評価すべきである。 結局,本件取締役会は,Bの欠席のもと,全4名中3名の取締役が出席して適法に開催され(ただし,第1号議案に関しては特別利害関係人を除く全3名中2名の出席),各議案ともに2名の賛成により可決されているのであり,その有効性は明らかである。 ウなお,原告は,被告らの上記主張が信義則に反するものである旨主張する。 しかし,Bを本件取締役会に出席した者と数えることができるかについては,客観的な一個の事実についての,裁判所による事後的な法的評価であって,先行する事実主張に対する相手方の信頼などが問題となる「訴訟上の信義則」とはそもそも関係がない。 エさらに,原告は,Bが本件取締役会を欠席したと評価されるとしても,Bは出席の機会を奪われたもので,瑕疵ある取締役会決議として無効になる旨主張する。 しかし,原告が根拠とするのは,BとAの間の会話にすぎず,そこでの 本件取締役会を欠席したと評価されるとしても,Bは出席の機会を奪われたもので,瑕疵ある取締役会決議として無効になる旨主張する。 しかし,原告が根拠とするのは,BとAの間の会話にすぎず,そこでの会話も,面倒がるBに対して,Aが,福岡に来なくてよいから電話で参加するように指示したというものであり,これによりBにおいて電話会議方式による出席と認められるとの信頼が醸成されるようなものではない。さらに,Bは独立して職責を果たすべき取締役であり,Aとの間で上命下服の関係があるわけではないから,結局Bは自らの任意の判断で本件取締役会を欠席したと評価されるべきである。 (3) 争点(3) (原告の更生手続開始原因の存否)(原告の主張)ア原告は,更生手続開始の申立て前においては,資産合計約83億円に対し,負債合計約72億円であり,純資産として約11億円が計上されていたほか,平成20年5月31日までの純利益として約1億4000万円が 認められるなど,債務超過や支払不能になるおそれのある会社ではなかった。 また,原告の更生手続開始の申立て前においては,少なくとも同年9月までの資金繰計画は策定されており,家賃収入等から販売管理費等を賄うほか,物件を売却して長期借入金の返済を行うことなど,金融機関等との協議も踏まえ,具体的な資金繰りの目処も立っていた。 この点について,被告らは,原告が株式会社S(以下「S」という。)に対して敷金返還債務を負っていた旨主張するが,原状回復費用や他の反対債権が存在し,これらが敷金から控除されるため,そもそも敷金返還のための資金を準備する必要はなかった。 したがって,被告らにより更生手続開始の申立てがなされた当時,原告には,「破産手続開始の原因となる事実が生ずるおそれ」(会社更生法17条1項1号) 金返還のための資金を準備する必要はなかった。 したがって,被告らにより更生手続開始の申立てがなされた当時,原告には,「破産手続開始の原因となる事実が生ずるおそれ」(会社更生法17条1項1号)も,「弁済期にある債務を弁済することとすれば,その事業の継続に著しい支障を来すおそれ」(同項2号)もなく,更生手続開始原因は存在していなかったものである。 イ資産価値の評価( ア) 資産の価値を評価する場合,清算価値によるか,継続企業価値(今後も事業を継続することを前提とした当該資産の価値)によるかによって,その価格には大きな差が生じ得る。 そもそも,法的倒産手続の開始原因としての債務超過を判断する際には,当該資産の価値を実態に即して考えるべく,事業を既に停止している場合には清算価値が,事業を継続している場合には継続企業価値が評価基準として用いられなければならない。 本件では,事業が継続していたのであるから,債務超過か否かは継続企業価値を基準として判断されなければならない。 ( イ) そして,原告の平成20年5月31日の合計残高試算表は,一般 に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従って,適時に,正確に作成されており,作成時点における原告の財務状況を正しく表したものといえる。そして,かかる試算表によれば,前記アのとおりの純資産や純利益が計上されていたのであり,原告が債務超過や支払不能になるおそれのある会社でなかったことは明らかである。 ウ借入金等の返済について( ア) 株式会社M1銀行(以下「M1銀行」という。)からの借入金(平成20年6月末日に弁済期が到来する約4億円)については,期限変更が合意されていた。 すなわち,原告は,借入金の期限変更について,あらかじめM1銀行赤坂門支店のm1支店長及びm2課 の借入金(平成20年6月末日に弁済期が到来する約4億円)については,期限変更が合意されていた。 すなわち,原告は,借入金の期限変更について,あらかじめM1銀行赤坂門支店のm1支店長及びm2課長代理と折衝し,同月上旬頃には期限変更について口頭で合意がなされていた。 ( イ) 株式会社M2銀行(以下「M2銀行」という。)からの借入金(平成20年6月末日に弁済期が到来する約4億7000万円及び同年7月2日に弁済期が到来する2億5000万円)については,期限変更が見込まれていた。 すなわち,M2銀行からの借入れ目的は,運転資金ではなく分譲用マンションの建設資金であるところ,建設の遅れにより分譲販売が遅れたような場合において,返済時期も分譲時期に合わせて変更されるということは通常行われることであって,金融機関がこれに承諾しないことは,マンションの建設計画が頓挫しない限り,およそ考えられない。 仕掛中のマンションの建物としての価値は,ほとんど皆無であり,建設途中でディベロッパーから貸付金の回収を図っても,その見込みは全くない。他方で,マンションが完成しさえすれば,当初の事業計画どおりに売却できるかの問題はあるにしても,仕掛中とは比べものにならないほどの高値で処分できるから,金融機関としても回収の可能性が高く なる。このように,金融機関にとっても,返済期限の変更に同意しないことによるメリットはどこにもなく,したがって同意しない理由はない。 以上のとおり,M2銀行からの借入金についても,返済期限の変更が同意されないことは,およそ考えられない状況にあった。実際,M2銀行との交渉は被告Y2が担当していたが,Aは被告Y2からM2銀行が期限変更に前向きであるとの報告を受けていた。 ( ウ) 原告は,T株式会社(以下「T」という えられない状況にあった。実際,M2銀行との交渉は被告Y2が担当していたが,Aは被告Y2からM2銀行が期限変更に前向きであるとの報告を受けていた。 ( ウ) 原告は,T株式会社(以下「T」という。)に対する手形金債務7億9144万4850円(R21福岡東ザ・パークの建設代金)及び株式会社U(以下「U」という。)に対する手形金債務8億3724万円(R21福岡西の建設代金)をそれぞれ負担していた。 しかし,かかる手形金債務については,R21福岡東ザ・パーク及びR21福岡西の建設工事代金に関するものであり,当該住戸の販売契約が成立し,販売代金を決済するごとに当該住戸の当初販売価格の70%相当額を請負代金等に充当するとの合意がなされていた。したがって,仮に平成20年9月末に完済できなかったとしても,(手形書替えの形で)期限変更の合意がなされるのは明らかであった。 エ以上によれば,原告は債務超過や支払不能になるおそれのある会社ではなく,原告について更生手続開始原因が存在しなかったことは明らかである。 (被告らの主張)ア原告の債務超過ないしはそのおそれ本件では,そもそも資産評価手法についていかなる考え方を採ろうとも,原告は債務超過に陥っていたというべきである。 原告については,保全管理人が,補助者に公認会計士を付けて,その財務内容を調査しているところ,平成20年6月30日時点における清算予想貸借対照表において,仕掛工事未払金について修正した上でなお37億 6000万円強の債務超過であり,仮に評価換えをしなくても8億円強の債務超過とされている。 なお,原告の更生手続開始申立書に添付の非常貸借対照表において,原告の資産は,簿価を時価ベースに修正はしているものの,清算価値(即時強制売却価額)に基づき評価されているわけ 務超過とされている。 なお,原告の更生手続開始申立書に添付の非常貸借対照表において,原告の資産は,簿価を時価ベースに修正はしているものの,清算価値(即時強制売却価額)に基づき評価されているわけではない。 また,原告が債務超過でなかったことの根拠とする同年5月31日の合計残高試算表は,一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従って,適時に,正確に作成されたものとはいえないし,原告の財務状況を正しく表したものともいえない。 さらに,本件で問題とされるべきは,破産手続開始原因としての債務超過の「おそれ」であれば足りる。ここに「おそれ」とは,破産手続開始の原因となる事実が将来発生することが客観的に予想できることをいい,早期申立てを促進する趣旨からは,将来の破産手続開始の原因となる事実の発生について高度の確信までは不要と解されている。 以上によれば,原告は債務超過の状態にあり,少なくとも債務超過のおそれがあったことは明らかである。 イ原告の支払不能ないしはそのおそれ( ア) 原告は,M1銀行からの借入金(平成20年6月末日に弁済期が到来する約4億円)についての期限変更が合意されていたと主張するが,そのような合意は成立していない。実際には,担保権が設定されていたR21別府物件の売却,担保目的物の受戻しを想定した交渉が行われていたにすぎず,それも同月末時点で妥結していなかったため,売却が具体化できる状態にはなかった。 ( イ) 原告は,M2銀行からの借入金(平成20年6月末日に弁済期が到来する約4億7000万円及び同年7月2日に弁済期が到来する2億5000万円)について,期限変更が見込まれていたと主張する。しか し,これは原告の主観にすぎず,実際には同行との間でそのような話は全くできていなかった。 ( ウ) 弁済期が到来する2億5000万円)について,期限変更が見込まれていたと主張する。しか し,これは原告の主観にすぎず,実際には同行との間でそのような話は全くできていなかった。 ( ウ) 原告は,Tに対する手形債務(R21福岡東ザ・パークの建設残代金。更生手続開始の申立て当時の残高は約7億9144万円。弁済期は平成20年9月であったが,期限の利益喪失を主張されていた。)について,住戸の販売契約が成立し,販売代金を決済するごとに,当初販売価格の70%相当額を請負残代金に充当するとの合意が成立していたとし,したがって,仮に同月末までに完済できなかったとしても,期限変更の合意がなされるのは明らかと主張する。 しかし,原告は,R21福岡東ザ・パークの未販売住戸71戸のうち62戸について,引渡しが未了でありTが商事留置権を有している状態にあったことを知りながら,Tに隠れて原告を所有権者とする所有権保存登記を行った上で,更に株式会社M3(以下「M3」という。)を抵当権者とする根抵当権設定登記を経由するなどという背信的な行動に出た。このため,Tからは同年5月13日付けで内容証明郵便により期限の利益の喪失,残金を一括弁済するようにとの請求が行われていた上,刑事告訴の可能性まで告知されていた。そのような状況で,改めて期限の利益が付与されるとは考え難く,原告の主張は,原告の希望的観測を述べるものにすぎない。 また,原告は,Uに対する手形債務(R21福岡西の建築残代金。更生手続開始の申立て当時の残高は約8億3724万円。弁済期は平成20年9月。)についても,上記Tに対する債務と同様の主張をしているが,これについても期限変更の合意がなされるとは考え難い。 ( エ) 他にも,原告は,Sに対して敷金返還債務として7500万円を即時に弁済す )についても,上記Tに対する債務と同様の主張をしているが,これについても期限変更の合意がなされるとは考え難い。 ( エ) 他にも,原告は,Sに対して敷金返還債務として7500万円を即時に弁済すべき状況にあったが,これについても何ら資金的手当はできていなかった。 ( オ) 上記( ア) ないし( エ) の大口債務の他にも,月末業者支払や管理組合に対して交付すべき預り金,固定資産税,金利等々,通常の運転費用だけでも約1億2000万円の支払が必要だったのであり(この中には一般消費者からの預り金精算費用を含んでいる。),これに対して手元預金残高は5000万円強にすぎなかった。