20む7820.3.26広島地裁開示命令316条の26第1項 主文 検察官に対し,司法警察員Aが,犯罪捜査規範13条の規定に基づき,被告人の取調べについてその供述内容や取調べの状況等を記録した備忘録であって,捜査機関において保管中のものを平成20年4月9日までに開示することを命じる。 理由 本件申立ての趣旨及び理由は,要するに,弁護人は,本件で被告人の供述調書の任意性等を争う予定であるところ,その主張との関連性及び証明力が高く,被告人の防御の準備のため開示の必要性があり,かつ,開示による弊害のない,取調警察官作成の備忘録を検察官が開示しないから,当該備忘録の開示命令を求めるというものである。 本件の経緯は次のとおりである。 (1)弁護人は,平成19年11月20日付けの「被告人側の本件に関して予定する認否及び主張並びに検察官証拠請求に対する意見及び証拠開示の請求等」で,殺意の有無を争う旨明らかにするとともに,乙号証の一部を不同意とし,平成19年12月10日の第2回公判前整理手続期日で,各不同意部分の各供述は,被告人の知識不足,理解不足に乗じて捜査官にとって都合の良い供述が引き出された疑いがあるから,任意性及び信用性を争うと主張した。 (2)弁護人は,平成19年12月27日付け「被告人側の本件に関する主張及び請求等の補足」で,被告人の供述調書の任意性を疑わせる事情として,ア弁護人は,被疑者段階から被告人と接見を重ねたが,被告人が,そのいずれにおいても,本件の殺意を否認し,捜査官に対しても同様の供述をしていると述べている,イ被告人の供述調書の不同意部分中には,刺しどころが悪ければ死ぬかもしれないと「認識」していましたなどと,被告人の素養からしておよそ使用されるはずのない極めて法律的な用語が記載されている,ウ ,イ被告人の供述調書の不同意部分中には,刺しどころが悪ければ死ぬかもしれないと「認識」していましたなどと,被告人の素養からしておよそ使用されるはずのない極めて法律的な用語が記載されている,ウ 「警察に逮捕された後も,被害者に掴まれた腕に痛みが残っていました」などという記載があるが,これは,その状況を考慮すると極めて不自然な記載であることなどを指摘して,これらは捜査官の意図的な作文の疑いがあり,作成された調書の記載事実の持つ意味を深く認識するほどの知識経験に乏しい被告人が,捜査官のいわれるままに迎合的に署名指印した疑いがあると主張した。 また,弁護人は,この書面で,被告人供述の任意性等を争う防御上の準備のため必要であるとして,取調警察官が被告人の取調べの際に書き留めたはずの備忘録一切について証拠開示の請求を行った。この請求について,弁護人は,後の第3回公判前整理手続期日で主張関連証拠開示請求の趣旨であると釈明した。 (3)検察官は,平成20年1月18日の第4回公判前整理手続期日で,前記(2)の証拠開示請求について,弁護人が任意性に関する主張を明示していないので応じられないと回答した。 (4)弁護人は,平成20年1月25日,刑訴法316条の26第1項に基いて,本件申立てを行った。 (5)弁護人は,平成20年2月26日の第6回公判前整理手続期日で,任意性及び信用性を疑わせる事情として,被告人の取調べ状況に関する具体的な主張を問う裁判長の求釈明に対し,「被告人が捜査官から,おまえの言うようなことを言っとったら話がこれ以上先に進まないやないか,こういうことではないのかとたたみかけるように言われ,話が進まない進まないということで調書を次々と作成され,よく意味がわからないまま署名指印した疑いがあるという意味である」と述べた。 (6)検察官 ういうことではないのかとたたみかけるように言われ,話が進まない進まないということで調書を次々と作成され,よく意味がわからないまま署名指印した疑いがあるという意味である」と述べた。 (6)検察官は,平成20年3月4日,当裁判所の上記備忘録の提示命令を前提とした求意見に対する回答及び平成20年3月10日付け意見書(補充)で,取調警察官が,犯罪捜査規範13条の規定に基づき,被告人の取調べについてその供述内容や取調べの状況を記録した備忘録であって,捜査機関において保管中のものは存在しない,取調警察官が専ら自己が使用するために作成したもので,他に見せたり提出することを全く想定していないもの以外の備忘録は存在しない,などとして,開示には応じられないと述べた。 さらに,裁判所からの,当該警察官は犯罪捜査規範13条に基づいて備忘録を作成していないという趣旨かという求釈明に対して,検察官は,最高裁判所平成19年12月25日決定によれば,専ら自己が使用するために作成したもので,他に見せたり提出することを全く想定していないものは,証拠開示の対象とならないので,追加して釈明を行う必要はないと回答した。 検察官は,弁護人の主張について,どのような取調べによってどのような内容の調書が作成されたか,具体的な事情の主張がなく,刑事訴訟法316条の17で要求される主張の明示義務が尽くされていないから,主張と開示を求める証拠との関連性が不明であり,開示の必要性もないと主張する。 