平成16(ワ)8720 損害賠償

裁判年月日・裁判所
平成18年12月8日 東京地方裁判所 その他
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判決文本文54,311 文字)

平成18年12月8日判決言渡平成16年(ワ)第8720号損害賠償請求事件判決主文 被告らは、原告に対し、連帯して金200万円及びこれに対する平成10年12月8日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用はこれを10分し、その1を被告らの負担とし、その余は原告の負担とする。 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求被告らは、原告に対し、各自、金2500万円及びこれに対する平成10年12月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要等 事案の概要本件は、被告学校法人A医科大学(以下「被告大学」という)が設置・運。 営するA医科大学附属病院(以下「A医大病院」という)において、左耳介。 。 、部有棘細胞癌と診断され、同病院に入院した亡B(以下「亡B」という)が同病院医師の紹介により、被告C(以下「被告C」という)の設置・運営す。 るD病院で局所動脈内選択的注入療法(以下「動注化学療法」という)のた。 。 、めの動注ポートを留置する手術(以下「本件留置術」という)を受けた後に脳梗塞を発症し、死亡したことについて、亡Bの相続人である原告が、A医大 病院担当医師には、脳梗塞の発症の危険性等についての説明を怠った過失が、被告Cには、同じく説明を怠った過失及び脳梗塞に対する治療を怠った過失があり、原告はそれについての損害賠償請求権を相続し、また、自己も精神的苦痛を被ったとして、被告らに対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償の請求をした事案である。 争点 (1)被告Cの脳梗塞に対する治療を怠った過失の有無(2)被告大学の説明義務違反の有無(3)被告Cの説明義務違反の有無 不履行又は不法行為に基づき、損害賠償の請求をした事案である。 争点 (1)被告Cの脳梗塞に対する治療を怠った過失の有無(2)被告大学の説明義務違反の有無(3)被告Cの説明義務違反の有無(4)脳梗塞に対する治療を怠った過失と死亡との因果関係(5)説明義務違反と死亡結果との因果関係(6)損害額 争点についての当事者の主張別紙1「当事者の主張・被告大学関係」及び別紙2「当事者の主張・被告C関係」のとおりである。 第3当裁判所の判断 事実関係証拠(認定の根拠となった証拠等を()内に示す。原告及び被告Cの本人尋問の結果については、単に原告、Cと表示した。それぞれ証拠の該当頁数を〔〕内に掲記した。以下同じ)によれば、次の事実が認められる。 。 (1)当事者等ア亡Bは、大正6年11月24日生まれの男性であり、平成10年12月8日に死亡した(以下、月日のみの記載は、平成10年を指すものとする(争いのない事実。 。))イ原告は、亡Bの三男である。亡Bには、他に妻E、長男F、長女G、二男H、四男Iがいるが、遺産分割協議により、亡Bの本件損害賠償請求権 は原告が取得した(甲A4、甲A5、争いのない事実。 )ウ被告大学は、肩書地において、A医大病院を設置・運営する学校法人である(争いのない事実。 )エ被告Cは、肩書地において、D病院を設置・運営する医師であり、亡Bに対する本件留置術を担当した(争いのない事実。 )(2)A医大病院への入院ア亡Bは、平成5年ころから、左耳介後部に米粒大の結節を認め、平成9年8月に、自宅近くの病院を受診した。亡Bは、外科病院の受診を勧められたが、そのまま放置していた(乙A1〔8、9、11、14、27、28、乙A2〔14。 〕〕)イ亡Bは、左耳介後部の結節が急速に増大 、自宅近くの病院を受診した。亡Bは、外科病院の受診を勧められたが、そのまま放置していた(乙A1〔8、9、11、14、27、28、乙A2〔14。 〕〕)イ亡Bは、左耳介後部の結節が急速に増大したため、平成10年6月25日、J市立総合病院耳鼻科を受診した。同病院で生検を行った結果、高分化型有棘細胞癌と診断された(甲A8〔1、乙A1〔8、9、11、1〕4、27、28、乙A2〔14。 〕〕)ウ亡Bは、同年7月6日、同病院の紹介により、A医大病院を受診した。 主治医となるK医師(以下「K医師」という)が診察したところ、左耳。 介後部に、腫瘍底を有する10×7×3cm大の楕円形の腫瘤が認められた。腫瘤は、赤色一部黒色調で、角質増殖しており、潰瘍化をきたし、壊死細胞が付着し、自壊しやすく、異臭を発する状態であった。創部培養の結果、緑膿菌及び腸球菌が検出された。今後の治療としては、術前に動注化学療法(ペプレオマイシン5~10㎎×5日間)を行った上で、手術をし、術後にも化学療法を行うこととされた(乙A1〔9、乙A2〔16〕ないし19、38、乙A3〔8、9。 〕〕)癌の進行度については、入院後の検査の結果、筋肉内への浸潤があり左後耳介リンパ節の腫脹があったが、遠隔転移は否定され、癌の進行度についてはT4N1M0、stageⅢと診断された(乙A1〔11、15、乙A〕 2〔18、38、44、95、乙A4〔7。 〕〕)エ亡Bは、同日、A医大病院に、独歩にて入院をした(乙A2〔21。 〕)亡Bは、A医大病院に入院中、創部の疼痛を強く訴えたため、鎮痛・解熱剤であるボルタレン(座薬)と持続性癌疼痛治療剤であるMSコンチン(硝酸モルヒネ)を継続して投与されていた。また、入院中の食事、歩行、排尿、排便等の日常生活動作は、ほぼ自立した えたため、鎮痛・解熱剤であるボルタレン(座薬)と持続性癌疼痛治療剤であるMSコンチン(硝酸モルヒネ)を継続して投与されていた。また、入院中の食事、歩行、排尿、排便等の日常生活動作は、ほぼ自立した状態であり、シャワー浴が可能で、理解力がやや乏しいものの、会話も可能であり、意識障害や呼吸困難等はなかった(甲A8〔2、乙A2〔118ないし120、127ないし14〕3、145、原告〔6。 〕〕)オ7月13日、K医師及びL医師(以下「L医師」という)は、亡Bが。 理解力に乏しいため、原告に対し、治療計画等についての説明を行った。 治療方法については、手術、化学療法及び放射線療法があること、癌の転移がある場合には全身化学療法を行うが、亡Bの場合は癌が限局しているので動注化学療法を行うこと、抗癌剤としてはペプレオマイシンを使用するが、その副作用としては肺線維症が考えられること、動注化学療法終了後に手術を行うこと、動注化学療法の利点としては、少量の抗癌剤で標的とする部分に効かせることができるため、全身への影響が少ない点であること、この療法を実施するには、まず専門病院であるD病院に転院して動注ポート留置術を受ける必要があること等について説明がされ、原告は同療法を受けることに同意した(甲A1、甲A8〔1、乙A2〔27、4〕9、乙A10、原告〔3。 〕〕)(3)動注ポート留置術の実施ア亡Bは、同月21日、動注ポートを留置するために、A医大病院を退院し、D病院に入院した。D病院へは、原告が付き添い、亡Bは自ら歩行して入院した(乙A2〔43、丙A7、原告〔4。 〕〕)イ同月22日午後4時10分から、被告C及びM医師らの執刀の下、亡B に対し、本件留置術が行われた。医師らは、局所麻酔薬であるキシロカインを亡Bの鼠径部に注射し、左 A7、原告〔4。 〕〕)イ同月22日午後4時10分から、被告C及びM医師らの執刀の下、亡B に対し、本件留置術が行われた。医師らは、局所麻酔薬であるキシロカインを亡Bの鼠径部に注射し、左深大腿動脈を剥離露出させ、動脈切開後シースカテーテルを大腿動脈内から外頚動脈内にまで挿入した。カテーテル固定後は、カテーテルに埋め込み式の動注ポートを接続し、右側腹部皮下に、動注ポートの埋め込みを行った。また、術中に、医師らは、亡Bに対し、向精神薬であるセルシンを1アンプルを投与した(丙A9、丙A10、丙A19〔2、C〔1、M〔7、8。 〕〕〕)医師らは、術後に、バルーンカテーテルを尿道に挿入して膀胱に留置した。 同日午後5時55分、手技が終了し、医師らは、蛍光色素を動注ポートへ注入して写真撮影をし、患部の直下にカテーテルが入っていることを確認した。 同日午後6時15分、亡Bは手術室を退出し、ICUへ運ばれた(丙A7、丙A10、丙A14、丙A19〔3。 〕)ウ被告Cは、術後の亡Bの管理について、動脈硬化があると思われるので梗塞に注意して、麻痺の有無や握力の強弱など全身状態の経過観察を十分にすることを指示した(丙A10。 )(4)術後の経過ア同月23日午後7時、看護師が亡Bの体温を計測したところ、体温は39度であったため、亡Bには、解熱・鎮痛薬であるボルタレンSPが投与された(丙A7。また、疼痛緩和のため、毎日の包帯交換時の1時間前にはボル)タレンが投与されていた(丙A13、丙A18〔1、2、M〔20。 〕〕)看護師は、亡Bの意識障害レベルについて、体温等の患者の状態を表形式で記載するいわゆる温度板に、同日午後9時には、ジャパン・コーマ・スケール(以下「JCS」という)Ⅱ-10と記載したものの、同月24日午前。 7時には 障害レベルについて、体温等の患者の状態を表形式で記載するいわゆる温度板に、同日午後9時には、ジャパン・コーマ・スケール(以下「JCS」という)Ⅱ-10と記載したものの、同月24日午前。 7時には、亡Bの意識障害レベルにつき、クリアと記載した。その後、同日午後7時から同月27日までは、Ⅰ-1又は単にⅠと記載された(丙A7。 )また、病棟に入院している患者の状態をまとめて記載した病棟管理日誌に は、亡Bについて、同月24日深夜勤の欄には「呼名返答見られず「今朝」、レベルクリア」と記載され、同月25日深夜勤及び日勤の欄には意識レベルについてⅠ-3と記載された(丙A15〔9ないし12。 〕)さらに、23日午後9時には、疼痛の有無について「?」と記載された。 その後、亡Bの疼痛についての記録は、25日の「3(我慢できる)~4(我慢できない」という記録以外は、すべて「3(我慢できる」と記載さ))れた(丙A7。 )イ同月23日午後、術前からの予定どおり、頭部CT検査が行われた(丙A5。なお、この際のCT検査の画像フィルムについては、保存期間の)〕、経過によりD病院によって廃棄されており、存在しない(丙A19〔3C〔5、15、24。 〕)ウ食事については、入院時から禁食とされていたが、同月24日から、食事が開始され、退院時まで継続された(丙A7。 )エ同月25日午前2時10分ころ、亡Bは、病室内のベッドから転落した(丙A7、丙A16〔12。なお、被告Cは、亡Bが、ベッドに設置さ〕)れた転落防止のための柵を乗り越えて転落したと主張するが、転落時に柵が設けられてたと認めるに足りる証拠はなく、転落の態様は明らかではない。 (5)A医大病院への再入院ア同月27日、亡BはD病院を退院し、A医大病院皮膚科に再度入院した。 亡 張するが、転落時に柵が設けられてたと認めるに足りる証拠はなく、転落の態様は明らかではない。 (5)A医大病院への再入院ア同月27日、亡BはD病院を退院し、A医大病院皮膚科に再度入院した。 亡Bは、D病院退院の際には、バルーンカテーテルを挿入され、車イスに乗車した状態であり、D病院からA医大病院までは、原告が運転する自動車で移動した。なお、D病院からA医大病院までは、自動車で1時間程度の距離である(甲A8〔5、乙A4〔1、M〔19、原告〔17、1〕〕〕 。 〕)イA医大病院に入室した際には、右片麻痺が認められ、看護師の呼名に対 しても返事がなく、ぐったりしている状態であった。また、長時間の座位の保持ができず、食欲不振が認められ、不穏があり、消耗が激しい状態で〕〕)。 あった(甲A8〔5、乙A4〔8、16、22、26、91、130ウ退院時に、D病院看護師からA医大病院看護師に宛てて記載された看護要約には、安静度についての記載として「特に制限なし、術後より歩行不可、ベッド上にて体位交換自力にてOK、食事についての記載として」「3分粥(きざみ食)要介助全粥までもって行く予定でした、排泄に。」ついての記載として「16Frバルン留置中オムツ使用、清潔につい」ての記載として「7/22以降、毎日、朝夕、清拭施行、口腔内清浄、」その他援助の必要な事項についての記載として「包交前に鎮痛剤投与しているせいか傾眠がちであるが呼名には反応あり」との記載がある。また、看護上の問題点として「左耳介創部の疼痛続いているようだが、疼痛に、対しては訴えなし。包交時にボルタレン3P50mg1時間前に挿入、傾眠についてはNS(看護師)からの働きかけが必要である。時折呼吸困難あるも呼名して覚醒させると平常に戻っているMSコンチン40 、対しては訴えなし。包交時にボルタレン3P50mg1時間前に挿入、傾眠についてはNS(看護師)からの働きかけが必要である。時折呼吸困難あるも呼名して覚醒させると平常に戻っているMSコンチン40mg×3は本人拒否にて休薬することもある」との記載がある(乙A4〔123、 。 〕)また、被告CからA医大病院医師に宛てた診療情報提供書には「術後、経過は良好です」との記載がある(乙A4〔18。 。 〕)エ同月29日、K医師は、D病院に電話をして、同院での診療内容について確認したところ、カテーテル挿入時、総頸動脈から外頸動脈に行くときに困難であった、血栓を飛ばすムンテラはしていない等の説明がされた(乙A4〔24。 〕)オ同月28日及び29日に、頭部CT検査を行ったところ、左中大脳動脈領域に梗塞巣が認められ、脳梗塞と診断され、グリセロール等の投与が開始された(乙A4〔8、20、22、88、89、91。 。 〕) 8月4日、再度CT検査が行われたが、7月29日の検査と比べて著変はなかった(乙A4〔90。 〕)カA医大病院担当医師は、原告及び亡Bの長女Gに対しては、絶飲食にするために喀痰にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以下「MRSA」という)がつく可能性がある、誤嚥性肺炎を起こすこともある、中心静脈栄。 養による全身管理を行う等の説明をした(甲A2、乙A4〔24。 〕)キその後の治療方針について、K医師らは、7月29日及び8月3日の2回にわたり、動注化学療法を実施しても脳に障害を起こすことはないと説明し、その実施を勧めたが、原告がこれを拒否し、当面は動注化学療法を施行しないこととしたものの、さらに原告を説得し翻意させることを期待して、カテーテルはそのまま留置することとした。他方、原告は、放射線療法を行うことにつ が、原告がこれを拒否し、当面は動注化学療法を施行しないこととしたものの、さらに原告を説得し翻意させることを期待して、カテーテルはそのまま留置することとした。他方、原告は、放射線療法を行うことについては承諾をしたので、8月10日、A医大病院放射線科において、放射線200Gy(グレイ)を照射する放射線療法が開始されたが、同月11日に発熱があり、全身状態が安定しないため、それ以降の放射線治療は延期された(乙A4〔24、27、33、37、41、42、50、51、94、乙A5〔8、9。 〕〕)(6)出血性梗塞の発症ア同月12日、亡Bの意識レベルが低下したため、頭部CT検査が行われたところ、左中大脳動脈領域に、出血性梗塞が認められた。そのため、同月13日、亡Bは、A医大病院神経内科に転科した。JCSでⅡ-10ないし20であった(乙A4〔8、98、171、乙A6〔13、14、〕 。 〕)イ同科においては、出血性梗塞の急性期の治療として、グリセロールの投与等が行われた(乙A6〔13。 〕)なお、7月28日以降、炎症反応の存在を示すCRPが正常値を大きく上回っていたため、8月上旬より抗生剤を変更しつつ継続的に投与された が、感染巣は明らかにならなかった(乙A6〔37、38、42、55、71、72。 