令和4刑(わ)1727 保護責任者遺棄

裁判年月日・裁判所
令和6年8月20日 東京地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-93373.txt

判決文本文20,214 文字)

- 1 -令和6年8月20日東京地方裁判所刑事第6部宣告令和4年刑(わ)第1727号保護責任者遺棄被告事件 主文 被告人は無罪。 理由 第1 公訴事実及び争点 1 公訴事実被告人は、a、b及びcとともに、令和3年6月10日から東京都豊島区(以下省略)ホテルd(以下「本件ホテル」という。)627号室(以下単に「627号室」という。)にe(当時38歳)と宿泊滞在し、同室において同人らとともに複数種類の薬剤を摂取し、その効果を味わうなどしていたものであるが、eが薬剤を過剰に摂取して同月11日午前8時過ぎ頃には身体をゆするなどしても全く反応しない昏睡状態に陥っているのを認めたのであるから、直ちに救急車の派遣を求めて医師による専門的診察・治療を受けさせ、eの生命、身体の安全のために必要な保護をなすべき責任があったにもかかわらず、a、b及びcと共謀の上、その頃から同日午後4時14分頃までの間、同所において、救急車の派遣を求めることなくeを放置し、もってeの生存に必要な保護をしなかったものである。 2 争点被告人は、令和3年6月11日(以下、年月日については、特に記載しない限り令和3年のものである。)午前9時24分頃、e、b、c及びaを残し、先に627号室から退出しているところ、本件の争点は、①被告人の保護責任の有無、あった場合の被告人の認識の有無、②6月11日午前9時24分頃までに被害者が要保護状態となっていたか、なっていた場合の被告人の認識の有無、③被告人は、6月11日午前9時24分頃までの間に、b、c及びaとの間で、救急車の派遣を求めないことについての共謀をしたか、である。 - 2 -第2 前提事実被告人とeは、本件当時頃、いわゆるオーバードーズ(用法用量を守らずに薬剤(複数 、b、c及びaとの間で、救急車の派遣を求めないことについての共謀をしたか、である。 - 2 -第2 前提事実被告人とeは、本件当時頃、いわゆるオーバードーズ(用法用量を守らずに薬剤(複数種類の場合もある)を過剰に摂取する行為)を一緒に行う関係にあり、本件までに10ないし20回ほど共にオーバードーズを行ったことがあり、肉体関係もあった。また、被告人は、4月から5月頃、eから覚醒剤を使用している旨告げられやめるよう伝えたことがあり、その後もeに覚醒剤を再び使用していないか確認したことがあった。 被告人は、6月10日、eから、オーバードーズをするオフ会をしているから来るように誘われ、b、c及びaも参加することを聞いた上で上記オフ会に参加することとした。e、b、c及びaは、同日午後7時31分頃、本件ホテルに入って627号室及び631号室(以下単に「631号室」という。)を借り、同日午後7時47分頃、627号室に入った。被告人は、同日午後9時16分頃、本件ホテルに入って1019号室を借り、同日午後9時32分頃、627号室に入った。被告人とb、c及びaは初対面であった。 その後、被告人らは、627号室において、飲酒をしたり薬を飲んだりしていたが、被告人は、6月11日午前8時過ぎ頃、bから「fさん(eの呼び名)大丈夫かな」と言われ、eの様子を見た。 被告人は、その後、同日午前9時24分頃、627号室から退出した。b、c及びaは、同日午後3時49分頃から、eに対し、経鼻胃管挿入の措置をした。 eは、6月12日に死亡した。 第3 争点②(6月11日午前9時24分頃までに被害者が要保護状態となっていたか、なっていた場合の被告人の認識の有無)に係る判断被告人がeに対して保護責任を有するのに、eの生存に必要な保護行為として行うこと 6月11日午前9時24分頃までに被害者が要保護状態となっていたか、なっていた場合の被告人の認識の有無)に係る判断被告人がeに対して保護責任を有するのに、eの生存に必要な保護行為として行うことが刑法上期待される特定の行為をしなかったと認められるか否かの検討の前提として、eが、刑法上の要扶助者として、その生存のために特定の保護行為を必要とする要保護状態にあったのかが問題となるので、まずこの点に係る争点②を検- 3 -討する。 以下、証人尋問調書の該当頁を指摘する場合は、証人名と頁の数のみ記載し、被告人質問調書も同様の形式で記載する。また、括弧内の甲乙弁の番号は、証拠等関係カード(検察官請求分、弁護人請求分)に記載された証拠の番号を意味する。 1 6月11日午前9時37分頃からbらがeの状態を撮影した動画(甲41、以下「本件動画」という。)の位置付けについて本件の公訴事実において、被告人、b及びcは、eが6月11日午前8時過ぎ頃に身体をゆするなどしても全く反応しない昏睡状態に陥っているのを認めたとされており、この状態にあったことがeの要保護状態の前提とされている。もっとも、本件では、eの状態を把握できる客観的な証拠としては、6月11日午前8時過ぎ頃のものはなく、その時間帯に最も近いものとしては、本件動画があるのみである。 そこで、まず、本件動画の段階で、eが昏睡状態に陥っていたと認められるかを検討する。 2 本件動画におけるeが昏睡状態に陥っていたと認められるかについて(1) 本件動画におけるeは、ベッド上に仰向けの状態で横たわり、呼吸はしているものの、半目を開けた状態で瞬きをせず、黒目は動いておらず、唇を含めて顔色が悪い状態にあり、bが、瞼を指で開けて携帯電話のライトを当てる、唇をつかむ、口の中に指を入れるなどしても反応はな はしているものの、半目を開けた状態で瞬きをせず、黒目は動いておらず、唇を含めて顔色が悪い状態にあり、bが、瞼を指で開けて携帯電話のライトを当てる、唇をつかむ、口の中に指を入れるなどしても反応はなく、半目で口が半開きの状態にあったと認められる。 (2) 本件動画におけるeの状態を見たg医師は、eには、口の筋肉の弛緩、瞼の筋肉が弛緩して刺激で閉じるなどの反応をしない状態、眼球の固定、舌根の筋肉が緩んで頭の下に枕を入れた時に舌根が落ちて気道閉塞気味になり呼吸がいびき様になる状態が認められ、目に光を入れるという強い刺激を加えても一切体動しないから、eは後述するJCS300の深昏睡の状態にあったと判断できる旨証言する(g医師6、14ないし18)。 また、同じく本件動画におけるeの状態を見たh医師は、eは、呼び掛けをされ- 4 -ても、周囲の者から目を開けられてライトを当てられて瞳孔を確認されても、反応しない状態にあり、目が半開きで瞬きせず、黒目も動いている様子がなく、いびきが聞こえているので舌根が沈下して気道閉塞を起こし掛かっている状態にあったと認められるから、少なくともJCS(ジャパン・コーマ・スケール。日本で広く使われている意識レベルを表すスケール。目が覚めているのが1桁(1、2、3)、寝ているが刺激すると起きるのが2桁(名前を呼べば起きるのが10、大声や揺さぶりにより起きるのが20、かなり強くつねるなどしてやっと起きるのが30)、刺激しても目を開けないのが3桁(100、200、300。痛み刺激に全く反応しないのが300。)。)で意識レベル3桁の深昏睡であることは間違いなく、瞬きや顔を横に向けたら目が付いていくという状態は、脳幹の部分の反応であるが、これらがないということは、脳幹の反応が抑制されるほど強い昏睡状態であるといえる、目の 桁の深昏睡であることは間違いなく、瞬きや顔を横に向けたら目が付いていくという状態は、脳幹の部分の反応であるが、これらがないということは、脳幹の反応が抑制されるほど強い昏睡状態であるといえる、目の上をいじっても全く動きがないというのは、JCS300という可能性が非常に高いと思われる旨証言する(h医師11、12、15、16)。 g医師及びh医師は、救急専門医としての経歴や薬物中毒患者に係る臨床経験に何ら問題はないところ、以上のように、本件動画におけるeの状態について、日本で広く使われているJCSを適用し、g医師はJCS300の深昏睡と、h医師は間違いないところでJCS3桁の深昏睡であると評価している。 (3) 他方で、i医師は、本件動画におけるeの状態を見た上で、意識レベルの評価は、見た目だけでは正確な評価はできない、意識レベルを正確に判定するためには、目を開けているかの判断をし、目を開けていなければ、呼び掛けで目を開けるのか、それとも痛み刺激などの強い刺激を与えて目を開けるのか、言葉を発するか、正確に受け答えできるか、自分の置かれている日時場所などを正確に答えられるか、手を握るや話すといったこちらの指示に正確に従えるかなどによって判断する、痛み刺激とは、胸の中央辺りを拳でグリグリと押したり、指の爪の辺りを強く押したりして痛みを与えて、それによって目を開けるか、痛がって手を払いのけるかで意識レベルを評価するものである、本件動画の中に、医学的に痛み刺激に該- 5 -当するものはなく、手を口に突っ込む行為、揺さぶる行為、他人が手で瞼を開ける行為、ライトで顔の辺りを照らす行為は、いずれも痛み刺激には該当せず、本件動画だけを見てeの状態を正確にJCS3桁以上の意識レベルという評価はできない旨証言する(i医師2ないし4)。i医師についても、救急 ライトで顔の辺りを照らす行為は、いずれも痛み刺激には該当せず、本件動画だけを見てeの状態を正確にJCS3桁以上の意識レベルという評価はできない旨証言する(i医師2ないし4)。i医師についても、救急専門医としての経歴や薬物中毒患者に係る臨床経験に何ら問題はなく、上記証言内容の信用性を否定する理由はない。 (4) このi医師の証言内容を踏まえ、改めて既に述べたもの以外のg医師の証言内容をみると、g医師は、昏睡というのは、刺激しても覚醒しない状態であるところ、JCS30は痛み刺激を加えつつ呼び掛けを繰り返すと辛うじて会話をするというもの、JCS100やJCS200は痛み刺激に対し払いのける動作や屈曲をするというもの、JCS300は痛み刺激に対して反応しないというものである、痛み刺激は強い痛覚刺激のことで、胸骨の前面を拳でグリグリと強く押す、親指で眼窩の部分を強く圧迫するなどといったものである、体を揺さぶることは弱い痛み刺激になると思うが、瞼を開けることは痛み刺激ではない、JCSの適用に関し、評価対象者に客観的に痛み刺激を加えていない場合、数字を書くことはないが、その評価対象者の筋肉が弛緩してぴくりともしなかったら、JCS300に近い状態とある程度の推定をすることはある旨証言している(g医師35ないし38)。 このg医師の証言とi医師の証言を併せ考えると、刺激しても覚醒しない状態である昏睡状態にあるか否かをJCSを適用して正確に評価するためには、やはり評価対象者に痛み刺激を加えてその反応をみることが必要であり、それがない場合にはある程度の推定しかできないものと考えられる。この点について、g医師は、体を揺さぶることも弱い痛み刺激となる、目に光を入れることは強い刺激であると証言するが、i医師に加えてg医師自らも説明する通常の痛み刺激の内容を考慮す ないものと考えられる。この点について、g医師は、体を揺さぶることも弱い痛み刺激となる、目に光を入れることは強い刺激であると証言するが、i医師に加えてg医師自らも説明する通常の痛み刺激の内容を考慮すると、上記各刺激がJCSの適用のために必要な痛み刺激に該当するとは考えられない。 そうすると、本件動画におけるeの状態はJCS300の深昏睡に当たるとするg医師の証言は、本件動画中のeにJCSの適用のために必要な痛み刺激が加えられ- 6 -ていたとは認められない以上、信用性を認めるには合理的な疑いが残るといわざるを得ない。 