主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求被告は,原告に対し,4000万円及びこれに対する平成27年6月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,破産者丸京株式会社(以下「破産会社」という。)の破産管財人である原告が,破産会社の取引銀行である被告に対し,破産法162条1項1号に基づく否認権行使により,被告が破産会社から平成26年5月19日に受領した4000万円の返還及びこれに対する平成27年6月19日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者等ア破産会社は,繊維製品,毛皮製品,宝石及び貴金属の卸小売業等を目的とする株式会社である(甲1)。 破産会社は,平成26年6月25日,札幌地方裁判所岩見沢支部より破産手続開始決定を受け(平成26年(フ)第40号),原告が破産管財人に選任された(甲2)。 イ被告は,銀行業等を目的とする会社であり,破産会社の主要な取引銀行の1つである。 ⑵ 破産会社と被告との間の銀行取引契約の内容等ア破産会社は,平成12年10月,被告との間で,銀行取引約定書を 取り交わし,被告は,破産会社に対して,与信枠(破産会社に対する手形貸付の方法による与信につき,被告が,その与信判断に基づいて設定した上限。)を5000万円として,手形貸付を行っていた。 イ破産会社は,被告との間で,以下の約定を含む,平成17年8月23日付け「銀行取 よる与信につき,被告が,その与信判断に基づいて設定した上限。)を5000万円として,手形貸付を行っていた。 イ破産会社は,被告との間で,以下の約定を含む,平成17年8月23日付け「銀行取引約定書」(甲7の1)を取り交わした。 適用範囲(第1条)本約定書の各条項は,破産会社と被告間の手形貸付,手形割引,証書貸付,当座貸越,支払承諾(保証委託取引等),外国為替,デリバティブ取引,その他破産会社が被告に対して債務を負担することとなる一切の取引に関して共通に適用されるものとする。 期限の利益喪失(第5条)a 破産会社について次の事由が生じた場合には,被告からの通知催告等がなくても,破産会社は被告に対する一切の債務について当然期限の利益を失い,直ちに債務を弁済するものとする。 破産会社が債務整理に関して裁判所の関与する手続を申し立てたとき,もしくは弁護士等へ債務整理を委任したとき,又は自ら営業の廃止を表明したとき等,支払を停止したと認められる事実が発生したとき。 b 破産会社について次の事由が生じた場合には,被告からの請求によって,破産会社は被告に対する一切の債務について期限の利益を失い,直ちに債務を弁済するものとする。 債権保全を必要とする相当の事由が生じたと客観的に認められるとき。 ウ破産会社は,従前より,株式会社札幌銀行との間でも与信取引を行っていたところ,平成20年に同行と被告が合併したことから,被告における破産会社の与信枠は,従前の両行の与信枠を併せた1億40 00万円となり,平成22年ころから,破産会社は,複数の手形貸付けについて,利息のみを支払って手形の書替えを継続し,被告に対し,常時,総額1億3000万円の 前の両行の与信枠を併せた1億40 00万円となり,平成22年ころから,破産会社は,複数の手形貸付けについて,利息のみを支払って手形の書替えを継続し,被告に対し,常時,総額1億3000万円の債務を負担している状態であった。 エ破産会社の代表取締役社長であったA(以下「A社長」という。)は,平成21年6月25日,被告に対し,上記イの銀行取引約定書による取引に基づく破産会社の債務を保証する旨の「限定保証約定書」を差し入れ,同書において,極度額を1億6800万円とすることを約した(乙1)。 ⑶ 破産会社の破産手続開始の申立てに至る経緯等(甲9,乙15,16)ア破産会社と被告との与信取引は,被告の岩見沢中央支店(以下「被告支店」という。)が担当していたところ,被告支店は,破産会社の各決算期の貸借対照表や破産会社の倉庫に保管の在庫状況に係る実地調査の結果等から,遅くとも平成24年2月ころには,破産会社において,不良在庫又は不良債権化している資産が多額に及んでいることを懸念するようになり,破産会社に対して,在庫及び売掛金の内訳ないし明細を提出するよう求めるなど,その資産状況の正確な把握に努めていた。 イ平成26年5月9日,破産会社の経理責任者であったB(以下「B主任」という。)は,同月19日が支払期日である手形2通(額面合計4000万円。以下この手形貸付債務を「本件債務」という。)について,手形の書替えを受けるため,新たな約束手形2通及び借入申込書を持参して,被告支店を訪れた。その際,被告支店の副支店長であったC(以下「C副支店長」という。)及び被告支店の融資課課長であったD(以下「D課長」という。)は,B主任に対し,被告の破産会社に対する手形貸付金1億3000万円のうち,8000万円を返済してもらい C(以下「C副支店長」という。)及び被告支店の融資課課長であったD(以下「D課長」という。)は,B主任に対し,被告の破産会社に対する手形貸付金1億3000万円のうち,8000万円を返済してもらい,残りの5000万円は長期貸付け(証書貸付け)にする旨の 減債案(以下「本件減債案」という。)を提示した。 ウ B主任が,同日,破産会社に戻り,A社長及び破産会社の共同代表者であったE(以下「E専務」という。)に対し,被告支店から本件減債案の提示があった旨を報告したところ,A社長は,その報告を受けた後,翌10日未明までの間に,破産会社の本社建物の屋上から飛び降り,同日朝,死亡が確認された。 エ E専務,B主任及び破産会社の取締役であったF(以下「F常務」という。)は,同月12日,破産会社の負債整理等の相談をするため,G法律事務所を訪れ,同事務所の弁護士(以下「本件破産申立弁護士」という。)に対し,破産手続開始の申立てを委任した。 ⑷ 破産会社による本件弁済等(甲8の8,9,乙5ないし7,16)ア B主任は,同月14日,D課長からの電話に対し,同月10日にA社長が死亡したことを告げ,D課長は,B主任に対し,同月19日が支払期日である本件債務については,破産会社内で新しい代表者が決定され,同人との間で限定保証契約を締結するまでは,手形の書替えを行うことはできない旨を述べた。 イ B主任は,同月19日午前10時ころ,D課長に電話し,本件債務の弁済をする旨を告げ,破産会社の秋田銀行札幌支店の口座から,被告支店の当座預金に1800万円を振り込み,同日午後2時ころ,被告支店を訪れて,被告における破産会社の定期預金の解約手続をするなどして4000万円を支払い,本件債務の弁済をした(以下「本件弁済」という。)。 金に1800万円を振り込み,同日午後2時ころ,被告支店を訪れて,被告における破産会社の定期預金の解約手続をするなどして4000万円を支払い,本件債務の弁済をした(以下「本件弁済」という。)。 ⑸ 破産会社の破産手続開始決定等ア本件破産申立弁護士は,同月27日付けで,破産会社の債権者らに対し,破産会社について自己破産申立ての手続をとる方針である旨を記載した「受任通知書」を送付した(甲10の2,乙9)。 イ破産会社は,同年6月20日,札幌地方裁判所岩見沢支部に対して,破産手続開始の申立てをし,同月25日,前記⑴アのとおり,破産手続開始決定がされ,原告が破産管財人に選任された。 2 争点⑴ 破産会社が本件弁済当時支払不能の状態にあったか(争点1)。 ⑵ 被告は破産会社の支払不能について悪意であったか(争点2)。 3 争点に対する当事者の主張⑴ 争点1(破産会社が本件弁済当時支払不能の状態にあったか)について(原告の主張)ア支払不能の意義について破産債権者間の公平性を考慮すれば,支払不能は,①弁済期の到来している債務の支払ができない場合のみならず,②弁済期未到来の債務について将来支払えないことが確実である場合,③債務者が弁済期の到来している債務を支払ってはいるが,債務者が無理算段をしているような場合,及び,④上記③の場合と同様の例外的事情がある場合においても,認められるべきであると解する。 本件では,破産会社が本件弁済をしたのは,平成26年5月19日であるところ,以下のイないしエで述べるとおり,本件弁済当時,破産会社は,少なくとも,①弁済期の到来している債務の支払ができないか,②弁済期未到来の債務を将来支払えないことが確実であるか,③無 日であるところ,以下のイないしエで述べるとおり,本件弁済当時,破産会社は,少なくとも,①弁済期の到来している債務の支払ができないか,②弁済期未到来の債務を将来支払えないことが確実であるか,③無理算段をしている,あるいは,④無理算段をしている場合と同様の例外的事情があることのいずれかに該当していたことは明らかであるから,支払不能の状態にあったものと認められる。 イ本件取引銀行に対する借入金債務の期限の利益喪失について(前記ア①の関係) 本件弁済当時,破産会社は,被告のほか,空知信用金庫及び株式会社北海道銀行(以下「北海道銀行」といい,被告,空知信用金庫及び北海道銀行を併せて,「本件取引銀行」という。)との間でも,「当座貸越契約書」(甲7の2)ないし「銀行取引約定書」(甲7の3)を取り交わして,与信取引を行っていたところ,本件弁済当時における本件取引銀行からの借入金総額(短期借入金及び長期借入金)は,約5億8311万8848円(被告に対する本件債務に係る4000万円を含む。)であったものと推測され,破産会社の流動負債の大部分は,この本件取引銀行からの借入金であった。 