〕)(7)A医大病院皮膚科再転科後の経過ア意識障害の程度が、Ⅰレベルにまで改善し、CT画像上も出血の吸収が見られたため、同月28日、亡Bは、再度皮膚科に転科した(乙A6〔55、139、乙A13〔7。 〕〕)イ皮膚科転科後は、9月2日から放射線治療を再開し、10月23日までに、総量64Gyを照射した。放射線治療によって腫瘍は縮小し、壊死細胞も減少したが、抗生剤の投与が原因と思われる肝機能の悪化をはじめとする全身状態 、9月2日から放射線治療を再開し、10月23日までに、総量64Gyを照射した。放射線治療によって腫瘍は縮小し、壊死細胞も減少したが、抗生剤の投与が原因と思われる肝機能の悪化をはじめとする全身状態の悪化により、腫瘍の切除手術を行うことはできなかった(乙A5〔22ないし26、乙A13〔7、69。 〕〕)ウ皮膚科転科後においては、有棘細胞癌の創部からは、9月上旬に緑膿菌が検出されたが、同月25日以降は、11月5日に一度MRSAが検出された以外は、陰性となった(乙A13〔7、34、41、48、67、82、127、212、213。 〕)これに対し、9月25日、喀痰及び咽頭粘液よりMRSAが検出され、これ以降、同箇所及び鼻前庭から継続的にMRSAや緑膿菌が検出された(乙A13〔7、43、45、50、51、53、57、61、62、67、77、98、109、113、114、129、137、156、216ないし221。 〕)エ11月5日、胸部レントゲン検査の結果、肺陰影の増強が見られ、同月10日に同院の呼吸器科医師が診察した結果、肺にはもともと陰影がなかったことからして、感染巣は動注化学療法のために挿入されたカテーテルが最も疑わしく、これを抜去すべきであるとされ、現在の症状は、成人型呼吸促拍症候群(以下「ARDS」という)及び播種性血管内凝固症候。 群に準じる状態と診断されたため、これらに対する治療が開始された(乙 A13〔7、75、88、89、90。 〕)オ11月28日ころ、左耳の創部の上に10×10mm大の結節が見られ、再発の可能性が高いと判断され、再度、同院の放射線科に対し、放射線治療を行うことが依頼されたが、全身状態の悪化のため、放射線治療が行われることはなかった(乙A13〔7、136、144、149。 〕)(8 能性が高いと判断され、再度、同院の放射線科に対し、放射線治療を行うことが依頼されたが、全身状態の悪化のため、放射線治療が行われることはなかった(乙A13〔7、136、144、149。 〕)(8)亡Bの死亡ARDSは11月下旬頃にいったん改善傾向が見られたが、12月3日に39度の発熱が生じた以降は、呼吸状態が急速に悪化し、胸部レントゲン上も肺陰影の増強が見られ、肺炎との判断の下、治療が続けられたが、12月8日に亡Bは死亡した(乙A13〔7、120、122、140ないし143、145ないし148、150ないし164。 〕))。 死亡診断書には、直接死因として「有棘細胞癌」と記載された(甲A3 医学的知見(1)有棘細胞癌についてア有棘細胞癌の特徴皮膚の有棘細胞癌(扁平上皮癌)は、表皮を構成する主要な細胞であるケラチノサイトの癌化によって生じる悪性腫瘍である。有棘細胞癌の特徴的臨床像としては、症状が進行した場合には、カリフラワー状の隆起性の外観を示し、表面に壊死、角質塊を付着し、悪臭を放つことが多いとされる(乙B1〔38、乙B2〔69。 〕〕)イ有棘細胞癌のTNM分類及び病期分類有棘細胞癌は、以下のように分類される(乙B1〔42。 〕)(ア)T分類(原発巣)TX:原発巣の評価が不可能なものT0:原発巣を認めないものTis:上皮内癌 T1:最大径が2㎝以下の腫瘍T2:最大径が2㎝を超えるが5㎝以下の腫瘍T3:最大径が5㎝を超える腫瘍T4:深部の皮膚以外の組織(軟骨、筋肉、骨など)に浸潤する腫瘍(イ)N分類(所属リンパ節)NX:所属リンパ節転移の評価が不可能なものN0:所属リンパ節転移を認めないものN1:所属リンパ節転移を認めるもの(ウ)M分類(遠隔転移)MX:遠隔転移の評価が不可能なもの (所属リンパ節)NX:所属リンパ節転移の評価が不可能なものN0:所属リンパ節転移を認めないものN1:所属リンパ節転移を認めるもの(ウ)M分類(遠隔転移)MX:遠隔転移の評価が不可能なものM0:遠隔転移を認めないものM1:遠隔転移を認めるもの(エ)病期分類病期0:TisN0M0病期Ⅰ:T1N0M0病期Ⅱ:T2、3N0M0病期Ⅲ:T4N0M0;anyTN1M0病期Ⅳ:anyTanyNM1ウ有棘細胞癌の治療有棘細胞癌の治療方針は、基本的には病期によって決定される。病期Ⅲでリンパ節転移がない症例については、腫瘍の辺縁から2ないし3㎝離して切除するものとされているが、手術療法単独で病変を完全に取りきれない場合には、手術療法に加えて術前及び術後の補助化学療法や放射線療法を併用する場合もある。この補助化学療法と放射線療法のいずれを選択すべきかについては、有棘細胞癌の治療方針に関する一般的な文献には特に記載がなく、両者が並列的に記載され、双方とも相当の効果が期待できる とされているにすぎない。また、有棘細胞癌は高齢者に多く、患者の全身状態により治療法が制限されることからすれば、合併症の有無、原発巣の部位などを十分考慮して治療方針を各患者ごとに決定するものとされている(甲B1〔5、乙B1〔43、乙B3〔63、67、68。 〕〕〕)(2)動注化学療法についてア抗癌剤の投与方法として動注化学療法がある。これは、局所の栄養動脈にカテーテルを挿入して、抗癌剤を選択的に注入する化学療法である。 (乙A11添付文献2〔821、丙B1〔1。 〕〕)イ抗癌剤の点滴静注法と比べた動注化学療法の利点は、腫瘍局所に直接大量の抗癌剤を投与することにより、全身への副作用を軽減できることにある。腫瘍の栄養血管に留置したカテーテルから 〔1。 〕〕)イ抗癌剤の点滴静注法と比べた動注化学療法の利点は、腫瘍局所に直接大量の抗癌剤を投与することにより、全身への副作用を軽減できることにある。腫瘍の栄養血管に留置したカテーテルから投与されるものにより、腫瘍中の抗癌剤の濃度がおおよそ決定されるので、還流静脈中に戻ってきた抗癌剤を不要な抗癌剤として中和しても抗腫瘍効果を減じることなく副作用を防止することが可能となり、抗癌剤を大量投与することが可能となる(甲B3〔172。 〕)ウ動注化学療法に起因する合併症としては、大きく、動注チューブの挿入に起因するものと、薬剤そのものに起因するものに分けられ、動注チューブの挿入に起因する合併症としては、動注チューブ挿入部の感染、血栓の形成、カテーテルの破損による出血、挿管時の血管内膜の損傷などがあるが、カテーテルを挿入する動注化学療法の最大の問題点は、脳梗塞などの脳血管障害の可能性があることであるとされる(甲B2〔1、甲B3〕〔172。 〕)(3)脳梗塞についてア脳梗塞について脳梗塞は、血管閉塞のメカニズムにより、脳血栓症、脳塞栓症及び血行力学性脳梗塞に分類されてきたが、近時においては、発症原因により、ア テローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、心原性脳塞栓症に分類されることも多い(乙B4〔140。 〕)イ脳塞栓症について心腔内または動脈壁に生じた血栓や血小板の塊りが血中に遊離し、これが栓子となって脳血管を塞栓することを脳塞栓といい、脳梗塞が生じた場合を脳塞栓症という。塞栓性梗塞は、突然に脳血管を閉塞するので、血栓性梗塞に比べると発症が急激であり、症状は突発完成する(甲B10〔5、乙B4〔146、147、乙B6〔11。 〕〕〕)脳塞栓症の症状については、塞栓動脈により症状は異なり、塞栓動脈が中大脳動脈の 塞に比べると発症が急激であり、症状は突発完成する(甲B10〔5、乙B4〔146、147、乙B6〔11。 〕〕〕)脳塞栓症の症状については、塞栓動脈により症状は異なり、塞栓動脈が中大脳動脈の場合、反対側の片麻痺(上肢優位、感覚障害(上肢優位、))同名性半盲(両眼とも同じ側の視野の半分が見えない状態)等が見られる。 起始部に近い部位で塞栓すると意識障害が生じる。病変が優位半球であれば失語症、失行を呈する場合があり、劣位半球であれば、半側空間無視が見られることもある(乙B4〔148、149。 〕)脳塞栓症が発症した場合、頭部CT検査においても、発症後しばらくの期間には明らかな低吸収域は認められないことが多い。発症後数時間以上経過すると徐々に脳浮腫が出現し、虚血領域は低吸収を示す。脳浮腫は発症3ないし5日後に最大となり、著名な場合には圧迫効果のために脳正中部位が健側にシフトするとされる(甲B9〔566、C〔15、M〔1〕〕6、乙B4〔149。 〕〕)ウ出血性梗塞について出血性梗塞とは、貧血性梗塞巣中に漏出性出血を来したものをいう。 全梗塞例の約20%、塞栓例では約60%に見られるとされる(乙B8〔117。 〕)出血性梗塞の発症機序は、梗塞によって梗塞巣内の血管が虚血性変化によって損傷し、かつ閉塞原因となった塞栓子が細分化された結果、同部 位で血管の再開通が起こり、既に損傷している血管から梗塞巣内に出血を来すというものである。栓子により塞栓した血管は発症後48ないし72時間に再開通することが多いため、上記の機序による出血性梗塞は、この時期に起こることになる(乙B6〔112、113、乙B8〔117、〕 。 〕)これに対し、血管の再開通を伴わずに出血性梗塞を呈する場合もあり、これは、梗塞が生じたことにより 性梗塞は、この時期に起こることになる(乙B6〔112、113、乙B8〔117、〕 。 〕)これに対し、血管の再開通を伴わずに出血性梗塞を呈する場合もあり、これは、梗塞が生じたことにより形成された新生幼若細小血管(側副血行路)から、灌流圧が上昇することにより梗塞巣に出血するものである(甲B9〔567、乙A9〔1。 〕〕)エ脳梗塞の治療について(ア)一般的治療脳梗塞急性期の一般的治療としては、安静、全身管理、合併症対策、早期リハビリテーションなどが根幹となる。少なくとも24時間は床上安静が必要であり、症候の動揺、増悪時には安静期間を延長することが必要とされる(甲B1〔1。 〕)(イ)血栓溶解療法脳塞栓症に対しては、発症後3時間以内にt-PAの静脈内投与あるいは発症後3ないし6時間以内にウロキナーゼの選択的動脈内投与を行うと、閉塞血管の再開通が起こり、劇的な症状改善が得られる可能性がある。しかし、発症後3ないし6時間以上経過した時期に血栓溶解療法を行うと、著名な出血性梗塞が生じて病状が悪化する危険性が高い。発症後3ないし6時間以内の血栓溶解療法でも出血性梗塞が起きる危険性はあるが、動脈内投与は静脈内投与に比べると出血などの合併症は少ないとされる。我が国では脳梗塞に対する保険適用は認められておらず、そのため、公には脳梗塞に対する血栓溶解療法は施行できないのが実情であるとする文献もある(甲B1〔2、甲B8〔34ないし36、乙B〕〕 4〔150、152、乙B7〔120。 〕〕)(ウ)抗脳浮腫療法グリセロールの静脈内投与は脳浮腫を改善し、脳血流量を増加させ、脳代謝を改善させるため、10%グリセロールなどの高浸透圧薬が投与される。投与に当たっては、高浸透圧薬は心臓に負荷をかけるので、心機能低下例には ルの静脈内投与は脳浮腫を改善し、脳血流量を増加させ、脳代謝を改善させるため、10%グリセロールなどの高浸透圧薬が投与される。投与に当たっては、高浸透圧薬は心臓に負荷をかけるので、心機能低下例には心不全兆候に注意を払いながら投与する必要がある(甲B1〔2、甲B8〔7、甲B15〔32、乙B4〔150。 〕〕〕〕)オ脳梗塞の予後について脳梗塞を含む脳卒中では、一般に、呼吸器感染、尿路感染、転倒、皮膚損傷など、急性期合併症の頻度が高く、高齢者の場合等には特に合併症が多いとされる。合併症があると、死亡率や機能的転帰が悪くなり、3か月後の死亡の半数は合併症に起因するものとされる(甲B12〔8。 〕)(4)ジャパン・コーマ・スケールについてJCSとは本邦では広く用いられている意識障害レベルを表す尺度である。 Ⅰ-1とは「刺激しないでも覚醒している状態(Ⅰ」のうち「意識清明とは、)、言えない(1」状態を意味し、Ⅰ-2とは「刺激しないでも覚醒している状)、態(Ⅰ」のうち「見当識障害がある(2」状態を意味し、Ⅰ-3とは「刺)、)、激しないでも覚醒している状態(Ⅰ」のうち「自分の名前、生年月日が言え)、ない(3」状態を意味する。また、JCSⅡ-10とは「刺激すると覚醒す)、る状態(Ⅱ」のうち「普通の呼びかけで容易に開眼する(10」状態を意味)、)する(甲B12〔217。 〕) 争点(1)(脳梗塞に対する治療を怠った過失の有無)について(1)ア原告は、被告Cには、亡BがD病院入院中から脳梗塞を発症していたにもかかわらず、それに対する治療を怠った過失があると主張する。 D病院における診療録等には、脳梗塞発症についての記載はなく、D病院で脳梗塞との診断及び治療がされていなかったことについては当事者 間に かわらず、それに対する治療を怠った過失があると主張する。 D病院における診療録等には、脳梗塞発症についての記載はなく、D病院で脳梗塞との診断及び治療がされていなかったことについては当事者 間に争いがない。そこで、亡BがD病院入院中から脳梗塞を発症していたかについて検討する。 イ意識障害の有無、(ア)亡Bの意識障害の状況について検討するに、上記1(4)アのとおり術後の7月23日午後9時には、JCSでⅡ-10と評価されたことが認められる。翌24日には、意識障害についてクリアと評価されているが、その後は、看護記録中に退院時までⅠ-1ないし単にⅠとの記載がされ、病棟管理日誌中には25日の深夜勤及び日勤時にⅠ-3との記載がされているのであるから、少なくとも一貫して意識が清明でないと認識されていたことを示している。また、看護要約には、亡Bの意識レベルにつき「傾眠がちであるが呼名には反応あり」とされており、亡Bの意識レベルは、刺激しないでも覚醒している状態を示すⅠよりもさらに低く、刺激すると覚醒する状態を示すⅡの段階に達していたのではないかとの疑問も生ずるところである。これらの事実からすれば、D病院入院中に亡Bに何らかの意識障害が継続していたことが認められ、その原因としては、他に原因が見当たらない限り、何らかの脳障害の存在が推認されるところである(甲B10〔3。 〕)(イ)この意識障害の原因について、被告Cは、鎮痛目的で投与されていたMSコンチン等鎮痛剤の影響であると主張するが、意識障害レベルにつきJCSでⅡ-10と評価された7月23日については、前日の午後からMSコンチンは休薬とされており、この意識障害の原因が同薬のみにあるとは考え難い。その上、亡Bは、A医大病院入院中においても、同薬及びボルタレンを投与されているが、その際に ついては、前日の午後からMSコンチンは休薬とされており、この意識障害の原因が同薬のみにあるとは考え難い。その上、亡Bは、A医大病院入院中においても、同薬及びボルタレンを投与されているが、その際には意識障害は確認されておらず、このことからしても、D病院における意識障害の原因が鎮痛剤のみにあるとは考え難い。 したがって、被告Cの主張は採用できず、他に、上記の推認を妨げる 事情は見当たらない。 ウ運動障害の有無、(ア)また、上記1(5)ウのとおり、看護要約において、食事については「要介助」とされており、入院中に、亡Bは自ら食事がとれない状況であったことが認められる。上記1(2)エのとおり、本件手術前には、亡Bは自力で飲食ができたことからすると、D病院入院中に何らかの運動障害が発生していたものと推認される。 なお、7月24日の看護記録には「食事介助せずも自力で食べる」との記載があるが、同日のただ1回だけ介助なしでの食事が可能であったとは考え難く、また、どのような食事をどのように食べたのか(特に右手を用いることができたか否か)の記載も存在せず、上記記載から、自力での食事が可能な状態であったと認めることはできない。 