平成14(行ウ)8 新潟労基署長休業補償不支給処分取消

裁判年月日・裁判所
平成15年7月25日 新潟地方裁判所
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判決文本文15,008 文字)

平成15年7月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成14年(行ウ)第8号労働保険休業補償給付不支給決定処分取消請求事件口頭弁論終結日平成15年5月16日判決 主文 1 被告が,原告に対して平成11年9月21日付でした労働者災害補償保険法に基づく休業補償給付を支給しないとする処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要原告は,A株式会社(以下「A」という。)に勤務していた平成9年4月22日,a市内の民間駐車場舗装工事現場(以下「本件作業現場」という。)において作業中に,同じくAの従業員であったBから暴行を受けて負傷した。原告は,これが業務上の災害によるものであるとして,被告に対し,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)による休業補償給付を請求したが,被告は,平成11年9月21日付で,休業補償給付を支給しないとする処分(以下「本件処分」という。)をした。本件は,これを不服とした原告が,本件処分の取消しを求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに証拠〔甲1,甲3,甲12,乙1,乙12〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者等ア原告は,昭和15年5月8日生まれの男性であり(平成9年4月22日当時56歳),昭和40年4月にAに入社し,昭和52年5月から同社a支店b出張所(以下「b出張所」という。)に勤務していた。平成5年ころからは,工事課長の職にあった。 イ被告は,本件処分をした a労働基準監督署長である。 ウ Bは,平成8年3月にAに入社し,入社当時からb出張所に勤務していた。 (2) 事故の発生(以下「本件事故」という。)原告は,平成9年4月22日午前10時30分 した a労働基準監督署長である。 ウ Bは,平成8年3月にAに入社し,入社当時からb出張所に勤務していた。 (2) 事故の発生(以下「本件事故」という。)原告は,平成9年4月22日午前10時30分ころ,本件作業現場において,Aが施工する舗装工事に従事していたところ,Bから,安全靴を履いた足で背中を蹴られる暴行(以下「本件暴行」という。)を受け,負傷した。 (3) 診療経過ア原告は,同日,C整形外科医院を受診し,約1か月間の加療を要する頚髄不全損傷,腰部挫傷と診断され,同日から同年9月25日までの間,同医院に通院した。 イ原告は,同年12月29日,D病院を受診し,腰椎椎間板ヘルニアと診断され,同日から平成10年6月30日までの間,同病院に通院した。 (4) 休業補償給付の請求及び本件処分ア原告は,平成11年3月17日,被告に対し,本件事故による負傷について,平成9年4月22日から平成10年6月30日までのうち30日間を休業補償の対象期間として,労災保険法による休業補償給付を請求した。 イ被告は,原告に対し,平成11年9月21日,上記アの請求につき,休業補償給付を支給しないとする処分(本件処分)をし,そのころ,同処分は,原告に通知された。 (5) 審査請求原告は,本件処分を不服として,平成11年11月16日ころ,a 労働者災害補償保険審査官に対し,審査請求をしたが,同審査官は,平成12年3月8日,原告の請求を棄却する決定をし,同決定は,そのころ,原告に送達された。 (6) 再審査請求原告は,上記(4)の決定を不服として,平成12年5月2日ころ,労働保険審査会に対し再審査請求をしたが,同審査会は,平成14年2月20日,原告の再審査請求を棄却する裁決をし,同裁決は,同年3月4日,原告に送達された。 2 争点(1) 本件暴行に至る 2日ころ,労働保険審査会に対し再審査請求をしたが,同審査会は,平成14年2月20日,原告の再審査請求を棄却する裁決をし,同裁決は,同年3月4日,原告に送達された。 2 争点(1) 本件暴行に至る事実経過(2) 本件暴行による原告の負傷について業務起因性が認められるか否か。 