平成11(受)553 占有回収請求事件

裁判年月日・裁判所
平成12年1月31日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄自判 名古屋高等裁判所 平成10(ネ)625
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判決文本文5,250 文字)

主文 原判決を破棄する。 被上告人の控訴を棄却する。 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。 理由 上告代理人小見山繁、同河合怜、同片井輝夫、同仲田哲、同竹之内明の上告受理申立て理由第三の二、第四及び第五について一本件は、被上告人によって土地及び建物の占有を侵奪されたとする上告人が被上告人に対して民法二〇〇条に基づきその返還を求めている事件である。原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。 1 被上告人は、宗教法人Iの被包括宗教法人であるところ、被上告人の宗教法人B寺規則では、「代表役員は、Iの規程によってこの寺院の住職の職にある者をもって充てる。」と規定している(同規則八条一項)。 2 上告人は、昭和四一年八月一六日、当時のIの管長Jから被上告人の住職に任命され、同時に前記規則により被上告人の代表役員となって、被上告人所有に係る第一審判決別紙物件目録記載の土地建物(以下「旧寺院」という。)に対する管理、所持を開始した。 3 上告人は、昭和五五年一〇月に被上告人が三重県松阪市a町bc番地dに新寺院を建立したことに伴い、それまで居住していた旧寺院建物から新寺院建物に転居したが、その後も、月に一、二度旧寺院に赴いて風通しのために窓を開閉したり、年二回敷地の草刈りを行ったり、旧寺院の近隣住民に何かあったら連絡するよう依頼するなどして、旧寺院を空き家のまま管理していた。 4 Iの管長Kは、昭和五七年二月五日、上告人が教義上の異説を唱えたとして上告人を僧籍はく奪処分である擯斥処分に付するとともに、上告人の後任としてL- 1 -を被上告人の住職に任命し、さらに昭和六〇年九月二六日、その後任住職にMを任命した。 5 被上告人は、上告人が擯斥処分を受けてIの僧籍を失 擯斥処分に付するとともに、上告人の後任としてL- 1 -を被上告人の住職に任命し、さらに昭和六〇年九月二六日、その後任住職にMを任命した。 5 被上告人は、上告人が擯斥処分を受けてIの僧籍を失うと同時に被上告人の住職及び代表役員の地位を失い、新寺院建物を占有使用する権原を喪失したとの理由により、上告人に対して新寺院建物の明渡しを求める訴訟を提起し、これに対して上告人は、擯斥処分が無効であるとして、上告人が被上告人の代表役員・責任役員の地位にあることの確認を求める訴訟を提起し、両事件は併合して審理された(以下、両事件を併せて「別件訴訟」という。)。なお、被上告人は、当時上告人が新寺院建物に居住していたため、別件訴訟においては、新寺院建物についてのみ明渡しを求め、旧寺院を明渡請求の対象とはしていなかった。 別件訴訟については、平成二年三月八日、双方の訴えをいずれも法律上の争訟に当たらないことを理由に不適法として却下する旨の第一審判決が言い渡された。上告人と被上告人は、右第一審判決に対してそれぞれ控訴、上告を提起したが、いずれも棄却されて、平成五年七月二〇日に右第一審判決が確定した。 6 上告人は、旧寺院の管理のため、昭和六〇年春ころ、檀徒であるNを旧寺院建物に居住させ、昭和六二年五月に同人が転居したため、檀徒であるOを旧寺院建物に居住させたが、平成二年一二月に同人が転居した後、平成四年ころ、檀徒であるPを旧寺院建物に居住させていた。ところが、Pが平成五年暮れに荷物を残したまま不在となったため、これに気付いた上告人は、旧寺院の見回りを行うとともに、門扉が開かないよう施錠するなどしていた。 そして、上告人は、Pが平成七年四月ころに残していた荷物を持ち出して旧寺院建物から退去した後も、門扉の扉が開かないように施錠したり、施錠の代わりに針 に、門扉が開かないよう施錠するなどしていた。 そして、上告人は、Pが平成七年四月ころに残していた荷物を持ち出して旧寺院建物から退去した後も、門扉の扉が開かないように施錠したり、施錠の代わりに針金でくくったりし、建物の窓を内側から施錠して雨戸を閉め、玄関等に施錠するなどしていたほか、年二回程度敷地の草刈りと除草剤散布を行っていた。