昭和49(行ウ)3 史跡指定解除処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
昭和54年3月13日 静岡地方裁判所 公用負担・公用収用など
ファイル
hanrei-pdf-17590.txt
🤖 AI生成要約2026/3/13

【DRY-RUN】○ 主文 本件訴をいずれも却下する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 ○ 事実 第一 当事者の求めた裁判 一 原告ら 1 被告が昭和四八年一一月二七日別紙物件目録記載の静岡県指定史跡伊場遺跡の 指定解

タグ

キーワード(AI生成)

判決文本文7,662 文字)

○ 主文本件訴をいずれも却下する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 ○ 事実第一当事者の求めた裁判一原告ら 1 被告が昭和四八年一一月二七日別紙物件目録記載の静岡県指定史跡伊場遺跡の指定解除をした処分は、これを取消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 二被告 1 本案前の申立主文同旨 2 本案に対する申立(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。 (二) 訴訟費用は原告らの負担とする。 第二当事者の主張一原告らの請求原因 1 原告Aは、もと宮内庁書陵部第二図書調査室長、現在、横浜国立大学教育学部教授で、同時に、歴史学・考古学者で組織する「伊場遺跡を守る会」の事務局長の地位にあり、原告Bは、全国的な文化財保存団体である「文化財保存全国協議会」の代表で、かつ地元における考古学研究グループ「遠江考古学研光会」の代表、及び浜松ユネスコ協会理事の地位にあり、原告Cは、日本考古学協会埋蔵文化財対策委員、静岡県考古学会常任委員、同会伊場遺跡保存問題特別委員、文化財保存全国協議会常任委員、島田市文化財保護審議委員の地位にあり、原告Dは、もと磐田市教育委員会社会教育課主事(文化財担当)、現在、前記遠江考古学研究会の委員であり、原告Eは、静岡大学工学部助教授(環境分析学)で、同時に地元の市民団体「東海道線高架化と伊場遺跡を考える市民の集い」の代表者である。 原告らは、いずれも伊場遺跡に極めて高い関心と熱意を有し、その専門的学術研究並びに保存運動の中核的存在として尽力してきたものであつて、伊場遺跡の保存がなされなければ、致命的な打撃を受ける地位にある。 2 被告は、地方公共団体の文化財保護行政機関として、文化財を周到かつ適正に保存管理し、住民の社会教育に資すべき法律上の義務を有するものである。 3 被告は、昭和二九年三月二二日静岡県史跡に指定した別 2 被告は、地方公共団体の文化財保護行政機関として、文化財を周到かつ適正に保存管理し、住民の社会教育に資すべき法律上の義務を有するものである。 3 被告は、昭和二九年三月二二日静岡県史跡に指定した別紙物件目録記載の伊場遺跡について、昭和四八年一一月二七日、静岡県文化財保護条例(昭和三六年静岡県条例第二三号、以下「県条例」という。)三〇条三項に基づき指定解除処分(以下「本件処分」という。)をした(同年静岡県教育委員会告示第一六号)。 4 本件処分の違法性(一) 本件処分は県条例三〇条一項の要件をみたしていないから違法である。即ち、同条同項によれば、史跡の指定解除ができるのは、史跡が「その価値を失つた場合、その他特殊の理由があるとき」に限られており、ここに「価値を失つた場合」とは天災その他の不可抗力で史跡が消滅したような場合を指し、又、「その他特殊の理由があるとき」とは、遺跡の存続が住民の生命身体にさし追つた危険な生ぜしめるときなど前記価値喪失に比肩すべき明白な理由があるときを指すと解すべきである。 (二) しかるに、伊場遺跡の価値が失なわれたという事実は全くなく、むしろ逆に全域的にその価値が飛躍的に増大しているのが現状である。即ち、(1) 同遺跡の東部地区(県の史跡指定地を含む)においては、砂丘を中心として、縄文時代中期から晩期に至る土器片や石器等の遺物が発見された。更に、弥生時代後期の多数のピツト群と土壙群が砂丘上に検出され、それらをとりまく、三条の環濠が存在した。この濠内からは漆塗り短甲状木製品二点をはじめ、数百個に及ぶ土器群が発見され、特に環濠と短甲状木製品は、わが国初例であり、この遺跡のもつ弥生時代後期の性格づけに重要な手がかりを残した。又、砂丘項部には四世紀末から六世紀初頭に及ぶ十数戸分の堅六式住居跡と多数のピツト群(穀物貯蔵用 環濠と短甲状木製品は、わが国初例であり、この遺跡のもつ弥生時代後期の性格づけに重要な手がかりを残した。