平成28(う)376 麻薬及び向精神薬取締法違反,関税法違反,薬事法(平成25年法律第84号による変更後の法律名 医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律)違反

裁判年月日・裁判所
平成29年4月18日 名古屋高等裁判所 棄却 名古屋地方裁判所 平成26(わ)1823
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判決文本文15,267 文字)

主文 本件各控訴をいずれも棄却する。 被告人Aに対し,当審における未決勾留日数中140日をその原判決の懲役刑に算入する。 理由 本件各控訴の趣意は,被告人Aの弁護人平野時規作成の控訴趣意書及び被告人Bの弁護人川口創作成の控訴趣意書にそれぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。 第1 原判決の概要と控訴の趣意 1 原判決の認定事実等(1) 原判決は,罪となるべき事実として,要旨,以下の各麻薬取締法違反,関税法違反,薬事法違反の犯罪事実を認定,摘示している。 すなわち,被告人両名は,① 共謀の上,医療等の用途以外の用途に供するため,業として,平成26年1月13日頃から同月24日頃までの間に,石川県七尾市内の旧銭湯C(以下「C」という。)建物内において,指定薬物である2-アミノ-1-フェニル-プロパン-1-オン(以下「基本骨格」という。)の2位にアミノ基の代わりにメチルアミノ基が1つ結合し,かつ3位に水素以外が結合しておらず,かつ,ベンゼン環の4位にフッ素原子が1つ結合している物であって,基本骨格の2位,3位及び当該ベンゼン環に更に置換基が結合していないもの(通称4-Fluoromethcathinone。以下「通称4-フルオロメトカチノン」という。)を含有する粉末に添加物を加えるなどして錠剤型に成型するなどし,前記指定薬物を含有する錠剤約160グラムを製造した(原判示第1)② 共謀の上,医療等の用途以外の用途に供するため,業として,同年3月下旬頃,C建物内において,前記指定薬物を含有する粉末に,添加物や植 物片等を混ぜ合わせるなど 謀の上,医療等の用途以外の用途に供するため,業として,同年3月下旬頃,C建物内において,前記指定薬物を含有する粉末に,添加物や植 物片等を混ぜ合わせるなどし,いずれも前記指定薬物を含有する㋐「リーガルインセンス」と称する固形物約197グラム(同第2の1),㋑「ハイパーミックス」と称する植物片約500グラム(同第2の2),㋒「カリプソ」と称する植物片約300グラム(同第2の3)を製造した③ 氏名不詳者と共謀の上,営利の目的で,みだりに,同年6月12日(現地時間),中華人民共和国所在の郵便局において,麻薬である[1-(5-フルオロペンチル)-1H-インドール-3-イル](2,2,3,3-テトラメチルシクロプロパン-1-イル)メタノン(通称XLR-11。以下「XLR-11」という。)を含有する粉末約496.81グラムを国際スピード郵便1個に隠し入れ,石川県七尾市内の事務所宛てに発送し,同郵便物を,同月13日,大阪府所在の関西国際空港に到着させ,航空機の外に搬出させて日本国内に持ち込んで,麻薬を本邦に輸入するとともに,同日,愛知県常滑市所在の日本郵便株式会社中部国際郵便局に搬入させ,同局国際郵便物検査場において,名古屋税関中部外郵出張所職員の検査を受けさせて関税法上の輸入してはならない貨物である麻薬を輸入しようとしたが,同職員に発見されたため,その目的を遂げなかった(同第3)④ 共謀の上,同月26日,石川県七尾市内の倉庫内において,㋐営利の目的で,みだりに,前記麻薬を含有する粉末約428.05グラムを所持し(同第4の1),㋑医療等の用途以外の用途に供するため,業として,前記指定薬物を含有する粉末約44.102グラム,錠剤約227.1グラム,植物片約849.59グラム及び固形物約197.353グ 持し(同第4の1),㋑医療等の用途以外の用途に供するため,業として,前記指定薬物を含有する粉末約44.102グラム,錠剤約227.1グラム,植物片約849.59グラム及び固形物約197.353グラムを販売の目的で貯蔵して所持した(同第4の2)というのである。 (2) そして,上記全部の事実を認定した証拠として,原審証拠等関係カード検察官請求証拠番号甲51D(以下「D」という。)の検察官調書(以下,原審甲51Dの検察官調書のようにいう。)を,上記③及び④の事実を認定した証 拠として,原審甲43「捜査依頼について(回答)」と題する書面を,それぞれ挙示している。 