主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告らは,原告に対し,各自3000万円及びこれに対する被告Bにつき平成11年9月9日から,被告Cにつき同月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,傷害罪で逮捕・勾留・起訴され,第1審で有罪判決を受けたものの,控訴審では無罪となった原告が,無実であるにもかかわらず身柄拘束を受け公判請求されたのは,被告らが捜査機関に原告が犯人である旨の虚偽の供述を行ったためであるとして,被告らに対し,民法709条,710条に基づき慰謝料を請求した事件である。 1 争いのない事実等(証拠の掲記のない事実は,争いのない事実である。)(1) 平成8年12月13日午前3時ころ,神奈川県厚木市ab丁目d番e号Pビル地下1階にあるパブレストラン「J」店内において,暴力団員数名が,店長の被告Bに対し暴行を加え,傷害を負わせるという事件が発生した(以下「本件事件」という。)。 被告Cは,このときJでカウンター及びホールを担当していた従業員であり,本件事件を目撃していた。 (2) 原告は,平成9年5月29日,本件事件の犯人として逮捕され,同年6月18日に起訴され(丙1),平成10年7月6日に横浜地方裁判所小田原支部において有罪判決を受けたが(甲45),これを不服として控訴したところ,平成11年3月19日に東京高等裁判所において無罪判決を受け(甲1),同判決は確定した。 これら刑事手続において,原告は,平成9年5月30日から平成11年2月2日までの間勾留され(弁論の全趣旨),勾留開始後平成10年4月28日までは弁護人以外の者との接見を禁止されていた(甲44)。 (3) 被告らは,本件事件 原告は,平成9年5月30日から平成11年2月2日までの間勾留され(弁論の全趣旨),勾留開始後平成10年4月28日までは弁護人以外の者との接見を禁止されていた(甲44)。 (3) 被告らは,本件事件の捜査に際し,捜査機関に対し,原告が本件事件の犯人である旨の供述をした。 2 争点(1) 被告Cは,原告が本件事件の犯人であるかについて記憶が曖昧であるにもかかわらず,これを間違いないものとして供述したか。 (原告の主張)被告Cは,原告の本件事件への関与について具体的に供述ができなかったが,それは,本件事件時に原告を十分目撃できる位置にいなかった上,本件事件発生前から原告と接する機会があったことなどから,原告が本件事件に関与したかについての記憶が曖昧だったからである。それにもかかわらず,被告Cは,本件事件の5か月も後に原告を本件事件の犯人として断定し,その後も同様の供述を維持した。 (被告Cの主張)被告Cは,本件事件の捜査や公判の各段階において,その時点における自己の記憶を率直に話したのであり,曖昧な記憶を間違いないものとして供述したことはない。 (被告ら補助参加人の主張)ア無罪判決が確定した刑事被告人が,自己が有罪であるとの供述・証言を行った者に対し損害賠償を請求することができるのは,当該刑事被告人が当該事件に関与していないことが明らかであり,かつ供述者あるいは証言者がそのことを認識した上でこれと異なる虚偽の事実を供述・証言したような場合に限られるべきである。 しかしながら,本件事件について原告が受けた無罪判決は,原告が本件事件に関与していなかったと断定したものではない。 イ被告Cの捜査段階における供述は具体的かつ詳細である。 一方,刑事公判廷における証言は必ずしも詳細ではないが,これは時間の経過による記憶の後退や,検察官の尋 いなかったと断定したものではない。 イ被告Cの捜査段階における供述は具体的かつ詳細である。 一方,刑事公判廷における証言は必ずしも詳細ではないが,これは時間の経過による記憶の後退や,検察官の尋問が不十分であったことが影響した結果である。 原告主張の事情は,被告Cの供述及び証言の信用性を減殺するものに過ぎず,記憶に反するものであることの根拠とはならない。 (2) 被告Bは,捜査機関に対し,原告が本件事件の犯人でないと記憶していたにもかかわらず,これと異なる供述をしたか。 (原告の主張)被告Bは,原告が本件事件の犯人ではないと記憶しており,刑事公判廷においてもその旨証言しているにもかかわらず,捜査段階においては,被告Cの言葉を信用して,原告が途中から暴行に加わったとの,自己の記憶と異なる供述をした。 (被告Bの主張)被告Bは,本件事件の捜査や公判の各段階において,その時点における自己の記憶を率直に話したのであり,あえて虚偽の供述を行ったことはない。 (被告ら補助参加人の主張)ア (1)の(被告ら補助参加人の主張)アと同じ。 イ被告Bは,刑事公判廷において,暴行を加えた者の中に原告がいたかについては肯定も否定もしていないのであって,原告が暴行に加わっていないとの証言はしておらず,実際そのような認識も有していなかった。 (3) 因果関係(原告の主張)原告は,被告らが虚偽の供述を行った結果,被疑者あるいは被告人として違法な身体の拘束を受けたものである。 (被告ら補助参加人の主張)被疑者の逮捕・勾留・公判請求は,警察官,検察官及び裁判官が独自の判断で行うことであるし,被告人としての身柄拘束は刑事手続上通常予定されるところであるから,原告の身柄拘束と被告らの捜査機関に対する供述あるいは刑事公判廷における証言との間に因果関係はない。 自の判断で行うことであるし,被告人としての身柄拘束は刑事手続上通常予定されるところであるから,原告の身柄拘束と被告らの捜査機関に対する供述あるいは刑事公判廷における証言との間に因果関係はない。 (4) 損害額(原告の主張)被告らの不法行為により原告が被った精神的損害は,3000万円を下らない。 (被告ら及び被告ら補助参加人の主張)争う。 第3 争点に対する判断 1 本件事件の発生と捜査の経過証拠(甲6,8,14ないし18,21ないし24,34ないし37,被告B本人,被告C本人,以下個別に掲記した証拠)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 平成8年12月13日午前0時30分ころ,原告を含む,暴力団K組L会M組N総業(以下「N総業」という。)の関係者約15名が,客としてJを訪れた。同人らのうち,D及びEは,以前にもJを利用したことがあったが,原告自身は初めての利用であった。 このときJにいた客はN総業関係者のみであるところ,同人らの注文をとったり,食事や飲み物を運んだりしていたのは,被告Cである。 (2) 同日午前3時ころ,被告Bは,N総業の後援会(会費名目で,金銭を徴収することを目的とする。)への加入を断ったことを理由に,EやFら数名から,約5分間にわたって殴る蹴るの暴行を受け,傷害を負った。被告Cは,この状況を,厨房担当のG及び厨房並びにカウンター担当のHとともに,現場から約7メートル離れたカウンターの内側から目撃していた(甲33)。 (3) 同年12月16日,被告Bは病院へ行き,本件事件の際に受傷した傷の治療を受け,診断書を取得した(甲20)。しかしながら,被告Bは,本件事件を警察沙汰にすることで,顔見知りであるDのN総業内での立場が悪くなることを慮り,被害届を出すことはしなかった。 (4) の治療を受け,診断書を取得した(甲20)。しかしながら,被告Bは,本件事件を警察沙汰にすることで,顔見知りであるDのN総業内での立場が悪くなることを慮り,被害届を出すことはしなかった。 (4) 平成9年1月31日,I巡査は,知人から本件事件を聞きつけ,同年2月10日,被告Bに会って本件事件の裏付けをとり被害届の提出を受けようと,Jに赴いた。しかし,被告Bは不在であり,G,H及び被告Cの3名は,被告Bより先に本件事件について話すのを憚ってか,被告Bが暴力団員から暴行を受けたという程度の大まかな話しかしなかった。 そのため,I巡査は,その日のうちに被告Bを呼び出し,犯人の1人がQというL会の構成員であること,その他20代前半の2,3人の男からも暴行を受けたことなどを聞き出した上,被害届を出すよう依頼した。しかし,被告Bは,相手が暴力団員であること,もう終わった事件であること,Jの従業員にも迷惑がかかることなどを理由に,これを拒んだ。 (5) 同年3月ころ,I巡査は被告Bに電話をかけ,被害届を提出してくれるか尋ねたが,被告Bはもう少し待ってほしいとして,被害届を提出しなかった。 もっとも,I巡査は,この間も本件事件の捜査を行っており,犯人の1人がEであることを突きとめていた他,4月に入ってからは,従前の事情聴取の結果本件事件を最もよく目撃していると考えた被告Cの自宅を訪れ,さらに詳しい話を聞こうとした。しかしながら,被告Cは,被告Bが被害届を出すまでは積極的に話ができないとして,本件事件について話をすることはなかった。 (6) この後も,I巡査は,被告Bに対し,電話や面談で重ねて被害届提出を依頼し,あるいは他の警察官とともに説得を行うなどの努力を続けたところ,被告Bは,警察が暴力団からの報復がないことを確約するならとして,同年5月16日 は,被告Bに対し,電話や面談で重ねて被害届提出を依頼し,あるいは他の警察官とともに説得を行うなどの努力を続けたところ,被告Bは,警察が暴力団からの報復がないことを確約するならとして,同年5月16日になってようやく被害届を提出した(甲19)。 2 争点(1)(被告Cは,原告が本件事件の犯人であるかについて記憶が曖昧であるにもかかわらず,これを間違いないものとして供述したか。)について(1) まず,本件事件の捜査及び公判の各段階における被告Cの一連の供述ないし証言(甲21ないし24)をみてみると,被告Cは,捜査機関に対しても,刑事公判廷においても,一貫して原告が本件事件の犯人であるとはっきり述べている。 また,被告Cは,本件事件に係る最初の取り調べの際,写真での面割りで,暴行に加わった者を特定した他,暴行に加わったが写真帳には載っていない者,写真帳には載っているが現場にいただけで暴行に加わっていない者,写真帳には載っているが現場に来ていなかった者をはっきり区別して供述しており(甲6,23),この事実は,被告Cの記憶が曖昧ではなかったことを窺わせるものである。 (2) 確かに,被告Cの捜査機関に対する供述及び刑事公判廷における証言は,本件事件において原告が加えたとする暴行の内容,原告の容貌や服装などについて曖昧であり,原告の本件事件に係る刑事控訴審判決においても,その信用性に合理的疑いを容れる余地があるとされたところである(甲1)。 しかしながら,一般に,複数の犯人が一度に集団で加えた暴行のうち,誰がどのような行為をしたかという具体的な行為の内容は,その集団の中に特定の人物がいたかどうかに比して,記憶することが遙かに困難な事項と考えられる。特に,上記認定のとおり,本件事件は,被告Bが約5分間という短時間のうちに殴る蹴るの暴行を受け,いわ は,その集団の中に特定の人物がいたかどうかに比して,記憶することが遙かに困難な事項と考えられる。特に,上記認定のとおり,本件事件は,被告Bが約5分間という短時間のうちに殴る蹴るの暴行を受け,いわば袋叩きにあったという事件であるから,被告Cが個々の犯人の行為を識別するのは相当困難であったはずである。実際,被告Cは,原告のみならず,本件事件の犯人として有罪判決の確定したE及びFを含む他の犯人が加えた暴行についても,その具体的な内容を供述できていない(甲21ないし23)。 一方,原告が本件事件発生前にJにいたことは明らかであり,上記認定のとおり,被告Cは,本件事件発生前までN総業関係者のみが来店しているJ内で同人らの接客をしていたのであるから,その際に原告の顔を覚え,原告が暴行に加わっていたことだけは確実に記憶していたことは十分考えられる。被告Cは,原告の顔ははっきり覚えているといいながら,原告の外見的特徴について,捜査機関に対しても刑事公判廷においても具体的に供述できていないが,特徴を具体的に記憶していなくても写真あるいは実物を見て「見覚えがある」と感じることは,決して不自然なことではない。 以上のとおり,被告Cが原告が加えた暴行の内容,原告の容貌や服装などについて曖昧な供述しかできなかったことは,必ずしも原告が犯人であるとの被告Cの記憶までが曖昧であったことを意味するものではない。 (3) さらに,本件事件の一目撃者に過ぎず,原告を見たのも本件事件当日が初めてである被告Cが,他の目撃者が原告が本件事件に関与していることについて供述できておらず,他者の供述に迎合する必要もない中で,暴力団員であり,お礼参りを受ける可能性もある原告が犯人であるかどうかについて,曖昧な記憶をあえて間違いないものとして供述する理由はないことからすれば,被告 らず,他者の供述に迎合する必要もない中で,暴力団員であり,お礼参りを受ける可能性もある原告が犯人であるかどうかについて,曖昧な記憶をあえて間違いないものとして供述する理由はないことからすれば,被告Cが,この点について,曖昧な記憶を確実なものとして述べたことを認めるに足りる証拠はないものというべきである。 (4) 以上によれば,被告Cには不法行為の要件である権利侵害についての故意又は過失がないから,被告Cが捜査機関に対してした供述及び刑事公判廷においてした証言を不法行為ということはできない。 3 争点(2)(被告Bは,捜査機関に対し,原告が本件事件の犯人でないと記憶していたにもかかわらず,これと異なる供述をしたか。)