平成21(行ウ)439 弁護士印影非公開処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成22年1月15日 東京地方裁判所 情報公開
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判決文本文11,419 文字)

- 1 -主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求処分行政庁が平成21年9月3日付けで原告に対してした自己情報開示決定(○新地戸戸第○号の○)のうち,平成20年10月29日受付の職務上請求書中,弁護士の印影部分を開示しないとした部分を取り消す。 第2事案の概要原告は,新宿区長に対し,新宿区個人情報保護条例に基づき,自己の戸籍証明に係る交付請求書の開示を請求したところ,新宿区長は,開示請求に係る保有個人情報の一部を非開示とする決定をした。本件は,原告が,同決定に係る通知書に付記された理由は相当なものではなく,また,非開示とされた情報は,同区長が該当するとした同条例所定の非開示情報には該当しないと主張して,同決定の取消しを求めた事案である。 関係条例等の定め(1)新宿区個人情報保護条例(平成17年新宿区条例第5号。以下「本件条例」という)。 ア1条この条例は,実施機関における個人情報の取扱いに関する基本的事項を定めることにより,区政の適正かつ円滑な運営を図るとともに,保有個人情報の開示,訂正及び利用停止を請求する権利を明らかにし,もって区民の基本的人権を擁護することを目的とする。 イ2条1項ないし3項1項この条例において「実施機関」とは,区長(中略)をいう。 2項この条例において「個人情報」とは,個人に関する情報であって,- 2 -当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することができ,それによ。 り特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう3項この条例において「保有個人情報」とは,実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した個人情報であって,当該実施機関の職員が組織的 り特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう3項この条例において「保有個人情報」とは,実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した個人情報であって,当該実施機関の職員が組織的に利用するものとして,当該実施機関が保有しているものをいう。ただし,公文書(新宿区情報公開条例(平成13年新宿区条例第5号)2条2。 号に規定する公文書をいう。以下同じ。)に記録されているものに限るウ3条1項実施機関は,この条例の目的を達成するため,個人情報の保護に関し必要な措置を講ずるとともに,個人情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。 エ18条1項何人も,この条例の定めるところにより,実施機関に対し,当該実施機関の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求することができる。 オ19条実施機関は,開示請求があったときは,開示請求に係る保有個人情報に次の各号に掲げる情報(以下「非開示情報」という。)のいずれかが含まれている場合を除き,開示請求を行った者(以下「開示請求者」という。)に対し,当該保有個人情報を開示しなければならない(中略)。 3号法人その他の団体((中略。以下「法人等」という。)に関する情)報又は開示請求者以外の事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,開示することにより,当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの。ただし,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,開示することが必要であると認めら- 3 -れる情報を除く(後略)。 カ20条1項実施機関は,開示請求に係る保有個人情報に非開示情報が含まれている場合において,非開示情報に該当する部分を容易に区分して除くことができるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部 カ20条1項実施機関は,開示請求に係る保有個人情報に非開示情報が含まれている場合において,非開示情報に該当する部分を容易に区分して除くことができるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。 