令和2(行ヒ)335 不当利得返還請求控訴,同附帯控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和3年12月21日 最高裁判所第三小法廷 判決 その他 広島高等裁判所 岡山支部 令和1(行コ)11
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判決文本文6,333 文字)

- 1 -令和2年(行ヒ)第335号 不当利得返還請求控訴,同附帯控訴事件令和3年12月21日 第三小法廷判決 主 文1 原判決中,ネクスト岡山に係る請求に関する部分を次のとおり変更する。 被上告人の控訴に基づき,第1審判決中,上記請求に関する部分を次のとおり変更する。 上告人は,ネクスト岡山に対し,7万0470円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。 被上告人のその余の請求を棄却する。 2 原判決主文第1項中,市民ネットに係る請求に関する部分を破棄し,同部分につき本件を広島高等裁判所に差し戻す。 3 本件上告のうち自由民主党岡山市議団に係る請求に関する部分を棄却する。 4 その余の本件上告を却下する。 5 第1項に関する訴訟の総費用はこれを5分し,その4を上告人の,その余を被上告人の負担とし,第3項及び前項に関する上告費用は上告人の負担とする。 理 由上告代理人佐々木基彰ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除された部分を除く。)について1 本件は,岡山市(以下「市」という。)の住民である被上告人が,市議会の- 2 -複数の会派が平成27年度に交付を受けた政務活動費に関し,条例の定めに適合しない違法な支出がされているから,上記各会派はこれを不当利得として市に返還すべきであるにもかかわらず,上告人はその返還の請求を違法に怠っているとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,上告人を相手に,上記各会派に対して不当利得返還の請求をすることを求める住民訴訟である。 2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。 岡山 治法242条の2第1項4号に基づき,上告人を相手に,上記各会派に対して不当利得返還の請求をすることを求める住民訴訟である。 2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。 岡山市議会の各会派に対する政務活動費の交付に関する条例(平成13年岡山市条例第1号。以下「本件条例」という。)は,地方自治法100条14項から16項までの定めを受けて,政務活動費について,大要,以下のとおり規定している。 ア 政務活動費は,市議会における会派に対し,各月1日における当該会派の所属議員数に月額13万5000円を乗じて得た額を半期ごとに交付する(2条,3条1項)。政務活動費は,各半期の最初の月に,当該半期に属する月数分を交付するが,半期の途中において議員の任期が満了する場合は,任期満了日の属する月までの月数分を交付する(同条3項)。各半期の途中において新たに結成された会派に対しては,その結成のあった日の属する月の翌月に,当該結成のあった日の属する月の翌月分(議員改選後の最初の会派の結成に当たるときは,当月分)から当該半期の最終月分までの政務活動費を交付する(同条4項)。 なお,岡山市議会の各会派に対する政務活動費の交付に関する規則(平成13年岡山市規則第80号)2条1項,3条は,本件条例の委任を受けて,市長は,毎年度,政務活動費の交付の申請があった各会派について,交付すべき政務活動費の額を決定するものとする旨を定めている。 イ 政務活動費は,会派が行う調査研究,研修,広報等の活動に要する経費に対して交付し,調査研究費,研修費,広報費等10項目の経費に充てることができるものとする(5条,別表。以下,これらの経費に関する定めを「本件使途基準」という。)。 - 3 -ウ 政務活動費の交付を受けた会派の経理責任者は,政務活動費に 10項目の経費に充てることができるものとする(5条,別表。以下,これらの経費に関する定めを「本件使途基準」という。)。 - 3 -ウ 政務活動費の交付を受けた会派の経理責任者は,政務活動費に係る収入及び支出の報告書(以下「収支報告書」という。)を作成し,これに領収書等の証拠書類の写しを添えて,翌年度の4月30日までに,議長に提出しなければならない(7条1項,2項)。 エ 市長は,政務活動費の交付を受けた会派がその年度において交付を受けた政務活動費の総額から,当該会派がその年度において本件使途基準に定める経費の範囲に基づいて支出した総額を控除して残余がある場合には,当該残余の額に相当する額の政務活動費を返還させるものとする(8条)。 ネクスト岡山は,平成27年4月1日から市議会の議員の任期が満了した同月30日まで,市議会の会派であった。市民ネットは,同年5月に結成され,同月から平成28年3月31日まで,市議会の会派であった。 