また、改めて既に述べたもの以外のh医師の証言内容もみると、h医師は、意識レベルがJCSで3桁か2桁かというのは、開眼するかしないかで違うところ、これは1か所だけ体をいじっても分からないので、何か所かいじって判断する、手足をつねって目が覚めないとき、目の所を押さえても目が覚めなかったら3桁だと判断するが、本件動画のeは目を無理矢理こじ開けられても動かず開眼していないので、やはりJCS3桁ではないかといえる旨証言する(h医師31、32)。このh医師の証言によれば、本件動画中のeが刺激しても覚醒しない状態である昏睡状態にあるか否かをJCSを適用して評価するに当たり、h医師は、本来eに加えるべき刺激が本件動画中ではそもそも量的に足りていない中で、eが他人によって目を開けられていることに着目し、それでもeが動かないことをもってeがJCS3桁の状態にあると判断したものと考えられるところ、他人が目を開ける行為がJCSの適用のために必要な痛み刺激に当たらないことは、g医師とi医師が一致して述べるところである。h医師自身も、eの目のどこを押しているか正確に見えていないので、JCS3桁か2桁かを断定することはできないと述べている(h医師3 激に当たらないことは、g医師とi医師が一致して述べるところである。h医師自身も、eの目のどこを押しているか正確に見えていないので、JCS3桁か2桁かを断定することはできないと述べている(h医師32)。そうすると、本件動画におけるeの状態は間違いないところでJCS3桁の深昏睡に当たるとするh医師の証言は、eに加えられたのはJCSの適用のために必要な痛み刺激ではないのに、その刺激をもってJCSを適用した判断をしたものであるから、信用性を認めるには合理的な疑いが残るといわざるを得ない。 (5) 以上によれば、g医師及びh医師の上記証言により、本件動画におけるeの状態を昏睡状態に陥っていたと認定することはできない。 なお、g医師は、本件動画におけるeの状態は、GCS(グラスゴー・コーマ・スケール。JCSとは別の意識レベルを表すスケール。)でも3という最も悪い状態に当たる深昏睡であるとの趣旨の証言(g医師17、18、22、23)をしているが、g医師の証言によれば、GCS3は、どんな刺激を加えても開眼も発音も- 7 -体動もしないという状態であるところ、本件動画におけるeに、GCSの適用のために必要な刺激が十分に加えられていないことは、結局JCSの場合と同様である疑いが払拭できない。したがって、このGCSに関するg医師の証言も信用できず、それによって本件動画におけるeを昏睡状態と認定することはできない。 また、g医師は、昏睡以上になると、その者の体位によって舌根の筋肉が緩んで気道を塞ぐことがある旨証言するが(g医師16、39、40)、h医師は、意識レベルの程度とどれくらい舌根の筋肉が落ちるかの相関関係について、意識レベルが悪い方が舌根の筋肉が落ちるリスクが高いとはいえるが、直ちに相関するとはいえず、JCS300でも舌根沈下しない者もいれば、J ベルの程度とどれくらい舌根の筋肉が落ちるかの相関関係について、意識レベルが悪い方が舌根の筋肉が落ちるリスクが高いとはいえるが、直ちに相関するとはいえず、JCS300でも舌根沈下しない者もいれば、JCS2桁であっても舌根沈下で盛大にいびきをかく者もいる、喉や顔の構造、肥満の程度なども影響する旨証言している(h医師40)から、本件動画におけるeに舌根沈下のような状態がみられることをもって、eが昏睡状態にあったと認定することはできない。 さらに、g医師は、深昏睡から呼吸停止に至る過程に全ての脳幹反射が消失する状態があり、それは、対光反射やまつ毛を刺激するとぐっと目を閉じるなどする睫ショウ毛反射がなくなる状態である旨証言する(g医師21)が、本件動画におけるeの対光反射については、bがeの目にスマートフォンのライトを当てている様子はあるものの、その際のeの目は全く映っておらず、それに関するbの発言内容(瞳孔自体は割とそこまでやっぱりパキッてなるね)から対光反射の有無を認定することはできないし、睫毛反射についても、それを判断するための刺激がeに加えられているとは認められない。 3 6月11日午前8時過ぎ頃のeが昏睡状態に陥っていたと認められるかについて本件の公訴事実において被告人らがeが昏睡状態に陥っているのを認めたとされている6月11日午前8時過ぎ頃のeの状態に関しても、その当時のeに加えられた刺激としては、声掛けをされる、体を揺すられる、瞼を他人の指で開けられて瞳孔にライトの光を当てられるといったものであったと認められ(甲32)、これら- 8 -はJCSを適用するために必要な痛み刺激には該当しない。なお、cは、bがeの太ももをつねっていた旨証言している(c25)が、b自身がそのような供述はしておらず、その信用性には疑問がある上、仮 8 -はJCSを適用するために必要な痛み刺激には該当しない。なお、cは、bがeの太ももをつねっていた旨証言している(c25)が、b自身がそのような供述はしておらず、その信用性には疑問がある上、仮にbによる太ももをつねる行為があったとしても、その程度は全く明らかになっておらず、これについてもJCSを適用するために必要な痛み刺激であったとは認められない。 以上によれば、関係証拠を検討しても、6月11日午前8時過ぎ頃のeにJCSを適用するために必要な痛み刺激が加えられたとは認められないから、その当時のeが昏睡状態に陥っていたと認定することはできない。なお、bは、被告人から、この当時のeの瞳孔の状態について、「光を当てても、瞳孔に変化がない」との説明を受けた旨供述する(甲32)が、被告人の具体的な説明内容に関するbの記憶の正確性に疑問が残ることは後述する(後記5(4)エ)とおりであり、このbの供述をもって、eの対光反射が消失していたと認めることはできない。 そうすると、本件の公訴事実において、eが6月11日午前8時過ぎ頃に昏睡状態に陥っていたとされている点は、これを認定できない。 