なお、上告- 2 -人が、平成八年一二月初めに旧寺院を見回った際には、建物の雨戸はすべて閉められ、玄関等もすべて施錠されていた。 7 上告人は、平成六年一月一〇日、Mに対し、上告人が管理している旧寺院建物を取り壊すこととしたので、これに異存があれば文書で申し入れられたい旨記載した申入書を送付した。これに対して、Mは、同月二六日、上告人に対し、旧寺院が被上告人の基本財産に当たり、その処分についてはB寺における規則上の手続等が必要であるとして、旧寺院の明渡しを求めるとともに、上告人が勝手に処分することについて承諾しない旨記載した回答書を送付した。 Mは、被上告人の包括宗教法人のQ院渉外部のQから上告人が旧寺院建物の撤去に同意している旨聞いたことや近隣住民からも建物の撤去を求める申入れがあったことから、平成六年一二月一五日、上告人に対し、上告人が被上告人側で旧寺院建物を撤去することに異議がないと聞いたので、被上告人側で撤去する旨記載した通知書を送付した。これに対して上告人は、同月一九日、Mに対し、旧寺院建物の撤去には同意するが、その敷地は従前どおり上告人において占有することを了承されたい旨記載した通知書を送付した。 その後も上告人とMとの間で、代理人を通じて旧寺院建物の撤去につき話合いが持たれたが、上告人が建物撤去後も従前どおり敷地を占有するという条件を譲らなかったため、平成七年初めころに右話合いは物別れに終 その後も上告人とMとの間で、代理人を通じて旧寺院建物の撤去につき話合いが持たれたが、上告人が建物撤去後も従前どおり敷地を占有するという条件を譲らなかったため、平成七年初めころに右話合いは物別れに終わり、Mとしては、旧寺院建物を撤去して、旧寺院敷地の管理をすることは難しいと考えていた。 8 Mは、旧寺院敷地内の放置物件を除去し、門扉を閉めて旧寺院を管理することとし、平成九年一月一二日に被上告人の信徒であるNらと共に旧寺院敷地内に立ち入ったところ、建物の庫裏玄関左側の雨戸が何者かによって開けられており、その内側のガラス戸が施錠されていなかったため、Mらは、管理状況を確認するために建物内に立ち入ったが、建物内部も相当朽廃が進んでいる状態であった。そこで、- 3 -Mは、旧寺院の門扉に新たに南京錠を取り付けるとともに、建物の庫裏玄関及び庫裏台所勝手口の錠前を付け替え、庫裏玄関のアルミドアに「無断で立ち入ることを禁ずる。平成九年一月一二日、宗教法人B寺代表役員M」と記載した張り紙を掲示するなどして、旧寺院の管理を開始した。その後も、Mは、月一回程度旧寺院を見回り、年二回程度敷地の除草を行うなどして、旧寺院を管理し、上告人の返還請求を拒否している。なお、上告人は、旧寺院の近隣に居住する知人からの通報を受けて、平成九年一月一五日、旧寺院を見回ったところ、Mが旧寺院の管理を開始したことを知った。 二原審は、右事実関係の下において、(一) 上告人は当初被上告人の代表役員として旧寺院を占有していたところ、その後に受けた擯斥処分が有効であるとすれば、上告人は、被上告人の代表役員としての地位を喪失し、個人のために旧寺院を占有していることになり、擯斥処分が無効であるとすれば、上告人が引き続き被上告人の代表役員として旧寺院を占有していることになるが、この場 、被上告人の代表役員としての地位を喪失し、個人のために旧寺院を占有していることになり、擯斥処分が無効であるとすれば、上告人が引き続き被上告人の代表役員として旧寺院を占有していることになるが、この場合に、上告人において法人の機関として物を所持するにとどまらず、個人のためにもこれを所持するものと認めるべき特別の事情があるときは、個人としての占有をも有していることになる、(二) 上告人は、新寺院に転居するまで家族と共に旧寺院に居住しており、その間の旧寺院の占有については、右特別の事情があったといえるが、右転居後の旧寺院の占有については、上告人が被上告人の代表者であるとされる場合において、上告人が被上告人の機関として旧寺院を占有しているにすぎず、右特別の事情は認められない、(三) そうすると、上告人の個人としての占有を認めるためには、上告人に対する擯斥処分が有効であることを確定する必要があるが、右の点を判断するには、宗教上の教義ないし信仰の内容に深く立ち入らざるを得ないから、結局、上告人の本件訴えは、法律上の争訟に該当しないと判断し、これを不適法として却下すべきものとした。 - 4 -三しかしながら、原審の右二の(二)、(三)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 法人の代表者が法人の業務として行う物の所持は、法人の機関としてその物を占有しているものであって、法人自体が直接占有を有するというべきであり、代表者個人は、特別の事情がない限り、その物の占有を有しているわけではないから、民法一九八条以下の占有の訴えを提起することはできないと解すべきである(最高裁昭和二九年(オ)第九二〇号同三二年二月一五日第二小法廷判決・民集一一巻二号二七〇頁、最高裁昭和三〇年(オ)第二四一号同三二年二月二二日第二小法廷判決・裁判集民事 はできないと解すべきである(最高裁昭和二九年(オ)第九二〇号同三二年二月一五日第二小法廷判決・民集一一巻二号二七〇頁、最高裁昭和三〇年(オ)第二四一号同三二年二月二二日第二小法廷判決・裁判集民事二五号六〇五頁参照)。しかしながら、代表者が法人の機関として物を所持するにとどまらず、代表者個人のためにもこれを所持するものと認めるべき特別の事情がある場合には、これと異なり、代表者は、その物について個人としての占有をも有することになるから、占有の訴えを提起することができるものと解するのが相当である(最高裁平成六年(オ)第一九九八号同一〇年三月一〇日第三小法廷判決・裁判集民事一八七号二六九頁参照)。 これを本件についてみると、【要旨】前記の事実関係によれば、上告人は、当初は被上告人の代表者として旧寺院の所持を開始し、旧寺院建物から新寺院建物へ転居した後も旧寺院の管理を継続して、これを所持していたのであり、別件訴訟の係属中及びその終了後においても、N、O及びPを通じ、あるいは自ら直接旧寺院を所持していたところ、その間にI管長から擯斥処分を受けたものの、これに承服せず新寺院への居住を続けていた。そして、上告人は、被上告人から新寺院の占有権原を喪失したとしてその明渡しを求める訴えを提起されたときにも、右擯斥処分の効力を否定し、上告人が被上告人の代表役員等の地位にあることの確認を求める訴えを提起するなどして争っていただけでなく、別件訴訟終了後にされたMとの間での旧寺院建物の撤去についての話合いの際にも、上告人が旧寺院を管理、所持して- 5 -いることを前提として、建物撤去後の敷地の占有継続を主張するなどしていたのである。右によれば、上告人は、平成九年一月一二日当時、上告人自身のためにも旧寺院を所持する意思を有し、現にこれを所持していたということがで として、建物撤去後の敷地の占有継続を主張するなどしていたのである。右によれば、上告人は、平成九年一月一二日当時、上告人自身のためにも旧寺院を所持する意思を有し、現にこれを所持していたということができるのであって、前記特別の事情がある場合に当たると解するのが相当である。そして、本件においては、Mは、平成九年一月一二日、被上告人の代表者として、上告人が管理していた旧寺院に立ち入って、建物の錠前を付け替え、無断立入禁止の張り紙を掲示するなどして旧寺院の管理を行い、上告人の返還請求を拒否しているというのであるから、上告人は、その意思に反して旧寺院の占有を奪われたものというべきであり、旧寺院を占有している被上告人に対し、民法二〇〇条に基づき、その返還を求めることができると解すべきである。 四以上によれば、本件事実関係の下で上告人の本件占有回収の訴えを却下すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。右の趣旨をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、前記説示に照らせば、上告人の請求を認容すべきものとした第一審判決は正当であるから、被上告人の控訴を棄却すべきである。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官梶谷玄裁判官河合伸一裁判官福田博裁判官北川弘治裁判官亀山継夫)- 6 -

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