平成14(ワ)48 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成14年12月19日 広島地方裁判所 尾道支部
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判決文本文7,936 文字)

主文 1 被告は,原告らに対し,それぞれ1892万0103円及びこれに対する平成14年9月5日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告らの,その余を被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び争点第1 請求の趣旨 1 被告は,原告らに対し,それぞれ2848万3710円及びこれに対する平成14年9月5日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は,被告の負担とする。 3 仮執行宣言第2 主張 1 事案の概要等原告らは,その子である被害者が道路を横断しようとしたところ,被告運転の直進車両に衝突されて死亡したので,子の損害賠償請求権を相続し,また原告らも固有の精神的損害を被ったとして,被告に対し,その損害賠償を求めた事案である。 2 争いのない事実等(1) 被告が,平成13年3月4日午後1時30分ころ,業務として普通乗用自動車(以下「被告車」という。)を運転して,広島県因島市D町a番地b先道路をE町方面からC町方面に向かい,時速約50ないし60キロメートルで進行中,前方約62.6メートル先に道路を左方から右方に向かう横断者を認めた後も,漫然とその速度で進行し,折から前方に36.8メートル先の道路左側歩道上に亡丙(当時5歳,以下「亡丙」という。)が右方を向いて佇立しているのを認めたのであるから,直ちに減速徐行して同人の動静を十分注視し,その安全を確認すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,同人の動静を十分注視することなく,上記速度で進行した過失 て佇立しているのを認めたのであるから,直ちに減速徐行して同人の動静を十分注視し,その安全を確認すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,同人の動静を十分注視することなく,上記速度で進行した過失により,折から進路前方を左方から右方に向かって歩いて横断中の亡丙を前方約7.5メートルに至って認め,急制動の措置を講じたが間に合わず,自車左前部を同人に衝突させて,路上に転倒させ,よって,同人をして,同日午後3時3分ころ,同市F町c番地所在の日立造船健康保険組合因島総合病院において,脳挫傷,頭蓋骨骨折により死亡するに至らせたものである(甲10)。 (2) 亡丙の法定相続人として,両親である原告らが亡丙の損害賠償請求権を相続した(3) 原告らは,平成14年9月5日,自賠責保険金3000万2400円を受領した。 3 争点(1) 事故態様と過失相殺割合ア原告ら(ア) 被告は,幼児である亡丙が被告車の進路である道路左側に佇立しているのを認めたのであるから,亡丙が道路の左右の車両等の通行に注意をせず,横断する危険を十分察知できる状況にありながら,警笛を鳴らすことなく,漫然と法定速度を超える速度で進行したものである。 また,亡丙は道路に飛び出したのではなく,歩いて反対側に横断しようとしたのであり,被告が十分前方を注視し,減速の措置をとっていれば絶対に回避できた事故である。 このように,被告は,亡丙に衝突する直前までその動静に十分注意を払わず,徐行等の事故回避措置をとることなく漫然と進行した安全確認義務違反の過失により惹起されたものであり,衝突するまで急制動の措置を取らなかったものである。 被告は民法709条により後記損害賠償責任を負う。 (イ) また, 行した安全確認義務違反の過失により惹起されたものであり,衝突するまで急制動の措置を取らなかったものである。 被告は民法709条により後記損害賠償責任を負う。 (イ) また,原告乙はAパチンコ店の南方向にあるBマンション(原告方居宅)付近入口で,亡丙の姿が見えなかったので2度大声で呼んだところ,亡丙は,原告乙の声が聞こえたので,原告甲と一緒に入っていたラーメン店を出て,原告乙に所在を知らせに行こうとしたものであり,原告乙は亡丙の所在を全く知らずにいたのであり,道路の反対側から亡丙を呼んだことはない。 イ被告亡丙は,行動が落ち着かず,不規則な挙動をする子供であった。 原告甲は,亡丙とラーメンを食べている途中に,横にいた亡丙がいなくなったことに気付きながら,外に探しに行かなかった。 原告乙は,道路反対側に佇立している亡丙を認めながらも,同人を呼んだため,亡丙が被告車の直前に飛び出した。 (2) 損害額ア治療費 9万0915円(既払い)イ入院雑費 1300円ウ文書料 1000円エ逸失利益(原告ら) 4867万4095円亡丙は,死亡時5歳で,平成12年賃金センサス男子労働者学歴計全年齢平均賃金額(以下「平均賃金額」という。)は,560万6000円であり,67歳までの残存稼働可能年数は62年であり,その62年間の年3パーセントのライプニッツ係数28.00から就労始期である18歳までの13年間の同係数10.635を引いた数値は17.365である。 年3パーセントのライプニッツ係数を採用 62年間の年3パーセントのライプニッツ係数28.00から就労始期である18歳までの13年間の同係数10.635を引いた数値は17.365である。 年3パーセントのライプニッツ係数を採用するのは次の理由による。 超低金利の時代においては,年5パーセントのライプニッツ係数を採用するのは経済実態に合致しないし,遅延損害金の法定利率が年5パーセントであることも中間利息控除の法的根拠になるとは言えない。10年もの長期国債の利率が2パーセントを超えたこともなく,当面金利が上昇することは期待できないのであるから,10年を超える期間についての予想される運用利率は3パーセントと見るのが妥当であり,年5パーセントの複利計算による中間利息の控除を認めるのは違法と言うほかない。 生活費控除率は50パーセントである。 560万6000円×17.365×0.5=4867万4095円オ死亡慰謝料 2200万円亡丙は,人生の緒についたばかりでその命を失ったもので,亡丙の死亡による精神的損害を慰謝するに足りる慰謝料額としては2200万円が相当である。 カ原告ら固有の慰謝料各自150万円亡丙は,原告らの一粒種であり,亡丙を失った原告らの嘆きは大きい。亡丙死亡による精神的損害を慰謝するに足りる慰謝料額としては原告1人当たり150万円が相当である。 キ葬儀費用 120万円亡丙の葬儀費用などに120万円以上を要した。 ク損害填補各自1504万6658円治療費9万0915円は既に支払済みである。 原告らは,自賠責保険より各自1500万 20万円以上を要した。 ク損害填補各自1504万6658円治療費9万0915円は既に支払済みである。 原告らは,自賠責保険より各自1500万1200円を受領した。 その充当は事故日である平成13年3月4日以降平成14年9月4日までの遅延損害金304万6713円に充当されるべきである。 ケ弁護士費用各自300万円原告らは,本件損害賠償請求に当たり原告ら代理人弁護士に依頼せざるを得なかった。その弁護士費用としては各自300万円を下らない。 理由 1 証拠(甲1ないし12,13の1ないし6,乙1,原告乙,被告)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1)ア被告が,平成13年3月4日午後1時30分ころ,業務として普通乗用自動車(以下「被告車」という。)を運転して,広島県因島市D町a番地b先道路をE町方面からC町方面に向かい,制限速度は時速40キロメートルであるのに時速約50ないし60キロメートルで進行中,前方約62.6メートル先に道路を左方から右方に向かう横断者を認めた後も,漫然とその速度で進行し,折から前方に36.8メートル先の道路左側歩道上に亡丙が右方を向いて佇立しているのを認めたのであるから,直ちに減速徐行して亡丙の動静を十分注視し,その安全を確認すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,同人の動静を十分注視することなく,上記速度で進行した過失により,折から進路前方を左方から右方に向かって歩いて横断中の亡丙を前方約7.5メートルに至って認め,急制動の措置を講じたが間に合わず,自車左前部を同人に衝突させて,路上に転倒させ,よって,同人をして,同日午後3時3分ころ,同市F町c番地 て歩いて横断中の亡丙を前方約7.5メートルに至って認め,急制動の措置を講じたが間に合わず,自車左前部を同人に衝突させて,路上に転倒させ,よって,同人をして,同日午後3時3分ころ,同市F町c番地所在の日立造船健康保険組合因島総合病院において,脳挫傷,頭蓋骨骨折により死亡するに至らせたものである(甲10)。 イ亡丙が原告甲とラーメン店にいて,ラーメンを注文したところ,原告乙がAパチンコ店の南方向にあるBマンション(原告方居宅)付近入口で,亡丙の姿が見えなかったので2度大声で呼んだが,亡丙は,母の声が聞こえたので,原告甲と一緒に入っていたラーメン店を出て,母原告乙に所在を知らせに行こうとして道路を横断しようとしたものであった。 ウ亡丙は,因島市中庄幼稚園において幼児教育を受けていたが,多動の傾向が見られ,集団生活を送ることが困難であったけれども,因島市中庄幼稚園が臨時教員を配置するなどして,同幼稚園において,他の子とともに基本的な生活習慣を身につけさせるなどの教育を受けていた。 (2) 上記認定の事実によると,被告は,亡丙が道路に佇立して,道路を横断しようとして道路の方を向いていたのであるから,その動向を注視すると同時に速度を適宜減速するなどすべきはむろん,場合によっては警笛を鳴らすなどすべきであったと言うべきであり,被告に過失があったことは明らかである。 そして,亡丙が原告甲とラーメン店にいたところ,原告乙が亡丙を大声で呼び,そこで,亡丙が一人でラーメン店を出て,原告乙を探しに行ったのであるから,原告乙が亡丙の安全を確認しないまま大声で呼び,また原告甲が不用意に亡丙から目を離し一人にしたことが,本件事故の一因となったことは否定できず,その落ち度を無視することはできない。 以上によると,亡丙側の落ち度と被告の過失 いまま大声で呼び,また原告甲が不用意に亡丙から目を離し一人にしたことが,本件事故の一因となったことは否定できず,その落ち度を無視することはできない。 以上によると,亡丙側の落ち度と被告の過失割合は2割と8割であると認めることができる。 2(1)  損害額については次のとおりである。 ア治療費 9万0915円(弁論の全趣旨)イ入院雑費 1300円(同)ウ文書料 1000円(同)エ逸失利益 4867万4095円(ア) 亡丙は,死亡時5歳で,平成12年の平均賃金額は,560万6000円であり,67歳までの残存稼働可能年数は62年であり,その62年間の年3パーセントのライプニッツ係数28.00から就労始期である18歳までの13年間の同係数10.635を引いた数値は17.365である。 生活費控除率は50パーセントである。 560万6000円×17.365×0.5=4867万4095円(イ) 上記逸失利益の計算に年5パーセントのライプニッツ係数を採用することは不合理であるから年3パーセントのライプニッツ係数を採用すべきである。その理由は次のとおりである。 ① 逸失利益の問題は,本来的には,将来得られるはずの賃金など所得の回復が問題であり,名目の金額ではなく,その実質上の購買力に確保されることが必要であり,現在の平均収入に稼働可能年数を乗じてさらに中間利息を控除するだけではなく,長期的には将来の地価や物価の変動などの傾向を考慮に入れるべきもので なく,その実質上の購買力に確保されることが必要であり,現在の平均収入に稼働可能年数を乗じてさらに中間利息を控除するだけではなく,長期的には将来の地価や物価の変動などの傾向を考慮に入れるべきものである。 しかし,従前の実務上,将来の得られるはずの賃金等の所得について,現在得られる損害賠償金から運用益が控除されることになるのであるが,経済状況がインフレでもなく,デフレでもないとして,年5パーセントの運用益があるものと擬制して,そのライプニッツ係数を乗ずることになるものと理解されてきた。 そして,経済がインフレの状況にあっても,銀行の預金金利や金融商品の表面金利の利率も年5パーセント程度で,地価や物価の上昇もこれを大きく上回らないときには,被害者においても賠償金を年5パーセントの利率で運用することが容易で可能であり,年5パーセントとしてライプニッツ係数を乗じて,運用益を控除することも一定の合理性があると解されていた。 しかし,インフレ率が高くなってくると,表面金利の利率から地価や物価の上昇率を差し引いた実質上の金利の利率は表面金利の利率よりも低く,むしろゼロないしマイナスとなり,しかもその時代が長く続いたのである。 その時代には,実は,将来得られる逸失利益の総額から年5パーセントのライプニッツ係数で中間利息を控除すると,実質上の金利の利率はゼロか,マイナスであるから,銀行金利の利率や金融商品などの名目利率では年5パーセントで運用できることになるものの,実質上の金利の利率は低く,実質上の運用益は得られておらず,結果的には地価や物価の上昇率に及ばないことが多く,被害者の受け取る賠償金の実質的購買力はむしろ減少していることになって,仮に被害者が現実に稼働したとして得る賃金等の名目所得の方が高く,実質的 らず,結果的には地価や物価の上昇率に及ばないことが多く,被害者の受け取る賠償金の実質的購買力はむしろ減少していることになって,仮に被害者が現実に稼働したとして得る賃金等の名目所得の方が高く,実質的購買力もあったということがほとんどの事例であったのである。 ② 逆に経済全体がデフレ下にあると,地価や物価が下落し,銀行の預金金利や金融商品等の表面金利の利率は低くなってはいるが,地価や物価の下落を考慮に入れると,実質上の金利の利率はインフレ時代よりもむしろ高くなっているのであり,将来の地価や物価の下落を考慮すると,デフレ経済が長期的に続くと仮定した場合には,現在の平均収入等に稼働可能年数を乗じて年5パーセントのライプニッツ係数により中間利息を控除した賠償金の方が,被害者が現実に働いて得られる名目の所得の総額より,あるいは実質的な購買力の点においても高額になるようなことも想定されないわけではない。 