昭和22(れ)14 窃盗、住居侵入、強盗殺人

裁判年月日・裁判所
昭和23年2月12日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 大阪高等裁判所
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【DRY-RUN】主    文      本件上告を棄却する。          理    由  弁護人富山薫上告趣意第一点は「原判決ハ審理不尽ノ違法アリ、本件記録ニヨレ バ殊ニ第一、二審ニ於ケル公判調書ヲ通覧スルニ被

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主    文      本件上告を棄却する。          理    由  弁護人富山薫上告趣意第一点は「原判決ハ審理不尽ノ違法アリ、本件記録ニヨレ バ殊ニ第一、二審ニ於ケル公判調書ヲ通覧スルニ被告人ガ被害者タルAヲ殺害スル 動機ニ就キ甚ダシキ疑問ヲ存ス即チ被告人ノ犯行ガ殺人ヲ敢行スベキ理由ノ存在ヲ 認メ難ク被告人ノ自供ニ於テモ当時ノ被害者トノ関係ニ於テモ将来環境及ビ四囲ノ 事情ニ於テモ犯行ヲ肯定スベキ事情ヲ認メ難シハタシテ然ラバ何故ノ殺人カ僅カノ 財物ヲ得ンガ為ノミノ理由ヲ以テ然モ熟睡中ノ被害者ヲ殺スニ於テハ単ナル強盗ヲ 目的トシテノ犯行トシテハ直チニ肯ンジ難キ廉アリ、本弁護人ガ復員後ノ被告人ノ 心境ヲ洞察スルニ全国民共通ノ希望ヲ失ヒ前途ヲ悲観シ暗涙ニ暮ルヽノ状ハ被告人 ニ於テモ最モ強ク抱懐シタルモノト信ズベク加ヘテ食糧事情ノ緊迫就職ノ困難等生 活ノ不安脅威等自棄的心理ノ潜在セルコト又疑ヒナシ依ツテ按ズルニ被告人が果シ テ平静ナル理性ヲ持チ自己ノ所業ニ就キ冷静ナル弁別判断ヲナシ得タルヤハ深ク検 討スベキ所ナリ然ルニ本件記録ニ於テハ予審第二回訊問調書及ビ公判調書ニ於テ被 告人ノ履歴身体ノ情況被告人及ビソノ親家族等ニ精神病ソノ他心身障碍アルモノア リヤ否ヤ等ヲ訊問シタル事実ハ之ヲ認ムト雖モ該訊問ハ形式的ニ被告人ノ供述ヲ聴 キタルニ過キズ社会ノ実例ニ徴スルトキハ表面何等ノ障碍ヲ認メザルガ如キ人ニ恐 ルベキ精神的異常ヲ潜在シタル事例ハ乏シカラズ本件ニ於テ被告人ガ上述ノ如キ精 神的障碍存セザルヤ否ヤ殊ニ極刑ヲ言渡スヘキ場合ニ於テハ当然被告人ノ精神状態 ヲ調査スベク斯界ノ権威者ノ批判ヲキヽ判決ノ公正ヲ期セザルベカラズ仮ニ刑ノ執 行ヲ終リタル後ニ於テカヽル事情ヲ発見シタル場合ヲ想像スルトキ此ノ過ヲ改ムル ノ方途ノ存セザルヲ思へバ被告人ノ精神状態ヲ鑑定スル措置ヲ講ズルノ必要ヲ認ム ベ ヲキヽ判決ノ公正ヲ期セザルベカラズ仮ニ刑ノ執 行ヲ終リタル後ニ於テカヽル事情ヲ発見シタル場合ヲ想像スルトキ此ノ過ヲ改ムル ノ方途ノ存セザルヲ思へバ被告人ノ精神状態ヲ鑑定スル措置ヲ講ズルノ必要ヲ認ム ベクコノ点ニ於テ原判決ハ審理ヲ尽サミルモノト謂フベシ」というにある。 - 1 -  しかし、原判決の確定した事実並にその説明に供した証拠によれば、被告人の本 件強盗殺人の動機は頗る明白であり、現今社会の経験法則に照しても容易に是認し 得るところであつて、特に当時の被告人の精神状態に障碍があつたという疑を挿む 余地はなく、また原審公判においてかかる主張は全然なされなかつたのである。そ れ故、原判決には論旨のような審理不尽の違法はない。  