4 eの昏睡状態と要保護状態の関係についてもっとも、被告人がeの状態を見た6月11日午前8時過ぎ頃から被告人が627号室から退出した同日午前9時24分までの間のeの要保護状態は、eが昏睡状態に陥っていたことを前提としなければ認められないというものではないと考えられる。h医師は、命が危なくなる原因は、ABCDEのどれかあるいは複数に問題が生じることである、Aは気道の異常、Bは呼吸の異常、Cは循環の異常、出血や脱水で血液が足りなくなる場合など、Dは中枢神経系の異常、その異常が起こると意識がなくなるなどする、Eは体温の異常である旨証言する(h医師3ないし5)。 この 、Bは呼吸の異常、Cは循環の異常、出血や脱水で血液が足りなくなる場合など、Dは中枢神経系の異常、その異常が起こると意識がなくなるなどする、Eは体温の異常である旨証言する(h医師3ないし5)。 この点については、弁護人請求のi医師も、当該患者がこのままでは重篤になるか、致死的になるかというのは、意識レベルだけではなくて、ABCDというが、気道の状況がどうか、呼吸の状態がどうか、循環器や血圧がどうかもみて判断する旨証言している(i医師18)。そこで、上記時間帯において、eが、昏睡状態に陥っ- 9 -ていたとは認められない場合でも、要保護状態にはあったと認められる時点があるかについて、以下検討する。 5 eが6月11日午前8時過ぎ頃に要保護状態にあったかについてまず、eが、6月11日午前8時過ぎ頃に要保護状態にあったかを検討する。 (1) eは、6月10日に627号室に入ってから6月11日午前8時過ぎ頃に至るまでの間に、カチノン、覚醒剤、コンサータ、ベタナミン、メジコンなどを摂取しており、メジコンについては、少なくとも40錠は摂取した(甲31、32)。 また、eが同日に救急搬送された病院でのトライエージの結果によれば、eの体内からはMDMAも検出された(甲23)。e、b、c及び被告人は、被告人が627号室に入ってから、酒を飲んだり話したりしていた(被告人20、21)。 なお、g医師は、死亡したeはメジコンをもっと大量に飲んだはずである旨証言するところ(g医師21)、627号室から発見されたメジコン(デキストロメトルファン)の空の包装シートは54錠分にとどまり(甲10、12)、被告人もメジコンを20錠程度飲んだと供述している(被告人21)ものの、eの所持品からメジコンの500錠ボトルが発見されている(甲13、14)から、g医師の証言すると 分にとどまり(甲10、12)、被告人もメジコンを20錠程度飲んだと供述している(被告人21)ものの、eの所持品からメジコンの500錠ボトルが発見されている(甲13、14)から、g医師の証言するとおり、eのメジコンの服用量はもっと多かった可能性はあると認められる。 もっとも、上記事実関係をもってしても、結局eが何錠飲んだかは判然としないから、bの供述に基づいて少なくとも40錠とのみ認定した。 (2) 被告人が状態を見た6月11日午前8時過ぎ頃のeの状態について、bは、声掛けをしても体を揺すっても全く反応しない状態であり、被告人も声掛けをしたり体を揺すったり瞼を2本の指で開けてスマートフォンのライトを使って瞳孔を見たりしたが、やはりeの反応はなかった旨供述する(甲32)。この供述は、bがeの異変に気付いた際のeの状態そのものについてのものであり、bの記憶によく残っていたものと考えられ、十分信用できる。 なお、上記の頃のeの意識の状態に関する被告人の発言について、bは、令和3年6月17日の取調べでは深刻と言っていたと供述し(甲44)、令和4年7月1- 10 -2日には、本件動画を見せられた上で、b自身が「意識消失のスリーくらいのレベル」と発言している点を捉え、その発言は被告人が言っていたことの受け売りであると供述する(甲33)。後者の発言内容については、bが本件動画を見て供述を始めたもので、正確な記憶に基づくものか疑問であるし、bは、意識レベルについて、最高はレベル4で心停止状態などの緊急状態をいうと思い込んでいたものと認められる(甲33)ところ、上記のとおり反応しないeを見て「意識消失のスリーくらいのレベル」と自ら発言したものであり、その発言は被告人の受け売りではなかった可能性があるから、信用性を認めるには疑いが残るが、前者の供述は、6 、上記のとおり反応しないeを見て「意識消失のスリーくらいのレベル」と自ら発言したものであり、その発言は被告人の受け売りではなかった可能性があるから、信用性を認めるには疑いが残るが、前者の供述は、6月11日に近い記憶の新しい段階の供述として信用できる。もっとも、被告人が上記のとおり反応しないeの状態を深刻と評することはあり得るし、そもそもこの被告人の言い方からその当時のeの意識の状態に係る新たな客観的事実を推認することはできない。 (3) cは、6月11日午前8時過ぎ頃を含めた同日午前9時24分頃に被告人が帰るより前のeの状態について、本件動画におけるeと特に違いはなく、常に目が半開きで、いびきのような音を出して息をしていた旨証言する(c23、33ないし35)。しかし、まず、いびきのような音を出して息をしていたという点は、cが自ら、本件動画においてeの顔などを動かした時点以降にいびきをかき始め、それ以前はいびきをかいていなかった可能性があることを認める証言をしている(c62、63)。また、6月11日午前8時過ぎ頃のcの状態は、6月9日にaが自殺未遂をしたので、茨城県にあるc宅から練馬区にあるa宅の近くに車で駆け付けてから、仮眠程度をしたのみで、aと共にe及びbと合流し、その後も運転手役を務めるなどして眠ることなく627号室に入り、飲酒と共に慣れない服薬をしたため嘔吐して記憶が飛ぶ状態になり、しばらくその状態が続いた後、631号室に眠りに行ったがなかなか寝付けず、ほとんど眠れていない状態であったと認められる(c58ないし62)。