令和6(わ)131 殺人未遂、傷害、建造物損壊、器物損壊被告事件

裁判年月日・裁判所
令和7年11月14日 水戸地方裁判所
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判決文本文5,028 文字)

令和7年11月14日宣告令和6年(わ)第131号 主文 被告人を懲役13年に処する。 未決勾留日数中360日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)第1 被告人は、茨城県日立市助川町1丁目1番1号日立市役所本庁舎東側大屋根広場で開催されていたイベントの会場内で自己の運転する自動車を走行させるなどして騒ぎを起こそうと考え、令和5年12月6日午後0時58分頃、前記 広場において、 1 イベントに参加していたA(当時44歳)及びB(当時46歳)に対し、同人らが死ぬ危険性が高いことを認識しながら、あえて自己の運転する普通乗用自動車を時速約47km まで加速させながらA及びBに向けて走行させ、同車右前部等をAに衝突させた上、同車と衝突したAの身体等をBに衝突させ、よっ て、⑴ Aに加療約6か月間の左大腿骨骨幹部骨折、左脛骨高原骨折、頭部打撲等の傷害を負わせたが、Aを死亡させるには至らず、⑵ Bに全治約33日間の右股関節打撲等の傷害を負わせたが、Bを死亡させるには至らず、 2 C(当時34歳)に対し、前記自動車を前記速度まで加速させながらCの身体の直近まで進行させ、同車との衝突を避けようとしたCをその場に転倒させる暴行を加え、よって、Cに全治約2週間の右大腿打撲傷の傷害を負わせた。 第2 被告人は、同日午後1時29分頃、同県那珂郡東海村東海3丁目7番1号東海村役場敷地内において、自己の運転する普通乗用自動車を同役場行政棟東側 玄関から同建物に向けて突入させて、同村村長Dが管理する同建物の自動ドア 等(損害額712万0300円)を損壊するとともに、同建物内のオフィスチェア等12点(損害額230万4379円)を損壊し、もって他人の建造物を損壊するとと 同村村長Dが管理する同建物の自動ドア 等(損害額712万0300円)を損壊するとともに、同建物内のオフィスチェア等12点(損害額230万4379円)を損壊し、もって他人の建造物を損壊するとともに、他人の物を損壊した。 (証拠の標目)記載省略(法令の適用)記載省略 (争点に対する判断) 1 弁護人の主張等について弁護人は、判示第1の殺人未遂及び傷害の事実について、被告人は被害者らがいた場所の相当手前を走行していた時点で意識障害が生じたとして、①意識障害が生じる前の被告人の行動は人を死傷させる現実的な危険性の高い行為ではなく、 意識障害が生じた後に被告人車両が被害者らの直近を進行したのは被告人の意思に基づくものではないから実行行為に当たらないし、②故意もなく、③被告人は当時、心神喪失又は心神耗弱の状態にあった旨主張する。 当裁判所は、被告人には殺人未遂罪及び傷害罪が成立し、完全責任能力が認められると判断したので、その理由を補足して説明する。 2 実行行為について⑴ 速度鑑定を行ったE技官の証言、被害者A、B及びCの証言並びに防犯カメラ映像等を始めとする関係証拠によれば、①被告人は、運転していた車両を市役所のロータリーから自動車の進入が禁止された敷地内に進入させ、広場で開催されていたイベント会場に向けて時速約47㎞まで加速させながら走行させ て車両右前部等をAの足に衝突させたこと、②BはAの二、三十cm 横に立っており、被告人車両と衝突したAの身体等がBの身体に衝突したこと、③被告人車両はA及びBの面前にあったイベント出店用の長机等をなぎ倒しながら走行し、進路の右前方にいたCは、直近を通る被告人車両との衝突を避けようとして転倒したことが認められる。 このような被告人車両の速度等を基礎付 にあったイベント出店用の長机等をなぎ倒しながら走行し、進路の右前方にいたCは、直近を通る被告人車両との衝突を避けようとして転倒したことが認められる。 