令和3(ワ)351 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年4月24日 熊本地方裁判所
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判決文本文24,118 文字)

主文 1 被告らは、原告に対し、連帯して2772万円及びこれに対する平成28年3月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを25分し、その4を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告らは原告に対し、連帯して3300万円及びこれに対する平成28年3月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の要旨本件は、管工事の設計・施工、空気環境調和設備工事、冷暖房設備及び冷凍装置工事の設計・施工、合成樹脂の加工等を目的とする会社である被告らで勤務していた原告が、肺がん及び振動障害を発症したのは、被告らの不法行為ないし安全配慮義務違反により、大量の石綿粉じんにばく露し、また、長時間の振動作業に従事したためであるとして、不法行為ないし債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づき、被告らに対し、連帯して3300万円(包括請求)並びにこれに対する肺がん及び振動障害の発症日のうちより遅い平成28年3月9日から、又は催告の日の翌日である令和2年11月13日から、民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(争いのない事実並びに後掲証拠等により容易に認定できる事実)(1) 当事者等ア被告株式会社日本冷熱(以下「被告長崎社」という。)は、昭和41年1 0月1日、管工事の設計・施工、空気環境調和設備工事、冷暖房設備及び冷凍装置工事の設計・施工、合成樹脂の加工その他を目的として設立された株式会社である。 イ )は、昭和41年1 2 0月1日、管工事の設計・施工、空気環境調和設備工事、冷暖房設備及び冷凍装置工事の設計・施工、合成樹脂の加工その他を目的として設立された株式会社である。 イ 被告株式会社日本冷熱天草工場(以下「被告天草社」という。)は、昭和53年5月31日、被告長崎社と目的を同じくして同社から分社した株式会社である。 ウ 被告長崎社は、昭和46年6月、熊本県天草市松島町に工場を完成させて管理し(以下、同工場を「天草工場」という。)、被告天草社は、昭和53年6月1日以降、天草工場の管理及び事業(工場での生産)を被告長崎社から請け負った。 エ 原告は、昭和46年2月12日から昭和53年5月31日までは、被告長崎社に雇用され、昭和53年6月1日から平成5年12月31日まで及び平成13年1月8日から平成17年7月31日までは、被告天草社に雇用されていた。 なお、原告は、昭和46年2月12日から昭和47年4月頃まで、被告長崎社から三菱重工長崎造船所に派遣された。 (2) 原告の疾病及び労災認定ア 肺がん(ア) 原告は、平成16年5月11日にアスベスト肺の診断を受けた後、じん肺管理区分1の認定を受けて健康管理手帳の交付を受けたところ、平成28年3月30日、左上葉肺粘液性腺がん(原発性)と診断された。 その後原告は、被告らの業務において石綿にばく露したことにより肺がんに罹患したとして、労災認定を受けた。(甲A1・2頁、甲A3、甲A10)(イ) 被告長崎社は、上記労災認定手続における天草労働基準監督署による原告の雇用期間中の業務ないし作業内容等に関する聴取に対し、原告 3 は、昭和46年2月12日から昭和47年4月30日まで造船現場における保温工事、同年5月1日から昭和51年3月31日まで研磨作 の雇用期間中の業務ないし作業内容等に関する聴取に対し、原告 3 は、昭和46年2月12日から昭和47年4月30日まで造船現場における保温工事、同年5月1日から昭和51年3月31日まで研磨作業、同年4月1日から昭和60年4月30日までゲルコート作業、同年5月1日から昭和63年4月30日まで風車型(積層・研磨)、同年5月1日から平成5年12月31日までプール(アクリル積層)、平成13年1月8日から平成17年7月31日まで各種型整備・型磨きといった各作業に従事し、造船現場での保温工事においては、石綿等を含有する保温材を使用した可能性がある旨回答した。(甲A1・2頁)イ 振動障害(ア) 原告は、平成17年8月1日、振動障害と診断された後、被告らの業務において振動作業に従事したことにより振動病に罹患したとして、労災認定を受けた。(甲B1、3)(イ) 被告天草社は、上記労災認定手続における天草労働基準監督署による原告の雇用期間中の業務ないし作業内容等に関する聴取に対し、原告は平成13年1月8日から平成17年7月31日まで、FRP工として仕上げや型磨きの作業に従事し、使用頻度の高い順に、圧搾空気を動力源とする回転工具であるバーティカルポリッシャー、シングルサンダー及び空気式サンダーを、いずれも防振装置を付けずに使用した旨回答した。(甲B5)(3) 石綿について石綿は、ほぐすと綿のようになる一群の繊維状鉱物の総称であり、クリソタイル、アモサイト、クロシドライト等に分類される。石綿は、紡織性、抗張力、耐熱性などにその特長を有しており、古くから紡織品、建築材料等に広く使用されてきた。 わが国では、高度経済成長に伴って石綿の消費量が大きく伸び始め、昭和40年代半ばから昭和60年代にかけて大量消費が続いたが、平成2年頃か 4 、古くから紡織品、建築材料等に広く使用されてきた。 わが国では、高度経済成長に伴って石綿の消費量が大きく伸び始め、昭和40年代半ばから昭和60年代にかけて大量消費が続いたが、平成2年頃か 4 ら急激に消費量が減少し、平成18年9月には、石綿含有製品の製造、使用等がほぼ全面的に禁止されるに至り、石綿の消費はほとんどなくなった。 (4) 振動作業について振動作業とは、ピストンによる打撃機構を有する工具やエンジンカッター等の内燃機関を内蔵する工具等振動を発生する工具を取り扱う作業である。 一般的に、ピストンによる打撃機構を有する工具である削岩機を使用する際に生じる振動は、回転工具を使用する際に生じる振動よりも強く、圧搾空気を動力源とする振動工具を使用する際に生じる振動は、電気を動力源とする振動工具を使用する際に生じる振動よりも弱い。 3 関係法規等(1) 労働基準法(昭和47年法律第57号による改正前のもの)は、使用者が粉じん等による危害を防止するために必要な措置を講ずべき義務を定め(42条)、労働者は危害防止のために必要な事項を遵守しなければならいないものとする(44条)。また、同法は、使用者は、労働者を雇い入れた場合にその労働者に安全衛生教育を実施しなければならないものとする(50条)。 