令和4(う)166 傷害、暴行(変更後の訴因 暴力行為等処罰に関する法律違反、認定罪名 傷害、暴行)

裁判年月日・裁判所
令和4年12月7日 福岡高等裁判所 棄却
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判決文本文27,978 文字)

- 1 - 主文 本件控訴を棄却する。 理由 第1 本件控訴の趣意は、主任弁護人安原伸人、弁護人船木誠一郎、同二瓶祐司、同若杉朗仁及び同中島正博共同作成の控訴趣意書並びに被告人作成の控訴趣意書記載のとおりであり、論旨は、不法な公訴受理、訴訟手続の法令違反、事実誤認及び法令適用の誤りの主張である(なお、被告人作成の控訴趣意書について、主任弁護人は、事実誤認を主張する趣旨である旨釈明した。)。 第2 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、以下のとおりである。 被告人は、福岡県宗像市内の保育園(以下、単に「保育園」という。)で副園長兼保育士として勤務していたものであるが、 1 平成30年6月27日午前9時36分頃、同園2階の保育室において、保育士C(当時33歳)に対し、その顔面を平手で2回たたく暴行を加えて、全治約5日間を要する下口唇挫傷を負わせた(原判示第1。以下「第1事件」という。)。 2 同年8月27日昼頃、同園2階北側のルーフテラスにおいて、保育士F(当時34歳)に対し、その下顎を正面から平手で1回押す暴行を加えた(原判示第2。以下「第2事件」という。)。 3 同年10月上旬頃、同園2階廊下において、Fに対し、その顔面の両側から左右の頬に手のひらを打ち付けてたたく暴行を加えた(原判示第3。以下「第3事件」という。)。 4 同年11月29日から同年12月28日までの間に、同園2階廊下において、Fに対し、その顔面を手に持ったレポート用紙つづりで1回たたく暴行を加えた(原判示第4。以下「第4事件」という。)。 5 令和元年6月26日午前7時5分頃から同日午後5時50分頃までの間に、同園2階ホールにおいて、園児A(当時6歳 ト用紙つづりで1回たたく暴行を加えた(原判示第4。以下「第4事件」という。)。 5 令和元年6月26日午前7時5分頃から同日午後5時50分頃までの間に、同園2階ホールにおいて、園児A(当時6歳)に対し、その右頬を平手でたた - 2 -く暴行を加えて、全治約1週間を要する顔面打撲傷を負わせた(原判示第5。 以下「第5事件」という。)。 6 同年7月22日午前7時50分頃から同日午後5時37分頃までの間に、同園2階トイレにおいて、園児D(当時6歳)に対し、その背中及び頭部を押して、Dを転倒させ、その顔面を床面に打ち付けさせる暴行を加えて、全治約5日間を要する下口唇挫創の傷害を負わせた(原判示第6。以下「第6事件」という。)。 7 同年9月19日午後1時3分頃から同日午後1時8分頃までの間に、同園2階地域子育て支援室において、園児G(当時5歳)に対し、その左側から胸ぐらをつかんで引っ張り、更にその着衣をつかんで引っ張った上、背中を押すなどの暴行を加えた(原判示第7。以下「第7事件」という。)。 8 同日午後1時53分頃、同園2階保育室において、園児H(当時3歳)に対し、その着衣をつかんで室外へ引っ張り出す暴行を加えた(原判示第8。以下「第8事件」という。)。 第3 不法な公訴受理の主張について 1 論旨は、第4事件について、これに対応する起訴状記載の公訴事実は、その犯行日が「平成30年11月29日から同年12月28日までの間」とされており、暴力行為等処罰に関する法律違反の罪への訴因等の変更請求書記載の公訴事実も同事件の犯行日の記載は同じであって、刑訴法256条3項が求める程度の特定を欠いているから、原裁判所(以下、第3及び第4において「裁判所」という。)は、刑訴法338条4号に基づき公訴棄却の判決をしなければならなかっ 載は同じであって、刑訴法256条3項が求める程度の特定を欠いているから、原裁判所(以下、第3及び第4において「裁判所」という。)は、刑訴法338条4号に基づき公訴棄却の判決をしなければならなかったのに、これをせずに実体判決をした点で、不法に公訴を受理した(刑訴法378条2号)違法がある、というのである(なお、主任弁護人は、釈明義務違反の点は、同号の主張に関連する経緯として記載したものであり、この点について別に刑訴法379条の訴訟手続の法令違反を主張する趣旨ではないと釈明した。)。 - 3 - 2 原審弁護人(以下、第3ないし第5において「弁護人」という。)は、第4事件の訴因は特定されていないと主張した。これに対し、原判決は、同訴因について、検察官が、LINEの記録や書面等をFの供述と突き合わせ、証拠上絞り込める範囲でその日時を特定したものと認められ、刑訴法256条3項に違反していないと判断した。 3 この原判決の判断は正当であり、当裁判所も是認できる。 すなわち、第4事件の犯行日を特定する主な証拠は、Fの供述であるところ、Fは、原審公判では、被告人にレポート用紙で顔面をたたかれた日について、後記第5の3ウ、エのとおり証言している。原審で取り調べた証拠をみても、F証言以上に同犯行日を特定できる証拠はなく、また原審当事者から、Fの捜査段階の供述その他の犯行日をより特定することに資する証拠があるとの主張もなされていない。そして、原審検察官(以下、第3及び第4において「検察官」という。)の冒頭陳述をみると、検察官は、第4事件について、被告人がFの顔をレポート用紙つづりでたたいたのは、上記期間内で、「保育園2階廊下において、被告人の指示で保育園児にブリッジ歩きをさせていたFが被告人にその進捗状況を報告しようとした際」であると主張して がFの顔をレポート用紙つづりでたたいたのは、上記期間内で、「保育園2階廊下において、被告人の指示で保育園児にブリッジ歩きをさせていたFが被告人にその進捗状況を報告しようとした際」であると主張しており、当該暴行はその機会に1回なされた行為として起訴しているとみられ(原審第1回公判調書添付の冒頭陳述要旨第2の3)、被告人にとって防御の対象が特定されていないことによる支障が生じているとはいえない。実際、弁護人は、第1回公判期日前に複数回行われた打合せの機会においても、第1回公判期日においても、第4事件の公訴事実について、訴因の特定を欠いている旨の主張をしたり、その特定に関する検察官の釈明を求めたりせず、同期日においても、弁護人が1の訴因等変更請求に異議はない旨の意見を述べ、被告人があらかじめ用意した書面に基づき、同事件については「平成30年11月29日から同年12月28日までの間、保育園で、レポート用紙つづりでFの顔面をたたくということはしていない」旨の陳述をし、弁護人も被告人が述べたとおりであるとして無 - 4 -罪を主張している。その後の審理を見ても、特段防御に支障があったことはうかがわれない。 以上によれば、第4事件について、訴因の特定に欠けるところはなく、裁判所が不法に公訴を受理した(法378条2号)違法はない。 第4 訴訟手続の法令違反の主張について 1 論旨は、第7及び第8事件について、裁判所は、第1ないし第6事件と実体法上一罪に当たることを前提に、暴力行為等処罰に関する法律違反の罪(同法1条の3第1項前段。以下「常習傷害罪」という。)への訴因及び罰条等の変更を許可しているところ、原判決においては、全事件が併合罪の関係にあると判断しており、本来、その心証を形成した段階で、先にした訴因等変更許可決定を取り消す義務が 罪」という。)への訴因及び罰条等の変更を許可しているところ、原判決においては、全事件が併合罪の関係にあると判断しており、本来、その心証を形成した段階で、先にした訴因等変更許可決定を取り消す義務があるのにそれをしなかった原審の訴訟手続には、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反(刑訴法379条)がある、というのである。 2 この点に関し、原審の審理経過は、概要以下のとおりである。 被告人について、Aに対する傷害被告事件(第5事件)、Cに対する傷害被告事件(第1事件)、Dに対する傷害被告事件(第6事件)及びFに対する暴行被告事件(第2ないし4事件)が、順次起訴された。 