平成13(行コ)58等 被爆者援護法上の被爆者たる地位確認等請求控訴事件,同附帯控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成10年(行ウ)第60号)

裁判年月日・裁判所
平成14年12月5日 大阪高等裁判所 警察関係
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判決文本文23,848 文字)

主文 1 本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)らの負担とし,附帯控訴費用は被控訴人(附帯控訴人)の各負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(附帯被控訴人。以下「控訴人」という。)らの控訴の趣旨(1) 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。 (2) 被控訴人(附帯控訴人。以下「被控訴人」という。)の請求をいずれも棄却する。 (3) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 2 被控訴人の附帯控訴の趣旨(1) 原判決主文4を取り消す。 (2) 控訴人国及び同大阪府は,被控訴人に対し,連帯して200万円及びこれに対する平成10年7月23日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。 (3)(原判決主文3と選択的)控訴人国は,被控訴人に対し,17万0650円及び平成11年1月から平成15年5月まで毎月末日限り3万4130円を支払え。 第2 事案の概要 1 本件事案の概要は,以下のとおり改めるほか,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」(原判決3頁15行目から28頁15行目まで)中,控訴人ら・被控訴人関係部分のとおりであるから,これを引用する(ただし,特にことわらない限り,被爆者援護法施行令については平成14年4月1日政令第148号による改正前のもの,被爆者援護法施行規則については平成14年5月31日厚生労働省令第74号による改正前のものをいう。)。 2(1) 原判決6頁10行目の「厚生事務次官通知」の次に「,以下「158号通知」という。」を加える。 (2) 原判決14頁21行目の次に行を改めて以下のとおり加える。 「d 被爆者援護法の給付体系(医療給付と各種手当の支給との関係)原爆医療法に基づく給付は,日本国内のみで受給し得るものであるから,同法 ) 原判決14頁21行目の次に行を改めて以下のとおり加える。 「d 被爆者援護法の給付体系(医療給付と各種手当の支給との関係)原爆医療法に基づく給付は,日本国内のみで受給し得るものであるから,同法が在外被爆者を適用対象としていなかったことは明らかである。したがって,同法の追加施策として制定された原爆特別措置法,これらを一本化した被爆者援護法も同じく在外被爆者を適用対象とするものではない。 また,被爆者援護法の制定経緯,健康管理手当の趣旨,同法の前文等によれば,被爆者に対する最も基本的な援護は医療給付である。各種手当の支給は,医療給付だけでは十分でないと考えられる者に対する補完的,上乗せ的な援護として位置づけられているにすぎない。したがって,医療給付を受けることが全く予定されていない在外被爆者が各種手当の支給のみを受けるという事態は,同法の法構造に沿わず,同法の給付体系を無視するものである。」(3) 原判決27頁7行目から25行目までを次のとおり改める。 「(4) 国家賠償法上の違法性及び損害(被控訴人の主張)ア 402号通達の違法性(ア) 402号通達は原爆特別措置法,同法施行規則に違反する。 原爆特別措置法には,都道府県の区域を越えて居住地を移した場合に権利を喪失させるとの規定はない。この点に関し,昭和49年7月原爆特別措置法施行規則の一部を改正する省令(昭和49年厚生省令第27号)により同法施行規則(昭和43年厚生省令第34号)が改正され,従前,特別手当受給権者は都道府県の区域を越えて居住地を移すと失権するとされていたものが改められた。 しかるに,当時の厚生省(現厚生労働省)は,上記規則改正の趣旨に反する402号通達を発出し,改正前と同様の違法状態を存続させた。このように,402号通達は,原爆特別措置法が規則に委任した範囲を 。 しかるに,当時の厚生省(現厚生労働省)は,上記規則改正の趣旨に反する402号通達を発出し,改正前と同様の違法状態を存続させた。このように,402号通達は,原爆特別措置法が規則に委任した範囲を超えているもので,同法及び同法施行規則に違反する。 (イ) 402号通達は在韓被爆者の排除を意図したものである。 P1判決の第一審判決(福岡地裁昭和49年3月30日判決・行集25巻3号209頁)は,わが国における居住関係がないから原爆医療法の適用の要件を欠くという国の主張を排斥し,P1氏に対する原爆医療法の適用を認めた。 そこで,当時の厚生省(現厚生労働省)は,在韓被爆者について入口で規制できないなら出口で規制しようとして402号通達を発出し,日本国外の被爆者に対する同法の適用を否定しようと意図したものである。 (ウ) 402号通達は被爆者援護法にも違反する。 402号通達は,被爆者援護法の施行に伴う158号通知により,同法の下においても有効とされている。 しかし,同法には「被爆者」が日本に居住も現在もしなくなった場合に「被爆者」たる地位を喪失する旨の明文規定はなく,そのように解釈すべき合理的理由もない。402号通達は,このような解釈を前提とするもので同法に違反する。 (エ) 402号通達は,前記のとおり,憲法14条,25条1項,98条2項のほか,B規約26条,2条1,A規約2条2にも違反する。 イ控訴人らの故意(違法性の意識の深まり)(ア) 402号通達立案当時(昭和49年7月)当時の厚生省(現厚生労働省)は,原爆2法には国籍要件がないことや居住地の変更により権利を喪失する旨の規定がないことを知りながら,P1判決の第一審判決を受けて,今後,在韓被爆者からの被爆者健康手帳の交付申請が増加することを危惧し,原爆2法の在韓被爆者への適用をでき 地の変更により権利を喪失する旨の規定がないことを知りながら,P1判決の第一審判決を受けて,今後,在韓被爆者からの被爆者健康手帳の交付申請が増加することを危惧し,原爆2法の在韓被爆者への適用をできる限り制限するために402号通達を発出したものである。 (イ) P1判決当時(昭和53年3月)最高裁判所は,P1判決において,原爆医療法には実質的に国家補償的配慮が制度の根底にあり,あえて外国人に対しても同法を適用することとしているのは,被爆による健康上の障害の特異性と重大性のゆえに,その救済について内外人を区別すべきでないとしたものにほかならない旨を判示した。 これを受けて,当時の厚生省(現厚生労働省)は,原爆2法について被爆による健康上の障害の特異性と重大性に思いを馳せ,内外人を平等とする趣旨の徹底が求められていることが容易に理解できたはずであるから,その意味でも402号通達の違法性はますます明らかなものとなった。 (ウ) 被爆者援護法制定当時(平成6年12月)その後,原爆2法が一本化されて,被爆者援護法が制定されたが,そこでは,「国の責任」が明記され,原爆2法の国家補償的性格も一層進められた。その間も,いったん被爆者健康手帳を取得した被爆者が日本国外に出る場合の取扱いについては,前記のとおり,恣意的に運用されてきた。これは,402号通達の下では権利喪失の確たる判断基準を見い出すことができず,統一的,合理的な判断ができなかったことによる。 ここに至って,当時の厚生省(現厚生労働省)は,いったん被爆者健康手帳を取得した被爆者が日本国外に出た場合の取扱いについて,法令と402号通達との間には齟齬があるということを十分認識できていたはずである。 (エ) 大阪府知事による失権の取扱い当時(平成10年7月)被控訴人は,本件健康手帳を取得し, 合の取扱いについて,法令と402号通達との間には齟齬があるということを十分認識できていたはずである。 (エ) 大阪府知事による失権の取扱い当時(平成10年7月)被控訴人は,本件健康手帳を取得し,大阪府知事から健康管理手当の支給認定を受けたのに,平成10年8月分からは402号通達に基づく失権の取扱いを受けて,手当の支給を受けていない。 控訴人らは,このような402号通達が,被爆者援護法が国籍を問わず,被爆者の被った特殊の被害にかんがみ,被爆者の援護を講じるという人道的目的を有することと真っ向から反することを容易に認識できたはずである。 (オ) 以上によれば,控訴人らの違法行為は,単に過失に止まらず,在韓被爆者の排除を意図したものであるから,故意と評価すべきである。 ウ控訴人らの国家賠償責任このように,控訴人らは,原爆2法及び被爆者援護法のほか憲法及び国際人権規約にも違反する402号通達の違法性を認識しながら,これを立案し,放置し,大阪府知事に執行させた。のみならず,本件健康手帳を失権とする旨の取扱いは,違法な402号通達に基づく違法な執行であったことに加え,被爆者健康手帳の失権についてはなんら触れていない402号通達にも違反する違法性の強いものであった。 控訴人らの行為はいずれも国家賠償法上の違法行為であるから,被控訴人に対する損害賠償責任を免れない。」(4) 原判決28頁12行目から15行目まで次のとおり改める。 「(控訴人らの主張)ア原爆医療法,原爆特別措置法及び被爆者援護法が,日本に居住も現在もしない者に対しては適用されないという解釈と,この点を確認的に示達している402号通達や158号通知はいずれも適法である。 したがって,当時の厚生省(現厚生労働省)公衆衛生局長が402号通達を立案し,維持し,同厚生事務次官が158 う解釈と,この点を確認的に示達している402号通達や158号通知はいずれも適法である。 したがって,当時の厚生省(現厚生労働省)公衆衛生局長が402号通達を立案し,維持し,同厚生事務次官が158号通知を発出し,また,大阪府知事が被控訴人に対する健康管理手当を打ち切ったことには何ら違法はない。 イ法令の解釈に関し,学説・判例等の見解が分かれ,そのいずれにも一応の論拠が認められる場合に,公務員が一方の解釈を採ったときは,それが結果的に違法であったとしても,公務員には国家賠償法1条1項の過失があるとはいえない。 このような観点からみると,原爆医療法,原爆特別措置法及び被爆者援護法が日本に居住も現在もしない者に対しては適用されないとの解釈は,その給付体系,立法者意思,被爆者が日本に居住又は現在することを前提とする各種規定の存在,法的性格等を根拠とする合理的な解釈であった。また,これらの法律においては在外被爆者に対する給付を予定した規定が全く存在せず,これらの法律が在外被爆者にも適用されるとの判例・学説は本件訴訟以前にはなかったのである。 したがって,仮に,402号通達が違法であるとしても,国の公務員及び大阪府知事に国家賠償法1条1項の故意・過失がないことは明らかである。」第3 当裁判所の判断 1 被爆者援護法1条の「被爆者」が日本に居住も現在もしなくなることにより,当然に「被爆者」たる地位を喪失するか否か(日本に居住又は現在していることは「被爆者」たる地位の効力存続要件であるか否か。)について判断する。 (1) 法文上の「被爆者」たる地位についてア被爆者援護法上,「被爆者」たる要件は,同法1条各号のいずれかに該当する者であること及び被爆者健康手帳の交付を受けたものであることの2点である。日本に居住又は現在することは,法文上の要件とはされて 被爆者援護法上,「被爆者」たる要件は,同法1条各号のいずれかに該当する者であること及び被爆者健康手帳の交付を受けたものであることの2点である。日本に居住又は現在することは,法文上の要件とはされていない。 イそして,被爆者援護法2条1項によれば,被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は,居住地(居住地を有しないときは,その現在地とする。)の都道府県知事にその旨申請しなければならない。したがって,被爆者健康手帳の交付を受け,「被爆者」たる地位を取得するためには,少なくとも申請の時点では日本に現在することを要することになる。 ウしかし,いったん被爆者健康手帳の交付を受けた後に同手帳の返還が必要となるのは,実定法上「被爆者」が死亡した場合だけである(同法施行規則8条)。 「被爆者」が日本に居住も現在もしなくなった場合に,都道府県知事が同手帳の返還を求め得る法文上の根拠はない。 また,「被爆者」が日本に居住も現在もしなくなった場合に,当然に同法の適用対象から外れるとか,「被爆者」たる地位を喪失する(喪失させることができる。)とかいう旨の明文規定もない。 エしたがって,被爆者援護法,同法施行規則の法文上は,日本に居住又は現在している者のみをその適用対象とするとか,日本に居住又は現在することが「被爆者」たる地位の効力存続要件であるとか解すべき直接の根拠はないということになる。 (2) 解釈上の「被爆者」たる地位について控訴人らは,被爆者援護法は,解釈上,日本に居住又は現在する者のみをその適用対象とし,日本に居住も現在もしなくなった者については,法律上当然に「被爆者」たる地位を喪失する,すなわち,日本に居住又は現在することは,「被爆者」たる地位にあることの効力発生要件であるのみならず効力存続要件でもあると主張する。 そこで,同法上,控訴人ら 当然に「被爆者」たる地位を喪失する,すなわち,日本に居住又は現在することは,「被爆者」たる地位にあることの効力発生要件であるのみならず効力存続要件でもあると主張する。 そこで,同法上,控訴人らの主張する解釈が,同法の法的性格,立法者意思,法律全体の法構造などに照らし,合理的なものとして是認できるかどうかについて以下検討する。 ア行政法と属地主義の原則について(ア) 控訴人らは,被爆者援護法は行政法であるところ,一般に行政法規は日本国内おいてのみ効力を有するのが原則であるから,例外規定がない限り日本に居住も現在もしていない者に対しては適用されないと主張する。 (イ) 確かに,強制調査や各種の規制など行政機関の公権力の行使に関わる国法については,国家主権に由来する対他国家不干渉義務にかんがみ,控訴人らが主張する属地主義の原則が妥当する。 (ウ) しかし,被爆者援護法のようないわゆる給付行政に関する国法については,属地主義の原則を厳格に適用すべき必然性はない。むしろ,その性質上,給付を受ける側の人的側面に着目し,属人主義的な立場(人的範囲を限定する反面,場所的範囲を日本国内に限らない立場)を採用する法制にも十分な合理性が認められる。わが国の戦争被害に関する他の補償立法の中には,明文規定がなくても海外での適用を認めている法制例も見受けられるところである(遺族等援護法,戦傷病者特別援護法など)。 (エ) 以上によれば,被爆者援護法が行政法規であるがゆえに,属地主義の原則が当然に妥当するとはいえない。ましてや,「被爆者」たる地位をいったん適法・有効に取得した者が,日本に居住も現在もしなくなったからといって,属地主義の原則を根拠に,当然にその地位を失うという解釈を採ることはできないというべきである。 イ被爆者援護法の性格について(ア) 控訴 取得した者が,日本に居住も現在もしなくなったからといって,属地主義の原則を根拠に,当然にその地位を失うという解釈を採ることはできないというべきである。 イ被爆者援護法の性格について(ア) 控訴人らは,被爆者援護法は非拠出制の社会保障法であるから,わが国の社会の構成員でない海外居住者には適用されないと主張する。 (イ) 確かに,一般論としては,非拠出制の社会保障制度は,それが社会連帯や相互扶助の観念を基礎とし,社会構成員の税負担に依存しているがゆえに,その適用対象者をわが国社会の構成員たる者に限定するという解釈も一応妥当する。しかし,個別具体的な社会保障制度において,どの範囲の者を適用対象とするかは,それぞれの制度における政策決定の問題である。被爆者援護法の社会保障としての性格から演繹的に控訴人らの主張する解釈を導くことは相当でない。 (ウ) そして,被爆者援護法は原爆医療法をその前身とするところ,同法の趣旨は,最高裁判所が,「原爆医療法は、被爆者の健康面に着目して公費により必要な医療の給付をすることを中心とするものであって、その点からみると、いわゆる社会保障法としての他の公的医療給付立法と同様の性格をもつものであるということができる。しかしながら、被爆者のみを対象として特に右立法がされた所以を理解するについては、原子爆弾の被爆による健康上の障害がかつて例を見ない特異かつ深刻なものであることと並んで、かかる障害が遡れば戦争という国の行為によってもたらされたものであり、しかも、被爆者の多くが今なお生活上一般の戦争被害者よりも不安定な状態に置かれているという事実を見逃すことはできない。原爆医療法は、このような特殊の戦争被害について戦争遂行主体であった国が自らの責任によりその救済をはかるという一面をも有するものであり、その点では実質的に国家 いるという事実を見逃すことはできない。原爆医療法は、このような特殊の戦争被害について戦争遂行主体であった国が自らの責任によりその救済をはかるという一面をも有するものであり、その点では実質的に国家補償的配慮が制度の根底にあることは、これを否定することができないのである」と判示するとおりである(P1判決)。 また,被爆者援護法も前文をもうけて,「(前略)国の責任において、原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ、高齢化の進行している被爆者に対する保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ(中略)るため、この法律を制定する」と謳っている。 これによれば,原爆医療法の性格はそのまま被爆者援護法に引き継がれ,被爆者援護法も社会保障と国家補償双方の性格を併有する特殊な立法であると認めるのが相当である。 (エ) 以上のとおり,被爆者援護法の複合的な性格,とりわけ,同法が被爆者が被った特殊の被害にかんがみ,一定の要件を満たせば,「被爆者」の国籍も資力も問うことなく一律に援護を講じるという人道的目的の立法であることにも照らすならば,その社会保障的性質のゆえをもって,わが国に居住も現在もしていない者への適用を当然に排除するという解釈を導くことは困難である。 ウ立法者意思について(ア) 控訴人らは,被爆者援護法は,日本に居住も現在もしない者には適用されないことを前提として国会で可決・成立されたから,日本に居住も現在もしなくなった者については,当然に「被爆者」たる地位を喪失するとするのがその立法者意思であったと主張する。 a そこで検討するに,平成6年12月1日付け第131回国会衆議院厚生委員会におけるP2委員とP3政府委員とのやりとりや日本共産党の修正案が否決された経緯は次の その立法者意思であったと主張する。 a そこで検討するに,平成6年12月1日付け第131回国会衆議院厚生委員会におけるP2委員とP3政府委員とのやりとりや日本共産党の修正案が否決された経緯は次のとおりである(甲第61号証,乙第4号証,弁論の全趣旨)。 (a) まず,P2委員において,政府案では外国に居住する被爆者には援護の措置が行われないことになっているが,国家補償に基づく被爆者年金であれば外国に居住する者にも支給されることになると思うがどうかと質した。 これに対し,P3政府委員は,政府案に基づく給付が拠出を要件としない公的財源によって賄われることと他の制度との均衡を考慮する必要から,日本国内に居住する者を対象として手当を支給することを考えており,手当か年金かの名目のいかんを問わず,わが国の主権の及ばない外国においては日本の国内法を適用することはできないと考えていると答弁した。 (b) さらに,P2委員において,年金化すれば外国にいても支給できるという説が有力であり,被爆者は外国に居住していても外国人であっても原爆後遺障害の発症に変わりはないのだから,すべての被爆者を援護するためにも年金支給とすべきであると質した。 これに対し,P3政府委員は,現在の手当は被爆者の健康状況に着目して支給しているから,年金のように被爆者の健康状況を審査しない形で給付することは考えていないと答弁した。 (c) 以上のやりとりを経て,P2委員は,政府案には,国家補償の理念が明記されておらず,特別葬祭給付金の支給対象者を限定し,被爆者年金を実現していないという問題点を残していると指摘した上,これらの点をも盛り込んだ日本共産党の修正案について,戦争の国家責任を明確にして謝罪と補償を行い,将来の不戦の誓いを込めた国家補償法とするために提案すると趣旨説明をした。 残していると指摘した上,これらの点をも盛り込んだ日本共産党の修正案について,戦争の国家責任を明確にして謝罪と補償を行い,将来の不戦の誓いを込めた国家補償法とするために提案すると趣旨説明をした。 これに対し,P4委員の反対討論は,日本共産党の修正案は,国の戦争責任に基づく国家補償を前提としたものであり,他の戦争犠牲者との均衡などの面で基本的な問題を含んだものであるから反対するというものであった。 