令和5年5月26日判決言渡令和4年(行ウ)第398号市長に対する不信任決議の取消請求事件 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求A市議会が、令和4年7月28日付けで原告に対してした不信任の議決を取り消す。 第2 事案の概要 原告は、A市長であったところ、A市議会は、市長の不信任の議決をしたことから、原告は、同市議会を解散し、同市議会議員選挙が行われたが、解散後に初めて招集された同市議会は、再び市長の不信任の議決(以下「本件不信任議決」という。)をした。本件は、本件不信任議決の通知を受けたことにより失職した原告が、本件不信任議決は違法であるとしてその取消しを求める事案 である。 1 前提事実次の各事実については、当事者間に争いがないか、掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により、容易に認められる。 ⑴ 原告 原告は、令和4年7月28日まで、A市長であった者である。 ⑵ 本件不信任議決の経緯等ア原告は、令和4年6月16日、A市議会が市長の不信任の議決をしたことから(乙2)、同月23日、同市議会を解散し、その後、同市議会議員選挙が行われた。 イ前記アの解散後に初めて招集されたA市議会において、令和4年7月28 日、原告に対する不信任の議決(本件不信任議決)がされ、原告は、同日、同市議会議長からその旨の通知を受けたことから、地方自治法178条2項に基づき、失職した。 本件不信任議決の内容は、別紙のとおりである。(甲3、乙1)⑶ 本件訴訟の提起 原告は、令和4年8月16日、本件訴訟を提起した。 ⑷ A市長選挙の実施原告の失職に 件不信任議決の内容は、別紙のとおりである。(甲3、乙1)⑶ 本件訴訟の提起 原告は、令和4年8月16日、本件訴訟を提起した。 ⑷ A市長選挙の実施原告の失職に伴い、令和4年9月4日、A市長選挙(以下「本件市長選挙」という。)が行われた。その結果、B(以下「新市長」という。)が当選したが、本件市長選挙及び本件市長選挙における当選の効力に関し、公職選挙法2 02条1項又は206条1項所定の各期間内に異議の申出はされなかった。 2 争点⑴ 訴えの利益の有無(本案前の争点)⑵ 本件不信任議決の適法性 3 争点に関する当事者の主張 ⑴ 争点⑴について(訴えの利益の有無)(原告の主張)本件市長選挙における当選の効力は、公職選挙法の定めからして、もはやこれを争い得ないとしても、原告にとっては、本件不信任議決を取り消す旨の判決を得ることにより、原告が失職した日からA市長の地位を回復することがで きなくなった時までの間における報酬を請求し得ることとなるから、原告が本件不信任議決の取消しを求める訴えの利益は、なお認められるというべきである(最高裁昭和37年(オ)第515号同40年4月28日大法廷判決・民集19巻3号721頁参照)。 (被告の主張) 本件訴訟についての訴えの利益は、本件不信任議決を取り消すことによって、 原告のA市長としての地位を回復することにあるものと解される。しかし、本件不信任議決の後、本件市長選挙が適法に行われ、既に新市長の当選が確定している。そして、選挙管理委員会の管理の下に、公職選挙法に基づく選挙が行われた以上、その選挙又は当選の効力に関する争訟は、同法202条以下に規定する所定の手続をもってのみ行う に新市長の当選が確定している。そして、選挙管理委員会の管理の下に、公職選挙法に基づく選挙が行われた以上、その選挙又は当選の効力に関する争訟は、同法202条以下に規定する所定の手続をもってのみ行うべきであるから(最高裁昭和32年(オ) 第509号同年8月8日第一小法廷判決・民集11巻8号1446頁参照)、本件不信任議決を取り消すことで新市長の地位を失わせ、原告のA市長としての地位を回復することはできない。 したがって、既に本件市長選挙及び本件市長選挙における当選の効力を争い得なくなった現時点において、本件不信任議決のみを取り消すことを求める本 件訴えは訴えの利益を欠き、不適法である(最高裁昭和31年(オ)第557号同年10月23日第三小法廷判決・民集10巻10号1312頁参照)。 ⑵ 争点⑵について(本件不信任議決の適法性)(被告の主張)ア法令上、地方自治法178条所定の不信任の議決(以下、単に「不信任の 議決」という。)