このような状態にあったcが、本件動画によって後に確認することができたその頃のeの状態は記憶しているものの、それ以前のeの状- 11 -態を正確に記憶できておらず、本件動画の内容と区別できていないことは十分に考 あったcが、本件動画によって後に確認することができたその頃のeの状態は記憶しているものの、それ以前のeの状- 11 -態を正確に記憶できておらず、本件動画の内容と区別できていないことは十分に考えられる。現に、eの状態をよく見ていたと認められるbは、6月11日午前8時過ぎ頃に異常に気付いた頃のeの状態について、「寝ていると思った状態と何が違うというのは説明できず、感覚的なもの」としか供述しておらず、常に目が半開きであったとは供述していない(甲32)。そうすると、6月11日午前8時過ぎ頃のeの状態に関するcの証言は信用できない。 (4)ア被告人は、6月11日午前8時過ぎ頃のeの状態について、よく寝ているなという印象であり、目は普通に閉じていて半目ということはなく、スースーと良く寝ている寝息をたてていていびきは出ていなかった、興奮系の薬の中毒だと瞳孔は大きく散瞳があり、モルヒネのような薬の中毒だと縮瞳が起こり、脳出血が生じると瞳孔不同という左右の瞳孔の大きさが違くなる現象が起こるので、eに薬物中毒や脳出血が生じていないかを確認するために瞳孔の大きさの変化を見て、部屋の明かりを利用して瞳孔の対光反射の有無も確認したが、瞳孔の大きさに異常な変化はなく、その旨をbに伝えた、eの呼吸の音を聞き、胸の動きを見て口のそばに手を当て、回数や息の強さを確認したが、それらに異常はなかった、eからいびきは出ておらず、舌根沈下もなかった、eの体温、脈、顔色にも異常はなかった、bには、夕方ぐらいには目が覚めると思うよと伝え、その後はスマートフォンを見るなどして過ごしていた旨供述する(被告人25ないし28、30、32)。 イこの被告人の供述は、eの意識の状態の程度については、被告人がeに声を掛けて体を揺すったこと、スマートフォンのライトを使って瞳孔の状況を確 ていた旨供述する(被告人25ないし28、30、32)。 イこの被告人の供述は、eの意識の状態の程度については、被告人がeに声を掛けて体を揺すったこと、スマートフォンのライトを使って瞳孔の状況を確認したことといったeに加えた刺激の内容を述べていないし、bにeの意識の状態を深刻と話したことも述べていないから、eの意識の状態に問題があったことにつながる事実関係に関する供述を避けているといわざるを得ない。 ウしかし、その他の被告人が供述するeの状態、すなわち、目及び瞳孔の状態、いびき、呼吸及び顔色の状態、脈や体温の状態については、薬物中毒の症状として散瞳や縮瞳が生じ得ること、脳出血が起こると瞳孔不同が生じることはg医師も認- 12 -めるところであり(g医師26ないし28)、被告人がeに薬物中毒や脳出血が生じていないかを確認するためにeの瞳孔の変化を確認したことは合理的であったといえることに加え、bも、eが半目であったとかいびきをかいていたとの供述はしておらず(甲32)、脈拍は正常だったと思う旨述べていること(甲43)を併せ考えると、その信用性を否定する根拠となる具体的な事情や証拠は見当たらないというほかない。 エこの点について、bは、被告人から、eの瞳孔の状態について、「光を当てても、瞳孔に変化がない」との説明を受けた旨供述する(甲32)が、この被告人の説明は、被告人からレクチャーを受けていた際に聞いたもので、そのレクチャーは、脈の測り方や瞳孔に対してライトを当てた場合にその反応でどういった状態が分かるかというものであったところ、アバウトな内容であったのでよく覚えていないとも供述している(甲43)から、被告人の具体的な説明内容に関するbの記憶の正確性には疑問が残る。したがって、bの上記供述により、eの瞳孔の大きさに異常な変化はな な内容であったのでよく覚えていないとも供述している(甲43)から、被告人の具体的な説明内容に関するbの記憶の正確性には疑問が残る。したがって、bの上記供述により、eの瞳孔の大きさに異常な変化はない旨bに説明したとの被告人の上記供述の信用性が減殺されることはないといえる。 オまた、bは、被告人による夕方には目を覚ますと思うとの回答は、被告人が帰る頃(6月11日午前9時24分頃)までなく、被告人は、eの様子を見た後、何も説明しなかった旨供述する(甲32、43)。しかし、被告人が、bから頼まれてeの様子を見たのに、bにeの状態について長時間何も回答せず、eの状態に異常を感じて医師である被告人に様子を見ることを頼んだbも何の回答も求めなかったというのはかなり不自然な経過である。bの供述によれば、被告人が、bに対し、eの意識の状態を深刻と話したり、脈の測り方や瞳孔にライトを当てた場合に何が把握できるかをレクチャーしたり、eの瞳孔を見た結果を説明したりする場面はあったというのであるから、このような被告人とbのやり取りの状況とも合わない。したがって、被告人による上記回答のタイミングに関するbの供述の正確性には疑問が残り、これをもって、eの状態を見た後にbに対して夕方ぐらいには目が- 13 -覚めると思うよと伝えたとする被告人の上記供述の信用性が減殺されることはないといえる。 (5) 以上によれば、b及び被告人の供述により、6月11日午前8時過ぎ頃のeは、意識については、声掛けをしても体を揺すっても瞼を2本の指で開いてスマートフォンのライトを使って瞳孔を見ても反応がないという状態にあったが、その他の目、瞳孔、いびき、呼吸、顔色、脈及び体温の状態には問題が見られなかったと認められる。そして、救急医療においては、一般的に、呼び掛けでも痛み刺激で 孔を見ても反応がないという状態にあったが、その他の目、瞳孔、いびき、呼吸、顔色、脈及び体温の状態には問題が見られなかったと認められる。そして、救急医療においては、一般的に、呼び掛けでも痛み刺激でも開眼しない場合に気道確保、気道挿管の適用とされている(h医師12)ところ、eの上記意識の状態は、これらの気道に関する措置の適用が必要な状態にあったとまでは認めることができない(痛み刺激でも開眼しない場合にあったと認められないことは、既に述べたとおりである。)