b 以上によれば,P3政府委員が手当の支給は日本国内に居住する者を対象とする旨を答弁した理由は,被爆者援護法が非拠出の社会保障法的性格を有するがゆえに,わが国の主権の及ばない外国では国内法を適用できないという一般論の域を出るものではない(他の制度との均衡について具体的に議論された形跡はない。)。 また,同政府委員が被爆者年金の提案を消極に解したのも,海外の居住者に給付することの当否もさることながら,被爆者の健康状況を審査せずに一律に支給するという年金の形式の当否に着目したところによることがうかがわれる。 c さらに,被爆者援護法の審議経過をみると,国の戦争責任と国家補償的配慮をどこまで法案に盛り込むかという点についての議論が繰り返され(乙第3号証,第4号証,弁論の全趣旨),日本共産党の修正案の要点は,国の戦争責任を明確にし,国家補償的観点から国内外を問わず,すべての被爆者に一律に年金を支給するところにあったことが認められる。これに対する反対討論の主眼も,同法を国の戦争責任に基づく国家補償として明確化することの是否に向けられていたことがうかがわれる(ここでも他の戦争犠牲者との均衡について具体的に議論された形跡はない。)。これによると,日本共産党の修正案が否決された所以は,日本に居住も現在もしない者に対する同法の適用の当否に着目されことによるものとは も他の戦争犠牲者との均衡について具体的に議論された形跡はない。)。これによると,日本共産党の修正案が否決された所以は,日本に居住も現在もしない者に対する同法の適用の当否に着目されことによるものとはいい難い側面がある。 d 以上によれば,被爆者援護法の立法過程においては,政府委員から同法が非拠出の社会保障法的性格を有するがゆえに,わが国の主権の及ばない外国では国内法の適用はないという一般論が開陳されてはいるものの,少なくとも,本件で主たる争点とされているように,いったん適法・有効に「被爆者」たる地位を取得した者が,その後,日本に居住も現在もしなくなることにより当然に「被爆者」たる地位を失うかどうかという点については,およそ議論の外にあったというべきである。 平成6年12月6日付け第131回国会参議院厚生委員会におけるP5委員とP3政府委員とのやりとりも(乙第22号証),この認定・判断を動かすものではない。 したがって,控訴人ら指摘の質疑・答弁や日本共産党の修正案が否決された経緯からだけでは,本件で主たる争点とされている点に関する立法者の意思が明らかであったとは認め難いというべきである。 (イ) さらに,法律の解釈は,まず第一に法文の合理的解釈によるべきものであるから,立法者意思も,第一次的には当該法文に表わされた(明文が置かれなかったことも含めて)ところによって探求されなければならない。 a そこで,この点について考えるに,まず,人の権利義務に直接関わる法律は,本来,疑義の残ることがないように明確に規定されるべきことが要請されるというべきである。そのこと自体は,いわゆる侵害領域の立法であると給付領域の立法であるとを問わない。解釈で法律の適用対象を画することになったり,いったん適法・有効に成立している行政処分を当然に失効させたりすることを是 そのこと自体は,いわゆる侵害領域の立法であると給付領域の立法であるとを問わない。解釈で法律の適用対象を画することになったり,いったん適法・有効に成立している行政処分を当然に失効させたりすることを是とするならば,行政による恣意的な運用,ひいては法律による行政の原理にも悖るおそれなしとしないからである。 b 本件についてこれを見ると,被爆者援護法の審議の過程においては,海外に居住する被爆者に対する援護の内容についても質疑・答弁がなされていた。しかも,少なくとも立法技術上は,日本に居住又は現在する者のみを適用対象としたり,これを「被爆者」たる地位の効力存続要件とする旨の明文規定を置いたりすることに格別の困難はなかったはずである。法律の適用やいったん発生した効力の存続要件といった当該立法の目的に関わる基本的な事柄について,専門的・技術的分野の事項でもないのに,これを行政庁の裁量行為に委ねるべき合理的理由も見い出すことはできない。社会保障立法の中には,受給権・受給資格の要件として,日本国内に住所を有することを求めたり(児童手当法4条1項),受給権・受給資格の消滅理由として日本国内の住所の喪失(児童扶養手当法4条2項1号,特別児童扶養手当等の支給に関する法律3条1号)を規定するものも存するのである。 それにもかかわらず,このような点に関する明文規定を置かず,解釈に委ねたというのであるならば,それは立法過程における不備ともいうべきものであり,そこに立法者意思としてとらえるべき積極的意味合いをもたせるのは相当ではないというべきである。 このような観点からするならば,控訴人らが主張するように,明文規定を置かなかった所以が,被爆者援護法が日本に居住も現在もしない者に適用されないことを当然の前提とするものであったとし,いったん適法・有効に「被爆者」たる地 るならば,控訴人らが主張するように,明文規定を置かなかった所以が,被爆者援護法が日本に居住も現在もしない者に適用されないことを当然の前提とするものであったとし,いったん適法・有効に「被爆者」たる地位を取得した者が,その後,日本に居住も現在もしなくなることによって,当然に「被爆者」たる地位を失うということをもって合理的な立法者意思とみることは相当とはいえない。 (ウ) 以上によれば,被爆者援護法の立法者意思は,本件で主たる争点とされている点については明らかであるとはいえず,控訴人らの主張を直ちに採用することはできない。 なお,原爆2法の下では,日本に居住も現在もしない者に対しても,別途,外交ルートを通じて各種検診事業や基金の拠出が実施されてきたことが認められる(乙第22号証,弁論の全趣旨)。しかし,そのこと自体は,政府の法解釈に基づいて行政の立場からそのような取扱いがなされてきたという以上の意味合いはなく,法文の文言に表わされた合理的な立法者意思の探求には影響しないというべきである。このような行政実務の取扱いも上記の認定・判断を動かすものではない。後記のとおり,本訴第一審判決後に厚生労働省によって実施される運びとなった各種の在外被爆者支援事業についても同様である。 エ被爆者援護法の法構造について(ア) 被爆者健康手帳や各種認定の申請時被爆者健康手帳の交付申請時にかかる被爆者援護法2条,各種手当の支給の前提となる都道府県知事の認定に関する被爆者援護法及び同法施行規則の各規定(医療特別手当につき同法24条2項,同法施行規則29条1項,特別手当につき同法25条2項,同法施行規則44条,原子爆弾小頭症手当につき同法26条2項,同法施行規則48条,健康管理手当につき同法27条2項,同法施行規則52条1項,保健手当につき同法28条2項,同法 につき同法25条2項,同法施行規則44条,原子爆弾小頭症手当につき同法26条2項,同法施行規則48条,健康管理手当につき同法27条2項,同法施行規則52条1項,保健手当につき同法28条2項,同法施行規則56条1項)によれば,被爆者健康手帳の交付を申請したり,各種手当支給の前提となる都道府県知事の認定を申請したりする時点では,日本に居住又は現在することが当然の前提となる。 