令和2年3月31日、検察官は、の各事件にG及びHに対する各暴行の事実(第7及び第8事件)も加え、これらを常習として行ったとする常習傷害罪への訴因等の変更を求める訴因並びに罪名及び罰条変更請求書を提出し(以下、「本件訴因等変更請求」といい、同書面を「本件訴因等変更請求書」という。)、同年4月1日、同請求書謄本が被告人に送達された。 第1回公判期日(同年6月18日)において、弁護人は本件訴因等変更請求について異議がないとの意見を述べ、裁判所は同請求を許可し(以下「本件決定」という。)、検察官が本件訴因等変更請求書を朗読して、被告人による各事実についての陳述が行われた。 - 5 -その後、証拠調べ期日が重ねられ、第7及び第8事件の関係では、弁護人から同意の意見が述べられた書証のほかに、G及びHの父並びに保育士Kが証人として取り調べられ、被告人質問も行われた。 弁護人は、第26回公判期日に行った弁論において、常習性は認められない旨主張した。 裁判所は、本件決定を取り消すことはなく、第27回公判期日において、被告人に対し、原判決を宣告した。 れた。 弁護人は、第26回公判期日に行った弁論において、常習性は認められない旨主張した。 裁判所は、本件決定を取り消すことはなく、第27回公判期日において、被告人に対し、原判決を宣告した。そこでは、第1ないし第8事件について、各傷害及び暴行が常習として行われたとは認められないとして常習傷害罪の成立は否定され、第2の各罪が個別に成立し、それらは併合罪の関係にあると判断された。 3 当裁判所の判断原判決が、第7及び第8事件について、先に起訴されていた第1ないし第6事件とは公訴事実の同一性を欠くとの判断をしていることは、所論のいうとおりである。 しかし、本件で、原判決のそのような判断内容の故に裁判所が原判決の宣告に先立って本件決定を取り消さなければならない義務があるとはいえない。すなわち、まず、本件訴因等変更請求書に常習傷害の訴因として掲げられた事実は、それまでに起訴されていた傷害及び暴行の各事実(第1ないし第6事件)と公訴事実の同一性があり、本件決定は適法になされたものである。裁判所が、証拠調べの結果、常習性は認められないとの判断に至ったからといって、本件決定が違法となるものではない。 そして、本件決定により変更が許可された訴因は、常習として第1ないし第8事件を行ったとするものであるところ、一罪の関係にあるとはされているものの、第1ないし第8事件のいずれも、被害者、日時又は日にち、場所、暴行の態様及び傷害結果(第1、第5及び第6事件)の記載により、他の事実と区別でき、かつ暴行罪ないし傷害罪の構成要件に該当するかどうかを判定するに - 6 -足りる程度に具体的に明らかにされている。それゆえ、常習性が認定されず、個別の暴行罪ないし傷害罪の成否が判断対象になるとしても、審判対象は画定されており、その観点から防御に支障が生じ - 6 -足りる程度に具体的に明らかにされている。それゆえ、常習性が認定されず、個別の暴行罪ないし傷害罪の成否が判断対象になるとしても、審判対象は画定されており、その観点から防御に支障が生じるとはいえない。 また、本件で、被告人に対しては、起訴状謄本を送達する場合と同様に、訴因等変更請求書謄本が送達されており、その送達から、刑訴法及び刑訴規則所定の猶予期間(5日以上)をおいてその第1回公判期日が開かれ、起訴状の朗読と同様に、検察官が訴因等変更請求書を朗読し、被告人及び弁護人が事件について陳述する機会も設けられている。そうすると、手続保障の観点から見ても、裁判所が、常習性を認定できないことを理由として本件決定を取り消すことなく、当初から複数の傷害ないし暴行を含む常習傷害罪で起訴された事案におけると同様に、第7及び第8事件について暴行罪の成否を判断することによって、被告人側の防御に支障が生じるとはいえない。 被告人側の原審での実際の対応を見ても、第7及び第8事件について、他の事件と同様に常習性を争った上で、被告人の外形的な行為は認めつつ、当該行為は「暴行」に当たらず、仮に当たるとしても正当な保育行為として違法性が阻却される旨主張して、暴行罪の成否に関して必要な防御活動を行っていた。 そのことを踏まえると、裁判所が本件決定を取り消し、検察官が第7及び第8事件を暴行罪として起訴した場合と比較して、何らかの防御上の不利益があったとは考えられない(所論も、そうした不利益があったとは主張していない。)。加えて、仮に、裁判所が常習性は認められないとの心証を形成した時点で本件決定を取り消し、検察官が第7及び第8事件を暴行罪として起訴し、これらについての証拠調べをやり直すとすると、訴訟経済を害する程度も著しい。 なお所論は、第7及び第8事 証を形成した時点で本件決定を取り消し、検察官が第7及び第8事件を暴行罪として起訴し、これらについての証拠調べをやり直すとすると、訴訟経済を害する程度も著しい。 なお所論は、第7及び第8事件の暴行は、常習一罪の一部を構成するのでなければ起訴する価値はないと考えられるから、訴訟経済を考慮に入れたとしてもなお、起訴するかどうかの再考を検察官に促す趣旨で本件決定を取り消すべ - 7 -きであるというが、そのように起訴価値を考慮することが、適法になされた本件決定を取り消すことを裁判所に義務づける根拠になるとはいえない。 以上を踏まえると、本件で、裁判所が証拠調べの結果として常習性は認められないとの判断に至ったからといって、本件決定を取り消すことは不合理なことであり、これを取り消す義務を負っていたとはいえない。原審の訴訟手続に法令違反はない。 第5 事実誤認の主張について 1 弁護人の論旨は、要するに、第1ないし第6事件について、被告人は、園児2名(A及びD)及び保育士2名(C及びF)に対し、原判示の各暴行を加えていないのに、同暴行を認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。被告人の論旨は、第1ないし第6事件について弁護人と同趣旨をいうとともに、第7及び第8事件についても同様の事実の誤認がある、というのである。 2 第1事件についてCは、原審において、以下の趣旨の証言をした。 ア第1事件当日、被告人の指示したとおりに園児らのブリッジ歩き(保育園において保育の一環として行われていた運動であり、背中側に状態を倒し、伸ばした両手のひらが床につき、反らした身体を両足と両手で支える姿勢のまま歩行するというもの)を終了させることができなかった際、被告人から、声を荒げてブリッジ歩きを達成 であり、背中側に状態を倒し、伸ばした両手のひらが床につき、反らした身体を両足と両手で支える姿勢のまま歩行するというもの)を終了させることができなかった際、被告人から、声を荒げてブリッジ歩きを達成させなかったことを非難され、平手で顔の正面をたたかれて、目、鼻、口、頬に当たり、更に平手で右頬をたたかれた。 イ被告人が立ち去った後、痛みが残る唇を手で触ったところ、左手の親指に血が付いているのに気付き、以後、何かあったときに自分を守る手段として記録を残そうと思い、スマートフォンで、指に血が付いた様子と出血した唇付近を写真撮影した。 - 8 -ウ保育園には長期間勤めて世話になり、自分の子らの保育においても世話になっていたので、アの暴行について被害届を出そうという気持ちはなかったが、事件から約1年2か月後に警察から連絡があり、そのときに、別の保育士も被告人から度重なる暴力を受けていたと知って、ショックを受けたし、そうした暴力が保育園の子供たちや職員に対して続いてはいけないと思い直し、被害届を出す気持ちに変わった。 原判決は、次の趣旨の説示をして、被告人がCに対して原判示第1の暴行(以下、2項において「本件暴行」という。)を加え、これにより傷害を負わせたと認めた(〔〕内は当裁判所による補足である。)。 アのCの証言は、本件暴行から被害を届け出るまでに1年以上の間隔があることや、保育園を退職した立場からの届出であることに加え、先行する事件の捜査を進める捜査機関から接触を受けるうちに、別のベテラン保育士も被告人から暴力を受けていた事情を把握して許し難いと考えて届出に至ったという経緯に鑑み、吟味を要するものの、以下の事情から信用できる。 