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(本件暴行に至る事実経過)についてア原告の主張(ア) 本件事故当時のb出張所の組織と原告の職務権限平成9年4月ころ,b出張所には,社員11名,b市近隣からの臨時労働者3名くらいがおり,実際に現場で働いていたのは8名程度であった(乙10)。 原告は,2級土木施工管理技術士の資格を有していたこと(甲10の2),b出張所では最年長で仕事の経験もあったことから,b出張所の所長代理であるEが不在の場合だけでなく,普段から,現場での具体的な作業指示を行っており,B,同じくAの従業員であるF及びGに対して,日常的に監督,指示をしていた。 Bは,平成8年3月に入社したばかりであり,仕事に慣れておらず,また,他の作業員が仕事をしているにもかかわらず仕事をさぼって休憩ばかりしていたので,原告から仕事の指示や注意を受けることが多かった。Bは,原告からの指示や注意に対して反抗的な態度を示したり,口答えをしたりすることもあった。 (イ) 本件事故当日の作業とBによる暴行a 原告は,本件事故当日,マイクロバスを運転し,b出張所から作業員を乗せて,午前8時30分ころに本件作業現場に到着した。原告は,作業員を降ろした後,マイクロバスを駐車する場所を探したが,なかなか見つけることができなかったため,午前9時30分ころ,本件作業現場に戻った。 b 本件作業現場では,前日までに丁張りを立てる作業が完了しており,Eがバックホーで10ないし15センチメー たが,なかなか見つけることができなかったため,午前9時30分ころ,本件作業現場に戻った。 b 本件作業現場では,前日までに丁張りを立てる作業が完了しており,Eがバックホーで10ないし15センチメートル程度掘削し,掘削した場所に作業員が砂利を敷きならす作業をしていた。 本件作業現場にはブロック塀があり,ブロック塀の近くや丁張りの近くをバックホーで掘削することができなかったため,作業員がスコップ等で掘削をしなければならなかった。 cB,F及びG(以下「Bら3名」という。)は,Eから,丁張りに基づいて,チョークでブロック塀に高さの印を付ける作業を指示されていた。 この作業は,丁張りから丁張りまでを糸で結んで,結んだ糸を基に,チョークでブロック塀に破線を付けていく作業であったが,原告が本件作業現場に戻ったときには,Bら3名は,印付けの作業をするでもなく,ぶらぶらとしていた。 d 原告は,本件作業現場に戻ってから,しばらくBら3名の様子を見ていたが,砕石山の砕石をスコップで地面にまく作業員から,Bら3名が仕事をさぼっているという声が出てきた。 原告は,しばらくは砕石の敷きならしの作業をしていたが,Bら3名が仕事をしないで遊んでいるようなので,Bら3名に近づいて行って,一番年長のFに対し「F君,線を引くのは後でもいいから,残土をとってやってくれ。」と言って,Eが掘削している場所の周辺の砂利や土を取るように指示をした。 e 原告は,F及びGが,原告の指示に従ってEが作業をしている場所に行ったことを確認し,自分の持ち場に戻ろうとしたところ,Bが,丁張りに使う板きれのようなものをブロック塀に投げつけた。 そこで,原告は,Bに対し「板きれを投げて何してるんだ。人にあたったらどうするんだ。」と注意をした。 原告は,注意をした後,持ち場へ戻り,ブロック塀 板きれのようなものをブロック塀に投げつけた。 そこで,原告は,Bに対し「板きれを投げて何してるんだ。人にあたったらどうするんだ。」と注意をした。 原告は,注意をした後,持ち場へ戻り,ブロック塀の方を向いて砕石を敷く作業をしていたところ,Bが背後から走ってきて,原告の背中を蹴る本件暴行に及んだ。原告は,ブロック塀に頭をぶつけ,突っ込むように倒れた。 (ウ) Bら3名の証言及び聴取書の信用性について被告は,以上のような事実経過とは異なり,①Fが原告からの指示に対して「この仕事が進まないと次の仕事が進まない。」旨の反論をしたこと,②原告がBら3名に対して「親方のいうことが聞けねいのか。」と怒号したこと,③Bが原告に対して「ヘルメットもかぶらずにいる奴が,親方なのか。」と言い返したこと,④原告がBに対して「私生活がいい加減だ。親のしつけがなっていない。親が馬鹿ならお前も馬鹿だ。」と怒号したことなどを主張するが,これらの主張の根拠となる証拠はいずれも信用性を欠くものである。 すなわち,被告の主張は,いずれもBら3名の証言及び聴取書(甲4の1ないし3,乙2ないし乙5)を根拠とするものであるが,これらの証拠は,Bら3名が仕事をさぼっていたのを注意されたことについて,何とか言い訳をしようとしたものであり,特にBは,解雇等の処分を免れるために原告に責任を押しつけようとして事実を歪めたものである。 