本件で,破産会社は,本件弁済をする7日前である平成26年5月12日に,弁護士に破産手続開始の申立てを委任したものであるが,このことは,被告との間の銀行取引約定書における期限の利益喪失事由である「弁護士等へ債務整理を委任したとき」や,空知信用金庫との間の当座貸越契約書における期限の利益喪失事由である「債務整理を弁護士に委任したとき」に該当するものといえるから,破産会社が,同日の時点で,被告及び空知信用金庫に対する一切の借入金債務について期限の利益を喪失していたことは,明らかであるといえる。 また,破産会社と本件取引銀行 ものといえるから,破産会社が,同日の時点で,被告及び空知信用金庫に対する一切の借入金債務について期限の利益を喪失していたことは,明らかであるといえる。 また,破産会社と本件取引銀行との間の各契約書には,いずれも客観的に債権保全の必要性があることを内容とする期限の利益喪失の一般条項が含まれているところ,同日の時点で,破産会社が,この一般条項に該当するような状況にあったのは明らかといえることからすれば,破産会社は,本件取引銀行である3行に対する一切の借入金債務について期限の利益を喪失していたものともいえる。 他方で,本件弁済当時の破産会社の預金残高は9262万5782円であり,現金はほとんど所持していなかったものと推測される から,本件弁済当時の破産会社の預金等は,本件取引銀行からの借入金の総額を約5億円も下回るものであったといえる。 そうすると,本件弁済当時,破産会社は,前記ア①の「弁済期の到来している債務の支払ができない」状態にあったものと認められる。 被告は,破産会社と,被告又は空知信用金庫との間の各契約書にある「弁護士等へ債務整理を委任したとき」等の事由は,「支払を停止したと認められる事実が発生したとき」の例示として挙げられたものにすぎず,本件弁済当時,破産会社につき,破産法における「支払の停止」に当たる事実があったものとは認められないから,被告及び空知信用金庫に対する借入金債務について期限の利益の喪失はしていなかった旨を主張するが,各契約書の文言上,「弁護士等へ債務整理を委任した」等の客観的な事実が生じた時点を期限の利益喪失の基準としていることは明らかである。 被告は,単に債務が弁済期にあるだけでは足りず,債権者の請求がなければ,支払不能の要件として 委任した」等の客観的な事実が生じた時点を期限の利益喪失の基準としていることは明らかである。 被告は,単に債務が弁済期にあるだけでは足りず,債権者の請求がなければ,支払不能の要件としての「弁済期にあるもの」にはあたらない旨を主張するが,独自の見解であり失当である。また,債権保全の必要がある場合に,取引銀行の請求により期限の利益を喪失される一般条項については,この一般条項に該当する状況があれば,弁済能力に欠けるものとして支払不能を認めるべきであるというのが原告の主張であり,被告が期限の利益喪失の請求をしていないことは,前記の結論を左右しない。 ウ破産会社の経営状況及び財務状況について(前記ア②の関係) 破産会社の近年の損益計算書によれば,第56期(平成20年9月1日から平成21年8月31日まで)の営業利益は-507万0272円であり,第57期(平成21年9月1日から平成22年8 月31日まで)の営業利益は956万6081円で黒字となるも,同期から第60期(平成24年9月1日から平成25年8月31日まで)は,毎年,営業利益が減少しており,第59期(平成23年9月1日から平成24年8月31日まで)には,営業利益のみでは経費をまかなうことができないような状況となっていた。 平成20年度から平成25年度までの各年度における支払利息額は,1300万円ないし1400万円であったところ,各年度の営業利益に減価償却費を加算しても,単年度の収支では,利息の支払すら難しく,元金を返済することは全くできないような状況であった。 第60期(平成24年9月1日から平成25年8月31日までの間)の決算報告書における貸借対照表によれば,破産会社の流動資産は8億5899万1434円であり,流動負 うな状況であった。 第60期(平成24年9月1日から平成25年8月31日までの間)の決算報告書における貸借対照表によれば,破産会社の流動資産は8億5899万1434円であり,流動負債は6億3370万1912円であったところ,その流動資産の大部分は,売掛金(2億5446万7328円)及び棚卸資産(4億3640万9342円)であり,それらの回転期間が異常に長期であったことや実際の回収状況を考慮すれば,それらの実質的な価値は,多く見積もっても,上記各金額の5割程度(売掛金約1億2700万円,棚卸資産約2億1800万円)であったとみるのが相当である。 そうすると,破産会社は,本件弁済当時,多数の不良債権及び不良在庫を抱えており,その流動資産は,最大でも約5億円にすぎず,流動負債を大幅に下回っている状況にあったものといえる。 なお,破産会社は,平成26年6月20日,札幌地方裁判所岩見沢支部に対し,破産手続開始の申立てをしているところ,同裁判所は,同月25日,破産会社の支払不能を認定して,破産手続開始の決定をしている。 上記の破産会社の経営状況及び財務状況からすれば,仮に,平成26年5月12日時点で破産会社の本件取引銀行に対する借入金債務についての期限の利益喪失が認められないとしても,本件弁済当時,破産会社は,前記ア②の「弁済期未到来の債務を将来支払えないことが確実」な状態にあったものと認められる。 エ被告からの本件減債案の提示及び本件弁済について(前記ア③及び④の関係) 被告は,従前より破産会社の信用に大きな懸念を抱いていたところ,平成26年5月9日,C副支店長は,B主任に対し,本件減債案を提示する際,不良債権及び不良在庫が多数存在するため新たな融資はし 被告は,従前より破産会社の信用に大きな懸念を抱いていたところ,平成26年5月9日,C副支店長は,B主任に対し,本件減債案を提示する際,不良債権及び不良在庫が多数存在するため新たな融資はしないこと,及び破産会社に対する手形貸付金1億3000万円のうち8000万円を早急に返済してほしいことを一方的に告げ,さらに,これは本部の指示であって,同月14日ころから準備に取り掛かるのでA社長に伝えるようにと述べた。 そこで,B主任が,同月9日,A社長に対し,被告から本件減債案の提示があった旨を報告したところ,その翌日の同月10日ころ,A社長は,破産会社の本社建物の屋上から飛び降り自殺をした。A社長は,長年の間,いわゆるワンマン経営で破産会社を支えてきた者であるところ,上記ウで述べたような破産会社の経営悪化に加えて,被告から厳しい減債要求があったという状況を悲観し,もはや破産会社の経営を続けることは不可能であると判断し,自殺するに至ったものと考えられる。 そして,破産会社の経営に係る権限を主として有していたA社長の死亡後,破産会社の役員らは,共同代表者であるE専務による経営の引継ぎや,今後の経営の立て直しは困難であるとの見通しから,事業の閉鎖を決意し,同月12日には,破産会社の破産手続開始の 申立てを弁護士に委任しており,同日以降,破産会社は,弁護士の指示の下,実質的に支払を停止している状況にあったのである。 そうであるにもかかわらず,B主任が,同月19日に本件弁済をしたのは,A社長の死亡の事実を知ったD課長が,B主任に対し,A社長に代わる新たな保証人が決まらなければ,本件債務に係る手形の書替はできない旨を述べたことから,B主任は,支払期日までに4000万円を支払わなければ手形が不渡りにな ったD課長が,B主任に対し,A社長に代わる新たな保証人が決まらなければ,本件債務に係る手形の書替はできない旨を述べたことから,B主任は,支払期日までに4000万円を支払わなければ手形が不渡りになるとの認識の下,弁護士において破産手続開始の申立てに係る受任通知の送付等をする前に,手形の不渡りで事態が混乱することは避けたいなどと考えたことによるものである。 また,本件弁済の原資は,被告における定期預金1700万円,同当座預金500万円,及び秋田銀行における普通預金1800万円であったところ,被告における定期預金や秋田銀行における普通預金については,通常の営業資金としての使用が予定されていたものではないし,被告の当座預金については,毎月1回,北海道銀行の手形決済のために使用していたものであった。 以上によれば,破産会社は,被告から,本件減債案の提示や新たな保証人の要請があった中で,通常の営業資金としての使用を予定していない預金や特定の目的で使用していた預金を切り崩して本件弁済をしたのであるから,本件弁済は,客観的にみて,前記ア③の破産会社の「無理算段」によるものと認められる。 仮に,無理算段とはいえないとしても,本件弁済当時,破産会社は,破産手続開始の申立てを弁護士に委任し,実質的に支払を停止しており,もはや,会社としては危機状態で,単に破産手続の準備のためだけに延命されているような状況にあったところ,そのような状況下で,弁済をしなければ手形が不渡りになるとの誤解によっ て本件弁済は行われたことからすれば,被告において本件弁済を受ける実質的根拠はなく,また,本件弁済を容認することが債権者間の公平を大きく害することになるのは明らかであるから,本件弁済については,前記ア④の,「無理算段をし からすれば,被告において本件弁済を受ける実質的根拠はなく,また,本件弁済を容認することが債権者間の公平を大きく害することになるのは明らかであるから,本件弁済については,前記ア④の,「無理算段をしているのと同様の例外的事情」を認めるべき場合に当たるものといえる。 (被告の主張)ア支払不能の意義について破産法2条11項が,「支払不能」の定義として,「債務者が,支払能力を欠くために,その債務のうち弁済期にあるものにつき,一般的かつ継続的に弁済することができない状態」をいうものであると規定していることからすれば,支払不能とは,弁済期の到来した債務の支払可能性を問題とする概念であり,支払不能であるか否かは,弁済期の到来した債務について判断すべきものと解するのが相当である。 