平成17(ワ)1618 未払賃金請求(通称 八千代交通年休取得時賃金請求)

裁判年月日・裁判所
平成18年9月15日 さいたま地方裁判所
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判決文本文17,531 文字)

- 1 -主文 被告は別紙1未払賃金集計表の氏名欄記載の各原告に対し同表の合,「」,「計」欄記載の各金員及びこれらに対するそれぞれ平成17年8月26日から支払済みまでいずれも年6分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は被告の負担とする。 この判決は仮に執行することができる。 事実及び理由 第1請求主文同旨第2事案の概要原告らは被告に雇用され,タクシー乗務員として勤務している。本件は,原告らが,被告に対し,有給休暇等の関する賃金の算出方法を一方的に不利益に変更されたとして,これに伴い支払を受けていない変更前の算出方法による支給額と支給を受けた額との差額である別紙1未払賃金集計表の「合計」欄記載の各金員及びこれらに対するそれぞれ平成17年8月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 前提事実(証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない)。 (1)当事者ア被告は,タクシー事業(タクシー業務適正化特別措置法2条3項のタクシー事業をいう)等を目的とする有限会社である。 。 イ原告らは,平成17年3月ころまでに,被告に雇用され,タクシー運転者として勤務している。原告らは,被告にタクシー運転者として勤務する従業員(以下乗務員組「」。),(「というで組織する労働組合自交総連埼玉地方連合会a会以下」という)の組合員である。なお,組合は,平成15年9月16日に結成され合。 た。 (2)原告らの労働条件- 2 -乗務員の労働条件は,採用区分に従い決定されている。 正乗務員嘱託ア運転乗務従業員(以下「」という)及び嘱託従業員(以下「。 」という)について乗務員。 (ア)正乗務員は,タクシー運転者として雇用された者をいう。嘱 に従い決定されている。 正乗務員嘱託ア運転乗務従業員(以下「」という)及び嘱託従業員(以下「。 」という)について乗務員。 (ア)正乗務員は,タクシー運転者として雇用された者をいう。嘱託乗務員は,60歳の定年に達した正乗務員で再雇用された者及び55歳以上の者でタクシー運転者として雇用された者をいい,6か月又は1年ごとに契約が更新される(最長5年までと定められている。正乗務員と嘱託乗務員は,期間の点を除き,雇用条。)件に差異はない。 別紙1未払賃金集計表の番号A-1からA-27までの原告は,正乗務員又は嘱託乗務員である。 (イ)正乗務員及び嘱託乗務員の労働時間は,1回の勤務当たり,手待ち時間を含めて16時間で,1か月当たり合計12回の勤務とされている。 正乗務員及び嘱託乗務員の賃金は,別紙2賃金規定(1)のとおり,月間営業収入を基礎として計算される歩合給制で定まる。上記歩合給制は,月間営業収入の多寡に応じて歩合率が変動するいわゆる累進歩合給制である。 イ短時間就労乗務員(以下「」という)について定時制乗務員(8勤務)。 (ア)定時制乗務員は,60歳の定年に達した正乗務員で特に短時間勤務を希望して再雇用された者,嘱託乗務員として一定期間勤務した後に再雇用された者,及び55歳以上の者で短時間勤務のタクシー運転者として雇用された者をいい,3か月又は6か月ごとに契約が更新される。 別紙1未払賃金集計表の番号B-1からB-12まで,B-14及びB-15の原告は,定時制乗務員(8勤務)である(なお,もと原告のB-13は,訴えを。 取り下げた)。 (),,イ定時制乗務員の労働時間は正乗務員及び嘱託乗務員とほぼ同様であるが勤務回数は,1か月当たり合計8回とされている。定時制乗務員の賃金は,別紙3賃金規定(2)のとおり 下げた)。 (),,イ定時制乗務員の労働時間は正乗務員及び嘱託乗務員とほぼ同様であるが勤務回数は,1か月当たり合計8回とされている。定時制乗務員の賃金は,別紙3賃金規定(2)のとおり,月間営業収入を基礎として計算される累進歩合給制で定- 3 -まる。 ウ1か月当たり合計16回勤務の短時間就労乗務員について定時制乗務員 ()(「ア1か月当たり合計16回勤務の短時間就労乗務員以下(」という。また,定時制乗務員(8勤務)と定時制乗務員(16勤務)を6勤務)併せて「」という)は,就業規則等に定めがなく,当該従業員と被定時制乗務員。 告との間の契約ないし慣行により労働条件が定められている。 別紙1未払賃金集計表の番号C-1及びC-2の原告は,定時制乗務員(16勤務)である。 (イ)定時制乗務員(16勤務)の労働時間は,1日の勤務時間が9時間で,月16日間勤務することとされている。定時制乗務員(16勤務)の賃金は,月間営業収入に一律63%の歩合率を乗じて計算される,いわゆる一律歩合給制となっている。 (3)年次有給休暇の取扱い及び年次有給休暇取得時の賃金の計算方法(平成16年6月16日当時の実際)ア正乗務員及び嘱託乗務員について年原告らのうち正乗務員及び嘱託乗務員については法定の年次有給休暇以下,(「」という)が付与されてきた。