要するに,原告らの主張は,現在はデフレ経済の下では表面金利の利率は年5パーセントに及ばない低金利であり,年5パーセントの運用益を得ることが困難であるというのであるけれども,将来の地価や物価の変動を考慮に入れず,表面利率だけを問題にしても合理性がある議論とは言えない。 ③ 以上によると,現在の平均収入に稼働可能年数を乗じ,さらに年何パーセントのライプニッツ係数を乗じて運用益を控除すべきかについては,地価や物価の変動を考慮した実質購買力を維持する観点から,原則として予測される実質上の金利の利率によるべきであり,少なくともこれを考慮に入れるべきものと考えられる。そして,本件のように年少者の場合には稼働可能年数期間が長期に及ぶことから,特にその必要があると言わざるを得ない。 証拠(甲13の1ないし6)及び弁論の全趣旨によ るべきものと考えられる。そして,本件のように年少者の場合には稼働可能年数期間が長期に及ぶことから,特にその必要があると言わざるを得ない。 証拠(甲13の1ないし6)及び弁論の全趣旨により認められる現在のデフレ経済下における地価や物価の動向,預金金利や国債などの表面金利の利率動向などを考慮に入れて,長期間にわたっての実質上の金利の利率を予測すると,表面金利の予測や地価や物価の下落傾向も相当の期間に継続すると考えられ,この間年5パーセントの実質上の金利を予測し,これを運用益とするのは高きに失して不合理であって,原告の主張する年3パーセントの利率は,少なくとも実質上の金利の利率の予測を考慮に入れた控えめで合理的な利率と認められる。 ④ なお,民法等の遅延損害金等の利率が年5パーセントとなっているのは,法が期間的には比較的短期の決済を考えていて,インフレやデフレの経済状況を念頭に置かないで,公平の観点からの運用益を擬制しているものと解されるのに対して,逸失利益はあくまでも被害者が損害を受ける前と後で差がないように実質的購買力を確保することが問題なのであり,実際の経済の中で論ずる必要があるし,さらに短期ではなく,長中期にわたる場合も多いのであるから,これを基準とすることに合理性はない。 オ死亡慰謝料 2200万円上記認定の事実によると,亡丙は,人生の緒についたばかりにその命を失ったもので,亡丙の死亡による精神的損害を慰謝するに足りる慰謝料額としては2200万円が相当である。 カ原告ら固有の慰謝料 200万円亡丙は,原告らの一粒種であり,亡丙を失った原告らの嘆きは大きい(原告乙)。亡丙死亡による精神的損害を慰謝するに足りる慰謝料額としては原告1人当たり100 謝料 200万円亡丙は,原告らの一粒種であり,亡丙を失った原告らの嘆きは大きい(原告乙)。亡丙死亡による精神的損害を慰謝するに足りる慰謝料額としては原告1人当たり100万円が相当である。 キ葬儀費用 120万円弁論の全趣旨により亡丙の葬儀費用などに120万円以上を要したと認めることができる。 (2) 上記認定のとおり,亡丙の損害及び原告らの固有の損害の合計額は,7396万7310円であり,その2割を過失相殺すべきところ,過失相殺後の損害額は5917万3848円となる。 (3) 損害填補 3009万3315円治療費9万0915円は既に支払済みである。 その充当は過失相殺後の損害額5917万3848円に,後記認定の弁護士費用を入れ,その額に年5パーセントの割合による遅延損害金として平成13年3月4日以降平成14年9月4日までの550日を乗じ,それを365日で割った額が475万9673円となるから,まずこれに充当し,原告らの受領額3000万2400円からそれを控除した額は2524万2727円となり,それと上記既払額9万0915円との合計額2533万3642円を上記損害額5917万3848円から控除した額は3384万0206円となる。 (4) 弁護士費用 400万円原告らは,本件損害賠償請求に当たり原告ら代理人弁護士に依頼せざるを得なかった。その弁護士費用としては400万円を下らない。 (5) 以上損害合計額 3784万0206円以上の損害賠償請求権の半額1892万0103円を各原告が有することになる。 3 よって,原告らの請求は主文認容の限度で理由があるが,その余は失 額3784万0206円以上の損害賠償請求権の半額1892万0103円を各原告が有することになる。 主文 よって,原告らの請求は主文認容の限度で理由があるが,その余は失当であるから,これを棄却する。 広島地方裁判所尾道支部 裁判官矢田廣

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