平成15(行ウ)41 処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成16年10月19日 神戸地方裁判所 その他
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判決文本文7,840 文字)

- 1 -主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 原告(請求の趣旨)(1)被告が,平成14年12月17日付けで,原告の子・Aの転出届(以下「本件転出届」という)を受理した行為を取り消す。 。 (2)訴訟費用は被告の負担とする。 被告(請求の趣旨に対する答弁)(1)本案前の申立ア本件訴えを却下する。 イ訴訟費用は原告の負担とする。 (2)本案の答弁ア原告の請求を棄却する。 イ訴訟費用は原告の負担とする。 第2事案の概要 事案の骨子本件は,原告とその妻・Bとの間で離婚訴訟が係属中に,Bが原告の意思に反して原告・B間の子・Aの転出届を提出し,被告がこれを受理したことから,原告がその取消しを求めるものである。 争いのない事実等(1)A及びその両親の住所等原告とその妻・Bとの間には,長男A(平成12年▲月▲日生)がいた。Aは,平成14年1月14日まで,両親と宝塚市α × 番20号に居住していた。原告・B夫婦及びAについては,本件転出届が受理された平成14年▲月▲日まで,原告を世帯主として,上記居住地を住所とした住民票が作成されていた。 (2)原告とBとの別居,離婚,親権者指定の審判係属等Bは,平成14年1月14日以降,Aを連れて鹿児島市β × × 番5号の実家に帰り,遅くとも同年2月中旬以降は原告と別居状態に入った。原告は,平成14年▲月▲日,Bを相手方として,鹿児島家庭裁判所に離婚調停の申立てをし,さらに,同年▲月▲日,Bを被告として,神戸地方裁判所伊丹支部に離婚の訴えを提起した(甲3の1。 )その後,原告とBは,平成15年▲月▲日,神戸家庭裁判所伊丹支部で調停離婚し,Aの親権者は,鹿児島家庭裁判所における審判によって,そ て,神戸地方裁判所伊丹支部に離婚の訴えを提起した(甲3の1。 )その後,原告とBは,平成15年▲月▲日,神戸家庭裁判所伊丹支部で調停離婚し,Aの親権者は,鹿児島家庭裁判所における審判によって,その指定を受けることとなった(甲4。平成16年4月現在でも,鹿児島家庭裁判所で,この親権者指定の審判)が係属している。 (3)本件届出状況ア原告は,平成14年▲月▲日,被告(市民課長)に対し「原告とBとの間で離婚,訴訟が係属中であり,BからAの転出届が提出された場合,離婚裁判の確定まで転出届の受理を留保してほしい」旨の申し入れをした(甲3の1。 。 )Bは,平成14年▲月▲日,被告に対し,Aの転出先をBの実家(鹿児島市β ×),。 ,,× 番5号とする転出届を提出し被告はこれを受理したAは当時2歳であり引き続きBの実家でBと同居していた。原告は引き続き宝塚市に居住していた。 (4)不服申立等ア原告は,平成15年▲月▲日,被告に対し,本件転出届の受理は無効であるとし- 2 -て,本件転出届の受理行為の取消しを求める異議申立てをした。これに対し,被告は,同年▲月▲日,上記異議申立てを棄却する決定をし,翌▲日,原告代理人に同決定が送達された(甲1の1・2。 )イそこで,原告は,平成15年▲月▲日,兵庫県知事に対し,本件転出届の受理行為の取消しを求める審査請求をした。これに対し,兵庫県知事は,同年▲月▲日,上記審査請求を棄却する裁決をし,翌▲日,原告代理人に同裁決が送達された(甲2の1・2)ウそこで,原告は,なお本件転出届受理行為に不服があるとして,平成15年▲月▲日,本件転出届受理行為の取消訴訟を提起した。 争点 (1)争点1(原告適格)原告は,本件転出届の受理行為の取消しを求める原告適格を有するか 件転出届受理行為に不服があるとして,平成15年▲月▲日,本件転出届受理行為の取消訴訟を提起した。 争点 (1)争点1(原告適格)原告は,本件転出届の受理行為の取消しを求める原告適格を有するか。 (2)争点2(世帯主でない者からの転出届の提出の効力)被告が世帯主ではないBによってなされた本件転出届を受理したことが違法か。 (3)争点3(共同親権に服する子の転出届が父母の一方の意思に反してなされた場合の効力)原告・Bの共同親権に服するAの転出届が原告の意思に反してなされたことから,本件転出届の受理行為は違法か。 (4)争点4(Aの住所)本件転出届が提出された時点でのAの住所は宝塚市か,それとも鹿児島市か。 