また,これらの証拠は,Aによる労災隠しのために作り出されたものである。Aでは,本件事故の前から労災事故が相次いでおり(平成7年1月ころ及び平成8年1月ころの2度に渡って死亡事故があり,本件事故の直前にも従業員が作業中に負傷する労災事故があった。),本件事故が労災事故になれば,業務停止等の処分を受けるおそれがあった。そこで,Aと加害者であるBとの間で,本 度に渡って死亡事故があり,本件事故の直前にも従業員が作業中に負傷する労災事故があった。),本件事故が労災事故になれば,業務停止等の処分を受けるおそれがあった。そこで,Aと加害者であるBとの間で,本件事故が労災事故とならないようにすることで利害が一致し,その結果,本件暴行の原因は原告がBを挑発したことにあったこととされ,原告が一方的に悪かったことにされたのである。Aによる労災隠しがあったことは,甲5(Hの供述書)にあるとおりである。 さらに,こうして作り出された関係者の供述は変遷を重ねている。 したがって,Bら3名の証言及び聴取書を信用することはできない。 イ被告の主張(ア) 事実経過a 原告,E,B,F及びGは,本件事故が発生した平成9年4月22日当時,いずれもAの従業員であり,b出張所に勤務していた。Eは所長代理,原告は工事課長の職にあり,工事現場の責任者はEが務めていた(乙1)。 原告,E,B,F及びGは,同日午前10時30分ころ,本件作業現場において,A施工に係る道路舗装工事に関する土木作業に従事していた。 その際,Eはバックホーによる掘削作業,原告は砕石の敷きならし作業を行い,Bら3名はいずれもEの指示を受け,3名共同して丁張りの作業を行っていた(乙2ないし乙6)。 b そうしたところ,原告が,Bら3名に対し「そんな仕事やってんじゃねえ。砕石を敷きならしの方が先だ。」と申し向け,丁張りの作業を中断して砕石の敷きならし作業を行うよう指示した。 しかし,Bら3名は,工事責任者のEから丁張りの作業を行うよう指示されていたため,砕石の敷きならし作業よりも丁張りの作業を優先させるべきであると考え,原告の指示に従わず,丁張りの作業を続行した。 すると,原告がこれに立腹し,Bら3名に対し「余計なことやってんじゃねえ。」と怒号したた 敷きならし作業よりも丁張りの作業を優先させるべきであると考え,原告の指示に従わず,丁張りの作業を続行した。 すると,原告がこれに立腹し,Bら3名に対し「余計なことやってんじゃねえ。」と怒号したため,Fが原告に対し「この仕事を先にしないと仕事が進まない。すぐ終わるから。」と返答した。 しかし,原告は納得せず,なおもBら3名に対し「親方のいうことが聞けねいのか。」と怒号したため,Bは原告に対し「ヘルメットもかぶらずにいる奴が,親方なのか。」と言い返した。 原告は,これに強く立腹し,Bに対し「私生活がいい加減だ。親のしつけがなっていない。親が馬鹿ならお前も馬鹿だ。」と怒号し,Bを誹謗した(甲4の1,乙2ないし乙5,乙7ないし乙9,証人F)。 c 原告は,その後,Bら3名を無視し,1人でその場を離れ,砕石の敷きならし作業に戻った。 Gは,Bをなだめるため,同人に対し「いつものことだから気にするな。」と声を掛けるとともに,B及びFに対し,原告のことは無視して丁張りの作業に戻るよう促した(乙5)。 しかし,Bは,原告から誹謗されたことに憤激し,無言で原告に駆け寄った上,原告に対し,背後からその背部を足蹴りにして本件暴行に及び,原告をその場に転倒させた。 (イ) Bら3名の証言及び聴取書の信用性について原告は,Aによる労災隠し等を根拠に,被告が主張する事実経過の根拠となる証拠であるBら3名の証言及び聴取書(甲4の1ないし3,乙2ないし乙5)は信用性がないと主張するが,いずれも事実に反するか,根拠のない憶測に過ぎない主張である。 また,Bらの証言等に,変遷その他不自然,不合理な点はない。 したがって,原告の主張は失当である。 (2) 争点(2)(業務起因性の有無)についてア原告の主張(ア) 本件暴行は,作業現場で従業員を監督する工事課長 に,変遷その他不自然,不合理な点はない。 したがって,原告の主張は失当である。 (2) 争点(2)(業務起因性の有無)についてア原告の主張(ア) 本件暴行は,作業現場で従業員を監督する工事課長であった原告が,部下であるBに対し,仕事の指示を出したところ,土木作業を敬遠していたBが,バックホーで掘削した土砂を取り除くという肉体的にも辛い作業を指示されたことから,その指示を不満に思い,板きれをブロック塀に投げつけ,板きれを投げつけたことについて,再度,原告から注意されたため,Bが憤慨して起こったものである。 