また、同じく看護要約には「歩行不可」との記載があり、D病院退、院時には車イスにて退院している。上記1(2)エ及び1(3)アのとおり、D病院入院前には、亡Bは歩行が可能であり、D病院へも自ら歩いて入院したことからすると、入院後に何らかの運動障害が発生したことが認められる。 (イ)この看護要約の「歩行不可」との記載について、被告Cは「歩行、不許可」の意味であると主張するが、D病院入院中に亡Bに対して歩行不許可の指示がされたと認めるに足りる証拠はなく、この主張の趣旨も残された記載をどのように解釈すべきかとの観点でされてい は「歩行、不許可」の意味であると主張するが、D病院入院中に亡Bに対して歩行不許可の指示がされたと認めるに足りる証拠はなく、この主張の趣旨も残された記載をどのように解釈すべきかとの観点でされているところ、上記のような解釈は、その前行に安静度について「特に制限なし」との記載があることと整合しない。また「歩行不可」との記載に続けて、「ベッド上にて体位交換自力にてOK」との記載があることからすれば、亡Bは歩行はできないが、体位交換については自力でできるとの趣旨と理解することができる。そのため「歩行不可」との記載は、D病院で、 の指示事項ではなく、亡Bの運動能力について記載したものと見るのが自然であって、この記載の解釈についての被告Cの主張は採用できない。 また、車イスで退院になったことについても、被告Cは、亡Bに動注ポートとバルーン付導尿用膀胱カテーテルを留置しているためと、亡Bが高齢のため大事をとったからであると主張するが、被告C自身が、ポートをつけたまま入浴や歩行等の日常生活は可能である旨を供述しており(C〔11、12、動注ポートを埋め込んでいたことが車イスを使〕)用する理由になるとは考え難い。また、バルーン付カテーテルを留置していた点については、退院時に車イスを利用した点についての1つの理由となり得るものではあるが、その理由として十分なものではなく、高齢であったため大事をとったとの点についても、高齢であるが故にどのような状態であったのかについての記録は診療録等からは一切明らかではなく、車イスを用いた理由としてにわかに信用し難いところである。 以上の点からすると、亡Bが歩行できない状態にあったため、車イスでの退院となったと推認できるというべきである。 (ウ)さらに、原告は、手術直後から、亡Bには右手が動かない等の片麻痺 ところである。 以上の点からすると、亡Bが歩行できない状態にあったため、車イスでの退院となったと推認できるというべきである。 (ウ)さらに、原告は、手術直後から、亡Bには右手が動かない等の片麻痺の症状や、失語症の症状が出ていたと主張し、原告本人も、7月23日から退院時まで亡Bは虚脱状態であり、右手が動かなかった等これに沿う陳述及び供述をする(甲A8〔4、原告〔12、14、15。 〕〕)そこで、これらの原告の陳述及び供述の信用性について検討するに、7月27日及び8月3日のA医大病院診療録に、事実経過の説明として同内容の記載があることからすれば(乙A4〔48、95、原告は、〕)A医大病院への再入院直後から、A医大病院医師に対し、同様の事実を告げていたことが認められる。このように、問題が生じた直後から上記事実の訴えがあることからすれば、原告が、ことさらに虚偽の事実を述べているとは考え難い。また、原告の陳述及び供述する亡Bの状態は、 診療録等から客観的に認められる亡Bの病状と矛盾せず、自然なものである。 他方で、D病院の診療録等には上記の症状をうかがわせる記載はない。 しかし、同病院の看護記録には、個々の患者ごとの日誌的な記載部分がなく、いわゆる温度板に意識レベル等の項目化された記載があるにすぎず、病棟管理日誌等にも亡Bの状態につき極めて簡潔な記載しか存在しない。しかも、上記のように意識レベルの低下や歩行ができなくなるなど手術前とは明らかに異なった状態が生じているにもかかわらず、これを問題視した形跡もない。これらのことからすれば、D病院における患者の状態についての記録の正確性、ひいては、同院において、患者の状態の把握等の看護自体が適切に行われていたかについて、疑問を抱かざるを得ず、同病院の記録中に上記の症状に関する記載がないこ における患者の状態についての記録の正確性、ひいては、同院において、患者の状態の把握等の看護自体が適切に行われていたかについて、疑問を抱かざるを得ず、同病院の記録中に上記の症状に関する記載がないことは、原告の陳述及び供述の信用性を減ずるものではない。 以上の点からすれば、原告の陳述及び供述は信用することができるというべきである。 そして、原告の陳述及び供述からすれば、7月23日に原告が亡Bの爪を切ろうとしたところ亡Bの右手が動かなかったこと、同月25日に原告が亡Bにペンを握らせようとしたところ力が入らなかったことが認められ、これらの事実からすれば、D病院入院中に、亡Bには右片麻痺が生じていたと認められる。 エCT検査の結果(ア)なお、上記1(4)イのとおり、D病院においては、7月23日午後に頭部CT検査を行っているところ、この検査結果は存在しない。しかし、検査の結果、何らかの異常所見が見られていれば、D病院においてもそれに対する対応をとっていたと考えられるところ、診療録等にはこれに関する記載がないことからすれば、同日のCT検査によっても、異 常所見は見られなかったと認められる。 もっとも、脳梗塞が生じた場合においても、上記2(3)イのとおり、数日間はCT上に異常所見が現れないこともあるため、同日のCT検査によって異常所見が見られなかったことが、同病院における脳梗塞の発症を否定するものではない。 (イ)A医大病院で7月28日に撮影された頭部CT検査の読影所見には、出血性梗塞の存在とそれが「大体1から7日経過したものか」との記載があるが、この記載は、D病院入院中に、亡Bに脳梗塞が発症していたとすることと矛盾しない(乙A4〔88。 〕)オ小括以上のように、D病院における動注ポート留置術後に、亡Bには、それまでになかった意 が、この記載は、D病院入院中に、亡Bに脳梗塞が発症していたとすることと矛盾しない(乙A4〔88。 〕)オ小括以上のように、D病院における動注ポート留置術後に、亡Bには、それまでになかった意識レベルの低下、摂食及び歩行能力の障害並びに右片麻痺の発症が認められ、同病院を退院した翌日のCT検査によって出血性梗塞の存在が認められることからすれば、D病院入院中に、亡Bに脳梗塞が発症していたと認められる。 (2)ア上記のように、D病院入院中に、亡Bに脳梗塞が発症していたことを前提に、被告Cの過失の有無につき判断する。 上記2(3)エ(ア)のとおり、脳梗塞の一般的治療としては、床上安静、全身管理、合併症対策が必要とされていることが認められることからすれば、被告Cには、安静等の全身管理及び脳浮腫管理を行うべき義務が認められる。 そして、上記1(4)ウ及びエのとおり、D病院においては、24日から食事を摂取させ、また、25日には亡Bがベッドから転落するなど、同人に何らの安静措置を採っておらず、合併症の予防等の必要な措置も行わなかった。また、A医大病院への転院に際しても、原告の運転する普通乗用自動車で移動させ、安静が確保できる救急車での搬送を行わなかった。 したがって、被告Cには、安静措置をはじめとする脳梗塞に対する治療行わなかった点において、脳梗塞に対する適切な治療を怠った過失が認められる。 イ(ア)なお、原告が主張するその他の治療方法のうち、血栓溶解療法については、上記2(3)エ(イ)のとおり、脳梗塞に対する治療として血栓溶解療法が存在し、N医師の鑑定意見書(甲B13・以下「N第2意見書」という)にも、これを行うべきとする記述がある。 。 、しかしながら、血栓溶解療法については、上記2(3)エ(イ)のとおり劇的な効果が得られる可能性は 師の鑑定意見書(甲B13・以下「N第2意見書」という)にも、これを行うべきとする記述がある。 。 、しかしながら、血栓溶解療法については、上記2(3)エ(イ)のとおり劇的な効果が得られる可能性はあるものの、出血性梗塞の危険が高いため、その適応については厳格に判断する必要があると解される上、丙A第21号証の1、2によれば、80歳という高齢の患者については血栓溶解療法の適応がないとの考え方があることが認められ、上記N第2意見書は、このような観点から亡Bに対する適応の有無について言及しておらず、他に、血栓溶解療法の適応があったと認めるに足りる証拠はない。 したがって、亡Bに血栓溶解療法の適応があったとは認められず、被告Cに同療法を行うべき義務があったとは認められない。 (イ)また、脳浮腫対策についても、丙A第21号証の1、2では、亡BのCT所見を引用しつつ、脳浮腫対策としてのグリセロールの投与が必須ではないとされているのに対し、上記N第2意見書においては、グリセロール等の脳浮腫対策の必要性について、亡Bの症状に即した検討は行われていない。このようにN第2意見書は、単に、その結論のみを提示した感があり、たやすく採用することはできず、他にこの点を認めるに足りる証拠はないことからすれば、被告Cに同療法を行うべき義務があったとは認められない。 争点(2)(被告大学の説明義務違反の有無)について (1)ア原告は、被告大学は、動注化学療法が未だ確立した標準的な治療方法ではないこと、他の治療方法との得失、脳梗塞合併の危険性があること、動脈硬化が強い亡Bの場合その危険がより大きくなること、脳梗塞が合併した場合の予後、有棘細胞癌の治療に与える影響を説明すべき注意義務を負っており、本件では、亡Bは高齢で理解力にやや乏しいところがあったため、被告 い亡Bの場合その危険がより大きくなること、脳梗塞が合併した場合の予後、有棘細胞癌の治療に与える影響を説明すべき注意義務を負っており、本件では、亡Bは高齢で理解力にやや乏しいところがあったため、被告らは、亡Bのみならず原告に対して上記説明義務を履行すべきであったと主張する。 そこで、被告大学に、上記内容の説明を行うべき義務が認められるかにつき検討する。 イ(ア)一般に、説明義務の根拠は患者の自己決定権に由来するものであることから、医師が、複数の選択肢がある中で、患者の生命、身体等に一定程度の危険性を有する療法を行うに当たっては、患者がある療法を受けることを決定するための資料とすべく、特別の事情がない限り、患者に対し、患者の病状、実施予定の療法の内容、当該療法に付随する危険性、他に選択可能な療法の内容と利害得失などについて説明すべき義務があると解される。 本件においては、亡Bの病状、実施予定の動注化学療法とそれに付随する危険性に加え、前記2(1)ウの知見からすると、他に選択可能な療法として、動注化学療法よりも一般的な療法である術前及び術後の放射線療法又は全身化学療法を伴った手術療法について、その内容と利害得失などについて説明すべき義務があったと認められる。 (イ)上記の説明すべき内容のうち、まず、動注化学療法の危険性について検討するに、本件で施行された動注化学療法のカテーテルを挿入する手技に脳梗塞の危険性が存在すること自体は、動注化学療法の専門医である被告Cも争わず、被告Cもその旨を陳述し供述していることからして認められる(丙A19〔1、C〔4。 〕〕) したがって、脳梗塞などの血管障害の可能性について説明すべき義務があったと認められる。 (ウ)次に、他に選択可能な療法に関する説明について検討するに、動注化学療法が限定さ 〔4。 〕〕) したがって、脳梗塞などの血管障害の可能性について説明すべき義務があったと認められる。 (ウ)次に、他に選択可能な療法に関する説明について検討するに、動注化学療法が限定された施設でのみ施行される高度先進的医療であって、標準的な治療法でないことは被告Cも証言するところであり(C〔9、上〕)記2(1)ウのとおり、亡Bの症状に対する手術前及び手術後の療法としては、放射線療法や全身化学療法が存在し、それらの方法がより一般的かつ標準的でいずれも相当な効果が期待されるとされていたことからすると、これらの標準的な療法の内容はもとより、その効果と問題点を動注化学療法と比較可能な程度に具体的に説明し、原告が亡Bに代わって自ら納得の上で、動注化学療法の実施に同意させるべきであったと考えられる。 ウ(ア)以上に対し、被告大学は、医学には分化した専門領域があり、それに属する事項については、当該療法を実施する専門施設に説明を委ねたとしても不適切ではないから、脳梗塞の危険性についての説明義務を負わないと主張する。 しかしながら、上記1(2)オ及び1(3)アのとおり、被告大学は動注化学療法を受けさせるために亡Bを退院させているところ、医師は正当な事由なく診療を拒むことができないことからすると(医師法19条1項、入院中の患者を退院させるには、自らの下で実施し得る療法より)も患者にとって有益な療法が存在するが、その療法は自ら行うことができず、他に転院しなければならない状況にあることが必要であり、担当の医師がその状況を認識するとともに、そのことを患者側に説明して理解を得ることが必要である。また、このように転院を要するか否かにかかわらず、療法を選択する場面においての医師の説明は、患者が適切に療法を選択し、治療方針について自己の責任におい を患者側に説明して理解を得ることが必要である。また、このように転院を要するか否かにかかわらず、療法を選択する場面においての医師の説明は、患者が適切に療法を選択し、治療方針について自己の責任において決定するために行われる必要があるところ、その前提として、その療法と他の療法の利害 得失について説明が行われるべきであり、特に、当該療法が有する危険性については、患者が療法を選択する上での重要な考慮要素であると考えられるのであるから、その点について説明をすべき義務があるのは当然である。その説明が高度の専門性故に不可能であるというのであれば、患者が適切に自己決定権を行使するのは不可能になるのであるから、当該医療機関は、その療法の選択を勧めることは許されないというべきであって、医師がある療法を勧める以上、その療法が有する危険性について情報を取得し、自ら説明する義務を有するというべきである。仮に、医師の研鑽努力をもってしてもその知識の習得が不可能もしくは著しく困難であるというのであれば、患者がその専門医からの説明を受けた後に、再度、療法についての選択の機会を与えるべく、さらなる説明の機会を設けるべきであるといえる。 本件では、亡Bは、D病院入院前のA医大病院において、動注化学療法を選択したことが認められる(C〔20。また、D病院が動注化学〕)療法を専門とする医療機関であることは認められるが、脳梗塞は生命にもかかわる重篤な合併症であり、その危険の存否は、患者及びその家族が同療法を受けるか否かを決定するに当たって重要な事項であると認められ、被告大学は、この点についての説明義務を負うというべきである。 (イ)また、被告大学は、本件当時においては、脳梗塞の危険性はほとんど報告されていなかったとして、この点について説明すべき義務は存在しないと主 は、この点についての説明義務を負うというべきである。 (イ)また、被告大学は、本件当時においては、脳梗塞の危険性はほとんど報告されていなかったとして、この点について説明すべき義務は存在しないと主張する。 、しかし、上記4(1)イ(イ)のような被告Cの陳述及び供述からすると本件当時においても少なくとも同療法の実施機関においては、その危険が認識されていたと認められる。そうすると、脳梗塞の危険があることは、同療法の実施を勧める機関においても、実施機関と同様に、獲得しておくべき知見であったといえる。