2 控訴の趣意について(1) 被告人Aについて論旨は,要するに,❶被告人Aが,被告人Bと共に営むいわゆる危険ドラッグの製造卸売業の一環として行った前記1(1)の外形的事実はいずれも争わないものの,被告人Aには,指定薬物の製造(前記1(1)①,②)・所持(同④㋑)につき,その対象が指定薬物であることの,麻薬の営利目的輸入(同③)・所持(同④㋐)につき,その対象が麻薬であることの未必的認識すらなかったのに,それらを認めた原判決の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があり,仮に,被告人Aが有罪だとしても,❷被告人Aを懲役6年6月及び罰金300万円に処した原判決は,明らかにその量刑が不当であって,被告人Aに対しては,懲役刑の刑期を減じた上,その執行を猶予するのが相当である,というのである。 (2) 被告人Bについて論旨は,要するに,❸法律的関連性を欠き,又は有効な証拠同意を欠くため,証拠能力がない原審甲43「捜査依頼について(回答)」と題する書面及び原審甲51Dの検察官調書を証拠排除しなかった点で, いて論旨は,要するに,❸法律的関連性を欠き,又は有効な証拠同意を欠くため,証拠能力がない原審甲43「捜査依頼について(回答)」と題する書面及び原審甲51Dの検察官調書を証拠排除しなかった点で,また,検察官が請求を撤回した原審甲146に関し,税関での差止め対象が規制薬物か否かの審理を行わなかった点で,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があり,❹同③及び④㋐の各事実について,被告人Bには,営利目的輸入・所持の対象が麻薬であるとの未必的認識はなかったのに,それらを認めた点で,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があり(なお,この認定に関連し,理由不備ないし理由齟齬があるとも主張するが,その実質は事実誤認の主張であると理解される。),❺被告人Bを懲役7年6月及び罰金500万円に処した原判決の量刑が重過ぎて不当である(なお,量刑に関 する事実の誤認をいうものは,量刑不当の一環をなすものと解される。),というものと理解される。 (3) 以下,訴訟手続の法令違反(❸),事実誤認(❶,❹),量刑不当(❷,❺)の順に,各論旨を検討する。 第2 控訴趣意中,訴訟手続の法令違反の主張(❸)について 1 原審甲43「捜査依頼について(回答)」と題する書面を証拠排除しなかったという点について関係記録によると,被告人Bについての,原審甲43「捜査依頼について(回答)」と題する書面に関する審理経過は,弁護人が,第3回公判期日で,(危険ドラッグ販売店)Eの商品からXLR-11が真実検出されたか否か疑問があると主張しつつも,「同意。信用性を争う。」との意見を述べ,その同意に基づいて同書面は採用され,第4回公判期日で取り調べられた,というのである。 ある書証について刑訴法326条の同 たか否か疑問があると主張しつつも,「同意。信用性を争う。」との意見を述べ,その同意に基づいて同書面は採用され,第4回公判期日で取り調べられた,というのである。 ある書証について刑訴法326条の同意の意見が述べられた場合,その同意が信用性につき意見を留保した上でなされたものであっても,それが適法なものである以上,同意の効力により,その書証に証拠能力が認められることは明らかである。本件において,上記同意の適法性について疑問を抱かせるような事情は認められない(所論もこの点を特段争うものではない。)。信用性についての検討が十分になされなければ,法律的関連性を欠き,証拠能力が認められないとの所論は独自の見解であって,採用できない。 なお,所論は,原判決が,原判示第3及び第4の事実を認定した証拠として,原審甲43「捜査依頼について(回答)」と題する書面を挙示し,「本件麻薬については専門的な鑑定技術を有する者によるガスクロマトグラフ質量分析等の科学的手法を用いて,適切に鑑定がなされた」(原判決22頁)としていることを捉えて,それに添付された鑑定結果から両事実の薬物が麻薬であるとの事実を認定したとの前提に立ち,クロマトグラフデータの公務所照会を却下した原審の訴訟手続も問題視する。しかし,原判決のこの説示は,原審甲5分析回答 書(原判示第3)及び原審甲62鑑定書謄本(原判示第4の1)の証拠価値に関するものであると解され,原審甲43「捜査依頼について(回答)」と題する書面について述べたものではない。