つまり,運転経費すら支払えず,更には消費者問題まで惹起しかねない状態にあったのである。 ( カ) このように,原告は弁済期の到来した債務をその信用,事業,資産のいずれをもってしても弁済できない状況にあったこと,すなわち支払不能の状態にあり,少なくとも支払不能のおそれがあったことは明らかである。 ウ以上によれば,原告について,更生手続開始の申立て当時,その開始原因が存在していたことは明らかである。 (4) 争点(4) (被告Y1及び被告Y2の損害賠償責任の有無)(原告の主張)ア被告Y1及び被告Y2による原告グループ会社の更生手続開始の申立ては,有効な取締役会決議に基づいた申立てではなく,取締役としての善管注意義務ないし忠実義務に違反し,かつ,民法上の共同不法行為に当たる。 仮に,取締役会決議が有効に成立していたとしても,原告グループ会社の更生手続開始の申立ては,更生手続開始原因が存在しないのになされた申立てであるから,やはり取締役としての善管注意義務ないし忠実義務に違反し,かつ,民法上の共同不法行為に当たる。 また,仮に上記更生手続 続開始の申立ては,更生手続開始原因が存在しないのになされた申立てであるから,やはり取締役としての善管注意義務ないし忠実義務に違反し,かつ,民法上の共同不法行為に当たる。 また,仮に上記更生手続開始の申立てが形式的な法的要件を満たしていたとしても,少なくとも原告グループ会社が更生手続などの倒産手続に踏み切る必要がなかったことは明白で,被告Y1及び被告Y2の更生手続開始の申立てに至る行為が取締役としての忠実義務及び善管注意義務に反することは明らかである。 イ被告Y1及び被告Y2は,かかる更生手続開始の申立てに至る一連の行為について,被告Y3と相談しながら事前に計画を練り,D,Eなどの原告の従業員の一部と協力して,計画を決行したのである。そして,被告らが,更生手続開始の申立て後,説明会を開催するなど,主体的に原告の更生手続に関与していたことに鑑みれば,更生手続を利用して原告の乗っ取りを図ろうとしていたものと推測される。 したがって,被告らによる更生手続開始の申立ては,かかる不当な目的のもとになされたものであり,被告Y1及び被告Y2は,原告に対し,損害賠償責任を負う。 (被告らの主張)ア最高裁判決によれば,訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるとしている。この法理は,国民の裁判手続の利用という意味で倒産処理手続の申立てについても妥当するというべきである。 イ原告は,被告らが原告の乗っ取りを目的に,更生手続開始原因を欠くに きに限られるとしている。この法理は,国民の裁判手続の利用という意味で倒産処理手続の申立てについても妥当するというべきである。 イ原告は,被告らが原告の乗っ取りを目的に,更生手続開始原因を欠くにもかかわらず,そのことを知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのに,あえて更生手続開始の申立てをしたと主張する。 しかし,更生手続の場合,申立てにより保全管理人が選任され,あるいは開始決定により管財人が選任され,いずれにしても会社の事業の経営及び財産の管理処分権はこれらの者に専属する(会社更生法32条,72条)。その選任は会社や関係者と利害関係のない者から裁判所により行わ れ,その後も保全管理人,管財人は裁判所の監督を受ける。そうすると,原告主張のような更生手続を利用した会社の乗っ取りが不可能であるのは明らかである。 (5) 争点(5) (被告Y3の損害賠償責任の有無)(原告の主張)ア本件取締役会決議は,いずれも無効であるから,被告Y1は,原告を代表して,被告Y3との間で,更生手続開始の申立てを目的とする弁護士委任契約を締結する権限を有していなかった。 被告Y3は,被告Y1及び被告Y2との間で,本件取締役会の少なくとも10日以上前から十分な打合せを行っており,本件取締役会が開催されている間も,本件取締役会の行われた部屋の隣の部屋で様子を窺っていた。 また,被告Y3は,本件取締役会議事録の作成から更生手続開始の申立てまでを被告Y1及び被告Y2と共に行っており,その過程で被告Y1の録音したテープも聴いている。 したがって,被告Y3は,被告Y1が弁護士委任契約を締結する権限を有していないことを十分了知していたし,少なくとも十分了知し得たというべきである。 被告Y3は,原告から権限ある委任を いる。 したがって,被告Y3は,被告Y1が弁護士委任契約を締結する権限を有していないことを十分了知していたし,少なくとも十分了知し得たというべきである。 被告Y3は,原告から権限ある委任を受けていないことを十分了知し,又は十分了知し得たにもかかわらず,原告の代理人として更生手続開始の申立てをしており,当該行為が,原告に対する不法行為に該当することは明らかである。 イ( ア) 仮に,原告と被告Y3との間で委任契約が成立している場合,被告Y3は,弁護士としての職務の性質上,原告に対し,高度で専門的な善管注意義務を負うとともに,誠実義務ないし忠実義務を負うことになる。そして,弁護士は,高度の専門的知識と技能を備え,高い職業倫理に基づき行動することが要請されることから,単に依頼者の指示のままに行動する のでは依頼者に対する義務を果たしたことにはならない。 ( イ) 本件では,前記のとおり更生手続開始の申立てを行うことが有効に決議されておらず,原告は更生手続開始の申立てを行う意思決定をしていないこととなる。 しかし,被告Y3は本件取締役会がどのように行われていたかを十分知っていたにもかかわらず,本件取締役会議事録を更生手続開始申立ての際に裁判所に提出した。 ( ウ) また,仮に被告Y3が本件取締役会決議の無効を十分知っていたとはいえないとしても,更生手続開始の申立てという決議内容の重大性と取締役会の構成を考えれば,原告の委任を受けた弁護士の被告Y3としては,少なくともBの意思を直接確認するなどの対応を取る当然の義務があったといえる。しかし,被告Y3はかかる確認作業を行っていない。 したがって,被告Y3には原告に対する善管注意義務違反が認められ,債務不履行責任及び不法行為責任を負う。 ( エ) さらに,取締役 といえる。しかし,被告Y3はかかる確認作業を行っていない。 したがって,被告Y3には原告に対する善管注意義務違反が認められ,債務不履行責任及び不法行為責任を負う。 ( エ) さらに,取締役が更生手続開始原因が存在しないのに更生手続開始の申立てを行おうとする場合や,形式的には更生手続開始原因が存在する場合であっても当該申立てが妥当でないような場合には,当該取締役の指示に被告Y3が従うことは許されない。 被告Y3は,更生手続開始の申立てに至る経緯を十分了知し,被告Y1及び被告Y2が違法・不当な更生手続開始の申立てを行おうとしていることを知りながら(又は知ることが可能であったのに),その指示に従って,原告の更生手続開始の申立てを行ったのであるから,原告に対して債務不履行責任及び不法行為責任を負う。 (被告Y3の主張)原告の主張は,本件取締役会決議が無効であることを前提にしているが,前記のとおり,その前提自体が誤りである。 また,仮に本件取締役会決議が無効であるとしても,被告Y3は本件取締役会に出席した者から説明を受けて委任事務を果たしているのであるから,そこに何らの注意義務違反も存しない。 なお,被告Y3は,本件取締役会の翌日にBから意向を確認しており,当時,Bは各議案について被告ら主張のとおりの態度を示していたことを認めていたし,これに沿って取締役の辞任届を,被告Y3を通じて保全管理人に提出しているのであるから,仮に原告の主張するような高度の注意義務が存在するとしても,被告Y3はそれを果たしている。 また,更生手続開始原因が存在しないか,あるいは開始原因は存在しても不当な更生手続開始の申立てであることを,被告Y3が知り又は知ることができたとの原告の主張も,更生手続開始原因の不存在あるいは更生手続開始 生手続開始原因が存在しないか,あるいは開始原因は存在しても不当な更生手続開始の申立てであることを,被告Y3が知り又は知ることができたとの原告の主張も,更生手続開始原因の不存在あるいは更生手続開始の申立ての不当性という前提事実がそもそも誤っており,被告Y3に責任はない。 (6) 争点(6) (原告の損害額)(原告の主張)ア原告の企業価値の毀損( ア) 在庫物件の価格下落更生手続や再生手続など,法的倒産手続を申し立てた場合,消費者の心理に悪影響を与える上,瑕疵担保責任やアフターサービス義務等の履行が保証されないこととなるため,当該会社が開発したマンションを元の販売価格で買う消費者はいなくなってしまう。 被告らが更生手続開始の申立てを行った平成20年6月30日時点におけるR21福岡東ザ・パーク,R21福岡西,R21小倉東における在庫物件の正常価格は,それぞれ12億7340万円,11億2780万円,2億5660万円の合計26億5780万円(いずれも消費税相当額を含む。)であり,同額の価値を有していた。 しかし,被告らによる更生手続開始の申立ての結果,これらの在庫物件を買おうという消費者が急激に減少したため,これら在庫物件の価値が著しく下落し,バルクセールなどの方法により,著しく安価で処分するしかなかった。その販売価格は,R21福岡東ザ・パークが8億2771万円,R21福岡西が5億4000万円,R21小倉東が9000万円の合計14億5771万円(いずれも消費税相当額を含む。)であった。 したがって,これらの在庫物件だけを取ってみても,原告は,被告らによる更生手続開始の申立てによって原告の信用が毀損されたことにより,合計12億0009万円もの損害を被った。 ( イ) 得られたはずの利益原告が 在庫物件だけを取ってみても,原告は,被告らによる更生手続開始の申立てによって原告の信用が毀損されたことにより,合計12億0009万円もの損害を被った。 ( イ) 得られたはずの利益原告が仕掛中であった物件の1つである「R21津久野セルフィ」について,これを完成させれば,原告は遠からぬ将来において,少なくとも1億5000万円の事業利益を得られるはずであった。 ところが,被告らが更生手続開始の申立てを行ったため,原告は事業から手を引かざるを得ず,利益を得ることができなかった。 ( ウ) このように,原告の企業価値が大きく失われたことは明白であり,原告が受けた損害は,上記( ア) 及び( イ) で挙げたもののみでも13億5000万円程度に上る。 イ被告Y3への弁護士報酬被告Y3は,更生手続開始の申立ての違法性を認識しつつ,専ら原告に損害を与えるような行動しかしていないにもかかわらず,原告から弁護士報酬名目で1000万円の金員を受領している。したがって,当該1000万円は原告の損害となる。 ウ更生手続開始の申立てに伴う予納金被告らが更生手続開始の申立てを行うに当たり,原告分として裁判所に 納めた予納金は少なくとも998万9416円である。これも原告の損害となる。 エ被告Y1の預金引出し被告Y1は,更生手続開始の申立てが行われた平成20年6月30日,原告の銀行口座から200万円を引き出している。この200万円は,状況的に更生手続開始の申立てに伴う活動費用に使われたとしか考えられないから,これも原告の損害となる。 オ以上のとおりであるから,更生手続開始の申立て時点で原告が資産超過であったか否かにかかわらず,被告らの更生手続開始の申立てにより,原告は上記アないしエの損害を被ったものであり,原告に となる。 オ以上のとおりであるから,更生手続開始の申立て時点で原告が資産超過であったか否かにかかわらず,被告らの更生手続開始の申立てにより,原告は上記アないしエの損害を被ったものであり,原告に少なくとも(本件訴訟における一部請求の額である)1億円以上の損害が生じたことは明らかである。 (被告らの主張)争う。 