この点について,原告は,弁済期の到来している債務の支払ができない場合のみならず,弁済期未到来の債務について将来支払えないことが確実である場合も,支払不能と認められるべきである旨を主張するが,原告の主張する解釈は,破産法2条11項の文言からかけ離れたものであるし,支払不能の概念を不明確にするものであるから,採用し得ない。 イ本件取引銀行に対する借入金債務の期限の利益喪失について 本件弁済当時,破産会社は,空知信用金庫に対して2億6671万7058円,北海道銀行に対して合計1億2000万円,被告に対して合計1億3000万円の借入金債務(短期借入金)を負っていたものであるところ,これらの借入金債務の中で,弁済期が到来していたのは,本件弁済に係る本件債務のみであり,その余の4億7671万7058円については,弁済期未到来であった。 原告は,破産会社が,平成26年5月12日に,弁護士に破産手続 いたのは,本件弁済に係る本件債務のみであり,その余の4億7671万7058円については,弁済期未到来であった。 原告は,破産会社が,平成26年5月12日に,弁護士に破産手続開始の申立てを委任したことから,同日の時点で,「弁護士等へ債務整理を委任したとき」や「債務整理を弁護士に委任したとき」との事由に該当し,被告及び空知信用金庫に対する借入金債務について期限の利益を喪失した旨を主張する。 しかしながら,破産会社と被告の間で取り交わされた「銀行取引約定書」,及び,破産会社と空知信用金庫との間で取り交わされた「当座貸越契約書」における期限の利益喪失条項の文言からすれば,原告の指摘する上記の事由は,「支払を停止したと認められる事実が発生したとき」の例示として列挙されたものであると解するのが相当であるところ,「支払の停止」とは,債務者が資力欠乏のため債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいうものであるから,上記の事由に該当し,被告又は空知信用金庫に対する債務について期限の利益を喪失することになるのは,債務者が債務整理を弁護士に委任した時点ではなく,その事実を外部に表示し,債務の支払をすることができない旨を外部に表示した時点であると解するべきである。 本件では,破産会社が弁護士に破産手続開始の申立てを委任したとの事実は,平成26年5月27日に,同弁護士が破産会社の債権者宛てに受任通知書(乙9)を送付するまで,外部に表示されることは一切なかったのであるから,同月19日の本件弁済の時点で,破産会社が,被告及び空知信用金庫に対する借入金債務の全てにつき期限の利益を喪失していたものとは認められない。 また,支払不能の定義における「債務の弁済期 同月19日の本件弁済の時点で,破産会社が,被告及び空知信用金庫に対する借入金債務の全てにつき期限の利益を喪失していたものとは認められない。 また,支払不能の定義における「債務の弁済期にあるもの」の意味については,単に債務が弁済期にあるだけでは足りず,債権者の請求が必要と解されるところ,本件弁済以前に,被告を含む本件取 引銀行が,破産会社の期限の利益喪失を理由に,債務の履行を請求した事実はなく,支払不能は認められない。 したがって,期限の利益喪失,支払不能についての原告の主張は,理由がない。 原告は,破産会社と本件取引銀行との間の各契約書における期限の利益喪失に係る一般条項に該当する状況があれば,支払不能を認めるべきであると主張する。 しかしながら,上記一般条項は,債権者による請求を効力発生の要件とするものであるところ,本件取引銀行である3行とも,破産会社に対し,同条項の要件となる請求はしていないから,本件で,同条項を理由とする期限の利益の喪失が認められないことは明らかである。 ウ被告からの本件減債案の提示及び本件弁済について 被告支店は,平成26年5月当時,破産会社が不良在庫又は不良債権化している資産を多数抱えているのではないかとの問題意識を持ち,破産会社に資料の開示を繰り返し求めてきたが,破産会社が十分な資料を開示しなかったこと,破産会社の営業利益が年々減少していたこと,他方で,空知信用金庫及び北海道銀行における破産会社の与信枠には空きがあったことなどから,破産会社に対し,空知信用金庫ないし北海道銀行から新たに融資を受け,被告からの手形貸付金の一部を返済する旨の減債案を提示することとし,同月9日,C副支店長が,B主任に対して,本件減債案を提示し ら,破産会社に対し,空知信用金庫ないし北海道銀行から新たに融資を受け,被告からの手形貸付金の一部を返済する旨の減債案を提示することとし,同月9日,C副支店長が,B主任に対して,本件減債案を提示したのである。 原告は,本件減債案を提示する際,C副支店長は,B主任に対して,1億3000万円のうち8000万円を早急に返済してほしいと一方的に告げ,さらに,これは本部の指示であるなどと述べた旨 を主張するが,C副支店長がB主任に述べたのは,現時点では本部の承認は得ておらず,破産会社が本件減債案を受けるのであれば本部の承認を得る予定である旨や,1週間以内を目途に,中間報告程度のもので構わないので社内での検討の状況について連絡して欲しい旨であるし,被告支店としては,破産会社が本件減債案を受けないということであれば,本件減債案は撤回しようと考えていたのであるから,原告の主張するような上記事実はない。 また,本件弁済については,D課長は,同月14日,B主任からA社長の死亡を報告された際,同月19日が支払期日である本件債務につき,新しい代表者との間で限定保証約定書を締結しなければ手形の書替をすることはできない旨と併せて,同日までに新しい代表者が決まらないようであれば,返済まで利息を支払ってもらうことにはなるが,一旦,期流れ延滞にしておくこともできる旨の説明もしており,D課長としては,破産会社は,本件債務を期流れ延滞とするものと予想していたが,この予想に反して,同月19日,B主任は,D課長に対し,本件債務の弁済をする旨の連絡をした上で,被告支店において,本件弁済をしたのである。 なお,C副支店長及びD課長は,本件弁済の際,B主任に,本件債務については期流れ延滞とすることもできる旨を再度確認したが,こ 絡をした上で,被告支店において,本件弁済をしたのである。 なお,C副支店長及びD課長は,本件弁済の際,B主任に,本件債務については期流れ延滞とすることもできる旨を再度確認したが,これに対し,B主任は,延滞にはしたくない,あるいはE専務とも相談したなどと述べ,本件弁済をするとの考えを変えることはなかった。 原告は,本件弁済については,客観的にみて,破産会社の無理算段によるものと認められる旨を主張するが,破産会社は,被告における預金や秋田銀行における預金等の自己資金を原資として本件弁済をしたのであり,全く返済の見込みの立たない借入れや商品の投 げ売り等によって外部から資金調達をして弁済をしたのではないから,原告の主張を前提としても,本件弁済が破産会社の無理算段によるものとはいえない。 原告は,本件弁済が無理算段によるものであることを示す事実として,被告における定期預金等は,通常の営業資金としての使用を予定していないものであった旨を主張するが,資金繰りに逼迫し,支払能力の乏しい会社には,営業に使用しない預金を温存する余裕はないのが一般的であるから,比較的多額の預金を通常の営業に使用しないものとして保有していたとする事実は,破産会社の資金繰りに余裕があり,支払能力を有することを示すものであるといえる。 また,原告は,被告における当座預金は,北海道銀行の手形決済のために使用していたものである旨を主張し,そのために500万円程度の残高が確保されていたなどと説明するが,同預金に関する当座勘定元帳をみても,毎月1回,北海道銀行に500万円の支払が行われていた事実はうかがわれない。 エ以上によれば,本件弁済当時,破産会社の本件取引銀行に対する借入金債務のうち,弁済期が到来して 定元帳をみても,毎月1回,北海道銀行に500万円の支払が行われていた事実はうかがわれない。 エ以上によれば,本件弁済当時,破産会社の本件取引銀行に対する借入金債務のうち,弁済期が到来していたのは本件債務のみであったところ,破産会社は,同債務につき,期流れ延滞の選択はせずに,自己資金を用いて任意に支払いをしたものと認められる。 そうすると,破産会社は,本件弁済当時,弁済期の到来している債務の支払ができない状態にあったとは認められないし,また,本件弁済について,破産会社が無理算段をしたとか,無理算段をした場合と同様の例外的事情があるなどとは認められないから,破産会社が支払不能の状態にあったとはいえない。 ⑵ 争点2(被告は破産会社の支払不能について悪意であったか)について (原告の主張)ア以下で述べるところによれば,被告は,本件弁済当時,破産会社が,本件取引銀行に対する一切の借入金債務について期限の利益を喪失しており,支払不能の状態にあったことを認識していたものといえる。 本件弁済当時,破産会社の本件取引銀行からの借入金総額が,前記⑴の原告の主張イで述べたような額であることは,破産会社が開示した決算報告書によって,被告も認識していた。 そして,前記⑴の原告の主張エで述べたように,被告支店のC副支店長は,平成26年5月9日,B主任に対し,被告の破産会社に対する手形貸付金1億3000万円のうち8000万円の返済を求める本件減債案を提示したが,このように,被告が破産会社との取引を縮小させる方向に動けば,破産会社は,空知信用金庫や北海道銀行からの信用も直ちに失うこととなり,結果として,本件取引銀行である3行全てから新規の融資が否定され,その一切の借入金債務につき の取引を縮小させる方向に動けば,破産会社は,空知信用金庫や北海道銀行からの信用も直ちに失うこととなり,結果として,本件取引銀行である3行全てから新規の融資が否定され,その一切の借入金債務につき期限の利益を喪失して,返済を迫られる事態になることが予想されるところ,被告においても,そのような事態になることは十分に認識していた。 