令和7年7月2日宣告裁判所書記官令和6年(わ)第193号詐欺被告事件主文被告人両名をそれぞれ懲役3年に処する。 被告人両名に対し、未決勾留日数中各140日を、それぞれその刑に算入する。 被告人両名に対し、この裁判確定の日から4年間、それぞれその刑の執行を猶予する。 理由 【罪となるべき事実】被告人両名は、A、B及び氏名不詳者らと共謀の上、外国為替証拠金取引(以下「FX取引」という。)での運用名目で金銭をだまし取ろうと考え第1 令和5年5月22日頃から同月31日頃までの間、カンボジア王国内において、大阪府内にいたE(当時55歳ないし56歳)に対し、アプリケーションソフト「LINE」のメッセージ機能を利用して、真実は、同人から交付を受ける金銭をFX取引で運用する事実も意思もないのにこれを秘し、「F先生と金融チームによる的確な取引戦略があります」「5~10倍以上の利益目標が実現できます」「現在、口座を新規開設して入金すると、初回限定で30,000円のボーナスを差し上げています。また、F先生のFX取引戦略を受けることが可能です」などとメッセージを送信するなどし、前記Eに、被告人らが指定する口座に振込入金すれば、FX取引で運用されるものと誤信させ、よって、前記Eに、別表1(添付省略)記載のとおり、同月23日から同月31日までの間、5回にわたり、大阪府豊中市(住所省略)前記E方ほか1か所において、インターネットバンキングを用いて、被告人らが管理するG銀行株式会社H営業部に開設されたI合同会社名義の普通預金口座ほか1口座に現金合計324万円を振込入金させ、も って人を欺いて財物を交付させた。 第2 令和5年5月23日頃から同月31日頃までの間、カンボジア王国内において、静岡県内にいたJ(当時62歳 1口座に現金合計324万円を振込入金させ、も って人を欺いて財物を交付させた。 第2 令和5年5月23日頃から同月31日頃までの間、カンボジア王国内において、静岡県内にいたJ(当時62歳)に対し、アプリケーションソフト「LINE」のメッセージ機能を利用して、真実は、同人から交付を受ける金銭をFX取引で運用する事実も意思もないのにこれを秘し、「現在、口座を新規開設して入金すると、初回限定で30,000円のボーナスを差し上げています。また、F先生のFX取引戦略を受けることが可能です」「株で利益出すのは時間がかかるけど、FXは本当に速いです。私はF先生について何回か取引しましたが、利益はすでに35%程度でました」などとメッセージを送信し、前記Jに、被告人らが指定する口座に振込入金すれば、FX取引で運用されるものと誤信させ、よって、前記久保田に、別表2(添付省略)記載のとおり、同月24日から同月31日までの間、5回にわたり、静岡県榛原郡(住所省略)K信用金庫L支店ほか3か所において、現金自動預払機を用いるなどして、被告人らが管理する株式会社M銀行N支店に開設された合同会社O名義の普通預金口座ほか3口座に現金合計520万円を振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させた。 【事実認定の補足説明】 1 被告人両名の各弁護人は、いずれも本件では幇助犯が成立するにとどまる旨主張しており、本件の主たる争点は、被告人両名に共同正犯が成立するか否かである。 2 関係証拠によれば、以下の事実は容易に認められる。 ⑴ 被告人Cは、カンボジア王国に滞在していたところ、令和5年4月上旬頃、中国人から誘われ、同国内のタイ王国との国境に近いところにあるカジノホテル(以下「本件ホテル」という。)に行き、同年5月31日までの間、報酬が月額3000米ドルで ていたところ、令和5年4月上旬頃、中国人から誘われ、同国内のタイ王国との国境に近いところにあるカジノホテル(以下「本件ホテル」という。)に行き、同年5月31日までの間、報酬が月額3000米ドルで食費や宿泊費の負担をしない条件の下、本件ホテルに滞在し、週6日間程度、日本語の文章を修正する作業(以下「本件修正作業」という。)