20む1221大阪地裁平成20・9・25316条の15第1項7号開示命令 主文 検察官に対し,平成20年1月25日及び同年4月28日撮影に係る被告人の取調状況を撮影したDVD各1枚を弁護人が謄写する機会を与えることを命じる。 謄写について以下の条件を付する。 (1)謄写枚数は各1枚とする。 (2)謄写に係るDVDのデータを複写して更にDVDを作成し,又は,パソコンのハードディスクに複写して記録するなどの一切の複写をしてはならない。 (3)謄写に係るDVDを再生するに際しては,インターネット等により外部に接続したパソコンを使用してはならない(4)弁護人において,被告人甲に対する本件被告事件の弁護活動が終了し,かつ,謄写に係るDVDを後任の弁護人に引き継がないときには,速やかに,謄写に係るDVDのデータを消去しなければならない。 理由 裁定請求の趣旨及び理由本件裁定請求の趣旨及び理由は,主任弁護人A及び弁護人B作成の平成20年9月3日付裁定請求書並びに同月19日付求釈明に対する回答書のとおりであるが,要するに,弁護人がした平成20年1月25日及び同年4月28日付撮影に係る被告人の取調状況を撮影したDVD各1枚(以下,各DVDを総称して「本件DVD」という。)の類型証拠開示請求につき,検察官はその謄写に関して,主文2の(1)ないし(3)の条件に加え,「被告人甲に対する弁護活動が終了した際には,謄写に係るDVDのデータを消去しなければならない。」という条件を付したが,上記(1)ないし(3)の条件についてはともかく,データ消去の条件を付することは不当であるから,検察官に対し,かかる条件を付さないで謄写する機会を与えるように命ずることを求めるというものである。 検察官の主張これに対する検 ついてはともかく,データ消去の条件を付することは不当であるから,検察官に対し,かかる条件を付さないで謄写する機会を与えるように命ずることを求めるというものである。 検察官の主張これに対する検察官の主張は,検察官C作成の同年9月10日付意見書のとおりであるが,要するに,本件DVDには被告人に対する取調べの様子が録画録音されているという内容の特殊性や,これがDVDデータとして存在することに伴う複製の容易性,再生・閲覧方法の特殊性,外部流出の危険性,さらには弁護人が弁護活動終了後にもDVDを保管すべき必要性がないことなどの諸事情にかんがみれば,検察官が付した条件に不必要,過重な点はないというものである。 当裁判所の判断(1)証拠の類型該当性,重要性及び開示の必要性本件DVDは,被告人に対する捜査段階での取調状況が撮影されており,刑訴法316条の15第1項7号に掲げる類型に該当するところ,弁護人において,検察官請求に係る被告人の供述調書等(乙12ないし35)の証明力を判断する上では,被告人に対する取調状況を検討する必要性が高い。 したがって,本件DVDの証拠としての重要性に照らせば,これを弁護人に対して開示し,閲覧,謄写の機会を与えるのが相当である。 (2)開示に伴う弊害の内容及び程度ア本件DVDの内容による弊害本件DVDが上記のとおり被告人に対する捜査段階での取調状況を撮影したものであるという点に照らすと,その内容において,被告人はもとより,本件被告事件の被害者及び事件関係者らのプライバシーに関する供述や問答がなされているであろうことは容易に想定できる(検察官の上記意見書によれば,本件DVDのうち1枚は,被告人に対する強姦致傷被告事件に関する取調状況を録画したものであり,被害者の氏名が取調官から述べられる場面も録画録 ろうことは容易に想定できる(検察官の上記意見書によれば,本件DVDのうち1枚は,被告人に対する強姦致傷被告事件に関する取調状況を録画したものであり,被害者の氏名が取調官から述べられる場面も録画録音されている。)。 そればかりでなく,これらの事項が,被告人や取調官によって,実際に語られたり,問答がなされその際の被告人や取調官の表情,語調などがそのまま記録されているのであるから,見る者に与える印象や生々しさは供述調書等とは比べものにならないほど大きい。 したがって,このような取調べDVDの内容にかんがみると,その内容が外部に流出した場合,被告人や事件関係者らのプライバシーが著しく侵害されることは明らかであり,その侵害の結果を回復することが著しく困難であることはいうまでもない。 イDVDという性質がもたらす弊害本件DVDは,被告人に対する捜査段階での取調状況を撮影し,これを電子データとして記憶させた電磁的記憶媒体である。 ところで,昨今,公的機関や一般企業等の保有するデータ情報がインターネット等を通じて外部に流出する事態が多数発生し,大きな社会問題となっていることは公知の事実であり,しかも,ひとたび電子データがインターネット等を通じて外部に流出した場合,その影響が短時間に拡大する可能性が大きいことはいうまでもない。このような事態は,何者かが意図的に外部に流出させる場合に限らず,いわゆるスパイウェアやWinnyなどのファイル交換ソフト等により,使用者の意図しないままに外部に流出する場合にも多く見られるところである。 そうすると,本件DVDは,その性質上,インターネット等を通じてその内容が外部に流出したり,影響が拡大する危険性が,供述調書等に比べても格段に大きいということができる。 (3)条件を付する必要性以上のとおり,被告人に対する取調状 インターネット等を通じてその内容が外部に流出したり,影響が拡大する危険性が,供述調書等に比べても格段に大きいということができる。 (3)条件を付する必要性以上のとおり,被告人に対する取調状況を撮影したものであるという本件DVDの内容や,これが電子データとして存在しているという性質上の特殊性にかんがみれば,その情報流出を防止する必要性は高く,謄写に際して,被告人の防御の準備に必要十分な範囲で,情報流出防止のための条件を付する必要性は優に肯定できる。 (4)検察官が付した条件の相当性ア検察官は,弁護人に対し,上記のように主文2の(1)ないし(3)及び「被告人甲に対する弁護活動が終了した際には,開示に係るDVDのデータを消去しなければならない。」という4つの条件を付し,本件DVDを開示するとした。 イこの4つの条件のうち,主文2の(1)ないし(3)の条件については,弁護人による弁護活動が行われている際に本件DVDのデータが外部に流出することを防止しようとした趣旨と考えられ,もとより相当なものと認めることができ,上記のように弁護人もこれら3つの条件については不当性を主張していない。 ウそこで,上記データ消去の条件の相当性について検討する。 この点本件DVDのデータ流出を防止する必要性は,弁護活動中であると否とを問わず認められるのであるから,証拠開示に際し,被告人に対する弁護活動終了後のデータ流出を防止することを目的とした条件を付することも必要不可欠といえる。 そして,弁護活動終了後においては,一方で,弁護人において本件DVDを手元に置いて随時検討したり,あるいは被告人の面前で再生するなどして被告人に視聴させる防御上の必要性は乏しいのに対し,他方で,上記のとおり,本件DVDの情報が外部流失した際の弊害が相当に大きいことは弁護活動中と 時検討したり,あるいは被告人の面前で再生するなどして被告人に視聴させる防御上の必要性は乏しいのに対し,他方で,上記のとおり,本件DVDの情報が外部流失した際の弊害が相当に大きいことは弁護活動中と何ら変わりはない。また,検察官が主張するように,弁護活動終了後には開示証拠等の管理に払われる注意の程度が弁護活動中に比して低下するであろうことが想定しうる上に,電子情報の管理の程度は,個々人の情報セキュリティに関する知識や経験等に大きく依存している現状もあるので,これらの事情にかんがみれば,主文2の(1)ないし(3)の条件のみでは,弁護活動終了後の上記弊害を防止するのに十分とはいえない。 そうすると,DVDに記録されたデータを消去することで,その後のデータ流出の危険性は解消でき,しかもデータを消去することは極めて容易なことなのであるから,データ消去の条件は,弁護活動終了後の上記弊害を防止するために最も簡便かつ確実なものといえる。 しかしながら,上記検察官の付したデータ消去の条件によれば,被告人に対する判決確定前に弁護人が交代し,前任の弁護人が後任の弁護人に訴訟記録を引き継ぐような場合(このような事態は控訴審で新たな弁護人が選任された場合や,弁護人が解任され,新たな弁護人が選任された場合など,多数考えられる。)であっても,前任の弁護人は謄写を受けたDVDのデータを削除しなければならないこととなるが,前任の弁護人が後任の弁護人に対して訴訟資料を引き継ぐことには相当程度の必要性と合理性があることは否定できない。 この点については,検察官の主張するように,後任の弁護人において改めて検察官に対し任意での証拠開示を求めれば足りるということも考え得るが(検察官がこのように主張している以上,検察官においてもかかる任意開示請求には当然に応じるというのが基本的立場であ 人において改めて検察官に対し任意での証拠開示を求めれば足りるということも考え得るが(検察官がこのように主張している以上,検察官においてもかかる任意開示請求には当然に応じるというのが基本的立場であると考えられる。),後任の弁護人に対する引き継ぎを前提とする場合,前任の弁護人が弁護活動終了後にもDVDを保管しておく期間は後任の弁護人に対しこれを引き継ぐまでのわずかな時間に限られる上に,後任の弁護人に引き継がれた後には,当該弁護人において各条件を遵守することで,データ流出の防止は実現できるのであるから,後任の弁護人に対し,前任からの引き継ぎという簡易な方法を許さず,常に再度の証拠開示請求をさせるというのは過重である(なお証拠開示は,被告事件の審理の準備のためになされるものであるから,開示に係る条件を後任の弁護人が遵守すべきは当然である。)。他方で,被告人に対する判決が確定した場合には,そもそも後任の弁護人への引き継ぎはなく,あるいは,弁護人が交代したけれども訴訟記録を後任の弁護人に引き継がないような場合には,弁護人にDVDのデータを消去させても特段の不都合はないのであるから,かかる場合には,弁護人にDVDのデータを消去させるのが相当である。 以上の点を考慮すると,弁護人の弁護活動終了後におけるデータ流出の危険を防止するためには,「弁護人において,被告人に対する本件被告事件の弁護活動が終了し,かつ,謄写に係るDVDを後任の弁護人に引き継がないときには,速やかに,謄写に係るDVDのデータを消去しなければならない。」との条件を付すれば足りるというべきである。 ところで,弁護人は,再審請求をする場合に備えて記録を保管する必要がある旨も主張する。しかし,再審の請求をする可能性は,証拠開示請求が行われる第一審公判前整理手続の段階では極めて抽象的かつ不確定的 ところで,弁護人は,再審請求をする場合に備えて記録を保管する必要がある旨も主張する。しかし,再審の請求をする可能性は,証拠開示請求が行われる第一審公判前整理手続の段階では極めて抽象的かつ不確定的なものである上,再審の請求に時期的な制限はないのであるから,本件DVDの有する上記のような特殊性やデータ流出防止の必要性が極めて高いことを考慮すれば,将来における再審請求という抽象的かつ不確定的な可能性のために,弁護人に本件DVDを保管することを許容するのは妥当でなく,この点に関する弁護人の主張は採用できない。 エしたがって,当裁判所としては,上記の諸点にかんがみ,検察官の付したデータ消去の条件については,主文2の(4)のとおりとすべきものと判断した。 (5) 結論 以上のとおり,本件裁定請求は上記の限度で理由があるから,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官・並木正男,裁判官・本村曉宏,裁判官・安原和臣)
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