このことは,原判決が,この原審甲43について,「鑑定結果が被告人Bに伝えられたという限度で同証拠を事実認定に供しているにすぎない。」(原判決15頁)として,その信用性を問題としているわけではないことをわざわざ 判決が,この原審甲43について,「鑑定結果が被告人Bに伝えられたという限度で同証拠を事実認定に供しているにすぎない。」(原判決15頁)として,その信用性を問題としているわけではないことをわざわざ指摘していることからも明らかである。所論は前提を欠くものであり,理由がない。 2 原審甲51Dの検察官調書を証拠排除しなかったという点について関係記録によると,被告人Bについての,原審甲51Dの検察官調書に関する審理経過は,次のようなものである。すなわち,第3回公判期日で弁護人から不同意の意見が述べられたものの,Dの証人尋問(第11回公判期日で実施)が実施された後の第12回公判期日において,不同意意見が撤回され,「同意。 ただし,信用性を争う。」との意見が述べられ,同期日において取り調べられた。 その後,弁護人が交代し,平成28年7月4日付け「証拠排除申立書(検甲51号証関係)」により,同証拠は刑訴法326条に基づく有効な同意を欠き,証拠能力がないとして,証拠排除決定の申立てがなされたが,第19回公判期日において,裁判所は証拠排除をしないこととした(なお,これに対する弁護人からの異議申立ては棄却された。),というのである。 この点,上記のような審理経過や,同意意見が述べられた後の被告人Bの応訴態度等に照らすと,被告人Bにおいて,意見が同意に変更されたことを弁護人が交代するまで知らなかった旨述べたことを踏まえても,交代前の弁護人による前記同意が被告人Bの意思に反するものであったとは認められず,その同意は有効になされたものとみるべきである。そうすると,有効な同意を受けて取り調べた原審甲51Dの検察官調書を証拠排除するか否かは,裁判所の裁量に委ねられるものと考えられ,排除決定をしなかった原判断に,裁量を逸脱するような違法があるとは認められ ると,有効な同意を受けて取り調べた原審甲51Dの検察官調書を証拠排除するか否かは,裁判所の裁量に委ねられるものと考えられ,排除決定をしなかった原判断に,裁量を逸脱するような違法があるとは認められない。 3 検察官が請求を撤回した原審甲146に関する,税関での差止め対象が規制薬物であるか否かの審理を行わなかったという点について原判決は,被告人Bが輸入する荷物の品名を偽ったこと(以下「本件偽装」という。)等を,被告人Bらにおいて,輸入品が薬事法等の規制に違反する物として税関で差止めを受けるリスクを避けようとするためであったとすれば,素直に理解できるとの判断を示している(18頁)。この点に関連して,所論は,原審甲146の立証趣旨(当時,未規制の薬物を注文したが,税関に止められ不着となっていたことから,業者が注文内容と異なる違法薬物を送っていたとしか考えられないこと等,というもの)に照らすと,未規制の薬物も税関に差し止められたという事実があったはずであり,この事実が認められれば,被告人Bによる本件偽装等は未規制の薬物の差止めを回避するための方策であったと合理的に考えられるから,税関での差止め対象が規制薬物であるか否かについて審理を尽くす必要があったのに,それをしなかった原審の訴訟手続には審理不尽の違法がある,というようである。 しかし,そもそも上記の立証趣旨を根拠として,未規制の薬物が税関に差し止められた事実があったはずであるという所論の前提は成り立つかどうかも疑問であるが,その点をひとまずおくとしても,原判決は,他の証拠関係から被告人Bの故意が推認され,被告人Bによる上記のような行為はこの推認と整合的に理解できる旨説示するにとどまるものと理解され,本件偽装等の事実が故意の認定 まずおくとしても,原判決は,他の証拠関係から被告人Bの故意が推認され,被告人Bによる上記のような行為はこの推認と整合的に理解できる旨説示するにとどまるものと理解され,本件偽装等の事実が故意の認定に当たって帰趨を決するような事情とまではみていないことは明らかである。所論は,原判決を正解したものとはいえず,原審にいわゆる審理不尽の違法があるとは認められない。 4 結論以上によれば,訴訟手続の法令違反の各論旨はいずれも理由がない。 第3 控訴趣意中,事実誤認の主張(❶,❹)について 1 論旨に鑑み,記録に照らして検討しても,被告人Aにつき前記第1の1(1)の 全犯罪事実を,被告人Bにつき同(1)③,④㋐の各犯罪事実を,それぞれ認めた原判決の判断には,論理則,経験則等に照らして不合理で是認し難い誤りがあるとは認められない。