しかし,これらの規定は,「被爆者」たる地位及び各種手当の受給権を取得する際の問題であり,それ自体は,いったん取得した「被爆者」たる地位を失わせる根拠となり得るものではない。 (イ) 各種給付の権利発生時a 被爆者援護法第3章第2節の健康管理及び同第4節の各種手当の支給の実施主体は,都道府県知事とされている。しかし,そのこと自体は,援護の実施主体を定め(平成12年4月1日前は国の機関委任事務とされていた。),所定の援護と援護の実施主体とを連結するための管轄を定めた技術的規定であると認められる。したがって,受給者が日本に居住又は現在していることを当然の前提とするものとはいえない。 また,「被爆者」が他の都道府県の区域に居住地を移したときの届出義務(被爆者援護法施行令3条1項)についても,日本国内における居住地を移動した際,管轄の混乱が生じることを避けるために規定された技術的規定と解することもできるから,これをもって直ちに失権の根拠とすることはできない。その後,改正された被爆者援護法施行令(平成14年4月1日政令第148号),被爆者援護法施行規則(平成14年5月31日厚生労働省令第74号)により,「被爆者」が国外へ居住地を変更する際の届出義務や国内へ居住地を変更した際の届出についても規定が設けられたが(公知の事実),これをもって直ちに失権の根拠とすることができないこと 令第74号)により,「被爆者」が国外へ居住地を変更する際の届出義務や国内へ居住地を変更した際の届出についても規定が設けられたが(公知の事実),これをもって直ちに失権の根拠とすることができないことは同断である。 その他,医療特別手当に関する被爆者援護法施行規則32条や健康保健手当に関する同法施行規則60条の届出義務等が,国外からの届出を予定していない趣旨であるとしても,これらの届出をする際には「被爆者」は日本に現在している必要があるものと解すれば足りる。また,各種援護の中にはこのような届出義務が課されていない手当もあるのであるから,いずれにせよ,これらの規定が,いったん適法・有効に取得した「被爆者」たる地位を当然に失権させる根拠とはなり得ないというべきである。 b 被爆者援護法第3章第3節の医療給付中,同法10条の医療の給付については,厚生大臣(現厚生労働大臣)がその指定した医療機関に委託して,診察(同条2項1号),薬剤又は治療材料の支給(同項2号),医学的処置,手術及びその他の治療並びに施術(同項3号),居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護(同項4号),病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護(同項5号),移送(同項6号)を給付する,こととされている。同法18条の一般疾病医療費についても,都道府県知事により指定された被爆者一般疾病医療機関において医療を受けた場合に,厚生大臣がその費用の支給を行う,こととされている。 これらの各給付については,日本に居住も現在もしない者に対する給付は予定されていない。それは,給付の前提として,指定医療機関及び被爆者一般疾病医療機関の指定及び監督の問題があり,国家主権に由来する対他国家不干渉義務に反するおそれがあること,また,わが国以外ではその実施が事実上困難であ れは,給付の前提として,指定医療機関及び被爆者一般疾病医療機関の指定及び監督の問題があり,国家主権に由来する対他国家不干渉義務に反するおそれがあること,また,わが国以外ではその実施が事実上困難であることによるものと解される。 しかし,「被爆者」たる地位に基づく権利は,医療給付の受給に尽きるものではないから,医療給付が受けられないとの一事をもって「被爆者」たる地位が失われるということにはならないというべきである。 なお,同法17条,18条は,指定医療機関以外の者から医療を受けた場合,あるいは,被爆者一般疾病医療機関以外の者から医療を受けた場合にも,医療費の支給,一般疾病医療費の支給がなされることを定めている。しかし,これは緊急その他やむを得ない場合の応急の措置であるから,一般的に日本に居住も現在もしない「被爆者」に対する医療給付が行われるべきであるとの根拠になるものではない。 (ウ) 「被爆者」たる地位と各援護との関係a 被爆者援護法は,1条各号の要件に該当する者で2条の規定に従い被爆者健康手帳の交付を受けたものを「被爆者」と定義し,その「被爆者」に対し,同法第3章に規定する各種の援護を実施する構造になっている。したがって,各援護は,「被爆者」であるが故に当然に実施されるものではなく,「被爆者」が各援護に関する所定の要件を充たす場合に実施されるものである。 控訴人らは,「被爆者」が日本に居住又は現在することを予定した規定があるのに,日本に居住も現在もしていない者に対する適用を予定した規定がないことは,このような者がそもそも同法の適用対象には含まれていないことの何よりの証左であると主張する。 確かに,各援護の主要部分について要件をおよそ充たし得ない者や援護の実施がおよそ不可能な者には,そもそも「被爆者」たる地位そのものがない(あるいは まれていないことの何よりの証左であると主張する。 確かに,各援護の主要部分について要件をおよそ充たし得ない者や援護の実施がおよそ不可能な者には,そもそも「被爆者」たる地位そのものがない(あるいは当然に失う)とする解釈もできないではない。 しかし,同法第3章の各援護の内容・性質はそれぞれ異なるもので,国家主権による制限のほか,立法技術上の困難性や実施上の困難性などの観点からいかなる制限が生じるのか,個別的・具体的な考慮が必要となる。「被爆者」たる地位と各援護を受け得る可能性とを必然的に不可分一体のものとして解さなければならないものではなく,「被爆者」たる地位にあっても,各種援護の内容・性質からその援護を事実上実施できなくなる事態も観念し得るというべきである。 また,これらの日本国内に居住又は現在することを前提とした規定により,その当否はさておき,国外の「被爆者」が各援護の実施を受けることができない事態が発生することがあり得るとしても,そのこと自体は,専ら「被爆者」側の事情や都合によるものである。同法上の各援護を享受できない「被爆者」があるからといって,その者が「被爆者」として同法上の権利主体たり得ないと解するのは本末転倒との誹りを免れない。 b 控訴人らは,被爆者援護法上,被爆者に対する最も基本的な援護は医療給付であり,各種手当の支給は,それだけでは十分でないと考えられる者に対する補完的,上乗せ的な援護であるから,医療給付を受けることが全く予定されていない在外被爆者が各種手当の支給のみを受けるという事態は,同法の給付体系を無視するものであると主張する。 しかし,同法第3章に規定する各種の援護のうち,治療期間中に支給されると明記されている手当は医療特別手当だけであり(同法24条),他の諸手当では治療中であることが要件とはなっていない と主張する。 