第3争点に関する当事者の主張 争点(1(原告適格)について)(1)被告の主張本件転出届の受理行為は,Aに対する処分であって,原告に対する処分ではないから,原告には,本件転出届受理行為の取消訴訟を提起できる原告適格がない。 (2)原告の主張原告は,Aの住民票が宝塚市にあることにより,宝塚市から児童手当の支給を受け,住民税の算定においても,社会保険料控除や扶養控除が認められる等,原告固有の権利・利益を享受していたが,本件転出届が受理されたことにより,原告はこれらの権利・利益を失うに至った。 したがって,原告は,本件転出届の受理行為の取消しを求めるにつき法律上の利益を有しており,本件転出届の受理行為の取消訴訟を提起できる原告適格がある。 争点(2(世帯主でない者からの転出届の提出の効力)について)(1)原告の主張住民基本台帳法上,住民票の転出届をすることができるのは,転出した世帯員自身又は世帯員に代わる世帯主であり,世帯員が意思能力がない未成年者であるなど,自ら転出届をすることができないときは,世帯主が世帯員 基本台帳法上,住民票の転出届をすることができるのは,転出した世帯員自身又は世帯員に代わる世帯主であり,世帯員が意思能力がない未成年者であるなど,自ら転出届をすることができないときは,世帯主が世帯員に代わって転出届をしなければならない(住民基本台帳法24条,26条1,2項。 )ところが,本件においては,世帯主でない母・Bによって転出届がされており,本件転出届は,上記住民基本台帳法上の届出権利者によらない違法無効な届出である。 (2)被告の主張転出届は,必ずしも世帯員又は世帯主自身が行わなければならないものではなく,世帯員又は世帯主の任意代理人又は法定代理人が行うこともできる。本件では,Aの法定代理人である母・Bによって本件転出届がされているのであるから,本件転出届が違法無効と評価されるものではない。 - 3 - 争点(3(共同親権に服する子の転出届が父母の一方の意思に反してなされた場合の)効力)について(1)原告の主張Aは両親である原告とBの共同親権に服している(民法818条1,3項。したが)って,本件転出届も,共同親権の行使として,両親(原告とB)の意思に基づいて行わなければならない。ところが,本件転出届は,原告の意思に反してB単独で行われたものであり,共同親権の行使とは認められず,無効である。 (2)被告の主張転出届は事実の報告にすぎず,共同親権の対象行為にはならない。意思能力を欠く未成年者の転出届という形式的行為については,法定代理人である父又は母のどちらかの一方が単独で行うことができる。したがって,本件においては,Aの母であるBが転出届をしている以上,その届出内容が客観的事実に即していれば,これを受理することになるのである。 争点(4(Aの住所)について)(1)被告の主張住所は,客観的居住の事実 の母であるBが転出届をしている以上,その届出内容が客観的事実に即していれば,これを受理することになるのである。 争点(4(Aの住所)について)(1)被告の主張住所は,客観的居住の事実に基づいて認定されるものであり,主観的居住の意思は客観的居住の事実を補充する意義を有するにすぎず,これは意思能力を欠く未成年者の住所を認定する場合も同様である。 Aは,平成14年1月14日以降,本件転出届まで11か月間,鹿児島市でBと同居して生活しており,親権者の一方であるBが鹿児島市をAの生活の本拠とする意思を有している事実があれば,Aの生活の本拠は鹿児島市と認定することができる。 原告とBとの離婚訴訟が係属していることや,原告が本件転出届に反対の意思を有していたことなどは,Aの現実の生活において,生活の本拠がどこかという点では直接関係なく,上記認定を左右しない。 したがって,被告が,Aの住所を鹿児島市であると認定して,本件転出届を受理したことに違法はない。 (2)原告の主張ア住所の認定は,客観的居住の事実を基礎とし,これに当該居住者の主観的居住意思を総合して決定することになる。ことに意思能力のない乳幼児に関しては,本人の意思に代わるものとして,親権者の意思が決定的な意味を持つ。 ところが,本件では,原告が被告に対し「BからAの転出届がされた場合,離婚,裁判の確定まで転出届の受理を留保してほしい」旨の申し入れをしていたのに,被。 告は,Bの意思のみを考慮し,原告の意思に反して,本件転出届を受理したのである。 イ父親と母子が,近い将来再び一緒に生活することを前提として,一時的に別居生F活に入ることは決して珍しくなく,子の住所を認定するに当たっては,別居期間を中心に,別居に入った事情,父母の意思など,様々な客観的事情や主観的事情が考慮さ 生活することを前提として,一時的に別居生F活に入ることは決して珍しくなく,子の住所を認定するに当たっては,別居期間を中心に,別居に入った事情,父母の意思など,様々な客観的事情や主観的事情が考慮されるべきである。 ,(),そしてAの衣類等の生活用品が原告方宝塚市に残されたままの状態であり原告とBとの離婚訴訟が係属中で,Aの親権についても争われており,原告が被告にAの転出届を受理しないよう申し入れているという客観的事情を総合的に評価すれば,本件転出届時において,Aの生活の本拠がBの住所地である鹿児島市に移転したとは評価できない。 ウ市町村長は,住民基本台帳法に基づき,住民の住所に関する正確な記録を整備すべき責務があり,必要があると認めるときは,当該吏員をして,関係人に対し質問- 4 -,(,)。 させ又は文書の提示を求めさせることができる住民基本台帳法34条23項そして,被告は,原告から,Aの転出届がされても受理を留保してもらいたい旨の申出を受けていたのであるから,Bから本件転出届があった際に,Aの住所の変更が真実存在するかについて,慎重な調査・確認をすべき義務を負っていた。 しかるに,被告は,かかる調査・確認義務を全く尽くすことなく,Bからの一方的説明を軽信し,漫然とAの転出先を鹿児島市とする本件転出届を受理したのである。 エ以上の次第で,Aの住所は,本件転出届時点で,未だ宝塚市から鹿児島市に移転していないのに,Aの住所が鹿児島市に移転したとして,本件転出届を受理した被告の行為は違法である。 第4争点に関する当裁判所の判断 争点(1(原告適格)の検討)(1)被告は「本件転出届の受理行為は,Aに対する処分であって,原告に対する処,分ではないから,原告には,本件転出届の受理行為の取消訴訟を提起でき 所の判断 争点(1(原告適格)の検討)(1)被告は「本件転出届の受理行為は,Aに対する処分であって,原告に対する処,分ではないから,原告には,本件転出届の受理行為の取消訴訟を提起できる原告適格がない」と主張する。 。 (2)しかし,市町村がその住民に提供する役務や課する義務は,住民票の記載を基礎として行われるところ,Aと原告が同一世帯として住民登録されていれば,原告は,Aの児童手当の支給やAの国民健康保険の被保険者資格の認定等,宝塚市から提供される役務を当然に認められ,また,Aを扶養家族とすることに伴う社会保険料控除や所得税控除がたやすく認められる上,さらに,未成年者の子Aが受ける役務は,原告のAに対する監護・養育義務と密接な関係がある。 しかるに,原告は,本件転出届の受理行為により,これらの権利・利益を失うに至,「,ったのであり当該処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者(最高裁平成元年2月17日判決・民集43」巻2号56頁)として,本件転出届受理行為の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者(行政事件訴訟法9条)に当たる。 」(3)したがって,原告には,本件転出届の受理行為の取消しを求める原告適格が認められ,被告の上記(1)の主張は理由がない。 争点(2(世帯主でない者からの転出届の提出の効力)の検討)(1)原告は「転出届をすることができるのは,転出した世帯員自身又は世帯員に代,わる世帯主であり,世帯員が意思能力がない未成年者であるときは,世帯主が世帯員に代わって転出届をしなければならない。ところが,本件においては,世帯主でない母・Bによって本件転出届がされており,違法無効な転出届である」と主張する。 。 (2)しかし,転出届は 世帯主が世帯員に代わって転出届をしなければならない。ところが,本件においては,世帯主でない母・Bによって本件転出届がされており,違法無効な転出届である」と主張する。 。 (2)しかし,転出届は,必ずしも世帯員又は世帯主自身が行わなければならないものではなく,世帯員又は世帯主の任意代理人又は法定代理人が行うこともできる。本件では,Aの法定代理人である母・Bによって本件転出届がされているのであるから,本件転出届が違法無効と評価されるものではない。 (3)それゆえ,原告の上記(1)の主張は採用できない。 争点(3(共同親権に服する子の転出届が父母の一方の意思に反してなされた場合の)効力)の検討(1)原告は「Aは原告とBの共同親権に服しているので,本件転出届の提出も,共,同親権の行使として,原告とBの意思に基づいて行わなければならない。ところが,本件転出届は,原告の意思に反してB単独で行われたものであり,共同親権の行使とは認められず,無効である」と主張する。 。 (2)しかし,転出届は,住民登録をしていた市町村から他の市町村に住所を移転した- 5 -という事実の報告にすぎず,共同親権の対象となる行為ではない。それゆえ,意思能力を欠く未成年者の転出届という形式的行為についても,法定代理人である父又は母のどちらかの一方が単独で行うことができるものである。 