平成14(わ)274 傷害,恐喝,暴行被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年6月25日 神戸地方裁判所
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判決文本文6,571 文字)

主文 被告人を懲役1年10月に処する。 未決勾留日数中270日をその刑に算入する。 訴訟費用は全部被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 平成14年2月23日午前零時12分ころ,普通乗用自動車を運転して神戸市a区b町c丁目d番e号所在のb保育園グランド南側路上にさしかかった際,同所において,原動機付自転車にまたがって携帯電話をかけていたA(当時26歳)を認めるや,同人からその所持品を喝取しようと企て,前記原動機付自転車に自車を横付けし,運転席の窓越しに同人に対し,「お前,何や。」などと因縁を付け,いきなりその顔面を手拳で数回殴打し,引き続き降車して,同人に対し,「バイクの鍵を出せ。」「免許証を出せ。」などとその所持品の交付方を要求し,同人の顔面を手拳で数回殴打するなどして同人を転倒させた上,その顔面等を足蹴にする暴行を加え,もし前記要求に応じなければ,さらに同人の身体等にいかなる危害を加えるかも知れない気勢を示して同人を脅迫し,その旨同人を畏怖させ,よって,即時同所において,同人から現金約2121円及び運転免許証等9点在中の財布1個,原動機付自転車のエンジンキー等の鍵束1束(時価合計約4万7000円相当)を喝取し,その際,前記暴行により,同人に対し,約5日間の加療を要する顔面打撲,頚部打撲の傷害を負わせた第2 同日午前零時25分ころ,同市a区f町d丁目c番g号先路上において,飲酒酩酊していた妻Bを介抱しながら歩いていたC(当時31歳)に対し,「その女何や。」などと因縁を付けた上,後方から同人の左脇腹を1回足蹴にする暴行を加えた第3 引き続き第2記載の日時ころ,同市a区f町d丁目c番d Bを介抱しながら歩いていたC(当時31歳)に対し,「その女何や。」などと因縁を付けた上,後方から同人の左脇腹を1回足蹴にする暴行を加えた第3 引き続き第2記載の日時ころ,同市a区f町d丁目c番d号h先路上において,前記Cに対する暴行を止めようとした前記B(当時27歳)に対し,その足に足払いをかけた上,その喉付近を押して仰向けに路上に転倒させ,その後頭部等を路上に打ち付けさせる暴行を加えた第4 Dと共謀の上,平成14年9月12日午前零時ころ,同市a区i町j丁目j番j号先路上において,先に同区内の飲食店で飲酒中に居合わせたE(当時46歳)及びF(当時34歳)の両名と顔を合わせた際,同人らから挑発的な態度を取られたとして立腹し, 1 被告人において,前記Fに対し,その顔面を手拳で数回殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に全治約1週間を要する顔面打撲症の傷害を負わせた 2 前記Dにおいて,前記Eに対し,その胸倉をつかみ,その身体をねじ伏せて路上に転倒させ,その頭部を路面に打ち付ける暴行を加え,よって,同人に加療4日間を要する前額部打撲挫創の傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)-括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号省略(弁護人の主張に対する判断)第1 弁護人の主張弁護人は,判示第1ないし第3の各事実について,被告人にはそれぞれ恐喝,傷害,暴行の故意がないから無罪である旨主張するとともに,被告人は,判示第1ないし第3の各犯行(以下「本件犯行」という。)