しかし,同法第3章に規定する各種の援護のうち,治療期間中に支給されると明記されている手当は医療特別手当だけであり(同法24条),他の諸手当では治療中であることが要件とはなっていない。例えば,保健手当(同法28条)を受給するためには,健康状態とは無関係に爆心地から2キロメートル以内で被爆したことが証明できれば診断書は必要とされていないし,特別手当(同法25条)は原爆症認定患者がその治癒後にも受給し得る。原爆小頭症手当(同法26条)はその旨診断されれば治療の要否を問わずに支給されるし,特別葬祭給付金(同法33条)に至っては医療行為とは全く無関係に支給される性格のものである。 健康管理手当(同法27条)についてみても,省令で定める障害を伴う疾病にかかっている者に対して支給するところから,指定医の健康診断書は必要とされてはいるけれども(同法施行規則51条,52条),医療給付を前提としているものではない。その趣旨は,放射能との関連性を明確に否定できない疾病にかかっている者について,日常十分に健康上の注意を払う必要があるため,このような健康管理に必要な出費に充てることを給付の本旨とするものである。そうであるならば,当該要件を充たす「被爆者」にとっては,まずは医療給付を受けることが望ましいけれども,日本に居住も現在もしないためにそれが叶わなくとも,少なくとも健康管理手当を受給し,日常の健康管理に努める意義を否定することはできない。 「被爆者」が,日本に居住も現在もしないことにより,事実上,医療給付を受けられない状況にあるからといって,このことは健康管理手当の支給を否定する根拠とはならないというべきである。 c 控訴人らは,原爆医療法に基づく医療給付が日本国内のみで受給し得るものであったところから,同法の追加支援策として制定された原爆 とは健康管理手当の支給を否定する根拠とはならないというべきである。 c 控訴人らは,原爆医療法に基づく医療給付が日本国内のみで受給し得るものであったところから,同法の追加支援策として制定された原爆特別措置法やこれら原爆2法を一本化した被爆者援護法についても在外被爆者を適用対象とするものではないと主張する。 確かに,原爆医療法においては,医療という給付の性質上,日本に居住も現在もしない者に対する支給は予定されていなかった。原爆特別措置法において追加された各種手当の給付についても,行政実務においては同様の取扱いがなされてきた(乙第22号証,第25号証の2,弁論の全趣旨)。 しかし,被爆者援護法においては,被爆後50年を迎えるに当たり,① その前文に「国の責任において」という文言が明記され,② 各種手当の所得制限規定が全廃され,③ 原爆死没者に対する特別葬祭給付金が新設されるなど,原爆2法の国家補償的性格と人道的目的をより強化する方向で一本化されたものと見るのが相当である。 そうであるならば,被爆者援護法に原爆2法を継受した経緯があるからといって,従前の取扱いに拘泥しなければならないものではない。少なくとも,その経緯が,いったん適法・有効に「被爆者」たる地位を取得した者について,日本に居住も現在もしなくなることにより当然にその地位を失うと解すべき合理的理由になるものとはいえない。 (エ) 以上によれば,被爆者援護法の各種規定も,控訴人らの主張を裏付けるべき根拠とはなり得ないというべきである。 オ P1判決について(ア) 控訴人らは,最高裁判所は,P1判決において,日本に居住も現在もしない者に対しては原爆医療法の適用がないことを明らかにしており,これは被爆者援護法においても同様であると主張する。 しかし,P1判決は,日本に不法入国した在 ,P1判決において,日本に居住も現在もしない者に対しては原爆医療法の適用がないことを明らかにしており,これは被爆者援護法においても同様であると主張する。 しかし,P1判決は,日本に不法入国した在韓被爆者について,現在する理由のいかんを問わず,原爆医療法の適用があると判断した事案であり,「被爆者であってわが国内に現在する者である限りは」との判示もその限りのものである。これを反対解釈して,わが国に現在しない被爆者には原爆医療法の適用がないと判断したということはできない。 また,「不法入国した被爆者が短期間しか同法の給付を受けられない場合があるとしても」との説示についても,行政庁の主張を前提としてもという仮定の表現であるし,そもそも,性質上,原爆医療法上の医療給付を日本に居住も現在もしない者に実施することはできないのであるから,いずれにせよ,その説示をもって,被爆者援護法上,日本に居住も現在もしなくなることによって当然に「被爆者」たる地位を失うという解釈の根拠とすることはできない。 (イ) 控訴人らの主張は採用できないものというべきである。 カ本訴第一審判決後の施策について(ア) 厚生労働省は,平成13年12月,厚生労働大臣が主宰する「在外被爆者に対する検討会」の報告を踏まえ,次の措置を講じるとともに,被爆者健康手帳等在外被爆者の取扱いに関して,法令上の規定の整備を行うこととしたことが認められる(甲第82号証ないし第100号証,乙第23号証の1ないし6,第25号証の1,2。その後,被爆者援護法施行令〔平成14年4月1日政令第148号〕,同施行規則〔平成14年5月31日厚生労働省令第74号〕により「被爆者」が海外に移住する場合の届出規定等が整備された〔公知の事実〕。)。 a 概ね3年以内にすべての在外被爆者が渡日して被爆者健康手帳の発行を受 則〔平成14年5月31日厚生労働省令第74号〕により「被爆者」が海外に移住する場合の届出規定等が整備された〔公知の事実〕。)。 a 概ね3年以内にすべての在外被爆者が渡日して被爆者健康手帳の発行を受けることができることとし,渡日できない者に対しても申請に基づき被爆の事実確認を行うことb 在外被爆者に対する支援事業として,① 来日を希望する者に対する事前の受入準備や行政機関との連絡調整,② 経済的事情から来日が困難である者への旅費等の補助,③ 滞在中の医療機関のあっせん,各種手続等に関する相談,④ 離日に係る各種手続等に関する連絡調整,⑤ 帰国後における各種の情報提供,相談,⑥ 原爆医療に関する医師等の研修受入,医師の派遣等,⑦ その他在外被爆者の健康保持のための事業等を実施すること(イ) しかし,これらの措置には,「在外被爆者に関する検討会」が,人道上の見地から在外被爆者の援護に関して今後どのような施策を講じることができるかを検討した結果に基づき,厚生労働省が従前の行政実務を前提として,新たな施策を打ち出したものという以上の意味合いはない。これらの事情をもって,被爆者援護法上,日本に居住も現在もしなくなることにより当然に「被爆者」たる地位を失うという解釈の根拠とすることはできないというべきである。 キ以上アないしカで検討したところを総合勘案するならば,被爆者援護法の法的性格,立法者意思,法律全体の法構造のいずれをみても,その旨の明文規定がないにもかかわらず,いったん適法・有効に「被爆者」たる地位を得た者が,日本に居住も現在もしなくなることにより,その適用対象から外れ,当然に「被爆者」たる地位を喪失するという解釈を合理的なものとして是認することはできない。 