原告は,工事課長として,作業員に具体的な作業の指示を出す職務権限を有していたのであるから,Bに対し,作業指示を出すことは正当な職務権限の範囲内のことである。丁張りを基にして,チョークでブロック塀に高さの印を付けるのであるから,Eの掘削作業が終わるまで,さらにチョーク付の作業をすることができないことは明らかで,チョーク付の作業を先にやらなければならないということはない。 また,板きれを投げるという危険な行為を行ったことを注意するのは当然であり,正当な職務行為である。 本件暴行は,こうした原告の正当な職務行為について起こったものであるから,業務起因性が認められることは明らかである。 (イ) 仮に,原告が砕石の敷きならしをするように指示したことに対して,Bが「Eから指示されてやっているのだ。」と口答えをし,これについて原告が「親方のいうことが聞けないのか。」と再度指示をしたという事実があったとしても,Bが「ヘルメットをかぶらないで親方か。」と挑発的に反抗的な態度を示すことは許されない。 また,仮に,原告が,Bに対し「親のしつけが悪い。」などと言ったとしても,それは上司や目上の人に対する口のきき方が悪いことを注意するものであり,Bの 挑発的に反抗的な態度を示すことは許されない。 また,仮に,原告が,Bに対し「親のしつけが悪い。」などと言ったとしても,それは上司や目上の人に対する口のきき方が悪いことを注意するものであり,Bの私生活全般を注意しているわけではない。業務に起因した仕事上の注意に対し,上司に対する対応を注意することも上司としての職務である(上司の指示に従うように注意することも仕事を円滑に進める上で必要な業務上の注意である。)。 したがって,仮に,被告が主張するような事実経過であったとしても,本件においては,業務起因性が認められる。 (ウ) 以上のとおり,本件暴行による原告の負傷については業務起因性が認められるので,業務起因性を否定して休業補償給付を支給しないとした本件処分は違法である。 (エ) よって,原告は,被告が,原告に対して平成11年9月21日付でした労災保険法に基づく休業補償給付を支給しないとする処分の取消しを求める。 イ被告の主張(ア) 他人の暴行による負傷に関する業務起因性の有無の判断基準a 労災保険法7条1項1号,12条の8第1項2号,14条1項によれば,休業補償給付は,労働者が業務上の負傷による療養のため労働することができない場合に支給されるところ,「業務上の負傷による」とは,負傷が労働者の業務遂行中に(業務遂行性),かつ,その業務に起因して(業務起因性)発生したものであることをいい,業務起因性とは,その業務と負傷との間に経験則に照らして認められるところの客観的因果関係(相当因果関係)が存在することをいう。 そして,この業務と負傷との間の相当因果関係は,負傷の原因となる事実,すなわち災害によって媒介されるものであるから,業務と災害との間の相当因果関係及び災害と負傷との間の相当因果関係という2つの因果関係によって構成される。 b このうち 果関係は,負傷の原因となる事実,すなわち災害によって媒介されるものであるから,業務と災害との間の相当因果関係及び災害と負傷との間の相当因果関係という2つの因果関係によって構成される。 b このうち,業務と災害との間の相当因果関係の有無は,当該災害が当該業務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したものと認められるか否かという基準で判断される。 c これを労働者が他人の暴行により負傷した場合についてみれば,その他人の暴行が災害にあたるところ,労働者の業務と他人の暴行との間に相当因果関係が認められるためには,その他人の暴行が当該業務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したものと認められなければならない。 その判断のためには,他人の暴行の原因がいかなるものか,並びに,その原因と労働者の業務との関連性の有無及び程度を確定する必要があり,その原因が労働者の相手方に対する働きかけである場合は,その働きかけた行為が当該労働者の業務に含まれ,あるいはそれに通常随伴または関連し,業務遂行上必要なものか否かを確定しなければならない。 