原告の主張は,①固定費や仕掛案件の続行経費なども含めて全ての資金繰りを賄いつつ企業が維持できること,②当初の販売計画どおりに当該物件の売行きが好調に進んでいることをいずれも前提として行われているが,本件ではそのような前提自体がいずれも成り立っていない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1) (原告の監督委員の同意の要否)について(1) 認定事実前記前提事実,証拠(各項掲記のほか,甲51,A。なお,適宜,書証の頁ないし尋問調書の項目番号を掲記する。以下の争点についても同様である。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。 ア福岡地方裁判所は,平成20年8月28日,原告の再生手続開始の申立てを受けて,原告について,監督命令を発した。 福岡地方裁判所は,上記監督命令において,監督委員として弁護士L1(以下「L1監督委員」という。)を選任するとともに,監督委員の同意を得なければ再生債務者がすることができない行為を別紙要同意事項記載のとおり指定した(以下「本件要同意事項」という。)。 (本項につき,甲1)イ福岡地方裁判所は,平成20年11月14日,原告について,再生手続開始決定を行った。(甲1)ウ L1監督委員は,平成21年5月8日付けで,福岡地方裁判所に対し,被告Y1及び被告Y2に対する損害賠償請求権の査定の申立てについて,少なくとも更生手続開始の申立てを行った手続に法 た。(甲1)ウ L1監督委員は,平成21年5月8日付けで,福岡地方裁判所に対し,被告Y1及び被告Y2に対する損害賠償請求権の査定の申立てについて,少なくとも更生手続開始の申立てを行った手続に法的瑕疵があり,その申立てによる混乱から損害が生じたことが推認できる旨を含む意見書を提出した。(甲24)エ平成21年7月22日,原告の提出した再生計画案が可決され,同日,福岡地方裁判所が再生計画認可決定を行い,同決定は同年8月19日に確定した。 再生計画の主な内容は,原告が会社分割をして新会社株式会社x3(以下「x3」という。)に事業承継をし,その対価で債権者に配当を行うというものであった。x3の本店所在地は原告の本店所在地と同じである。 また,原告の取締役はAを含めx3の取締役に就任しないとされているが,Aの妻であるJがx3の役員に就任している。(A396項ないし402項)なお,本件訴訟に係る損害賠償請求権は,上記再生計画において,弁済の原資とされていない。 オ原告は,平成21年9月までに,上記再生計画に基づく弁済を全て終了させた。 カ原告は,平成21年9月12日,被告らに対する本件訴訟を提起したが, 本件訴訟提起につき,L1監督委員の同意を得ていない。 (2) 争点に対する判断ア前記(1) エ及びカによれば,本件訴訟提起が再生計画認可決定の確定後であること,本件訴訟提起についてL1監督委員の同意がないことが認められるから,本件訴訟提起が本件要同意事項2(3) における「重要な財産に関する訴えの提起」に当たるかどうかにつき検討する必要がある。 イところで,再生計画認可決定が確定した場合,再生債務者等は,速やかに,再生計画を遂行しなければならない(民事再生法186条1項)ところ,監督委員が選任されている うかにつき検討する必要がある。 イところで,再生計画認可決定が確定した場合,再生債務者等は,速やかに,再生計画を遂行しなければならない(民事再生法186条1項)ところ,監督委員が選任されているときは,当該監督委員が再生債務者の再生計画の遂行を監督することとなる(同条2項)。そして,かかる監督は,要同意事項(同法54条2項)がある場合には,これに対する同意・不同意,帳簿の検査等を通じた調査(同法59条),再生計画の変更(同法187条1項)及び再生手続廃止の申立権(同法193条,194条)等を通じて行われることが予定されている。 このような法の趣旨からすると,本件要同意事項のうち,再生計画認可決定確定後に係る事項は,再生計画の遂行に影響を与え,債権者に不利な影響を及ぼす再生債務者の行為に対する監督委員による監督を実効あらしめる趣旨で定められたものと解される。 そうすると,本件要同意事項2(3) における「重要な財産に関する訴えの提起」とは,再生計画の遂行に影響を与え,かつ,債権者に不利な影響を及ぼすような重要な財産に関する訴えの提起を指すものと解するのが相当である。 ウしかるに,本件において,①本件訴訟に係る損害賠償請求権は,再生計画に基づく弁済の原資になっておらず(前記(1) エ),また,②原告において平成21年9月までに再生計画に基づく弁済を全て終了させている(前記(1) オ)ことからすると,本件訴訟の提起及びその帰趨が,原告の 再生計画の遂行に影響を与えるものとはいえない。 加えて,本件訴訟の提起及びその帰趨により,債権者に何らかの負担ないし損失が生じるものとは考え難く,他に債権者に不利な影響を及ぼすものと認めるに足りる証拠はない。 エしたがって,本件訴訟提起は,本件要同意事項における「重要な財産に関する訴 者に何らかの負担ないし損失が生じるものとは考え難く,他に債権者に不利な影響を及ぼすものと認めるに足りる証拠はない。 エしたがって,本件訴訟提起は,本件要同意事項における「重要な財産に関する訴えの提起」には当たらず,監督委員の同意は不要というべきである。これに反する被告らの主張を採用することはできない。 2 争点(2) (本件取締役会決議の有効性)について(1) 認定事実前記前提事実,証拠(各項掲記のほか,甲13,17,18,51ないし53,乙イ18,証人B,A,被告Y1,被告Y2)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。 ア当事者等( ア) 原告は,取締役会設置会社かつ監査役設置会社であり,発行する全部の株式の内容として,譲渡による株式の取得に取締役会の承認を必要とする旨を定款で定めている。(甲1,65)( イ) Bは,平成17年3月29日から平成21年3月31日まで原告の取締役であった者であり,平成20年1月以降,原告の大阪営業所を担当し,モデルルームにおける営業活動等を主に行っていた。(甲1,B147項,148項)イ原告の招集通知及び電話会議等に関する定め原告は,平成20年6月当時,定款において,取締役会の招集通知は,会日の3日前までに各取締役及び監査役に対して発するものとし,ただし,緊急の必要がある場合は,この期間を短縮することができる(24条1項),また,取締役及び監査役の全員の同意があるときは,招集の手続を経ないで取締役会を開くことができる(同条2項)旨を定めていた。 また,原告の取締役会規程においては,取締役会の招集通知は会日の5日前までに発することとされている他は,定款24条と同趣旨の規定(6条)が置かれていた。 なお,原告は,同月当時,定款又は取締役会規 また,原告の取締役会規程においては,取締役会の招集通知は会日の5日前までに発することとされている他は,定款24条と同趣旨の規定(6条)が置かれていた。 なお,原告は,同月当時,定款又は取締役会規程において,テレビ会議方式あるいは電話会議方式による取締役会の開催に関する定めを置いていなかった。 (本項につき,甲65,66)ウ本件取締役会前々日(平成20年6月27日)までの経緯( ア) 被告Y1の出社差止め被告Y1は,Aから,平成20年4月以降,原告に出社しないよう告げられた上,報酬月額を100万円から10万円に下げられたため,同年4月頃から同年6月中旬頃まで,原告に出社しなかった。その間,原告の経理財務は,K管理部長が責任者を務めていた。(A41項,52項)( イ) 被告Y2による取締役会開催の申入れ原告は,大阪府堺市津久野と大阪市福島区大淀南で進めているマンションの建設計画に関し,M2銀行から手形貸付等の形式で融資を受けていた。被告Y2は,同銀行との交渉を担当していたが,その交渉の中で,同銀行から,支払期限の変更(いわゆるリスケ)の前提として,改めて事業計画を立て直し,原告の取締役会決議を得た上で提出するよう要求されていた。そのため,被告Y2は,平成20年6月25日頃まで,Aに対し,上記事項等について協議するための取締役会を開催するよう再三にわたって申し入れていた。(甲12の1・2,被告Y2-20項ないし37項)( ウ) 本件取締役会の招集通知Bは,平成20年6月20日頃,原告の社長秘書から,同月30日に 原告の取締役会を開催する旨の通知をメールで受け取った。Bは,社長秘書を通じて,Aに対し,当日はどうしても福岡に戻らなければならないかと確認したところ,Aから,電話で会議に出席できるように 原告の取締役会を開催する旨の通知をメールで受け取った。Bは,社長秘書を通じて,Aに対し,当日はどうしても福岡に戻らなければならないかと確認したところ,Aから,電話で会議に出席できるようにする旨の返答を受けた。なお,この時点で,Bは,同日の具体的な予定が未だ決まっていない状態だった。(B4項ないし8項,174ないし178項,181項ないし183項,A451項)( エ) 監査役による監査C1監査役及びC2監査役は,平成20年6月26日,原告の監査を行ったところ,原告が金融機関に提出したバランスシートや試算表に問題があること,及び取締役会の決議が必要であるにもかかわらず決議を経ていない借入れ等があることを知った。(甲15の1,甲16の1・2)エ本件取締役会前日(平成20年6月28日)の状況( ア) Bは,平成20年6月28日,原告の社長秘書から,取締役会開催日が同月29日に変更になった旨の通知をメールで受け取った。Bは,同日に大阪における仕事の予定が特段なかったものの,Aに対し,福岡に戻るべきか確認したところ,Aから電話で取締役会に出席できるようにするとの返答を受けた。しかし,原告では電話会議方式による取締役会がこれまで開催されたことがなかったため,Bは,取締役会が開かれる本件会議室にスピーカーフォンとしての機能を備えた電話器があるかどうかを知らなかった。(B11項ないし16項,20項,186項ないし188項)( イ) Bは,平成20年6月28日,同じく大阪にいた被告Y2から,重要な話があるため一緒に福岡に行って取締役会に出席しようと誘われたものの,被告Y2の誘いを断った。(B24項,被告Y2-41項,42項) ( ウ) 被告Y1は,平成20年6月28日,ほぼ半日をかけて,Aとの間で話 って取締役会に出席しようと誘われたものの,被告Y2の誘いを断った。(B24項,被告Y2-41項,42項) ( ウ) 被告Y1は,平成20年6月28日,ほぼ半日をかけて,Aとの間で話し合いを行い,Aに対して社長を退くよう求めたが,Aはこれに応じなかった。(被告Y1-122項ないし129項)オ本件取締役会の状況(甲12の1・2)( ア) 開会時の状況a 被告Y1は,本件取締役会開始直前から終了直後までの間,録音機器を用いて,本件取締役会の議事内容を録音していた。(甲18,被告Y2-185項ないし188項)b 被告Y2は,本件取締役会を開催するに当たり,本件会議室の本件固定電話から大阪営業所にいたBの携帯電話に電話をかけたが,うまく電話がつながらなかったため,何度かかけ直したところ,ようやくBの携帯電話につながった。このとき,一時的に本件固定電話のスピーカーと思われる部分からBの声が聞こえることもあった。 なお,本件固定電話に,スピーカーフォンの機能はなく,また,本件取締役会の際,本件固定電話の受話器は,誰かが手に持っているとき以外は机の上に置かれていた。そのため,本件会議室にいる誰かが当該受話器に向かって話さなければ,Bに本件会議室における話の内容はほとんど聞こえず,また,本件会議室にいる誰かが当該受話器を耳に当てなければBの発言は聞き取れない状態であった。 cAは,被告Y1から開会を宣言するよう求められたことに応じて,M2銀行からの借入れの件及び大浦プロジェクトの件について取締役会を開催する旨述べて,本件取締役会の開会を宣言した。 このとき,本件固定電話の受話器は,被告Y2が手に持っており,また,Bの声が本件固定電話のスピーカーと思われる部分から聞こえる状態ではなくなっていた。 ( イ) 件取締役会の開会を宣言した。 このとき,本件固定電話の受話器は,被告Y2が手に持っており,また,Bの声が本件固定電話のスピーカーと思われる部分から聞こえる状態ではなくなっていた。 ( イ) 第1号議案の決議に至る状況 a 開会宣言後,被告Y1は,M2銀行からの借入れの件につき,①平成20年6月30日に借入金4億7000万円の弁済期が到来するが,その返済の目処が立っていないこと,及び②弁済期に返済ができないと,期限の利益を喪失して,担保権を行使され得る状況に陥る可能性があることを指摘し,返済に対する基本的な考え方を取締役会で議論して銀行に提示する必要がある旨を説明した。 そして,被告Y1は,引き続き,①同年9月に約16億円の手形決済の期日があること,②同年8月にM4に対する箱崎寮の借入金の決済があること,③M1銀行からの4億円の借入金については,M4の後順位抵当権があるため交渉が難航していることを指摘して,原告の資金繰りが逼迫していることを説明し,このような状況下で原告の経営方針を決める必要がある旨を説明した。 b これに対し,Aが銀行との交渉の経緯について説明を求めたところ,被告Y1は,①原告が,x1の管理組合からの預り金や,原告が売却した物件の入居者からの預り金を,原告の資金繰りに流用して,何とか資金繰りを回している状況にあること,②かかる預り金は分別管理すべきであるのに現実には分別管理されておらず,通常の返済期限を越えても返還していないこと,③原告が,平成20年4月以降取締役会を開くことなく,金融機関から多額の借財及び金融機関への担保提供をしていることを指摘し,刑事事件にも発展し得る問題である旨の意見を述べた。 c 被告Y1は,直ちに,監査役に対し,これらの点に関する意見を求めたところ,C1監査役は,平成 び金融機関への担保提供をしていることを指摘し,刑事事件にも発展し得る問題である旨の意見を述べた。 c 被告Y1は,直ちに,監査役に対し,これらの点に関する意見を求めたところ,C1監査役は,平成20年6月26日にC2監査役と一緒に現況のバランスシート等を監査したが,取締役会の承認が必要となるものが散見された旨を説明した。 なお,このとき,Bは,本件会議室でなされている議論の詳細を聞 き取ることができず,その内容を把握できない状況にあった。(B32項,33項)d 被告Y1は,銀行に提出している試算表が明らかに間違っていること,仮に同試算表に基づき借入れをしていたら重大な事件に発展しかねないことを指摘した。Aは,被告Y1から報告が入っていない旨を述べたが,これに対し,被告Y1は,平成20年4月にAから来なくてよいと言われたため何も行動できなくなったのであるから,責任転嫁しないでほしい旨反論した。 e 被告Y2は,①Aにこれまで何回も取締役会を開くように要請したこと,及び②Aに平成20年6月30日に取締役会を開こうと提案したが,Aから何で開かなければならないのかと言われたことを指摘したほか,詐欺行為をしていたら仕事を失う旨の意見を述べた。 fC1監査役は,平成20年6月26日の監査の際,原告のバランスシートや試算表を監査したところ,適正に表示されている試算表ではなかった旨を説明した。 g 被告Y2は,Aに対し,平成20年6月30日までに取締役会を開催しなければ自分が招集権者として取締役会を開催しようとした旨を述べたところ,Aは,今回は被告Y2からの要望で開催したが,同年2月から4月までは被告Y2が開催しようと言わなかった旨述べて反論し,Aと被告Y2の間で,取締役会開催の申入れをしたかどうかについて言い合いとなった。 は,今回は被告Y2からの要望で開催したが,同年2月から4月までは被告Y2が開催しようと言わなかった旨述べて反論し,Aと被告Y2の間で,取締役会開催の申入れをしたかどうかについて言い合いとなった。 h 被告Y1は,両者の言い合いを抑えて,原告が早急に再建計画を作って銀行やゼネコンと交渉する必要がある旨を説明した上で,Aに対し,取締役を辞任するよう求めた。これに対し,Aは「後で決める。」旨を述べたため,被告Y1は今決めるように求めたが,Aはこれを拒否した。 そこで,被告Y1は,Aを代表取締役から解職する旨の第1号議案を緊急動議として上程し,即時,採決を行ったところ,被告Y1及び被告Y2は,賛成と述べて挙手した。 i 被告Y1は,受話器を持っている被告Y2を通じて,Bに対し,緊急動議に対する賛否を尋ねたところ,Bは,被告Y2に対し,話が聞き取れておらず分からない旨を伝えた。そこで,被告Y2は,Bに対し,本件会議室における議論の状況を説明したが,Bが知らない旨答えたため,①反対か賛成かだけ答えるように促した上,②既に被告Y1及び被告Y2が賛成しているので,Bが反対してもAの解職は決まっている旨を伝えた。それでも,Bが被告Y2に対し状況が分からない旨を伝えたため,被告Y2は,Bに棄権でよいかと尋ねたところ,Bは棄権する旨答えた。 j そこで,被告Y1は,賛成2,棄権1により,第1号議案が適法に可決された旨を宣言した。 ( ウ) 第2号議案の決議に至る状況a 第1号議案に引き続き,被告Y1は,自らが原告の再建のため努力していきたい旨を述べて,被告Y1を代表取締役に選定する旨の第2号議案を上程し,直ちに採決を行ったところ,被告Y1及び被告Y2が同議案に賛成した。そして,被告Y2がBに対して賛否を尋ねたところ,Bは態度保 たい旨を述べて,被告Y1を代表取締役に選定する旨の第2号議案を上程し,直ちに採決を行ったところ,被告Y1及び被告Y2が同議案に賛成した。そして,被告Y2がBに対して賛否を尋ねたところ,Bは態度保留と述べた。そのため,被告Y1が,被告Y2から受話器を受け取り,Bに賛同するように求めたところ,Bは特段異議を述べなかった(なお,被告Y1はBが「はい」と答えた旨供述するが,被告Y1の供述以外にこれを裏付ける証拠はなく,同供述を採用することはできない。)。 b その後,Aは第1号議案上程以来初めて「今日の議題って違う。」などと発言したが,被告Y1は緊急動議である旨を説明し,監査役に 意見を求めた。 なお,Aは,この発言以降,本件取締役会が閉会するまでの間,一切発言をしなかった。 ( エ) 第3号議案の決議に至る状況a 被告Y1は,自らが代表取締役に選定されたことを前提に,引き続き,①原告が10億円以上の債務超過であり,かつ,平成20年6月と8月の資金繰りが回らないこと,及び,②銀行に返済すべき借入金を返済しないでようやく資金繰りがついている状況であり,原告の資金繰りが事実上破綻していることを指摘し,更生手続開始申立てをする以外に銀行やゼネコンを抑えて原告の再建を図る手法はない旨の意見を述べて,緊急動議として,原告の更生手続開始申立てをする旨の第3号議案を上程した。 b 上程後直ちに被告Y1が監査役の意見を求めたところ,C1監査役は,複数ある会社の再建手法として更生手続が現実的に実現可能かどうかを尋ねた。 これに対し,被告Y1は,①債権者に金融機関が多く,抵当権が複雑に設定されているほか,ゼネコンとの関係が悪化しており,話合いでの解決が不可能であるため,私的整理による再建は難しいこと,②再生手続は,金融機関等による担保 ,①債権者に金融機関が多く,抵当権が複雑に設定されているほか,ゼネコンとの関係が悪化しており,話合いでの解決が不可能であるため,私的整理による再建は難しいこと,②再生手続は,金融機関等による担保権の実行を止めることができないため,原告の再建には向いていないこと,及び,③更生手続は,担保権の実行を全て止めた状態で再建計画を作成して,銀行に返済できる分だけを返して行くという手続をとることができるため,現状の原告の再建に適していることを説明した。 c 被告Y1は,少し間を置いてから,被告Y2に対し意見を求めたところ,被告Y2は,被告Y1と同意見であり,原告が金融機関からの担保権実行を止めるには更生手続しかない旨を述べた。 d 被告Y1は,第3号議案につき,採決を行ったところ,被告Y1及び被告Y2が賛成した。そして,被告Y1は,Bの賛否を確認することなく,賛成多数で可決した旨を宣言した。 ( オ) 第4号議案の決議に至る状況a 第3号議案に続いて,被告Y1は,x1の株主総会を招集する旨の第4号議案を緊急動議として上程し,原告が更生手続を選択した以上,業務的に一体となっているx1の株主総会を招集することにより手続を円滑に進めたい旨を説明した。 b 被告Y1は,他の取締役の意見を諮ることなく,直ちに採決を行ったところ,被告Y1及び被告Y2が賛成した。被告Y1は,第3号議案と同様,Bの賛否を確認することなく,賛成多数で可決した旨を宣言した。 すると,C1監査役が,①x1の監査役が誰かということや,②原告とx2との連結関係などについて尋ねたため,被告Y1は,①につきI相談役であること,②につき100%連結で両社は一体であり,また,x1の資金を原告に回しているため,一体で手続を進めないと複雑な権利関係が発生することなどを説 いて尋ねたため,被告Y1は,①につきI相談役であること,②につき100%連結で両社は一体であり,また,x1の資金を原告に回しているため,一体で手続を進めないと複雑な権利関係が発生することなどを説明した。 ( カ) 閉会時及び閉会直後の状況等a 被告Y1は,上記緊急動議を上程した理由を説明した上で,緊急動議で重要事項を決定したため,いったん取締役会を解散する旨を述べて,本件取締役会の閉会を宣言した。 なお,本件取締役会の間,本件固定電話の受話器を手に取ることのなかったA及び監査役2名は,Bが何を言ったかを直接聞くことはなかった。 b 被告Y2は,平成20年6月29日の本件取締役会閉会後,Bに電話をかけ,①Aが代表取締役から解職されたこと,②被告Y1が代表 取締役に選定されたこと,③更生手続の開始を同月30日に申し立てること,及び④営業社員が解雇されることなどを伝えた。被告Y2の話を聞いたBは,被告Y2に対し,特段の異議を述べなかった。(B68項ないし76項,80項)c 被告Y1は,本件取締役会閉会後直ちに,Aに対し,原告の代表印を引き渡すよう求めた。Aは,すぐには被告Y1の求めに応じなかったが,C2監査役からの説得を受けるなどして,平成20年6月30日午前1時頃,被告Y1に原告の代表印を引き渡した。(甲16の1・2)d 被告らは,本件取締役会閉会後,電話会議方式による取締役会を適法に開催したこと,Bが電話会議方式により本件取締役会に出席したこと,及び第1号議案ないし第4号議案がいずれも可決されたことを記載した本件取締役会議事録を作成した。(甲4)カ更生手続開始の申立て及びその後の状況( ア) 福岡地方裁判所は,平成20年6月30日,原告グループ会社について,それぞれ保全管理命令を発し,保全管理 件取締役会議事録を作成した。(甲4)カ更生手続開始の申立て及びその後の状況( ア) 福岡地方裁判所は,平成20年6月30日,原告グループ会社について,それぞれ保全管理命令を発し,保全管理人としていずれも弁護士L2(以下「L2保全管理人」という。)を選任した。(甲6の1ないし3)( イ) Bは,平成20年6月30日午後4時頃,原告本社に出社し,L2保全管理人,被告ら及び残っていた営業社員と会ったほか,L2保全管理人宛に辞任届を提出した。(B229項ないし231項,279項ないし282項)( ウ) 平成20年7月4日,原告の関係人説明会が開催され,Bは,被告らと共に同説明会に出席した。(B114項)( エ) Aは,平成20年7月10日(原告)及び同月14日(x1及びx2)付けで,福岡高等裁判所に対し,原告グループ会社について発せ られた各保全管理命令に対する即時抗告をそれぞれ申し立てた。(甲8の1ないし3)( オ) 被告Y3は,原告の保全管理命令に対する即時抗告審で福岡高等裁判所に提出した平成20年7月17日付けの意見書において,Bが本件取締役会に出席したことを前提とする主張を行ったが,同年8月4日付けの意見書では,第2号議案以降Bが離脱して欠席したと評価することもできる旨を主張として追加した。(甲28,29)(2) 争点に対する判断ア Bの出席の有無まず,本件取締役会決議の有効性を検討する前提として,本件取締役会に携帯電話で参加しようとしたBが,本件取締役会に出席したといえるかどうかについて検討する。 ( ア) 取締役会設置会社において,各取締役は,取締役会に出席する責務を負うところ,必ずしも物理的に取締役会が開催されている場所に出席する必要はなく,テレビ会議方式や電話会議方式 て検討する。 ( ア) 取締役会設置会社において,各取締役は,取締役会に出席する責務を負うところ,必ずしも物理的に取締役会が開催されている場所に出席する必要はなく,テレビ会議方式や電話会議方式による出席も可能であるものと解される(会社法施行規則101条3項1号参照)。 もっとも,取締役会は,個人的な信頼に基づき選任された取締役が相互間の協議ないし意見交換を通じて意思決定を行う会議体であるから,遠隔地にいる取締役(以下「遠隔地取締役」という。)が電話会議方式によって取締役会に適法に出席したといえるためには,少なくとも,遠隔地取締役を含む各取締役の発言が即時に他の全ての取締役に伝わるような即時性と双方向性の確保された電話会議システムを用いることによって,遠隔地取締役を含む各取締役が一同に会するのと同等に自由に協議ないし意見交換できる状態になっていることを要するものと解するのが相当である。 ( イ) そこで,本件についてみると,前記認定事実のとおり,Bの携帯 電話と本件会議室の本件固定電話は,本件取締役会開催直前から閉会時までの間,回線で接続されて通話状態にあったものの,本件固定電話がスピーカーフォンではなかったため,本件取締役会の開催時から閉会時までの間,本件会議室にいる誰かが本件固定電話の受話器を耳に当てなければBの発言は聞き取れない一方,Bも,本件会議室にいる誰かが当該受話器に向かって話さない限り,本件会議室における話の内容をほとんど認識できない状態となっていた。そして,Bは,第1号議案及び第2号議案の審議の際に被告Y2から議題の説明を受け,被告Y2及び被告Y1から両議案の賛否を尋ねられたとき以外には,本件会議室でなされていた議論をほとんど聞き取れていなかっただけでなく,第3号及び第4号議案については両議案が上 から議題の説明を受け,被告Y2及び被告Y1から両議案の賛否を尋ねられたとき以外には,本件会議室でなされていた議論をほとんど聞き取れていなかっただけでなく,第3号及び第4号議案については両議案が上程されていたことすら認識できていなかったものである。 これらの事実からすれば,Bの携帯電話と本件固定電話の回線が本件取締役会の開会時から閉会時までの間接続されていたとしても,そのことをもって即時性と双方向性の確保された電話会議システムを用いていたと評価することはできないのであって,Bを含む当時の原告の各取締役が一同に会するのと同等に自由に協議ないし意見交換できる状態になっていたものと認めることはできない。 ( ウ) したがって,Bについて,本件固定電話と回線で接続された携帯電話の通話で本件取締役会に参加しようとしたことをもって,本件取締役会に適法に出席したと判断することはできないというべきである。 ( エ) なお,原告は,被告らが,Bが本件取締役会に出席していなかったと主張することは信義則に違反し許されない旨主張する。 この点,前記前提事実及び前記認定事実によると,被告らは,Bが電話会議方式により本件取締役会に出席した旨を記載した本件取締役会議事録を作成し,更生手続開始の申立ての際,その添付資料として裁判所 に提出したことが認められる(もっとも,更生手続開始の申立ては,取下げにより終了している。)。 しかしながら,前記のとおり,他方で,被告らは,保全管理命令の即時抗告審においては,第2号議案以降Bが欠席したとも主張していたのであり,また,Bが本件取締役会に出席していなかったとの主張は結果的に上記認定判断に合致するものである。 そうすると,本件訴訟において,被告らが,Bが本件取締役会に出席していなかったと主張しても,直ち り,また,Bが本件取締役会に出席していなかったとの主張は結果的に上記認定判断に合致するものである。 そうすると,本件訴訟において,被告らが,Bが本件取締役会に出席していなかったと主張しても,直ちに禁反言に当たるものとして,信義則に違反するものとはいえないというべきである(最高裁判所昭和48年7月20日第二小法廷判決・民集27巻7号890頁参照)。 したがって,これに反する原告の主張を採用することはできない。 イ Bの出席の機会が不当に奪われたといえるか。 次に,原告は,Bが本件取締役会に出席したとはいえない場合でも,Bは本件取締役会に出席する機会を実質的に奪われたのであるから,本件取締役会決議には手続上の瑕疵がある旨主張するので,この点につき検討する。 ( ア) 取締役会設置会社において,取締役会の開催に当たり,一部の取締役が取締役会への出席の機会を不当に奪われた場合には,特段の事情のない限り,当該取締役会の決議は無効であると解するのが相当である(最高裁判所昭和44年12月2日第三小法廷判決・民集23巻12号2396頁参照)。 ( イ) そこで,本件についてみると,前記のとおり,Bは,平成20年6月20日頃及び同月28日に,Aから本件取締役会に電話で出席できるようにする旨の返答を受けたことから,大阪営業所から携帯電話により本件取締役会に参加しようとしたものであり,Bに本件取締役会に出席する意思があったことは否定できないところである。 しかし,①Bは,本件取締役会が開催された同月29日及び本件取締役会当初予定されていた同月30日に具体的な予定はなく,福岡で開催される本件取締役会に出席することにつき特段の支障がなかったこと,②Bは,自ら本件取締役会のために福岡に赴く必要があるかどうかを2度にわたりAに尋ねているこ 月30日に具体的な予定はなく,福岡で開催される本件取締役会に出席することにつき特段の支障がなかったこと,②Bは,自ら本件取締役会のために福岡に赴く必要があるかどうかを2度にわたりAに尋ねていること,③原告の定款及び取締役会規程にはテレビ会議方式あるいは電話会議方式による取締役会の開催に関する定めがないこと,④原告では本件取締役会より前に電話会議方式による取締役会が開催されたことがなく,Bもこれを認識していたこと,⑤Bは,本件会議室にスピーカーフォンになる電話機があるかどうかを知らなかったことなどからすれば,Bは,Aの意見を踏まえつつも,本件取締役会の会場である本件会議室に赴くことなく電話で本件取締役会に参加することで足りると自ら判断したというべきである。そして,そうである以上,Bにおいて,携帯電話による参加で本件取締役会への適法な出席となる旨の正当な期待を有していたものと認めることはできない。 更に言えば,Bは,同月28日,被告Y2から重要な話があるから一緒に福岡に行って取締役会に参加するよう誘われたにもかかわらず,その誘いを断ったのであるから,Bは,福岡に赴いて本件取締役会に出席する機会が十分に確保されていたにもかかわらず,これを放棄したものと評価することができる。 他方,原告の定款及び取締役会規程には電話会議方式による取締役会の開催に関する定めがないことや,原告の取締役会において電話会議方式による取締役会の開催に関する取決めをしたなどの事情は認められないことからすると,原告において,Bのために,電話会議方式で取締役会に出席させるための手段を講じるべき法的義務があったということはできない。 ( ウ) 以上の事実関係からすれば,Bが本件取締役会に出席する機会を 不当に奪われたものとはいうことはできず,この点で本件取 めの手段を講じるべき法的義務があったということはできない。 ( ウ) 以上の事実関係からすれば,Bが本件取締役会に出席する機会を 不当に奪われたものとはいうことはできず,この点で本件取締役会に手続上の瑕疵があると判断することはできない。 更に言えば,前記のとおり,BがAに本件取締役会に出席するために福岡に赴いた方がよいか問い合わせたのに対し,Aは,電話で取締役会に出席できるようにする旨の返答をし,Bを大阪に留まらせていた。また,前記(1) オの認定事実に照らすと,Aは,本件取締役会当時,本件会議室にスピーカーフォンとしての機能を備えた電話器がないこと及びBが上記の機能を有しない本件固定電話を通して本件取締役会に参加しようとしていることを明確に認識した上で,本件取締役会を開催したものである。原告代表者であるAの上記のような事情に鑑みると,原告において,Bが本件取締役会に出席する機会を実質的に奪われたものとして,本件取締役会決議には手続上の瑕疵がある旨主張することが信義則上許されるのか,疑問なしとできないところである。 したがって,前記原告の主張は採用することができない。 ウそこで,以上の判断を前提に,各議案の決議の有効性につき,第1号議案から順次検討する。 ( ア) Aが特別利害関係人に当たるか。 a 代表取締役の解職に関する取締役会の決議について,当該代表取締役は,会社法369条2項にいう特別の利害関係を有する取締役に当たると解するのが相当である(最高裁判所昭和44年3月28日第二小法廷判決・民集23巻3号645頁参照)。そして,この理は,発行する全部の株式につき譲渡による株式の取得に株式会社の承認を必要とする旨を定めている会社においても異なるところはないというべきである。 b これに対し,原告は,いわゆ 照)。そして,この理は,発行する全部の株式につき譲渡による株式の取得に株式会社の承認を必要とする旨を定めている会社においても異なるところはないというべきである。 b これに対し,原告は,いわゆる閉鎖型の会社においては,取締役会の監督権限の行使というよりも業務執行を巡る二派の争いである場合 が多いから,代表取締役の解職決議について,当該代表取締役は特別利害関係に当たらないと解すべきであると主張する。 しかし,監督権限の行使か,業務執行を巡る二派の争いかは,実際には両方の要素を含んでいる場合が多く(本件もそうであると認められる。),両者を截然と区別することは困難であるし,閉鎖型の会社か否かでこれを区別することもできないというべきである。また,実質的な基準をもって特別利害関係か否かを判断することは,実際の場面における判断を困難にし,取締役会の運営を不安定にする可能性が高い。 そうすると,上記aのとおり解するのが相当であり,原告の主張する見解を採用することはできない。 c そこで,本件についてみると,Aは,第1号議案の解職の対象とされている代表取締役であるため,会社法369条2項にいう特別の利害関係を有する取締役に当たる。 したがって,Aは,第1号議案の議決に加わることができない。 ( イ) 審議不十分といえるか。 a 取締役会は会議体として意思決定を行う場であるから,取締役会において,取締役会の目的となっている議題ないし議案につき,各取締役が合理的な判断をするのに客観的に必要な範囲で,説明若しくは資料の提供がなされず,又は十分な審議がされないまま決議がなされた場合には,当該議題ないし議案に係る取締役会決議には手続上の瑕疵があると解するのが相当である。 b そこで,本件についてみると,被告Y1は,第1号議案を緊急動 十分な審議がされないまま決議がなされた場合には,当該議題ないし議案に係る取締役会決議には手続上の瑕疵があると解するのが相当である。 b そこで,本件についてみると,被告Y1は,第1号議案を緊急動議として上程した後,即時に採決を行ったことが認められる。 しかし,被告Y1が同議案を提出するまでの間に,①被告Y1が,原告の資金繰りが逼迫していること,原告が取締役会を開くことなく 多額の借財等を行っていること,及び原告が誤った試算表を銀行に提出していることなどを説明したこと,②C1監査役も,監査役による監査の結果としてこれらの問題があったことを指摘したこと,そして,③被告Y2が,Aに対し取締役会の開催を求めたが断わられた旨を説明したことは前記(1) のとおりである。そして,これらの説明等がいずれも内容虚偽の不当なものであるとは,証拠上認めるに足りない。 このように,第1号議案に関しては,同議案が上程されるまでの間に,Aの代表取締役の経営責任に関する事項が説明され,監査役からも判断資料の提供がなされた上で,実質的に審議されていたものと認められる。 そうすると,第1号議案については,採決時に,各取締役がAを代表取締役から解職するか否かを判断するのに客観的に必要な範囲で,各取締役に対して説明ないしその判断資料の提供がなされており,十分な審議が尽くされていたというべきである。 