このような被告人車両の速度等を基礎付けるE技官の証言は、防犯カメラ映 像等の客観的な証拠を分析した合理的な見解であって、その判断過程に疑問を差し挟むべき点は見当たらず、高い信用性が認められる。また、被害時の位置関係等に関するA、B及びCの証言に特段不合理な点は見当たらず、十分に信用できる。 ⑵ 以上のように、被告人は、本来自動車が進入するはずのないイベント会場内 に何人もの人がいる中を、時速約47㎞まで加速して車両を走行させ、現にAに直接衝突させているのであるから、こうした被告人の運転行為はA及びそのすぐそばにいたBを死亡させる現実的な危険性の高い行為と認められる。また、被告人はそのような速度で、Cに回避の行動をとらせるほど近い距離を走行しているから、被告人の運転行為はCの身体に対する有形力の行使と認められる。 したがって、被告人の運転行為は殺人及び傷害の実行行為に該当する。 ⑶ これに対し弁護人は、被告人は被害者らのいた場所の相当手前で意識障害が生じていたなどと主張する。 しかし、神経内科医のF医師は、事件当日に撮影されたCT画像や事件後約4か月後と約5か月後に撮影されたMR画像等を精査した結果、被告人には脳 疾患による意識障害を疑うべき所見は一切認められないと証言し、また、精神科医のG医師は、精神鑑定の結果、被告人は反社会性パーソナリティ障害と診断され、統合失調症にはり患していないこと、服用薬の半減期は数時間単位であり、意識障害が生じれば数秒程度で回復することはないので、服用薬の影響による意識障害は考えられないことを証言しており、両医師とも意識障害 合失調症にはり患していないこと、服用薬の半減期は数時間単位であり、意識障害が生じれば数秒程度で回復することはないので、服用薬の影響による意識障害は考えられないことを証言しており、両医師とも意識障害が生 じたことを明確に否定している。F医師及びG医師の見解は、それぞれ専門的知見と豊富な経験に基づく合理的なものであって、その判断過程に疑問を差し挟むべき点は見当たらず、十分に信用できる。 そして、E技官、A及びBの証言や防犯カメラ映像等の証拠のほか、被告人車両に同乗していた母の証言によれば、①被告人は前方を見据えた体勢で車両 を運転し、消火栓等の堅固な構造物を避けつつイベント出店用の長机等をなぎ 倒して走行した後、駐車車両に衝突して停止したこと、②被告人はすぐさま二、三回切り返し、構造物に接触することなく方向転換をして市役所の敷地外に走り去ったこと、③被告人車両が駐車車両に衝突して停止した後、被告人には意識障害をうかがわせるような言動はなかったことが認められる。こうした被告人車両の一連の走行状況等に照らして、被告人は周囲の状況を把握して自らの 目的に適った的確な運転操作を行い、車両を走行させていたということができ、このことからみても、被告人に意識障害が生じていたとは全くうかがわれない。 そうすると、被告人には弁護人のいうような意識障害は生じていなかったと認められる。 ⑷ 弁護人はまた、持病の影響で脳幹等の血管が閉塞したことによる一過性脳虚 血発作、統合失調症による脳の萎縮、服用薬の多量摂取による副作用のいずれか、あるいはこれらが複合的な要因となって意識障害が生じた疑いがあるなどとも主張するが、信用できるF医師及びG医師の証言にそぐわない指摘であって、採用できない。その他、弁護人が種々主張する点を踏まえても、被告 はこれらが複合的な要因となって意識障害が生じた疑いがあるなどとも主張するが、信用できるF医師及びG医師の証言にそぐわない指摘であって、採用できない。その他、弁護人が種々主張する点を踏まえても、被告人に意識障害が生じていたという合理的な疑いは残らない。 3 故意について被告人は、上記のとおり意識障害が生じてはおらず、自らの意思に基づいて被告人車両を運転して走行させたのであり、また、当公判廷で、市役所の敷地内に進入した際に右前方に人が数人いることが分かった旨を供述しているから、その運転行為がA及びBを死亡させる現実的な危険性の高い行為であることや、Cの 身体に有形力を及ぼす行為であることを当然に認識できる状況にあったといえる上、市役所から走り去った後、母に対し「あと何人の死体を積み重ねればいいんだ」などと、人が死傷するような行動に及んだのを前提とする発言をしていることからすると、被告人には殺人及び暴行の故意があったと認められる。 