以下,所論に鑑み,その理由を補足して説明する。 2 関係証拠によれば,前記第1の1(1)記載の外形的事実が認められるほか,以下の事実を明らかに認めることができる。 (1) 被告人Bは,平成22年頃から,Fと共に,「G」と称して,危険ドラッグの製造卸売業を運営し,平成24年2月頃,被告人Aがこれに加わった。平成25年10月頃,Fが抜けて以降は,「H」と称して,被告人Bと被告人Aが運営していた(なお,G及びHは,危険ドラッグ販売店に対し,商品は麻薬取締法,薬事法等の法規制の対象になっていない旨説明するなどしていた。)。 被告人Bは,危険ドラッグのレシピの考案,原材料となる薬物の注文(仕入れ),卸売先の危険ドラッグ販売店との交渉などを担当し,被告人Aは,危険ドラッグの製品の製造及び出荷,原材料となる薬物の受領,薬物代金の送金その他金銭管理などを担当していた。 (2) の注文(仕入れ),卸売先の危険ドラッグ販売店との交渉などを担当し,被告人Aは,危険ドラッグの製品の製造及び出荷,原材料となる薬物の受領,薬物代金の送金その他金銭管理などを担当していた。 (2) 平成24年2月頃,被告人Bは,Gが危険ドラッグ販売店Iに卸していたJと称する商品から麻薬であるAMTが検出された旨を同店経営者のKから伝えられた(以下,原判決と同様,Jから麻薬が検出されたと関係者に伝えられた件を「J騒動」という。)。 その頃,被告人Bは,Jの別の卸売先である危険ドラッグ販売店Lを経営するDに対し,Jに違法成分が混入していた旨連絡をし,店頭にあるJをすぐに廃棄するよう要請した。また,被告人Bは,同月28日頃,Jの仕入先がGではないように装う注文フォームを急きょ作成し,F及び被告人Aにこれを添付したメールを送信した上,内容確認後,そのメールの消去も指示した。さらに,被告人Bは,Jの原材料である薬物の仕入先(輸入元)業者にその薬物の合法性に関する説明を求めたものの,業者からは,はっきりと合 法であるとは言えない旨回答があった。 被告人Aは,この件については,同年夏頃,Fから,Jの件でKが薬事法がどうのこうの言って騒いでいる旨聞いていた。 (3) 平成24年3月下旬頃,被告人Bは,被告人Aに対し,最新の指定薬物リストを送付するとともに,麻薬及び向精神薬のリストについてはもう少し時間を要すること,これらのリストを持っていることが製造責任などを問われた際に重要であることを伝えた(甲139,4436頁)。 (4) 平成25年5月から6月にかけて,被告人Aは,被告人Bに対し,原材料として注文した薬物が税関で止まっていることについて相談したところ,被告人Bは,被告人Aに対し,「ブドウ球菌 436頁)。 (4) 平成25年5月から6月にかけて,被告人Aは,被告人Bに対し,原材料として注文した薬物が税関で止まっていることについて相談したところ,被告人Bは,被告人Aに対し,「ブドウ球菌の培養基として,大学の化学サークルから輸入代行依頼をされた」旨回答するよう指示した。 (5) 平成25年7月頃から,被告人Bは,インターネット上の薬剤取引サイト「M」で知り合ったNなる中国の薬剤原料業者から輸入するようになった。 平成25年12月下旬頃,被告人BはNに「4F-PVP」(正式名1-(4-フルオロフェニル)-2-(ピロリジン-1-イル)ペンタン-1-オン)なる薬物を注文し,被告人Aが送られてきた薬物(実際は,通称4-フルオロメトカチノンであった。)を受け取った。 平成26年1月,被告人Bは,Nに対し,「日本の規制を確認したところ,4F-PVPは使えないかもしれない。規制内容を送るので見て下さい。」と規制内容を添付したメールを送信した。これに対し,Nからは,添付の資料に係る物質は,4F-PVPではないと思う旨,化学式も付記しての回答があった。被告人Bは,被告人Aに対し,メールで,Nからの回答を伝えるとともに,ちょっと不安な案件である旨をも伝えた。 (6) 平成26年4月,被告人Bは,Nに対し,4F-PVPを注文し,被告人A宛てに送付するよう依頼したところ,同年5月,税関から被告人Aに対し,郵便物(実際には,指定薬物である通称α-PVPを含有する薬物であった。) が薬事法に該当するおそれがある旨通知された。被告人Aは,被告人Bに対してこの件を報告したところ,被告人Bは,被告人Aに対し,架空の輸入代行業者(同輸入代行業者が実在するようホームページを立ち上げるなどもしている。)を れがある旨通知された。