この点,弁護人は,前記2(2)のとおり,当初は,被告人の供述調書の記載内容及び接見時の被告人の供述内容から,被告人の供述調書が捜査官の作文であると述べるだけで,結果として任意性及び信用性に疑いのある調書が存在していると主張するにとどまっていたが,検察官や裁判所の求釈明に対して,前記2(5)のとおり,取調警 告人の供述調書が捜査官の作文であると述べるだけで,結果として任意性及び信用性に疑いのある調書が存在していると主張するにとどまっていたが,検察官や裁判所の求釈明に対して,前記2(5)のとおり,取調警察官が被告人の言い分では話が進まないということでたたみかけるように質問をして調書を作成し,被告人がよく意味がわからないまま署名指印した疑いがある,などと主張するに至った。 この弁護人の主張は,取調べにおける被告人の供述の自由を破るような違法な圧迫の存在という任意性を疑わせる外部的事情の存在について具体的な主張を行っているといえ,証拠開示請求の前提としての弁護人の主張明示義務は尽くされていると評価できる。 検察官が主張するように個々の供述調書と取調べとの関係まで弁護人が主張しなければならないとするのは,争点が明確にされる程度以上の主張を弁護人に強いるものであるし,取調べにより調書を作成するのは捜査官であることや弁護人の主張する被告人の素養や知識経験を考えると,弁護人に不当な困難を強いるものであると考えられる。 検察官は,前記2(6)のとおり,回答をしているが,犯罪捜査規範13条は,「警察官は,捜査を行うに当り,当該事件の公判の審理に証人として出頭する場合を考慮し,および将来の捜査に資するため,その経過その他参考となるべき事項を明細に記録しておかなければならない」と規定しており,警察官が取調べを行った場合には,同条に基づいて備忘録を作成し,これを保管すべきとしているのであるから,取調警察官が,捜査機関として被疑者の取調べを行い,同条に基づき作成した備忘録であって,その取調べの経過その他参考となるべき事項が記録され,保管する書面は,捜査関係の公文書であって,検察官がいう「専ら自己が使用するために作成したもので,他に見せたり提出することを全く想定していない」ものと 取調べの経過その他参考となるべき事項が記録され,保管する書面は,捜査関係の公文書であって,検察官がいう「専ら自己が使用するために作成したもので,他に見せたり提出することを全く想定していない」ものということはできない。そこで,当該取調状況に関する証拠調べが予定される場合には,証拠開示の対象となる(最高裁判所平成19年12月25日決定)。 当裁判所としては,検察官の上記回答から,司法警察員Aが犯罪捜査規範13条に基づき作成した備忘録の存否及び具体的記載を確認できない。しかし,通常司法警察員が犯罪捜査規範違反の行為を行っているとは考えられず,検察官の回答も備忘録それ自体の存在を否定していないので,当該備忘録が存在するはずであり,その備忘録には,犯罪捜査規範13条の要請に応じた取調べにおける被告人の供述状況,取調中の被告人の様子等が記載されているはずであることを前提に判断せざるを得ない。 そして,そのような備忘録は,上記のような任意性に関する弁護人の主張の内容に加えて,公判で任意性に関する被告人質問等が行われることが想定されることを考慮すれば,任意性を争うための客観的な証拠として極めて重要と考えられ,弁護人の主張との関連性が強い。 現段階では,取調警察官Aの証人請求はされていないものの,検察官が任意性立証のために取調官の証人請求の可能性を示唆していることをも考えると,開示の必要性も高いと認められる。 なお,検察官は,取調メモ等には,取調官の感想や一般的捜査手法等に関する記載がこん然一体として記載されていることも少なくないことなどから,開示した場合には,第三者のプライヴァシーが侵害され,将来における円滑適正な捜査の実現が妨げられるおそれが大きく,開示の弊害は重大であると主張するが,具体的弊害については指摘しておらず,当裁判所がその具体的記載を確認できない以上, イヴァシーが侵害され,将来における円滑適正な捜査の実現が妨げられるおそれが大きく,開示の弊害は重大であると主張するが,具体的弊害については指摘しておらず,当裁判所がその具体的記載を確認できない以上,開示によって重大な弊害を生じる部分を除外して開示を命じることは不可能である。 以上から,本件申立ては理由があるので,刑事訴訟法316条の26第1項により,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官・細田啓介,裁判官・嘉屋園江,裁判官・工藤美香)
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