- 1 - 平成29年8月31日判決言渡平成29年(行コ)第129号年金記録に係る不訂正決定取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成27年(行ウ)第731号) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 処分行政庁が,平成27年10月23日付けで控訴人に対してした控訴人に係る国民年金原簿を訂正しない処分を取り消す。 第2 事案の概要 1 本件は,控訴人が,過年度分である昭和42年7月から昭和55年3月までの期間(本件期間)の国民年金保険料を納付したにもかかわらず(上記納付のうち,保険料を徴収する権利が時効消滅した期間に係るものについては,国民年金法等の一部を改正する法律(昭和53年法律第46号)附則4条に基づく納付(以下「特例納付」という。)をしたとするものである),国民年金原簿に自己に係る特定国民年金原簿記録が記録されていないとして,国民年金法(国年法)14条の2第1項に基づいてした同原簿の訂正の請求(本件訂正請求)に対し,処分行政庁から訂正をしない旨の決定(本件不訂正決定)を受けたことを不服として,その取消しを求める事案である。 原審が控訴人の請求を棄却したところ,控訴人が控訴を提起した。 2 関係法令等の定め,前提事実,争点及びこれに対する当事者の主張は,次のとおり補正し,3に控訴人の当審における付加的主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1ないし3に記載のとお - 2 - りであるから,これを引用する。 (1) 原判決2頁22行目末尾に「また,控訴人は,平成7年2月14日に加入した国民年金基 由」欄の「第2 事案の概要」の1ないし3に記載のとお - 2 - りであるから,これを引用する。 (1) 原判決2頁22行目末尾に「また,控訴人は,平成7年2月14日に加入した国民年金基金の掛金を同日から平成19年7月23日まで順次支払った(甲5の1・2)。」を加える。 (2) 原判決6頁2行目の「全く保険料を滞納しておらず,」の後に「また国民年金基金の掛金についても全く滞納していないから,」を加える。 3 控訴人の当審における付加的主張控訴人と事実婚状態にあるFは,昭和51年前後頃から控訴人と月に数日同居し,お互いの住居を行き来していた。Fは,控訴人の納付と同時期である昭和55年6月23日,昭和52年4月分から昭和55年3月分までの特例納付分と過年度分の保険料として,合計12万0360円を納付した(甲83)。 上記の事実は,配偶者の保険料納付状況として,国年認定基準・要領における控訴人の納付を認める周辺事情に該当する。 第3 当裁判所の判断当裁判所も,控訴人の請求は理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。 1 年金記録訂正制度について原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1に記載のとおりであるから,これを引用する。 2 未納保険料の納付方法及び過年度保険料の督促手続に係る課長通知の定め等同2に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 認定事実次のとおり,付加するほかは,同3に記載のとおりであるから,これを引用する。 原判決13頁25行目の「保管している。」の後に「加えて,控訴人は,平 - 3 - 成7年2月14日に加入した国民年金基金の掛金を同日から平成19年7月23日まで順次支払った。」を加える。 4 判断枠組み前記のとおり 」の後に「加えて,控訴人は,平 - 3 - 成7年2月14日に加入した国民年金基金の掛金を同日から平成19年7月23日まで順次支払った。」を加える。 4 判断枠組み前記のとおり,年金の保険料の納付に関する記録が社会保険庁に正確に記録されていない事案が発覚したことから,総務省に第三者委員会が設置され,その後年金記録の訂正手続が創設された経緯を踏まえ,厚生労働大臣は,基本方針を定め,訂正請求の内容を十分にくみ取り国民の信頼に応えるよう努めるなどの基本的考え方を定めるとともに,判断基準を,関連資料及び周辺事情等を踏まえて総合的に判断し,訂正請求の内容が社会通念に照らして明らかに不合理ではなく,一応確からしいものであることとしたこと,基本方針に基づき,国年認定基準・要領を策定し,評価に際しては,事案に係る関連資料及び周辺事情の収集を行い,そこから得られる個々の事情を積極的な事情(訂正の認容に対し肯定的な事情)又は消極的な事情(訂正の認容に対し否定的な事情)として評価し,基本的には先例との均衡によって評価を行うが,本件のように,国民年金保険の特例納付事案で納付の記録がない事案においては,所定の評価点の全てに該当するものについては,基本的に当該請求を認める方向で検討すべきものとしたことからすれば,訂正請求における年金保険料の納付の認定は,基本方針のとおり疎明で足りると解すべきである。