。そうすると、6月11日午前8時過ぎ頃のeの状態については、上記(1)のとおりの薬物の摂取状況や摂取の可能性を踏まえても、刑法上の要扶助者としてその生存のために特定の保護行為を必要とする要保護状態にあったと認めるには合理的な疑いが残るというほかない。 6 eが6月11日午前8時過ぎ頃より後の同日午前9時24分頃までの間に要保護状態にあったかについて次に、eが、6月11日午前8時過ぎ頃より後の同日午前9時24分頃までの間に要保護状態にあったかを検討する。 (1) まず、上記時間帯のeの状態について、本件動画のような客観的証拠はなく、bは、被告人が帰る前に2ないし3回eの脈と体温をみたと供述するのみで、その際のeの状態については供述していない。被告人も、上記時間帯のeの状態について供述していない。 cは、上記時間帯のeは本件動画の時の状態と変わらなかった旨証言するが、cの記憶の正確性に疑問があることは既に述べたとおり(前記5(3))である。また、cは、上記時間帯においても、bとともに、eの脈を測るだけでなく、eに対する呼び掛けもしていた旨証言する(c29、30)が、この証言についても、c- 14 -が、上記時間帯のことは覚えていない旨証言したのに対して、検察官による誘導尋問が行われ、 るだけでなく、eに対する呼び掛けもしていた旨証言する(c29、30)が、この証言についても、c- 14 -が、上記時間帯のことは覚えていない旨証言したのに対して、検察官による誘導尋問が行われ、その質問にそのまま合わせる内容と、本件動画の中でbが行っているeに対する呼び掛けの態様と同様の内容を証言するものにすぎないから、cが喚起された記憶ではなく不正確な記憶に基づいて証言した可能性がある。eの状態をよく見ていたと認められるbは、上記時間帯に呼び掛けをしていたとは供述していないし、cがeに対して何らかの行動をとっていたことも供述していない。cは、以前にもeが倒れたのを見たが1ないし2時間で起きてその後は元気であったという経験をしたことがある(c23、52、53)というのであるから、eの様子を特に確認していなかったことも十分に考えられる。したがって、上記時間帯のeの状態及びそれに対する行動についてのcの証言は信用できない。 以上によれば、6月11日午前8時過ぎ頃より後の同日午前9時24分頃までの間のeの状態について、これを直接的に認定できる証拠はない。 (2) そこで、客観的に把握できる本件動画におけるeの状態について判断すると、g医師は、本件動画におけるeについて、深昏睡と表現する程度に意識状態が悪いことに加え、舌根の筋肉が緩んで頭の下に枕を入れた時に舌根が落ちて気道閉塞気味になり呼吸がいびき様になる状態があるため、もう少し前屈して舌根が落ちれば気道を塞いで窒息することがあるから、気道を確保し、血圧が低めであれば点滴をして血圧を保つ必要があった旨証言する(g医師18、19等)。h医師は、本件動画におけるeについて、自発呼吸はあり、血圧は何とか保たれていたものの、深昏睡と表現する程度に意識レベルが悪く、いびきが聞こえていることから舌根が た旨証言する(g医師18、19等)。h医師は、本件動画におけるeについて、自発呼吸はあり、血圧は何とか保たれていたものの、深昏睡と表現する程度に意識レベルが悪く、いびきが聞こえていることから舌根が沈下して気道閉塞を起こし掛かっているので、気道確保と酸素投与が必要であった旨証言する(h医師12、13等)。i医師も、本件動画におけるeは、顔色が悪く、酸素が足りない時に起こるチアノーゼのような症状が見えて、いびきの呼吸が出てきているので舌根が落ちて呼吸抑制があった可能性があり、目が半開きのままなので意識レベルもかなり悪いから、気道を確保して酸素を投与することや、血圧が低ければ点滴をするなどの処置が必要であったのであり、その状態のeを見て救- 15 -急車を呼ばないことは考えられない旨証言する(i医師20ないし22)。これらの証言を併せ考えれば、本件動画におけるeについては、気道、呼吸及び意識の状態が相まって窒息等による生命の危険があり得るため、その生存のために救急車の派遣を求めて医師による専門的診察・治療を受けさせるという特定の保護行為を必要とする状態にはあったと認められる。 (3) もっとも、この本件動画におけるeの状態がいつから生じたものであるかに関連して、g医師は、6月11日午前9時24分頃から本件動画が撮影され始めた同日午前9時37分頃までの約13分間のうちに、深昏睡状態すなわちeの意識の状態が急激に変わることはあり得ないと証言するのみである(g医師20)。 h医師も、eの意識レベルに関してのみ、本件動画におけるeの状態が5分前に始まったとはとても思えないが、何時頃から始まっているかは本件動画からは判定できない旨証言する(h医師33)。i医師は、eは、本件動画の時点でかなり状態が悪そうであったので、6月11日午前8時過ぎ頃の状態に とはとても思えないが、何時頃から始まっているかは本件動画からは判定できない旨証言する(h医師33)。i医師は、eは、本件動画の時点でかなり状態が悪そうであったので、6月11日午前8時過ぎ頃の状態について、1時間足らずの時間で一気に意識レベルや呼吸の状態が悪くなったとは考えづらいから、ものすごく元気であった可能性はかなり少ないと思うが、同時刻頃に違った状態というのは考えられる、本件動画を見ただけでいつからあの状態かは分からない旨証言する(i医師4、5、22、28、29)。 