また、昭和61年発行の甲B第2号 証においては、動注化学療法に起因する副作用としては、動注チューブ挿入に起因するものと薬剤そのものに起因するものに分けられるとの記載に続けて、前者として血栓の形成等が考えられるとされているところ、この記載からすると、脳梗塞の危険性については、動注化学療法に限定されたものではなく、血管へのカテーテル操作に伴うものであると理解することができ、カテーテル操作に伴う血栓形成の危険性について論じた平成7年発行の甲B第7号証も併せて考えると、本件当時においても、血栓形成に起因する脳梗塞の危険性が知られていたと理解することができる。 したがって、上記の被告大学の主張には理由がない。 (ウ)さらに、被告大学は、D病院においては、過去に脳梗塞の発症例がほとんど存在しないことからも説明義務は否定されると主張する。 しかし、一般的に、当該療法が危険性を有するとされていることと、当該医療機関でその危険が発生していないこととは別個の問題であって、当該医療機関での発症例が存在しないことは、説明義務を否定する根拠とはなり得ないというべきである。当該医療機関の成績については、別途に説明した上で、患者がそれを踏まえて、当該療法を選択するか否 て、当該医療機関での発症例が存在しないことは、説明義務を否定する根拠とはなり得ないというべきである。当該医療機関の成績については、別途に説明した上で、患者がそれを踏まえて、当該療法を選択するか否かを決定すべき事項である。 したがって、この点についての被告大学の主張には理由がない。 エ以上からすると、被告大学には、亡Bの病状、実施予定の動注化学療法の内容とその危険性、特に脳梗塞の危険があること、他に選択可能な術前療法としてより標準的な放射線療法及び全身化学療法があることとそれらの内容及び利害得失について、説明すべき義務があったというべきである。 (2)ア上記説明義務の内容を前提に、A医大病院においていかなる説明がされたかについて検討するに、まず、動注化学療法の合併症として脳梗塞発症のおそれがあるとの説明がA医大病院でされなかったことについては、 当事者間に争いがない。 さらに、原告は、他の療法との利害得失についての説明を受けていないと主張し、同旨の陳述及び供述をする(甲A8〔1、原告〔3。 〕〕)この点について、原告が説明を受けた内容を書き留めたメモには、動注化学療法で使用する予定であった抗癌剤であるペプレオマイシンの副作用として「肺せんい痛」との記載があるものの、放射線療法及び化学療法(全身投与)については、その名が記されているのみであり、詳細な内容は記されていない(甲A6。 )また、K医師から交付された入院診療計画書には、亡Bの病状についての説明に続けて「治療は、手術、化学療法、放射線治療の3つがありま、す。転移している時は化学療法を静注で行いますが、加藤さんの場合は限局しているので動注療法を行います。動脈内にカテーテルを鎖骨下または鼠径から入れ外頸動脈にカテーテルを留置します。そこに抗癌剤を注入します。その効果は 化学療法を静注で行いますが、加藤さんの場合は限局しているので動注療法を行います。動脈内にカテーテルを鎖骨下または鼠径から入れ外頸動脈にカテーテルを留置します。そこに抗癌剤を注入します。その効果は期待できると思います。抗癌剤はペプレオマイシン(副作用:肺線維症)5~10mg/day×5日間(1コース)終了後に手術を行います。利点は、少量の抗癌剤でtargetorganに効かせることが出来、全。 〕)。 身への影響も少ない点です」との記載がある(甲A1、乙A2〔49これらの記載からすると、K医師が、原告に対し、他に選択可能な治療法として、手術療法、全身化学療法、放射線療法が存在すること、動注化学療法の利点及び肺線維症の危険について説明したことが認められるものの、他の療法の得失や、他の療法を選択しない理由については記載がないことからして、K医師がこれらの点について説明したとは認め難く、原告の上記陳述及び供述に沿うものといえる。 イこれに対し、L医師は、上記1(2)オのとおり、原告が7月13日にA医大病院を訪れた際に、局所療法を選択すること及びその理由、放射線療法及び全身化学療法のデメリットについて説明した上で、動注化学療法を 第一選択とすることを説明したと陳述する(乙A10〔1ないし3。 〕)しかし、同日の診療録には家族に説明をしたこと及び動注化学療法について説明したとの極めて簡潔な記載があるものの、それ以外の記載はなく(乙A2〔27、上記入院診療計画書が同日付けで作成されていること〕)からすると、結局、この日の説明は同計画書の内容以上のものであったとは認められず、放射線療法及び全身化学療法のデメリットについて説明したとの上記Lの陳述は信用できず、他にこの点についてA医大病院の医師が説明したと認めるに足りる証拠はない。 し 以上のものであったとは認められず、放射線療法及び全身化学療法のデメリットについて説明したとの上記Lの陳述は信用できず、他にこの点についてA医大病院の医師が説明したと認めるに足りる証拠はない。 したがって、A医大病院において、放射線療法及び全身化学療法のデメリットについて説明がされたとは認められない。 (3)以上からすると、A医大病院の医師の説明は、脳梗塞発生の危険性についての説明を怠った点及び他の選択可能な療法との利害得失についての説明を怠った点において、不十分なものと認められ、被告大学には、この点についての過失が認められる。 争点(3)(被告Cの説明義務違反の有無)について(1)ア原告は、被告Cについても同様に、動注化学療法が未だ確立した標準的な治療方法ではないこと、他の治療方法との得失、脳梗塞合併の危険性があること、動脈硬化が強い亡Bの場合その危険がより大きくなること、脳梗塞が合併した場合の予後、有棘細胞癌の治療に与える影響を、亡B及び原告に説明すべき注意義務を負っていると主張する。 そこで、被告Cに、上記内容の説明を行うべき義務が認められるかにつき検討する。 イ医師が、患者の生命、身体等に一定程度の危険性を有する療法を行うに当たっては、特別の事情がない限り、患者に対し、患者の病状、実施予定の療法の内容、当該療法に付随する危険性、他に選択可能な療法の内容と利害得失などについて説明すべき義務があると解されるのは上記のとお りであるが、本件では、A医大病院において亡Bの治療方針として動注化学療法を採用するとされ、亡Bは、その治療の一環としての動注ポートの埋込みを施行するために、D病院を受診したのであるから、D病院受診時においては、療法については既に決定されていたといえる。そのため、被告Cの説明すべき内容については、まさ の一環としての動注ポートの埋込みを施行するために、D病院を受診したのであるから、D病院受診時においては、療法については既に決定されていたといえる。そのため、被告Cの説明すべき内容については、まさに療法決定の場面においての説明義務の範囲が問題になった被告大学よりも限定されたものにならざるを得ない。しかしながら、そうであっても、D病院は動注化学療法の専門病院として、本件留置術を行うために亡Bを受け入れたのであるから、同病院において施行する動注ポート埋込術に伴う危険性については、被告Cも説明すべき義務を負うというべきである。 。 (2)ア上記の説明義務の範囲を前提に、被告Cの説明内容について検討するこの点について、被告Cは、埋め込みポートによる感染、カテーテルの閉塞、血管の閉塞、術後の発熱、食欲の減退等についての説明とともに、血栓や脳梗塞発症の危険についても説明したと主張し、被告Cも、それに沿う陳述及び供述をする(丙A19〔2、C〔3、4。 〕〕)そこで、この陳述及び供述の信用性について検討するに、A医大病院診療録には、K医師がD病院に電話で連絡して、D病院における治療内容等について確認したところ、D病院医師が「血栓をとばすムンテラはしていない」と述べたとの記載がある(乙A4〔24)が、これは、脳梗塞が〕生じたことに対する質問についての返答を記載したものと解されることと、上記2(3)イのとおり、一般に血栓が遊離することにより脳梗塞が生じるとされていることを併せて考察すると、血栓をとばすことにより脳梗塞が生じることについての患者に対する説明をしていないとの意味であると解される。この診療録の記載は、K医師が、その後のA医大病院における診療の参考にするために、前医であるD病院から聴取した事項を客観的に記載したものと認められ、この段階 明をしていないとの意味であると解される。この診療録の記載は、K医師が、その後のA医大病院における診療の参考にするために、前医であるD病院から聴取した事項を客観的に記載したものと認められ、この段階において同医師がことさらに虚偽の記載 をする事情もうかがわれないことからすれば、この診療録の記載は信用できるというべきである。この診療録の記載と対比すると、脳梗塞発症の危険について説明したとする被告Cの上記陳述及び供述はたやすく信用できず、他にこの点について説明したと認めるに足りる証拠はない。 したがって、被告Cは、脳梗塞の危険についての説明を行ったとは認められない。 イなお、被告Cは、同人の陳述書に参考資料として、現在術前の説明のために使用している文書を添付し、本件当時においても現在と同様に脳梗塞の危険について説明していたと証言する(丙A19、C〔4。しかしな〕)がら、現在において説明を行っていることを根拠に、本件当時においても同内容を説明していたと言えないことは当然であって、かかる被告Cの証言は信用できない。 (3)以上からすると、被告Cの説明は、脳梗塞発生の危険性についての説明を怠った点において、不十分なものと認められ、同被告には、この点についての過失が認められる。 争点(4)(脳梗塞に対する治療を怠った過失と死亡との因果関係)について(1)ア原告は、亡Bが死亡するに至った機序として、本件留置術により脳梗塞が発症し、それに8月13日に出血性梗塞が合併し、さらに肺炎及び敗血症(重症感染症)が合併して死亡したと主張した上で、初回の脳梗塞に対する適切な治療を行っていれば、出血性梗塞の合併が防ぎ得たため、現実の死亡時である12月8日に亡Bが死亡することはなかったのであるから、被告Cの脳梗塞に対する治療を怠った過失と死亡との因果 梗塞に対する適切な治療を行っていれば、出血性梗塞の合併が防ぎ得たため、現実の死亡時である12月8日に亡Bが死亡することはなかったのであるから、被告Cの脳梗塞に対する治療を怠った過失と死亡との因果関係が肯定されると主張する。 そこで、まず、初回の脳梗塞に対する適切な治療を行っていれば、出血性梗塞の合併が防ぎ得たといえるかにつき検討する。 イ上記3のとおり、被告Cには、安静等の全身管理を行うべき義務が認め られるところ、上記2(3)エ(ア)のとおり、安静等の全身管理が脳梗塞に対する措置として重要とされていることは認められるが、さらに進んで、安静にしていれば、その後の出血性梗塞を防止ないし軽減し得たかについては、認めるに足りる証拠はない。かえって、上記2(3)ウのとおり、全梗塞例の約20%、塞栓例では約60%に見られるとされているように、出血性梗塞が高頻度で発症するとされていることからすると、上記のような措置を行うことによって、出血性梗塞の発症を防止又は軽減し得たとはいい難い。 また、仮に脳浮腫対策の適応を認めるとしても、同療法については、N第2意見書においては、グリセロールの投与により、後日の出血性梗塞が現行より軽減された可能性があるとの記載があるものの、出血性梗塞が軽減される機序については同意見書からは必ずしも明らかではない。 さらに、脳卒中治療ガイドライン2004においては、グリセロールは発症後14日以内の死亡を有意に減少させたが、発症1年後の死亡は有意に減少させなかったとする報告も紹介されている(甲B15〔32)こ〕とも考え併せると、その予後に対する効果については、慎重に考えざるを得ない。 したがって、脳浮腫管理により、出血性梗塞を防止ないし軽減し得たとは認められない。 ウ以上のとおり、当時実施可能な療法を施したとしても と、その予後に対する効果については、慎重に考えざるを得ない。 したがって、脳浮腫管理により、出血性梗塞を防止ないし軽減し得たとは認められない。 ウ以上のとおり、当時実施可能な療法を施したとしても、8月13日の出血性梗塞を防止ないし軽減し得たとは認められないことからすると、出血性梗塞の後に生じた事態にも変化が生じたとは認められず、この点についての原告の主張には理由がない。 エそうすると、その余について判断するまでもなく、脳梗塞に対する治療を怠った被告Cの過失と死亡との因果関係は認められない。 (2)ア上記主張に加えて、原告は、脳梗塞が悪化しなければ、亡Bは有棘細 胞癌の切除手術を受けることができ、同手術を受けていれば、亡Bの死亡時である12月8日の時点でなお生存していた蓋然性が高いと主張する。 しかしながら、脳梗塞に対する治療を行っていれば、8月13日の出血性梗塞が合併しなかったとまでは認められないのは上記のとおりである上、上記1(5)キのとおり、8月11日に発熱等があったことにより放射線治療が中断され、さらにその後の放射線治療の再開が遅れたことの原因が出、血性梗塞の発症にあることは否定できないものの、上記1(7)イのとおり9月2日に放射線治療を再開し腫瘍縮小の効果が現れており、この間の20日間の遅れが、亡Bの予後に有意な影響を与えたかについても、明らかではないと言わざるを得ない。したがって、この点についての原告の主張には理由がない。 イさらに、原告は、放射線療法の合併症により亡Bが死亡したとの仮定の上で、原告が動注化学療法を拒否したのは、被告らの過失により同療法に対する強い不信感を抱いたためであり、この点から、被告らの過失と亡Bの死亡との因果関係が肯定されるとも主張する。 しかし、上記1(5)キのとおり、A医大病院では、日 たのは、被告らの過失により同療法に対する強い不信感を抱いたためであり、この点から、被告らの過失と亡Bの死亡との因果関係が肯定されるとも主張する。 しかし、上記1(5)キのとおり、A医大病院では、日を改めて2回にわたり、同療法を実施しても脳に障害を起こすものではない旨の原告に対しての説明を行っており、それにもかかわらず、原告は同療法の実施を拒否している。亡Bの脳梗塞の発症を眼前にした家族として、原告が直ちには同療法の実施に同意し得なかった点には無理からぬ点があるが、上記のように日を改めて複数回にわたり事理を尽くした説明を受けたにもかかわらず、あくまで同療法の実施を拒否した点については、何ら正当な根拠のない不合理な判断といわざるを得ず、同療法が行われなかったのは、ひとえに原告の事情によるものと認められるから、これを被告らの過失によって生じた結果であるとは認められず、両者の間に因果関係を肯定することは到底できない。 争点(5)(説明義務違反と死亡との因果関係)について(1)原告は、亡Bが脳梗塞に合併した感染症による肺炎及び敗血症により死亡するに至ったとし、被告らが説明義務を尽くしていれば、原告は当初か、ら動注化学療法の実施を承諾せず、他の治療方法を選択したことにより脳梗塞の発症を免れ、その後の感染症等の発症もなかったとし、少なくとも12月8日の時点で死亡することはなく、同日よりも相当延命できたと考えられると主張する。 これに対し、被告大学は、亡Bに生じた感染症は、腫瘤部に存した細菌が血行性に全身に播種し、あるいは呼吸器官を通じて肺炎を合併し、敗血症に至ったもので、その進行を防止し得なかったのは、高齢や癌の進行による免疫力の低下と放射線治療に伴う創部の壊死・潰瘍化が加わった結果であると主張する。 しかし、上記1(7)ウのとお を合併し、敗血症に至ったもので、その進行を防止し得なかったのは、高齢や癌の進行による免疫力の低下と放射線治療に伴う創部の壊死・潰瘍化が加わった結果であると主張する。 