イ被告人がCに対して本件暴行に及んだとの嫌疑がCの周囲で持ち上がったのは、上記被害届の提 把握して許し難いと考えて届出に至ったという経緯に鑑み、吟味を要するものの、以下の事情から信用できる。 イ被告人がCに対して本件暴行に及んだとの嫌疑がCの周囲で持ち上がったのは、上記被害届の提出時が最初ではなく、第1事件の当日から数日後にかけてのことである。その頃、Cとその母親が、保育園の園長(被告人の母親である。以下、単に「園長」という。)と被告人にCの退職の意向を伝えており、その機会に、Cの母親が、Cから聞いたものとして本件暴行について述べるやりとりがあった。この場面でCは被告人及び園長に示していないが、第1事件当日の午前9時41分頃にCがスマートフォンで撮影した画像2点が存在する。うち1点は、Cをほぼ正面から撮影した画像であり、その下口唇部右側に、小ぶりの斑状で光沢のある赤いかたまりの存在が見て取れる。もう1点は、Cの左手親指表側に、赤い点が連続して直線状に並ぶ様子が見て取れる接写画像である。 - 9 -ウこれら各画像を撮影した事情についてのCのイの証言は、同画像を見て、唇の薄い表皮の部分が剥げて出血を伴うものであり、外力を受けた唇が歯に当たって損傷が生じたものとする整形外科医N(以下「N医師」という。)の証言に整合し、支えられている。 エ他方で、同画像について、O医師(以下「O医師」という。)は、赤いかたまりに関し、口唇ヘルペスの水疱及びこれに関連する出血の痕跡と見て取れる旨証言する。しかし、これは同医師の専門外〔同医師は、一般外科、特に腹部外科、すい臓の外科を専門とする〕の分析を述べるもので不確かであり、口唇ヘルペスを患っていた事情がCの周囲から明確に現れていないこととも整合しない。被告人は、Cがヘルペスをよく生じていたとか、吹き出物の存在を言い回っていたと述べるが、そうであるとすると、Cは、頻繁に患っ ペスを患っていた事情がCの周囲から明確に現れていないこととも整合しない。被告人は、Cがヘルペスをよく生じていたとか、吹き出物の存在を言い回っていたと述べるが、そうであるとすると、Cは、頻繁に患っていたヘルペス等の患部をあえて撮影したことになり、行動として不合理である。 オ Cが、ヘルペス等による出血を認めてその痕跡の画像を残し、被告人の暴行によるもののように装っている疑いも想定できなくはない。しかし、被告人と共に勤務を続けていたCが、お互いの様子を日々確認できる状況の下でヘルペス等による出血を別の事象に置き換えてねつぞうするのは容易ではないから、その想定は不合理である。被告人が述べるとおりに言い回っていたのであればなおさらである。 カ後記(3イ)のとおり、被告人は、自分よりも保育経験が豊富なFを服従させていたと認められるから、Fよりも経験が少ないCが、被告人に逆らえない関係性にあったと述べ、度々叱責され、繰り返し反省の言葉を唱えさせられるなどの仕打ちに遭っていた旨の証言内容にも信用性が認められる。このようなCが、ヘルペス等による出血をきっかけに被害を偽装することを考え、母親を伴って被告人と会った機会にその被害を訴えて、以後、被告人を陥れる行動を続けていると疑うのは困難である。 - 10 -キ弁護人は、真に被害が存在したのであれば、その後速やかにCが受傷を訴えて受診していないことや、園長及び被告人との面談時にその訴えをしていないことと整合しないと主張する。しかし、イの画像に見られる受傷は重篤なものではないから、Cが述べる理由でその画像を残した場合に、それと併せて医師等に伝えるのが当然とはいえない。逆らえない関係性にあった被告人の面前で、改めて受傷の事実を持ち出すのが通常ともいえず、これを差し控えたとしても不自然ではな その画像を残した場合に、それと併せて医師等に伝えるのが当然とはいえない。逆らえない関係性にあった被告人の面前で、改めて受傷の事実を持ち出すのが通常ともいえず、これを差し控えたとしても不自然ではない。 クよって、Cの証言に主に依拠して被告人がCに対し本件暴行を加え、原判示第1の傷害を負わせた事実が認められる。 の原判決の認定、判断は、論理則、経験則等に照らして不合理なものではなく、当裁判所も正当として是認することができる。 所論は、要するに、Cの下唇にあった赤いかたまりは口唇ヘルペスの水疱である可能性があり、Cは、第1事件当日、被告人から厳しく叱責された際に、退職を決意するとともに、被告人に対する怒りから、たまたま被告人の暴行以外の原因で口唇に生じていた赤いかたまりを利用して被告人から顔面をたたかれたとうそをついて退職の理由にしようと考えて、イの写真を撮影していたところ、後日、被告人に対する捜査が始まったのを機に、被告人を陥れるために同写真を利用して虚偽の証言をした可能性がある、というのである。 しかし、ウのN医師の証言内容に不合理な点はない。このように、Cが証言するとおりの暴行を受けたことによって生じることが合理的である外傷が客観的に認められることは、その外傷を負った原因に関する証言の信用性も補強する。原判決が、Cの証言についてN医師の証言と整合して支えられているとした判断に誤りはない。また、第1事件当日の午前9時41分頃に2枚の写真を撮影したというCの行動は、ア、イの出来事と気持ちに基づくものとして自然で、合理的である。仮に、このとき下唇部にあった赤いか - 11 -たまりが口唇ヘルペスによる水疱だとすると、Cがこの部位をわざわざ撮影した理由を合理的に説明できないことは原判決が説示するとおりであるし、 ある。仮に、このとき下唇部にあった赤いか - 11 -たまりが口唇ヘルペスによる水疱だとすると、Cがこの部位をわざわざ撮影した理由を合理的に説明できないことは原判決が説示するとおりであるし、あえて口唇ヘルペスの部位から出血させて、その血を手に付着させて撮影したとも考え難い。そのかたまりが、自身の過失で何かにぶつかったなど、他の原因によるものであることを想定してみても、同様である。また、うその退職理由を作出する材料にしようとしたとの所論の想定も、Cが当該写真についてそのような用い方をしていないことと整合しない。 そして、そもそも、捜査機関に対し虚偽の犯罪事実を申告して他人の処罰を求めることや証人としてうその証言をすることは、それが発覚すれば刑罰を科せられ、損害賠償義務も負わされる危険を伴う行為である。そのような行為を所論が想定するような心情から行うということは合理性が乏しいのに対し、Cが被害を申告した理由として述べるウの事情や心情は、納得できる内容である。 Cの証言に所論のいう虚偽供述の疑いはない。 そのほかに所論が種々主張する点を踏まえて検討しても、Cの証言の信用性を認め、Cに対する本件暴行を認めた原判決に事実の誤認はない。 3 第2ないし第4事件について Fは、原審において、以下の趣旨の証言をした。 ア第2事件当日、勤務中に被告人に呼ばれて注意を受け、返答が遅れた際、被告人から下顎を正面から平手で1回押された。 イ第3事件当日、被告人に業務に関する報告をする際、返答が遅れて、被告人から両手で頬を挟まれるようにしてたたかれた。 ウ第4事件につき、イの出来事の後、日にちははっきり覚えていないが、被告人の指示で担当していたブリッジ歩きの実践結果を報告した際、20枚くらいをまとめて手に持っていたレポート用紙の束 たかれた。 ウ第4事件につき、イの出来事の後、日にちははっきり覚えていないが、被告人の指示で担当していたブリッジ歩きの実践結果を報告した際、20枚くらいをまとめて手に持っていたレポート用紙の束を被告人に取り上げられて、同束で顔面をたたかれた。 - 12 -エウのレポート用紙の束は令和元年5月に退職した後も自宅で保管していたところ、そのうち11月28日の日付を書いてあった用紙に肌色の染みが付いており、これはウのようにたたかれた際に付いたものだと思う。その日はLINEで被告人に指示を伺っていて、このようなやり取りをするのは被告人が保育園内にいないときであるから、たたかれたのは、平成30年11月28日の翌日以降の出来事で、かつ、年はまたいでいないので、同年中の保育園の最後の営業日である12月28日までのことである。 原判決は、次の趣旨の説示をして、被告人がFに対して原判示第2ないし第4の各暴行(以下、3項において「本件各暴行」という。)