キ27条1項実施機関は,開示請求に係る保有個人情報の全部又は一部を開示するときは,その旨の決定を行い,開示請求者に対し,その旨,開示する保有個人情報の利用目的及び開示の実施に関し実施機関が定める事項を書面により通知しなければならない(後略)。 ク32条1項実施機関は,開示決定等について行政不服審査法(中略)による不服申立てがあったときは,次の各号のいずれかに該当する場合を除き,新宿区情報公開・個人情報保護審査会(以下「審査会」という。)に諮問しなければならない(中略)。 3項実施機関は,不服申立てについて決定を行うに当たっては,審査会の答申を尊重しなければならない。 (2)区長が行う個人情報保護事務に関する規則(平成17年新宿区規則第89号。以下「本件規則」という)。 14条2項本件条例27条1項の実施機関が定める事項とは,次に掲げる事項とする。 (中略)3号開示請求に係る保有個人情報の一部を開示する場合には,開示しない部分及びその理由等(後略)(3)新宿区行政手続条例(平成7年新宿区条例第2号)- 4 -ア1条1項この条例は,処分,行政指導及び届出に関する手続に関し,共通する事項を定めることによって,行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について,その内容及び過程が区民にとって明らかであることをいう。)の向上を図り,もって区民の権利利益の保護に資することを目的とする。 イ2条1項この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる(中 とって明らかであることをいう。)の向上を図り,もって区民の権利利益の保護に資することを目的とする。 イ2条1項この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる(中略)。 2号処分条例等に基づく行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう。 3号申請条例等に基づき,行政庁の許可,認可,免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって,当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。 ウ8条1項行政庁は,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は,申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければならない。 (後略)2項前項本文に規定する処分を書面でするときは,同項の理由は,書面により示さなければならない。 争いのない事実等(証拠等によって認定した事実は末尾に証拠等を掲記する)。 (1)原告は,平成21年8月20日,新宿区長に対する本件条例18条1項に基づく自己を本人とする保有個人情報の開示請求として,同日付けの自己情報開示請求書(以下「本件請求書」という)を提出し,原告に関する戸。 - 5 -籍証明に係る交付請求書につき写しを交付する方法による開示の請求(以下「本件請求」という)をした(乙2。 。 )(2)本件請求を受けて,被告の職員が本件請求に係る保有個人情報を調査したところ,被告が平成20年10月29日に受け付けたA弁護士作成に係る戸籍謄本等職務上請求書(以下「本件職務上請求書」という)及び原告作。 成の交付請求書が,本件請求に係る対象に該当し得ることが判明した(乙3の1,3の2,弁論の全趣旨。 )本件職務上請求書の「請求者」欄及び欄外には,A弁護士のいわゆる職印が押なつされていた( 作。 成の交付請求書が,本件請求に係る対象に該当し得ることが判明した(乙3の1,3の2,弁論の全趣旨。 )本件職務上請求書の「請求者」欄及び欄外には,A弁護士のいわゆる職印が押なつされていた(乙3の1,弁論の全趣旨。 )(3)新宿区長は,平成21年9月3日,本件条例27条1項に基づき,本件請求について,本件職務上請求書のA弁護士の職印の印影に係る部分(以下「本件部分」という)を除いた部分を開示する旨の決定(以下「本件決。 定」という)をした。原告は,同月4日,本件決定に係る通知書(以下。 「本件決定書」という)を受領した。 。 本件決定書のうち「開示する自己情報の内容」欄には「請求者に関する,戸籍証明にかかる交付請求書(調査期間平成20年1月1日から平成21年8月20日まで」と「開示しない部分」欄には「平成20年10月29),日受付の職務上請求書中,弁護士の印影」と「開示しない理由及び根拠」,欄には「当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため(本件条例19条3号該当」とそれぞれ記載され)ていた(甲1。 )(4)原告は,平成21年9月7日,本件訴えを提起した(顕著な事実。 ) 争点及び当事者の主張の要旨本件の争点は,本件決定の適法性であり,具体的には,本件決定書に付記された理由が相当なものであったか否か,本件部分に係る情報は本件条例19条3号に該当するか否かである。 - 6 -(被告の主張の要旨)原告の主張については争う。以下のとおり,本件決定は適法である。 (1)本件条例27条1項,本件規則14条2項3号及び新宿区行政手続条例8条が,自己情報開示決定に係る通知書に非開示の理由を付記することを要求している趣旨からすれば,付記すべき理由の程度は,開示請求者において,本件条 1項,本件規則14条2項3号及び新宿区行政手続条例8条が,自己情報開示決定に係る通知書に非開示の理由を付記することを要求している趣旨からすれば,付記すべき理由の程度は,開示請求者において,本件条例19条各号所定の非開示事由のどれに該当するのかをその根拠とともに了知し得る程度のものであれば足りるというべきである。本件決定書には,同条各号所定の非開示事由のどの事由に該当するかが,その根拠とともに了知し得る程度に理由の付記がなされている。 また,弁護士の職印の印影を開示することが当該弁護士の利益を害すると判断した理由についてまで記載しなければならないとする根拠はない。 (2)本件職務上請求書に押なつされた職印は,戸籍法10条の2第4項に基づく請求を行うに当たり,A弁護士が弁護士業務を遂行する上で使用したものであるから,その印影は本件条例19条3号の「事業を営む個人の当該事業に関する情報」に当たる。そして,弁護士の職印の印影は,弁護士がその資格に基づき作成した書類が真正に作成されたことを示す認証的機能を有するから,これを開示すると,偽造,悪用されるなどの支障が生ずる可能性が否定できない。したがって,本件職務上請求書に押なつされた弁護士の職印の印影は,開示することにより当該弁護士の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあり,同号の非開示情報に該当する。 (原告の主張の要旨)(1)本件決定書には,本件部分が本件条例19条3号所定の非開示情報に該当する旨の記載はあるものの,本件部分を開示することが当該弁護士の権利又は競争上の地位を害すると判断した理由については何ら示されていない。 したがって,本件決定書には,非開示とされた根拠とともに了知し得る程度の理由が付記されているとはいえず,本件決定は,理由を示さないことを原- 7 -因とし 断した理由については何ら示されていない。 したがって,本件決定書には,非開示とされた根拠とともに了知し得る程度の理由が付記されているとはいえず,本件決定は,理由を示さないことを原- 7 -因として直ちに取り消されるべきである。 (2)上記(1)の点を措くとしても,本件部分を開示することと弁護士の正当な利益が害されることとの間に因果関係は認められない。また,A弁護士は,別件訴訟で原告の相手方の訴訟代理人を務めており,その訴訟においてA弁護士が作成し,職印を押なつした書類が原告に送付されている。本件職務上請求書の記載内容からすれば,新宿区長にとって,原告とA弁護士との間には損害賠償請求控訴事件に関連して何らかの関係があることは明らかであったところ,弁護士は,民事訴訟において相手方ないし裁判所に提出する多数の書類に職印を押なつするのであるから,本件部分が秘匿されなければならない理由はない。したがって,本件決定は違法である。 第3当裁判所の判断 認定事実争いのない事実等(第2の2,証拠(文中掲記のもの)及び弁論の全趣旨)によれば,以下の事実が認められる。 (1)本件職務上請求書は,その表題及び記載内容から,弁護士又は弁護士法人が戸籍法10条の2第3項から第5項までの規定に基づき受任している事件等に係る職務上戸籍謄本等の交付を求める請求書であって,日本弁護士連合会統一用紙を使用したものであること及びA弁護士が原告を筆頭者とする戸籍謄本の交付の請求をしたものであることが容易に認識できるものであった。また,本件職務上請求書には,前記第2の2のとおり,A弁護士の職印が押なつされていたほか「利用目的の種別」欄には「裁判手続又は裁判外,における民事上若しくは行政上の紛争処理手続の代理業務に必要な場合(法10条の2第4項」及び「事件の種類, おり,A弁護士の職印が押なつされていたほか「利用目的の種別」欄には「裁判手続又は裁判外,における民事上若しくは行政上の紛争処理手続の代理業務に必要な場合(法10条の2第4項」及び「事件の種類,代理手続の種類及び戸籍の記載事)項の利用目的」として「損害賠償請求控訴事件」と記載されていた。