しかし、上記1(7)ウのとおり、亡Bの有棘細胞癌の創部からは9月上旬には緑膿菌が発見されたものの、同月25日以降は、11月5日の1回以外は細菌が検出されておらず、その間、喀痰及び咽頭粘液及び鼻前庭からは、、MRSAや緑膿菌が継続的に検出されていることと、上記2(3)オのとおり脳梗塞には呼吸器感染を合併することが多く、高齢者の場合は特に頻度が高いとされていることからすると、同人に発症した感染症には、腫瘍の存在よりも脳梗塞の発症がより有意に寄与したものと認めるのが相当である。そうすると、原告が当初から動注化学療法の実施に承諾せず、それによって脳梗塞の発症も避けられたならば、亡Bの予後は有意に変化したものと認められる。その上、上記感染症の感染巣は結局は不明なままであったが、前記1(7)エのとおり、11月10日に肺の陰影が発見された段階では、動注化学療法のために挿入されたカテーテルが最も疑わしいとされており、この点からも、このカテーテル挿入がなければ感染症の進行ひいては亡Bの予後が有意に改善した可能性が認められる。 そこでまず、被告らが説明義務を尽くしていれば、原告が当初から動注化学療法の実施を承諾しなかったといえるかについて検討する。 (2)上記4(2)のとおり、K医師は、原告に対し、亡Bの当時の症状や、他に選択可能な療法として、手術、全身化学療法及び放射線療法が存在すること自体を説明したことが認められるものの、他により標準的な療法が存在することとそれらの利害得失や、動注化学療法に脳梗塞の危険があることについては説明をしなかったことが認められる。 まず、標準的療法の と自体を説明したことが認められるものの、他により標準的な療法が存在することとそれらの利害得失や、動注化学療法に脳梗塞の危険があることについては説明をしなかったことが認められる。 まず、標準的療法の利害得失について検討するに、放射線療法については、急性期から晩期にかけて、皮膚潰瘍、びらん、壊死等の皮膚の防御機構に影響を与える危険が生じることが認められる(乙B15)ところ、担当医師は、放射線治療による上記のような皮膚への影響により、難治性の感染症及び潰瘍を引き起こし、手術が不能になることを予想したために、同療法を第一選択とはしなかったものである(乙A10〔2。また、全身化学療法には、〕)骨髄抑制、腎障害、消化器症状、肝障害及び肺障害等の副作用が生じる危険があることが認められる(乙B16、乙B17)ところ、担当医師は、亡Bが高齢であることや亡Bの腫瘍の大きさ等を考慮して、腫瘍を小さくするために十分な量の抗癌剤を投与することが難しいと判断し、同療法についても第一選択としなかったものである(乙A10〔2。さらに、術前療法なし〕)での手術療法は、上記1(2)ウのとおり、亡Bの腫瘍の大きさは10㎝×7㎝×3㎝であり、その病気はstageⅢであったところ、この病気における進行期有棘細胞癌の根治手術を行うには、腫瘍辺縁より2㎝離して切除することが必要とされており(甲B1〔5、術前療法なしでの切除手術は、その〕)切除範囲の広さのみからしても不可能もしくは著しく困難であったと認められる。 一方で、動注化学療法に伴う危険性として、脳梗塞の発生が存在することは先に述べたとおりであり、確かに脳梗塞が発症すれば、死亡の結果が発生 する可能性もあり、その危険の程度は大きいといえる。しかしながら、原告が脳梗塞の危険性を理由に動注化学療法の実施を拒否し とは先に述べたとおりであり、確かに脳梗塞が発症すれば、死亡の結果が発生 する可能性もあり、その危険の程度は大きいといえる。しかしながら、原告が脳梗塞の危険性を理由に動注化学療法の実施を拒否しようと考えるときには、当然に、脳梗塞の発生する確率や治療成績についても考慮すると思われる。そして、被告Cは、本件当時までに動注化学療法を約3000例実施していたところ、脳梗塞が発症したのはそのうち2例であると陳述し(丙A19〔2、この数字を疑うに足りる他の証拠もないことからすれば、若干の〕)誤差があるにしても、なお、D病院における脳梗塞の発症確率が極めて低いものであったと認められる。 また、同療法は標準的療法ではないものの、長期間にわたり実施されている上、一定数の実施医療機関も存在することが認められ、また、D病院にお〕、いても相当数の手術経験数を有することからすると(丙B1〔2、C〔39、10、この動注化学療法は、患者がその療法が標準的でないことを理〕)由にして施術をためらうほどには、特異な療法ではないと評価することができる。 以上の点を踏まえて判断すると、脳梗塞の危険があること及び動注化学療法が標準的な療法でないことを考慮したとしても、担当医師が上記の判断に基づく説明をして動注化学療法を勧めていれば、当時は医師に対して不信感を有していなかった原告としては、脳梗塞の発生の危険はそれほど大きくないことや、他の療法のデメリットを考慮して、担当医師の勧めるままに、動注化学療法を選択したものと推認するのが相当である。 これに対して、原告は、療法の選択については「こんなに危険なものとは考えてもいませんでした」と陳述するが(甲A8〔6、その危険とは、。 〕)脳梗塞の発症という事後的に生じた結果を見ての感想と言うべきであって、この陳述から 選択については「こんなに危険なものとは考えてもいませんでした」と陳述するが(甲A8〔6、その危険とは、。 〕)脳梗塞の発症という事後的に生じた結果を見ての感想と言うべきであって、この陳述からしても、術前に説明を受けていれば、脳梗塞の発症を重視して判断したと見ることはできず、上記推認を覆すものではない。 以上によると、被告らが説明義務を尽くしていれば、原告は動注化学療 法の実施を承諾しなかったとは認められず、他の点を判断するまでもなく、被告らの過失と亡Bの死亡との因果関係は認められない。 争点(6)(損害額)について上記のように、亡Bに代わって説明を受けた原告は、適切な説明を受けていても、動注ポート留置術を受けなかったとまでは認められないが、亡B及び原告は、自己が受ける療法が標準的な療法でないこと、他に選択可能な療法の性質について説明を受けた上で、自己が受けるべき療法について熟慮し、選択する機会を失ったというべきである。そして、上記7(1)のとおり、動注化学療法を選択した結果生じた脳梗塞及び同療法のためのカテーテルの留置自体が感染巣となって亡Bの予後に有意に影響した可能性があることからすると、亡B及び原告は、上記の熟慮及び選択の機会を失ったことにより、標準的でなく、かつ一定の危険性のある治療法を選択したことを悔やみ、現に生じた結果を受け入れることが極めて困難となっており、それによって少なからぬ精神的苦痛を受けたものと認められる。 その精神的苦痛に対する慰謝料としては、説明義務違反の内容及び程度等本件に現れた諸般の事情を考慮すると、その金額は亡B及び原告固有のものを合計して200万円と認めるのが相当である。被告らは、いずれもこれらを賠償する義務を負い、両者は不真正連帯債務の関係にあると認められる。 第4結語以上によれば、原 の金額は亡B及び原告固有のものを合計して200万円と認めるのが相当である。被告らは、いずれもこれらを賠償する義務を負い、両者は不真正連帯債務の関係にあると認められる。 第4結語以上によれば、原告の請求は、被告ら各自に対し、金200万円及びこれに対する平成10年12月8日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、原告のその余の請求は理由がないから、これを棄却し、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部 裁判長裁判官藤山雅行裁判官大嶋洋志裁判官岡田安世 別紙1(当事者の主張・被告大学関係)第1説明義務違反について(原告の主張) D病院に転院するまでの亡Bの状態(一般的な状態及び有棘細胞癌の状態)について7月6日、亡Bは、A医大病院皮膚科で受診し、左耳介後部の有棘細胞癌と診断され、同日、入院となった。A医大病院医師は、亡Bの有棘細胞癌の進行段階を「T4N1M0「STAGEⅢ」と診断し、その治療として、動注化」学療法により腫瘍を小さくした上で外科手術により腫瘍を摘出し、術後に化学療法、放射線治療をすることを計画し、外科手術の予定日を8月11日とした。 そこで、A医大病院医師は、動注化学療法を専門に行っているD病院に転送し、動注ポート留置術を受けさせることとした。 被告大学における説明の適否(1)被告大学が行った説明内容A医大病院医師は、原告に、動注化学療法の概略を説明したが、その危険性や亡Bの有棘細胞癌の治療方法として不可欠の治療ではないことについて説明しなかった。 (2)被告大学が、動注ポート留置の際に脳梗塞が発生する危険性について説明すべきであったことア脳梗塞合併の危険性に関する本件当時の医学的知見及び被告大学がこれ いことについて説明しなかった。 (2)被告大学が、動注ポート留置の際に脳梗塞が発生する危険性について説明すべきであったことア脳梗塞合併の危険性に関する本件当時の医学的知見及び被告大学がこれを備えておくべきであったこと(ア)A医大病院は、首都圏に所在し、大学医学部に付属する総合病院であり、最も高度の医療を提供し、かつ高度の医療技術の開発・評価・教育・研修を実施しうる能力を有する病院として、厚生労働省から認可された特定機能病院である。そして、特定機能病院は、地域の医療機関との連携を深め、地域医療における高度医療の提供を担う役割を求められ ている。よって、A医大病院医師には、より高度な医療水準が期待されていた。 (イ)動注ポート留置術は、鼠径部から外頚動脈内へカテーテルを挿入して行うため(セルジンガー法、これにより血栓が脳血管内に飛んで、)脳梗塞を生じさせる危険性がある。そして、この危険性は、脳血管造影撮影など当時既に広く行われていたセルジンガー法による脳血管内へのカテーテル操作に伴うものであり、動注ポート留置術特有のものではない。 (ウ)したがって、動注ポート留置術に脳梗塞発生の危険性があることは、当時、被告大学が備えておくべき医学的知見となっていた。 イアに基づいた場合、被告大学が脳梗塞発生の危険性について説明すべき義務があること(ア)脳梗塞発生は、患者の予後に大きな影響を及ぼす、動注ポート留置術に伴う最も重要な合併症の一つである。 (イ)動注ポート留置術に脳梗塞発生の危険性があることは、これを専門としている被告Cが認めており、被告Cは当然患者に説明しているとしている。 (ウ)患者に説明すべきは当該手技に一般的に伴う危険性であり、当該実施施設の治療成績は患者の自己決定のための一資料に過ぎない。よって、D病 認めており、被告Cは当然患者に説明しているとしている。 (ウ)患者に説明すべきは当該手技に一般的に伴う危険性であり、当該実施施設の治療成績は患者の自己決定のための一資料に過ぎない。よって、D病院における治療成績がどのようなものであっても、脳梗塞発生の危険性についての説明義務は否定されない。 (エ)そもそも、被告大学は、動注ポート留置術に脳梗塞発症の危険性があることを認識していなかったのであるから、その危険性が現実化した後になって、D病院の治療成績を持ち出して説明義務を否定するのは正当ではない。 (オ)当時、亡Bは高齢であり、適切に承諾できる状態にはなかったため、 A医大病院医師は、亡Bの実子であり、その意思を最もよく把握できる原告に対して説明すべき義務があった。 ウ上記1の場合、動注ポート留置及び動注化学療法は不可欠の治療方法ではなかったこと亡Bの有棘細胞癌は病期Ⅲであり、その治療方法は外科手術による原発巣の全摘出であるが、術前に放射線療法と化学療法が併用される場合がある。動注化学療法は、化学療法の一つであるが、本件当時有棘細胞癌の治療方法として一般的なものとはなっていなかった。放射線療法と他の化学療法にも危険性はあるが、動注ポート留置術との危険性の差は、他の治療方法を排斥して、動注化学療法を採用すべきほど大きなものではない。 A医大病院医師は亡Bに対して動注化学療法を採用する際に、脳梗塞発生の危険性を認識していなかったのであるから、A医大病院医師が他の術前療法と適切にメリット、デメリットを比較していないことは明らかである。被告大学が動注化学療法を不可欠の治療であると考えたのであれば、それは脳梗塞発生の危険性を認識していなかったが故に、動注化学療法の危険性を過小評価したがための誤った判断である。 したがって、亡Bの症例に 大学が動注化学療法を不可欠の治療であると考えたのであれば、それは脳梗塞発生の危険性を認識していなかったが故に、動注化学療法の危険性を過小評価したがための誤った判断である。 したがって、亡Bの症例に対しては、動注ポート留置術及び動注化学療法は不可欠の治療方法ではなかった。 (被告大学の主張) D病院に転院するまでの亡Bの状態及びこれに対する治療方針について亡Bの左耳後部には、平成5年頃に米粒大の結節が出現していた。近医に外科受診を勧められたが放置していたところ、平成10年5月頃になって、結節が激痛を伴い急速に増大したため、同年6月25日に、J市立総合病院耳鼻科を受診し、同院で有棘細胞癌の診断を受けた。A医大病院への受診は、J市立総合病院からの紹介によるもので、初診日である平成10年7月6日に緊急入院となったものである。 入院時、亡Bの左耳介後部には、潰瘍化した10×7×3㎝大の赤色一部黒色調の、悪臭を放つ巨大腫瘍を認め、感染徴候が認められた。入院時の診察の結果では、左顎下リンパ節を触知し、深部組織への浸潤とともにリンパ節転移の疑いもあったため、病期Ⅲ以上の進行性皮膚癌と診断された。病状は重篤であり、手術等の治療を行わなかった場合の生命予後は、3か月から半年(半年以内)と判断された。なお、その後、全身精査を行った結果、7月17日に施行した頸部超音波検査により、腫瘍の左耳介後部リンパ節への転移が確認され、病期Ⅲb(病期分類T4N1M0)と確定診断された。 有棘細胞癌の治療方法としては、一般に手術(腫瘍切除術)が最も確実な方法であるといわれているが、亡Bの場合は、腫瘍が巨大で、かつ、画像所見上、腫瘍が筋層内に深く浸潤していたため、現時点では手術は困難であると判断された。ただし、局所療法の結果次第では、根治術は無理であっても手術が可能 いるが、亡Bの場合は、腫瘍が巨大で、かつ、画像所見上、腫瘍が筋層内に深く浸潤していたため、現時点では手術は困難であると判断された。ただし、局所療法の結果次第では、根治術は無理であっても手術が可能であると判断されたため、QOLの見地から最良の術前療法を選択すべく、入院時の治療計画では、まず術前療法として動注化学療法(抗癌剤を腫瘍組織部に高濃度に到達させる局所療法)を実施し、当該治療法が奏効して腫瘍を小さくした後に腫瘍切除術を施行し、術後に動注ポートを利用した動注化学療法と放射線療法を併用することを予定していた。 他の術前療法としては、放射線療法及び全身化学療法があるが、そのうち放射線療法は、急性・慢性の放射線皮膚炎を合併することにより更なる難治性の感染症及び潰瘍を起こす可能性があり、その場合には手術が困難になることが予想されたため第1選択とはしなかった。また、全身化学療法は、腫瘍を小さくするために必要な十分量を投与することは、高齢患者にとっては副作用のリスクが大きかったため、同様に第1選択とはしなかった。 被告大学には説明義務違反がないこと(1)原告の主張は、カテーテル操作に伴う塞栓形成により亡Bに脳梗塞が発症したとするものなので、原告が言う脳梗塞とは脳塞栓症を意味する。動注 ポート術の術中及び術直後に脳塞栓症によると思われる症状が認められていない本件においては、亡Bの脳梗塞は動注ポート留置術により発症したものとはいえない(第2被告大学の主張、2のとおり。したがって、動注ポー)ト留置術によって脳梗塞が発症したことを前提とする説明義務違反の主張は、前提に欠ける。 以下は、動注ポート留置術によって脳梗塞が発症したとされた場合の仮定主張である。 (2)被告大学が行った説明内容(皮膚科担当医による説明)A医大病院では、上記の診断 違反の主張は、前提に欠ける。 