年休取得時の賃金の計算方法は,平成14年9休。 月1日までに雇用された乗務員と,同日以降に雇用された乗務員(同日以降に再雇用された乗務員を含む。以下同じ)とで異なっていた。 。 (ア)被告は,平成14年9月1日までに雇用された正乗務員及び嘱託乗務員に対しては,次の計算方式に従い年休取得時の賃金を支払ってきた。①前月の営業収入(前月に年休を取得した場合は,後記の「総 。 (ア)被告は,平成14年9月1日までに雇用された正乗務員及び嘱託乗務員に対しては,次の計算方式に従い年休取得時の賃金を支払ってきた。①前月の営業収入(前月に年休を取得した場合は,後記の「総営業収入」とする)の額が57。 万円以上の者については1日当たり2万円を,57万円未満の者については,1日当たり1万5500円を仮想営業収入として,その月の実際の営業収入に加算する(以下,加算後の額を「」という。なお,正乗務員及び嘱託乗務員の総営業収入)場合,勤務時間の関係から,1回の勤務につき年休を取得すると,2日分の年休を- 4 -取得したものとして取り扱われるから,加算される額は上記の額を2倍した金額になる。②総営業収入をもとに,これを月間営業収入とみなして別紙2賃金規定仮想営収方(1)のとおり,各従業員の賃金を定める(以下,この計算方式を「。 」という)式。 仮想営収方式によった場合,年休を取得した月の賃金は,その月の実際の営業収入が前月に比べて極端に低いなどの特殊な事情がない限り,労働基準法39条6項所定の計算方法(平均賃金,所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又は健康保険法99条1項に定める標準報酬日額)のいずれと比較しても多くなり,乗務員に有利な結果となる。仮想営収方式は,平成5年7月20日,被告の従業員の集まりであったb会と被告の間で締結された協定に基づいており,平成14年9月1日までに雇用された正乗務員及び嘱託乗務員との間でも慣行として行われてきた。 (イ)被告は,平成14年9月1日以降に雇用された正乗務員及び嘱託乗務員に対しては,労働基準法39条6項所定の平均賃金により,年休取得時の賃金を支払っていた(以下「」という)。 。 平均賃金方式イ定時制乗務員について,,,。 被告は定時 及び嘱託乗務員に対しては,労働基準法39条6項所定の平均賃金により,年休取得時の賃金を支払っていた(以下「」という)。 。 平均賃金方式イ定時制乗務員について,,,。 被告は定時制乗務員に対し一切年休を付与しない違法な取扱いをしていた(),,, 組合と被告は年休及び年休取得時の賃金の取扱いについて次のとおり平成16年6月16日付け確認事項と題する書面を取り交わし,その旨の労働協約を締結した(以下「」という。 平成16年6月16日付け労働協約。)ア制度そのものの改定は行わないが,平均賃金方式によって算定した場合,仮,。 ,想営収方式で算定した場合と比べ減収となるときはその差額分を補償するまた仮想営収額を決定するのに用いる総営業収入の額は,実際の営業収入額に仮想営収額を加算した額を適用する。 イ対象者は,正乗務員及び嘱託乗務員のうち年休取得時の賃金が平均賃金方式により算定されている乗務員並びに定時制乗務員とする。 - 5 -ウ実施時期は,平成16年6月21日からとする。 エ平均賃金方式の実施は,平成16年12月21日を目途とする。 (5)年休の取扱い及び年休取得時の賃金の計算方法(平成16年6月21日から平成17年2月21日までの状態)平成16年6月16日付け労働協約の実施時期である平成16年6月21日以降の取扱いは次のとおりであった。 ア正乗務員及び嘱託乗務員年休取得時の賃金は,すべての乗務員につき,仮想営収方式で算定され,そのとおり支払われた。 イ定時制乗務員定時制乗務員に対し年休が付与されたのは,諸般の事情で,平成16年8月12日以降になった(乙31。組合と被告は,平成16年8月19日付け確認事項と)題する書面で,定時制乗務員については,仮想営業収入として加算すべき額は, 付与されたのは,諸般の事情で,平成16年8月12日以降になった(乙31。組合と被告は,平成16年8月19日付け確認事項と)題する書面で,定時制乗務員については,仮想営業収入として加算すべき額は,前月の総営業収入の額が38万円以上の者については1日当たり2万円,38万円未満の者については,1日当たり1万5500円とする旨の労働協約を締結した(以下「」という。 平成16年8月19日付け労働協約。)被告は,平成16年8月19日以降,上記労働協約に従い,年休の付与及び年休取得時の賃金を支払った(なお,被告は,同日以前に年休の申請をした上で休業。 した者に対しても,遡って年休として取り扱い,その分の賃金を支払った)。 (6)被告は,平成16年12月21日,原告ら乗務員に対し,賃金の計算方法を次のとおり変更する旨通知したが,組合がこれに反撥したため,平成17年1月28日に撤回した。 ア年休取得時の賃金は,平均賃金方式により支払う。 イ定時制乗務員(8勤務)の歩合率を,50%とする。