を加えたと認めた。 アのFの証言は、被害から1年程度経過した令和元年秋頃に警察への被害申告がなされていることに加え、同年5月に、Fが保育園で飼育するメダカを連休中に預かって、その一部を殺したなどと被告人が園児に告げたことにショックを受けたとして、長年勤続した職場を退職していた立場で、しかも、先行の捜査を行う捜査機関からの接触を受けるうちに同申告に至ったという経緯から吟味を要するが、以下の事情から信用できる。 イ Fと被告人の間のLINEの内容を見ると、被告人は、Fに事細かに保育等の指示を伝えて、同人がこれに従うとともに、Fからも事細かに指示を仰いでおり、事務の遂行途中でFがトイレに行くことの了承を求める問いかけや、事前に禁じられていたとうかがわれる他の保育士との接触の有無を定期的 えて、同人がこれに従うとともに、Fからも事細かに指示を仰いでおり、事務の遂行途中でFがトイレに行くことの了承を求める問いかけや、事前に禁じられていたとうかがわれる他の保育士との接触の有無を定期的に報告するものなどのメッセージもある。このような内容は、Fの裁量や主体性をおよそ尊重せず、被告人がFを服従させていた実態を示している。Fは、このようなLINEの記録を提出しつつ、第2ないし第4事件についてのとおり証言しているところ、服従関係の延長で上位者からなじられるように本件各暴行を受けた事実を証言するものとして、何ら不自然さはない。 - 13 -ウ第2事件について、Fは、原判示第2の当日、勤務後にその日の応対をわびる内容のLINEのメッセージを被告人から受信していることを指摘し、被告人から同様のメッセージを受信することはほかになかったから、この日が被害に遭った当日である旨、証拠と整合的な証言をしている。 第3事件について、Fは、保育園に提出した始末書等の作成が始まった頃であったと証言するところ、それらの書面の内容は、無言の時間をつくったことを反省するなどという意思抑圧的な文面を含むものであって、返答が遅れた場面で暴行を受けたというFの説明と合致している。 第4事件について、Fが捜査機関に提出したレポート用紙の束のうち、平成30年11月28日付け用紙1枚に肌色の染みが付いている。これを当時のFの使用に係るファンデーションと共に鑑定に供したところ、後者の含有成分と一致する成分が前者から検出されているから、その用紙を含む束で顔面に原判示第4の暴行を受けたとするFの証言と整合的である。 この用紙の束は、ブリッジ歩き実践時の計測タイム等を書き入れ、日ごとの結果をまとめてつづっていたものであり、日々の実践の成果を確かめる書類であるととも 4の暴行を受けたとするFの証言と整合的である。 この用紙の束は、ブリッジ歩き実践時の計測タイム等を書き入れ、日ごとの結果をまとめてつづっていたものであり、日々の実践の成果を確かめる書類であるとともに、同実践に意欲的であった被告人が見ることも予定された書類である。そうであるなら、服従関係にあったFを含む保育士らがぞんざいに扱うとは考えにくい。その用紙の束が、僅かな枚数に同様の染み等が付着し、ほかに著しい汚損等のない状態であったことからも、その物品でたたかれたと説明するFの証言は首肯できる。過失によりファンデーションが降りかかったとか、嫌疑をねつぞうする目的で振りかけたなどという疑いは容れられない。特に、第4事件の起訴に至るまでの日にち特定の経緯、すなわちFの被害申告が得られる一方で、作成日付の日(平成30年11月28日)は被告人が不在であったことが判明して被害日時の特定が滞り、結局、同月29日以降に28日の記録を確かめる目的で掲げ持った用紙が顔に当たったと捉え、また、通常は1か月分の記録を手元に - 14 -置く取り扱いであるから翌12月中の同様の場面であったかもしれない旨を述べるFの供述により日時の特定が行われて起訴されている。この事象にも示唆されるとおり、嫌疑のねつぞうをもくろんで適当にファンデーションを振りかけるなどの細工をするのは困難とみるべきである。 エ弁護人は、第3事件について、Fが、被害後に被告人及び園長と個別に話をした機会に別の保育士が同席していたと述べた点について、同保育士はそのような関与を否定していると主張する。確かに、Fの供述は、暴行の場面に比べ、暴行後の話合いは内容も覚えてないとするものであるが、暴行後の心理状態を慮ってみれば不可解ではない。別の保育士が同席した確証はないが、そうした面談については、日常 に、Fの供述は、暴行の場面に比べ、暴行後の話合いは内容も覚えてないとするものであるが、暴行後の心理状態を慮ってみれば不可解ではない。別の保育士が同席した確証はないが、そうした面談については、日常的な保育士の連携における他の場面との区別がつかなくなることもあり得ることであるから、その内容についてFに記憶がなく、別の保育士の供述と不一致があるからといって、印象的な出来事である暴行の存在そのものに係る証言を疑問視すべきものとは考えられない。 オよって、Fの証言に主に依拠して被告人がFに対して本件各暴行を加えた事実が認められる。 以上の原判決の認定、判断は、論理則、経験則等に照らして不合理なものではなく、当裁判所も正当として是認することができる。 ア所論は、被告人とFは、一緒に旅行に行くなど親しく良好な関係にあり、LINEでのやり取りは、保育士としての十分な能力のないFに対して事細かに指導をするという業務上の必要があってしていたものであるにもかかわらず、原判決が、このLINEの記録を基に、被告人がFを服従させていたと認定したことは誤っている、という。 しかし、原判決が指摘するとおり、同記録には、各事件の後の出来事とはいえ、Fが業務中にトイレに行くことの許可を求める問いかけや、他の保育士と接触していないこと、あるいは接触があったこととその際の会話 - 15 -の有無及び内容等の報告が含まれている。Fと被告人が、同じ職場で勤務する同僚として、それぞれ自立して対等の関係にあるのであれば、トイレに行くのに許可を必要としたり、業務上当然にコミュニケーションをとるべき他の同僚との接触の有無等を報告したりするいわれはない。以上のような証拠関係に着目し、被告人がFを服従させていたと評価することは自然であり、所論のいうように、被告 当然にコミュニケーションをとるべき他の同僚との接触の有無等を報告したりするいわれはない。以上のような証拠関係に着目し、被告人がFを服従させていたと評価することは自然であり、所論のいうように、被告人とFが一緒に旅行に行くような事実があったからといって、その評価は揺らがない。 イ所論は、Fは、保育園を退職した後に、捜査機関から接触を受ける中で、被告人による園児への暴行の容疑を聞き、自身が退職せざるを得なくなったのも被告人のせいだと逆恨みの感情を抱くようになり、被告人を陥れるために虚偽の証言をした可能性がある、という。 しかし、Fは、他の園児に対する事件の捜査の過程で、他の保育士の話から自分の名前が出て、警察官から話を聞かれるうちに、自分の受けた被害も話すことになったと証言するところ、その説明に特段不自然な点はない。また、被告人から暴力を受けた時点で直ちに保育園を退職しなかった理由についても、Fは、被告人の暴力を理由に退職すると言ったら、被告人からどんなことをされるか分からず、怖くて退職できなかったと説明している。この供述は、上記LINEの記録から推認される被告人とFの関係性と整合的であり、弁護人が指摘する被告人との旅行の事実等を踏まえて検討しても、不自然な点はない。これらのFの供述は、本件各暴行の直後には被害を申告せず、1年ほどが経過した時期に被害申告した経緯の説明として十分納得できるものである。Fが被告人を逆恨みして、ありもしない事実を虚偽で述べたとの疑いは生じない。 ウ所論は、被告人から暴行を受けたというFの証言の核心部分を支える証拠はないのに、その信用性を認めた原判決の判断には誤りがあるという。 しかし、Fの証言は、第4事件については客観的な裏付けがある上に、 - 16 -上記のLINEのやり取りや、そこから推認 る証拠はないのに、その信用性を認めた原判決の判断には誤りがあるという。 