について(1) 被告Bの捜査段階における本件事件の犯人についての供述内容を順を追ってみると,Q及び他の仲間の2,3人(平成9年5月16日付け被害届),3,4人のやくざ風の男たち(同日付け実況見分調書),3,4人であり,間違いなく3人は覚えているが,もう1人の若い男がいたような気がする(同月19日付けの司法警察員に対する供述調書。なお,このとき写真による面割りが行われているが,原告を犯人として特定できていない。),Eを含めた4人の男たち(同年6月5日付けの検察官に対する供述調書),(面通し後)Aは途中から暴行を加えてきた男である(同月16日付けの司法警察員に対する供述調書)となっており,原告の起訴後に検察官に対してされた,犯人の顔もはっきり覚えており,原告とFは犯人に間違いない(同年9月5日付けの検察官に対する供述調書)という供述も含め,徐々に供述内容が明確になり,最終的には原告が犯人である旨確定的に供述するものとなっている(甲15ないし19,32)。 しかしながら,被告Bは,原告が犯人に間違いないと検察官に供述したわずか め,徐々に供述内容が明確になり,最終的には原告が犯人である旨確定的に供述するものとなっている(甲15ないし19,32)。 しかしながら,被告Bは,原告が犯人に間違いないと検察官に供述したわずか4日後の,同年9月9日に開かれた本件事件の刑事公判廷においては,上記供述を覆し,本件事件の犯人について,捜査段階では被告Cの言葉を信じて4人と話したが,自分の記憶では3人であり,暴行を受けているとき周りに原告がいたかどうかもはっきりしないという趣旨を証言したものである(甲14)。 (2) 被告Bは,その本人尋問において,本件事件の犯人は終始3,4人であったとの記憶であり,上記証言も,本件事件の犯人は少なくとも3人はいたとの趣旨であった旨供述する。 しかしながら,被告Bは,刑事公判廷において,捜査段階では暴行をしたのは4人と述べていることも指摘した上で重ねて証言の趣旨を確認する検察官に対し,何らの留保もすることなく,自分としては3人というのがはっきりした記憶である旨答えており,犯人が4人であるとの記憶ではなかったことを明言しているといえる。 また,暴行を受けているときにも周りの状況は把握でき,自分の周りにいたのは3人であるとの刑事公判廷における証言を,接着していたのは3人との趣旨であると供述するが(被告B本人),原告も暴行を加える際には接着するはずであるから,この供述を前提とすれば,被告Bが,原告が暴行に加わったことを,いつどのように認識したのかは不明といわざるを得ない。 このように,被告Bの刑事公判廷における証言を素直にみれば,被告Bは,E,F及び名前のわからない男の3人から暴行を受けた旨証言したと考えるのが自然であって,その内容を被告Bが供述するように解釈するのは困難である。 (3) 一方,被告Cは,刑事公判廷において,被告Bが本件 ,F及び名前のわからない男の3人から暴行を受けた旨証言したと考えるのが自然であって,その内容を被告Bが供述するように解釈するのは困難である。 (3) 一方,被告Cは,刑事公判廷において,被告Bが本件事件後に仕事復帰した際,同人に対し,犯人は最初は3人で,後から1人加わった旨話したと証言しており(甲21),本件事件後程なく,被告Bの捜査段階における供述と同内容の情報が,被告Cから被告Bに伝わっていたものである。 そして,被告Bは,被告Cは自分よりも記憶力が良いと評価しているのであるから(甲14),本件事件から2か月以上経過し,被告B自身の記憶が減退していたであろう時期に行われたI巡査による最初の事情聴取において,被告Cが犯人は4人と記憶していることを考慮して,本件事件の犯人はQほか2,3人であると話し,その後これと同内容の被害届を提出したことは十分考えられる。同じくJの従業員であり,本件事件の目撃者であるG及びHが,そろって,被害届提出直後の司法警察員による取り調べにおいては犯人は3,4人あるいは4人であると供述しながら(甲35,37),原告逮捕後であり,本件事件への関与を否認している原告についてかなり厳密に聞かれたであろう検察官による取り調べにおいては4人目の犯人の存在について明確に供述できないでいるのも(甲34,36),被告Bと同様,原告が暴行を加えていることをはっきり目撃したわけではないが,犯人の人数について被告Cが4人だと言っていることをふまえて,当初はこれを尊重する供述をしていたためであると推認することができる。 