また,本件職務上請求書の「請求者」欄には,A弁護士の法律事務所の所在地,法律事務所の名称,氏名,登録番号,電話番号等が記載されていた(乙3の1,- 8 -弁論の全趣旨。 )(2)本件決定書には,前記第2の2で挙げた記載のほか,本件決定に基づき開示する公文書について,写しを交付する方法で開示する旨の記載があった(甲1。 ) 本件決定書の理由付記の程度について(1)原告は,本件決定書には,本件部分を開示することが当該弁護士の権利等を害すると判断した理由が示されていないため,本件決定は違法である旨主張する。 (2)実施機関が本件条例18条1項に基づく開示請求に対して一部非開示決定をする場合については,同27条1項,本件規則14条2項3号及び新宿区行政手続条例8条に基づき,同決定に係る通知書に非開示とした理由を付記することが求められている。そして,一般に,法令又は条例が行政処分に理由を付記すべきものとしている場合に,どの程度の記載をすべきかは,処分の性質と理由付記を命じた各法令等の規定の趣旨,目的に照らしてこれを決すべきものと解される(最高裁昭和38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁参照。 )本件条例は,実施機関における個人情報の取扱いに関する基本的事項を定めることにより,区政の適切かつ円滑な運営を図るとともに,保有個人情報の開示等を請求する権利を明らかにし,もって区民の基本的人権を擁護することを目的とし(1条,実施機関に 扱いに関する基本的事項を定めることにより,区政の適切かつ円滑な運営を図るとともに,保有個人情報の開示等を請求する権利を明らかにし,もって区民の基本的人権を擁護することを目的とし(1条,実施機関においては,当該目的を達成するため,)個人情報の保護に関し必要な措置を講ずるとともに,個人情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨を規定してい),る(3条1項。一方,新宿区行政手続条例は,処分等に関する手続に関し共通する事項を定めることによって,行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り,もって区民の権利利益の保護に資することを目的とするものである(1条1項。その上で,本件条例においては,実施機関は,自己を)- 9 -本人とする保有個人情報の開示請求があったときは,本件条例19条各号所定の非開示情報が含まれている場合を除き,開示請求に係る保有個人情報を開示しなければならないとされ(同条のいわゆる柱書き,また,開示請求)に係る決定について行政不服審査法による不服申立てがなされた場合には,原則として審査会に諮問しなければならないとされている(32条。上記)の各規定の趣旨,目的に照らせば,本件条例,本件規則及び新宿区行政手続条例において,開示請求に係る保有個人情報の全部又は一部を開示しない旨の決定をする場合に開示請求者にその旨等を通知する書面に理由を付記すべきこととされているのは,非開示とする理由の有無について,実施機関の判断の慎重と公正妥当を担保してそのし意を抑制するとともに,非開示の理由を開示請求者に知らせることによって,その不服申立てに便宜を与える趣旨であるものと解される。このような趣旨からすれば,上記の書面に付記すべき理由の程度は,開示請求者において,開示されない情報が本件条例19条各号所 らせることによって,その不服申立てに便宜を与える趣旨であるものと解される。このような趣旨からすれば,上記の書面に付記すべき理由の程度は,開示請求者において,開示されない情報が本件条例19条各号所定の非開示情報のいずれに該当するのかをその根拠とともに了知し得るものであることを要し,原則として単に非開示とする根拠規定を示すだけでは十分ではないものの,付記された理由と,当該個人情報が記録された公文書の種類,性質等や,開示請求書その他当該開示請求に関する文書に記載された事項等とが相まって,開示請求者がそれらを当然に知り得るような場合には,理由付記に欠けるところはないと解するのが相当である。 (3)前記第2の2のとおり,本件決定書には,本件部分を非開示とする理由として「当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益,)。 を害するおそれがあるため(本件条例19条3号該当」と付記されているしかしながら,前記第2の2及び前記1の認定事実のとおり,本件決定書には「開示しない部分」として「平成20年10月29日受付の職務上請,求書中,弁護士の印影」と記載され,また,開示の方法としては,原告の希望に添って,写しを交付する方法で開示する旨が記載されていたものである。 - 10 -そして,前記第2の2のとおり,開示に係る本件職務上請求書において,非開示とされたのはA弁護士の職印の印影に係る本件部分のみであったのである。 ,(4)そうすると,本件決定書に付記された理由と以上の諸事情とが相まって原告においては,本件決定において非開示とされた本件部分に係る情報は,本件職務上請求書上に顕出されているA弁護士の印影であって,これが本件条例19条3号にいう事業を営む個人の事業に関する情報に当たり,これを公にした場合,それが冒用されるなどして,当 分に係る情報は,本件職務上請求書上に顕出されているA弁護士の印影であって,これが本件条例19条3号にいう事業を営む個人の事業に関する情報に当たり,これを公にした場合,それが冒用されるなどして,当該事業を営む個人であるA弁護士の権利,競争上の地位及びその他正当な利益が害されるおそれがあると判断されたことを容易に認識し得たと認めることができ,実施機関において本件部分に係る情報が同号の非開示情報に該当するとして本件決定をしたことをその根拠とともに了知し得る程度のものであったといえるから,理由の付記の程度として欠けるところはないというべきである。 原告は,以上に述べたところを超えて,当該印影が公にされることによりA弁護士の権利ないし利益が害されるであろう事情を更に詳細に明らかにしなければ理由の付記の程度として不十分である旨を主張するものと解されるが,既に述べた本件条例の下における開示請求に係る手続の流れを前提とすると,実施機関においては,開示請求に係る保有個人情報に含まれる各種のものについて,その性質,事業を営む個人の事業に関するものに当たると見られる場合には当該事業の性格及び害されるおそれのある利益等の内容等に照らして,一般的又は類型的にそれが非開示情報に当たるか否かを判断するものとされていると解するのが相当であり,付記すべき理由の程度として,本件決定書に付記された理由以上に詳細な事情を明らかにしなければ本件決定が違法となるとまではいえないというべきである。原告の上記の主張は,採用することができない。 本件部分に係る情報の本件条例19条3号該当性について- 11 -(1)原告は,本件部分に係る情報を開示しても弁護士の正当な利益が害されることにはならない等として,同情報は本件条例19条3号所定の非開示情報に該当しない旨主張する。 当性について- 11 -(1)原告は,本件部分に係る情報を開示しても弁護士の正当な利益が害されることにはならない等として,同情報は本件条例19条3号所定の非開示情報に該当しない旨主張する。 (2)本件条例19条3号は,開示請求者以外の事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,開示することにより,当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものを非開示情報としている。 ところで,戸籍法10条の3及び同法施行規則11条の2第4号は,弁護士が同法10条の2第4項による請求をする場合には,弁護士の所属する会が発行した戸籍謄本等の交付を請求する書面に当該弁護士の職印が押されたものによって請求すべき旨を規定している。そして,前記1の認定事実のとおり,A弁護士は,同項に基づき上記の方法により原告の戸籍謄本の交付の請求をしたものであり,本件部分は,A弁護士が当該請求をする際に作成した本件職務上請求書に押なつされた職印の印影である。したがって,本件部分に係る情報が,本件条例19条3号所定の事業を営む個人の当該事業に関する情報に当たることは明らかである。 (3)次に,本件部分に係る情報が本件条例19条3号所定の「開示することにより(中略)当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害する,おそれがあるもの」に当たるか否かについて検討する。 同号は,事業を営む個人の当該事業に関する権利ないし利益を適切に保護する必要があることにかんがみ,開示された場合には事業を営むに当たっての正当な利益等を害することとなるような情報を開示しないこととしたものと解される。このような同号の趣旨に加え,本件条例は自己を本人とする個人情報の開示請求については原則として開示することとしていること(18条,19条)及び同19条3号ただし書が同号の非開 としたものと解される。このような同号の趣旨に加え,本件条例は自己を本人とする個人情報の開示請求については原則として開示することとしていること(18条,19条)及び同19条3号ただし書が同号の非開示情報のうち例外的に開示すべきものについて「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため開示することが必要であると認められる情報」と具体的に規定していることも- 12 -併せ考慮すれば,同号の非開示情報に該当するというためには,主観的に他人に知られたくない情報であるというのみでは足りず,情報を開示することにより,当該事業を営む個人の権利ないし正当な利益を害するおそれが客観的に認められることが必要であると解される。