なお,前記アのとおり,Bが本件取締役会に出席したものとはいえないから,原告がBの出席を前提として主張する部分については判断するまでもない(以下,第2号議案ないし第4号議案に関しても同様である。)。 c したがって,第1号議案について,審議不十分による手続上の瑕疵を認めることはできず,これに反する原告の主張を採用することはできない。 ( ウ) 以上判示し 議案に関しても同様である。)。 c したがって,第1号議案について,審議不十分による手続上の瑕疵を認めることはできず,これに反する原告の主張を採用することはできない。 ( ウ) 以上判示したところに従って,第1号議案が有効に可決したかを検討すると,第1号議案の議決に加わることのできる取締役は,Aを除く取締役3名であり,そのうち2名(被告Y1及び被告Y2)が出席していることから,定足数に問題はない。そして,採決の結果,出席取締役2名が賛成していることが認められるから,第1号議案は有効に可決 されたものといえる。 エ第2号議案について( ア) 第1号議案の決議の無効の承継上記ウのとおり,第1号議案は有効に可決されたものといえるから,第1号議案の決議の無効が第2号議案に承継されるとの原告の主張は,その前提を欠くこととなり,採用の限りでない。 ( イ) 審議不十分といえるか。 a 本件において,被告Y1は,第2号議案を緊急動議として上程した後,直ちに採決を行ったことが認められる。 しかし,代表取締役の選定は,具体的な解職事由が問題となる代表取締役の解職の場面とは異なり,判断に必要な資料としては,対象者に代表取締役としての資質があるか否かなどが中心となるところ,被告Y1は平成19年11月21日から本件取締役会まで半年以上も原告の取締役の地位にあったのであるから,改めて説明及び判断資料を提供するまでもなく,他の取締役は被告Y1に原告の代表取締役としての資質があるか否かを合理的に判断できる状態にあり,かつ特段審議を要しなかったといえる。 b したがって,第2号議案について,審議不十分による手続上の瑕疵を認めることはできず,これに反する原告の主張を採用することはできない。 ( ウ) 以上判示したところに従って かったといえる。 b したがって,第2号議案について,審議不十分による手続上の瑕疵を認めることはできず,これに反する原告の主張を採用することはできない。 ( ウ) 以上判示したところに従って,第2号議案が有効に可決したかを検討すると,第2号議案の議決には取締役全員が加わることができるところ,そのうちBを除く3名が出席していることから,定足数に問題はない。そして,採決の結果,出席取締役2名(被告Y1及び被告Y2)が賛成していることが認められるから,第2号議案は有効に可決したものと認められる。 オ第3号議案について( ア) 審議不十分といえるか。 a 本件において,被告Y1は,第3号議案を緊急動議として上程した後,C1監査役から更生手続によることの実現可能性を尋ねられたことから,原告の置かれている状況を示しながら,更生手続の手法が原告の再建に適していることを説明しており,これに対して被告Y2が賛同したことが認められる。その後更にAらが説明を求めたり,異議を唱えたりしたような事実は本件証拠上認めるに足りない。 そして,被告Y1は,このような状況の下で,採決を行っていることが認められるところ,これに先立つ第1号議案の審議の際に原告の資金繰りについて説明がなされ,監査役からも判断資料が提供されていたことも踏まえれば,採決時において,各取締役が原告の更生手続開始の申立てをすべきか否かを判断するのに客観的に必要な範囲で説明ないしその判断資料の提供がなされたというべきであり,かつ審議が尽くされていたものといえる。 b したがって,第3号議案について,審議不十分による手続上の瑕疵が存するものと判断することはできず,これに反する原告の主張は採用できない。 ( イ) 以上判示したところに従って,第3号議案が有効に可決した て,第3号議案について,審議不十分による手続上の瑕疵が存するものと判断することはできず,これに反する原告の主張は採用できない。 ( イ) 以上判示したところに従って,第3号議案が有効に可決したかを検討すると,前記エ( ウ) と同様,定足数に問題はなく,採決の結果,出席取締役3名のうち2名(被告Y1及び被告Y2)が賛成していることが認められるから,第3号議案は有効に可決したものと認められる。 カ第4号議案について( ア) 審議不十分といえるか。 a 本件において,被告Y1は,第4号議案を緊急動議として上程した後,他の取締役に意見を諮ることなく,直ちに採決を行ったことが認 められる。 しかし,x1が原告の完全子会社であることは各取締役間で周知の事実であると考えられるところ,①原告がx1の管理組合からの預り金を原告の資金繰りに入れていることは先立つ第1号議案の審議の際に説明されていること,②x1が更生手続開始の申立てを行うためには,第1号議案及び第2号議案のようにAの影響力を排除する必要があること,及び③原告とx1が同時に更生手続開始の申立てを行うためには直ちにx1の臨時株主総会を開催することが必要であることは,いずれも各取締役において黙示のうちに明らかであったといえる。そして,上記の点等についてAら他の取締役が説明を求めたり,異議を唱えたりしたような形跡は,本件証拠上窺えない。 そうすると,採決時において,改めて説明及び判断資料を提供し,特段の審議をするまでもなく,各取締役は第4号議案の是非を合理的に判断できる状態にあったといえる。 b したがって,第4号議案について,各取締役が合理的な判断をするのに客観的に必要な範囲で,説明若しくは資料の提供がなされず,又は十分な審議がされないまま決議がなされたとはいえない ったといえる。 b したがって,第4号議案について,各取締役が合理的な判断をするのに客観的に必要な範囲で,説明若しくは資料の提供がなされず,又は十分な審議がされないまま決議がなされたとはいえないから,審議不十分による手続上の瑕疵があるとはいえず,これに反する原告の主張を採用することはできない。 ( イ) 以上判示したところに従って,第4号議案が有効に可決したかを検討すると,前記エ( ウ) と同様,定足数に問題はなく,採決の結果,出席取締役3名のうち2名(被告Y1及び被告Y2)が賛成していることが認められるから,第4号議案は有効に可決したものと認められる。 キまとめ以上のとおり,第1号議案から第4号議案までの各議案は,いずれも有効に決議され,議決権を有する出席取締役の過半数の賛成により承認可決 されたものといえる。 3 争点(3) (原告の更生手続開始原因の存否)について(1) 認定事実前記前提事実,証拠(各項掲記のほか,甲17,18,51,53,乙イ18,A,被告Y1,被告Y2)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。 ア原告の事業状況等( ア) R21福岡西新築工事請負契約の締結原告は,平成18年11月27日,Uとの間で,以下の約定で,R21福岡西新築工事請負契約を締結した。(甲5の1,甲38の1)工期着手平成18年12月11日完成平成20年 3月21日請負代金額 9億4500万円(消費税込み)支払条件 ①着工時 9000万円②上棟時 2億7000万円③引渡時 9000万円(現金)4億9500万円(90日約束手形)( イ) R21福岡東ザ・パーク新築工事請負契約の ②上棟時 2億7000万円③引渡時 9000万円(現金)4億9500万円(90日約束手形)( イ) R21福岡東ザ・パーク新築工事請負契約の締結原告は,平成18年12月14日,Tとの間で,以下の約定で,R21福岡東ザ・パーク新築工事請負契約を締結した。(甲5の1,甲37)工期着手平成18年12月15日完成平成20年 2月29日引渡時期完成日から20日以内請負代金額 14億8864万4850円(消費税込み)支払条件 ①着工時 1億5000万円 ②上棟時 2億円③引渡しから6か月経過時 11億3864万4850円ただし,原告は,マンション完成後,その購入者らの売買代金総額の70%の金額を,原告に売買代金が入金される都度,③の支払期日より繰り上げてTに支払う。 ( ウ) M1銀行からの借入れ原告は,平成19年12月18日,M1銀行から,弁済期平成20年6月30日,利息3.25%,遅延損害金年14%の約定で,4億円を借り受けた。(乙イ5)( エ) M2銀行からの借換え原告は,平成20年1月31日,M2銀行から,弁済期平成20年6月30日,利息年2.75%,遅延損害金年14%の約定で,4億7716万1500円を借り受け,大阪府堺市津久野におけるマンションの建設資金約1億2000万円の借換えを行った。(乙イ4,乙イ16の19頁,A209項ないし210項,281項)( オ) 株式会社M5銀行(以下「M5銀行」という。)に対する一括弁済原告は,平成20年3月26日,M5銀行に対し,借入金合計7億円(長期借入金4億7000万円,短期借入金2億3000万円。R2 ) 株式会社M5銀行(以下「M5銀行」という。)に対する一括弁済原告は,平成20年3月26日,M5銀行に対し,借入金合計7億円(長期借入金4億7000万円,短期借入金2億3000万円。R21福岡東ザ・パークに関するもの等)を一括弁済した。(乙イ16の51頁,A264項)( カ) Uとの代金支払等の変更合意原告は,平成20年3月28日,Uとの間で,前記( ア) の請負契約について,請負代金の支払及び物件の引渡しに関する契約内容を変更する旨の合意をした。(甲38の2ないし4)しかし,本件再生手続でUが届け出た原告に対する請負代金債権額は,8億7321万9386円に上り,Uはこの債権を担保するために,同社 が建築竣工した建物(R21福岡西)について商事留置権を行使している。 (乙イ13)( キ) 株式会社M6銀行(以下「M6銀行」という。)への一括弁済・M3からの借入れa 原告は,いわゆるノンバンクであるM3に対し,同社から融資を受ける目的で,平成20年4月17日付け資金繰り表(甲3の1)を提出した。 なお,同資金繰り表には,流動性現預金残高予定額が同月分約2億4800万円,同年5月分約4億9900万円と記載されていたが,実際の同残高の実績額を見ると,同年4月分が約3億3500万円,同年5月分が約1億8200万円であった。 (本項につき,甲3の1・2,A250項)b 原告は,平成20年4月30日,M6銀行に対し,長期借入金1億6700万円(R21博多駅南2丁目に関するもの)を一括弁済した。この弁済により,一時的に原告の普通預金残高が不足する事態が生じた。 なお,その当時,上記借入金債務の担保に供していたR21博多駅南2丁目の物件は,建設が遅れており,基礎工事を行っている段階にすぎなかった。 ( 一時的に原告の普通預金残高が不足する事態が生じた。 なお,その当時,上記借入金債務の担保に供していたR21博多駅南2丁目の物件は,建設が遅れており,基礎工事を行っている段階にすぎなかった。 (本項につき,乙イ16の81頁,A264項ないし270項)c 原告は,平成20年4月30日,M3から,弁済期同年8月28日,利息年6.5%,遅延損害金年21.9%の約定で,4億円を借り受け,この借入れにより,一時的に生じた上記預金残高不足が解消された。 なお,原告は,M3との間で,かかる借入れにおいて,R21福岡東ザ・パークの各区分所有建物が販売される毎に,M3に対して販売代金の60%を借入金の返済として支払う旨の合意をした。 原告は,同年4月30日,上記借入金債務を担保するため,Tが建築 したR21福岡東ザ・パークの建物について,原告を所有権者とする所有権保存登記をした上で,M3を抵当権者とする根抵当権を設定し,その登記手続を行った。 なお,Aは,これらの行為について,原告の取締役会の承認を得ていなかった(Aは,書面による決議を経ていた旨供述する(甲53)が,これを裏付ける証拠はなく,直ちに採用することはできない。)。 (本項につき,乙イ3,12,15,16の81頁・82頁,A215項ないし219項)( ク) Tによる請負代金請求等Tは,平成20年5月13日付けで,原告に対し,通知書と題する内容証明郵便を送付して,Tが所有する未販売の住戸62戸につき原告が所有権保存登記をした上でM3のために根抵当権設定登記をしたことから,原告が期限の利益を喪失したとして,請負残代金を直ちに支払うよう求め,直ちに支払がなされない場合は,民事訴訟提起の他,刑事告訴等の法的措置を取らざるを得ない旨を通知した。(乙イ9)本件再生手続でTが が期限の利益を喪失したとして,請負残代金を直ちに支払うよう求め,直ちに支払がなされない場合は,民事訴訟提起の他,刑事告訴等の法的措置を取らざるを得ない旨を通知した。(乙イ9)本件再生手続でTが届け出た原告に対する請負代金債権額は,7億7843万2194円に上り,Tはこの債権を担保するために,同社が建築竣工した建物(R21福岡東ザ・パーク)に民事留置権ないし商事留置権を行使している。(乙イ14)( ケ) 株式会社M7(以下「M7」という。)からの借入れ原告は,平成20年6月16日,M7から,運転資金として約8000万円を借り受けたが,Aは,この借受けについて,原告の取締役会の承認を得ていなかった。(乙イ16の123頁,A226項)( コ) M2銀行からの借換え原告は,平成20年6月25日,M2銀行から,原告の事業計画を提出するまでの猶予期間として,弁済期同年7月2日,利息年2.75%, 遅延損害金年14%の約定で,2億5000万円を借り受け,従前の借入金の借換えを行った。(乙イ4,A281項,被告Y2-35項)イ N証券株式会社(以下「N証券」という。)への株式公開コンサルタントの依頼及び報告( ア) 原告は,平成19年7月頃,N証券公開引受部に対し,原告のジャスダック証券取引所上場のためのコンサルタントを依頼した。(乙イ18資料8,A181項)( イ) 原告は,平成19年12月20付けで,N証券公開引受部から,「ジャスダック証券取引所上場のための内部管理体制整備に関する要改善事項について」と題する書面によって,原告のジャスダック証券取引所への上場申請直前までに,コーポレート・ガバナンス及び内部統制の構築に関する多岐にわたる整備・改善事項を満たす必要があり,その整備・改善のために相応の する書面によって,原告のジャスダック証券取引所への上場申請直前までに,コーポレート・ガバナンス及び内部統制の構築に関する多岐にわたる整備・改善事項を満たす必要があり,その整備・改善のために相応の時間を要すると考えられること,及び原告の事業の収益基盤が確立していないと思われることから,平成20年12月期を上場申請直前期とすることは困難である旨の報告を受けた。(乙イ18資料8,A183項ないし189項)ウ P監査法人による監査報告原告は,平成20年4月頃,P監査法人から,「長文式監査結果報告書」と題する書面により,財務諸表監査の結果報告を受けた。原告は,同報告において,平成19年12月期の利益計画が売上高81億4200万円,経常利益7億1000万円とされていたのに対して,同実績額が32億6800万円,経常利益2800万円だったことから,平成20年12月期に関する事業計画の合理性が担保されているとは言い難い状況にある旨の指摘を受けた。(乙イ18資料9の27頁,A201項,202項)エ Sの原告に対する敷金返還請求Sは,平成20年6月19日,原告に対し,敷金7500万円を返還す るよう求める旨の内容証明郵便を送付した。(乙イ6の2)オ平成20年6月27日時点のネットバンキングの設定状況原告は,平成20年6月27日,M8銀行のネットバンキングにおいて,同行の普通預金口座から関係業者及び管理組合等に対し,同月30日付けで合計6528万4835円を振り込む内容の設定をしていた。 なお,その当時,A以外の者が,M8銀行に対し,同ネットバンキングで設定された支払の実行を依頼することはできなかった。 (本項につき,甲60の1・2,乙イ18資料13,A419項,420項)カ原告の普通預金残高の推移原告の平成20年 同ネットバンキングで設定された支払の実行を依頼することはできなかった。 (本項につき,甲60の1・2,乙イ18資料13,A419項,420項)カ原告の普通預金残高の推移原告の平成20年1月31日の普通預金残高は約2億2400万円であったが,同年2月29日は約1億7100万円,同年3月31日は約1億3000万円と減少していった。同年4月30日の同残高は約3億6200万円と増加したが,これは同日のM3からの4億円の借入れによるところが大きい。そして,その後同年5月30日の同残高は約2億0300万円であり,平成20年6月30日開始時(同月27日終了時)における同残高は約4300万円まで減少していた。(乙イ16)(2) 事実認定に対する補足説明ア原告は,M1銀行からの借入金(平成20年6月30日に弁済期が到来する約4億円)については,同月上旬に口頭で期限変更が合意されていた旨主張するが,乙イ5によれば,M1銀行は当該債権につき弁済期を同月30日として債権届出をしていることが認められ,上記原告の主張はかかる事実と整合しない。 また,原告は,M1銀行が貸付金の担保として取っている別府二丁目の土地及び建物を売却することにより弁済ができた旨主張するが,同物件は,M4が第2順位の担保権者となっていたことが認められるところ(A40 8項),同日当時,任意売却をするに当たりM4からの承諾を得られることが確実であったような事情を認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告の上記主張はいずれも採用することができない。 イ次に,原告は,M2銀行からの借入金(平成20年6月30日に弁済期が到来する約4億7000万円の借入れ及び同年7月2日に弁済期が到来する2億5000万円の手形借入れ)については期限変更が見込まれていた旨主張す ,M2銀行からの借入金(平成20年6月30日に弁済期が到来する約4億7000万円の借入れ及び同年7月2日に弁済期が到来する2億5000万円の手形借入れ)については期限変更が見込まれていた旨主張する。 しかし,その前提として原告が主張する,建設の遅れにより分譲販売が遅れたような場合には返済時期も分譲時期と合わせて変更されるのが通常であるとの見解は,これを裏付けるような事情を認めるに足る証拠はない。 かえって,前記のとおり,原告がまだ基礎工事中であるにもかかわらずR21博多駅南2丁目の物件の借入金をM6銀行に一括弁済させられていることなどに鑑みれば,上記主張は,原告独自の見解をいうにすぎないものとみざるを得ない。 また,P監査法人から原告の作成する事業計画の合理性が担保されているとは言い難い状況にある旨指摘されていることからすると,仮に本件取締役会において事業計画を定める決議を行ったとしても,原告がM2銀行から確実に期限変更を受けられたとは認め難いといわざるを得ない。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 (3) 争点に対する判断ア原告は,平成20年6月30日当時,原告には更生手続開始原因が存在しなかった旨主張するところ,原告に更生手続開始原因が存在しなかったといえるためには,少なくとも「弁済期にある債務を弁済することとすれば,その事業の継続に著しい支障を来すおそれ」(会社更生法17条1項2号)さえ存しなかったといえることが必要である。 ここで,「弁済期にある債務を弁済することとすれば,その事業の継続 に著しい支障を来すおそれ」とは,客観的な支払能力が残っていたとしても,弁済期の到来した債務を弁済するとそれ以降の事業の継続に著しい支障を来す状態をいうものと解される。 イ本件についてみると,平成2 しい支障を来すおそれ」とは,客観的な支払能力が残っていたとしても,弁済期の到来した債務を弁済するとそれ以降の事業の継続に著しい支障を来す状態をいうものと解される。 イ本件についてみると,平成20年6月30日に,原告の負担する債務のうち,M1銀行及びM2銀行からの借入金債務だけで,少なくとも約8億7700万円の弁済期が到来したことが認められる。そして,同日当時,原告の普通預金残高は約4300万円しかなかったのであるから,原告が弁済期にある債務を弁済するためには,金融機関等から借入れを行ったり,原告が保有する財産を処分したりするなどして約8億3400万円の資金を調達する必要があったと認められる。 しかるに,①証拠(甲21の1・2,甲53)によれば,原告は無担保の不動産(博多駅南2丁目の2筆の土地)を有していたものの,その価値は3億円程度にすぎないこと,②原告は,同日当時,M3などのノンバンクからの借入れに頼るような状態であったこと,③同年7月2日には,2億5000万円の借入金の弁済期が到来する予定であったことなどが認められる。 以上の事実関係からすれば,原告が弁済期にある債務を弁済することとすれば,高金利の金融機関からの借入れや,商品であるマンション等の廉価販売などに頼らざるを得ず,弁済のために資金を調達すれば事業自体の継続に著しい支障を来すものであるとともに,今後弁済期の到来する債務の支払がより一層困難になり,その結果事業の継続に著しい支障を来すことになったであろうことも容易に推認できるところである。 したがって,原告において,平成20年6月30日の更生手続開始申立て当時,少なくとも「弁済期にある債務を弁済することとすれば,その事業の継続に著しい支障を来すおそれ」があったことは明らかである。 なお,原告は,資金繰り表( 平成20年6月30日の更生手続開始申立て当時,少なくとも「弁済期にある債務を弁済することとすれば,その事業の継続に著しい支障を来すおそれ」があったことは明らかである。 なお,原告は,資金繰り表(甲3の1・2)の策定をもって,更生手続 開始の原因がないと主張するが,上記資金繰り表は平成20年6月30日以前にM3からの融資を受けんがために作られた計画であり,同日時点における原告の資産状況ないし資金繰り見通しを正確に示したものではない(A248項ないし259項)から,上記資金繰り表の記載内容をもって更生手続開始の原因がない根拠とすることはできない。 ウ加えて,原告の再生手続において,L1監督委員が福岡地方裁判所に提出した意見書(甲24)で,原告が,更生手続開始の申立てをしなければならない原因がなかったとまではいえないとしていることも,看過することはできない。 エ以上より,その余の点を判断するまでもなく,原告には,平成20年6月30日の更生手続開始申立て当時,更生手続開始原因が存在していたものと認められる。これに反する原告の主張は,いずれも採用することができない。 4 争点(4) (被告Y1及び被告Y2の損害賠償責任の有無)について(1) 認定事実前記前提事実,証拠(各項掲記のほか,甲13,17,18,51ないし53,乙イ18,証人B,A,被告Y1,被告Y2)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。 ア被告Y2は,原告への入社前,D及びEと共に,株式会社Qに勤務しており,被告Y2が被告Y1及びDを誘って原告の株式公開に協力することとなった(なお,原告は,被告Y2やDが,株式会社Qの乗っ取りを企み,同社に損害を与えた旨主張するが,これを裏付ける客観的証拠はなく,かかる事実は証拠上認めるに足りない。) の株式公開に協力することとなった(なお,原告は,被告Y2やDが,株式会社Qの乗っ取りを企み,同社に損害を与えた旨主張するが,これを裏付ける客観的証拠はなく,かかる事実は証拠上認めるに足りない。)。 被告Y2は,平成17年1月17日から,O監査法人のGは,同年10月1日から,いずれも平成19年5月30日までの間,株式会社Qの取締役であった。 (本項につき,甲26,50)イ被告Y1は,前記のとおりAから一時原告への出社を差し止められていたが,平成20年6月中旬頃,Aから金融機関に提出する事業計画書を作成するよう指示されたため,再び原告に出社するようになった。被告Y1は,その後,原告の法的整理を考えて,被告Y3と相談を始め,被告Y3に対し,更生手続開始の申立てに必要な原告関係の書類を交付するなどして,更生手続開始の申立てへの準備を進めた。