に従事した。 被告人Dは、タイ王国に滞在していたところ、人材紹介会社を通じて知り合ったPの面接を経て本件ホテルに行き、令和5年5月1日頃から同月31日までの間、報酬が月額約2000米ドルで食費や宿泊費の負担をしない条件の下、本件ホテルに滞在し、本件修正作業に従事した。 ⑵ 令和5年5月当時、本件修正作業には、被告人両名のほか、A、B、Pら日本人数名が従事し、同じフロアには、数十名の中国人らしき外国人が、パソコンやスマートフォンで別の作業に従事していた。 本件修正作業の内容は、被告人両名らが、それぞれのニックネームで加入するグループトークに送られてくる投資に関する日本語のメッセージについて、より自然な日本語に修正するというもので、中国人から送られてくるメッセージに対し、日本人同士が互いに協力しながら、間断なく対応できるようにしていた。 また、本件修正作業で取り扱うメッセージの内容は、中国人が作成する文章であるのに架空と思われる日本人を名乗っていたり、投資なのに確実に儲けが出るという内容であったり、先生と呼ばれる立場の人間を、様々なさくらが持ち上げて褒め称える内容であったりするものであった。 ⑶ 本件各被害者は、いずれも、架空の「F」なる投資家やアシスタントらが加わっている「LINE」上のトークグループに加入し、令和5年5月22日頃から同月31日頃までの間、投資家の指南により多額の利益を得られる旨のメッセージ れも、架空の「F」なる投資家やアシスタントらが加わっている「LINE」上のトークグループに加入し、令和5年5月22日頃から同月31日頃までの間、投資家の指南により多額の利益を得られる旨のメッセージの閲覧や、投資家らとの個別のやり取りを経て、投資家らから勧められた投資をすれば確実に利益を得られるものと考え、判示のとおり、それぞれ、FX取引の運用資金名目で、指定された口座に現金を送金し、本件各被害に遭った。 ⑷ 本件各被害に関し、本件修正作業として、被告人Cは、「株をもう売り切れました」を「株は売り切りました」、「値上がりも値下がりも私とは関係ありません」を「もう値上がりも値下がりも気にする必要がなくなりました」などと、被告人Dは、「資金が351万か1000万に達する」を「資金が351万から1000万に達する」、「F先生に戦略案と計画金を作ってもらいます」を「こちらで分 析して、F先生に戦略案と計画金を作ってもらいます」などと、それぞれ日本語の文章を修正した。 3 以上を前提に検討する。 本件各詐欺は、被害者らに対し、日本語の文章を通じて、架空の投資家らが、架空の投資話等を専門的知識を交えながら伝え、被害者らを信じさせ、現金を送金させる類型のものであるから、その文章中に日本人が通常使わない言葉遣い等が存した場合、被害者らに疑念を抱かれるリスクが高いといえる。そして、犯行の首謀者が中国人等の外国人であることが推認される本件においては、たとえ自動翻訳ソフト等を通じて一定程度の質が確保された日本語が生成できたとしても、日本人である被告人らの目で見て不自然さが残らないか確認することは、犯罪の成功のためには、非常に重要な役割であるといわざるを得ない。 そして、被告人両名は、結果として報酬を得ていないとしても、相当程度高額な報酬を約束さ 目で見て不自然さが残らないか確認することは、犯罪の成功のためには、非常に重要な役割であるといわざるを得ない。 そして、被告人両名は、結果として報酬を得ていないとしても、相当程度高額な報酬を約束され、食事や宿泊場所の提供を受けつつ、本件修正作業に従事していたものであり(なお、被告人Dは、令和5年5月20日頃、Pから、金一封などと称して約1000米ドルを受け取った旨述べている。)