同法42条及び43条の規定により使用者が講ずべき措置及び労働者が遵守すべき事項は、命令に委任されており(45条)、労働安全衛生規則(昭和22年労働省令9号)は、使用者に、有害物たる粉じんに関して、粉じんを発散する作業場の作業又は施設の改善(172条)、局所における吸引排出等による換気等の措置(173条)、粉じんを発散し衛生上有害な場所への立入禁止及びその掲示義務(179条)、保護具の使用(181条)等、労働者の粉じんばく 設の改善(172条)、局所における吸引排出等による換気等の措置(173条)、粉じんを発散し衛生上有害な場所への立入禁止及びその掲示義務(179条)、保護具の使用(181条)等、労働者の粉じんばく露を防止するための各種の措置をとるべきことを義務付けた。 (2) じん肺法(昭和35年法律第30号)は、同法が適用される「粉じん作業」について、「石綿を解きほぐし、合剤し、紡績し、紡織し、吹き付けし、積み込み、若しくは積み卸し、又は石綿製品を積層し、縫い合わせ、切断し、研磨し、仕上げし、若しくは包装する場所における作業」を含むこととし(同 5 法2条1項3号、3項、じん肺法施行規則2条、別表24号)、事業者(昭和52年法律第76号による改正前のじん肺法にあっては「使用者」)に対し、粉じんの発散の抑制、保護具の使用等について適切な措置を講ずるよう努めること(同法5条)、常時粉じん作業に従事する労働者に対しじん肺の予防及び健康管理のために必要な教育を行うこと(同6条)、常時粉じん作業に従事する労働者に対しじん肺健康診断を行うこと(同7条、8条)などを義務付けている。 (3) 昭和50年10月20日付け労働省通達「チエンソー以外の振動工具の取扱い業務に係る振動障害の予防について」(甲B11)は、工具の選定基準(振動が伝達しにくいものであること、ハンドル等に防振材料が取り付けられていること、軽量のものであること、推力が自重で得られるものであること等)、振動作業の作業時間の管理(振動業務に従事しない日を設けること、1日における振動業務の作業時間はできるだけ短時間とすること、一連続作業時間はおおむね30分以内とし、一連続作業の後5分以上の休止時間を設けること等)、作業方法(ハンドル以外の部分は持たないこと、作業方法としてハンドルを強く握った きるだけ短時間とすること、一連続作業時間はおおむね30分以内とし、一連続作業の後5分以上の休止時間を設けること等)、作業方法(ハンドル以外の部分は持たないこと、作業方法としてハンドルを強く握ったり手首に強く力を入れたりすることは避けること等)の指導、作業標準の設定、施設の整備(適切な暖房設備を有する休憩室を設けること、手洗い等のため温水を供給する措置を講ずること等)、保護具の支給と使用の徹底、作業開始時及び終了時の体操の実施、健康診断の実施とその結果に基づく措置等について定めている。 (4) 昭和49年1月28日付け労働省通達「振動工具(チエンソー等を除く。)の取扱い等の業務に係る特殊健康診断について」(甲B12)は、対象となる振動工具を用いる業務に常時従事する者に対し、定期的に健康診断を実施すべきこと及び健康診断の項目を定め、昭和50年10月20日付け労働省通達「振動工具の取扱い業務に係る特殊健康診断の実施手技について」(甲B13)は、上記健康診断の具体的な手技を定めている。 6 4 争点(1) 原告の石綿粉じんへのばく露の有無と程度(2) 原告の振動作業への従事の有無と程度(3) 被告らの安全配慮義務違反(4) 相当因果関係(5) 損害5 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(原告の石綿粉じんへのばく露の有無と程度)について(原告の主張)ア 原告は、昭和46年2月から昭和47年4月まで、被告長崎社から三菱重工長崎造船所に派遣され、船舶のボイラーや配管から古い保温材をはがして新しい保温材を装着する保温工事に従事し、石綿繊維、石綿布団、石綿布、石綿含有土といった形状の保温材を扱った。上記保温工事においては、石綿繊維を手に取ってボイラー回りの鉄の升に詰める、石綿繊維 して新しい保温材を装着する保温工事に従事し、石綿繊維、石綿布団、石綿布、石綿含有土といった形状の保温材を扱った。上記保温工事においては、石綿繊維を手に取ってボイラー回りの鉄の升に詰める、石綿繊維を布団に詰めて石綿布団を作成する、石綿布を適宜の大きさに切断する、石綿布石綿含有土(粉末の入った袋に「日本アスベスト」との記載があった)を水で練って塗布するなどしており、それぞれの工程において石綿が飛散し、原告はこれにばく露した。 加えて、被告長崎社から派遣された他の造船所においては、内装工と同時並行で船舶内のダクトの保温作業を行うこともあったため、原告が作業をしている横で、内装工が内装用防火板を丸のこで切断する際に飛散した粉じんにもばく露した。 イ 原告は、天草工場においてFRP製造作業に従事した際、石綿の一種であるカレドリア・クリソタイルを含有したパテを用いた製品の研磨ないし切断作業に多く従事し、自ら5ないし10kgの樹脂に、石綿の一種であるカレドリア・クリソタイルを混ぜてFRPのパテを作成することがあっ 7 たところ、いずれの作業でもカレドリアの粉じんが舞い、原告はこれらにばく露した。 なお原告は、カレドリアが石綿の一種であることを本件提訴直前に知ったため、労災認定に係る手続においてはパテに言及しなかった。 ウ また、原告は、石綿繊維を含むカーテンが掛けられた移動型の乾燥設備に出入りし同カーテンを手でめくるなどしており、その粉じんにばく露した。さらに、天草工場の乾燥室には、断熱用の石綿布が巻かれた暖房用の鉄製ダクトが配管されており、老朽化した石綿布の粉じんが、ダクトから排出される熱風で室内に飛散しており、原告はこれにばく露した。 (被告らの主張)ア 派遣先の造船所における作業は、 鉄製ダクトが配管されており、老朽化した石綿布の粉じんが、ダクトから排出される熱風で室内に飛散しており、原告はこれにばく露した。 (被告らの主張)ア 派遣先の造船所における作業は、研修としての要素があるから、原告は現場では余剰人員として就業していたものと考えられるし、保温工事の他に、FRP製品の補修工事や糧食冷蔵庫の工事があったことから、保温工ではなくFRP工として入社した原告が、従事期間中保温工事のみに従事していたとは考え難い。 また、内装工事と保温工事は同時並行でなされることはない。 イ FRPのパテの材料としてカレドリア・クリソタイルを使用していたことについては認める。しかしながら、原告のパテの使用頻度及び量は極めて少ない上、樹脂がアメ状であるから、石綿の粉じんが生じることは考え難い。また、多くの製造過程において、パテを作業者自らが作成するということはなかった。 ウ 原告の主張する移動型の乾燥設備の有無は不知。原告は労働基準監督署の調査や本件訴訟の序盤において従前、乾燥室の硬化炉のカーテンに石綿繊維が含まれていた旨主張していた(実際にはビニール製である)ところ、主張が変遷しており、信用性が低いから、石綿のカーテンがあったとは考え難い。 