また,C副支店長による本件減債案の提示があった直後に,A社長が死亡し,その報告を受けたD課長が,同月14日,B主任に対し,A社長に代わる新たな保証人が決まらなければ手形の書替はできない旨を述べたにもかかわらず,B主任からは,E専務が後任者となるか,仕入れ先等から適任者を招くか検討中との回答があるのみで,破産会社において具体的な後任者が決まらない状態が続いていた上,E専務は,D課長からの面談の求めに応じていない。 本件における上記経過や被告に対する破産会社の対応からすれば,被告としては,破産会社は,その経営状況が悪化し,A社長に代わ る新たな代表者を決めて事業を継続することは困難であって,既に事業の閉鎖に向けて準備を進めているであろうことや,本件取引銀行にとって,破産会社に対する債権保全の必要性が格段に高まり,破産会社の本件取引銀行に対する一切の借入金債務の期限の利益が喪失されているであろうことなどを容易に推認できたものといえる。 以上によれば,被告は,本件弁済当時,破産会社の支払不能を認識していたというべきである。 イそして,前記アで述べたところに加え,前記⑴の原告の主張ウで述べたように,営業利益が年々減少するなど,破産会社の経営状況及び財務状況は悪化しており,被告としても破産会社の信用に大きな懸念を抱くようになっていたとの事情があることを踏まえれば, 原告の主張ウで述べたように,営業利益が年々減少するなど,破産会社の経営状況及び財務状況は悪化しており,被告としても破産会社の信用に大きな懸念を抱くようになっていたとの事情があることを踏まえれば,被告としては,本件弁済当時,破産会社が弁済期未到来の債務を将来支払えないことは確実であることを認識していたものと認められる。 さらに,前記⑴の原告の主張エで述べたように,破産会社が通常の営業資金としての使用を予定していない預金等を原資として本件弁済をしているとの事情があることも考慮すれば,被告としては,本件弁済当時,本件弁済が破産会社の無理算段によるものであることを認識していたものと認められる。 また,前記アで述べたところによれば,被告としては,少なくとも,本件弁済当時,破産会社は破産準備中であることを認識していたものといえるから,無理算段をしている場合と同様の例外的事情があり,支払不能の状態にあったことを認識していたものといえる。 (被告の主張)ア原告は,破産会社が支払不能であったことを主張する中で,本件取引銀行との間の各契約書における期限の利益喪失事由に該当する事実が認められることなどから,本件弁済当時,破産会社は,本件取引銀 行に対する一切の借入金債務について期限の利益を喪失していた旨を主張するところ,これを理由とする支払不能につき悪意であったというためには,被告において,①破産会社が弁護士に破産申立てを委任したこと,及び②そのことが,破産会社と本件取引銀行との間の各契約書における条項に照らせば,期限の利益喪失の当然喪失事由あるいは請求喪失事由に該当することになることを認識していたことが認められる必要があるものと解される。 しかしながら,原告から,本件において,被告が上記① ば,期限の利益喪失の当然喪失事由あるいは請求喪失事由に該当することになることを認識していたことが認められる必要があるものと解される。 しかしながら,原告から,本件において,被告が上記①及び②の事実を認識していたことに関する明確な主張はないところ,本件では,被告は,上記①の事実について全く知らなかったし,また,破産会社では,平成26年5月27日付けの受任通知書の送付まで,破産手続開始の申立てを予定していることを外部には一切漏らさず,通常どおり営業をしていたのであるから,被告が上記①の事実を認識し得る余地すらなかった。 そのため,被告が,本件弁済当時,破産会社の本件取引銀行に対する一切の借入金債務の期限の利益喪失による支払不能について,悪意でなかったことは明らかである。 イまた,原告は,被告が破産会社との取引を縮小させる方向に動くことで,破産会社は,空知信用金庫や北海道銀行からの信用も失うこととなり,結果として,本件取引銀行である3行に対する一切の借入金債務について期限の利益を喪失し,返済を迫られる事態になることが予想される旨や,被告もそのことは認識できていた旨を主張するが,そもそも,原告の主張するような事態が生じること自体,考え難いものである上,被告が,他の取引銀行における破産会社に係る判断や行動を認識ないし推測することはおよそ不可能であるから,原告の上記主張は不合理であるといわざるを得ない。 さらに,原告は,本件における事実経過や被告に対する破産会社の対応から,被告は,破産会社の事業閉鎖等を推認できたなどと主張するが,原告の指摘する点から破産会社の事業閉鎖等を推認できたなどとは到底いえないし,実際,被告としては,B主任から報告があったとおり,E専務か,破産会社の仕入れ先等から 鎖等を推認できたなどと主張するが,原告の指摘する点から破産会社の事業閉鎖等を推認できたなどとは到底いえないし,実際,被告としては,B主任から報告があったとおり,E専務か,破産会社の仕入れ先等から選ばれた者が新しい代表者となって事業が継続されるものと考えており,また,新しい代表者が決まれば,メインバンクである空知信用金庫は,引き続き破産会社の支援をするものと考えていたのであるから,原告の上記主張は失当である。 ウなお,原告は,支払不能の意義について,前記⑴の原告の主張アのとおり主張するが,いずれの見解に立っても,本件で,被告が破産会社の支払不能につき悪意であったといえるためには,被告において,破産会社が弁護士に破産申立てを委任した事実を認識していたことが認められる必要があると解されるところ,本件弁済当時,被告に同事実の認識がなかったことは,既に述べたとおりである。 エ以上によれば,本件弁済当時,仮に,破産会社が支払不能であったとしても,被告は,そのことにつき悪意ではなかったといえる。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実,掲記の各証拠(ただし,甲9,12,乙15,16,証人B,証人C,証人Dのうち,後記排斥する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ⑴ 破産会社の経営状況及び財務状況等(甲1,4,5,9,12,24,証人B)ア破産会社は,昭和28年10月に設立された,繊維製品,宝石や貴金属等の服飾用装飾品及びバック等の卸小売業等を目的とする株式会 社であり,本店所在地である北海道岩見沢市では有名な老舗であった。 平成26年5月当時,破産会社の代表取締役は,A社長とE専務の2名であり,破産会社の発行済み株式1万2742株のうち,A社 社であり,本店所在地である北海道岩見沢市では有名な老舗であった。 平成26年5月当時,破産会社の代表取締役は,A社長とE専務の2名であり,破産会社の発行済み株式1万2742株のうち,A社長が3914株,E専務が3913株をそれぞれ保有していたが,実際には,A社長が1人で破産会社の経営を行っており,E専務はほとんど破産会社の経営には関与していなかった。 イ破産会社は,設立直後は年々,売上げが上昇し,年間の売上高が14億円になった年もあったが,平成元年以降は徐々に売上げが減少し,平成26年ころには,長引く不景気や消費者の高級品離れの傾向に加えて消費税増税の影響もあり,厳しい経営を強いられる状況にあった。 近年の破産会社における損益計算書(甲3,甲20の1ないし甲23の2)によれば,第56期(平成20年9月1日から平成21年8月31日まで)における営業利益(損失)は-507万0272円となっており,その次の第57期(平成21年9月1日から平成22年8月31日まで)における営業利益は956万6081円となったものの,その後は,第60期(平成24年9月1日から平成25年8月31日まで)まで,破産会社の営業利益は減少し続け,第60期における営業利益は356万0610円であった。 ウそして,破産会社における第60期の貸借対照表(甲3)によれば,同期における流動資産は8億5899万1434円,流動負債は6億3370万1912円であったところ,流動資産のうち,売掛金は2億5446万7328円(構成比21.3パーセント)で,棚卸資産は4億3640万9342円(構成比36.5パーセント)であり,また,同期における売掛金の回転期間は7.41か月で,在庫の回転期間は11.87か月であった。 なお,上記の売 で,棚卸資産は4億3640万9342円(構成比36.5パーセント)であり,また,同期における売掛金の回転期間は7.41か月で,在庫の回転期間は11.87か月であった。 なお,上記の売掛金の回転期間は,破産会社の同業他社における回 転期間の約3.5倍ないし約7倍の長さであり,上記の棚卸資産の回転期間は,破産会社の同業他社における回転期間の約16.9倍の長さであった(甲26の1ないし26の7)ところ,このように,破産会社における売掛金及び在庫の回転期間が長期化した原因としては,A社長の方針として,破産会社の営業担当者の全員が,それぞれ営業車両に同じ商品を積んで道内各地の取引先に販売して回るという販売方法を採っていたため,常に相当量の在庫を保有している必要があったことや,平成20年ころから,A社長の指示を受けて営業成績を伸ばそうとした営業担当者が,新規の顧客の情報や取引形態につき虚偽の申告をして社内の内部審査を通過させるようになり,結果として,そのような新規の顧客から売掛金の回収が困難となったことなどが挙げられる。 ⑵ 破産会社の本件取引銀行に対する借入金債務等(甲3,4,11の3)ア破産会社は,平成26年5月当時,被告との間で,平成17年8月23日付け「銀行取引約定書」(甲7の1)を取り交わして与信取引を行っていたほか,空知信用金庫及び北海道銀行との間で,平成17年11月30日付け「当座貸越契約書」(甲7の2)ないし平成21年2月26日付け「銀行取引約定書」(甲7の3)をそれぞれ取り交わして与信取引を行っていた。 