同上告趣意第二点は「原判決ハ擬律ニ錯誤アル違法ノ判決ナリ原判決ガ判示第一 ノ事実即チ窃盗事実トシテ述べタル被告人ガ昭和二十一年六月十七日昼頃本件被害 者所有ノ白米其ノ他ヲ窃取シタリトノ事実ニ就テハ被告人ノ自白以外ニ何等ノ証明 ナキモノトイフベシ原判決ガ其ノ判決理由ニ第一、第二ノ犯罪事実ヲアゲタル後証 拠ヲ按ズルニ云々トシタル記載ノ中ニ本件殺人ノ点ニ就イテノ説明ハ被告人ノ自供 供述証人ノ証言等詳細ニ記述セラレタルモ窃盗ノ点ニ就テハ何等ノ記載ナシ被告人 ガ窃取シタリトセラルヽモノノ中一、白米約八升ニツイテハ贓品ヲ発見セズ又之ガ 処分ニツイテモ被告人ノ自白以外ニ何等ノ証拠ナシ、二、白かつたーしやつ(証第 三号)羅紗地ずぼん一着(証第八号)ニ就イテハ被害者方ニ於テ現品ヲ発見セラレ 且被告人が之ヲ着用シ居リタリトスルモ之亦被告人ノ自白ノミニシテ窃取着用ノ事 実ニツキ他ニ証明スベキ証拠ナシ証第三号ノ物件ニツイテハ被害者ノ妻ノ自供シタ ルトコロニヨリ被害者ノ所有ナルヤ否ヤモ明瞭ナラズ、三、外衣類雑品三点ニ就イ テハ記録上何等証明セラルヽ所ナシ加之検察当局ニ於テモ ツキ他ニ証明スベキ証拠ナシ証第三号ノ物件ニツイテハ被害者ノ妻ノ自供シタ ルトコロニヨリ被害者ノ所有ナルヤ否ヤモ明瞭ナラズ、三、外衣類雑品三点ニ就イ テハ記録上何等証明セラルヽ所ナシ加之検察当局ニ於テモ何等証明スベキ証憑ヲ蒐 集シタルコトヲ認メ難シ以上ニヨリ本人ノ自白ノミヲ以テ有罪ヲ断ズルヲ得ザル現 行法ニ於テハ之ヲ有罪ト判決シタルハ擬律ヲ誤リタルモノト謂フベシ」というにあ る。  自白の問題は、日々の裁判の現実において最も重要な憲法問題の一つである。憲 法第三十八条第三項並に日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する 法律第十条第三項には「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場 - 2 - 合には、有罪ときれ、又は刑罰を科せられない」と定めている。これらの規定の趣 旨は、一般に自白が往々にして強制、拷問、脅迫又はその他有形無形の不当な干渉 乃至影響により、恐怖と不安の下に、本人の真意と自由意思に反してなされる場合 のあることを考慮した結果、被告人に不利益な証拠が本人の自白である場合には、 他に適当なこれを裏書する証拠を必要とするものとし、若し自白が被告に不利益な 唯一の証拠である場合には有罪の認定を受けないとしたものである。それは罪ある 者が時に処罰を免れることがあつても、罪なき者が時に処罰を受けるよりは、社会 のためによいという根本思想に基ずくものである。かくて、真に罪なき者が処罰せ られる危険を排除し、自白偏重と自白強要の弊を防止し、基本的人権を期せんとし たものである。  しかるにこれに反し、公判廷における被告人の自白は、身体の拘束を受けず、何 等の強制、拷問、脅迫又はその他有形無形の不当な干渉乃至影響を受けず、全く自 由の状態において供述きれるものである。しかも、憲法第三十八条第一項によれば 「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」ことに の強制、拷問、脅迫又はその他有形無形の不当な干渉乃至影響を受けず、全く自 由の状態において供述きれるものである。しかも、憲法第三十八条第一項によれば 「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」ことになつている。それ故公判廷 において被告人は、自己の真意に反してまで軽々しく自白し、真実にあらざる自己 に不利益な供述をするようなことはない、と見るのが相当であろう。又新憲法の下 においては、被告人はいつでも弁護士を附け得られる建前になつているから、若し 被告人が虚偽の自白をしたと認められる場合には、弁護士は直ちに再訊問の方法に よつて、これを訂正せしめることもできるであろう。従つて、公判廷における被告 人の自白が裁判官の自由心証によつて真実に合するものと認められる場合には、公 判廷外における被告人の自白とは異り、更に他の裏書証拠を要せずして犯罪事実の 認定ができると解するが相当である。すなわち前記法条にいわゆる「本人の自白」 には、公判廷における被告人の自白を含まないと解釈するを相当とする。  さらに、価値論の観点から考えてみよう。(一)強制、拷問若しくは脅迫による - 3 - 自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁きれた後の自白は証拠能力を有しない(憲法 第三十八条第二項)。