市は,本件条例に基づき,平成27年度において,ネクスト岡山に平成27年4月分の政務活動費(13万5000円)を,市民ネットに同年5月分から同28年3月分までの政務活動費(以下「平成27年5月以降分の政務活動費」という。)をそれぞれ交付した。 ネクスト岡山は,平成27年4月分の政務活動費(広報費)として,所属議員が発行した報告紙1万部の印刷代14万0940円(以下「本件印刷代」という。)を支出した。 市民ネットは,平成27年5月以降分の政務活動費(研修費)として,所属議員が代表を務める団体が主催した市民自治講座に関する費用5万0600円(以下「本件講座費用」という。)を支出した。 市議会の議長は,平成28年4月30日までに,ネクスト岡山の平成27年4月分の政務活動費に係る収支 主催した市民自治講座に関する費用5万0600円(以下「本件講座費用」という。)を支出した。 市議会の議長は,平成28年4月30日までに,ネクスト岡山の平成27年4月分の政務活動費に係る収支報告書(以下「ネクスト岡山の収支報告書」という。)及び市民ネットの平成27年5月以降分の政務活動費に係る収支報告書(以下「市民ネットの収支報告書」という。)の提出を受けた。 ネクスト岡山の収支報告書における支出額は15万3468円であり,同額には- 4 -広報費として本件印刷代が含まれていた。 ネクスト岡山は,平成27年4月分の政務活動費に関し,平成28年6月15日,市に対し,5万2002円を返還した(以下,この返還を「本件返納」という。)。 上告人は,原審の口頭弁論期日において,以下のとおり,市民ネットの収支報告書の内容を主張した。 収入額 合計445万5000円(預金利息を除く。)支出額 合計451万7612円3 原審は,上記事実関係等の下において,本件印刷代の全額及び本件講座費用のうち2万5300円が本件使途基準に適合しないとした上で,要旨次のとおり判断して,被上告人のネクスト岡山に係る請求を全部認容し,市民ネットに係る請求のうち平成27年5月以降分の政務活動費に係るもの(以下,単に「市民ネットに係る請求」という。)を2万5300円の限度で認容した。 ネクスト岡山に係る請求の額は,本件印刷代14万0940円から本件返納の額5万2002円を控除した8万8938円であるところ,本件印刷代の全額が本件使途基準に適合しない以上,同請求は全部理由がある。 市民ネットに係る請求は,本件講座費用のうち2万5300円が本件使途基準に適合しない以上,同額の限度で理由がある。 4 しかしながら,原審の上記判断は しない以上,同請求は全部理由がある。 市民ネットに係る請求は,本件講座費用のうち2万5300円が本件使途基準に適合しない以上,同額の限度で理由がある。 4 しかしながら,原審の上記判断は,いずれも是認することができない。その理由は,次のとおりである。 原審の上記3の判断について前記2のような本件条例等の定めの下では,本件条例に基づいて交付された政務活動費について,その収支報告書上の支出の一部が本件使途基準に適合しないものであっても,当該年度において,収支報告書上の支出の総額から実際には存在しないもの及び本件使途基準に適合しないものの額を控除した額が政務活動費の交付額を下回ることとならない場合には,当該政務活動費の交付を受けた会派は,市に- 5 -対する不当利得返還義務を負わないものと解するのが相当である(最高裁平成29年(行ヒ)第404号同30年11月16日第二小法廷判決・民集72巻6号993頁参照)。 前記事実関係等によれば,ネクスト岡山に交付された平成27年4月分の政務活動費については,ネクスト岡山の収支報告書上の支出の一部である本件印刷代14万0940円が本件使途基準に適合しないところ,上記支出の総額15万3468円から本件印刷代を控除した額が1万2528円となり,交付額13万5000円を12万2472円下回る。そうすると,ネクスト岡山は,上記12万2472円から本件返納の額5万2002円を控除した7万0470円の限度で,市に対する不当利得返還義務を負うにとどまるものと解すべきである。 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。 原審の上記3の判断について原審で上告人が主張した市民ネットの収支報告書の内容 の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。 原審の上記3の判断について原審で上告人が主張した市民ネットの収支報告書の内容を前提とすると,市民ネットに交付された平成27年5月以降分の政務活動費については,収支報告書上の支出の総額451万7612円から本件使途基準に適合しないと判断される2万5300円を控除した額が449万2312円となり,交付額445万5000円を下回らない。そうすると,前記で述べたところによれば,市民ネットが不当利得返還義務を負うとはいえないこととなる。 ところが,原審は,上記政務活動費について,収支報告書上の支出の総額から本件使途基準に適合しないもの等の額を控除した額が交付額を下回るか否かを検討することをせず,本件使途基準に適合しないとされる支出が2万5300円であると認められることから直ちに,市民ネットが同額の限度で不当利得返還義務を負うものと判断した。 