イ破産会社と被告との間で取り交わされた上記約定書には,前記前提事実⑵イ記載の,期限の利益喪失に係る条項が設けられていた。 ウ破産会社と空知信用金庫との間で取り交わされ ていた。 イ破産会社と被告との間で取り交わされた上記約定書には,前記前提事実⑵イ記載の,期限の利益喪失に係る条項が設けられていた。 ウ破産会社と空知信用金庫との間で取り交わされた上記契約書には,以下のような約定が含まれていた。 破産会社について次の事由が生じた場合には,空知信用金庫から通知催告等がなくても直ちに貸越元利金を支払う。 債務整理を弁護士に委任したとき,自ら営業の廃止を表明したと き,支払を停止したと認められる事実が発生したとき又は破産手続開始,民事再生手続開始,会社更生手続開始,会社整理開始もしくは特別清算開始の申立てがあったとき。 破産会社について次の事由が生じた場合には,空知信用金庫から請求があり次第直ちに貸越元利金を支払う。 空知信用金庫の債権保全を必要とする相当の事由が生じたとき。 エ破産会社と北海道銀行との間で取り交わされた上記約定書には,以下のような約定が含まれていた。 破産会社について次の事由が生じた場合には,北海道銀行からの通知催告等がなくても,破産会社は北海道銀行に対する一切の債務について当然期限の利益を失い,直ちに債務を弁済する。 破産会社が債務整理に関して裁判所の関与する手続を申し立てたとき,あるいは自ら営業の廃止を表明したときなど支払を停止したと認められる事実が発生したとき。 破産会社について次の事由が生じた場合には,北海道銀行からの請求によって,破産会社は,北海道銀行に対する一切の債務について期限の利益を失い,直ちに債務を弁済する。 破産会社の債権保全を必要とする相当の事由が生じたと認められるとき。 オ破産会社は,平成26年5月18日当時,本件取引 の債務について期限の利益を失い,直ちに債務を弁済する。 破産会社の債権保全を必要とする相当の事由が生じたと認められるとき。 オ破産会社は,平成26年5月18日当時,本件取引銀行である上記3行に対し,合計5億1671万7058円の借入金債務(短期借入金)を負っていたところ,その内訳と各弁済期は,以下のとおりである。 被告合計1億3000万円(内本件債務である4000万円の弁済期は平成26年5月19日,内7000万円の弁済期は同年6月4日, 内2000万円の弁済期は同年7月17日) 空知信用金庫2億6671万7058円(同年12月1日) 北海道銀行合計1億2000万円(内1000万円の弁済期は同年8月28日,内9000万円の弁済期は同年10月1日,内2000万円の弁済期は同年12月31日)カ破産会社の北海道銀行からの長期借入金は,平成25年8月31日時点では5310万5000円であり,平成26年6月25日時点では5622万8000円であった。 キ A社長は,被告に対し,上記銀行取引約定書による取引に基づく破産会社の債務につき,平成21年6月25日付け「限定保証約定書」(乙1)を差し入れ,次のような内容で同債務を保証する旨を約した。 種類手形貸付 保証極度額 1億6800万円 元本確定期日平成26年6月25日⑶ 破産会社の預金等(甲3,4,8の1ないし8の10)ア破産会社の平成26年5月18日当時の預金の額は,合計1億0992万5782円であり,その内訳は,以下のとおりである。 被告支店a 当座預金 489万8670円 ア破産会社の平成26年5月18日当時の預金の額は,合計1億0992万5782円であり,その内訳は,以下のとおりである。 被告支店a 当座預金 489万8670円b 定期預金 1730万円 空知信用金庫本店a 当座預金 1087万2114円b 普通預金 217万2153円c 納税預金 5242円 d 定期預金 2600万円 北海道銀行岩見沢支店a 当座預金 790万4551円b 普通預金 697万784円c 定期預金 1600万円 秋田銀行札幌支店普通預金 2402万5268円 北門信用金庫岩見沢支店普通預金 5万円イ破産会社は,平成25年8月31日時点で,1524万6772円を現金で所持していたものの,平成26年6月25日時点では,所持する現金はなかった。 ⑷ 被告による本件減債案の提示等(甲9,12,乙15,16,証人B,証人C,証人D)ア破産会社は,平成12年10月,被告との間で銀行取引約定書を取り交わし,それ以降,被告の設定した与信枠の範囲で,被告から手形貸付を受けていた。 平成20年に株式会社札幌銀行と被告が合併した後,破産会社の被告における与信枠は1億4000万円と設定されていたところ,平成22年ころから,破産会社は,被告から,常時,合計1億3000万円の手形貸付けを受けている状況にあり,被告は,破産会社に対する手形貸付けの支払期日が到来した際には,既発行の手形を回収し,後日を満期とする新手形を発行する手形の書替えによって,その支払期日を延期してきた。 受けている状況にあり,被告は,破産会社に対する手形貸付けの支払期日が到来した際には,既発行の手形を回収し,後日を満期とする新手形を発行する手形の書替えによって,その支払期日を延期してきた。 イ破産会社との与信取引を担当していた被告支店は,破産会社の営業利益が年々減少していることや,各決算期の貸借対照表上,破産会社 の売掛金と棚卸資産の額が過大であり,在庫の回転期間が相当長期であったことなどから,破産会社の保有する在庫や売掛金の中に,不良在庫又は不良債権化しているものが相当程度含まれているのではないかと懸念するようになり,機会がある度に,破産会社に対して,在庫及び売掛金の内訳ないし明細を提出するよう求めていた。 ウ上記イのような状況の中で,被告支店は,平成24年2月,破産会社の了承を得て,B主任の立会の下,破産会社の倉庫に保管されている在庫の状況について実地調査を行った。 上記調査の結果,被告支店において,破産会社の倉庫は日光の当たらない冷暗所であり,在庫の保存状態は比較的良好であることの確認はできたものの,破産会社に対する今後の与信判断においては,その資産状況をより正確に把握する必要があるとの認識を深めることとなった。 エ上記ウの実地調査後も,破産会社の在庫や売掛金が過大であることが指摘され,それらの回転期間が相当長期である状況が続いたため,被告支店の融資課課長であるH(以下「H課長」という。)は,平成26年1月15日,破産会社に対し,第60期の決算報告書の補足資料として,長期化ないし不良化している在庫や売掛金が判別できるような内訳ないし明細を提出するよう求めた。 これに対し,B主任は,破産会社において不良化している在庫や売掛金を管理するための一覧性のある資料は作成してお している在庫や売掛金が判別できるような内訳ないし明細を提出するよう求めた。 これに対し,B主任は,破産会社において不良化している在庫や売掛金を管理するための一覧性のある資料は作成しておらず,被告支店の求める資料を提出するとすれば,部門ごとに分かれた顧客別の膨大な帳票を基に作成することになるので提出は不能であり,内訳や明細の分かる資料はない旨を述べて,同年2月3日,被告支店に,第59期及び第60期の部門ごとの売上げと在庫を簡単に記載したメモ(乙12)のみを提出した。 被告支店は,破産会社の資産状況に対する不安がある中で,上記のように,破産会社から在庫及び売掛金の内訳ないし明細の提出がなされず,その資産状況の正確な把握ができないことから,被告と破産会社との与信取引の内容の見直しを検討する必要があると考えるようになった。 オ平成26年4月15日,被告支店の支店長であったI,H課長及びD課長は,同月10日に被告支店に赴任したD課長の挨拶も兼ねて,破産会社に赴き,A社長及びB主任と面談した。その際,上記I支店長は,A社長及びB主任から,破産会社の商品販売の仕組みや在庫の状況等について聴取した。 上記面談後,被告支店では,破産会社への対応に係る協議を行い,破産会社の経営権を有するA社長が,破産会社の財務状況を把握しているか疑問であること,被告支店において破産会社の在庫の状況等を把握するのは困難であること,他方で,破産会社は相当程度の預金を有しており,被告以外の取引銀行における与信枠には空きもあることを考慮して,将来的に事業破綻した際の貸付金の回収不能のリスクを減らすため,破産会社に対する手形貸付金の一部を返済してもらい,残りは長期貸付けとして,貸付残高を減らすことを内容とする減債案の打 とを考慮して,将来的に事業破綻した際の貸付金の回収不能のリスクを減らすため,破産会社に対する手形貸付金の一部を返済してもらい,残りは長期貸付けとして,貸付残高を減らすことを内容とする減債案の打診を検討することとした(乙11)。 その後,被告支店において,破産会社に対する減債案に関する協議が重ねられ,最終的には,被告以外の取引銀行における与信枠の空きを利用するなどして,被告の破産会社に対する手形貸付金1億3000万円のうち8000万円を返済してもらい,残りの5000万円は長期貸付けに振り替え,5年ないし7年で弁済を求める内容の減債案(本件減債案)を,破産会社に打診することとした。 カ D課長は,同年5月9日(金曜日),B主任に電話を掛け,同月19 日(月曜日)が支払期日である手形の書替えの準備のため,被告支店に書替手形と借入申込書を持参して欲しいこと,その際,破産会社に話したいことがあることを告げた。 B主任は,同月9日,本件債務に係る書替手形及び借入申込書を持参して被告支店を訪れ,C副支店長及びD課長に対し,それらを手渡した。 C副支店長らは,B主任に対し,従前から,破産会社に対しては,在庫や売掛金の多さや回転期間の長さを指摘しており,そのことに関する十分な説明と資料の開示を求めてきたにもかかわらず,破産会社が適切な回答をしてくれないので,被告としては納得できていないなどと述べた。 