被告人Aは,被告人Bに対してこの件を報告したところ,被告人Bは,被告人Aに対し,架空の輸入代行業者(同輸入代行業者が実在するようホームページを立ち上げるなどもしている。)を名乗って受取を拒否するよう指示し,被告人Aは,これに従い,税関に対し,輸入代行業者を名乗って,顧客の責任で薬事法に違反する品物を輸入する手続を行ってしまったなどと虚偽の事実を申告し,受取を拒否した。 他方で,被告人Bは,Nに対し,荷物は,税関が調査したいと言っているため,受け取らずに送り返してもらう,返送されたら別の住所に再郵送してほしい旨連絡をした。しかし,Nからは,税関は荷物の返却を依頼しても送り返さないそうである,あの薬品は合法だけど微妙,といった回答があった。 (7) 平成26年5月頃,商品から違法な成分が検出されたとして,Lに捜索差押えが実施され,同店経営者のDは,被告人Bに対し,その事実を伝えた。 また,その頃,危険ドラッグ販売店Eへの立入検査の結果,Hから納入された危険ドラッグから麻薬であるXLR-11が検出された旨,同店店員のOが被告人Bに伝えた。 被告人Bは,XLR-11が検出されたのは,H-3と称する薬物が原因ではないかと考え,Mを通じて知り合った輸入元の中国の「P」なる業者に化学名を尋ねるなどし,Oにも,Dにも,行政の検査がH-3をXLR-11と誤認したものと思われる旨「Q」名義でメールを送信したほか,Dに対しては,危険ドラッグに規制薬物が混入していたとしてもそれは事故であり,違法物の混入の事実を知っていたと認めてはならない旨伝えるなどした。 (8) 平成26年6月,被告人Bは,Nに対し,「5F-AMB」1キログラムを2箇所に分けて送付するよう依頼して注文したところ,一つは,前記第1の1(1)③の国際スピ ならない旨伝えるなどした。 (8) 平成26年6月,被告人Bは,Nに対し,「5F-AMB」1キログラムを2箇所に分けて送付するよう依頼して注文したところ,一つは,前記第1の1(1)③の国際スピード郵便として送付され,中にはXLR-11入りの大袋及び5F-AMB入りの小袋が入っていた。もう一つは,兵庫県姫路市のR 宛てに送付され,その後,被告人Aが受領し,その一部を危険ドラッグ製造に使用した残量が,同④㋐の麻薬として発見押収された。 3 論旨に対する検討(1) 被告人B及び被告人Aが営んでいたのは,危険ドラッグの製造卸売業であり,規制の対象が広がりつつある中で,麻薬や指定薬物などの違法薬物(以下,これらを総称して「規制薬物」という。)に当たらないものを,いわば法の規制をかいくぐる形で製造・販売等をしていたとみられるものである。そして,被告人両名は,規制が厳しくなる中での危険ドラッグの製造卸売を行いつつも,自ら薬物の成分について正確な検査をして確かめる手段を持たず,また,そのような手続や検査を依頼するなどもしていなかったから,仕入先次第では,合法ではないものを原材料として仕入れてしまう(混在するなども含めて)おそれは,もともと内在していたといえる。そのような状況は,ある程度の期間,業務として相応の規模で危険ドラッグの製造卸売をしていた被告人両名は,製造等を指示していた被告人Bのみならず,指示を受けていた被告人Aも一般的,抽象的なおそれとしては理解していたものと考えられる。もっとも,このことから直ちに本件についての未必的な故意を推認できるわけではないが,そのような背景があることも踏まえて,被告人両名及び本件に関係する者の言動を検討する必要があるといえる。 (2) そのような中で,被告人B ちに本件についての未必的な故意を推認できるわけではないが,そのような背景があることも踏まえて,被告人両名及び本件に関係する者の言動を検討する必要があるといえる。 (2) そのような中で,被告人Bは,平成24年3月下旬頃(J騒動から間もなくの時期である。),製造責任などを問われた場合に備えて,指定薬物や麻薬等のリストの作成等をしていたのである。このことは,被告人Bらが商品として販売する危険ドラッグに規制薬物が混入することを想定し,そのような事態に至ったときに備えたものと考えざるを得ない。したがって,この事実は,被告人Bについてはもとより,上記リストの作成の件を伝え聞いていた被告人Aについても,自分たちが取り扱う(すなわち,輸入・製造・販売する)危険ドラッグの原材料である薬物や商品に規制薬物が含まれる可能性が あることを認識するに至ったことを相当程度推認させる事情と評価できる。 (3)ア被告人Bについては,それ以前から,J騒動等商品に規制薬物が混入したとされる事案を実際に経験し,リスト作成後は税関で荷物を差し止められて薬事法に抵触するおそれがあるとの指摘を受けるなどしたのであるから,上記推認は一層強まるといえる。