以下は、動注ポート留置術によって脳梗塞が発症したとされた場合の仮定主張である。 (2)被告大学が行った説明内容(皮膚科担当医による説明)A医大病院では、上記の診断及び治療方法に関する判断を前提として、家族に対し、有棘細胞癌の治療方法には、手術療法、放射線療法及び化学療法があること、亡Bの場合は、腫瘍が巨大で、かつ、画像所見上、腫瘍が筋層内に深く浸潤しているため、現時点では手術は困難であること、及びまずは術前の局所療法として動注化学療法を行うことにより腫瘍を小さくしてから手術を行うべきことを説明した。その際、放射線療法や全身化学療法を選択しない理由についても説明を行い、動注化学療法については、その概略(外頸動脈にカテーテルを留置し、そこから抗癌剤を注入する)のほか、抗癌剤投与による副作用についても説明を行った。 なお、動注ポート留置術の際に脳梗塞が発生する危険性については説明を行っていない。 (3)被告大学には原告主張の説明をすべき義務がないことア動注ポート留置術の危険性の程度とその実施主体(ア)本件当時において、動注ポート留置の合併症としての脳梗塞発生に関する報告は殆ど存在せず、この点について原告が引用する医学文献は、いずれも平成14年以降のものである。 甲B7号証は本件以前の平成7年当時のものではあるが、当該文献中で、ミニカテーテル導入におけるトラブルとの見出しの下に記述されて いる内容は「ヘパリン加生理食塩水の灌流が十分でないと、カテーテ、ル操作やガイドワイヤー操作がスムーズにゆかないばかりか、血栓によるトラブルの危険を増すので十分に注意する必要がある」というもの。 で、カテーテル操作一般に伴う血栓形成の危険性に関する記述にすぎない。しかも、血栓形成の危険は、ヘパリンの投与方法次第で 、血栓によるトラブルの危険を増すので十分に注意する必要がある」というもの。 で、カテーテル操作一般に伴う血栓形成の危険性に関する記述にすぎない。しかも、血栓形成の危険は、ヘパリンの投与方法次第で防止可能であるとの文脈で理解されるべきものである。つまり、動注化学療法に伴う脳梗塞発症の危険性に関する記述ではなく、当該文献は、動注化学療法に伴い脳梗塞合併の危険があることを周知させるものではない。原告からはこの外に、本件当時の文献として、甲B2号証が既に提出されて、、いるところ、ここでは「動注チューブ挿入に起因する」副作用として「動注チューブ挿入部の感染と血栓の形成」が挙げられているが、これは、前後の文脈からして、動注チューブ挿入部には血栓が形成されやすいことを意味するにすぎない。やはり動注化学療法に伴い脳梗塞が発生する危険性について直接言及しているものではない。しかも、上記文献と同様、血栓形成の危険性は、カテーテル挿入時に十分なヘパリン化を行うこと等により「すべて解消しうる」と結論されている。 、。 (イ)そして、本件で動注ポート留置術を施行したD病院からの報告では、少なくとも本件当時までの間に同院で動注ポート留置時に脳梗塞が発症したとの報告は皆無であった。A医大病院の皮膚科では、動注化学療法が専門性の高い治療法であることから、患者に同療法の説明を行う際には、予め被告Cから説明用に渡された同院における動注化学療法の実績に関する文献に基いて説明を行っているが、当該文献中には、動注ポート留置術に脳梗塞が合併する危険性に関する記述はなかった。そもそも医学には非常に分化した専門領域があるのであって、担当医であっても自らの専門領域以外については十分な説明が行えないこともある。だからこそ本件でも、担当医は、動注化学療法の専門施設たるD病院 そもそも医学には非常に分化した専門領域があるのであって、担当医であっても自らの専門領域以外については十分な説明が行えないこともある。だからこそ本件でも、担当医は、動注化学療法の専門施設たるD病院の実績 に関する文献に基き説明を行ったのであるが、本件では特に、転院後にD病院での説明が予定されていたのであるから、かかる状況においては、担当医師としては、皮膚癌の進行度に関する診断結果に基く治療方法としての手術療法の可否に関する説明は十分行うべきであるとして、術前療法については、患者がそれぞれの療法を比較・検討できる範囲で、その概略を説明すれば足りるというべきである。そして、これによって患者が動注化学療法の実施に同意した場合には、その詳細については、当該療法を実施する専門施設に説明を委ねたとしても、何ら不適切とはいえない。 加えて、D病院は、現在においても、動注化学療法に関して数多くの症例経験を有し、かつ動注ポート留置術を安全・適切に施行できる専門施設として広く知られている。たとえ動注チューブ挿入の際に血栓が形成される危険性があったとしても、かかる危険を回避し安全に留置術を施行できるとともに、緊急事態が生じた場合にも適切に対処しうる人員と設備を擁した施設であるので、このようなD病院の性格に照らした場合には、尚更に、本件の場合に動注留置術に伴い脳梗塞が合併し、これにより死亡する危険があることまでをA医大病院の医師が予測し、その点について改めて説明を行い、承諾を得るべき義務を負担していたとは考えられない。ましてや、本件では、D病院長が、動注ポート留置術に先立ち、脳梗塞合併の危険性に関する説明を行っていたというのであるから、結果的にも、当該説明を受けることにより、その点に関する患者の利益は保護されていたといえる。よってA医大病院医師の説 ト留置術に先立ち、脳梗塞合併の危険性に関する説明を行っていたというのであるから、結果的にも、当該説明を受けることにより、その点に関する患者の利益は保護されていたといえる。よってA医大病院医師の説明義務違反は問題とならない。 イ動注ポート留置及び動注化学療法が必要かつ最良の治療方法であったこと本件症例の病期はⅢbであり、この場合、原発巣辺縁から2~3㎝の距離を広範囲に切除することが必要であるとされている。一方、本症例の腫瘤 の大きさは、10×7×3㎝大の大型原発巣であった。このため、手術療法を選択した場合には、直径14㎝~16㎝程度の範囲で切除を要し、また、腫瘍が下床の筋肉にまで深く浸潤していたため、深部の筋肉を含めた軟部組織までの切除を要することになる。 このような手術療法を選択した場合に予想される腫瘍切除範囲の大きさ及び深さに鑑みた場合には、全身的侵襲は大きく、その上、切除した場合にも病変を完全には取り切れない可能性が高いと考えられた。さらに腫瘍の部位が耳介後部であったことから、広範囲の切除によって著しい顔面神経麻痺(局所侵襲)を来すことは必発であると予想された。この外、患者の腫瘍は潰瘍化し感染徴候が認められていたため、高齢であることによる免疫能力の低下に全身及び局所の著しい侵襲が加わることにより、敗血症等の合併症が生じる危険も高い確率で予想された。 以上の個別事情に照らした場合には、本件症例は、術前療法の併用なくしては手術適応がない症例であった。したがって、術前療法は不可欠の治療法であった。また、術前療法として動注化学療法を選択したことも、放射線療法や全身化学療法が、放射線皮膚炎の合併により更なる難治性の感染症や潰瘍を起こしたり、抗癌剤投与による全身的な副作用のリスクを伴うのに比し、全身への影響を最小限に抑えながら腫瘍を たことも、放射線療法や全身化学療法が、放射線皮膚炎の合併により更なる難治性の感染症や潰瘍を起こしたり、抗癌剤投与による全身的な副作用のリスクを伴うのに比し、全身への影響を最小限に抑えながら腫瘍を小さくする効果を期待できる治療法として、最良のものと考えられた。 ウ脳梗塞は緊急事態のひとつに過ぎないことさらには、亡Bは80歳の高齢であり、かつ、進行期の担癌患者であったため、生命に対する緊急事態がいつ発生しても不自然でない状況にあった。脳梗塞の発生も当該緊急事態のひとつにすぎない。医師が患者に対して医療行為を行おうとする場合において、あらゆる危険性の予測の下にその全てにつき説明を行い、承諾を得るべきであるということはできないのであって、この意味においても、本件の場合に、動注ポート留置術の際に 脳梗塞が発生する危険性についてまで説明する義務があったとは考えられない。 エまとめこれら動注ポート留置時の脳梗塞発生の頻度、同療法が専門性の高い治療法であること、D病院の専門施設性及び緊急事態への対処可能性並びに動注化学療法が必要かつ最良の治療法であったことに鑑みた場合には、A医大病院の担当医が一連の治療計画を説明する際に、動注化学療法の一環として実施されるにすぎないD病院における動注ポート留置術に関し、脳梗塞が発生する稀な危険性を予見した上で、それについて改めて説明を行い、承諾を得るべき義務を負担していたとは到底考えられない。 第2因果関係(原告の主張) 死亡までの機序亡Bは、本件動注ポート留置術により脳梗塞(塞栓症)が発生し、これに出血性脳梗塞、肺炎、敗血症が合併して死亡するに至った。 説明を受けていれば動注化学療法を選択しなかったこと(1)確立した標準的治療方法でないこと患者側にとって、評価の定まっていない治療方法の選 血性脳梗塞、肺炎、敗血症が合併して死亡するに至った。 説明を受けていれば動注化学療法を選択しなかったこと(1)確立した標準的治療方法でないこと患者側にとって、評価の定まっていない治療方法の選択には慎重になるのが通常である。動注化学療法は、確立した標準的治療方法ではなく、その評価は固まっていなかったのであるから、これを説明されていれば、原告は動注化学療法の選択に慎重になったと考えられる。 (2)死に直結する重大な合併症があることその治療方法の合併症が死に直結するものであればあるほど、その選択には慎重になるのが通常である。動注ポート留置術には脳梗塞合併の危険があり、脳梗塞は発症すれば直ちに死に直結する重大な合併症であるから、これを説明されていれば、原告は動注化学療法の選択に慎重に なったと考えられる。 、この点、被告大学は、放射線療法と全身化学療法の合併症を列挙して動注化学療法が最良の治療方法であったと主張する。しかし、動注化学療法は当時評価が固まっておらず確立した治療方法でなかった以上、確立した他の治療方法と比較して、最良の治療方法であると判断することはできないはずである。そもそも、当時A医大病院医師は、脳梗塞発生の危険を考慮していなかったのであるから適切な比較などできるはずはない。そして、放射線療法と全身化学療法の合併症は種々あるが、被告大学が挙げる合併症を見て分かるように、脳梗塞のような直ちに死に直結する危険性はほとんどない。 (3)亡Bに脳梗塞発生のリスク(動脈硬化)があったこと患者に合併症の発生リスクが存在する場合、その治療方法の選択には慎重になるのが通常である。亡Bは動脈硬化が強くカテーテル操作による脳梗塞発症が予見できたのであるから、これを説明されていれば、原告は動注化学療法の選択に慎重になったと考えられ の治療方法の選択には慎重になるのが通常である。亡Bは動脈硬化が強くカテーテル操作による脳梗塞発症が予見できたのであるから、これを説明されていれば、原告は動注化学療法の選択に慎重になったと考えられる。 (4)標準的治療で相当期間の生存が見込めたこと生存率が低く、短期間のうちに死亡することが予想される場合、標準的治療方法よりも、リスクが高くても最新の治療方法を選択すると考えられるが、ある程度長期間の生存が見込める場合、リスクが実現した場合に直ちに死亡する危険性のある最新の治療方法を選択することには慎重になるのが通常である。亡Bの病期は、ステージⅢであり、これに対する治療方法として評価の固まっている化学療法及び放射線療法を実施した上で外科手術を行った場合の5年生存率は、65%(Ⅲa)ないし56%(Ⅲb)である。なお、手術が不可能な遠隔転移があるステージⅣでも4年生存率が38%もある。よって、原告がこの点について説明されていれば、原告は動注化学療法の選択に慎重になったと考えられる。 (5)放射線療法が可能であったこと亡Bに対しては少なくとも放射線療法は可能であった(全身化学療法の適応を否定するものではない。現に、A医大病院医師は、脳梗塞治療の)後、当初の予定通り外科手術の前提として動注化学療法を行おうとしたが、原告の拒否にあったため、9月2日から放射線療法を実施し、その結果、腫瘍を縮小させている。したがって、放射線療法を選択して外科手術を行うことが可能であったのである。 (6)まとめ以上から、被告大学が説明義務を尽くしていれば、原告は動注化学療法の実施を承諾せず、他の治療方法により、少なくとも12月8日の時点で死亡することはなく、同日よりも相当延命できたと考えられる。 (被告大学の主張) 原告主張の説明を行ったとしても、 は動注化学療法の実施を承諾せず、他の治療方法により、少なくとも12月8日の時点で死亡することはなく、同日よりも相当延命できたと考えられる。 (被告大学の主張) 原告主張の説明を行ったとしても、亡Bが動注ポート留置に同意していたと考えられること前記第1被告大学の主張・2(3)イに主張したとおり動注化学療法は不可欠の治療法であったことに加え、D病院での動注化学療法時の脳梗塞の発生が報告されていなかったこと、亡Bの癌はかなりの進行性癌であり、動注化学療法を含む一連の治療計画が実施されない場合には、比較的短期間のうちに不幸な転帰となること及び著しいQOL障害が継続することが予想されていたことなどを考えあわせた場合、たとえ危険性に関する説明が行われていたとしても、亡B及び原告は動注化学療法の実施に同意していたはずである。 亡Bが死亡に至る機序本件患者の腫瘍は、自壊により血管が露出した状態で、細菌感染症を起こしていた。感染巣が耳介後部という鼻腔、口腔などの呼吸器官に近い部位に存在していたため、細菌が腫瘍部から血行性に全身性に播種し、あるいは呼吸器官を通じて、上気道炎、肺炎を合併し敗血症に至り死亡したものである。高齢の 難治担癌患者であったことから、上記の感染経路により、死亡するに至ったと考えるのが妥当である。 種々の抗生剤投与によっても死亡の結果を回避できなかったのは、癌自体の進行に高齢や癌の進行に伴う免疫力の低下、さらには放射線治療に伴う創部の壊死・潰瘍化が加わった結果である。 つまり死因は脳梗塞ではなく、既往である耳介有棘細胞癌の増悪による。感染症は初診時に既に認められていたのであって、本件患者が肺炎から敗血症を起こし死亡するに至ったのは、D病院で動注ポート留置術を受けたことの結果ではない。 第3損害額(原告の主張) 慰 る。感染症は初診時に既に認められていたのであって、本件患者が肺炎から敗血症を起こし死亡するに至ったのは、D病院で動注ポート留置術を受けたことの結果ではない。 第3損害額(原告の主張) 慰謝料2000万円亡Bは、処置の危険性等について十分な説明をされなかったため治療方法選択の機会を奪われ、その結果、脳梗塞が発生して死亡するに至らされたのであるから、その精神的苦痛を慰謝するために必要な慰謝料は金2000万円を下回らない。 原告の相続原告は、亡Bの子であり、被告大学に対する損害賠償請求権を相続により取得した。 原告固有の慰謝料500万円原告は、高齢の父親である亡Bを扶養し、亡Bの有棘細胞癌に対する治療方法を亡Bに代わって選択すべき立場にあったが、亡Bについて治療方法選択の機会を奪われ、適切な治療を受けさせることができずに父親を失うに至らされたのであるから、その精神的苦痛を慰謝するために必要な慰謝料は金500万円を下回らない。 (被告大学の主張) 争う。 以上 別紙2(当事者の主張・被告C関係)第1脳梗塞の発症について(原告の主張) 亡Bの状態について(1)D病院入院時の状態亡Bは、A医大病院医師の指示に従い、7月21日、D病院で動注ポート留置術を受けるため、同月27日に再入院する予定でA医大病院を退院し、原告に付き添われて、自ら歩いてA医大病院からD病院に行き入院した。そのとき、亡Bの身体に麻痺、意識障害はなかった。 亡Bは、A医大病院に入院中、意識ははっきりとし、看護師と毎日会話をしていた。