また、eは、既に述べたとおり(前記5(1))、6月10日に627号室に入ってから、少なくともメジコンを40錠飲んだと認められ、もっと多量のメジコンを飲んだ可能性もあり、その他にも覚醒剤を含む複数種類の薬物を摂取していて、627号室に入ってからかは分からないがMDMAも摂取していたが、結局いつどの薬物をどの程度摂取したかは判然としないところ、h医師の証言によれば、eがメジコンを40錠飲んだと仮定しても、実際に時間の経過でどういう効き方をしていったのかについては、分からない点が多いこと(h医師33、34)、メジコンに加えてeが摂取していたベタナミン、コンサータは、いずれも意識レベル、呼吸、循環を抑制する方向に働く薬であるが、メジコンと併せて服用した時に、メジコン- 16 -の効果を高める可能性があり、アルコールも様々な薬物の作用を増強すること(h医師20、49)、その他にeが摂取していた覚醒剤やカチノンも、メジコンの効果を強める可能性があるが、特に覚醒剤についてはどの程度強めるか未知の部分が多いこと(h医師49ないし51)、eの体内から検出されたMDMAは、他の薬剤の効果を増強する可能性が高いというデータがあるが、メジコンについてMDMAと併用した場合にその相互作用 るか未知の部分が多いこと(h医師49ないし51)、eの体内から検出されたMDMAは、他の薬剤の効果を増強する可能性が高いというデータがあるが、メジコンについてMDMAと併用した場合にその相互作用によりどの程度強く効果が出ていたかについては、分かっていない部分が多いこと(h医師46ないし49)が指摘できる。そして、i医師の証言によれば、薬剤の相互作用はよく分からず、個人差もかなりあること(i医師12)、肝機能が悪いと、通常では考えられないほど薬の作用が出たり、相互作用が起きたり、作用が長引いたりするところ、MDMAと覚醒剤は、肝機能に影響を及ぼす度合いが強いが、これらは違法薬物であり、メジコンとの相互作用に関するデータはないこと(i医師12、13、16、17)が指摘できる。 以上のとおり、g医師、h医師及びi医師は、6月11日午前8時過ぎ頃より後の、被告人が627号室から退出した同日午前9時24分頃までの間のeの状態に関して、本件動画の時点から最も近い同時刻頃を含め、この時点からは気道、呼吸、意識の状態がいずれも本件動画の時点と同様の状態にあったと考えられる旨説明する証言を全くしていない。そして、もともとeがメジコン40錠を飲んだと仮定しても実際に時間の経過でどういう効き方をしていったのかについては分からない点が多いことに加え、eは、メジコンを40錠より多く飲んだ可能性がある上、そのほかにもメジコンの効果を強める可能性のあるアルコールや複数の薬物を摂取していたが、いつどの程度摂取したかは分からず、結局薬物の相互作用もよく分からず、eが摂取していた薬物の中には、肝機能に影響し得る、どの程度メジコンの効果を強めるか未知の部分が多い違法薬物も2種類含まれていたことを考慮すると、同日午前8時過ぎ頃より後に、eがそれ以前に飲んでいたメジコンが ていた薬物の中には、肝機能に影響し得る、どの程度メジコンの効果を強めるか未知の部分が多い違法薬物も2種類含まれていたことを考慮すると、同日午前8時過ぎ頃より後に、eがそれ以前に飲んでいたメジコンが、他の薬物と相まってeの身体にいつの時点でどのような効果を及ぼしていったかは、およそ判然としない。そうすると、本件動画の時点ではeがその生存のために特定の保護行為を- 17 -必要とする状態にあったと認められることを踏まえても、6月11日午前8時過ぎ頃より後の同日午前9時24分頃までの間のeについて、本件動画の際と同様のその生存のために特定の保護行為を必要とする状態にあったと認めるには合理的な疑いが残るといわざるを得ない。 (4)アなお、bは、令和4年7月11日及び同月12日の取調べにおいては、上記時間帯に、被告人が、eについて、「点滴したいけどね」「道具がないし、動かせないからね」という旨の発言をした、この発言は、eに点滴をした方がよいが、被告人もbが伝えたためeが覚醒剤を使っている状態であることは知っていたので(cにも被告人に伝えたと話した)、救急車を呼ぶなどしてeを病院等の点滴ができる場所まで動かすことは、eの覚醒剤事件に被告人やbらも巻き込まれてしまうのでできないという意味である、被告人の上記発言を後で思い出してeに経鼻胃管挿入をした旨供述し(甲32、33)、令和4年7月14日の取調べにおいては、被告人はeを病院以外の場所に運ぼうという趣旨の発言もしていた旨供述する(甲34)。cも、被告人が本当は点滴をした方が良いと発言した旨証言する(c69等)。 イしかし、被告人の病院以外の場所に運ぼうという趣旨の発言については、これがあったとしても、被告人は特に医師による診察・治療をする必要はないからこそ病院以外の場所に運ぼうという発 c69等)。 イしかし、被告人の病院以外の場所に運ぼうという趣旨の発言については、これがあったとしても、被告人は特に医師による診察・治療をする必要はないからこそ病院以外の場所に運ぼうという発言をしたとも理解できる。 ウまた、被告人の点滴に関する発言についてのbの供述は、bが、医療措置に関しては全くの素人であるのに、eに経鼻胃管挿入を行うというやや無謀な意思決定をした契機に関するものであるから、その行為に至る経緯に被告人を巻き込む虚偽供述をする可能性を慎重に考慮しなければならない。 その観点を踏まえてbの供述経過をみると、bが、医師である被告人から、点滴したいけど道具がなく動かせないからできない旨の発言を聞いており、更にその発言を思い出してeに経鼻胃管挿入を行う判断をしたのであれば、被告人の上記発言は相当強くbの記憶に残ったはずである。しかし、bは、記憶が新しい段階の令和- 18 -3年6月17日の取調べにおいては、被告人がeの脱水が心配だという話をしていたので、点滴を持ってくるのは無理であるから自分の発想として経鼻胃管挿入をすることにした旨供述しており(甲44)、被告人が脱水を心配していた話も、点滴に関する話も、経鼻胃管挿入をすることに決めた経緯も述べているのに、被告人の点滴をしたいとの発言を思い出して経鼻胃管挿入の実施を決めたとは供述していない。