しかし、Fの証言は、第4事件については客観的な裏付けがある上に、 - 16 -上記のLINEのやり取りや、そこから推認される被告人との関係性と全体的に整合して自然であるといえる。 イ、ウの事情をもって、Fの証言が信用できると評価した原判決の判断に誤りはない。 エそのほかに所論が種々主張する点を踏まえて検討しても、Fの証言の信用性を認め、Fに対する本件各暴行を認めた原判決に事実の誤認はない。 4 第5事件について ア Aは、原審で令和2年8月に実施された期日外尋問の際には、保育園でブリッジ歩きをしていたときに誰かから何かをされたことがあるかについて、被告人から、ブリッジ歩きが遅いとしてほっぺをパーの手でたたかれ、痛かった旨述べたものの、それがブリッジ歩きをしている途中なのか普通に立っているときなのかなどを尋ねられると、分からない旨述べた。 イ Aは、令和元年7月1日に、検察官が、その様子を録画しつつ、Aから事実関係を聴取した面接(以下、4項において「本件面接」という。)の際は、以下の趣旨の供述(以下「Aの供述」という。)をした。 保育園でブリッジ歩きをしている際に、被告人から、ブリッジ歩きが遅いとして平手で顔の右目の辺りをたたかれた。それは、ブリッジの姿勢で頭方向に進んでいるときだった。たたかれたときは、痛かった。右目の辺りが赤くなり、被告人が氷を入れた袋を用意してくれて、僕がそれを目のところに当てた。 ウ他方、被告人は、原審において、第5事件があったとされる日の昼頃、Aの頬に赤い変色を認めて理由を尋ね、分からないということだったが、その部位を冷やす措置をしたにとどまる旨を述べた。 原判決は、次の趣旨の説示をして、被告人がAに対して原 とされる日の昼頃、Aの頬に赤い変色を認めて理由を尋ね、分からないということだったが、その部位を冷やす措置をしたにとどまる旨を述べた。 原判決は、次の趣旨の説示をして、被告人がAに対して原判示第5の暴行(以下、4項において「本件暴行」という。)を加えたと認めた(〔〕内は当裁判所による補足である。)。 ア Aの供述は、幼少ゆえに被害の時間帯等の細部の認識、記憶及び叙述の - 17 -確かさを吟味する必要があるが、以下の事情から信用できる。 イ第5事件について、Aの母親Bは、令和元年6月26日午後7時31分頃にスマートフォンでAの顔面を撮影した画像3点及び翌日午前6時56分頃に同様に撮影した画像2点を捜査機関に提示して被害を申告した。前者の画像3点によれば、Aの右目のすぐ下から右耳方向に横に伸びる帯状の赤い皮膚変色が存在し、いったん途切れて耳に近い部分に現れる変色は、2本の横棒の中央を1本の縦棒がつなぐ形状である。後者の画像2点においても変色がほぼ変わらず存在する。これらの外観は変色の範囲や程度が著しいものではなく、皮膚が裂ける、くぼむ又は腫れ上がるなどの異状はなく、他の園児と触れ合う中で強めの接触を受けるなどして生じたとみても矛盾せず、それらを超える手ひどい加害行為の痕跡であるとの見方が直ちに成り立つ形状ではない。 ウそれにもかかわらず、Bは、保育園からAを連れ帰って家事に従事する時間帯である同月26日午後7時31分頃、前記画像3点を撮影する行動に出ており、相応の理由があったと考えられる。すなわち、Bは、Aを迎えに行った際に、被告人から、Aがブリッジ歩きの際に顔をどこかにぶつけたかもしれないと説明され、「ドジやね」などとAに述べるだけで帰宅したが、夕食中にAが被告人にたたかれた旨述べたためAの顔面を撮影したこと、 に、被告人から、Aがブリッジ歩きの際に顔をどこかにぶつけたかもしれないと説明され、「ドジやね」などとAに述べるだけで帰宅したが、夕食中にAが被告人にたたかれた旨述べたためAの顔面を撮影したこと、翌27日にもAの顔面を撮影し、保育園に1日Aを預けてから病院で受診させたこと、翌28日もAを保育園に預けていて、Aを迎えに行った機会に、被告人から、ブリッジ歩きのときに手が当たった可能性があるという従前とは異なる説明を受けて、その夜に警察に被害を届け出たところ、検察官がAから話を聞くので事件のことは話さないように注意を受けたことなどを述べている。特に重要であるのは、Aの申告が、不意に顔をぶつけた出来事や他の園児とのいさかいなどではなく、被告人の暴行をいうものであったため、撮影するなどしたとする部分であり、自然で合理 - 18 -的な証言内容である。Aからの自発的な申告があったとするBの証言には十分な信用性が認められる。 エ Aは当時6歳の保育園児であって、日時の特定や詳しい経緯の理解等に係る供述の確かさは吟味を要するが、出来事の有無などについては認識を述べることができ、殊更に虚偽を述べることは通常想定し難い年齢である。本件面接時の検察官の面接方法の主要な部分に大きな問題はない。他方のAの応答は、出来事の有無を率直に述べ、分からないことはその旨率直に述べるなどという年齢相応のものであり、自らの打算やBの働きかけの介在を疑わせるものではない。このような供述環境で得られた、被告人から暴行を受けたとするAの供述は、主要な部分につき具体的で自然なものである。Aの供述は、当日、保育園2階ホールで園児らが取り組むブリッジ歩きに被告人が立ち会っていたという争いのない事実と整合するし、右目近くに外力が集中し、防御の痕跡がない顔面の痕跡とも整合している ある。Aの供述は、当日、保育園2階ホールで園児らが取り組むブリッジ歩きに被告人が立ち会っていたという争いのない事実と整合するし、右目近くに外力が集中し、防御の痕跡がない顔面の痕跡とも整合している。他方、ウの被告人の供述は、以上の申告及び供述がAから自発的になされたことの説明をなし得ないものである。 オ Aを診察した小児科医P(以下「P医師」という。)は、受診時、Aの右頬には線状の内出血〔3本〕と眼窩の出血斑があり、この内出血は棒状の物が当たった部位の毛細血管内の血液が横に流れ、両側に皮膚の変色を生じたもので、幼児虐待の殴打で手指が当たって生じる二重条痕であり、Aが述べるとおり成人の手でたたかれたものとみて矛盾しないと証言している。Aの右目と頬にまたがる位置に、成人の手の骨の並びや隙間に沿う形状の内出血が存在すると述べる小児科医師Q(以下「Q医師」という。)の証言内容も合わさって、Aの供述を支えている。 カ弁護人は、P医師が、検察官調書では線状の内出血は2本であると説明していたのに対し、公判廷では3本であると証言しており、不合理な変遷があると主張する。しかし、同医師は、Aの顔面右側が広く写る画 - 19 -像によれば、右頬の2本の更に下に別の1本が見て取れると述べ、右頬の上部に焦点が絞られた画像に基づく尋問に対しては、2本が見て取れる旨を区別して証言しており、検察官調書中の供述も後者の証言と同趣旨であった可能性があるから、不合理な変遷はない。 キ弁護人は、Q医師の証言について、当たった指が3本か2本かを説明する部分が、内出血の形状等との関係で不合理である旨主張する。しかし、同医師は、右頬の線状の内出血以外にも、上下に同様のものが見て取れる画像があったと指摘しており、この点はP医師の証言にも現れている。Q医師の証言は、そ 状等との関係で不合理である旨主張する。しかし、同医師は、右頬の線状の内出血以外にも、上下に同様のものが見て取れる画像があったと指摘しており、この点はP医師の証言にも現れている。Q医師の証言は、それら〔線状の内出血の本数の〕総数を踏まえると、2本あるいは3本の指が当たっている可能性があり、そのうちの1本の関節の辺りが接触対象〔Aの頬〕の側で血液の溜まる箇所となって縦線上の内出血を生じた可能性があるという合理的な証言と理解できるから、弁護人の主張は当たらない。そのほか、弁護人は、縦線状の内出血の形成原因を指の関節とみるか指輪の存在とみるかといった点や、手の甲が当たっても形成に至るかの点で、両医師の証言が食い違うと主張し、また、Aの転倒が原因であった可能性を精査していないなどと主張する。しかし、前者の主張は供述の信用性を左右しないし、後者の主張は、局所的な外力の痕跡とみられる傷害の性状に照らし、精査の必要性も薄い事柄をいうものであって、失当である。 ク O医師は手が当たったことを否定するが、画像上認め難い擦過創の存在を述べたり、手のひら全体が当たった痕跡がないのは不可解とする一面的な指摘を述べたり、また、ブリッジ歩きの勢いと相まって加わる外力が強まることも考えられるのに、体勢からして強くたたくのは困難であるとの表面的な指摘を述べたりする点で、その証言は採用できない。 