そして,国年認定基準・要領によれば,特例納付事案については,ア特例納付期間内であること,イ特例納付した金額の記憶が実際に必要になる金額におおむね一致していること,ウ請求期間が国年記録上強制加入期間であったこと,エ特例納付後については未納がないなど,請求内容に不自然さがないこと,オ特例納付を行ったとする場所は,当時納付ができる場所であった ていること,ウ請求期間が国年記録上強制加入期間であったこと,エ特例納付後については未納がないなど,請求内容に不自然さがないこと,オ特例納付を行ったとする場所は,当時納付ができる場所であったこと,カ少なくとも1つは個別事案に即した裏付け資料があることを考慮し,具体的には,特例納付を行ったとする時期に,納付したとする保険料に相当する金額が預貯金口座から出金されていることが確認できる預貯金通帳等,納付したとする保険料 - 4 - に相当する金額が記載されている確定申告書(控)等税務関係資料,特例納付を行ったとする日付及び保険料に相当する金額が記載されている当時の家計簿等の関連資料や,請求者が請求期間の保険料を特例納付で納付したことを裏付ける関係者の証言があること,請求者が特例納付できることを知ったとする広報誌等に特例納付に係る記事が掲載されていること,近接する時期に生じた類似内容の請求が当該旧社会保険事務所(年金事務所)又は市町村に散見されることといった周辺事情があること(以下「関連資料・周辺事情」という。)を考慮し,これら全てに該当するものについては,基本的に認定する方向で検討するのが相当である。 なお,控訴人は,基本方針の文言から,不合理性の証明責任が被控訴人に転換されたものである旨主張するが,基本方針は,「訂正請求の内容が社会通念に照らして明らかに不合理ではなく,一応確からしいものであること」として証明の程度が疎明で足りることを定めたものにすぎず,証明責任の転換まで認めたものと解することはできないから,控訴人の主張は採用できない。 5 具体的判断そこで,以下,上記判断枠組みに沿って,検討する。 (1) 上記アないしカまでの各事情のうち,控訴人に該当する事情は,以下のとおりである。 ア 「ア特例納付期間内 きない。 5 具体的判断そこで,以下,上記判断枠組みに沿って,検討する。 (1) 上記アないしカまでの各事情のうち,控訴人に該当する事情は,以下のとおりである。 ア 「ア特例納付期間内であること」について控訴人は,昭和55年6月27日に本件加入手続をした(前記認定事実(1))当日に,本件納付をしたと主張するところ,上記加入日は,特例納付期間内(昭和55年6月30日まで)であり,控訴人が本件納付をしたと主張する日は,特例納付期間であると認められる(乙20の1)。 イ 「ウ請求期間が国年記録上強制加入期間であったこと」について本件期間(昭和42年7月から昭和55年3月まで)が国年記録上強制加入期間であったことは当事者間に争いがない。 - 5 - ウ 「カ関連資料・周辺事情」について(ア) 控訴人の居住するB市においては,広報誌で,特例納付の制度及びその納付期限が昭和55年6月30日までであり,国民年金に加入していない者等にとって最後の機会であることが広報されていた(前記認定事実(2))。 (イ) 控訴人が本件加入手続をした当時,本件保険料に相当する金額を支出したことを裏付ける預貯金通帳等,確定申告書(控)等税務関係資料,当時の家計簿等の関連資料はないものの,控訴人は,新聞販売店を経営し,毎月150万円ないし200万円程度の現金を扱っていた(前記前提事実(1))事実は,周辺事情といえる。 (2) 控訴人は,国年認定基準・要領の前記アないしカまでの各事情のうち,本件においては以下の事情も該当すると主張するが,以下のとおり,同主張は採用することができない。 ア 「イ特例納付した金額の記憶が実際に必要になる金額におおむね一致していること」について控訴人は,第1 と主張するが,以下のとおり,同主張は採用することができない。 ア 「イ特例納付した金額の記憶が実際に必要になる金額におおむね一致していること」について控訴人は,第1回確認申立てにおいては,納付した金額につき,数十万円,具体的には20ないし30万円よりも高かったが100万円にはいかないくらいであると主張した(前記認定事実(6))。これによれば,控訴人の納付した金額についての記憶は曖昧であり,納付すべき本件期間の保険料58万8360円におおむね一致しているとはいえない。 控訴人は,上記申立てについて,控訴人の記憶が曖昧で具体性が乏しいなどとして年金記録の訂正が必要とまではいえないと判断した旨の通知を受けた後は,納付した金額について60万円前後と陳述するようになった(同(6),(7)及び(8))が,このような陳述の変遷の経過からすると,60万円前後との金額が控訴人の記憶に基づくと認定することは困難である。 - 6 - イ 「エ特例納付後については未納がないなど,請求内容に不自然さがないこと」について,控訴人は,本件現年度保険料について,昭和55年8月30日を払込期限(収納事務の整理の都合上定められたもの)とするC区役所発行の同月8日付け納付書を郵送で受領し,同年9月27日,これをA郵便局において納付した。また,控訴人は,同月24日以降,同年7月分ないし平成19年6月分の保険料をすべて納付し,さらには平成7年2月14日に加入した国民年金基金の掛金を同日から平成19年7月23日まですべて支払っている。(前記認定事実(4))また,控訴人は,その主張どおり,昭和55年6月27日,本件加入手続をして,20歳の誕生日前日に遡って国民年金の資格を取得したものとして国民年金に加入し,年 支払っている。(前記認定事実(4))また,控訴人は,その主張どおり,昭和55年6月27日,本件加入手続をして,20歳の誕生日前日に遡って国民年金の資格を取得したものとして国民年金に加入し,年金手帳の交付を受けた(前記認定事実(3))。 他方,控訴人は,本件加入手続と同時に,C区役所又はC区役所庁舎内に開設された横浜銀行派出所において,保険料として持参した現金約60万円を納付した,その際,納付書も領収証も預り証も交付されなかったと主張及び供述(乙21)する。 しかし,控訴人は,本件加入手続によって初めて国民年金の加入手続をしたにもかかわらず,加入手続をする前に特例納付に係る未納金額が約60万円であることをどうして知っていたのかという点についての記憶が曖昧である(乙21)。また,事前に指示されたわけでもないのにC区役所に約60万円もの多額の現金を持参したこと,多額の現金を納付したにもかかわらず,領収証又は預かり証の交付を求めなかったことは,不自然である。この点,控訴人は,年金手帳を取得すれば本件納付の証拠となると考えていたと主張するが,年金手帳には保険料の納付に関する記載自体がないから採用できない。 - 7 - さらに,後記のとおり,区役所又は区役所の庁舎内に開設された横浜銀行派出所が保険料を納付できる場所であったとは認められないことは措くとしても,区役所又は金融機関が納付書に基づくことなく年金保険料として現金を収受し,かつ,領収証あるいは預り証を発行しないことは,極めて不自然である。(なお,被控訴人は,本件未納通知は控訴人が本件保険料を納付していなかったことから送付されたものと解するのが合理的であるから,控訴人の主張は不自然であると主張するが,控訴人に係る国民年金原簿に,控訴人が本件保険料を納付したとの記載がな 人が本件保険料を納付していなかったことから送付されたものと解するのが合理的であるから,控訴人の主張は不自然であると主張するが,控訴人に係る国民年金原簿に,控訴人が本件保険料を納付したとの記載がなく,被控訴人においては,本件保険料が納付されていないものとして取り扱ってきたことは当事者間に争いがないから,これを前提とする本件未納通知により,控訴人が本件納付をしなかったと推認することはできない。)そうすると,控訴人について「請求内容に不自然さがない」ということはできない。 ウ 「オ特例納付を行ったとする場所は,当時納付ができる場所であったこと」について控訴人は,本件加入手続の際に,C区役所において現金で約60万円をその場で納付したと主張する。 しかし,前記2のとおり,課長通知によれば,特例納付分の保険料及び過年度保険料の納付は,納付書により納付することとされており,市町村においては,その協力を得て,納付書の備付け及び送付等を行うものとされていたところ,社会保険庁が実施した国民年金保険料の特例納付(第3回目)に係る事務の状況調査におけるB市の調査報告(乙25)によれば,B市では,昭和55年6月当時,特例納付分の保険料について,市職員が直接受領する取扱いはなかったことが報告され,特例納付の意思のある市民に対して国庫金納付書に期間・ - 8 - 金額を記入した上,根拠条文のゴム印を押印したものを渡し,郵便局等の金融機関において納付するよう説明していた旨報告していることからすると,控訴人が本件納付をしたとするC区役所が当時現金による特例納付ができる場所であったと認めることはできない。 なお,控訴人は,C区役所庁舎内に開設された横浜銀行派出所において,実際には特例納付が可能であった旨主張し,同派出所において現金で納付し よる特例納付ができる場所であったと認めることはできない。 なお,控訴人は,C区役所庁舎内に開設された横浜銀行派出所において,実際には特例納付が可能であった旨主張し,同派出所において現金で納付した可能性を指摘するようである。 しかし,同派出所は,B市の市税,各種保険料等のB市の歳入を扱うことに限定されており,国庫金の取り扱いはできないとされているところ(甲78ないし80,乙33),昭和55年6月当時,これと異なる取扱いがなされていたことを具体的に裏付ける資料はないから採用できない。 