ただし,実際の営業収入額が28万円に満たない場合40%とする。 (7)被告は,平成17年2月21日から(3月分賃金から,原告らの賃金の)- 6 -計算方法を次のとおり変更し,この計算方法による賃金を支給している。 ア年休取得時の賃金は,健康保険法99条1項に定める標準報酬日額に相当する額を年休手当として支払う(以下「」という。 健保日額方式。)イ定時制乗務員(8勤務)の歩合率を50%とする。ただし,実際の営業収入額が28万円に満たない場合40%とする。 (8)原告らの平成17年2月分の賃金は,別紙4平成17年2月分営業収入一覧表記載のとおりである。 原告らに対し実際に支払われた平成17年3月分から5月分までの賃金は,別紙5賃金一覧表A①から③ (8)原告らの平成17年2月分の賃金は,別紙4平成17年2月分営業収入一覧表記載のとおりである。 原告らに対し実際に支払われた平成17年3月分から5月分までの賃金は,別紙5賃金一覧表A①から③まで,及び同B及びC①から③までの「支給を受けた額」欄記載のとおりであり,変更算出方法による賃金は,上記各一覧表の「変更前の算出方法による支給額」欄記載のとおりである(計算結果を含めて争いがない。 。) 争点 (1)年休取得時の賃金の計算方法を健保日額方式に変更する労働協約が成立したか(争点①)。 (2)定時制乗務員(8勤務)の歩合率が50%又は40%に引き下げられたことにつき,正当理由があるか(争点②)。 争点に関する当事者の主張(1)争点①(年休取得時の賃金の計算方法)について(被告)組合と被告は,平成16年6月16日付け労働協約において,平成16年12月21日以降,平均賃金方式を実施することで合意した。被告は,その後,乗務員の反撥を考慮し,実施時期を平成17年2月21日に延期したものの,同日以降は平均賃金方式により年休取得時の賃金を支払えば足りる。 したがって,健保日額方式による支払が誤りであることは認めるが,被告は,平均賃金方式による額を超えて支払義務を負わない。詳細は次のとおりである。 ア被告は,電話で配車を依頼する顧客を多く抱えており,顧客の待ち時間を減- 7 -らすため,休日においても一定のタクシーを稼働させる必要がある。 一方,休日は,ほかの曜日に比べてタクシー利用者が少なく,実際の営業収入が年休を取得した場合の仮想営業収入の額に満たない場合が多いことから,休日に年休を取得して月間の総営業収入の減少を回避する従業員がしばしば見受けられた。 その結果,休日におけるタクシーの稼働率が低下し被告の営業利益を圧迫する大 営業収入の額に満たない場合が多いことから,休日に年休を取得して月間の総営業収入の減少を回避する従業員がしばしば見受けられた。 その結果,休日におけるタクシーの稼働率が低下し被告の営業利益を圧迫する大きな要因となるとともに,顧客の待ち時間を延伸させて迷惑を掛けるおそれがあり,被告としては,仮想営収方式を廃止する必要があった。 また,埼玉県南部及び近隣地域のタクシー事業者において,仮想営収方式を採用している業者は,ごくわずかであり,ほかの業者との競争を勝ち抜くためにも仮想営収方式の廃止が必要であった。 イ被告は,平成14年9月1日施行の就業規則において,年休取得時の賃金の計算方法を平均賃金方式に改め,同日以後に採用した乗務員に対しては,その旨通知した上で,平均賃金方式により賃金を支払ってきた。一方,平成14年9月1日までに採用した乗務員は平均賃金方式の実施に強く反撥しており,被告は,これらの乗務員に対しては,従前どおり,仮想営収方式による支払を続けてきた。 被告は,平成16年4月20日,組合に対し,すべての乗務員との関係で平均賃金方式を実施すること,急激な収入の減少を防ぐために実施後6か月間は従前どおりの賃金を補償することを提案した。被告は,その後の団体交渉において,平均賃金方式により年休取得時の賃金が支払われている乗務員に対しても,6か月間,仮想営収方式による賃金を支払うことを骨子とする譲歩案を示した。組合は,この譲歩案を受けて,被告に歩み寄り,平成16年6月16日付け労働協約に至った。 なお,平均賃金方式の実施時期につき「目途」という表現があるのは,被告に,おいて,乗務員側の状況を判断し,時期尚早と判断した場合,平成16年12月21日から数か月程度延期することがあり得るという程度の意味である。 ウ(原告らの主張に対する反論)(ア)原 ,被告に,おいて,乗務員側の状況を判断し,時期尚早と判断した場合,平成16年12月21日から数か月程度延期することがあり得るという程度の意味である。 ウ(原告らの主張に対する反論)(ア)原告らは「制度そのものの改定は行わない」との文言につき「仮想営収,- 8 -方式を改定せずに継続する」との趣旨であると主張するが,この主張のとおりだとすると,この文言に続く平均賃金方式で算定する方が仮想営収方式で算定した場合より賃金は低くなるのだから,仮想営収方式により算定した場合との差額を補償するとの条項が意味のない定めになる。被告は,平成14年9月1日施行の就業規則において,平均賃金方式を導入しており,上記条項は,この平均賃金方式を改定しないという趣旨である。 