そして,これが肯定されれば,労働者が相手方に働きかけた行為は,業務それ自体またはこれに強く関連する危険な行為であり,相手方の暴行は,その行為の危険性の発露であるから,業務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したものといえ,当該業務と相手方の暴行との間に相当因果関係が認められるから,労働者の負傷について業務起因性が認められる。しかし,これが否定されれば,相手方の暴行は,業務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したものとはいえず,当該業務と相手方の暴行との間に相当因果関係は認められないから,労働者の負傷について業務起因性は認められない。 このような観点からすれば,第三者の故意行為による災害については,それが職場での人間関係ない と相手方の暴行との間に相当因果関係は認められないから,労働者の負傷について業務起因性は認められない。 このような観点からすれば,第三者の故意行為による災害については,それが職場での人間関係ないし第三者との職務上の関係から生じたものであっても,当該第三者の故意行為が労働者による職務上の限度を超えた挑発行為若しくは侮辱的行為によって生じたものである場合には,労働者の負傷はその従事する業務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したものとは認められないから,その業務起因性は否定される。 (イ) 本件暴行による原告の負傷について業務起因性が認められないことa これを本件についてみると,原告は,原告よりも上位の職にある所長代理のEの指示に従って丁張りの作業をしていたBら3名に対し,その作業を中断させて砕石の敷きならし作業を行わせようとしたが,同人らがこれに応じようとしなかったため,同人らに対し「そんな仕事をやってんじゃねえ。砕石を敷きならしの方が先だ。」,「余計なことをやってんじゃねえ。」と怒号し,「親方のいうことが聞けねいのか。」と怒号したものであり,Bが原告に対し「ヘルメットもかぶらずにいる奴が,親方なのか。」と言い返したため,原告は更に立腹し,Bに対し「私生活がいい加減だ。親のしつけがなっていない。親が馬鹿ならお前も馬鹿だ。」と怒号してBを誹謗したため,耐えかねたBが原告に駆け寄り,本件暴行に及んだものである。 これらの経緯に照らせば,原告がBに対し侮辱的言動をして誹謗などしなければ,Bにおいても憤激して原告に対し本件暴行に及ぶことはなかったものであって,本件暴行は原告のBに対する侮辱的行為によって生じたものと認められる。 そして,原告のBに対する侮辱的言動は,原告の職務上,いかなる意味でも不要なものといわざるをえず,その本来の業務に含 であって,本件暴行は原告のBに対する侮辱的行為によって生じたものと認められる。 そして,原告のBに対する侮辱的言動は,原告の職務上,いかなる意味でも不要なものといわざるをえず,その本来の業務に含まれるといえないことはもちろん,それに通常随伴または関連し,業務遂行上必要な行為ということもできないことは明らかである。すなわち,Bら3名は,いずれも本件作業現場の責任者であるEの指示を受け,3名で共同して丁張りの作業を行っていたもので,原告はEの部下に過ぎないから,Bら3名に対し,Eの指示に反して丁張りの作業を中断させ,砕石の敷きならし作業を行うよう指示する職務上の権限も義務もない。また,原告には,原告の指示を無視してEの指示を遵守するBに対し「私生活がいい加減だ,親のしつけがなっていない。親が馬鹿ならお前も馬鹿だ。」などという侮辱的な言動までして原告の指示に従わせる職務上の権限がないことはもとより,Bが原告の指示を無視したからといって何ら責任を負わされるものではないから,そうした侮辱的言動までして原告の指示に従わせる職務上の必要性もない。 したがって,本件暴行は原告の業務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したものとはいえず,当該業務と本件暴行との間に相当因果関係は認められないから,本件暴行による原告の負傷について業務起因性は認められない。 b よって,本件暴行による原告の負傷について業務起因性を否定し,これを根拠として,かかる負傷を原因とする原告に対する休業補償給付を支給しないものとした本件処分は適法である。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件暴行に至る事実経過)について(1) 原告の職務前提事実及び証拠(甲2,乙1,乙5,乙6,乙10,乙11,証人B,原告本人)によれば,以下の事実が認められる。 