8 (2) 争点(2)(原告の振動作業への従事の有無と程度)について(原告の主張)ア 昭和47年5月から昭和55年1月まで原告は、天草工場において、小型船舶のFRP部品(生簀の蓋、エンジンカバー、物入等)の切断作業や内側表面の研磨作業に従事した。切断作業では切断砥石付きの小型丸ノコを、研磨作業では電気サンダーを使用した。 原告は、上記就労期間中、平均して1日8時間(休憩時間は午前及び午後各10分間、昼休憩は40分間。約1時間は振動作 切断作業では切断砥石付きの小型丸ノコを、研磨作業では電気サンダーを使用した。 原告は、上記就労期間中、平均して1日8時間(休憩時間は午前及び午後各10分間、昼休憩は40分間。約1時間は振動作業以外に従事。)、月26日程度、振動作業に従事した。 イ 昭和59年9月から同年12月まで原告は、被告天草社から長崎県にある三菱重工の工場に派遣され、LNG液化天然ガスを通すパイプの防熱・防水工事において、ウレタンの切断作業や研磨作業に従事した。研磨作業及び切断作業共に、被告天草社から支給されたエアーサンダー、エアーマイトンを使用した。 原告は、上記就労期間中、少なくとも1日9時間、月26日程度(休憩時間は午前及び午後各10分間、昼休憩は1時間。約3時間は振動作業以外に従事。)、切断作業や研磨作業に従事した。 ウ 昭和60年1月から同年4月まで原告は、天草工場において、冷蔵庫扉のFRP加工作業に従事し、バイブレーターを1か月当たり13日、1日当たり2、3時間程度使用した。 エ 昭和60年5月から平成元年4月まで原告は、被告天草社から長崎県にある三菱重工の工場に派遣され、風力発電事業に用いる部品(羽根)の研磨及び整形作業に従事した。研磨作業及び切断作業共にエアーサンダー、エアーマイトンを使用した。 原告は、上記就労期間中、少なくとも1日7時間、月26日程度(休憩 9 時間は午前及び午後各10分間、昼休憩は1時間)、切断作業や研磨作業に従事した。 オ 平成元年5月から平成5年12月まで原告は、被告天草社で、学校用プール製造におけるFRP製のプール部品の切断及び研磨作業に従事し、ミニサンダーを使用した。 原告は、上記就労期間中、1 5月から平成5年12月まで原告は、被告天草社で、学校用プール製造におけるFRP製のプール部品の切断及び研磨作業に従事し、ミニサンダーを使用した。 原告は、上記就労期間中、1日9時間(休憩時間は午前及び午後各10分間、昼休憩は40分)、月6日程度、振動工具を使用する作業に従事し、1か月10日程度は2時間程度の残業があった。 カ平成13年1月から平成17年7月まで原告は、被告天草社で、風車のモーターカバーの整備(1日7ないし9時間、月23日程度)、LNG液化天然ガス防熱工事(1日7時間、月23日程度)、学校用プールの製作(1日7時間、月20日程度)、し尿処理場プールの蓋の磨き(1日5時間、月15日程度)、納骨堂の型の磨き(1日3時間、月10日程度)といった作業に従事した。 (被告らの主張)各年の具体的な作業内容は不知であるが、原告が振動工具を専門に扱っていたことはないし、原告の給与台帳(乙3)によれば、原告の作業時間は、平成4年度が、年間稼働248日、総時間2090時間、1日平均8.4時間、平成5年度が、年間稼働229日、総時間1973時間、1日平均8. 6時間であるから、原告が長時間振動作業に従事していたという事実はない。 (3) 争点(3)(被告らの安全配慮義務違反)について(原告の主張)ア肺がんについて被告らは、遅くとも、石綿ばく露による肺がん罹患の危険性に係る医学的知見が確立された昭和46年以降、原告を含む従業員らとの間の雇用契約に基づき、派遣先の造船所及び天草工場内で勤務する原告を含む従業員 らの石綿粉じんばく露の危険性を無くすべく、適切なマスクの配布及び着用の指示、石綿の危険性についての安全教育、局所排気装置の設置、休憩の際は従業員を石 場内で勤務する原告を含む従業員 10 らの石綿粉じんばく露の危険性を無くすべく、適切なマスクの配布及び着用の指示、石綿の危険性についての安全教育、局所排気装置の設置、休憩の際は従業員を石綿ばく露から隔離すること及び定期健康診断の実施等、実効的な対策を講じるべき信義則上の安全配慮義務を負っていた。 被告らは、昭和47年頃に、保温作業の際にはマスクをするようにと一応指導をしたものの、これを徹底せず、上記対策を講じることを怠った。 イ 振動障害について被告らは、遅くとも、昭和50年以降は、各通達に定められているとおり、選定基準に従った工具の選定、振動作業の管理、作業方法の指導、作業標準の設定、施設の整備、保護具の支給と使用の徹底、体操の実施、健康診断の実施とその結果に基づく措置の実施、安全衛生教育の実施といった実効的な振動障害の予防策を講じるべき信義則上の安全配慮義務があった。 しかしながら被告らは、これらの対策を講じることを怠った。 (被告らの主張)ア 肺がんについて被告らは、原告を含む従業員らにマスクを配布し着用を指示したが、原告は従わなかった。その余は争う。 イ 振動障害について被告らが防振手袋を配布していなかったことは認め、その余は争う。 (4) 争点(4)(因果関係)について(原告の主張)ア 肺がんについて原発性肺がんは石綿ばく露の特定疾患として広く知られていることに加え、肺がんの手術後の検査では、原告の肺に石綿吸引に特異な病変であるプラーク所見が認められた。 11 原告は、被告らにおける就労以外には石綿にばく露していないから、原告の肺がんと被告らの上記安全配慮義務違反による石綿のばく露との因果関係が認められることは明らかである。 イ 11 原告は、被告らにおける就労以外には石綿にばく露していないから、原告の肺がんと被告らの上記安全配慮義務違反による石綿のばく露との因果関係が認められることは明らかである。 イ 振動障害について原告の上肢の症状(末梢循環障害、末梢神経障害及び運動機能障害)は、振動作業に継続的に従事することにより発症する障害である振動障害に特有のものである。 原告は、被告らにおける就労において最も長い期間、振動作業に従事しているから、原告の振動障害と被告らの上記安全配慮義務違反による振動作業への従事との因果関係が認められることは明らかである。 ウ 被告らが連帯責任を負うこと原告は、被告らにおいてそれぞれ、長期間にわたって、石綿にばく露するような作業や振動作業に従事しており、いずれも単独で肺がんや振動障害を発症させるに足るものであったから、被告らはいずれも、原告に生じた全損害について連帯して責任を負う。 また、仮に被告らにおける石綿へのばく露及び振動作業への従事が相加的影響を及ぼしたにとどまり、被告らにおける石綿へのばく露及び振動作業への従事が重なって原告に損害が生じたとしても、被告らは、石綿への継続的なばく露や振動作業への継続的な従事が健康被害を生じることを予見し得、かつ被告らにおける作業内容が共に石綿や振動工具を取り扱うものであることを認識し得たから、いずれも、原告に生じた全損害について連帯して責任を負う。 (被告らの主張)いずれの疾病との因果関係についても争う。 