(被告Y1-118項,119項,222項ないし225項,355項,391項ないし393項)ウ被告Y3は,平成20年6月16日,Vホテル博多に対し,原告の債権者に対する説明会場として,同年7月4日午後0時から同4時まで,会議室を借りる旨の予約をした。(甲67)エ被告Y1は,被告Y3と共に,平成20年6月27日頃,福岡地方裁判所において,保全管理人候補者であるL2弁護士を交えて,原告の更生手続開始の申立てに関する打合せを行った。(被告Y1-409項ないし418項)オ本件取締役会閉会後,被告Y1及びDは,x1の臨時株主総会を開催し,A,I及びBを取締役から解任し,E及びFを取締役に選任する決議を行った。また,D,E及びFは,続けてx1の取締役会を開催し,Dの代表取締役選定,x1の更生手続開始の申立て及びx2の臨時株主総会招集決定の各決議を行った。(甲19の1・2)さらに する決議を行った。また,D,E及びFは,続けてx1の取締役会を開催し,Dの代表取締役選定,x1の更生手続開始の申立て及びx2の臨時株主総会招集決定の各決議を行った。(甲19の1・2)さらに,D及び被告Y1は,x2の臨時株主総会を開催し,Aの取締役解任及びDの取締役選任の各決議を行った。また,被告Y1,D及びHは,x2の取締役会を開催し,被告Y1の代表取締役選定及びx2の更生手続開始の申立ての各決議を行った。(甲20の1・2)カ被告Y1,被告Y2,C1監査役及びC2監査役は,本件取締役会議事録に,自らの記名の両脇2か所に押印したが,被告Y2は,自らの記名の 両脇2か所に押印する際,Aの記名の両脇2か所にY2名下の印鑑で押印し,印を少し回転させて再度押印した(甲4,Y2-56項)。このとき,監査役2名は,本件取締役会議事録の内容に特段の異議を述べなかった。 また,被告Y1は,本件取締役会議事録のBの記名の両脇2か所にB名下の印鑑で押印した(なお,B名下の印影がBの意思に基づかないことは,証拠上認めるに足りない。)。(甲4,被告Y1-148項)キ被告Y1は,平成20年6月30日,原告のM5銀行の預金口座から小口現金として200万円を出金したほか,被告Y3に対し,当初の相談からの一括報酬として,1000万円を支払った。(甲27,49,被告Y1-165項,166項,397項ないし402項)。 ク被告Y1は,平成20年7月11日当時,DIPファイナンスを利用するために,L2保全管理人の監督の下,金融機関と交渉していた。(乙イ17)(2) 争点に対する判断アまず,前記2及び3で説示したとおり,本件取締役会決議はいずれも有効に可決したものであること,更生手続開始の申立て当時,原告に更生手続開始原因が存在したこ 17)(2) 争点に対する判断アまず,前記2及び3で説示したとおり,本件取締役会決議はいずれも有効に可決したものであること,更生手続開始の申立て当時,原告に更生手続開始原因が存在したことが認められるから,本件取締役会決議が有効でないこと,原告に更生手続開始原因がないことを前提とする原告の各主張は,いずれも判断するまでもない。 イまた,本件取締役会議事録のBの押印が,被告Y1がBの意思に基づかずに押印したとは証拠上認めるに足りない。 さらに,Aの両脇にある押印も一見して印影が読み取れず,抹消のためにひねって押捺した旨の被告Y2の供述も併せて考慮すると,上記印影は存在しないのと同視し得るというべきである。そうすると,A名下には押印がないこととなるが,本件でAが議事録に押印を拒否したとしても議事録の効力に影響するものではない。また,Aは自己の複数印が原告社内に 保管されていることを認めており(A157項),被告Y1及び被告Y2が仮に議事録を偽造しようと考えたとすれば,これらA名の印章を入手し利用し得たものと考えられる。 したがって,本件証拠上,被告らにおいて本件取締役会議事録を偽造したものとは認めるに足りない。 以上より,被告Y1及び被告Y2が不当に作成された取締役会議事録をもって更生手続開始の申立てを行ったとする原告の主張は採用することができない。 なお,本件取締役会議事録は,Bが出席したものとして作成されている点で,実体に合致しないものといわざるを得ないが,平成20年6月30日当時,遠隔地取締役の電話会議方式による取締役会への出席の可否ないし要件について判示した最高裁判所の判例や公刊された裁判例等も特段見当たらず,確定した解釈は存在しなかったと考えられること,本件議事録への押印の際,監査役も特段の異議を る取締役会への出席の可否ないし要件について判示した最高裁判所の判例や公刊された裁判例等も特段見当たらず,確定した解釈は存在しなかったと考えられること,本件議事録への押印の際,監査役も特段の異議を述べなかったことからすれば,上記の点につき,被告らにおいて過失があったとまで判断することもできないというべきである。 ウ次に,原告は,少なくとも原告グループ会社が更生手続などの倒産手続に踏み切る必要がなかったことは明白で,被告Y1及び被告Y2の更生手続開始の申立てに至る行為が取締役としての忠実義務ないし善管注意義務に反すると主張する。 ( ア) ところで,会社が自ら倒産手続の申立てを行うか否かは,その当時の経営状態や財務状態等の事実関係を下に,取締役会の経営判断として行われるものであるから,その判断には一定の裁量があり,有効な取締役会決議に基づく申立てである限り,その裁量判断を尊重すべきである。 それゆえ,取締役が行った倒産手続の申立ては,当時の経営状態,財 務状態等の事実関係の下における判断が,一般的に期待される水準に照らして著しく不合理なものでない限り,取締役の善管注意義務ないし忠実義務に違反せず,不法行為も構成しないものと解するのが相当である。 ( イ) そこで本件についてみると,①前記3で説示したとおり,平成20年6月30日当時,原告には更生手続開始原因が存在していたこと,②原告がTに無断で所有権保存登記をしてM3に根抵当権設定登記をしたことから,Tとの間で対立状態が生じていたこと,③原告の作成する事業計画と実績額には乖離があり,事業計画の合理性が担保できない状況にあったことなどが認められる。 そして,これらの事実関係からすれば,被告Y1及び被告Y2において,当時の経営状態及び財務状態の下で,原告の更生手続開始 離があり,事業計画の合理性が担保できない状況にあったことなどが認められる。 そして,これらの事実関係からすれば,被告Y1及び被告Y2において,当時の経営状態及び財務状態の下で,原告の更生手続開始の申立てを行うべきと判断したことが著しく不合理であったとまでいうことはできない。 エさらに,原告は,被告らによる更生手続開始の申立てが不当な目的のもとになされた旨主張する。 本件において,前記(1) の事実関係からすると,被告ら,D及びEは,平成20年6月30日より半月以上前から,被告Y3と共に,更生手続開始の申立てを行うことについて打合せを行っていたものと推認される。 しかし,①前記3のとおり,同日当時,原告には更生手続開始原因が存在していたこと,②保全管理命令の発令がされると,更生会社の事業の経営及び財産の管理処分権が保全管理人に専属し(会社更生法32条1項),従前の取締役は保全管理人の指示に従うこととなること,③近時いわゆるDIP型更生手続として,従前の取締役が管財人となることができる場合があり(会社更生法67条3項参照),被告Y1もDIPファイナンスを利用しようと金融機関と交渉していたことからすると,その認識があったと窺えるものの,被告Y1及び被告Y2が同法67条3項の除外事由に当 たるか否かは更生手続開始の申立ての時点では不確実であったこと,及び④被告らが関係人説明会に出席したとしても,従前の取締役が保全管理人に協力すること自体は特段不自然な行動とはいえないことなどからすると,原告の指摘する事実をもって,直ちに被告Y1及び被告Y2が,専ら自らの利益を図る目的をもって更生手続開始を申し立てたものと判断することはできない。 したがって,原告グループ会社の更生手続開始申立てについて,被告らにおいて不当な目的があったと 被告Y2が,専ら自らの利益を図る目的をもって更生手続開始を申し立てたものと判断することはできない。 したがって,原告グループ会社の更生手続開始申立てについて,被告らにおいて不当な目的があったと認めることはできず,これに反する原告の主張を採用することができない。 オ以上より,被告Y1及び被告Y2は,原告に対し,会社法423条1項又は不法行為に基づく損害賠償責任を負わないというべきである。 5 争点(5) (被告Y3の損害賠償責任の有無)について(1) まず,前記2及び3で説示したとおり,本件取締役会決議はいずれも有効に可決したものであり,かつ,更生手続開始の申立て当時,原告に更生手続開始原因が存在したことが認められるから,本争点に関しても,本件取締役会決議が有効でないこと,原告に更生手続開始原因が存在しないことを前提とする原告の各主張はいずれも判断するまでもない。 (2) 次に,原告は,更生手続開始の申立てという決議内容の重大性と取締役会の構成から,被告Y3は,少なくともBの意思を直接確認するなどの対応を取る当然の義務があった旨主張する。 しかし,前記2で説示したとおり,Bは本件取締役会に出席していなかったものと認められ,Bの原告における職務内容,地位等に鑑みると,被告Y3において,善管注意義務の内容として,Bに更生手続開始の申立てに関する意思を確認すべき義務は存在せず,これに反する原告の主張を採用することはできない。 (3) さらに,原告は,更生手続開始の申立てが妥当でないような場合には, 取締役の指示に従うことは許されない旨主張する。 しかし,前記4で説示したとおり,被告Y1及び被告Y2が違法・不当な更生手続開始の申立てを行おうとしたものとは証拠上認めることはできないから,これを前提とする原告の主張を採 許されない旨主張する。 しかし,前記4で説示したとおり,被告Y1及び被告Y2が違法・不当な更生手続開始の申立てを行おうとしたものとは証拠上認めることはできないから,これを前提とする原告の主張を採用することはできない。 (4) 以上より,被告Y3は,原告に対し,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任を負わないというべきである。 第4 結論以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却すべきである。 よって,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官西井和徒 裁判官圓道至剛 裁判官佐藤丈宜 別紙要同意事項 1 再生計画認可決定確定まで(1) 再生債務者が所有する財産に係る権利の譲渡,担保権の設定,賃貸その他の一切の処分(ただし,商品の処分その他常務に属する財産の処分を除く。)(2) 再生債務者の有する債権について譲渡,担保権の設定その他の一切の処分(ただし,再生債務者による取立てを除く。)(3) 財産の譲受け(ただし,商品の仕入れその他常務に属する財産の譲受けを除く。)(4) 貸付け(手形割引を含む。)(5) 借財(ただし,小切手の振出及び商業手形の裏書譲渡を除く。),手形割引及び保証(6) 民事再生法49条1項の規定による契約の解除(7) 訴えの提起及び保全,調停,支払督促の申立てその他これに準ずるものとして裁判所が指定するものの申立て並びにこれらの取下げ(8) 和解及び仲裁契約(9) 会社財産の無償譲渡(ただし,社会的儀礼の範囲内のものを除く。),債務免除,無償の債務負担行為及び権利の放棄(10) 取戻権,共益債権及び一 らの取下げ(8) 和解及び仲裁契約(9) 会社財産の無償譲渡(ただし,社会的儀礼の範囲内のものを除く。),債務免除,無償の債務負担行為及び権利の放棄(10) 取戻権,共益債権及び一般優先債権の承認(11) 別除権の目的の受戻し(12) 民事再生法85条5項による許可申請をすること 2 再生計画認可決定確定後(1) 重要な財産の処分及び譲受け(ただし,常務に属する財産の処分及び譲受けを除く。)(2) 多額の借財及び保証(3) 重要な財産に関する訴えの提起(4) その他裁判所が指定する行為

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