を行うことができる場合に限定はなく、理由の如何を問わず、同条所定の手続によって行われれば適法な不信任の議決となるから、本件不信任議決は適法である。 イ原告は、本件不信任議決の取消事由として、「A市議会の議決すべき事件に関する条例」(以下「本件条例」という。)の無効を主張するが、前記アに よれば、かかる主張は、その当否を検討するまでもなく、失当である。 この点をおくとしても、本件不信任議決は、原告が本件条例に従わなかったことを理由とするものではなく、原告の議会軽視の姿勢を問題とするものであるし、また、本件条例についても、地方自治法96条1項に規定された各事項と矛盾抵触する内容のものではないから、原告の主張には理由がない。 (原告の の議会軽視の姿勢を問題とするものであるし、また、本件条例についても、地方自治法96条1項に規定された各事項と矛盾抵触する内容のものではないから、原告の主張には理由がない。 (原告の主張) ア原告は、C中学西側の市有地に介護老人福祉施設の誘致を決め、同市有地の賃貸借契約締結等に向けて行動を起こしたところ、A市議会は、「A市高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画に基づき整備する介護老人福祉施設の用地としてC中学西側市有地を売り払うこと(中略)又は貸し付けること」を同市議会の議決すべき事件と定める内容の本件条例を制定した。 しかし、本件条例は、地方自治法96条2項を根拠として制定されたと考えられるが、同項が「前項に定めるものを除くほか」との限定を付していることからすると、同条1項で定めるもの以外について、新たに議会の議決すべき事件を定めることができると解される。適正な対価なく財産を貸し付けることを議決事件と定める同項6号の反対解釈として、適正な対価による貸 付けの場合には、市長は、議会の議決なく職務執行ができるのであり、これは同項で結論が出ていることからすると、本件条例は、同条2項の「前項に定めるものを除くほか」との要件を欠く違法なもので、無効である。 イ以上のとおり、A市議会は、原告の適正な職務執行を阻止する目的で、無効な本件条例を制定し、原告がこれに従わないことを不当、違法であるとし て、本件不信任議決をしたものであるから、本件不信任議決は、その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してされたもので違法である。 被告は、不信任の議決は手続上の要件を満たす限り有効である旨主張するが、議会が無制限、無限定に不信任の議決をすることが許されるものではなく、被告の主張は誤っている。 たもので違法である。 被告は、不信任の議決は手続上の要件を満たす限り有効である旨主張するが、議会が無制限、無限定に不信任の議決をすることが許されるものではなく、被告の主張は誤っている。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴について(訴えの利益の有無)公職選挙法に定める選挙又は当選の効力は、同法所定の争訟の結果無効となる場合のほか、原則として当然無効となるものではない(前掲昭和31年第三小法廷判決参照)。そして、普通地方公共団体の長の選挙及びその当選の効力に関し 不服がある選挙人又は公職の候補者は、同法所定の期間内に異議の申出をするこ とができるところ、本件においては、同期間内に異議の申出はされなかったというのであるから、本件市長選挙及び本件市長選挙における当選の効力は、もはやこれを争い得ないこととなり、原告は、本件不信任議決を取り消す旨の判決を得ても、A市長の地位を回復することはできない。 もっとも、原告は、本件不信任議決を取り消す旨の判決を得ることによって、 本件不信任議決の通知を受けて失職した時から上記のとおりA市長の地位を回復することができなくなった時までの間における同市長としての報酬を請求し得ることとなるから、原告が本件不信任議決の取消しを求める訴えの利益はなお認められるというべきである(前掲昭和40年大法廷判決参照)。 2 争点⑵について(本件不信任議決の適法性) 原告は、A市議会が、原告の適正な職務執行を阻止する目的で、地方自治法96条2項の要件を欠く無効な本件条例を制定し、原告がこれに従わないことを不当、違法であるとして、本件不信任議決をしたものであるから、本件不信任議決は、その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してされたもので違法である旨主張する。 