エそのほかの「カ関連資料・周辺事情」について(ア) 控訴人は,周辺事情として,「近接する時期に生じた類似内容の請求が当該旧社会保険事務所(年金事務所)又は市町村に散見される」という状況にあったと主張する。 しかし,年金記録訂正手続が創設された平成27年3月1日から平成28年9月30日までの間,神奈川県を管轄区域とする厚生労働省関東信越厚生局神奈川年金審査分室において受け付けた国民年金事案は104件であり,このうち神奈川県の全市町村における第1回から第3回までに係る特例納付の訂正請求は,控訴人の請求を含めて2件(いずれもB市)にとどまるから(乙31,35),「近接する時期に生じた類似内容の請求が当該旧社会保険事務所(年金事務所)又は市町村に散見される」という状況にあったとはいえない。 したがって,控訴人の当審における主張は採用することができない。 - 9 - (イ) 控訴人は,Fが昭和53年から55年頃に国民年金の特例納付ができる最後のチャンスだからしておいた方が良いという話を控訴人にしたこと,その後控訴人が特例納付の手続をしてきたということを1週間か10日位後に控訴人から聞いたと書面(甲2の10)で供述していることが,「請求 チャンスだからしておいた方が良いという話を控訴人にしたこと,その後控訴人が特例納付の手続をしてきたということを1週間か10日位後に控訴人から聞いたと書面(甲2の10)で供述していることが,「請求者が請求期間の保険料を特例納付で納付したことを裏付ける関係者の証言があること」として,周辺事情に該当する旨主張する。 しかしながら,Fの上記供述内容は,控訴人の納付の具体的な時期,納付金額,納付の方法について,詳細に言及しておらず,単に控訴人の本件納付を控訴人からの伝聞で知ったというのにとどまるものであって,具体性に欠けるから,「請求者が請求期間の保険料を特例納付で納付したことを裏付ける関係者の証言があること」の周辺事情に該当するとは認められない。 (ウ) 控訴人は,当審において,控訴人と事実婚状態にあるFが昭和55年6月23日に昭和52年4月分から昭和55年3月分までの特例納付分と過年度分の保険料を納付した事実が配偶者の保険料納付状況として,周辺事情に該当する旨主張する。 しかしながら,国年認定基準・要領において,配偶者の保険料納付状況が請求者の納付状況を間接的にうかがい知る資料となるとする根拠について,「国民年金保険料は被保険者だけでなく,世帯主や配偶者も連帯して納付義務を負っている。また,国民年金保険料の納付を定期的に行っている家庭では,そのことが夫婦間で公共料金を日常的に負担していることと同様な意識レベルに達しているといえる。」と記載していることからすると,ここでいう「配偶者」には事実婚が含まれるとしても,同居するなどして世帯の生計を同一にしているなど社会通念上,夫婦の共同生活の実態が認められることを前提にしてい - 10 - ると解すべきである。これを本件についてみると,控訴人及びFら作成の陳述書(甲84) の生計を同一にしているなど社会通念上,夫婦の共同生活の実態が認められることを前提にしてい - 10 - ると解すべきである。これを本件についてみると,控訴人及びFら作成の陳述書(甲84)によっても,控訴人とFは,昭和55年当時,住居は別で,月に数日行き来していた,当時,控訴人はFに経済的援助をしていたが,F自身はEデパート等に勤務していたというのであり,これらの事情からすると,控訴人とFの関係には,夫婦間で公共料金等を日常的に負担しているというような共同生活の実態を有しているとは認められない。そうすると,Fは,国年認定基準・要領における「配偶者」に該当するということはできず,Fが特例納付分と過年度分の保険料を納付した事実を,控訴人の納付状況を間接的にうかがい知る資料として考慮することはできない。 したがって,控訴人の当審における主張は採用することができない。 (3) 以上によれば,控訴人の主張する本件納付については,国年認定基準・要領の前記アないしカまでの各事情のうち,ア,ウ及びカの各事情は認められるものの,その他の事情が認められず,上記アないしカまでの「全てに該当する」ものとはいえない。 また,これらを総合的にみても,控訴人の訂正請求の内容が社会通念に照らして明らかに不合理ではなく,一応確からしいものであると認めるに足りないといわざるを得ず,他に控訴人の本件納付を認めるに足りる疎明はない。 したがって,処分行政庁による本件不訂正決定は適法である。 6 そうすると,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第2民事部 - 11 - 裁判長裁判官白石史 訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第2民事部 裁判長裁判官白石史子 裁判官梅本圭一郎 裁判官鈴木義和
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