本件で問題となっている5F-AMBとして注文した薬物の輸入元であるNは,上記リストの作成をするなどした時期以降に取引に入った業者ではあるが,インターネットを介して知り合った,その実態が必ずしも明らかとはいえない海外の業者である上,正にNから輸入した薬物について,税関から薬事法に抵触するおそれがあるとの指摘を受けており,Nからも「合法だけど微妙」といった曖昧な説明を受けるなどもしていたのであるから,これらの推認は何ら妨げられない。その都度,被告人Bらの関与がなかったかのように装うた れがあるとの指摘を受けており,Nからも「合法だけど微妙」といった曖昧な説明を受けるなどもしていたのであるから,これらの推認は何ら妨げられない。その都度,被告人Bらの関与がなかったかのように装うための指示を被告人Aらに出すなどしたことも,被告人Bらの行為が翻って規制に違反するものとして,責任を問われることを回避しようとする態度とみられ,上記推認を補強するものとみることができる。 以上によれば,被告人Bは,本件で麻薬の輸入や所持が問題となっている平成26年6月頃までには,海外から危険ドラッグの原材料として仕入れる薬物に規制薬物の成分が含まれ得る可能性を認識していたと推認することができる。そのような認識の下で,危険ドラッグの原材料となる薬物を輸入し,それを用いて製造・所持に至ったのであるから,それらに規制薬物が含まれることを認容していたと評価できることも明らかである。 したがって,被告人Bには,第1の1(1)③,④㋐の各犯行時に,危険ドラッグの原材料として輸入し,また,それをもとに製造,所持したものに規制薬物が含まれる可能性があるとの認識・認容があったことに帰することになるから,各犯罪の故意に欠けるところはない。 イ(ア) 所論は,原判決が,薬事法76条の4の故意犯が成立するためには, 犯罪の客体が麻薬であることの認識・認容が必要であるとしながら,専ら認識のみを問題にし,認容を認めるに足りる事実を認定も摘示もしていないのに,故意を認めた点を論難する(理由不備ないし理由齟齬ともいうが,事実誤認の主張と理解される。)。確かに,原判決の説示には若干不明確な点があることは否めない。しかし,故意の認定に上記のような認容を要求する考え方に立っても,認容には,結果が発生することもやむを得ないという消極的認 解される。)。確かに,原判決の説示には若干不明確な点があることは否めない。しかし,故意の認定に上記のような認容を要求する考え方に立っても,認容には,結果が発生することもやむを得ないという消極的認容も含まれると考えるのであるから,結果発生の可能性が高いことを認識しつつ,行為に出た場合には,この意味における消極的認容は当然に認められるというべきである。 そして,本件においては,2年に満たない間に,危険ドラッグの原材料として輸入した薬物に規制薬物が含まれ,あるいは含まれている可能性があるといった状況が,ある程度客観的に判明し,それを被告人Bが認識した分だけをとっても,複数回にわたって認められたのであるから,原材料として輸入する薬物に規制薬物が含まれる可能性は相当高いものであったと認められ,被告人Bにおいても,その認識があったと認めることができるのである。本件では,被告人Bに消極的認容があったと当然に認められることに帰するから,原判決は,この点を明示する必要を認めなかったものと解することができる上,結論において誤りがないことは明らかである。 (イ) 所論は,被告人Bが仕入先業者と知り合ったMというサイトでは利用業者に対し厳格な身元確認が行われていることや,被告人Bにおいて規制薬物に該当しないか否かを仕入先業者に事前に確認していることなどを指摘する。確かに,被告人Bは,積極的に規制薬物を輸入・所持・販売しようという姿勢であったとまでは認められない。このことは輸入元に合法性を再三確認したり,自ら規制薬物は取り扱っていない旨危険ドラッグ販売店に説明したりしていることからも明らかといえよう。しかし, 被告人Bが述べるところによっても,Mでいかなる身元確認が行われているのか,仕入先業者のNがいかなる者 したりしていることからも明らかといえよう。しかし, 被告人Bが述べるところによっても,Mでいかなる身元確認が行われているのか,仕入先業者のNがいかなる者か,また,Nがどのようにして輸入する原材料を仕入れているかなどは,結局のところ不明なのであるから,Nを信用することができるとする根拠は極めて薄弱である。