振動障害について、原告は被告天草社を平成5年12月31日に退職して平成13年1月に再度被告天草社に就職するまでの間、他企業で就労し、一 12 部の企業においては、被告らで使用された振動工具よりも振動の強い削岩機 被告天草社を平成5年12月31日に退職して平成13年1月に再度被告天草社に就職するまでの間、他企業で就労し、一 12 部の企業においては、被告らで使用された振動工具よりも振動の強い削岩機を用いた作業に従事しており、振動障害の発症は同作業によるものと考えられる。 (5) 争点(5)(損害)について(原告の主張)肺がんに罹患し呼吸機能が低下したこと及び振動障害を発症し後遺症等級11級相当の後遺症が残存したことを併せると、原告に生じた包括的損害は3000万円を下らない。また、上記損害と相当因果関係のある弁護士費用は、300万円を下らない。 (被告らの主張)争う。 第3 当裁判所の判断1 認定事実前記前提事実及び各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (1) 被告長崎社派遣先の造船所における作業の内容等(前提事実(1)エ、甲A15・1頁、甲A24・1、2頁、証人A・2頁、証人B・2頁、原告本人・2頁)ア 原告を含む昭和46年2月に被告長崎社に入社した従業員らは、入社後、被告長崎社の長与工場、三菱重工長崎造船所又は佐世保船舶工業のいずれかに派遣され、研修として、先輩従業員の作業を手伝うなどした。 イ 原告を含む約5名の従業員は、三菱重工長崎造船所に派遣されたところ、同造船所には鉄工部及び防熱部があり、新船の建設と修繕船の改修のいずれも行っていた。原告は防熱部に配属され、昭和47年4月30日まで保温工事に従事した。 13 (2) 被告らにおけるFRP製品製造等の内容ア FRP製品製造工程について(ア) 被告長崎社の管理する天草工場(昭和53年6月1日以降は被告天草社による管理である(前提事実(1)ウ)。以下同じ。)では、昭和47年7月以降、ヤマハ発動機株式 FRP製品製造工程について(ア) 被告長崎社の管理する天草工場(昭和53年6月1日以降は被告天草社による管理である(前提事実(1)ウ)。以下同じ。)では、昭和47年7月以降、ヤマハ発動機株式会社の船舶に使われるフレームやハッチ等のFRP製ボート部品や、FRP製船舶の製造を受託していた。(甲A15・2頁、甲A17・1頁、甲A24・3頁、乙10・1頁)(イ) 天草工場における製造ラインは、ヤマハ発動機株式会社の船舶に使われるボート部品、ユニットバス成形、一般化成品の3つに分けられ、ボート部品及びユニットバス成形については、各作業工程(FRP製品一般に共通して、概要、生産型を作って離型処理をし、ゲルコートを吹き付け、ゲルコートが硬化した後にガラスマットを積層し、脱泡用ローラーを用いて脱泡し、硬化後脱型の上、研磨等の仕上げを行う、というもの)について従事者が原則として固定されていたが、一般化成品については、作業内容や従事者が固定されていなかった。(乙9・1、2頁、乙10・2頁、証人C・11、12頁、証人D・4ないし6、14頁、証人B・15、30ないし32頁、原告本人・28頁)(ウ) 原告は、上記各製造ラインのいずれの工程についても従事することがあったが、ボート部品のラインにおいては、主に研磨や切断作業に従事した。(甲A24・3、4頁、乙9・2頁、乙10・2頁、証人D・15頁、証人B・16頁)イ FRP製品製造用パテについて(ア) ヤマハ発動機株式会社は、昭和45年頃から、石綿を含まないミッシュマッシュペーストが用いられるようになった昭和55年頃までの間、公進ケミカル株式会社から、アスベストペーストと呼ばれるアスベストが含まれたFRP接着用パテを仕入れて使用しており、同パテは被告ら にも有償支給されていた。( た昭和55年頃までの間、公進ケミカル株式会社から、アスベストペーストと呼ばれるアスベストが含まれたFRP接着用パテを仕入れて使用しており、同パテは被告ら 14 にも有償支給されていた。(調査嘱託回答書、甲A17・2頁、証人C・5、10、11頁、証人D・1頁、証人B・25頁)(イ) 天草工場の一般化成の製造ラインでは、パテの調合を専門的に行う従業員が存在し、原則として同従業員がパテを作成していたが、FRP製品製造に従事する作業者が自らパテを作成する必要があることもあったため、原告は石綿の一種であるカレドリア・クリソタイルを用いて自らパテを作成することがあった。(甲A24・5頁、証人D・1、2頁、証人B・27ないし29頁、原告本人・10、37頁)(ウ) パテは、①船舶の本体に部品を接着するため、②船舶の本体と部品のすきまを埋めるため、③脱泡作業後の凹凸を充填するため、④脱泡作業の際に脱泡用ローラーが入らない製品の隅に塗って気泡を押し出すため等、様々な目的のために用いられた。 接着に用いたパテが部品同士の隙間からはみ出たり、充填に用いたパテによって凹凸が生じたり、気泡が生じたりした部分は、エアーサンダーや紙やすりを用いて研磨する必要があり、研磨の際は作業者の周囲に粉じんが生じた。(甲A17・2頁、甲A24・4頁、証人C・7、8、11、12、15ないし17、24頁、証人D・5ないし7、28頁、証人B・13、14頁、原告本人・28頁)ウ 天草工場の作業環境等について天草工場内には、一定の間隔ごとに換気扇が設置されていたものの、研磨作業等により生じた粉じんが肉眼で見えたり衣服等に付着したりする程度に舞っていた。(証人A・8頁、証人D・12頁、証人B・9、10、34頁)エ 被告らにおける振動作業等について被告らにお 磨作業等により生じた粉じんが肉眼で見えたり衣服等に付着したりする程度に舞っていた。(証人A・8頁、証人D・12頁、証人B・9、10、34頁)エ 被告らにおける振動作業等について被告らにおいて用いられた振動工具は、従前、電気を動力源とするものであったが、被告天草社では、昭和55年2月から昭和59年8月頃まで 15 の間に、圧搾空気を動力源とする振動工具が使用されるようになった。(証人D・20、21頁、原告本人・10頁)(3) 被告らによる安全教育等についてア 石綿について(ア) 被告らは、原告を含む従業員に対し、入社時に、防じんマスク、防毒マスクを配布し、作業時にマスクをするよう指導し、これらのマスクのフィルターは従業員が各自で自由に交換できるようにしていた。ただし、これらのマスクは石綿に対応したものではなく、マスクを着用すべき場所やフィルターの交換頻度等の指導はされなかった。(乙10・2 頁、甲A24・3頁、証人B・22、43頁)(イ) 被告らは、原告を含む従業員らに対し、石綿の危険性に係る教育やじん肺健康診断を実施したことはなかった。 (証人B・36頁、原告本人2、34頁)(ウ) 天草工場では、安全担当の従業員が事故防止のため作業現場を見回っていたところ、マスクを着用していない従業員にはマスクを着用するよう指導することがあった。しかし、従業員らの中には、マスク着用の指導が厳しくなった昭和53年頃までは、作業時の息苦しさ等から、マスクを着用しない者もいた。