そもそも,被告は平均賃金方式の実施を求めて組合と交渉を行っており仮想営収方式を継続し,しかも,これまで平均賃金方式で年休取得時の賃金を支払ってきた乗務員をもこの対象とするとの合意文書を作成することは,互譲による結果としてもあり得ない内容である。 (イ)原告らは「平均賃金方式の実施は,平成16年12月21日を目途とす,る」との条項につき,平成16年12月21日までに組合と被告との交渉がまと。 まった場合,平均賃金方式を実施するとの趣旨であると主張する。しかし,組合と被告との交渉について触れた条項はなく,単に被告において,乗務員側の状況を判断し,時期尚早と判断した場合には数か月程度延期することがあり得るという程度の不確定期限を定めた条項である。 (原告ら)被告が主張する平成16年6月16日付け労働協約の解釈は文意に反しており,すべて否認する。すなわち,アいわゆる累進歩合制により賃金を支払うときは,実際の営業収入額に営業収入額に応じた歩合率を乗じて賃金額が決定されるが,年休を取得 付け労働協約の解釈は文意に反しており,すべて否認する。すなわち,アいわゆる累進歩合制により賃金を支払うときは,実際の営業収入額に営業収入額に応じた歩合率を乗じて賃金額が決定されるが,年休を取得すると実際の営業収入額が減少するため,年休を取得した場合に取得しない場合に比べて賃金が減少し,年休を取得しにくい状況が生じる。このため,仮想営収方式により賃金を算定することで,年休を取得しなかった場合と同等の賃金を補償し,年休を取得しやすくする必要があり,仮想営収方式はそれ自体合理的な制度である。 イ被告は,平成14年3月ころから,平均賃金方式を強行しようとし,同年8- 9 -月ころ,就業規則を一方的に原告らに不利に変更した上(なお,従業員代表者との間の協定は存在しないが,被告は存在すると主張している,同年9月1日以降。)に雇用された乗務員に対しては平均賃金方式で年休取得時の賃金を支払ってきた。 原告らは,平均賃金方式の導入に反対する運動を続けてきたが,被告がなおも平均賃金方式を導入する構えを見せたため,平成15年9月16日,組合を結成して団体交渉を行うことにした。組合と被告の交渉の結果,平成16年6月16日付け労働協約が成立した。この労働協約の趣旨は,次のとおりである。 (ア)「制度そのものの改定は行わない「対象者は,正乗務員及び嘱託乗務」,員のうち年休取得時の賃金が平均賃金方式により算定されている乗務員並びに定時制乗務員とする」とあるように,被告が一方的に平均賃金方式による賃金支払を。 続けている乗務員(正乗務員及び嘱託乗務員のうち年休取得時の賃金が平均賃金「方式により算定されている乗務員並びに定時制乗務員)に対し,本来の仮想営収」方式による賃金を支払うことを意味している。 (イ)「平均賃金方式の実施は,平成16年12月21 得時の賃金が平均賃金「方式により算定されている乗務員並びに定時制乗務員)に対し,本来の仮想営収」方式による賃金を支払うことを意味している。 (イ)「平均賃金方式の実施は,平成16年12月21日を目途とする」とあ。 るように,平均賃金方式の実施について確定的な時期を定めたものではなく,平成16年12月21日から平均賃金方式を実施できるよう組合と被告が交渉を続けることを意味している。 ウなお,被告は,平成17年5月9日,川口労働基準監督署から,労働者の過半数で組織する労働組合との書面による協定がないにもかかわらず,年休取得時の賃金を健保日額方式で支払うことにした点について是正勧告を受けた。被告は平成17年7月9日,川口労働基準監督署に対し,労働者の過半数で組織する労働組合との書面による協定が存在しないことを認め,従前の基準に戻すとの是正報告書を提出しており,本件における主張と異なる報告をしている。 (2)争点②(定時制乗務員(8勤務)の歩合率引下げ)について(被告)定時制乗務員(8勤務)に対する賃金の歩合率は,正乗務員及び嘱託乗務員に比- 10 -べ,高く設定してきた(別紙2賃金規定(1)及び別紙3賃金規定(2)参照。 )これは,定時制乗務員(8勤務)に対し,年休を付与しない代わりに高い歩合率を保障しようとする趣旨であった。 しかし,組合は,被告に対し,定時制乗務員(8勤務)にも年休を付与するよう要求した。被告は,労働基準法に違反してまで年休を付与しないのは妥当でないから,組合の要求をいれることとし,その代わりに年休を付与しないことが前提となっていた高い歩合率を引き下げることとした。なお,賃金の著しい減少を避けるために,定時制乗務員(8勤務)に対しては,休日の勤務を減らすなどの配慮をしている。 (原告ら)争う。被告の主張は, 提となっていた高い歩合率を引き下げることとした。なお,賃金の著しい減少を避けるために,定時制乗務員(8勤務)に対しては,休日の勤務を減らすなどの配慮をしている。 (原告ら)争う。被告の主張は,賃金引下げの法的根拠とはならない。 第3争点に対する判断 前記前提事実及び当該認定箇所に掲記する証拠によって認定できる事実は次のとおりである。 (1)被告及びタクシー事業についてア被告は,タクシー事業等を目的とする有限会社であり,埼玉県鳩ヶ谷市に本店を置いている。被告の従業員数は,平成17年9月28日現在で132名,うち乗務員は約110名である。