もし,原告が主張するように,共同親権に服する子の転出届が父母の一方の意思に反してなされた場合は無効であるとすると,妻が子供を連れて長期間にわたり夫の家を出て別居している場合,夫が同意しない限り,子供の生活の実態がどのように変わっても,以前の「住所(父親の住所)を動かすことができず,転出届を行う余地がな」くなってしまい,このような結論が不当なことは明らかである。 (3)し しない限り,子供の生活の実態がどのように変わっても,以前の「住所(父親の住所)を動かすことができず,転出届を行う余地がな」くなってしまい,このような結論が不当なことは明らかである。 (3)したがって,本件においても,Aの親権者(法定代理人)であるBが本件転出届をしている以上,その届出内容が客観的事実に即していれば,被告がこれを受理することに違法はない。それゆえ,原告の上記(1)の主張も採用できない。 争点(4(Aの住所)の検討)(1)一般論住民基本台帳法上の住所は,地方自治法10条1項に規定する住民の住所と同一であり,各人の生活の本拠をいう(住民基本台帳法4条,地方自治法10条1項,民法21条。 )そして,各人の住所の認定については,基本的には,客観的居住の事実に基づいて決定されるものであり,主観的居住の意思は,客観的居住の事実を補充するものとしての意義を有するにすぎない。これは,意思能力を欠く未成年者の住所を認定する場合も同様である。 (2)本件への当てはめア事実関係これを本件について見るに,前記第2の2(1(2(3)によると,次の事実))が認められる。 (ア)原告・B夫婦は,平成14年1月14日まで,長男A(平成12年▲月▲日生)と夫婦親子3人で,兵庫県宝塚市α × 番20号に居住していた。 (イ)Bは,平成14年1月14日以降,Aを連れて鹿児島市β × × 番5号の実家に帰り,遅くとも同年2月中旬以降は原告と別居状態に入った。他方,原告は,引き続き宝塚市に単身居住していた。 (ウ)原告とBとの間には,平成14年2月28日以降離婚調停が係属し,同年9月30日以降は離婚訴訟が係属していた。Bには,本件転出届(平成14年▲月▲日)当時,原告とよりを戻し,宝塚市に帰って原告とやり直す意思はなかった。 平成14年2月28日以降離婚調停が係属し,同年9月30日以降は離婚訴訟が係属していた。Bには,本件転出届(平成14年▲月▲日)当時,原告とよりを戻し,宝塚市に帰って原告とやり直す意思はなかった。 (エ)Bは,平成14年▲月▲日,被告に対し,Aの転出先をBの実家(鹿児島市β × × 番5号)とする転出届を提出し,被告はこれを受理した。Aは,当時2歳であり,引き続きBの実家でBに育てられていた。 (),,。 オ原告とBは平成15年▲月▲日神戸家庭裁判所伊丹支部で調停離婚したイ検討上記事実によると,Aは,平成14年1月14日以降,本件転出届まで11か月間,Bの実家でBに育てられて生活しており,Aを監護養育していた親権者Bは,本件転出届をした当時,原告とよりを戻し,宝塚市に帰って原告とやり直す意思はなく,引き続きBの実家でAと同居し,Bの実家をAの生活の本拠とする意思を有していたのであるから,Aの生活の本拠はBの実家である鹿児島市β × × 番5号と認めることができる。 原告は,平成14年1月14日以降Aと同居しておらず,本件転出届当時,Bと離婚する意思を有し,妻子(B・A)を宝塚市に呼び戻し,再び妻子(B・A)と- 6 -一緒に生活する意思はなかった(Aだけを引き取る意思しかなかった)のであるか。 ら,原告は,本件転出届当時,被告に対し,Bからの転出届を受理しないように申し出ており,Aの生活の本拠をBの実家とすることに反対していたからといって,Aの生活の本拠(住所)をBの実家と認めることの妨げとはならない。 (3)まとめしたがって,被告が,Aの住所を鹿児島市であると認め,本件転出届を受理したことに違法はない。 第5 結論 以上によると,原告は本件転出届の受理行為取消しの訴えを提起する原告適格を有するが,被告が本件転出届 って,被告が,Aの住所を鹿児島市であると認め,本件転出届を受理したことに違法はない。 第5 結論 以上によると,原告は本件転出届の受理行為取消しの訴えを提起する原告適格を有するが,被告が本件転出届を受理した行為が違法であるとは認められず,原告の本訴請求は理由がないので棄却し,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第2民事部裁判長裁判官紙浦健二裁判官今中秀雄裁判官高橋信幸

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