これらの事情からすれば,被告Bは,原告に暴行を加えられたとの記憶がないにもかかわらず,捜査段階では原告が犯人に間違いないと供述していたのであり,刑事公判廷において初めてこのことを明らかにしたものと認められる。 らすれば,被告Bは,原告に暴行を加えられたとの記憶がないにもかかわらず,捜査段階では原告が犯人に間違いないと供述していたのであり,刑事公判廷において初めてこのことを明らかにしたものと認められる。 (4) しかし,このことをもって直ちに,被告Bの捜査機関に対する供述が不法行為となるということはできない。 参考人は,捜査に協力する場合,本来自己の体験したところをありのままに述べるべきであり,自己の体験に基づかない事実を述べる場合は,それが自己の体験によるものではないことも併せて述べておくべきである。仮に,参考人が,自己の記憶は真実に合致しないものであり,それ以外の事実こそが真実に合致していると考えたとしても,そのような判断は,本来捜査機関が行うべきことであり,参考人が自らの判断で行うべきことではないからである。 しかしながら,人が無意識に,直接に体験した事実以外の情報や推測したに過ぎない事実を,あたかも自己が体験したもののように述べることはままあることであるし,仮にそれを意識的に行った場合であっても,当該供述内容(利用した情報あるいは推測した事実)こそが真実に合致するものであるとの考えから供述を行った場合であって,かつ,そのように考えたことに合理的な根拠又はやむを得ない理由がある場合には,参考人のこのような供述を違法ということはできないと解するのが相当である。私人が捜査に協力することは公益上望ましいものであるところ,その供述内容が真実と合致しなかったからといって,通常人として合理的な判断をした上で真実に合致すると考えたところを捜査機関に供述した場合にまでこれを不法行為とすることは,容疑者を特定して述べようとする参考人を必要以上に萎縮させ,ひいては捜査に対する国民の協力を不当に阻害することになるおそれがあるからである。 (5) 上記認 た場合にまでこれを不法行為とすることは,容疑者を特定して述べようとする参考人を必要以上に萎縮させ,ひいては捜査に対する国民の協力を不当に阻害することになるおそれがあるからである。 (5) 上記認定のとおり,原告は本件事件当日初めてJを訪れたものである上,被告Bは,原告が暴力団員であることもわかっており,お礼参りを恐れて被害届を出すことさえ躊躇していたくらいであるから,原告は間違いなく暴行に加わっていなかったと記憶していれば,被告Cの記憶をそのまま事実として受け入れることはなかったはずであり,原告が犯人でないと知りながらあえて原告を犯人として名指ししたとは考えられない。したがって,被告Cの記憶を信用したということ自体から,被告Bが,犯人は3人であるとの自己の記憶は誤りであり,被告Cの記憶する,犯人は原告を含む4人であるという事実こそが真実であると考えていたことが認められる。 そして,被告Bは,Jでの客の顔や名前を覚える能力からして,被告Cは自分よりも記憶力が良く,また,被告Cと同じ位置から本件事件を目撃していたHよりもさらに記憶力が良いと考え,被告Cの言葉を信じて,原告が犯人であるとの供述をしたものである(甲14)。被告BのみならずI巡査もまた,事情聴取の結果,本件事件を最もよく目撃しているのは被告Cであると考えたことや,G及びHも被告Cの記憶を尊重していたものと考えられることからしても,本件事件の犯人は原告を含む4人であるとの被告Cの記憶は,当時,相当明確なものであったと考えられ,被告Bがこれを信じたことには合理的な根拠又はやむを得ない理由があったものと考えるのが相当である。 (6) 以上によれば,被告Bには,不法行為の要件である権利侵害についての故意又は過失がないから,被告Bが捜査機関に対してした供述を,不法行為ということはで 由があったものと考えるのが相当である。 (6) 以上によれば,被告Bには,不法行為の要件である権利侵害についての故意又は過失がないから,被告Bが捜査機関に対してした供述を,不法行為ということはできない。 4 結論よって,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 横浜地方裁判所小田原支部民事部裁判長裁判官矢崎博一裁判官新堀亮一裁判官達野ゆき
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