その上で,C副支店長らは,B主任に対し,空知信用金庫や北海道銀行における与信枠の空きを利用して,被告の破産会社に対する手形貸付金1億3000万円のうち8000万円は返済してもらうこと,残りの5000万円については長期貸付けに振り替えること,それ以降の新規の融資については手形の書替えも含めて 被告の破産会社に対する手形貸付金1億3000万円のうち8000万円は返済してもらうこと,残りの5000万円については長期貸付けに振り替えること,それ以降の新規の融資については手形の書替えも含めて応じられないことを述べて,本件減債案を提示した。 そして,C副支店長らは,破産会社内で本件減債案について検討してもらい,1週間を目途に,中間報告程度のもので構わないので,検討状況について被告支店に連絡して欲しい旨を,B主任に告げた。 ⑸ 破産会社の破産手続開始の申立てに至る経緯等(甲8の1,8の3,8の8,9,10の1,10の2,証人B)ア B主任は,同日,破産会社に戻り,A社長及びE専務に対し,被告支店におけるC副支店長らとのやり取りについて報告したところ,A社長は大変なショックを受け,顔色が青ざめ,参ったなと言っただけで,何も言えない状態になった。 B主任としては,被告から返済を求められた8000万円については,与信枠に空きがある空知信用金庫及び北海道銀行に依頼すれば何とかなるかもしれないと考えていたため,A社長らに対し,翌週の月曜日である同年5月12日には空知信用金庫に行って,融資をお願いしてきますなどと述べたが,A社長は特に反応を示さなかった。 イ A社長は,前記報告を受けた後,翌10日(土曜日)未明までの間に,破産会社の本社建物の屋上から飛び降り,同日朝,路上で倒れているところを発見され,病院に搬送されたが,死亡が確認された。 B主任は,破産会社の従業員からの電話でA社長の自殺を知らされ,本件減債案について報告した際のA社長の様子などから,A社長が自殺を図ったのは,被告から本件減債案の提示を受け,このようなことになれば他の金融機関の信用も失い,破産会社は存続できなくな を知らされ,本件減債案について報告した際のA社長の様子などから,A社長が自殺を図ったのは,被告から本件減債案の提示を受け,このようなことになれば他の金融機関の信用も失い,破産会社は存続できなくなると考え,精神的ショックを受けたことが原因であると考えた。 ウ同月12日(月曜日),A社長の葬儀が行われ,その際,E専務,F常務及びB主任らが,破産会社の今後について協議したところ,共同代表者であるE専務が,破産会社の経営を引き継ぐ意思のないことを明言したため,同人らは,破産会社の事業を継続することは困難であり,これを閉鎖する以外にないと考えた。 E専務,F常務及びB主任は,同日,破産会社の債務整理等について相談する目的で,G法律事務所を訪れたところ,同事務所の弁護士から,破産会社の事業を閉鎖する方法について,現状を踏まえれば,破産という形を採るのがよいのではないかとの助言を受けたため,同弁護士(本件破産申立弁護士)に対し,破産会社に係る破産手続開始の申立てを委任することとした。 本件破産申立弁護士は,破産会社に対し,同年5月末までは通常どおり営業し,債権者には,破産手続開始の申立てを予定しているのが わからないようにすることを指示したため,破産会社は,同月13日及び15日に,被告を含む本件取引銀行に取立てに回った小切手については決済を行ったが,B主任が,同月19日が支払期日となる本件債務の弁済をしてもよいかと尋ねた際には,本件破産申立弁護士は,そのような弁済は破産管財人によって否認される可能性が高い旨を説明した上で,弁済は行わないよう指示した。 ⑹ 破産会社による本件弁済等(甲8の8,9,乙3ないし7,15,16,証人B,証人C,証人D)ア D課長は,同月13日,B主任に電話を掛け, 明した上で,弁済は行わないよう指示した。 ⑹ 破産会社による本件弁済等(甲8の8,9,乙3ないし7,15,16,証人B,証人C,証人D)ア D課長は,同月13日,B主任に電話を掛け,同月9日に提示した本件減債案をA社長に伝えたかどうか確認をしたところ,B主任は,A社長の自殺には言及せず,今,ごたごたしていて伝えていない,などと返答した。 D課長は,翌日の同月14日にもB主任に電話を掛け,再度,本件減債案をA社長に伝えたかどうかを確認したところ,B主任は,一旦は伝えていないなどと返答したものの,D課長から,なぜ伝えていないのかと問い質されたため,A社長が同月10日に死亡したこと,A社長の死亡後も破産会社は通常どおり営業していることを報告し,破産会社の今後については,E専務に聞いて欲しいなどと述べた。 D課長は,B主任の話を受けて,E専務と早急に面談したい旨を述べるとともに,同月19日が支払期日である本件債務については,破産会社内で新しい代表者が決定され,同人との間で限定保証契約を締結するまでは,手形の書替えを行うことができない旨を述べた。その際,D課長は,支払期日までに新しい代表者が決まらない場合には,期流れ延滞ということになる旨も述べた。 イ被告支店は,A社長の死亡の報告を受けて,破産会社に係る事項として,①本件債務については期流れ延滞とするのはやむを得ないこと, ②E専務に社内体制を確認し,限定保証契約を締結する方向で進めること,③本件減債案についても,新しい代表者との間で引き続き交渉をすること,④破産会社の近々の資金繰りには問題はないと思われるが,注視する必要があることなどを確認した。 ウ B主任は,同月14日のD課長の話を受けて,同月19日までに,新しい代表者を決 をすること,④破産会社の近々の資金繰りには問題はないと思われるが,注視する必要があることなどを確認した。 ウ B主任は,同月14日のD課長の話を受けて,同月19日までに,新しい代表者を決めるか,本件債務の弁済をしなければ,同債務に係る手形が不渡りになるものと思い,同債務の弁済について,本件破産申立弁護士に相談したところ,同弁護士は,新しい代表者を探しているが見つかっていないなどと言って,同月末まで時間稼ぎをするよう助言した。 B主任は,E専務に保証契約を締結する意思のないことは明白であり,手形が呈示され不渡りになれば,他の取引銀行にも知られるところとなり,同月末まで営業を継続するという方針が崩れ,混乱が予想されることから,なんとしても手形の不渡りだけは避けたいと考え,4000万円であれば用意することはできるとして,E専務の了承も得た上で,支払期日に本件債務を弁済することを決めた。 この間,B主任は,D課長らに対し,同月19日までに本件債務を弁済しなければ手形が不渡りになるかどうか,あるいは期流れ延滞の意味について,確認することはしなかった。 エ B主任は,同月19日午前10時ころ,D課長に電話し,支払期日が到来した本件債務の弁済をすること,弁済のための資金は午後2時までに準備するが,破産会社の被告における定期預金1700万円もこれに充てたいことを述べた。 B主任は,同日午後2時ころ,被告支店を訪れ,C副支店長及びD課長に対し,本件債務の弁済については,既に秋田銀行札幌支店における普通預金口座から被告支店の当座預金に1800万円を振り込ん でいるため,更に被告における定期預金の解約元利金を同当座預金に入金した上で4000万円を払い出し,それをもって弁済する旨を説明し,また, 座から被告支店の当座預金に1800万円を振り込ん でいるため,更に被告における定期預金の解約元利金を同当座預金に入金した上で4000万円を払い出し,それをもって弁済する旨を説明し,また,新しい代表者については,E専務がA社長の後任者になるのか,仕入れ先等から適任者を招くかを現在検討中であるが,破産会社の営業は引き続き行っていく旨を説明した。 B主任は,被告における定期預金の解約手続を行い,その解約元利金1730万0522円を当座預金に入金した上で,4000万円を払い出し,本件債務の弁済(本件弁済)をした。 D課長は,B主任に対し,保留状態になっている本件減債案の点も含めて,被告の破産会社に対する今後の対応について話すため,同月21日にE専務との面談を設定することを依頼した。 ⑺ 本件弁済後の経過等(甲9,10の1,10の2,証人B)ア B主任は,同月20日,本件破産申立弁護士に対し,本件債務につき,弁済できるだけの現金があったので弁済した旨を述べた。 イ D課長は,同月21日午前9時10分ころ,B主任に電話を掛け,同月19日に依頼したE専務との面談の予定について確認したところ,B主任は,午前11時にE専務と2人で被告支店に行く旨を述べたが,同日午前10時30分ころ,B主任は,D課長に対し,電話で,弁護士から行かないように指示されたため,今日は行けなくなったなどと述べた。 B主任の上記発言を受けて,D課長が,なぜ弁護士が出てくるのかと質問したところ,B主任は,今後の代表者や保証人について弁護士に相談した旨を回答し,さらに,D課長が,事業の閉鎖に関する話をしたのではないかなどと質問すると,B主任は,営業は継続する予定であり,そのような話ではない旨を回答した。 ウ被 ついて弁護士に相談した旨を回答し,さらに,D課長が,事業の閉鎖に関する話をしたのではないかなどと質問すると,B主任は,営業は継続する予定であり,そのような話ではない旨を回答した。 ウ被告支店は,上記イのB主任の話を受けて,被告における破産会社 の債務者区分に関する協議を行い,差し当たり,当時の債務者区分である「要注意先」を維持することにはしたが,近いうちに,「要注意先」から「破綻懸念先」に変更することはやむを得ないとし,また,被告における与信枠1億4000万円については,その有効期限である同年5月末をもって廃止する方針とした(乙8)。 ⑻ 破産会社の破産手続開始決定等ア本件破産申立弁護士は,同月27日付けで,破産会社の債権者らに対し,破産会社の債務の整理について受任することになったことや,破産手続開始の申立ての手続を採る方針であることなどを記載した「受任通知書」を送付した(甲10の2,乙9)。 イ被告は,上記アの受任通知書の送付を受けて,被告における破産会社の債務者区分を「要注意先」から「実質破綻先」に変更した(乙14の1,14の2)。 ウ破産会社は,同年6月20日,札幌地方裁判所岩見沢支部に対し,破産手続開始の申立てをしたところ,同月25日,破産会社が支払不能の状態にあることが認められることを理由に,破産手続開始決定がされた(甲2)。 エ被告は,同年7月22日,破産会社に対し,破産会社の被告に対する借入金債務について,銀行取引約定書の第5条1項3号(前記前提の事由により,同年5月27日をもって期限の利益を喪失したとした上で,借入金の残額合計9000万円及びこれに対する遅延損害金等を直ちに支払うよう求めることなどを内容とする「通知書」と題する書面(乙10)を送付した。 5月27日をもって期限の利益を喪失したとした上で,借入金の残額合計9000万円及びこれに対する遅延損害金等を直ちに支払うよう求めることなどを内容とする「通知書」と題する書面(乙10)を送付した。 ⑼ 空知信用金庫及び北海道銀行は,同年5月10月ころのA社長の死亡の後,同月27日付け前記受任通知書の送付を受けるまでの間,破産会社に対する手形貸付金に係る手形の書替えや,A社長に代わる新たな保 証人との間の保証契約の締結等について,特に,破産会社に連絡することはなかった。 2 争点1(破産会社が本件弁済当時支払不能の状態にあったか)について⑴ 支払不能の意義破産法における支払不能とは,債務者が,①支払能力を欠くために,②その債務のうち弁済期にあるものにつき,③一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいい(破産法162条1項1号,2条11項),上記①の「支払能力を欠く」とは,財産,信用又は労務による収入のいずれを取っても,債務を支払う能力がないことを意味するものと解される。 原告は,支払不能の意義に関し,弁済期未到来の債務について将来支払えないことが確実である場合も支払不能と認められるべきである旨を主張するが,上記②のとおり,支払不能は,弁済期の到来している債務の支払可能性を問題とする概念であるから,弁済期の到来している債務を弁済することができている以上は支払不能ではないと解するのが相当であり,これに反する原告の上記主張は採用することができない。 もっとも,表面上は,弁済期の到来している債務を支払っている場合であっても,全く返済の見込みの立たない借入れや商品の投げ売り等によって資金を調達して延命を図っているような状態にある場合,すなわち,債務者が無理算段をしているような場合には, 務を支払っている場合であっても,全く返済の見込みの立たない借入れや商品の投げ売り等によって資金を調達して延命を図っているような状態にある場合,すなわち,債務者が無理算段をしているような場合には,いわば糊塗された支払能力に基づいて一時的に支払をしたにすぎないのであるから,客観的な支払能力の欠如する場合として,支払不能を認める余地がある。 ⑵ 破産会社は,本件弁済当時,支払不能の状態にあったか。 前記⑴で述べたところを前提に,破産会社が,本件弁済当時,支払不能の状態にあったと認められかについて,以下検討する。 ア本件取引銀行に対する借入金債務の期限の利益喪失について 前記認定したところによれば,破産会社は,本件弁済を行う前日である平成26年5月18日時点で,本件取引銀行である3行から,短期借入金として合計5億1671万7058円の貸付けを受けていることが認められ,また,平成25年8月31日及び平成26年6月25日時点における北海道銀行からの長期借入金の額からすれば,同年5月18日ころの時点では,北海道銀行から,長期借入金として約5500万円の貸付けを受けていたものと推認されるところ,第60期の貸借対照表(甲3)に照らせば,破産会社の流動資産の大部分は,これらの本件取引銀行からの借入金で占められていたものといえる。 そして,前記認定のとおり,E専務,F常務及びB主任は,同月12日,破産会社の破産手続開始の申立てを弁護士に委任したものであるところ,原告は,この委任の事実は,破産会社と被告との間の銀行取引約定書(甲7の1),及び,破産会社と空知信用金庫との間の当座貸越契約書(甲7の2)における期限の利益喪失事由に該当する事実であるから,同日の時点で,破産会社は,被告及び空知信用金 の間の銀行取引約定書(甲7の1),及び,破産会社と空知信用金庫との間の当座貸越契約書(甲7の2)における期限の利益喪失事由に該当する事実であるから,同日の時点で,破産会社は,被告及び空知信用金庫に対する一切の債務につき当然に期限の利益を喪失し,被告に対する借入金債務1億3000万円(前記認定事実⑵オび,空知信用金庫に対する2億6671万7058円(前記認定事実⑵オ)の弁済期が到来していた旨を主張する。 本件における破産会社と被告との間の上記約定書,及び破産会社と空知信用金庫との間の上記契約書における期限の利益喪失条項は,あるところ,原告の指摘する上記事実は,各条項における「弁護士等へ債務整理を委任したとき」や「債務整理を弁護士に委任したとき」との事由に該当し得る事実であるといえる。 しかしながら,破産会社と被告との間の上記約定書における期限の利益喪失条項の文言全体の内容ないし構成に照らせば,上記の「弁護士等へ債務整理を委任したとき」との事由は,「破産会社が債務整理に関して裁判所の関与する手続を申し立てたとき」及び「自ら営業の廃止を表明したとき」との事由とともに,その後の「支払を停止したと認められる事実が発生したとき」の例示として挙げられているものと解するのが相当であるから,上記条項は,全体として,支払を停止したと認められる事実が発生したと評価し得る場合に,期限の利益を喪失する旨を定めたと解するのが合理的である。 また,破産会社と空知信用金庫との間の上記契約書における期限の利益喪失条項の前半は,「債務整理を弁護士に委任したとき」,「自ら営業の廃止を表明したとき」,「支払を停止したと認められる事実が発生したとき」の三つの場合を,文言上は同格の事由として並列し,後半は,破産手続開 の前半は,「債務整理を弁護士に委任したとき」,「自ら営業の廃止を表明したとき」,「支払を停止したと認められる事実が発生したとき」の三つの場合を,文言上は同格の事由として並列し,後半は,破産手続開始等の申立てについて定めるが,営業の廃止の表明は,債務者が支払を停止したと認められる事実の典型例であることを考えると,同契約における「債務整理の弁護士への委任」も,債務者が支払を停止したと認められる場合を例示したものと解するのが相当である。 そのため,空知信用金庫との契約における上記条項の前半部分も,被告との間の期限の利益喪失条項と同様に,全体として,支払を停止したと認められる事実が発生したと評価し得る場合に,期限の利益を喪失する旨を定めたものであると解される。 そして,上記の各条項における「支払を停止した」とは,破産法における「支払の停止」(破産法162条1項1号イ,同3項)と同義に解するのが相当であるところ,破産法における「支払の停止」とは,債務者が,支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の 支払をすることができないと考えて,その旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいうものと解するのが相当である(最高裁平成24年10月19日第二小法廷判決・裁判集民事241号199頁,最高裁昭和60年2月14日第一小法廷判決・裁判集民事144号109頁)。 本件では,E専務らは,平成26年5月12日に,破産会社の破産手続開始の申立てを弁護士に委任したものであるところ,前記認定のとおり,E専務らは,本件破産申立弁護士の指示を受けて,同月末までは,破産会社を通常どおり営業し,本件取引銀行ら債権者には,破産手続開始の申立てを予定していることが知られないように行動することとなっていたものであるし,同月 産申立弁護士の指示を受けて,同月末までは,破産会社を通常どおり営業し,本件取引銀行ら債権者には,破産手続開始の申立てを予定していることが知られないように行動することとなっていたものであるし,同月13日及び15日には小切手の決済にも応じていたのであるから,同月12日の時点で,破産会社が,債務の支払をすることができない旨を明示的又は黙示的に外部に表示したと評価することはできず,この段階で,「支払の停止」をしたと認めることはできない。 以上によれば,同月12日に破産手続開始の申立てを弁護士に委任した時点で,支払の停止があったとして,破産会社が,被告及び空知信用金庫に対する一切の債務につき,当然に期限の利益を喪失したということはできない。 イ弁済期の到来している債務の支払について 破産会社による本件弁済は,平成26年5月19日になされたものであるところ,上記アで述べたように,同月12日時点での破産会社の本件取引銀行に対する債務の期限の利益喪失が認められない以上,同月19日の時点で,弁済期が到来していた債務は,本件債務4000万円であったものと認められる。 そして,平成26年5月18日時点では,破産会社の被告に対す る預金債権の額は合計2219万8670円(であり,本件債務の額4000万円を下回るものであるが,破産会社は同月19日に秋田銀行札幌支店から1800万円を被告支店の当座預金に送金していることによれば,本件債務について,一般的かつ継続的に弁済することができない状態にあったということまではできず,破産会社が支払不能になったということはできない。 