被告は,51台のタクシーを保有しており,全車両に無線設備を搭載している(弁論の全趣旨)。 イ埼玉県南部(川口市,蕨市,戸田市,鳩ヶ谷市,さいたま市,上尾市及び伊奈町)には,51社のタクシー会社があり,被告会社はタクシーの保有台数からすると平均的な規模のタクシー会社である(乙52)。 ウタクシー事業を含む一般乗用旅客自動車運送事業については,平成12年5月法律第86号(平成14年2月1日施行)による道路運送法の改正で,国土交通大臣の運賃等に対する許認可が緩和され,新規事業者が参入したり,既存事業者においてタクシーの保有台数を増加させたりしており,競争が激しくなっている。そ- 11 -,。(,)の一方でタクシー運転者の賃金は漸減する傾向にある乙40弁論の全趣旨(2)タクシー運転者は,タクシー事業の性質上,使用者の指揮命令を受けにくい場所で就労する機会がほとんどで,そのため歩合給が広く採用されている。 歩合給の計算方法には様々な類型があるが,被告が正乗務員,嘱託乗務員及び定時制乗務員(8勤務)に対して適用しているいわゆる累進歩合制は,長時間労働を誘発し,年休の取得を抑制する効果 採用されている。 歩合給の計算方法には様々な類型があるが,被告が正乗務員,嘱託乗務員及び定時制乗務員(8勤務)に対して適用しているいわゆる累進歩合制は,長時間労働を誘発し,年休の取得を抑制する効果を持つものとして「自動車運転者の労働時間,等の改善のための基準について(平成元年3月1日旧労働省労働基準局発第93号通達」で,廃止するよう指導されている。なお,上記通達は,労働基準法附則1)36条の規定に従い,年休を取得したとき,不当に賃金額を減少させないものとすることを求めている(甲12,13)。 (3)本件の仮想営収方式と健保日額方式がどのような違いをもたらすかについて,年休取得回数の多い原告A-4の平成17年3月分の賃金を例に検討する。 ア原告A-4の平成17年2月分の実際の営業収入額は50万4570円,仮想営業収入額を加算した総営業収入額は58万4570円である。 イ原告A-4の平成17年3月分の実際の営業収入額は,45万5050円であり,2回(4日分)年休を取得した。 (ア)仮想営収方式による場合平成17年2月分の総営業収入額が57万円以上なので1日当たり2万円,合計8万円が仮想営業収入として実際の営業収入額に加算され,総営業収入額は53万5050円となる。すると,別紙2賃金規定(1)によれば,賃金は次のとおりとなる。 53万5050円×59%=31万5679円(イ)健保日額方式による場合平成17年3月分の実際の営業収入額を基準に歩合率等を決定するので,賃金は次のとおりとなる。 45万5050円×53%=24万1177円(円未満切上げ)- 12 -これに,健康保険法99条1項に定める標準報酬日額(1万円)による年休日数分の年休手当が加算される。 24万1177円+1万円/日×4日=28万1177円なお,平均賃金方式に 切上げ)- 12 -これに,健康保険法99条1項に定める標準報酬日額(1万円)による年休日数分の年休手当が加算される。 24万1177円+1万円/日×4日=28万1177円なお,平均賃金方式によった場合であっても,標準報酬日額に代えて平均賃金を用いるだけで,ほぼ同様の結果となる。 (ウ)年休を取得しなかった場合,。 原告A-4が年休を取得しなかった場合どの程度の賃金を得た可能性があるか原告A-4は,8回の勤務で45万5050円の営業収入があり,1回(2日間)当たり平均して5万6881円の営業収入があることになる。これを元にすると,原告A-4が年休を取得しなかった場合,次の営業収入を得たであろうと仮定することができ,その賃金は次のとおりとなる。 45万5050円+5万6881円/回×2回=56万8812円56万8812円×60%=34万1287円ウ以上によると,仮想営収方式と健保日額方式との差額は,31万5679円-28万1177円=3万4502円であり,仮想営収方式による方が賃金の額は高くなり,この傾向は年休取得日数が多いほど顕著になる。 また,年休を取得しなかった場合の仮定賃金と仮想営収方式及び健保日額方式による賃金を比較すると,(仮想営収方式)34万1287円-31万5679円=2万5608円(健保日額方式)34万1287円-28万1177円=6万0110円であり,仮想営収方式にせよ,健保日額方式にせよ,年休取得時の賃金は年休を取得しなかった場合に比べて,相当程度減少する可能性があり,その程度は健保日額方式によった場合の方が歩合率の低下を伴うため,著しく大きくなるといえる。 - 13 -なお,年休取得時の賃金が年休を取得しなかった場合に比べて減少する要因は,被告の採用する累進歩合制によるところが大きい。すなわち,被 が歩合率の低下を伴うため,著しく大きくなるといえる。 - 13 -なお,年休取得時の賃金が年休を取得しなかった場合に比べて減少する要因は,被告の採用する累進歩合制によるところが大きい。すなわち,被告の採用する累進歩合制は歩合率が営業収入の額に応じて約3万円刻みで40%から61%まで大きく変化するようになっており,仮想営収方式によった場合でも,仮想営業収入の額が年休を取得しなかった場合に得られる営業収入を一定程度下回ると,その差額によって歩合率の減少を生じ,結果的に年休取得時の賃金をより大きく減少させる。 (前記前提事実(1)ア(イ(2)ア(イ)及び(3)ア(ア)),)(4)原告ら乗務員の労働条件についてア平成14年2月ころまでの状況乗務員のうち正乗務員及び嘱託乗務員に対しては,年休が付与されており,年休取得時の賃金は,平成5年7月20日以降入社した者も含めて,被告の労働者の集まりであるb会と被告との間で作成された平成5年7月20日付け協定書に基づいて仮想営収方式で算定されていた。 一方,乗務員のうち定時制乗務員に対しては,年休が付与されていなかった。 (前記前提事実(3)ア(イ)及び(3)イ)イ平成14年3月ころから組合結成までの状況(ア)被告は,一般乗用旅客自動車運送事業に対する国土交通大臣の許認可を緩和した改正道路交通法が施行された直後である平成14年3月ころ,班長(業務管理のため乗務員で組織された班を管理する役職者)の集まりにおいて,年休取得時の賃金について,仮想営収方式を廃止し,平均賃金方式を導入したい旨提案した。 乗務員らは,班長を中心にして,上記被告の提案に反対した(乙61,弁論の全。 趣旨)(イ)被告は,平成14年6月1日,新しい就業規則を起案し,乗務員に対する説明会などを行った。被告は,当時の従業員の代 らは,班長を中心にして,上記被告の提案に反対した(乙61,弁論の全。 趣旨)(イ)被告は,平成14年6月1日,新しい就業規則を起案し,乗務員に対する説明会などを行った。被告は,当時の従業員の代表者とされる原告B-8から,平成14年8月29日に,この就業規則の内容に同意する旨の回答が得られたと理解した(原告B-8はこの点を否定しており,同意したかどうかは判然としない。 。)- 14 -被告は,平成14年8月29日,上記就業規則を川口労働基準監督署に届出し,同年9月1日から施行した。 しかし,この就業規則には,乗務員の年休取得時の賃金の取扱いについての規定は見あたらない。 ,(),被告は平成14年9月1日以降に雇用した乗務員再雇用も含むに対しては年休取得時の賃金を平均賃金方式により支払うようになった。年休取得時の賃金の計算方法を変更したことは,平均賃金方式を適用しない平成14年9月1日までに雇用した正乗務員及び嘱託乗務員に対しては知らされていなかった(甲2の1か。 ら11まで,乙7の2,8,10,11,60,61)ウ組合の結成から平成16年6月16日付け労働協約までの状況(ア)乗務員の有志は,平成15年9月16日,組合を組織し,自交総連埼玉地方連合会の支援を得て,被告と団体交渉を開始した。組合の交渉担当者は,執行委員長の原告A-13であった。 被告は,当初,総括責任者のX及び労務の担当者であるYが交渉に当たった。被告は,平成15年12月ころ,社会保険労務士のZに対し,人事及び労務全般についての業務を委託し,それ以降の交渉は主にZが担当した。なお,Zは,平成17年12月20日まで,被告の人事及び労務の業務全般を担当した。 組合と会社との間の交渉は,当初難航し,団体交渉の参加者や実施方法など前提事項についてすら合意がま 主にZが担当した。なお,Zは,平成17年12月20日まで,被告の人事及び労務の業務全般を担当した。 組合と会社との間の交渉は,当初難航し,団体交渉の参加者や実施方法など前提事項についてすら合意がままならない状況にあった。 (前記前提事実(1)イ,乙1から5まで,7の1,61)(イ)組合は,平成16年2月,埼玉県地方労働委員会に対し,不誠実な団体交渉などの不当労働行為を理由に申立てを行うなどした(乙61,弁論の全趣旨)。 (ウ)組合と被告の間の交渉は,埼玉県地方労働委員会に対する申立て後,若干の改善が見られ,組合の掲示板の設置(平成16年4月20日付け)や歩合による賃金の一部を賞与として7月及び12月に支給する取扱いの廃止(平成16年5月20日付け,自動車事故の防止,対策及び処分等の取扱い(平成16年5月25)- 15 -日付け,給与及び賞与の取扱い(平成16年5月25日付け,増車を行う際に))組合に対し事前説明を行うこと(平成16年5月25日付け)など,一定の問題について合意に至った(乙13,16の3,17の1から3まで,61)。 (エ)被告は,平成16年4月20日,組合に対し,①年休取得時の賃金につき平均賃金方式を導入すること,乗務員の収入の急激な減少を防ぐため,仮想営収方式によって賃金を支給されている者について,6か月間,差額を補償すること,②定時制乗務員の年休は,平均賃金方式が導入された後に是正することを提案した。 組合は,賃金水準が低下するとの理由で平均賃金方式の導入に反対しており,当時の賃金水準を維持するよう求めるとともに,年休が付与されていない乗務員及び年休取得時の賃金が平均賃金方式により算定されているために年休を取得しにくい乗務員の勤務条件の改善を求めた。被告は,これに対し,①年休が付与されていない乗 ともに,年休が付与されていない乗務員及び年休取得時の賃金が平均賃金方式により算定されているために年休を取得しにくい乗務員の勤務条件の改善を求めた。