又、砂丘項部には四世紀末から六世紀初頭に及ぶ十数戸分の堅六式住居跡と多数のピツト群(穀物貯蔵用)が検出された。この時期には、集落は東部地区にとどまらず、西部地区へと拡大していくことが認められた。 (2) 更に、東部地区に隣接する西部地区からは、古墳時代中期から鎌倉時代に及ぶ貴重な遺構が多数発見されている。なかでも、西部地区を東西に分断する古墳時代後期の幅一三メートルに及ぶ大溝は他に全く類例がない遺構であり、古代国家成立前夜の社会情勢を考えさせる格好な資料となるものである。又、同大溝からは、現在まで七五点にのぼる多数の木簡が出土し、そのなかには、最近判明したところによると、辛巳年(六八一年)の木簡も含まれ、その記載内容から、従来、学者間で意見が分れていた「近江令」について、その存在を証明する有力な手がかりとなるものとして、学界に大きな波紋を投げかけた。このほかにも、従来、中世に始まると考えられていた数点の絵馬が出土したことは、専門研究者の常識をこえるものであり、また大溝西側の無数の柱穴、礎板もその建物遺構の性格については、複合的な地方官衙趾として、学界で活溌に意見がたたかわされている。 (3) 以上のように、伊場遺跡は、東部地区から西部地区にかけて縄文時代中期から鎌倉時代に及ぶ、一大複合遺跡であるという点、又、その出土品の重要性等からいつて、その学問的価値は、県指定史跡に指定された当時考えられていたよりも、はるかに高く、優に国指定史跡に値するものである。 (三) 又、本件処分の告示に付記された解除理由には、伊場遺跡の所在土地を「浜松市民の念願である国鉄高架化事業用地からどうしても除外できない事情にあるため」と示されているが、右理由が県条例 である。 (三) 又、本件処分の告示に付記された解除理由には、伊場遺跡の所在土地を「浜松市民の念願である国鉄高架化事業用地からどうしても除外できない事情にあるため」と示されているが、右理由が県条例三〇条一項にいう「その他特殊の理由があるとき」に該当しないことは明らかである。 5 よつて、原告らは被告に対し、本件処分の取消を求める。 二被告の本案前の申立の理由行政処分取消訴訟は、当該処分の取消を求めるにつき法律上の利益を有する者に限り提起できると解すべきところ原告らは右利益を有しないから、本件訴につき原告適格を有しないものであり、本件訴は不適法である。 三本案前の申立に対する反論 1 行政事件訴訟法九条は、行政処分取消訴訟の原告適格について「当該処分の取消を求めるにつき、法律上の利益を有する者」と定めるが、右規定は、当該処分によつて法的に保護に値する何らかの不利益を被つた者に、当該処分の取消訴訟について原告適格を肯認したものであり、いかなる場合に行政庁の行為による権利その他法的利益の侵害があつたと認むべきかその限界を画することは困難であるが、その判断は、現代国家における行政処分取消訴訟の有する機能、意義を踏まえ、当該行政処分の性質、それによつて被つたとされる不利益の内容の性質、その価値の程度等に即して弾力的になされなければならない。 2 本件処分によつて原告らは、学問の自由ないし学術研究上の利益、更には民族並びに郷土の共有する文化遺産を保有する国民、住民の権利、即ち、めぐまれた歴史的文化的環境のもとに生存し、正しい歴史を知る権利を侵害されたものであるが、右権利、利益は、以下述べるようなその意義、特質、法的価値等からすれば法的保護に価する利益であるから、本件処分の取消訴訟につき原告らは適格を有するものである。 (一) (1)文化財は、わが あるが、右権利、利益は、以下述べるようなその意義、特質、法的価値等からすれば法的保護に価する利益であるから、本件処分の取消訴訟につき原告らは適格を有するものである。 (一) (1)文化財は、わが国の歴史、文化等の正しい理解のため欠くことのできないものであり、かつ将来の文化の向上発展の基礎をなす貴重な国民的財産である。 (2) そして、このような文化財を享有する権利、利益は、(1)人間生活の文化的要素を構成するものであり、人間たるに値する生活を送るためには必須のものである、(ii)一旦侵害を受けると回復が不能となる不可逆的な利益である、(iii)その享有主体が一地域住民のみならず、国民という極めて空間的な拡がりを有するものである、(iv)本件のような史跡は、我々の遠い祖先の築いた遺産であり、それを保存することは彼等に対する責務であると同時に、これから未来の我々の子孫からも、その享有権を代行する責務を課せられているという意味において、はかり知れない深さと拡がりを有する利益である、という特質を有する。 (3) 右に述べた文化財享有の権利、利益は、文化的生存権、教育を受ける権利、幸福を追求する権利、学問の自由の一内容として憲法二五条、二六条、一三条、二一条により保障されており、又、文化財保護法(以下「文財法」という。)