(乙10・2頁、甲A22・5頁、甲A24・3頁、証人A・8頁、証人C・21、22、25頁、証人D・11頁・証人B・6、10頁)イ 振動作業について(ア) 被告らが原告を含む従業員に配布した作業用手袋は防振用のものではなく、防 4・3頁、証人A・8頁、証人C・21、22、25頁、証人D・11頁・証人B・6、10頁)イ振動作業について(ア) 被告らが原告を含む従業員に配布した作業用手袋は防振用のものではなく、防振工具が配布されたこともなかった。 (証人B・16、43頁、原告本人・22頁)また、被告らの工場内の休憩室には、冬季にはストーブが設置されていたが、その他の暖房設備はなく、洗面所の水は常に冷水であった。(甲 A24・8頁)(イ) 被告らは、原告を含む従業員に対し、研磨等の作業時間を短時間にすることや振動工具の持ち方に係る指示をしたことはなく、特殊健康診断を実施したこともなかった。(証人C・22、27、28頁、証人B・23頁)(4) 原告の肺がん及び振動障害の発症ア肺がんについて原告は、平成16年5月11日頃、アスベスト肺との診断を受け、その後労働局からじん肺管理区分1の認定を受け、健康管理手帳の交付を受けていたところ、平成28年3月30日、左上葉肺粘液性腺がん(原発性)と診断された。なお、原告には22歳から48歳まで約26年間の喫煙歴があった。(甲A1・3頁、5頁、甲A3、甲A4・3枚目)原告の労災認定手続(前提事実(2)ア(ア))に係る担当調査官は、平成29年4月12日付け保険給付実地調査復命書において、原告は、被告らにおける就労期間中、造船現場における保温工事においてアスベストを使用し、また、FRP製品の製造工程で使用する硬化炉入口に掛けられていたアスベスト製の遮熱カーテンに接触するなどして石綿にばく露した(ばく露の終了年月日は同カーテンが撤去された平成4年12月31日)と認定した上、画像所見等も踏まえ、原告が罹患した肺がんは、平成24年3月29日付け基発0329第2号通達「石綿による疾病の認 した(ばく露の終了年月日は同カーテンが撤去された平成4年12月31日)と認定した上、画像所見等も踏まえ、原告が罹患した肺がんは、平成24年3月29日付け基発0329第2号通達「石綿による疾病の認定基準について」が示す肺がんにかかる認定要件のうち、「胸部正面エックス線写真により胸膜プラークと判断できる明らかな陰影が認められ、かつ、胸部CT画像により当該陰影が胸膜プラークとして確認されるもの」で、かつ「石綿ばく露作業の従事期間が1年以上あること」を充たすものと判断され、労働基準法施行規則別表第1の2の第7号8に該当する業務上の疾病として取り扱い、保険給付して差し支えないとの意見を述べた。(甲A1) 17 イ 振動障害について原告は、平成17年8月1日、振動障害と診断され、令和元年5月1日、症状固定日を平成31年4月30日として、なお症状が残存している旨の診断を受けた(甲B10)。 原告の労災認定手続(前提事実(2)イ(ア))に係る担当調査官は、平成18年6月30日付け実地調査復命書において、原告は、被告長崎社で16年11か月、E工業で2年、F建設で10か月、G木工で2年9か月、被告天草社で4年7か月、振動作業に従事したものと認定した上、主治医や労災医員の意見等も踏まえ、原告が罹患した振動病は、昭和52年5月28日付け基発第307号通達「振動障害の認定基準」が示す認定基準の1「振動業務に相当期間従事したこと」を充たし(なお、「相当期間」とは、おおむね1 年又はこれを超える期間をいうとされている。)、かつ、手指前腕のしびれ、痛み、こわばり等の自覚症状が認められ、手指前腕等に抹消循環障害、末梢神経障害、運動機能障害のすべてが著明に認められるから同基準2も充たすとして、労働基準法施行規則別表第1の2の第3号3に該当する業務上 こわばり等の自覚症状が認められ、手指前腕等に抹消循環障害、末梢神経障害、運動機能障害のすべてが著明に認められるから同基準2も充たすとして、労働基準法施行規則別表第1の2の第3号3に該当する業務上の疾病として取り扱い、保険給付して差し支えないとの意見を述べた。(甲B1)2 争点(1)(原告の石綿粉じんへのばく露の有無と程度)について(1) 保温工事についてア 原告は、昭和46年2月から昭和47年4月まで、被告長崎社から派遣された造船工場での保温工事で、石綿を取り扱い、これにばく露した旨主張し、これに沿う陳述及び供述をする(甲A24・2頁、原告本人・3ないし6頁)。 イ 上記原告の供述等は、被告長崎社が天草労働基準監督署による聴取に対し、昭和46年2月12日から昭和47年4月30日まで、被告長崎社から派遣された造船工場において保温工事に従事し、石綿等が使用されてい 18 る保温材を使用した可能性がある旨文書で回答していること(前提事実(2)ア(イ))や、被告長崎社の他の従業員が派遣先の造船所において従事した保温作業の内容(甲A15・2頁)とも概ね整合することに照らし、信用することができる。したがって、前記供述により、原告が昭和46年2月から昭和47年4月まで、被告長崎社から派遣された造船工場において石綿にばく露したと認められる。 なお、原告は、上記期間中、保温工事と同時並行で行われる内装工事によって生じた石綿粉じんにもばく露した旨主張するが、これに沿う原告本人の供述(原告本人・6頁等)は、客観的な裏付けを欠き、採用することができず、他に上記主張事実を認めるに足りる証拠はない。 ウ これに対し、被告らは、昭和46年に採用された被告長崎社の従業員は研修として造船所に派遣されており(乙6、7)、原告は余剰人員であった とができず、他に上記主張事実を認めるに足りる証拠はない。 ウこれに対し、被告らは、昭和46年に採用された被告長崎社の従業員は研修として造船所に派遣されており(乙6、7)、原告は余剰人員であったと考えられる上、保温工事以外の作業にも従事していたと考えられるから、保温工事による石綿へのばく露の程度は小さい旨主張する。 しかしながら、造船所への派遣の目的が研修であったとしても、実際には先輩従業員の手伝いといった態様で作業に関与していたことから(認定事実(1)ア)、原告が余剰人員として実質的な保温工事の作業に従事していなかったとはいえないし、被告長崎社が天草労働基準監督署に対し、昭和46年2月から昭和47年4月までの原告の作業内容は保温工事である旨回答していること(前提事実(2)ア(イ))にも照らせば、仮に原告が同期間中保温工事以外の作業に従事していたとしても、主な作業内容は保温工事であったことがうかがわれるから、上記被告らの主張は採用できない。 (2) FRP製品製造についてア原告は、昭和47年5月から平成5年12月まで被告らにおいて就労していた期間中、FRP製品製造工程において、石綿の一種であるカレドリア・クリソタイルを含むパテが使用された船舶のハッチや物入れを切断な いし研磨する作業に主に従事し、平成13年頃以降は、カレドリア・クリソタイルを含んだパテを自ら作成してFRP製品の補修等に使用し、石綿にばく露した旨陳述及び供述する(甲A24・3ないし5頁、原告本人10、11、44頁)。 