そうすると、令和4年7月11日及び同月12日の取調べにおけるbの上記供述は、正確な記憶に基づくものであるか相当疑問が残るというほかない。 そして、被告人は、令和3年7月2日、cが、ETHICS(エシックス)というLINEグループ(被告人、b、cらが参加していた。)に、eが覚醒剤を使用して死亡した旨の連絡をしたのに対し、「えっ…、、fさん捨てたんじゃなかったの???」と返信し、これ CS(エシックス)というLINEグループ(被告人、b、cらが参加していた。)に、eが覚醒剤を使用して死亡した旨の連絡をしたのに対し、「えっ…、、fさん捨てたんじゃなかったの???」と返信し、これに対しcは「捨てた後で先生に黙ってまた買っちゃったみたいですね…」と返信している(弁2)。また、同日、cが、同LINEグループに、eが覚醒剤を「腕に注射してるのを見てました」とのメッセージを送信したのに対し、被告人は、「それは、あの日?」「そっか、、辞めていたのかと思っていた、、」と返信している(弁2)。これらのやり取りによれば、被告人が、cやbにすぐにLINEのメッセージで反論され、しかもLINEの記録に残ってしまう可能性がある状態で見え透いた嘘をつくとは考えられないから、被告人は、bから、627号室においてeが覚醒剤を使ったことを知らされていなかったと認めるのが相当である。そうすると、被告人の点滴に関する発言についてのbの供述は、その前提事実を欠くといわざるを得ない。 以上に述べた事情を併せ考えると、令和4年7月11日及び同月12日の取調べにおけるbの上記供述は、経鼻胃管挿入の実施を決めた経緯に被告人を巻き込む意図でなされた虚偽供述の疑いが払拭できない。 エ cについては、令和3年6月12日及び令和4年6月29日の各取調べにおいて、被告人が点滴をしたいと発言した旨は供述しておらず、特に後者の取調べにおいては、bやcらが経鼻胃管挿入をした経緯について供述したのに、被告人の上- 19 -記発言が経鼻胃管挿入実施の契機になったことはもちろん、上記発言自体も供述していない(c69ないし78、80ないし82)。しかも、cは、公判廷での被告人の発言に係る証言について、公判廷での記憶が確かではないことを認める証言もしている(c78)。そうすると、被 自体も供述していない(c69ないし78、80ないし82)。しかも、cは、公判廷での被告人の発言に係る証言について、公判廷での記憶が確かではないことを認める証言もしている(c78)。そうすると、被告人の点滴に関する発言についてのcの証言は、記憶の正確性に相当疑問があるというほかない。 オ以上によれば、被告人の点滴に関する発言があったとするbの供述及びcの証言は信用できず、被告人の病院以外の場所に運ぼうという発言から、eの状態の悪さを推認することはできない。 (5)ア加えて、6月11日午前8時過ぎ頃より後の同日午前9時24分頃までの間については、被告人がeを見てその状態を把握していたことを認定できる証拠はない。被告人は、公判廷で、同日午前8時過ぎ頃にeの状態を見た後、同日午前8時10分以降はeの状態は見ていない旨供述しているし(被告人33)、b及びcも、被告人がeの状態を見ていたとの供述や証言はしていない。もちろん、被告人は、上記時間帯は基本的に627号室にいたと認められるし、同室は狭い部屋であるので、被告人がeの姿を全く見ていなかったとはいえないが、eが、その姿が目に入る程度で、その生存のために特定の保護行為を必要とすることが把握できる状態にあったと認定できる証拠はない。 イ検察官は、上記時間帯において、bとcが繰り返しeに対して確認行為をする中で、被告人のみがそれをしていなかったというのは極めて不自然である旨主張し、被告人の上記公判供述の信用性を争うが、既に述べたとおり、cが確認行為をしていた旨のcの証言は信用できないし、bも、上記時間帯に2ないし3回脈と体温をみただけであるというのであるから、夕方までには目を覚ますとbに伝えていた被告人がそれ以上eの状態を見なかったことが、bらの対応に比較して不自然とはいい切れない。 上記時間帯に2ないし3回脈と体温をみただけであるというのであるから、夕方までには目を覚ますとbに伝えていた被告人がそれ以上eの状態を見なかったことが、bらの対応に比較して不自然とはいい切れない。 検察官は、被告人は、捜査段階の供述や知人に対するLINEのメッセージ(被告人82ないし85、弁2)において、同日午前9時前後頃や627号室から帰る- 20 -時にeの状態を見た旨述べており、これと上記公判供述は異なり、被告人が不合理に供述を変遷させたものである旨主張するが、被告人は、この変遷の理由について、cが627号室に戻ってきた時間を教えてもらうことで、自分がeの状態を見た正確な時間が分かった旨説明しているところ(被告人83、84)、被告人の公判供述は、cが627号室に戻ってくる前に被告人がeの状態を見たという点においてbの供述(甲32)と一致しているから、被告人は変遷の合理的な理由を説明しているといえる。 そうすると、検察官の主張を検討しても、同日午前8時10分以降eの状態は見ていない旨の被告人の供述の信用性を否定することはできない。 第4 結論以上のとおり、eが、6月11日午前8時過ぎ頃から同日午前9時24分頃までの間に要保護状態に陥っていたと認めるには合理的な疑いが残り、また、同日午前8時過ぎ頃より後の同日午前9時24分頃までの間については、被告人がeの状態を見て把握していたことにも疑問が残る。 したがって、争点①及び③について判断するまでもなく、本件公訴事実については犯罪の証明がないから、刑訴法336条により、被告人に対し、無罪の言渡しをする。 (求刑懲役2年)令和6年8月20日東京地方裁判所刑事第6部 裁判官石川貴司 主文 無罪の言渡しをする。 理由 (求刑懲役2年)令和6年8月20日東京地方裁判所刑事第6部 裁判官石川貴司

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る