当時,飲酒のため強度の酩酊状態にあって,一過性の病的酩酊あるいはこれに近い状態にあったものであり,被告人は理非善悪を弁別する能力及びその弁別に従って行動する能力を喪失した心神喪失の状態にあったから無罪である旨主張するところ,当裁判所は,前掲関係各証拠に るいはこれに近い状態にあったものであり,被告人は理非善悪を弁別する能力及びその弁別に従って行動する能力を喪失した心神喪失の状態にあったから無罪である旨主張するところ,当裁判所は,前掲関係各証拠によれば,被告人にはそれぞれ恐喝,傷害,暴行の故意のあることが優に認められるし,被告人は本件犯行当時心神喪失あるいは心神耗弱の状態になかったものと優に認めることができると判断したのであるが,その理由につき,若干補足する。 第2 判断 1 本件犯行の故意についてこの点に関する弁護人の主張は必ずしも明確ではないけれども,要するに,被告人は強度の酩酊状態にあったから,被告人には各犯行の故意がない,殊に判示第1の所為中恐喝罪については,被告人に被害者から財物を喝取する意思は全くなかったというのであるが,判示第1の所為中傷害の事実及び同第2,第3の各暴行の事実については,被告人が判示第1ないし第3の各暴行に及んだこと自体は被告人,弁護人においても争っていないのであって,後記のとおり,被告人に責任能力が認められる本件にあっては,各客観的犯罪事実に対応する認識が被告人にあったことは疑いの余地がない。被告人は,本件犯行時の記憶が全くない,これを想起できないというのであるが,そのことは,前記結論を左右するものではない。 さらに,判示第1の所為中恐喝罪について検討すると,弁護人は,被告人は被害者に対し,免許証を出せと要求したところ,被害者が免許証を出すのに手間取ったため苛立って暴行に及んだだけであって,財物の交付に向けた暴行ではなかった旨主張するごとくであるが,前掲関係各証拠によれば,判示b保育園グランド南側路上において,被告人は,被害者がまたがっていた原動機付自転車に自車を横付けし,運転席の窓越しに同人に対し,「お前,何や。」などと因縁を付け,いきな ,前掲関係各証拠によれば,判示b保育園グランド南側路上において,被告人は,被害者がまたがっていた原動機付自転車に自車を横付けし,運転席の窓越しに同人に対し,「お前,何や。」などと因縁を付け,いきなりその顔面を手拳で数回殴打し,その胸倉を掴んで引き寄せ,「免許証を出せ。」と申し向けたこと,引き続き被告人は降車して背中のリュックサック内の免許証を探している被害者に対し,「バイクの鍵を出せ。」と申し向けたため,恐くなった被害者がバイクの鍵束をキーボックスから抜くと,被告人はこれを取って自車の中に投げ入れたこと,さらに被告人は,「免許証を出せ。」と再び申し向けて,被害者の胸倉を掴んで車の後方へ連れて行き,被害者の顔面を手拳で数回殴打するなどして同人を転倒させ,その顔面等を足蹴にする暴行を加えたこと,被害者は前記リュックサック内から免許証の入った財布を取りだし,免許証を渡そうとしたところ,被告人が財布ごとこれを取り上げたことが認められるのであって,このような事実経過は被告人,弁護人においても格別争っていない。そうすると,その目的が何であったかはともかくも,被告人が被害者に対していきなり暴行脅迫を加えて免許証等の交付を要求しこれを交付させたことは優に認められるのであって,被告人に恐喝の意図は全くなく,被告人には恐喝の故意がない旨の弁護人の主張は理由がない。 以上のとおり,前掲関係各証拠によれば,判示第1ないし第3の事実は,その故意の点を含め,それぞれ優に認められる。弁護人の主張は理由がない。 2 責任能力について証人医師Gの当公判廷における供述及び同人作成の鑑定書(以下「G鑑定」という。)によれば,同鑑定人は,①被告人に対する飲酒試験の結果によると,被告人はアルコール耐性が強く,多量の飲酒が可能で高いアルコール血中濃度でも異常な る供述及び同人作成の鑑定書(以下「G鑑定」という。)