また、ボルタレン、MSコンチンを服用していたがこれらの薬剤の作用による意識障害が生じたことはなかった。A医大病院を退院するとき、ナース・ステーションの前で主治医であるK医師と担当看護師が亡Bを見送り、亡 ルタレン、MSコンチンを服用していたがこれらの薬剤の作用による意識障害が生じたことはなかった。A医大病院を退院するとき、ナース・ステーションの前で主治医であるK医師と担当看護師が亡Bを見送り、亡Bは何度も何度も頭を下げて挨拶し、極めて元気だった。 (2)D病院における状態ア7月21日正午ころ、原告がD病院に到着し入院手続きを済ませ、CT検査などをした後、亡Bは原告が買ってきたカップ入りアイスクリームを原告の分まで2個とも食べ、お茶を飲み、げらげらと笑っていた。 イ同月22日、亡Bは、セルジンガー法による動注ポート留置術を受けた。 この手術で、被告Cは、カテーテルを左総頸動脈を経由して左外頸動脈へ挿入し、動注ポートを留置した。手術日時が原告に事前に知らされることはなく、当日に電話で来るように言われ、午後5時過ぎに病院に到着したときには既に手術は行われていた。 手術では若い2名の医師がカテーテル操作を行っていた。モニターを見ていた他の2名の医師が「これ危ないんだよね。腹部と違って頭部は危ないんだよ」と話していた。 。 手術後、原告は、ICUで亡Bが寝ているのを確認して帰宅した。 ウ亡Bは術後から歩行ができなくなり、原告が翌7月23日午後に亡Bを見舞ったときには、亡Bには、既に、意識障害、右片麻痺、失語症が生じていた。 原告は、亡Bの一見して全く生気のない虚脱の表情に驚き愕然とした。 それは、原告がそれまで亡Bに一度も見たことのない表情だった。そこで、原告が部屋にいた看護師に「麻酔でぼやーっとしてるんですか」と尋ねたところ「眠剤は使っていない」と怒ったように回答された。原告が亡B、の爪を切ってやろうとしたところ、亡Bの右手が動かなかった。 エ同日午後9時、被告Cは、亡Bに脳梗塞発症を疑い、頭部CT検査を行った(本件診療記録のうち い」と怒ったように回答された。原告が亡B、の爪を切ってやろうとしたところ、亡Bの右手が動かなかった。 エ同日午後9時、被告Cは、亡Bに脳梗塞発症を疑い、頭部CT検査を行った(本件診療記録のうち、このCT写真は廃棄したとして提出されておらず、内容を確認できない状態にある。 。)オ留置術後、亡Bは、自分では食事をすることができなかった。ただし、看護師が口の中に食べ物を入れれば、自ら咀嚼して飲み込んでいた。診療記録中、介助なしで食べた旨の記載は、口の中に運ばれた食べ物を自ら咀嚼して食べたという意味であり、亡Bが自ら手で食事を口に運んで食べていたものではない。 カ同月24日午後、原告がD病院に行くと看護師から「先生から話しがあると思います」と伝えられたが、結局何の説明もないままであった。亡。 Bは依然として虚脱状態のままだった。 キ同月25日午後、原告と亡Bの二男がD病院に見舞いに行ったが、亡Bの意識レベルが低く、言葉が出なかった。そこで、筆談をしようと考えてボールペンを亡Bに握らせたが、力が入らず握ることができなかった。その日も虚脱状態のままだった。 ク同月26日午後、亡BはICUに移された。原告が看護師に説明を求めると「明日、院長(被告C)から話しがあります。A医大に転院して下さ い」と言われたため、原告は「こんな状態じゃ無理でしょ」と言い返し。 。 た。すると看護師は「そういう流れになっています」とのみ答えて取り。 合わず、退院の手続を取るように指示された。 ケA医大病院への再入院予定日である7月27日になっても上記ウの症状は遂に回復せず、依然として歩行することができなかった。入院時とは異なり、亡Bは、車イスを使用して、自らは車イスを動かすことはできず、原告に車でA医大病院に運ばれて、再入院となった。 コ被告Cから は遂に回復せず、依然として歩行することができなかった。入院時とは異なり、亡Bは、車イスを使用して、自らは車イスを動かすことはできず、原告に車でA医大病院に運ばれて、再入院となった。 コ被告Cから原告に対する亡Bの状態についての説明は一切なかった。 (3)D病院からA医大病院に転院した後の状態亡Bは、A医大病院に再入院時から意識障害、右肩麻痺が確認された。7月27日正午過ぎに亡BはA医大病院へ再入院となるが、病棟で看護師が亡Bを見て、即座に「片麻痺してるよ。どうやってきたの?」と驚いた様子で原告に質問したので、原告が車で連れてきたと答えたところ、その看護師は顔色を曇らせた。そして、翌日のCTで左中大脳動脈領域に脳梗塞が確認された。8月12日には梗塞部位に出血性脳梗塞が合併し、その後、肺炎、敗血症(重症感染症)が合併して12月8日死亡するに至った。 亡Bの脳梗塞の発症時期及びその原因(1)動注ポート留置術による脳梗塞の発症の機序及びその危険性動注ポート留置術は、鼠径部から外頚動脈内へカテーテルを挿入して行うため、これにより血栓が脳血管内に飛んで、脳梗塞を生じさせる危険性がある。 (2)1の状態からの合理的な推認ア亡Bの脳梗塞の発生部位である左中大脳動脈領域は、カテーテルが挿入された左総頸動脈の延長上、その支配領域であり、発生部位が本件動注ポート留置術により発症したものとして整合する。 イ原告が手術翌日の7月23日午後に亡Bを見舞ったときには既に片麻痺 等が現れていたのであり、原告が確認した明らかな症状が診療記録に記録されていないことからすると、片麻痺等の症状は手術直後から発生していたと考えられる。 ウ意識障害、片麻痺、歩行不能、失語症の確認が留置術直後であり、その後、意識障害、失語症、片麻痺、歩行不能の症状は回復する いことからすると、片麻痺等の症状は手術直後から発生していたと考えられる。 ウ意識障害、片麻痺、歩行不能、失語症の確認が留置術直後であり、その後、意識障害、失語症、片麻痺、歩行不能の症状は回復することなく、A医大病院での脳梗塞診断まで推移している。 意識レベルは、JCSⅡ-20ないしⅠ-10との記載であるが、D病院での経過観察は杜撰と言わざるを得ず、明らかに現れていた片麻痺と失語症について全く記載がないことからするとより重度の意識障害が生じていた可能性がある。また、A医大病院転送直後の意識レベルはJCSⅢ、体温は39度であり、脳梗塞は増悪の一途を辿ったと考えられる。 エD病院では、亡Bに脳梗塞を疑って午後9時という特別な時間帯に頭部CT検査を行っているが、そのCTが廃棄を理由に提出されていない。夜間特別に行った検査結果について異常の有無が診療録に記録されていないのは極めて不自然である。なお、そもそも脳梗塞は、CTで異常が見られるのは1ないし2日後であるから、1日後の1回の検査で異常がないと断定したのであれば、それ自体が不適切な判断であり、脳梗塞の発生を否定する根拠とならない。 オ以上から、亡Bの脳梗塞は、術中又は手術直後に発生したものである。 (3)動注ポート留置術以外の原因の不存在ア自ら歩いてD病院に入院した亡Bが歩行できない状態でD病院を出ており、転送時間中に偶然脳梗塞が発生したものではない。 イ硫酸モルヒネ(MSコンチン)は、D病院へ転院前、A医大病院入院中、D病院におけるのと同量を服用しているが意識障害等が生じたことはない。 その他、ペンタジン、アタラクス-P、セルシンなどの影響でもない。 ウ片麻痺、失語症、歩行不可という症状は、手術のショックによるもので はない。 エD病院での頭頚部に対する動注ポート留置術の実施 の他、ペンタジン、アタラクス-P、セルシンなどの影響でもない。 ウ片麻痺、失語症、歩行不可という症状は、手術のショックによるもので はない。 エD病院での頭頚部に対する動注ポート留置術の実施数は13年間で96例であり、本件当時(平成10年当時)はより症例数は少なかったと考えられ、そもそも一桁台の合併確率からすれば、頭頚部に対する留置術の治療成績を評価できる症例数ではない。 オ80歳代の脳血管疾患の死亡率は、人口10万人当たり1678人(1. 67%)にすぎず、1の経過から、亡Bの脳梗塞がD病院からA医大病院への転送中の僅か1時間30分の間に発生したなどという偶然はありえない。 カ意識レベルについては、診療記録の記載上、A医大病院での記載のほうが重度になっているが、留置術による発生から約1週間も放置され、食事、転落事故、不適切な搬送方法など被告Cの不適切な対処により増悪したから当然のことである。かえって、被告Cが速やかに適切な措置をしていれば、そこまで重症化することはなかったのである。 キ以上から、動注ポート留置術以外の原因は存在しない。 (被告Cの主張) 亡Bの状態について(1)D病院における状態についてア動注ポート留置術後の亡Bの表情について(ア)術後の亡Bの虚脱の表情については、動注ポート留置術によるものであり、D病院では、ポート埋め込み手術の翌日から2、3日の間、患者に、①食欲が落ちる、②発熱が生じるのは、必発の症状であり、この点について、常日頃から、事前にまた手術直後にも説明している。 また、手術後1ないし2日間、意識レベルの軽度の低下、軽度の譫妄状態、傾眠傾向のおこることもよくあることである。特に高齢者の手術では、これがかなり高率に長期間続くことも多い。その理由としては、 手術に伴う精神的な不安、不 意識レベルの軽度の低下、軽度の譫妄状態、傾眠傾向のおこることもよくあることである。特に高齢者の手術では、これがかなり高率に長期間続くことも多い。その理由としては、 手術に伴う精神的な不安、不眠、血圧の動揺、鎮静剤・麻酔剤の投与、脳血管の攣縮等の原因が考えられる。 術後、亡Bが虚脱の表情を見せていたというのも、これらの手術の影響によるものであり、また、ペンタジン、アタラクス-P、セルシンといった術前、術中に投与した薬剤の影響によるものである。 したがって、術後、亡Bが脳梗塞を発症していたわけではない。 なお、これらの手術の影響については、手術終了直後のレントゲン室においても、手術創と皮下に埋め込んだポートを示し、ポートをヒューバー針で穿刺してヘパリン生食を動注する方法を実演して見せる際に、歩行禁止で1日安静にするよう本人及び家族に説明し、熱が出て食欲も落ちることも説明している。 (イ)もっとも、亡Bは、虚脱の表情に尽きていたわけではない。 表情に乏しい点はあったが、痛みが強いときには、亡Bは、大声で泣いていたし(留置術後、他の患者の迷惑となったため、ICUから個室であるS21室に移したほどである、D病院担当医や看護師らとの間)で会話はできていた。 また、亡Bに言語障害があれば、当然診療録・看護記録等に記録したはずであり、そのようなことがなかったからこそ、これらの記録にも、そのような記載が残されていないのである。 イ頭部CTについてD病院では、動注ポート留置に伴って脳梗塞を発症していないことを確認するために、頭部CT検査を7月23日午後に実施しているが、この頭部CT検査において、亡Bに異常は認められていない(異常があれば、診療録等に記載されている。 )ウD病院在院中の経過について亡BがD病院在院中、脳梗塞を発症してないことの 実施しているが、この頭部CT検査において、亡Bに異常は認められていない(異常があれば、診療録等に記載されている。 )ウD病院在院中の経過について亡BがD病院在院中、脳梗塞を発症してないことの証左として、上記の ほかにも、次の事実があげられる。 被告Cは、後に被告大学関係者より亡Bの頭部CT画像を見せてもらっている。それによると、脳梗塞の病巣はかなり大きく、これだけ大きければ、次のような行動を亡Bが行うことはできなかったはずである。 (ア)介助なしに食事亡Bは、7月24日朝食を介助なしに全部食べている。食事に際して、看護師が介助しようとしたが、亡Bはこれを断り、自力で全部食べたのである。 また、昼食も60%、夜食も100%、それぞれ食べている。翌25日についても、朝60%、昼60%、夜50%、それぞれ食べている。 原告は、脳梗塞であるにもかかわらず、亡Bに食事を食べさせたことを問題とするが、亡Bが真実脳梗塞を発症し右片麻痺の状態にあったとすれば、介助なく食事をとることなど不可能である。 (イ)ベッドから転落亡Bは、同月25日午前2時10分、ベッドから転落している。 当時、亡BはS21室(個室)に在室していたが、同室のベッドは、丙A17号証・写真撮影報告書にみるとおり、転落防止の柵(病床から高さ約40㎝)が設けてある。亡Bがベッドから転落したということは、この柵を乗り越えて転落したということになるが、亡Bが真実脳梗塞を発症し、右片麻痺の状態であったとすれば、それはありえない話である。 (ウ)ICUでの集中看護D病院では、前述のように亡Bがベッドから転落したため、亡Bを個室に一人でおいておくのは問題であると判断した。そこで、原告も認めるように、D病院は、同月26日、亡Bを再度ICUに移し、集中的に管理できるようにした。 この 亡Bがベッドから転落したため、亡Bを個室に一人でおいておくのは問題であると判断した。そこで、原告も認めるように、D病院は、同月26日、亡Bを再度ICUに移し、集中的に管理できるようにした。 このように亡Bに対する徹底した看護体制をとっていたにもかかわら ず、亡Bに片麻痺は認められていない。 エなお、亡Bは、同月27日、車イスでの退院となったが、これは、亡Bに右大腿部からカテーテルを挿入して動注ポートを留置しているためと、亡Bが高齢のため、大事をとったからであり、退院時、亡Bが脳梗塞のため片麻痺の状態にあったからではない。 (2)意識レベル及びバイタルサインの経過についてD病院及び訴訟の経過により明らかになったA医大病院での亡Bの意識レベル及びバイタルサイン(体温)の経過からいえることは、亡Bは、D病院において脳梗塞を発症したのではなく、A医大病院への転院途中に脳梗塞を発症したというほかないということである。 ア意識レベルについてD病院における意識レベルは、MSコンチンほか亡Bに投与した薬剤や動注ポート留置術の影響もあり、術後の同月23日午後9時の時点で「Ⅱ-10」と悪化しているが、翌朝「クリア」と回復し、その後は「Ⅰ-、1」で推移している。 これに対し、A医大病院においては、同月27日午後5時の時点で「Ⅲ、翌28日も、午前9時の時点で「Ⅱ-10、午前11時30分の」」時点で「Ⅱ-30」である。 亡Bの脳梗塞を発症した病巣の大きさからして、脳梗塞を発症した後の亡Bの意識障害のレベルは最低でも「Ⅱ」以上になったはずであり、「Ⅰ」のレベルにとどまるとは考えにくい。 したがって、この点でも、D病院においては、亡Bは脳梗塞を発症していなかったといいうる。 イ体温についてD病院における亡Bの体温は、留置術直後の同月23日こそ3 のレベルにとどまるとは考えにくい。 したがって、この点でも、D病院においては、亡Bは脳梗塞を発症していなかったといいうる。 イ体温についてD病院における亡Bの体温は、留置術直後の同月23日こそ39度を記録しているが、その後は、日中一旦体温の上昇を認めるも(但し、同月2 )、5日は平熱、その後は下降し、同月26日午後9時の時点で36.9度退院直前の同月27日午前11時30分の時点で37.5度にすぎない(丙A7。 )これに対し、A医大病院においては、同日午後1時の時点で39度と上昇しており、その後も平熱に下がっていない。 これは、亡BがD病院を退院後A医大病院に転院するまでの間に脳梗塞を発症した1つの証左となるものである。 (3)なお、原告は、D病院に対し杜撰な術後監視として批判している。 しかし、原告がその批判の対象とする病棟管理日誌は、引継ぎのため、もともと病棟全体での出来事について、看護師長が入退院した患者や特に注目すべき患者についてのみ日記的に記載したもので、個々の患者の看護記録とは全くの別物である。 