4 責任能力の有無及び程度について 信用できるG医師の証言によれば、①被告人は反社会性パーソナリティ障害と 診断され、同障害は性格傾向を示すものであること、②被告人は統合失調症ではなく、幻覚はないこと、③被告人の知的水準はIQ70と正常域下限又は軽度の精神遅滞の水準であることが認められる。 そして、被告人は当公判廷で、事件の動機について、母に対しクレジットカードを停止した方法や車を隠していた場所を問い詰めたが、頑なに回答を拒まれた ため、会場の机に車をぶつけたりすれば話してもらえると考えたなどと供述しており、その動機は現実に起きた出来事を基礎としていて、およそ了解が不可能なものではなく、手段も目的に沿ったものといえる。また、被告人は、市役所から走り去った後、警察の車が付いて来 えたなどと供述しており、その動機は現実に起きた出来事を基礎としていて、およそ了解が不可能なものではなく、手段も目的に沿ったものといえる。また、被告人は、市役所から走り去った後、警察の車が付いて来ているかと母に確認しており、自分が違法な行為をしたことを認識していたと認められる。以上に加え、被告人が運転免許を 取得して日常的に自動車を運転していたほか、事件の数日前に就職して仕事をしていたことなどからすれば、被告人は、その知能指数の水準を踏まえても、自分の行動がしてはいけないことかどうかを判断し、行動を思いとどまる能力を十分に有していたということができ、そうした能力が著しく低くなっていた疑いはない。 したがって、被告人は犯行当時、完全責任能力を有していたと認められる。 5 以上のとおり検討し、被告人には殺人未遂罪及び傷害罪が成立し、完全責任能力が認められると判断した。 (量刑の理由)量刑の中心となる殺人未遂及び傷害について検討すると、被告人は、自動車の進 入が禁止されているイベント会場で時速約47㎞まで急加速しながら自動車を走行させてイベントの参加者に衝突させるなどしており、その態様は、居合わせた者を無差別に対象とし、短時間に多くの死傷者を生じさせかねない危険なものであって、相当悪質である。加療約6か月間の重篤な傷害を始めとして3名の被害者に傷を負わせたほか、被害者らに多大な恐怖心を抱かせるなど、結果にも重いものがあり、 全く落ち度がないのに突如として無差別的な犯行の被害に遭った被害者らの処罰感 情が険しいのも当然である。母を問い質したが望むような反応を得られなかったので騒ぎを起こしたなどという動機や経緯は甚だ身勝手かつ短絡的というほかなく、反社会性パーソナリティ障害や知能指数の水準が影響した可能性を踏 当然である。母を問い質したが望むような反応を得られなかったので騒ぎを起こしたなどという動機や経緯は甚だ身勝手かつ短絡的というほかなく、反社会性パーソナリティ障害や知能指数の水準が影響した可能性を踏まえても、大きく考慮すべき事情は見出し難い。さらに、被告人は、殺人未遂等の犯行に引き続いて、村役場の庁舎に自動車を突入させて建造物損壊及び器物損壊の犯行を敢行し、 約942万円もの多額の損害を生じさせており、その動機や経緯にもやはり酌むべき事情は見当たらない。こうした犯情に照らすと、本件は、無差別の被害者に対する殺人未遂の事案の中で重い部類に位置付けられる。 その上で、被告人が殺人未遂等について不合理な弁解に終始し、真摯な反省の態度が見られないこと、建造物損壊等については事実を認めていることなどの事情も 考慮し、主文の刑を定めた。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑懲役15年)令和7年11月14日水戸地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官有賀貞博 裁判官君塚知弥子 裁判官宮澤裕登

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