- 1 - 主文 被告人Aを懲役10月に、被告人Bを懲役8月にそれぞれ処する。 被告人両名に対し、この裁判が確定した日から2年間それぞれその刑の執行を猶予する。 理由 【罪となるべき事実】被告人両名は、共謀の上、令和2年2月2日、a町総務課長Cが看守する神奈川県足柄下郡a町bc番d同町消防団第2分団詰所地下書庫に、不正に入手した鍵を使用して侵入した上、同人管理に係る平成31年4月7日執行の神奈川県知事選挙で使用された選挙人名簿抄本5綴を持ち出して窃取した。 【法令の適用】被告人両名の判示所為のうち建造物侵入の点は刑法60条、130条前段に、窃盗の点は同法60条、235条にそれぞれ該当し、これらは手段結果の関係にあるので、同法54条1項後段、10条により重い窃盗罪の刑で1罪として処断することとし、所定刑中懲役刑を選択して、その刑期の範囲内で被告人Aを懲役10月に、同Bを懲役8月にそれぞれ処し、同法25条1項を適用して、この裁判が確定した日から2年間それぞれその刑の執行を猶予し、被告人Bの訴訟費用については刑訴法181条1項ただし書を適用して同被告人に負担させないこととする。 【量刑の理由】被告人両名は、a町の職員であった令和元年12月頃までに、被告人Aが令和2年9月に行われる同町町長選挙に立候補し、同Bがこれを支援することを決意して、選挙人名簿抄本をコピーし、前記町長選挙の選挙活動において、被告人Aが選挙人に対し郵便を送付する際に利用しようとして、他の職員に見とがめられにくい、かつての部下が宿直をしていた休日夜間、不正に入手した鍵を用いてともども地下書庫に侵入した上、直近の選挙で使用された本件の選挙人名簿抄本を持ち出し窃取したものである。その犯行は、選挙人名簿抄本の保管状況や保管場所 直をしていた休日夜間、不正に入手した鍵を用いてともども地下書庫に侵入した上、直近の選挙で使用された本件の選挙人名簿抄本を持ち出し窃取したものである。その犯行は、選挙人名簿抄本の保管状況や保管場所- 2 - の鍵の所在等に関する町職員としての知識や地位等を利用した反規範的なものであって相応の非難を免れないので、犯行後、本件の選挙人名簿抄本をコピーすると短時間でこれを地下書庫に戻しているとはいえ、地下書庫や選挙人名簿抄本の管理権を侵害したその刑事責任は軽いとはいえず、懲役刑は免れない。 もっとも、被告人Aに前科前歴はなく、被告人Bにも古い交通罰金前科しかない上、被告人両名は、事実を認めて再犯しない旨誓っているほか、本件に関連して住民から提起された慰謝料請求訴訟においてその請求を認容する判決が宣告されると、これを受け入れ、被告人Aが住民に対して損害賠償を行うなどしている。 また、本件の発覚後、被告人Aは、町長を辞職し、その後再選されたものの住民の解職請求により失職し、被告人Bは、懲戒免職を受けるなど、本件により一定の社会的制裁も受けている。そこで、これらの事情も併せ考慮して、主文のとおり量刑した。 被告人Aの弁護人は、公職選挙法28条の2に基づき、同被告人が選挙人名簿抄本を閲覧できることを指摘して、本件には罰金刑が相当である旨主張する。しかし、本件の選挙人名簿抄本は、実際に選挙に使用されたものであり、個人情報として氏名、住所等だけでなく投票の有無等の事情も記載されたものであって町の事務として閲覧を許すことは想定されておらず、同条に基づいても選挙人名簿抄本の謄写は許されていないのであるから、これらを同列に扱う弁護人の主張は採用できない。弁護人は、同被告人には町役場職員として地下書庫に立ち入る権限があり、立入りの態様も平穏であったという 挙人名簿抄本の謄写は許されていないのであるから、これらを同列に扱う弁護人の主張は採用できない。弁護人は、同被告人には町役場職員として地下書庫に立ち入る権限があり、立入りの態様も平穏であったというが、管理権者は同被告人が違法目的で立ち入ることを許諾しておらず、その立ち入りは職員としての地位等を利用して不正に入手した鍵を用いた違法なものであった。弁護人は、本件により町や住民に具体的な損害は生じていないというが、投票の有無等の個人情報が記載された本件の選挙人名簿抄本を持ち出してコピーし利用したことは軽視できない。 被告人Bの弁護人も、本件の選挙人名簿抄本に財産的価値はなく、経済的被害は生じておらず、同被告人は利益を得ていない上、現在、資格を取得しようとし- 3 - ていることなどを指摘して寛大な刑が相当である旨主張する。しかし、本件の選挙人名簿抄本は選挙に関わる個人情報が記載されたものであるから選挙活動等において相応の利用価値を有しており、被告人らが、実際にこれを持ち出しコピーして利用したことにより相応の便益を受けたことは軽視できない。さらに、被告人Bは、被告人Aに対し、本件を提案して、同被告人とともに地下書庫に侵入した上、本件の選挙人名簿抄本を持ち出してコピーしているのであるから、弁護人の前記主張を考慮しても、主文の懲役刑が相当である。 (求刑被告人Aにつき懲役1年、同Bにつき懲役10月)令和6年10月9日横浜地方裁判所第1刑事部 裁判官吉井隆平
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