によれば,同鑑定人は,①被告人に対する飲酒試験の結果によると,被告人はアルコール耐性が強く,多量の飲酒が可能で高いアルコール血中濃度でも異常な行動は示さず,アルコール血中濃度と関連する健忘を伴った酩酊が認められ,その際,ごく軽度の気分変調はあったが抑制可能であった,②被告人はアルコール飲料の常用者であり,毎日の飲酒量は多量であったが,昼間は鳶職として稼働できたし,アルコール離脱症状はなく,幻覚妄想等の慢性アルコール中毒症状は認められない,③本件犯行当時,被告人は,飲酒のため,中等度ないし高度の単純酩酊の状態にあり,全健忘と部分健忘が存在していた,④従って,被告人は酩酊下における判断力の著しい低下や気分の変調の下で本件犯行に及んだものと認められるが,その酩酊には異常な所見は認められず,被告人の事物の理非善悪を弁識する能力とこれに従って行動する能力の減退は軽度であったと考えられる旨鑑定している。 関係証拠によれば,被告人はもともとちょっとしたことで腹をたてて怒り物に当たったりすることがあり,18歳位から飲酒するようになったが,相当量飲酒するとちょっとしたことで苛々して不機嫌になることも珍しくなかったこと,被告人は,本件犯行の前日午後8時ころから午後10時ころまでJRk駅南側の居酒屋「H」で友人ら5名で飲酒し,中ジョッキ3杯のビール,梅割り焼酎3,4杯を飲んだこと,その後神戸市l区所在のスナック「I」で飲酒し,梅割り焼酎7杯位を飲んだこと,同日午後11時半ころ同所を出て,友人の車で前記居酒屋「H」前まで送ってもらい,同所で友人らと別れて,JRk駅南ロータリーから被告人の使用していた車(ハイエース)を運転して自宅に向かったこと,以上の事実が認められる。そして,被告人の供述によれば, 「H」前まで送ってもらい,同所で友人らと別れて,JRk駅南ロータリーから被告人の使用していた車(ハイエース)を運転して自宅に向かったこと,以上の事実が認められる。そして,被告人の供述によれば,自車で自宅に向かったころからほとんど記憶がなく,その後の記憶としては,以前「J」があった場所の東側にある北行き一方通行道路にハイエースを止めたこと,その近くで男たちに地面に倒され額を打ち付け,顔を殴られたこと,その辺をうろついたこと,ハイエースのそばに行ったが男たちがいたので危険を感じそのままマンションまで徒歩で帰ったこと程度の記憶しかないというのであり,また,被告人の供述によれば,酒癖が悪く,些細なことに腹が立ち,最近はすぐにキレることがよくあった旨を自認するほか,飲酒後,飲酒時の記憶が途中から飛んだり,気が付いたら家にいたということも多いというのである。 そこで,本件犯行当時の被告人の責任能力について検討すると,被告人は,本件犯行前の約4時間の間に中ジョッキ3杯のビールと梅割り焼酎10,11杯位を飲酒していたとはいうものの,通常の飲酒量に比べ格別多量の飲酒をしていたとはいえないことや,犯行直前まで同行していた友人等の供述によっても,被告人は「少し酔っているかな。」と感じさせる程度の状態であって特に変わった様子は認められなかったのであり,本件犯行前後においても前記ハイエースを運転走行していたのであって,その他前認定の犯行に至る経緯や各被害者らの供述により認められる本件犯行時における被告人の言動に照らしても,被告人の本件犯行当時の精神状態ないし行動は,前認定の被告人の日常の人格や行動様式と対比して,十分に了解可能であって,同一性を保っており,著しく異常な行動であるとは到底認めがたく,「被告人は酩酊下における判断力の著しい低下や気分の変調 動は,前認定の被告人の日常の人格や行動様式と対比して,十分に了解可能であって,同一性を保っており,著しく異常な行動であるとは到底認めがたく,「被告人は酩酊下における判断力の著しい低下や気分の変調の下で本件犯行に及んだものと認められるが,その酩酊には異常な所見は認められず,被告人の事物の理非善悪を弁識する能力とこれに従って行動する能力の減退は軽度であったと考えられる。」旨のG鑑定は,専門家の合理的見解として首肯すべきものである。 