しかも,前述したとおり,被告人Bらは,自ら薬物の成分を検査する技術や能力を備えておらず,また,そのような手続や依頼をしないまま,営業を続けていたのである。規制薬物が混入したとされる事案を経験してもなお,この点を改めることがなかったのは,規制薬物が混入することを消極的にしても認容していた一つの証左ともいえる。さらに,税関で差し止められた薬物(薬事法抵触のおそれを指摘されていたもの)を更に輸入しようとしてもいるのである。このような諸点に照らすと,所論が指摘する被告人Bの姿勢は,被告人Bに,積極的に規制薬物を輸入,製造しようという意図や意欲を否定する根拠とはなり得ても,規制薬物が含まれる可能性についての認識があったことに合理的な疑いを抱かせるものとはいえない。 (ウ) 以上によれば,原判決の判断に所論の誤りはない。 (4)ア被告人Aについても,前記のリストの点からの相当程度の推認に加え,Gから卸していたJを巡って薬事法に関する問題が生じており,Fが対応を求められたり,Gから卸したものではないことを装おうとしていたことを認識していたと考えられる(所論は,J騒動は被告人Aが加入した直後の出来事であるとか,被告人Aはそれらに関するメールの内容を理解していなかったなどと主張するが,Gが卸した危険ドラッグが規制薬物である可能性の認識をも否定する趣旨であれば,およそ採用できない。)から,遅くとも前記第 ,被告人Aはそれらに関するメールの内容を理解していなかったなどと主張するが,Gが卸した危険ドラッグが規制薬物である可能性の認識をも否定する趣旨であれば,およそ採用できない。)から,遅くとも前記第1の1(1)①の製造行為の時点までには,海外から危険ドラッグの原材料として仕入れる薬物に規制薬物の成分が含まれ得る可能性を十分に認識していたと推認することができる。そして,被告人Aは,その後,輸入しようとした原材料が薬事法に抵触するおそれがある旨税関から通知 され,虚偽の事実を申告して受取を拒否したり,Nから輸入した4F-PVPについて,被告人Bから不安が残る旨告げられたりしてもいるから,前記第1の1(1)③の輸入の時点までには,その認識の程度は一層高まっていたといえる。 以上によれば,被告人Aが,前記第1の1(1)の各犯罪行為の故意を有していたものと認めることができる。 イ所論は,被告人Aは,被告人BやFの説明を信じたものであり,これを信じたことにつき十分合理性がある旨主張する。確かに,その説明の中には,所論が指摘するように,4F-PVPについては,指定の化学名には該当しないから問題ないとの回答が仕入先業者からあったなど相応の根拠が示されたこともあったようである。しかし,被告人Bからそれでもなお不安が残るとも告げられていたことなども考慮すると,輸入する原材料に規制薬物が含まれることがないと確実に考えられる程度の根拠を有していたとは認められない。そうすると,結局は,被告人Aが認識していた前記事情に照らし,規制薬物が混入している可能性を払拭できるほどの事情はないといわざるを得ず,被告人Bらからの説明を信じたとする点は,一応の説明として受け止めた可能性はあるが,それによって,上記推認は妨げられる し,規制薬物が混入している可能性を払拭できるほどの事情はないといわざるを得ず,被告人Bらからの説明を信じたとする点は,一応の説明として受け止めた可能性はあるが,それによって,上記推認は妨げられるというものではない。 その他所論が指摘する点を検討しても,上記推認を左右しない。 (5) したがって,各論旨はいずれも理由がない。 第4 控訴趣意中,量刑不当の主張(❷,❺)について 1 本件は,前記第1の1(1)のとおりの危険ドラッグの製造卸売業の一環として職業的に行われた指定薬物の製造・所持(原判示第1,第2,第4の2)と,危険ドラッグの原材料の輸入・所持に係る麻薬の営利目的輸入・所持(同第3,第4の1)の事案である。 被告人両名が,製造卸売業を営む中で,営利目的で輸入した麻薬の量は多く, 製造・所持にかかる規制薬物も多量であるから,それら薬物の害悪が社会に拡散される危険性は相当高いものであった。営業的に麻薬を含む規制薬物を多量に取り扱い,その害悪を社会に拡散する側の犯罪であるから,それらを使用する側に比して格段に責任は重いといわなければならない。被告人らが麻薬を輸入したのは,危険ドラッグの原材料を入手しようとしたもので,麻薬を意図して輸入したものではなく,故意も未必的なものにとどまる上,指定薬物の製造・所持は,その薬物の性質からして,行為の違法性を過度に評価することはできないことを考慮しても,犯情はやはり悪質であり,非難の程度も相当強い。 