また,上記のおそれが客観的に認められるというためには,上記権利ないし正当な利益を害されることの単なる可能性があるというのみでは足りず,権利ないし正当な利益を害されることの相当のがい然性があることが求められるというべきである。 ⑷弁護士の職印は,訴訟の当事者からの依頼等により,弁護士としての資格に基づき,訴訟事件の手続についての代理業務のほか,一般の法律事務を行うに当たって作成する文書に押なつされるものであることは,広く知られたところであり,その印影は,当該文書が当該弁護士によりその職務上真正に作成されたことを認証する意義を有するものといえる。また,戸籍法施行規則11条の2第4号が個人のいわゆるプライバシーにかかわる戸籍謄本等の交付を請求する手続において弁護士にその職印の使用を要求していることは,既に述べたとおりである。さらに,破産規則23条4項は,裁判所書記官は,破産管財人があらかじめその職務のために使用する印鑑を裁判所に提出した場合において,当該破産管財人が破産財団に属する不動産についての権利に関する登記を申請するために登記所に 4項は,裁判所書記官は,破産管財人があらかじめその職務のために使用する印鑑を裁判所に提出した場合において,当該破産管財人が破産財団に属する不動産についての権利に関する登記を申請するために登記所に提出する印鑑の証明を請求したときには,当該破産管財人に係るその選任を証する書面に,当該請求に係る印鑑が裁判所に提出された印鑑と相違ないことを証明する旨をも記載してこれを交付するものとする旨を定めるところ,既に述べたところに照らし,破産管財人に選任された弁護士は,通常,同項に基づいて裁判所に提出する印鑑として職印を用いるものと推認される。 弁護士が職務上使用する職印及びこれにより顕出される印影につき以上に述べたところによれば,弁護士の職印により顕出された印影については,法人の事業の遂行に当たり契約書の作成等に用いられる印章によるそれに類す- 13 -る社会生活上の重要性を有するものといえ,これが広く開示されると,これを用いて文書の偽造がされることなどにより,当該弁護士の権利ないし正当な利益が害される相当のがい然性があるということができる。 (5)なお,原告は,別件訴訟において,A弁護士が原告の相手方の訴訟代理人を務めており,A弁護士が当該訴訟に関して作成し職印を押なつした書面が原告に送付されているところ,新宿区長にとっても,本件職務上請求書の記載内容からすれば,原告とA弁護士との間には損害賠償請求控訴事件に関連して何らかの関係があることは明らかであること及び弁護士が民事訴訟において相手方ないし裁判所に提出する多数の書類に職印を押なつすることからすれば,本件部分を非開示とする必要はないとも主張する。 しかしながら,本件条例中には,実施機関において特定の情報が本件条例19条3号の非開示情報に該当するか否かを判断するに当たり,開示請求者が当該情報 ば,本件部分を非開示とする必要はないとも主張する。 しかしながら,本件条例中には,実施機関において特定の情報が本件条例19条3号の非開示情報に該当するか否かを判断するに当たり,開示請求者が当該情報についてどの程度知識等を有しているかを考慮すべき旨を定める規定は存在せず,実施機関としては,当該情報の性質,当該個人の営む事業の性格及び害されるおそれのある利益等の内容等に照らしてこれを一般的又は類型的に判断すれば足りるものと解される。そして,弁護士が職務上作成する文書に職印をもって印影が顕出されることの意義は,既に述べたとおりであり,訴訟事件において訴訟代理人である弁護士が作成する訴状等の文書を受領するのは,受訴裁判所及び相手方当事者等の限られた範囲の者である。 これらのことに照らし,原告の上記主張を採用することはできない。 (6)以上のとおり,本件部分に係る情報については,開示することにより,開示請求者以外の事業を営む個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるといえ,本件条例19条3号の非開示情報に当たると認められるから,本件決定は適法である。 第4 結論 以上によれば,原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負- 14 -担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第3部裁判長裁判官八木一洋裁判官衣斐瑞穂裁判官吉田豊

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