弁護人は,被告人に本件犯行当時の記憶が全くないことを強調し,その責任能力がない旨主張するところ,本件犯行についてのみ全く記憶がないとする被告人の供述に誇張がないものかどうかはしばらくおくとして,被告人に本件犯行について記憶を想起できない部分のあることは事実と認められるけれども,G鑑定が指摘するように,被告人については病的酩酊は明確に否定できるのであり,被告人の主張する健忘は,中等度ないし高度の単純酩酊の状態により生じた健忘と判断できるのであって,本件犯行当時の責任能力の判断を左右するものではない。 以上のとおり,被告人は,本件犯行当時,その事理弁識能力及びこれに従って行為する能力が著しく減退した常態になかったものと認められるのであって,心神喪失あるいは心神耗弱の状態になかったものと優に認めることができる。弁護人の主張は理由がない。 (法令の適用)罰条第1の所為中,傷害の点刑法204条恐喝の点同法249条1項第2及び第3 各同法208条第4の1,2 各同法60条,204条科刑上1罪刑法54条1項前段,10条(第1につき,犯情の重い恐喝罪の刑で処断)刑種の選択各懲役刑選択(第 08条第4の1,2 各同法60条,204条科刑上1罪刑法54条1項前段,10条(第1につき,犯情の重い恐喝罪の刑で処断)刑種の選択各懲役刑選択(第2,第3,第4の1,2につき)併合罪加重刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第4の1の罪の刑に法定の加重)宣告刑懲役1年10月未決勾留刑法21条(270日算入)訴訟費用刑事訴訟法181条1項本文(全部負担させる。)(量刑の理由)本件は,被告人が,判示第1の被害者に対し暴行脅迫を加え同人から現金や運転免許証等在中の財布等を交付させ,その際,被害者に傷害を負わせた恐喝・傷害の事案(第1),その10数分後,判示第2及び第3の被害者に対しそれぞれ暴行を加えた各暴行の事案(第2,第3),共犯者と共謀の上,被告人において判示第4の1の被害者に対し,共犯者において同第4の2の被害者に対し,それぞれ暴行を加えて傷害を負わせた各傷害の事案(第4の1,2)であるが,被告人は,平成11年4月13日神戸地方裁判所で逮捕,監禁,強姦,強姦未遂の各罪により懲役3年(5年間刑の執行猶予,保護観察付)に処せられたものであり,その保護観察付執行猶予中の身であったにもかかわらず,また,平成14年2月7日,道路交通法違反(酒気帯び運転),暴行の各罪により神戸簡易裁判所で罰金20万円の略式命令に処せられた(なお,犯行日はいずれも平成13年8月23日)にもかかわらず,またもや,懲りることなく,いずれも飲酒の上,第1ないし第3の各犯行については前記罰金の略式命令がなされて1か月も経ずして,粗暴な各犯行に及んだものであって,その各犯行の動機に斟酌すべき事情は認められず,いずれの犯行も酔うと粗暴な行為に及ぶ被告人の日常の人格態度の現れ ては前記罰金の略式命令がなされて1か月も経ずして,粗暴な各犯行に及んだものであって,その各犯行の動機に斟酌すべき事情は認められず,いずれの犯行も酔うと粗暴な行為に及ぶ被告人の日常の人格態度の現れともいうべき悪質な犯行であり,ことに第4の各犯行は,第1ないし第3の犯行により公判中であった被告人が,飲酒をしないことを条件に保釈されたその保釈中に,またしても飲酒の上同種の犯行に及んだものであって,被告人の規範意識の乏しさは深刻な状態にあったというべきであって,厳しい非難に値すること等に徴すると,被告人の刑事責任は相当に重いというべきであるが,第1の被害者に対し解決金として6万円を支払って示談し,第1の被害者は厳罰処分の意思を撤回したこと,第2及び第3の被害者両名に対し合計金5万円を解決金として支払ったこと,実父が社会復帰後の指導監督を約していること,前記の執行猶予が取り消され合わせて服役すべきこと,被告人は前記保釈が取り消された後は真摯な反省の態度を示していること等被告人のために酌むべき事情も十分に考慮した上,主文のとおり量定した次第である。 よって,主文のとおり判決する。 平成15年6月25日神戸地方裁判所第11刑事係甲 裁判官杉森研二

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