ケ弁護人は、園長が、令和元年7月1日、業者を呼んで2階ホールに設置してある防犯カメラの映像を別の記録媒体に抽出しようとし、作業時 - 20 -に長い時間をかけて再生して暴行の不存在を確かめ合ったが、暴行の場面はなかった旨証言したことを指摘し、当該業者(以下「業者」という。)の証言も同旨であるとして、Aの供述には信用性がないと主張する。しかし、業者の証言内容は、保存 の不存在を確かめ合ったが、暴行の場面はなかった旨証言したことを指摘し、当該業者(以下「業者」という。)の証言も同旨であるとして、Aの供述には信用性がないと主張する。しかし、業者の証言内容は、保存対象の冒頭部分を特定後、時間節約のため16倍速で早送りをし、十数分先の終期まで再生したが、個人情報を含むので細かくは見ておらず、園長と内容を確かめるやりとりをした記憶もないというものである。その証言は、抽出依頼を円滑に果たそうと努める業者の立場と整合的で、園長の証言とは合致せず、これを排斥する内容である。園長の証言に依拠する弁護人の主張は採用できない。 コなお、弁護人は、Aの供述の信用性に関し、従前、Bが、相撲大会の出場を巡ってAを冷遇したなどという不満を保育園に訴え、悪感情を示す出来事があったと指摘し、BからAに対する本件暴行被害の刷り込みが行われた疑いがあると主張するが、既述のところから、そのような疑いは排斥できる。その他のBの振る舞いに関する種々の指摘ともども、弁護人の主張は採用できない。 サ弁護人は、ブリッジ歩きが遅いためにたたかれたとするAの供述を疑問視するところ、確かに、弁護人が指摘するとおり、ブリッジ歩きの計測タイム等の記録には、5人程度が競って5番目であったというAの供述に関する記録はないし、Aの供述には、ブリッジ歩きが遅いとの指摘を被告人がしたかなどに明瞭さがなく、詳細についてまで確かなものとはいえない。 しかし、Aが自発的に出来事を申告していることや、傷害の性状等と整合的な場面の説明を具体的に述べていることなどの事情を踏まえれば、本件暴行の存在をいう限りでその供述の信用性を肯定できる。結局、弁護人の主張は理由がない。 シよって、Aの供述に依拠して被告人がAに対し本件暴行を加えた事実が - 21 -認められ えれば、本件暴行の存在をいう限りでその供述の信用性を肯定できる。結局、弁護人の主張は理由がない。 シよって、Aの供述に依拠して被告人がAに対し本件暴行を加えた事実が - 21 -認められる。 以上の原判決の認定、判断は、論理則、経験則等に照らして不合理なものではなく、当裁判所も正当として是認することができる。 ア所論は、原判決は、Bの証言の信用性を認めた上で、「Aから自発的に申告があった」という同証言との整合性を理由にAの供述の信用性を認めているが、Bは、Aを相撲大会に出場させなかった被告人に対して悪感情を抱いていた可能性があり、Aは実際は別の保育士から暴行を受けたものであり、Bに対しても「先生からたたかれた。」としか言っていなかったのに、Bが「R(被告人の名)先生にたたかれたんやろう。」などと言って誘導した可能性があるから、Aが自発的に被告人の犯行として話し始めたとは認められない、という。 しかし、子からその預け先で暴行を受けた旨の話を聞いた親の立場で考えると、それまでに子が特定の者から暴行を受けていたという経緯があるのであれば、今度もその者による暴行と即断して、子に対し誘導的な話し方をする可能性はあり得るにせよ、そうでなければ、まずは誰から暴行を受けたのかを尋ねるのが自然な応対である。所論のいう出来事がBと被告人との間であり、Bがそのことで被告人に対して悪感情を抱いていたとしても、それ故に、Aが本件暴行の主体について言ってもいないのに被告人によるものと連想し、誰からであるかを尋ねることもなく被告人によるものと誘導するなどということは考えられない。Bが供述するとおり、Aは、事件当日中の夕食の際、母親であるBに対して被告人からたたかれた旨を自発的に話したと認められる。このように、Aが事件直後に自発的に被告人 するなどということは考えられない。Bが供述するとおり、Aは、事件当日中の夕食の際、母親であるBに対して被告人からたたかれた旨を自発的に話したと認められる。このように、Aが事件直後に自発的に被告人の暴行の事実を話したことは、その供述の信用性を高める事情である。 その上で、その6日後に行われた本件面接の状況を見ると、明るい部屋で、検察官がAとの間で差し向いにならないように座るなど、Aができるだけ話しやすい雰囲気となるような配慮をした上で、Bを同席させずに行 - 22 -われている。検察官の聴取方法も、Aができるだけ正確に多くの出来事を話せるように、事件当日について尋ねる前に、面接における約束事を説明した上で、年少のAとの間で話しやすい関係性を構築することを目的とした質問や、本当にあった出来事を話す練習となる質問等を経るなど、適切に順序立てた質問が重ねられている。こうした面接の実施状況に、Aの供述内容の真実性に疑いを生じさせるような問題点は認められない。これに対するAの応答も、出来事の有無を率直に述べるものになっている。このようにして得られたAの供述について、主要な部分につき具体的で自然なものであるとした原判決の評価にも不合理な点はない。 イ所論は、ケの原判決の説示に関し、園長は、問題となっている場面に何が映っているかを確認してダビングするために業者を呼んでいるのであるから、問題となる場面までは16倍速で再生したとしても、問題となる場面では通常の再生速度で確認するはずであり、全ての場面を16倍速で再生した旨の業者の証言は不自然である、という。 しかし、業者は、「園長が体育館の中で子供たちがブリッジ歩きをしている場面を見たいと言っていたので、まずはその部分を特定するために、映像全体を早送り、おそらく16倍速で見てもらっ る、という。 しかし、業者は、「園長が体育館の中で子供たちがブリッジ歩きをしている場面を見たいと言っていたので、まずはその部分を特定するために、映像全体を早送り、おそらく16倍速で見てもらった。その結果、園長から子供たちが集まってから解散するまでの時間帯の分をダビングするよう指示された。その時間帯の始期と終期については、ダビングする範囲を機械に指示する入力をするために、それぞれの時刻をメモする必要があるので、その瞬間は等倍速で再生するが、その間の映像は、作業効率を上げるために早送りで再生するのが通常である。」旨証言している。その証言に不自然な点はない。このように、業者は、園長から指示されたダビングする範囲を特定できるように同映像を再生していたのであるから、ダビング対象となる時間帯の映像全体を通常の再生速度で確認するはずであるなどとはいえず、ケの原判決の説示に誤りはない。 - 23 -ウそのほかに所論が種々主張する点を踏まえて検討しても、イのAの供述の信用性を認め、Aに対する本件暴行を認めた原判決に事実の誤認はない。 5 第6事件について ア Dは、原審で令和2年8月に実施された期日外尋問において、保育園2階のトイレで、被告人から体や頭を押されて転倒して、唇が床に当たって切れた旨証言した。また、検察官が令和元年11月22日と同年12月9日の2回にわたり実施した4イと同様の面接(以下、5項において「本件面接」という。)においても、同趣旨の供述をしている(以下、これらをまとめて「Dの供述」という。)。 イ他方、被告人は、原審において、第6事件があったとされる日、Dが被告人から用便を促されてトイレ入り口でスリッパを履いたものの、それ以上動かないため、背中に手を添えて促したところ、Dがよろけて左側の側 方、被告人は、原審において、第6事件があったとされる日、Dが被告人から用便を促されてトイレ入り口でスリッパを履いたものの、それ以上動かないため、背中に手を添えて促したところ、Dがよろけて左側の側面に体の左側をぶつけたにとどまる旨を述べた。 原判決は、次の趣旨の説示をして、被告人がDに対して原判示第6の暴行(以下、5項において「本件暴行」という。)を加えたと認めた(〔〕内は当裁判所による補足である。)