同法に国籍条項を置かなかった以上,適用対象となり得る外国人が日常の生活関係に より,その適用対象から外れ,当然に「被爆者」たる地位を喪失するという解釈を合理的なものとして是認することはできない。 同法に国籍条項を置かなかった以上,適用対象となり得る外国人が日常の生活関係において日本に居住も現在もしないことは通常予想される事態である。したがって,その合理的解釈に当たっても,「被爆者はどこにいても被爆者」という事実を直視せざるを得ないところである。控訴人らの主張は採用できない。 2(1) 「被爆者」たる地位の確認について前記1で検討したところによれば,被控訴人が日本に居住も現在もしなくなったとしても,当然には「被爆者」たる地位を喪失しないことになる。したがって,被控訴人の請求中,被控訴人と控訴人国との間で,被控訴人が被爆者援護法1条1号に定める被爆者たる地位にあることの確認を求める請求は理由がある。 (2) 健康管理手当の支給についてア被控訴人が「被爆者」たる地位を喪失していないとしても,健康管理手当の受給権の有無については,さらに所定の要件を充たしているかどうかの検討が必要となる。 イ健康管理手当は,「被爆者」であって,造血機能障害,肝臓機能障害その他の厚生省令で定める障害を伴う疾病にかかっているものに対して支給される金員であり,支給を受けるに当たっては,都道府県知事の認定を受け,その際,都道府県知事が当該疾病が継続すると認められる期間を定めることとされている(被爆者援護法27条1項ないし3項)。その期間は,疾病の種類ごとに厚生大臣(現厚生労働大臣)が定める期間内で定められ,造血機能障害を伴う疾病のうち鉄欠乏症貧血及び潰瘍による消化器機能障害を伴う疾病については3年,その余の疾病については5年と定められている(平成7年6月23日厚生省告示第127号)。そして,その認定に当たっては,原則として,被爆者援護法1 び潰瘍による消化器機能障害を伴う疾病については3年,その余の疾病については5年と定められている(平成7年6月23日厚生省告示第127号)。そして,その認定に当たっては,原則として,被爆者援護法19条1項の規定により都道府県知事によって指定された被爆者一般疾病医療機関の診断書を添えることが要求されている(同法施行規則52条1項)。 これらの規定を前提とするならば,健康管理手当の支給の開始に当たっては,わが国に居住又は現在することが必要であると解されるが,認定後になされる援護の内容は金員の給付であるから,性質上当然にわが国に居住又は現在することが要求されるものではない。確かに,わが国に居住も現在もしない者への支給の具体的な方法を定めた規定は存在しないけれども,これを明確に排除する規定もない。そして,前記のとおり,戦争被害に関する他の補償立法である遺族等援護法においては,海外送金の手続規定がなくても実際に海外送金が行われていることに照らすならば(甲第28号証,第75号証,弁論の全趣旨),健康管理手当については,わが国に居住も現在もしない「被爆者」に対しても支給されるべきものと認めるのが相当である。 ウところで,健康管理手当については,被爆者援護法27条1項の要件に該当しなくなったときは,受給権者に失権の届出を義務づけ(同法施行規則54条,39条),また,都道府県知事は,同条項の要件に該当しなくなった受給権者に対し,その旨通知しなければならない(同法施行規則54条,40条),とされている。 これらの規定を適切に機能させるためには,都道府県知事において,書面審査のみならず,受給権者からの聞き取りなどの調査が必要となり,その限度で,日本に居住も現在もしない「被爆者」に健康管理手当を支給する場合には,その支給の適正を害するおそれがないではない。 て,書面審査のみならず,受給権者からの聞き取りなどの調査が必要となり,その限度で,日本に居住も現在もしない「被爆者」に健康管理手当を支給する場合には,その支給の適正を害するおそれがないではない。 しかし,都道府県知事は,健康管理手当の支給を開始するに際し,厚生大臣(現厚生労働大臣)の定める期間内で当該疾病が継続すると認められる期間を定め,その期間が満了する日の属する月で支給は終わるのであるから(同法27条5項),そのような弊害の生じるおそれは少ないというべきである。 エ以上によれば,控訴人大阪府が,被控訴人の「被爆者」たる地位について失権の取扱いとし,平成10年8月分以降の健康管理手当の支給を停止したことには法律上の根拠がなく,被控訴人には,平成10年8月分以降の健康管理手当を受給する権利がある。 よって,被控訴人の請求中,平成10年8月分以降の健康管理手当の支給を求める請求は理由がある(その履行期は毎月末日限りとするのが相当である。)。 3 国家賠償請求について(1) 国家賠償法1条1項は,公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して,故意又は過失によりその国民に損害を加えたときに,国等が賠償責任を負うことを規定したものである。 ところで,通達は,全国的に解釈運用を統一する必要等に応じてなされているものであり,行政実務上,通達に反する行為を実施者に期待することは事実上不可能である。したがって,通達に基づく取扱いについては,当該通達が違法であったとしても,直ちに実施行為者に故意又は過失があると認めるのは相当でない。これが公務員の故意又は過失に基づく違法行為と評価されるためには,当該通達の内容が上位規範に明白に反するとか,行政実務上一般的に異なる取扱いがなされていたとかいう特別の事情を要すると解するのが相当である。 公務員の故意又は過失に基づく違法行為と評価されるためには,当該通達の内容が上位規範に明白に反するとか,行政実務上一般的に異なる取扱いがなされていたとかいう特別の事情を要すると解するのが相当である。 (2) これを本件についてみると,大阪府知事による失権の取扱いの根拠となった402号通達は,158号通知により被爆者援護法においても有効なものであって,大阪府知事はそれに従ったものである。 確かに,402号通達が同法の合理的な解釈として是認できない部分があることは否めないが,控訴人らの主張する原爆2法及び被爆者援護法の法的性格,立法者意思,法律全体の法構造などを総合的に検討すれば,その解釈にも一応の論拠がないわけではなく,402号通達が同法の規定に明白に反しているとまではいい難い側面がある。 しかも,行政実務上は,全国的に「日本に居住又は現在しない被爆者は失権の取扱いとする」旨の統一的な対応がとられていたのである(弁論の全趣旨)。 (3) そこで,さらに,控訴人らにおける違法性の認識について検討する。 ア弁論の全趣旨によれば,当時の厚生省(現厚生労働省)が402号通達を立案したのは,原爆2法の法文にだけ依拠したものではなく,その法的性格,立法者意思,法律全体の法構造などを総合的に検討した結果であることが認められる。そして,前記説示のとおり,そのような解釈にも一応の論拠がないとはいえない。したがって,当時の厚生省(現厚生労働省)が在外被爆者について権利喪失の明文規定がないことを認識していたからといって,直ちに402号通達の立案について違法性の認識があったとすることはできない。 