ア原告は,平成5年ころから (本件暴行に至る事実経過)について(1) 原告の職務前提事実及び証拠(甲2,乙1,乙5,乙6,乙10,乙11,証人B,原告本人)によれば,以下の事実が認められる。 ア原告は,平成5年ころからb出張所の工事課長の職にあったが,本件事故当時,b出張所ではEが作業現場での総指揮をとっており,本件事故当日の本件作業現場においても,Eが総指揮をとっていた。 イしかし,原告は,年齢が高く(本件事故当時56歳),現場での経験も長かったことから,Eから頼まれて作業現場の指揮をとることがあり,また,Eからの依頼がなくても,作業現場においては,事実上,作業員に対して指示を出し作業員を監督する立場にあった。 本件事故当日の本件作業現場においても,原告は,事実上,作業員に対して指示を出し作業員を監督する立場にあった。 (2) 本件事故以前における原告とBとの関係前提事実及び証拠(甲4の1及び3,甲9,乙2ないし乙5,乙8ないし乙10,証人B,同F,同G,原告本人)によれば,以下の事実が認められる。 ア B(昭和52年1月8日生,本件事故当時20歳)は,平成8年3月からb出張所に勤務するようになったが,入社して日も浅く仕事に慣れていなかったこともあり,仕事がうまくはかどらないことがあった。 そのため,Bは,原告やEから,仕事の仕方等について指示をされたり,仕事を怠けないようにと注意を受けたりすることが多かった。 イしかし,Bは,指示や注意に対して,反抗的な態度をとることがあり,そのため,原告から厳しい口調で,上記のような指示,注意をされることが多く,その際,「親のしつけが悪い。」とか「付き合っている友達の柄が悪い。」というようなことを言われることもあった。 Bは,原告からの指示や注意について,不満を感じていた。 (3) 本件事故当日の作業状況及び本件 「親のしつけが悪い。」とか「付き合っている友達の柄が悪い。」というようなことを言われることもあった。 Bは,原告からの指示や注意について,不満を感じていた。 (3) 本件事故当日の作業状況及び本件暴行の発生ア前提事実,証拠(甲4の1ないし3,甲9,乙2ないし乙5,乙9ないし乙11,証人B,同F,同G,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (ア) Bら3名は,平成9年4月22日午前9時30分ころ,本件作業現場において,Eからの指示を受けて,既に立ててあった丁張りを基に,ブロック塀にチョークで高さの印を付ける作業をしていた。 (イ) 原告は,そのころ,本件作業現場に到着し,バックホーで掘削した場所に砕石を敷きならす作業に着手した。 (ウ) 原告は,砕石の敷きならし作業をしながら,Bら3名の様子を見ていたが,Bら3名の仕事ぶりが仕事を怠けているように感じられたこと,また,Bら3名の仕事がEから出された指示に基づいていたことを知らなかったことから,Bら3名に対し「そんげん後でいっけこっちこい。」と,チョークで印を付ける作業を中止して,砕石の敷きならし作業を手伝うように指示した。 (エ) Bら3名は,Eから指示を受けたチョークで印を付ける作業が途中であったので,Bが原告に対し「この仕事が進まないと,次の仕事が進まない。」と言ったところ,原告は,同人らに対し「親方の言うことが聞けねえのか。」と強い口調で言った。 すると,Bは,原告がヘルメットをかぶっていなかったことから,原告に対し「ヘルメットもかぶらずにいる奴が親方なのか。」と反論した。 これを聞いた原告は,Bに対し「親のしつけがなっていない。私生活がいい加減だ。親がバカならお前もバカだ。」と強い口調で言いながら砕石の敷きならしをしていた現場に戻ろうとしていた。 (オ) 論した。 これを聞いた原告は,Bに対し「親のしつけがなっていない。私生活がいい加減だ。親がバカならお前もバカだ。」と強い口調で言いながら砕石の敷きならしをしていた現場に戻ろうとしていた。 (オ) Bは,原告の上記言葉に憤慨し,近くにあった板きれをブロック塀に向かって投げつけた。 原告は,板きれがブロック塀にぶつかった音に気がついて振り返ると,Bがブロック塀に板きれを投げつけたことが分かったので,Bに対し「板きれを投げて何してんだ。人に当たったらどうするんだ。」ときつい口調で注意をした。 その後,原告は,持ち場に戻って,砕石の敷きならし作業を続けた。 (カ) Bは,チョークで印を付ける作業に戻ろうとしたが,それまでの原告とのやりとりに憤慨し,砕石の敷きならしをしていた原告の背後に駆け寄り,原告の背中を安全靴を履いた足で蹴る本件暴行に及んだ。原告は,Bから蹴られた勢いで,前方へ倒れた。 Bは,原告に対し,さらに暴行を加えようとしたが,Gから押さえつけられて制止された。 イ(ア) ところで,原告は,本件事故以前に,Bに対し「親のしつけが悪い。」とか「付き合っている友達の柄が悪い。」などと言ったことはないと供述するが,証人B,同F及び同Gの,原告がBを注意する際に,上記のような内容の言葉を発していたとする各証言,b出張所所長Iが,原告に対し,頭ごなしに部下を注意する言動を慎むようにと注意をしていた旨の審理調書(乙9)などに照らして,直ちに原告の供述を採用することはできない。 また,原告は,本件事故当日に,Bに対し「親方の言うことが聞けねえのか。」とか「親のしつけがなっていない。私生活がいい加減だ。親がバカならお前もバカだ。」というようなことを言ったことはないと主張し,これに沿う供述をする(なお,甲9〔原告本人の陳述書〕,乙10〔原告本人の とか「親のしつけがなっていない。私生活がいい加減だ。親がバカならお前もバカだ。」というようなことを言ったことはないと主張し,これに沿う供述をする(なお,甲9〔原告本人の陳述書〕,乙10〔原告本人の労働基準監督署での聴取書〕及び乙11〔原告本人の労働基準局での聴取書〕にも同旨の記載がある。)が,Bが仕事の指示,注意に対して反抗的な態度をとることがあり短気な性格であったとしても,原告がBの感情を害するような言動をしない以上,Bが憤慨していきなり原告を蹴る行動に出ることは不自然であること,証人B,同F及び同Gがこれと異なる証言をしていることなどからすると,原告の主張を採用することはできない。 (イ) また,原告は,Bら3名の証言等は,本件事故の前から労災事故が相次いでいたため業務停止等の処分を受けることをおそれたAが,労災隠しのために作出したものであるので信用性を欠くと主張する。 しかし,そもそも原告が主張するような労災事故がAにおいて発生していたことを認めるに足りる的確な証拠はなく,原告がAによる労災隠しがあったことの証拠として提出した甲5(Hの供述書)も,内容自体が具体性を欠き採用することはできないので,Bら3名の証言等がAによる労災隠しのために作出されたものであると認めることはできない。 さらに,原告は,Bら3名の証言等は,変遷をしているので信用性を欠くと主張するが,同人らの証言等を検討しても,原告が主張するような変遷はない。 したがって,これらの原告の主張はいずれも採用することができない。 2 争点(2)(業務起因性の有無)について(1) 業務起因性の有無の判断基準ア労災保険法に基づく休業補償給付は,労働者が業務上の負傷または疾病による療養のため労働することができないことにより賃金を受けることができない場合に支給されるものである 業務起因性の有無の判断基準ア労災保険法に基づく休業補償給付は,労働者が業務上の負傷または疾病による療養のため労働することができないことにより賃金を受けることができない場合に支給されるものであるから(労災保険法7条1項1号,12条の8第1項2号,14条1項),給付の対象となる労働者の負傷は,労働者が業務の遂行中に業務に起因して発生したものであることを要し,業務と災害との間に経験則上相当と認められる因果関係が存在することが必要である。 そして,業務と災害との間に相当因果関係が認められる場合とは,当該災害が,当該業務に内在または随伴する危険が現実化したものと評価できる場合をいうものと解するのが相当である。 イこのような観点からすると,労働者(被災者)が業務遂行中に同僚あるいは部下からの暴行という災害により負傷した場合には,当該暴行が職場での業務遂行中に生じたものである限り,当該暴行は労働者(被災者)の業務に内在または随伴する危険が現実化したものと評価できるのが通常であるから,当該暴行が,労働者(被災者)との私的怨恨または労働者(被災者)による職務上の限度を超えた挑発的行為若しくは侮辱的行為等によって生じたものであるなど,もはや労働者(被災者)の業務とは関連しない事由によって発生したものであると認められる場合を除いては,当該暴行は業務に内在または随伴する危険が現実化したものであるとして,業務起因性を認めるのが相当である。 そして,その判断にあたっては,暴行が発生した経緯,労働者(被災者)と加害者との間の私的怨恨の有無,労働者(被災者)の職務の内容や性質(他人の反発や恨みを買い易いものであるか否か。),暴行の原因となった業務上の事実と暴行との時間的,場所的関係などが考慮されるべきである。 (2) 本件暴行についての業務起因性の有無以上 容や性質(他人の反発や恨みを買い易いものであるか否か。),暴行の原因となった業務上の事実と暴行との時間的,場所的関係などが考慮されるべきである。 (2) 本件暴行についての業務起因性の有無以上の判断基準を前提として,本件暴行についての業務起因性の有無を検討する。 アまず,本件暴行は,原告及びBが本件作業現場で作業に従事している最中に発生したものであるから,職場での業務遂行中に生じたものであると認められる。 イ次に,本件暴行が原告の業務に起因して発生したものであるか否かについて検討する。 前記認定事実によれば,原告は,本件事故以前からBの勤務態度がよくないと感じて度々注意をしていたが,Bは原告からの注意を快く思っていなかったこと,本件事故当日,原告は,EからBら3名に対してチョークで印を付ける作業の指示が出ていたことを知らずに,同人らの仕事ぶりを見て,監督者としての立場から,同人らに対し砕石の敷きならし作業を指示したが,これに不満を抱いたBが原告に反抗的な態度をとったために,原告から「親のしつけがなっていない。私生活がいい加減だ。親がバカならお前もバカだ。」と言われ,Bがその言葉に立腹して板きれをブロック塀に投げつけたところを原告に見咎められたため,Bが憤慨して原告の背中を蹴ったものであることが認められ,本件暴行は,原告のBに対する侮辱的な意味合いを含んだ発言にBが憤慨したことが一因となっていると認められる。これによれば,本件暴行は,原告とBの私的怨恨または原告の職務上の限度を超えた挑発的行為若しくは侮辱的行為によってもたらされたものであると考えられなくもない。 しかしながら,本件暴行は,原告の仕事上の指示,注意という業務に関連して,その業務に内在または随伴する危険が現実化して発生したものというべきである。 すなわち,本件暴行は ると考えられなくもない。 しかしながら,本件暴行は,原告の仕事上の指示,注意という業務に関連して,その業務に内在または随伴する危険が現実化して発生したものというべきである。 すなわち,本件暴行は,前記のとおり,原告のBら3名に対する業務上の指示,注意に端を発しているが,原告がBら3名に対して指示を出し,監督をすることは原告の職務であり,しかも本件事故当日に原告がBら3名に対して指示した砕石の敷きならしの作業は,Eの指示と異なっていたとしても,作業の都合上からみて業務と関係がないとはいえないこと,原告がBに仕事の指示や注意をする際に,前記のとおりのBを誹謗するかのような侮辱的意味合いを含んだ発言をしたとしても,それは,仕事上の指示や注意をする際に,それと関連して不用意に出た言葉であって,ことさらにBを挑発したり侮辱したりする意図で発せられたものではなく,むしろ,Bが原告の指示に反抗的な態度をとったことに対する戒めの意味も込められた発言であると認められること,しかも,上記発言の後,原告が砕石の敷きならし作業に戻った直後に,本件暴行が行われており,本件一連の行動は時間的,場所的に極めて近接したところで行われていることなどの状況からすると,本件暴行は,原告の業務とは関係がない原告とBとの私的怨恨または原告の職務上の限度を超えた挑発的行為若しくは侮辱的行為,あるいは原告とBの喧嘩闘争によって生じたものと認めることはできず,むしろ,原告の仕事上の指示,注意という業務に関連して,その業務に内在または随伴する危険が現実化して発生したものと認めるのが相当である。 ウしたがって,原告の業務と本件暴行との間の相当因果関係を認めるのが相当であるので,本件暴行による原告の負傷については,業務起因性が認められる。 エよって,本件暴行による原告の負傷について, る。 ウしたがって,原告の業務と本件暴行との間の相当因果関係を認めるのが相当であるので,本件暴行による原告の負傷については,業務起因性が認められる。 エよって,本件暴行による原告の負傷について,業務起因性が認められないとして,原告に対する労災保険法に基づく休業補償給付を支給しないこととした本件処分は違法である。 第4 結論以上の次第で,原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。 新潟地方裁判所第一民事部裁判長裁判官片野悟好裁判官太田武聖裁判官佐藤康憲

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