かかる種類の自白は、憲法上全く信用力なく全面的に証拠価 値を否定せられておるから、これを証拠として断罪科刑することはできない。その 他の自白は公判廷におけるものも又公判廷外におけるものも、等しく証拠能力を有 する。(二)しかし、公判廷における自白は、前述の理由によつて証拠価値が比軽 的多いから、その自白が被告人に不利益な唯一の証拠である場合においてもこれを 証拠として断罪科刑することができていい訳である。(三)これに反し、公判廷外 における自白は、前述の理由によつて証拠価値が比較的少いから、その自白の外に 適 不利益な唯一の証拠である場合においてもこれを 証拠として断罪科刑することができていい訳である。(三)これに反し、公判廷外 における自白は、前述の理由によつて証拠価値が比較的少いから、その自白の外に 適当なこれを裏付けする裏書証拠が必要となる訳である。さればと言つて、公判廷 における被告人の自白があつたとしても、安易に直ちにこれを証拠として断罪し去 ることは、早計であり固より許さるべきことではない。裁判の任に当る者は、飽く まで自由心証主義の下に、自白の真実性につき自由心証を形成し得た場合において のみ、断罪し科刑し得るものであることを深く戒心しなければならぬ。自白規定を 設けた憲法の精神もまたここにあると確信する。  今本件について記録を調査するに、原判決は本件第一の窃盗事実を被告人の原審 公判廷における判示同趣旨の自供を採つて認定したものであり、その被告人の供述 は、それを以て右事実を肯認するに足りるから、前示条項其の他に違反するところ がない。したがつて、本論旨は既にこの点で失当である。  しかのみならず、判決における証拠摘示の有無は判決書の全面にわたり、これを 索むべく、必ずしも、いわゆる証拠説明の部分に限定すべきでない。今本論旨の本 件第一の窃盗事実の証拠についてこれを見るに原判決書の第一事実の判示の括弧内 に証第三号の白カツターシヤツ及び証第八号の羅紗地ズボン一着を引用してあつて、 これらの証拠は、その第一事実の認定の一資料に供されたこと明瞭である。その上 原判決は証拠説明の部分に、予審における証人Bの供述として、Cの物を取つて云 - 4 - 々の窃盗の事実に関する記載を掲げてあつて、以上の証拠は、いずれも被告人の第 一の窃盗事実の一部を証明しうる証拠と見ることができる。そして前記の条項にい わゆる「唯一の証拠が本人の自白である場合」とは例えば警察官、検事又は予審 載を掲げてあつて、以上の証拠は、いずれも被告人の第 一の窃盗事実の一部を証明しうる証拠と見ることができる。そして前記の条項にい わゆる「唯一の証拠が本人の自白である場合」とは例えば警察官、検事又は予審判 事に対する自白のような公判廷以外の自白で、しかも、それのみが唯一の証拠であ る場合を指すものであるから、若しも、それ以外に何等か他の適当な証拠があると きは、その場合に該当しないこというもでもない。果して然らば原判決が被告人の 予審における判示同趣旨の供述記載の外、さらに前に述べた各証拠を総合して判示 第一の事実を認定したのは正当であつて所論のような違法はない。本論旨はこの点 からするもその理由がない。 補足意見 自白の点に対する裁判官斎藤悠輔の補足意見は次のとおりである。  思うに、我現行刑事訴訟法の上では被告人は、訴訟当事者であると共に証拠方法 の一つであるから、公判廷における被告人の公訴事実に関する供述(いわゆる事件 に対する冐頭陳述並びにその後の訊問に対する供述を含む。蓋し、いわゆる冐頭陳 述は被告人の事件に対する総論であり、要旨であり、結論であり、また、その後の 供述はこれが各論であり、詳細であり、理由であるのを普通とするが、往々にして 両者の間に矛盾乃至変更、訂正、取消等があるので被告人の事件に対する答弁、弁 解の趣旨は冐頭陳述に限定せず被告人の供述全体を見て決すべきであるこというま でもないからである)は当事者としての防禦的訴訟行為と証人としての経験事実の 報告的訴訟行為とを包含するものである。