以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。 - 6 -5 以上の次第で,原判決中上告人敗訴部分のうち,ネクスト岡山に係る請求のうち7万0470円を超えて認容された部分及び市民ネットに係る請求に関する部分は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,被上告人のネクスト岡山に係る請求は7万0470円及び法定利息の支払を請求することを求める限度で認容すべきであるから,原判決中同請求に関する部分を主文第1項のとおり変更することとする。また,上記の市民ネットに係る請求に関する部分については,不当利得返還義務の存否等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。 他方,本件上 項のとおり変更することとする。また,上記の市民ネットに係る請求に関する部分については,不当利得返還義務の存否等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。 他方,本件上告のうち自由民主党岡山市議団に係る請求に関する部分については,上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。また,その余の本件上告については,上告人が上告受理申立ての理由を記載した書面を提出しないから,これを却下することとする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官宇賀克也の補足意見がある。 裁判官宇賀克也の補足意見は,次のとおりである。 私は,最高裁平成29年(行ヒ)第404号同30年11月16日第二小法廷判決・民集72巻6号993頁(以下「平成30年判決」という。)の存在を前提として法廷意見に賛成するが,平成30年判決及び法廷意見の射程に関連して,補足的に意見を述べておきたい。 平成30年判決は,議員が政務活動費として支出したと主張した支出が架空支出であったと認められた事案であったが,平成30年判決によれば,当該事案と同様の定めが設けられている条例の下では,架空支出についても不当利得返還請求ができなくなる場合があり得ることになる。また,本件や平成30年判決の事案のように,会派に対してのみ政務活動費が支払われた場合,架空支出のみ又は違法な支出のみ行い適法な支出を一切行わなかった議員であっても,当該議員が所属する会派全体の適法な支出額が当該会派に交付された政務活動費の額以上であれば,当該議- 7 -員の架空支出や違法支出を住民訴訟で問責することはできないことになる。 他方,政務活動費の返還に関しては,本件条例や平成30年判決における条例とは異なる内容の規定を設け あれば,当該議- 7 -員の架空支出や違法支出を住民訴訟で問責することはできないことになる。 他方,政務活動費の返還に関しては,本件条例や平成30年判決における条例とは異なる内容の規定を設けている条例もある。例えば,目黒区政務活動費の交付に関する条例(平成13年目黒区条例第5号)は,本件条例8条と同様の規定に加えて,区長において,政務活動費を充てることのできる経費の範囲外の支出の額に相当する額の政務活動費の返還を命ずることができると定めている(14条2項)。 東京都政務活動費の交付に関する条例(平成13年東京都条例第24号)は,剰余金の返還に関する規定(12条)のほか,使途基準に違反して政務活動費が使用されたときは,知事において,その交付の決定の全部又は一部を取り消すことができ(13条1項),その場合,既に政務活動費が交付されているときは,知事において,その取消しに係る部分の返還を命じなければならないと定めている(14条)。また,京丹後市議会政務活動費の交付に関する条例(平成27年京丹後市条例第25号)は,政務活動費の実績の報告があったときは議長がその内容を審査し(10条5項),市長が政務活動費の額を確定して支払い(11条,12条),支払後に,議長において,偽りその他不正な手段により交付を受けたと認めるときその他同条例及び関係規則に違反していると認めるときは,その旨の報告を受けた市長において,政務活動費の交付の決定を取り消し,既に政務活動費が交付されているときは,会派又は無会派議員に対し当該政務活動費の返還を命ずると定めている(13条)。 このような条例の規定が設けられている場合には,本件や平成30年判決のような事実関係の下でも,所定の機関において,使途制限に適合しない支出の額に相当する部分について返還を命ずるなどの対応をとる このような条例の規定が設けられている場合には,本件や平成30年判決のような事実関係の下でも,所定の機関において,使途制限に適合しない支出の額に相当する部分について返還を命ずるなどの対応をとることが可能となり得る。本判決や平成30年判決は,このような条例に基づく対応まで否定する趣旨を含むものではないと考える。 (裁判長裁判官 林 道晴 裁判官 戸倉三郎 裁判官 宇賀克也 裁判官長嶺安政)

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