一条、三条、四条二項、六九条一項、県条例一条によつても保護されているものである。 (4) 文財法は、国民の共有財産である文化財保存の第一次的責務を国又は公共団体に課しているところ、これは文化財の実質的享有者である住民・国民の信託に基づくものであるが、文化財を保存し保護すべき責務を負う行政庁が、その責務に違背し文化財を破壊する挙に出た場合、地域住民等に何らの行政救済の道がないとするのは実質的に著しく不当な結論であり、特に本件処分が ものであるが、文化財を保存し保護すべき責務を負う行政庁が、その責務に違背し文化財を破壊する挙に出た場合、地域住民等に何らの行政救済の道がないとするのは実質的に著しく不当な結論であり、特に本件処分が強度の違法性を有することは一見して明らかであり、かかる行政庁の行政処分の強度の違法性は、ひいてかような違法な行政処分によつて奪われた文化、価値の共通的利益の享受者が被侵害利益の回復のために行政処分の違法を争う利益を増幅させるものである。又、本件処分は、指定処分の場合と異なり、当該土地の所有者占有者等は指定解除により何等の不利益を蒙ることがなく、文化財を享有すべき住民・国民こそがこれによる被害者になるのであり、従つて、住民等に原告適格が認められなければ、いかに明白に違法な指定解除に対してもその取消を訴求する主体がいないという極めて不当な結果を招くのである。 (5) 以上のように、地域住民・国民には、憲法上あるいは文財法上文化財を享有する権利・利益が法的に保障されているものと解される。しかし、そのこととその文化財享有の利益が行政処分によつて侵害された場合、当該行政処分の取消訴訟を提訴する資格、原告適格が誰に付与されるかは一応区別して考えることができる。それは単に濫訴の弊に対する懸念というのみならず、かかる訴訟は必然的に当該原告が他の住民・国民の利益を代表することにならざるを得ないからである。従つて、できるだけかかる共通的生活利益について然るべき基準で選ばれるもつとも適当な者を訴訟提起有資格者(代表的出訴資格)とすることが訴訟を充実させ、適正な解決が早期に得られる道であるし、行政事件訴訟法九条もその条理解釈として当然にこれを容認しているものと考えられる。そして、その基準としては、訴訟提起までに真摯な団体活動等によつて当該の共通的生活利益の主張・実現 得られる道であるし、行政事件訴訟法九条もその条理解釈として当然にこれを容認しているものと考えられる。そして、その基準としては、訴訟提起までに真摯な団体活動等によつて当該の共通的生活利益の主張・実現を目的とする相当規模の社会的活動を行つてきた者とするのが妥当である。これを本件に即していえば、伊場遺跡について発掘・研究をはじめ遺跡の価値を高め普及する活動、破壊の動きに反対する活動を真摯に相当期間にわたつて継続してきた団体やその代表的メンバーということになるが、原告らは右条件に該当する諸団体(請求原因一記載)の代表的メンバーであるから、いずれも代表的出訴資格を有するものである。 (二) 更に、原告Aは日本古代の法制史や宗教史、特に律令時代の土地制度の研究、原告Bは三遠式銅鐸の研究、原告Cは古墳時代より平安時代における須恵器・陶器・陶質土器を焼成した窯業生産構造の解明とそれに伴う需要供給に関わる研究、原告Dは伊場式土器の編年的研究、弥生時代墳墓の研究、古墳時代須恵器の編年的研究、原告Eは環境分析学の研究の各研究を進めるうえで本件遺跡はまたとない貴重な研究対象であるところ、本件処分により右研究対象を喪失することとなり、原告らはそれぞれ学術研究上等の個人的損害を受けるものである。 四請求原因に対する認否 1 請求原因1のうち前段は認め、後段は争う。 2 同2、3は認める。 3 同4は争う。 第三証拠(省略)○ 理由一被告が昭和四八年一一月二七日本件処分をしたことは当事者間に争いがない。 二そこで、原告らが本件処分の取消を求める適格を有するか否かにつき判断する。 行政処分の取消を求めることができる者は、当該行政処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に限られると解すべきであり、右にいう法律 判断する。 行政処分の取消を求めることができる者は、当該行政処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に限られると解すべきであり、右にいう法律上保護された利益とは、実体行政法規が私人等権利主体の個別的、具体的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であつて、行政法規が他の目的、特に公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果たまたま一定の者が受けることになる反射的利益ないし事実上の利益とは区別されるべきものである。 