被告は,これに対し,①年休が付与されていない乗務員に対して年休を付与すること,②年休取得時の賃金が平均賃金方式により算定されている乗務員を含め,すべての乗務員に対し,6か月間,仮想営収方式による賃金を支払うこと,③平成16年12月21日から平均賃金方式を実施することを内容とする譲歩案を提示した。 組合執行委員長の原告A-13は,Zに対し,被告の譲歩案につき,平均賃金方式の実施時期が明示されているのでは,組合をまとめられない,何とかしてほしいと強く要望した。Zは「平均賃金方式の実施は,平成16年12月21日を目途,とする」との条項案を作成した上,被告代表者ほか役員に対し,交渉をまとめる。 ためにここまで築き上げた労使関係を一層発展させるべきであるし,その信頼関係があれば必ず平成16年12月21日から平均賃金方式の実施が可能になると信じていると述べて,被告代表者らを説得し,被告代表者もこれに同意した。 被告代表者は,平成16年6月16日,原告A-13から,今後想定される定時制乗務員の賃金減額を含む労働条件の改定について,誠心誠意努力することを一個人として誓約する旨の書面を差し入れさせた上で,平成16年6月16日付け労働- 16 -協約を締結した。 (前記前提事実(4,乙12,58,61))エ平成16年6月16日付け労働協約後の状況(ア)被告は,平成16年6月16日付け労働協約後,定時制乗務員に対して,年休の付与開始時期は平成16年6月21日から6か月が経過した時であると主張して,年休取得時の賃金の支払をしなかった(乙20の1)。 (イ)組合は,平成16年7月7日以降,被告との間 員に対して,年休の付与開始時期は平成16年6月21日から6か月が経過した時であると主張して,年休取得時の賃金の支払をしなかった(乙20の1)。 (イ)組合は,平成16年7月7日以降,被告との間で,定時制乗務員に対し直ちに年休を付与することなどを求めて交渉を行った。被告は,平成16年8月19日付け労働協約において,ようやく,定時制乗務員に対する年休の付与を認め,未払分を含めて年休取得時の賃金を支払った。 組合と被告は平成16年8月以降も団体交渉を継続的に行ったが,平成16年1,。 2月ころまでの間年休取得時の賃金の取扱いについて協議されることはなかった(前記前提事実(5,甲3,乙20から48まで(各枝番を含む))。)(ウ)被告は,平成16年12月21日,事務所に平成16年6月16日付け労働協約に基づき,同日から平均賃金方式を実施する旨の張り紙をした。また,被告は,同日,定時制乗務員(8勤務)の収入を安定させるとともに会社経営の観点から,定時制乗務員(8勤務)の歩合率につき,営業収入の額が28万円以上である場合は50%,28万円未満である場合は40%とする旨の張り紙をした(この。 取扱いは,すべての定時制乗務員(8勤務)の歩合率を従前の水準から引き下げて賃金を低い水準に押さえ,会社の収益を確保し,これにより経営を安定させようという狙いであった)。 (前記前提事実(6,甲5,乙49))(エ)組合は,平成17年1月8日,被告に対し,平成16年6月16日付け労働協約は平成16年12月21日を目途として平均賃金方式を導入できるよう,組合と被告とが協議を行うとの趣旨であり,組合との合意がない以上,平均賃金方式の導入は認められないとの申入れを行った。 - 17 -被告は,平成17年1月28日,平均賃金方式の実施を見送り,当面の間, 合と被告とが協議を行うとの趣旨であり,組合との合意がない以上,平均賃金方式の導入は認められないとの申入れを行った。 - 17 -被告は,平成17年1月28日,平均賃金方式の実施を見送り,当面の間,仮想営収方式を続行する旨の張り紙をした。 (前記前提事実(6,甲6,7))(),,,,オ被告は平成17年2月13日組合に対し平成17年2月21日から①年休取得時の賃金を健保日額方式により支払うこと,②定時制乗務員(8勤務)の歩合率を,営業収入の額が28万円以上の場合は50%,28万円未満の場合は40%とすることを申し入れた。 被告は,組合の同意を得ないまま,上記の取扱いを強行した。組合は,これに反撥して,川口労働基準監督署に対し通報するなどした。 (前記前提事実(7,甲8,弁論の全趣旨))(カ)川口労働基準監督署は,平成17年5月9日,被告に対し,①労働者の過半数で組織する労働組合との書面による協定がないにもかかわらず,年休取得時の賃金を健保日額方式で支払うことにした点について是正勧告をした。また,この是正勧告に付随して,②累進歩合制は過重労働を助長するおそれがあり,また,年休取得者の賃金が著しく低額となる等問題があるため労使で協議の上,廃止すること,③定時制乗務員(8勤務)の歩合率変更につき,同意がなく行われていることが窺われるので改善すること,④仮想営収方式の廃止等の労働条件の不利益変更は,労使の協議を十分に行い,その必要性や代替措置の有無等説明義務を尽くす必要があることなどの点が指導された。 被告は,平成17年7月9日,川口労働基準監督署に対し,上記①につき,労働者の過半数で組織する労働組合との書面による協定が存在しないことを認め,従前の基準に戻すこと,上記②につき,廃止する方向で被告から提案を行うこ 年7月9日,川口労働基準監督署に対し,上記①につき,労働者の過半数で組織する労働組合との書面による協定が存在しないことを認め,従前の基準に戻すこと,上記②につき,廃止する方向で被告から提案を行うこと,上記③につき,変更後の歩合率で納得してもらえるよう説明を尽くすことなどを内容とする是正報告書を提出した。 (甲14,15)(5)なお,被告は,本訴提起後の平成18年2月6日,川口労働基準監督署に- 18 -対し,上記(4)エ(オ)と同様の労働条件変更を内容とする就業規則変更を届け出ている。この届出に際し,組合に対する意見聴取が行われたが,組合はこれを拒否した(甲10,11,乙54)。 以上の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。 争点①(年休取得時の賃金の計算方法)について(1)平成16年6月16日付け労働協約によれば「制度そのものの改定は行,わない」との文言が何を指すのかはさておき,すべての乗務員との関係で平均賃金方式が実施されるまでの間は仮想賃金方式によることは明らかである。 (2)被告が主張するような合意,すなわち,平成16年12月21日又は被告において指定した数か月程度後の日から平均賃金方式を実施する旨の合意が成立したか検討する。 ア前記前提事実(4)のとおり,平成16年6月16日付け労働協約には,平均賃金方式の実施時期について,平成16年12月21日を目途とするとの記載があるだけで,確定的な実施時期の定めはないというほかない。 イ前記認定事実によれば,組合は,その結成以来,被告の採用する累進歩合制を維持したままで仮想営収方式を廃止して平均賃金方式を実施すると,年休取得時の賃金が著しく低くなり,年休の取得が困難になるとして平均賃金方式の実施に一貫して反対してきたこと,一方,被告は平均賃金方式の実施を試みてき 仮想営収方式を廃止して平均賃金方式を実施すると,年休取得時の賃金が著しく低くなり,年休の取得が困難になるとして平均賃金方式の実施に一貫して反対してきたこと,一方,被告は平均賃金方式の実施を試みてきたが,いずれも乗務員の反対から実現できずにいたこと,組合と被告は平成16年4月20日以降実務的な事柄について合意を形成できるようになるなど関係が改善する傾向にあったこと,被告側に立って組合との交渉を行っていたZは,上記認定の状況を背景として,組合との関係を維持発展させていけば平均賃金方式について同意が得られるものと考え,平均賃金方式の実施時期を明確にせずに「平成16年12月21日を目途とする」との案文を作成し,被告代表者らに対し,労使関係を一層発展させるべきであるし,その信頼関係があれば必ず平成16年12月21日から平均賃金方式の実施が可能になると信じているとの説得を行い,その結果,被告代表者に- 19 -おいて,平成16年6月16日付け労働協約に同意するに至ったこと,しかし,平成16年6月16日付け労働協約の取扱いについて疑義が生じ,平成16年8月19日付け労働協約が締結されるなどしたため平均賃金方式の導入時期についての交渉が行われなかったことが認められる。 ウ以上によれば,平成16年6月16日付け労働協約は,平均賃金方式の実施時期を定めたものではなく,その実施時期は新たな労働協約によって決定すべきことを合意したものというべきであり,これを覆すに足りる証拠はない。 エ被告は「目途」という表現があるのは,被告において,乗務員側の状況を,判断し,時期尚早と判断した場合,平成16年12月21日から数か月程度延期することがあり得るという程度の意味である旨主張する。 しかしながら,労使の交渉において合意文書が作成されるのは,まさにこのように,ど 時期尚早と判断した場合,平成16年12月21日から数か月程度延期することがあり得るという程度の意味である旨主張する。 しかしながら,労使の交渉において合意文書が作成されるのは,まさにこのように,どのような合意が成立したかという点でそごを防止するためであること,本件についてみると,労使双方の交渉の鍵となった平均賃金方式による実施時期について「目途」という曖昧で具体性のない文言で表現されており,具体的な時期については双方の話合いで決められることを予定したものであろうと思われ,その文言自体や平成16年6月16日付け労働協約が締結された経緯に照らして,被告主張の合意が成立したとは認め難い。このほか,本件全証拠によるも被告主張の合意を認めるに足りる証拠はない。 (3)以上によれば被告の主張は理由がない。 争点②(定時制乗務員(8勤務)の歩合率引下げ)についてこの点に関する被告の主張は,定時制乗務員(8勤務)の賃金算定の基準となる歩合率を変更するに至る被告側の事情を明らかにしているに止まり,主張内容それ自体から,例えば,労働協約の成立や就業規則変更というような正当理由とならないことは明らかであり,失当と言わざるをえない。 第4結語したがって,原告らの請求は,すべて理由があるから,これを認容することとし- 20 -て,主文のとおり判決する。 さいたま地方裁判所第5民事部裁判長裁判官小島浩裁判官岩坪朗彦裁判官小野寺健太- 21 -

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