。 ア Dの供述は、幼少ゆえに被害の時間帯等の細部の認識、記憶及び叙述の確かさを吟味する必要があるし、被害を届け出るまで2か月半ほどの間隔があることに加え、捜査機関が収集した保育園内の映像上、Dがなおざりにされている様子を母親Eが把握し、被害の届出に至ったという経緯があるが、以下の事情から信用できる。 イ第6事件の嫌疑がDの周囲で持ち上がったのは同事件の当日である。同日、母親Eに連れられて保育園から帰宅したDは、再びEと保育園に出向いており、そのとき被告人が応対して、同事件に関するやり取りが交わされている。当時、Eの手元には、帰宅後のDの顔面をスマートフォンで撮 - 24 -影した画像が存在しており、同画像上、Dの下口唇部の右端寄りに赤い点状のかたまりが見て取れる一方で、その範囲や程度は著しいものでなく、近辺の皮膚が腫れ上がるなどの異状はなかった。このかたまりは、他の園児と触れ合う中で強めの接触を受けるなどして生じたとみても矛盾はせず、それらを超える手ひどい加害行為の痕跡であるとの見方が直ちに成り立つ形状ではない。 ウそれにもかかわらず、Eは、B同様に家事に取り掛かるはずの同日午後6時41分頃に、イの画像を撮影する行動に出ており、相応の理由があったと考えられる。すなわち、Eは、Dを迎えに行った際にその唇のけがに気付い かかわらず、Eは、B同様に家事に取り掛かるはずの同日午後6時41分頃に、イの画像を撮影する行動に出ており、相応の理由があったと考えられる。すなわち、Eは、Dを迎えに行った際にその唇のけがに気付いたが、その場に居合わせた被告人からは説明がないまま帰路に就くと、車中でDからたたかれた旨の申告があり、帰宅後Dに尋ねると、トイレで被告人からたたかれた旨を告げられた、そのため証拠を残すべく上記撮影をした旨証言している。その上で、Eは、説明を求めて保育園に電話し、同園に出向いて被告人から説明を受けたが、けがの原因は分からないものであった、同年9月頃、Aの事件の関係で捜査機関の事情聴取が行われることになり、被告人を擁護する一部の保護者の姿勢に違和感を持って警察に被害申告をし、転園先が決まった時期の10月に被害を届け出た、その間にDに詳しい負傷の状況を尋ねてはいない、などと証言している。 特に重要なのは、Dの申告が、不意に顔をぶつけた出来事や他の園児とのいさかいではなく、被告人による暴行をいう内容であったため、上記撮影等の対応に出たとする部分であり、その内容は自然で合理的である。Dからの自発的な申告があったとするEの証言には十分な信用性が認められる。 エ Dは、A同様、複雑でない判別については認識を述べることができ、殊更に虚偽を述べることは通常想定し難い年齢である。本件面接は、かなりの期間が経過して実施された難点があるが、検察官の面接方法の主要な部分に大きな問題はなく、他方、Dの応答はA同様に率直さのある年齢相応 - 25 -のものであり、自らの打算等やEの働きかけの介在を疑わせるものではない。特に、Eを含む周囲の者が把握していなかったとみられるところの、被告人から厳しい仕打ちを受けた他の複数の場面を述べつつ、区別して本件暴行の被害を述べると やEの働きかけの介在を疑わせるものではない。特に、Eを含む周囲の者が把握していなかったとみられるところの、被告人から厳しい仕打ちを受けた他の複数の場面を述べつつ、区別して本件暴行の被害を述べるという自発性をうかがわせるものであり、その固有の内容も主要な部分で自然である。トイレにいるときに背後の被告人から頭と背中を押され、床に転んで右側の唇下付近が当たり、その部位が切れたことを述べており、当時の場面の特定や位置関係等に係る概要は被告人の公判供述とも一致する。床に転んで顔を打ち付けたか否かという供述の対立点をみると、Dの顔面の損傷は、外力に対し防御をしないまま、顔の中央付近が接点になって生じたとみて符合するから、背後から押されて床に転倒した旨をいうDの供述の方が自然であって、よろけて壁にぶつける程度にとどまった旨をいう被告人の供述は整合的でない。Eに対する申告から本件面接を経て期日外尋問の証言に至るまで、大筋で一貫しているDの供述は、その主要な部分が信用できる。 オ Dの顔面の画像を見て分析したN医師は、Dの下唇部の右端寄りの赤い点状のかたまりに関し、かさぶたを形成した出血の原因たる傷の存在が認められ、下口唇挫創と診断でき、併せて、手で支えるなどの動きもなく顔を打ち付けるという不意の転倒で生じ得る旨証言しているところ、合理的な内容である。 カ弁護人は、N医師の証言について、その想定する転倒の態様〔背中と頭を押されて、顔を床に打ち付けた〕と、鼻に傷がないことが整合しないとするO医師の証言により、信用性がないと主張する。しかし、挫創は顔のやや右側であるから、Dが顔を左に向けた態勢で倒れ、それゆえ鼻に傷を生じなかったとも考えられるし、鼻が同時に当たっていても、すぐ下に固い歯のある下唇部に限り傷を生じたとも考えられる以上、主張は理由がな や右側であるから、Dが顔を左に向けた態勢で倒れ、それゆえ鼻に傷を生じなかったとも考えられるし、鼻が同時に当たっていても、すぐ下に固い歯のある下唇部に限り傷を生じたとも考えられる以上、主張は理由がない。 - 26 -キ弁護人は、Dの供述に関し、同人を抑圧していたEから刷り込まれた虚偽を述べた疑いがあり、Eの被害届も警察が誘導した疑いがあると主張するが、既述のところから、そのような疑いは排斥できる。そのほか、本件面接時の検察官の質問に不適正な点があるとか、園児が居合わせるトイレで暴行に及ぶはずがないなどの主張も採用できない。 クよって、Dの供述に依拠して被告人がDに本件暴行を加えた事実が認められる。 以上の原判決の認定、判断は、論理則、経験則等に照らして不合理なものではなく、当裁判所も正当として是認することができる。 ア所論は、Dの供述の信用性について、Eは、被告人に対する第1事件の捜査が開始されていたことを知って、被告人が園児に暴行したとの偏見や悪感情を持っていた可能性があり、そのようなEが、Bと同様に、Dに対し、「R(被告人の名)先生からやられたんやろ。」などと言って誘導した可能性があり、本件暴行につき、Dが自発的に被告人による犯行との供述を始めたとは認められない、という。 しかし、所論のいう可能性があることを示す事実は具体的には何ら認められず、所論は根拠のない憶測にすぎない。Dは、Eが供述するとおり、事件当日中に保育園から帰宅する途中で、被告人にたたかれた旨を自発的に話したと認められる。このように、Dが事件直後から自発的に被告人による本件暴行の事実を供述していることは、その信用性を高める事情である。 本件面接時の検察官の面接方法についても、A同様、母親であるEを同席させずに行われ、検察官の聴取方法も、面接に 的に被告人による本件暴行の事実を供述していることは、その信用性を高める事情である。 本件面接時の検察官の面接方法についても、A同様、母親であるEを同席させずに行われ、検察官の聴取方法も、面接における約束事を最初に説明した上で、本当にあった出来事を話す練習を経て、実際の出来事について話題にするなど適切に順序立てた質問が重ねられており、Dの供述内容の真実性に疑いが生じるような問題点は特段認められない。そして、これ - 27 -に対するDの応答は、被告人から受けたという他の暴行と区別して、本件暴行の事実を率直に述べるものである。このようなDの供述について、主要な部分につき具体的で自然なものであるとした原判決の評価にも不合理な点はない。 イ所論は、Dの下唇に挫創があったとしても、そのような挫創はDが不意に転んだとしても生じ得るのであるから、「被告人に背中を押されて床に転倒した」とのDの供述を支えるものではなく、その信用性を補強しない、という。 しかし、Dが供述するとおりの暴行を受けたことによって生じることが合理的である傷害が客観的に認められることが、その受傷の原因も含めて、供述の信用性を補強する事情に当たることは明らかである。アのとおりの本件面接の方法や、そこにおけるDの供述内容に問題がないことも考慮した上で、Dの供述の信用性を認めた原判決の判断に誤りはない。 ウそのほかに所論が主張する点を踏まえて検討しても、Dの供述の信用性を認め、Dに対する本件暴行を認めた原判決に事実の誤認はない。 