、また、詐欺の具体的な手口や被害額等について何ら知らされていなかったとしても、本件修正作業で取り扱うメッセージの内容等から、少なくとも未必的には詐欺行為に加担していることを十分に認識しながら、一定期間継続して、他の日本人とも協力しながら間断なく本件修正作業を実施し、中国人らによる詐欺の実行行為を容易にさせていたものであるから、詐欺の実行行為者との間での意思の連絡も十分に認められる。 したがって、被告人両名は、本件修正作業を通じて、本件各犯行に自己の犯罪として関与したものと評価すべきであり、被告人両名には共同正犯が成立する。 【法令の適用】罰条判示各所為被告人両名につき、いずれも、判示第1、第2毎にそれぞれ包括して刑法60条、令和4年法律第68号441条1 項により同年法律第67号2条による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)246条1項併合罪の処理被告人両名につき、旧刑法45条前段、47条本文、刑法10条(ただし、同条1 項は旧刑法)(犯情の重い判示第2の罪の刑に法定の加重)未決勾留日数の算入被告人両名につき、刑法21条刑の執行猶予被告人両名につき、刑法25条1項訴訟費用の不負担被告人両名につき、刑事訴訟法181条1項ただし書【量刑の理由】本件は、海外を拠点にする外国人集団が、日本人に対し、 刑の執行猶予被告人両名につき、刑法25条1項訴訟費用の不負担被告人両名につき、刑事訴訟法181条1項ただし書【量刑の理由】本件は、海外を拠点にする外国人集団が、日本人に対し、架空のFX取引の投資会社や投資家を装い、大人数のさくらも登場させ、それぞれが役割分担した上で架空のFX取引に誘い込み、FX取引の運用資金名目で現金をだまし取ったというもので、組織的に実行された巧妙な犯行である。その被害額は、被告人両名が関与した分だけでも合計844万円と非常に多額である。被告人両名は、当初詐欺に関わることになるとは思わずに海外の辺境にある本件ホテルに行き、厳重な監視の下、パスポートを預けさせられるなどもしており、途中で犯行への関与を中止しづらかった面も見受けられるものの、詐欺行為に関する重要な役割を継続的に果たしていたものであるから、相当程度の責任非難は免れない。 そうすると、被告人両名の刑事責任は重く、その被害額の大きさ等に鑑みると、原則的には実刑を科すのが相当というべきである。 もっとも、本件に関し、判示第1の被害者に対しては、合計325万円(被告人Cの負担分150万円、被告人Dの負担分25万円)が、判示第2の被害者に対しては、合計522万円(被告人Cの負担分150万円、被告人Dの負担分25万円)が、それぞれ被害弁償されており、本件各被害額に相応する事後的な被害回復がされたとみられることを踏まえると、被告人両名に科すべき懲役刑に執行猶予を付すことが社会的に許されない事案とまではいえない。 そして、被告人両名は、いずれも、正犯という法的な評価を除けば、詐欺の犯意も含めて事実関係を認め、被害者両名に謝罪の意を示し、二度と犯罪には関わらない旨の反省の態度を示している。また、被告人Cの母及び被告人Dの姉が当公判廷 ずれも、正犯という法的な評価を除けば、詐欺の犯意も含めて事実関係を認め、被害者両名に謝罪の意を示し、二度と犯罪には関わらない旨の反省の態度を示している。また、被告人Cの母及び被告人Dの姉が当公判廷に出廷し、今後の監督等を約束している。さらに、被告人両名は前科前歴を有さないところ、本件に関し、既に相当期間身柄を拘束されており、一定の制裁的効果があったともいえる。 したがって、被告人両名に対しては、本件各犯行の刑事責任としてそれぞれ懲役3年の刑を科した上で、今回に限り、その刑の執行をそれぞれ4年間猶予し、社会内での自力更生に期待することが相当である。 (検察官の求刑:被告人両名につき懲役3年6月の実刑)(被告人Cの弁護人の量刑意見:付執行猶予)(被告人Dの弁護人の量刑意見:付執行猶予)令和7年7月2日佐賀地方裁判所刑事部 裁判官山田直之
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