イこれに対し、被告らは、原告が自らパテの作成を行っていたとは考え難いし、カレドリア・クリソタイルを混ぜる樹脂はアメ状であるから、カレドリア・クリソタイルの粉じんが舞うことは考え難い上、パテの作業過程における使用 告らは、原告が自らパテの作成を行っていたとは考え難いし、カレドリア・クリソタイルを混ぜる樹脂はアメ状であるから、カレドリア・クリソタイルの粉じんが舞うことは考え難い上、パテの作業過程における使用頻度は低いから、原告がFRP製造過程において石綿にばく露したとは考え難い旨主張する。また、証人D及び同Bは、被告らには、パテを専門的に調合する従業員がいた旨や、パテは脱泡用のローラーが届かないコーナー部分に塗って空気を押し出すといった例外的な場合にしか使用せず、接着に用いたパテが部品からはみ出る事態は考え難いから、パテを研磨することは通常生じない旨等、被告らの主張に沿う陳述及び証言をする。(乙10・3頁、証人D・1、5、12、18、19、30、31頁、証人B・11ないし13頁)しかしながら、原告は、FRP製品の全ての製造ラインに携わっていた(認定事実(2)ア(ウ))上、FRP製品の製造ラインによっては、緊急の場面等に応じて作業者自らパテを作成せざるを得ない場合があった(同イ(ア)(イ))のであるから、被告らにパテを専門的に調合する従業員がいたとしても、原告が自らカレドリア・クリソタイルを樹脂に混合しパテを作成することがあったことは否定できない。また、樹脂が粘性のある物体であるとしても、カレドリア自体が粉末状である(甲A11、12)から、混合の際にカレドリアの粉じんが一定程度生じることは避けられないと考えられる。さらに、パテの使用態様は作業者によって様々であることや、パテを充填した部分及び接着用に用いられたパテがはみ出した部分はエアーサンダーや紙やすり等によって研磨する必要があったこと(認定事実 20 (2)イ(ウ))、FRP製品の大きさ等によってはパテを用いなければならない箇所が複数に及び得ること(甲A24・4頁)などを踏まえる やすり等によって研磨する必要があったこと(認定事実 (2)イ(ウ))、FRP製品の大きさ等によってはパテを用いなければならない箇所が複数に及び得ること(甲A24・4頁)などを踏まえると、パテの使用や研磨が例外的なものであったとは直ちに解し難い。 以上のほか、原告が研磨作業に多く従事していたこと(認定事実(2)ア(ウ))を併せ考えれば、原告の前記供述等には合理性が認められ、他方、原告がFRP製造過程において石綿にばく露したとは考え難いとする被告らの主張並びにこれに沿う証人D及び同Bの証言等は、いずれも採用できない。 ウ以上によれば、原告は、FRP製品製造工程において、研磨ないし切断作業時にカレドリアを含むパテが削られることによって生じる粉じんにばく露し、また、カレドリア・クリソタイルを用いて自らパテを作成する際に生じる粉じんにもばく露したものと認められる。 (3) 遮熱用石綿布についてア原告は、被告天草社にはFRP製品の移動式乾燥設備があったところ、同設備には、遅くとも昭和47年頃から平成4年頃まで、遮熱のために石綿布が掛けられており、FRP製品を同設備に搬入する際、同石綿布に接触する機会が多くあった旨陳述及び供述する(甲A24・5、6頁、原告本人・12頁)。 イしかしながら、原告の上記供述は、移動式乾燥設備に掛けられていた布様のものが一見して石綿布であると分かったとする具体的な理由を述べるものではない上、上記布様のものが平成4年頃に石綿布である旨指摘されていたとする点につき客観的な裏付けを伴うものでもない。また、当時の被告天草社の従業員らが、上記移動式乾燥設備は、中の製品が見えるよう、厚手のビニール製のものが用いられており、汚れのために透明でなくなっていたにすぎない旨陳述及び証言していること(乙9・3 、当時の被告天草社の従業員らが、上記移動式乾燥設備は、中の製品が見えるよう、厚手のビニール製のものが用いられており、汚れのために透明でなくなっていたにすぎない旨陳述及び証言していること(乙9・3、4頁、乙10・3頁、証人D・9、10頁、証人B・17ないし19頁)に照らしても、移動式乾燥設備に石綿布が用いられていた旨の上記原告の供述等は採用で 21 きず、他に移動式乾燥設備に石綿布が用いられていた事実を認めるに足りる証拠はない。 (4) 小括上記のとおり、原告は、被告らにおける就労期間中、昭和46年2月から昭和47年4月まで保温工事に従事して石綿を取り扱い、昭和47年5月から平成5年12月まで、及び、平成13年1月から平成17年7月までFRP製品製造に従事して石綿を含んだパテの研磨等やパテの調合をしていたと認められる。そして、原告を含む従業員らは、防じんマスク等の配布を受けてはいたものの、原告を含む一部の従業員は、マスクを外したまま作業することがあったと認められる(認定事実(3)ア(ア)(ウ))一方で、作業場では十分な換気がなされていたとは認め難い(認定事実(2)ウ)から、原告は、上記期間中、保温工事及びFRP製品製造のそれぞれの過程において石綿にばく露したものと認められ、その期間は、被告長崎社(派遣先を含む。)においては昭和46年2月から昭和53年5月までの約7年、被告天草社においては昭和53年6月から平成5年12月まで、及び、平成13年1月から平成17年7月までの約20年であると認められる。 3 争点(2)(原告の振動作業への従事の有無と程度)について(1) 原告は、被告らにおける就労期間中、昭和47年5月から昭和55年1月まで平均1日8時間、昭和59年9月から同年12月まで少なくとも1日9時間、昭和60年 への従事の有無と程度)について(1) 原告は、被告らにおける就労期間中、昭和47年5月から昭和55年1月まで平均1日8時間、昭和59年9月から同年12月まで少なくとも1日9時間、昭和60年1月から同年4月まで1日当たり2、3時間、昭和60年5月から平成元年4月まで少なくとも1日7時間、同年5月から平成5年12月まで1日9時間、及び平成13年1月から平成17年7月までのそれぞれの期間、被告らにおいて振動作業に従事した旨主張し、これに沿う陳述及び供述をする。(甲A24・7ないし16頁、原告本人・14ないし23頁)(2) 上記供述等について、少なくとも原告が、被告天草社において、平成13年1月8日から平成17年7月31日までの期間中、圧搾空気を用いた回転 22 工具であるバーティカルポリッシャー、シングルサンダー及び空気式サンダーといった振動工具を使用していたことは、天草労働基準監督署の聴取に対する被告天草社による回答書の内容(前提事実(2)イ(イ))からも裏付けられる。また、被告長崎社に勤務していた期間を含むその他の期間のうち、従事者が固定されていたヤマハ発動機株式会社のボート部品等のFRP製品製造ラインにおいては、原告は専ら研磨作業に従事していたと認められ、かつ、作業内容が固定されていなかったその他の製造ラインにおいても、一般的なFRP製品と同様、作業工程には研磨作業が含まれていたこと(認定事実(2)ア(イ)(ウ))からすれば、原告は上記期間中も、振動工具を使用していたことが認められる。 