6 第7及び第8事件について 被告人の所論は、原判決が、被告人がGに対して第2の7の暴行を、Hに対して第2の8の暴行をそれぞれ加えたと認定した点についても事実の誤認があるというものである。 しかし、原判決は ついて 被告人の所論は、原判決が、被告人がGに対して第2の7の暴行を、Hに対して第2の8の暴行をそれぞれ加えたと認定した点についても事実の誤認があるというものである。 しかし、原判決は、その証拠の標目に記載した関係証拠を総合して、被告人がGに対して第2の7の行為に及び、Hに対して第2の8の行為に及んだと認定しているところ、捜査報告書添付のDVDに録画された防犯カメラ映像等によれば、各行為が優に認められるから、これらを認定した原判決の判断に不合理な点はなく、原判決に事実の誤認はない(これらの行為が刑法上の暴行に当たるかについては、後記第6において検討する。)。 なお、原判決は、第7及び第8事件について、Gの年齢を当時5歳、Hの - 28 -年齢を当時3歳とそれぞれ認定しているが、の関係証拠には、上記各年齢を明らかにするものがないから、上記各認定をした原判決には事実の誤認がある。 もっとも、記録によれば、各事件当時、Gは保育園の5歳時クラスに、Hは3歳児クラスに、それぞれ在籍していたことが認められる。そうすると、被告人の原判示第7の行為は、保育園の5歳児クラスに在籍する年齢の幼児に対する行為である点で、原判示第8の行為は、保育園の3歳児クラスに在籍する年齢の幼児に対する行為である点で、いずれも原判決が認定した事実との間で、量刑に影響を及ぼすような犯情の違いがないといえるから、上記の事実誤認は判決に影響を及ぼすものではない。 第6 法令適用の誤りの主張について 1 論旨は、第7及び第8事件について、被告人の原判示の各行為はいずれも暴行(刑法208条)には当たらず、仮に暴行に該当するとしても、保育行為として社会的に相当な行為に当たるから、正当行為(刑法35条)として違法性が阻却されるのに、それぞれ暴行に当たり、かつ いずれも暴行(刑法208条)には当たらず、仮に暴行に該当するとしても、保育行為として社会的に相当な行為に当たるから、正当行為(刑法35条)として違法性が阻却されるのに、それぞれ暴行に当たり、かつ正当行為には当たらないとした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というのである。 2 原判決は、要旨次のとおり説示して、第7及び第8事件における被告人の各行為は暴行に当たり、かつ正当行為には当たらないとした(〔〕内は当裁判所による補足である。)。 第7事件についてア第7事件の被告人の行為は、その状況やGの動きを含めてみると、以下のとおりである。 昼の給食時に園児が集まる部屋で配膳作業をする状況の下、盛り付け作業を行う半袖姿のGの左側から被告人が現れて横並びになり、Gが手に持っていたしゃもじと茶碗を順に取り上げた後、ほぼ静止した立ち姿 - 29 -のGの首元付近の着衣(胸ぐら)を右手でつかんで引っ張った。これによりGの身体を被告人の背中側に移動させている。 の後、汁物を取り分ける作業中の被告人と机を挟んだ正面に位置していたGが、容器を持って汁物の盛り付けを待つ園児の列に並んだのに対し、声掛けをした被告人が、作業を中断して反時計回りに机の反対側のGに近づき、ほぼ静止した立ち姿のGの左袖を右手でつかんで引っ張った。これによりGは、自身の左側に身体を傾けて被告人と共に移動を始めて、机を回り込んで被告人の元の位置辺りに達している。 に続いて、その位置辺りで取り分ける作業を再開していた被告人が、机を挟んだ反対側に園児の列ができている状況の下、立ち上がって自身の左側の空間を指さし、次にその列の中に含まれていた園児1名に左手を伸ばして着衣をつかんだ後、その傍らにほぼ静止して立つG 被告人が、机を挟んだ反対側に園児の列ができている状況の下、立ち上がって自身の左側の空間を指さし、次にその列の中に含まれていた園児1名に左手を伸ばして着衣をつかんだ後、その傍らにほぼ静止して立つGの左肩辺りの着衣を右手でつかんで引っ張り、指さした空間の辺りに引っ張られて移動してきたGの背中を更に左手で押した。 イアの行為は、Gの身体に手で触れた上、その意思によらない身体の移動を生じるに足る力を込めて有形力を行使するものであり、意思に基づく動作を始めている相手方に手を添えて支えや促しをするものとみる余地もなく、刑法208条の暴行に該当する。 ウ被告人は、配膳時の危険除去等の正当な目的からアの暴行に及んでいるが、その態様は、当時5歳という幼少のGに対し、その着衣を乱しつつ、姿勢を大きく崩しかねない程度の力を込めて不意に身体を移動させるものであって、成人であっても威圧され、屈辱を覚えるのが通常とみられるものである。幼少の園児に対しては、まずは口頭で適切な対処を促した上、それが功を奏しない場合に園児の身体に手を添えるなどし、声掛けを続けながら望ましい動きを促す働きかけをすべきであるのに、〔被告人はGに対してそれらの働きかけをしておらず〕Gにそれらを試みることが不可能 - 30 -であったとか、それらを省略して威圧的な態様の行為に出ることが例外的に許容されるほどの切迫した危険があったということはない。被告人のアの暴行は、正当行為に当たるとして違法性が否定されるものではない。 第8事件についてア第8事件の被告人の行為は、その状況やHの動きを含めてみると、以下のとおりである。 2階保育室内で机の上の鉛筆削りを触っていた半袖姿のHのもとへ被告人が近づき、その鉛筆削りを取り上げるとともに、ほぼ静止した立 は、その状況やHの動きを含めてみると、以下のとおりである。 2階保育室内で机の上の鉛筆削りを触っていた半袖姿のHのもとへ被告人が近づき、その鉛筆削りを取り上げるとともに、ほぼ静止した立ち姿であったHの着衣の左袖をつかんで引っ張った。これによりHはそのまま室外に連れ出されている。 イアの行為は、Hの身体に手で触れた上、その意思によらない身体の移動を生じるに足る力を込めて有形力を行使するものであり、刑法208条の暴行に該当する。 ウ被告人は、体操教室担当講師に対する最後の儀礼としての挨拶をHに遂げさせるという正当な目的からアの暴行に及んでいるが、その態様は幼少のHが威圧されかねないものである。〔前同様、幼少の園児に対しては〕手順を追って働きかけをすべきであるのに、〔被告人はHに対してその働きかけをしておらず〕Hにそれを試みることが不可能であったとか、それを省略して威圧的な態様の行為に出ることが許容されるほどの危険があったということはない。被告人のイの暴行は、正当行為に当たるとして違法性が否定されるものではない。 3 以上の原判決の判断は、当裁判所も正当として是認できる。 4 所論は、幼児教育においては体の接触が不可避である上に、判断力に乏しい複数の幼児に対して、常に説得による自主的行動を求めるのは保育士に不可能を強いるものであり、被告人がG及びHに対してした程度の行為は、社会通念上、暴行には当たらず、保育行為として正当行為に当たるというべきであって、 - 31 -原判決の判断は保育園の実態を踏まえず法令適用を誤っている、という。 しかし、原判決が摘示する2ア及び2アの各事実によれば、被告人の各行為が所論のいうような幼児教育の性質から社会通念上暴行に当たらないと評価されるようなものではなく、保育 を誤っている、という。 しかし、原判決が摘示する2ア及び2アの各事実によれば、被告人の各行為が所論のいうような幼児教育の性質から社会通念上暴行に当たらないと評価されるようなものではなく、保育の上での正当な行為にも当たらないことは明らかである。被告人の各行為がいずれも刑法上の暴行に当たり、かつ正当行為に該当しないとした原判決の法令適用に誤りはない。 第7 論旨はいずれも理由がない。 よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。 令和4年12月7日福岡高等裁判所第2刑事部 裁判長裁判官辻󠄀 川靖夫 裁判官森喜史 裁判官川口洋平

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