その病棟管理日誌に亡Bに関する記述が少なかったのは、亡Bについて特筆すべき出来事がなかったからにほかならず(同月24日の介助なしの食事は、前日の経過からすれば亡Bが快方に向かった証として特筆すべき事柄であったし、また、同月25日の亡Bがベッドから転落したという記載も、転落防止の柵を越えての転落で、特筆すべき事柄である、原告の批判は、書)面の性質をわきまえぬ的外れの批判といわざるを得ない。 また、診療記録に片麻痺の記載がないのは、亡Bに片麻痺が生じていなかったからその記載がないにすぎない。 真実亡Bに片麻痺が生じていたというのであれば、原告はむしろ早期にD病院に対しその抗議なり損害賠償請求をするなりすべきであったはずであり 亡Bに片麻痺が生じていなかったからその記載がないにすぎない。 真実亡Bに片麻痺が生じていたというのであれば、原告はむしろ早期にD病院に対しその抗議なり損害賠償請求をするなりすべきであったはずであり、本件から5年もすぎて、何らの客観的な証拠もなく、このような主張をされたD病院にすれば、頭部CT写真も廃棄してしまった後だけに、迷惑このうえない話である。 D病院においては、亡Bに脳梗塞は発症していなかったこと (1)D病院における動注ポート留置術により脳梗塞が発症する危険性D病院においては、鎖骨下動脈経由の方法を避けて大腿動脈の枝からカテーテルを挿入する方法をとっている。大腿動脈経由の方法によった場合、椎骨動脈にカテーテルが接することがないからである。 この方法によった場合でも、脳梗塞をおこす可能性がないとはいえないが、被告Cの経験では、脳梗塞を起こした症例は、3000例中2例(0.06%)にすぎない。 なお、D病院で用いるカテーテルは、アンスロンカテーテルで外面も内腔も血栓防止用のヘパリンでコーティングしたものを用いている。 (2)1の状態からの合理的な推認亡Bは、D病院において脳梗塞を発症したのではなく、A医大病院への転院途中に脳梗塞を発症したというほかない。 また、脳梗塞発症の原因としては、動注ポート留置術によるものではなく、次に述べる原因による可能性も高い。 (3)動注ポート留置術以外の原因による蓋然性脳梗塞発症の原因について、リスクファクターとしては、高血圧、糖尿病、高脂血症、心疾患、不整脈などがあげられる。 しかし、最も大きなリスクファクターは、高齢に伴う動脈硬化であり、無症候性の脳梗塞は加齢とともに著しく増加する。 したがって、本件で、当時80歳の高齢であった亡Bが脳梗塞を発症したとしても、動注ポート留置とは無関係 なリスクファクターは、高齢に伴う動脈硬化であり、無症候性の脳梗塞は加齢とともに著しく増加する。 したがって、本件で、当時80歳の高齢であった亡Bが脳梗塞を発症したとしても、動注ポート留置とは無関係に生じた可能性が高い。 なお、80歳代の脳血管疾患の死亡率は、人口10万人あたり、1678である。 第2説明義務違反について(原告の主張) 脳梗塞発生の危険性に関する説明の不存在 被告Cは、動注ポート留置術による脳梗塞発生の危険性について説明しなかった。 原告は、亡Bが入院した日の午後1時過ぎに診察室で被告Cから動注ポート留置術の説明を受けたが、そのとき、被告Cは手術例の写真を見せ「このようにして患部が小さくなるミサイル療法だ」と話した上で、カテーテルを原告。 に見せ「これが入る」とのみ説明した。時間にして5分から10分程度の説。 明で脳梗塞や血栓などという言葉は全く出なかった。 本件有棘細胞癌の治療における、動注ポート留置術の必要性の程度亡Bの有棘細胞癌は病期Ⅲであり、その治療方法は外科手術による原発巣の全摘出であるが、術前に放射線療法と化学療法が併用される場合がある。動注化学療法は、化学療法の一つであるが、本件当時、有棘細胞癌の治療方法として一般的なものとはなっていなかった。放射線療法と他の化学療法にも危険性はあるが、動注化学療法のそれと比較して大きな差はない。したがって、亡Bの症例に対しては、動注ポート留置及び動注化学療法は不可欠の治療方法ではなかった。 (被告Cの主張) 被告Cが行った説明の内容D病院においては、動注ポート留置により副作用として脳梗塞の危険があることの説明はしている。 ただし、被告Cの経験に照らし、特にその発症の危険性が高いわけではないので、脳梗塞発症の危険を強調した説明はしていない。 埋め込みポート 置により副作用として脳梗塞の危険があることの説明はしている。 ただし、被告Cの経験に照らし、特にその発症の危険性が高いわけではないので、脳梗塞発症の危険を強調した説明はしていない。 埋め込みポートによる感染、カテーテルの閉塞、血管の閉塞、術後の発熱、食欲の減退などの説明とともに、血栓や脳梗塞発症の危険も説明したはずである。 本件有棘細胞癌の治療における、動注ポート留置術の必要性有棘細胞癌が手術可能な場合には、当然手術を優先すべきである。 しかし、手術不能の進行癌の場合には、放射線療法もしくは化学療法が必要となる。 ただ、手術不能の進行性の有棘細胞癌に対して全身性投与の化学療法を行っても、副作用が強い反面、抗癌剤の効果は少ない。 そこで、頭頚部の腫瘍に対してカテーテルを挿入して動注ポートを埋め込んで実施する動注化学療法が必要となる。この方法によれば、副作用は少なくはるかに大きな抗腫瘍効果が得られるからである。 もっとも、この治療方法は、高度に先進的な治療であり、これを施行できる施設は非常に限られている。 そのため、一般論として手術に先行して動注化学療法を必ずとるべきとする文献は少ないかもしれない。 しかし、D病院は、この分野では先駆的存在であり、この治療方法をとることが可能であるから、少なくとも本件のように癌の深達度が深くて手術による根治的な切除が困難であり、局所再発の可能性が高いと予想される場合に、切除手術の前に行う動注化学療法はもっとも望ましい方法であったといいうる。 第3脳梗塞に対する治療を怠った過失について(原告の主張) D病院が、亡Bに脳梗塞が発症したことを認識すべき時点本件で亡Bに発症したものは血管カテーテルの操作中に発症したものであるから、脳塞栓と考えられ、脳塞栓症は発症後直ちに何らかの神経症状を呈するため、術 院が、亡Bに脳梗塞が発症したことを認識すべき時点本件で亡Bに発症したものは血管カテーテルの操作中に発症したものであるから、脳塞栓と考えられ、脳塞栓症は発症後直ちに何らかの神経症状を呈するため、術者は発症に注意を払うことでその神経症状から発症を認識することができる。 したがって、D病院において注意深い観察が行われていたとすれば、発症直後、すなわち本件手術中に脳梗塞の発症が認識可能であったものであり、遅くとも手術が終了し、帰室時には観察により認識できた。 1の時点以降に、被告Cが亡Bに対して行うべき措置及び被告Cがこれを怠 ったことD病院において、脳梗塞の発症を認識した後には、手術直後から3ないし6時間以内に血栓溶解療法を行うべきであった。また、発症から6時間を経過する以前か以後かにかかわらず、脳浮腫管理を行うべきであった。 さらに、上記のほか、安静、不用意な頭位挙上の禁止、絶食させた上で、持続点滴による水、電解質管理及び十分な栄養補給並びに転落の防止が必要である。 にもかかわらず、被告Cはこれを怠り、亡Bに食事をさせ安静措置を採らず、転落事故を発生させ、A医大病院再入院時の消耗が激しい状態にした。 (被告Cの主張)亡Bのように80歳という高齢の患者に血栓溶解療法を行う医療施設ないし医師は皆無である。しかも、亡Bのように癌に潰瘍がある場合、癌からの出血の危険性が高く、これだけでも血栓溶解療法は禁忌である。 したがって、たとえ亡Bに脳梗塞が発症していたとしても、当時の患者の状態からして、通常の全身管理をしていく以外にできることがなかったと言わざるを得ない。 また、脳浮腫管理については、亡Bには、頭部CT上は周囲浮腫に乏しく脳ヘルニアの所見もないことから、脳浮腫管理目的でのグリセロール投与は必須だったとはいえない。 第4因果関係( ざるを得ない。 また、脳浮腫管理については、亡Bには、頭部CT上は周囲浮腫に乏しく脳ヘルニアの所見もないことから、脳浮腫管理目的でのグリセロール投与は必須だったとはいえない。 第4因果関係(原告の主張) 亡Bが死亡に至る機序亡Bは、本件留置術により脳梗塞が発症し、8月13日に出血性梗塞が合併し、その後、肺炎、敗血症(=重症感染症)が合併して死亡したものである。これは脳梗塞の死亡までの典型的な機序である。3ヶ月後の死亡の半数は合併症に起因するとされている。 脳梗塞に対する治療を怠った過失と死亡との因果関係脳梗塞が発症した術中または手術直後から3ないし6時間以内に血栓溶解療法が行われていた場合、カテーテル内の血栓による塞栓症あるいは動脈壁内血栓の剥離であれば、血栓を溶解できた可能性が高いために、後日に出血性梗塞は発症しなかったと考えられる。梗塞が阻止できれば、その後、予定どおり、動注化学療法を実施して外科療法を行うことができたのであるから、亡Bが12月8日に死亡することはなかった。 これに対し、塞栓症の原因が、動脈性病変の剥離によるものであった場合、完全に溶解することは困難であるが、部分的な溶解が得られれば出血性梗塞が発症したとしても、その程度は現行よりも軽度であった可能性がある。 また、脳浮腫管理としてグリセロールの投与が行われていた場合には、梗塞部位及びその周囲の浮腫に伴う腫脹・圧迫による血流障害が軽減され、障害部位の範囲が現に生じたものより縮小していた可能性があり、後日の出血性梗塞が軽減された可能性がある。 説明義務違反と死亡との因果関係(1)確立した標準的治療方法でないこと患者側にとって、評価の定まっていない治療方法の選択には慎重にな、るのが通常である。動注化学療法は、確立した標準的治療方法ではなく、 反と死亡との因果関係(1)確立した標準的治療方法でないこと患者側にとって、評価の定まっていない治療方法の選択には慎重にな、るのが通常である。動注化学療法は、確立した標準的治療方法ではなく、その評価は固まっていなかったのであるから、これを説明されていれば原告は動注化学療法の選択に慎重になったと考えられる。 (2)死に直結する重大な合併症があることその治療方法の合併症が死に直結するものであればあるほど、その選択には慎重になるのが通常である。動注ポート留置術には脳梗塞合併の危険があり、脳梗塞は発症すれば直ちに死に直結する重大な合併症であるから、これを説明されていれば、原告は動注化学療法の選択に慎重になったと考えられる。 、この点、被告大学は、放射線療法と全身化学療法の合併症を列挙して動注化学療法が最良の治療方法であったと主張する。しかし、動注化学療法は当時評価が固まっておらず確立した治療方法でなかった以上、確立した他の治療方法と比較して、最良の治療方法であると判断することはできないはずである。そもそも、当時A医大病院医師は、脳梗塞発生の危険を考慮していなかったのであるから適切な比較などできるはずはない。そして、放射線療法と全身化学療法の合併症は種々あるが、被告らが挙げる合併症を見て分かるように、脳梗塞のような直ちに死に直結する危険性はほとんどない。 (3)亡Bに脳梗塞発生のリスク(動脈硬化)があったこと患者に合併症の発生リスクが存在する場合、その治療方法の選択には慎重になるのが通常である。亡Bは動脈硬化が強くカテーテル操作による脳梗塞発症が予見できたのであるから、これを説明されていれば、原告は動注化学療法の選択に慎重になったと考えられる。 (4)標準的治療で相当期間の生存が見込めたこと生存率が低く、短期間のうちに死 る脳梗塞発症が予見できたのであるから、これを説明されていれば、原告は動注化学療法の選択に慎重になったと考えられる。 (4)標準的治療で相当期間の生存が見込めたこと生存率が低く、短期間のうちに死亡することが予想される場合、標準的治療方法よりも、リスクが高くても最新の治療方法を選択すると考えられるが、ある程度長期間の生存が見込める場合、リスクが実現した場合に直ちに死亡する危険性のある最新の治療方法を選択することには慎重になるのが通常である。亡Bの病期は、ステージⅢであり、これに対する治療方法として評価の固まっている化学療法及び放射線療法を実施した上で外科手術を行った場合の5年生存率は、65%(Ⅲa)ないし56%(Ⅲb)である。なお、手術が不可能な遠隔転移があるステージⅣでも4年生存率が38%もある。よって、原告がこの点について説明されていれば、原告は動注化学療法の選択に慎重になったと考えられる。 (5)放射線療法が可能であったこと 亡Bに対しては少なくとも放射線療法は可能であった(全身化学療法の適応を否定するものではない。現に、A医大病院医師は、脳梗塞治療)の後、当初の予定通り外科手術の前提として動注化学療法を行おうとしたが、原告の拒否にあったため、9月2日から放射線療法を実施し、その結果、腫瘍を縮小させている。したがって、放射線療法を選択して外科手術を行うことが可能であったのである。 (6)まとめ以上から、被告Cが説明義務を尽くしていれば、原告は動注化学療法の実施を承諾せず、他の治療方法により、少なくとも12月8日の時点で死亡することはなく、同日よりも相当延命できたと考えられる。 (被告Cの主張) 脳梗塞に対する治療を怠った過失と死亡との因果関係血栓溶解療法については、そもそも同療法を行うべき義務はなく、因果関係は することはなく、同日よりも相当延命できたと考えられる。 (被告Cの主張) 脳梗塞に対する治療を怠った過失と死亡との因果関係血栓溶解療法については、そもそも同療法を行うべき義務はなく、因果関係は問題にならない。また、脳浮腫管理についても、グリセロール自体に梗塞範囲の縮小効果はなく、機能予後の改善には貢献しないから、先の脳梗塞の際のグリセロール投与が次の梗塞の程度に影響を与えるとするのは全く根拠がない指摘である。 説明義務違反と死亡との因果関係手術不能の進行癌の場合には、放射線療法もしくは化学療法が必要となるが、手術不能の進行性の有棘細胞癌に対して全身性投与の化学療法を行っても、副作用が強い反面、抗癌剤の効果は少ない。 そこで、頭頚部の腫瘍に対してカテーテルを挿入して動注ポートを埋め込んで実施する動注化学療法が必要となる。この方法によれば、副作用は少なくはるかに大きな抗腫瘍効果が得られるからである。 もっとも、この治療方法は、高度に先進的な治療であり、これを施行できる施設は非常に限られているため、手術に先行して動注化学療法を必ずとるべき とする文献は少ないかもしれない。 しかし、被告Cは、この分野では先駆的存在であり、この治療方法を採ることが可能であるから、少なくとも本件のように癌の深達度が深くて手術による根治的な切除が困難であり、局所再発の可能性が高いと予想される場合に、切除手術の前に行う動注化学療法はもっとも望ましい方法であったといえ、結局のところ、亡B及び原告は、動注化学療法を選択したはずである。 第5損害額(原告の主張) 慰謝料2000万円亡Bは、処置の危険性等について十分な説明をされなかったため治療方法選択の機会を奪われ、その結果、脳梗塞が発生して死亡するに至らされたのであるから、その精神的苦痛を慰謝するため 慰謝料2000万円亡Bは、処置の危険性等について十分な説明をされなかったため治療方法選択の機会を奪われ、その結果、脳梗塞が発生して死亡するに至らされたのであるから、その精神的苦痛を慰謝するために必要な慰謝料は金2000万円を下回らない。 原告の相続原告は、亡Bの子であり、被告Cに対する損害賠償請求権を相続により取得した。 原告固有の慰謝料500万円原告は、高齢の父親である亡Bを扶養し、亡Bの有棘細胞癌に対する治療方法を亡Bに代わって選択すべき立場にあったが、亡Bについて治療方法選択の機会を奪われ、適切な治療を受けさせることができずに父親を失うに至らされたのであるから、その精神的苦痛を慰謝するために必要な慰謝料は金500万円を下回らない。 (被告Cの主張)争う。 以上

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