そして、いかなる利益を法律上保護するかは立法府に委ねられた立法政策の問題であり、裁判所は立法府の判断が示されている右実体行政法規に基づき当該利益が法律上保護されたものか否か判断することとなるのである(なお、原告らは、行政処分によつて法的保護に値する何らかの利益を侵害された者は右処分の取消を求めうる旨主張するが、右説によると、具体的事案において、法的保護に値する利益があるとみるべきか否かにつき法文上何ら判断の基準が示されでいないため、右判断が恣意的なものとなり、法的安定性が損われるおそれがあるから、原告らの右主張はにわかに採用できない。)。 そこで、原告らが主張する文化財を享有する権利、利益、学術研究上の利益が本件処分の根拠となつた行政法規によつて個別的、具体的利益として法律上保護されているものか否かについてみるに、なるほど史跡の指定があることにより、遺跡の保存、管理等が法的に確保され、地域住民や国民一般或いは学術研究者がこれを活用する利益を得ることは確かであるが、この指定はあくまで「文化財の保存及び活用のため必要な措置を講じ、もつて県民の文化的向上に資するとともに、わが国文化の進歩に貢献する」(県条例一条、同趣旨 れを活用する利益を得ることは確かであるが、この指定はあくまで「文化財の保存及び活用のため必要な措置を講じ、もつて県民の文化的向上に資するとともに、わが国文化の進歩に貢献する」(県条例一条、同趣旨文財法一条)という公共の利益のために行なわれるものであり、文財法及び県条例の諸規定をつぶさに検討しても、これらの諸規定が原告らの主張する諸利益を個別的、具体的利益として保護することを目的とするものとは解せられない。特に、文財法四条二項は、文化財の所有者その他の関係者はできるだけこれを公開する等その文化的活用に努めなければならない旨規定するが、これはこれらの者に公開その他文化的活用に努力すべき法律上の義務を負担させているものではなく、単にこれらの者に文化財の文化的活用に関する心構を要望しているに過ぎないと解するのが相当であり、右により明らかなように、地域住民や国民一般或いは学術研究者が文化財(史跡)を活用する利益は所有者等の公開等によつて与えられるという点においても事実上の利益に過ぎず、法律によつて保護された利益ではないのである。又、県条例三〇条三項(同五条二項、同四条三項)は、県指定史跡の指定解除処分をするについて、静岡県文化財保護審議会に諮問しなければならない旨規定するが、それ以上に地域住民や国民一般或いは指定文化財を研究対象とする学者らの同意を要することとする等(県条例四条二項比照)これらの者が手続に参加する機会を設けてはいないのであり、右諮問もみだりに指定解除をして前記公益を阻害してはならないとの見地から課せられたものに過ぎず、原告らにその主張する諸利益を法律上保護したものということはできない。 以上のように、原告らが本件処分によつて侵害されるとする地域住民や国民一般としての文化財享有の権利、利益或いは学術研究者としての利益は、いずれも法 する諸利益を法律上保護したものということはできない。 以上のように、原告らが本件処分によつて侵害されるとする地域住民や国民一般としての文化財享有の権利、利益或いは学術研究者としての利益は、いずれも法律上個別的、具体的利益として保護された利益ではないから、原告らは本件処分の取消を求める適格を有しないものである。 なお、付言するに、原告らは、原告らがそれぞれ代表的出訴資格を有する旨主張するところ、原告A、同B、同Cらがそれぞれその主張のとおり、伊場遺跡について発掘・研究をはじめ遺跡の価値を高め普及する活動等を真摯に相当期間にわたつて継続してきた団体の代表メンバーであることは、右各原告の本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によつてこれを認めることができる。そして、貴重な国民的財産である文化財の保護の見地からすれば、これらの真摯な活動に対しては相応の評価がなされてしかるべきものと考えられるが、現行法上、これらの者に文化財の指定解除処分の取消訴訟につきいわゆる代表的出訴資格を認めたものと解し得べき規定は存在しないから、原告らの右主張は立法論としてはともかく、解釈論としては採ることができない。 三よつて、本件各訴は、その余の点につき判断するまでもなく、不適法であるから、いずれもこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。 (裁判官松岡登紙浦健二松丸伸一郎)物件目録(省略)

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る