制定し、原告がこれに従わないことを不当、違法であるとして、本件不信任議決をしたものであるから、本件不信任議決は、その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してされたもので違法である旨主張する。 しかしながら、不信任の議決については、手続的要件を規定した地方自治法178条3項以外に、同法等の法令にその要件が規定されていないことからすると、不信任の議決をすることができる場合に限定はなく、同項所定の手続を履践していれば適法なものとなるのであって、その理由の是非は、最終的には選挙を通じて住民の判定に委ねられるものというべきであるところ、本件において、本件不 信任議決が同項所定の手続を履践してされたことには争いがない。 この点をおくとしても、本件不信任議決は、別紙のとおり、原告の「民主主義のルールを無視した強引な進め方」等を理由とするものであり、原告が本件条例について地方自治法に抵触している可能性があると主張したことにも言及はあるが、必ずしも原告が本件条例に従わなかったことを主たる理由とするものとも 認められないから、原告の主張は、その前提を誤ったものというべきである。 その他、本件不信任議決が違法であることをうかがわせる事実は何ら認められず、以上によれば、本件不信任議決は適法であって、これに反する原告の主張は採用することができない。 第4 結論よって、原告の請求には理由がないから、これを棄却することとし、主文のと おり判決する。 東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官鎌野真敬 裁判官中畑啓輔 裁判官池田好英 (別紙)本件不信任議決の内容 令和4年6月16日、A市議会はD市長に対する不信 裁判官中畑啓輔 裁判官池田好英 (別紙)本件不信任議決の内容 令和4年6月16日、A市議会はD市長に対する不信任決議を21名中20名という圧倒的多数の賛成により可決したが、D市長は自ら職を辞することなく、6月23 日に議会を解散した。不信任を受けての議会解散は、言うまでもなく、市議会議員選挙を通して市長の信任を市民に問うものである。改選後に結果を覆せる勝算が全くないにもかかわらず市議会を解散し、新型コロナウイルス感染症が拡大する中、多額の税金を支出する市議会議員選挙に至らしめたD市長の責任は非常に重いと言わざるを得ない。 この間、D市長は、先の不信任決議について明らかな論点のすり替えをおこなっている。あたかも介護老人福祉施設の新設をめぐって市長と議会が対立し、市長の政策を議会が妨害しているかのような主張を繰り返しているが、不信任の理由は、D市長の民主主義のルールを無視した強引な進め方に対するものであり、政策以前の問題である。このことは、C中学西側市有地の活用や介護老人福祉施設の新設について前向 きな考えを持つ議員さえ、不信任決議に賛成したことからも明らかである。D市長のあまりにも強引な市政運営は、介護老人福祉施設をめぐる問題だけではなく、地域公共交通の実証実験やα地区の開発計画等においても繰り返されてきた。 また、先の不信任決議では、昨年7月に制定した「A市議会の議決すべき事件に関する条例」をD市長が無視して介護老人福祉施設の誘致を図ろうとした問題を指摘し たが、D市長は本条例が市長の執行権を侵害し、地方自治法に抵触している可能性があると主張している。しかし、法令上問題となる具体的な根拠を示さず、条例を廃止するための何らかの した問題を指摘し たが、D市長は本条例が市長の執行権を侵害し、地方自治法に抵触している可能性があると主張している。しかし、法令上問題となる具体的な根拠を示さず、条例を廃止するための何らかの手続きを取ろうという姿勢も見られない。本条例を一旦は認め、自ら公布した責任に対する自覚もない。 議会からの様々な指摘にも誤りを正すことなく、市政を混乱させ、市民に不要な負 担を強いる姿勢は、市長として不適格と言わざるを得ない。 よって、A市議会は、ここに改めてD市長に対する不信任を決議する。 以上
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