原告は,破産会社による本件弁済は,被告から,本件減債案の提示や新たな保証人の要請があった中で,通常の営業資金としての使 ではできず,破産会社が支払不能になったということはできない。 原告は,破産会社による本件弁済は,被告から,本件減債案の提示や新たな保証人の要請があった中で,通常の営業資金としての使用を予定していない預金や特定の目的で使用していた預金を切り崩して行ったものであるから,破産会社の無理算段による弁済であると認められる旨を主張する。 しかしながら,平成26年5月18日時点で破産会社が保有する預金の合計額が1億0992万5782円であったこと(前記認定事実⑶)などを踏まえると,客観的には,本件弁済は,破産会社が自己資金を用いて債務の支払をしただけのことであると評価せざるを得ず,その原資とした預金につき,原告の主張するような内部事情があったとしても,そのことのみから,本件弁済につき,破産会社の無理算段によるものである,すなわち,糊塗された支払能力に基づいて一時的に支払をしたにすぎないものであるとして,客観的に支払能力が欠乏していたとまで評価することはできない。 また,B主任が,本件弁済後,本件破産申立弁護士に対し,本件債務につき,弁済できるだけの現金があったので弁済した旨を述べたこと(前記認定事実⑺ア)や,本訴訟において,B主任が,本件弁済の原資とした秋田銀行における普通預金につき,将来的に大金が出るときに備えておこうと思って積んでいたものである旨を証言したことなどに照らせば,本件弁済の原資とされた預金が,必ずし も本来的ではない使用をされたものであるともいい難い。 なお,原告は,破産会社と本件取引銀行との間の各契約書には,いずれも,客観的に債権保全の必要性があることを内容とする期限の利益喪失の一般条項が含まれ,同日の時点における破産会社の状況が,同条項に該当するような状況にあっ と本件取引銀行との間の各契約書には,いずれも,客観的に債権保全の必要性があることを内容とする期限の利益喪失の一般条項が含まれ,同日の時点における破産会社の状況が,同条項に該当するような状況にあった以上,破産会社は,支払不能の状態にあった旨を主張する。 しかしながら,前記前提事実及び前記認定事実によれば,原告の指摘する期限の利益喪失の一般条項は,当該事由が生じたことに加え,債権者である各取引銀行からの請求があった場合に,破産会社において期限の利益を喪失するというものであって,本件では,本件取引銀行が,破産会社に対し,上記の条項に基づく期限の利益喪失の請求をした事実が認められない以上,単に同条項に該当する状況があることを理由に,支払不能を認めることはできない。 他方,支払不能を判断するに当たって,債務の弁済期が到来しているのでは足りず,債権者の請求が必要である旨の被告の主張については,理由がないというべきである。 3 補足説明⑴ 本件減債案の提示について原告は,C副支店長らが,平成26年5月9日,B主任に対し,本件減債案を提示するに際し,被告の破産会社に対する手形貸付金1億3000万円のうち8000万円を早急に返済すべきこと等を一方的に告げた上,これは本部の指示であるなどと述べたことを主張するが,被告支店における平成26年5月9日の交渉履歴(乙2)の内容,前記認定したところの,本件減債案を提示するまでの被告支店における検討経過や,本件減債案提示後の被告支店の破産会社に対する対応,そして,同日の時点で,C副支店長及びD課長が,手形の書替えをする目的で,B主任 から本件債務に係る手形を受け取っていることなどに照らせば,C副支店長らが,B主任に対し,早急に8000万円を弁済するよう求めた で,C副支店長及びD課長が,手形の書替えをする目的で,B主任 から本件債務に係る手形を受け取っていることなどに照らせば,C副支店長らが,B主任に対し,早急に8000万円を弁済するよう求めたり,これは本部の決定事項である旨述べたりした事実を認めることはできず,これに反するB主任の供述は採用できない。 しかしながら,前記認定したところによれば,C副支店長らは,B主任に対し,一週間を目処に検討するよう求めているのであって,B主任の供述によっても,本件減債案を受けた破産会社としては,これを確定的なものとして受け取ったことが認められるから,被告支店がこの段階で本件減債案を提示したことが,A社長の自殺のきっかけとなったことは明らかであるし,このことが,破産会社が破綻に至るきっかけとなったことも明らかである。 ⑵ 期流れ延滞についてア被告は,本件債務に係る貸付手形については,裏書もないことから,交換所に呈示して不渡りとすることは予定しておらず,また,B主任に対し,期流れ延滞という方法があるので,支払期日に弁済する必要はない旨を説明したにもかかわらず,破産会社の側から,任意で本件弁済を行った旨を主張する。 この点については,被告支店における平成26年5月14日の交渉履歴(乙3)の内容や,D課長及びB主任の各供述内容に照らせば,前記認定のとおり,D課長は,B主任に対し,A社長に代わる新たな保証人が決まらなければ,本件手形債務に係る手形の書替えはできないことと併せて,支払期日までに支払をしない場合は,期流れ延滞になる旨も説明したと認められる。 しかしながら,手形貸付けが利用される理由として,支払を怠れば不渡処分という重いペナルティーがあるため,支払期日が遵守されることは公知の事実であるところ,D課長らが,B主任に対し, められる。 しかしながら,手形貸付けが利用される理由として,支払を怠れば不渡処分という重いペナルティーがあるため,支払期日が遵守されることは公知の事実であるところ,D課長らが,B主任に対し,手形の 書替えができない場合であっても,交換所に手形を呈示する予定のないことを説明した事実は認められない。 また,D課長らは,手形の書替えができなければ,期流れ延滞になる旨説明したとされるが,期流れ延滞は,文言上は,期限を徒過して延滞状態になる意味としか解しようがなく,単にこれだけを告げられたB主任が,支払期日を経過しても,利息を支払うことで債務不履行の責を負わないとする扱いがある旨を理解するとは考えられないし,D課長らが,そのような趣旨を詳細に説明した事実も認められない。 その結果,B主任としては,手形の書替えができない以上,支払期日に弁済しなければ,手形の不渡処分を受けるか,あるいは,期限徒過による延滞状態となり,その場合には本件取引銀行の信用を失い,期限の利益も喪失することから,そのような状態はなんとしても避けたいと考え,本件弁済をしたものと認められる。 イまた,被告は,同月19日の本件弁済の際にも,C副支店長及びD課長から,B主任に対し,本件債務については期流れ延滞とすることもできる旨を再度説明したなどと主張し,C副支店長及びD課長はこれに沿う供述をする。 しかしながら,被告支店の同日の交渉経過(乙4)の内容をみても,C副支店長らが,上記の説明をしたことをうかがわせる記載はなく,前記認定した,本件破産申立弁護士による支払の停止に係る指示内容等を踏まえれば,B主任において,被告から不要である旨を説明された弁済を行うとは考えにくいし,金融機関の職員が,手形の支払期日に決済資金を用意した債務者に対し,弁済を受 よる支払の停止に係る指示内容等を踏まえれば,B主任において,被告から不要である旨を説明された弁済を行うとは考えにくいし,金融機関の職員が,手形の支払期日に決済資金を用意した債務者に対し,弁済を受領せず,延滞扱いにする方向での説明をするとも考えにくいことから,D課長らは,同月14日の電話で期流れ延滞に言及したものの,本件弁済の際に,期流れ延滞について再度説明したとは考えられず,これに反するC副支店長 らの供述は採用できない。 ⑶ 支払不能と認めるべき特段の事情について原告は,被告において本件弁済を受ける実質的根拠はなく,これを容認すると債権者間の公平を大きく害することになる旨を主張する。 上記⑴及び⑵で検討したところによっても,B主任が本件弁済を余儀なくされたのは,A社長の自殺によって手形の書替えができなくなったことに端を発するが,そのきっかけとなったのは,被告支店が本件減債案を破産会社に提示したことや,その後の被告支店の対応である。 また,B主任としても,被告が本訴訟で主張したような,支払期日を経過しても手形は不渡りにはならず,延滞利息を支払えば足りるとする扱いがある旨の説明を事前に受けていれば,あえて本件弁済をすることはなかったと考えられるから,B主任はある種の誤解に基づいて本件弁済を行い,被告はこれを受領したことになる。 この点を考慮すると,被告に利得を保持させることは,債権者間の公平を害することになるとの原告の主張にも一定首肯せざるを得ないが,他方,本件は支払不能を要件とする否認権行使の案件であり,この判断に様々な要素を盛り込むことで支払不能の概念が不明確になれば,破綻のおそれのある債務者から弁済を受ける債権者の予測可能性を害し,不測の損害を与えることにもなる。 以上の点を考慮し,当裁判所は に様々な要素を盛り込むことで支払不能の概念が不明確になれば,破綻のおそれのある債務者から弁済を受ける債権者の予測可能性を害し,不測の損害を与えることにもなる。 以上の点を考慮し,当裁判所は,前記2で示した支払不能の要件の判断に基づいて,原告の請求の当否を判断することとする。 第4 結論以上検討したところによれば,本件弁済当時,破産会社が支払不能の状態にあったものとはいえないから,その余の点について検討するまでもなく,破産法162条1項1号に基づく否認権行使は認められないものといわざるを得ない。 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官谷 有恒 裁判官荒井 格 裁判官八屋敦子
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