2 被告人Bについては,以上に加え,危険ドラッグのレシピの作成や,小売店との交渉,原材料の仕入れを担当するなど本件各犯行において主導的な役割を果たしたものというべきである。所論は,原判決の規制薬物の量が多量であるとの認定,評価は,添加され ッグのレシピの作成や,小売店との交渉,原材料の仕入れを担当するなど本件各犯行において主導的な役割を果たしたものというべきである。所論は,原判決の規制薬物の量が多量であるとの認定,評価は,添加された無害なものを含む量をいうものであり,量刑は,規制薬物そのものの量を基準に定めるべきである旨改めて主張する。しかし,原判決が指摘するとおり,規制薬物が,その作用を生じさせるに足りる程度の量含まれたものが多量にあれば,その害悪が拡散される危険性は高まるのであるから,そのような添加がなされた後の量を前提に評価を加えることが不当とはいえない。また,所論は,被告人Bが規制薬物の取扱いに警戒,慎重な態度であった点を強調するが,原判決も未必的な故意にとどまることは明らかであるとして,相応に考慮している。所論は,指定薬物に係る犯行についても,被告人Bが慎重な態度で臨んでおり,違法性の認識可能性が乏しかった点を原判決が十分考慮していないなどというようであるが,原判決が,麻薬の場合と異なる前提に立っているとは考え難く,原判決の量刑を左右する事情とはいえない。 3 被告人Aについても,危険ドラッグの製造を一手に任されて,実行をしたもので,その役割は重要である。他方で,危険ドラッグの原材料の仕入れには主体的に関わっておらず,麻薬の輸入・所持の犯行においてはやや従属的な立場 にあったといえる。所論は,被告人Aは被告人Bに従わざるを得ず,従属的な立場にあったことは明らかであるのに,原判決はこの点を十分考慮していない旨主張する。しかし,原判決は,被告人Bが本件各犯行において主導的な役割を果たしたと指摘しているのであるから,所論指摘の事情は被告人Aとの関係においても相応に考慮されていることは明らかである。被告人Aの刑責を所論 し,原判決は,被告人Bが本件各犯行において主導的な役割を果たしたと指摘しているのであるから,所論指摘の事情は被告人Aとの関係においても相応に考慮されていることは明らかである。被告人Aの刑責を所論がいうほど軽くみることはできない。 4 原判決は,被告人両名が,各事実のうち客観的な部分についてはおおむね認め,二度と危険ドラッグに関する業務には携わらないと約束し,反省の態度を示していること,被告人Bには前科がなく,被告人Aにも10年以上前の異種罰金前科があるにとどまること,社会復帰後の監督・支援を申し出る親族等があること等を考慮し,被告人Aに対して懲役6年6月及び罰金300万円(求刑は,懲役10年及び罰金300万円),被告人Bに対して懲役7年6月及び罰金500万円(求刑は,懲役12年及び罰金500万円)に処するのが相当であると判断している。原判決のこれらの量刑が重過ぎて不当であるとは認められない。 被告人Bについて,所論は,同被告人が多種多様な周辺関係者から支持される有意な人材であることを強調するところ,当審での事実取調べの結果により首肯できる部分を踏まえても,被告人Bの量刑を左右するには至らない。 被告人Aについて,所論は,弟による監督等に対する原判決の考慮が不十分である旨主張するが,原判決がその点を相応に考慮していることはその説示からも認められ,それがいわゆる一般情状に属する事情であることも考慮すれば,その考慮の仕方にも不当な点があるとはいえない。その余の所論を検討しても,被告人Aの量刑を左右するほどのものはない。 5 したがって,この論旨もいずれも理由がない。 第5 結論よって,刑訴法396条により本件各控訴をいずれも棄却し,被告人Aにつ いては,刑法21条を適用して当審にお この論旨もいずれも理由がない。 第5 結論よって,刑訴法396条により本件各控訴をいずれも棄却し,被告人Aにつ いては,刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中140日をその原判決の懲役刑に算入し,当審における訴訟費用は刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人Aに負担させないこととして,主文のとおり判決する。 平成29年4月20日名古屋高等裁判所刑事第2部 裁判長裁判官村山浩昭 裁判官大村泰平 裁判官赤松亨太

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