また,本件全証拠によるも,当時の厚生省(現厚生労働省)が,P1判決の第一審判決を受けて,在韓被爆者からの被爆者健康手帳の交付申請が増加することを危惧し,その適用を制限 ったとすることはできない。 また,本件全証拠によるも,当時の厚生省(現厚生労働省)が,P1判決の第一審判決を受けて,在韓被爆者からの被爆者健康手帳の交付申請が増加することを危惧し,その適用を制限するために402号通達を発出したと認めるに足りないし,これを推認させるに足りる事情も見い出し難い。 イ被控訴人は,当時の厚生省(現厚生労働省)は,P1判決が原爆医療法について国家補償的配慮が制度の根底にあり,被爆による健康上の障害の特異性と重大性のゆえにその救済について内外人を区別すべきではないと判示したことを認識し,その趣旨を容易に理解し得たから,402号通達の違法性はますます明らかなものとなったと主張する。 確かに,同法の制度の根底には国家補償的配慮が存するけれども,その趣旨をいかなる範囲・程度・方法で実現するかは,個別的・具体的な立法政策に属する事柄である。したがって,当時の厚生省(現厚生労働省)が,被爆者の救済について402号通達のような考え方を採ったからといって,前記説示のとおり,そのような解釈にも一応の論拠がないではない以上,違法性の認識が明らかになったということはできない(ちなみに,402号通達自体は内外人を区別する内容とはなっていない。)。 ウ被控訴人は,原爆2法が一本化されて被爆者援護法が制定された段階に至っても,いったん被爆者健康手帳を取得した被爆者が日本国外に出る場合の取扱いが恣意的に運用されてきたのは,当時の厚生省(現厚生労働省)が,法令と402号通達との間に齟齬があることを認識していたからであると主張する。 確かに,甲第6号証,第11号証,第15号証ないし第22号証,第46号証ないし第49号証,証人P6及び同P7の各証言(いずれも原審)と弁論の全趣旨によれば,在外被爆者のわが国における滞在期間の確認業務については 6号証,第11号証,第15号証ないし第22号証,第46号証ないし第49号証,証人P6及び同P7の各証言(いずれも原審)と弁論の全趣旨によれば,在外被爆者のわが国における滞在期間の確認業務については,被爆者健康手帳の表紙裏に手帳の有効期間を書き込んだり,滞在予定期間を記入したりするなど,その取扱いには変遷が認められる。しかし,この取扱いは滞在期間を把握するための技術的なものであるから,その変遷をもって,被爆者が日本国外に出る場合の権利の得喪それ自体について恣意的に運用したものとはいえない。 また,被控訴人が指摘するように,日本に居住も現在もしない被爆者について被爆者援護法上の各種手当を受けることができた例があったとしても,それは本来支給できない手当が過誤払いされたものともみることができるから(甲第6号証ないし第8号証,第11号証。ただし,特別葬祭給付金については,一回的給付であることの性質上,いったん適法・有効に支給決定がなされれば,履行の段階で日本に居住も現在もしなかったとしても過誤払いの問題は起こらないというべきである。),これを直ちに恣意的取扱いの証左とすることは相当でない。 なお,被控訴人は,平成12年8月ころ,広島在住の「被爆者」が韓国を一時的に訪問したのに「被爆者」たる地位を失い,帰国後新たに「被爆者」の認定申請を余儀なくされたとし,居住地を有する「被爆者」でも出国すれば「被爆者」たる地位を失う実例があると主張する。しかし,甲第54号証,乙第21号証と弁論の全趣旨によれば,このような取扱いは,被爆者自身が意図的に被爆者健康手帳を返納したことによるものであることが認められるから,恣意的な取扱いと評することはできない。 結局,行政実務の取扱いは,その当否はともかくとして,日本に居住も現在もしない者には原爆2法をはじめ被爆者援 したことによるものであることが認められるから,恣意的な取扱いと評することはできない。 結局,行政実務の取扱いは,その当否はともかくとして,日本に居住も現在もしない者には原爆2法をはじめ被爆者援護法の適用はないということで一貫しており,402号通達もこのことを確認的に示達しているのであるから,そこに恣意的な運用を認めることはできない。被控訴人の前記主張は前提を欠くものといわざるを得ない。 エ被控訴人は,大阪府知事が本件で失権の取扱いをした当時,402号通達が被爆者援護法の人道的目的と真っ向から反するものであることは容易に認識できたはずであると主張する。 確かに,同法は人道的見地から被爆者の救済を図るという側面を有するけれども,いかなる範囲・程度・方法によりその目的を達するかは,個別的・具体的な立法政策に属する事柄である。当時の厚生省(現厚生労働省)が,被爆者の救済について402号通達のような考え方を採ったからといって,前記説示のとおり,そのような解釈にも一応の論拠がないではない以上,違法性の認識が容易であったということにはならない。 なお,被控訴人は,大阪府知事による失権の取扱いが402号通達にすら違反する違法性の強いものであったと主張する。しかし,大阪府知事の行為は同法の執行であるから,法規範性を有しない402号通達に違反するかどうかを問題としても失当というほかない。 オ以上によれば,控訴人らに国家賠償法1条1項の故意又は過失を認めることはできない。 (4) よって,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人の国家賠償請求は理由がない。 4 結論以上によれば,被控訴人の,(1) 控訴人国との間で被控訴人が被爆者援護法上の被爆者たる地位にあることの確認を求める請求は理由があるからこれを認容すべきであり,(2) 控訴人大 がない。 4 結論以上によれば,被控訴人の,(1) 控訴人国との間で被控訴人が被爆者援護法上の被爆者たる地位にあることの確認を求める請求は理由があるからこれを認容すべきであり,(2) 控訴人大阪府に対する請求は,17万0650円及び平成11年1月から平成15年5月まで毎月末日限り3万4130円の支払を求める限度で理由があるからその限度でこれを認容すべきであるが,その余は理由がないからこれを棄却すべきであり(当審において追加された控訴人国に対する健康管理手当の支払請求は,控訴人大阪府に対する健康管理手当の支払請求と選択的な関係にあるから,重ねて判断する要をみない。),(3) 控訴人らに対する国家賠償請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきである。 よって,原判決は相当であって,本件控訴及び附帯控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,控訴費用及び附帯控訴費用の各負担につき民訴法67条1項,61条,65条1項を適用して,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第九民事部裁判長裁判官根本眞裁判官鎌田義勝裁判官松田亨

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