而して前者の法律上の性質は原告官であ る検察官の意見、主張に対する答弁、弁解すなわち一種の意見、主張であり、後者 の性質はその意見、主張の裏附けを成す資料すなわち証拠たる性質を持つものと解 すべきである。すなわち一面事件たる公訴事実に対する意見主張であり、他面その 資料 、弁解すなわち一種の意見、主張であり、後者 の性質はその意見、主張の裏附けを成す資料すなわち証拠たる性質を持つものと解 すべきである。すなわち一面事件たる公訴事実に対する意見主張であり、他面その 資料、証拠であると見るべきである。従つて公判廷における被告人の自白は被告人 - 5 - が公判廷において訴訟当事者として原告官の事件すなわち公訴事実に関する意見主 張を認めて争はない意思表示をしたと同時にこれが裏附けを成す資料すなわち証拠 をも提出したものと見ることができる。それ故このような被告人の公判廷における 自白は、日本国憲法第三十八条第三項並びに同法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的 措置に関する法律第十条第三項にいわゆる「本人の自白」に該当しないものと解す るを正当とする。その理由は、凡そ、証拠は訴訟当事者の主張、答弁に争のある場 合にその必要を見るもので換言すれば、その争のある場合に必要な主張又は答弁の 裏附けを成す資料に外ならない。従つて右条項は訴訟当事者たる検察官と被告人と の主張、答弁に争のある場合を前提とし、その争ある場合に必要な検察官の主張の 裏附けを成す資料換言すれば被告人に不利益な証拠に関する規定であつて、しかも、 その証拠が唯一の場合であるときの規定であり、当事者間の主張、答弁に争のない 場合の規定ではないと解すべきである。然るに公判廷における被告人の自白は被告 人が公判廷において身体の拘束を受けず、自己に不利益な供述を強要されず、訴訟 上全く独立した人格者たる当事者として、事件に対し防禦、弁解をする機会を充分 に与えられていたに拘らず、前述のごとくことさら、自己に不利益な原告官の主張 事実を認めてこれを争はない意思を表示し、剰つさえ、その証拠をも提出したもの であり、まさに訴訟当事者間の主張、答弁に争のない場合であるから前記条項の前 提とした場合に該当しな 己に不利益な原告官の主張 事実を認めてこれを争はない意思を表示し、剰つさえ、その証拠をも提出したもの であり、まさに訴訟当事者間の主張、答弁に争のない場合であるから前記条項の前 提とした場合に該当しないと見るべきであるからである。それ故、被告人が公判廷 において自己に不利益な公訴事実を自認する供述をした場合に、その供述自体若し くは他の資料に照し、その供述が真意に出で且つ真実に合致するものと認められる ときはそれのみを以て有罪とされ又は刑罰を科せられても前記条項に違反するもの といい得ない。また、しかく解すのが国民を独立した人格者として尊重し責任ある 自由と権利とを保障した憲法の根本精神にも適合する。よつて、刑事訴訟法第四百 四十六条に則つて主文のとおり判決する。この判決は裁判官斎藤悠輔の補足意見の - 6 - 部分を除いては、裁判官全員の一致した意見である。  検察官松岡佐一関与   昭和二十三年二月十二日      最高裁判所第一小法廷          裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔             裁判官    沢   田   竹 治 郎             裁判官    真   野       毅             裁判官    岩   松   三   郎 - 7 -

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