振動作業に従事した具体的な時間については判然としないものの、原告の上記供述等が、振動障害に係る労災認定手続における原告の聴取内容(甲B4、B8)と概ね整合していることを考慮すると、原告が、被告らにおける就労期間中、少なくとも相 ついては判然としないものの、原告の上記供述等が、振動障害に係る労災認定手続における原告の聴取内容(甲B4、B8)と概ね整合していることを考慮すると、原告が、被告らにおける就労期間中、少なくとも相当期間にわたり振動作業に従事したという限度で上記供述等は信用することができ、同事実が認められる。 (3) これに対し、被告らは、原告についてはFRP製品製造のラインや従事する作業が固定されていなかったため、主として振動作業に従事していたとはいえない上、圧搾空気を用いる振動工具は作業時の振動が少ないから、相当期間にわたり振動にばく露したとは考え難い旨主張し、証人D及び同Bの陳述及び証言中には概ねこれに沿う部分がある(乙9・2、3頁、証人D・14頁、15頁、証人B・16頁)。 しかしながら、ヤマハ発動機株式会社のボート部品等のFRP製品製造ラインにおいては、各作業工程につき従事者が原則として固定されていた(認定事実(2)ア(イ))のであるから、原告が従事する製造ラインが固定されていなかったとしても、ボート部品等のFRP製品製造ラインにおいては、原告は専ら研磨作業に従事していたと解するのが自然であるし、その他の製造ラ 23 インにおいても、作業工程に研磨作業が含まれることは上記のとおりであるから、被告らの主張並びにこれに沿う証人D及び同Bの証言等は、上記認定を左右するものではない。 また、被告らにおいて圧搾空気を用いる振動工具が使用されるようになったのは昭和55年2月から昭和59年8月頃であり(認定事実(2)エ)、原告は被告長崎社に入社後の一定期間、より振動の強い電動工具を使用していたのであるし、圧搾空気を用いる振動工具は、適切な空気圧で利用された場合は電動工具に比して生じる振動が弱い(前提事実(4))としても、振動にばく露するこ 一定期間、より振動の強い電動工具を使用していたのであるし、圧搾空気を用いる振動工具は、適切な空気圧で利用された場合は電動工具に比して生じる振動が弱い(前提事実(4))としても、振動にばく露することに変わりはない。労働省による振動障害の予防等に係る通達(関係法規等(3))も、圧搾空気を動力源とする振動工具による業務を対象から除外するものではない。したがって、使用する工具が圧搾空気を動力源とする振動工具に切り替わったことをもって、原告が振動にばく露したとは考え難い旨の上記被告らの主張並びにこれに沿う証人D及び同Bの証言等は、いずれも採用できない。 (4) よって、原告は、昭和47年5月から昭和55年1月まで、昭和59年9月から同年12月まで、昭和60年1月から平成5年12月まで及び平成13年1月8日から平成17年7月31日まで、相当期間にわたって振動作業に従事したものであり、FRPが相当程度の硬度を有する素材であることから作業時には振動工具を強く握る必要があるとうかがわれることや、被告らにおいて原告を含む従業員に対し、防振装置や防振手袋が配布されなかったこと(認定事実(3)イ(ア))からすれば、原告は、上記期間中、振動にばく露したものと認められ、その期間は、被告長崎社(派遣先を含む。)においては昭和47年5月から昭和53年5月までの約6年、被告天草社においては昭和53年6月から昭和55年1月まで、昭和59年9月から同年12月まで、昭和60年1月から平成5年12月まで及び平成13年1月8日から平成17年7月31日までの計約15年であると認められる。 4 争点(3)(被告らの安全配慮義務違反)について(1) 石綿についてア安全配慮義務の前提として使用者が認識すべき予見義務の内容は、生命、健康という被害法益の重 られる。 24 4 争点(3)(被告らの安全配慮義務違反)について(1) 石綿についてア 安全配慮義務の前提として使用者が認識すべき予見義務の内容は、生命、健康という被害法益の重大性に鑑みると、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り、必ずしも生命・健康に対する障害の性質、程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はないというべきである。 そして、遅くともじん肺法(関係法規等(2))が制定された昭和35年時点では、石綿粉じんにばく露することによって労働者の健康、生命に重大な損害が生じる危険性が存すること及びその予防に係る知見は既に確立していたと認められる。 イ 被告らにおける防熱工事及びFRP製品製造作業は、必ずしも換気の十分ではない作業場において、石綿に触れ、切断、紡績、紡織、及び研磨等といった作業を、マスク等の防護具の着用が徹底されていない中で行うものであったものであり(前記2(4))、じん肺法の規制対象となる作業に該当する。 そうすると、被告長崎社が設立された昭和41年以降、被告らは、原告を保温工事やFRP製品製造に従事させることにより、その生命・身体に重大な影響を及ぼすことについて予見可能であり、予見すべきであったといえる。 ウ 以上より、被告らは、昭和41年以降、被告ら(派遣先も含む。)における保温工事及びFRP製品製造に従事する者が石綿粉じんを吸入しないようにするための措置を講ずべき安全配慮義務、具体的には、従業員らが石綿を吸入しないよう、呼吸用保護具、保護衣や保護手袋の支給をし、又は従業員に対して石綿の危険性に係る安全教育をすべき義務を負っていたというべきである。 エ しかしながら、被告らは、原告を含む従業員に対し、石綿に対応した防 25 じんマスク等の支給や石綿の危険性に対 して石綿の危険性に係る安全教育をすべき義務を負っていたというべきである。 エ しかしながら、被告らは、原告を含む従業員に対し、石綿に対応した防 25 じんマスク等の支給や石綿の危険性に対する安全教育等を実施しなかった(認定事実(3)ア(ア)(イ))のであるから、これらの義務を怠ったものと認められる。 (2) 振動作業についてア 振動工具の危険性についても、遅くとも振動作業に係る各通達(関係法規等(3)(4))が発出された昭和49年頃までには、振動工具による振動作業にばく露することによって労働者の健康に重大な損害が生じる危険性が存すること及びその予防に係る知見は既に確立していたと認められる。 イ 被告らにおけるFRP製品製造は、振動工具を用いたFRP等の切断や研磨を含むものであり、振動作業に係る上記各通達の対象となる作業に該当する。 そうすると、被告らは、昭和49年以降、原告をFRP製品製造に従事させることにより、その身体に重大な影響を及ぼすことについて予見可能であり、予見すべきであったといえる。 ウ 以上より、被告らには、昭和49年以降、被告ら(派遣先も含む。)におけるFRP製品製造に従事する者について、振動作業に係る上記各通達を遵守して、作業者の安全に配慮すべき義務があったと認められる。 エ しかしながら、被告らは、原告を含む従業員らに対し、防振装置を付けた防振工具や防振手袋の支給、振動作業の時間の管理や作業方法の指導、暖房設備や温水供給設備を備えた休憩室の設置等をしなかった(認定事実(3)イ(ア)(イ))のであるから、これらの義務を怠ったものと認められる。 5 争点(4)(相当因果関係)について(1) 肺がんについてア 前記2(4)のとおり、原告は、被告長崎社においては7年以上、被告天草社においては これらの義務を怠ったものと認められる。 5 争点(4)(相当因果関係)について(1) 肺がんについてア 前記2(4)のとおり、原告は、被告長崎社においては7年以上、被告天草社においては20年以上、石綿にばく露していたと認められる。 そして、原告は、左上葉肺がん(原発性肺がん)との診断を受けており、 26 医師により胸部正面エックス線写真により胸膜プラークと判断できる明らかな陰影が認められ、かつ、胸部CT画像により当該陰影が胸膜プラークとして確認されている(認定事実(4)ア)。 これらは、いずれも平成24年3月29日付けで厚生労働省労働基準局長の発した通達である「石綿による疾病の認定基準について」(基発0329第2号)が示す「肺がん」にかかる認定要件を充たすものであり、天草労働基準監督署は、このような認定根拠に基づき、原告の石綿ばく露と肺がんの発症に業務起因性を認めたものと考えられる(認定事実(4)ア)。 イ また、被告長崎社及び被告天草社のいずれにおける石綿へのばく露についても、ばく露の程度及び期間を踏まえると、それぞれ独立して原告の肺がんを発症させるに足りるものであると認められる。 ウ 以上によれば、被告長崎社及び被告天草社の安全配慮義務違反と原告の肺がんの発症については、いずれも相当因果関係が認められる。 (2) 振動障害についてア 前記3(4)のとおり、原告は、被告長崎社で約6年、被告天草社で約15年、相当期間にわたって振動業務に従事していたと認められる。 そして、原告は、医師により、手指前腕のしびれ、痛み、こわばり等の自覚症状、並びに、手指前腕等に末梢循環障害、末梢神経障害、運動機能障害のすべてが著明に認められるものと確認され、振動障害類似の症状を有する鑑別すべき他の疾患 、手指前腕のしびれ、痛み、こわばり等の自覚症状、並びに、手指前腕等に末梢循環障害、末梢神経障害、運動機能障害のすべてが著明に認められるものと確認され、振動障害類似の症状を有する鑑別すべき他の疾患の症状を否定されている(認定事実(4)イ)。 これらは、昭和52年5月28日付け労働省労働基準局長の発した通達である「振動障害の認定基準」(基発第307号)が示す「振動障害」の認定基準を満たすものであり、天草労働基準監督署は、このような認定根拠に基づき、原告の従事した振動作業と振動障害の発症に業務起因性を認めたものと考えられる(認定事実(4)イ)。 イ また、被告長崎社及び被告天草社のいずれにおける振動へのばく露につ 27 いても、ばく露の程度及び期間を踏まえると、それぞれ独立して原告の振動障害を発症させるに足りるものであると認められる。 ウ 以上によれば、被告長崎社及び被告天草社の安全配慮義務違反と原告の振動障害の発症については、いずれも相当因果関係が認められる。 エ これに対し、被告らは、原告は、被告らにおける以外に、E工業で2年、F建設で10か月、G木工で2年9か月、振動作業に従事しており、特にE工業及びF建設では、被告らで使用されていた振動工具より振動の強い削岩機を使用していた(甲B1・2頁、甲B4・3頁、甲B8)から、上記相当因果関係は否定される旨主張する。 しかしながら、上記のとおり、被告らにおける振動へのばく露はそれぞれ独立して原告の振動障害を発症させるに足りる程度のものであったと認められるから、仮に他の企業における振動へのばく露の程度が大きかったとしても、被告らの安全配慮義務違反と原告の振動障害発症との相当因果関係が否定されるものではない。 よって、被告らの上記主張は採用できない。 業における振動へのばく露の程度が大きかったとしても、被告らの安全配慮義務違反と原告の振動障害発症との相当因果関係が否定されるものではない。 よって、被告らの上記主張は採用できない。 (3) 被告らの連帯責任について上記のとおり、被告らにおける原告の石綿及び振動作業へのばく露は、いずれも、その期間及び程度に照らし、石綿関連疾患及び振動障害を生じさせるおそれのあるものであったといえるから、被告らは、民法719条1項後段により、原告に生じた損害の全額について連帯して責任を負う。 6 争点(5)(損害)について(1) 原告が、石綿関連疾患と認められる肺がんに罹患し、呼吸機能が低下するなどして肉体的及び精神的苦痛を被り、がんの再発など生命への不安を感じている(甲A24・16ないし20頁、原告本人47頁)上、振動障害を発症し後遺症が残存していること(認定事実(4)イ)に照らせば、原告が上記肺がん罹患による財産的損害に対するてん補機能を有する労災保険給付等を受 28 けていること(前提事実(2)ア)を踏まえても、原告の石綿ばく露による肺がん罹患及び振動障害に係る精神的・財産的損害を包括した損害額としては、2800万円を相当と認める。 (2) 一方で、一般的に喫煙が肺がんの最大の発生要因であるとされている(甲A14・1頁)に照らせば、公平の見地から、賠償額の算定に当たっては、当該発症者の喫煙歴を考慮すべきであるところ、原告には22歳から48歳まで約26年間の喫煙歴があったこと(認定事実(4)ア)を考慮して、上記損害額より1割の減額をするのが相当である。 また、本件事案の難易、審理の経緯、請求額、認容額その他諸般の事情に照らして、弁護士費用は、上記減額後の損害額の1割とするのが相当である。 (3) そうすると、被告らが賠 額をするのが相当である。 また、本件事案の難易、審理の経緯、請求額、認容額その他諸般の事情に照らして、弁護士費用は、上記減額後の損害額の1割とするのが相当である。 (3) そうすると、被告らが賠償すべき原告の総損害額は、2520万円及び弁護士費用252万円の合計2772万円となる。 第4 結論以上によれば、原告の被告らに対する請求は2772万円及びこれに対する振動障害の発症日よりも遅い肺がんの発症日である平成28年3月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 なお、仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さないこととする。 熊本地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官 川﨑聡子 29 裁判官坂本清士郎は転補のため、裁判官新田紗紀は差支えのため、いずれも署名押印できない。 裁判長裁判官 川﨑聡子

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